アウトライン審査事例
国税不服審判所が示した審査請求事件の裁決例は、正確な税務処理を行っていくうえで見落とせません。アウトライン審査事例では実務家の皆様にとって実用性の高い裁決事例を簡潔に紹介。併せて、参照条文も記載しておりますので、実務上の判断の一助としてお役立てください。
1160 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
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2025/04/21
「代表者親族へ会社所有車を無償貸与」「代表者親族や知人の健康診断料を会社で負担」「代表者への現金交付を帳簿に記載していない」(一部取消し)
【裁決のポイント】国税通則法第68条第1項にいう「事実」を「隠蔽」するとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏することをいい、「事実」を「仮装」するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解される。本件の審査請求人は税務調査で指摘を受け、修正申告等に応じたが、(1)従業員ではない代表者親族が会社の車を無料で使っており使用料相当額の収入計上漏れがあった、(2)取締役(代表者の妻)の親族や知人に、労働安全衛生法上の義務として会社が従業員に受診させる健康診断を受診させ、福利厚生費として損金計上した、(3)現金不足の原因は代表者への現金交付であるが帳簿に記載しなかった、ことに「仮装・隠ぺい」があるとして重加算税が課されたことから、取消しを求めて審査請求を行った。国税審判所は、(1)使用料相当額がないことが真実であるかのように装ったとはいえない、(2)請求人の従業員のための健康診断その他必要な費用であるかのように装って帳簿書類に記載したといえる、(3)源泉徴収の対象となる代表者への賞与に該当する支払い事実を隠した、と判断して、(1)について課された重加算税の賦課決定処分を取消した事例である。(平成29年5月期から令和3年5月期までの各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分、平成27年5月他の各月分の源泉徴収に係る所得税等の重加算税の各賦課決定処分他・一部取消し、棄却・令和5年6月1日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人に、重加算税を課す「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められるか。【裁決の要旨】(1)本件使用料相当額の計上漏れについて審査請求人と本件使用者(代表者親族)又はA取締役(代表者の妻)との間では本件使用者が本件車両を使用する合意があった一方で、その使用に伴う使用料について何ら具体的な取り決めをしていなかったと認められるから、本件車両は無償で貸借されていたと認められるものの、それ以上に、審査請求人が本件使用料相当額を収入として計上しなければならないことを認識しながら、あえて使用料について取り決めをせずに貸与し、本件使用料相当額の請求やその収入計上を行わなかったとまでは認める証拠はない。審査請求人には、本件使用料相当額を隠蔽し、あるいは故意に脱漏するといったことや、あたかも、本件使用料相当額がないことが真実であるかのように装うといったことがあったとはいえないから、審査請求人に「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。(2)本件健康診断料について事業者たる審査請求人に義務付けられている健康診断の対象は、その使用する労働者すなわち審査請求人の従業員である。審査請求人が、従業員ではない者らを請求人が健康診断を受診させる必要がある従業員であるかのように装って、健康診断を受診させた上、その費用である本件健康診断料について、審査請求人が負担すべき従業員のための健康診断その他必要な費用であるかのように装って帳簿書類に記載したものといえるから、審査請求人には、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。(3)本件現金不足額について審査請求人は、長年にわたり事業を営み、代表者も長年にわたり務めていたのであるから、審査請求人の現金を代表者に交付をする際は帳簿書類に記録をすべきであることは、当然認識していたはずであるところ、代表者に現金を交付した事実を帳簿書類に記録せず、残存しない現金を帳簿書類に載せ続けることで代表者に対する給与等の支払の事実を隠蔽したといえるから、審査請求人には、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる(源泉所得税への重加算税)。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/14
