実務情報
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2026/01/05 審査事例
納税者「誤操作が生じてしまうe-Taxにはシステム上の問題があるといわざるを得ない」。無申告は、誤認識という主観的な事情によるもので、無申告加算税は適法である(棄却)
【裁決のポイント】情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第6条《電子情報処理組織による申請等》第3項は、同条第1項の電子情報処理組織を使用する方法により行われた申請等は、当該申請等を受ける行政機関等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(受付ファイル)への記録がされた時に当該行政機関等に到達したものとみなすと規定している。この規定から、納税者が、e-Taxシステムを利用して送信した申告等データは、受付ファイルへの記録がされた時に提出があったものとみなされ、e-Taxシステムは、申告等データが正常に受信された場合にはその受信後に受信通知を利用者のメッセージボックスに格納する。審査請求人は令和5年3月1日に国税庁HPからe-Taxを利用し、令和4年分所得税確定申告の申告データと財産債務調書等データ(調書データ)の両方を送信するつもりであったが、調書データのみ送信した。翌日に納付書で所得税を納付した。6月29日になって自ら気が付き、申告データを送信したところ、無申告加算税を課されたため、間違いやすいシステムに問題があるから、無申告加算税が課されない正当な理由があると主張した。国税不服審判所は、無申告は、申告データも送信されたと誤って認識した審査請求人自身の主観的な事情によるものであり、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとはいえないと判断した事例である。(令和4年分の所得税及び復興特別所得税に係る無申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和6年10月15日裁決)【主な争点】期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか。【裁決の要旨】国税通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。審査請求人のメッセージボックスには、審査請求人が令和5年3月1日に送信した調書データ及び同年6月29日に送信した申告データに係る受信通知は格納されていた。そうすると、審査請求人が、令和4年分の所得税等に係る確定申告の法定申告期限までに、令和4年分確定申告書を提出したとは認められない。e-Taxシステムにおいては、利用者が財産債務調書のみを提出する場合も想定し、「送信内容選択」画面において、「財産債務調書を送信する」という項目が用意されていることからすれば、審査請求人が操作を誤って「財産債務調書を送信する」を選択して送信したからといって、そのことをもってe-Taxシステムに、システム上の問題があるとはいえない。結局のところ、審査請求人が期限内申告書を提出しなかったのは、調書データの即時通知を見て、申告データも送信されたと誤って認識したという審査請求人自身の主観的な事情によるものにほかならないというべきであり、「正当な理由」があるとは認められない。【参照条文】国税通則法第66条《無申告加算税》情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第6条《電子情報処理組織による申請等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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関連項目 審査事例 -
2025/12/26 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(217)
1.はじめにスマートフォンのアプリなどを通じ、単発・短時間の就労希望者を募集することができる「スポットワーク」(「スキマバイト」とも呼ばれる)は最近利用が急増しています。企業側は、繁忙期や急に人手が欲しいときに迅速に募集ができますし、労働者側は、自身の都合に合わせて空いた時間に働く、副業として活用する、など、労使双方にメリットがある新たなワークスタイルとして存在感を高めています。その一方で、アプリの登録者や利用者の増加に伴い、賃金未払いや求人内容の相違など労使間でのトラブルも散見されています。このような状況を受けて厚生労働省は、利用企業(雇用主)向けに、労務管理のポイントをまとめたリーフレットを発出しました(注1)。企業としては必要な労働力が手軽に確保できる手段だけに、今後も利用が増えていくことは間違いありません。そのような流れの中で、外してはいけない労務管理上の注意点について考えてみたいと思います。2.スポットワーク(スキマバイト)の現状ここ数年で急速に認知度を高めたスポットワークの現状はどのようなものなのでしょうか。本年1月に発表された「スキマバイト/スポットワークに関する定量調査」(注2)によると、全国15歳から69歳の6.5%が過去3年以内にスキマバイトを行った経験があり、そのうち約8割が直近1年以内に経験しており、この結果を元に、全国のスキマバイト人口を簡易推計すると452万人であったとしています。スキマバイトで多い仕事内容は「軽作業系職種」(16.4%)、「接客・サービス系職種」(14.9%)「配送・物流・運輸職」(9.4%)となっており、昨今、人手不足が著しいとされている職種で積極的に利用されている結果となっています。また、雇用側の調査結果としては、長期雇用のアルバイトのマネジメントを経験した管理者層のうち、スキマバイト人材を現在管理しているのは21.3%、管理経験ありが40.7%となっています。この中で、管理者層の63.0%がスキマバイトを「今後も活用したい」と回答しており、管理者もスキマバイト人材を現場の戦力として一定の期待を抱いていると考えられます。その反面、「仕事を教えるのが大変」「人物像やスキルが事前にわかりにくい」「スケジュールやシフト調整が難しい」といった課題も挙げられており、気軽に応募してくる人材に対する管理の難しさも浮き彫りにされています。スポットワークは、アプリ上で雇用契約を締結するなど、従来の雇用手続きとは異なる点が多く、これが労使間で様々なトラブルが発生する一因になっているように思えます。では、使用者側としてどのような点に注意すべきなのでしょうか。3.労務管理上「単発だから…」は通用しない■労働契約の締結は?スポットワーカー(以下「SW」)を募集する際は、仲介事業者が提供するアプリ上で、求人と応募がマッチングされることが大半です。仲介事業者のアプリを利用したとしても、労働契約は使用者とSWが直接締結することになり、仲介事業者はあくまでもマッチングの場を提供しているにすぎません。そして、面接を行うことなく、先着順でマッチングが行われる求人の場合、「原則としてSWから応募があった時点で労働契約が成立するものと考えられる」とされています。したがって、使用者は応募を受けた時点で労働法他法令上の義務が発生するものと認識すべきです。例えば、労働条件通知書もこの時点で交付する必要があります。労働条件通知書は、仲介業者が交付を代行してくれることもありますが、法令上、交付は使用者の義務ですので、代行交付の場合でも、確実に交付されているのか、内容は適切かなどを確認しておくべきでしょう。労働契約成立後に事情が変わって、直前に使用者から労働をキャンセルしなければならないこともあるかもしれません。このような場合、あまりに直前に労働をキャンセルすることは、労働者保護の観点から不適切とされており、使用者からのキャンセル期限の設定については、SWが別の就労機会を見つける時間的余裕に配慮したものとするよう求められています。労働のキャンセルではなく、労働日や労働時間を変更しなければならない場合は労働条件の変更に該当しますので、使用者とSW双方の合意が必要となります。■職場都合の休業や早上がりの取扱は?例えば「天候不良で業務を中止した」「業務が早く終わった」「来客が予想より少なく、人員を調整するため早上がりさせた」など、職場の都合で当初の予定よりも就労時間を短くすることもあるでしょう。このような場合、当初予定より就労を短縮した部分は「会社都合の休業」として、休業手当(労働基準法第26条)を支払う必要があります。「半日しか働いてないから賃金も半分」のような取扱はNGです。■労働時間の通算ほか労働時間の取扱は?スポットワークの性質上、同じ日に複数の企業で仕事をしたり、昼間は正社員で働き、勤務終了後に別の勤務先で副業としてSWをするケースも珍しくありません。このように複数の事業場で労働する場合、労働時間は通算すると定められています(労働基準法第38条)。通算した結果、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合は、時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません。未払い賃金を発生させないよう、使用者はSWから聞き取りするなどにより、兼業や副業の有無とその労働時間と自社の労働時間と足し合わせて正しい労働時間を把握しなければなりません。また、予定した始業時刻前や終業時刻後に、制服への着替えや掃除などの後片付けを命じた場合、その時間も労働時間として取り扱うことになります。■業務中や通勤途中にケガをした場合の取扱は?SWが業務中や通勤途中でケガをした場合、労働災害として、使用者の労災保険からSWは労災保険給付を受けることができます。「SWだから労災保険はないよ」はNGです。SWの労災防止のため、労働安全衛生法に基づく雇い入れ時教育も確実に実施しましょう。■突発的な欠勤や無断退職への対応は?せっかくSWに仕事をお願いすることが決まっても、当日になって現場に現れないことや、業務中に誰に告げるでもなく姿を消してしまう…といった問題のあるSWも存在します。使用者としては、当然ながらアテにして仕事をお願いしているわけですから、急な予定人員不足に対処しなければならなくなりますし、「通勤途中に事故にでも遭ったのか?」「事業所内のどこかで倒れていないか?」など大いに心配してしまうところです。SWのモラル的な問題はあるにせよ、十分に想定できる事態ですので、例えば、急に出勤できなくなった場合に、SWから使用者側への連絡方法を明確にしておくことや、SW側から業務予定時間途中で仕事を打ち切る場合の対処方法などは、事前に整備しておくようにしましょう。単発・短時間の仕事をお願いできるスポットワークは、労使ともにお気軽な気持ちでサービスを利用してしまうのかもしれませんが、労務管理の上では、何ら特別扱いされるものではなく、法令上は他の労働者(正社員や長期のパート・アルバイトなど)同様に扱うことが求められます。この点をおろそかにしてしまうとSWとのトラブルにつながってしまいます。今般発出されたリーフレットの内容も参考に正しい労務管理を行うことが重要です。<注釈>厚生労働省「『スポットワーク』を利用する事業主の皆さまへ『知らない』では済まされない『スポットワーク』の労務管理」https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/001512368.pdf株式会社パーソル総合研究所「スキマバイト/スポットワークに関する定量調査」https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/spot-work.pdf提供:税経システム研究所
