実務情報
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2025/05/29 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(210)
1.はじめに少子高齢化の進展に伴う労働人口の減少により、企業の人材不足が深刻化しています。我が国の生産年齢人口(15歳から64歳)は1995年(平成7年)には8,716万人、総人口に占める割合は69.3%であったのですが、この年をピークとして減少に転じ、2023年(令和5年)には7,395万人、総人口に占める割合は59.5%となっています。特に、飲食や宿泊などの業界では、コロナ禍からの旅行需要の回復やインバウンド需要の高まりもあり、人手不足が顕著となっています。また、スーパーやコンビニといった店舗型の小売業では、低賃金や長時間労働、休日の取得しにくさなどが人手不足の原因となっているようです。今後も労働人口の減少が避けられない状況の中で、国は「働き方改革」の柱のひとつとして、シニア人材と言われる65歳以上の高齢者を働き手として積極的に雇用していくことを推奨しています。2021年には改正高齢者雇用安定法の中で、定年制度の廃止や定年の70歳まで引き上げなどの措置により70歳までの就労機会を確保することを努力義務として定めています。シニア人材の中には、豊富な経験や知識を持ち、これまで培ってきた技術やノウハウ、人脈などを活かし即戦力として活躍する可能性のある人々が多く存在しています。こうした企業側のメリットだけでなく、生涯現役として生きがいや意欲が高まる、健康な生活を送る一助となるなど、シニア人材側にも多くのメリットが生まれるものと考えられます。今回は人手不足解消の手段としてのシニア層活用について、メリットや注意点などを考えていきたいと思います。2.シニア人材採用の背景とメリット先述の通り、労働力人口の減少に伴う人手不足を補う手段として、シニア人材の活用は不可欠とも言えるものですが、労働意欲が高い高齢者が多いこともシニア人材の活用の追い風となっています。高齢社会白書(令和6年版)によれば、60代後半就業率は男性で6割以上、女性4割以上と65歳を過ぎても多くの人が就業している実態があります。また、現在収入のある仕事をしている60歳以上の者のうち「働けるうちはいつまでも働きたい」との回答が約4割にのぼり、「70歳くらいまで」と合わせると約9割が高齢期にも高い就業意欲を持っていることが明らかになっています。こうした高い意欲を持ち、豊富な経験や知識、ノウハウや人脈をもつシニア人材を即戦力として活用できることは、企業にとって大きなメリットと言えます。さらにこれまで培った技術やノウハウを若手の従業員に継承してもらうことによるシニア人材の役割は非常に大きいものとも言え、競争力の向上につながることが期待できます。一方で、労働意欲が高いとはいえ、現役世代のように週40時間のフルタイム勤務は体力面で厳しいという声も少なくありません。これに対応するために、時短勤務やフレックスタイム、時差出勤などいわゆる「柔軟な働き方」を整備していくことが考えられます。整備の過程で仕事の進め方の見直し、業務効率化を図るツールの導入などの取り組みは、シニア人材だけでなく全社的な労働環境の改善につながる可能性がある点もメリットとして考えて良いでしょう。こうしたメリットの反面で、シニア人材を活用していく上での課題といったものも存在しています。どのような点に注意し、改善を図っていく必要があるのでしょうか。3.シニア人材活用における課題体力面・健康面への配慮シニア人材の活用を考える上で、最も重要かつ優先される課題はやはり健康面ではないでしょうか。働く意欲も高く、元気な方が多いとはいえ、体力、記憶力、判断力などはどうしても現役世代には劣ってしまいます。また、持病や慢性痛(肩腰膝などの関節痛)などの様々な健康面のリスクを抱えていることも多いため、業務負荷が過重とならないよう企業側が配慮することが求められます。IT・デジタルへの対応力どのような業界・業務であっても、今やIT・デジタル機器なしで完結する仕事はほとんどないといっても過言ではありません。現在のシニア層は、パソコンが一般化した「Window95」が登場した頃には30代から40代であり、いわばバリバリの現役世代でしたので、以前の高齢世代と比べればITやデジタルへの対応は容易とはいえ、日進月歩のIT・デジタルツールへの対応となると、時間がかかってしまう面があるのはやむをえないとも言えます。こうした点をフォローする仕組みを整備することも企業側が配慮すべき点のひとつと言えるでしょう。若手世代との摩擦人は歳をとると頑固になりがちです。豊富な経験や知識を持つシニア人材ですが、昔のやり方にこだわってしまったり、新しい考え方を受け入れなかったりすることで、若手社員との摩擦を起こしてしまうことがあります。逆に、若手世代・現役世代の中にはシニア人材を「昔の人」として軽んじた扱いをしてしまい、シニア人材のモチベーションを下げてしまうケースもあります。企業として、シニア人材に期待する役割を明確にするとともに、シニア人材に対して最新の業界動向やビジネスモデルを学ぶ機会を提供して新しい考え方を取り入れやすい環境を整えることが必要です。モチベーションやコミュニケーションの問題働く意欲が高いとされるシニア人材ですが、中にモチベーションが低く、仕事に対する姿勢が受け身がちというケースも散見します。積極的に業務に関与せず指示を受けたことだけしかやらないという姿勢を目にした若手社員が不満を募らせて、組織全体の雰囲気や生産性に悪影響を及ぼしてしまう恐れもあります。また、他者とのコミュニケーションの際の距離感の取り方が近く、昨今の若手社員に対し、必要以上にプライベートに踏み込んだコミュニケーションをとってしまい、鬱陶しがられる例も存在します。価値観の違いと言ってしまえばそれまでなのですが、こうしたことでコミュニケーションが不足してしまっては本末転倒です。若手社員とシニア人材が緩い雰囲気で率直な意見交換をできる場を設けるなどの配慮が必要となるでしょう。多くの配慮や環境整備が必要とはいえ、人材不足を補うだけでなく、若手社員のモチベーションアップや組織の活性化につながるなどシニア人材がうまく活用できた際には、配慮や環境整備の労力を上回るメリットがあります。能力を十分に発揮してもらえるような仕組みづくりが大切です。提供:税経システム研究所
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2025/05/29 会計レポート
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(23)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額からコストが大きく変動することがあり、その対処が必要になります。以下では、前回の記事で確認した予備費を使用しながら同社で行われるコスト変動管理の進め方を説明します。2.コスト変動管理の進め方図1コスト変動管理の手順(出所)筆者作成。同社では、コスト変動のリスクを最小限に抑えて、商品の目標原価を達成することを目的に、コスト変動管理が行われます。コスト変動管理は、図1のような手順で進められています。(1)コスト変動事項の把握とリスト化開発期間中に生じる部品費や金型費等に関するコスト変動事項を把握します。例えば、本格的な試作や品質評価による予想外の品質不良の発生、保守・安全・環境対応のトラブルの発生、企画時に曖昧さを残したまま設計を開始したことで事後的に起こる仕様の変更があります。コストの変動を最小限に抑えるため、変動事項とともに予想される変動額をリスト化して、改善策を考えるために準備します。コスト変動の予想額は、主に図面を作成する設計者が算定します。経験が浅い設計者が担当する場合には、原価管理機能部門が補助を行うことで、予測の精度を高めるようにしています。(2)変更の申請手順(1)でリストアップされたコスト変動事項や予想額について、主に開発機能チームの設計リーダーが、その内容と開発機能の目標を達成しているかを確認して、開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者に申告します(注1)。(3)コスト変動の確認と承認開発機能チームの設計リーダーから申告を受けると、開発商品QCD責任者は、コスト変動の内容と予測額を確認し、妥当な変更か、変動額を最小限に抑える他の案は無いか、目標値以内に入っているか等を確認します。もし、他の案があったり、目標原価が未達であったりした時には、開発機能チームの設計リーダーに戻されて、再度検討を求められます。上記の確認で変更内容に問題がなければ承認されます。開発商品QCD責任者や原価推進責任者は、手順(1)から手順(3)の取り組みを素早く進めて、コスト変動をより最小限に抑えた案が承認されるように統制することで、開発活動をスムーズに進めるように努力しています。(4)図面の変更変更案が承認されると、図面を変更するための手続きが始められ、出図され、部品等の供給企業へと渡ります。供給企業には、変更後の原価見積が依頼されます。(5)供給企業からの原価見積額の回答供給企業からの原価見積回答額が予定の変動額を下回れば、図面の変更がそのまま進められます。逆に、原価見積回答額が予定の変動額を上回ってしまうと、調達部門による供給企業との交渉を中心に原価低減の活動を行います。交渉だけではコストの乖離が解消できないと判断される時は、同社の開発機能チームに戻されて、設計者による改善の検討を行うこともあります。(6)コスト変動状況の集計と確認開発機能ごとに算定されたコスト変動の予想額と実績額を、原価推進責任者が全体で集計し、その状況を開発商品QCD責任者が確認することで、コスト変動額が目標設定時の予備費以下になるように管理します。