実務情報
4169 件中 (1-10件表示)
-
2025/05/19 審査事例
毎年多額の赤字を計上し続けた社会保険労務士の業務は雑所得であり、その損失は給与所得と通算されないと判断した事例(棄却)
【裁決のポイント】所得税法第27条第1項は、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定しているが、「事業」そのものの定義はしていない。事業該当性は、最高裁昭和56年4月24日判決(弁護士顧問料事件)が「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう」という基準を示してから、それらの要素を総合的に考慮し、社会通念に照らして、判断されてきている。審査請求人は開業10年余の社会保険労務士で、報酬を事業所得としていたが、必要経費が多額のため赤字で、A社ほか2か所からの給与所得の黒字と損益通算する申告書を毎年提出していた。税務署は、審査請求人の5年分の申告とA社でも調査を行い、客観的に事業として営まれていたとは認められないから雑所得に該当すると判断し、更正処分等を行った。国税不服審判所は、あらためて①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己の計算と危険における企画遂行性の有無、④費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥資金の調達方法、⑦職業、経歴及び社会的地位、⑧生活状況、⑨業務から相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性が存するか、を検討し、審査請求人の社労士業務は事業所得には当たらないと判断した事例である。(平成28年分ないし令和2年分所得税及び復興特別所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年6月16日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人の社労士業務から生じた所得は事業所得か雑所得か。【裁決の要旨】本件業務(相談業務)に係る各年分の売上金額から、本件業務の有償性及び反復継続性については認めることができる一方、必要経費は、売上金額に比して約7倍から13倍に相当する。このように多額の損失が連続して生じていることからすると、本件業務は、経済合理性に欠け、営利性は乏しいというべきである。審査請求人は、売上先が分かる書類や営業活動の内容を詳細に示す資料を作成していないことから、損失を改善する手段を講じていたということはできず、企画遂行性は希薄である。本件業務に係る必要経費の内訳には、通信費、広告宣伝費及び接待交際費の支出があることからすると、審査請求人は本件業務に精神的及び肉体的労力をある程度費やしていたともいえるが、本件業務に係る相談を受ける頻度が平均すると月に2回から3回程度、相談の時間は1回当たり1時間程度であるから、費やした精神的及び肉体的労力の程度は、必ずしも大きいものではない。審査請求人が人的設備(従業員を雇うこと)を有することなく1人で本件業務に従事していることが不自然ということはできない。審査請求人の生計は、A社からの給与収入によって賄うことができていた、審査請求人の事務所は自己学習等のために利用されているにすぎず、本件業務には相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するともいい難い。以上の点を総合的に考慮し、社会通念により判断すると、本件業務が自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということはできないから、本件業務から生じた所得は、事業所得には当たらず、雑所得に該当する。【参照条文】所得税法第27条《事業所得》、第35条《雑所得》、第69条《損益通算》所得税法施行令第63条《事業の範囲》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
関連項目 審査事例 -
2025/05/16 商事法レポート
区分所有法制の改正要綱案から見るマンション管理における課題
1はじめに令和6年1月16日、法務省法制審議会区分所有法制部会において「区分所有法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられ、令和7年3月4日に「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」として、区分所有法だけでなく被災マンション法、マンション建替え等円滑化法、マンション管理適正化法その他の関連法規をまとめた改正案が閣議決定され国会に提出されました。この一連の流れは、高経年マンションの増加と区分所有者の高齢化という「2つの老い」を端緒に生じる所有者不明化や、非居住化の進行によって生じるマンションの管理不全や再生の妨げとなる問題に対応するものです。国土交通省が公表する資料によれば、令和5年末時点のマンションストック総数は約704.3万戸とされており、推計で約1,500万人(注1)(国民の1割超に相当)がマンションに居住していると想定されています。この点だけをとらえれば、上述の問題は、マンションに居住している者の問題であり、日本全体の問題と考えにくいかもしれませんが、マンションの多くは首都圏に存在している(注2)ため、この問題が日本経済に与える影響は小さくないと言えます。以上により本稿では、日本社会に与える影響が大きいこの問題について、法律改正が行われていない要綱案の段階ですが、改正予定の内容を概観し、マンション管理上の課題を整理していくこととします。2改正案の概要(1)改正の背景と必要性戸建住宅における建物の改修や建替えは、建物の所有者のみで決定することができますが、マンション等の区分所有建物においては、区分所有者の頭数と集会における多数決決議(注3)が必要になり(区分所有法39条)、合意形成に至るまでに様々な利害を乗り越えていかなければなりません。令和5年度のマンション総合調査(注4)によると、管理組合運営における将来の不安として「区分所有者の高齢化」を挙げる管理組合が全体の57.6%、「居住者の高齢化」を挙げる管理組合が全体の46.1%を占めており、所有者等の高齢化が進むことにより合意形成が困難になる(=管理組合運営に支障をきたす)と懸念されています(注5)。これら2つの老いは「耐震不足マンション」の問題と「管理不全マンション」の問題に行き着くことになり、近い未来に高い確率で起こるといわれる南海トラフ巨大地震又は首都直下型地震の前に対策を講じようとするのは当然の流れといえます。(2)改正の概要今回の区分所有法制の改正は、以下の①から④までの4つの方策が予定されており、この内容は、法務大臣の諮問の内容である「区分所有建物の管理の円滑化」、「建替えの実施を始めとする区分所有建物の再生の円滑化」、「大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の再生の円滑化」に沿うものです。なお、本稿では①と②に絞って概要を紹介するものとします。【区分所有法制の改正予定】区分所有建物の管理の円滑化を図る方策区分所有建物の再生の円滑化を図る方策団地の管理・再生の円滑化を図る方策被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策①区分所有建物の管理の円滑化を図る方策集会決議の円滑化集会決議の円滑化を図る方策として、所在等不明区分所有者を集会の母数から除外する制度の創設や出席者の多数決による決議を可能とする制度の新設が予定されています。いずれも決議の成立可能性を高めるための規定と考えられます。このほか、専有部分が共有の場合の議決権行使者の定め方として、各共有持分の価格に従い過半数を持って定めることが明確になる予定です。区分所有建物の管理に特化した財産管理制度また令和3年民法(物権法)改正と趣旨を同じくする所有者不明専有部分管理制度や管理不全専有部分管理制度、管理不全共用部分管理制度が新設される予定です。共用部分の変更決議及び復旧決議の多数決要件の緩和さらに共用部分の変更決議や復旧決議の多数決割合を基本的には現行法どおり4分の3以上とした上で、下記のいずれかの場合には、多数決割合を出席した区分所有者及びその議決権の各3分の2とすることが可能になる予定です。共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、その瑕疵の除去に関して必要となる共用部分の変更高齢者、障害者等の移動又は施設の利用に係る身体の負担を軽減することにより、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を向上させるために必要となる共用部分の変更管理に関する区分所有者の義務(区分所有者の責務)区分所有建物の管理に関するプログラム規定が創設される予定です。専有部分の保存管理の円滑化管理組合法人が、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うために必要な場合には、集会の特別決議を経ることで、当該建物の区分所有権又は区分所有者が当該建物及び当該建物が所在する土地と一体として管理又は使用をすべき土地を取得することができるようになる点や区分所有者が国外にいる場合における国内に住所又は居所を有する者のうちから国内管理人を選任することができるようになる予定です。共用部分等に係る請求権の行使の円滑化現行法では、管理者の権限として、共用部分等の損害保険契約を締結することは明記されていますが、さらに進み区分所有者を代理して、保険金等の請求及び受領の権限が明記される予定です。管理に関する事務の合理化規約の閲覧について、電磁的方法(=デジタル)によることも可能になる予定です。区分所有建物が全部滅失した場合における敷地等の管理の円滑化区分所有建物が全部滅失した場合には、管理組合は解散し、敷地の共有状態だけが残ることになりますが、今後は、共有関係を円滑に解消するべく区分所有建物が全部滅失した時から起算して5年が経過するまでの間は、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるようになる予定です。②区分所有建物の再生の円滑化を図る方策建替え決議を円滑化するための仕組み建替え決議については、現行法どおり区分所有者及び議決権の5分の4以上を原則としながら、一定の事由(耐震性能不足、火災安全性基準不適合、外壁剥離の危険性等)がある場合、従来の5分の4以上から4分の3以上に緩和し、また、建替え決議があったときには、専有部分の賃借人に対し、賃貸借(使用貸借や配偶者居住権も含む)の終了を請求することができるようになる予定です。多数決による区分所有建物の再生、区分所有関係の解消現行法において、区分所有建物及び敷地の一括売却や区分所有建物の取壊しを行うには、区分所有者全員の同意が必要であり、事実上困難であると指摘されています。そこで、集会の決議(建替え決議と同様に5分の4以上の賛成が必要)を経ることで、区分所有関係の解消及び区分所有建物の再生のための新たな制度として、以下のような規律が設けられる予定です。建物敷地売却制度建物取壊し敷地売却制度取壊し制度再建制度敷地売却制度また、建物の構造上主要な部分の効用の維持又は回復のために共用部分の形状の変更をし、かつ、これに伴い全ての専有部分の形状、面積又は位置関係の変更をすること目的とした「建物の更新」という概念が創設され、建替え決議と同様の賛成によって実施できることも予定されています。3期待される改正の効果と今後の課題本改正が成立することにより、所在等不明区分所有者や管理不全状態が存在する場合にも管理組合はそれらの問題に対して対応がしやすくなることが期待されます。ただし、管理組合として問題意識や当事者意識を持てなければ、このような制度も有効活用されません。実務上の問題として、高齢者が多く住むマンションはその傾向になりやすく、高齢者等に配慮した合意形成手続の在り方も今後の検討課題になると考えます。また、現状において建替え決議が進まない多くの理由として、建替えにかかる費用をマンションデベロッパーの保留床だけでは捻出できず、住民に負担が生じる点にあるとされており、今後もその傾向は変わらないと考えられています。このことからも(建替えではなく)高経年マンションの「長寿命化」に向けた管理を行う方が建替え等を選択するよりも現実的とされています。今回の要綱案においても、建替えを促進していくという観点ではなく、一定の問題を抱えるマンションに対して老朽化等の対策を行うことが期待されています。今後は、マンションの長寿命化に向けて、耐震診断の法的義務付けの検討や建替えにおける費用負担問題への対応が検討課題になると考えます。4最後に本改正は、マンションの管理・再生に関する諸課題に対して一定の解決策を示すものであり、今後のマンション管理の適正化に向けた重要な一歩となることが期待されますが、マンション管理自体は、そのマンションに居住する住民が行うものです。マンションに居住する方が一人でも多く今回の改正動向に注視して、自分ごとと捉える契機になることを願って、本稿を締め、今後の実務動向に注目していきたいと思います。<注釈>令和2年国勢調査による1世帯当たり平均人員2.2人をかけた計算民間事業者の公表データによれば、一都三県で全体の51.8%のマンションが存在するとされています(https://www.kantei.ne.jp/wp-content/uploads/2025/02/121karitsu-stock.pdf)原則としては過半数の賛成が必要ですが、共用部分の変更については、4分の3以上の賛成が必要となり、建替え決議については5分の4以上の賛成が必要となります。国土交通省が管理組合や区分所有者のマンション管理の実態を把握するために5年に1度行っている調査で管理組合に向けた調査項目や区分所有者に向けた調査項目が存在します。建替えが進んでいない事実(2024年4月1日現在、建替え実績はマンション総戸数704.3万戸のうち2.4万戸に過ぎない)により、高経年マンションの増加が加速度的に進むことも懸念に拍車をかけています)。提供:税経システム研究所
