実務情報
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2024/12/02 審査事例
譲渡所得申告漏れの基因となった上場株式等が、銘柄別に区分記載されていなかったため、過少申告加算税の加重措置が適用された事例(棄却・却下)
【裁決のポイント】財産債務調書制度は、億単位の一定額以上の財産をもつ人に適用される。対象者には、財産債務の「種類別」、「用途別」(一般用か事業用か)、「所在別」情報の提出を求めることから、適正な提出へのインセンティブとして、過少申告加算税の特例措置がおかれ、財産債務調書に記載がある財産債務に関して所得税・相続税の申告漏れが生じても税務調査通知前の修正申告なら5パーセントに軽減(軽減措置)、反対に、記載がない(記載不十分を含む)財産債務に係る申告漏れは、その財産債務に関する加算税が5%加重される(加重措置)。本件の審査請求人は、令和3年に売却した上場株式等の所得の申告漏れに気づいて修正申告を行い、過少申告加算税は軽減措置とされたが、その上場株式等が令和2年12月31日時点の財産債務調書上で証券会社ごとに他の銘柄と国内株式等、債券等として一括合計記載されていたため、記載不十分として加重措置が適用されたことから、銘柄別ではないが記載はしてある、証券会社の残高証明書で内訳はわかると主張して軽減措置を求めて審査請求を行った。国税不服審判所は、加重措置の判断は財産債務調書の記載自体から行うべきであるとして、銘柄別に記載されていないから、軽減措置は適用されないとした事例である。(令和3年分の所得税及び復興特別所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分、他・却下及び棄却、令和6年2月7日裁決)【主な争点】財産債務調書上で銘柄別に記載されていない財産の申告漏れについて、過少申告加算税は、軽減措置が適用されるか、加重措置が適用されるか。【裁決の要旨】財産債務調書の提出制度の趣旨から、財産債務調書には「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」を記載することが規定され、有価証券については、種類別、用途別及び所在別の数量及び価額並びに取得価額(種類別は、株式、公社債等の別のほか、銘柄の別)を記載することが規定されていることに照らすと、加重措置が適用される「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」とは、「財産の種類、数量、価額及び所在並びに債務の金額その他必要な事項」といった記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部が記載漏れとなり、修正申告等の基因となる財産又は債務の特定が困難である場合をいうものと解される。そして、加算税の加重措置及び軽減措置の適用の可否の判断は、財産債務調書の記載内容自体から行うべきであるところ、本件財産債務調書には、本件有価証券の銘柄及び数量の記載がないため、本件財産債務調書の記載内容からは本件有価証券を特定することは困難であると認められ、重要なものの記載が不十分であると認められる場合に該当し、過少申告加算税の計算において加重措置が適用され、軽減措置は適用されない。【参照条文】国税通則法第65条《過少申告加算税》内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律関係(国送法)第6条《国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》、第6条の2《財産債務調書の提出》、第6条の3《財産債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》国送法施行令第12条の2《財産債務調書の提出に関し必要な事項》国送法施行規則第15条《財産債務調書の記載事項等》国送法通達6の2-4《財産債務調書の財産の記載事項》、6の3-3《重要なものの記載が不十分であると認められる場合》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/11/29 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(204)
1.はじめに最近、全国各地において、管轄の労働基準監督署から是正勧告を受けている病院が相次いでいる模様です。折しも今年4月から「医師の働き方改革」が始まり、医師に対しても36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)の締結や労働時間管理、本来業務に専念できる環境の整備など適切な労務管理により労働時間を短縮して医師の負担を軽減し、今後も質の高い医療提供体制を維持していく取り組みが始まっています。そのような中、各地の病院が受けた是正勧告では、36協定を超える休日労働や時間外労働などを指摘されており、働き方改革への対応の遅れが目立っている現状が浮きぼりとなっています。皆様の事業所でも、労働基準監督署の調査を受けたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ある日突然、管轄の労働基準監督署から書面で来所日時が通告されたり、監督官が来訪したりといった形で調査が実施されることが多いのですが、まさに「突然」に調査が行われるため、会社としても十分な準備ができないまま調査に臨んでしまうこともあるようです。今回は労働基準監督署の調査の目的やその内容、調査の流れなどについて解説していきます。2.労働基準監督署の権限とは労働基準監督署(以下「監督署」)とはどのような役所で、どのような権限を持っているのでしょうか。監督署の役割は労働関係法令(労働基準法や労働安全衛生法など)を企業が遵守しているかを監督するほか、労働保険(主に労災保険)の保険料や給付事務などを担当する役所です。労働基準法などに基づいて一定の権限を与えられており、この権限に基づいて各事業所に調査を実施しています。厚生労働省が毎年発行している「労働基準監督年報」の令和4年版によれば、監督実施件数(調査を行った件数)は171,528件となっています。令和2年~3年は実施件数がやや減少(15万件程度)したものの、それ以前の年次では概ね17万件前後を推移しており、コロナ禍の終焉とともに調査件数も正常化されたものと見られます。調査は一定の調査計画に基づいて行われる「定期監督」が142,611件、労働者からの法令違反の申告に基づき実施される「申告監督」が16,639件、過去に是正を指示された事業所に是正状況を確認する「再監督」が12,278件となっており、大半が管轄の事業所の中からランダムに選ばれた事業所への定期監督となっています。また、定期監督を行った事業所約14万件のうち約10万件の事業所で何らかの法令違反が指摘されており、労働時間に関するものが22,305件、労働条件の明示に関するものが13,853件、賃金不払いに関するものが5,925件と上位を占めています。労働安全関係法令や、労働基準法に付随する施行規則などに基づく帳簿等(有給休暇の管理簿他)の不備といったかなり細かいところまで調査及び指摘が行われていることも見逃せません。実際に調査を担当するのは「労働基準監督官」となりますが、法令違反を調査するため、事業所に立ち入りする権限だけでなく、司法警察員として逮捕・送検の権限も与えられています。法令違反が悪質なうえ、改善の姿勢も希薄な場合などは事業所の責任者が最悪の場合書類送検、社名公表といったことも可能なわけです。3.調査で何が調べられる?調査の後はどうなる?書面にせよ事業所への来訪にせよ、調査の実施が通知された場合、原則的に拒否することはできません。ただし、通知された日程では都合が悪い場合や、準備に時間がかかるなどの場合は、理由を説明すれば日程は調整してもらうことができます。では、この調査で何が調べられるのでしょうか。先述の通り、労働関係法令、安全衛生法令に関して全般的に調査を行うこととされていますが、具体的には以下の事項について調査が行われることが一般的です。事業内容・従業員数(パート等や派遣労働者数)・外国人労働者の有無労働条件・労働時間・36協定や変形労働時間協定の締結状況賃金の支払状況(未払い賃金の有無)年次有給休暇に関すること(実施状況や休暇の管理について)定期健康診断の実施状況・医師の面談指導・ストレスチェックの状況これ以外にも、業種によっては機械設備の安全管理の状況や工場などの作業環境の状況などが調査の対象となる場合もあります。これらの事項について、就業規則・36協定他の各種協定書・タイムカードや賃金台帳、有給休暇管理簿、健康診断結果の控えなどの帳簿の確認および事業主や実務担当者へのヒアリングにより調査が進められます。調査の結果、法令違反や違反とは言えないまでも改善が必要と判断された場合は「指導票」により改善指導がなされることとなります。是正勧告書等により是正・改善が指示された事項は、勧告書等に記載された期限までに対処を行い、どのように対処を行なったのかについて「是正報告書」などにより担当の監督官に報告を行わなければなりません。対処に時間を要するために期限までに違反状態を改善できない場合は、是正報告書で対処方針や途中経過、対処完了の時期見込みなどを報告し、対処完了まで定期的に報告を行なっていくことになります。是正勧告等が行われたにもかかわらず何の対処もしない、または是正報告書を期日までに提出しないなどの場合は再調査が行われ、違反状態が悪質な場合は書類送検などの強行的な処分が行われることもありますので注意が必要です。