会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
759 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
-
2025/01/23 財務会計
IFRS第 18号「財務諸表における表示及び開示」(5)
本レポートでは、IASBより2024年4月に公表された会計基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示(PresentationandDisclosureinFinancialStatements)」(以下、IFRS18といいます)について解説しています。IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものであり、国際会計基準を任意適用している日本企業にも影響を与えることとなります。なお、IFRS18は従来のIAS1「財務諸表の表示(PresentationofFinancialStatements)」を置き換えるものであり、IFRS18の適用は2027年1月1日と規定されていますが、それより前の早期適用も認められています(注1)。5.損益計算書のポイント(続き)■損益計算書(Statementofprofitorloss)(注2)⑤「その他」の表示について公開草案ED/2019/7「全般的な表示及び開示(注3)」(以下、ED(2019)といいます)では、「特徴を共有していない、重要性がない項目を集約することができる」(par.27)とされていた一方で、集約された結果としての「その他」の表示について否定的な、以下の提案が示されていました(pars.27and28)。特徴を共有していない、重要性がない項目のグループを記述するために、「その他」などの記述的でない名称の使用は、追加的な情報がないと、当該項目を忠実に表現することにならない。(a)集約された項目を忠実に表現するために、重要性がない項目について、次のいずれかで集約しなければならない(以下の(b)の場合を除く)。類似した特徴を共有し、集約された項目の特徴を忠実に表現する方法で記述できる他の項目と集約する。類似した特徴を共有していないが、異質な項目を忠実に表現する方法で記述するかもしれない他の項目と集約する。(b)上記の(a)が、忠実な表現をもたらす記述につながらない場合注記において、集約された項目の内訳に関する情報を開示しなければならない。例)集約された情報がいくつかの関連のない、重要性がない金額で構成されていることを示し、集約された中の最大の項目の性質と金額を示す。このようなED(2019)の提案は、IFRS18において、より詳細な規定として示されています。IFRS18では、「より情報価値(informative)のある名称が見つからない場合のみ、表示・開示において「その他」という名称を用いる」(IFRS18,B25)こととされ、より情報価値のある名称が見つかるかもしれない方法の例として、以下が示されています(IFRS18,B25(a)(b))(a)情報に重要性のある項目が、情報に重要性のない項目と集約されている場合・情報に重要性のある項目を示す名称を見つける(b)情報に重要性のない複数の項目が、集約されている場合類似した特徴を共有し、その類似した特徴を忠実に表現する方法での集約類似した特徴を共有していないが、その異質な項目を忠実に表現する方法での集約そのうえで、「その他」以上に情報価値のある名称がみつからない場合について、以下が規定されています(IFRS18,B26(a)(b))。(a)全ての集約について、可能な限り正確な名称を用いる例)「その他の営業費用(otheroperatingexpenses)」「その他の財務費用(otherfinanceexpenses)」(b)情報に重要性のない項目のみで構成されている集約については、以下を検討する。・財務諸表利用者が、情報に重要性のある項目が含まれているかどうかについて、合理的な疑問を抱くかもしれないほど、その集約された金額が十分に大きいかどうか・上記疑問を解消するために、そのような集約された金額について、たとえば、以下のような追加情報を開示する(∵疑問を解消するための情報は、重要な情報である)集約された金額のなかに、情報に重要性があると考えられる項目が含まれていないことの説明集約された金額は、情報に重要性がないと考えられる複数の項目で構成されていること、および、最大の項目の内容と金額<注釈>PrimaryFinancialStatements,FinalStage[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#final-stage](accessedon2024/11/18)PrimaryFinancialStatements,Publisheddocuments「EffectsAnalysis:IFRS18PresentationandDisclosureinFinancialStatements」p.16[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#published-documents](accessedon2024/11/18)*上記ファイル自体のURLは以下[https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/amendments/english/2024/effect-analysis-ifrs18-april2024.pdf](accessedon2024/11/18)本レポートでは、以下の会計基準および財務会計基準機構・企業会計基準委員会による日本語訳を、一部修正のうえ引用。InternationalAccountingStandardsBoard.2019.GeneralPresentationandDisclosures.ExposureDraftED/2019/7.IASB.*本基準の日本語訳については、以下のページより入手。[https://www.asb-j.jp/jp/iasb_activity/press_release/y2019/2019-1217.html](accessedon2024/11/18)提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/01/16 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(20)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による製品開発時の取り組みについて説明します。原価企画では、計画で想定されたようには活動が進まず、目標の達成が困難になることがあります。以下では、目標未達への対策について、同社を取り巻く外的要因、同社内での活動にかかわる内的要因それぞれに分けて考えてみましょう。2.外的要因とその対策近年、生産拠点や部品・原材料の調達先がグローバル化するにともなって、為替レートや材料費の変動等の影響が、原価管理活動でも重視されるようになっています。同社では、これら外的要因に関して対策が検討されています。まず為替レートについて、基本的には、商品化会議で目標原価が承認された時の数値を基にして目標の達成状況を評価します。これらの情報は、組織や個人の評価にも使用されます。また、為替レートの数値は変動していますので、設定時の数値の下で目標とした原価と実際に把握できた原価を比較し、大きな差異が生じた時には、改善策が検討されています。