会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
806 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
-
2026/02/26 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(29)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。前回の記事で、購買活動の原価管理は企業のコスト競争力を高めるため重要であることを確認しました。今回は、原価管理において購買部門が果たす役割を考えます。製造業(特に、加工組立型産業)を例として、購入額が大きい材料や部品の購買活動を対象とした原価管理を考えてみましょう。購買活動は、長期間にわたり行われます。製品ライフサイクルのうち、開発段階では、試作用の部品や金型を購入します。次に、本格的な量産を行う製造段階では、材料や部品の購買を行います。その後、製品が廃棄されるまでのメンテナンスに使用する部品等を購入します。この他、新製品のQCD(Q品質、C原価、D納期)目標を達成するために、一定水準の品質を確保しつつ、低コストで購入できる材料や部品、取引先の情報等を開発チームのメンバーに提案する役割も担っています。以下では、企画・開発段階、製造・保守段階に分けて、それぞれにおける購買部門の役割を詳しく見ていきます。2.企画・開発段階における購買部門の役割製品原価の多くの部分が決まるのは、企画、設計などの製品開発の段階です。製品によっては、原価にかかわる要因(コストドライバー)のうち70%から80%程度が製品開発の段階で決まってしまうとも考えられています(谷2022,p.227)。購買活動に関しても、材料や部品の発注や購入代金の支払いは製造段階で行われますが、その基礎となる購入先、購入単価は企画・開発段階で決定します。このため、購買部門も、早い時期から開発プロジェクトに参加して管理を行うことが、企業のコスト競争力を高めるために重要です。購買部門は、一般的に、下記のような活動を行います(吉田・伊藤2021,pp.87-88)。①から④が製造に必要な図面の作成が終わる前(出図前)の準備としての活動であり、⑤から⑪が出図後の活動です。購買部門の活動計画を作成。購入する材料や部品を開発部門、生産部門と協力して決定。購入する材料や部品ごとの購入先目標価格を設定。購入先候補を選定。購入先候補に対して見積りを依頼。購入先候補から見積回答を入手。コスト構造分析を用いて改善策を検討。購入する材料や部品の品質安定、荷姿・梱包形態と物流方法を最適化する施策を検討。購入先を選定。注文書を作成・発行。トラブルなどによる設計変更の内容確認と購入先への対応依頼を実施。まず、出図前の活動を見てみましょう。設計図面が作成されるまでに、購買部門は、購入の候補となる材料や部品の情報を積極的に収集して発信します。具体的に、購買部門は、材料や部品の低価格情報、低コストでの購入が可能な購入先情報、製造原価を低減できる技術情報等を開発部門に提供しており、開発部門との話し合いを通じて新製品の目標となる原価や数量等が決定されます。購買部門が早期から開発プロジェクトに参加している企業では、これらの取り組み(開発購買と言います)を進めています。次に、設計図面が作成された後(出図後)の活動について確認しましょう。出図後、購買部門では、機能、品質に関して要求する水準を満たし、かつできるだけ低コストで材料や部品を購入することを目指して、購入先からの見積りの評価、コスト構造分析を用いた改善策の検討(注1)、購入先の決定を行い、製造段階へスムーズにつなげるように努めます。上記のような取り組みの中で企画・開発段階で購買部門に求められることは、技術・製品開発の視点から提案や情報の提供を行って、開発チームの他メンバーとともに、新製品のQCD目標を達成できるようにすることです。3.製造・保守段階における購買部門の役割製造・保守段階において購買部門が果たす役割には、原価改善、購入先の管理、納期の管理があります。それぞれの内容を確認していきましょう。(1)原価改善原価改善において、購買部門は、活動の計画を作成して、対象とする部品や購入先を決め、改善策を実施して、その効果を評価します。原価改善の進め方には、取引先との協力による改善、代替購買・内製化、集中購買があります。購買部門は、取引先と協力しながら、取引先の工程の改善、包装・梱包形態の見直し、物流方法の見直し等を行います。また、開発部門も巻き込むことで、取引先の設備や工程にあわせた設計変更も可能になります。代替購買・内製化について、特定の企業から購入している部品で改善が進まないものが出てきた時に備えて、購買部門は代替的な取引先を探し、できるだけ複数社に依頼できるようにしておくことも重要です。他方で、自社にとって重要な部品で、社内である程度の技術を保持したい、または技術の獲得を検討しているという場合には、内製化を検討することも有効です。取引先には、内製化の可能性を伝えることで、価格交渉を持ちかけることもできます。集中購買について、購買部門は、取引先の集約化を行い、特定の購入先からの購入量を増やすことで、量産による効果がはたらくようにします。ただし、集約化を行う前に、複数の取引先を継続して観察し、一時的なコスト低減ではなく、真のコスト競争力につながるかどうかをよく検証してから、集約先を決めることが重要です。(2)取引先の管理購買部門は、生産計画で示された材料や部品の必要量を、できるだけ安く、一定水準の品質や納期で購入できるように取引先を選定することが重要です。このために、購買部門は、取引先の評価を定期的に行います。取引先の評価では、自社が要求する品質や納期の遵守、適正な見積価格、経営状況、設備能力、技術・開発力、法令遵守や環境保全等のCSR活動の状況を評価します。取引先の評価は、今後の取引の方向性を決める重要な情報になり、評価の結果を取引先にフィードバックして改善を促すこともあります。また、取引先の開拓では、評価内容を先方に説明して、評価に基づく改善の要求を採用の条件として示すことで、取引先を自社が要求するレベルへと近づけていきます(注2)。安定した品質の材料や部品を低コストで確保するためにも、取引先とは継続的に取引できる関係を構築することが重要です。時には、取引先の要望も聴きながら、自社の購買レベルを上げていきます。(3)納期の管理安定した品質の材料や部品を適切な時期に準備するため、購買部門による納期の管理が必要です。直前の生産計画に基づいた手配を行っていては本来必要な数量を確保できない可能性が出てきますので、購買部門には早期の対処が求められます。例えば、供給量の不足が予想される部品は、優先的に管理を行い、必要な量を確保しておくことがあげられます。また、歩留りが悪い部品は、重点的に改善を行うことも必要です。さらに、近年深刻化する政治、経済、社会情勢の不安定さによって、材料や部品の供給が遅延、停止すると事業の継続が困難になる可能性があることから、企業として材料や部品を安定的に確保することも課題になっています。そのために、企業全体でBCP(事業継続計画)を作成して、平常時から対処するための方針や運用体制を準備しておくことが求められています。