4.突然の調査に慌てないためには先述の通り、監督署の調査はランダムに抽出した事業所に実施する「定期監督」が大半となっているため、例えば「5年に1度」といったように実施時期を予想するのは難しいことです。社歴が長いにもかかわらず、10年以上調査を受けたことがない企業もある一方で、前回の調査から1年~3年程度でまた調査を受ける企業もあり、そこは様々です。それだけに、通知を受けると慌ててしまうのは無理もないところではあるのですが、調査で確認される帳簿等はほとんどが法令で定められたいわゆる「法定帳簿」となっています。タイムカードや賃金台帳、労働者名簿、労働条件通知書などの法定帳簿は日頃から十分に整理をしておくことがまずは一番の対策と言えるでしょう。また、労働基準監督年報のデータにもあるとおり、是正を指摘される事項で最も多いのが「労働時間」に関するものです。具体的には36協定届や1年単位の変形労働時間制の協定届の未提出を指摘されているケースが多いようです。これらの協定届等は毎年提出することが原則ですが、これを失念して未提出となっていることも多いので注意するようにしましょう。監督署の調査やそれに伴う是正勧告・改善指導への対処を面倒に感じることは無理もないことかもしれません。しかしながら労働関係法令は、遵守していると思っていても、勘違いや不注意などで実は違法状態となっていたというケースが珍しくありません。調査をきっかけにそうした勘違いや不注意が判明し、適正な状態に改善する良い機会になることすらあり得るわけです。監督署の調査を「労働安全についての会社の定期診断」のようなものととらえ、誠実に対応していきたいものです。提供:税経システム研究所
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2024/11/29 経営レポート
戦略的医療機関経営 その162
【サマリー】今回のレポートは、入院患者の重症度や医療・看護必要度に応じて、収益が異なることをきちんと認識することと、より高い収益を得るために、どのような患者像をターゲットとし、その狙った患者像をどのように集患(客)するかを考察する。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.重症度、医療・看護必要度は病床機能を評価する指標特に急性期医療機関にとって、患者の重症度、医療・看護必要度は、入院患者への手厚い看護が必要となるかの判断材料となり、急性期病床の機能を評価する重要な指標となります。入院患者に必要な看護必要度を把握し、その必要度に合わせた人員を配置することが目的です。急性期医療機関にとって「手厚い看護の必要性」とは、患者の手のかかり具合の事で、医学的な重症度とは異なります。例えば、何らかの原因で昏睡状態になっている患者と、認知症の既往がある患者では、医学的な重症度は昏睡状態の患者が高いですが、看護必要度から考えると、認知症の既往のある患者のほうが「目が離せない」「一人にしておけない」ことから看護必要度は高くなります。看護師の「手がかかる」ということは、多くの人手が必要となることになりますので、多くの看護師、看護助手などが必要となります。多くの人員がいるということは、より高額な人件費が必要となることにつながるので、看護必要度の高い患者が多くいる病棟には高い診療報酬を配分する仕組みとなっています。以前は「看護師が多くいる」ということは、「手のかかる患者が多くいる」こととして、より高い診療報酬が配分されていましたが、様々な調査の結果、看護師は多くいるが、そこの病棟に入院している患者は必ずしも「手のかかる患者ではない」という調査結果があり、この調査に基づいて当該病棟に入院している患者の重症度、看護必要度を毎日判定し、一定数以上の割合で、決められた重症度の患者がいることという条件が加わりました。この条件が加わったことで、より高い収益を得たい医療機関同士で重症度の高い患者の取り合いが起っています。表1:一般病棟用の重症度、医療・看護必要度(R6年度改定)出典:厚生労働省資料表2:患者評価A項目(R6年度改定)出典:厚生労働省資料入院している患者をA項目、B項目などの項目別に評価し、点数化します。そして、A項目の得点が2点以上かつ、B項目が3点以上など集計し、割合を計算します。その割合を表1の基準に照らし合わせて、算定できる入院基本料が決定します。この評価基準や評価項目は病床の種類によって異なります。最も基準が厳しいのは、集中治療室の患者評価です。表3:患者を増やすアプローチ表(機能別)赤枠は筆者加筆出典:病院経営事例集https://hpcase.jp/management-improvement-dakkyaku3/急性期機能の病院の患者の代表的なアプローチ法は、表3の通りです。中でも重症度の高い患者を集めるためには、それぞれのアプローチ法にさらにアレンジする必要があります。まず、「連携先から患者を紹介してもらう」についてです。より重症度の高い患者を紹介してもらうためには、信頼関係が必要です。重症度の高い患者を紹介しても大丈夫と思っていただくことが大事です。そのためには医療技術の向上、最新の医療設備などをまずは知っていただくことから始めます。次に全国から重症度の高い患者を集めたい場合は、当該患者像を絞り込む必要があります。あの病院に行かなければ手術ができない。あそこに行かないと放射線治療ができないなどです。重症度が高い頭頚部の疾患、ステージの進んだがんなどが具体的な疾患と考えます。筆者のクライアント先病院のコンセプトが「がん患者の最後の砦になる」「がん患者の要望にすべて応える」という医療機関があります。この病院ではいち早く放射線治療器を導入し今では、種類の異なる放射線治療器を複数台稼働させています。さらに最先端の放射線治療器を現在準備中です。稼働時間も9時から22時までと外来での放射線治療の患者の要望にも応えています。さらに現在は保険適用にはなっていない免疫療法などを行うために、自費診療のクリニックも開設しています。積極的にマスコミなどにも出演した結果、全国から患者が集まってきます。近年では国内に限らず外国から患者もやってくるようになりました。病院内ではこのような医療ツーリズムに対応するために「国際医療部」なる部署も立ち上がっています。最後に救急車の搬送台数を増やしたい。特に重症患者の搬送を増やすためにはどうすればよいのかということですが、救急医療は1次(初期)、2次、3次と分かれています。救急車による救急搬送は、2次救急と3次救急です。3次救急はドクターヘリなどで搬送されるなど重症度が特に高い患者が対象となります。患者の搬送先は消防本部が指示します。したがって、一医療機関がどのようなアプローチをしてもあまり効果はありません。残るのは2次救急の患者です。この2次救急の患者が最も多いので、この救急患者の内、重症度の高い患者を自院に搬送してもらうためにはどうすればよいのかを考えます。2次救急の患者の搬送先は3次救急の患者の時とは違い、現場の救急隊が搬送先の病院を決定します。したがって、アプローチ先は「救急隊」ということになります。救急隊は、消防署に待機していますので、消防署に出向いてアプローチすることになりますが、相手は公務員ですので、いわゆる営業では重症患者は増える見込みはありません。「救急隊にとって困っていることを助ける」ことから始めることが良いと思います。筆者が経験した事例を紹介します。まず消防隊へ院長と同行してのあいさつ回りを行います。挨拶の折、「今度、救急隊と病院とで意見交換会を開催したい」とお願いします。まず断られることはありません。この救急隊との意見交換会では、日ごろ、救急隊が当院に対して感じていることや要望したいこと、相談したいことを聞き出すことがポイントです。この引き出した意見が、救急隊の困っていることです。そこで出てきた意見の例としては、「病院敷地内に救急車が回転できるスペースがほしい」「消防署に帰って洗車はするのだが、患者を搬送終了後、救急車車内を洗える設備がほしい」(患者の血液など)「鼻出血の患者を受け入れてほしい」「搬送した患者がその後どうなったか教えてほしい」(すべての搬送患者ではないが)などがありました。当該病院では、ひとつひとつ要望を解決していきました。その結果この病院の救急車搬送台数は飛躍的に伸びました。その後、救急隊の方々の病院内施設見学を実施し、病院の設備、対応能力を理解していただき、徐々に重症度の高い患者が搬送されるようになりました。3.在宅復帰率「在宅復帰率」とは、入院患者の退院先のうち「自宅等に退院したものの割合」です。患者に必要な医療を病院の機能に応じて適切に提供する医療体制に向けた医療機関の機能分化を図る観点から、入院患者の在宅復帰や医療機関間の連携の推進を目的として、急性期から慢性期までの機能を担う病棟の入院料の施設基準の要件となっています。□自宅等に退院する者の割合の計算自宅等に退院するものの割合=直近6か月に自宅等に退院した患者数/直近6か月の退院患者数※自宅等の範囲自宅、居住系介護施設(介護医療院、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、認知症対応型グループホーム、有料老人ホーム等)、介護老人保健施設、有床診療所、他院の療養病棟、他院の回復期リハビリ病棟、他院の特定機能病院リハビリ病棟、他院の地域包括ケア病棟診療報酬点数上、在宅復帰率のしばりがある点数は次の点数です。急性期一般入院料1、在宅復帰機能強化加算、回復期リハビリテーション病棟入院料在宅復帰率を高くするには、入院患者の送り先の確保が重要です。