会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2025/06/05 財務会計
公益法人制度の改正(6)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、昨年2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この新制度の主たる改正内容を、これまでのリポートにて確認してきました。今回は、そうした改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に公表された「公益法人会計基準」(以下、改正後会計基準)の構成の変化に注目します。7.「公益法人会計基準」の改正(1)改正前の公益法人会計基準元来「公益法人会計基準」は、1977年(昭和52年)3月に公益法人の監督官庁の連絡会議となる公益法人監督事務連絡協議会の申し合せとして設定されました。当時は、公益認定と法人格の付与が一体化した制度でした。いわば監督目的のための会計基準でした。その後、2004年(平成16年)10月に、外部報告向けの会計基準へと変更する重要な改正が行われました。この改正により収支予算書等は内部管理目的であるとして、公益法人会計基準からは除外され、別途の申し合わせとして規定されることになりました。そして従前の公益法人会計基準(以下、改正前会計基準)(注1)は、法人格の付与と公益性の認定が一体化していた制度から、準則主義により法人格が付与されるとともに、別途公益性の認定がなされるという、いわゆる二階建ての制度への変革に合わせて、特に公益認定等に資するように2008年(平成20年)4月に改正されました。また改正前会計基準では、会計情報の具体的な作成方法等については、その運用指針のなかで定められていました。改正後会計基準との相違を浮き彫りにするために、改正前会計基準の構成を次に示しておきます。【改正前会計基準の構成】(2)改正後会計基準既述のとおり、公益法人会計基準は、公益認定基準の変更に対応するための改正、換言するならば改正された財務規律(中期的収支均衡等)に適合するような情報開示となるような改正が行われました。そしてそれとともに、「わかりやすい財務諸表」を標榜した改正もなされました。そのため、公益認定基準の改正に合わせるという意味とは異なる趣旨が包含されたものとなっています。そのことは、改正後会計基準の構成をみれば明らかであると思われます。【改正後会計基準の構成】上記より、会計基準の構成そのものを大きく変更したことがわかります。この変更は、日本公認会計士協会の非営利組織会計検討会より2019年(平成31年)7月に公表されていた「非営利組織モデル会計基準」(注2)を導入しようとする意図があったためと考えられます。非営利組織モデル会計基準の構成は、その詳細は省略して示すならば、次のとおりです。【非営利組織モデル会計基準の構成】今回の公益法人会計基準の改正は、改正前会計基準を基盤に置いて、公益法人制度の改正に合わせるように開発されたものではなく、非営利組織モデル会計基準を基盤として、公益法人制度における要請を加味したものとなっていると解するのが、合理的理解であるといえます。<注釈>2008年(平成20年)4月に公表された後、2009年(平成21年)10月および2020年(令和2年)5月に改正されています。https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-0-0-2c-20200918_1.pdf提供:税経システム研究所
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2025/05/29 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(23)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額からコストが大きく変動することがあり、その対処が必要になります。以下では、前回の記事で確認した予備費を使用しながら同社で行われるコスト変動管理の進め方を説明します。2.コスト変動管理の進め方図1コスト変動管理の手順(出所)筆者作成。同社では、コスト変動のリスクを最小限に抑えて、商品の目標原価を達成することを目的に、コスト変動管理が行われます。コスト変動管理は、図1のような手順で進められています。(1)コスト変動事項の把握とリスト化開発期間中に生じる部品費や金型費等に関するコスト変動事項を把握します。例えば、本格的な試作や品質評価による予想外の品質不良の発生、保守・安全・環境対応のトラブルの発生、企画時に曖昧さを残したまま設計を開始したことで事後的に起こる仕様の変更があります。コストの変動を最小限に抑えるため、変動事項とともに予想される変動額をリスト化して、改善策を考えるために準備します。コスト変動の予想額は、主に図面を作成する設計者が算定します。経験が浅い設計者が担当する場合には、原価管理機能部門が補助を行うことで、予測の精度を高めるようにしています。(2)変更の申請手順(1)でリストアップされたコスト変動事項や予想額について、主に開発機能チームの設計リーダーが、その内容と開発機能の目標を達成しているかを確認して、開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者に申告します(注1)。(3)コスト変動の確認と承認開発機能チームの設計リーダーから申告を受けると、開発商品QCD責任者は、コスト変動の内容と予測額を確認し、妥当な変更か、変動額を最小限に抑える他の案は無いか、目標値以内に入っているか等を確認します。もし、他の案があったり、目標原価が未達であったりした時には、開発機能チームの設計リーダーに戻されて、再度検討を求められます。上記の確認で変更内容に問題がなければ承認されます。開発商品QCD責任者や原価推進責任者は、手順(1)から手順(3)の取り組みを素早く進めて、コスト変動をより最小限に抑えた案が承認されるように統制することで、開発活動をスムーズに進めるように努力しています。(4)図面の変更変更案が承認されると、図面を変更するための手続きが始められ、出図され、部品等の供給企業へと渡ります。供給企業には、変更後の原価見積が依頼されます。(5)供給企業からの原価見積額の回答供給企業からの原価見積回答額が予定の変動額を下回れば、図面の変更がそのまま進められます。逆に、原価見積回答額が予定の変動額を上回ってしまうと、調達部門による供給企業との交渉を中心に原価低減の活動を行います。交渉だけではコストの乖離が解消できないと判断される時は、同社の開発機能チームに戻されて、設計者による改善の検討を行うこともあります。(6)コスト変動状況の集計と確認開発機能ごとに算定されたコスト変動の予想額と実績額を、原価推進責任者が全体で集計し、その状況を開発商品QCD責任者が確認することで、コスト変動額が目標設定時の予備費以下になるように管理します。また、コスト変動の推移を可視化することで、開発機能チームの設計者にとって予備費がどの程度使用されたかが分かり、コスト変動を抑制する動機付けにもなります。上記の手順を通じて、コスト変動を抑え、商品の目標原価を達成するため継続的な管理が進められています。3.コスト変動管理での状況に応じた対処コスト変動管理では、基本的に、開発機能チームを中心に、予備費を使用したり、開発機能ごとの目標値の達成状況を基にした変更可否の判断を行ったりしています。ただし、ある開発機能チームの目標達成が厳しい時には、開発商品QCD責任者が開発機能全体での達成状況を確認した上で、変更の可否を判断します。例えば、手順(5)で、コストの乖離が残るものの、製造段階までの時間的な余裕がないという時には、図面の大きな変更はせずに製造段階での対処事項としておき、製造開始後のコスト変動を抑制する活動の中でフォローアップします。このように活動の進行状況に応じて対処することも、コスト変動を継続的に管理する上で重要な取り組みだと言えるでしょう。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>同社では、コスト変動管理全体を開発商品QCD責任者が統括し、その実行管理を原価推進責任者が各開発機能チームの設計リーダーと協力して行います。コスト変動管理を行う上での組織体制は前回の記事でも解説していますのでご覧ください。提供:税経システム研究所