購買部門でも、緊急時に事業の継続と早期の復旧を進められるようにしておくことが重要です。4.おわりに2と3では、購買部門の役割を、企画・開発段階、製造・保守段階に分けて確認しました。各段階での購買活動が異なっており、自社の購買活動の方針を明確にして、それぞれの内容に応じた管理を進めることが重要です。参考文献大和ハウス工業株式会社.2025.『大和ハウスグループサステナビリティレポート2025』.谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>例えば、購買部門では、購入先特有のコストを発見して低減することや、他の購入先と比較することで課題を探して改善することが行われています。例えば、大和ハウス工業株式会社では、品質、経営、納期、安全、モラル、環境に関して取引先(協力会社)を毎年評価し、A、B、C、Dの4段階で格付けしています。格付けが低い取引先に対しては、改善のための計画書の提出を求めたり、改善の指示を出したりするとともに、改善の効果を事後的に確認しながら、必要に応じて面談を実施して、取引先へのフォローアップを行っています。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/02/19 財務会計
金融商品に関する会計基準(案)(1)
1.はじめに2025年10月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」(以下、「金融商品会計基準案」という)等を公表しました(コメントの提出期限は、2026年2月6日)。「金融商品会計基準案」は、日本の会計基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みの1つとして、「金融商品の減損」に関して、国際的な整合性を図る観点から予想信用損失モデルを導入することを目的として開発が進められたものです。その際には、金融商品の分類に関する現行基準の枠組みを維持した上で、予想信用損失モデルを取り入れるにあたり最小限の見直しを行い、検討が重ねられてきました。「金融商品会計基準案」の具体的な適用時期は示されていませんが、最終基準の公表から3年程度経過した後の4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することが提案されています。早期適用ができることも提案されています。「金融商品会計基準案」で大きな改正があったのは、「予想信用損失の算定」(現行基準における貸倒見積高の算定)です。そこで、本シリーズでは、現行基準から改正された点を中心に、中小企業に与えうる影響にも触れながら、「金融商品会計基準案」を解説します。今回は、「金融資産及び金融負債の貸借対照表価額等」について説明します。2.金融資産及び金融負債の貸借対照表価額等本節では、金融資産及び金融負債の貸借対照表価額等での「金融商品会計基準案」と現行基準を対比して解説します(改正部分に下線を付しています)。(1)債権「金融商品会計基準案」現行基準債権の貸借対照表価額は、原則として取得価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。現行基準での貸倒見積高という語句が、「金融商品会計基準案」では予想信用損失に置き換わっています。予想信用損失の詳細な説明は次回以降で行いますが、次のように説明されています。予想信用損失とは、信用損失を確率加重したものをいう。信用損失とは、企業に支払われるべきすべての契約上のキャッシュ・フローと、企業が受け取ると見込んでいるすべてのキャッシュ・フローとの差額(すなわち、すべてのキャッシュ・フローの不足額)を現在価値に割り引いたものをいう。「金融商品会計基準案」現行基準ただし、貸付金及び重要な金融要素を含む債権については、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。貸付金代替性私募債については、貸付金に含めて取り扱う。また、リースにより生じた債権の貸借対照表価額は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」に基づいて算定された価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする。ただし、債権を債権金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額としなければならない。現行基準では、取得価額と債権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときに償却原価が用いられます。「金融商品会計基準案」では、貸付金及び重要な金融要素を含む債権については必ず償却原価が用いられます(重要な金融要素を含まない債権については別規定があります)。また、「金融商品会計基準案」では、貸付金代替性私募債の取り扱いやリースにより生じた債権の貸借対照表価額の規定が新設されています。【貸付金代替性私募債の規定が中小企業に与えうる影響】貸付金代替性私募債は、貸付金の代替として銀行が引き受けて保有する私募債です。貸付金代替性私募債は、通常、市場で売却することは想定されておらず銀行と取引先との関係性から満期まで保有することを前提に債券を引き受けているので、その経済的な実質が貸付金とほぼ同一であるとされています。このため、貸付金と同様に予想信用損失モデルの適用範囲に含めるとともに、現行基準における有価証券とする取扱いを見直し、貸付金に含めて取り扱うこととされました。このように、銀行は、貸付金代替性私募債の予想信用損失を見積もって、貸倒引当金を設定することになります。銀行は貸倒引当金の増加を回避するために、貸付金代替性私募債の引き受けに慎重になる可能性があります。(2)満期保有目的の債券「金融商品会計基準案」現行基準満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(以下「満期保有目的の債券」という。)は、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額をもって貸借対照表価額とする。満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(以下「満期保有目的の債券」という。)は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない。現行基準では、満期保有目的の債券については、満期までの間の金利変動による価格変動リスクを認める必要がないことから、取得原価をもって貸借対照表価額とされていました(一定の場合には、償却原価)。「金融商品会計基準案」では、満期保有目的の債券の経済的な実質が貸付金と類似しているため、貸付金と同様に予想信用損失モデルの対象としました。そこで、満期保有目的の債券の貸借対照表価額は、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とされました(注1)。(3)金融保証契約「金融商品会計基準案」現行基準金融保証契約(注2)の発行者においては、金融保証契約は、以下のいずれか高い額をもって貸借対照表価額とする。