また、コスト変動の推移を可視化することで、開発機能チームの設計者にとって予備費がどの程度使用されたかが分かり、コスト変動を抑制する動機付けにもなります。上記の手順を通じて、コスト変動を抑え、商品の目標原価を達成するため継続的な管理が進められています。3.コスト変動管理での状況に応じた対処コスト変動管理では、基本的に、開発機能チームを中心に、予備費を使用したり、開発機能ごとの目標値の達成状況を基にした変更可否の判断を行ったりしています。ただし、ある開発機能チームの目標達成が厳しい時には、開発商品QCD責任者が開発機能全体での達成状況を確認した上で、変更の可否を判断します。例えば、手順(5)で、コストの乖離が残るものの、製造段階までの時間的な余裕がないという時には、図面の大きな変更はせずに製造段階での対処事項としておき、製造開始後のコスト変動を抑制する活動の中でフォローアップします。このように活動の進行状況に応じて対処することも、コスト変動を継続的に管理する上で重要な取り組みだと言えるでしょう。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>同社では、コスト変動管理全体を開発商品QCD責任者が統括し、その実行管理を原価推進責任者が各開発機能チームの設計リーダーと協力して行います。コスト変動管理を行う上での組織体制は前回の記事でも解説していますのでご覧ください。提供:税経システム研究所
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2025/05/27 経営レポート
中小企業のM&Aと企業価値評価(第17回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回はデュー・デリジェンスの目的と種類について説明しました。本稿ではデュー・デリジェンスの実施で明らかとなった検出事項への対応について説明します。本稿では引き続き下記図表1の9.について説明します。【図表1M&Aの基本的な流れ】1.デュー・デリジェンスにおける検出事項デュー・デリジェンス(以下、DD)を実施した結果、当初想定されていなかった様々な問題点が検出されます(これを検出事項と呼びます)。前回ご紹介したDDによって、例えば以下のような検出事項が考えられます。《財務DDによる検出事項》棚卸資産や固定資産に多額の含み損が存在していること本来営業費用として処理すべき勘定科目が営業外損益や特別損益項目に含まれていることによる正常収益力分析の修正訴訟による賠償責任などの負債が会計帳簿に記載されていないこと財務制限条項(金融機関から借り入れを行う際に金融機関から遵守を要請されている事項)に抵触している、または抵触する可能性があること役員や親族へ金銭を多額に貸し付けていること業績不振の子会社株式を保有していること他社または親族が経営している会社へ債務保証していること《人事DDまたは法務DDによる検出事項》従業員に対して適切な残業代を支払っていないことここ数年の間、離職率が高水準で推移していること第三者より訴訟を提起されている事実保有する土地や建物に有害物質(PCB、アスベストなど)が使われていること規程類が十分に整備されていないこと2.検出事項に対する対応策上記のような検出事項が発見された場合、買い手サイドはどのように対応すればよいでしょうか。筆者は様々な対応策を見てきましたが、主なものを説明します。①検出事項をそのまま受け入れる検出事項が軽微かつ限定的であり、ディールの実行に大きな影響を与えないと判断されたリスクについては、契約変更や金額変更もせずにそのまま受け入れることが考えられます。但し、判断の見極めが非常に難しいために明らかに軽微なものを除き、そのまま受け入れることには慎重さが求められます。②買収価格の調整多額の含み損を抱える資産の存在、業績不振の子会社株式などの検出事項については、当該潜在的損失額を買収価格から減額させることで買い手サイドのリスクを減殺することができます。また、正常収益力分析に変更がある場合には、DCF法で算定された株式価値を変更する必要があります。➂買収スキームの変更会計帳簿に計上されていない債務が発見された場合、買い手サイドが株式を取得した後に当該債務を負担することになります。このような状況では、株式取得に変えて事業譲受けなどのスキームに変更することで予期せぬ債務の引き継ぎを避けることができます。また、役員や親族へ金銭を多額に貸し付けている場合や業績不振の子会社株式を保有している場合には、売り手サイドに引き取ってもらうことも考えられます。④最終契約書への反映DDで発見された検出事項におけるリスクの程度や発生可能性の評価が難しい場合、最終契約書に以下の事項を織り込むことでリスクを売り手に移転させることが可能となります。(ア)クロージングの前提条件への反映検出事項が発見されても、クロージング日までに当該リスクが解消されていれば買い手サイドの立場からは問題ありません。そのため、クロージングの前提条件として、最終契約書の中で当該リスクをクロージング日までに解消することを約束させる方法があります。例えば、事業を継続する上で重要な役割を果たしている従業員がクロージングの後に在籍するかどうかが不透明な場合、売り手サイドが当該従業員に対して継続して在籍することの同意を入手することを約束させることは有用と思われます。(イ)表明保証DDは時間的及び予算的制約の下で実施されるために、ターゲット企業のリスク要因をすべて洗い出すことは実務上困難といえます。そのため、調査により明らかとなったもの以外の偶発債務や簿外債務がないことを売り手サイドが表明して保証することを最終契約書に織り込むことが一般的です。これを表明保証と呼びます。表明保証があるにもかかわらず、予期せぬ簿外債務等が発見された場合には売り手サイドに賠償責任が生じるために買い手サイドとしては一定の安心感を持つことができます。また表明保証には、賠償請求の他に違反した場合に買い手サイドがディールをキャンセルできる権利を付すこともあります。違反がある場合には買い手サイドがキャンセルできるために買い手サイドには有利な条件ではありますが、売り手サイドでは重要性に乏しい違反事実があったとしてもキャンセルの可能性があるために、実務上は「売主による表明及び保証が重要な点において真実かつ正確であること」などの文言を入れることが多いといえます。➄譲渡代金の一部後払いクロージングに当たっては、通常は譲渡代金の全額を支払うことが一般的ですが、表明保証違反がないことを一定期間確認する意味で譲渡代金の一部後払いを選択することも考えられます。⑥買収自体の断念DDによる検出事項が買収後の事業に与える影響が大きい、または不確実性が高いと買い手サイドが判断した場合には買収自体を断念することになるでしょう。特に訴訟に関する損害賠償請求額が多額となる可能性が高い、簿外債務がないことが確信できない場合(有害物質の影響も含む)などは、断念を検討する必要性が高まるものと思われます。提供:税経システム研究所
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2025/05/26 審査事例
航空会社等へ直接支払うものでないから、源泉徴収対象の対価又は報酬に含まれると判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】非居住者または外国法人が国内において行った人的役務提供事業(所属事務所などが所属者による人的役務を提供する)の対価又は人的役務の提供(本人が自己の役務を提供する)に対する報酬は、源泉徴収の対象となる国内源泉所得であり、支払者は、支払時に、原則として20.42%の税率で源泉徴収をして、翌月10日までに納付する義務がある。多くの租税条約は、その人的役務の提供に係る所得が国内の恒久的施設に帰属していなければ、免税扱いにしているが、芸能人や職業運動家(囲碁やチェス等競技者も含む)による役務提供は例外で、役務提供地課税になっている。そして、所得税基本通達161-19《旅費、滞在費等》(161-40《旅費、滞在費等》に準用)は、支払者が、旅費、滞在費等の名目で負担する費用について、それらが航空会社やホテル等へ直接支払われ、かつ、その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内のものであるときはこの限りでない、つまり源泉徴収対象である対価又は報酬に含めなくてよいとしている。本件の審査請求人は、海外から音楽家を招くにあたり、各相手(各支払先)から航空券代等に相当する金額(各金員)を請求されて支払ったが、源泉徴収をしていなかったため、納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を受け、それらは立替払いの実費精算にすぎず源泉徴収義務はないと主張した。国税不服審判所は、各通達の取扱いは相当であり、航空会社等へ直接支払いをしていないから、処分は適法と判断した事例である。(平成27年2月分から平成30年10月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税等の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分・棄却・令和3年1月14日裁決(非公開))【主な争点】本件各金員は国内源泉所得に該当し、支払の際に審査請求人に源泉徴収義務があるか。【裁決の要旨】所得税基本基通161-9《旅費、滞在費等》、161-40《旅費、滞在費等》の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。