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2025/05/22 財務会計
中小企業向け国際財務報告基準第3版(1)
1.はじめに本シリーズでは、国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が2015年に公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)を解説してきました。また必要に応じて、2022年9月に公表された公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」にも触れてきました。その後、2025年2月27日に、IASBは「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を会計基準として正式に公表しました。そこで今回からは、「中小企業向けIFRS(第3版)」について、「中小企業向けIFRS(2015年版)」の差異にも触れながら説明します。それに伴って、本シリーズのタイトルも今回より、「2015年改訂版中小企業向け国際財務報告基準」から、「中小企業向け国際財務報告基準第3版」に変更させていただきました。2.概略IASBは、アライメントアプローチを用いて、「中小企業向けIFRS(第3版)」の改訂を行いました。アライメントアプローチは、フルIFRSを基準改定の出発点とする方法です。そのため、「中小企業向けIFRS(第3版)」は、IFRS会計基準との整合性を高めつつ、財務諸表利用者のニーズや費用対効果を考慮した上で、適切かつ簡素化されたものとなるように、的を絞った簡素化を取り入れています。「中小企業向けIFRS(第3版)」は独立した会計基準であり、公的な説明責任を負わない企業(中小企業:smallandmedium-sizedentities(SMEs))が適用することができます。「中小企業向けIFRS(第3版)」は、2027年1月1日以後開始する事業年度から適用され、早期適用が可能です。中小企業は、過去に遡って(retrospectively)「中小企業向けIFRS(第3版)」の新たな規定を適用しなければなりませんが、一部の項目については移行措置として遡及適用が緩和されています。3.主要な改訂「中小企業向けIFRS(2015年版)」からの主要な改訂には、次のようなことがあります(ProjectSummaryより)。以下、各改訂について簡単に説明します。(1)第2章概念および全般的原則第2章では、中小企業の財務諸表の目的について説明し、これらの財務諸表の基礎となる概念と基本原則を定めています。「中小企業向けIFRS(2015年版)」の第2章は1989年版の概念フレームワークに基づいていましたが、「中小企業向けIFRS(第3版)」の第2章は2018年版の概念フレームワークに整合するように改訂されました。(2)第9章連結財務諸表および個別財務諸表第9章では、IFRS第10号「連結財務諸表」と整合するように、次のような改訂が行われました。支配の定義をIFRS第10号の定義と同じにした。子会社に対する支配を喪失した親会社が、旧子会社に対する留保持分を支配喪失日の公正価値で測定し、その結果生じる利得または損失を損益として認識するという要件を導入した。(3)第11章金融商品「中小企業向けIFRS(第3版)」では、「中小企業向けIFRS(2015年版)」における第11章「基礎的金融商品」と第12章「その他の金融商品」が統合、名称変更されて、第11章「金融商品」になりました。そして、IFRS第9号「金融商品」の規定に整合するように、次のような改訂が行われました。金融商品の分類と測定の要件を補足する原則を追加した。金融資産と金融負債に関する開示要件を追加した。金融保証契約の定義を追加した。金融商品の認識および測定において、IAS第39号を適用する選択肢を削除した。(4)第12章公正価値測定第12章は、IFRS第13号「公正価値測定」と整合するように新設されたものであり、次のような改訂が行われました。公正価値の定義をIFRS第13号と同じにした。公正価値測定に対する要求事項を、IFRS第13号の公正価値ヒエラルキーの原則と整合させた。公正価値に関連する開示事項を、IFRS第13号と整合させた。(5)第19章企業結合およびのれん第19章は、IFRS第3号「企業結合」と整合するように、次のような改訂が行われました。事業(business)の定義をIFRS第13号と同じにした。取得者の識別に際して、新たな規定を加えた。取得した資産および引き受けた負債について、第2章の資産と負債の定義を参照することとした。のれんの認識と測定(注1)について、過度なコストや労力をかけずに信頼性をもって測定できる場合には、条件付対価(contingentconsideration)を公正価値で測定することとした。条件付対価に関しては、文末の【補足】に記載しました。(6)第23章顧客との契約から生じた収益第23章は、IFRS第15号「顧客との契約から生じた収益」と整合するように、名称変更を行うとともに、次のような改訂が行われました。IFRS第15号の5ステップモデルを基礎として、収益認識のための包括的フレームワークを導入した。次回からは新設された第12章や、これまで本シリーズで扱わなかった章を説明します。【補足】条件付対価条件付対価とは、企業結合契約において定められるものであり、企業結合契約締結後の将来の特定の事象または取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付または引き渡される取得対価です。たとえば、被取得企業が企業結合契約締結後の特定年度において特定の利益水準を維持や達成したときに、取得企業が株式を追加で交付する条項がある場合が挙げられます。条件付対価の会計処理は、日本基準と国際会計基準で異なります。(設例)当社は、X社の発行済株式のすべてを取得しその対価として10億円を、A社が特定の条件を達成した時には最大で20億円、合計で最大30億円を支払うという買収契約をした。A社から受け入れる純資産は8億円である。また、条件の達成可能性を考慮した負債の公正価値は5億円であった。なお、2年後に特定の条件が達成されたことにより、追加で15億円を支払うことが確実となったとする。【日本基準】企業結合日の会計処理はその時点で確定している対価の額で行い、その後対価を追加的に支払うことが判明した時点で、追加的な会計処理をします。企業結合日のれんを2億円(=取得原価10億円-A社の純資産8億円)計上します。2年後(特定の条件の達成時)追加でのれんを15億円計上します。【国際会計基準】取得企業は、条件付対価の取得日における公正価値を、被取得企業との交換で移転された対価の一部として認識します。したがって、支払いが確定している部分のほか、追加支払いの可能性がある部分も含めて公正価値評価して取得原価を算定します。企業結合日条件の達成可能性を考慮した負債の公正価値は5億円なので、取得原価は15億円(=10億円+5億円)です。したがって、のれんを7億円(=取得原価15億円-A社の純資産8億円)計上します。2年後(特定の条件の達成時)対価の追加支払いが確実になってものれんの金額は変動せず、負債の時価の変動として処理します。追加支払額15億円から取得原価に含めた5億円を控除した10億円を負債と費用に計上します。<注釈>のれんは、その耐用年数にわたり規則的に償却します。信頼性をもって耐用年数を見積もることができない場合には、耐用年数の上限は10年です。当初認識後は、のれんは取得原価から償却累計額と減損損失累計額を控除した額で測定します(19.35項)。IFRS第3号にはのれんを規則的に償却する規定はないので、この点が異なります。提供:税経システム研究所