①予想信用損失の金額②発生の認識時の価額から収益に認識された累計額を控除した金額新設現行基準では金融保証契約に関する取り扱いは定められておらず、「金融商品に関する実務指針」において債務保証契約についての定めが設けられていました。「金融商品会計基準案」では、金融保証契約が予想信用損失モデルの対象になることを明確化するために、金融保証契約の規定が定められました。第491回企業会計基準委員会の資料(注3)をもとに、金融保証契約の貸借対照表価額について説明します。【前提】保証期間:5年、保証額:100,000、保証料:0期に5年間分の10,000を徴求し(前受保証料10,000)、毎期2,000を収益として認識する。1期:信用リスクが当初認識以降に著しく増大していない。12か月の予想信用損失2,000を見積った。2期:信用リスクが当初認識以降に著しく増大した。全期間の予想信用損失15,000を見積った。1期2期①予想信用損失の金額2,00015,000②発生の認識時の価額から収益に認識された累計額を控除した金額8,000(10,000-2,000)6,000(10,000-2,000×2)③負債計上額(①と②の大きい方)8,00015,000(4)貸出コミットメント等「金融商品会計基準案」現行基準当座貸越契約及び貸出コミットメント(注4)並びにこれらに準ずる契約の発行者においては、貸出コミットメント等は、予想信用損失の金額をもって貸借対照表価額とする。新設現行基準では貸出コミットメント等に関する取り扱いは定められておらず、「金融商品に関する実務指針」において定めが設けられていました。「金融商品会計基準案」では、貸出コミットメント等が予想信用損失モデルの対象になることを明確化するために、規定が定められました。【貸出コミットメント等の規定が中小企業に与えうる影響】貸出コミットメント等が予想信用損失モデルの適用対象となったため、未使用枠についても信用リスクを想定した貸倒引当金の設定が必要になります。これにより、金融機関は引当金負担の増加や自己資本比率への影響を抑制するため、コミットメント枠の縮小や貸付実行条件の厳格化(保証人や担保要件の強化など)を図る可能性があります。<注釈>これに伴い、満期保有目的の債券は、時価が著しく下落した場合の規定から除外されました。金融保証契約とは、特定の債務者が金銭債務の当初又は変更後の条件に従って期日の到来時に所定の支払を行わないことにより契約保有者に発生する損失等を補償するために、当該保有者に対して所定の支払を行うことを契約発行者に要求する契約とされています(ただし、デリバティブに該当するものは除かれます)。簡単に言うと、主たる債務者が返済できなくなった場合に、保証人が代わりに支払う義務を負うことを約束する契約です。https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/20221121_09.pdf当座貸越契約及び貸出コミットメントは、金融機関等が顧客と合意した一定の限度まで現金を貸し付ける契約です。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/02/12 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(9)
1.生成AI活用の光と影第7回・第8回のリポートでは、生成AI(ChatGPT)を活用して、プログラミングを行わずに経営ダッシュボードを作成する方法や、予算実績差異分析を自動化する手法などをご紹介してきました。生成AIの進化によって、人間が自らコードを書かずとも、自然言語による指示だけでアプリケーションを構築することができる時代となったのです。しかし、こうした利便性の裏側には、看過できないリスクが潜んでいます。それは、重要な業務をAIに委ねることで、本来人間が持つべき専門知識や判断能力が失われていく、知識喪失(Knowledgeloss)やスキル減退(Skilldegradation)の問題です。この問題は、財務・非財務の分析に生成AIを活用する際にも同様に発生が懸念されます。今回は、学術的に議論されてきた知見を参照しつつ、管理会計実務における生成AI活用のリスクとその対峙方法について解説していきます。2.生成AIによる自動化がもたらす弊害読者の皆さんは、生成AIにどのような期待を抱いているでしょうか。作業や判断を自動化することで自身の業務を代行してくれることを期待される方もいれば、生成AIと対話をしながら、新たなアイディアを生み出す相棒になってほしいと考える方もいるでしょう。この点、学術的にも、生成AIに対する期待は、大きく2つに分類して議論されてきました。自動化(Automation)と拡張(Augmentation)の二つです。自動化とは、機械が人間のタスクを完全に代替することを指し、人間の介入や判断をプロセスから除外することによって、効率的かつ合理的な処理を実現する活用方法を意味します。これに対し拡張とは、人間と機械が密接に協力することを指し、機械の計算能力を、人間の直感や常識的な推論で補完しながら、タスクを遂行する活用方法を指します。従来の議論においては、定型業務には自動化が、非定型業務には拡張が適用されるのが良いとされてきました。つまり、タスクの性質に応じて、二者択一の方法を用いるものであると理解されてきたのです。しかし、AcademyofManagementReviewという経営学領域の有名なジャーナルに掲載された論文であるRaischandKrakowski(2021)は、この点に疑問を投げかけました。決まった処理・判断のルールのなかで永遠に自動化され続けるものばかりではなく、新たな問題が生じた場合には、人間が介入して新たなルールを作らなければならない。すなわち、短期的には自動化の目的で使われているAIも、いずれは拡張が必要となるため、中長期的にみると自動化と拡張は一体であり、拡張の過程において人間の介入は重要な役割を果たすという主張です。自動化と拡張は互いを補完し合う関係にありますが、組織が短期的な効率を求めて自動化に偏重しすぎると、人間がプロセスから切り離されるアウト・オブ・ザ・ループ(EndsleyandKiris1995)の問題が発生します。ひとたび人間が現場感覚や計算ロジックへの理解を失えば、AIが予期せぬ誤りを犯した際、それを検知・修正できなくなり、長期的には組織全体のパフォーマンスを低下させるというパラドックスに直面することになるのです。3.理解の錯覚と意思決定の罠AIへの過度な依存は物理的なスキル喪失にとどまらず、心理的な側面からも深刻なリスクをもたらします。なかでも注意すべきは、ParasuramanandManzey(2010)が指摘する慢心の問題です。生成AIが作成した視覚的に優れたダッシュボードや、論理構成の整った分析コメントを前にすると、人間は批判的な思考を停止し、状況を完全に把握した、という錯覚に陥りやすくなります。これは、AIの提示する情報を無批判に正しいと信じ込んでしまう自動化バイアス(Skitkaetal.2000)を誘発し、本来人間が気づくべきデータの異常値や、計算ロジックに潜む統計的バイアスを見逃す原因となります。