実務情報
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2026/07/13 審査事例
「不動産売買で名義を貸しただけ。収益を享受していません」。真正な契約書の存在と、その記載どおりの取引実態が、税務署の処分を取り消させる(全部取消し)
【裁決のポイント】法人税法第11条《実質所得者課税の原則》は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、法人税法の規定を適用する旨規定している。消費税法第13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》も同じ趣旨である。不動産業の審査請求人は、代表者の子が代表を務める同業A社と本件契約を結んだ。その内容は、A社が買い付ける不動産を、便宜上、審査請求人に所有権登記し、第三者に売却するが、登記費用や諸税等、内装工事費用などの一切はA社が負担とする、瑕疵担保責任の一切をA社の責任で処理する、審査請求人には名義借代として1物件取引当たり30万円を支払うというものであった。各取引にA社は宅地建物取引業者として関わっている。税務署は審査請求人の売買収益及び資産の譲渡等の対価(本件収益等)の申告漏れとA社への送金は寄附金であると指摘し、審査請求人は修正申告をした後、本件収益等を享受するものはA社であるとして更正の請求を行ったが、税務署が認めないため、審査請求をした。国税不服審判所は、本件契約書は、A社が各売買取引に係る収益を受けるべき正当な権利を有することを示すものであり、実態としても各売買取引に係る事業取引の主体はA社であり、本件収益等を享受する者は請求人でなくA社と判断した事例である。(平成29年7月1日から令和2年6月30日までの各事業年度の法人税及び地方法人税並びに消費税等の各更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分・全部取消し・令和5年12月22日裁決(非公開))【主な争点】本件収益等を享受する者は、請求人かA社か。【裁決の要旨】法人税法第11条にいう「収益を享受する法人」とは、単にその収益を消費している者をいうのではなく、その収益を受けるべき正当な権利を有する者をいうと解するのが相当である。そして、法的実質に即して収益の帰属を判定するに当たっては、第三者への不動産の譲渡によって得られた利益の帰属先及び不動産購入原資を含む事業資金の調達実態を中心に、取引の経緯を全体的に評価し、自己の計算により事業活動を行った者(経営主体)を事業取引(事業活動に属する取引)の主体と評価すべきと解される。本件契約書について、真正に成立したものと認められる。その記載内容は、本件各売買取引に係る収益を受けるべき正当な権利をA社が有することを示すものである。本件各売買取引に係る事業取引の主体について、事業資金の調達はA社が行ったものと認められ、本件各売買取引の端緒はA社の営業活動等であり、A社は第三者売主・買主とのやり取りを行うとともに、士地家屋調査士等の手配等を行い、利益表の作成をしていたのに対し、審査請求人が自己の計算により本件各売買取引に係る事業活動を行っていたことをうかがわせる事情は見当たらない。本件各売買取引に係る事業取引の主体はA社である。上記のとおり、実態としても本件各売買取引に係る事業取引の主体はA社であり、本件契約書の内容に沿うものであることからすれば、本件契約書の記載内容は虚偽ではなく、その記載内容どおりの契約が審査請求人とA社との間に成立したものと認められるから、審査請求人は、法的実質において、本件各売買取引に係る収益を受けるべき正当な権利を有しない。A社が本件収益等を享受する者と認められる。【参照条文】法人税法第11条《実質所得者課税の原則》、第37条《寄附金の損金不算入》消費税法第13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。本件は、処分の全部が取消されました。税務署側はさらに裁判で争うことは制度上認められていません。提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/07/10 商事法レポート
スタートアップの資金調達ルールが変わる? ~金商法及び資金決済法改正案で資金供給促進へ~
1はじめに今年度の通常国会に「金融商品取引法(以下では「金商法」)及び資金決済に関する法律(以下では「資金決済法」)の一部を改正する法律案」が提出されました(注1)。我が国の金融・資本市場の変化に対応しつつ、成長資金供給を拡大するとともに、市場の公正性・透明性及び投資者保護を確保するため、①暗号資産(注2)、②サステナビリティ情報の開示・保証(注3)、③スタートアップ企業への資金供給、④不公正取引規制(注4)等に関する制度を整備しようとするものです。資金決済法に関しては、暗号資産取引に係る規制を資金決済法から金商法に移管するという改正であり、大半は金商法の改正です。本稿では、今回の金商法の改正案のうち「スタートアップ企業への資金供給」を中心に紹介します。2金商法改正案とスタートアップ企業への資金供給の促進(1)金商法の発行開示スタートアップ企業をより成長発展させるには、これらの企業に対する投資を促進して成長資金の供給を拡大することが重要な課題です。そのためには、投資家保護に留意しつつ、開示規制の緩和やプロ投資家の裾野拡大を図ることにより、非上場株式の発行・流通を活性化して、スタートアップ企業への投資を更に促進することが必要です。またスタートアップ企業が上場を目指すことも想定されますが、グロース市場の上場審査基準においても、上場時に株主数が150人以上となる見込みがなければなりません。そこで当該企業が新株を発行するか、又は発行済株式総数の大部分を保有している創業者等がその株式を譲渡することにより、株主数を増やす必要があります。金商法は、有価証券の募集又は売出しをする場合には、発行者が内閣総理大臣(実際には金融庁長官。金商法194条の7参照)に「有価証券届出書」を提出することを求めています(金商法4条)。提出された有価証券届出書は、受理した日から5年間、公衆の縦覧に供されます(金商法25条1項1号)。これは間接開示です。さらに発行者は目論見書を作成しなければなりません(金商法15条)。これは直接開示です。発行開示は基本的にこの二つによって行われます。「有価証券の募集」とは、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(取得勧誘)のうち、多数の者を相手方とする場合です(金商法2条3項)。「有価証券の売出し」とは、既に発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(売付勧誘)のうち、均一の条件で多数の者を相手方とする場合です(金商法2条4項)。スタートアップ企業の資金調達目的に最も適うのは、有価証券のうち、特に株券ですが、東京証券取引所(東証)の上場基準では、すべての銘柄について物理的な「株券」を発行しない(株券不発行制度)ことが必須条件となっており(注5)、現在の上場株式はすべて電子化され、紙の株券は存在しません(有価証券表示権利。金商法2条2項柱書)。以下では「株式」を対象にして話を進めます。株式の場合、「多数の者」とは6か月通算で適格機関投資家を除き50人以上です(金商法施行令1条の5)。第1に、勧誘の対象がこれより少なければ、有価証券届出書の提出義務はありません(「少人数私募等」)。第2に、勧誘の対象が多数であっても、「適格機関投資家私募等」に該当する場合は、提出義務がありません。適格機関投資家私募は一般に「プロ私募」とも呼ばれ、勧誘の相手方が適格機関投資家のみに限定される私募のことであって、当該有価証券がその取得者である適格機関投資家から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合です(金商法2条3項2号イ・4項2号イ)。「適格機関投資家」とは、金融商品の取引に関して専門的な知識と経験を持つ者を指し、具体的には銀行、証券会社、保険会社、投資運用業者などが該当します(金商法2条3項1号、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下では「定義府令」10条1項)。証券会社等の適格機関投資家は自ら情報収集能力があるので、多額のコストをかけて一般投資家向けと同様の発行開示を求めるのは、過度の負担になります。第3に、「特定投資家私募・私売出し」に該当する場合も提出義務がありません。特定投資家私募とは、特定投資家のみを対象に行う私募であり、①取得勧誘の相手方が国・日本銀行・適格機関投資家以外の特定投資家であるときは、証券会社等の金融商品取引業者・登録金融機関が顧客からの委託により又は自己のために当該取得勧誘を行う場合であって、かつ、②当該有価証券がその取得者から特定投資家等以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合です(金商法2条3項2号ロ・4項2号ロ)。投資家は一般投資家と特定投資家に大別され、「特定投資家」は、国・日本銀行・適格機関投資家に加えて、上場企業、資本金5億円以上の法人、一定の条件を満たした個人などが含まれます(注6)。第4に、発行総額又は売出総額が1億円未満のときは、有価証券届出書の提出義務がありません(「少額免除」。金商法4条1項5号)。発行開示にはコストがかかるので、少額の募集・売出しにまで発行開示を要求すると、スタートアップ企業による募集・売出しを締め出すことにつながります。なお1億円未満の募集・売出しを複数回に分けて行う潜脱行為を防止するため、当該募集・売出しを開始する日の前1年以内に行われた募集・売出しに係る有価証券と同一種類の有価証券の発行価額・売出価額の総額を合算した金額が1億円以上となる場合には、発行開示を義務付けるという1年間の通算ルールが定められています(企業内容等の開示に関する内閣府令(以下では「企業開示府令」)2条5項)。発行総額・売出総額が1億円以上であれば提出義務がありますが、5億円未満のとき(少額募集等)は、有価証券届出書の記載内容が簡略化されています。まず連結情報すなわち複数の会社(親会社と子会社)をひとつのグループとしてみなしてグループ全体の実質的な経営成績や財務状況を集計・開示する連結決算(連結財務諸表)に関する情報は、記載の必要がないものとされています(金商法5条2項、企業開示府令9条の2)。さらに、2025年2月には、①初めて有価証券届出書を提出する場合の財務諸表は監査済みの2期分から監査済みの1期分とする、②特別情報としての3期分の財務諸表は記載を不要とする、③ガバナンスに関する情報は事業報告と同程度の記載でよいものとする、④サステナビリティ情報の開示を任意とする、といった簡素化を実施しています。(2)有価証券届出書の提出免除基準の引上げ~改正案~金商法改正案は、スタートアップ企業への資金供給を更に促進するため、投資者保護に留意しつつ、企業が開示を行うことの負担にも配慮した段階的な開示制度を整備しようとしています。まず現行金商法では、一般投資家向けの発行開示としては、発行総額・売出総額が1億円以上であれば、有価証券届出書の提出義務がありますが(金商法4条1項5号)、5億円未満であれば、有価証券届出書の記載内容の簡略化を認めています(少額募集等)。それに対して、改正案は、発行総額・売出総額が5億円未満の資金調達について有価証券届出書の提出を免除します(金商法改正案4条1項4号)。また有価証券届出書の記載内容の簡略化を認める少額募集等の範囲も5億円以上10億円未満に改めます(金商法改正案5条2項)。このように一般投資家向けの資金調達に係る発行開示規制を緩和して、株式の発行等による資金調達の容易化をはかっています。(3)特定投資家私募の勧誘対象者の拡大~改正案~スタートアップ企業はほとんどが未上場であり、上場会社のように一般投資家を対象に証券市場を利用して資金調達をすることができないため、従来からプロ投資家である特定投資家向けの資金調達手段の制度(特定投資家私募等)を整備してきました。しかし、特定投資家私募等には証券会社等の関与が必要です(金商法2条3項2号ロ・4項2号ロ)。また、有価証券届出書は不要ですが、投資者向けの簡易な情報提供が必要です。他方、一般投資家からすれば、特定投資家に移行すると、一般投資家に与えられる適合性原則や説明義務等の行為規制による投資家保護ルールが大幅に適用されなくなります。そのため特定投資家の裾野がなかなか広がらないこともあり、資金調達の事例はかなり限定的だといわれています。そこで金商法改正案は、特定投資家のみを相手方とする私募等に係る勧誘対象者の範囲を拡大します。すなわち、特定投資家の要件を満たしており、高い情報分析能力等を有するにもかかわらず、金商法上の行為規制による保護を希望して、なお特定投資家になるための移行手続を行っていない者(潜在的特定投資家)を特定投資家私募の相手方の範囲に追加します(金商法改正案2条3項2号ロ・4項2号ロ)。これにより、開示の面では簡易な情報提供だけでプロ向けの勧誘制度の利用を可能にしようとするものです。ただし、特定投資家向け私募等を仲介する証券会社等は、一般投資家を相手にする場合と同様に、適合性原則、説明義務等の行為規制の適用を受けますし、他方、潜在的特定投資家は、行為規制の面では一般投資家として取り扱われます。なお今回の金商法改正に併せて、内閣府令等の改正により、特定投資家の移行要件の緩和・明確化を併せて行うことを予定しているようです。