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2025/05/15 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(3)
1.計画段階における財務情報の活用企業業績の向上を図るためには、経営のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを適切にコントロールしなければなりません。このうち、もっとも初めの段階で行われるのが計画です。従業員の努力が適切な方向に向けられるようにするためには、入念に計画を立てる必要があります。容易に達成が可能な計画では、従業員は計画達成のための努力を行わなくなってしまいますし、逆に、明らかに達成困難な計画では、従業員に過度な負荷をかけたり、従業員が計画達成を諦めて計画自体を無視するようになったりしてしまうかもしれません。計画のなかでも、とくに重要になるのが財務目標の決定です。企業経営の良否は財務的成果によって評価されるため、計画の段階で目標とすべき財務的成果を明確に定める必要があるのです。ここで検討すべき点として、大きく2つの論点があります。①どのような財務指標をもとに財務的成果を定義するのか、また②財務的成果の目標水準をどのように決定するのかという点です。財務指標といっても、様々な性質を持つ指標が存在します。売上高に対する利益(営業利益、経常利益、当期純利益)の割合を表す収益性指標(例:営業利益率など)、資産と負債・資本の比率を表す安全性指標(例:流動比率など)、さらには、利益と資本を組み合わせた投下資本利益率(例:総資産利益率など)の効率性指標などです。計画にあたっては、このうちのいくつかの(通常は2つ~3つ程度)指標を、重要業績指標(KeyGoalIndicator:KGI(注1))として選択することになります。重要業績指標は、トップマネジメント層が経営の成果として何を重視しているかを示すものです。したがって、選択された重要業績指標は、ミドルマネジメント層の行動に影響を及ぼすことになります。たとえば、営業利益率が選択されると、ミドルマネジメント層は本業の収益性に注目することになりますが、その一方で支払利息、株式の評価損益、売却損益などの営業外損益については関心を持たなくなってしまう可能性があります。また、営業利益率だけでは、損益計算書側にのみ焦点が当てられ、貸借対照表側、すなわち資産効率性への関心は低くなってしまいます。余剰在庫の削減や、固定資産への過剰投資にも意識を向けさせるためには、投下資本利益率なども併用する必要があります。また、同業他社と財務指標の比較を行い、自社の課題を明らかにすることも重要です。今回は、レーダーチャートを使って自社、A社、B社の3社の比較を行い、自社の強みや弱みを明らかにしてみたいと思います。レーダーチャートの出力にあたっては、今回もChatGPTを用い、レーダーチャートの作図にくわえて、自社の強み・弱みの抽出も行ってもらいたいと思います。2.レーダーチャートを用いた、強みと弱みの分析今回は、自社のデータにくわえ、同業他社であるA社、B社の情報を使用して、レーダーチャートと、財務指標の強みや弱みの分析を行いたいと思います。分析に用いるExcelデータ(注2)は注記のURLからダウンロードをお願いいたします。今回はChatGPTに、図1のように以下の点を盛り込んだ指示を行います。なお、ChatGPTへ指示する場合には、データの内容についてなるべく詳細に説明することで、期待した結果が得られる可能性が高くなります。描画にあたっては添付の日本語フォントを使用してください。Excelデータに自社、A社、B社の2015年から2024年の財務指標の情報が格納されています。財務指標は、自己資本比率、配当性向、営業利益率、純利益率、ROE(自己資本当期純利益率)、ROA(総資本事業利益率)、ROIC(投下資本事業利益率)が含まれています。各社のレーダーチャートを作成し、各指標の数値をもとに自社の強みと弱みを指摘してください。各指標の違いを比較しやすさを重視し、いくつかの指標ごとにレーダーチャートを分けて出力してください。各指標の値は2015年度から2024年度の平均値を用いてください。描画の際に、自社の結果がわかりやすくなるよう、A社、B社の色を薄くしてください。図1ChatGPTへの指示次のように指示をすると、次のような結果が出力されます。図表2出力結果上記の指摘事項から、同業他社と比較して、利益率の安定性や資本効率性は優れているものの、自己資本比率の低さや配当性向の低さに懸念点があることが指摘されています。それでは、上記分析結果を受けて、自社の事業計画における主な課題についても指摘してもらいましょう。図表3自社の事業計画における課題についての指摘このように、財務分析から抽出された課題をうけて、事業計画において検討すべき課題が指摘されました。テキストどおりの指摘内容であったり、自己資本比率50%超という適正水準にありながら財務安全性に懸念があるとの指摘がなされていたりと、議論の余地のある指摘事項も見られますが、いずれも事業計画の策定にあたって検討を要する点となっています。もちろん、ChatGPTが、すべての検討事項を漏れなくかつ正確に指摘してくれるわけではありません。場合によっては的外れな指摘をしてくることもあるでしょう。あくまで、事業計画策定のたたき台として、もしくは、現在検討中の事業計画案に漏れはないのかを確認するためのサポートツールとして使用することが肝要です。ChatGPTは常に正しい情報を出力してくれるわけではありません。出力される情報の真偽を見極めるためには、使用する側が正しい知識を身につけることが必要ですし、分析のために用いるデータにミスが起こらないよう、会計システムを導入することは必須です。ChatGPTは会計情報をより効果的に活かすための強力なツールとなりますが、あくまで経営のサポートツールに過ぎない(依存し過ぎてはならない)ことは忘れてはなりません。3.補足:次年度財務指標の目標値設定に向けてChatGPTは、統計的分析やシミュレーション分析に強いことが知られています。たとえば、以下のように、過年度の分析結果や、経済状況等を反映して、各財務指標の次年度目標の参考値を出力することも可能です。図表4次年度財務指標の目標値の推定<注釈>いくつかの階層を設けて重要業績指標を設定することがあります。その場合、企業の最終的な成果を表す重要業績指標をKeyGoalIndicator(KGI)、中間的な成果を表す重要業績指標をKeyPerformanceIndicator(KPI)として区別して呼ぶことがあります。分析に使用するデータはDropboxに格納されています。下記URLよりダウンロードをお願いいたします。https://www.dropbox.com/scl/fi/2pf41txhojpwojgw96phj/data202504.xlsx?rlkey=2azmnx9qc2au96vc2wj39nxat&dl=0また、ChatGPTで作図をする場合、日本語表記を可能にするために、Excelデータとあわせて以下の日本語フォント出力のためのデータファイルも添付しましょう。https://www.dropbox.com/scl/fi/v1dbluh8sgb4vl04pek9c/NotoSansJP-Black.ttf?rlkey=aqazot7kr7w1u8om7k6b0z672&dl=0提供:税経システム研究所