続きを読む
関連項目 商事法レポート,topics -
2025/05/15 会計レポート
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(3)
1.計画段階における財務情報の活用企業業績の向上を図るためには、経営のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを適切にコントロールしなければなりません。このうち、もっとも初めの段階で行われるのが計画です。従業員の努力が適切な方向に向けられるようにするためには、入念に計画を立てる必要があります。容易に達成が可能な計画では、従業員は計画達成のための努力を行わなくなってしまいますし、逆に、明らかに達成困難な計画では、従業員に過度な負荷をかけたり、従業員が計画達成を諦めて計画自体を無視するようになったりしてしまうかもしれません。計画のなかでも、とくに重要になるのが財務目標の決定です。企業経営の良否は財務的成果によって評価されるため、計画の段階で目標とすべき財務的成果を明確に定める必要があるのです。ここで検討すべき点として、大きく2つの論点があります。①どのような財務指標をもとに財務的成果を定義するのか、また②財務的成果の目標水準をどのように決定するのかという点です。財務指標といっても、様々な性質を持つ指標が存在します。売上高に対する利益(営業利益、経常利益、当期純利益)の割合を表す収益性指標(例:営業利益率など)、資産と負債・資本の比率を表す安全性指標(例:流動比率など)、さらには、利益と資本を組み合わせた投下資本利益率(例:総資産利益率など)の効率性指標などです。計画にあたっては、このうちのいくつかの(通常は2つ~3つ程度)指標を、重要業績指標(KeyGoalIndicator:KGI(注1))として選択することになります。重要業績指標は、トップマネジメント層が経営の成果として何を重視しているかを示すものです。したがって、選択された重要業績指標は、ミドルマネジメント層の行動に影響を及ぼすことになります。たとえば、営業利益率が選択されると、ミドルマネジメント層は本業の収益性に注目することになりますが、その一方で支払利息、株式の評価損益、売却損益などの営業外損益については関心を持たなくなってしまう可能性があります。また、営業利益率だけでは、損益計算書側にのみ焦点が当てられ、貸借対照表側、すなわち資産効率性への関心は低くなってしまいます。余剰在庫の削減や、固定資産への過剰投資にも意識を向けさせるためには、投下資本利益率なども併用する必要があります。また、同業他社と財務指標の比較を行い、自社の課題を明らかにすることも重要です。今回は、レーダーチャートを使って自社、A社、B社の3社の比較を行い、自社の強みや弱みを明らかにしてみたいと思います。レーダーチャートの出力にあたっては、今回もChatGPTを用い、レーダーチャートの作図にくわえて、自社の強み・弱みの抽出も行ってもらいたいと思います。2.レーダーチャートを用いた、強みと弱みの分析今回は、自社のデータにくわえ、同業他社であるA社、B社の情報を使用して、レーダーチャートと、財務指標の強みや弱みの分析を行いたいと思います。分析に用いるExcelデータ(注2)は注記のURLからダウンロードをお願いいたします。今回はChatGPTに、図1のように以下の点を盛り込んだ指示を行います。なお、ChatGPTへ指示する場合には、データの内容についてなるべく詳細に説明することで、期待した結果が得られる可能性が高くなります。描画にあたっては添付の日本語フォントを使用してください。Excelデータに自社、A社、B社の2015年から2024年の財務指標の情報が格納されています。財務指標は、自己資本比率、配当性向、営業利益率、純利益率、ROE(自己資本当期純利益率)、ROA(総資本事業利益率)、ROIC(投下資本事業利益率)が含まれています。各社のレーダーチャートを作成し、各指標の数値をもとに自社の強みと弱みを指摘してください。各指標の違いを比較しやすさを重視し、いくつかの指標ごとにレーダーチャートを分けて出力してください。各指標の値は2015年度から2024年度の平均値を用いてください。描画の際に、自社の結果がわかりやすくなるよう、A社、B社の色を薄くしてください。図1ChatGPTへの指示次のように指示をすると、次のような結果が出力されます。図表2出力結果上記の指摘事項から、同業他社と比較して、利益率の安定性や資本効率性は優れているものの、自己資本比率の低さや配当性向の低さに懸念点があることが指摘されています。それでは、上記分析結果を受けて、自社の事業計画における主な課題についても指摘してもらいましょう。図表3自社の事業計画における課題についての指摘このように、財務分析から抽出された課題をうけて、事業計画において検討すべき課題が指摘されました。テキストどおりの指摘内容であったり、自己資本比率50%超という適正水準にありながら財務安全性に懸念があるとの指摘がなされていたりと、議論の余地のある指摘事項も見られますが、いずれも事業計画の策定にあたって検討を要する点となっています。もちろん、ChatGPTが、すべての検討事項を漏れなくかつ正確に指摘してくれるわけではありません。場合によっては的外れな指摘をしてくることもあるでしょう。あくまで、事業計画策定のたたき台として、もしくは、現在検討中の事業計画案に漏れはないのかを確認するためのサポートツールとして使用することが肝要です。ChatGPTは常に正しい情報を出力してくれるわけではありません。出力される情報の真偽を見極めるためには、使用する側が正しい知識を身につけることが必要ですし、分析のために用いるデータにミスが起こらないよう、会計システムを導入することは必須です。ChatGPTは会計情報をより効果的に活かすための強力なツールとなりますが、あくまで経営のサポートツールに過ぎない(依存し過ぎてはならない)ことは忘れてはなりません。3.補足:次年度財務指標の目標値設定に向けてChatGPTは、統計的分析やシミュレーション分析に強いことが知られています。たとえば、以下のように、過年度の分析結果や、経済状況等を反映して、各財務指標の次年度目標の参考値を出力することも可能です。図表4次年度財務指標の目標値の推定<注釈>いくつかの階層を設けて重要業績指標を設定することがあります。その場合、企業の最終的な成果を表す重要業績指標をKeyGoalIndicator(KGI)、中間的な成果を表す重要業績指標をKeyPerformanceIndicator(KPI)として区別して呼ぶことがあります。分析に使用するデータはDropboxに格納されています。下記URLよりダウンロードをお願いいたします。https://www.dropbox.com/scl/fi/2pf41txhojpwojgw96phj/data202504.xlsx?rlkey=2azmnx9qc2au96vc2wj39nxat&dl=0また、ChatGPTで作図をする場合、日本語表記を可能にするために、Excelデータとあわせて以下の日本語フォント出力のためのデータファイルも添付しましょう。https://www.dropbox.com/scl/fi/v1dbluh8sgb4vl04pek9c/NotoSansJP-Black.ttf?rlkey=aqazot7kr7w1u8om7k6b0z672&dl=0提供:税経システム研究所
続きを読む
関連項目 会計レポート,管理会計 -
2025/05/12 審査事例
新機械の購入契約の対価に、翌期に行われた旧機械の搬出費用は含まれていないから、新機械の検査合格引渡し日が課税仕入れの日と判断された事例(全部取消し)
【裁決のポイント】消費税法上の課税仕入れは、取引の相手方においては課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、消費税が免除されるもの以外のものに限られる。そして、消費税法上の資産の譲渡等とは、原則として、対価を得て行われるものであるから、無償で行われるものは、資産の譲渡等及び課税資産の譲渡等に該当せず(家事消費や法人役員への贈与は例外)、取引の相手方においては課税仕入れに当たらない。対価性があるかは、消費税課税の入り口にある判断ポイントである。3月決算法人の審査請求人は、A社と変圧器交換の契約を結び、新機械は3月下旬に納入され完了検査に合格したことから、税込54,864,000円を平成29年3月期の課税仕入れに含めて消費税申告をした。税務署は、取外した旧機械が翌期4月上旬にA社によって撤去・搬出されていたことから、課税仕入れの日は、契約がすべて履行された翌期4月とする更正処分、仮装行為があるとして重加算税賦課決定処分をした。国税不服審判所は、審査請求人とA社の契約は、対価を得て行われる新機械の納入と、無償で行われる不用品の引取りの2つから構成され、3月30日の検査合格をもって対価を得て行われる役務の提供をすべて受けたと判断し、処分を全て取り消した事例である。(平成28年2月から平成29年3月課税期間の消費税等に係る更正処分及び重加算税の賦課決定処分・全部取消し・令和1年6月10日裁決(非公開))【主な争点】新変圧器の支払い対価の額が課税仕入れに含まれるのは、新機械が検査合格して引き渡された平成29年3月期か、取外した旧機械が搬出された翌期か。【裁決の要旨】本件契約は、対価を得て行われる請負契約等と、無償で行われる発生品(不用品)等の引取りからなるものであり、旧変圧器の搬出が、契約上、対価を得て行われる役務の提供か、無償で行われる役務の提供かによって、消費税法上の課税仕入れに該当するか否かが異なることとなる。仕様書において、A社が無償で引き取る発生品等は、取り外した部品及び作業に伴い生じる発生品(履行に伴って発生する不用品)であるとされている。契約書等において、取り外された旧変圧器が発生品等に当たるか否かについての明確な記載はないものの、旧変圧器は、金属くずとして廃棄処分されていることからすると、作業に伴い生じる発生品に含まれるものと認められる。この点、審査請求人がA社から運搬終了後に産業廃棄物管理票の写しの送付を受けた事実は認められないことからすると、旧変圧器の搬出は、A社が、本件契約における発生品等の無償引取りに基づき履行したものと認められ、対価性がないことから、本件支払対価の額には旧変圧器の搬出に係る費用が含まれていないと認められる。本件条項において、契約書記載の物品が完了検査に合格したときに、物品の所有権はA社から審査請求人に引き渡されたものとするとされているから、完了検査を実施し合格とした平成29年3月30日、審査請求人は、A社が対価を得て行った役務の提供の全てを受けたものとなり、旧変圧器の搬出に係る費用が含まれていない本件支払対価の額は、同日の属する本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれることとなる。【参照条文】消費税法第2条《定義》、第30条《仕入れに係る消費税額の控除》廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
関連項目 審査事例 -
2025/05/12 経営レポート
法人のための共通認証システム -GビズID-