次に材料費の変動については、実際の原価との乖離を生じにくくするため、商品化会議で目標原価が承認される前の段階で、調達部門が材料費の変動見通し値を設定しています。3.内的要因とその対策(1)販売価格・数量の変更製品企画の段階が終了した後に、企画や営業の担当者より販売価格・数量の見直しや、機能・仕様の追加変更を求められることがあります。これらの要求は市場や顧客状況の把握不足によって発生することが多く、販売価格・数量の前提が崩れる場合に、目標原価を見直すことになります。(2)新技術や内製部品の開発における目標達成状況の検討新技術や内製部品の開発において、承認済みの納期や設定価格、品質目標を達成できないことがあります。ただし、問題を解決するまでに時間を要することもあり、目標値を達成する時期と、目標達成までに代わりの部品を使用することで発生するコストの増加額、その増加額が利益に与える影響を見ながら対策を検討します。(3)PDCAの実施目標の設定・展開やコストチームの編成に時間がかかり、シナリオ策定や目標原価達成のための活動の時間が十分確保できないことがあります。この対策として、製品企画段階の終了時点までに、目標達成の見通しを明確にすることが重要です。この時期までに、目標達成に向けたPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを一通り回して、課題に対応した活動が行われています。(4)責任者の能力向上や配置開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)の責任者が既存の商品開発プロセスから逸脱した行動をとることや、原価推進責任者も含めてマネジメントの能力(原価管理の仕組みや開発プロセスについての知識と高い達成意欲)が不足するために、目標原価の達成に向けた活動を推進できないことがあります。同社では、教育や経験を通じて能力や意欲が高められています。また、開発商品の特性(フルモデルチェンジかマイナーチェンジか)に応じた人選が行われています。(5)Off-JT教育原価管理活動に対する設計者の理解や熱意が乏しかったり、調達や生産のスタッフのコストチーム活動に対する支援が不足したりすることがあります。この問題に関して、OJT教育だけではなく、Off-JT教育も活用した人材の育成が行われています。(6)改善策の抽出原価管理活動では、目標を達成するための改善策を出すことに行き詰まることがあります。これに関しては、多角的な視点からアイデアを出すとともに、ベンチマーク手法を活用して改善策が抽出されています(注1)。4.目標等の変更経営の状況が当初から大きく変化した場合、現実的に目標の達成が難しくなることもあるでしょう。同社では、商品開発の責任者が設定された目標値を達成できないと判断すると、その理由、新しい目標の設定値、達成見通し値、ビジネスの採算性を商品化会議に提案します。この提案が承認されると、新しい目標に変更することができます。実際に目標原価の数値が変更された時期を見ると、その多くは、製品企画の段階が終了する前のコストレビュー会と、商品化会議までとなっています。このような傾向には、この時期までに、責任者がQCDの目標の達成に向けた提案をするにあたり、目標を達成するための使用技術や施策、原価の条件を満たしているかを十分に検討して(注2)、判断する必要があることが関係しています。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>ベンチマーク手法では、自社の開発商品を、機能や仕様が類似する他の商品と比較、分析し、その結果を基に原価低減の施策を検討します。詳細は、第18回の記事をご覧ください。これまでに同社では、目標の達成状況を判断する目安として許容率(目標値に対して+~%以下なら活動を継続するというもの)を設定し、QCDの目標値を提案・審議する製品企画段階の商品化会議で検討したこともありました。しかし、許容率を厳格なロジックで設定することができず、この仕組みは定着しませんでした。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2024/12/26 財務会計
2015年改訂版 中小企業向け国際財務報告基準(20)
1.はじめにこのシリーズでは、2015年に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)について解説しています。2022年9月に、IASBは、公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「公開草案(第3版)」という)を公表しており、本シリーズでも、適宜「公開草案(第3版)」に触れています。今回は、前回に引き続き、「公開草案(第3版)」の第23章「顧客との契約から生じる収益」における収益の認識モデルのステップ4とステップ5および契約コストを説明します。IASBのウェブサイトによると、2025年の第一四半期に「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」を公表する予定とのことです(注1)。2.ステップ4取引価格の履行義務への配分(1)独立販売価格に基づいた配分企業は、値引きまたは変動対価の配分の場合を除いて、相対的な独立販売価格に基づいて、取引価格を契約で識別された各約束に配分します(23.61項)。独立販売価格とは、企業が約束された財またはサービスを独立して顧客に販売する場合の価格をいいます。独立販売価格の最たる例は、企業が財またはサービスを独立して顧客に販売する場合の観察可能な価格です(23.64項、23.69項)(注2)。企業は、契約の各約束の基礎となる別個の財またはサービスの契約開始時における独立販売価格を決定し、それらの独立販売価格の比率に基づいて取引価格を各約束に配分します(23.63項)。(2)値引き、変動対価の配分企業は、一定の場合(注3)を除いて、値引きや変動対価を相対的な独立販売価格に基づいて比例的に契約全体に配分します(23.69項、23.70項)。たとえば、契約に2つの約束X(独立販売価格は800千円)と約束Y(独立販売価格は200千円)が含まれており、全体の取引価格が900千円の場合であれば、100千円の値引きがあったことになります。3.ステップ5履行義務の充足時(または充足するにつれて)収益認識企業は、約束した財またはサービスを顧客に移転するという約束を充足したときに(または充足するにつれて)収益を認識します。財またはサービスは、顧客がその財またはサービスに対する支配を獲得したときに(または獲得するにつれて)、移転されます(23.75項)。(1)一定期間にわたり充足される約束次の①から④の要件のいずれかを満たす場合は、財またはサービスに対する支配は一定の期間にわたり顧客に移転されることになるので、一定期間にわたり約束が充足されることになります(23.78項)。企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること(たとえば、清掃サービスなどの定期的なサービス)。他の企業が顧客との約束の残りを履行する場合、その企業が現在までに行った作業を実質的に再実行する必要がないこと(たとえば、貨物運送契約)。企業の履行が資産の創出または資産価値の増加をもたらし、資産の創出または資産価値の増加につれて、顧客がその資産を支配すること(たとえば、顧客が仕掛品を管理する建設契約)。企業の履行が他の顧客に簡単に転用できる資産を創出せず、かつ、顧客は完了した履行に対する支払義務があること。(2)一時点で充足される約束ある約束が一定期間にわたり充足されるものでない場合(上記(1)の①~④のいずれも満たさない場合)は、その約束は一時点で充足されます。