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2025/05/08 財務会計
公益法人制度の改正(5)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、改正前公益認定法)が、昨年2024年(令和6年)5月に改正(改正後の法律は、以下、改正公益認定法)され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まりました。この改正の内容のなかで、今回は、「区分経理」を取り上げます。公益社団法人・財団法人は、公益目的事業のほか、法人の管理運営のための事業、さらに収益事業等を実施している場合があります。公益認定基準の1つである公益事業比率を把握するためには、公益目的事業を区分してその費用を把握しておく必要があります。また中期的な収支均衡は、公益目的事業について求められるため、やはり公益目的事業の収入及び費用を把握しておく必要があります。加えて、収益事業に係る所得は課税対象となるため、収益事業に係る収益及び費用を把握する必要があります。しかし貸借対照表においては、多くの法人がそれらの事業ごとの区分経理を実施していませんでした。今回の区分経理に関する改正は、収益・費用のみならず、資産・負債についても、それぞれの事業に応じた区分経理が求められることになりました。6.区分経理(1)改正前の区分経理とその理由上述の通り、収益・費用について、公益目的事業と収益事業等、法人管理運営に区分して把握することは、今回の改正に関わらず、行わなければなりません。それぞれの事業に係る会計区分(企業会計でいうところの会計単位)が設けられますが、改正前の区分経理では、複数の公益目的事業を有している場合には、それぞれの公益目的事業の区分を設けることが求められていました。その理由は、改正前に求められていた収支相償が、第一段階で個々の公益目的事業について求められており、第二段階で公益目的事業全体について求められていたためです。この二段階でのチェックは、公益目的事業全体で収支相償を充たしているとしても、その内訳となる事業のなかに恒常的に利益を生み出す事業が含まれている場合、いわば公益目的事業として相応しくない事業が含まれている場合がありえるためです。そのため、収支相償の観点から、まずは個々の事業について公益目的事業として相応しいか否かを判断するために二段階での判断が行われていました。改正前では、収益事業等会計についても複数の収益事業や共益事業を有している場合には、それぞれの収益事業等の区分を設けることが求められていました。その理由は、その実施により公益目的事業に支障が生じないことが公益認定基準に含まれていることに関連しています。すなわち、公益性のある事業を実施することを主目的とする法人にとって収益事業等を実施することは、あくまでも公益目的事業を実施するための財源確保の目的であることが想定されているため、収益事業等全体では利益を得られているものの、その内訳のなかに損失を生じさせている事業が含まれているとするならば、その損失を生み出す収益事業等は公益目的事業のための財源確保という観点からは支障がある事業であり、実施すべきではないことになります。こうした判断を行うことを可能ならしめるためには、収益事業等についても、その内訳となる個々の収益事業等について区分経理される必要があります。(2)改正の内容公益認定法第19条において、改正前には収益事業等会計を公益目的事業会計から区分し、かつ各収益事業等ごとに区分経理することが求められていたところを、次のように改められました。すなわち、公益目的事業に係る経理、収益事業等に係る経理及び法人の運営に係る経理をそれぞれ区分して整理することが求められることになりました。収益事業等を行わない公益法人にあっては、公益目的事業に係る経理及び法人の運営に係る経理を区分経理することになります。なお、収益事業等を行わない法人について、法人運営のためのものとして特定されているものを除き、全ての財産を公益目的事業会計に含めることも認められています。この措置は、「区分経理の代替措置」と呼ばれています。なお改正前に求められていた複数の公益目的事業や複数の収益事業等を有している場合の個々の事業ごとの区分については、改正前に要求されていた正味財産増減計算書内訳表での情報開示に代えて、注記事項のなかで開示されることとなります。以上の説明からは、資産と負債についても区分経理が求められるようになっただけのように思われるかも知れませんが、注目すべき点は、資産や負債についても区分経理することが、原則として全ての法人に要求されることになった点、並びに、公益目的取得財産残額の把握が簡素化された点です。公益目的取得財産とは、公益目的事業を行うために使用し、処分しなければならない財産を指し、具体的には公益認定を受けた日以後に受けた寄附金や補助金、公益目的事業におけるサービス等の提供に対する対価として取得した財産、収益事業からのみなし寄附金に相応する財産等が含まれます。そして公益目的取得財産残額は、特定の時点における公益目的取得財産の残額を指しますが、公益認定取消等の措置がなされた場合には、その残額相当額を国や地方公共団体に寄附、あるいは他の公益法人等に寄附しなければなりません。この公益目的取得財産残額の計算は、過去に遡及して行うことはたいへん煩雑となるため、これまで毎期、その計算のための別表の作成が求められてきました。今回の改正により、その別表の作成を廃し、公益目的事業会計の純資産(正味財産から名称を変更)の額を基礎として算定する方式に変更されました。(3)改正の基盤となる考え方区分経理に関わる基本的な考え方としては、収益と費用の区分経理と、資産と負債についても区分経理を一体化しようとする考え方があります。すなわち、公益目的事業会計に含まれる収益と費用、さらに資産と負債を1つの会計区分(会計単位)として把握することを意図しています。換言するならば、次の関係が成立するように区分経理されることを求めています。公益目的事業会計=公益目的事業財産の変動を収容する会計区分7.ガバナンス強化今回の改正では、行政手続きの簡素化が図られていますが、法人のガバナンスに関連する改正として、2,000万円を超える役員報酬等を受ける役員について、その金額やそれだけの額を支給する必要があることの理由を公表するよう求めることや、特別の利益を与えてはならない関係者を関連当事者に含めて必要な開示を行うことが定められました。加えて、法人運営が内輪の者だけで行われることで私物化されることを防ぐために、理事及び監事について、外部理事や外部監事を設置することが求められています。具体的には、理事のうち一人以上が外部理事であること、監事が外部監事であること(監事が複数である場合は、一人以上が外部監事であること)が求められるようになりました。外部理事や外部監事に関わる外部性(いわば要件)としては、現在かつ過去10年間、当該法人や子法人の理事(外部理事については業務執行理事)や使用人ではないこと、公益社団法人の場合はその社員ではないこと、公益財団法人の場合は創立者ではないこと等が求められています。なお、小規模法人(収益3,000万円未満、かつ費用・損失3,000万円未満)については、外部理事については適用が除外されます。こうした外部役員の設置については、それぞれ現在の全ての理事・監事の任期が満了する日の翌日から適用することができるよう、経過措置が設けられています。提供:税経システム研究所