1.はじめにGビズIDは、法人(個人事業主も含む)のための「共通認証システム」のことであり、GビズIDアカウントを用いることで、複数の行政サービスをオンラインで利用することができるとされる。始まりは、2019年12月20日に閣議決定されたデジタル・ガバメント実行計画(注1)に、「法人等に係る行政手続等の利便性向上のための法人デジタルプラットフォーム整備」が盛り込まれたことに起因するとされているが、それに先立つ2018年から経済産業省は、行政手続等のデジタル化を効果的に進め、かつデータを十分に活用できる環境を構築するための開発を進めており、法人版マイナンバーである法人番号を活用し、一つのID/パスワードで複数の行政サービスにアクセスできる認証システムであるGビズIDを2019年2月にリリースしている。現在は、ものづくり補助金やIT導入補助金等の申請や社会保険の手続き等がインターネットからできるようになっているが、これらを実施する際に必要となるものが、GビズIDであり、これからの企業経営に不可欠となる各種電子申請には欠かせないものであるといえる。本稿では、まず、GビズIDの詳細を見ていくとともに、GビズIDの取得や利用の方法を解説する。2.GビズID(法人共通認証基盤)とは経済産業省は、第4次産業革命において、様々なモノがつながるコネクテッド・インダストリーズへと産業が変革していく中、行政もデジタルファーストの考えの下で「デジタル・ガバメント」への変革が必要であり、事業者の意思決定の迅速化、生産性向上、新たな価値創造を図ることで、産業競争力の強化の実現を図るとして、2017年頃より、法人が利用可能なデジタルプラットフォーム(図1)の構築を順次進めてきた。図1法人デジタルプラットフォームの全体像(注2)この法人デジタルプラットフォームでは、法人申請者の実在性をオンラインで認証し、各種電子申請の受付やデータへのアクセス管理を実現する仕組みの整備や、APIを通じた行政システム・データの連携・活用が進められており、これらを政府全体に展開・活用することで、デジタル・ガバメントの進展を支える基盤とすることを目指している。この取り組みの中で構築された法人申請者の実在性をオンラインで認証する仕組みが「GビズID」であり、従来は、手続き毎に登記簿等を用いて個別に法人等の実在を確認して発行された個別のID、パスワードを用いて手続きを行う必要があったものを、1つのアカウントで様々な事業者向け行政手続システムにログインできるようにした(図2)。2020年4月からは、資本金1億円を超える法人等の特定法人を対象に、社会保険・労働保険・雇用保険に関する一部の電子申請が義務化されているため、その際の法人申請者の確認に用いられているほか、2020年4月から開始されたマイナポータル経由での電子申請サービスへの対応や、2020年11月からのe-Gov(電子政府の総合窓口)への対応も進められており、現在は、国が提供する56件の行政サービス、自治体が提供する130件の行政サービスで利用されている。2025年3月末でGビズIDを取得している法人数は、613,805(全法人の22.8%)、また、個人事業主アカウントの発行累計数283,889となっており、現在までにこれら法人、個人事業者がGビズID経由で手続きを行った回数は約2,600万回を超えるなど、GビズIDの活用が進んでいる(注3)。図2GビズIDによる複数手続きへの一括ログインここで、GビズIDを取得する具体的なメリットには、以下のような事項がある。申請手続きにかかる時間やコストを抑えられる原則として24時間365日、自宅や職場等から場所を問わず行政サービスが利用できるようになるため、申請手続き等で役所に行く時間や手続きにかかる時間を大幅に短縮できる。また、交通費や郵送料も不要であり、GビズIDの取得にも手数料はかからないため、手続きにかかるコストを抑えることが可能となる。アカウントの管理が容易になるGビズIDを用いることで、ひとつのID・パスワードで複数の行政サービスを利用することが可能となるため、従来のように行政サービスごとにID・パスワードを取得する必要が無くなり、アカウント管理が容易になる。また、GビズIDのアカウントには有効期限がないため、一度取得すれば更新の手続き等も不要である。電子申請書類への電子署名が不要になる電子申請に移行することで書面での申請で必要であった押印が不要になることはもちろんだが、GビズIDによりログインすることで、申請や手続きを行う者の確認を実施することとなるため、電子文章への電子署名も不要となる。このため、従来、電子書類に電子署名を実施するために必要であった有料の電子証明書の取得も不要となり、①と合わせて必要コストを削減することができる。3.GビズID取得・利用GビズIDには多くのメリットがある反面、GビズIDには、「GビズIDエントリー」「GビズIDプライム」「GビズIDメンバー」の3種類のアカウントが存在するため何を取得すればよいかがわからない、いろいろ準備が必要そうで取得が面倒との意見も多い。「GビズIDエントリー」は、もっとも簡便に作成できるアカウントであり、事業を行っている者であれば、デジタル庁のGビズIDエントリー作成サイト(注4)より、メールアドレスのみでアカウントを作成することができるが、利用できる行政サービスに制限がある。一方で、「GビズIDプライム」は、法人の代表者や個人事業主に限って作成可能なアカウントであり、その作成に当たっては厳格な確認を行う必要があるが、すべての電子申請、行政手続きに対応できる。「GビズIDメンバー」は、GビズIDプライムの子アカウントであり、組織の従業員用のアカウントとして、GビズIDプライム利用者が作成、許可したサービスのみ利用できるアカウントとなる(表1)。表1GビズIDのアカウント種別また、GビズIDエントリーについては、GビズIDエントリー作成サイト(注4)にて、ログインIDとして用いるメールアドレスのほかに、自身で作成したパスワード、法人番号、法人名、法人所在地、代表者名等を入力し登録することで、即時アカウントが発行される一方で、GビズIDプライムのアカウント発行には、申請者の実在性等を審査する必要があるため、書類申請の場合、アカウント発行に最大1週間の時間を要する。また、ログインのセキュリティ強化のために、スマートフォン/携帯電話を用いた二要素認証が必須となるため、スマートフォン/携帯電話が必要となる。GビズIDプライムは当初、書類郵送によるアカウント申請のみの対応であったため、GビズIDプライム作成サイト(注5)にて必要事項(GビズIDエントリーと同様の内容に加え、携帯電話の番号)を入力して申請書を作成し、法人は、法務局が発行する代表者印の印鑑証明書を、個人事業主は、本人の実印の印鑑登録証明書を入手するとともにし、証明書に登録された登録印で申請書に押印し、すべての書類をGビズID運用センターに郵送する必要があった(表2)。また、運用センターでの審査終了後に、GビズIDプライムが作成され申請者に通知されるため、当初は利用可能となるまでに2-3週間程度を要しており、GビズIDプライムの入手に時間がかかり、助成金等の申請締め切りに間に合わない等の課題があった。表2GビズIDのアカウント登録に必要となる情報・書類等このような状況を受け、GビズIDの運用を引き継いだデジタル庁は、2023年8月に個人事業主、2024年3月に法人代表者からの、スマホアプリとマイナンバーカード(JPKI)を利用したオンライン申請受付を開始した(注6)。オンライン申請であれば、即時ではないが、通常当日中にはアカウントを取得することが可能となる。但し、オンライン申請時には、法人代表者のマイナンバーカード(JPKI)を用いて電子署名を行うため代表者本人が申請を行う必要があること、JPKI電子証明書に記載された法人代表者情報と法務省の管理する登記情報DB(登記事項証明書データ)が一致した場合のみ申請が受理されること、申請には、メールアドレス、パソコン、マイナンバーカード以外に、マイナンバーカードの読み取りが可能なスマートフォンが必要であること、オンライン申請できる法人は、株式会社、有限会社、合同会社等であり、現時点では、医療法人、社会福祉法人や財団法人等には未対応であることに注意が必要である。また、GビズIDメンバーについては、GビズIDプライムの利用者が、アカウント付与者のメールアドレスのみで随時作成することが可能となるが、他のGビズIDメンバーを追加できる管理権限を持つGビズIDメンバー追加に関しては、利用者の厳格な本人確認を実施するために、アカウント作成後にマイナンバーカード(JPKI)を用いた承諾書への電子署名が必要となる。次に、GビズIDの利用方法を見ていこう(注7)。図3に示すように、GビズIDエントリーは、登録時に入力したメールアドレス及びパスワードのみを用いてログインできるが、利用できるサービスに制限があり、ログインする者の実在性等の確認ができていないことから電子申請の際の電子署名を不要にすることができない。このように、GビズIDエントリーについては、GビズIDのメリットを十分享受できないため、原則GビズIDプライムの取得を検討すべきである。GビズIDプライム及びGビズIDメンバーについては、ログイン時に行政手続きを行う法人等の厳密な確認を実施するためメールアドレス/パスワードに加え、スマートフォン・携帯電話を用いた二要素認証が必須となる。このため、スマートフォンにインストールされたGビズIDアプリを用いる場合には、PCでのログイン後にあらかじめ登録されたGビズIDアプリに通知が送られ、アプリ側で承認したのちにログインとなる。また、SMS認証を用いる場合には、登録された携帯番号にワンタイムパスワードが送付され、それをPCで入力することでログインとなる。但し、SMS認証については、なりすましやSIMスワップ詐欺等の攻撃が増加していることから2025年12月を目途に廃止が予定されており、今後はGビズIDアプリを用いた二要素認証に統一される予定である。このため、法人でGビズIDプライム及びGビズIDメンバーの運用を行う場合には、GビズIDアプリを利用するスマートフォンとして、個人所有、法人契約のスマートフォンのどちらを利用するか等についての社内規定を整備しておく必要がある。図3GビズIDを用いたログイン4.終わりに本稿では、電子申請や行政サービスの利用に役立つアカウントであるGビズIDについて見てきた。2024年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、各府省庁における事業者向け行政手続・補助金申請等のデジタル化をより一層進めることを求めており、2025年度以降、補助金申請については電子申請対応を原則とするとしている。一方で、日本年金機構の令和6年度の業務実施状況(注8)を見ると、GビズIDによる電子申請に対応する資格取得・喪失届や異動届等の主要7届書の電子申請割合が70%まで上昇している⼀⽅で、電⼦申請利用事業所数は32%程度に留まっており、その原因は、全国250万事業所のうち95%程度を占める被保険者50人以下の事業所(常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所を含む)の電子申請割合が29.8%と非常に低調なことにある。これは、特に中小企業へのGビズIDの普及が進んでいないことを示唆しているが、電子申請が原則となりつつことから、今後はGビズIDが無いと困るという状況が多くなってくると考えられる。先に述べたように、GビズIDの取得は無料であり、有効期限もないため、必要になった際に慌てることの無いよう、事前取得の検討をお勧めしたい。<注釈>「デジタル・ガバメント実行計画」(2019年12月20日閣議決定)(内閣官房),https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/densei_jikkoukeikaku_20191220.pdf経済産業省による事業者手続のデジタル化について(経済産業省),https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/digital/20200219/200219digital02.pdfGビズIDの利用状況に関するダッシュボード(デジタル庁),https://www.digital.go.jp/resources/govdashboard/gbiz-idGビズIDエントリー(メールアドレス)登録(デジタル庁),https://gbiz-id.go.jp/app/baa/reg/mailaddr/inputGビズIDプライム書類郵送申請(デジタル庁),https://gbiz-id.go.jp/top/apply/prime_document_02.htmlGビズIDプライムオンライン申請(デジタル庁),https://gbiz-id.go.jp/top/apply/create_prime.htmlGビズIDご利用ガイド(デジタル庁),https://gbiz-id.go.jp/top/manual/manual.html日本年金機構の令和6年度の取組状況について令和6年12月(日本年金機構),https://www.mhlw.go.jp/content/12508000/001403968.pdf提供:税経システム研究所
続きを読む
関連項目 経営レポート,行政DX -
2025/05/12 審査事例