「偽りその他不正な行為」の要件も満たすとして、7年分について重加算税の処分がなされた事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告を依頼した者による隠ぺい・仮装行為について、納税者がどこまで責任を負うべきかは、納税者とその者との関係、隠ぺい・仮装行為に対する納税者の認識の可能性、納税者の黙認の有無、納税者の払った注意の程度などに照らして、事案ごとに判断される。本件は、P法人の理事長である審査請求人の母が、審査請求人がP法人に寄附をしたという内容虚偽の領収書を作成して審査請求人に寄附金控除を適用して行った所得税申告について、税務署が、母の仮装行為は審査請求人の仮装行為と認められるとして重加算税を課し、その処分の対象期間を通常の5年分でなく7年分とさらに重くしたことから、審査請求人は、母の長年の勘違いで悪意はなかった等と主張した。国税不服審判所は、税務署の処分を適法と判断した事例である。(平成26年分及び平成27年分の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、平成28年分ないし令和2年分の重加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年2月1日(非公開))【主な争点】(争点1)審査請求人に重加算税が課される「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか(国税通則法第68条第1項)、(争点2)審査請求人に更正決定等をすることができる期間を7年にできる「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか(国税通則法第70条第5項)。【裁決の要旨】(争点1)母が内容虚偽の本件各領収書を作成したことは、審査請求人があたかも、本件各年分においてP法人に対し寄附金を支出し、それをP法人が受領したことが真実であるかのように装い、故意に事実をわい曲したもので、「仮装」行為に該当する。審査請求人は、母に対し、本件各年分の所得税等の確定申告について、各確定申告書の作成及び提出を委任していたことから、母の行為は、審査請求人の行為と認められる。母は、(借入金によってP法人に寄附をした父の借入金返済を審査請求人が実質的に負担しているからと)単純な間違いを長年繰り返していたものであり、悪意があって作成したものではないという審査請求人の主張には理由がない。(争点2)国税通則法第70条第5項は、偽りその他不正の行為によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合にこれに対して適正な課税を行うことができるよう、より長期の除斥期間(この期間を過ぎると処分ができない)を規定したものであり、同項にいう「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解される。審査請求人の行為は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為と認められ、「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえる。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》、第70条《国税の更正、決定等の期間制限》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/07
権限なく行われた申告であるが、納税者本人が追認したと認められるから、当該申告は有効と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告は、原則として納税義務者本人が申告書を提出して行うこととされているから(国税通則法第17条等)、他人が、本人の承諾なく納税義務者の申告書を作成し、提出した場合には、その納税申告は無効である。もっとも、その他人が、本人から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合、また民法第113条《無権代理》第1項より、本人が当該納税申告を追認した場合には、当該納税申告は有効になると解される。本件の審査請求人は、知人Aから仕事の登録に必要であると言われ、銀行情報や個人情報を渡すと、Aは国税庁HPの申告書作成コーナーから審査請求人の5年分の所得税還付申告書を作成して提出し、振り込まれた還付金を自分の口座へ移した。審査請求人は税務署から還付金振込通知書が届いた時にAに異議を述べることも、税務署へ問い合わせすることもなく放置したが、税務調査を受け、修正申告をしなかったために更正処分、過少申告加算税賦課決定処分がなされたので、他人によるなりすましの納税申告は無効であると主張して処分の取消しを求めた。国税不服審判所は、審査請求人はAに明示又は黙示に各申告をする権限を与えられていたとは認められないが、各申告を黙示に追認していたと認められるから、各申告は有効となり、税務署長の《更正》の前提となる「納税申告書の提出があった場合」に該当すると判断した。(平成28年分から令和2年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和6年4月15日裁決)【主な争点】知人Aによる本件各申告書の提出は、有効で、国税通則法第24条《更正》に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当するか。【裁決の要旨】1)Aに対する明示の権限の授与があったか本件各申告に関して、審査請求人とAとの間で何らかのやり取りがされていたことを示す証拠は見当たらないから、認めることはできない。2)Aに対する黙示の権限の授与があったか審査請求人が、当初から申告に利用されることを知ったうえで、審査請求人名義の預金口座の利用や本人確認書類として運転免許証の写真撮影を許諾したと認めることはできない。