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2025/04/24 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(22)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額から原価が大きく変動することがあり、企業が商品の目標原価を達成するためにコスト変動を可能な限り抑えることが求められます。以下では、同社のコスト変動管理で用いられる予備費について説明します。2.予備費の設定製品開発では不測の事態がしばしば起こりますので、開発機能単位ごとに割り付けられた目標原価の達成状況が芳しくないという時にどのように対処するかが原価管理で重要になります。例えば、品質トラブルに対処するため想定していた以上のコストがかかるようなことが相次いで起これば、その後の活動で余裕がなくなってしまい、最終的に商品の目標原価の達成が難しくなります。そればかりでなく、目標値と実績値との乖離があまりに大きくなることで、最悪の場合、目標原価自体が原価管理上の目標値としての意味をなさなくなる可能性もあります。このような課題に対して、同社のコスト変動管理では、予備費を用いて進捗状況に応じた管理が行われています。予備費は、商品の目標原価を費目ごとに分解する時に、将来見込まれるコスト増大への備えとして設定されます。「部品予備費」、「金型予備費」、「加工費予備費」を各費目の目標値とは別に確保し、各機能単位に割り付けます。部品予備費を例として、予備費の決め方を見てみます。同社では、過去の経験に基づいて、出図された図面に対して発生するコストの増大額と改善額の合計から、この先のコスト増大の予想額が算出されます。予備費の金額は、商品化会議の提案時に原価管理機能部門の設定基準として決められます。その後、各フェーズ移行提案時のコストレビューで確認されます。目標原価の達成活動中に生じるコスト変動に対して、開発機能単位の目標値を対象としたコスト変動管理を行います。この時、初めに設定した予備費の範囲で収まるように、コスト変動を管理します。この管理を量産製造の開始前まで行い、その時点で予備費に残額があれば商品の目標原価を達成したことになります。3.予備費の運用例図1コスト変動管理の組織体制出所:吉田・伊藤(2021,p.135)を基に作成。同社では、図1のような組織体制でコスト変動管理が行われています。コスト変動管理全体を開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者が統括しており、その実行管理を原価推進責任者(注1)が各開発機能チームの設計リーダーと協力して行います。ここでは、予備費の基本的な運用方法を見ていきましょう。まず、開発商品QCD責任者の指示で使用可能な予備費の上限が決められます。これを基に、原価推進責任者が設計リーダーから申告されたコスト変動の予測額を積み上げ、予備費の範囲で収まるかを確認します(注2)。原価推進責任者は、申告されたコスト変動額が適正な水準に達していないと判断すると、申告してきた設計リーダーに対してより正確な見積りを求め、確認します。コスト変動のメニューや金額を原価推進責任者が集約することで、コスト変動額が大きい案件をタイムリーに捉え、変動内容を確認し、開発商品QCD責任者とともにコスト変動を最小限に抑えるための活動を進めることができます。また、コスト変動のメニューによっては、複数の分野をまたがる対応が必要になり、開発機能チーム間での調整が行われる可能性もあります。その時には、原価推進責任者の裁量で開発機能チームが活動しやすいように調整することもあります(注3)。なお、予備費には、不測の事態への備えとしての役割が求められているものの、必要以上に見積られてしまうことになれば、目標原価に対する設計チームの意識が希薄になり、士気の低下につながりかねません。そのため、同社でコスト変動管理を実行する時には、原価推進責任者を中心に、設計チームのモチベーションも考慮して予備費の運用状況をモニターすることが重要です。このようにして、同社では、活動の進捗状況に注意しつつ、コスト変動管理が継続的に行われています。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>原価推進責任者は、原価管理機能部門から任命され、目標原価達成の活動を推進するために下記の4つの役割を担っています。今回の記事で取り上げているのはこのうちの4にあたる役割です。原価企画の立案(原価条件、目標原価案の設定と細分割付、活動計画等)と、コストチームの編成。目標原価達成活動の進捗管理。商品の製造原価の算出、開発ステージ移行時のコストレビュー会での報告。コスト変動管理(開発期間中に発生するコスト変動のリスクを最小限に抑えるための管理活動)の推進。同社では、予備費の管理は家計簿管理とも言われています。上記のような原価推進責任者を中心に予備費を管理する方法の他に、開発機能チームで管理を行う方法もあります。この方法では、開発機能チームの設計リーダーに、コスト変動管理の予備費を割り付け、管理します。各開発機能チームは、自分たちのチームに与えられた目標値の範囲であれば予備費を柔軟に運用することができます。ただし、この方法では目標原価の数値と予備費の数値の両方を開発機能チームで扱うことになり、進捗管理において2つの目標値の識別が難しくなってしまうという問題もあります。提供:税経システム研究所
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2025/04/17 財務会計
IFRS第 18号「財務諸表における表示及び開示」 (7)
本レポートでは、IASBより2024年4月に公表された会計基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示(PresentationandDisclosureinFinancialStatements)」(以下、IFRS18といいます)について解説をしてきました。IFRS18は従来のIAS1「財務諸表の表示(PresentationofFinancialStatements)」を置き換えるものであり、IFRS18の適用は2027年1月1日と規定されていますが、それより前の早期適用も認められています(注1)。IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものであり、国際会計基準を任意適用している日本企業にも影響を与えることとなります。今回は、これまで確認をしてきた損益計算書のポイント等について、その全体を簡潔に纏めて、本レポートの最後としたいと思います。5.損益計算書のポイント(了)下記の損益計算書は、以前のレポート「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(1)」において示した、IFRS18における損益計算書の様式に、①~⑥の吹き出し(▢)等を加えたものになります。①~⑥は、これまでのレポートに対応していますので、より詳細な事項については、そちらを御確認下さい。■損益計算書(Statementofprofitorloss)(注2)①カテゴリーIFRS18における損益計算書は、大枠として、営業、投資、財務という3つのカテゴリーに区分されます。