(4)株式報酬に係る開示規制の見直し~改正案~企業による自社及び子会社の役員・使用人に対する株式・新株予約権の付与は、上記の募集・売出しに該当する場合には、発行開示が必要です。それに対して、金商法改正案は、企業が自社及び子会社の役員・使用人に対し、株式・新株予約権を付与する際の勧誘を、上場・非上場にかかわらず、「募集」から除外します。したがって、有価証券届出書の提出は必要ありません(金商法改正案2条3項1号ロ・2号ハ・4項等)。今回の金商法改正案は、2025年2月21日に改正された金商法施行令及び開示府令の株式報酬に係る開示規制の見直しを受けたものです(注7)。2025年の政令・府令改正の具体的内容は、上場会社が役員・従業員に対する報酬として株式を交付する場合に、その株式に一定の譲渡制限期間が付されていることを条件として、有価証券届出書の提出に代えて、臨時報告書の提出をもって募集又は売出しを行うことができるとする特例制度(臨報特例)(注8)について、①特定譲渡制限付株式(注9)に係る譲渡制限期間を改め、「事業年度経過後3か月を超える期間」から、「交付日の属する事業年度に係る定時株主総会の日まで」に短縮したこと、②臨報特例が適用される相手方の範囲を発行会社の完全子会社・完全孫会社以外の子会社の役員・従業員にまで拡大したこと、③事後交付型株式(注10)についても、臨報特例が適用されることを明確化したこと、④株式報酬に関する重要事項について、ウェブサイトを利用した情報提供を容認したことです。今回の金商法改正案により、要件を満たす場合について役職員への株式報酬に係る開示負担が軽減されることになります。しかし、株式報酬制度に関する課題は依然として存在します。令和元年改正会社法によって取締役への株式の無償交付は認められましたが、取締役でない従業員や子会社の役職員について同様の手当てはされていません。株式報酬の実務的な負担を軽減する観点からも、現在検討されている会社法改正の議論において、従業員・取締役に対する株式の無償交付がどうなるか、その動向が注目されます(注11)3終わりにスタートアップ企業の資金調達は、株式の発行等に限られず、金融機関からの融資も重要です。しかし、スタートアップ企業が上場を目指すことも当然想定されるため、流通株式数・株主数・単元株式数等の基準を満たす必要があります。その場合にはスタートアップ企業への投資を更に促進することが必要であり、株式の募集・売出しを実施することが求められるでしょう。今回の金商法改正案がスタートアップ企業への資金供給の促進を柱の一つとしたのは、時宜に適ったことだと考えられます。さらに会社法改正の動向についても大いに関心が持たれるところです。<注釈>https://www.fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf参照。現在、暗号資産は、決済手段という観点から資金決済法で規制されていますが、足下では投資対象化が進展し、個人による暗号資産の利用や保有が身近になっています。他方で、金融庁等に詐欺的な投資勧誘等の相談が多数寄せられ、投資セミナーやオンラインサロン等による詐欺的な行為が疑われる事例も発生しています。そこで暗号資産取引に係る規制を資金決済法から金商法に移管し(資金決済法第3章の3の削除等)、有価証券とは異なる金融商品として金商法に位置付けたうえで、利用者保護の充実のために、①無登録業者等への対応の強化、②情報の非対称性を解消するための情報公表規制の整備、③暗号資産交換業者(「暗号資産取引業者」に名称変更)の規制の強化、④インサイダー取引規制の創設を含む不公正取引規制の強化を図るものです。気候変動や人的資本等に係る企業のサステナビリティ情報は、投資家が中長期的な企業価値を評価する観点で重要な情報です。国際的には、2023年6月に国際サステナビリティ開示基準(ISSB基準)が開発され、日本でも、2025年3月、サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)が開発されました。また2023年1月、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、同年3月期より上場企業等に対しサステナビリティ情報の開示を義務付けています。しかし、具体的な基準に基づいておらず、第三者による保証が義務付けられていません。そこでSSBJ基準に準拠した有価証券報告書の作成を義務付けるとともに(金商法改正案26条の4第1項)、プライム市場上場企業のうち、時価総額の大きな企業から順次適用を義務付けていくことを政令等で規定する予定です。有価証券の不公正取引等について、公開買付けに係るインサイダー取引規制の対象者として、公開買付けの対象企業と契約を締結・交渉している者(例えば、対象企業のアドバイザー)等を追加すること、公開買付けに係るインサイダー取引・大量保有報告制度違反・高速取引行為による相場操縦の課徴金の水準を引上げます。無登録業に対する証券取引等監視委員会の犯則調査権限を追加するとともに、無登録業に対する罰則を引き上げます。また金融商品取引業者の退出時における顧客財産の返還に関する制度(管理人制度)を創設します(金商法改正案第3章第4節の3)。プライム、スタンダード、グロースの各市場の上場審査基準は、指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること又は取扱いの対象となる見込みのあることを必須としています。指定振替機関は、「社債、株式等の振替に関する法律」に基づいて主務大臣の指定を受け、株券などの有価証券の集中保管や、売買に伴う名義書換え・受渡しを帳簿上のデータ処理(電子化)で行う機関であり、株式会社証券保管振替機構が唯一の指定振替機関です。上場審査基準につき、以下参照。プライム市場https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/listing/スタンダード市場https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/listing/01.htmlグロース市場https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/listing/02.html特定投資家とは、金商法で定められた知識・経験・財産状況が豊富なプロの投資家を指し、リスク管理能力が高いとみなされるため、契約締結前交付書面の交付義務など一部の投資家保護ルールが免除されますし(金商法37条~37条の6、38条4号~6号、40条1号等)、特定投資家向けの金融商品への投資が可能です。特定投資家には、①常に特定投資家として扱われる国、日本銀行及び適格機関投資家、②一般投資家への変更が認められる投資者保護基金、預金保険機構、特定目的会社、上場会社など、③一般投資家から特定投資家への移行が認められたものがあります(金商法2条31項、34条の2~34条の4)。③は法人も個人もあり得ますが、①②は法人のみです。①のうち適格機関投資家とは、第1種金融商品取引業者、投資法人、銀行、保険会社、投資事業有限責任組合、金融庁長官に届出をした信託会社などの最上級のプロ投資家であり(定義府令10条)、金融庁のホームページにリストが掲示されています。株式報酬に係る開示規制の見直しに関する2025年2月21日の金商法施行令及び開示府令の改正については、以下参照。https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250221/03.pdfhttps://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250221/04.pdf「臨報特例(臨時報告書特例)」とは、上場企業が役員や従業員にストックオプションや譲渡制限付株式などの「株式報酬」を付与する際、通常義務付けられている「有価証券届出書」の提出を免除し、より作成負担の軽い「臨時報告書」の提出で済ませることができる金商法上の特例制度です。特定譲渡制限付株式(RSU:RestrictedStockUnit)は、会社に対する役務提供の対価として役員等に生ずる債権の給付と引換えに交付される自社又は親会社の株式であり、①一定期間の譲渡制限が設けられていること、②勤務条件又は業績条件が達成されないこと等が会社による無償取得の事由として定められていること、③役務提供を受ける会社又は親会社の株式であることが必要です(法人税法54条1項)。事後交付型株式は、一定期間の勤務や業績目標の達成といった条件を満たした後に、会社から自社株を受け取る権利を付与される株式報酬制度であり、特定譲渡制限付株式の一種です。付与時に現物株式を渡す一定期間の「譲渡制限付株式」(注9)とは異なり、条件達成後に株式が交付されます。会社法改正について、中間試案が公表され、使用人等に対する株式の無償交付に関する提案が公表されています。https://www.moj.go.jp/content/001460088.pdf提供:税経システム研究所
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2026/07/09 会計レポート
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(32)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。これまで中小企業が取り組む原価管理と言えば、製造プロセスの見直しや歩留まりの改善、社内経費の削減等、自社の管理が及ぶ範囲での活動が中心になっていました。しかし、近年では、多くの企業において、こうした企業内の経営努力だけでは適正な利益水準を維持することが困難になっています。その背景には、為替相場の変動やエネルギー・資源価格の高騰、さらには慢性的な人手不足に起因する物流費・労務費の上昇といった、企業を取り巻く外部環境の変動がこれまでにないほど深刻化していることがあります。外部環境が企業の購買活動に与える影響を正しく理解することが、これからの原価管理を進めるために重要です。この記事シリーズでは、多くの中小企業の利益を圧迫している主な外部要因として、「為替、エネルギー・資源価格の変動」、「物流コストの高騰」、「仕入先の労務費高騰への対応」、「仕入先の廃業・淘汰リスク」について考えます。このうち、今回は、「為替、エネルギー・資源価格の変動」、「物流コストの高騰」を取り上げ、原価管理上これらの要因にどのように対処していけば良いかを説明します。2.為替、エネルギー・資源価格の変動原価の目標値を設定する際、為替レートやエネルギー・資源価格など、前提となる条件があります。近年のように日々の状況が激しく変動し、不確実性が高い経営環境においては、目標値の設定時に考えていた前提条件が運用の過程で大きく変動してしまうことも珍しくありません。前提条件が実態と大きく乖離する時、当初の目標値をそのまま使い続けることで、「部品の単価が安価であることから選んだはずの発注先が、実は、最新の価格でコストを算定するとかえって割高になってしまった」というような問題が起こります。ここで、自社の利益を確保するため重要になるのが、「見積原価」です。見積原価は、現在の実態に応じた経営判断の基準や価格の交渉等で用いられるものです。見積原価の運用については、期首に定めた前提条件に対して一定の変動幅(許容範囲)を予め設定しておき、それを超えた時点で見積原価を再度算定するというようなルールを決めておくことが有効です。これにより。購買活動において取引先との価格交渉を行う際に客観的な根拠をもって進めることができ、原価管理上も製品ごとの採算悪化を未然に防ぐための施策を実施することが可能になります。激しい環境変化の中では、月に一度の業績報告を待つというのではなく、現在の実態を基にした見積原価をタイムリーに算定することで、柔軟な対応が可能になります。ただし、最初に触れた原価の目標値の取り扱いについても注意が必要です。原価の目標値については、会計実務上、決算書や予算管理のベースとなる「標準原価」として設定・運用されている場合もあります。読者の中にも、ここまでの説明を読んで、「この標準原価自体も期中に変えて良いのか?」という疑問を持った方がおられるかもしれません。しかし、標準原価は決算時の基礎的な情報や自社の経営に関する評価基準となるものであることから、原則として頻繁に変更すべきではありません。もし標準原価を使用しているという場合の対処方法としては、標準原価は厳格に維持したまま、これとは別に、外部環境の変化を反映させた見積原価を必要に応じて算定してこの数値を基に経営環境への対応を判断することが考えられます。3.物流コストの高騰次に取り上げる問題は、物流コストの高騰への対応です。燃料価格の上昇、ドライバー不足・人件費の増加、ECサイトの普及に伴う物流の小口化・多頻度化等を背景に、物流コストの高騰は、業界を問わず、企業で対処すべき課題になっています。また、最近改正された「物流効率化法」(注1)のもとで、荷主企業は物流業者と協力して、物流業務の効率化、ドライバーの労働環境の改善に中長期に取り組むことがこれまで以上に求められており、この対応に伴うコスト負担も見込まれます。上記の動向から、企業は目先のコスト削減だけでなく、中長期的な視点で物流や調達のあり方を見直す時期にきていると言えます。もし購入価格が安価な仕入先を選んだとしても、倉庫に運ぶまでの輸送コストが大きかったり、リードタイムが長く在庫を長期的に保有したりすれば、全体で見ると企業が負担するコストは増えてしまいます。原価管理においては、購入価格などの把握しやすいコストだけではなく、在庫を保有することによる管理費等の表面的な把握が難しいコストがあることにも注意が必要です。