本件各金員は、審査請求人が海外の音楽家を公演のために日本に招く際に、当該音楽家の航空券代等に相当する額として本件各支払先から請求された金額を本件各支払先に支払ったものであり、海外の音楽家による日本国内での公演という人的役務の提供に要する費用を負担したものであると認められるから、本件各金員は、所得税法第161条《国内源泉所得》第1項第6号(人的役務提供事業の対価)又は同項第12号イ(人的役務の提供に対する報酬)に規定する、人的役務の提供の対価としての実質を有するものであり、国内源泉所得に該当する。そして、本件各金員は、審査請求人が、航空会社等に対して直接支払ったものではないから、所得税基本基通161-9、同161-40が定める源泉徴収をしなくて差し支えないものにはならない。以上のことから、本件各金員は、本件非居住者の国内源泉所得に該当し、審査請求人には、本件各金員の支払につき所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項に規定する源泉徴収義務があるというべきである。提出された証拠並びに当審判所の調査及び審理によっても、審査請求人が航空会社等に対して直接航空券代等に係る債務を負っていた事実は認められないから、本件各金員は、本件各支払先が審査請求人のために立替払したものであると認めることはできない。【参照条文】所得税法第161条《国内源泉所得》、第212条《源泉徴収義務》所得税法施行令第282条《人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲》所得税基本通達161-19《旅費、滞在費等》、161-40《旅費、滞在費等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/05/23 商事法レポート
不祥事発生時における株主総会運営の留意点
1.はじめに-相次ぐ企業不祥事と困難に直面する株主総会運営近時、企業不祥事が相次いでいます。実際にも大手中古自動車販売業者、芸能事務所、さらには損害保険会社などの企業不祥事が連日報道されるに至っています。企業が不祥事を起こした場合、企業の製品やサービスの売上が低下するなど、企業の業績に直接影響が出るとともに、企業の風評(レピュテーション)にも影響が及び、間接的にも事業活動や社会的信用にも傷がつき、企業価値を大きく下げることにもなりかねません。そして、企業不祥事が当該企業の株主総会の直前に発生した場合は、当該企業不祥事が株主総会において取り上げられることともなり、当該企業の株主総会運営において困難な場面に直面することにもなります。このように不祥事を起こした企業の株主総会運営において直面する困難な問題としては、まず、決議事項の決議に関するものとして、①役員選任議案など会社提案議案が否決される危険性の増加の問題、また、②株主総会においてアクティビスト等による株主提案が行われた場合の問題、さらに、③企業不祥事に関する取締役の説明義務の問題、④不祥事の説明などを求める出席株主の増加への対応の問題などを考えることができます(注1)。2.企業不祥事により株主総会において会社提案議案が否決される危険性の増加(1)機関投資家の議決権行使方針の厳格化や投票動向の変化とアクティビスト株主の活動の変化の傾向ISSやグラスルイスなどの議決権行使助言会社や機関投資家の議決権行使基準が厳格化し、会社提案議案の賛成率が低下する事例が増加しています。このような動向は、株主提案議案の賛成率にも影響があり、株主提案議案であっても、それが企業価値向上やガバナンス改善に資すると判断された場合には、株主提案議案が賛成票を集める事例も増加する傾向にあります。また、アクティビスト株主も、単に株主還元の強化を求める議案から、ガバナンス関連の議案を提案する比率が高まっている傾向が見られるといわれています。(2)支配権獲得を意図した役員選任議案が提案された場合の問題点①定款の員数上限を超える役員選任議案が上程された場合の対応方法定款上、取締役や監査役の員数について上限が設けられている場合(例えば、「当会社の取締役は、〇名以内とする」)に、会社提案議案と株主提案議案の候補者の総数が、定款の員数上限を超える場合の対応については議論のあるところです。実務上は、a)得票数が上位の者から定款上の員数上限までの人数を当選とし、定款の員数上限を超える人数の候補者が過半数の賛成を得ていた場合でも、残りは落選とする方法、b)あらかじめ定款の員数上限(から非改選の取締役等を控除した人数)の候補者にしか賛成票を投じられないこととし、定款の員数上限を超えて賛成票を投じた場合には全候補者について無効扱いとするという方法のいずれかが採用されてきましたが、近時は、a)の方法が支配的となりつつあります。②委任状一体型議決権行使書を巡る議論また、経営支配権をめぐり委任状勧誘戦(プロキシーファイト)が行われる株主総会において、議決権行使書と委任状用紙を一体の書面(以下「委任状一体型議決権行使書」といいます。)として用いることが実務で行われています。このような委任状一体型議決権行使書が利用されるのは、株式取扱規程において委任状に本人確認資料として添付が求められている議決権行使書用紙を確実に提出させることで集めた委任状をできる限り有効にすることや、議決権行使書用紙の回収によって議決権行使書と委任状による議決権の重複行使を回避することなどといったものがあります。しかし、委任状一体型議決権行使書については、議決権行使書に会社提案に反対とし、株主提案に賛成と記載して、議決権行使書による議決権行使を意図して返送したにも関わらず委任状を切り離し忘れてしまうと、白紙委任状と扱われて、株主の意図とは逆に、会社提案に賛成、株主提案に反対と扱われてしまうなどの問題があるため、実務上用いられなくなりつつあります。③株主提案議案が可決されることを条件とする剰余金配当議案提案株主から株主提案議案が可決されることを条件とする剰余金配当議案が提案された場合、条件付の剰余金配当議案は適法と解されていることから、株主総会決議に基づいて剰余金の配当がなされる場合、当該配当が株主からの要求や株主提案に起因するものであっても、利益供与(会社法120条1項)に該当しないと考えられています。しかし、このような剰余金配当議案は、実質的に見ると、会社財産を用いて、株主提案にかかる取締役候補者への賛成の議決権行使を誘引するものであり、株主の議決権行使を歪めるという側面があることは否定できません。3.企業不祥事発生時の株主総会の運営(1)不祥事対応時の株主総会の特殊性上場会社にとって、企業不祥事は会社の存続に影響する重大な危機であり、対応を誤れば事業活動やグループの信用を大きく毀損することになりかねません。特に不祥事が定時株主総会に近接したタイミングで生じた場合、当該不祥事について一般株主からの追及がされるなど、株主総会運営にも大きな影響をもたらします。そこで、不祥事が生じた場合の株主総会には以下のような特徴が指摘されます。①会社経営への影響まず、定時株主総会では取締役・監査役の選任議案が上程されているため、不祥事の内容次第では、会社提案候補者が落選したり、株主提案候補者が当選したりする可能性が否定できません。また、株主総会において取締役等には説明義務(会社法314条本文)が課されており、説明義務違反は決議方法の法令違反として株主総会決議取消事由(会社法831条1項1号)となります。②運営面での留意点まず、株主には原則として株主総会への出席権(総会参与権)があり、会社は株主総会に参加する株主を選ぶことはできません。また、定時株主総会の開催時期を大きく変更することは原則としてできないため、不祥事の調査が完了していない段階で総会を迎えてしまうこともありえます。さらに、株主総会の運営は、通常は代表取締役社長等である議長自身が行う必要があり、社長等が不祥事にかかわっている場合には対応に困難を来します。また、不祥事に関する質疑応答以外にも、監査報告、事業報告、他の議案についての質疑応答、採決といった手続を全て完了して、法的に瑕疵のない総会運営をする必要があります。③情報開示上の問題まず、不祥事の内容次第では、定時株主総会に際して開示される事業報告等の書面に記載する必要があります。次に、取締役等の株主総会での発言内容は、株主総会議事録に記録されます。(2)企業不祥事に関する取締役等の説明義務の範囲取締役、会計参与、監査役および執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならないこととされています(説明義務。会社法314条本文)。ただし、株主総会の目的事項に関しないものである場合や説明をすることにより株主共同の利益を著しく害する場合等には説明義務が生じません(同条ただし書、施行規則71条)。なお、説明義務の範囲について、一般的には、決議事項については、株主総会参考書類の記載事項を敷衍する程度の説明でよく、報告事項については、計算書類および事業報告の内容を補足、敷衍する程度、具体的には、附属明細書の記載事項を説明しておけば足りると解されています(注2)。ただし、違法行為のチェックという観点からは、相当な根拠をもって違法ではないかと指摘された事項については説明義務が生じうると解されています。そのため、企業不祥事については、事業報告等に記載があれば株主総会の目的事項に関連することは明らかですが、記載がなかったとしても、企業不祥事が違法行為である場合には、実務的には、説明義務の範囲に含まれるという立場に立って対応する必要があり、また違法行為には当たらないとしても、会社の信用に影響し、営業上の支障が生じているような場合や会社が財産的損害を被るような事態に至っているような場合には、取締役の職務執行状況に関する質問または(当該取締役の選任議案が株主総会に上程されている場合には)取締役選任議案に関連する質問として、説明義務の範囲に含まれると解されています(注3)。