顧客が資産の支配を獲得した時点を決定するにあたっては、次のような指標を考慮する必要があります(23.83項)。企業がその資産に関する対価を受け取る現在の権利を有していること。顧客が資産に対する法的所有権を有していること。顧客が資産を物理的に所有していること。顧客が資産の所有に伴う重要なリスクと便益を有していること。顧客が資産を受け入れたこと。(3)約束の充足に係る進捗度の測定一定期間にわたり充足される約束については、進捗度を測定して、収益を認識します(23.88項)。履行義務の充足に係る進捗度は単一の方法で見積り、類似の履行義務や状況に首尾一貫した方法を適用します(23.89項)。履行義務の充足に係る進捗度は各決算日に再測定し、進捗度の見積りを変更する場合は、第10章「会計方針、見積りおよび誤謬」にしたがって処理します(23.90項)。4.契約コスト契約コストについては、契約を獲得するためのコスト(以下、契約獲得コストという)と、契約を履行するためのコスト(以下、契約履行コストという)に区別されています。(1)契約獲得コスト契約獲得コストは、次の要件をすべてみたすときに資産計上します(23.102項)(注4)。もし契約を締結していなければ、企業が負担しなかったコストであること(たとえば、販売手数料)。コストの回収が見込まれること。(2)契約履行コスト契約履行コストは、「公開草案(第3版)」の該当する章に従って会計処理しますが、「公開草案(第3版)」の範疇にない場合は、次の要件をすべてみたすときに、資産計上します(23.106項、107項)。コストが契約に直接関連していること。コストが約束の充足のために使用される企業の資源を創出または増加させること。コストの回収が見込まれること。(3)事後測定資産計上された契約獲得コストと契約履行コストについては、その後減価償却と減損処理が適用されます。したがって、当初認識後は、資産の取得原価から減価償却累計額と減損損失累計額を控除した金額で測定されます。ステップ4「取引価格の履行義務への配分」とステップ5「履行義務の充足時(または充足するにつれて)収益認識」については、「公開草案(第3版)」、IFRS第15号および企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」間で、内容に大きな差はないと言えます。一方、契約コストについては、「公開草案(第3版)」とIFRS第15号には規定がありますが、日本基準には規定がないという相違点があります(注5)。<注釈>https://www.ifrs.org/projects/work-plan/2019-comprehensive-review-of-the-ifrs-for-smes-standard/(最終アクセス日は2024年11月24日)。独立販売価格を直接観察できない場合は、合理的に入手できるすべての情報を考慮して、独立販売価格を見積もります。この方法が必ずしも企業が顧客から得られる対価の金額を忠実に表さない場合です。契約獲得コストが①と②の要件を満たすことを識別するためのコストや労力が過大である場合や資産計上する期間が1年以内の場合などは、簡便法として費用処理が認められています。日本基準では、「棚卸資産や固定資産等、コストの資産化等の定めがIFRSの体系とは異なるため、IFRS第15号における契約コスト(契約獲得の増分コストおよび契約を履行するためのコスト)の定めを範囲に含めていない」と説明されています(109項)。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2024/12/26 管理会計
中小企業も知っておきたい! 事例でつかむESG経営と管理会計(25)
1.脱炭素に対する国際的な動き先日、世界中が注目していたアメリカ大統領選挙が行われ、ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くことが決まりました。同氏は前回大統領在任時に、気候変動に関する国際的枠組みであるパリ協定からの離脱を表明するなど、脱炭素に対して否定的な姿勢を示しています。バイデン政権への移行後、アメリカはパリ協定への復帰を果たすとともに、世界の脱炭素に向けた動きをリードしてきましたが、トランプ政権が再び協定から離脱するということになれば、脱炭素の動きにブレーキがかかることは必至です。そんななか、この11月にはアゼルバイジャンにて第29回目の国連気候変動対策会議であるCOP(ConferenceoftheParties)29が開催されました。イギリスのスターマー首相が新たな脱炭素目標を発表するなど、脱炭素に対する積極的な姿勢をみせる国がある一方で、アメリカ、中国、日本などの主要国トップの欠席が相次ぐなど、脱炭素に向けた先行きはやや不透明な状況となっています。2.スコープ3開示に対する企業の取り組みの加速前述の状況ではありますが、脱炭素に向けた企業の取り組みは増々加速しています。温室効果ガス排出量(GHG排出量)の開示は、主にスコープ1(企業が製造活動を通じて直接排出されるGHG)やスコープ2(電気・熱・蒸気等の利用により間接的に排出されるGHG)に焦点が当てられてきましたが、その範囲は増々拡大し、現在はスコープ3と呼ばれる原材料の提供や物流などを担うサプライチェーンが排出するGHG排出量にまで拡大しています(具体的な内容は図表1をご参照ください)。国際的なサステナビリティ開示基準を検討する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、上場企業に対してスコープ3の開示も義務付けることを決定し、日本企業も対応を迫られています。スコープ3に対する開示が強化されると、その影響は大企業のサプライチェーンを構成する中小企業に及ぶことになります。上位に位置する大企業がスコープ3に関するGHG排出量削減目標を達成するためには、必然的に、サプライチェーンを構成する企業もその目標の達成に向けて脱炭素への取り組みを求められるからです。一例として、脱炭素に積極的に取り組む富士通は、スコープ3のGHG排出量を2040年までに2020年比で90%以上削減することを目標とし、その実現に向けて、サプライチェーンを構成する企業に対しても排出削減目標を設定することを求めています(注1)。また、サプライチェーン構成企業のGHG排出量に関するデータ収集の支援や、企業間でのデータ連携を強化するためのシステム構築にも取り組んでいます(注2)。図表1スコープ3カテゴリの内訳出典:環境省(2023)(注3)3.スコープ3への対応に向けて取引先が脱炭素に向けた取り組みを強化する場合、自社もGHG排出量の測定および削減に向けた取り組みが可能であることを示す必要があります。具体的には、自社のGHG排出量削減目標がパリ協定の求める基準に合致した計画となっていることを示すSBT(ScienceBasedTargets)認証を取得する方法があります。環境省(2024)(注4)によれば、SBT認証を取得する企業は必ずしも大企業ばかりではなく、2024年3月1日現在で704社の中小企業が認証を取得していることが示されています。また、日本では、電気機器、建設業の取得が多いとされていますが、海外ではソフトウェア、ホテル・レジャー、食料品製造業、不動産など、幅広い業種で取得が進んでいるようです。SBT認証を受けるためには、SBT事務局に対して認証取得のための申請を行ったうえでGHG排出削減目標を設定し、事務局による審査を受ける必要があります。なお、SBT認証には通常版にくわえて、中小企業向けの認証が用意されています(注5)。