中長期的な視点で企業の財務に与える影響を評価するときに重要な見方として、「総所有コスト(TCO:TotalCostofOwnership)」があります。TCOは、「製品そのものの価格」だけではなく、運賃や梱包費、さらには発注や検収にかかる人件費までを含めた「モノを調達・維持するためにかかる総コスト」を意味する概念です(Ellram1995)。TCOという視点を取り入れると、施策を行う前と後で、見えづらいコストを意識した行動をとることができます。施策を計画する段階では、完璧な計算はできずとも、「運賃を年間△△万円下げるために配送ロットを増やしたら、自社が使用できる保管スペースが圧迫され、現場での作業が追加で発生する等、本来必要のなかったコストがそれ以上に膨らむのではないか?」と立ち止まって考えられるようになります。また、施策を実行した後の振り返りにおいても、「運賃は狙い通り下がったけれども、資材の廃棄や手直しのコストが以前より増えていないか?」というように、影響が大きいと見込まれる活動に注意しながら自社が負担するコスト全体で見て施策の効果を判断できます。このように、物流や調達の活動にかかるコストを「どのような前提条件(配送ロット、距離、頻度、運賃体系等)」で見込んでいるかを明確にし、原価管理における自社のルールを実態に合わせて見直していくことが、物流という外部要因に応じた経営判断を行うために必要です(注2)。4.経営環境の変化を察知するための基準とその運用ここまで解説した「見積原価のタイムリーな更新」、「物流コスト高騰への対応」を企業で実施するためには、現場が場当たり的に動くのではなく、見直しの拠り所になる基準を予め社内でルール化しておくことが重要です。まず、判断基準の設定においては、自社の経営に大きな影響を与える主要な外部要因について、期首に定める原価の目標値からの「許容変動幅」を予め設定し、社内で共有しておくと良いでしょう。主な例を示すと次のようになります。為替レート:社内想定レートから「±5%以上」の乖離が1ヶ月以上継続した場合に見直す。エネルギー・資源価格:市況価格(鋼材、樹脂、原油など)が期首の想定から「±10%以上」変動した場合に見直す。物流費:物流効率化法への対応や運賃改定に伴い、配送・荷役コストの総額が当初の計画より「年間で見積額50万円以上」の増加(または減少)となる見込みになった時点で見直す。次に、問題の察知から具体的な活動へと移るために、例えば、次のような手順をとることが有効です。手順1:購買や物流関連の部門が、日々の仕入検収や市況ニュースからヒントになる情報を収集し、上記の判断基準を超えると思われる時に対応の必要性を管理部門(財務・経理等)へ発信する。手順2:管理部門は、既存の製品構成データをもとに、「もしこの変動が半年続いた場合、どの製品の利益が何%圧迫されるか(または、ロットの変更でどれほどトータルでのコスト(TCO)が増大するか)」を試算する。手順3:「このまま対策を打たなければ、主力X商品の利益が期末までに〇〇万円消失する」というような定量的な情報と共に、関連部門や経営陣へ情報を報告し、価格交渉や構造改革の判断につなげる。このように判断の基準と活動するための手順を明確にしておくことで、状況の変化に応じた柔軟な対応が全社的に可能になります。5.おわりに今回の記事では、中小企業の利益を脅かす外部要因のうち、「為替、エネルギー・資源価格の変動」、「物流コストの高騰」について考えました。2つの要因から分かる実務上のポイントは、外部環境の変化を単なる不可抗力として扱うのではなく、自社の原価管理における前提をいかに素早く検討できるかが企業の競争力につながるということです。期首に定めた目標値を絶対視せず、為替や市況を織り込んだ柔軟な運用を取り入れること、そして、目先の購入価格にとらわれず、物流や調達の活動にかかるコストを含めた「総所有コスト(TCO)」の視点で原価管理を見直すことが重要です。なお、企業の活動に大きく影響する外部要因に対して、自社でのコストの算定手法や管理プロセスを見直すだけですべて対処できる訳ではありません。次回の記事では、仕入先との取引にかかわる要因である「仕入先における労務費の高騰」、「仕入先の廃業・淘汰リスク」について考えます。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.Ellram,L.M.1995.Totalcostofownership:Ananalysisapproachforpurchasing.InternationalJournalofPhysicalDistribution&LogisticsManagement,25(8),4-23.<注釈>国土交通省「「物流効率化法」理解促進ポータルサイト」(URL:https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/;閲覧日:2026年6月3日)。高騰する物流費の算定やその対処については以下の記事も参考にしてください。井上慶太.2023.「サプライチェーン・マネジメントに役立つ会計:上昇する物流費への対応」『MJSマンスリーレポート』169号。提供:税経システム研究所
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2026/07/06 審査事例
横領した側の顛末。会社の預金口座から旧姓口座に送金し、消耗品支払と入力して、架空請求書を作成した一連の行為。無申告加算税で済まされず、重加算税が課される(棄却)
【裁決のポイント】無申告の納税者が、当初から課税標準等又は税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったような場合には、無申告加算税に代えて、重加算税が課される。審査請求人は、勤務先A社を退職後、A社代表者から依頼され、関連会社B社で〇〇を担当した。B社との雇用関係はない。審査請求人は、ネットバンキングでB社の預金口座から、自身の旧姓の預金口座に送金し、B社の会計ソフトに消耗品の支払と入力し、それに合わせて架空法人の請求書を作成した。審査請求人の税務調査で発覚し、税務署の処分後に審査請求人とB社の間で不正取得した金員の返還に関する合意が成立した。審査請求人は返還の都度、所得税の更正の請求を行い、認められたものの、未返還部分(本件金員)の処分は残されたため、B社への返還が確定しているから課税(雑所得)されるべきでない、自身の口座へ直接送金したから隠蔽はないなどと主張して、審査請求を行った。国税不服審判所は、法令に禁止された行為に基づく利得であっても所得を構成する、審査請求人が調査担当員に申述した不法行為に至る動機及び無申告については信用できるとして、各処分を適法と判断した事例である。(令和4年分の無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、他・棄却・令和7年4月22日裁決)【主な争点】審査請求人の行為は、重加算税が課される「隠蔽し、又は仮装し」に該当するか。【裁決の要旨】審査請求人は調査担当者に次のように申述しているところ、具体的かつ矛盾もなく、客観的事実と整合していることからすれば、税務調査でパニック状態に陥って述べたものとは考え難く、信用できる。(1)申告する意図について「後ろめたい気持ちもあり、税務署に申告してしまうと、○○の事実が○○○○に○○すると思ったため、所得税等の申告はしていなかった」「税金を納めるだけの金銭が残っておらなかったことも、所得税等の確定申告をしなかった理由の一つである」。実際に、審査請求人は、6年間で合計○○○○円を超える所得を得ながら、所得税等の確定申告を一切していなかったことからすれば、当初から本件金員を申告する意図はなかったと認めるのが相当である。(2)隠蔽又は仮装の行為の有無について「B社は元々赤字であった。A社では〇〇に手続きがあり難しいが、B社はその手続きがない状態だったので、○○を行うことができた」。そうすると、審査請求人は、単に自己の所得に関し納税申告書を提出しなかったというにとどまらず、当初から○○によって得た所得を申告しないという確定的な意図の下、B社という第三者に対して内容虚偽の会計処理等を行い、事情を知らないB社を手足として利用して、課税機関に対する内容虚偽の確定申告をさせて審査請求人の所得が発覚しないようにしたといえ、これは、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったものであると評価できる。本件行為は、国税通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当すると認められる。【参照条文】国税通則法第66条《無申告加算税》、第68条《重加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/07/02 会計レポート
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(27)
1.販売費及び一般管理費の分析についてこのシリーズの(14)以降、販売費及び一般管理費の管理について説明してきました。参照した先行研究として、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]、および、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]を対象とし、そこで定義されている用語、展開される議論および具体的な数値による計算例を検討しました。今回からは、筆者の母校である早稲田大学の先人による先行研究を紹介したいと思います。まずは、筆者が最初に会計学の授業を受けた、染谷恭次郎名誉教授の『経営分析』三訂版[染谷,1984]における議論を検討します。染谷名誉教授は、財務会計における著書が多いのですが、経営分析に関する著書も多く上梓しています。博士論文をベースにした著書を『資金会計論』増補版[染谷,1960]として出版していますが、この研究も経営分析の研究からの展開であると説明されています。染谷名誉教授の『経営分析』は、初版が1961年に刊行されていますが、今回は最終版である三訂版[染谷,1984]を参照します。2.染谷[1984]による「販売費の分析」(その1)染谷[1984]は、第2章「経営数値の分析」の「Ⅲ.原価の分析」において、「§1.製造原価の分析」に引き続き、「§2.販売費の分析」を説明しています[pp.15-18]。そこでは、「販売費の分析は、原価要素別・販売機能別・販売区分別に行なわれる」[染谷,1984,p.15]と分類の基準を述べています。(1)原価要素別の販売費分析原価要素別の販売費分析では、販売費を、給料・旅費・広告費・消耗品費など、支出の目的別に分析します[染谷,1984,p.15]。染谷[1984]によると、「この方法は損益計算書において用いられる方法であり、簡単で実行しやすい」[p.15]ということです。この分類基準は、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における形態別分類、すなわち、「給料、賃金、消耗品費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、租税公課、運賃、保管料、旅費交通費、通信費、広告料等」[三七(一)]という分類と同様の分類基準です。別の見方をすると、「費目別分類」であるともいえるでしょう。(2)販売機能別の販売費分析販売機能別の販売費の分析では、販売費を、販売直接費・広告および販売促進費・配達費・保管費・信用調査および集金費など、販売の諸機能にしたがって分析します[染谷,1984,p.15]。染谷[1984]では、「販売費を販売機能別に分析することは、企業の内部的諸活動の統制を効果的に行なうための費用の比較や標準費用の設定を可能ならしめ、予算の作成と管理を容易にする。販売費を販売機能別に分析するには、いかなる機能別に分析するかを決定し、要素別に計算した販売費をこれらの機能別に分類し集計する」[pp.15-16]と説明しています。染谷[1984]のいう「販売費を機能別に分類し集計する」[pp.15-16]ということは、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における、機能別分類、すなわち、販売費及び一般管理費の要素を、「広告宣伝費、出荷運送費、倉庫費、掛売集金費、販売調査費、販売事務費、企画費、技術研究費、経理費、重役室費等にこれを分類する」[三七(二)]ということとほぼ一致していると理解できます。岡本[2000]でも、このシリーズの(17)で説明したように、機能別の分類を強調しています[岡本,2000,p.694]。染谷[1984]は、販売費の機能別分析の例として、図表1の数値例を示しています。図表1販売費の機能別分析出典:染谷[1984,p.16,第6表]を一部修正染谷[1984]は、注意するべき点として、広告費や運送費などの項目が、原価要素別分析にも、販売機能別分析にも、しばしば同じ名称が用いられることを指摘しています[p.16]。これらの費用項目は、原価要素別に用いられるときは、広告や運送のために直接支出された金額のみが含まれるのに対して、販売機能別分析に用いられるときには、広告や運送の仕事に従事する者の給料その他広告や運送の仕事に関係ある一切の費用が含まれます[染谷,1984,p.16]。