管理会計情報の価値は、算出された数字そのものではなく、その数字が意味する文脈の解釈にあります。例えば、売上高の減少が一時的な市場要因によるものなのか、あるいはビジネスモデルの根幹に関わる構造的な変化によるものなのかを判断するには、現場の生きた情報や定性的な背景知識が不可欠です。人間がアウト・オブ・ザ・ループの状態に置かれ、AIの回答を鵜呑みにする存在となれば、こうした文脈の解釈が疎かになり、環境変化に直面した際に致命的な判断ミスを招く恐れがあります。4.ヒューマン・イン・ザ・ループの再定義と実践それでは、私たちは生成AIのリスクを抑えつつ、その恩恵を最大化するためにどう向き合うべきでしょうか。RaischandKrakowski(2021)は、人間がAIを監視するだけでなく、全体的な責任(Accountability)を持ちながら積極的にプロセスに関与し続ける、ヒューマン・イン・ザ・ループの重要性を説いています。管理会計の実務においては、具体的に以下のようなアプローチが有効と考えられます。第一に、プロセス理解の先行です。AIに分析を丸投げする前に、まずは人間が自ら仮説を立て、どのようなロジックで分析を行うべきかを思考するプロセスを維持する必要があります。特に実務の習得フェーズにある若手社員の育成局面においては、利便性のみを優先してAIを活用させるのではなく、まずは基礎的なデータの因果関係やビジネスのロジック構築を自力で行わせるステップを設けることが、長期的なスキル減退を防ぐ鍵となります。第二に、AIに対してなぜその結論に至ったのかという根拠を徹底して問うプロンプトの実行です。出力された回答を単に受け入れるのではなく、分析手法の選択理由や因果関係をAIに説明させ、その妥当性を人間が批判的に評価するプロセスを業務フローに組み込むことが重要です。生成AIは強力なツールですが、それを使いこなす人間の会計リテラシーや知識が低下してしまっては本末転倒です。AIによって高度なアウトプットが容易に得られる時代になったからこそ、人間はAIが出した答えを単に受け取る存在に甘んじるのではなく、その妥当性を批判的に評価し、意思決定に責任を持つという、人間にしかできない高度な判断能力を磨き続ける必要があるのです。参考文献Endsley,M.R.,andE.O.Kiris.1995.Theout-of-the-loopperformanceproblemandlevelofcontrolinautomation.HumanFactors37(2):381–394.Parasuraman,R.,andD.H.Manzey.2010.Complacencyandbiasinhumanuseofautomation:Anattentionalintegration.HumanFactors52:381–410.Raisch,S.,andS.Krakowski.2021.Artificialintelligenceandmanagement:Theautomation–augmentationparadox.AcademyofManagementReview46(1):192–210.Skitka,L.J.,K.Mosier,andM.D.Burdick.2000.Accountabilityandautomationbias.InternationalJournalofHuman-ComputerStudies52:701–717.提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/02/05 財務会計
公益法人制度の改正(11)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、改正会計基準のなかで、活動計算書、特にその表示を取り上げます。12.活動計算書(1)名称の変更「活動計算書」は改正前の会計基準では、「正味財産増減計算書」と呼ばれていた財務表に相当します。このことは、前回説明の貸借対照表において、「正味財産」という用語を廃して、「純資産」という用語を使用することと関連しています。この名称の変更は、2019年7月に日本公認会計士協会より公表された「非営利組織モデル会計基準」(最終改正は、2025年6月)で使用されている名称に合わせることを趣旨としています。そしてその名称の変更に伴い、法人の活動状況を明らかにするための財務表であるとされます(改正会計基準、par.33)が、それに包含される内容は、収益及び費用等の正味財産(=純資産)の変動原因であり、正味財産増減計算書と相違しません。むろん、その表示は含まれる項目に関わる会計処理の変更の影響を受けることにはなります。(2)活動計算書の表示区分等活動計算書の表示には、経常活動区分とその他活動区分を設けることとされています(改正会計基準、par.34(1))。経常活動区分では、経常的な活動から生じた収益及び費用が記載され、その他活動区分では、経常活動以外から生じる諸項目が記載され、それぞれの区分における差額(経常収益費用差額とその他収益費用差額)を合算して、法人税等の項目がある場合にはそれを調整して、当期収益費用差額を算定することになります(改正会計基準、pars.35-36)。したがって、収益と費用は、活動別により分類されることになります(改正会計基準、pars.35-47)。活動計算書における留意すべき改正点は、指定純資産変動の部と一般純資産変動の部の区分がなくなった点です。このことは、使途が特定された寄付金等を受け入れたとき、それを収益として計上することを意味しています。使途指定の寄付金は、指定された使途どおりに使用しない場合には、返金する可能性がありますが、改正会計基準では、受け入れた時点で収益認識することを求めています。改正前では、使途指定のある寄付金を受け取ったときは、原則として、収益として処理することなく、指定正味財産の増加として処理されていたものです。したがって、使途の指定の有無は、仕訳上では、その処理に影響を及ぼさないことになりました。またその内訳表で、公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計のそれぞれの情報を示すことも廃止されました。したがって、これらに関わる情報は、注記により対応がなされることとされています。上記表示方法に従った活動計算書のひな型を示すならば、次のとおりとなります(改正会計基準運用指針、par.90第2)。(3)表示に関する諸原則収益と費用について、総額表示を原則とし、両者を相殺することでその全部または一部を除去することを禁止すること(改正会計基準、par.34(2))とされており、いわゆる総額主義が採用されています。ただし、いかなる場合に相殺表示となるのかについては、具体的な規準なり要件なりが示されているわけではないので、個々の会計処理ごとに判断することになります。(4)活動計算書の注記上述のとおり、使途指定の寄付金を受け入れたときには、一括して収益認識することとなったため、指定純資産に関わる収益と一般純資産に関わる収益、さらには社団法人の場合の基金といった財源区分別の注記が求められています(改正会計基準、par.48)。そのため指定純資産に残高がある場合には、その内訳と増減額及び残高の注記が求められています(改正会計基準、par.50)。