もっとも、企業不祥事の発覚が株主総会の直前であるなど、まだ調査が進行中であるような場合には、「現在調査中であり、詳細は回答できないが、調査が完了次第、情報開示をする」旨の回答にとどめ、調査に支障のない範囲で、その段階でわかっていることを回答することを検討することとなると解されます。(3)企業不祥事が生じた場合の総会運営の問題点①取締役等役員選任議案への影響企業不祥事の内容が、株主総会で選任を予定していた取締役等役員個人のスキャンダルであったり、当該役員候補者が企業不祥事に直接関与していたりする場合には、当該候補者に係る取締役等役員選任議案の賛成率が低下する可能性が高まります。そのため、取締役等役員選任議案の公表前に企業不祥事が発覚した場合には、同議案への賛成率への影響も見極めて、役員候補者の見直しも含めて検討をする必要があり、同議案の公表後に企業不祥事が発覚した場合には、当該候補者が役員として適任であると判断した理由を具体的かつ明確に説明し、株主の理解を求めたうえで、それでもなお事前の議決権行使結果から否決の可能性が高いと見込まれるような場合には、やむを得ず議案の取下げをも検討せざるを得ないこととなります。②企業不祥事が生じた場合の株主総会の議事運営上の留意点株主想定問答の準備前述したとおり、企業不祥事については取締役等に説明義務が生じ得ますが、説明義務違反は株主総会決議取消事由(会社法831条1項1号)であるため、株主総会において企業不祥事に関して株主との質疑応答が予想される場合には、企業不祥事に関する株主想定問答の準備が必要となります。そして、企業不祥事においては、株主による株主代表訴訟の提起(会社法847条3項)による責任追及の対象となる可能性もあることから、株主総会における企業不祥事に関する取締役等と株主との質疑応答のやり取りは、事後的に訴訟で証拠とされる可能性も視野に入れて、株主想定問答の準備を進めて行く必要があります。議事進行シナリオの準備企業不祥事発生後の株主総会においては、企業不祥事に関する質問が多数出されることが予想されます。そのため、企業不祥事がマスコミ等で話題となり、株主総会の質疑応答で取り上げられることが強く予想される場合には、むしろ株主の質疑応答に入る前のタイミングで、会社側から企業不祥事を説明する場を設けて、企業不祥事について積極的に説明を行うことも実務において比較的よくみられる対応です。このような対応を行うことで、会社側が企業不祥事に真摯に対応している姿勢を示すことができるとともに、その後の株主との質疑応答時においても、既に説明済みの事項に関する質問が株主からなされた場合には、既に説明済みである旨を回答することも可能となります。このような対応を行う場合には、冒頭の企業不祥事に関する説明を必要十分で簡潔なものとするために、事前の答弁シナリオの準備が重要となります。しかし、企業不祥事を起こした企業としては、当該企業不祥事についても株主に対して説明義務を負っている以上、一定の説明をすることはどうしても避けられず、事前の答弁原稿に腐心してそこに安易に逃げ込むような対応では、かえって企業が不祥事に真摯に向き合っていないという印象を株主に与えてしまいかねない危険性があります。リハーサルの重要性以上述べたとおり、企業不祥事に関する質問には、慎重かつ適切な対応が必要となりますが、議長はもちろん、答弁者となる取締役等があらかじめ想定問答をよく読んで十分に消化しておくことが大切です。そして、企業不祥事が株主総会で取り上げられる可能性がある場合には、株主との質疑応答も、通常の総会と比べて緊迫感のあるものとなる可能性があるため、その対応のために株主総会のリハーサルを通例以上に入念に行うことが大切です。このように企業不祥事が起こった場合の株主総会では、様々な事態に対応できるように、通常の株主総会よりも周到かつ入念な準備が必要とされます。③出席株主の増加への対応出席株主の増加の可能性企業不祥事が起こった場合、マスコミ報道等により社会的な関心が高まり、当該不祥事を起こした企業の株主総会においては、平時よりも出席株主が増加することがあります。特に不祥事への社会的注目度が高いような場合には大幅に出席株主が増加する傾向があります。そこで、このような場合に備えて、不祥事を起こした企業においては、あらかじめ平時の株主総会におけるよりも出席株主数が増加することを見積もって収容人員数が多めの総会会場を準備するなどの対応を取ることが行われます。しかし、実際上、当日の出席株主数を事前に正確に把握することは困難であると言わざるを得ません。株主の出席権の保障と総会の決議取消事由の関係これまで株主には株主総会への出席権が保障されるとして株主総会の開催にあたって会社は合理的な出席株主を予測し、それに見合った会場を確保することが必要であると考えられてきました。しかし、会社が合理的に予想した以上の数の株主が来場した場合に、結果的に一部の株主の入場を拒むことになってしまいます。これが総会決議取消事由に該当するかについては争いがあり、招集手続または決議方法の法令違反として決議取消事由に該当するという見解と、直ちに決議取消事由に該当するものではないという見解があります。そこで、実務においては、一定数以上の株主が入場できず議事に参加できない場合に決議取消事由になり得る見解を踏まえて、第二会場、さらに第三会場を用意すること等を含め、合理的に予想した来場株主数にある程度余裕を加えた収容人員の会場を確保し、できる限り株主全員を収容できるように努めるという対応が取られてきました(注4)。なお、これに関して、会場の定員1,110名前後の株主は会場に入場できたものの入場できなかった株主が少なくとも約300名いたという事案について、裁判所は、何らかの方法で入場できない株主に対し議決権行使の機会を与えるべきであり、当日それが不可能なときには株主総会の期日を変更、延期、または続行等の措置をとならなければならないとして決議取消事由があると判示した裁判例(大阪地判昭和49年3月28日判時736号20頁)があります(注5)。入場制限や定員制の採用の可否この点、新型コロナウイルス感染拡大期において、経済産業省「株主総会運営に係るQ&A」(注6)は、「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも可能」であり、また「入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも可能」であるとして、入場制限や事前登録をした株主を優先的に入場させる措置が可能である旨を示していたところです。それでは、特段の事情のない平時において新型コロナ感染症拡大時のような入場制限や定員制を採用することは可能なのでしょうか(注7)。まず、コロナ禍の下での人数制限は、感染予防、参加者の健康維持のためということで、信義則や公共の福祉の観点から正当化することができるとされていますが、一般論としては株主の株主総会出席権を最大限保障する会場設定をする必要があると解されます。この点、従前の実務では、当日、会場に収容し切れなかった株主にはその場で帰ってもらうことを伝えなければならなかったところ、定員制・事前登録制を採用することで、事前に来場しても席がない旨を伝えることができるようになります。これまでの総会実務においても、当然には決議取消事由にならず、少なくとも裁量棄却の余地があると解されていました。そのため、会場に収容し切れなかった株主の入場を拒否しても決議取消しにはならないといえる程度の収容力のある会場を用意した上で、定員制および事前登録制を設け、定員を超える株主について出席を拒否したとしても決議取消しのリスクは必ずしも高まるとはいえないと考えられます。たとえば定員が500人の場合(ただし、500人という設定には合理性が必要)、早い者勝ちで事前登録が500番までの人は必ず入場できるが、それを超えた人は入場できない、席に余裕があった場合にのみ入場できるというものであれば、違法とはいえないと考えられます。一方、事前登録時に定員を超えたため入場できない扱いとされ、余裕があった場合に入場できる旨の告知もないような場合は、実際に会場に来た株主が500人に満たなかった場合に総会が事後的にどう判断されるかというリスクがあります(注8)。また、バーチャル株主総会を実施し、オンライン出席の方法を認めることにより、実会場の定員を大きく減らすという措置が認められるのでしょうか。この点、合理的な範囲の定員を定めた事前登録制にし、定員を超えた場合には、当日あふれた株主の出席を拒絶することがあることを警告した上で、それでも株主が株主総会に来たときは拒絶することができるという見解が示されています(注9)。しかし、ハイブリッド型総会が普及し、会場への来場者数が減少すれば、それを踏まえた規模の会場を用意すれば足りるとはいえますが、オンライン出席が可能であるという理由で実会場の大きさを過度に縮小することには、実際の出席者数を正確に見積もることが困難な状況下では企業側は相当のリスクを伴うことになります。その一方で、全株主が出席可能な会場を用意することは事実上不可能であり、実際の総会は一部の株主しか出席しないという前提で運営されている以上、出席型バーチャル株主総会などの実際の出席に替わる方法を設けた上で、あらかじめ入場できる人数を限定することは会社の裁量として認められるという見解もあります。ただし、その場合の会社の裁量も合理的な範囲で行使されるべきであり、ことさらに狭い会場を用意して来場者を限定したり、あるいは特定の株主を恣意的に入場させないといったことがあれば、それは決議の方法の著しい不公正として決議取消事由に該当する可能性があることは否定できません(注10)。4.おわりに以上述べたように、企業不祥事が発生した場合の株主総会運営には、通常以上に周到な準備と慎重な対応が求められます。企業における不祥事対応の適切さが、企業の信用回復や株主の信頼獲得に直結するため、まさに株主総会担当者の叡智が試される場面といえます。