税務署が一方的に告げた功績倍率に基づき役員退職給与は一部損金不算入、過少申告加算税賦課決定処分は適法と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】法人が支給した役員退職給与の額のうち、法人税法第34条《役員給与の損金不算入》及び法人税法施行令第70条《過大な役員給与の額》に規定する「不相当に高額な部分の金額」の有無の判断には、いわゆる、功績倍率法(最終月額報酬×勤続年数×功績倍率)による算定金額が参考にされる。功績倍率には、同業類似法人の平均功績倍率、最高功績倍率があるが、いずれも法令の中に規定された数値ではない。平均功績倍率は、東京地裁昭和55年5月26日判決が示した「全上場1,603社の実態調査の結果から算出される功績倍率の平均が社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6」が一つの相場とされているものの、より大きい数値も認めた判決も、より低い値をデータ提供している書籍等もある。審査請求人は、前代表者へ支給した役員退職給与を全額損金に算入したところ、税務署が平均功績倍率法(500万円×30年×平均功績倍率2.04)を用いて、相当であると認められる額3億600万円を算定し、それを超える部分は「不相当に高額な部分の金額」で損金算入を認めない更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことから、税務署の算定方法は合理的でない、功績倍率を一方的に告げられ、過少申告加算税が課されることは納税者に甚だ酷で、課されない「正当な理由があると認められる」と主張した。国税不服審判所は、功績倍率を市販の書籍から調べることもできたとして、課税庁の処分を適法と判断した事例である。(平成30年2月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分、他・棄却・令和3年8月4日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人は、過少申告加算税が課されない「正当な理由があると認められる」場合に該当するか。【裁決の要旨】例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年10月24日判決)。確かに、功績倍率は、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況等を比較する場合の方法の一つである功績倍率法に不可欠な係数であるものの、法令等に定められたものではなく、審査請求人の主張するように課税当局において納税者にあらかじめ明示されているものではない。しかしながら、申告納税制度の下における法人税及び地方法人税の確定申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるべきであり、功績倍率があらかじめ納税者に明示されていないことを理由に、納税者が適正申告すべき義務を免れるものではない。そして、功績倍率については、業種別の功績倍率を記載した書籍が市販されているなど、審査請求人は、自らこのような書籍等から調べることも可能であったにもかかわらず、自らの判断と責任においてそれを行わず、本件退職給与の全額を損金の額に算入して申告をしたのであるから、審査請求人の主張する諸事情は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情とはいえず、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるということはできない。【参照条文】国税通則法第65条《過少申告加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
関連項目 審査事例 -
2025/05/09 商事法レポート
医療法人の社員による社員総会開催の可否 ~医療法人もガバナンスが問われる時代へ~
1はじめに近時、医療法上の社団医療法人に関する判例、裁判例が散見されます。近時の判例、裁判例においては、従前より、争いになることが多かった社団医療法人の出資持分のみならず、医療法人のガバナンスが問われる事例が増加してきました。最決令和6年3月27日民集78巻1号252頁(以下「本決定」といいます)は、医療法上の社団医療法人において、社員が理事長に社員総会の招集を請求したにもかかわらず、理事長が社員総会を招集しない場合に、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般社団法人法」といいます)37条2項を類推適用することにより、社員自身で社員総会を開催できるかが問題となりました。本決定は、一般社団法人法の規定の類推適用の問題のみならず、社団医療法人におけるガバナンスの在り方が問題となった事例といえ、参照する価値があります。そこで、本稿では、2で、医療法における社団医療法人の意義と社員総会に関する規定について確認し、3で本決定の事案と判旨、本決定に対する学説上の評価をご紹介した上で、4のおわりにで、本稿のまとめを行うことといたします。2医療法における社団医療法人の意義と社員総会に関する規定(1)医療法における社団医療法人の意義医療法は、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を支援するために必要な事項、医療の安全を確保するために必要な事項、病院、診療所及び助産所の開設及び管理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備並びに医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携を推進するために必要な事項を定める法律です(医療1)。医療法における医療法人制度は、医療事業の経営主体に対し、法人格取得の途を拓き、資金集積の方法を容易にすることにより、私人による病院経営の経済的困難を緩和するために設けられました(注1)。医療法人は、剰余金の配当をしてはならず(医療54)、その違反には罰則があり(医療93八)、医療法人は営利法人ではないと解されています(注2)。医療法の医療法人に関する規定においては、一般社団法人法の規定が多く準用されています。もっとも、医療法における医療法人においては、病院等の管理者が理事に加えられなければならず(医療46の5⑥)、医療法人を代表する理事長は、原則として、医師又は歯科医師である理事から選出するものとされ(医療46の6①)、都道府県知事の関与が予定されている(医療44①、46の5の3②等)点で、一般社団法人とは異なっています(注3)。医療法における医療法人は、社団医療法人、財団医療法人、一人医師医療法人、地域連携推進法人とに大別されますが、そのうち社団医療法人が99.4%を占めています(注4)。社団医療法人は、その主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けて設立されます(医療44①)。社団医療法人は、持分の定めのある社団医療法人と持分の定めのない社団医療法人とに分類することができます。持分の定めのある社団医療法人においては、出資者は出資額に応じて出資持分を有し、退社又は解散に際し、持分の払戻しを受けることができますが、社団医療法人が非営利法人であることとの関係が問題となります。持分の定めのある社団医療法人は、全医療法人の63.5%を占めています(注5)。持分ありの社団医療法人は、平成18年の医療法改正により、平成19年4月1日以後は設立することができなくなっています。(2)社団医療法人における社員総会の開催社員総会の意義社団医療法人においては、社員総会、理事、理事会及び監事の設置が義務付けらえています(医療46の2①)。社員総会は、社員により構成される会議体であり、医療法に規定する事項及び定款で定めた事項について決議をすることができます(医療46の3②)。医療法の規定により社員総会の決議を必要とする事項について、理事、理事会その他の社員総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、無効となります(医療46の3②)。社員総会の決議事項社員総会における法定決議事項としては、役員の選解任(医療46の5)、役員の報酬等(理事につき医療46の6の4、一般法人89、監事につき医療46の8の3、一般法人105)、役員の責任の一部免除(医療47の2②、一般法人113①)、貸借対照表及び損益計算書の承認(医療51の2③)、定款変更(医療54の9)、解散(医療55①三・②)です。また、厚生労働省は、社団医療法人の定款例を公表しており、かかる定款例においては、重要な資産の処分、社員の入社及び除名なども、社員総会の決議事項とされています(定款例19条)(注6)。社員総会の種類定時社員総会は、少なくとも毎年1回は開催されなければなりません(医療46の3の2②)。これに対して、臨時社員総会は、理事長が必要であると認めたとき(医療46の3の2③)、社員からの請求があったとき(医療46の3の2④)、監事が医療法人の法令定款違反等の報告をするために必要があるとき(医療法46の8四・五)に開催されます。社員総会の招集手続社員総会の招集通知は、社員総会の日より少なくとも5日前に、社員総会の目的である事項を示し、定款で定めた方法に従って行わなければなりません(医療46の3の2⑤)。また、社員総会における決議事項は、定款に別段の定めがない限り、招集通知に記載された事項についてのみとなります(医療46の3の2⑥)。定時社員総会における招集権者は、理事長になります(医療46の3の2②)。理事長は、総社員の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めることが可能)以上の社員から社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求された場合には、請求日から20日以内に、臨時社員総会を招集しなければなりません(医療46の3の2④)。もっとも、一般社団法人法と異なり、医療法には、裁判所の許可を得た社員自身による社員総会招集の手続の規定は置かれていません(一般社団37②)。監事は、医療法人の業務・財産の状況を監査した結果、医療法人の業務・財産に関し不正の行為又は法令定款違反の重大な事実があることを発見したときは、社員総会を招集することとなります(医療46の8四・五)。社員総会の運営社員総会の議長は、社員総会において選任されます(医療46の3の5①)。議長は、秩序維持権等を有しています(医療46の3の5②③)。理事及び監事は、社員総会において、社員に対し社員総会の目的である事項について説明義務を負っています(医療46の3の4)。社員総会の決議社員は、社員総会において、各1個の議決権を有しています(医療46の3の3①)。また、社員総会に出席しない社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、書面又は代理人によって議決をすることができます(医療46の3の3⑤)。社員総会の定足数は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の過半数の出席です(医療46の3の3②)。社員総会の評決数は、定款に別段の定めがある場合を除き、原則として、出席者の議決権の過半数です(医療46の3の3③)。議長は社員であっても議決に加わることができませんが(医療46の3の3④)、可否同数のときは、議長が決することになります(医療46の3の3③)。また、特別利害関係社員も議決権を行使できません(医療46の3の3⑥)。社員総会決議に瑕疵がある場合、医療法には決議取消しの訴えや決議無効確認の訴えに関する規定はないことから、社員総会決議の無効の主張又は無効確認訴訟を提起することができます(注7)。社員総会の議事録社員総会の議事については、議事録を作成しなければなりません(医療46の3の6、一般法人57①)。社員総会の議事録は一定期間の保存が必要であり(医療46の3の6、一般法人57②③)、社員及び債権者は、議事録の閲覧謄写請求権を有しています(医療46の3の6、一般法人57④)。3本決定の事案と判旨、学説上の評価(1)事案の概要医療法人であるZの総社員の5分の1以上に当たるX(申立人・抗告人・抗告人)らがZの理事長に対して理事選任及び理事報酬決定の件を付議事項とする臨時社員総会の招集を請求しましたが、招集の手続が行われないと主張して、一般社団法人法37条1項の準用により、社員総会招集の許可を求めた事案です。1審はXらの申立てを却下し、原審もXらの抗告を棄却したことから、Xらは抗告許可の申立てをし、原審が抗告を許可しました。最高裁においては、医療法人の社員が一般法人法37条2項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することができるか否かが争われました。(2)判旨最高裁の法廷意見は、以下のように判示し、抗告を棄却しました。「一般法人法は、一般社団法人の適切な運営のために、37条1項において、一定の割合以上の議決権を有する社員が理事に対して社員総会の招集を請求することができる旨規定し、同条2項において、その請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合などには、当該社員は、裁判所の許可を得て、社員総会を招集することができる旨規定する。これに対し、医療法46条の3の2第4項は、医療法人の理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨規定するが、同法は、理事長が当該請求に応じない場合について、一般法人法37条2項を準用しておらず、また、何ら規定を設けていない。このような医療法の規律は、社員総会を含む医療法人の機関に関する規定が平成18年法律第84号による改正をはじめとする数次の改正により整備され、その中では一般法人法の多くの規定が準用されることとなったにもかかわらず、変更されることがなかったものである。他方、医療法は、医療法人について、都道府県知事による監督(第6章第9節)を予定するなど、一般法人法にはない規律を設けて医療法人の責務を踏まえた適切な運営を図ることとしている。以上によれば、医療法人について、一般法人法37条2項は類推適用されないと解するのが相当である。そうすると、医療法人の社員が同項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することはできないというべきである。」また、渡邉惠理子裁判官の補足意見では、以下のような判示がなされ、医療法人の社員は、訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得て臨時社員総会の招集が可能であるとしつつ、臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得た場合の執行方法の可否等については今後の議論に委ねられているとしました。「医療法が、その現行規定上、社員に社員総会の招集権限それ自体を付与していない理由には、医療法人の責務や役割に照らし、社員による当該招集権限の濫用を防止する必要があるということが挙げられる。