さらに公益目的事業での使用等、使途が指定されている場合の寄附や特定の資産の購入に充てることが指定されている補助金のような法令で定める指定寄附資金がある場合には、その受入年度別残高及び支出見込みについても注記が求められています(改正会計基準、par.51)。また公益目的事業会計、収益事業等会計に関わる内訳も注記が求められています(改正会計基準、par.49)。加えて、事業費、管理費の形態別科目による内訳についても注記が求められています(改正会計基準、par.52)。(5)純資産間の振替使途の指定の有無にかかわらず、寄付金等を受け入れたときに、収益計上しているため、指定純資産から一般純資産への振替は行う必要がなくなりました。ただし、「資源提供者から使途の制約を受けた資源である指定純資産について、やむを得ない事情により指定された使途に使用できなくなった場合には、指定純資産から一般純資産への振替を行う。」(改正会計基準、par.53)とされています。ただし、この振替額やその理由については、活動計算書にではなく、あくまで表示上の問題として、貸借対照表の注記とされています(改正会計基準、par.54)。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/01/22 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(28)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。これまで見てきたように、原価管理は、製造業を例にあげれば、製品の製造や提供にかかる原価を可視化して、無駄な部分を削減することを目的として行われます。他社との競争が激しくなる状況で、原価を低減することは企業の利益獲得にも大きな影響を与えています。特に、原材料や部品の購買活動にかかる原価は製造原価の多くの割合を占めており、その管理を効率的に行うことは企業にとっての課題になっています。以下では、購買活動における原価管理の意義を確認します。2.購買活動における原価管理の意義購買活動の中で不要な原価を削減することは、企業にとって無駄なコスト負担を減らすとともに、安定した利益の獲得にも役立ちます。主に以下のような観点から、購買活動の原価管理が重要です。第一に、購買活動の原価管理を通じて、企業はコスト競争力を高めることができます。仕入先との交渉時に価格や数量等の仕入条件を自社の実態に適した内容へと見直すことによって、無駄な購買原価の削減につながります。また、発注時の方法や配送を改善することで、物流コストを低減することも可能です。購買活動の原価低減を進めることで、価格を抑えつつ、製品を提供することができます。さらに、海外の仕入先との取引を行う際の為替変動、原材料価格の高騰等の外的要因によって原価が当初の予定を超えて増大する可能性が考えられます。企業としてこのようなリスクを予測し、購買活動の計画と実行において考慮することで、コスト変動に対する柔軟な対処が可能になります。第二に、購買活動の原価管理において、企業はコストに加えて、品質や納期の改善も並行して進めることができます。コストを低減することは企業の競争力を高めるために重要ではありますが、原価の削減にこだわるあまり、価格が安い原材料へと安易に変更してしまうと、製品の品質水準が低下したり、納品までの時間が予想以上にかかったりすることがあります。そうすると、顧客のニーズを満たすような製品を適切なタイミングで提供できなくなり、企業の収益性にも悪い影響が生じる可能性があります。原価管理では、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)のバランスに注意します(注1)。購買活動において、例えば、品質や納期を現状の水準に維持しながら、より低コストで調達できる仕入先が無いかを探ることが考えられます。第三に、購買活動の原価管理を通じて効率的な在庫の運用が可能になります。購買活動は在庫の運用とも深く関係しています。例えば、原材料を必要以上に仕入れることで余分な在庫を保有してしまうと、保管等の管理コストの増大、資金の滞留が起きる可能性があります。実際の生産活動に見合わないような無駄な仕入れが行われることを防ぎ、余剰在庫のリスクを低減することは、原価の低減だけでなく、資金の適正な運用にとっても重要です。また、在庫が不足する場合には、製造活動の遅延、さらには将来的な製品の欠品にもつながり、企業にとって本来実現できたはずの販売機会を失うことにもなります。この対策として、需要予測を徹底的に行って発注量を見直すことや、在庫水準を継続的にチェックすることが考えられます。これらの取り組みを通じて必要なタイミングで必要な量の仕入れができるようにすることで、企業として販売機会の逸失を避けることが重要です。3.おわりに2で見たように、購買活動の原価管理は、企業のコスト競争力を高めるため重要です。また、品質や納期とのバランスにも注意して無駄なコスト負担を低減することは、企業にとって利益獲得の機会を増やすことにもつながります。原価管理の取り組みの中には、需要予測の徹底とそれに基づいた在庫水準の適正化など、日々の活動から始められることもあります。次回の記事では、原価管理において購買部門が果たす役割を考えます。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>製品の機能と原価をバランスよく改善して、製品の価値を高めるための方策を探る手法としてVE(価値工学)があります。VEの考え方や実施手順については第9回の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/01/15 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(23)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と販売費分析という意味このシリーズの(19)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による製品品種別分析(その4)(1)貢献利益法の計算例による製品貢献利益増減の原因分析岡本[2000]は、貢献利益法によって製品貢献利益が増減する原因の分析方法を説明しています[pp.705-707]。以下、このシリーズの前回(22)で提示した数値例にもとづいて、製品貢献利益の増減分析について説明します。岡本[2000]では、①から⑨に示すように、売上高(①、②および③)・変動販売費(④および⑤)・変動売上原価(⑥および⑦)・個別固定費(⑧)の増減を分析にもとづいて製品貢献利益の増減を分析しています。この説明では、岡本[2000,pp.705-707]で解説している計算例に加えて、適宜、図表による説明を追加していますので、そちらでも増減分析のイメージをつかんでください。