中小企業向けのSBT認証を取得するためには、図表2に示すとおり、設定した基準年に比べてスコープ1・スコープ2の排出量を毎年4.2%以上削減するとともに、スコープ3についても削減(基準は特になし)に向けた取り組みを行うことが求められています。図表2通常版SBT認証と中小企業版SBT認証の比較出典:環境省(2024)「【参考①】中小企業向けSBT」多くの大企業がGHG排出量の削減に向けて取り組むなかで、中小企業に対するGHG削減圧力も増々高まりを見せています。脱炭素への取り組みが十分ではない場合、取引機会を逸することにもなりかねません。脱炭素への取り組みが道半ばにある企業は、この機会にSBT認証取得を検討してみてはいかがでしょうか。<注釈>富士通株式会社2023年8月28日プレスリリースhttps://pr.fujitsu.com/jp/news/2023/08/28.html(2024年11月3日最終閲覧)富士通株式会社2024年11月15日プレスリリースhttps://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/11/15.html(2024年11月15日最終閲覧)環境省(2023)「サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて」p.7https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_all_20230301.pdf環境省(2024)「SBT(ScienceBasedTargets)について」中小企業向け認証を受けることのできる企業は、①スコープ1とロケーション基準のスコープ2の排出量合計が10,000t-CO₂e(t-CO₂eは、各種のGHG排出量に地球温暖化係数を乗じてCO2相当量に換算した値)未満であること、②海運船舶を所有または支配していないこと、③再エネ以外の発電資産を所有または支配していないこと、④金融機関セクターまたは石油・ガスセクターに分類されていないこと、⑤親会社の事業が、通常版のSBTに該当しないこと、を満たす必要があります。また、これにくわえて、・従業員が250人未満であること、・売上高が5,000万ユーロ未満であること、・総資産が2,500万ユーロ未満であること、・森林、土地および農業(FLAG)セクターに分類されないこと、のうち2つを満たす必要があります。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2024/12/19 財務会計
IFRS第 18号「財務諸表における表示及び開示」(4)
本レポートでは、IASBより2024年4月に公表された会計基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示(PresentationandDisclosureinFinancialStatements)」(以下、IFRS18といいます)について解説しています。IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものであり、国際会計基準を任意適用している日本企業にも影響を与えることとなります。なお、IFRS18は従来のIAS1「財務諸表の表示(PresentationofFinancialStatements)」を置き換えるものであり、IFRS18の適用は2027年1月1日と規定されていますが、それより前の早期適用も認められています(注1)。5.損益計算書のポイント■損益計算書(Statementofprofitorloss)(注2)①カテゴリーの表示について損益計算書が営業・投資・財務といったカテゴリーにわけられる事は、公開草案ED/2019/7「全般的な表示及び開示(注3)」(以下、ED(2019)といいます)の段階で示されていました。これらカテゴリーは、IFRS18でも同様に示されています。なお、これらカテゴリーの名称自体については、損益計算書において表示されることはありません(IFRS18,IE7,Statementofprofitorloss)。②営業カテゴリーについて営業カテゴリーには、他のカテゴリーに含まれないものが含まれます(IFRS18,par.52)。結果として、企業の主要な事業活動(mainbusinessactivities)に関係するものが含まれることとなりますが、持分法に関連する損益は含まれません(IFRS18,B42)。また、変動性が高い(volatile)ものや通例でない(non-recurring,unusual)ものも含まれます(IFRS18,B42andBC89(b))③持分法に関連する投資損益上記したように、持分法に関連する損益は、営業カテゴリーには含まれませんが、営業カテゴリーの下の投資カテゴリーに含まれます(IFRS18,B43)。なお、ED(2019)で提案されていた、営業と「不可分の」「不可分でない」という分類は、IFRS18では採用されていません。④追加的な小計について損益計算書の様式にみられるように、IFRS18では、「要求される小計」と「追加的な小計」が示されています。この「追加的な小計」が表示される根拠は、「有用な体系化された要約(usefulstructuredsummary)」を表すからであるとされています(IFRS18,IE7(b))。この「有用な体系化された要約」は、IFRS18で全面的に強調されるようになった考え方です。ED(2019)においても、ほぼ同様の考え方自体はみられましたが(ED(2019),par.20)、それは特に強調されておらず、「有用な体系化された要約」ともよばれていませんでした。「有用な体系化された要約」の定義は、以下のとおりです(注4)(IFRS18,AppendixA,Definedterms)。報告企業の基本財務諸表で認識された資産、負債、持分、収益、費用、およびキャッシュ・フローにおいて提供される、以下の(a)~(c)(すべて)に有用な体系化された要約。企業の資産、負債、持分、収益、費用、およびキャッシュ・フローについての理解可能な概観(understandableoverview)を得ること企業間での比較、および同一企業の各報告期間の比較を行うこと財務諸表利用者が注記において追加的な情報を求めたいと考える可能性のある項目または領域を識別すること<注釈>PrimaryFinancialStatements,FinalStage[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#final-stage](accessedon2024/11/18)PrimaryFinancialStatements,Publisheddocuments「EffectsAnalysis:IFRS18PresentationandDisclosureinFinancialStatements」p.16[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#published-documents](accessedon2024/11/18)*上記ファイル自体のURLは以下[https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/amendments/english/2024/effect-analysis-ifrs18-april2024.pdf](accessedon2024/11/18)本レポートでは、以下の会計基準および財務会計基準機構・企業会計基準委員会による日本語訳を、一部修正のうえ引用。InternationalAccountingStandardsBoard.2019.GeneralPresentationandDisclosures.ExposureDraftED/2019/7.IASB.*本基準の日本語訳については、以下のページより入手。[https://www.asb-j.jp/jp/iasb_activity/press_release/y2019/2019-1217.html](accessedon2024/11/18)ED(2019)の日本語訳をIFRS18に合わせて一部修正のうえ引用。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2024/12/12 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(14)