その一方で、医療法人の規模や経営形態、社員から臨時社員総会の招集を請求された理事長がこれに応じない理由や状況等は様々であり、社員において臨時社員総会の招集を実現させる法的手段を保障することが医療法人の適切な運営に必要である場合があることも否定できない。そして、医療法は、46条の3の2第4項において、理事長は、一定の割合以上の社員から臨時社員総会の招集を請求された場合にはこれを招集しなければならない旨を規定することによって、社員による社員総会の招集権限の濫用防止との調和を図りつつも、上記のような場合には社員が医療法人の運営に直接関与することを認めることによりその適切な運営を確保する趣旨に出たものと解される。このような同項の趣旨に照らすと、同項は、社員が医療法人の運営に関与する必要性があるというべき場合には、社員において理事長に対して臨時社員総会の招集を請求することができることとしたものと解することが相当であり、社員において臨時社員総会の招集を図るために採り得る法的手段として、訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得ることが考えられる。」(3)学説上の評価本決定の調査官は、医療法は、医療現場の意向が医療法人の経営に反映させるよう制度的に手当てをするなど、一般社団法人にはみられない規律を設け、医療法人の運営について都道府県知事の指導監督による是正が図られることを予定しているとして、社員からの請求にもかかわらず、理事長が社員総会を開かない場合については、裁判所の許可の申立てによる社員の権限行使よりも、医療法人の実情等に通じた監督官庁による監督権限行使等に委ねた方が適切である旨を指摘しています(注8)。本決定に対しては、濫用の予防を優先するため、結論としては一定の許可を得て総会を招集することを認めないことには十分な理由があるとする見解(注9)、渡邉裁判官の補足意見を前提に、社員が訴訟により社員総会の開催を理事長に求める際には、保全手続の利用が可能であることを指摘する見解があります(注10)。4おわりに本稿においては、医療法における社団医療法人の意義と社員総会に関する規定について確認したうえで、医療法上の社団医療法人において、社員が理事長に社員総会の招集を請求したにもかかわらず、理事長が社員総会を招集しない場合に、一般社団法人法37条2項を類推適用することにより、社員自身で社員総会を開催できるかが問題となった本決定の事案と判旨をご紹介してきました。本決定においては、医療法上の社団医療法人においては、一般社団法人と異なり、都道府県知事の関与があることから、一般社団法人法37条2項の類推適用を否定し、渡邉裁判官の補足意見で、訴訟によって社員総会の招集を求めることが可能である旨が示されました。本決定や学説の議論を踏まえると、社員が理事長に社員総会の招集を請求したにもかかわらず、理事長が社員総会を招集しない場合には、社員は、都道府県知事にその是正を求め、理事長に対し、訴訟によって社員総会の開催を求めることになります。本決定の背後には、理事長に対する監督等は、社員ではなく、都道府県知事が行うべきという考えがあるように思われます。もっとも、医療法人においては、都道府県知事による監督が必ずしも十分に機能していないとの指摘もされています(注11)。また、訴訟や仮処分による社員総会の開催には、一般社団法人法37条2項の手続に比べて、費用や時間もかかります(注12)。それらの指摘を踏まえますと、社団医療法人において、理事長に対する監督等を行うのが、都道府県知事のみでよいのか、それとも、一般社団法人の理事長に対する監督につき社員の関与をより一層認めていくべきなのかは、今後も注視していく必要があります。<注釈>昭和25年8月2日発医第98号各都道府県知事あて厚生事務次官通達厚生事務次官通達・前掲(注1)松嶋隆弘「社団たる医療法人のガバナンスの実効性に関する一考察」日法88巻4号(2023年)319-320頁今川嘉文『激変する医療法人の運営・資金調達・承継の法律実務』(日本加除出版、2023年)7頁今川・前掲注(4)7頁厚生労働省ウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000135131.html)(最終閲覧:令和7年3月24日)今川・前掲注(4)22-23頁一藤哲志「判解」ジュリ1606号(2025)91頁鳥山泰志「判批」法教531号(2024)113頁吉垣実「判批」新・判例解説watch民事訴訟法165号(2024)3頁(https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-061652514_tkc.pdf)(最終閲覧:令和7年3月24日)松嶋隆弘「医療法人社員による社員総会招集申立ての可否」税理68巻4号(2025)112頁鳥山・前掲注(9)113頁提供:税経システム研究所
続きを読む
関連項目 商事法レポート,重要判例紹介 -
2025/05/08 会計レポート
公益法人制度の改正(5)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、改正前公益認定法)が、昨年2024年(令和6年)5月に改正(改正後の法律は、以下、改正公益認定法)され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まりました。この改正の内容のなかで、今回は、「区分経理」を取り上げます。公益社団法人・財団法人は、公益目的事業のほか、法人の管理運営のための事業、さらに収益事業等を実施している場合があります。公益認定基準の1つである公益事業比率を把握するためには、公益目的事業を区分してその費用を把握しておく必要があります。また中期的な収支均衡は、公益目的事業について求められるため、やはり公益目的事業の収入及び費用を把握しておく必要があります。加えて、収益事業に係る所得は課税対象となるため、収益事業に係る収益及び費用を把握する必要があります。しかし貸借対照表においては、多くの法人がそれらの事業ごとの区分経理を実施していませんでした。今回の区分経理に関する改正は、収益・費用のみならず、資産・負債についても、それぞれの事業に応じた区分経理が求められることになりました。6.区分経理(1)改正前の区分経理とその理由上述の通り、収益・費用について、公益目的事業と収益事業等、法人管理運営に区分して把握することは、今回の改正に関わらず、行わなければなりません。それぞれの事業に係る会計区分(企業会計でいうところの会計単位)が設けられますが、改正前の区分経理では、複数の公益目的事業を有している場合には、それぞれの公益目的事業の区分を設けることが求められていました。その理由は、改正前に求められていた収支相償が、第一段階で個々の公益目的事業について求められており、第二段階で公益目的事業全体について求められていたためです。この二段階でのチェックは、公益目的事業全体で収支相償を充たしているとしても、その内訳となる事業のなかに恒常的に利益を生み出す事業が含まれている場合、いわば公益目的事業として相応しくない事業が含まれている場合がありえるためです。そのため、収支相償の観点から、まずは個々の事業について公益目的事業として相応しいか否かを判断するために二段階での判断が行われていました。改正前では、収益事業等会計についても複数の収益事業や共益事業を有している場合には、それぞれの収益事業等の区分を設けることが求められていました。その理由は、その実施により公益目的事業に支障が生じないことが公益認定基準に含まれていることに関連しています。すなわち、公益性のある事業を実施することを主目的とする法人にとって収益事業等を実施することは、あくまでも公益目的事業を実施するための財源確保の目的であることが想定されているため、収益事業等全体では利益を得られているものの、その内訳のなかに損失を生じさせている事業が含まれているとするならば、その損失を生み出す収益事業等は公益目的事業のための財源確保という観点からは支障がある事業であり、実施すべきではないことになります。こうした判断を行うことを可能ならしめるためには、収益事業等についても、その内訳となる個々の収益事業等について区分経理される必要があります。(2)改正の内容公益認定法第19条において、改正前には収益事業等会計を公益目的事業会計から区分し、かつ各収益事業等ごとに区分経理することが求められていたところを、次のように改められました。すなわち、公益目的事業に係る経理、収益事業等に係る経理及び法人の運営に係る経理をそれぞれ区分して整理することが求められることになりました。収益事業等を行わない公益法人にあっては、公益目的事業に係る経理及び法人の運営に係る経理を区分経理することになります。なお、収益事業等を行わない法人について、法人運営のためのものとして特定されているものを除き、全ての財産を公益目的事業会計に含めることも認められています。この措置は、「区分経理の代替措置」と呼ばれています。なお改正前に求められていた複数の公益目的事業や複数の収益事業等を有している場合の個々の事業ごとの区分については、改正前に要求されていた正味財産増減計算書内訳表での情報開示に代えて、注記事項のなかで開示されることとなります。以上の説明からは、資産と負債についても区分経理が求められるようになっただけのように思われるかも知れませんが、注目すべき点は、資産や負債についても区分経理することが、原則として全ての法人に要求されることになった点、並びに、公益目的取得財産残額の把握が簡素化された点です。公益目的取得財産とは、公益目的事業を行うために使用し、処分しなければならない財産を指し、具体的には公益認定を受けた日以後に受けた寄附金や補助金、公益目的事業におけるサービス等の提供に対する対価として取得した財産、収益事業からのみなし寄附金に相応する財産等が含まれます。そして公益目的取得財産残額は、特定の時点における公益目的取得財産の残額を指しますが、公益認定取消等の措置がなされた場合には、その残額相当額を国や地方公共団体に寄附、あるいは他の公益法人等に寄附しなければなりません。この公益目的取得財産残額の計算は、過去に遡及して行うことはたいへん煩雑となるため、これまで毎期、その計算のための別表の作成が求められてきました。今回の改正により、その別表の作成を廃し、公益目的事業会計の純資産(正味財産から名称を変更)の額を基礎として算定する方式に変更されました。(3)改正の基盤となる考え方区分経理に関わる基本的な考え方としては、収益と費用の区分経理と、資産と負債についても区分経理を一体化しようとする考え方があります。すなわち、公益目的事業会計に含まれる収益と費用、さらに資産と負債を1つの会計区分(会計単位)として把握することを意図しています。換言するならば、次の関係が成立するように区分経理されることを求めています。公益目的事業会計=公益目的事業財産の変動を収容する会計区分7.ガバナンス強化今回の改正では、行政手続きの簡素化が図られていますが、法人のガバナンスに関連する改正として、2,000万円を超える役員報酬等を受ける役員について、その金額やそれだけの額を支給する必要があることの理由を公表するよう求めることや、特別の利益を与えてはならない関係者を関連当事者に含めて必要な開示を行うことが定められました。加えて、法人運営が内輪の者だけで行われることで私物化されることを防ぐために、理事及び監事について、外部理事や外部監事を設置することが求められています。具体的には、理事のうち一人以上が外部理事であること、監事が外部監事であること(監事が複数である場合は、一人以上が外部監事であること)が求められるようになりました。外部理事や外部監事に関わる外部性(いわば要件)としては、現在かつ過去10年間、当該法人や子法人の理事(外部理事については業務執行理事)や使用人ではないこと、公益社団法人の場合はその社員ではないこと、公益財団法人の場合は創立者ではないこと等が求められています。なお、小規模法人(収益3,000万円未満、かつ費用・損失3,000万円未満)については、外部理事については適用が除外されます。こうした外部役員の設置については、それぞれ現在の全ての理事・監事の任期が満了する日の翌日から適用することができるよう、経過措置が設けられています。提供:税経システム研究所
続きを読む
関連項目 会計レポート,財務会計 -
2025/04/30 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(209)