3)Aの申告を事後的に容認、追認していたか審査請求人が本件各申告書の提出を知った時期は、その主張どおり、還付金振込通知書を受領した時及び調査担当職員による質問検査の時であると認められる。しかし、還付金振込通知書を受け取り、不正に還付金を受領することになることも認識していたにもかかわらず、原処分庁に問い合わせず、Aに異議を述べずに事態を放置したこと、父の指示を受けるまで預金口座を解約しなかったことは、審査請求人が、Aによる本件各申告について、事後的に容認していたことを示すものであるということができる。審査請求人がAに対し明示又は黙示に本件各申告をする権限を与えていたとは認められないが、審査請求人は、権限なくされたAによる本件各申告を本件各申告書が提出された後に追認したといえるから、本件各申告は有効となり、Aによる本件各申告書の提出は、国税通則法第24条《更正》に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当する。警察に相談した事実は納税申告の追認より後であるから、追認があったとの認定を覆すまでの事情でもない。【参照条文】国税通則法第17条《期限内申告》、第24条《更正》、第65条《過少申告加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/03/24
事務代行手数料を得ているものと認められ、信用の保証としての役務の提供には該当しないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】事業協同組合は、組合員の事業を支える各種事業を行う。金融事業は、組合員に対する事業資金の貸付のほか、組合員が金融機関、顧客や仕入先等と取引する場合、組合がその債務を保証する。消費税法は、消費税を課さない資産の譲渡等として、信用の保証としての役務の提供を掲げている。本件の審査請求人である事業協同組合は、カード会社が発行するETCカードの法人会員となり、マイレージサービス(利用料金に応じてポイントがたまる)に登録し、借り受けた審査請求人名義のETCカードを組合員に貸与し、毎月、各組合員から利用料金を回収し、カード会社にはポイント分を充当後の利用料を支払って、両者の差額を売上高に計上した。審査請求人はカード会社への支払債務の連帯保証をBに依頼し保証料を支払っていることから、組合員へのETCカードの貸与の取引は、信用の保証としての役務の提供であるとして、課税売上高とした当初の消費税申告の更正の請求をしたが、税務署は認めなかった。国税不服審判所は、ETCカード利用料の支払義務は審査請求人にあるから、審査請求人が組合員の支払債務を連帯保証しているとはいえず、この取引は、審査請求人が事務代行手数料を得ている取引(課税)であると判断した事例である。(平28.6.1~平29.5.31の課税期間の消費税等の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分・棄却・令05-06-16裁決(非公開))【主な争点】組合員へETCカードを貸与する取引は、「信用の保証としての役務の提供」に該当するか。【裁決の要旨】カード会社と審査請求人の取引及び審査請求人と組合員の取引は、ETCカードの利用に関して、組合員からの有料道路等の通行料金の回収事務を審査請求人が代行することに起因して発生するものであり、審査請求人は、組合員にETCカードを利用させることで組合員に便宜を図り、かつ、当該回収事務を代行することで組合員から回収する通行料金とカード会社に支払う通行料金の差額を事務代行手数料として得ているものと認められる。したがって、「信用の保証としての役務の提供」には該当しない。審査請求人の主張について、①全てのETCカードの利用に係る有料道路等の通行料金カード会社への支払義務は審査請求人が負っていること、②Bが保証しているのは審査請求人の支払債務であることからすると、審査請求人が組合員の支払債務を連帯保証しているとはいえないから、審査請求人の主張には理由がない。【参照条文】消費税法第4条《課税の対象》、第6条《非課税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/03/17
不法行為による損失発生の都度、損害賠償請求権は益金の額に算入されるべきと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】不法行為等による損失と損害賠償請求権については、通常、損失発生時に、同額の損害賠償請求権が発生して確定し、同じ事業年度において損失(損金)と請求権(益金)を両建てすべきであると解される。例外的に、第三者による不法行為等の場合には、損害賠償金が実際に支払われた日の属する事業年度の益金に計上することが通達で認められている。本件の審査請求人の経営方針の決定は、元代表者が代表取締役在任中も、現代表者が行い、元代表者は営業と経理、契約を担当し、社印を使うことができた。元代表者は審査請求人名義の預金口座を新たに開設して帳簿には記載せず、取引先7社から本件預金口座に振り込ませた各金員を私的に費消していたことが税務調査で発覚、審査請求人は売上げの計上漏れ等で法人税更正処分、隠ぺい仮装で重加算税の賦課決定処分等を受けた。審査請求人は、名義を利用されただけで、本件各金員は元代表者の個人取引と主張した。