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関連項目 経営レポート,人事労務管理 -
2025/12/26 経営レポート
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第22回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>当社は金属素材の商社で、一部の材料については流通加工も行っている中小企業です。原材料の価格上昇や人件費の上昇に困っていましたが、顧客への価格改定依頼の努力を行い、黒字を維持することができています。一方、仕入れを行っている鉄鋼業やお客様企業では、近年、カーボンニュートラル対応に力を入れているようです。当社として、どのようにこの問題を考えたらよいでしょう。■世界の潮流はどうなっているのか近年、カーボンニュートラルという語句を耳にする機会が増してきたように感じます。これは、ご存じの通り「二酸化炭素排出を実質ゼロにする」ということを意味しています。ゼロにする方法論には、森林吸収やCCUS(CarbonCapture,UtilizationandStorage)の技術開発によるもの等が挙げられています。現在、わが国で最も二酸化炭素を排出しているのは各大手鉄鋼メーカーとみなされています。つまり御社の取引先ですから、この問題に敏感な業界にいらっしゃることになります。御社の顧客である機械金属系製造業も大企業ほど、この問題に敏感です。考え方を整理しておくべき状況にあることは間違いありません。カーボンニュートラルについては、地球温暖化に二酸化炭素が影響しているという科学者達の意見から各国の検討がスタートしています。地球温暖化を抑制するにはどうすべきかが各国で話し合われ、1990年代に京都議定書が打ち出され、パリ協定が締結されています。基本的に、欧州諸国が先行して動いていますが、日本も京都議定書作成に関与していますので、この流れに沿った動きをしていており、「2050年カーボンニュートラル達成」を目指しています。一方、アメリカの第二次トランプ政権は、パリ協定離脱を表明し、民主党バイデン政権下で定めた2030年までの二酸化炭素削減目標を撤回したいとの意向も示しています。その意味では、カーボンニュートラルを目指す政策は、政治的な思想とも関係があり、今後の世界の政治状況により修正されていく可能性も残されています。長らくドイツのリーダーであったメルケル氏は旧東ドイツ出身であり、EUのもう一つの大国フランスは20世紀初頭から社会民主主義的政策を続けてきました。トランプ氏のような現実主義と相反する理念を重視する傾向がEUに強かった時期に、この政策は生まれたのです。現実主義とリベラルな価値観が対立する中で、一度決まった流れを修正することはEU各国も難しい状況です。温室効果ガスと地球温暖化の関係に否定的な意見を述べる科学者もいるなど、カーボンニュートラル政策には批判もあります。電気自動車や太陽光パネル等の自然再生エネルギーを普及させる政策についても、本当に二酸化炭素を部品や機器の製造段階から計算すると削減できるのかという疑義が提示されるようになってきました。理念と現実の間で、今後も国際的な政策が徐々に修正されていくことはあるでしょう。しかし、わが国は国際公約をしており、すでに膨大な利権が生まれつつあります。財界団体の幹部企業群の中期経営計画を見ても、カーボンニュートラルを取り入れている事例が多数を占めています。この動きにブレーキをかけることには、大いなる政治的エネルギーが必要となります。そのため、国としての政策の方向性は維持したうえで、技術開発等の具体論においては新しい考えを取り入れるという修正が加わるのが今後の流れとなるのではないでしょうか。図1に環境省がとりまとめた2050年にカーボンニュートラルを実現するためのロードマップが示されています。国と経済団体は、力を合わせてこの計画を達成しようと努力しているのが現状です。図12050年ネット・ゼロに向けた進捗(環境省)欧州主導でカーボンニュートラルは進み、日本はその動きに追随しているのが実情と言えるでしょう。課題は、図2に示されている通り、排出国の上位に1位中国、2位アメリカが並んでおり、成長を続けるインドが4位となっているということです。アメリカはパリ協定から離脱し、中国やインドは成長途上なので「将来は頑張る」というスタンスをとってきたことです。すでに省エネ化等が進むEUや日本の削減成果は、地球規模で考えると限定的です。図22022年、世界のエネルギー起源CO2排出量(環境省)■日本市場の動向GX推進法が制定され、政府による20兆円の先行投資と合わせて、官民で総額150兆円超のGX投資を実現し、経済成長につなげることが予定されています。さらに、2026年にはカーボンプライシングの仕組みが本格的に動き出します。10万トン以上の二酸化炭素排出を行う企業に、排出量に見合った排出枠の償却を義務付けるのです。ここで言う償却義務とは、年度に排出した温室効果ガス量を報告し、与えられている排出枠の償却(返納)をすることです。報告された排出量と同量の排出枠を、制度運営機関に対して償却(返納)する制度ですので、保有枠が不足している場合、市場で排出枠を購入するか、追加割当の申請を行うのです。大企業から義務化され、徐々に義務化する範囲を拡大していくことになるのでしょう。カーポンプライシングについては、EUが先行しています。EUのETS(排出量取引制度:EmissionTradingScheme)は2005年に導入され、世界最大規模の市場となっています。炭素国境調整メカニズムも2026年から導入され、鉄鋼、セメント、肥料の、EU域外からの輸入品に炭素価格を課します。EUのETSは2022年に世界全体のカーボンプライシング収入の76%以上を占めています。アメリカでは、カリフォルニア州や東部など、州単位でのETSが構築されており、VCM(VoluntaryCarbonMarket)では、企業主導の取引がなされています。テスラはVCMではなく、州単位の規制市場で2024年に約17.9億ドルの収入を得ています。このカーボンプライシングがテスラの企業価値を高めてきました。日本の場合、2026年からGX-ETSが始動します。日本証券取引所Gが2023年から自主的取り組みを進めてきましたが、ここまで累計1000トン強×2-3千円の取引高であり、テスラの収入と比べると小さい市場です。いずれにせよ、経済成長とカーボンニュートラルを両方とも狙うという政策と巨額投資が動き出しているため、この分野のビジネスチャンスは拡大していきます。■中小企業がいかに対処すべきかここまで、カーボンニュートラルにかかわる国内外の流れについて述べてきました。問題は、御社のような中小企業が、どのように対処すべきかです。表1御社の戦略体系1.取引先の要望に応える2.社内を改革する3.環境認証を取得する4.新事業の機会を発見する御社のカーボンニュートラルに関する戦略体系は表1の通りにまとめられます。中小企業である御社の場合、利害関係者である顧客企業、顧客公的機関等から二酸化炭素の排出量、削減努力の開示を求められることがあります。調達先である鉄鋼メーカーのサプライチェーンマネジメントの一環として二酸化炭素排出量削減を目指す場合が今後増えていきます。また、EU等の規制の厳しい市場に挑む顧客企業にとっては、市場から排除されるリスクを低減させていくこととなり、そこに協力する努力も必要となる場合があります。顧客の大企業との間に中堅クラスの企業が挟まっている場合は、当面厳しい要求がないかもしれません。しかし、それでもいずれサプライチェーンを広範にカバーする方向に規制が厳格化される可能性があると思っておいたほうが良いでしょう。またGXにおいて各種省エネ機器を導入し、その際にDX投資も行い、社内のビジネスプロセスの改革を行うという方法もあります。中小企業のためのGX/DXの支援制度はGX推進法等の理念に基づき年々充実しています。産学官連携を通じてGXの技術開発を行うことも有望な手法の一つです。環境認証を取得し、市場の信頼を得ることも重要な方法です。筆者が会長を務める一般社団法人首都圏産業活性化協会は、産業クラスター推進組織ですが、2022年にカーボンニュートラル研究会を発足し、会員中小企業の支援をはじめました。2023年にはプロジェクトリーダーを決め、相談窓口を設けました。そして2025年よりSBT認定取得支援スタートし、現在、6社取得しています。2026年に認定取得企業を会員の5%にするべく活動を行っています。SBT(ScienceBasedTargets)とは、SBTi(ScienceBasedTargetsinitiative)という団体が運営する国際的な認証制度です。Scope1(自社の直接排出)+Scope2(購入したエネルギーによる間接排出)+Scope3(それ以外のサプライチェーン全体で発生する間接排出)が、サプライチェーン全体の二酸化炭素等の温室効果ガス排出量となります。中小企業版SBT(SBTforSMEs)は、Scope3についての削減目標が任意となっていますので、管理の難易度がやや低下します。ただし、中小企業版SBTは、2024年から従業員250人未満の企業に限定し、財務諸表の提出を必須とするなど厳格化が進む方向です。サプライチェーンに大企業が入っている場合はこの認証を得るか、それと同等の管理水準を求められる場合も出てくるでしょう。これまでは、ISO1400シリーズの認証の簡略版として、エコアクション21の取得に挑む中小企業も見られましたが、御社のようにサプライチェーンに二酸化炭素の大口排出産業が含まれている場合、SBTについて調べて準備していく必要があるでしょう。■新事業機会の発見表1の4.新事業機会の発見も重要です。これまでは3R(Reduce/Reuse/Recycle)についての環境技術に挑む中小ベンチャー企業が多数活躍してきました。カーボンニュートラル分野のCCUSとこれら環境技術は関連を持っています。一方、これまで例えばリサイクルの成果を販売しようとすると「商品力」が不十分で、販売に苦労する場合も多かったのです。カーボンニュートラルに関する事業機会は、従来型の3Rの環境技術を含むものの、国策や世界的な認証がかかわっているので、規制をクリアするための技術や商品のニーズがある点が異なっています。脱炭素関連商品としては、省エネ機器類にとどまらず、二酸化炭素削減量をシミュレーションするツール、それを用いたコンサルティングサービスも含まれます。実は巨額の脱炭素収益を計上しているテスラですら、本当にクレジットの算定が正しいのかという疑念を呈されているそうです。カーボンプライシングの仕組みにおいては、カーボンクレジットの算定に信頼を置けるかどうかが問われます。企業の決算の際には公認会計士の会計監査が必要となりますが、高度に管理会計的である二酸化炭素削減量の算定は、厳密にやるなら4大監査法人と同様のプラットフォームがインフラとして必要となります。そこまでコストをかけ厳格に算定する必要があるかという意見もあるでしょうが、証券取引所でクレジットを取引するということは、一定の監査コストが求められるということになります。例えば、管理の整っていない新興国で製造された電池が、製造する際に膨大な二酸化炭素を放出している場合、それを正確に捕捉せずにその電池を購入したEVメーカーに利益を与えるようなことが許容されるかです。簡単かつ高信頼性な二酸化炭素削減量測定の機器やシステムにはニーズがあります。簡易的なツールとして、日本商工会議所などが提供する「CO₂チェックシート」がありますので、自社の排出量を一度簡易計算されてはいかがでしょう。このように、従来型の環境ビジネスに加えて、二酸化炭素削減技術、関連する測定技術、ICT技術等にビジネスチャンスがあると言えるでしょう。SBTにおいては長期目標と短期目標を設定しますので、この領域に合致したプロジェクト管理のシステムやツールにもニーズがあります。GX推進法は、温室効果ガス削減と経済成長の両立を目指した政策です。その法律の趣旨に則り、規制される企業にメリットある提案をすることが事業機会の発見につながるでしょう。提供:税経システム研究所