この点は、図表1で見ますと、種類の分類による「広告費の行」では、広告の機能で発生した19,350千円のみが合計欄に記入されていますが、機能の分類による「広告の列」では、給料2,900千円、賃借料200千円、保険料2千円、租税公課126千円、減価償却費4千円、光熱費15千円、消耗品費20千円、通信費300千円、広告費19,350千円、雑費75千円で、合計額が22,992千円となっています。したがって、機能別の分析は、図表1では縦の列で見るべきで、横の行はむしろ原価要素別、または費目別の集計であるといってよいでしょう。先述の染谷[1984]における「販売費を販売機能別に分析するには、いかなる機能別に分析するかを決定し、要素別(つまり、費目別に―引用者)に計算した販売費をこれらの機能別に分類し集計する」[pp.15-16]という説明は、この縦の列と横の行との関係について説明していると理解できます。なお、染谷[1984]が示す数値例は、図表1のとおり、単年度の実績値のみについてですが、「販売費を販売機能別に分析することは、企業の内部的諸活動の統制を効果的に行なうための費用の比較や標準費用の設定を可能ならしめ、予算の作成と管理を容易にする」[p.15]という点に鑑みると、図表1では、予算と決算(実績値)との比較とその差異、あるいは、前年度と当年度との比較とその差異としての増減についても計算するべきであると考えられます。この点は、このシリーズの(25)において、岡本[2000,p.710]の示す「図表13-2」を修正した「図表1」のように、「予算・実績・差異」を示したり、「前年度・当年度・増減」を示したりする様式のほうが望ましいといえます。このときの標準値あるいは予算の見積値は、製造原価ではないので標準原価と全く同じように設定することはできないと思います。とはいえ、一般論として、製造原価における標準を設定するときのように、過去のデータにもとづきつつ、当該年度に予測できる個別の要因を加味して設定することになるでしょう。そのためには、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]が製造原価における標準原価の計算を説明しているのと同じように、販売費を、「財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した」[四(一)2]ものを、販売費の標準値とすることができます。また、予算の見積値についても、ほぼ同様の計算手続で設定できると思われます。さらに付け加えると、販売費には、販売量の変動によって比例的に増減する変動費と、販売量が変動しても一定額が発生する固定費とがあります。標準値あるいは予算の見積値を計算するにあたり、その構成要素に変動費と固定費とがあることを考慮して、製造原価における製造間接費の計算と同様に、変動予算を用いることも有効です。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2026『プラクティカル原価計算』第2版、中央経済社。染谷恭次郎、1960『資金会計論』増補版、中央経済社。染谷恭次郎、1961『経営分析』国元書房。染谷恭次郎、1984『経営分析』三訂版、国元書房。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/07/02 経営レポート
2026年個人情報保護法改正案と税務分野に与える影響の考察
*本稿は2026年6月15日時点の情報に基づいて執筆しています。1.はじめに近年、AIの急速な発展により、個人情報の利活用をめぐる環境は大きく変化している。2026年の個人情報保護法改正案(注1)(注2)は、こうした環境の変化を踏まえ、データ利活用の促進と個人の権利利益の保護をどのように両立させるかという観点から、従来十分に対応できなかった領域が見直される重要な改正である。とくに、税務分野では、申告書、年末調整、給与計算、会計処理、外部委託、クラウド利用などを通じて、多数の個人データを日常的に取り扱っており、法制度の見直しが実務に与える影響は小さくないと言える。本稿では、改正案の全体像を4つのポイントに沿って整理したうえで、とくにAI開発や統計作成に関する同意不要特例の内容と、その前提となる透明性確保の考え方を中心に解説する。あわせて、税務分野において想定される影響を考察してみたい。2.2026年個人情報保護法の改正2.1税務調査対象の選定高度化AI開発、データ分析、クラウドサービスの普及によって、個人情報を含むデータの活用要求が急速に高まっており、このことが、2026年の個人情報保護法改正案の背景にある。従来の制度は、本人同意を基本として設計されてきたが、AI学習のように大量のデータが必要な場面では、個別同意の取得が大きな負担となっていた。さらにその結果、適切な利活用までもが停滞し、企業活動や技術開発の足かせになっていると指摘する声があった。他方で、データ活用の拡大は、漏えい、不適正利用、本人の想定を超えた二次利用といった新たなリスクも拡大させる。とくに生成AIの登場により、単に取得時の適法性だけでなく、取得後にどのような目的で、どの範囲の情報を、どのような相手と共有しながら利用するのかが課題となっている。今回の改正案は、このような環境変化に対応し、AI活用時代に合わせてデータ利活用を認める場面を広げる一方で、個人の権利利益を侵害しやすい領域では規律を強め、違反時にはより厳しく対処する制度へと変えていくものであると言える。2.2改正案の全体像と4つのポイント先に述べたように、2026年の個人情報保護法改正案は、AI時代に対応したデータ利活用を進めつつ、権利利益を侵害しやすい場面では規律を強めるという考え方に基づくものであり、4つのポイントもそれに沿ったものとなっている。この改正は税務を直接対象にしたものではないものの、税務では、申告書、年末調整資料、支払調書、扶養情報、口座情報、マイナンバー関連情報など、機微性の高いデータを扱うことが多い。しかも、社内に限った利用だけでなく、税理士事務所、クラウド会計サービス、電子申告サービスなど、外部委託や外部システムとの連携を伴って情報を取り扱うことも多い。そのため、改正案の4つのポイントは、企業の税務部門だけでなく、税理士事務所や税務SaaS事業者などへも影響を与える可能性があると言える。1)適正なデータ利活用の推進第1のポイントは、AI開発や統計作成、分析業務に対応できるよう、過度な同意規制を見直し、適正な範囲でデータ利活用を進めやすくすることにある。本人同意を基本とした規律のもとでは、個人データを第三者に渡したり、別目的で分析利用したりする際の負担が重く、とくに学習に大量データを必要とするAI分野では大きな障害となっていた。改正案は、こうした状況を踏まえ、個人の権利・利益に直接的な影響を与える利用と、統計作成・モデル学習のように個人識別を目的としない利用とを区別し、後者については一定の条件のもとで利用可能領域を広げる方向を示している。たとえば、企業の税務部門が、過去の申告データや会計データを用いて、申告漏れの起こりやすい勘定科目の傾向分析や、消費税区分の入力ミスを検知するAIモデルを作る場面を想定すると、これは個々の従業員や取引先に影響を与えるのではなく、業務全体の精度向上や統計的分析を目的とする利用であると言える。また、税務SaaS事業者が、複数顧客から受託した帳票データをもとに、OCR精度の改善や勘定科目の自動仕訳モデルの精度向上を図るケースも一定の条件を満たせば統計作成等として整理される可能性がある。もっとも、このポイントは、あくまで限定された目的の範囲内での利活用であり、データを自由に使ってよいという意味ではない。たとえば、税務処理のために収集したデータを、後から個別の顧客に対する営業リスト作成や融資の優先順位付けに利用するような使い方は、統計作成等には当たらない。また、データが利用可能となるのは、Web等を通して利用範囲や目的、提供先などを公表するとともに、安全管理措置の実施や目的外利用の防止を確実に実施する場合に限られ、利用範囲の制限や第三者提供の禁止にかかる違反は、新たに導入される課徴金の対象となるため、注意が必要となる。2)リスクへの対応第2のポイントは、本人に与える不利益が大きい高リスク領域について、一般的な個人情報よりも慎重な取扱いを求めることにあり、すべての個人情報を同じレベルで規制するのではなく、子ども情報、生体情報など、侵害された場合の影響が大きい情報について、より厚く保護する方向が示されている。税務分野においても、年末調整の扶養控除申告では扶養親族として未成年者の氏名、生年月日、続柄等を扱うことがある。また、相続税や贈与税の案件では、未成年の相続人などの情報を含むデータを扱うこともある。これらの情報は、税務上は必要なものでも、子ども情報として整理される可能性があり、より慎重な管理が求められる可能性がある。さらに、税務実務そのものではないものの、周辺システムで生体情報を扱う場合がある。たとえば、税理士事務所や企業が、顔認証による入退室管理などを導入している場合、その顔特徴データは高リスク情報として扱われることとなる。こうした情報は、一度漏えいした場合に本人への影響が長期化しやすいため、利用目的、必要性、対象範囲、保存期間、連携先、周知方法等は、これまで以上に明示的に整理しておくことが必要となる。このポイントは、一般ルールとは別に、侵害時のダメージが大きい情報については保護を一段強めるという考え方であり、税務でも、扶養情報、家族情報、本人確認関連情報を通常の情報と同じように扱わないことが求められる可能性がある。3)不適正利用等の防止第3のポイントは、形式上は個人情報に当たらないように見えても、実際には本人への接触、勧誘、誘導、なりすまし等につながり得る情報について、より実態に即した規律を導入する点にある。例えば、メールアドレス、電話番号、申込履歴、関心分野、閲覧履歴など、単体では限定的な情報であっても、組み合わせれば実質的に特定の個人に対する接触や働きかけが可能になる情報がある。税務分野でいえば、税務相談会の申込フォームで取得した住所・電話番号・メールアドレスなどがこれにあたると想定され、これらは組み合わせ次第で、資産状況や相続対策関心層などを推測し、個別勧誘に利用できる可能性がある。改正案では、これら情報を新たに「連絡可能個人関連情報」と定義し、個人情報と同様に、事業者は「連絡可能個人関連情報」の不適正利用・不適正取得が禁止されることとなる。このポイントの意義は、単に個人情報に当たるかどうかという点だけではなく、その情報の利用が実際にどのような接触可能性や不利益を生み得るかという実効面を重視する点にある。税務分野では、税務本体ではなく、営業連携や周辺サービスとの連動の場面で問題が生じる可能性があるため、本業データとマーケティングデータの線引きを意識し、不適正利用の禁止規定に抵触しないよう、厳格なデータ管理と運用を実施することが必要となる。4)実効性確保第4のポイントは、違反が起きた場合に、単なる注意や指導にとどめず、実際に抑止力のある対応を可能にすることにある。利活用の余地を広げる以上、重大事故に対しては、従来以上に実効的な制裁や行政対応を可能にする必要があり、改正案では、課徴金や命令等を含め、罰則等の強化を図る方向を示している。税務データには、所得、扶養状況、家族構成、口座情報、支払履歴、時にはマイナンバー関連情報などが含まれ、漏えいや不正利用が生じた場合の影響は深刻である。たとえば、年末調整関係書類を保存していたクラウドストレージの共有設定に不備があり、従業員の扶養情報や保険料控除情報が外部から閲覧可能な状態になっていた場合には、安全管理措置義務違反や漏えい対応の問題が問われることになる。また、税理士事務所の職員が、業務上知り得た相続案件の資料を私的に持ち出し、第三者に資産状況を漏らしたような場合には、本人への不利益だけでなく、守秘義務違反や事務所全体の管理責任が問題となる可能性がある。したがって、このポイントは、事故が起きた後の制裁強化だけを意味するものではなく、違反したら処分されるということを意識して、平時からアクセス権限、ログ管理、誤送信防止、委託先監督、保存期間管理、削除ルール、事故報告フローを整備させるためのものであると理解することが重要である。税務分野では、扱う情報の機微性が高く、本人の経済的・社会的利益に直結する情報が多いため、実効性確保は法令遵守の問題であると同時に、組織の信用維持そのものに関わる課題であるとも言える。3.AI開発・統計作成における同意不要特例今回の改正案でもっとも注目されるのは、AI開発や統計作成を含む「統計作成等」のためのデータ利用について、一定条件の下で本人同意を不要とする特例が拡張される点である。但し、対象となるのは、統計の作成、分析、AIモデルの学習や検証など、個人を直接の判断対象とすることを目的としない利用であり、個人ごとの評価、選別、営業、与信、採用、価格設定など、個人に直接作用する用途まで広く許容されるわけではない。また、第三者提供を伴う場合には、提供元と提供先の間で、利用目的、利用範囲、再提供の可否、安全管理措置、削除や返却の取扱いなどについて統制が確保されていることが前提となる。単に「分析目的だから渡してよい」ということではなく、提供後も管理可能な状態を維持することが求められる。さらに、本人同意を不要とする代わりに、公表を通じた透明性確保が要件となる。企業は、どのような目的で、どのような類型のデータを、どのような相手と、どの範囲で利用するのかを、外部から理解できる形で示さなければならない。ここでいう透明性は、抽象的な包括条項を掲げれば十分ということではなく、本人や社会が利用実態を把握できる具体性が必要である。加えて、目的外利用は禁止される。統計作成等のために収集・提供・受領したデータを、あとから個別マーケティングや個別判断に転用することは、特例の趣旨に反する。