国税不服審判所は、各取引先は審査請求人との取引と認識して本件各金員を振り込んだ、審査請求人が本件預金口座を認識していなかったということはできない、第三者による不法行為でないから、元代表者の不法行為による損失発生の都度、損害賠償請求権が益金の額に算入されるべきと判断した事例である。(平成24年3月1日から平成30年2月28日までの各事業年度の法人税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、他・棄却・令和3年4月14日裁決(非公開))【主な争点】本件各金員の帰属は審査請求人か元代表者か、審査請求人に帰属する場合、不法行為に係る損害賠償請求権はどの事業年度の益金の額に算入されるべきか。【裁決の要旨】本件各金員は、代表取締役として審査請求人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し、かつ、実際にも実務的な業務全般を取り仕切っていた元代表者が、審査請求人名義の本件預金口座を振込先に指定して振り込ませたものであるし、審査請求人の業務内容及び本件各金員の支払状況等によれば、本件各金員は、審査請求人の通常の業務に係る役務の提供の対価等として支払われたものであったと認めるのが相当である。取引先各法人はいずれも、本件各金員に係る取引を審査請求人との取引と認識していたことが認められる。したがって、本件各金員は、いずれも審査請求人に帰属するものと認められる。元代表者による不法行為の都度、審査請求人には損失が発生し、それと同時に元代表者に対する損害賠償請求権が発生したものといえる。当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、損害賠償請求権の権利行使が期待できないといえるような客観的状況があったなどとうかがわせる事情は存在しない。したがって、損害賠償請求権の額はその損失が発生した事業年度の益金の額に算入すべきである。法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合にはこれを認める法人税基本通達2-1-43《損害賠償金等の帰属の時期》の定めは、第三者による不法行為等の場合には、損害賠償請求権の行使を期待することが困難な事例が往々にしてみられることを考慮したものであり、審査請求人の代表取締役であった者に適用されることはない。【参照条文】法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》法人税基本通達2-1-43《損害賠償金等の帰属の時期》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/03/10
登記簿上の床面積が50平方メートル未満であったため、住宅ローン控除を使えなかった事例(棄却)
【裁決のポイント】登記簿上の「床面積」は、実際に使用可能な壁の内側だけの面積である内法(うちのり)面積である。一方、建築基準法上の床面積は、部屋を囲むコンクリート壁の中心線で囲んだ面積である壁芯面積を指すため、設計図や分譲マンションの広告では一般的に壁芯面積が記載されている。住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の対象となる「その者の区分所有する部分の床面積」とは、登記簿上表示される面積で、「50平方メートル以上であるもの」であるとされている。審査請求人は、建築設計事務所作成の建築図面上で50.16平方メートルであったことから、住宅ローン控除を適用して令和2年分の確定申告を行った。しかし不動産登記簿上の床面積は47.43平方メートルであるため、税務署は本件控除の適用を認めない更正処分と過少申告税賦課決定処分を行った。審査請求人は床面積の測定方法を定めた法律は存在しないなどと主張して審査請求をした。国税不服審判所は、区分所有する部分の床面積は、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)の規定と同様に解すべきで、登記簿上表示される面積と判断した事例である。(新型コロナ禍の特別特例取得は40平方メートル以上50平方メートル未満も適用可だが、審査請求人は該当していない)。(令和2年分所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和5年2月20日裁決(非公開))【主な争点】本件家屋は、「その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるもの」(租税特別措置法施行令第26条第1項第2号)に該当するか。【裁決の要旨】租税特別措置法や租税特別措置法施行令には、「区分所有する部分」を定義する規定はなく、「床面積」に関する規定もない。一般に、租税法規が一般私法において使用されているのと同一の用語を使用している場合には、特に租税法規が明文をもって他の法規と異なる意義をもって使用することを明らかにしている場合又は租税法規の体系上他の法規と異なる意義をもって使用されていると解すべき実質的理由がない限り、私法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用されているものと解するのが相当であるから、「区分所有」とは、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第2条《定義》第3項に規定する専有部分をいうものと解すべきである。