速くてもミスしない! 公認会計士の仕事術講座
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2024/11/15
第85回 比較分析のいろいろ(25) ~中小企業実態基本調査の業種別B/Sの活用(その4)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えています。今回も引き続き、中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げ、中小企業のB/S項目の構成比について業種別分析を進めていきます。2.中小企業のB/S項目の構成比を業種別に見てみよう(その4)□B/S項目の構成比を業種別に分析してみる②~流動資産とその主要内訳項目の分析中小企業のB/S項目(流動資産・固定資産・流動負債・固定負債・純資産)の構成比を業種別(大分類の11業種)に算出し、分析を進めています(各項目の構成比については、本連載の第82回【図表1】をご参照ください)。今回は流動資産とその主要内訳項目の構成比について分析することにします。流動資産とその主要内訳項目の構成比の分析【図表9】は中小企業実態基本調査の業種別B/Sから、資産合計を100としたときの流動資産及び主要内訳項目の構成比を算出したものです。中小企業実態基本調査では、流動資産の内訳として、「現金・預金」、「受取手形・売掛金」(以下、「売上債権」と言う)、「棚卸資産」の3項目のデータのみが収集されていますので、【図表9】ではこの3項目にブレイクダウンしています。【図表9】中小企業の業種別B/Sの「流動資産」の主要内訳項目の構成比(2022年度決算実績)まずは全業種平均に着目してみましょう。中小企業の全業種平均(2022年度決算実績)は、流動資産が54%(=固定資産が46%)の構成比となっています。固定資産の構成比は46%(100%-54%)ということになりますので、流動資産の構成比の方が上回っています。流動資産の構成比が比較的高い業種としては、「卸売業」の70%、「建設業」の69%、「情報通信業」の68%が挙げられ、全業種平均(54%)を大きく上回っています。一方、流動資産の構成比が比較的低い業種としては、「不動産業、物品賃貸業」の35%、「宿泊業、飲食サービス業」の36%、「生活関連サービス業、娯楽業」の39%が挙げられ、全業種平均(54%)を大きく下回っています。それぞれの理由を追究するために、以下では流動資産を主要項目別にブレイクダウンして分析してみることにします。(1)流動資産の構成比が比較的高い業種上述のとおり、流動資産の構成比が比較的高い業種としては、「卸売業」「建設業」「情報通信業」を挙げることができます。「卸売業」の流動資産の構成比(70%)は全業種平均(54%)を大きく上回っていますが、主たる理由としては、売上債権の構成比が26%と全業種平均(13%)を大きく上回っていることが挙げられます。卸売業では現金売りよりも掛売りが中心であり、販売先によっては売掛金の回収までの期間も数カ月になることもあり得るため、他の業種と比べても売上債権の比率がとても高くなりやすいのではないかと想定されます。また、棚卸資産の構成比(12%)は全業種平均(9%)を若干上回る程度ではありますが、全業種の中では「小売業」(14%)、「製造業」(13%)に次いで高い構成比となっています。物品等の販売が中心のこれらの業種では、他の業種と比べるとやや棚卸資産の構成比が高めになっているものと思われます。一方で固定資産については、「卸売業」の場合、販売施設や倉庫が必要になることも想定されますが、賃借しているケースもあるでしょうし、相対的に売上債権などの流動資産の重要性が特に高くなっていることが想定されます。また、「建設業」の流動資産の構成比(69%)も高くなっていますが、主たる理由としては、現金預金の構成比が38%と全業種平均の24%を大きく上回っていることが挙げられ、これは「情報通信業」にも当てはまっています。建設業や情報通信業では、工事(プロジェクト)の契約時や途中段階で代金の一部を前払いしてもらうことが多く、現金預金の比率が高くなりやすいのではないかと想定されます。(2)流動資産の構成比が比較的低い業種上述のとおり、流動資産の構成比が比較的低い業種としては、「不動産業、物品賃貸業」「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」を挙げることができます。