1.はじめに4月から新入社員を迎えた会社も多いのではないかと思います。1日も早く職場や仕事に慣れてもらい、戦力として一人前になってもらうべく、熱い気持ちで指導する上司や先輩社員もいらっしゃると思います。特に営業系の部署などでは、新人であっても早い時期からそれなりに成果を出すことが求められることがあるのではないでしょうか。なかなか成果が上がらない新人に対して、一昔前のように、他の従業員の面前で、人格を否定するごとき言葉を次々に浴びせて吊し上げる……といった典型的なパワハラ指導が横行している企業は、この令和の世の中にあっては少ないでしょうが、そのような部下に対し、いくらか厳しめの言動で指導や叱咤激励して成果が出るように導くことは、上司の職務として必要な対処と言えます。企業におけるハラスメント防止のための規制は徐々に厳しくなっています。特にパワハラについては労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)において法的に定義が定められるとともに、パワハラ防止は事業主の義務と定められています。パワハラが原因で、従業員が心身の健康を害するようなことがあれば、損害賠償を求められることもありますし、その事実が公になれば会社として社会的信頼の損失にもつながることになります。一方で、昨今では、従業員側が自分の意に沿わない言動や指導を受けると、パワハラの定義に該当していないにも関わらず「パワハラだ!」と騒ぎ出すようなケースも珍しいことではありません。このようなことが続いてしまうと、指導する側も萎縮してしまい、部下に気を遣いすぎて十分な指導ができないといった悩みを聞くことも多くなっています。パワハラの定義は法令で定められていても、現場において、どこまでが「指導」でどこからが「パワハラ」なのか、明確に線引きをすることは簡単ではないというのが実情です。今回はグレーゾーンとも言える「パワハラ」と「指導」の境目と企業の対応について考えてみたいと思います。2.パワハラの定義とは?先述のとおり、パワハラ防止法においてその定義が定められています。パワーハラスメントとは優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであり労働者の就業環境が害されるもの(身体的・精神的な苦痛を与えること)(労働施策総合推進法第30条の2第1項)また、厚生労働省ではパワハラに該当する具体的な例として「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」など6つの類型を提示しています。(※)パワーハラスメントの定義について(H30.10.17厚生労働省雇用環境・均等局)https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdfしたがって、上記の定義が全て満たされなければ法的にはパワハラではないということになるのですが、定義や6つの類型に当てはめてみたときに、判断に迷うような微妙なケースも実際の職場では多く存在します。部下への配慮と思って発した一言やちょっとした行動が、部下にはハラスメントと認識されてしまう恐れもあることを、まずは認識しなければなりません。では、具体的にどのような言動が、いわゆる「グレーゾーン」として注意しなければならないものなのでしょうか。3.これってパワハラ?グレーゾーンの事例例えば、度重なる遅刻や勤務に相応しくない服装などを繰り返し注意しても改まらない部下に対し、一歩進んでやや強めの態度で注意するような場合は、先述の定義②③には該当せず、法律上のパワハラとは言えないと考えられます。では、以下のような場合はどうでしょうか。■ケース1仕事でミスをしてしまい、落ち込んでいる部下に対して激励の目的で「しっかりしろ!」と語気を強めて言ったり、背中や肩を叩いたりした。■ケース2部署の任意の飲み会にあまり乗り気ではなく、出席しても毎回つまらなそうにしている部下に対し、「あまり誘うのも悪いかな」と、上司が気を遣ってその部下を飲み会に誘わなくなった。■ケース3育成を目的として、部下が現在担当している業務とは別に、横断的な業務や関連する事務作業を新たに担当させた。どのケースも、上司の立場で見れば、「これのどこがパワハラ?」と首を傾げたくなるようなケースでしょう。しかし、部下の受け止め方によってはどのケースもパワハラと認定される恐れがあるのです。ケース1:背中や肩を叩いたことを部下が「暴力を振るわれた」と感じたり、「しっかりしろ!」と固い表情で語気強く言葉を発したりした場合に「精神的な苦痛」を感じたとしたら、パワハラに該当する可能性あり。ケース2:上司は良かれと思って飲み会に誘わなかったのに、部下の方は「自分だけ外された」と疎外感を覚えた場合、「人間関係からの切り離し」でパワハラに該当する可能性あり。ケース3:育成目的は理解できるものの、部下のスキルからすると負担の方が大きく、結果的に労働時間が長くなってしまった場合などは「過大な要求」でパワハラに該当する可能性あり。全てのケースに共通しているのは、上司の思いや言動の目的と部下の受け止め方がすれ違ってしまっていることです。上司からすれば「これがパワハラにされたら立つ瀬がないな」となってしまうでしょうが、今や部下とのコミュニケーションや指導の場ではここまでの注意が求められることを心に留めておかなければなりません。ではこうしたグレーゾーンと言える対処の際に、上司はどのような注意が必要なのでしょうか。4.ありがちな一言に気をつけよう法令で示された定義に該当するかどうか微妙なケースでパワハラの指摘を受けないためには、部下の心情や受け止め方に十分な配慮が必要です。「以心伝心」「空気を読む」というのは我が国の文化なのですが、これに頼りっぱなしだと、先述の「すれ違い」が起こることになります。受け手が「パワハラだ」と感じてしまえば限りなくパワハラ認定に近づいてしまいます。自分では思ってもいなかった受け止め方をされてしまうことを防ぐため、自分の言動の目的や、その言動がどのように受け止められるのかを、いま一度よく考えて部下に接するとともに、その目的も含めてはっきり言葉にして部下に伝えることが大切です。上司が指導のつもりで何気なく発した一言、冗談とも本気ともつかない一言を、部下は苦痛に感じてしまうこともあります。上司にとっては厳しい時代と言ってもいいのかもしれませんが、常に部下の立場で考える習慣をつけ、適切な指導で成長に導いていきたいものです。提供:税経システム研究所
続きを読む
関連項目 経営レポート,人事労務管理 -
2025/04/28 経営レポート
会計事務所が指導するDPOによる最短1ヵ月、最大9,900万円の資金調達
【サマリー】DPO(DirectPublicOffering=自己募集)を通じて1,000万円~8,000万円の資金調達に成功した3社の事例紹介。本稿執筆時点において、CFSPの指導により並行して6社がDPOを準備中。続々と案件が広がっている。DPOは約1ヶ月でほぼ確実に返済不要の資金が調達できる上、株主からの有形無形の応援を得られるなどメリットが多い。DPO指導は会計事務所の新たな収益となる。別会社を設立するケースが多く顧問先の拡大にもつながる。会計事務所にはDPO指導業務の担い手の役割が期待される。5DPOによる資金調達事例最大99百万円を最短1ヵ月で調達できるDPO(DirectPublicOffering)ですが、実際に調達に成功している事例が続々と生まれています。ここではいくつかの事例を紹介して参りましょう。(1)新会社設立後1ヵ月で8千万円を資金調達した飲食店Y社Y社は、農家向けサポート事業を行っているM社の創業経営者K氏が飲食店を立ち上げるために2025年10月に設立した新会社です。Y社では地域の農家直送野菜を特徴とするイートインデリのスタイルのカフェレストランを全国展開する計画です。Y社はK氏が9割を出資して資本金100万円で設立。第1号店の店舗設備及び初期運転資金の調達を目的にDPOを実施することにしました。発行する株式は、残余財産分配優先権及び剰余金配当優先権のある優先株式。税引後利益の30%を総額として優先配当する株式です。Y社では、募集上限を8千万円に設定。財務局に有価証券通知書を提出し、K氏の知人・友人・ファンを含むメルマガ配信先6,000名を対象に一斉同報メール送信で需要調査(出資意向調査)を実施しました。その結果、株主として出資をすることに関心があるとの有効回答は106名。出資意向の総額は1億2,800万円となりました。有効回答率は配信数に対して1.8%と平均値の3%よりも低い数値ではありますが、Y社では想定を上回る出資意向が集まったことで、通常3回配信するメールを1回のみで打ち切っています。通常は調査締切3日前のリマインドと、締切前日の配信の計3回の配信を行っていますので、Y社においても3回の配信を行えば3%前後になったと想定されます。需要調査終了後、ただちに有効回答者に対して、新株式発行概要書(目論見書)等の書類をメールで送付。株式申込証フォームにて正式な株式申込を受け付けました。正式申込を行ったのは、76名(申込率71.7%)、申込総額8,400万円(申込率65.6%)となりました。申込率は過去の平均値の50%と比較して高い値です。一人当たりの投資金額は平均110万円で、これはほぼ平均値です。なお、Y社では募集上限を8,000万円として有価証券通知書を提出していることから、増資額は8,000万円で打ち切り。超過額の400万円は返金しています。資本金100万円でスタートしたY社ですが、8,000万円の資本調達をして気になるのは議決権構成です。A種優先株式は剰余金の配当優先権と残余財産の優先分配権を持つ性格上、普通株式と比較して1株あたりの発行価格が高く設定されているのが特徴です。その結果、A種優先株主の議決権は全て合わせて15%。普通株主である創業経営者グループが増資後も議決権の85%を維持しています。(2)9,900万円の調達を実現した創業支援コンサルティング会社E社E社は起業家育成及び創業支援に力を入れるコンサルティング会社です。地域の自治体との連携により創業支援イベントの企画運営を進めるとともに補助金等のサポートを行っています。E社では将来の上場を念頭にすでに有償新株予約権の発行による資本調達を行っているとともに、優先株式により、合わせて5,000万円の資本参加の意向を数社からいただいたところですが、これを機会にDPOでの募集を組み合わせることにしました。DPOのご案内先は、T社長の名刺交換4,000名ほど。これに加えて、2,500名のフォロワー数のあるNoteでの発信も行っています。DPOでの需要調査フォームは、CFSPにて標準化。以下の形式によって、優先株式への関心に加えて、出資可能金額について選択肢で回答していただいています。選択肢は50万円程度、100万円程度、200万円~300万円。500万円程度、1,000万円程度、2,000万円以上の6つ。50万円という回答が比較的多くなりますが、調査対象の母集団によっては、高額の選択が多いケースもあります。E社の場合、需要調査の有効回答数は40件と多くはありませんでしたが、意向総額は66百万円と高い水準となりました。正式申込件数は28件、4,900万円。これに募集前から意向のあった50百万円を加えて99百万円の増資となりました。E社の場合、28件の正式申込の平均投資単価は175万円と通常の2倍近く。需要調査において「2,000万円以上」と回答された1名が実際に2,000万円の申込をされていることが平均単価を押し上げました。「1,000万円程度」や「2,000万円以上」を選択される方は、50件に1件くらいのイメージですが、それでも選択肢を置くことで、時にはこのような大口の出資を得ることができる場合もあります。(3)800人の需要調査で1,100万円を調達。医療系スタートアップA社。調達金額の大きな2社の事例を紹介しましたが、多くのDPOではむしろもう少し小粒な調達が行われています。再生医療に必要な細胞の選別装置(セルソーター)を開発するA社。VC3社からの1億円の資金調達に加えて、株式投資型クラウドファンディングで5千万円を調達。これに続いて行ったのがDPOです。DPOでは、追加の運転資金を調達すべく1千万円程度を目標として約500名の医師その他メディカル系のネットワークと既存の株主及び新株予約権者300名ほどを対象に需要調査を行っています。A社では既にVCに対してA種優先株式とB種優先株式を発行していることから、今回設計したのはC種優先株式。前の2社とは異なり研究開発型スタートアップで開発が先行して当面、利益の計上が見込めないこともあり、剰余金の優先配当はなく、残余財産の優先分配権のみを有する株式としてC種優先株式を設計しています。需要調査の結果は、有効回答数44名(5.5%)と平均値を大幅に上回る水準でした。ただ意向総額は3,050万円。一人当たりの平均意向額は69万円と平均水準を下回りました。正式申込件数は19名(申込率43%)、申込金額は1,050万円と目標は上回ったものの、一人当たりの申込金額は平均55万円で、平均値の100万円と比較すると低い水準でした。A社では既存株主と既存新株予約権者300名を需要調査対象としていますす。その大半が株式投資型クラウドファンディングの投資家です。ご紹介した2社とは異なり、EXITによる金銭的リターンを目的とする投資家も多いこと、分散投資でより多くの案件に投資をしたいと思っている投資家も多いことが、このような結果につながったと思われます。有効回答率が高いのは、母数の中で株式投資の経験者が多いこと、スタートアップへの理解が深いことが要因と考えられます。以上、3つの事例を紹介してきましたが、本稿の執筆を行っている2025年3月8日現在、4社が平行してDPOの準備を進めています。このうち環境関連スタートアップのC社は、SNSのフォロワー約5,000人を中心に需要調査を実施。有効回答数は90件で意向総額は1億円を超えました。このほか小売店向けマーケティング支援、食品製造業、DX関連スタートアップの3社が需要調査の準備に入っています。続いて、資本政策の打ち合わせを行っている会社がDXサポートを事業とする中小企業が2社あります。この2社は、まず自らがDPOを実行した後に、当社CFSPのパートナーとして、DPOをそれぞれの得意先に広げることを検討しています。1社は介護施設向けにDXサポートを行う会社で。もう1社は大企業及び中堅企業向けにSAPなどERPの導入コンサルを行う会社です。それぞれのイメージは自社の製品やサービスのファイナンス付販売です。返済不要の暖かい資金であるDPOは本来、中堅中小企業向けです。