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関連項目 経営レポート,企業経営 -
2025/12/26 経営レポート
退職に関わるトラブル回避(第13回) 雇止め法理1
【サマリー】前回は、内定取消に関する主要判例を通じて、内定段階でも労働契約が成立し、取消には正当な理由と手続が必要であることを確認しました。今回は、有期労働契約の「雇止め」をテーマに、労働契約法19条の趣旨と判例法理を解説します。契約更新が繰り返され実質的に無期雇用と同視できる場合には、解雇と同様の合理性と社会的相当性が求められます。さらに、実務に大きな影響を与えた2つの重要判例を紹介し、企業が雇止めを行う際の判断基準と留意点を整理します。1.「雇止め法理」の確立従来、日本の労働法制においては、正社員など期間の定めのない労働契約については「解雇権濫用法理」(労働契約法16条)が適用され、使用者による解雇には合理的理由と社会的相当性が求められてきました。しかし、有期労働契約については、契約期間が満了すれば当然に雇用関係が終了するとの形式的理解が一般的であり、更新拒否(雇止め)は一見自由であると思われています。ところが、実際の雇用現場では、有期契約が形式的に繰り返し更新され、結果的に長期的な雇用関係が継続するケースが多数存在します。こうした場合に契約満了を理由に一方的に契約を打ち切ることは、実質的には「解雇」と同じ効果をもたらします。この点については1970年代以降、判例を通じて「雇止めに一定の合理性や相当性が求められる」という法理が確立されました。そして、こうした裁判例の積み重ねを条文化したものが労働契約法19条です。同条は、いわゆる「雇止め法理」を明確に法律として位置づけたものであり、現在の雇用実務において極めて重要な役割を果たしています。2.労働契約法19条労働契約法19条は、使用者が有期労働契約の期間満了を理由として労働者を雇止めしようとする場合に、次のいずれかに該当する場合には、その雇止めが無効となる可能性があると定めています。第1に、過去に契約が反復更新されており、実質的に期間の定めのない労働契約とみなされる場合です。第2に、労働者が当該契約が更新されるものと期待することについて合理的理由がある場合です。これらのいずれかに該当する場合に、使用者が契約期間の満了を理由に更新を拒否する場合、もしその雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」と判断されれば、当該雇止めは権利の濫用として無効とされます。つまり、この規定は、従来「解雇」に適用されていた合理性・相当性の原則を、有期契約の「雇止め」にも準用する趣旨を明文化したものです。形式的には期間満了で契約終了とされていても、実態として継続的な雇用関係が存在する場合には、無期契約と同様の保護が及ぶことになります。(有期労働契約の更新等)第十九条有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。一当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。二当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。3.雇止め法理の概要労働契約法19条の背景には、複数の最高裁判例で確立された法理があります。これらの判例は、有期契約であっても更新の実態や雇用継続への期待がある場合には、雇止めに一定の制約を課すべきであるとする方向で積み重ねられてきました。雇止めについて争われた実際の判例を見ると、有期雇用契約を4つのタイプに分けることができ、各タイプに雇止めの可否について一定の傾向が見られます。(図表1参照)今回は、数ある判例の中から、「雇止め法理」の基本的な考え方を確立させた2つの判例を基に解説させていただきます。まず、「東芝柳町工場事件最高裁昭49.7.22判決」(詳細は「4.重要判例1」を参照)です。この事件では、期間2カ月の契約を繰り返し更新して働いていた従業員の雇止めが問題となりました。最高裁は、雇用関係が長期間にわたり継続しており、労働者が契約更新を期待することに合理的理由がある場合には、使用者が期間満了を理由に契約更新を拒否することは、客観的合理性と社会的相当性を欠けば無効になると判断しました。これにより、雇止めにも解雇に準じた制約が及ぶという「雇止め法理」が初めて明確に示されました。この「雇止め法理」は、労働契約法19条1号に明文化され、実質無期契約タイプ(期間の定めのない契約と異ならない状態に至っている)に分類されます。次に、「日立メディコ事件最高裁昭61.12.4判決」(詳細は「5.重要判例2」を参照)では、いわゆる嘱託社員の雇止めが問題となりました。最高裁は、労働者が契約更新を合理的に期待していたか否かを判断する際には、①契約更新の回数・通算勤務期間、②更新手続きの形式、③使用者の言動や説明内容、④職務内容や勤務実態、などを総合的に考慮すべきであると示しました。そして、本件では短期契約の反復更新であり、かつ景気悪化に伴う事業上の必要性が明確であったことから、雇止めを有効としました。この判決は労働契約法19条2号の、期待保護タイプ(相当程度の反復更新の実態から雇用継続への合理的期待が認められる)、に分類されます。(図表1)※厚生労働省「参考3雇止めに関するこれまでの裁判例の傾向」より雇止めがいずれかの類型に該当する場合には、その雇止めについて客観的な合理性や社会的な相当性があるかどうかが判断されます。そして、これらの合理性や相当性が認められない場合には、使用者が労働者による有期労働契約の更新または締結の申込みを承諾したものとみなされ、結果として従前と同一の労働条件による有期労働契約が成立したものと扱われます。このように、雇止めの有効性は、契約書の文言よりも、実際の勤務実態や使用者の対応を重視して判断される傾向が確立しています。4.重要判例1「東芝柳町工場事件最高裁昭49.7.22判決」<事案の概要>この事件は、有期労働契約で採用された臨時工の労働者が、契約期間の満了を理由に更新を拒否された、いわゆる「雇止め」をめぐって争われた事案です。労働者は短期間の契約を複数回にわたって更新し、恒常的な業務に長期間従事していました。東芝柳町工場では、繁忙期の人員確保を目的として「臨時工」という形態を用いていましたが、実際には同じ職場で、正社員とほとんど同じ業務に継続的に従事していたのです。原告である労働者は、4年以上にわたり反復して契約更新され、工場の恒常的業務を担っていました。しかし会社側は、経営上の整理を理由に「契約期間満了」をもって更新を打ち切り、雇止めを行いました。これに対し労働者は、「実質的には正社員と同じであり、契約更新を当然に期待できた」と主張して、雇止めの無効を訴えました。この事件の中心的な争点は、「期間満了」という形式を理由に、使用者が自由に雇止めを行えるのか、それとも実態として雇用が継続している場合には、解雇と同様の制約が及ぶのかという点でした。<判決のポイント>最高裁判所は、この事件を通じて、後に「雇止め法理」と呼ばれる重要な判断基準を初めて示しました。まず最高裁は、有期契約であっても、反復して更新されることで、実質的に期間の定めのない雇用契約と同じ状態に至っている場合には、期間満了を理由として当然に雇止めができるわけではないと判断しました。また、反復更新の回数がそれほど多くなくても、労働者が契約更新を期待することに合理的な理由がある場合には、同様に雇止めの自由は制約されるとしました。このような場合には、雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」と認められれば、権利の濫用として無効になるという法理を明確に示したのです。最高裁は、合理的期待や無期的性格があるかどうかを判断するために、次のような要素を挙げました。それは、①契約更新の回数や通算勤務期間、②業務の性質が臨時的か恒常的か、③正社員との勤務実態の類似性、④契約締結・更新時の会社の説明や職場慣行、⑤他の同種労働者との比較、などです。このように、形式上の契約期間よりも雇用実態の継続性や合理的期待の有無を重視する姿勢が明確に示されました。結果として、最高裁は本件において、原告が長期にわたり更新を繰り返していたこと、業務が恒常的であったこと、会社側から合理的な雇止め理由の説明が十分になされていなかったことを踏まえ、雇止めを無効と判断しました。この判決は、「有期契約であっても実質的に無期契約に近い場合には、雇止めにも解雇と同様の合理性・相当性が求められる」という原則を確立した、その後の裁判にも大きな影響を与える重要な判例となりました。5.重要判例2「日立メディコ事件最高裁昭61.12.4判決」<事案の概要>この事件は、反復して更新されてきた有期契約において、解雇に関する法理(いわゆる解雇権濫用法理)をどのように類推適用するかを示したものであり、のちの労働契約法19条の基礎となった判例として、現在でも極めて重要な意義を持っています。本件の舞台は、医療機器メーカーである株式会社日立メディコ(現・日立製作所ヘルスケア事業部)の柏工場でした。原告である労働者は、2か月間の有期労働契約を結び、更新を5回繰り返して勤務していました。勤務態度は良好であり、仕事の内容も恒常的な生産業務の一部を担うものでした。しかし、当時、工場は独立採算制を採っており、医療機器市場の不況によって業績が悪化していました。会社は、生産調整とコスト削減のために人員を整理する必要があると判断し、契約期間満了時に更新を打ち切る、すなわち雇止めを行いました。会社側は「業績不振という事業上の都合」を理由に挙げましたが、労働者は「契約を何度も更新しており、今後も継続雇用されると期待していた」と主張して、雇止めの無効を訴えました。この事件の中心的な争点は、①有期労働契約が複数回更新された場合に、解雇法理を類推適用すべきかどうか、②本件の雇止めが社会通念上相当といえるかどうか、の二点でした。<判決のポイント>最高裁判所はまず、「有期労働契約であっても、反復更新がなされている場合や、労働者が契約の更新を期待することに合理的な理由がある場合には、解雇に関する法理を雇止めにも類推適用すべきである」と明確に述べました。つまり、形式上は期間満了であっても、実質的には雇用が継続しており、労働者に更新を期待する合理的根拠がある場合には、解雇と同様に「客観的合理性」と「社会的相当性」が必要であるという考え方を示したのです。もっとも、最高裁は同時に、有期労働契約はその本質上、期間を定めて締結されるものであるため、無期契約とは異なる性格を有すると指摘しました。したがって、解雇法理の類推適用を認めつつも、無期雇用労働者(正社員)と同等の保護を全面的に与えるものではなく、契約の性質や目的、更新の実態などを踏まえたうえで判断すべきであるとしました。その上で最高裁は、本件雇止めについて次のように判断しました。当該労働契約は短期間(2か月)ごとに更新されるものであり、更新の際には会社の判断を経て継続の可否が決定されていました。