自宅等は、前述のように患者自宅だけではないので、在宅復帰率の計算に該当する施設を確保しておく必要があります。それらの施設でも受け入れ不可能な患者などの条件もあるので、事前に協議を持っておくことが良いです。また在宅へ移行後の在宅で医療の対応も必要になります。在宅復帰率を高めたがゆえに早すぎる退院は、論外です。在宅復帰に関してメリットとデメリットを整理しておきます。□在宅復帰のメリット患者は住み慣れた自宅で過ごせる必要な介護を選択しながら過ごせる生活に、はりが出やすい介護にかかる費用が少なくなることがある常に家族などがそばにいるので安心最期をみとることができる□在宅復帰のデメリット急変時の対応が不安事故のリスクがある生活環境が合わないことがある家族の介護の負担が大きくなる家族が自分の時間が取りにくくなる福祉用具の購入や、住環境の改修が必要になる□在宅医療イメージ出典:厚生労働省資料在宅復帰率のことばかり考えて、在宅復帰しやすい患者ばかり入院させると、重症度の低い患者ばかりとなってしまいます。きちんと自分たちの医療レベルを上げて、在宅復帰率を上げるようにしなければなりません。在宅復帰は在宅医療へのバトンタッチでもありますので、在宅医療の医療機関等への引継ぎも重要です。経営的なことを考えるのであれば、自らの法人内で在宅医療の受け皿や介護施設などがあると、連携がスムーズになり、急変時の対応などの不安も解消されます。提供:税経システム研究所
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2024/11/28 会計レポート
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(19)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による製品開発時の取り組みを取り上げ、原価の見積りとその検証について説明します。2.原価見積り同社の商品企画から量産にいたる段階では(注1)、コストレビュー会や商品化会議が行われます。これらの会議での参考情報として、原価推進責任者を中心に商品の原価を見積ります。商品原価の多くを占めるのが部品費です。部品費の見積りには、設計見積り、コストテーブルを用いた見積り、取引先による見積りの3つの方法があり、これらを組み合わせて行います。商品企画の段階では設計見積り、製品企画の段階では主にコストテーブルを用いた見積り(注2)、基本・量産設計の段階以降では取引先見積りが多くなり、実際原価に近づいていきます。(1)設計見積り設計者自身によって行われる原価見積りです。商品企画の段階では、まだ図面がない構想設計ではあるものの、早い時点から設計見積りを行うことが重要です。製品企画の段階の終盤以降では、部品の仕様が図面に反映され、構想設計よりも精度の高い見積りを行うことができます。設計見積りでは、設計者自身が原価見積りを行い、実績値と対比して分析することで、QCD(品質、コスト、納期)のバランスをとりつつ、特徴がある商品を開発できるようになることが理想です。これを実現するため、同社では、設計者自身が原価見積りを行えるように、簡単な計算式で見積りを行うツールである「簡易見積書」が準備されています。また、3D-CAD(ComputerAidedDesign)に部品図の原価を計算できるソフトが組み込まれているものもあります。(2)コストテーブルを用いた見積り原価管理部門では、コストテーブルの策定・改訂、コストテーブルによる評価・分析を担当しており、これらを用いた原価見積りが行われます。コストテーブルは、材料費、加工費(=加工賃率×工数)、輸送費、梱包費、(取引先が確保する適正な)利益、管理費等について、材料の種類ごとの加工方法に合わせてコストテーブルを作成し、これらを組み合わせて原価見積りを行います(注3)。コストテーブルは、以下の4つの用途で使用されます。新商品原価の評価:設定された原価の条件による設計図面を基に行う原価見積り。競合機原価の評価:設計された原価の条件によって分解された部品から見積りのパラメータを抽出する原価見積り。目標額の設定:自社機や競合のベンチマーク機のコスト評価額を使って部品費や金型費目標額を設定したり、部品見積額や加工費等を積み上げる商品目標額・費目目標額を設定したりする。原価改善:ベンチマーク活動からの原価低減や、物理指標目標(重量・部品点数・ねじ点数・I/O本数(注4)等)からの改善のための原価見積り。(4)取引先による見積り標準・共通の部品以外の部品図面が作成されると、部品費の目標額とともに取引先に原価見積りを依頼します。依頼先は、生産条件や取引実績、安定供給等、調達戦略・条件に基づいて選定され、競争見積りを行うこともあります。3.見積原価の検証製品企画から生産準備の段階では、見積原価を検証します。原価推進責任者は、部品費や金型費の見積額を算出した後、各目標額に対する達成状況を可視化し、改善策を検討します。ここで実行される主な検証には、開発活動機能別の達成検証、高額部品別の達成検証、材料種類別・取引先別の達成検証があります。(1)開発活動機能別の達成検証開発活動機能別の目標額に対して、設計見積額、コストテーブルの見積額、取引先の見積額の3項目を並記し(注5)、取引先の見積額で目標の達成状況を最終的に判断します。目標未達の場合、達成のための改善策を検討します。基本的には、「設計見積額≧コストテーブルの見積額」の時は設計の見直しを、また、「コストテーブルの見積額≦取引先の見積額」の時は調達交渉の再検討を行う方向で改善します。ここでは、見積額を基に、参加する各部門(開発、調達、生産)が連携して改善策を実行することが重要です。(2)高額部品別の達成検証部品の目標額とコストテーブルの見積額および取引先の見積額との差異を算出し、差異が大きい順にリスト化します。プロジェクトの参加部門は、差異要因に基づき、改善策を検討します。(3)材料種類別・取引先別の達成検証材料種類ごとに、目標額とコストテーブルの見積額および取引先の見積額との差異を算出、リスト化し、取引先別にグループ分けします。差異要因に基づいて、プロジェクトの参加部門が改善策を検討します。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>同社の製品開発には、商品企画、製品企画、基本・量産設計、生産準備のステージがあります。詳細は、第17回の記事をご覧ください。一部では、取引先による見積りも行われます。部品や材料ごとに、原価情報をまとめた資料(データベースとしての役割を持つもの)を、コストテーブルと言います。詳細は、第12回の記事をご覧ください。I/O本数は、input/output本数の略称であり、電気ハード設計で、センサー系、制御系、操作系等の回路の入力と出力場所を決めた本数のことです。一部の見積額しかない部品もあります。提供:税経システム研究所
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2024/11/27 経営レポート
退職に関わるトラブル回避(第7回) ハラスメントに関する解雇2
【サマリー】前回は、職場におけるハラスメントが発生した際の処分や解雇に関して解説しました。ハラスメントのレベルは、刑法上の違法行為から、民法上の不法行為、行政法上の行為、企業秩序違反に分類され、これらに応じて懲戒処分や解雇などの措置が取られこと、そして場合によっては企業側にも責任が及ぶことを確認しました。また、懲戒や解雇を行う際には、ハラスメント行為の内容、被害の規模、加害者の反省度などを慎重に考慮し、就業規則に基づいて適切な処分を選択する必要があることを解しました。今回は、ハラスメントに関する実際の裁判例を4件ご紹介いたします。1.重要判例①「国立大学事件/前橋地裁平成29.10.4判決」大学が、部下9名のうち5名からパワハラ被害の訴えがあった大学教授に対し、諭旨解雇処分にする旨を告げたが、その場で承諾しなかったため懲戒解雇した件について、処分の切り替えに手続き上の瑕疵があり、非違行為は軽微で懲戒解雇は重すぎるとして、大学に慰謝料等の支払いを命じた事件です。<事件の概要>被告は、平成26年10月、原告である教授に対してパワハラおよびセクハラを理由に諭旨解雇処分を告げ、懲戒処分書と処分説明書を交付し、諭旨解雇に同意するか拒否するかの書類に署名するよう求めました。原告は、これらの書類を持ち帰り、応諾するかどうか検討したいと伝えましたが、被告は原告の行動をもって諭旨解雇の拒否と判断し、懲戒解雇に切り替えたと通告し、再び処分書類を交付しました。原告は解雇が無効であると主張し、労働契約上の権利確認と賃金の支払いを求めました。また、諭旨解雇から懲戒解雇への切り替えによって意思決定の機会を奪われ、精神的損害を被ったとして、民法709条に基づき100万円の慰謝料を請求しました。被告の就業規則には、「退職願の提出を勧告し、応じない場合は懲戒解雇とする」と規定されていましたが、裁判所は、諭旨解雇への同意を求めてから、懲戒解雇を申し渡すまで1時間しかないのは、「勧告に応じない」とは断定できないとしました。<判決の概要とポイント>この事件では、教授が諭旨解雇に同意するよう求められたものの、これを拒否したため、大学側が即座に懲戒解雇を通告しました。大学は、就業規則に基づき、退職願の提出に応じなかったことが懲戒事由に該当すると主張しましたが、裁判所は、懲戒解雇が通知されるまでの時間が1時間しかなかったことや、教授が家族や弁護士に相談する時間を求めるのは当然だとし、「勧告に応じない」に該当しないと判断し、手続きに問題があるとしました。