1.販売費及び一般管理費の検討前回の(13)では、売上原価の予実差異分析について説明しました。営業利益は、売上高から売上原価を差引いて売上総利益を計算し、さらに売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて計算します。とういうことは、売上総利益が得られたとしても、販売費及び一般管理費の総額が売上総利益の額を上回ってしまえば、営業損益の段階で損失が発生してしまいます。ビジネス界では、「粗利(益)」を重要視する傾向にありますが、販売費及び一般管理費についても適切な管理をしないと、せっかく粗利(益)である売上総利益を得たとしても、営業利益を確保できなくなる場合もあり得ます。予算編成の場面でも、販売費及び一般管理費は、たとえば売上高の30%というように設定される場合があります。このときには、過去のデータの傾向などを勘案しながら、売上高の30%というレベルを決めているのだと思います。しかしながら、この対売上高30%という割合は売上高の全体に対して30%であるということであって、顧客ごとにどのような費用がいくら発生しているのか、という観点から検討したものではありません。このような検討が必要な理由は、実務の場面では、各顧客に関連して販売費及び一般管理費が一律に同じ割合で発生するのではなく、顧客ごとに販売費の、場合によると、一般管理費も含めた費用の発生額が異なる場合が多いからです。2.配送関連コストたとえば、商品や製品を配送することを考えると、多頻度で少量の発注をしてくる顧客と、少頻度で多量の発注をしてくる顧客とでは、販売費の発生額が変わってくるのです。想定できる販売費について考えてみます。受注の処理コストは、必ずしも紙媒体を使用するのではなく、システムであったとしても、受注1件当たりの処理コストが発生します。商品や製品を3営業日おきに発注する顧客は、1週間に2回の受注となるので、1週間おきに発注する顧客と比較すると、2倍の受注処理コストが発生します。さらに、在庫がなくなるたびに逐次発注してくる顧客は、その都度受注処理コストがかかるので、1週間分の在庫計画を立てながら、毎回余裕をもって発注してくれる顧客と比較して、数倍の受注処理コストがかかります。また、受注処理コストは、システムの運用コストだけではなく、受注1件ごとに5分とか10分の目視でのチェックが必要であれば、週に数件の受注を処理するときには、週に1件の受注を処理するときと比較して、数倍の人件費が発生することになります。目視でのチェックがないとしても、システム上での処理時間として、1件の場合と数件の場合とでは、数倍の処理時間がかかるはずです。また、受注データは、受注1件ごとに在庫管理をしている部門に伝達されるので、受注件数ごとに発行される受注書の発行コスト(ハードコピーがあれば紙代・印刷代など)が発生します。商品や製品の梱包のコストについては、商品や製品を在庫している場所から発注があった商品や製品を取り出し、それをいったん何らかの入れ物に入れ(または台車に乗せ)、発送のために梱包する場所に移動し、適宜必要な梱包作業をします。梱包にあたっても、同じ商品や製品を1週間に1回、あるいは、2週間に1回というように、ある程度の数量で受注しているのであれば、まとめて梱包することになるでしょう。これに対して、2~3日おきに1個ずつ発送するような受注を受けた場合には、いわゆる個包装になるでしょう。となると、梱包材の使用量や、梱包の手間が異なり、コストの発生額が異なるはずです。商品や製品の運送料についても、ある程度の数量をまとめて発送できる場合と、1個ずつこまめに発送する場合とでは、コストが変わってきます。まとまった数量を一時に発送すれば、料金が割引になることもあり得ます。3.販売担当者のコスト販売担当者(もしくは営業担当者)のコストについても、顧客の行動パターンによって発生額が異なります。販売担当者が、受注した商品や製品を顧客に持参する場合は、多頻度少量発注の顧客と、少頻度多量発注の顧客とでは、顧客ごとのコストの発生額が変わってきます。また、何かあると得意先が販売担当者に来訪するように依頼すると、その来訪の頻度によって、顧客ごとに販売担当者のコストの発生額が異なります。ある販売担当者が、週に2~3回来訪を希望するA社と、2~3週間に1回の来訪で事足りるB社を受け持っている場合、あきらかにA社のほうがこの販売担当者の営業時間を多く消費することになり、この販売担当者の人件費に占める割合が高くなるのです。もちろん、人件費だけではなく、自動車で得意先を回っているとすれば、ガソリン代、自動車の減価償却費などなど、さまざまなコストの発生額がA社とB社とでは異なります。4.販売費及び一般管理費の再検討このように考えると、販売費及び一般管理費が売上高に対して30%の割合で発生しているから、各顧客にかかわる業務に関連して発生している販売費及び管理費が、それぞれの顧客の売上高に対して一律に30%発生している、という前提は成り立たないことが想像できます。もしかすると、儲けさせてくれていると思っている顧客が、案外と販売費及び一般管理費のかかる顧客であるかもしれません。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2024/12/05 財務会計
公益法人制度の改正(2)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、改正前公益認定法)が、本年2024年(令和6年)5月に改正(改正後の法律は、以下、改正公益認定法)され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まります。この改正の内容のなかで、特に重要な改正と思われるのは、公益認定基準の1つである「収支相償」に関わる改正です。今回は、収支相償を取り上げて、その改正の内容と意義について解説します。3.収支相償に関わる改正(1)改正前の収支相償の規定収支相償が公益認定基準に含められたのは、財務規律の一環でした。ここにいう財務規律とは、法人の財務に関して遵守すべき事項を指します。収支相償については、改正前公益認定法第5条第6号において、「その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること。」との規定でした。この条文は、利益を獲得することができる事業、いわば市場原理が機能する状態にある事業は、公益目的事業に相応しくないとの考え方に依存したものです。そのため、営利競合を避けるという趣旨も含まれていたことが知られています。ただし、費用に対する対価としてだけの収入に限らず、寄附によるものも含んで判断されることとされているため、市場原理に基づけば成立しない事業までもが収支相償を満たすことができない可能性も指摘されてきました。