<注釈>生方紀裕『株主総会有事対応の理論と実務』(中央経済社・2023年)1頁中村直人編著「株主総会ハンドブック〔第5版〕」(商事法務・2023年)461頁桃尾・松尾・難波法律事務所編著「Q&A株主総会の実務」(商事法務・2012年)266頁渡辺邦広=若林功晃「コロナ後の株主総会運営の実務―株主総会Q&A更新を踏まえて―」商事法務2326号33頁なお、同控訴審判決(大阪高判昭和54年9月27日判時945号23頁)は、入場制限の瑕疵は修正動議無視に比べそれほど重大視すべきものではないと判断しています。https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html北村雅史ほか「座談会会社法における会議体とそのあり方〔Ⅰ〕─株主総会編─」商事法務2326号21~24頁なお、事前登録制の抽選により限定された株主のみ入場を認める方式で行われようとした株主総会に対し、株主が総会開催禁止仮処分命令を申し立てた事案(スルガ銀行事件・静岡地沼津支決令和4年6月27日金融・商事判例1652号37頁)においては、「株主総会開催にあたっては会場の規模や時間的制約等により出席株主数を無制限とすることはできず、株主が総会参与権を有するとしても、希望すれば必ず株主総会に出席できる権利であるとは認めることはできない」と判示されています。倉橋雄作「特集バーチャル株主総会のさらなる活用Ⅱハイブリッド型バーチャル株主総会における会場規模の縮小とWEBでの質問受付」商事法務2296号31~32頁松井秀征=斎藤誠「『〈座談会〉株主総会実務の将来展望』を読んで(1)―研究者へのインタビュー―」商事法務2324号7頁提供:税経システム研究所
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2025/05/22 会計レポート
中小企業向け国際財務報告基準第3版(1)
1.はじめに本シリーズでは、国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が2015年に公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)を解説してきました。また必要に応じて、2022年9月に公表された公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」にも触れてきました。その後、2025年2月27日に、IASBは「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を会計基準として正式に公表しました。そこで今回からは、「中小企業向けIFRS(第3版)」について、「中小企業向けIFRS(2015年版)」の差異にも触れながら説明します。それに伴って、本シリーズのタイトルも今回より、「2015年改訂版中小企業向け国際財務報告基準」から、「中小企業向け国際財務報告基準第3版」に変更させていただきました。2.概略IASBは、アライメントアプローチを用いて、「中小企業向けIFRS(第3版)」の改訂を行いました。アライメントアプローチは、フルIFRSを基準改定の出発点とする方法です。そのため、「中小企業向けIFRS(第3版)」は、IFRS会計基準との整合性を高めつつ、財務諸表利用者のニーズや費用対効果を考慮した上で、適切かつ簡素化されたものとなるように、的を絞った簡素化を取り入れています。「中小企業向けIFRS(第3版)」は独立した会計基準であり、公的な説明責任を負わない企業(中小企業:smallandmedium-sizedentities(SMEs))が適用することができます。「中小企業向けIFRS(第3版)」は、2027年1月1日以後開始する事業年度から適用され、早期適用が可能です。中小企業は、過去に遡って(retrospectively)「中小企業向けIFRS(第3版)」の新たな規定を適用しなければなりませんが、一部の項目については移行措置として遡及適用が緩和されています。3.主要な改訂「中小企業向けIFRS(2015年版)」からの主要な改訂には、次のようなことがあります(ProjectSummaryより)。以下、各改訂について簡単に説明します。(1)第2章概念および全般的原則第2章では、中小企業の財務諸表の目的について説明し、これらの財務諸表の基礎となる概念と基本原則を定めています。「中小企業向けIFRS(2015年版)」の第2章は1989年版の概念フレームワークに基づいていましたが、「中小企業向けIFRS(第3版)」の第2章は2018年版の概念フレームワークに整合するように改訂されました。(2)第9章連結財務諸表および個別財務諸表第9章では、IFRS第10号「連結財務諸表」と整合するように、次のような改訂が行われました。支配の定義をIFRS第10号の定義と同じにした。子会社に対する支配を喪失した親会社が、旧子会社に対する留保持分を支配喪失日の公正価値で測定し、その結果生じる利得または損失を損益として認識するという要件を導入した。(3)第11章金融商品「中小企業向けIFRS(第3版)」では、「中小企業向けIFRS(2015年版)」における第11章「基礎的金融商品」と第12章「その他の金融商品」が統合、名称変更されて、第11章「金融商品」になりました。そして、IFRS第9号「金融商品」の規定に整合するように、次のような改訂が行われました。金融商品の分類と測定の要件を補足する原則を追加した。金融資産と金融負債に関する開示要件を追加した。金融保証契約の定義を追加した。金融商品の認識および測定において、IAS第39号を適用する選択肢を削除した。(4)第12章公正価値測定第12章は、IFRS第13号「公正価値測定」と整合するように新設されたものであり、次のような改訂が行われました。公正価値の定義をIFRS第13号と同じにした。公正価値測定に対する要求事項を、IFRS第13号の公正価値ヒエラルキーの原則と整合させた。公正価値に関連する開示事項を、IFRS第13号と整合させた。(5)第19章企業結合およびのれん第19章は、IFRS第3号「企業結合」と整合するように、次のような改訂が行われました。事業(business)の定義をIFRS第13号と同じにした。取得者の識別に際して、新たな規定を加えた。取得した資産および引き受けた負債について、第2章の資産と負債の定義を参照することとした。のれんの認識と測定(注1)について、過度なコストや労力をかけずに信頼性をもって測定できる場合には、条件付対価(contingentconsideration)を公正価値で測定することとした。条件付対価に関しては、文末の【補足】に記載しました。(6)第23章顧客との契約から生じた収益第23章は、IFRS第15号「顧客との契約から生じた収益」と整合するように、名称変更を行うとともに、次のような改訂が行われました。IFRS第15号の5ステップモデルを基礎として、収益認識のための包括的フレームワークを導入した。次回からは新設された第12章や、これまで本シリーズで扱わなかった章を説明します。【補足】条件付対価条件付対価とは、企業結合契約において定められるものであり、企業結合契約締結後の将来の特定の事象または取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付または引き渡される取得対価です。たとえば、被取得企業が企業結合契約締結後の特定年度において特定の利益水準を維持や達成したときに、取得企業が株式を追加で交付する条項がある場合が挙げられます。条件付対価の会計処理は、日本基準と国際会計基準で異なります。(設例)当社は、X社の発行済株式のすべてを取得しその対価として10億円を、A社が特定の条件を達成した時には最大で20億円、合計で最大30億円を支払うという買収契約をした。A社から受け入れる純資産は8億円である。また、条件の達成可能性を考慮した負債の公正価値は5億円であった。なお、2年後に特定の条件が達成されたことにより、追加で15億円を支払うことが確実となったとする。【日本基準】企業結合日の会計処理はその時点で確定している対価の額で行い、その後対価を追加的に支払うことが判明した時点で、追加的な会計処理をします。企業結合日のれんを2億円(=取得原価10億円-A社の純資産8億円)計上します。2年後(特定の条件の達成時)追加でのれんを15億円計上します。【国際会計基準】取得企業は、条件付対価の取得日における公正価値を、被取得企業との交換で移転された対価の一部として認識します。したがって、支払いが確定している部分のほか、追加支払いの可能性がある部分も含めて公正価値評価して取得原価を算定します。企業結合日条件の達成可能性を考慮した負債の公正価値は5億円なので、取得原価は15億円(=10億円+5億円)です。したがって、のれんを7億円(=取得原価15億円-A社の純資産8億円)計上します。2年後(特定の条件の達成時)対価の追加支払いが確実になってものれんの金額は変動せず、負債の時価の変動として処理します。追加支払額15億円から取得原価に含めた5億円を控除した10億円を負債と費用に計上します。<注釈>のれんは、その耐用年数にわたり規則的に償却します。信頼性をもって耐用年数を見積もることができない場合には、耐用年数の上限は10年です。当初認識後は、のれんは取得原価から償却累計額と減損損失累計額を控除した額で測定します(19.35項)。IFRS第3号にはのれんを規則的に償却する規定はないので、この点が異なります。提供:税経システム研究所
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2025/05/22 経営レポート
戦略的医療機関経営 その165