そのことを踏まえれば、その「床面積」は、専有部分である壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積によることが相当であり、当該面積は、登記簿上表示された面積となる。「その者の区分所有する部分の床面積」に係る解釈を示した租税特別措置法通達41-11《区分所有する部分の床面積》は、上記の趣旨に沿うものであるから、当審判所においても相当であると認められる。本件家屋の床面積は、上記のとおり、登記簿上表示される専有部分の床面積である47.43平方メートルである。したがって、本件家屋は、措置法特別措置法施行令第26条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項第2号に規定する「その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるもの」に該当しない。【参照条文】租税特別措置法第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》租税特別措置法施行令第26条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》租税特別措置法通達41-11《区分所有する部分の床面積》建物の区分所有等に関する法律第1条《建物の区分所有》、第2条《定義》不動産登記規則第115条《建物の床面積》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/03/03
差押処分は「無益な差押え」に当たらず、公売公告処分は租税公平主義に反しないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】無益な差押えとは、滞納処分のために差し押さえることができる財産の価額が、滞納処分費及び優先債権額を超える見込みがない場合の差押えで、国税徴収法で禁止されている。また、差押財産の換価について国税庁の事務運営指針「換価事務提要」は、画一的に実施するのではなく、滞納者の個々の実情を踏まえた上で、対象事案を適切に選定する必要があるとしている。審査請求人は、平成27年中の国税を滞納し、税務署から数度にわたり換価の猶予を受けていた。令和3年に税務署の差押処分が行われ、趣味のアニメDVDなど動産55点が差押えられた。その後に審査請求人は本税部分を完納し、延滞税等は自主的に毎月10万円を納付したが、税務署は55点中15点についてインターネット公売を実施し、11点が落札されたので、審査請求人は差押処分に違法があったとして公売公告処分の取消しを求めて審査請求をした。国税不服審判所は、差押処分当時、対象財産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことは、一見して明らかではなかったから「無益な差押え」でない、公売実施の判断については、審査請求人の滞納整理の経緯、納付状況、差押財産の換価の見込額等を考慮すると、租税公平主義に反しているとは認められないと判断した事例である。(公売公告処分・棄却・令和6年3月11日裁決)【主な争点】(争点1)本件差押処分は無益な差押えの禁止に違反しているか、(争点2)本件公売公告処分は租税公平主義に反する違法があるか。【裁決の要旨】(争点1)審査請求人は、無益な差押えは、差押財産の見積価額が分割納付額に満たない場合も含むと広く解釈されるべきであると主張する。しかしながら、差し押さえることのできる財産の価額や優先債権額の正確な評価は実際上必ずしも容易ではなく、その厳密な評価を要するとすると滞納処分の円滑な遂行が期待できないこと等から、差押えの対象となる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかでない限り、直ちに当該差押えが違法となるものではないと解するのが相当である。本件差押処分当時、その対象となる財産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかではないことから、本件差押処分に無益な差押えの禁止に反する違法はない。審査請求人の主張は、独自の見解であり、採用できない。(争点2)審査請求人は、滞納国税を完納する目途が立っている場合には公売をしないという基準があるはずであるから、本税が完納となっており、延滞税等も最長でも6年以内の完納の目途が立っていたにもかかわらず行われた本件公売公告処分は、この基準に反し、租税公平主義に反する違法があると主張する。しかしながら、本件公売公告処分当時、納税の猶予、換価の猶予等、法令の規定による換価を制限すべき場合に当たる事情はない、審査請求人と原処分庁との間に、納付誓約、納付計画書の提出、自身の判断で分割して納付していれば換価しないとの合意等はない、落札された11点は趣味性が高く、かつ、審査請求人の事業と関係のない動産であり、公売により審査請求人の生活の維持や事業の継続に重大な影響を及ぼすとはいえない。本件公売公告処分に関する原処分庁の判断は、換価事務提要の合理性を有する定めに従ったものであるから、租税公平主義に反するものではない。【参照条文】国税徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》、第95条《公売公告》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/02/17