また公益目的事業の縮小再生産を導くこととなり、公益法人制度そのものの趣旨に反するのではないかとの指摘も受けてきたところです。また、複数の公益目的事業を有する場合には、個々の公益目的事業において収支相償を充たし、かつすべての公益目的事業を1つの会計区分とした場合でも収支相償を充たすことが求められていました。そして縮小再生産等の問題を解決するために設けられたのが、特定費用準備資金(将来の特定の活動の費用のために準備する資金)の積立額や公益目的資産取得準備資金(公益目的事業や他の必要な事業活動に用いる実物資産の取得や改良のための資金)の積立額を、会計上の費用ではないものの収支相償の判断上、費用に含めて収支相償を充たすか否かを判断するという措置が取られています。ただし、こうした措置を適用するためには、実行可能性のある将来の計画が不可欠となります。そのため、公益目的事業において恒常的に余剰が生じる法人で、将来に向けての明確な計画が立案されていない場合には、基本的に単年度で判断される収支相償の基準は、充たし難いものとなっていました。特に、運用上の問題として、厳格に単年度での収支相償が求められているとの誤解があるとの指摘もなされています(注1)。加えて、「社会の変化に応じ、法人の経営判断で公益活動に資金を最大限効果的に活用できるようにする必要」(注2)があるとの課題が提起されました。(2)収支相償に関する改正内容この度の改正では、収支相償は、「中期的な収支均衡」の確保へと改められました。具体的には、公益認定法第5条第6号の規定が「その行う公益目的事業について、第十四条の規定による収支の均衡が図られるものであると見込まれるものであること。」と改められました。第十四条の規定とは、「公益法人は、その公益目的事業を行うに当たっては、内閣府令で定めるところにより、当該公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用(当該公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金として内閣府令で定める方法により積み立てる資金を含む。)に充てることにより、内閣府令で定める期間において、その収支の均衡が図られるようにしなければならない。」です。そして内閣府令第八十七号(注3)の15条において、内閣府令で定める期間は5年と定められています。また年度剰余額等の算定方法については、同内閣府令第16条から第18条において、次のように中期的な収支均衡が求められることが定められています。1)年度剰余額=(ア)―(イ)((ア)
続きを読む
-
2024/11/28 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(19)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による製品開発時の取り組みを取り上げ、原価の見積りとその検証について説明します。2.原価見積り同社の商品企画から量産にいたる段階では(注1)、コストレビュー会や商品化会議が行われます。これらの会議での参考情報として、原価推進責任者を中心に商品の原価を見積ります。商品原価の多くを占めるのが部品費です。部品費の見積りには、設計見積り、コストテーブルを用いた見積り、取引先による見積りの3つの方法があり、これらを組み合わせて行います。商品企画の段階では設計見積り、製品企画の段階では主にコストテーブルを用いた見積り(注2)、基本・量産設計の段階以降では取引先見積りが多くなり、実際原価に近づいていきます。(1)設計見積り設計者自身によって行われる原価見積りです。商品企画の段階では、まだ図面がない構想設計ではあるものの、早い時点から設計見積りを行うことが重要です。製品企画の段階の終盤以降では、部品の仕様が図面に反映され、構想設計よりも精度の高い見積りを行うことができます。設計見積りでは、設計者自身が原価見積りを行い、実績値と対比して分析することで、QCD(品質、コスト、納期)のバランスをとりつつ、特徴がある商品を開発できるようになることが理想です。これを実現するため、同社では、設計者自身が原価見積りを行えるように、簡単な計算式で見積りを行うツールである「簡易見積書」が準備されています。また、3D-CAD(ComputerAidedDesign)に部品図の原価を計算できるソフトが組み込まれているものもあります。(2)コストテーブルを用いた見積り原価管理部門では、コストテーブルの策定・改訂、コストテーブルによる評価・分析を担当しており、これらを用いた原価見積りが行われます。コストテーブルは、材料費、加工費(=加工賃率×工数)、輸送費、梱包費、(取引先が確保する適正な)利益、管理費等について、材料の種類ごとの加工方法に合わせてコストテーブルを作成し、これらを組み合わせて原価見積りを行います(注3)。コストテーブルは、以下の4つの用途で使用されます。新商品原価の評価:設定された原価の条件による設計図面を基に行う原価見積り。競合機原価の評価:設計された原価の条件によって分解された部品から見積りのパラメータを抽出する原価見積り。目標額の設定:自社機や競合のベンチマーク機のコスト評価額を使って部品費や金型費目標額を設定したり、部品見積額や加工費等を積み上げる商品目標額・費目目標額を設定したりする。原価改善:ベンチマーク活動からの原価低減や、物理指標目標(重量・部品点数・ねじ点数・I/O本数(注4)等)からの改善のための原価見積り。(4)取引先による見積り標準・共通の部品以外の部品図面が作成されると、部品費の目標額とともに取引先に原価見積りを依頼します。依頼先は、生産条件や取引実績、安定供給等、調達戦略・条件に基づいて選定され、競争見積りを行うこともあります。3.見積原価の検証製品企画から生産準備の段階では、見積原価を検証します。原価推進責任者は、部品費や金型費の見積額を算出した後、各目標額に対する達成状況を可視化し、改善策を検討します。ここで実行される主な検証には、開発活動機能別の達成検証、高額部品別の達成検証、材料種類別・取引先別の達成検証があります。(1)開発活動機能別の達成検証開発活動機能別の目標額に対して、設計見積額、コストテーブルの見積額、取引先の見積額の3項目を並記し(注5)、取引先の見積額で目標の達成状況を最終的に判断します。目標未達の場合、達成のための改善策を検討します。基本的には、「設計見積額≧コストテーブルの見積額」の時は設計の見直しを、また、「コストテーブルの見積額≦取引先の見積額」の時は調達交渉の再検討を行う方向で改善します。ここでは、見積額を基に、参加する各部門(開発、調達、生産)が連携して改善策を実行することが重要です。(2)高額部品別の達成検証部品の目標額とコストテーブルの見積額および取引先の見積額との差異を算出し、差異が大きい順にリスト化します。プロジェクトの参加部門は、差異要因に基づき、改善策を検討します。(3)材料種類別・取引先別の達成検証材料種類ごとに、目標額とコストテーブルの見積額および取引先の見積額との差異を算出、リスト化し、取引先別にグループ分けします。差異要因に基づいて、プロジェクトの参加部門が改善策を検討します。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>同社の製品開発には、商品企画、製品企画、基本・量産設計、生産準備のステージがあります。詳細は、第17回の記事をご覧ください。一部では、取引先による見積りも行われます。部品や材料ごとに、原価情報をまとめた資料(データベースとしての役割を持つもの)を、コストテーブルと言います。詳細は、第12回の記事をご覧ください。I/O本数は、input/output本数の略称であり、電気ハード設計で、センサー系、制御系、操作系等の回路の入力と出力場所を決めた本数のことです。一部の見積額しかない部品もあります。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2024/11/21 財務会計