①市場における総需要量の減少による売上高の減少②市場占有率の増加による売上高の増加図表1総需要量と市場占有率の増減に起因する販売量の増減分析(①と②)③販売価格の増加による売上高の増加図表2販売量と販売価格の増減に起因する売上高の増減分析(①、②および③)④販売量の増加による変動販売費の増加⑤製品単位あたり変動販売費の増加による変動販売費の増加図表3販売量と製品単位あたり変動販売費の増減に起因する変動販売費の増減分析(④と⑤)⑥販売量の増加による変動売上原価の増加⑦製品単位あたり変動売上原価の増加による変動売上原価の増加図表4販売量と製品単位あたり変動売上原価の増減に起因する変動売上原価の増減分析(⑥と⑦)⑧個別固定費の増加⑨製品貢献利益増加額の計算岡本[2000]は、以上のように製品貢献利益の増減に関する分析方法を示しています。これらの計算例では、販売量の増減については、総需要量の増減と市場占有率の増減について分析していますが、総需要量が増減した原因や市場占有率が増減した原因については分析していません。この点については、マーケティング分野における分析が必要になります。また、販売価格・製品単位あたり変動販売費・製品単位あたり変動売上原価・個別固定費については、その増減による貢献利益の増減への影響は分析していますが、販売価格・製品単位あたり変動販売費・製品単位あたり変動売上原価・個別固定費そのものが増減した原因については分析できていません。この点については、必要に応じて費目別の増減の原因について検討する必要があるでしょう。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/12/25 財務会計
中小企業向け国際財務報告基準第3版(6) 完
1.はじめに本シリーズでは、2025年2月に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を説明しています。今回は、第34章「専門的活動」の一部である「農業(生物資産)」(IAS第41号「農業」に相当する)を解説します。日本基準には、農業(生物資産)を対象とする個別の規定は設けられていません(日本農業法人協会が「農業の会計に関する指針」を公表しています)。対象資産が棚卸資産に該当する場合には「棚卸資産の評価に関する会計基準」が適用され、有形固定資産に該当する場合には有形固定資産に関する諸規定が適用されます。「中小企業向けIFRS(第3版)」の解説は、今回が最後です。2.第34章「専門的活動」の農業活動第34章は、農業、採掘活動およびサービス委譲の3種類の専門的活動に関わる中小企業の財務報告についての指針を示していますが、ここでは農業活動に従事する企業(以下、単に企業という)の財務報告について説明します。生物資産(biologicalasset)は生きている動物または植物、農産物(agriculturalproduce)は企業の生物資産から収穫された成果物とされています。例えば、羊は生物資産、羊毛は農産物に該当します。生物資産または農産物は、次の場合にのみ、認識されます(34.3項)。過去の事象の結果として、企業が資産を支配している。その資産に関連する将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高い。かつその資産の公正価値または原価が、過大なコストや労力をかけずに信頼性をもって測定できる。企業は、生物資産の種類ごとに会計方針を決定する必要があります。公正価値が容易に算定できる生物資産については公正価値モデルを適用し、これ以外のすべての生物資産については原価モデルを適用します(34.2項)。(1)公正価値モデル①測定生物資産は、当初認識時および各報告日において、売却費用(財務費用や税金費用は含めない)控除後の公正価値で測定されます。売却費用控除後の公正価値の変動は、純損益として認識されます(34.4項)。生物資産から収穫された農産物は、収穫時点での売却費用控除後の公正価値で測定します(注1)(34.5項)。この公正価値が、収穫後のIAS第2号「棚卸資産」に基づく取得原価になります。公正価値を算定する際に活発な市場が存在する場合には、市場での相場価格が基礎になります。活発な市場が存在しない場合には、直近の市場価格、類似資産の市場価格を調整したものなどを用います(34.6項)。②開示公正価値で測定された生物資産については、各生物資産の説明、公正価値を決定する際に使用した技法や仮定、帳簿価額の変動調整表(売却費用控除後の公正価値の変動により発生した利得・損失、購入による増加額、収穫による減少額など)を開示します(34.7項)。(2)原価モデル①測定公正価値が容易に算定できない生物資産については原価モデルを適用し、減価償却累計額および減損損失累計額控除後の金額で測定します(34.8項)。また、生物資産から収穫された農産物は、収穫時点における見積売却費用控除後の公正価値で測定します(34.9項)。②開示原価モデルで測定した生物資産については、各生物資産の説明、信頼性をもって公正価値を測定できない理由、用いた減価償却の方法や耐用年数などを開示します(34.10項)参考として、IAS第41号(「中小企業向けIFRS(第3版)」ではなく)を適用したユキグニファクトリー株式会社(旧株式会社雪国まいたけ)の事例を紹介します。連結損益計算書(2024年4月1日から2025年3月31日)では、次のように表示されています(単位:百万円)。(注記)生物資産は、売却費用控除後の公正価値で測定し、その変動を純損益として認識しております。生物資産から収穫された農産物は、収穫時において公正価値から売却費用を控除した金額で棚卸資産に振り替えております。(生物資産の帳簿価額の調整表単位:百万円)この期末残高が連結貸借対照表に計上されています。3.おわりに約3年にわたり、「中小企業向けIFRS(第3版)」(2027年1月1日以降開始する事業年度から適用され、早期適用は可能)の解説を行ってきました。その結果、上場企業向けのIFRSと整合性を保つように作成された会計基準であること、日本の「中小企業の会計に関する基本要領」や「中小企業の会計に関する指針」よりも詳細な規定が設けられていることが明らかになりました。日本では、中小企業向けIFRSは制度として導入されていません。中小企業向けIFRSの採用には、財務数値の国際的な比較可能性の確保や国際取引における信用力の向上などのメリットがあるとされています。一方、中小企業向けIFRSと税務との乖離、導入コストなどの課題も指摘されています。日本で中小企業向けIFRSを普及させるためには、導入メリットの啓発、人材育成、システム対応もさることながら、任意適用できる制度を整えたり、税務との調整を簡単にしたりする必要もあります。今後の動向に注目していきたいと思います。<注釈>IAS第41号でも、生物資産および収穫時点の農産物は、売却費用控除後の公正価値で測定されます。ただし、生物資産のうち果実生成型植物(ブドウの木、ゴムの木、ヤシの木など)は、IAS第16号「有形固定資産」に従って会計処理します。また、収穫後の農産物は、原則として、IAS第2号「棚卸資産」に従って、原価または正味実現可能価額のいずれか低い方で測定します。「利得」と表示されていますが、売上原価の内訳項目ですので、実質的には費用(損失)です。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/12/18 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(8)