発注内容に変更がないから、工事代金は災害関連支出に該当しないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】所得税法は災害により住宅家財等が損壊し又はその価値が減少した場合、災害がやんだ日の翌日から1年を経過した日の前日までにした住宅家財等の原状回復のために支出した金額は災害関連支出の金額として雑損控除の対象となる旨規定している。対象となる災害は、震災、風水害、火災、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害である。本件の審査請求人は、8月に自宅木造家屋の外壁及び屋根の塗装工事の見積もりを取り、9月に発注した。10月4日に工事が始まった後に台風来襲があった。工事は月末に完了し、見積書どおりの金額が支払われた。審査請求人は、台風通過後に工事をしたので、本件工事代金は建物損害の災害関連支出に該当するとして、還付を受けるための所得税の更正の請求を行ったが、税務署は更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。国税不服審判所は、台風通過前の見積書及び発注書どおりに工事は完了して、工事の内容変更や家屋の原状回復工事の追加の発注がされていないから、本件工事費用は、台風被害による家屋の原状回復工事の対価として支払われたものとはいえず、更正をすべき理由がない旨の通知処分は適法であると判断した事例である。(令和元年分の所得税等の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分・棄却・令05-05-11裁決(非公開))【主な争点】本件工事費用は、所得税法第72条第1項に規定する災害関連支出に該当するか。【裁決の要旨】本件工事は、台風通過の1か月以上前に発注され、その内容は外壁塗装及び屋根塗装である。本件工事業者は、本件台風通過前の令和元年10月4日に本件工事を着工し、同月31日に本件工事を完了していることから、本件工事費用が、災害により住宅家財等が損壊し当該住宅家財等の原状回復のために支出した金額に該当するためには、単に台風通過後に本件家屋につき工事が行われたというのみでは足りず、本件工事費用が、本件工事発注書の内容の対価としてではなく、本件台風により、本件家屋に被害が生じたため、本件工事の内容が原状回復工事に変更され、又は本件家屋の原状回復工事が追加発注され、その原状回復工事の対価として支払われたものであることを要する審査請求人は、工事完了までの期間中に本件工事の内容変更や台風の被害に係る本件家屋の原状回復工事の追加発注をしていない。棟板の釘打ちについては、屋根塗装の下準備として当初から本件工事に係る内容に含まれていた。そうすると、本件工事費用は、台風の被害による本件家屋の原状回復工事の対価として支払われたものとはいえないから、原状回復のために支出した金額に当たらず、災害関連支出に該当しない。【参照条文】所得税法第2条《定義》、第72条《雑損控除》所得税法施行令第9条《災害の範囲》、第206条《雑損控除の対象となる雑損失の範囲等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/02/17
登記簿上の本店住所地ビルを賃貸する側の従業員が郵便を受け取った日が、送達があった日と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】国税通則法第12条《書類の送達》第1項は、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長が発する書類(国税に関する書類)は、郵便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)に送達する旨規定している。そして、第77条《不服申立期間》は、国税不服審判所長に対する審査請求は、再調査決定書の謄本の送達があった日の翌日から起算して1月を経過したときは、正当な理由がある場合を除き、できないと規定している。本件の審査請求人は、税務署が令和4年10月17日に本店所在地宛に簡易書留郵便で発送した再調査決定書を、10月18日に受け取った賃貸人従業員の手を経て、転送郵便物として10月25日に受け取り、11月21日(通信日付印)に重加算税の賦課決定処分を取り消す審査請求書を提出した。税務署は不服申立期間経過後であるとして、却下(審議をせずに門前払い)を求めた。国税不服審判所は、本件審査請求は、送達があった日の翌日(10月19日)から起算して1月(11月18日)を経過し、不服申立期間を過ぎてなされた不適法なものであるとして、請求を却下した事例である。たとえばバーチャルオフィスを利用すると、そこに届いた郵便物は決められた頻度で指定先に転送されるので、法人が郵便物を実際に受け取るまで、さらに日数を要する。税務署には本店所在地以外の郵便送付先の届け出も可能である。(平成〇〇年〇〇月〇〇日~平成30年5月31日の課税期間の消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分・却下・令和5年6月16日裁決(非公開))【主な争点】(審査請求が却下されたため、争点はない。)