また、契約書には「期間満了により退職する」と明記されており、会社には独立採算制のもとでの経営悪化という客観的な事情が存在しました。さらに、臨時従業員制度自体が、景気や業務量の変動に弾力的に対応することを目的として設けられていたことも重視されました。これらの点を総合して、最高裁は「本件雇止めは事業上やむを得ない理由に基づくものであり、社会通念上相当である」と判断し、雇止めを有効と認めました。すなわち、本件では、反復更新があったとはいえ契約期間が短く、更新手続きも形式的な自動更新ではなく会社側の判断に基づいて行われていたこと、そして不況に伴う業務上の必要性が明確であったことから、労働者の「合理的期待」は否定され、雇止めの合理性が肯定されたのです。この判決の意義は、単に雇止めが有効であると結論づけた点にとどまりません。最高裁は、本件を通じて「雇止めの判断枠組み」を理論的に整理しました。すなわち、①有期契約であっても反復更新や合理的期待がある場合には解雇法理を類推適用する、②ただし、有期契約である以上、保護の範囲は正社員と同一ではなく、契約の性質や運用実態を踏まえて柔軟に判断する、③事業上の必要性が明確であり、雇止めの合理性が認められる場合には、有効とされるという三段階の考え方を示した点にあります。この法理は、労働契約法19条にそのまま取り入れられ、現代の雇止め実務の基本原則となっています。6.実務上の留意点両判例(東芝柳町工場事件・日立メディコ事件)が示している最も重要な教訓は、「有期契約であれば期間満了を理由に自由に終了できる」という考え方は、現代の人事労務管理では通用しないという点です。契約が反復更新され、労働者に雇用継続への合理的期待が生じている場合、雇止めには客観的な合理性と社会的相当性が求められ、企業はその理由と手続の正当性を説明できる準備をしておく必要があります。そのため、企業側としてはまず、契約書や労働条件通知書に契約期間、更新の有無、更新回数の上限、更新を判断する基準(業務量、勤務成績、健康状態など)を明確に記載しておくことが欠かせません。曖昧な表現や慣行的な更新は、労働者に合理的期待を与え、後の紛争の原因となる可能性があります。また、更新手続きを形式的に行うのではなく、毎回の更新時に面談や評価を実施し、その記録を残しておくことで、自動更新ではなく会社が毎回継続の可否を判断していることを客観的に示すことができます。さらに、雇止めを行う際には、事業上の必要性、業務の消滅、勤務態度や能力に関する問題など、合理的な理由を資料や記録で裏づけられるよう社内体制を整えておくことが求められます。加えて、労働契約法18条の無期転換制度も踏まえ、通算5年を超える反復更新が生じないよう、雇止め管理と無期転換管理を一体的に運用することが現在の実務では不可欠です。一方で、労働者側の留意点としては、自身の雇用継続への合理的期待を裏づける証拠を日常的に確保しておくことが重要です。過去の契約書や更新通知、上司の発言記録、勤務表、評価記録、他の契約社員の更新状況などは、裁判で「更新を期待する合理的理由」を立証するうえで有力な資料となります。不当な雇止めだと感じた場合は、まず会社に理由の説明を求め、納得がいかない場合には労働局のあっせんや労働審判などの公的手続きを検討することが有効です。裁判所は形式よりも実態を重視しますので、日常の勤務実態を示す客観的資料が救済の可否を左右することになります。以上のとおり、両判例に共通するポイントは、有期契約の雇止めが「形式的な契約期間」ではなく「雇用関係の実質」に基づいて判断されるという点にあります。そのため、企業側には契約内容や更新運用を明確にし、適切な記録を残すことが求められ、労働者側も、雇用継続への合理的な期待を裏付ける資料を確保しておくことが、後の紛争防止に大きく寄与します。次回は「雇止め」に関する、その他の判例をいくつか紹介したいと思います。提供:税経システム研究所
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2025/12/25 会計レポート
中小企業向け国際財務報告基準第3版(6) 完
1.はじめに本シリーズでは、2025年2月に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を説明しています。今回は、第34章「専門的活動」の一部である「農業(生物資産)」(IAS第41号「農業」に相当する)を解説します。日本基準には、農業(生物資産)を対象とする個別の規定は設けられていません(日本農業法人協会が「農業の会計に関する指針」を公表しています)。対象資産が棚卸資産に該当する場合には「棚卸資産の評価に関する会計基準」が適用され、有形固定資産に該当する場合には有形固定資産に関する諸規定が適用されます。「中小企業向けIFRS(第3版)」の解説は、今回が最後です。2.第34章「専門的活動」の農業活動第34章は、農業、採掘活動およびサービス委譲の3種類の専門的活動に関わる中小企業の財務報告についての指針を示していますが、ここでは農業活動に従事する企業(以下、単に企業という)の財務報告について説明します。生物資産(biologicalasset)は生きている動物または植物、農産物(agriculturalproduce)は企業の生物資産から収穫された成果物とされています。例えば、羊は生物資産、羊毛は農産物に該当します。生物資産または農産物は、次の場合にのみ、認識されます(34.3項)。過去の事象の結果として、企業が資産を支配している。その資産に関連する将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高い。かつその資産の公正価値または原価が、過大なコストや労力をかけずに信頼性をもって測定できる。企業は、生物資産の種類ごとに会計方針を決定する必要があります。公正価値が容易に算定できる生物資産については公正価値モデルを適用し、これ以外のすべての生物資産については原価モデルを適用します(34.2項)。(1)公正価値モデル①測定生物資産は、当初認識時および各報告日において、売却費用(財務費用や税金費用は含めない)控除後の公正価値で測定されます。売却費用控除後の公正価値の変動は、純損益として認識されます(34.4項)。生物資産から収穫された農産物は、収穫時点での売却費用控除後の公正価値で測定します(注1)(34.5項)。この公正価値が、収穫後のIAS第2号「棚卸資産」に基づく取得原価になります。公正価値を算定する際に活発な市場が存在する場合には、市場での相場価格が基礎になります。活発な市場が存在しない場合には、直近の市場価格、類似資産の市場価格を調整したものなどを用います(34.6項)。②開示公正価値で測定された生物資産については、各生物資産の説明、公正価値を決定する際に使用した技法や仮定、帳簿価額の変動調整表(売却費用控除後の公正価値の変動により発生した利得・損失、購入による増加額、収穫による減少額など)を開示します(34.7項)。(2)原価モデル①測定公正価値が容易に算定できない生物資産については原価モデルを適用し、減価償却累計額および減損損失累計額控除後の金額で測定します(34.8項)。また、生物資産から収穫された農産物は、収穫時点における見積売却費用控除後の公正価値で測定します(34.9項)。②開示原価モデルで測定した生物資産については、各生物資産の説明、信頼性をもって公正価値を測定できない理由、用いた減価償却の方法や耐用年数などを開示します(34.10項)参考として、IAS第41号(「中小企業向けIFRS(第3版)」ではなく)を適用したユキグニファクトリー株式会社(旧株式会社雪国まいたけ)の事例を紹介します。連結損益計算書(2024年4月1日から2025年3月31日)では、次のように表示されています(単位:百万円)。(注記)生物資産は、売却費用控除後の公正価値で測定し、その変動を純損益として認識しております。生物資産から収穫された農産物は、収穫時において公正価値から売却費用を控除した金額で棚卸資産に振り替えております。(生物資産の帳簿価額の調整表単位:百万円)この期末残高が連結貸借対照表に計上されています。3.おわりに約3年にわたり、「中小企業向けIFRS(第3版)」(2027年1月1日以降開始する事業年度から適用され、早期適用は可能)の解説を行ってきました。その結果、上場企業向けのIFRSと整合性を保つように作成された会計基準であること、日本の「中小企業の会計に関する基本要領」や「中小企業の会計に関する指針」よりも詳細な規定が設けられていることが明らかになりました。日本では、中小企業向けIFRSは制度として導入されていません。中小企業向けIFRSの採用には、財務数値の国際的な比較可能性の確保や国際取引における信用力の向上などのメリットがあるとされています。一方、中小企業向けIFRSと税務との乖離、導入コストなどの課題も指摘されています。日本で中小企業向けIFRSを普及させるためには、導入メリットの啓発、人材育成、システム対応もさることながら、任意適用できる制度を整えたり、税務との調整を簡単にしたりする必要もあります。今後の動向に注目していきたいと思います。<注釈>IAS第41号でも、生物資産および収穫時点の農産物は、売却費用控除後の公正価値で測定されます。ただし、生物資産のうち果実生成型植物(ブドウの木、ゴムの木、ヤシの木など)は、IAS第16号「有形固定資産」に従って会計処理します。また、収穫後の農産物は、原則として、IAS第2号「棚卸資産」に従って、原価または正味実現可能価額のいずれか低い方で測定します。「利得」と表示されていますが、売上原価の内訳項目ですので、実質的には費用(損失)です。提供:税経システム研究所
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2025/12/22 審査事例
税務調査時に帳簿を提示できたが、総勘定元帳が作られたのは、税務調査の事前通知を受けてから。これは「保存しない場合」に該当し、仕入税額控除は適用されないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】仕入税額控除の適用を受けようとする事業者は、法定帳簿等を整理し、法定帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間(財務省令で定める法定帳簿等については5年間)、これを納税地等に保存しなければならない(消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》)。本件の審査請求人は、建設業を営む個人事業者であって、税務署から調査の事前通知を受けた後に、税理士事務所に依頼して、記載要件を満たす各課税期間の各総勘定元帳(本件各帳簿)を作成した。他の法定帳簿はない。調査後、仕入税額控除を適用して消費税等の修正申告をしたところ、税務署から、本件各帳簿については確定申告書の提出期限の翌日から保存されていないから仕入税額控除を適用できないとして更正処分等を受けた。審査請求人は、税務職員の求めに応じ帳簿等を提示した場合には仕入税額控除の適用が認められるべきであると主張した。国税不服審判所は、本件各帳簿は、所定の期間において保存していないことは明らかであるから、消費税法第30条第7項に規定する「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当すると判断した事例である。(平成28年1月1日から令和2年12月31日までの各課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年4月24日裁決)(非公開)【主な争点】各課税期間の消費税について、仕入税額控除は適用されるか。