「不動産業、物品賃貸業」の流動資産の構成比(35%)は全業種平均(54%)を大きく下回っています。主たる理由としては、売上債権の構成比が1%にとどまり、全業種平均(13%)を大きく下回っていることが挙げられます。賃貸業の場合、賃貸料は毎月回収され、また前払いしてもらうことも少なくありません。不動産の販売についても、契約時に一部前払いしてもらうといったことがあります。こうしたことから、売上債権が大きくなりにくいことが想定されます。一方で、賃貸物件(固定資産)への投資が大きい業種であり、相対的に流動資産の構成比が低くなる傾向があることが考えられます。また、「宿泊業、飲食サービス業」の流動資産の構成比(36%)も低くなっていますが、主たる理由としては、売上債権の構成比(4%)、棚卸資産の構成比(1%)が全業種平均(13%と9%)を大きく下回っていることが挙げられます。この業種では、現金売りの取引も多く売上債権が大きくなりにくいことから、売上債権の構成比が他の業種と比べて低めであることが想定されます。また、食材等には賞味期限が短いものも多く、長期間在庫として保管せず、短期間のうちに顧客に提供することが多いため、棚卸資産の構成比が低くなりやすいことなどが想定されます。一方で、固定資産については、宿泊施設やレストランなどの物件を保有するケースも多く、相対的に流動資産の重要性が低くなっていることが想定されます。「生活関連サービス業、娯楽業」も、売上債権の構成比(6%)、棚卸資産の構成比(1%)が全業種平均(13%と9%)を大きく下回っていますが、現金売りの取引も多く売上債権が大きくなりにくいことや、商品を売るビジネスではないことから保有する棚卸資産が少ないことなどにより、売上債権や棚卸資産の構成比が低めであることが想定されます。一方で、固定資産については、娯楽用の施設などの物件を保有するケースも多く、相対的に流動資産の重要性が低くなっていることが想定されます。なお、大分類業種の「宿泊業、飲食サービス業」は「宿泊業」「飲食店」「持ち帰り・配達飲食サービス業」の3つの中分類業種に細分されていますので、これら3つにブレイクダウンしてさらに特徴を探ってみましょう。【図表10】「宿泊業、飲食サービス業」の内訳業種別B/Sの「流動資産」の主要内訳項目の構成比(2022年度決算実績)【図表10】からは次のような点を読み取ることができます。✓「宿泊業、飲食サービス業」全体では、流動資産の構成比が36%ですが、中分類の内訳業種別に見ると業種によって差異が見られます。「持ち帰り・配達飲食サービス業」は50%、「飲食店」は43%と高くなっているのに対して、「宿泊業」は25%にとどまっています。「宿泊業」の方が、保有する固定資産が大きくなりやすいのではないかと想定されます。✓流動資産の中で最も大きな割合を占めているのは現金預金であり、「宿泊業、飲食サービス業」全体では資産合計の26%を占めています。「宿泊業」が20%にとどまるのに対して、「飲食店」は30%、「持ち帰り・配達飲食サービス業」は28%と高くなっています。これらの業種の中では、「宿泊業」は宿泊施設やレストランなどの物件(固定資産)を保有するケースも多く、相対的に流動資産の重要性が低くなっていることが想定されます。✓売上債権の構成比は、「宿泊業、飲食サービス業」全体では資産合計の4%を占めているに過ぎません。ただし、内訳業種別に見ると、「持ち帰り・配達飲食サービス業」は13%とやや高くなっています。「宿泊業、飲食サービス業」の中では掛売りの取引がやや多めの業種と言えそうです。✓棚卸資産の構成比は、「宿泊業、飲食サービス業」全体では資産合計の1%ととても低く、かつ、いずれの内訳業種についても棚卸資産の構成比はとても低くなっています。重要な在庫を保有する業種ではないと言えそうです。【図表10】の2022年度決算実績は、コロナ禍の影響が含まれることが想定されるため、【図表11】のとおり、2018年度決算実績も調べてみることにします。【図表11】「宿泊業、飲食サービス業」の内訳業種別B/Sの「流動資産」の主要内訳項目の構成比(2018年度決算実績)2018年度と2022年度のデータを比較することで、以下のような点が読み取れます。✓流動資産の増加2018年度では「宿泊業、飲食サービス業」全体で流動資産の構成比が27%にとどまっていました。これが、2022年度には36%まで大きく上昇したことから、コロナ禍の影響を受けていることが想定されますので、さらに内訳科目別に分析してみようと思います。✓現金預金の増加流動資産の内訳科目別に見ると、特に現金預金の割合が顕著に増加しています。