従来の融資やリースと同様、製品サービスの販売に組み合わせることで、飛躍的に利用者は増えることでしょう。6DPOのメリット・デメリット(1)DPOのメリット中小企業にとってこれまで縁遠かった資本調達(エクイティファイナンス)を身近なものとしたDPOですが、そのメリットを整理すると次の通りです。顔の分かった知り合いだけの投資参加による安心感株式を発行して資金調達をするイメージは、VCやCVCなどの専門投資家や証券会社の周囲の個人投資家、あるいは資本提携先となる企業など、ハードルが高く感じられるのが通常でした。また見ず知らずの投資家が株主として参加することへの不安も感じられました。DPOでは、需要調査対象は、知人、友人、お客様、お取引先など、会社や経営者の身近の人たちです。株主として参加されるのはそのうち事業に共感、賛同するいわばファン。需要調査のご案内をお送りしない人からが株主になることはないことから、安心感があります。返済不要の安定資金の確保借入と異なり株式発行による資金調達(資本調達)は返済不要。借入の場合は、返済原資を利益から生み出してこなければならないことから、むしろ月々の資金繰りは厳しくなるのが実際です。これに対して資本調達の場合は、調達後の資金繰りに不安を感じることなく、設備投資や開発投資など、長期的な視点で会社の未来を見据えた先行投資をすることが可能です。投資後の株主からのサポート身近なファンからの投資は、金銭的リターンよりも経営者及び事業への共感や支援の目的意識が強いのが特徴です。小売店や飲食店などBtoCの事業では、株主自らが顧客として応援いただけるほか、顧客紹介などで売上増に貢献いただけます。株主にとってもサポートを通じて会社の業績が上がれば、配当や企業価値向上につながるまさにWIN=WINの関係です。需要調査によるプロモーション効果需要調査でのポジティブな回答率は平均3%と説明しましたが、残り97%の方は、需要調査でどのように感じているのでしょう?調査シートには最後に「ご意見、ご質問」の項目があり、自由にコメントを記載いただけるようになっています。実は、投資にポジティブな反応をいただけなかった人も多くがコメントをしていただいています。株主になっていただけなかった理由は様々です。最低単位の50万円の資金拠出が厳しいと感じられる方、株式投資はそもそも行わない方針の方、株式についてよくわからないと思っている方など。共通するのは投資ができなかったことを「申し訳ない」と感じていることです。それは投資とは別の形で応援したいという気持ちの裏返しとも言えます。需要調査では、事業概要や事業計画の要約などを添付してお送りします。図らずも自然な形で身近な多くの方へ事業内容が伝わります。DPOの後で売上が増加する会社が多いのは、株主からの支援だけでなく、需要調査対象となった遍く多くの皆さんが事業への理解を深め、応援の輪が広がっている証と言えましょう。安定的な経営権の維持事例でご紹介した3つのケースではいずれも優先株式を発行しています。剰余金の配当や残余財産の分配の優先権がある一方で、議決権シェアを低く設定しているのが特徴です。Y社のケースでは、設立時の資本金は100万円。全て普通株式で発行価格は10円。100,000株を発行しています。これに対してDPOで発行した優先株式は1株あたり50,000円で合わせて1,600株を発行し、8,000万円を調達しています。優先株主は、剰余金の範囲内で、当期純利益の3割を総額に普通株主に優先して配当を受けることができる上に、会社解散時には残余財産から投資額と同額の1株あたり50,000円の優先分配を受ける権利を持ちます。1株当たりの議決権は、普通株式も優先株式も同じであることから、増資後も創業株主は86.2%の議決権比率を維持していることになります。将来の上場を計画するシード期のスタートアップでは、優先株式に代えて株価を定めずに次回の増資の株価に株価を連動させる有償新株予約権(J-KISS型新株予約権)等、CFSPでは、その会社の状況に応じて最適なエクイティファイナンスを提案しています。最短1ヵ月で確実な資金調達VCやCVCからの資本調達では、相手の組織的な意思決定に時間を要することから、資金調達が実現するのは最短でも3ヶ月先。長いケースでは6ヶ月待たされることもあり、それも投資意思決定に至らないことも少なくありません。資金調達する側としては、その間、不安な精神状態で待ち続けなければなりません。これに対してDPOは、調達資金の額に多寡はあるとはいえ、最短1ヵ月でほぼ確実に資金調達ができるのが特徴です。それは対象が個人であり、50万円からの投資ができるので、その日のうちにYES、NOの意思決定ができるからです。前編の標準スケジュール表で示したとおり、最初の2週間で準備をして3週目で需要調査。4週目を正式な申込期間として設定すれば、1ヵ月後には着金されます。株主に束縛されないことVCやCVCからの調達では、、投資契約又は株主間契約を結ばされるのが一般的です。会社法では株主を保護する目的で、株主の権利と経営者の責任を明確にしていますが、投資契約や株主間契約では、特定の株主に対する経営者の責任を重くしているのが特徴です。例えば、会社法では経営意思決定は株主総会で定めるべきことを除き、取締役又は取締役会が決定できることとされていますが、株主間契約書で一定の事項については事前にVC等の特定の株主の承認を必要とする旨を定めたりします。VC等はファンドの投資家に対してパフォーマンスを確保する責任を負っていることから、投資先を厳しく監視し指導することが求められていますので、経営者はそれを覚悟で経営に臨む必要があります。勿論VC等による経営監視と指導が原動力となって会社が成長し、上場に至るケースもありますが、実際にはVC等の年間投資件数1,500件に対し、上場するのは年間100社のみ。事業計画通りに進まない場合、多くのケースでは経営者にとって精神的につらい立場が続きます。これに対して、DPOの場合は、優先株主に株主間合意書に合意を求めるものの、VCとの株主間契約書とは異なり、株主が万が一、反社に該当した場合などの強制買取条項など、経営者にとって有利な条項が示されています。経営者の株主に対する責任は当然ありますが、それは会社法が定める忠実義務の範囲です。株主からの暖かい支援をいただきながら、それに甘えることなく、事業目的の遂行のために誠実に経営を行うこと。すなわち会社法が期待する株式会社の本来の姿を実現するのがDPOなのです。(2)DPOのデメリットと留意点DPOの最大のデメリットとして指摘されているのは株主の増加です。非上場会社においては上場会社と異なり、株主名簿管理や株主総会の開催についての知見や人的リソースが不足していることが多く、コスト増が懸念されるところです。ただ、近年においては会社法の改正によって電磁的な方法による株主間コミュニケーションが進んでおり、以前ほどコストや手間を意識しなくても良くなっています。具体的には、株主総会の招集通知の発送、委任状による議決権代理行使について、郵送ではなく電子メールで行えるようになりました。取締役会設置会社においては、招集通知は原則として郵送で送らなければなりませんが、株主の承諾を前提に電子メールにより発送することができます。CFSPが指導するDPOにおいては、株式申込の際に合意いただく株主間合意書に電磁的方法による招集通知の送付への承諾の条項が含まれています。なお、取締役会非設置会社については、招集通知はどのような方法で送付しても良いことから、電子メールで送付することに制約はありません。議決権の代理行使については、会社が承諾すれば、委任状を電磁的な方法により送付することが可能です。そもそも電磁的な方法での議決権代理行使の方法を用意するのであれば承諾しているということになります。また委任状はメールに添付して送る方式のほか、Googleフォームや他のフォームアプリを使った委任状フォームに入力する方法も電磁的方法として認められます。招集通知をメールでお送りした上で、委任状フォームに誘導する形でスムーズな運用が可能です。なお、株主総会の開催については、一定の条件のもとで上場会社が行う場合を除き、完全なオンライン開催は認められていません。リアルの会場は用意しなければなりませんが、ハイブリッドによる開催は可能です。ただしオンライン参加の株主はオンライン上での議決権行使は認められません。上記の委任状を電磁的に提出することで議決権の代理行使をしていただくことなります。株主名簿管理については、CFSPのサポートメニューとして株主名簿の作成及び管理を代行しています。定款で定める株主名簿管理人ではなく、あくまで会社の行う名簿管理業務のサポートとして行っています。実質的には株式の異動はほとんどありません。CFSPの提携する会計事務所の行う会計税務業務と連動して、会社法が求める計算書類等の作成を行うとともに、招集通知として株主名簿に登録されている株主を対象として、会社にメール送信をいただく指導をしております。株主が増加することについてもう一つデメリットとして指摘されているのは、反社会的勢力またはその関係者(以下「反社」といいます。)が株主に含まれてしまうリスクが高まることです。上場準備をしている会社は上場審査に大きな影響が及ぶとともに、VC等がそれを懸念して資金調達が難しくなる場合もあります。ただしDPOの場合は、経営者の知り合いで構成される需要調査先のみが株主として参加しており、株主が多くなるといっても、経営者自身が反社関係者でなければ、周囲に反社がいる可能性は極めて低いと言えましょう。また、株主が増加するといってもその数は、多くても100名程度。何千人もの株主が増えるわけではありません。さらに、先に紹介した株主間合意書には、万が一、DPOで参加した株主が反社と関係があることが判明した場合における、強制買取条項が含まれています。しかも契約行為代理権を経営株主に付与する条項も含まれており、強制的かつ自動的に買取ができる強力な合意書となっています。したがって、反社が株主に含まれて問題となるリスクは、ほぼゼロといってよいでしょう。このほか、留意点としては、図らずも金融商品取引法に違反してしまうリスクです。特に、私募の人数通算規定、募集の金額通算規定が極めて複雑な規定となっていることから注意が必要です。例えばDPOで8千万円の調達を行った後、3ヶ月以内に私募で2千万円以上の調達を行い、合計で1億円以上となってしまった場合です。私募で参加する株主が1名であったとしても、過去3ヶ月以内に行った増資と通算して勧誘人数が50人以上となると募集となり、その金額の合計が1億円以上となると有価証券届出書が必要な募集に該当してしまいます。また1年以内に募集を何度か行って、その金額が1億円以上となった場合には、やはり有価証券届出書が必要な募集に該当します。気を付けなければならないのは、通算される有価証券の種類です。私募の人数通算と募集の金額通算では、通算される有価証券種類の範囲が異なっています。私募通算では、配当条件の異なる種類株式は別の種類とされて通算されませんが、募集通算では、配当条件は関係なく、すべての株式及び新株予約権は同じ種類として通算されます。一度、金融商品取引法違反をすると、その後のファイナンスに大きな影響が及ぶので、専門家のサポートを受けながら慎重に行う必要があります。金融商品取引法違反で別の観点で注意が必要なのは、金融商品取引業者としての無登録勧誘に該当するリスクです。次項では、会計事務所がCFSPのパートナーとしてDPOサポートをする場合における留意点として、会計事務所のリスクを説明していますが、同様に、発行会社が他のコンサルティング会社やマーケティング指導会社に自ら行うべき投資勧誘を委託したり、顧問など役員や社員でない者がその者の周囲に勧誘を行ってしまうと金融商品取引法違反となる可能性があるので十分に注意する必要があります。7会計事務所の行う顧問先DPOサポート筆者が代表を務めるCFSPでは、DPOの指導ノウハウの標準化を進めています。DPOでは、優先株式などのエクイティスキームの設計やそれを含む資本政策の策定、金融商品取引法の規制に則った書類の作成と提出、需要調査の手続きと回答フォームの書式およびその集計、目論見書および株式申込み手続きのドキュメントなど、一連の専門知識とノウハウが必要です。個々の企業の実情に応じた最適な資本調達を指導する責任があります。CFSPでは、これらの専門知識とノウハウを専門家に提供し、事業を拡大いただくパートナー制度を運営しています。その中心を担うのが会計事務所です。CFSPとパートナー契約を締結し、その指導に従ってDPOサポート業務を行っていただいています。日本では株式を発行して資金を調達しているのは主に4,000社の上場会社と将来の上場を考える10,000社ほど。一般の中小企業では外部株主が増資を引き受ける形で資金調達する慣行はこれまでありませんでした。それは株式を金融商品として投資する対象と考える投資家からの資金調達のみを考えてきたからです。会社法の原点に立ち返り、株主の共同事業としての株式会社が、本来の株主を募るのであれば、その対象は、会計事務所の顧問先である200万社の中小企業に広げることができるのです。ただ、歴史のある中小企業にとっては、外部の株主が参画そのものに抵抗があることも少なくありません。そこで、会計事務所が中小企業の顧問先のDPOをサポートする際に、特にCFSPがお勧めしているのが、別会社を新設する方法です。例えば、工場の生産性を高めるためにロボットの導入を検討している中小企業を考えてみましょう。銀行借入を受けられれば問題ありませんが、すでに売上高と比較して高い水準の借入残高となっている場合や、キャッシュフローから返済原資が生まれないと判断される場合等、融資が受けられないとロボットの導入も進められません。