【裁決の要旨】本件各帳簿は、令和3年7月16日の事前通知後に作成されたものであり、また、審査請求人は、各事前通知時において、各課税期間の審査請求人の事業に係る法定帳簿を保存していなかったのであるから、審査請求人は、各課税期間に係る各確定申告書の提出期限の翌日から、令和3年7月16日までの間は、法定帳簿を保存していなかったこととなる。そうすると、審査請求人が所定の期間において法定帳簿を保存していないことは明らかであり、このことは、消費税法第30条第7項に規定する「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当する。したがって、審査請求人の各課税期間の消費税について、仕入税額控除は適用されない。審査請求人は、最高裁平成16年12月16日判決が示した消費税法第30条第7項の趣旨からすると、同項に規定する「保存」の意義は、課税庁が申告された仕入税額を確認するための保存であり、課税庁が行う調査において、その時点で課税仕入れの事実の証拠である帳簿等を確認できない場合に、同項に規定する「保存しない場合」に該当するのであって、本件においては、法定帳簿等を調査担当職員の求めに応じて提示しているから、仕入税額控除は適用される旨主張する。しかしながら、本件最高裁判決は、所定の期間及び場所において、税務署の職員等による調査に当たって適時に法定帳簿を提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合に、消費税法第30条第7項の「保存しない場合」に当たると判断したものである。本件各帳簿は、本件各課税期間の消費税等の確定申告書の提出期限の翌日から保存されていたとは認められないことからすれば、調査担当職員の求めに応じて法定帳簿としての記載要件を満たす本件各帳簿を提示したとしても、当該事実は、判断を左右するものではない。【参照条文】国税通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》租税特別措置法第86条の4《個人事業者に係る消費税の課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告期限の特例》租税特別措置法施行令第46条の2(平成29年改正前は第46条の4)《個人事業者に係る中間申告等の特例》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/12/19 商事法レポート
法律上、決算はいつ確定するの? − 計算書類の承認・確定について
1はじめにわが国の会社法では、計算書類(この書類には貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表が含まれます。会社法施行規則116条、会社計算規則59条1項参照(注1))、および、その附属明細書(計算書類の内容を補足する重要な事項を表示する書類です。詳細については会社計算規則117条参照)を作成し、取締役会や株主総会といった機関で承認を受け、公告等をすることとされています。そして、これらの一連の行為が「決算」と呼ばれます(注2)。本稿では、この決算のプロセスについて概観し、とりわけ『計算書類の承認・確定』の意義について考えてみたいと思います。なぜなら、わが国では、計算書類の承認を含む計算に関する事項についての株主総会決議は、会社法に関するテキストにおいても株主総会の主要な決議事項として挙げられることもある一方(注3)、後述するように、他の国では、会計・財務に関する書類について株主総会の承認決議を必要とせず、そうした書類を「確定させる」ということにそれほど重きを置いていないと思われる国もあるからです。なお、本稿では、過度に話を複雑にすることを避けるため、主に取締役会を設置している会社を念頭に置くこととし、かつ、会計参与を設置している会社については念頭に置あかずに話を進めていくことにします。2計算書類の承認・確定のプロセス計算書類等の作成は代表取締役(指名委員会等設置会社では取締役会が選定した執行役)によって行われます(注4)。そのうえで、監査役を置いている会社(定款上、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定めた会社も含みます)は、計算書類および事業報告ならびにそれらの附属明細書について監査役の監査を受けなければなりません(会社法436条1項)。また、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会が監査を行います(会社法436条2項1号)。そのうえで、会計監査人設置会社では、ある意味で当然ですが、計算関係書類(計算書類およびその附属明細書をいいます。会社法施行規則2条3項11号ロ、会社計算規則2条3項3号ロ)について会計監査人の監査も受ける必要があります(会社法436条2項)。次に、計算関係書類は事業報告、それらの附属明細書と併せて取締役会の承認を受けることになります(会社法436条3項)。ここで、上場会社については、四半期ごとに金融商品取引所を通じていわゆる決算短信を発表することになっていますが、事業年度または連結会計年度に関するいわゆる通期決算短信については、計算書類等についてこの取締役会の承認があった段階で発表され、3月決算の会社であれば、一般には5月中旬に発表されることが多いと言われています(注5)。その後、定時株主総会の招集を株主に対して通知する際には、取締役会の承認を受けた計算書類および事業報告、加えて(監査役を置く会社、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社の場合は)監査報告および(会計監査人設置会社の場合は)会計監査報告も提供することとされています(会社法437条)。そして、計算書類、事業報告およびそれらの附属明細書(ある場合には監査報告・会計監査報告)は、株主や債権者の閲覧等に供するため、原則として定時株主総会の日の2週間前から本店に5年間、支店にはその写しを3年間備え置かなければならないとされています(会社法442条)。計算書類は、以上の手続きを経たうえで事業報告とともに定時株主総会に提出され、株主総会の承認を受けることとされています(会社法348条2項。なお、事業報告については株主総会の承認を経ることなく、その内容が報告されるに留まります。同条3項)。ここで、計算書類について株主総会の承認が求められているのは、一つの会計事実につき複数の会計処理のいずれを適用するかといった政策判断の余地があり得るから、との説明がされています(注6)。歴史的な観点から述べますと、会社法が制定される前である平成17年(2005年)改正前商法の下において、昭和56年(1981年)改正で同法284条の規定が削除されるまで、計算書類の承認決議後、2年以内に別段の決議がなければ、会社は不正の行為があった場合を除いて取締役および監査役に対しての計算書類に関する責任を解除したものとみなすとされていました。また、現行会社法が制定されるまでは、利益の処分(≒現在における「剰余金の処分」)または損失の処理に関する案は、計算書類ととともに定時株主総会における承認内容に含まれ、それらがまとめて承認対象とされていました。これに対し、現在の会社法は、剰余金の配当は計算書類の承認決議とは別の株主総会決議に基づいて行うものとされています(会社法453条、454条参照。なお、取締役の任期が1年以内である会計監査人設置会社については、定款の規定がある場合に、取締役会決議による剰余金配当も可能とされています。同法459条参照)。その結果、現在の会社法は株主総会による計算書類の承認決議に対し、「それによって計算書類を確定させる」という意味がより込められている、といえるでしょう。いずれにしても、株主総会の承認によって計算書類は確定され、当該計算書類は「最終事業年度にかかる計算書類」となり、剰余金の額や分配可能額の算定の基礎となります(会社法446条、461条2項など参照(注7))。仮に承認決議が否決された場合は、計算書類は確定できないこととなりますが、そうした場合、取締役会は必要と認める場合に計算書類を修正し、再度「定時株主総会」を招集してその承認を求めるほかないとされています(注8)。なお、承認された計算書類の内容が法令に違反していたときは、承認決議は無効確認の訴えの対象となりますし(会社法830条2項)、計算書類の内容自体に違反性はないものの、計算書類を承認する株主総会の招集手続もしくは承認決議の方法が法令・定款に違反し、または著しく不公正であった場合は、決議取消の訴えの対象となります(注9)。ところで、会計監査人設置会社については、株主総会における計算書類の承認について特則が設けられています。すなわち、計算書類が法令・定款に従って株式会社の財産・損益の状況を正しく表示しているものとして一定の要件を満たす場合、具体的には、①会計監査報告の内容として「無限定適正意見」が含まれること、②会計監査報告にかかる監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の監査報告が期限内になされており、その内容として会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認める意見がないこと、③取締役会を設置していること、などの要件を満たしている場合(会社計算規則135条参照)、定時株主総会での承認は必要とされず、同総会への報告で足りるとされています(会社法439条)。これは、会計監査人設置会社のような会社については、会計監査人の監査によって計算書類の内容の適法性についての担保がなされていること、そうした会社の複雑な計算書類については株主総会で審査を行い、承認することは適当でない、と考えられていることによります(注10)。まとめれば、会計監査人設置会社では、会計監査人、監査役等から(会計)監査報告を受け、それら報告に特段の問題がない場合は、取締役会の承認を受けた時点で計算書類が確定することになります(注11)。とはいえ、会計監査人設置会社についてのこうした取り扱いは、あくまで「特則」という位置づけであり、会社法は、計算書類の承認については株主総会決議に依るものということがやはり本則であるといった建て付けであるように思います。いずれにしても、計算書類は以上のようにして確定されることになりますが、会社は定時株主総会後に遅滞なく貸借対照表(大会社については貸借対照表および損益計算書。なお、公告方法が官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙への掲載である場合は、貸借対照表の要旨で足りるとされています)を公告することとされています(会社法440条)。ただし、金融商品取引法に基づき有価証券報告書を提出しなければならない会社については、こうした公告は行わなくてもよいとされています(会社法440条3項)。3ドイツ、イギリスおよびアメリカの状況ここで、決算のプロセスに関する他の国(ドイツ、イギリスおよびアメリカ)の状況について簡単にみてみたいと思います。⑴ドイツ上述したように、わが国では決算を「確定する」という考え方が採られていますが、これはドイツの影響を受けた可能性がありそうです。すなわち、ドイツの株式法では、監査役会が年次決算を承認した場合、取締役会および監査役会がその年次決算の確定を株主総会に委ねる旨を決議しない限り、当該年度の年次決算は確定(Feststellung)されたものとみなされるとし(同法172条1項)、取締役会および監査役会が年次決算の確定を株主総会に委ねる旨を決議した場合、あるいは監査役会が年次決算を承認しなかった場合には、株主総会が年次決算を確定する(同法173条1項)と定めています。