2018年度では「宿泊業、飲食サービス業」全体で17%だったのに対して、2022年度では26%まで大きく増加しています。内訳業種別に見ると、「飲食店」が19%から30%へ、「宿泊業」が13%から20%へと大きく増加していることが分かります。ここからは、コロナ禍以降の不確実な経済状況下でのリスク管理として、現金預金をより多く保有しておこうとする傾向が読み取れます。✓売上債権、棚卸資産など売上債権や棚卸資産などについては、コロナ禍前と比べて、現金預金のような顕著な変動は見られませんでした。3.おわりに本連載では、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げていますが、現在は中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げています。今回は流動資産を内訳科目別にブレイクダウンして、特徴を分析してみました。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を使ったB/Sの活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。提供:税経システム研究所
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2024/10/18
第84回 比較分析のいろいろ(24) ~中小企業実態基本調査の業種別B/Sの活用(その3)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えています。本連載では現在、中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げており、中小企業のB/S項目の構成比について業種別分析を進めています。2.中小企業のB/S項目の構成比を業種別に見てみよう(その3)前々回は、中小企業の業種別B/S項目(流動資産・固定資産・流動負債・固定負債・純資産)の構成比を算出した上で、そこに現れた特徴のうち、まずは純資産・固定負債・流動負債の構成比に関わる部分を分析してみました。そして、前回は純資産の内訳科目別にブレイクダウンして、さらに特徴を分析しましたので、今回は負債の内訳科目別にブレイクダウンして分析していこうと思います。(注)前々回と前回の「中小企業実態基本調査の業種別B/Sの活用」の(その1)から(その2)では、「2022年度決算実績」については、「速報」(2024年3月29日公表)のデータによっていたが、2024年7月30日に「確報」データが公表されたため、今回からは確報データによっている。なお、前回までに掲載した「2022年度決算実績(速報)」データによる算出結果と「2022年度決算実績(確報)」による算出結果に差異はなかった。□負債の内訳科目別ブレイクダウン業種別の流動負債や固定負債の構成比に現れた特徴などの分析については前回実施しましたが、今回はさらにこれらの負債の内訳科目別にブレイクダウンして分析を進めてみることにします。中小企業実態基本調査のB/Sでは、流動負債の内訳として、「支払手形・買掛金」(以下、「仕入債務」という)、「短期借入金(金融機関)」、「短期借入金(金融機関以外)」のデータが収集されています。また、固定負債の内訳として、「長期借入金(金融機関)」、「長期借入金(金融機関以外)」、「社債」のデータが収集されています。【図表6】では、「短期借入金(金融機関)」と「短期借入金(金融機関以外)」の合計を「短借」として、「長期借入金(金融機関)」、「長期借入金(金融機関以外)」、「社債」の合計を「長借・社債」として、構成比を算出しました。【図表6】中小企業の業種別B/Sの「流動負債」・「固定負債」の主要内訳項目の構成比(2022年度決算実績)(1)仕入債務の構成比の分析全業種平均の仕入債務の構成比は11%であり、最も高い「卸売業」(22%)を除くと、それ程高い構成比にはなっていないことが分かります。①仕入債務の構成比が比較的高い業種「卸売業」は仕入債務の構成比が22%と全業種中で最も高く、全業種平均(11%)を大きく上回っています。これは「卸売業」が一般的に在庫を多く保有した上でそれを販売する業態であるため、仕入債務の比率が高くなりやすいのではないかと想定されます。②仕入債務の構成比が比較的低い業種「卸売業」以外の業種では仕入債務の割合が比較的低く、特に「不動産業、物品賃貸業」(2%)や「宿泊業、飲食サービス業」(4%)などが低くなっています。