裁判所は、従業員に十分な時間と機会を与えることが重要であり、形式的な同意ではなく、実質的な同意が求められるという観点から、大学側の手続きに瑕疵があると評価しました。ただし、手続きに不備があったとしても、その程度が軽微であると認定され、それをもって懲戒解雇自体の有効性を損なうものではないとしています。裁判所が手続的な瑕疵を軽微とした理由としては、懲戒事由が完全に欠如していたわけではないこと、諭旨解雇と懲戒解雇がどちらも教授の地位を失わせる点で共通していること、仮に懲戒解雇が違法とされても、改めて懲戒解雇手続きを行うに至ったと推察でき、違いは数日の猶予のみであることが挙げられています。一方で、裁判所は「原告の懲戒事由に該当するハラスメントの内容及び回数は限定的である。その上、原告のパワーハラスメントはいずれも業務の適正な範囲を超えるものであるものの業務上の必要性を全く欠くものとはいい難いし、また、原告のセクシュアルハラスメントが殊更に嫌がらせをする目的に基づいてなされたものとはいえないことからすれば、原告のハラスメント等の悪質性が高いとはいい難い。…本件懲戒解雇は、…被告の懲戒権又は解雇権を濫用するものであるから、無効である。」として、解雇は無効と判決されました。要するに、解雇手続きに軽微な違法があっただけでは懲戒解雇は無効にはなりませんが、今回のケースでは、原告である教授のパワハラやセクハラの内容や回数、これまで懲戒処分を受けたことがない点や、反省の姿勢を示していたことが考慮され、懲戒解雇は過度であると判断され無効となりました。懲戒解雇は労働者に対して、経済的・社会的に大きな影響を与えるため、裁判では非常に慎重に審査されます。そのため、ハラスメント行為者とはいえ、重大な問題を起こしていないにもかかわらず懲戒解雇された場合、裁判で争うことで、その解雇が無効とされる可能性があります。2.重要判例②「新聞輸送事件/東京地裁平成22.10.29判決」新聞輸送会社の営業所次長が、酒に酔った女性派遣社員に対してセクハラ行為を行い、これを対応した総務部副部長とともに降格処分を受けたため、2人がその処分の取り消しを求めた事件。東京地裁は、セクハラの行為の内容や被害者への配慮不足などを理由に、処分は人事権の範囲内で有効であると判断しましたが、年俸の減額に関しては、同意なしに減額できる合意が成立していないこと、また減額の権限がないことから、差額の支払いを命じました。<事件の概要>平成19年5月24日、X1(営業所次長)は派遣労働者Aらと飲食を共にし、その帰宅途中のタクシー内でAに対し、セクハラ行為を行いました。Aは、このセクハラ被害を上司であるX2(総務部副部長)に報告しましたが、X2はX1の言い分を軽率に信用し、Aの訴えに真摯に対応しなかったばかりか、不適切な言動を行いました。さらに、X2はY社(新聞輸送会社)にも、X1の説明を前提とした報告を行いました。その後、Y社は同年8月にX1を10月付で営業所副所長に昇進させる人事を決定しましたが、これを知ったAは会社を辞める決意をし、労働組合に相談しました。労働組合もこの件を団体交渉で取り上げることとしたため、Y社はセクハラ問題が適切に解決されていないと判断し、X2を担当から外して再調査を行いました。最終的に、Y社は11月にX1を営業所副所長の職から解任し、2階級の降格処分(年俸770万円から680万円に減額)を行い、X2にも1階級の降格処分(年俸840万円から800万円に減額)を発令しました。これに対して、X1およびX2が、降格処分の無効を主張し、降格前の地位またはそれに相当する地位にあることの確認と、降格後の賃金と降格前の賃金の差額分の支払いを求めました。<判決の概要とポイント>本件行為の内容は、被害者Aの申告通りであり、Aの意に反して行われた違法な身体的接触で、Aに羞恥心を与えるものでした。X1はセクハラ行為に該当する行為を行い、その結果、AはY社を退職し、Y社はこの申告に対応せざるを得ない状況となり、Y社の代表者がAに謝罪する事態に至っています。したがって、X1に対する降格処分には合理的な理由があり、これはY社の人事権の裁量の範囲内で正当な措置といえます。また、X2がその職責を十分に果たしていなかったことは明らかであり、X2に対する降格処分にも合理的な理由があります。これもY社の人事権の範囲内での適切な対応です。X1らとY社の間では、平成15年4月以降、年俸は職位や業績を考慮して決定されることに合意があり、年俸は職務内容や責任に応じて決定されるものでした。X1の昇格に伴って年俸が引き上げられたことからも分かるように、年俸は途中で変動することがありましたが、Y社が降格に伴って一方的に年俸を減額できるという確たる証拠はありませんでした。したがって、降格に伴う減給措置は無効とされ、X1らは平成19年度の年俸算定期間である平成20年3月31日まで、降格前の年俸との差額分を請求できる権利があるとしました。事業主は、労働者がセクハラにより就業環境が害されることがないよう、雇用管理上必要な措置を講じなければならない(男女雇用機会均等法11条)のは、雇用する労働者に対してのみですが、派遣法にて、雇用関係のない派遣先の労働者にも措置を講じるように定められています(労働者派遣法47条の2)。本件の場合、この措置が適正かつ公平に行われたとは到底いうことができず、降格措置に関しては議論の余地がないかに見えます。しかし、降格処分には、懲戒処分によるものと人事権の行使に基づくものがあります。今回、Y社がXらに対して行った降格処分は懲戒処分ではなく、人事権に基づくものでした。懲戒処分であれば、懲戒事由に該当するかどうかの審査が必要となり、さらに懲戒権の濫用が規制されます(労働契約法15条)。一方で、人事権に基づく降格は、基本的には使用者の裁量によって行うことが可能ですが、権利濫用の原則には従う必要があります。このため、降格が懲戒処分として行われたのか、それとも人事権の行使として行われたのかが争われることが多く、これらの違いを意識する重要性が再認識された事案といえます。また、年度途中で年俸を減額できるかどうかについては、減額を認めないとする学説や裁判例がありますが、使用者に減額の権限があるかどうかが問題となります。本判決では、Y社には、年度途中での年俸減額を認める権限が与えられていたとは認められないと判断されました。もし就業規則に減額を許容する条項があれば、権限が認められた可能性があったのではないかと思わせる判決となりました。いずれにせよ、裁判においては、人事権の行使は比較的認められやすく、賃金等の減額は認められ難いという典型的な判決と言えるでしょう。3.重要判例③「コンピューター・メンテナンス・サービス事件/東京地裁平成10年12月7日判決」従業員のセクハラ行為を理由とする懲戒解雇が有効かどうか争われた事件。<事件の概要>コンピューター管理と保守業務を主な業務とする会社の従業員Aが、顧客企業に派遣されてコンピューター管理を行っていた際、そこの女性従業員Bに対して、複数回に及ぶセクハラ行為を行ったとして懲戒解雇されました。従業員Aはセクハラ行為を否定し、懲戒解雇に異議を唱えましたが、裁判所はセクハラ行為を認め、判決では懲戒解雇が有効であるとされました。<判決の概要とポイント>判決によると、被害者Bにしてみれば、原告の行為について虚偽の事実を述べる理由は見あたらないにもかかわらず、上司にまで実情を訴えていることに照らせば、Bの感じていた苦痛が耐え難いほどであったことも容易に推認することができるのであって、Bは嫌がっていなかったとする原告(従業員A)の供述は不自然としか言いようがなく信用することができない、として原告の主張を否認しました。セクハラに関する事件は多くありますが、これまでは被害者である女性社員が会社や加害者に対して損害賠償を求めるケースが主でした。しかし本件は、加害者に対する懲戒解雇が争点となっており、セクハラを理由とした解雇が争われた最初の事例と言えるとともに、セクハラの内容次第では懲戒解雇が正当とされることが示された、重要な判例となっています。セクハラは多くの場合、第三者の目が届かない状況(密室)で行われるため、加害者が否認した場合、証明が難しくなります。実際、ある事件では、被害者が第三者に相談していなかったことや長時間抵抗しなかったことが疑わしいとして、初審では損害賠償請求が棄却されましたが、二審では状況や被害者の証言内容が具体的であることが認められ、損害賠償が認定されました。本件でも、加害者がセクハラ行為を否定しており、事実の証明が困難でした。ところが、会社は被害者から詳細に事情を聴取し、その記録を克明に残していたことから、加害者の弁解が不自然なものとなり、最終的にセクハラ行為が認められたのです。セクハラに限らず、ハラスメント被害者の詳細な事情聴取を行い、その内容を記録しておくことは重要です。特にセクハラの場合、前述のとおり密室で行われることが多いため、被害者の証言が証拠となります。事情聴取を行う際は、その内容を記録し、できれば被害者に署名捺印を求め、将来の証拠として残すべきです。また、単に聴取するだけでなく、事実関係を把握し、再発防止のための処分が必要かどうかを検討するための手続きであることを説明することも大切です。被害者が退職するなどで証言協力を得られない場合も考慮し、会社は適切な対応を取る必要があります。さらに、懲戒処分が争われた場合には、証人としての協力も事前に得ておくことが望ましいです。仮に被害者が厳しい処分を求めながら事情聴取に協力しない場合、会社は事実を証明できない限り、加害者に対する措置が制限されることを説明する必要があります。