2015年改訂版 中小企業向け国際財務報告基準(19)
1.はじめにこのシリーズでは、2015年に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)について解説しています。2022年9月に、IASBは、公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「公開草案(第3版)」という)を公表しており、本シリーズでも、適宜「公開草案(第3版)」に触れています。2024年2月に、IASBは「公開草案(第3版)の補遺」(AddendumtotheExposureDraftThirdeditionoftheIFRSforSMEsAccountingStandard)という公開草案を公表しています(コメントの締切りは2024年7月31日)。今回は、前回に引き続き、「公開草案(第3版)」の第23章「顧客との契約から生じる収益」における収益の認識モデルのステップ2とステップ3を説明します。2.ステップ2履行義務の識別契約開始時に、企業は、顧客との契約において約束された財およびサービスを評価し、別個の財またはサービスを移転する約束を個々に識別しなければなりません(23.16項)。(1)別個の財またはサービス次の①と②をいずれも満たす場合は、顧客に約束した財またはサービスは、別個の履行義務になります(23.20項)。顧客が、財またはサービスからの便益を、単独でまたは容易に利用できる他の資源と組み合わせて享受することができる。財またはサービスを顧客に移転する義務が、契約に含まれる他の義務と区分できる。(2)製品保証顧客が保証を別途購入する選択を有する場合(つまり、保証付きか保証なしのいずれかを選択できる場合)は、契約に記載された機能を有する製品に加えて顧客へのサービス提供を約束しているため、この保証は別個のものになります。このような場合、保証は別個の約束として会計処理をします(23.26項)。一方、顧客が保証を別途購入する選択を有しない場合は、この保証は原則として第21章「引当金および偶発事象」に従って会計処理されます(23.27項)。(3)追加的な財またはサービスを取得する顧客のオプション顧客との契約には、顧客が追加的な財またはサービスを無料または割引価格で取得できるオプションを有するものもあります(注1)。オプションが、その契約を締結しなければ顧客が受け取らないであろう重要な権利を顧客に提供する場合は、そのオプションは別の約束を生じさせます。顧客が追加的な財またはサービスを独立販売価格で取得するオプションを有している場合、このオプションは顧客に対して重要な権利を与えていないので、別個の約束を生じさせません(23.32項)。一方、追加的な財またはサービスを取得する顧客のオプションが重要な権利である場合は(注2)、このオプションを別個の約束として会計処理します(23.35項)。(4)本人と代理人の区分企業は、契約における約束ごとに、本人であるか代理人であるかを判断しなければなりません(23.37項)。企業が本人に該当する場合は、提供された財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込まれる対価の総額で収益を認識します(23.39項)。企業が代理人に該当する場合は、企業が権利を得ると見込む報酬または手数料の金額(つまり純額)で収益を認識します(23.40項)。3.ステップ3取引価格の算定取引価格とは、顧客に約束した財またはサービスを移転するのと引換えに、企業が権利を得ると予想される対価の額で、第三者のために回収する金額(たとえば、消費税)を除いたものです(23.41項)。取引価格を決定するにあたって、企業は、財またはサービスが契約に従って顧客に移転されること、契約が解除・修正・更新されないことを仮定する必要があります(23.42項)。(1)変動対価変動対価は、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分です。変動対価が含まれる場合は、取引価格に含まれる変動額を見積る必要があります。変動対価を見積もる際には、期待値または最頻値のいずれかを用います(23.43項)。返金負債企業が顧客から対価を受け取り、その対価の一部または全部を顧客に返金すると予想される場合は、顧客に返金すると合理的に見込まれる対価の額を返金負債として認識します(23.49項)。返品権付きの販売顧客との契約においては、商品や製品の支配を顧客に移転するとともに、その商品や製品の返品について、次のような権利を顧客に付与する場合があります(23.51項)。顧客が支払った対価の全額または一部の返金顧客が企業に対して負う、または負う予定の金額に適用できる値引き別の商品や製品への交換返品権付きで商品や製品(返金条件付きで提供されるサービスも含む)を販売した場合は、次のように処理します(23.52項)。返品されないと見込まれる商品や製品に対してのみ収益を認識する返品されると見込まれる商品や製品については、収益を認識せず、受け取った額で返金負債を認識する。顧客から商品や製品を回収する権利について返品資産を認識する(2)貨幣の時間価値支払い期限が通常の取引条件よりも遅い場合、この契約は金融取引に該当します。この場合、企業は、約束された対価の額を貨幣の時間的価値の影響について調整し、利息収益を認識します。そして、利息収益を顧客契約からの収益と区別して表示します(23.58項)。ただし、契約開始時において、約束した財またはサービスを顧客に移転してから顧客が対価の支払いを行うまでの期間が1年以内であると見込まれる場合は、貨幣の時間的価値を調整する必要はありません。(3)現金以外の対価顧客が現金以外の形で対価を約束する契約の取引価格を決定する際には、現金以外の対価を公正価値で測定します(23.60項)。ステップ2「履行義務の識別」とステップ3「取引価格の算定」については、「公開草案(第3版)」、IFRS第15号および企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」間で、その内容に大きな差はないと言えます。ただし、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」では、日本に特有な取引事例(注3)も示されています。<注釈>たとえば、100個までの販売単価は300円だが、101個以上の販売単価は280円とするような契約です。顧客に重要な権利を提供するオプションの例としては、販売報奨金、顧客特典クレジット(ポイント)、契約更新オプション、将来における商品またはサービスの割引などがあります(23.33項)。たとえば、小売業における消化仕入、他社ポイントの付与が挙げられます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2024/11/14 管理会計
中小企業も知っておきたい! 事例でつかむESG経営と管理会計(24)