ただし、これら3つのカテゴリーの名称自体が損益計算書に表示されるわけではありません。②営業のカテゴリー営業のカテゴリーは直接的には定義されておらず、投資と財務のカテゴリーに含まれないものが営業のカテゴリーに入ることとなります。そのため、日本の損益計算書における特別損益項目については、営業のカテゴリーに入ることとなります。国際会計基準では、日本の損益計算書にみられるような特別損益に係る区分自体がない、ということに注意する必要があります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。③持分法に関連する投資損益日本の損益計算書では、持分法による投資損益は営業外損益の区分に表示されます。IFRS18では、投資のカテゴリーに表示されることとなります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。④追加的な小計IFRS18では、追加的な小計というものが示されています。これは、「有用な体系化された要約」を表すものであるとされています。何が追加的な小計になるのかについては、企業の判断が入ることになると考えられます。本レポートで示している損益計算書の雛形において赤文字で示されているものは、あくまでもその例示ではありますが、判断をするうえでの参考になるでしょう。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。⑤「その他」の表示IFRS18では、「その他」の表示が限定されています。そのため、「その他」の中身をよく検討して、可能な限り、その中身にふさわしい名称で表示する必要があります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(5)」をご確認ください。⑥為替差額IFRS18では、為替差額が発生することとなった元々の項目の属性に従って、その為替差額が損益計算書のどのカテゴリーに表示されるのかが決定されます。その例として、売掛金から発生した為替差額は営業のカテゴリーに、借入金から発生した為替差額は財務カテゴリーに表示されることが示されていました。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(6)」をご確認ください。*****以上のように、IFRS18における損益計算書は日本の損益計算書とは異なる箇所が多々あります。財務諸表の作成者は十分に準備をする必要があり、また、財務諸表の利用者もポイントをよく理解しておく必要があるでしょう。本レポートが、その一助になれば幸いです。<注釈>PrimaryFinancialStatements,FinalStage[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#final-stage](accessedon2024/11/18)PrimaryFinancialStatements,Publisheddocuments「EffectsAnalysis:IFRS18PresentationandDisclosureinFinancialStatements」p.16[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#published-documents](accessedon2024/11/18)*上記ファイル自体のURLは以下[https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/amendments/english/2024/effect-analysis-ifrs18-april2024.pdf](accessedon2024/11/18)提供:税経システム研究所
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2025/04/03 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(17)
1.原価計算基準における販売費及び一般管理費の分類基準前々回の(15)で、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における販売費及び一般管理費の分類基準について説明しました。「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、製造原価と同様に、形態別分類、機能別分類、直接費と間接費、固定費と変動費、管理可能費と管理不能費を、「販売費および一般管理費要素の分類基準」[三七]としてあげています。前々々回の(14)では、販売費及び一般管理費の事例として、配送関連のコストと販売担当者のコストについて説明しました。ただし、この説明は、例示しただけであって、体系的な説明ではありません。そこで今回は、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]による販売費及び一般管理費の分類にもとづいて、どのような観点から体系づければよいかについて、より具体的に検討していきます。2.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類岡本[2000]では、第13章「営業費計算」の第2節で、第1項の「営業費の分類基準」において、先述の「原価計算基準」における販売費及び一般管理費の分類について説明しています[pp.693-694]。これに続く第2項「営業費の分類例」において、4桁のコードを用いて機能別分類を強調した分類例を示しています[岡本,2000,pp.694-696]。(1)販売費と一般管理費まず、営業費である販売費及び一般管理費ですが、これは文字どおり販売費と一般管理費に分類できます。費用は、それが発生する部門別に集計するので、販売費は販売部門で発生する費用であり、また、一般管理費の多くは企業の本社にある経営企画部、人事部、経理部、財務部、総務部、法務部などの管理部門で発生する費用です。なお、岡本[2000]は、財務部の費用について、「支払利子などの財務費のなかに含めず、一般管理費のなかに含める」[p.696注1]と説明しています。この意味は、受取利息および支払利息などの財務費用は営業外収益または営業外費用として損益計算書に掲記しますが、財務部で発生している給料などの人件費や事務費などの業務遂行に関連して発生する費用は、まさしく営業費であるという考え方だと推察します。(2)販売費の分類つぎに岡本[2000]では、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明しています。注文獲得費とは、広告宣伝費、販売促進費、直接販売費、販売調査費といった「注文獲得のために要する費用」[岡本,2000,p.697]です。広告宣伝費は、たとえば、岡本[2000]では、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌といった広告媒体のチャネルごとに勘定科目を設定しています[p.694]。ただし、岡本[2000]が刊行された時代より四半世紀を経た現在では、広告の媒体も多様になっています。また、現在の企業は、前回(16)でも説明した多様な「顧客の心理的要因」[岡本,2000,p.692]や「販売方法の多様性と変動性」[岡本,2000,p.692]をふまえて、ターゲットとする顧客にむけて広告活動を行う必要があります。そのために、マーケティング論や広告論の領域においてさまざまな手法が研究されていますので、管理会計および原価計算の研究領域でも、これに対応した研究が必要になるでしょう。販売促進費は、「販売促進活動に要する費用で、委託販売手数料、販売店助成費、販売員教育訓練費、アフター・サービス費など」[岡本,2000,p.697]です。注文履行費とは、倉庫費、運送費、掛売集金費などの「注文を履行するために要する費用」[岡本,2000,p.697]です。販売事務費とは、注文獲得費と注文履行費の「両者に共通的に発生する」費用[岡本,2000,p.697]です。なお、岡本[2000]では、一般管理費について勘定科目を例示していますが、本文において説明はしていません。販売費及び一般管理費の分類を体系的に整理すると、図1のように示すことができます。図1販売費及び一般管理費の分類出典:岡本・廣本[2024a,p.42,図表5-1]を修正して作成参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2025/03/27 財務会計