【サマリー】保険医療機関は、行政によるさまざまな調査、指導を受ける義務がある。申請した施設基準に条件が適しているのか、また適正な手順で保険申請(レセプト請求)されているかなどを中心に調査され、もし誤った手順や施設基準の申請を行っていたら、軽い場合で指導、悪質な場合や重責なケースの場合などは、遡って返還処置を命令されることもある。経営的なダメージはもちろん、イメージダウンになり、患者数の減少にもつながる。医療機関としては絶対にこのようにことにならないように取り組まなくてはならない。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料、)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.適時調査は行政指導の一環保険医療機関に対する行政指導は、「保険診療の取り扱い、診療報酬の請求などに関する事項について周知徹底させること」を目的として行われます。保健医療機関は健康保険法第73条により、厚生労働大臣の指導(行政指導)を受ける義務があります。その行政指導には、地方自治体が行う「医療法第25条第1項に基づく立ち入り検査」および厚生労働省が行う「個別指導」「共同指導」「適時調査」「監査」があります。□適時調査と医療監視の違い適時調査医療監視医療監視原則年1回原則年1回調査対象施設基準の届出に基づいた正しい運営がされているか安全管理体制や感染対策などが適切にできているか調査機関地方厚生(支)局保健所適時調査は、地方厚生(支)局が主に病院を対象に行い、施設基準の届出に則った正しい運営や保険請求が行われているかを確認します。原則1年に1回実施するよう決まっていますが、実際には数年に1度のペースで行われるケースもあります。一方、医療監視は保健所などが実施する立ち入り検査です。安全管理体制や感染対策が適切にできているかをチェックします。いずれも外部の人間が医療機関に確認するために来ますが、確認する内容が異なります。返金など金額的なデメリットに繋がりやすいのは、「適時調査」のほうです。□医療法に基づく立ち入り検査の概要(出典:厚生労働省)□立ち入り検査の結果(特定機能病院)(出典:厚生労働省)□行政指導の種類適時調査個別指導実施主体:地方厚生局対象:施設基準の届出を行なった保健医療機関頻度:原則年1回実施指導内容:施設基準届出項目の実施状況(人事管理、業務規程、運用管理など)実施主体:厚生労働省、地方厚生局、都道府県概要:診療報酬請求等に関する情報提供があった場合、個別指導を実施したが改善が見られない場合、集団的個別指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においても、なお高点数保険医療機関等に該当する場合等に保険医療機関等を一定の場所に集める等して個別面談方式により行う指導集団指導集団的個別指導実施主体:地方厚生局と都道府県の共同など対象:新規指定の場合(開院1年以内)、臨床研修指定病院等形式:指導対象となる保険医療機関、保険医等を一定の場所に集めて講習等の方式で実施実施主体:地方厚生局と都道府県の共同など概要:保険医療機関等の機能、診療科等を基準とする類型区分に応じて、診療(調剤)報酬明細書(レセプト)の1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等を一定に場所に集めて講義形式で行う指導共同指導監査実施主体:厚生労働省、地方厚生局、都道府県の共同対象:特定範囲の保険医療機関(臨床研修指定病院など)指導内容:適時調査+個別指導実施主体:厚生労働省、地方厚生局、都道府県対象:適時調査や個別指導において保険医療機関等の診療内容または診療報酬の請求について、不正または不当が疑われる保険医療機関や保険薬局指導内容:書面審査および必要と認められる場合には患者等に対する実施調査、指導後の措置は「注意」「戒告」「取消」となる。日常の保険診療が適切に行われていれば、医療法に基づく立ち入り調査と施設基準の適時調査で済みます。しかし、その調査で指摘事項があった場合や、地方厚生(支)局等に患者の通報や院内の内部告発等があった場合は、「個別指導」や「監査」の対象になります。具体的な事前の指摘事項があるわけですから、当然追及も厳しくなります。そして、指導後も不備が続く場合は、適時調査や個別指導では過去1~5年分の請求について自主返還が求められ、監査では該当項目の過去5年分の請求に40%を上乗せした額(140%)の返還が求められます。3.適時調査適時調査は地方厚生(支)局が、届出を受理した保健医療機関に出向き、届出内容の調査・確認を行うとともに施設基準などの周知徹底と適正化を図ることが目的です。具体的には、関係書類の確認と院内視察が行われます。この適時調査で届け出内容に不備が見つかった場合は、届出の変更や届出の取り下げの指示があります。返還金が発生した場合には、その金額を保険者や患者に変換することになります。改善指導後も改善されない場合は、届出の受理が取り消されたり、6か月間届出ができなくなったりします。□適時調査実施要項等(厚生労働省ホームページ)厚生労働省のホームページに適時調査実施要項等がアップされています。この実施要項に沿って適時調査は行われますので、事前に確認して準備を行います。また、適時調査の当日に地方厚生(支)局職員が持参しチェックする調査表も公表されていますので、併せて確認準備を行います。□適時調査対象医療機関原則「医科」の病院が対象です。ただし、共同指導、特定共同指導は「歯科」も含まれます。さらに対象の病院のなかでも、新たな施設基準の届出を行った病院、新規指定の病院、新規届出の病院が優先的に適時調査の対象病院となります。□実施頻度適時調査は、原則1年に1回行われます。しかし、実際は2~3年に1回の頻度で行われているようです。コロナが蔓延していた時期は、まったく行われていませんでしたので、コロナが終息してきた現在、再び適時調査が実施されるようになってきました。□調査項目重点施設基準と呼ばれる項目がありますので、その項目はほぼ確実に確認されます。また診療報酬改定後で新設点数があった場合、その施設基準も確認されます。今回の改定で言うと、職員の処遇改善が実施されたかどうかを確認しています。重点施設基準項目□実施通知適時調査の約1か月前に、地方厚生(支)局より、所定の様式で通知が送付されます。通知には適時調査の根拠、目的、調査の日時と場所、事前提出書類、当日準備書類が記載されています。事前提出書類は、調査当日の10日前までに地方厚生(支)局に提出します。□適時調査当日の流れあいさつ、調査目的、担当者紹介(基本は3名)グループごと調査説明入院基本料(5基準)等の基本診療料および入院時食事療養費関係一般的な事項及び掲示特掲診療料施設基準関係の書類確認院内ラウンド調査のとりまとめ、結果の打ち合わせ(調査担当者のみで)講評(調査結果を病院側に口頭で伝達、改善が必要な指摘事項がある場合は、後日文書で通知)あいさつ。お見送り□適時調査の件数と変換金額施設基準の増加や複雑化によって、届出の不備や届け出た内容と実際の運用が異なるケースが多発しています。令和5年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況(出典:厚生労働省)返還金額は、保険医療機関等から返還を求めた額が、約46億2千万円(対前年度比約26億5千万円増)(内訳)指導による返還分:約13億5千万円(対前年度比約3億3千万円増)適時調査による返還分:約32億0千万円(対前年度比約24億0千万円増)監査による返還分:約7千万円(対前年度比約8千万円減)提供:税経システム研究所
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2025/05/19 審査事例
毎年多額の赤字を計上し続けた社会保険労務士の業務は雑所得であり、その損失は給与所得と通算されないと判断した事例(棄却)
【裁決のポイント】所得税法第27条第1項は、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定しているが、「事業」そのものの定義はしていない。事業該当性は、最高裁昭和56年4月24日判決(弁護士顧問料事件)が「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう」という基準を示してから、それらの要素を総合的に考慮し、社会通念に照らして、判断されてきている。審査請求人は開業10年余の社会保険労務士で、報酬を事業所得としていたが、必要経費が多額のため赤字で、A社ほか2か所からの給与所得の黒字と損益通算する申告書を毎年提出していた。税務署は、審査請求人の5年分の申告とA社でも調査を行い、客観的に事業として営まれていたとは認められないから雑所得に該当すると判断し、更正処分等を行った。国税不服審判所は、あらためて①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己の計算と危険における企画遂行性の有無、④費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥資金の調達方法、⑦職業、経歴及び社会的地位、⑧生活状況、⑨業務から相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性が存するか、を検討し、審査請求人の社労士業務は事業所得には当たらないと判断した事例である。(平成28年分ないし令和2年分所得税及び復興特別所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年6月16日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人の社労士業務から生じた所得は事業所得か雑所得か。