4.重要判例④「T交通機械事件/名古屋地裁令和4年12月23日判決」先輩からの暴力で後遺症を負い、適応障害を発症したとして、被害者が加害者と対応を怠った会社に対し、慰謝料などの損害賠償を求めた事件で、名古屋地裁は、書類作成ミスに対する暴力や退職を迫る言動がパワハラに該当すると認定しました。さらに、注意指導の過程での暴行を上司である所長らが認識できたことから、安全配慮義務に違反していたと判断し、加害者と会社に連帯して賠償を支払うよう命じた事件です。<事件の概要>本件は、原告が先輩社員である被告Yから日常的に暴力や暴言、陰湿ないじめなどのパワハラを受け、これを被告会社が放置したことから、原告が左網膜周辺部変性や外傷性鼓膜損傷などの怪我を負い、後遺症が残り、さらに適応障害やパニック障害を発症したとして、損害賠償を請求しました。具体的には、被告Yに対して不法行為に基づく損害賠償を、被告会社に対しては民法715条の使用者責任および債務不履行責任、さらには会社の不法行為に基づく損害賠償として、総額約4296万円の支払いを求めました。<判決の概要とポイント>被告Yは、原告が作成する書類に誤りが多く、作成が遅れることを理由に、ミスを防ぐために必要なことを紙に書かせ、それを毎朝他の従業員の前で音読させるという行為を行っていました。また、期限を守れなかった場合には退職するように書かせ、さらに期限を守れなかったとして退職を迫るような言動をしていました。これらの行為は、業務上の指導の範囲を超えた違法なパワハラ行為と認められます。さらに、被告Yは故意に原告のモニターを倒して壊し、そのことを会社に報告させたり、土下座を強要するなどの行為も行いましたが、これらの行為にも正当な理由はなく、違法なパワハラ行為とされています。被告Yは、平成28年7月頃から12月29日までの間、暴力を含む継続的なパワハラ行為を繰り返していたと認められ、このパワハラ行為は、被告会社の業務と密接に関連していたため、会社は民法715条に基づく使用者責任を負うとされています。また、M所長は、平成28年9月1日に原告から被告Yの暴言や暴力について報告を受けていましたが、原告が悪いと判断し、何の対応も取らなかったことが認められています。さらに、N係長も、被告Yが原告に対して注意や指導を行う際に複数回にわたり暴力を振るっていた場面を目撃できる立場にありながら、何の対応も取らなかったとされています。したがって、M所長とN係長は、被告Yの暴力を止める義務がありながら、それを怠ったことが会社の安全配慮義務違反となり、会社には賠償責任が課せられました。さらに、M所長は、被告Yの暴行によって負傷し休んでいた原告に対して、治療費を自費で支払い、年休を使って休むように指示し、平成29年1月には診断書を提出した原告に対し「診断書を提出すると会社にいられなくなる」と発言しました。この言動は、労災申請を妨げるため(労災隠し)の不当な圧力であり、違法な行為とされています。使用者は、職場でパワハラが行われているとの申告を被害者やその周囲の従業員から受けた場合、これを放置せずに、速やかに被害者や加害者とされる者、さらに関係する従業員から事情を聞き取り、パワハラの有無やその内容を確認する必要があります。そして、パワハラが確認された場合には、配置転換や職務・役職の変更、注意や懲戒処分などの対応を検討しなければならないことが、この判決から学ぶ事ができます。提供:税経システム研究所
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2024/11/26 経営レポート
中小企業のM&Aと企業価値評価(第14回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回までは株式価値評価プロセスの事例について説明しました。本稿では売り手サイドと買い手サイドとの「交渉」について説明します。本稿では下記図表1の7.について説明します。買い手サイドにより株式価値評価が実施され、買い手サイドが想定している買取希望価格と当該株式価値評価の結果が概ね一致した場合には、買い手サイドは売り手サイドに対して「意向表明書」を提出してターゲット企業の株式取得についての意思表示を行います。意向表明書には法的拘束力はないものの、売り手サイドは買い手サイドが想定する基本的な取引条件の概要を把握することが可能となるために、売却先としてふさわしいかどうかの判断材料にもなります。筆者が経験した直近のM&Aでは、意向表明書を提出する前に売り手サイドのオーナーと買い手サイドのオーナーが直接面談して双方の希望に関する意見交換を実施しました。また売り手サイドのオーナーを買い手サイドの会社内に招待して見学させて、買い手サイドの社風などを肌で感じさせる方策を講じました。これが功を奏したかは不明ですが、当該買い手サイドを第1候補としたいとの連絡があったとのことです。【図表1M&Aの基本的な流れ】1.意向表明書の提出意向表明書に記載される主な項目は以下のとおりです。譲渡(譲受)価格買収スキーム取引実行後の運営方針今後のスケジュールその他の条件以下の図表は意向表明書のひな型となります。【図表2意向表明書のひな型】2024年●月●日意向表明書(売り手会社名)(買い手会社名)代表取締役●●拝啓貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。さて、弊社は貴社の各種資料を確認して貴社の株式100%の譲受け(以下、本件取引)に強い関心を持っております。今後、本件取引を円滑に実施するための具体的な手続などを進めるに際して、弊社では下記の基本的内容で協議させていただきたく存じます。宜しくお願い申し上げます。敬具記本件取引の対象(売り手会社)の発行済普通株式●●株(100%)譲受希望価格●●億円(1株当たり●円)但し、今後追加で提出された資料やデューデリジェンスの結果によって価格変動がある点についてご了承下さい。今後の予定●月●日デューデリジェンス●月●日株式譲渡契約締結●月●日株式譲受及び資金決済買収後の運営方針取締役の方々全員に退任していただく予定です。また従業員につきましては全員継続雇用を前提として運営してまいります。秘密保持について弊社は貴社との交渉により知りえた情報を特定した者(専門家等)以外の第三者に開示しません。貴社におかれましても同様のお約束をいただきたく存じます。独占交渉権について弊社に対して●月●日まで独占交渉権を付与していただき、弊社以外の第三者との間で本件取引に関する協議を行わないようお願い申し上げます。以上売り手サイドと買い手サイドとの相対取引では、上記の独占交渉権の付与に関する要望は重要となります。また、買い手サイドが交渉を有利に進めるために、例えば「●●に応じていただければ、退任予定の取締役の方々に役員退職金をお支払いすることも可能です」などの条件を入れることも実務上見られます。2.取引条件の交渉売り手サイドは買い手サイドからの意向表明書提出を受けて、基本条件の交渉を検討することになります。特に譲渡価格の交渉がM&Aスキームの天王山とも思われます。価格交渉のメカニズムは以下のように説明されます。【図表3価格交渉のメカニズム】価格交渉の過程において、スタート時点は売り手サイドと買い手サイドの提示額には大きな開きが見られます。双方が協議しつつ相手の出方を見ながら価格を調整していきます。この場面はまさに双方の駆け引きといえるのではないでしょうか。そして双方が図表の合意可能レンジの範囲内で価格が合意できれば交渉が成立となりますが、そこに至らない場合には交渉が破談することになります。価格合意が成立した後は、双方が譲ることのできない条件についても確認する必要があります。日本企業のM&Aでは、売り手サイドから提示される条件としてターゲット会社の従業員の継続雇用を重視する傾向にあります。売り手サイドのオーナーから見れば、従業員は今まで苦楽を共にしてきた仲間のような存在なのでなるべく全員の雇用を維持してもらいたいというのが本音と思われます。一方、買い手サイドはその分人件費負担が大きくなるために必要な従業員を雇用したいと考えるかもしれません。その意味において、従業員の継続雇用については双方認識のずれがないように十分に気を付ける必要があります。買い手サイドから提示される条件としては、重要な知的財産やノウハウの保全、オーナーもしくは主要なキーパーソンの残留、主要な取引先の契約継続などが考えられます。上記のような重要な論点の整理がついた段階で基本合意の締結に移ることとなります、これについては次回以降説明します。提供:税経システム研究所
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2024/11/25 審査事例
基準期間の課税売上高を1,000万円超に増やす法人税修正申告をして、建物取得に係る消費税の還付申告書を提出した行為に重加算税が課された事例(棄却)