こうした定めと関連して、わが国において株主総会を計算書類の承認機関としていることについて解説している古いコンメンタールの中には、「・・・確定(Feststellung)とは、会社の終局的な決定であって、それによりその期の計算は対内的にも対外的にも不動のものとなる。いかなる事実をもってそのような終局的な決定があったものとするかということは、株式会社における法定の機関権限の問題であり(そのことを最も明確に規定するのは、西ドイツ株式法172条・173条である)・・・(わが国では)その要件事実を定時総会の承認に求めているものと解される」としているものがあります(注12)。⑵イギリス他方で、イギリスでは、「確定」といった文言は使われていませんが、株式会社における年次計算書類(annualaccounts)は取締役会によって承認されなければならない(mustbeapproved)とされています(2006年会社法414条1項)。また、取締役たちは、年次計算書類が資産、負債、財務状況および損益を真実かつ公正に表示していない限り、当該年次計算書類を承認してはならない旨が定められています(同法393条1項)。そのうえで、公開会社(PublicCompany:株式を公募できたり、5万ポンド以上の最低資本金規制をクリアし、定款にPublicCompanyであることを定めている会社のことをいいます。これ以外の会社は(私会社PrivateCompany)と位置づけられます)については、取締役会の承認を受けた年次計算書類は、株主総会の21日前までに株主等に送付し(同法423条、424条)、株主総会において会社に提出しなければならない(mustlaybeforethecompanyingeneralmeeting)とされています(同法437条1項)。ただし、これら規定はあくまで年次計算書類が株主総会に提出されればよいとしているだけであり、株主総会での承認は特段要求されていません(なお、私会社については、上場会社でない限り、そもそも年次株主総会の開催自体が要求されていません(同法336条項))。なお、年次計算書類と各種報告書は、会計年度末から6か月以内にCompaniesHouseという会社そのものの登記と各種情報の公開を行っている政府機関に登録しなければならないとされています。また、上場会社については、CompaniesHouseへの登録に加えて、FCA(FinancialConductAuthority)が定めるDisclosureGuidanceandTransparencyRules(DTR)4.1に基づき、監査済みの計算書類を含む各種報告書等を「年次財務報告(AnnualFinancialReport)」として会計年度末から4か月以内にNationalStorageMechanismを通じて提出し、広く開示されることとされています(この年次財務報告に含まれる会計・財務関係の書類は、CompaniesHouseへ登録した計算書類と同じものとなっており、日本のように、計算書類と有価証券報告書内の財務諸表、といったような二本立てとはなっていないとのことです)。⑶アメリカアメリカでは、各州の会社法ごとに規律が異なっていますが、一般には、計算・財務に関する書類作成や承認に関する詳細な規定は設けられていません。多くの会社が設立・登録をしているデラウェア州の会社法では、帳簿(BookandRecords)の概念に過去3年分の年次財務報告が含まれるとされ、株主がそれを閲覧等できるとする規定はあるものの(デラウェア州一般会社法220条)、その年次財務報告の作成については、取締役会の一般的な権限のもとで行われると考えられているにすぎないようです。他方で、カリフォルニア州のように、具体的に貸借対照表、損益計算書およびキャッシュフロー計算書を含む年次報告書を作成すべきことや、それら報告書の一定期間内における株主への送付について定めている州もありますが(カリフォルニア州会社法1501条)、そうした州でも計算・財務に関する書類の承認や確定については詳細には定められておらず、やはりそれらは取締役会の権限のもとで適宜行われるものと考えられてきているようです。なお、上場会社については、財務報告を含む年次報告(Form10-K)の提出・開示、加えて、いわゆる株主向けの年次報告(AnnualReporttoShareholders:ARS)を株主総会前に株主に対して提供する必要があり、それらのプロセスにおいて、SECが財務報告に対する監査等について、厳格な規制を行っています。ただし、これらは主に適正かつ公正な情報開示(ディスクロージャー)とそれによる市場の高潔性(Integrity)の確保の観点からの規制であり、財務報告の承認・確定という点についてはそれほど意識がされていません。4まとめ以上を踏まえますと、計算書類等の「確定」という考え方を重視し、さらにその要件を株主総会の承認に求めるという法制を採っているわが国の法制は、他の国と比較して特徴的であるように思われます。わが国の現在の法制度が、適切であるかどうかはいろいろな見方ができるかと思います。筆者の推測ですが、おそらく、わが国ではいわゆる所有と経営があまり分離していない中小規模の株式会社が圧倒的に多く、そうした会社については、計算書類の確定に対し、株主にコミットさせた方が良いと考えられてきたのではないか、加えて、わが国の株式会社のガバナンスに関する議論では、株主総会の存在やそこでの意思決定をとくに重視してきており、そのために株主総会の権限を比較的大きく設定し、株主提案権制度等の関連制度を充実させ、適切に情報提供や議論がなされるように誘導してきたことから、計算書類等の確定もそうした株主総会に委ねた方がよい、と考えられてきたことがあるように思います(ちなみに、会社法上、合名会社、合資会社および合同会社から成る持分会社については、それらの会社に計算書類の作成義務があることが定められているのみであり、計算書類の確定を含む決算のプロセスについてはほとんど定められていません。会社法617条参照)。他方で、イギリスやアメリカの現状を踏まえますと、それらの国々ではそもそも計算・財務に関する書類の「確定」という考え方が採られていませんし、原則として、そうした書類の作成は取締役または取締役会が行うものであり、株主は、そうした書類に記載されている情報の提供を確実に受け取ることこそが重要であるとして、ある意味で受け身的な立場として位置づけられてきているように思います。現状では、わが国がいますぐ他の国に倣うべきだ、ということはありませんが、いずれにしても、決算のプロセス関する法制度、計算書類の承認・確定のあり方に関するスタンスは、株式会社制度における株主の位置づけについての考え方と密接な関連があるように思います。また、本稿ではほとんど触れませんでしたが、国ごとの会計制度、ディスクロージャー制度、さらには剰余金の配当規制との兼ね合いもあります。そうした意味で、本稿で述べたことは喫緊の課題というわけではないもののが、継続的かつ地道な研究や検討を行っていくべきテーマであるように思います。<注釈>これに対し、金融商品取引法に基づいて作成される『財務諸表』は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書およびキャッシュ・フロー計算書ならびに附属明細表からなるとされています(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則1条1項1号参照)。江頭憲治郎『株式会社法〔第9版〕』(有斐閣、2025年)635−636頁。江頭・前掲注⑵322頁。江頭・前掲注⑵630頁。江頭・前掲注⑵659頁参照。江頭・前掲注⑵662頁。江頭憲治郎=弥永真生編『会社法コンメンタール10−計算等⑴』(商事法務、2011年)378頁〔片木晴彦〕。片木・前掲注⑺378頁。片木・前掲注⑺378頁。江頭・前掲注⑵665頁、片木・前掲注⑺379頁。片木・前掲注⑺381頁。上柳克郎ほか編『新版注釈会社法⑻会社の計算⑴』(有斐閣、1987年)76頁〔倉沢康一郎〕。提供:税経システム研究所
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2025/12/18 会計レポート
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(8)
1.予算実績差異分析のダッシュボード化前回から、ChatGPTで経営ダッシュボードを簡単に作成する方法をご紹介してきました。ダッシュボードは、経営層や管理者がリアルタイムに業績を把握・分析し、迅速かつ適切な意思決定を行ううえで極めて有益な手段であり、すでに多くの企業で導入されるようになっています。前回は、全社および各事業の業績モニタリングを行うためのダッシュボードを作成しましたが、今回は予算実績差異分析のためのダッシュボードを作成してみたいと思います(図表1)。ダッシュボード作成のための事前準備については、前回のリポートをご参照ください。図表1予算実績差異分析のイメージ図2.予算実績差異分析ダッシュボードアプリケーションを作成する前回ご紹介させていただいた業績モニタリングのためのダッシュボードの作成と同様に、予算実績差異分析においても、ChatGPTにダッシュボードを動かすWebアプリを作成するためのプログラムを自動作成してもらうことができます。ダッシュボードの作成には、Webアプリ作成用のPythonライブラリであるStreamlit(ストリームリット)を使用します。Pythonのプログラム構造自体をご理解いただく必要は全くありませんが、Webアプリを動かすためにPythonを動かすことができるPC環境を整えておく必要があります。前回リポートをご参照いただき、Pythonの最新版をダウンロードしてください。まずはChatGPT(今回はChatGPT5を使用します)で、次(図表2)のように指示を与えて実行してみましょう。Streamlitを用いてWebアプリ上で動くダッシュボードを作成したい。今回は、ダッシュボードで予算実績差異分析を行えるようにしたい。予算値、予測値、実績値の差異が直感的に理解できるように、ウォーターフォール図を作成してほしい。予算実績差異は全製品、製品別、月別で表示できるようにしたい。予算実績差異の結果をもとに自動課題検出ができるようにしたい。図表2ChatGPTへの指示入力すると、ChatGPTが以下のようにPyhtonプログラムを作成してくれます(図表3)。これをコピーして、textファイルとして(Windowsの場合はメモ帳に)保存します(図表4)。保存の際、ファイル名を「app.py」としておきます(ファイル名の末尾に.pyをつけることで、Pythonファイルとして認識されます)。図表3作成されたPythonプログラム(一部)図表4メモ帳へのプログラム(一部)のコピー手順1:作成したプログラムファイル「app.py」を前回リポートで作成したDashboardフォルダのなかに保存する(図表5)。今回は、作成済みのプログラムと、分析用のサンプル―データを使用します。以下(注1)からダウンロードをしたうえで、ご自身のPCのDashboardフォルダに格納しています。図表5Dashboardフォルダへプログラムファイルの保存手順2:コマンドプロンプトを立ち上げる(図表6)Windowsの場合:Win+Rで「ファイル名を指定して実行」を開き、cmdと入力Macの場合:Command+Spaceで検索バーを表示し、「Terminal」または「ターミナル」と入力図表6コマンドプロンプト画面※網掛け部分は、ユーザーネームが表示されます。