このため、どこまでが統計作成等で、どこからが個人向けの意思決定利用に当たるのかを切り分ける社内基準が不可欠となる。つまり今回の改正案を理解するうえで重要なのは、本人同意を不要とする場面が広がるほど、企業の側により重い説明責任が課されるという点である。従来は、本人同意が適法性を支える根拠となる場面が多かったが、AI開発や統計作成のための利用について一定の条件のもとで同意を不要とする以上、その代替として、企業は利用の目的、範囲、統制の仕組みを自ら説明できなければならない。したがって、改正案における透明性確保は、単なる広報上の配慮ではなく、同意に代わる法的・実務的な正当性を確保するものと位置づけられる。税務分野では、一般的に、ある目的のために情報を提出することが多く、後から分析やAI学習に回す場合、説明不足がそのまま情報を提出する側の不信感に結びつきやすいため、透明性の確保は非常に重要な課題となる。4.税務分野に与える影響改正案は税務分野を直接対象とする特則ではないが、税務実務では、機微性の高い個人データを継続的かつ大量に扱うという特徴を持つ。そのため、改正案のうち、とくに同意不要特例、透明性確保、委託先統制、実効性確保の項目については、税務に強い影響を及ぼすと考えられる。4.1企業の税務部門への影響企業の税務部門では、申告、年末調整、税額計算、税務調査対応などの通常業務に加え、近年は、過去データを用いた異常値検知、申告漏れリスク分析、業務標準化、AI補助機能の導入などのニーズが高まっている。改正案は、こうした分析利用やAI活用を一定範囲で進めやすくする可能性がある。たとえば、過去の申告データや会計データから、税区分の入力誤りが起きやすい箇所を分析したり、帳票読み取り精度を改善したりする用途は、個人を直接評価・選別する利用ではなく、統計作成等に近い利用として整理できる。しかしながら、企業の税務部門にとって最も重要な変化は、税務処理目的の利用と、分析・AI活用目的の利用を切り分けて整理する必要が生じる点にある。従来は、同じ部門内で一体的に扱われていたデータについても、今後は、どの利用が通常の税務処理なのか、どの利用が分析利用なのかを整理し、必要に応じて社内規程等を見直す必要がある。とくに、人事、経理、法務、情報システム、外部税理士等と連携して業務を行う場合には、利用目的の不整合が起きやすくなるため、その整理を慎重かつ迅速に進める必要がある。4.2税理士事務所への影響税理士事務所では、顧客から預かった資料を用いて申告、記帳代行、税務相談、相続対応などを行うため、「自らのための利用」と「顧客のための受託処理」が混在しやすい。たとえば、顧客資料を申告業務のために受領したにもかかわらず、その一部を所内の業務改善、AI検証に流用する場合、契約や説明内容との整合性が問われることになる。このため、まず、どの業務のために資料を受け取り、所内でどこまで利用し、外部サービスを用いるか、再委託を行うか、契約終了後にどのように返却・削除するかを明確にしておかなければならない。とくに、申告支援のために受領した資料を、そのまま所内のAI検証や業務改善に用いるような場面では、契約と説明が曖昧なままだとリスクが高いため、契約と実態を一致させることが必要となる。また、税理士事務所では、クラウド会計ソフト、外部ストレージ、OCR、生成AIツールなど、外部サービスの利用が広がっている。これにより、顧客データが事務所外へ出ることも増えており、再委託管理、安全管理措置、保存場所、事故時の報告体制などの整備が一層重要になる。改正案は、こうした外部利用の実態に対し、契約と運用の整合、説明責任、所内統制の明確化を強く求める方向に働くこととなり、税理士事務所にとっての影響は、単なる法令対応にとどまらず、実務そのものの見直しが必要になる可能性がある。4.3税務周辺サービスへの影響税務SaaSやクラウド会計などの税務周辺サービス事業者にとっても、改正案の影響は大きい。これらの事業者は、多数の顧客から受領したデータを横断的に用いて、OCR精度向上、入力補助、異常値検知、仕訳提案、申告支援モデルの改善などを計画することも多いと思われる。改正案の同意不要特例は、こうした横断的利用の可能性を広げる一方で、本当に統計作成等の範囲にとどまるのか、個別顧客への直接的判断利用に影響が及んでいないかという点を正しく判断する必要がある。とくに、複数顧客データの横断利用は、顧客から見たときに、どこまでが自社のための処理で、どこからがサービス提供者自身の分析利用なのかが不明確になりやすい。したがって、プライバシーポリシー、利用規約、業務委託契約、学習データ利用方針、再委託管理を見直すとともに、改正案が成立した際には、利用目的の明示、対象データの特定、第三者提供・委託関係の整理、目的外利用防止の統制が、サービスの信頼性を左右することになる。5.さいごに2026年の個人情報保護法改正案は、AI時代に対応するために、データ利活用の推進と権利保護の強化を同時に進めるものであり、とくにAI開発や統計作成に関する同意不要特例は、データの活用範囲を広げる可能性がある。しかし、改正案の本質は「同意なしで使える範囲が広がる」ということではなく、「限定された目的の下で、透明性、公表、提供先統制、目的外利用防止を前提として、一定の利活用を可能にする」点にある。税務実務では、機微性の高いデータを継続的かつ大量に扱うだけでなく、外部との連携も多い。そのため、改正案による利活用の推進は期待されるものの、それ以上に、利用目的の切り分け、委託・再委託の管理、説明文書の整備、アクセス権限の統制、事故対応体制の構築といった課題への対応が重要となる。さらに、税務分野では、個人情報保護法だけでなく、番号法や税法上の守秘義務との関係も踏まえる必要があり、一般的なデータ活用よりも慎重な判断が求められる場面が少なくない。その意味では、税務分野における改正案対応は、様々な影響を見極めながら、段階的に進めていくことが望ましいと考えるが、過度に委縮することなく、信頼を維持しつつデータの活用を進めることを検討いただきたい。<注釈>個人情報保護委員会,個人情報保護法等の一部を改正する法律案について,https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260407_kisyahaifusiryou.pdf個人情報保護委員会,個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律,https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation2023/index.htm提供:税経システム研究所
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2026/06/30 経営レポート
退職に関わるトラブル回避(第16回) 「定年退職後の継続雇用1」
【サマリー】前回までのレポートでは、有期雇用契約における雇止めの法理について、主要判例や労働契約法19条を中心に整理してきました。形式上は契約期間満了によって雇用関係が終了する有期契約であっても、契約更新が繰り返されることにより労働者に雇用継続への合理的期待が生じている場合には、雇止めが解雇と同様に厳しく審査される可能性があることを確認しました。もっとも、雇用継続をめぐる問題は、有期雇用契約の雇止めに限られるものではありません。企業実務では、従業員が定年を迎えた後に、どのような条件で再雇用するのか、再雇用を希望する者に対してどのような職務や労働条件を提示すべきか、また、再雇用をしないことが許されるのかといった問題も、重要な労務管理上の課題となります。そこで本レポートでは、定年後の再雇用をめぐる企業の法的義務と実務上の留意点について、高年齢者雇用安定法の概要を整理するとともに、裁判例を踏まえながら解説します。1.高年齢者雇用確保措置の基本構造高年齢者雇用安定法は、企業に対し、少なくとも65歳まで安定して働く機会を確保することを求めています。具体的には、定年を65歳未満に定めている事業主は、65歳までの定年引上げ、65歳までの継続雇用制度の導入、または定年制の廃止のいずれかの措置を講じなければなりません。●高年齢者雇用安定法第9条(義務)<対象者>定年年齢を65歳未満に定めている事業主<対象となる措置>次の①~③のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)①65歳までの定年の引上げ②65歳までの継続雇用制度の導入③定年の廃止かつては労使協定で対象者を限定する基準を設けることが認められていましたが、その仕組みは段階的に廃止され、2025年4月以降は経過措置も終了しましたので、現在は、原則として希望者全員を対象としなければなりません。いずれかの措置のうち、多くの企業で採用されているのが継続雇用制度です。継続雇用制度には、定年到達者をいったん退職させたうえで新たな労働条件により雇用する再雇用制度と、退職させず雇用関係を継続する勤務延長制度があります。実務上は再雇用制度が多く用いられますが、再雇用だからといって企業が自由に条件を設定できるというわけではありません。もっとも、希望者全員を対象とするということは、あらゆる者について、いかなる事情があっても必ず再雇用しなければならないという意味ではありません。就業規則上の解雇事由または退職事由に該当するような重大な問題がある場合には、継続雇用の対象外となり得ます。ただし、その判断は個別具体的な事情に基づき、客観的・合理的に説明できるものでなければなりません。企業実務で問題となりやすいのは、制度上は希望者全員を対象としているように見せながら、実際には職務内容、賃金、勤務場所、勤務日数等の条件を著しく不利に設定し、本人が再雇用を希望しない方向へ誘導するようなケースです。このような運用は、形式的には再雇用の機会を提示していても、実質的には雇用確保措置を潜脱するものと評価される危険があります。そのため、高年齢者雇用確保措置を検討する際には、「制度があるか」だけでなく、「本人が現実に就労を継続できる内容になっているか」「条件の決定過程を合理的に説明できるか」という観点から確認する必要があります。定年後再雇用は、単なる福利厚生ではなく、法律上の雇用確保措置として位置づけられる点を押さえておく必要があります。2.継続雇用制度と「雇用期待権」継続雇用制度をめぐる紛争では、定年後に再雇用契約が成立しているといえるか、または、労働者が雇用継続を期待することに合理的な理由があるかが問題となります。定年により正社員としての雇用契約はいったん終了します。しかし、会社に継続雇用制度があり、本人が再雇用を希望し、会社も具体的な労働条件を提示している場合には、やり取りの内容次第で再雇用契約の成立が認められる可能性があります。また、契約成立までは認められない場合であっても、労働者に雇用継続への合理的な期待があったとして、一定の法的保護が認められることがあります。ここで重要なのは、継続雇用制度は、会社が任意に行う恩恵的な制度ではないという点です。そのため、定年後も働くことを希望する従業員に対し、会社が合理的な理由なく再雇用を拒否することは、法の趣旨に反する対応として問題となります。また、雇用継続への期待が認められるかどうかは、就業規則や再雇用規程の文言だけで決まるものではありません。会社が本人にどのような説明をしていたか、これまで定年後再雇用をどのように運用してきたか、同じような立場の従業員をどのように扱ってきたか、本人との面談でどのようなやり取りがあったかなどが、総合的に判断されます。例えば、これまで定年到達者の多くが再雇用されていた場合や、会社が本人に対して「定年後も引き続き働いてもらう」といった説明をしていた場合には、労働者が定年後も働けると期待することには、一定の合理性があると評価されやすくなります。一方で、会社が継続雇用制度の内容をあらかじめ明確に説明し、再雇用後の職務内容、賃金、契約期間、更新基準などを事前に示していた場合には、労働者が期待できる範囲も、その説明内容に限定されやすくなります。したがって、企業としては、定年直前になって突然再雇用条件を提示するのではなく、定年前の相当期間前から、制度の説明、本人の意向確認、労働条件の提示、合意形成という流れを丁寧に進めておくことが重要です。3.再雇用条件の変更範囲再雇用後の条件については、賃金減額や職務変更が直ちに違法となるわけではありません。定年後は役職定年や責任範囲の縮小、勤務日数の変更などが予定されることも多く、それに応じて賃金が下がること自体は一般的にあり得ます。定年前の労働契約と定年後の再雇用契約は、法的には別個の契約として整理されるため、労働条件が当然に維持されるものでもありません。しかし、賃金や職務の変更には合理的な説明が必要です。特に、定年前と同程度の職務を担当させるにもかかわらず賃金だけを大幅に下げる場合や、本人の経験・能力と著しくかけ離れた職務を提示する場合には、制度の趣旨との関係で問題となります。賃金水準を決定する場合には、定年前の基本給との比較だけでなく、定年後の職務内容、責任の程度、所定労働時間、勤務日数、配置転換の有無、賞与や手当の支給基準を総合的に整理する必要があります。単に「定年後は一律に何割減」とするだけでは、職務や責任との対応関係が不明確となり、本人の納得を得にくいだけでなく、紛争時にも合理性の説明が難しくなります。また、短時間・有期雇用労働者として再雇用する場合には、いわゆる同一労働同一賃金の観点も無視できません。正社員と再雇用者との間で待遇差を設ける場合には、その待遇差が職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に照らして不合理でないことを説明できるようにしておく必要があります。