これらの業種は一般的に商品等をたくさん仕入れて販売する業態ではないこと、固定資産への投資が大きい業種であり借入の割合が高くなりやすいことなどが要因として考えられます。(2)短期借入金の構成比の分析全業種平均の短期借入金の構成比は10%であり、最も高い「小売業」でも14%であり、いずれの業種もそれ程高い構成比にはなっていないことが分かります。(3)長期借入金等の構成比の分析全業種平均の長期借入金等(長期借入金・社債)の構成比は26%ですが、最も高い「宿泊業、飲食サービス業」の58%から、最も低い「情報通信業」の13%まで、相当程度の幅が生じていることが分かります。①長期借入金等の構成比が比較的高い業種長期借入金等の構成比が高い業種としては、「宿泊業、飲食サービス業」「運輸業、郵便業」「不動産業、物品賃貸業」などを挙げることができます。「宿泊業、飲食サービス業」は長期借入金等の構成比が58%と全業種中で最も高く、全業種平均(26%)を大きく上回っています。これは「宿泊業、飲食サービス業」では、ホテルやレストランなどの施設(建物・内装・設備や土地など)に多額の設備投資が必要になることが想定されます。こうした設備投資のために多額の長期借入を行っていることが想定されます。大分類業種の「宿泊業、飲食サービス業」は、「宿泊業」「飲食店」「持ち帰り・配達飲食サービス業」の3つの中分類業種に細分されていますので、これら3つにブレイクダウンして特徴を探ってみましょう。【図表7】「宿泊業、飲食サービス業」の内訳業種別B/Sの「流動負債」・「固定負債」の主要内訳項目の構成比(2022年度決算実績)【図表7】の長期借入金等の構成比を見ると、「宿泊業」が64%、「飲食店」が55%、「持ち帰り・配達飲食サービス業」が42%となっています。「宿泊業」がより高い水準ではありますが、いずれの業種も高い水準となっています。【図表7】の2022年度決算実績は、コロナ禍の影響が含まれることが想定されるため、【図表8】のとおり、2018年度決算実績も調べてみることにします。【図表8】「宿泊業、飲食サービス業」の内訳業種別B/Sの「流動負債」・「固定負債」の主要内訳項目の構成比(2018年度決算実績)長期借入金等の構成比について、2018年度と2022年度を比較すると、「宿泊業」は54%から64%に、「飲食店」は51%から55%に、「持ち帰り・配達飲食サービス業」は36%から42%にと、それぞれ上昇しています。特に「宿泊業」の上昇が大きくなってはいますが、コロナ禍の前でも、これらの業種は長期借入金等の構成比が高い水準にあったことが分かります。また、「運輸業、郵便業」(37%)、「不動産業、物品賃貸業」(36%)も長期借入金等の構成比が高くなっています。「運輸業、郵便業」では車輛などへの投資が必要になるでしょうし、「不動産業、物品賃貸業」では土地・建物などの不動産や賃貸する物品などへの投資が必要になるでしょうから、こうした投資のために多額の長期借入を行っていることが想定されます。②長期借入金等の構成比が比較的低い業種長期借入金等の構成比が低い業種としては、「情報通信業」(13%)、「卸売業」(17%)、「建設業」(20%)などを挙げることができ、全業種平均(26%)を大きく下回っています。固定資産の構成比を算出したところ、全業種平均が46%であるのに対して、「情報通信業」(32%)、「卸売業」(30%)、「建設業」(31%)となっており、固定資産の構成比が低い3つの業種と合致しています(前々回の【図表1】「中小企業の業種別B/S項目の構成比(2022年度決算実績(速報))」を参照)。多額の設備投資が必要ない業種では、長期借入金等の構成比も低めになっていることが伺われます。3.おわりに本連載では、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げていますが、現在は中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げています。前々回は、中小企業の業種別B/S項目(流動資産・固定資産・流動負債・固定負債・純資産)の構成比を算出した上で、そこに現れた特徴のうち、まずは純資産・固定負債・流動負債の構成比に関わる部分を分析してみました。そして、前回は純資産、今回は負債の内訳科目別にブレイクダウンして、さらに特徴を分析してみました。自社のB/Sを他の中小企業の値と比較したい場合、自社の属する業種の平均値と比較することが有効ですが、各業種の値を比較し、その特徴を押さえておくことは、自社の属する業種の理解を深めるのにも資すると思われます。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を使った業種別B/Sの活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。提供:税経システム研究所