このようなケースでCFSPがお勧めしているのは、ロボットを保有することを目的とする子会社の設立です。子会社がDPOで資金調達を行い、ロボットを購入。そのロボットを親会社に賃貸するスキームです。DPOに投資参加した優先株主には、親会社から受領するロボット賃貸収益を原資に子会社から優先配当をすることができます。この方法では、親会社となる会社は株式会社でなくても問題ありません。社団法人、社会福祉法人、医療法人、あるいは個人事業主であっても可能です。DPOを行うのは子会社でなくても、事例で紹介したY社のように、経営者個人が発起人となって出資する会社でも問題ありません。CFSPでは、現在、パートナーとなる会計事務所の行うDPOサポートを支援するアプリケーションとして、「DPO-AIアシスタンス」を開発中です。AIを活用して、DPO指導業務の一部を自動化するアプリです。この夏のリリースを予定しています。DPO指導業務における会計事務所の手数料は、CFSPの受取手数料の最大30%相当額。顧問先をCFSPにつなぐだけでも、10%のフィーが得られます。CFSPの報酬は調達金額の10%なので、5,000万円の資本調達をサポートした場合、最大150万円の手数料を獲得できることになります。しかも、別会社を設立するケースが多いと想定されることから、DPOを指導するたび新たな顧問先が増加することも見逃せません。ただ一つ、パートナーとなる会計事務所に是非ご注意いただきたいことがあります。それは、金融商品取引法に抵触することがないようコンプライアンスを徹底いただくことです。顧問先がDPO(自己募集)として株式を周囲にご案内しているのであれば問題ありませんが、気を利かせ過ぎて会計事務所が他の顧問先などに声をかけてしまうと、金融商品を無登録で投資勧誘したみなされ、金融商品取引法違反で罰せられる恐れがあります。CFSPの指導に従って、会計事務所としては、手続の指導とドキュメント作成指導に徹することが極めて重要です。8DPOに関するQ&A最後にDPOに関するよくある質問について整理してみました。それぞれの回答をご参考としてください。(Q1)当社は資本金100万円ですが、3,000万円の増資を行って経営権に問題が出ませんでしょうか?(A1)時価発行や種類株式によって増資後の経営者の議決権割合は9割程度を確保する設計をおこなっています。無議決権株式やJ-KISS型新株予約権で外部株主が全く議決権を保有しない設計を行う設計も可能ですが、経営の参加意識を持っていただくことで応援いただきやすくなるプラスの効果もあります。様々な状況を考慮して最適な議決権となるように自由に設計が可能ですので、改めてご相談ください。(Q2)49名以上への増資はできないと聞いていましたが、法律上問題ないのでしょうか?(A2)多くの方が誤解していますが、日本の法律(金融商品取引法)では、50名以上への投資勧誘(募集)はできないのではなく、募集をするために「開示規制」と呼ばれる規制に従う必要があります。特に1億円以上の募集については、公認会計士(又は監査法人)の監査証明付された財務諸表を伴う「有価証券届出書」という50頁にも及ぶ書類を提出し、EDINETという金融庁の公開WEBサイトで一般に開示することが求められています。有価証券届出書を提出した会社はその後、継続して上場会社と同様の「有価証券報告書」を毎年決算期から3ヶ月以内に提出し、開示しなければなりません。有価証券報告書に含まれる財務諸表には公認会計士の監査が必要です。したがって監査を受けていない企業は1億円以上の募集を行うことはできません。一方、1億円未満に募集については「有価証券届出書」の提出は免除されており、2頁のみの簡易な「有価証券通知書」を財務局に提出すれば足りることとなっています。「有価証券通知書」は一般に開示されるものではありません。CFSPのDPOサポートは、1億円未満の募集(50人以上の不特定多数への勧誘)を、金融商品取引法に従って「有価証券通知書」を提出して行うものです。(Q3)上場前に株主が増えると上場できなくなると言う人がいますが、どうなんでしょうか?(A3)証券取引所や上場引受主幹事は上場審査にあたって反社会的勢力が関わっていないことを確認する必要があります。そのために全ての株主について反社チェックを行っています。株主が多いとその確認の手間が増えることがあるのと、株主が多くなることでその中に反社が含まれるリスクが高まるとの考えから、上場審査への影響に言及する人がいます。しかしながら、反社チェックの結果、問題がなければ株主が多いこと自体が上場審査にマイナスとなることはありません。むしろ流動性確保の観点から上場審査においては一定の株主数が必要とされており、上場審査上は、株主が多いことはむしろプラスとなります。会社として会社を応援する株主が多いことで、株主からの有形無形のサポートを得られ、会社の発展にはプラスとなることが多いと考えられます。(Q4)増資後に株主から買戻しを求められた場合には、どうしたら良いのでしょう?(A4)金銭を対価とする取得請求権付の種類株式を発行する場合を除き、株主から会社が買い取る義務はありません。ただ、経営者等と売買契約を締結の上、任意で買い取ることは可能です。(Q5)当社としては、特に親しくしている20名ほどに限定して増資を行いたいのですが、どうでしょうか?(A5)20名に対する投資勧誘は「私募」となりDPOではありません。DPOが多くの人を対象に需要調査を行うのは確率論からであり、誰が会社や事業にどの程度関心を持っているかや、株式に対する投資をそもそも行うか否か、金銭的な余裕などが、わからないことがあります。あらかじめ、身近な20名の投資意向が明らかなのであれば、敢えてDPOとして募集を行う必要もありません。ただし私募で行う場合には、記載したDPOのメリットは得られませんのでご注意ください。(Q6)DPOの後、ただちにVCに向けて1億円の第三者割当増資を行うことは可能でしょうか?(A6)金融商品取引法では有価証券の私募の通算規定があり、過去3ヶ月以内に行われた「同一種類の有価証券の投資勧誘を通算して人数が50名以上となり、金額が1億円以上となる場合には、有価証券届出書が必要な募集」に該当するとされています。ここで「同一種類」というのは配当条件が同一ということなので、配当条件が異なる株式であれば可能です。また3か月後であれば同一種類の株式であっても問題ありません。(Q7)DPOの資金調達について調達時及び調達後のコストはどのくらい必要でしょう?(A7)CFSPでは完全成功報酬型のサポートでは調達金額の15%、CFO代行サービスを行う場合には、月額10万円+成功報酬10%のコストとなります。当方としては、その後の継続的なサポートも含めて行うCFO代行サービス付きをお勧めています。なお会計税務顧問を希望される場合はこのコストに含まれます。CFSPに対するコストのほか、増資の登記費用(増加資本金額の7/1000と司法書士報酬(5万円~10万円程度))が必要となります。株主総会の招集及び運営については、オンラインで行う場合にはほとんどコストはかかりません。(Q8)DPOにおいてCFSPは投資家を集めてくれるのでしょうか?(A8)DPOは創業経営者等の周囲から自ら募集する仕組みであってCFSPが外部の投資家から資金を調達するものではありません。非上場会社が外部の投資家から資金を集める方法としては「株式投資型クラウドファンディング」があります。第一種金融商品取引業又は第一種少額電子募集取扱業のライセンスがあれば可能ですが、法律により投資者一人当たりの投資金額の上限が50万円となっています(特定投資家は除く)。CFSPは株式投資型クラウドファンディング事業を2024年5月に売却しており、現在は行っていません。9おわりに筆者が1997年に創業して2010年まで代表を務めていたディー・ブレイン証券。当時、日本で唯一のIPO専業証券会社として、日本証券業協会が運営するグリーンシート市場の募集取扱主幹事業務で9割を超えるシェア、福岡証券取引所と札幌証券取引所の新規上場引受主幹事業務では6割とシェアと極めて高い存在感で中小企業の資金調達をサポートしていました。証券取引所における新規上場引受主幹事業務にかかるディー・ブレイン証券のビジネスモデルはいわば製販分離。投資家への販売はその100%をネット証券や中堅証券会社に委託し、ディー・ブレイン証券は引受主幹事としての指導、審査及び引受に特化するユニークなビジネスモデルを構築していました。一方、グリーンシート市場では直接、投資家に販売していましたが、対象の投資家は主に「拡大縁故募集」と称して、発行会社の周囲の知人・友人・取引先等でした。そのコンセプトは本稿で紹介したDPOと同じです。会社法が期待する株主の共同事業としての株式会社。その真の株主を募集していた唯一の証券会社がディー・ブレイン証券でした。ディー・ブレイン証券では1999年から2010年までの約10年間に、グリーンシートの募集取扱業務を通じて、140社の中小企業に対して、合わせて110億円の資本調達を仲介してきました。グリーンシートにはPTS(私設証券売買システム)による流通市場が整備され、換金の場も用意されていました。いま再び、非上場株式のための売買市場をつくろうとする動きが活発ですが、グリーンシートでは、当時、すでに非上場株式のための最先端の取引市場が機能していたのです。そのグリーンシートは2011年の金融審議会で廃止が決定。非上場会社の資本調達を金融商品取引業者が仲介する制度は、株式投資型クラウドファンディング(ECF)と株主コミュニティ制度に受け継がれました。筆者は2015年にCFSPの前身となるDANベンチャーキャピタルを設立。2017年にECF専業の金融商品取引業者のライセンスを金融庁から取得し、ECF業務を開始しました。ECFにより20社に対して4億円の資本調達をサポートしたものの昨年には、ブラットフォームであるCFAngelsを含むECF事業を東証プライム上場のジャパンインベストメントアドバイザーに売却。筆者の経営するCFSPでは、現在、上場会社270社のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)担当者が参加する「CVC投資戦略研究会」の運営を通じたスタートアップとCVCのマッチング、並びに本稿で紹介したDPOによって、非上場会社の資本調達をサポートしています。中小企業のための完成度の高いインフラであったグリーンシート市場と、その後継制度のECF制度。いずれも事業として継続を断念せざるを得なかった最大の要因は、金融商品取引業者としての規制の壁を乗り越えられなかったことにあります。金融商品取引法の趣旨は投資家保護を目的に金融商品取引の安全を図ること。例えそれが、金銭的リターンを目的としない非上場会社の株式への投資であったとしても、金融商品取引業者が仲介するのであれば、上場株式と同じ土俵で、金融商品とし発行会社には開示規制、金融商品取引業者には行為規制と呼ばれる様々な制約が課されます。その規制は発行会社と金融商品取引業者のコストアップを招き、資本調達の中小企業に広げる障害となるだけでなく、制度そのものの破綻に繋がってしまいます。その点、金融商品取引業者の仲介を必要とせず、開示規制も少額要件により対象外であるDPOは、中小企業に大きく資本調達を広げることができる可能性を秘めています。その最も有力な担い手となり得るのが会計事務所であると筆者は考えています。しかし、気をつけなければならないのは、このような制度を悪用して投資家から不当に資金を詐取するような事件が起きる可能性もあることです。1社1億円未満の範囲であれば、新会社を設立して優先株式による高い配当を謳い、高齢者など不特定多数から資金を集めるようなことができてしまいます。次々と新会社を作って資金を集めるような詐欺的な募集が横行すると、金融庁としても規制強化や新たな規制を考えざるを得なくなり、DPOも衰退してしまう恐れがあります。筆者としては、DPOが健全に発展できるよう、これをサポートする専門家の守るべき規範を整備するとともに、DPO指導手続のさらなる標準化と一部自動化を進めるAI-DPOアシスタンスの開発で、全国の会計事務所等の専門家を通じた普及を図る所存です。ディー・ブレイン証券が生まれるきっかけとなったのは、筆者が1996年にリリースした「インターネットベンチャー投資マート」でした。会社を応援する株主を募ることを目的としたこのシステムは、今日の株式型クラウドファンディングの世界の草分けとも言えますが、その法的な性格は、発行会社の自己募集の支援システムでした。ディー・ブレイン証券の前身の株式会社ディー・ブレインが運営しているブラットフォーム「インターネットベンチャー投資マート」。株式の仲介をしているとの誤解も生む仕組みが問題と指摘され、証券会社化することになり、それが金融商品取引の規制に翻弄される結果を招きました。30年の月日を経て、筆者としては金融商品取引法を徹底して遵守して、誰が見ても透明性が高く、悪用もされない中小企業の資本調達のインフラとしてDPOを確立、発展させていく覚悟です。前編の冒頭で紹介したように、今回が筆者の本研究レポートの執筆の最終回となりました。ディー・ブレイン証券の代表を辞任した翌年の2011年にミロク情報サービスの是枝会長にお声がけいただいてから14年。読者の皆様には、長年にわたり拙稿をお読みいただき、心より感謝申し上げます。またどこかで、お目にかかれますことを楽しみにしています。提供:税経システム研究所
続きを読む
関連項目 経営レポート,企業経営
4169 件中 (1-10件表示)