手順3:図表7のようにコマンドプロンプトに以下のコマンドを入力し、一つずつ実行しましょう(実行はEnterキー)。※プログラムの実行に必要なファイルがダウンロードされます。#必要なパッケージのダウンロードpipinstallstreamlitpandasnumpymatplotlibopenpyxl#Dashboardフォルダのパスを指定cd"C:\Users\t-met\Documents\Dashboard"#「app.py」プログラムの実行streamlitrunapp.py図表7コマンドプロンプト入力画面手順3を実行すると、Webブラウザが立ち上がり、図表8のような予算実績差異分析のダッシュボードが作成されます。手順1でダウンロードしていただいた、予算・実績データをWebアプリ左上の「データ読み込み」のところへアップロードすると、予算実績差異の分析結果、可視化情報、差異分析からわかる課題が表示されます。図表8作成されたダッシュボードサンプルデータでは、製品A~Dの2024年1月~12月のデータが格納されています。Webアプリ左下で分析を行いたい月や製品を選択すると、分析結果を確認することができます。試しに、2024年1月・A製品の分析結果を表示してみましょう。図表9分析結果(2024年1月のA製品の予算実績差異分析)また、差異分析の結果、どのような課題があるかについても、分析結果に応じて自動的に出力してくれます(図表10)。図表10差異分析の結果からの自動コメントダッシュボードを用いることで、これまで表計算ソフトベースで行っていた分析作業が自動化され、分析結果の検討・ディスカッションに多くの時間を割くことができるようになるのです。3.より高度な分析を実行できるプログラムに修正する分析を行う差異の種類、計算式の変更、表示方法(前期比較表示、色、グラフ形式)の修正を行いたい場合は、ChatGPTに「前期比較ができるようにしたい」「改善方法がわかる分析がしたい」のように指示をするだけで、図表3のようなプログラムを新たに出力してくれます。新たなプログラムを実行する場合も、手順1~手順3と同様ですので、この機会にいろいろと試してみましょう。<注釈>https://www.dropbox.com/scl/fo/w7xt7tzb23782ne5vuzxq/ANgTNSdDIUaEtEsiIan99Ms?rlkey=yier3ggezr10aue7gqnvc047o&dl=0Dropboxが開きます。提供:税経システム研究所
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2025/12/15 審査事例
和解内容を確認せよ。元勤務先が取引先から得るべきリベート等を、個人事業収入にし、支払った解決金の性格は、事業収入の返金でないから、更正の請求はできないとした事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告書を提出した者は、その課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えの判決(判決と同一の効力を有する和解を含む。)により、その事実が先の計算の基礎としたところと異なることが確定した場合には、後発的理由による更正の請求を行うことができる(国税通則法第23条第2項)。本件の審査請求人は、個人事業を営みながら、A社にも勤務をして取引先との交渉を任せられていたが、本来はA社が取引先から受け取るリベート等を自身の事業収入に含めて確定申告及び修正申告も行った。A社は審査請求人に対して損害賠償請求の訴訟を起こし、裁判上の和解が成立した。審査請求人は750万円の本件解決金をA社に支払ったのちに、事業収入を返金したことを理由として自身の所得税について更正の請求をした。税務署は更正すべき理由がない旨の通知処分をした。国税不服審判所は、和解の内容が、審査請求人が本件解決金を支払うことにより、A社は、今後、本件訴訟に係る損害賠償請求権を放棄するという内容にすぎず、審査請求人が取引先からリベートを得た取引に係る権利関係等に何ら変動を及ぼすものではないとして、税務署の処分は適法であると判断した事例である。(平成27年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対して更正すべき理由がない旨の通知処分・棄却・令和2年7月28日裁決(非公開))【主な争点】本件解決金は、平成27年分の事業所得の金額の計算上総収入金額から差し引くことができるか。【裁決の要旨】本件訴訟におけるA社の請求内容は、平成22年度から平成27年度までにおいて、本来A社が本件取引先から得るべき利益(売上金及び仕入割戻金)を、審査請求人がA社で交渉に当たっていた地位を利用して不法に取得し、A社に上記得るべき利益及び同利益に係る消費税や加算税等の額に相当する損害を与えたとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めるというものであるところ、本件訴訟は、飽くまでも審査請求人とA社との間の損害賠償請求権の存否を争うものである。本件和解の内容は、審査請求人が、A社に対し、解決金として本件解決金の支払義務があることを認め、A社がその余の請求を放棄するという内容であるから、本件解決金の支払は、審査請求人と本件取引先との取引に係る権利関係等に何ら変動を及ぼすものではないものと認められる。以上によれば、審査請求人の平成27年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額から本件解決金を差し引くことはできない。審査請求人は、本件解決金は、本件訴訟において、審査請求人が本件取引先から受け取って審査請求人の収入としていた金員の一部がA社の収入と認められるとされたため、本件和解により、平成27年分の収入の返金として支払ったものであることから、平成27年分の事業所得の金額の計算上総収入金額から差し引くべきである旨主張する。しかしながら、本件和解は、審査請求人が収入として申告していた本件取引先から受け取った金員の一部をA社の収入と認める内容のものではないことから、審査請求人の主張は理由がない。【参照条文】国税通則法第23条《更正の請求》所得税法第27条《事業所得》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/12/12 商事法レポート
高齢化社会と会社運営上の課題:意思能力を欠いた支配株主の議決権行使による株主総会決議への影響と対応策(注1)
2025/12/15追記本記事中の注記に誤りがありました。謹んでお詫び申し上げますとともに、下記のとおり訂正いたします。(変更前)(注13)同旨、阿多・前掲(注13)5頁、今川・前掲(注13)5頁。(注14)阿多・前掲(注13)5頁、今川・前掲(注13)5頁。(変更後)(注13)同旨、阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。(注14)阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。1日本社会の高齢化の進展・認知症患者等の増加と会社運営への影響わが国が高齢化社会であることは周知の通りです。内閣府の令和6年度版高齢社会白書(注2)によれば、高齢化率は29.1%で、今後もその数値が上昇すると予測されます。それに伴い認知症患者数やMCI(軽度認知障害)患者数も増える傾向にあります(下記グラフ(注3)参照)。こうした社会環境の変化を反映してか、近時、株主が判断能力を喪失したまま株主総会での議決権行使に及ぶ等したことで、株主総会決議の効力が争われたり否定されたりする事例が散見されるようになってきました(注4)。前掲の高齢社会白書の将来予測に鑑みると、今後も、株主の意思能力の欠如を理由に株主総会の決議の効力が争われる事例が生じ、その件数も増加するものと予想され、それが、支配株主が存在することが少なくない中小(非上場)会社では法的紛争の温床になるばかりか、会社運営に対する重大な支障・リスクの要因ともなることが懸念されます。そこで、本稿では、最近の裁判例を参考に、株主に意思能力の欠如が認められる場合の対応のあり方について概観することとします。2株主の議決権行使と意思能力欠如の下での法律行為の効力に関する民法3条の2(1)民法3条の2の規律民法には意思能力に関する同法3条の2の規定が置かれ、同条によれば、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」とされます。意思能力の有無が法律行為の効力の有無を決めるカギとなるところ、民法には意思能力の定義規定がありません。しかし、従来、意思能力の意義は、「自分の行為の結果を判断することのできる精神能力であって、正常な認識力と予期力を含む」もの(成年被後見人につき意思能力の欠如を認定した東京地判平成30年5月16日LEXDB25553689)(注5)、「自分の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて正しく意思決定する精神能力をいう」(東京地判平成17年9月29日判タ1203号173頁)と解されており、民法はこうした解釈を前提としています(注6)。ちなみに、意思能力の有無は個々の法律行為ごとにその難易や重大性等も考慮して、行為の結果を正しく認識・判断していたか否かを中心に判断されるべきものです(前掲東京地判平成30年5月16日)(注7)。そのため、行為者がアルツハイマー型認知症であるからと言って当然に意思無能力であると判断されるわけでないことに留意が必要ですが、以下では、株主が民法3条の2にいう意思能力を欠いている状態にあることを前提に話を進めます。(2)意思能力を欠いた株主の議決権の行使等と民法3条の2意思能力を欠く株主が株主総会において議決権を行使しまたは議決権行使を他人に委任することや、会社法319条1項による書面決議のための同意の意思表示を行うことについて、民法3条の2が適用され、その効力は無効であると解するのが裁判所のほぼ一致した考え方です(注8)。①東京地判令和5年4月28日のケース例えば、第1に、東京地判令和5年4月28日LEXDB25596678の事案では、被告株式会社の定款変更議案が原告株主Xを含む株主全員の出席のもと株主総会に付議されたところ、出席株主Aが、少なくとも議決権総数の60%を有する株主Bから行使を委任された議決権と自らの議決権を合わせて行使し当該議案に賛成したため、定款変更決議が成立したとされたことに対し、Xが、アルツハイマー型認知症で要介護4の認定を受けていたBは意思能力を欠いているため、BのAに対する議決権行使の委任が無効であり、その結果、定款変更のための株主総会決議に係る定足数(会社法309条2項参照)を欠き株主総会の決議方法が法令に違反するとして、当該決議の取消を主張しました。東京地裁は、Bが当時、日常生活の意思決定が日常的に困難であったため意思能力を欠いていたとして、議決権行使の委任を無効と認定し、当該決議の取消請求を認容しています。