【裁決の要旨】会社の「住所」については、会社法第4条がその本店の所在地にあるものとする旨を定めているところ、国税通則法において、同一の文言を用いる会社法と別異に解釈すべき特段の事由はないから、法人の住所はその本店の所在地にあるものと解するのが相当である。そうすると、本件再調査決定書の送達を受けるべき者の住所は審査請求人の本店所在地となる。審査請求人とA社との間で審査請求人宛ての郵便物をA社が受け取ることの合意があったところ、本件再調査決定書は令和4年10月18日にA社の従業員が受け取ったのであるから、同日に審査請求人の本店所在地に配達されたものと認められ、審査請求人がその内容を了知することのできる状態に置かれたといえる。そうすると、本件再調査決定書の送達があった日は、令和4年10月18日であることから、本件再調査決定を経た後の審査請求は、同日の翌日から起算して1月を経過したときである同年11月19日以降はすることができない。本件審査請求書は、令和4年11月21日の通信日付印のある郵便により提出されており、本件審査請求は、審査請求をすることができない日になされた不適法なものである。審査請求人は、「正当な理由」として、未曽有のコロナ禍において経費削減や事業を円滑に行う必要から本店所在地と本社機能や代表者住所が異なる場所となってしまい、本店所在地で受領した本件再調査決定書が審査請求人の代表取締役の元に届くまで数日が経ってしまった旨主張する。しかしながら、審査請求人が主張する事情は、審査請求人自身が審査請求人の都合により選択した本店その他の所在地の状況に起因するものであり、審査請求人の責めに帰すことができない事情とはいえず、不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情といえないことは明らかである。【参照条文】国税通則法第12条《書類の送達》、第22条《郵送等に係る納税申告書等の提出時期》、第75条《国税に関する処分についての不服申立て》、第77条《不服申立期間》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/02/10
保険会社からの支払通知日の属する事業年度に計上した会計処理は合理的な収益計上基準であると認められた事例(全部取消し)
【裁決のポイント】法人税法上、収益がどの事業年度に帰属するかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解されている。審査請求人には、代表者の退職金支払いに充てる目的で契約していた生命保険契約が2件あった。代表者死亡の日は事業年度末に近い令和3年12月〇日であった。審査請求人は、各保険会社に保険金請求を行い、支払通知書を受領したのは2件とも翌期であったことから、それを権利の確定として、令和4年12月期で各保険金の額を雑収入計上して申告したところ、税務署は、代表者の死亡により保険金請求権は確定し、収益が客観的に実現している令和3年12月期に計上すべきとして更正処分などを行った。国税不服審判所は、審査請求人の会計処理は、取引の経済的実態からみて合理的な収益計上の基準に則したものであるということができ、法人税法上も正当なものとして是認すべきと認められると判断して、課税処分を全部取り消した事例である。(令和3年1月1日から令和3年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、他・全部取消し・令和6年2月26日裁決)【主な争点】各生命保険金の額の収益計上時期は、令和3年12月期か、令和4年12月期か。【裁決の要旨】法人税法第22条第4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解される。したがって、権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としなければならないとするのは相当でない。取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、その基準によって収益を計上している場合には、法人税法上もその会計処理を正当なものとして是認すべきである。保険金の支払は、その請求後、書類不備等の形式面のほか、免責事由その他保険金を支払わない事由の確認調査の必要性を検討した上で行われ、死亡診断書に直ちには免責事由の存在を疑わせる記載がないとしても、保険会社の検討の結果次第では、保険金が支払われないこともあり得た。保険会社所定の死亡証明書等の取得にはある程度の時間を要すると認められ、また、前代表者の死亡後に、審査請求人が事業を継続しつつ、葬儀や会社法所定手続等を行う必要性を踏まえると、審査請求人が恣意的に本件各保険金の額の収益計上時期を令和4年12月期に繰り延べようと企図したとは認められない。本件における具体的な事実関係の下での検討を踏まえれば、本件各保険金の額を令和4年12月期の雑収入等に計上した審査請求人の会計処理は、取引の経済的実態からみて合理的な収益計上の基準に則したものであるということができ、法人税法上も正当なものとして是認すべきと認められ、本件各保険金の額は令和3年12月期の益金の額に算入されない。【参照条文】法人税法第22条(第二款各事業年度の所得の金額の計算の通則)本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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