【裁決のポイント】消費税の免税事業者が、課税期間の初日の前日までに、消費税課税事業者選択届出書を税務署に提出すれば、当該課税期間について、消費税の還付を受けることが可能となる。代表者と親族の共有不動産を管理するための不動産管理会社として設立された審査請求人は、本件課税期間(令和元年5月1日から令和2年4月30日)の初日の前日までに、消費税課税事業者選択届出書を原処分庁に提出していないため、基準期間(平成29年5月1日から平成30年4月30日)の課税売上高が1,000万円以下であることから本件課税期間は免税事業者に該当していた。しかし審査請求人は、基準期間中に行った代表者らへのコンサルタント業務の対価である建物管理料の売上計上漏れがあるとして、平成30年4月期の法人税の修正申告書を提出したうえで、本件課税期間は課税事業者になるとして建物取得に係る消費税について還付申告書を提出したところ、税務署は、平成30年4月期に売上の計上漏れはない、消費税等の還付を受けようとした請求人の行為は事実の仮装であるとして重加算税を課した。国税不服審判所は、本件建物管理料を、審査請求人の基準期間の課税売上高に加算すべき理由はなく、税務署の処分は適法であると判断した事例である。【主な争点】(争点1)本件基準期間における課税売上高は1,000円を超えるか、(争点2)審査請求人が課税事業者として消費税等の還付申告を行ったことに、重加算税が課される隠蔽仮装に該当する事実があったか。【裁決の要旨】(争点1)審査請求人は、平成26年契約書を根拠に代表者らがコンサルティング業務の委託及び建物管理料の支払を約した旨主張するところ、平成26年契約書は、令和2年3月に関与税理士からコンサルティング業務に関する指導を受けた審査請求人の代表者が、後付けで日付を遡って作成したものであるから、平成26年契約書をもって基準期間(平成29年5月1日から平成30年4月30日)当時、審査請求人が代表者らからコンサルティング業務の委託を受け、代表者らが建物管理料の支払を約していたと認めることはできない。したがって、コンサルティング業務の対価であるとする建物管理料を、審査請求人の基準期間の課税売上高に加算すべき理由はない。(争点2)審査請求人の基準期間の課税売上高が1,000万円以下であり、消費税課税事業者選択届出書を提出していなかったことから課税期間において免税事業者に該当し、仕入税額控除の適用を受けることができないにもかかわらず、消費税等の還付を受けるため、審査請求人の役務の提供の対価ではない建物管理料を益金の額に算入した法人税修正申告書を提出することによって、基準期間の課税売上高が1,000万円を超え、課税期間における課税事業者であるかのように装った上で、本件課税期間の消費税等の確定申告書を提出した審査請求人の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出した場合に該当し、重加算税の賦課要件を充足する。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》消費税法第2条《定義》、第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》、第30条《仕入れに係る消費税額の控除》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2024/11/22 商事法レポート
代表取締役等住所非表示措置の実施とそれに伴う実務上の懸念点の考察
1はじめに本稿は、2024年10月1日から施行される商業登記規則等の一部改正に伴い導入される代表取締役等の住所非表示措置(以下、「本措置」といいます。)についての概要と実務上の懸念点について考察するものです。本措置は、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下、「代表取締役等」といいます。)の住所を登記記録上で開示しない措置であり、本人確認が求められる金融取引や不動産取引の実務に与える影響は小さくないと考えられます。そこで、本稿では、本措置について概観した上で、本措置を実施した場合の本人確認の具体的な方法について考察を試みたいと思います。2現行の登記制度に対する個人情報への配慮現行の登記制度は、一定の例外を除いて(注1)、それぞれの法律(注2)で定める登記事項をそのまま登記事項証明書に記載することになっており、会社や法人を代表する者(以下、「会社代表者等」といいます。)の住所及び氏名は登記事項(注3)とされています。この会社代表者等の住所が登記事項とされている理由としては、株式会社と取引関係に入る第三者にとって、取引の相手方として現れる者が代表権を有する者であるか否かを確認する方法を用意する必要があるためと解されております(注4)。また、会社代表者等の住所は、会社に事務所や営業所がない場合の当該会社の普通裁判籍を決する基準となる(民事訴訟法4条4項参照)ことから、登記記録において「公示」されることに重要な意味をもちます。以上により、現状は、個人情報の保護よりも、取引上の安全に対する配慮を優先していると言えますが、今回の改正では、インターネットの普及により登記記録に対し、容易にアクセス可能なこともあり、プライバシーの保護が求められることから、住所の公開に対する見直しが進められました。3住所非表示措置の概要(1)代表取締役等住所非表示措置の対象代表取締役等は、登記の申請と併せて、当該登記により登記簿に記録すべき住所について、登記事項証明書又は登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下、「登記事項証明書等」といいます。)に、当該住所につき行政区画以外のものを記載しない措置を講ずるよう申し出ることができるものとされました(商業登記法施行規則31条の3第1項)。なお、ここでの対象となる会社は、株式会社(特例有限会社を除く)のみであり、その他の会社並びに各種の法人、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合及び限定責任信託ついては対象外とされています。(2)申出を行うことができる登記の申請次に、本措置を実施するためには、登記の申請と併せて申し出ることが求められ、本措置の申出のみを行うことはできません。また、本措置の対象となる登記申請の類型としては、以下のように代表取締役等の住所を登記申請書に記載する登記に限られています。【本措置の対象となる登記の類型】設立の登記他の登記所への管轄区域内へ移転をした際の新本店の登記代表取締役等の就任若しくは住所変更の登記(重任の登記も含む)(3)申出の方法及びその際の添付書類株式会社が、本措置の申出をするには、(2)で示した登記の申請書に本措置を講ずべき旨及びその対象となる代表取締役等の氏名及び住所を記載し、併せて、以下の①から③のいずれかの書面を添付する必要があります。上場会社以外の株式会社であって、本措置が講じられていない場合株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面本措置の申出をする株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面として、当該申出と併せて行う登記の申請を受任した資格者代理人(ただし、登記の申請の代理を業として行うことができる代理人に限られます。)によって申出をする株式会社が本店の所在場所において実在することを確認した書面又は当該株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便若しくはこれに準ずるものとして法務大臣が定めるものにより送付されたことを証する書面の添付を要するとされました。代表取締役等の住所等を証する書面本措置の対象となる代表取締役等について、氏名及び住所が記載された市町村長その他の公務員が作成した証明書の添付を要するものとされました。なお、住民票の写しや戸籍の附票の写しではなく、運転免許証や個人番号カード等の写しであって、当該代表取締役等が原本と相違ない旨を記載し、記名したものでも代表取締役等の住所等を証する書面に該当するとされています。株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面本措置の申出をするには、株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面の添付を要することとされました。本書の提出理由として、法務省は、消費者被害対策として、会社の実質的支配者が本来の行為者である場合において、被害者等がその責任を追及することを可能とするためとしています(注5)。なお、以下の書面が該当することになります。登記の申請を受任した資格者代理人が犯罪収益移転防止法の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し実質的支配者の本人特定事項についての供述を記載した書面であって公証人法の規定に基づく認証を受けたもの(ただし、本措置の申出と併せて行う登記の申請の日の属する年度又はその前年度に認証を受けたものに限られます。)公証人法施行規則の規定に基づき定款認証に当たって申告した実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書(ただし、本措置の申出と併せて行う登記の申請が当該株式会社の設立の日の属する年度又はその翌年度に行われる場合に限られます。)上場会社以外の株式会社であって、既に本措置が講じられている場合既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合には、①のうちイ(代表取締役等の住所等を証する書面)のみが必要となります。上場会社であって、本措置が講じられていない場合金融商品取引所に当該株式会社の株式を上場している株式会社(以下、「上場会社」といいます。)については、上場会社であることを認めるに足りる書面の添付が必要となります。具体的には、当該株式会社の上場に係る情報が掲載された金融商品取引所のホームページの写し等が該当します。