1.予算実績差異分析のダッシュボード化前回から、ChatGPTで経営ダッシュボードを簡単に作成する方法をご紹介してきました。ダッシュボードは、経営層や管理者がリアルタイムに業績を把握・分析し、迅速かつ適切な意思決定を行ううえで極めて有益な手段であり、すでに多くの企業で導入されるようになっています。前回は、全社および各事業の業績モニタリングを行うためのダッシュボードを作成しましたが、今回は予算実績差異分析のためのダッシュボードを作成してみたいと思います(図表1)。ダッシュボード作成のための事前準備については、前回のリポートをご参照ください。図表1予算実績差異分析のイメージ図2.予算実績差異分析ダッシュボードアプリケーションを作成する前回ご紹介させていただいた業績モニタリングのためのダッシュボードの作成と同様に、予算実績差異分析においても、ChatGPTにダッシュボードを動かすWebアプリを作成するためのプログラムを自動作成してもらうことができます。ダッシュボードの作成には、Webアプリ作成用のPythonライブラリであるStreamlit(ストリームリット)を使用します。Pythonのプログラム構造自体をご理解いただく必要は全くありませんが、Webアプリを動かすためにPythonを動かすことができるPC環境を整えておく必要があります。前回リポートをご参照いただき、Pythonの最新版をダウンロードしてください。まずはChatGPT(今回はChatGPT5を使用します)で、次(図表2)のように指示を与えて実行してみましょう。Streamlitを用いてWebアプリ上で動くダッシュボードを作成したい。今回は、ダッシュボードで予算実績差異分析を行えるようにしたい。予算値、予測値、実績値の差異が直感的に理解できるように、ウォーターフォール図を作成してほしい。予算実績差異は全製品、製品別、月別で表示できるようにしたい。予算実績差異の結果をもとに自動課題検出ができるようにしたい。図表2ChatGPTへの指示入力すると、ChatGPTが以下のようにPyhtonプログラムを作成してくれます(図表3)。これをコピーして、textファイルとして(Windowsの場合はメモ帳に)保存します(図表4)。保存の際、ファイル名を「app.py」としておきます(ファイル名の末尾に.pyをつけることで、Pythonファイルとして認識されます)。図表3作成されたPythonプログラム(一部)図表4メモ帳へのプログラム(一部)のコピー手順1:作成したプログラムファイル「app.py」を前回リポートで作成したDashboardフォルダのなかに保存する(図表5)。今回は、作成済みのプログラムと、分析用のサンプル―データを使用します。以下(注1)からダウンロードをしたうえで、ご自身のPCのDashboardフォルダに格納しています。図表5Dashboardフォルダへプログラムファイルの保存手順2:コマンドプロンプトを立ち上げる(図表6)Windowsの場合:Win+Rで「ファイル名を指定して実行」を開き、cmdと入力Macの場合:Command+Spaceで検索バーを表示し、「Terminal」または「ターミナル」と入力図表6コマンドプロンプト画面※網掛け部分は、ユーザーネームが表示されます。手順3:図表7のようにコマンドプロンプトに以下のコマンドを入力し、一つずつ実行しましょう(実行はEnterキー)。※プログラムの実行に必要なファイルがダウンロードされます。#必要なパッケージのダウンロードpipinstallstreamlitpandasnumpymatplotlibopenpyxl#Dashboardフォルダのパスを指定cd"C:\Users\t-met\Documents\Dashboard"#「app.py」プログラムの実行streamlitrunapp.py図表7コマンドプロンプト入力画面手順3を実行すると、Webブラウザが立ち上がり、図表8のような予算実績差異分析のダッシュボードが作成されます。手順1でダウンロードしていただいた、予算・実績データをWebアプリ左上の「データ読み込み」のところへアップロードすると、予算実績差異の分析結果、可視化情報、差異分析からわかる課題が表示されます。図表8作成されたダッシュボードサンプルデータでは、製品A~Dの2024年1月~12月のデータが格納されています。Webアプリ左下で分析を行いたい月や製品を選択すると、分析結果を確認することができます。試しに、2024年1月・A製品の分析結果を表示してみましょう。図表9分析結果(2024年1月のA製品の予算実績差異分析)また、差異分析の結果、どのような課題があるかについても、分析結果に応じて自動的に出力してくれます(図表10)。図表10差異分析の結果からの自動コメントダッシュボードを用いることで、これまで表計算ソフトベースで行っていた分析作業が自動化され、分析結果の検討・ディスカッションに多くの時間を割くことができるようになるのです。3.より高度な分析を実行できるプログラムに修正する分析を行う差異の種類、計算式の変更、表示方法(前期比較表示、色、グラフ形式)の修正を行いたい場合は、ChatGPTに「前期比較ができるようにしたい」「改善方法がわかる分析がしたい」のように指示をするだけで、図表3のようなプログラムを新たに出力してくれます。新たなプログラムを実行する場合も、手順1~手順3と同様ですので、この機会にいろいろと試してみましょう。<注釈>https://www.dropbox.com/scl/fo/w7xt7tzb23782ne5vuzxq/ANgTNSdDIUaEtEsiIan99Ms?rlkey=yier3ggezr10aue7gqnvc047o&dl=0Dropboxが開きます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/12/11 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(22)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と販売費分析という意味このシリーズの(17)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、まず、販売費及び一般管理費を、文字どおり販売費と一般管理費に分類し、さらに、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明していますが、一般管理費については勘定科目を例示しているものの、本文において説明はしていません。また、このシリーズの(19)で、岡本[2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による製品品種別分析(その3)(1)貢献利益法の計算例岡本[2000]は、このシリーズの前々回(20)で説明したように、貢献利益法について、直接原価計算にもとづき、各製品品種別売上高から変動製造費および変動販売費を差引いて「貢献利益」を計算し、「貢献利益」から品種別の個別固定費(製造費および販売費)を差引いて「製品貢献利益」を計算して、各品種の収益性を分析する方法であると説明しています[岡本,2000,p.703]。