4.職種変更の限界と賃金の関係高年齢者雇用確保措置における職種変更の限界を考えるうえで参考になるのが、定年後再雇用において、会社が提示した業務内容と賃金水準の適法性が問題となった事案、「トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決)」です。当時、会社は、一定の基準を満たす者については、定年前の年収の約59%程度となる再雇用制度を用意していましたが、当該従業員はその基準を満たさないと判断されました。そのため、定年退職者全員が対象となる別の再雇用制度として、年収127万円、すなわち再雇用前の年収と比較して約13%の水準となる労働条件を提示しました。業務内容は、シュレッダー機のゴミ袋交換、再生紙管理、業務用車の清掃、フロア内の棚やロッカーの清掃などであり、定年前に従事していた事務職とは大きく異なる清掃業務でした。労働者はこの条件を受け入れず、再雇用契約は締結されませんでした。そのため、会社の提示した再雇用条件が、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものかどうかが争われました。まず、業務内容について、裁判所は、定年前の事務職と、再雇用後に提示された清掃業務とは、まったく別個の職種に属する性質のものであると評価しました。そのうえで、このような業務内容を提示することは、実質的には再雇用を困難にするものであり、高年齢者雇用安定法の趣旨を潜脱するものとして、違法であると判断しました。一方で、賃金額については、裁判所は異なる判断を示しました。本件で提示された年収127万円は、再雇用前の年収と比較すると約13%にとどまり、言い換えれば約87%の大幅な減額です。しかし裁判所は、この賃金水準について、老齢厚生年金の報酬比例部分である148万7,500円の約85%に相当する金額であり、無年金・無収入期間の発生を防ぐという高年齢者雇用安定法の趣旨に照らすと、直ちに「到底容認できないような低額」とまではいえないと判断しました。企業実務においては、この点が重要です。定年後再雇用では、賃金が定年前より下がること自体は、職務内容、責任の範囲、勤務時間、年金受給との関係などを踏まえれば、一定程度許容される場合があります。しかし、業務内容については、本人の従前の職務、能力、経験、健康状態、会社内における配置可能性などを踏まえ、合理的な範囲内で設定する必要があります。特に、定年前の職務とまったく異なる業務を提示する場合には、その必要性や合理性を説明できることが重要です。単に「基準を満たさないから」「全員対象の制度だから」という理由だけで、本人の経歴や能力と大きくかけ離れた業務を提示すると、形式上は再雇用条件を示していたとしても、実質的な再雇用拒否と評価されるおそれがあります。いずれにしても企業としては、定年後再雇用の条件を提示する際、職種を大きく変更する場合には、その変更が本人に対する不利益取扱いや再雇用回避目的と受け取られないよう、慎重な対応が求められます。5.70歳までの就業機会確保と制度設計65歳までの高年齢者雇用確保措置が法律上の義務であるのに対し、70歳までの就業機会確保措置は努力義務として位置づけられています。70歳までの措置には、70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入のほか、業務委託契約を締結する制度や、社会貢献事業に従事できる制度を設けることも含まれます。●高年齢者雇用安定法第10条の2(努力義務)<対象事業主>定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主<対象となる措置>次の①~⑤の措置(高年齢者就業確保措置)を講じるよう努める必要があります。70歳までの定年引き上げ定年制の廃止70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入事業主が自ら実施する社会貢献事業事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業④、⑤については過半数労働組合等の同意が必要努力義務であるため、65歳までの措置と同じ意味で希望者全員を雇用しなければならないわけではありません。ただし、対象者を限定する基準を設ける場合であっても、会社が恣意的に一部の高年齢者を排除するような基準や、性別、組合活動、上司の推薦の有無など不合理な基準は避ける必要があります。70歳までの制度についても、法の趣旨に沿った公平で説明可能な基準を設けることが重要です。今後は、人手不足や熟練人材の確保という観点からも、70歳までの就業機会確保をどのように制度化するかが重要になります。全員を同じ条件で雇用する発想ではなく、短時間勤務、専門業務への配置、後進指導、顧問的役割、業務委託など、複数の選択肢を用意し、本人の能力や希望、会社のニーズに応じて組み合わせることが望ましいといえます。6.企業実務で整備すべきポイント第一に、就業規則や再雇用規程において、継続雇用制度の対象者、申出手続、労働条件の決定方法、契約期間、更新基準を明確にしておく必要があります。特に「会社が必要と認めた場合に限る」といった包括的な裁量条項は、希望者全員を対象とする制度との関係で問題となるため、見直しが必要です。第二に、再雇用後の職務と賃金の対応関係を説明できるようにしておくことが重要です。定年前の役職や職責がなくなること、勤務日数が減ること、担当業務が軽減されることを理由に賃金が下がるのであれば、その理由を制度上も面談上も説明できる形にしておくべきです。第三に、本人の希望を確認する手続を早めに開始することです。定年の数か月前から面談を行い、就労希望の有無、希望する勤務日数、健康面の配慮、職務上の希望を確認しておくことで、会社側も配置を検討しやすくなります。結果として希望どおりの職務を用意できない場合でも、検討過程を残しておくことが紛争予防につながります。第四に、定年後再雇用の労働条件通知書や雇用契約書では、職務内容、就業場所、所定労働時間、賃金、契約期間、更新の有無、更新基準を具体的に記載することです。特に職務内容を「会社の定める業務」とだけ記載すると、本人が想定していた業務とのずれが生じやすいため、可能な限り具体化しておくことが望まれます。管理職への周知も重要です。制度上は適切な内容であっても、現場の管理職が「定年後だからどのような仕事でもよい」「賃金を下げるのは当然」といった説明をしてしまうと、本人の不信感を招きます。制度の趣旨、説明すべき事項、言ってはいけない表現、面談記録の残し方について、管理職向けの運用マニュアルを整備しておくことが望ましいといえます。実務上は、制度の内容が正しくても、運用過程が粗いことにより紛争化することがあります。特に定年後再雇用では、本人の生活設計、年金、健康状態、家族の事情などが関係するため、会社側が一方的に条件を通知するだけでは納得を得にくくなります。定年前の一定時期から面談を行い、本人の希望と会社の配置可能性をすり合わせる手続を制度化することが重要です。7.まとめ高年齢者雇用確保措置は、単に再雇用制度を設けておけば足りるものではありません。希望者全員を対象とする制度になっているか、提示する労働条件に合理性があるか、職務を変更する場合に相当な理由があるか、本人への説明や面談記録が残されているかが、実務上の重要な確認ポイントとなります。トヨタ自動車事件が示すように、賃金の引下げ自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、会社が形式的に再雇用条件を提示していたとしても、その内容が実質的に継続雇用の機会といえない場合には、高年齢者雇用安定法の趣旨に反する対応と評価される可能性があります。特に、定年前の職務と大きく異なる業務を提示する場合には、その必要性や合理性を丁寧に説明できる状態にしておく必要があります。また、高年齢者雇用をめぐるトラブルは、法律上の不備だけでなく、説明不足や記録不足から生じることも少なくありません。規程だけを整えても、個別面談や契約書の内容が不十分であれば、紛争リスクは残ります。一方で、個別対応だけに頼ると運用が属人的になり、公平性を欠くおそれがあります。そのため、「制度設計」「個別説明」「記録化」を一体として整備することが大切です。今後は、65歳までの雇用確保措置を確実に実施するだけでなく、70歳までの就業機会確保も視野に入れた制度整備が必要になります。特に、2025年4月以降は、65歳までの継続雇用について希望者全員を対象とする運用が全面的に求められています。過去に作成した再雇用規程をそのまま使い続けている企業では、対象者を限定する旧制度の基準が残っていないか、現行法とのずれがないかを確認し、必要に応じて早急に見直すべきです。次回は、定年後の再雇用に関する重要判例をいくつかご紹介します。提供:税経システム研究所
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企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第24回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で中学受験の学習塾を計5教室運営している中小企業です。長年、大手学習塾にはないアットホームな雰囲気で受験生を確保してきましたが、ここ数年、広告を打っても集客が難しくなってきました。個別指導に力を入れていますが、大手も同様の取り組みをしており、競争が厳しいです。少子化が進む中で、生き残るにはどのように経営戦略を策定すべきでしょうか。■少子化の下での経営図118歳人口の推移「(出典:文科省資料)周知の事実ですが、受験生人口は図1に示されている通り減少を続けています。図1は大学受験の18歳人口ですので、御社の得意とする中学受験の12歳市場は、この図を6年右にシフトさせたものとなります。今年はわずかに18歳人口の増加が見られます。これは1990年前後に200万人超えであった団塊ジュニアの方々のお子さん達が辛うじて100万人超えをしているということです。図1から、中学受験生の12歳人口は3-4年後に急減していくことがわかります。その時に、中学校も、中学受験のための進学塾も淘汰が進みますので、御社にとり改革の時間は限られていると言えるでしょう。図1は、2040年あたりから18歳人口の減少は鈍化するという予測になっていますが、実態はもっと厳しいものとなると思われます。47都道府県で、東京都は中学受験率が20%超え、大阪府は10%超えです。東京都内でも50%近い区もあり、地域差が大きいようです。一方、大阪府で始まった「高校無償化政策」は国の政策となりました。先行する大阪の状況を見ると、高校無償化すると公立高校の定員割れが増えているようです。受験指導に熱心な私立高校が好まれる状況です。私立高校は中高一貫化する傾向がありますので、子供は減るのですが、中高一貫校の中学受験率は上昇するでしょう。■教育産業のビジネスモデル表1株式会社KADOKAWAの売上・利益の内訳(2026年3月期)KADOKAWAは元々出版社ですが、表1に示されている通り、利益ではゲーム事業への依存度が高くなっています。一方、近年伸びており、収益力も高い教育事業に注目が集まっています。通信制のN高校やZEN大学が教育事業の中核となっています。実は、わが国では通信制高校在籍者の比率は上昇しており、さらにN高校等の修了者の一定比率が出来立てのZEN大学に入学しているのです。民間企業らしいマーケティング力を感じる事業展開です。通信制高校には、いじめにあったといった理由で進学する方もいますが、スポーツや芸術に全力で取り組みたいという理由で通学制の高校を選ばないという学生もいるのです。イタリアに音楽留学中の学生が、インターネット経由で、通信制高校にて高卒資格を取ろうと勉強している事例もあるようです。オリンピック出場選手も海外遠征が多い場合は、通信制高校を選ぶ事例を耳にしたことがあります。このように、少子化の中でも伸びている教育分野に進出するという戦略もあるのです。大手学習塾の明光ネットワークの売上・利益については表2に示されている通り、塾の直営事業とFC事業が利益の大半を占めています。塾事業では、マスプロ教育と家庭教師の中間のポジションとして、「個別指導」という教師一人に生徒複数名で稼ぐ方式を確立しています。この企業は今、少子化の流れの中で、人材事業を伸ばそうとしています。日本語学校事業で外国人との関係性を強化し、外国人学生達を企業にマッチングするというサービスに力を入れています。表2のその他に含まれる人材事業は、今のところはセグメント利益を見る限り、塾事業のように稼ぐことが出来ていません。しかし、塾事業に力がある間に、人材事業の比率を高めようとする戦略を打ち出しています。表2株式会社明光ネットワークジャパン売上・利益の内訳(2025年8月期)塾産業は、激しい受験競争を勝ち抜かねばならない人が多いかどうかが事業環境として重要です。10年後には、多くの中学、高校、大学で入試が容易化するか、統廃合する状況が予測されます。趣味や部活を楽しんでいても、ぜいたくを言わなければ大卒になることが出来る時代が来ようとしています。この手の人向けの塾市場は急速にシュリンクしていく可能性が高いと思われます。一方、初等教育、中等教育については日本のレベルは高いと言われています。教育熱心な家庭の場合、そこから高等教育機関をどのように選択するかです。JAZで有名な上原ひろみさんは、ヤマハの音楽教室で作曲とピアノ演奏の技術を身に着け、バークリー音楽院に留学し、最優等で卒業しています。