2015年改訂版 中小企業向け国際財務報告基準(22)
1.はじめにこのシリーズでは、2015年に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)について解説しています。2022年9月に、IASBは、公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「公開草案(第3版)」という)を公表しており、本シリーズでも、適宜「公開草案(第3版)」に触れています。IASBのウェブサイトによると、「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」は、2025年の第一四半期に公表される予定です。今回は、「中小企業向けIFRS(2015年版)」の第28章「従業員給付」について、「公開草案(第3版)」で修正された分も含めて説明します。2.範囲と一般認識原則(1)範囲従業員給付とは、取締役や経営者を含む従業員が提供した勤務と交換に、企業が与えるすべての形態の対価をいいます。本章は、第26章で規定されている「株式に基づく報酬取引」以外のすべての従業員給付に適用されます。適用対象となる従業員給付は、短期従業員給付、退職後給付、その他の長期従業員給付および解雇給付の4種類です(28.1項)(注1)。(2)すべての従業員給付に関する一般認識原則従業員が提供した役務の結果として与えた従業員給付については、費用を認識するとともに、従業員に直接支払った金額または基金への拠出制度として支払った金額を差し引いた後の金額を負債として認識します(28.3項)(注2)。3.短期従業員給付短期従業員給付は、従業員が関連する勤務を提供した期間の末日後1年以内にすべての決済期限が到来する従業員給付です(ただし、解雇給付を除きます)。短期従業員給付の具体例は、賃金や給料、1年以内に発生すると予想される短期有給休暇(年次有給休暇及び有給疾病休暇等)、1年以内に支払うべき利益分配や賞与などです(28.4項)。短期従業員給付については、割引前の金額で測定します(28.5項)。4.退職後給付退職後給付とは、雇用関係の終了後に支払われる従業員給付(ただし、解雇給付を除きます)であり、大別すると次の2つの制度があります。(5)確定拠出制度ある期間に支払うべき掛金を費用として認識するとともに、その掛金額からすでに支払った額を控除した額(つまり未払額)を負債として認識します(28.13項)。(2)確定給付制度確定給付債務の現在価値から年金資産(制度資産ともいいます)の公正価値を差し引いた額を、確定給付負債として認識します(28.15項)。確定給付債務の現在価値を算定する際に用いる割引率は、原則として、優良社債の市場利回りを参照して決定します(28.17項)。確定給付制度債務と関連費用の測定において、過大な労力やコストがかからない場合は、予測単位積増方式(projectedunitcreditmethod)を用います(28.18項)(注3)。予測単位積増方式では、確定給付債務の測定において、各種の数理計算上の仮定(たとえば、割引率、年金資産に係る期待収益率、予想昇給率、離職率、死亡率)を用います。確定給付制度に関しては、積立方針を含む制度の一般的な説明、数理計算上の差異の認識に関する会計方針(純損益またはその他の包括利益の項目のいずれで認識したか)、当期中に認識された数理計算上の差異の金額、使用した主な数理計算上の仮定などを開示する必要があります(28.41項)。5.その他の長期従業員給付その他の長期従業員給付には長期有給休暇、長期勤続給付、長期障害給付、従業員が関連する勤務を提供した期間の末日から12か月以上後に支払うべき利益分配や賞与などがあります(28.29項)。その他の長期従業員給付については、その債務の現在価値から年金資産の公正価値を差し引いた額を、負債として認識します(28.15項)。その他の長期従業員給付については、従業員に提供する長期給付の分類ごとに、給付の内容、債務の金額および積立ての範囲を開示します(28.42項)。6.解雇給付解雇給付とは、次のいずれかの結果として支払うべき従業員給付であり、自己都合退職や定年退職の際に支払われる給付は含まれません(28.1項)。7通常の退職日前に従業員の雇用を終了するという企業の決定(解雇の場合)②その給付と引き換えに、自発的退職を受け入れるという従業員の決定(退職募集に応じた場合)(注4)解雇給付は企業に将来の経済的便益をもたらさないので、ただちに費用として認識します。また、企業が次のいずれかを明白に確約(コミット)している場合にのみ、解雇給付を負債および費用として認識します(28.34項)。従業員を通常の退職日前に終了すること自発的退職を行った募集の結果として解雇給付を支給すること解雇給付の期日が決算日から1年超の場合には、その給付は現在価値で測定します。解雇給付については、従業員に提供する解雇給付の分類ごとに、給付の内容、債務の金額および積立ての範囲を開示します(28.43項)。7.日本の中小企業会計における規定(1)中小企業の会計に関する基本要領退職給付引当金については、退職金規程や退職金等の支払いに関する合意があり、退職一時金制度を採用している場合において、当期末における退職給付に係る自己都合要支給額を基に計上します。中小企業退職金共済、特定退職金共済、確定拠出年金等、将来の退職給付について拠出以後に追加的な負担が生じない制度を採用している場合は、毎期の掛金を費用処理します。(2)中小企業の会計に関する指針確定給付制度を採用している場合は、退職給付債務に未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用を加減した額から年金資産の額を控除した額を退職給付引当金として計上します(注5)。中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度、確定拠出年金制度のように拠出以後に追加的な負担が生じない確定拠出制度を採用している場合は、毎期の掛金を費用処理します。2つとも、確定拠出制度と確定給付制度の会計処理を規定します。確定拠出制度の会計処理については、「中小企業向けIFRS(2015年版)」とほぼ同じです。確定給付制度の会計処理については、「中小企業の会計に関する指針」は未認識数理計算上の差異などを反映させている点で「中小企業向けIFRS(2015年版)」と類似しています。しかし、「中小企業の会計に関する指針」では、控除する年金資産の額が公正価値かどうかは明記されていないといった点も挙げられます。<注釈>IFRSのIAS第19号「従業員給付」も同様の規定であり、退職給付以外の有給休暇や解雇給付も含めた従業員給付全般を対象にしている点が、日本基準とは異なります。支払った金額が従業員の勤務提供から生じた義務を超過する場合は、一定額を資産として認識します。「公開草案(第3版)」では、「過大な労力やコストがかからない場合」が削除され、企業は必ず予測単位積増方式を用いる必要があります。「公開草案(第3版)」では、文言が少し修正され、「雇用の終了と引き換えに、給付を受け入れるという従業員の決定」となっています。ただし、一定の場合には、退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法(簡便的方法)を適用できます。提供:税経システム研究所