上場会社であって、既に本措置が講じられている場合上場会社であって、既に本措置が講じられている場合には、登記記録にて公開会社であることを確認することをもって、上記③の書類の添付は要しないとされました。(4)代表取締役等住所非表示措置の実施登記官は、本措置の申出があった場合において、当該申出を適当と認めるときは、本措置を講ずることになります(商業登記法施行規則第31条の3第2項)。なお、登記官が適当と認めるか否かの判断については、必要な書面が添付されるなど、規定された要件を満たしているかの観点から判断することを想定しており、登記官による恣意的な運用は想定されていないことが明らかにされています(注6)。【図1代表取締役への就任と同時に本措置を実施した場合の登記記録例(注7)】(5)代表取締役等住所非表示措置の終了登記官は、以下のいずれかに該当した場合には、職権で本措置を終了させることになります。代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があった場合本措置を講じた株式会社は、いつでも本措置の実施を希望しない旨の申出をすることができ、当該希望しない旨の申出により、本措置は終了となります。この希望しない旨の申出は登記申請と同時である必要なく、単独で行うことが可能です。株式会社の本店所在場所における実在性が認められない場合本措置が講じられた株式会社について、その本店が登記上の所在場所において実在すると認められないとき(当該株式会社の登記記録が清算結了等により閉鎖されている場合を除きます。)には、登記官は、本措置を終了させることになります。上場会社でなくなったと認められる場合上場会社として本措置を講じた株式会社が上場会社でなくなったと認められるときには、登記官は、本措置を終了させることになります。なお、上場会社でなくなる登記と同時に再度本措置の申出がされた場合には、引き続き本措置を講じるものとされています。閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められる場合本措置が講じられた株式会社の閉鎖された登記記録を復活する必要がある場合(注8)には、本措置を終了させるものとされました。4実務における懸念点(本措置に対する具体的な本人確認の方法)本措置が実施された株式会社の登記記録には、代表取締役等の住所が公示されないことから、犯罪収益移転防止法の規定に基づき本人確認を行うことが求められる金融取引や不動産取引の実務に与える影響は小さくないことが予想されます。この点については、法務省が公表するホームページ(注9)においても、注意喚起がされており、本措置の実施について、株式会社には慎重かつ十分な検討が求められています。以下では、本措置を実施した場合の具体的な本人確認の方法について検討していくこととします。(1)代表取締役等であることを選定した議事録を用いた証明本措置は、登記事項証明書等の世の中に公示されるものに代表取締役等の住所を記載しない措置ですが、代表取締役等の住所が登記事項から取り除かれたわけではありません。すなわち、登記申請時には何らかの書類には代表取締役等として選定された者の住所・氏名が記載されていることになります。具体的には、取締役会非設置会社においては、株主総会議事録又は定款(定款上で取締役の互選により代表取締役を選定することとされた場合は取締役の互選書)がそれに該当し、取締役会設置会社においては、取締役会議事録がそれに該当することになりますので、当該議事録等を用いて、代表取締役等に選定されたことを明らかにすることが可能です。なお、実務上の対応としては、当該議事録と選定された代表取締役等の運転免許証等の身分証明書をもって、代表取締役等の本人確認を行うことが考えられます。(2)代表取締役等による自己証明また、代表取締役等が自らの住所・氏名・生年月日等の本人確認事項を記載した文書に、登記所に届け出た印鑑の捺印をし、併せて当該株式会社の印鑑証明書を提示することをもって、本措置が適用されない状態と同様のものを作成し、それと代表取締役等の身分証明書をもって、代表取締役等の本人確認を行うことも想定されます。この方法により取引実務が成熟した場合には、この方法が最も簡便なものになると考えられます。(3)利害関係者による登記簿附属書類の閲覧商業登記法は、登記簿の附属書類(登記を申請した際の登記申請書や添付書面等)について利害関係を有する者は、手数料を納付して、その閲覧を請求することを認めています(商業登記法11条の2)。ただし、ここでいう利害関係は、事実上の利害関係ではなく、当該登記がされたことについて法律上の利害関係が必要と解されている(注10)ため、不特定の第三者が閲覧請求をすることができるわけではありません。したがって、この方法に用いて本人確認を行うということには実務上はならないと考えます。5.おわりに本措置が実務にどのくらいの影響を与えるか、現時点では定かではありませんが、見方によっては代表取締役等の住所が非表示になることで、必要な情報を得る手段が限られ、信頼関係の構築に影響を与えることが考えられます。また、上記4(3)利害関係者による登記簿附属書類の閲覧制度があるとしても、住所が非表示になることで、責任の所在が不明確になることにも注意が必要です。特に、企業が法的トラブルに巻き込まれた場合、代表取締役等の個人への連絡が難しくなることにより、法的な対応が遅延する可能性があります。さらには、本措置が悪用され、詐欺的な企業が役員の情報を隠すためにこの措置を利用する可能性もゼロではありません(もちろん、登記実務において、代表取締役の実在については代表取締役等の個人の印鑑証明書をもって確認しますので、架空の人物が登記されるということではありません)。本措置は、プライバシー保護の観点から重要な施策ですが、実務における懸念点も多く存在します。透明性の確保、責任の所在の明確化、悪用の防止といった課題に対して、適切な対策を講じることが求められ、今後の実務が展開されることが望まれます。<注釈>配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆるDV防止法)に規定する被害者やストーカー行為等の規制等に関する法律(いわゆるストーカー規制法)に規定するストーカー行為等に係る被害者等からの申出がある場合のみ、当該被害者等の住所を登記事項証明書に記載しない措置は現行においても存在します。会社に関する規定として商業登記規則30条があり、法人に関する規定として商業登記規則30条を準用した各種法人等登記規則5条があります。代表的なものとして、株式会社の代表取締役につき会社法911条3項14号、代表執行役につき同条同項23号、合同会社につき同法914条7号、一般社団法人につき一般社団法人及び一般財団法人に関する法律301条2項6号など。森本滋=山本克己編『会社法コンメンタール第20巻雑則(2)』(商事法務、2016年)272頁パブリックコメント回答15前段(https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000273035)前掲注4・回答14商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(令和6年7月26日付け法務省民商第116号法務省民事局長通達)より一部抜粋前掲注6・8頁によれば、「閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるとき」として、第三者から当該株式会社を所有権の登記名義人とする不動産の登記事項証明書等を添付した上で当該株式会社の清算が未了である旨の情報提供が登記官に対してあった場合などが該当するとしています。代表取締役等住所非表示措置について(法務省ホームページ・https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html)神﨑満治郎ほか編『論点解説商業登記コンメンタール』(金融財政事情研究会、2017年)270頁提供:税経システム研究所
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2024/11/21 会計レポート
2015年改訂版 中小企業向け国際財務報告基準(19)