大谷翔平選手が高校時代からMLBで活躍することを目指していたのは有名な話ですが、近年は灘高からスタンフォード大学等を目指すような秀才も増えつつあるようです。一部の名門中高への入試もある程度の競争は残るでしょう。公文式は、グローバルに事業展開し、教材販売を行い、進学校の高校も保有しています。ロジカルな経営戦略が見られます。中堅の塾では、芸能学校を持っている国大セミナーのような事例もあり、小さい塾では、医学部入試や慶応幼稚舎入試にフォーカスしたところも生き残っています。子供の教育投資にお金を喜んで出す教育熱心な家庭のニーズをとらえ、教え子の中からロールモデルを生み出し、ブランドを確立する。それが、生き残るための御社のオーソドックスな戦略となります。■御社の経営戦略の体系表3御社の経営戦略の体系1.個別指導の差別化教員の質と指導方法2.市場細分化既存事業+α3.バリュー価格基本料金+α4.新事業開発,M&Aシナジー+ICT御社の今後の経営戦略は、表3の通りにまとめることが出来ます。教育を提供する企業から、教育熱心な家庭へのソリューションプロバイダ―への転換を遂げていくことが生き残る戦略の核となります。1.既存の塾事業は、個別指導路線を踏襲しつつも、中核教員の質を向上させ、指導方法(メソッド)にウリを作ることが重要です。個別指導を実践する場合、大手と同じ土俵に立つことになりますので、小回りを利かせることが重要となります。マスプロ教育と家庭教師の間で、より家庭教師に近いポジションを目指すこととなります。顧客のうち、教育熱心な家庭の子弟の比率を向上させることがKPIとなります。「取りあえずどこかの大学に将来入れればよい」という顧客層からの脱却が必要となります。2.既存事業の個別指導でキャッシュを稼ぎつつ、5教室のうち一部を+αとして、新しいサービスに取り組むのです。教育系ベンチャーと資本業務提携するような方法も考えられます。3.固定費の大きな大手とすみ分ける基本メニューに、教育熱心な家庭に魅力的なオプションでカスタマイズする料金体系とするのが標準的な考えとなります。4.M&Aについては、既存事業でキャッシュを稼ぐことが出来るICT系の企業がまずは考えられます。そもそも、教育はプログラム化出来るコンテンツであり、メソッドをICTにより確立していくことでシナジーが得られます。組む相手としては、a.M&Aによる統合、b.マイナー出資による協業、c.業務提携による連携、の三通りの方法があります。相手があることなので、ケースバイケースで検討していくこととなります。提供:税経システム研究所
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2026/06/26 商事法レポート
株主総会の書面決議の留意点と次期会社法改正による制度見直しのポイント
[要旨]株主総会の書面決議は、株主総会の開催を省略し株主全員の同意により株主総会決議を成立させることができるため、株主数の少ない株式会社で比較的よく利用されています。しかし、会社法の規定が比較的シンプルであるため、その具体的な手続きや方法にやや不明確さがあります。本稿は、制度の安定的利用を確保し法的紛争を避ける観点から、株主総会の書面決議を行う場合の留意点を示すとともに、次期会社法改正で予定されている改正内容にも言及し、関係者の参考に供します。1はじめに株主総会の決議は、基本的には招集権者により法令・定款所定の手続に従って招集された株主総会において、出席株主が必要に応じ所定の定足数の要件を満たした上で必要多数の議決権の行使を行うことにより行われます(会社法309条参照)。その一方で、会社法は株主総会を介さず株主全員の同意を以て株主総会の決議に代えることを認めています(会社法319条)。これが株主総会の書面決議です。株主総会の書面決議では株主総会の開催が省略されるため、招集手続きは行われません(注1)。他方で、株主総会の書面決議に係る決議事項の提案は「取締役又は株主」が行うものとされますが(会社法319条1項)、取締役がその提案を行う場合における提案事項の決定手続きは、会社法に規定されていないため、取締役会設置会社では当該提案につき取締役会の決議を要するのかは明確でありません。また、株主が提案する場合、議決権のない株主でも良いのかも不明です。さらに、提案そのものは書面または電磁的記録によるものとされていないため、取締役または株主が口頭で行った提案に対し議決権のある株主の全員から「提案内容に同意する」旨の書面または電磁的記録を取り付けると、書面決議が成立するのかも問題となります。株主総会の書面決議は、株主数が少ない株式会社で株主総会の決議事項につき機動的な意思決定を可能にするため、実務上広く用いられていると評されていますが(注2)、その具体的運用の方法・手続きが必ずしも明らかでない点が残されています。そこで、本稿は、法的に安定した制度利用を確保する観点から、これらの問題点を始め制度利用上の留意点を概説・検討するとともに、2026年4月に法務省が公表した「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」で提案されている書面決議制度の改正についても触れ、関係者の参考に供します。2株主総会決議を書面で済ませる方法の概要—書面決議―会社法319条1項によれば、取締役または株主が株主総会の目的である事項につき提案をした場合において、当該提案事項につき議決権を有する株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます。また、この措置により定時株主総会の目的であるすべての事項について書面決議が成立した場合は、その時に定時株主総会が終結したものとみなされます(同条5項)。要するに、株主総会の書面決議は、株主総会を開催することなく、取締役または株主から提案された株主総会の目的である事項に対し議決権を持つ株主の全員から同意の意思表示を取り付け、それを以て株主総会の決議に代えるものです(注3)。この場合、株主総会の招集手続きを経る必要がないことはもちろん、取締役または株主からの提案も、書面または電磁的方法により行うことは要求されていません。他方で、提案事項につき議決権を有する株主の同意の意思表示は、書面または電磁的記録によって行うことを要し(同条1項)、株式会社は当該書面等を株主総会決議があったとみなされた時から10年間その本店に備え置き(同条2項)、株主もしくは債権者または親会社社員の閲覧・謄写に供することを要します(同条3項・4項)。3株主総会の書面決議に関する留意点(1)書面決議の対象とすることができる株主総会決議事項の範囲・種類書面決議を行うことのできる株主総会の決議事項の範囲・種類は、会社法では特に制限が設けられていないため、すべての株主総会決議事項がその対象となると解されています(注4)。しかし、例えば、①株式会社が特定の株主から自己株式を有償取得する場合、他の株主を売主に追加することなく、自己株式取得のための株主総会決議を書面決議により行えるか(注5)、②監査役設置会社で取締役が監査役の同意を得ることなく監査役選任を提案し総株主の同意により監査役選任を内容とする書面決議を行うことが可能か、が問題となりそうです。このうち①については、株式会社が特定の株主から自己株式を有償取得する旨の提案が取締役または株主から行われ、議決権を有する株主の全員が同意の意思表示をしたときは、売主となる株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とすることを請求する会社法160条3項所定の権利を放棄したと考えることもできるため、書面決議で行うことに問題はない(注6)ものと思われます。これに対し、②は監査役の独立性確保との関係で検討を要する問題であるところ、議決権のあるすべての株主の同意が監査役選任議案の提案に関する瑕疵を治癒すると考えると、当該議案に係る提案も書面決議により適法かつ有効に可決できると解せそうです。しかし、後述(2)での議論との関係では、監査役の同意を得ずに取締役が提案した監査役選任議案を総株主の同意により可決し成立させた株主総会決議は、決議方法の法令違反を理由に取消しの訴え(会社法831条1項)の対象になると考える余地もあり得ます。そのため、実務上は、取締役が監査役選任議案を書面決議に付すときは、予め監査役の同意を得ておいた方が無難であり、監査役の独立性を確保する観点からは監査役の同意を要すると解した方が妥当であると思われます。(2)取締役または株主による株主総会決議事項の提案①取締役が提案する場合の留意点株主総会の書面決議に付す株主総会決議事項の提案は、取締役または株主がこれを行うと規定されています。この場合、株主総会が開催されないため、招集手続きを履践することは要求されませんが、取締役会設置会社において取締役が当該提案を行うに当たり、株主総会の目的である事項を取締役会の決議で決定(会社法298条1項2号・4項参照)する必要がないかは、従来議論があるところです。取締役が複数ある取締役会非設置会社についても、取締役の過半数により決定することを要するかどうかが同様に問題となります。この問題につき、学説上は、会社法319条に定める書面決議が株主全員の同意によって株主総会の開催と議事の省略を認めるにすぎないものであることを理由に、取締役が書面決議に付す株主総会決議事項の提案を行うに当たり、取締役会設置会社では提案事項を取締役会の決議で決定することを要し(会社法298条1項2号・4項)、複数の取締役を擁する取締役会非設置会社ではこれを取締役の過半数の決定より定める必要があると解する見解(注7)が有力です。これによれば、取締役会設置会社では取締役が取締役会の決議を経ずに株主総会決議事項の提案を行った場合、当該提案に対し議決権のある株主の全員が同意の意思表示を行ったとしても、株主総会決議取消しの訴えの対象となる(会社法298条4項、831条1項1号)と解されます(注8)。複数の取締役を擁する取締役会非設置会社で取締役の一人が取締役の過半数の決定を経ずに当該提案をした場合も同様に解することになるでしょう。これに対し、実務の観点から、書面決議の場合は株主総会の開催そのものが省略され、招集手続も不要とされる以上、招集手続に関し定めた会社法の規定が基本的に適用されないと考えるのが自然であるとする解釈(注9)が提唱されています。また、取締役が監査役選任議案を監査役の同意なしに提案した場合の取扱いについても、前者の立場ではやはり決議取消事由(会社法343条1項・831条1項1号)となると解することになると思われます。他方、後者の立場は、監査役の同意が株主総会の招集手続の一環であるとして、監査役の同意を要しないと解するのかもしれません。株主全員の同意は株主の利益保護のために設けられた手続きの不遵守を治癒する効果を伴うので、取締役からの提案に取締役会の決議または取締役の過半数の決定を要すると解しても、その欠缺という瑕疵は治癒され不問に付されると考えて良いでしょう。しかし、監査役の同意は取締役に対する独立性の確保を目的とするため、取締役からの監査役選任議案の提案については株主全員の同意により監査役の同意が不要になると解することには躊躇を覚えます。そのため、監査役の同意を欠く取締役からの監査役選任議案を可決する書面決議は、決議取消事由を帯びると解することが妥当であると考えられることから、取締役が当該議案を書面決議に付すときは事前に監査役の同意を得ることを要し、同意のための書面または電磁的記録にその旨を付記することが適切であると思われます。②株主が提案する場合の留意点書面決議のための提案は、株主もこれを行うことが可能です。法文上は「株主」とされているため、この場合の株主提案権は単独株主権です。他方で、会社法319条1項の提案者としての「株主」は、同意を与える株主と異なり、提案事項についての議決権を有することが法文上は要件とされていないため、議決権のない株主も当該提案を行えると解する余地がありそうです。ちなみに、会社法303条ないし305条に定める株主提案権のうち単独株主権とされるものについては、提案可能な株主総会の目的たる事項は株主が議決権を行使できる事項に限られるため(会社法303条1項・304条・305条1項)、議決権のない株主には提案権は認められないこととなります。これとの対比で考えると、提案株主について同種の制限が付されていない書面決議に関しては、議決権のない株主にも提案権が認められると解する余地があります。しかし、書面決議はあくまで株主総会の決議の一態様であるため、提案者たる株主もやはり提案事項につき議決権を行使できる者に限られると解する(注10)のが合理的であると思われます。(3)株主による同意の意思表示の方法等①同意の意思表示の方法取締役または株主の提案に対し議決権のある株主からの同意の意思表示は、書面または電磁的記録により行うことを要しますが、その際の具体的方法として、当該書面または電磁的記録に同意の対象となる議案の内容とそれに対する株主の同意が記載または記録され、書面決議に付される議案とそれに対する株主の同意が一つの書面または一つのファイルに一体として示される必要があると解されています(注11)。会社法319条1項の前身となった平成17年改正前商法253条1項では、議決権を行使できる株主が「取締役または株主の提案の内容」および「当該提案に同意する旨」を記載または記録した書面または電磁的記録を以て同意することを書面決議の手続きとして定めていたからです。こうした取扱いが求められた理由は、株主の同意がいかなる提案に対しなされたものであるかが一覧して明らかになるようにするとともに、株主の同意の意思表示を記載等した書面等が別の提案事項に係る書面決議に流用されることを防止することにありました(注12)。