1.人的資本開示の現状と効果検証の必要性有価証券報告書を開示する大企業は、2023年3月期に発行する有価証券報告書から人的資本情報の開示が求められるようになりました。対象となる企業は、有価証券報告書内の「サステナビリティに関する考え方および取組」の項目において、自社の人的資本経営に関するガバナンス(人的資本に関連するリスク及び機会に関する組織のガバナンス)、戦略(人的資本に関連するリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画へ及ぼす影響)、リスク管理(人的資本に関連するリスク及び機会を識別・評価・管理するためのプロセス)、指針と目標(人的資本に関連するリスク及び機会の評価・管理に用いる指標と目標)を開示することが求められています(注1)。具体的にどのような指標を開示すべきかについては、内閣府が公表した「人的資本可視化指針」(注2)のなかで①人材育成に関連する開示事項、②従業員エンゲージメントに関連する開示事項、③流動性に関連する開示事項、④ダイバーシティに関連する開示事項、⑤健康・安全分野に関連する開示事項、⑥コンプライアンス・労働慣行に関連する開示事項、に分けて具体的な開示事項が説明されています。また、開示に際しては、企業間での比較可能性を確保する必要性が強調される一方で、各企業の人材戦略の実践を踏まえた独自性を出すことが求められており、「比較可能性」と「独自性」のバランスに配慮することが要求されています。2024年10月現在、人的資本情報の開示を含む有価証券報告書は2年度分開示されていますが、必ずしも比較可能性が高い状況にあるとは言えません。比較可能な指標は、女性活躍推進法等によって一定の要件を満たした企業に開示が義務付けられている「女性管理職比率」「男女賃金格差」「男性育児休業取得率」の3指標のみであり、その他の開示内容については、企業によって情報の量(開示情報量)も質(開示情報の客観性や比較可能性)も大きなバラツキがみられる状態です。たとえば、従業員への教育・研修に関する指標の開示に関して、社員研修の総時間を開示する企業もあれば、社員一人当たりの研修時間を開示する企業もあります。はたまた、時間ではなく、研修費用総額や、社員一人当たり研修費用という形で開示する企業もあり、その際の研修費用の計算式も明確ではない(研修費用とは講師の人件費なのか、情報システム等利用料、コーディネータの人件費を含むのか)ことから、開示情報の評価が非常に難しくなっています。人的資本開示が、企業の業績にどのような影響をもたらすのかを明らかにしようとする場合、個別企業のデータを一社ずつ入手することは極めて困難となります(プライム上場企業に限定しても、約1,640社)。したがって、開示情報が収録されたデータベース(日経バリューサーチやBloombergAnywhereなど)から情報を入手する必要があります。しかし、開示情報内容にバラツキが大きいこともあり、データは大きく欠損しています。BloombergAnywhereを使用して、東証プライム上場企業の「一人当たり研修時間」のデータを取得したところ、1,640社中96社のデータしか取得することができませんでした(注3)。これでは、頑健性の高い検証は難しくなってしまいます。人的資本開示は始まったばかりですが、どこかの段階で、その効果の検証が求められます。人的資本開示が、本当に企業業績(企業価値)の向上に寄与するのかを見極めるためにも、効果検証に耐えうるデータの収集について検討を始める必要があるように思います。人的資本投資にも、人的資本情報の収集のためにも、少なからぬコストがかかります。効率的な投資で、最大の効果を得るためにも、人的資本開示に関する効果検証の在り方を考える必要があるのではないでしょうか。2.人的資本に関するオリジナル指標の開示前述のとおり、人的資本情報開示には、「比較可能性」と「独自性」が求められています。前述の効果検証という観点では、比較可能性を考えることが重要となります。一方で、人的資本情報開示は、人的資本経営に取り組んだ”結果”について開示するものですので、従業員の能力を最大限引き出すためには、各企業の価値観や組織文化を反映した、オリジナルの指標を設定し、企業の価値をドライブするKPI(バリュードライバー)として活用していく必要があります。この点、多くの企業では、開示義務化への対応に手いっぱいで、なかなかオリジナル指標の開発にまで至っていないところが多いようです。しかし、それでは人的資本開示を、企業業績の向上に結び付けていくことはできません。今回は、興味深いオリジナル指標の開発の例として丸井グループの取り組みについてご紹介したいと思います。まず、丸井グループでは、従業員一人一人の経営参画意識を高めるために、”手上げの文化”を推奨しています。従業員が自ら進んで手を挙げ、自らの意思で様々なプロジェクトに参画するようになることで、自らの能力を最大限発揮して欲しいという意図があるようです。しかしながら、自ら手を挙げようとする社員は多くはありませんでした。このような状況を打破し、社員の経営参画意識を高めるため、丸井グループでは「打席数」というKPIを設定することにしました。チャレンジした結果の良否をKPIにしたのでは、失敗を恐れて消極的になってしまう。まずは、失敗を恐れずに自ら打席に立つ(挑戦する)という意識をもってもらう必要があると考え、新規事業の立ち上げなどにチャレンジすることを評価する「打席数」という独自KPIを設定するに至ったのです。なお、当該指標は、丸井グループの有価証券報告書のなかでも掲載されています(注4)。なお、従業員のチャレンジ意識が高まった結果、中期経営計画進捗報告会に、若手社員も手を挙げて(その後、エッセー執筆による審査があるようですが)参加できるようになり、さらには、部門の垣根を越えて、チャレンジしたいプロジェクトにかかわることもできるようになったということです(本業のプロジェクト以外に、2つ3つのプロジェクトをかけ持つ方もいらっしゃるようです)。人的資本開示については、「比較可能性」と「独自性」の2つの側面のバランスが求められます。他社との比較のなかで自社の人的資本投資の価値を伝えるためには、他社と比較可能な指標を用いることが必要になります。その一方で、自社の価値観や組織風土を従業員に伝え、従業員の能力を最大限発揮してもらうためには、「独自性」の高いオリジナルの指標を開発することも必要です。人的資本への取り組みは、人材の価値を高め、企業の業績を高めていくための重要な取り組みです。何のために人的資本投資が必要なのか、これにどのように取り組むべきなのか、改めて検討してみてはいかがでしょうか。<注釈>「企業内容等の開示に関する内閣府令」(2023年1月31日改正)は、「ガバナンス」「リスク管理」はすべての企業に開示を求め、「戦略」「指標及び目標」は企業における重要性を判断して開示することとしています。非財務情報可視化研究会(2022)「人的資本可視化指針」https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf試しに、取得できたデータ(2024年3月末時点データ)を使用して、一人当たり研修時間が企業の業績(ROEを使用)に与える影響に関する単回帰分析を実行したところ、一人あたりの研修時間が1時間増加すると、ROEが約0.024%増加するという結果が得られました(ROEに関する異常値除去後)。しかし、前述のとおり、そもそもデータ数が限定的であり、かつ、研修時間の測定方法も統一されているわけではありません。充実したデータが得られなければ、人的資本情報が企業業績に与える影響を見極めるための頑健な結果を得ることはできないという点に注意が必要です。丸井グループ2024年3月期有価証券報告書(p.26):https://www.0101maruigroup.co.jp/pdf/settlement/0240gfe0.pdf提供:税経システム研究所
続きを読む
759 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示