なお、岡本[2000]の貢献利益法の説明でいう「貢献利益」のことを、「限界利益」ということもあります。その場合、「限界利益」から個別固定費を引いて計算する利益を「貢献利益」といいます。以下は、岡本の説明にしたがった用語で説明しますので、売上高から変動費を引いて計算した利益を「貢献利益」といい、貢献利益から製品ごとの個別固定費を引いて計算した利益を「製品貢献利益」として説明します。岡本[2000]では、貢献利益法の計算例を[例題13-3]として示しています。[例題13-3]では、次の《資料》に示す数値例にもとづいて、製品貢献利益および個別資本製品貢献利益率の増減を分析する問題として説明されています。この様式(フォーマット)では、同一製品について、20x1年と20x2年の2年間にわたるデータを比較しながら分析しています。この手法は、経営分析の手法でいえば、実数分析の増減法であると理解できます。なお、今回の計算例では、岡本[2000]の示す資料の表記を一部修正し、また、数値を変更していますが、計算書の様式は同じ形式で示しています。《資料》の冒頭では、数量関係の情報として、期首製品在庫量、年間生産量、年間販売量、期末製品在庫量の数値例を示しています。また、(年間の)平均単価も設定しています。損益計算書の様式の部分では、これらのデータにもとづいて、売上高、売上原価などを記載しています。損益計算の流れとしては、売上高から変動売上原価を差引いて変動製造マージンを計算し、変動製造マージンから変動販売費を差引いて貢献利益(=売上高-変動費)を計算しています。個別固定費については、これを製造固定費と販売固定費とに分けて示していますが、その合計を貢献利益から差引いて製品貢献利益を計算しています。最後に、製品貢献利益を製品ごとの個別投下資本で除して、個別投下資本貢献利益率を計算しています。《資料》岡本[2000]は、《資料》にもとづいた計算の解答例として、製品貢献利益および個別投下資本製品貢献利益率の増減を次のような形式で示しています[p.705]。[解答例]この解答例において、当該製品は、製品貢献利益が560,000円増加し、また、製品個別投下資本製品貢献利益率が15ポイント上昇していることから、収益性が向上しているという結論になります。岡本[2000]では、この計算結果に続いて、収益性が向上(または悪化)した原因について、細かく分析しています[pp.705-709]。この分析方法については、次回以降で説明します。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2025/12/04 財務会計
公益法人制度の改正(10)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、昨年2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、改正会計基準のなかで、貸借対照表、特にその表示を取り上げます。11.貸借対照表(1)貸借対照表の表示区分等貸借対照表の表示は、次の区分により行われることが求められています(改正会計基準、pars.18-24)。ここでは、報告書形式で示しており、かつ各貸借対照表項目は省略しています。上記からも、この度の改正で、「正味財産」という用語を廃して、「純資産」という用語を使用することにしたことが分かります。この変更は、単に企業会計で使用されている用語をそのまま用いたいという趣旨と思われます。また固定資産の区分表示について、「基本財産」、「特定資産」といった表示がなされなくなっています。単に有形固定資産と無形固定資産、その他固定資産という区分表示を求めていることは、企業会計の区分表示と同様にしていることになります。(2)表示に関する諸原則この度の改正で上記より明らかなように、貸借対照表の配列方法については、原則として流動性配列法によること(改正会計基準、par.19(2))が求められています。資産と負債については流動性の高いものから順次配列する方法です。この方法は、一般に短期的支払能力を重視する方法であると説明されます。流動と固定とに分類する基準は、通常の事業活動により発生する資産と負債は、不良債権等の異常なものを除いて、流動資産または流動負債に含め、それ以外については、一年基準が適用されることになります(改正会計基準、pars.25-29)。これは企業会計における分類基準と同様です。また貸借対照表の表示については、「資産、負債及び純資産は、総額によって記載することを原則とし、資産の項目と負債又は純資産の項目とを相殺することによって、その全部又は一部を貸借対照表から除去してはならない。」(改正会計基準、par.18(3))とされており、原則として総額主義が採られることが規定されています。改正会計基準では、いかなる要件を満たしたときに総額表示となるのか、あるいは相殺表示となるのかについての言及はありませんが、企業会計と同様の考え方に依るならば、直接的に相殺関係にないものはそれぞれ総額で表示し、直接的に相殺関係にあるものは相殺後の純額で表示することを求めることになると思われます。たとえば、A社に対する売掛金とB社に対する買掛金は相殺されることなく総額表示されていますが、退職給付債務と年金資産は相殺して純額表示されています。(3)貸借対照表の注記「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、公益認定法)により、「公益目的事業に係る経理」、「収益事業等に係る経理」及び「法人の運営に係る経理」(収益事業等を行わない公益法人は、それを除く。)をそれぞれ区分して整理することが求められています(公益認定法第19条第1項)。改正会計基準では、貸借対照表内訳表を作成するのではなく、この会計区分に係る内訳を注記することを求めています(改正会計基準、par.30)。また「資産及び負債の状況を、科目ごとに表示し、名称、使用目的の他、基本財産、公益目的保有財産等の目的区分を注記する。」(改正会計基準、par.31)ことを求めています。このことにより、貸借対照表本体で、基本財産や特定資産を表記することを廃止して、その情報は注記により提供することになります。さらに「使途拘束資産(控除対象財産)の内訳と増減額及び残高を注記する。」(改正会計基準、par.32)ことが求められています。ここにいう使途拘束資産とは、「法人の機関決定により使途の制約を課した資産(資源提供者により使途の制約を課されて提供された資産を含む。)」(改正会計基準、par.32)とされており、控除対象財産とは、公益目的事業財産等といった実際に使われている、あるいはその目的や用途が具体的に定められている財産であって、遊休財産額の計算上控除されるものを指します。(4)貸借対照表の表示に関する改正について以上から明らかなように、貸借対照表本体は、企業会計上の貸借対照表に合わせるように表示することが求められるようになりました。ただし、注記において公益法人の特質を反映する特別な項目等については、記載することとされています。提供:税経システム研究所
続きを読む
806 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示