このことは、会社法上も引き続き妥当するはずです。②判断能力を欠く株主の同意書面決議に必要な株主の同意が有効な意思表示である必要があることはいうまでもありません。そのため、同意を与えた株主が認知症等のため判断能力を欠いていた場合、当該同意は無効となり、書面決議は成立しません。現に、近時の下級審裁判例では、株主の全部または一部が判断能力を欠いていたことを理由に書面決議の効力を否定している(注13)ため、こうした事態を避ける観点からは、成年後見制度等の利用が必要となります(注14)。4次期会社法改正による書面決議の見直し(1)会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案の提案株主総会の書面決議は株主総会の開催を省略して決議を行える点で株主数の少ない株式会社にとっては弾力的対応を可能にするものとして非常に便利な制度です。しかし、他方で、議決権のある株主全員の同意を要件とするため、所在不明の株主がある場合には、当該株主の保有株式の競売または株式会社による有償取得の措置(会社法197条1項~4項または中小企業承継円滑化法15条)(注15)を講じ総株主の同意を取り付けられる状態としたときを除き、書面決議を行うことができず、限界があります。そこで、法務省民事局参事官室が次期会社法改正に向け2026年4月に公表した「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」(以下、「中間試案」)は、こうした事態における現行制度の限界を克服するため、書面決議制度の見直しを盛り込んでいます(第2部・第4・2)。すなわち、中間試案は、現行会社法319条1項を、「取締役または株主が株主総会の目的である事項についての提案を株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)に対して通知した場合に、以下の①および②のいずれにも該当するとき」は、当該通知を発した日から1週間以内に異議を述べた株主があるときを除き、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなすという趣旨の規定に改正することを提案するものです。なお、報告事項の報告についても同様の規律を設けることが併せ提案されています(第2部・第4・2(注))。当該提案につき総株主(当該事項について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたこと。①の意思表示をした株主が株主総会において当該提案に係る決議に賛成したとすれば株主総会の決議の要件を満たすこと。(2)中間試案による書面決議制度の見直しがもたらす効用と限界中間試案の提案は、総株主(議決権を行使できない株主を除く。)の議決権の10分の9以上の議決権を有する株主の同意が頭数主義を加味する会社法309条3項・4項の特殊決議を含む株主総会の決議の要件を満たしていれば、書面決議の成立を認めるものですが、書面決議に付す提案の通知発出日から1週間以内に異議を述べた株主があるときには書面決議が成立しないこととなります。そのため、この提案は、実質的に株主全員の同意を要件とする現行の書面決議制度を維持しつつ(注16)、所在不明株主から異議が述べられることは考え難いことから、総株主の同意を得られなくとも、所在不明株主以外の株主が総株主の議決権の10分の9以上を保持して取締役または株主からの株主総会決議事項に係る提案に対し書面または電磁的記録により同意し、それが会社法309条に定める株主総会決議の類型ごとの要件を満たしている限り、結果的には多数決型の書面決議を有効に行えるようにするものです。これにより、所在不明株主問題への対処が一定程度可能になります。他方で、中間試案の提案に係る株主総会の書面決議制度の見直しが実現した場合も、同意株主の要件である「総株主の議決権の10分の9以上を有する株主」の10分の9基準は引下げが認められないものとされます。そのため、所在不明株主が行使できる議決権の数が総株主の議決権の10分の1を超えるときは、書面決議を行うことができず、所在不明株主の保有株式の競売等による対応(注17)が必要となることに留意を要します。5おわりに株主総会の書面決議は、中間試案の提案が実現すれば、株主数の少ない株式会社にとっての有用性が増すだけでなく、所在不明株主問題に悩む株式会社にも株主総会の書面決議を成立させる可能性を与える点で効用を拡大することになります。それでも、前述したように、会社法の法文には表れない制度運用上の法的留意点が残されており、対応を誤ると株主総会の書面決議の効力が否認されるおそれがあるため、書面決議制度の安定的な利用を図る観点からは、これらの留意点に適切に対応する必要があります。本稿が、そのための一助となることがあれば、幸いです。<注釈>内田修平「株主総会の書面決議に係る提案事項の決定手続」商事法務2208号(2019年)59頁。内田・前掲(注1)59頁。岩原紳作編『会社法コンメンタール7―機関(1)』(商事法務、2013年)311頁(前田重行)。岩原編・前掲(注3)311頁(前田重行)、江頭憲治郎『株式会社法〔第9版〕』(有斐閣、2024年)379頁。野澤大和「特定の株主からの自己株式の取得と書面決議の利用の可否」商事法務2345号(2023年)72頁、74頁。これに対し、野澤・前掲(注5)74頁~75頁は、書面決議による場合も、会社法160条2項・3項が適用され、会社法施行規則28条但書および同条3号の類推適用により、会社は、株主全員の同意により株主総会の決議があったとみなされる日の1週間前までに株主に対し売主追加議案変更請求の通知を行う必要があり、当該請求の行使期限は書面決議日の3日前までとなるとの解釈論を示した上で、売主となる株主を除く株主の全員が当該会社による特定の株主からの自己株式の有償取得を内容とする提案に適法に同意する限り、売主追加議案変更請求権を放棄したものと考えられるとされます。なお、現実には考えにくいかもしれませんが、当該株式会社が単元株式制度を採用している場合、単元未満株主は議決権を有しませんが(会社法308条1項但書)、会社法160条3項の請求権は行使できるはずなので、議決権のある株主全員の同意により会社法160条3項の請求権が放棄されたとする理論構成を採用できるかの問題は残ります。野澤・前掲(注5)76頁も、単元未満株主が存在する場合を除く旨の留保を付されています。しかし、単元未満株主は会社法192条で株式買取請求権を行使できるため、議決権のある株主全員の同意を以て株式会社による特定の株主からの自己株式の有償取得を可決する株主総会決議があったものとして取り扱っても、株主の機会の平等は確保されていると考えることもできるので、書面決議による処理を認めても良いのではないでしょうか。岩原・前掲(注3)312頁(前田重行)。江頭・前掲(注4)380頁(注6)。内田・前掲(注1)59頁。江頭憲治郎・中村直人『論点体系会社法〈第2版〉2』(第一法規、2021年)711頁(角田大憲)。岩原編・前掲(注3)313頁(前田重行)。龍田節・池田裕彦「書面等による定時株主総会決議」商事法務1664号(2003年)23頁、岩原編・前掲(注3)313頁(前田重行)。東京地判令和6年9月27日LEX/DB文献番号25615825。同判決の評釈として、滿井美江「判批」新・判例解説Watch◆商法No.193(文献番号z18817009-00-051932721)。中村信男「《商事法研究レポート》[topics]高齢化社会と会社運営上の課題:意思能力を欠いた支配株主の議決権行使による株主総会決議への影響と対応策」(2025年)を参照。所在不明株主の保有株式の売却等の措置につき、曽根圭竹「《商事法研究レポート》[論説]所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例制度の紹介(会社法が定める制度の概要と中小企業経営承継円滑化法の改正点を中心に)」(2021年)を参照。法務省民事局参事官室「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」(2026年4月)90頁。この点につき、曽根・前掲(注15)が参考になります。提供:税経システム研究所
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2026/06/25 会計レポート
金融商品に関する会計基準(案)(4) 終
1.はじめに2025年10月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」(以下、「金融商品基準草案」という)、企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」(以下、「適用指針草案」という)等を公表しました。今回は「注記事項」について説明し、本シリーズを終えることにします。2.注記事項(1)金融商品全般の注記の開示目的金融商品に関する注記の開示目的は、金融商品のリスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期および不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです(「金融商品基準草案」40-A1項)。この開示目的を達成するために、次の事項が注記されます(「金融商品基準草案」40-2項)。金融商品の状況に関する事項金融商品に対する取組方針金融商品の内容とそのリスク金融商品に係るリスク管理体制金融商品の時価等に関する事項についての補足説明金融商品の時価等に関する事項金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項(2)信用リスクに関する注記の開示目的「適用指針草案」では、信用リスクに限定した注記の開示目的が示されています(注1)。信用リスクに関する開示目的は、企業の事業目的に照らした債権等の重要性を踏まえ、信用リスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期および不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです(「適用指針草案」71項)。この開示目的を達成するために、信用リスクに関する情報として、次の事項が注記されます。①予想信用損失の分解情報予想信用損失の残高(予想信用損失引当金)の変動についての情報を提供するために、債権等の特徴が類似するグループごとに予想信用損失引当金の期首残高から期末残高への調整表を注記します(「適用指針草案」75項)。「適用指針草案」の開示例1を基にすると、次のような調整表になります。単位:百万円12か月の予想信用損失全期間の予想信用損失期首残高300500全期間の予想信用損失への振替え△808012か月の予想信用損失への振替え20△20購入や売却した債権等110△140期末残高350420②信用リスク管理実務と予想信用損失の算定プロセスに関する情報信用リスク管理実務と信用リスク管理実務が予想信用損失の算定にどのように関連するかを説明するために、信用リスクの著しい増大に関する判定方法、デフォルトの定義およびデフォルトの定義を決定した理由などを注記します(「適用指針草案」79項)。③当期および翌期以降の財務諸表への影響を理解するための情報信用リスク・エクスポージャーを評価し、信用リスクの著しい集中を理解できるようにするために、信用リスク格付ごとに債権等の取得価額または償却原価、信用リスクに対するエクスポージャーを注記します(「適用指針草案」82項)(注2)。内部信用格付による地域別の債権等の開示例は、「適用指針草案」の開示例2-1を基にすると、下表のようになります。単位:百万円内部信用格付国内海外12か月全期間12か月全期間1-290020200103-430050180305-6801405014071023020210この表は、内部信用格付1-2の債権の信用リスクが最も低く、7が最も高いことを示しています。「12か月」は12か月の予想信用損失に等しい金額により算定している債権等の金額、「全期間」は全期間の予想信用損失に等しい金額により算定している債権等の金額です。通常、信用リスクが低い債権については12か月の予想信用損失を、信用リスクが高い債権については全期間の予想信用損失を見積もるケースが多くなると想定されますので、表のような数値傾向が想定されます。このように、「適用指針草案」では、信用リスクに関する注記が、現行の金融商品に関する会計基準と比較すると、拡充されているといえます。3.本シリーズを終えるにあたって4回にわたり、中小企業への影響にも触れながら、「金融商品基準草案」と「適用指針草案」を解説してきました。これらは最終基準ではないので、規定の一部が変更される可能性もありますが、本シリーズの要点をまとめると次のようになります。貸倒見積額が予想信用損失に名称変更し、その算定方法も大きく変わりました。信用リスクに関する注記項目が拡充されました。金融機関による中小企業への融資姿勢に影響を及ぼす可能性があります。したがって、中小企業は、経営計画・改善計画を示し、説明責任を高めることも必要になるでしょう。<注釈>その理由は、会計基準では信用リスクに関する開示だけでなく金融商品に関する全般的な開示目的を定めるのが望ましいとされたからです(「適用指針草案」BC120項)。担保および他の信用補完が予想信用損失に与える影響なども注記されます。提供:税経システム研究所
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