【裁決の要旨】本件業務(相談業務)に係る各年分の売上金額から、本件業務の有償性及び反復継続性については認めることができる一方、必要経費は、売上金額に比して約7倍から13倍に相当する。このように多額の損失が連続して生じていることからすると、本件業務は、経済合理性に欠け、営利性は乏しいというべきである。審査請求人は、売上先が分かる書類や営業活動の内容を詳細に示す資料を作成していないことから、損失を改善する手段を講じていたということはできず、企画遂行性は希薄である。本件業務に係る必要経費の内訳には、通信費、広告宣伝費及び接待交際費の支出があることからすると、審査請求人は本件業務に精神的及び肉体的労力をある程度費やしていたともいえるが、本件業務に係る相談を受ける頻度が平均すると月に2回から3回程度、相談の時間は1回当たり1時間程度であるから、費やした精神的及び肉体的労力の程度は、必ずしも大きいものではない。審査請求人が人的設備(従業員を雇うこと)を有することなく1人で本件業務に従事していることが不自然ということはできない。審査請求人の生計は、A社からの給与収入によって賄うことができていた、審査請求人の事務所は自己学習等のために利用されているにすぎず、本件業務には相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するともいい難い。以上の点を総合的に考慮し、社会通念により判断すると、本件業務が自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということはできないから、本件業務から生じた所得は、事業所得には当たらず、雑所得に該当する。【参照条文】所得税法第27条《事業所得》、第35条《雑所得》、第69条《損益通算》所得税法施行令第63条《事業の範囲》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/05/16 商事法レポート
区分所有法制の改正要綱案から見るマンション管理における課題
1はじめに令和6年1月16日、法務省法制審議会区分所有法制部会において「区分所有法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられ、令和7年3月4日に「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」として、区分所有法だけでなく被災マンション法、マンション建替え等円滑化法、マンション管理適正化法その他の関連法規をまとめた改正案が閣議決定され国会に提出されました。この一連の流れは、高経年マンションの増加と区分所有者の高齢化という「2つの老い」を端緒に生じる所有者不明化や、非居住化の進行によって生じるマンションの管理不全や再生の妨げとなる問題に対応するものです。国土交通省が公表する資料によれば、令和5年末時点のマンションストック総数は約704.3万戸とされており、推計で約1,500万人(注1)(国民の1割超に相当)がマンションに居住していると想定されています。この点だけをとらえれば、上述の問題は、マンションに居住している者の問題であり、日本全体の問題と考えにくいかもしれませんが、マンションの多くは首都圏に存在している(注2)ため、この問題が日本経済に与える影響は小さくないと言えます。以上により本稿では、日本社会に与える影響が大きいこの問題について、法律改正が行われていない要綱案の段階ですが、改正予定の内容を概観し、マンション管理上の課題を整理していくこととします。2改正案の概要(1)改正の背景と必要性戸建住宅における建物の改修や建替えは、建物の所有者のみで決定することができますが、マンション等の区分所有建物においては、区分所有者の頭数と集会における多数決決議(注3)が必要になり(区分所有法39条)、合意形成に至るまでに様々な利害を乗り越えていかなければなりません。令和5年度のマンション総合調査(注4)によると、管理組合運営における将来の不安として「区分所有者の高齢化」を挙げる管理組合が全体の57.6%、「居住者の高齢化」を挙げる管理組合が全体の46.1%を占めており、所有者等の高齢化が進むことにより合意形成が困難になる(=管理組合運営に支障をきたす)と懸念されています(注5)。これら2つの老いは「耐震不足マンション」の問題と「管理不全マンション」の問題に行き着くことになり、近い未来に高い確率で起こるといわれる南海トラフ巨大地震又は首都直下型地震の前に対策を講じようとするのは当然の流れといえます。(2)改正の概要今回の区分所有法制の改正は、以下の①から④までの4つの方策が予定されており、この内容は、法務大臣の諮問の内容である「区分所有建物の管理の円滑化」、「建替えの実施を始めとする区分所有建物の再生の円滑化」、「大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の再生の円滑化」に沿うものです。なお、本稿では①と②に絞って概要を紹介するものとします。【区分所有法制の改正予定】区分所有建物の管理の円滑化を図る方策区分所有建物の再生の円滑化を図る方策団地の管理・再生の円滑化を図る方策被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策①区分所有建物の管理の円滑化を図る方策集会決議の円滑化集会決議の円滑化を図る方策として、所在等不明区分所有者を集会の母数から除外する制度の創設や出席者の多数決による決議を可能とする制度の新設が予定されています。いずれも決議の成立可能性を高めるための規定と考えられます。このほか、専有部分が共有の場合の議決権行使者の定め方として、各共有持分の価格に従い過半数を持って定めることが明確になる予定です。区分所有建物の管理に特化した財産管理制度また令和3年民法(物権法)改正と趣旨を同じくする所有者不明専有部分管理制度や管理不全専有部分管理制度、管理不全共用部分管理制度が新設される予定です。共用部分の変更決議及び復旧決議の多数決要件の緩和さらに共用部分の変更決議や復旧決議の多数決割合を基本的には現行法どおり4分の3以上とした上で、下記のいずれかの場合には、多数決割合を出席した区分所有者及びその議決権の各3分の2とすることが可能になる予定です。共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、その瑕疵の除去に関して必要となる共用部分の変更高齢者、障害者等の移動又は施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上させるために必要となる共用部分の変更管理に関する区分所有者の義務(区分所有者の責務)区分所有建物の管理に関するプログラム規定が創設される予定です。専有部分の保存管理の円滑化管理組合法人が、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うために必要な場合には、集会の特別決議を経ることで、当該建物の区分所有権又は区分所有者が当該建物及び当該建物が所在する土地と一体として管理又は使用をすべき土地を取得することができるようになる点や区分所有者が国外にいる場合における国内に住所又は居所を有する者のうちから国内管理人を選任することができるようになる予定です。共用部分等に係る請求権の行使の円滑化現行法では、管理者の権限として、共用部分等の損害保険契約を締結することは明記されていますが、さらに進み区分所有者を代理して、保険金等の請求及び受領の権限が明記される予定です。管理に関する事務の合理化規約の閲覧について、電磁的方法(=デジタル)によることも可能になる予定です。区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化区分所有建物が全部滅失した場合には、管理組合は解散し、敷地の共有状態だけが残ることになりますが、今後は、共有関係を円滑に解消するべく区分所有建物が全部滅失した時から起算して5年が経過するまでの間は、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるようになる予定です。②区分所有建物の再生の円滑化を図る方策建替え決議を円滑化するための仕組み建替え決議については、現行法どおり区分所有者及び議決権の5分の4以上を原則としながら、一定の事由(耐震性能不足、火災安全性基準不適合、外壁剥離の危険性等)がある場合、従来の5分の4以上から4分の3以上に緩和し、また、建替え決議があったときには、専有部分の賃借人に対し、賃貸借(使用貸借や配偶者居住権も含む)の終了を請求することができるようになる予定です。多数決による区分所有建物の再生、区分所有関係の解消現行法において、区分所有建物及び敷地の一括売却や区分所有建物の取壊しを行うには、区分所有者全員の同意が必要であり、事実上困難であると指摘されています。そこで、集会の決議(建替え決議と同様に5分の4以上の賛成が必要)を経ることで、区分所有関係の解消及び区分所有建物の再生のための新たな制度として、以下のような規律が設けられる予定です。建物敷地売却制度建物取壊し敷地売却制度取壊し制度再建制度敷地売却制度また、建物の構造上主要な部分の効用の維持又は回復のために共用部分の形状の変更をし、かつ、これに伴い全ての専有部分の形状、面積又は位置関係の変更をすること目的とした「建物の更新」という概念が創設され、建替え決議と同様の賛成によって実施できることも予定されています。3期待される改正の効果と今後の課題本改正が成立することにより、所在等不明区分所有者や管理不全状態が存在する場合にも管理組合はそれらの問題に対して対応がしやすくなることが期待されます。ただし、管理組合として問題意識や当事者意識を持てなければ、このような制度も有効活用されません。実務上の問題として、高齢者が多く住むマンションはその傾向になりやすく、高齢者等に配慮した合意形成手続の在り方も今後の検討課題になると考えます。