②東京地判令和6年9月27日のケース第2に、東京地判令和6年9月27日(注9)は、公開会社でない被告株式会社の唯一の株主Aが同意して行われた、代表取締役を取締役の互選により定める旨の定款規定を削除し取締役は各自会社を代表する旨の定めを設ける令和4年7月13日付の定款変更決議(以下、「令和4年書面決議」)と、当該決議の成立を前提に取締役の一人であるB(Aの子)の提案のもとAの同意により令和5年1月16日付で行われた、原告X(Aの養子)を取締役から解任しC(Bの配偶者)を取締役に選任する旨の決議(以下、「令和5年書面決議」)について、Xが、①令和4年書面決議は株主Aの意思能力の欠如ゆえに無効であると主張すると共に、②令和5年書面決議は令和4年書面決議が無効である以上、代表取締役に互選されていないBの提案に対し行われたものであり決議方法が法令に違反すること、Aも同意の意思表示を行えるだけの意思能力を欠いており会社法341条の要件を充足しないことを理由に、同決議の取消を求めた事案です。東京地裁は、Aのアルツハイマー型認知症が相当程度進行して知的能力が著しく低下し、支援を受けてもAが契約の意味内容を理解し判断することは不可能であるとの保佐開始申立時の鑑定人の鑑定意見を踏まえ、Aが意思能力を欠いていたと認定し、令和4年書面決議に係る同意の意思表示の効力が無効であり、当該決議が不存在であると判示しています。東京地裁は、令和5年書面決議については、Xの請求に引っ張られたこともあり、Aによる同意の意思表示が無効であるとした上で、同決議の取消請求を認容しています。3株主が意思能力を欠いている場合の法的対応(1)法的対応の必要性近時のこうした裁判例を踏まえると、株主とりわけ支配株主が高齢化して認知症等を発症し意思能力を欠いていると認められる場合に、そのまま株主総会で議決権の行使またはその委任をさせること、書面決議のための同意の意思表示を行わせることは、株主総会決議の不存在または取消のリスクを伴います。そこで、その種の事態を回避する法的措置を講じておく必要があり、それが成年後見制度と、意思能力喪失と判断される前に利用される任意後見契約制度および信託です。(2)成年後見制度の利用第1に、成年後見制度とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」を、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人または検察官の請求により家庭裁判所が後見開始の審判をもって成年被後見人とし、これに成年後見人を付すものです(民法7条、8条)。家庭裁判所が後見開始の審判を行うと、後見登記等に関する法律に基づき、後見の種別や審判確定年月日や成年被後見人・成年後見人等に関する情報が後見登記等ファイルに記録され(同法4条1項)、成年被後見人、成年後見人または成年後見監督人が登記事項証明書の交付を請求できるとされます(同法10条1項・2項)。ここで問題となるのは、株主が意思能力を有しない場合に、当該株主が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」という成年被後見人の要件を充足するかという点です。意思能力と事理弁識能力とは法的には異なる概念ですが、両者は密接に関連し、財産に関する取引の能力については、事理弁識能力が欠けた常況にある者は意思能力も認められない場合が多いとされています(注10)。それゆえ、意思能力を欠く株主は、それが認知症等の精神上の障害によれば成年被後見人と認定されることになると考えられ(注11)、その限りで、成年後見制度の対象になり得るといえます。当該株主を成年被後見人として成年後見人が付された場合、成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、かつその財産に関する法律行為について当該成年被後見人を代表し(民法859条1項)、包括的な代理権を有することとなります。株主権の行使は基本的には株式という財産の管理に属するといえ、剰余金配当請求権その他の自益権の行使は株主財産の維持・保全に関わるため、成年後見人の権限の範疇に含まれると解されます(注12)。これに対し、議決権の行使は、株式併合決議(会社法180条2項・309条2項4号)や会社解散決議(同法471条3号・309条2項11号)等では株主地位の重大な変動を生じさせるため、株式管理の一環といえるかが問題となりますが、議決権は株主自身の利益のために行使できる上に、成年後見人が成年被後見人の財産管理に関する事務を行うに当たり成年被後見人の意思を尊重しなければならないこと(民法858条)を踏まえると、成年後見人が成年被後見人である株主の議決権を代理行使できる(注13)と解して良いと思われます。同様の理由から、書面決議に係る株主としての同意も、成年後見人が行えると考えられます。ちなみに、議決権行使に関し問題となるのが、①議決権行使代理人の資格を株主に制限する定款規定と、②議決権行使の代理権授与を株主総会ごとにしなければならないとする会社法310条2項の適用の有無です。①については、成年後見人の代理権が法定代理権であるため、当該定款規定の適用が排除されると解されます(注14)。②についても、株主が意思能力を欠く状態にあることを前提にすると、当該株主から成年後見人への議決権行使の代理権授与を株主総会ごとに行うことを要求するのはナンセンスです。加えて、株主の議決権の代理行使が取締役等による会社支配の手段として濫用されることを防ぐという会社法310条2項の趣旨に鑑みても、成年後見人が法定代理人であることを踏まえ、成年後見人による成年被後見人たる株主の議決権の代理行使については、会社法310条2項が適用されないと解されます(注15)。(3)任意後見契約制度の利用第2は、任意後見契約制度の利用です。任意後見契約とは、「任意後見契約に関する法律」に基づき、ある者が、精神上の障害により事理弁識能力が不十分な状況になった場合に備えて、その者の生活、療養看護および財産の管理に関する事務の全部または一部を任意後見人に委託し、委託事務について代理権を授与する委任契約であって、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者の請求により家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力を生ずる旨の定めがあるものをいいます(同法2条1号)。この契約は、法務省令所定の書式を備えた公正証書により作成することを要するほか(同法3条)、公証人の嘱託により登記され(後見登記等に関する法律5条)、これが任意後見人の代理権を証する委任状の代わりとなります(注16)。このように任意後見契約は、その締結時に本人に判断能力があるケースが典型的な利用場面として想定されているため、意思能力の喪失等の場合に利用される有事利用型の成年後見制度に比べ、事前導入型といえます。ともあれ、株主を本人とする任意後見契約に基づき選任された任意後見人が議決権を代理行使する場合は、当該株主の意思を尊重することを要しますが(同法6条)、成年後見人による議決権代理行使と同様、議決権行使代理人の資格を制限する定款規定の適用は受けないと解すべきでしょう。他方、任意後見人による議決権の代理行使に関しては、成年後見制度の利用の場合と異なり会社法310条2項が適用されると解されます。(4)民事信託の利用第3は、信託の利用です。株主が意思能力を喪失する前に自らを受益者とし保有株式を信託財産とする信託を後継者など特定の者を受託者として設定する方法がこれで、任意後見契約と同様、事前導入型です。この種の目的のため信託が利用される場合、株式が受託者名議となり、議決権は受託者が株主として行使する形をとりますが、会社法310条2項の脱法的要素は通常は認められないので、当該信託の効力は有効であり、株主総会ごとに議決権行使を委任する必要はないでしょう。また、書面決議の同意も受託者が行えると解されますが、いずれにせよ、信託の利用は、当該株主が意思能力を喪失したときも、当該信託に基づき受託者が委託者・受益者たる株主の最善の利益のために議決権を行使することとなるため、有効な対策の一つといえるでしょう。4おわりに意思能力を欠いた支配株主が議決権行使や書面決議の同意を行うことによりもたらされる法的な影響を回避するための法的方策は、上記の通り、後見制度と信託制度とに大別されますが、任意後見契約および信託では、任意後見人・受託者に株主の推定相続人の一人が選任されると、他の推定相続人の不満を生じさせるおそれがあるので、その人選には注意が必要です。その点で、成年後見人は家庭裁判所が選任し、従前と異なり親族以外の第三者が成年後見人となるケースが8割程度を占めている(注17)ため、推定相続人間の紛争発生リスクは小さいといえますが、有事利用型であるため、事前の備えとしては利用しにくい面もある等、一長一短です。それゆえ、それぞれの制度の特徴や長所短所を勘案し、適切な制度を選択することが肝要であり、本稿がその一助となれば幸いです。<注釈>本稿は、2025年9月25日開催の早稲田大学商法判例研究会における内田千秋新潟大学法学部教授の判例研究報告「判断能力の低下した一人株主と書面決議の有効性(東京地判令和6年9月27日)」に触発され執筆したものです。https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_1_1.html内閣府「令和6年版高齢化社会白書」の資料を元に筆者が作成。https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_2_2.html例えば、東京地判平成26年1月21日LEXDB25517212は、被告株式会社の株主の議決権の総数の約89%を有する株主が認知機能検査MMSEで22/30との判定を受け混合型認知症との診断を受けていたところ、当該株主の参加した株主総会で行われた取締役・監査役の選任決議につき、当該株主の意思能力の欠如を理由に当該決議の不存在確認が求められた事案において、当該株主の意思能力を肯定し請求を棄却しています。これに対し、東京地判令和6年9月27日LEXDB25615825は、唯一の株主が行った書面決議につき当該株主の意思無能力を理由に決議不存在確認請求を認容しています。ほぼ同旨、福島地判令和元年12月13日判タ1492号99頁(アルツハイマー型認知症である相続人の一人につき意思能力欠如とはいえないと判断)、東京地判平成29年10月30日LEXDB25539823(相続人の一人に金員を生前贈与したアルツハイマー型認知症の被相続人につき意思能力欠如を認定)、東京地判平成28年10月19日LEXDB25538096(アルツハイマー型認知症の建物所有者が当該建物を原告らの被相続人に賃貸したことにつき当該賃貸人の意思能力欠如を認定)等。内田貴『民法Ⅰ-1[第5版]総則』(東京大学出版会、2025年)124頁。同旨、東京地判平成29年10月30日・前掲(注5)、東京地判平成28年10月19日・前掲(注5)。京都地判平成20年5月28日金判1345号53頁、東京地判令和元年10月17日金判1582号30頁、東京地判令和6年9月27日・前掲(注4)。前掲(注4)。山野目章夫『新注釈民法(1)総則(1)』(有斐閣、2018年)490頁(小賀野晶一)。内田・前掲(注6)138頁参照。阿多博文「成年後見と株主権の行使」金融法務事情2031号(2015年)5頁、今川嘉文『中小企業オーナーのための財産・株式管理と承継の法律実務』(弘文堂、2020年)4頁~5頁。同旨、阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。上柳克郎ほか編集代表『新版注釈会社法(5)』(有斐閣、1986年)193頁(菱田政宏)、酒巻俊雄・龍田節編集代表『逐条解説会社法第4巻』(中央経済社、2008年)136頁(浜田道代)。内田・前掲(注6)193頁。内田・前掲(注6)155頁。提供:税経システム研究所
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