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2025/03/27 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(2)
1.PDCAサイクルのなかで会計情報を活用するはたして、読者の皆さんは自社の(もしくはクライアント企業の)会計情報をどの程度経営に活かすことができているでしょうか。企業業績の向上を図るためには、経営のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクル、より具体的にいえば、計画策定、予算編成、期中管理、業績評価、分析・改善などのコントロールプロセスのなかで、会計情報を効果的に活用し、改善のための施策を講じることが期待されます。しかし、実務において、会計情報を効果的に活用できている企業は決して多くはないのが現状です。もちろん、多くの企業では、一定の活用はなされているものと思います。売上高や利益額(利益率)について時系列の推移を見たり、前年度、前々年度との比較を行ったり、また、様々な経営判断の際に事業やプロジェクトの収益性を評価したりと、いくつかの場面における検討材料として会計情報が使われているのではないでしょうか。しかし、会計情報の活用の場面は、これらにとどまりません。たとえば、計画の場面一つをとっても、会計情報を活用する方法は数多く考えられます。具体的には、人件費、販売費、広告費が、どの程度売上高の向上に寄与しているのかを分析し、適正な資源配分がなされているかを検討したり、いくつかの資源配分パターンごとに将来予想される財務業績のシミュレーションをしたり、さらには、期末に実績値が確定するのを待たずに期中の情報を用いて期末の着地点を予測し、早い段階で計画や資源配分の修正を図る(これらは、それぞれ着地予想、ローリング予測と呼ばれます。具体的な分析方法は、改めてご紹介させていただきます)などの方法が挙げられます。これらが実現できれば、より多くの業績向上のチャンスをつかむことができるのです。しかし、多くの企業では、「そんな分析を実行するシステムは自社にはない」、「システム導入には莫大なコストがかかる」「どんな分析をすればいいかわからない」などの理由で、上記の活用に踏み切れずにいるようです。たしかに、数年前までは上記の理由は、至極全うなものでした。しかし、生成AIの進化によって、大掛かりなシステム投資をせずとも、これらの分析を行うことが可能になっています。2.生成AIを活用した財務に関する問題点の把握前回のリポートに続き、生成AI(ChatGPT4oを使用)を活用することで、どのようなことができるのか、見てみましょう。今回は、財務諸表およびいくつかの財務指標のデータを使用して、財務上の問題点の抽出をしてみましょう。今回は、設例として架空の企業の財務情報を使用します。データには、2014年から2024年までの売上高、売上原価、人件費、資本的支出、研究開発費、営業利益率、ROE、PBRのデータが格納されています。まずは、注のURLからダウンロードをお願いいたします(注1)。そのうえで、生成AIに各指標のトレンドをグラフ化してもらい、営業利益率が下降トレンドに切り替わった年度を確認してみましょう。データのダウンロードが完了したら、図1のように、以下の指示(スクリプト)をコピー&ペーストし、データを添付したうえで右下の実行ボタンを押します。指示(スクリプト)(注2)この企業の各財務指標の時系列推移をグラフ化してください。グラフタイトルは英語表記のみとしてください。なお、RevはRevenue(売上高)、CoSはCostofsales(売上原価)、PEはPersonnelexpenses(人件費)、CAPEXはCapitalexpenditure(資本的支出)、R&DはResearchanddevelopment(研究開発費)、OMはOperatingMargin(営業利益率)、ROEはReturnofequity(株主資本利益率)、PBRはPricebook-valueratio(株価純資産倍率)を表しています。また、営業利益率が前年度を下回っている年度について、すべての図に×印を付けてください。図1スクリプトとデータの添付すると、以下のようなグラフが出力され、各指標のトレンドを確認することができます。図表2各財務指標のトレンドの可視化図表2をみると、売上高は増加傾向にある一方で、営業利益率はやや下降トレンドにあることがわかります。また、営業利益率が2020年度から2022年度にかけて下降している一方で、同じ時期におけるROEは大きく上昇しているなど、いくつかの特徴が見えてきます。それでは、その他にこの情報からわかることはないのでしょうか。以下の指示を入力して、引き続きChatGPTに分析してもらいましょう。指示(スクリプト)このグラフからわかる財務上の問題を具体的に指摘してください。すると、多くの問題点の指摘が返ってきます。なお、ChatGPTから毎回同じ内容が出力されるとは限りません。図表3とは異なる結果が出力されることもありますが、概ね分析結果は一貫しているものと思います。図表3財務上の問題点の指摘この情報から、自社の財務に関するいくつかの検討事項が浮き彫りになってきました。売上原価や人件費の増加、研究開発費の不足、PBRの悪化など、重要な事項の指摘がなされています。ChatGPTの出力結果が必ずしも正しいとは限らないという点には最大限の注意を払う必要がありますが、財務上の問題点を改善するためのきっかけを与えてくれることは間違いありません。今回のリポートでは、PDCAサイクルのうち、計画の段階における生成AIを活用したデータ分析についてみてきました。生成AIはうまく活用することで、分析の手間やコストを大幅に削減することができるだけでなく、新たな気付きを与えてくれることもあります。次回以降も、財務・非材情報の分析における生成AIの様々な活用方法をご紹介していきたいと思います。<注釈>https://www.dropbox.com/scl/fi/e3bad1rpu6ie0rzkit8po/data202502.xlsx?rlkey=053fgw5ls8ryazqi9y22robka&dl=0ChatGPTによって作図をする場合、初期設定では日本語フォントの文字化けが発生してしまいます。そのため、図1では、作図の際に各指標を英語で表記していますが、日本語フォントデータをアップロードすることで、日本語表示をすることも可能です。図1の指示を行う前に、日本語フォントデータファイルを以下URLからダウンロードし、データを添付したうえで、「グラフ描画の際には日本語フォントを使用してください」という指示を行ってください。https://www.dropbox.com/scl/fi/v1dbluh8sgb4vl04pek9c/NotoSansJP-Black.ttf?rlkey=aqazot7kr7w1u8om7k6b0z672&dl=0提供:税経システム研究所
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