また、現状において建替え決議が進まない多くの理由として、建替えにかかる費用をマンションデベロッパーの保留床だけでは捻出できず、住民に負担が生じる点にあるとされており、今後もその傾向は変わらないと考えられています。このことからも(建替えではなく)高経年マンションの「長寿命化」に向けた管理を行う方が建替え等を選択するよりも現実的とされています。今回の要綱案においても、建替えを促進していくという観点ではなく、一定の問題を抱えるマンションに対して老朽化等の対策を行うことが期待されています。今後は、マンションの長寿命化に向けて、耐震診断の法的義務付けの検討や建替えにおける費用負担問題への対応が検討課題になると考えます。4最後に本改正は、マンションの管理・再生に関する諸課題に対して一定の解決策を示すものであり、今後のマンション管理の適正化に向けた重要な一歩となることが期待されますが、マンション管理自体は、そのマンションに居住する住民が行うものです。マンションに居住する方が一人でも多く今回の改正動向に注視して、自分ごとと捉える契機になることを願って、本稿を締め、今後の実務動向に注目していきたいと思います。<注釈>令和2年国勢調査による1世帯当たり平均人員2.2人をかけた計算民間事業者の公表データによれば、一都三県で全体の51.8%のマンションが存在するとされています(https://www.kantei.ne.jp/wp-content/uploads/2025/02/121karitsu-stock.pdf)原則としては過半数の賛成が必要ですが、共用部分の変更については、4分の3以上の賛成が必要となり、建替え決議については5分の4以上の賛成が必要となります。国土交通省が管理組合や区分所有者のマンション管理の実態を把握するために5年に1度行っている調査で管理組合に向けた調査項目や区分所有者に向けた調査項目が存在します。建替えが進んでいない事実(2024年4月1日現在、建替え実績はマンション総戸数704.3万戸のうち2.4万戸に過ぎない)により、高経年マンションの増加が加速度的に進むことも懸念に拍車をかけています)。提供:税経システム研究所
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2025/05/15 会計レポート
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(3)
1.計画段階における財務情報の活用企業業績の向上を図るためには、経営のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを適切にコントロールしなければなりません。このうち、もっとも初めの段階で行われるのが計画です。従業員の努力が適切な方向に向けられるようにするためには、入念に計画を立てる必要があります。容易に達成が可能な計画では、従業員は計画達成のための努力を行わなくなってしまいますし、逆に、明らかに達成困難な計画では、従業員に過度な負荷をかけたり、従業員が計画達成を諦めて計画自体を無視するようになったりしてしまうかもしれません。計画のなかでも、とくに重要になるのが財務目標の決定です。企業経営の良否は財務的成果によって評価されるため、計画の段階で目標とすべき財務的成果を明確に定める必要があるのです。ここで検討すべき点として、大きく2つの論点があります。①どのような財務指標をもとに財務的成果を定義するのか、また②財務的成果の目標水準をどのように決定するのかという点です。財務指標といっても、様々な性質を持つ指標が存在します。売上高に対する利益(営業利益、経常利益、当期純利益)の割合を表す収益性指標(例:営業利益率など)、資産と負債・資本の比率を表す安全性指標(例:流動比率など)、さらには、利益と資本を組み合わせた投下資本利益率(例:総資産利益率など)の効率性指標などです。計画にあたっては、このうちのいくつかの(通常は2つ~3つ程度)指標を、重要業績指標(KeyGoalIndicator:KGI(注1))として選択することになります。重要業績指標は、トップマネジメント層が経営の成果として何を重視しているかを示すものです。したがって、選択された重要業績指標は、ミドルマネジメント層の行動に影響を及ぼすことになります。たとえば、営業利益率が選択されると、ミドルマネジメント層は本業の収益性に注目することになりますが、その一方で支払利息、株式の評価損益、売却損益などの営業外損益については関心を持たなくなってしまう可能性があります。また、営業利益率だけでは、損益計算書側にのみ焦点が当てられ、貸借対照表側、すなわち資産効率性への関心は低くなってしまいます。余剰在庫の削減や、固定資産への過剰投資にも意識を向けさせるためには、投下資本利益率なども併用する必要があります。また、同業他社と財務指標の比較を行い、自社の課題を明らかにすることも重要です。今回は、レーダーチャートを使って自社、A社、B社の3社の比較を行い、自社の強みや弱みを明らかにしてみたいと思います。レーダーチャートの出力にあたっては、今回もChatGPTを用い、レーダーチャートの作図にくわえて、自社の強み・弱みの抽出も行ってもらいたいと思います。2.レーダーチャートを用いた、強みと弱みの分析今回は、自社のデータにくわえ、同業他社であるA社、B社の情報を使用して、レーダーチャートと、財務指標の強みや弱みの分析を行いたいと思います。分析に用いるExcelデータ(注2)は注記のURLからダウンロードをお願いいたします。今回はChatGPTに、図1のように以下の点を盛り込んだ指示を行います。なお、ChatGPTへ指示する場合には、データの内容についてなるべく詳細に説明することで、期待した結果が得られる可能性が高くなります。描画にあたっては添付の日本語フォントを使用してください。Excelデータに自社、A社、B社の2015年から2024年の財務指標の情報が格納されています。財務指標は、自己資本比率、配当性向、営業利益率、純利益率、ROE(自己資本当期純利益率)、ROA(総資本事業利益率)、ROIC(投下資本事業利益率)が含まれています。各社のレーダーチャートを作成し、各指標の数値をもとに自社の強みと弱みを指摘してください。各指標の違いを比較しやすさを重視し、いくつかの指標ごとにレーダーチャートを分けて出力してください。各指標の値は2015年度から2024年度の平均値を用いてください。描画の際に、自社の結果がわかりやすくなるよう、A社、B社の色を薄くしてください。図1ChatGPTへの指示次のように指示をすると、次のような結果が出力されます。図表2出力結果上記の指摘事項から、同業他社と比較して、利益率の安定性や資本効率性は優れているものの、自己資本比率の低さや配当性向の低さに懸念点があることが指摘されています。それでは、上記分析結果を受けて、自社の事業計画における主な課題についても指摘してもらいましょう。図表3自社の事業計画における課題についての指摘このように、財務分析から抽出された課題をうけて、事業計画において検討すべき課題が指摘されました。テキストどおりの指摘内容であったり、自己資本比率50%超という適正水準にありながら財務安全性に懸念があるとの指摘がなされていたりと、議論の余地のある指摘事項も見られますが、いずれも事業計画の策定にあたって検討を要する点となっています。もちろん、ChatGPTが、すべての検討事項を漏れなくかつ正確に指摘してくれるわけではありません。場合によっては的外れな指摘をしてくることもあるでしょう。あくまで、事業計画策定のたたき台として、もしくは、現在検討中の事業計画案に漏れはないのかを確認するためのサポートツールとして使用することが肝要です。ChatGPTは常に正しい情報を出力してくれるわけではありません。出力される情報の真偽を見極めるためには、使用する側が正しい知識を身につけることが必要ですし、分析のために用いるデータにミスが起こらないよう、会計システムを導入することは必須です。ChatGPTは会計情報をより効果的に活かすための強力なツールとなりますが、あくまで経営のサポートツールに過ぎない(依存し過ぎてはならない)ことは忘れてはなりません。3.補足:次年度財務指標の目標値設定に向けてChatGPTは、統計的分析やシミュレーション分析に強いことが知られています。たとえば、以下のように、過年度の分析結果や、経済状況等を反映して、各財務指標の次年度目標の参考値を出力することも可能です。図表4次年度財務指標の目標値の推定<注釈>いくつかの階層を設けて重要業績指標を設定することがあります。その場合、企業の最終的な成果を表す重要業績指標をKeyGoalIndicator(KGI)、中間的な成果を表す重要業績指標をKeyPerformanceIndicator(KPI)として区別して呼ぶことがあります。分析に使用するデータはDropboxに格納されています。下記URLよりダウンロードをお願いいたします。https://www.dropbox.com/scl/fi/2pf41txhojpwojgw96phj/data202504.xlsx?rlkey=2azmnx9qc2au96vc2wj39nxat&dl=0また、ChatGPTで作図をする場合、日本語表記を可能にするために、Excelデータとあわせて以下の日本語フォント出力のためのデータファイルも添付しましょう。https://www.dropbox.com/scl/fi/v1dbluh8sgb4vl04pek9c/NotoSansJP-Black.ttf?rlkey=aqazot7kr7w1u8om7k6b0z672&dl=0提供:税経システム研究所
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