1.はじめにこのシリーズでは、2015年に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)について解説しています。2022年9月に、IASBは、公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「公開草案(第3版)」という)を公表しており、本シリーズでも、適宜「公開草案(第3版)」に触れています。2024年2月に、IASBは「公開草案(第3版)の補遺」(AddendumtotheExposureDraftThirdeditionoftheIFRSforSMEsAccountingStandard)という公開草案を公表しています(コメントの締切りは2024年7月31日)。今回は、前回に引き続き、「公開草案(第3版)」の第23章「顧客との契約から生じる収益」における収益の認識モデルのステップ2とステップ3を説明します。2.ステップ2履行義務の識別契約開始時に、企業は、顧客との契約において約束された財およびサービスを評価し、別個の財またはサービスを移転する約束を個々に識別しなければなりません(23.16項)。(1)別個の財またはサービス次の①と②をいずれも満たす場合は、顧客に約束した財またはサービスは、別個の履行義務になります(23.20項)。顧客が、財またはサービスからの便益を、単独でまたは容易に利用できる他の資源と組み合わせて享受することができる。財またはサービスを顧客に移転する義務が、契約に含まれる他の義務と区分できる。(2)製品保証顧客が保証を別途購入する選択を有する場合(つまり、保証付きか保証なしのいずれかを選択できる場合)は、契約に記載された機能を有する製品に加えて顧客へのサービス提供を約束しているため、この保証は別個のものになります。このような場合、保証は別個の約束として会計処理をします(23.26項)。一方、顧客が保証を別途購入する選択を有しない場合は、この保証は原則として第21章「引当金および偶発事象」に従って会計処理されます(23.27項)。(3)追加的な財またはサービスを取得する顧客のオプション顧客との契約には、顧客が追加的な財またはサービスを無料または割引価格で取得できるオプションを有するものもあります(注1)。オプションが、その契約を締結しなければ顧客が受け取らないであろう重要な権利を顧客に提供する場合は、そのオプションは別の約束を生じさせます。顧客が追加的な財またはサービスを独立販売価格で取得するオプションを有している場合、このオプションは顧客に対して重要な権利を与えていないので、別個の約束を生じさせません(23.32項)。一方、追加的な財またはサービスを取得する顧客のオプションが重要な権利である場合は(注2)、このオプションを別個の約束として会計処理します(23.35項)。(4)本人と代理人の区分企業は、契約における約束ごとに、本人であるか代理人であるかを判断しなければなりません(23.37項)。企業が本人に該当する場合は、提供された財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込まれる対価の総額で収益を認識します(23.39項)。企業が代理人に該当する場合は、企業が権利を得ると見込む報酬または手数料の金額(つまり純額)で収益を認識します(23.40項)。3.ステップ3取引価格の算定取引価格とは、顧客に約束した財またはサービスを移転するのと引換えに、企業が権利を得ると予想される対価の額で、第三者のために回収する金額(たとえば、消費税)を除いたものです(23.41項)。取引価格を決定するにあたって、企業は、財またはサービスが契約に従って顧客に移転されること、契約が解除・修正・更新されないことを仮定する必要があります(23.42項)。(1)変動対価変動対価は、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分です。変動対価が含まれる場合は、取引価格に含まれる変動額を見積る必要があります。変動対価を見積もる際には、期待値または最頻値のいずれかを用います(23.43項)。返金負債企業が顧客から対価を受け取り、その対価の一部または全部を顧客に返金すると予想される場合は、顧客に返金すると合理的に見込まれる対価の額を返金負債として認識します(23.49項)。返品権付きの販売顧客との契約においては、商品や製品の支配を顧客に移転するとともに、その商品や製品の返品について、次のような権利を顧客に付与する場合があります(23.51項)。顧客が支払った対価の全額または一部の返金顧客が企業に対して負う、または負う予定の金額に適用できる値引き別の商品や製品への交換返品権付きで商品や製品(返金条件付きで提供されるサービスも含む)を販売した場合は、次のように処理します(23.52項)。返品されないと見込まれる商品や製品に対してのみ収益を認識する返品されると見込まれる商品や製品については、収益を認識せず、受け取った額で返金負債を認識する。顧客から商品や製品を回収する権利について返品資産を認識する(2)貨幣の時間価値支払い期限が通常の取引条件よりも遅い場合、この契約は金融取引に該当します。この場合、企業は、約束された対価の額を貨幣の時間的価値の影響について調整し、利息収益を認識します。そして、利息収益を顧客契約からの収益と区別して表示します(23.58項)。ただし、契約開始時において、約束した財またはサービスを顧客に移転してから顧客が対価の支払いを行うまでの期間が1年以内であると見込まれる場合は、貨幣の時間的価値を調整する必要はありません。(3)現金以外の対価顧客が現金以外の形で対価を約束する契約の取引価格を決定する際には、現金以外の対価を公正価値で測定します(23.60項)。ステップ2「履行義務の識別」とステップ3「取引価格の算定」については、「公開草案(第3版)」、IFRS第15号および企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」間で、その内容に大きな差はないと言えます。ただし、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」では、日本に特有な取引事例(注3)も示されています。<注釈>たとえば、100個までの販売単価は300円だが、101個以上の販売単価は280円とするような契約です。顧客に重要な権利を提供するオプションの例としては、販売報奨金、顧客特典クレジット(ポイント)、契約更新オプション、将来における商品またはサービスの割引などがあります(23.33項)。たとえば、小売業における消化仕入、他社ポイントの付与が挙げられます。提供:税経システム研究所
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2024/11/18 審査事例
当事者間の契約解除の合意に基づき受け取った解決金は、非課税所得に該当しないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】所得税では、「心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得する」保険金、損害賠償金、慰謝料などは非課税所得となっている。損害には種々なものが含まれることから、損賠賠償金のすべてが一律に非課税とはされず、政令(施行令)が非課税とされる具体的な範囲を例示している(所得税法第9条、所得税法施行令第30条)。本件の審査請求人は、飲食店経営の個人事業者で、店舗物件の所有権を取得して賃貸人の地位を継承した賃貸人から、マンション建設を理由とした退去を求められ、物件引渡しと引換えの解決金の額で合意して解決金を受け取った。一時所得として確定申告をしたのち、本件解決金は非課税扱いの損害賠償金である、すくなくとも移転費用や営業損失の額を超える部分は精神的な見舞金なので非課税であるとして更正の請求を行ったが、税務署は認めなかった。国税不服審判所は、本件解決金は、審査請求人と賃貸人との間の契約解約の合意に基づいて審査請求人に生じた損失を補償するためのものであるから、所得税法及び施行令が非課税所得として想定している損害賠償金及びこれらに類するものではなく、また、見舞金及びこれに類するものでもないから、非課税所得に該当する金額はなく、税務署の処分を適法と判断した事例である。(平成30年分の所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対してされた更正すべき理由がない旨の通知処分・棄却・令和3年1月13日裁決)(非公開))【主な争点】本件解決金は、所得税の非課税所得に該当するか(所得税法第9条第1項第17号(現行法第18号)号及び所得税法施行令第30条)【裁決の要旨】当事者の合意に基づいた損失を補償するための本件解決金は、所得税法施行令第30条第2号が規定する「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金」及びこれに類するものに該当しないことは明らかである。また、本件解決金は、損害保険契約等に基づいて支払われたものでないことから、同号が規定する「損害保険契約に基づく保険金及び損害保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で資産の損害に基因して支払を受けるもの」及びこれに類するものに該当しないことも明らかである。本件解決金は、店舗移転のための休業期間中の収入金額又は店舗移転に係る必要経費の補償等の性質を有するものであることからすれば、施行令第30条第1号が非課税所得として規定する心身に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金及びこれに類するものに該当しない。加えて、施行令第30条第3号が規定する「見舞金」は、災害等の見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものと解するのが相当であるところ、当審判所に提出された証拠資料等によっても本件解決金の中に見舞金に相当する金額が含まれていると認めることはできないことに加え、本件解決金は、災害等に際して支払われたものではなくことについても明らかである。したがって、本件解決金は、所得税法第9条第1項第17号及び施行令第30条が規定する非課税所得に該当しない。【参照条文】所得税法第9条《非課税所得》所得税法施行令第30条《非課税とされる保険金、損害賠償金等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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