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2024/09/20
第83回 比較分析のいろいろ(23) ~中小企業実態基本調査の業種別B/Sの活用(その2)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えています。前回からは中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げており、中小企業のB/S項目の構成比について業種別分析を進めています。2.中小企業のB/S項目の構成比を業種別に見てみよう(その2)前回は、中小企業の業種別B/S項目(流動資産・固定資産・流動負債・固定負債・純資産)の構成比を算出した上で、そこに現れた特徴のうち、まずは純資産・固定負債・流動負債の構成比に関わる部分を分析してみました。今回は、純資産の内訳科目別にブレイクダウンして、さらに特徴を分析していこうと思います。□純資産の内訳科目別ブレイクダウン自己資本比率は、「純資産÷(負債+純資産)」の割合で算出することができ、【図表3】の「計」欄が自己資本比率に相当します。業種別の自己資本比率に現れた特徴などの分析については前回実施しましたが、今回はさらに純資産の内訳科目別にブレイクダウンして分析を進めてみることにします。中小企業実態基本調査のB/Sでは、純資産の内訳として、「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」「自己株式」のデータが収集されています。自己株式は構成比の重要性が乏しいので、このうちの「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」の3項目について構成比を算出してみます。その結果は【図表3】のとおりです。【図表3】中小企業の業種別B/Sの「純資産」の主要内訳項目の構成比(2022年度決算実績(速報))【図表3】の全業種平均に着目してみると、純資産の構成比(自己資本比率)は42%となっています。純資産の内訳は、資本金部分が3%、資本剰余金部分が3%に留まるのに対して、利益剰余金は34%に上り、純資産の8割程は利益剰余金が占めていることが分かります。そのため、業種別の分析を進める際も、特に利益剰余金部分に着目していこうと思います(【図表3】の点線枠部分)。業種別に見ると、資本金部分は2~6%、資本剰余金は1~8%の範囲に収まっており、業種ごとのばらつきが少なくなっています。一方で、利益剰余金部分は8~41%と業種別ごとのばらつきが大きくなっていることが分かります。なお、会社法では、設立や新株発行の際の払込金額の2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができ、その場合は資本準備金とすることとされているため、資本金よりも資本剰余金の方が小さいことが一般的かもしれません。しかし、「卸売業」「不動産業、物品賃貸業」など一部の業種では、資本金よりも資本剰余金の構成比の方が上回っています。私見ですが、これまでに減資を実施した企業などがあったのかもしれません。①利益剰余金の構成比が特に低い業種利益剰余金の構成比が特に低いのが「宿泊業、飲食サービス業」(8%)であり、その低さが際立っています。他の業種で利益剰余金の構成比がやや低めなのは、「生活関連サービス業、娯楽業」(26%)、「小売業」(28%)、「運輸業、郵便業」(29%)ですが、30%に近い水準にはなっています。つまり、「宿泊業、飲食サービス業」とは状況が異なっています。では、なぜ「宿泊業、飲食サービス業」の利益剰余金が少ないのでしょうか。大分類業種の「宿泊業、飲食サービス業」は、「宿泊業」「飲食店」「持ち帰り・配達飲食サービス業」の3つの内訳業種(中分類業種)に細分されています。そこでこれら3つにブレイクダウンして特徴を探ってみましょう。【図表4】「宿泊業、飲食サービス業」の内訳業種別B/Sの「純資産」の主要内訳項目の構成比(2022年度決算実績(速報))【図表4】の2022年度決算実績は、コロナ禍の影響が含まれることが想定されるため、【図表5】のとおり、2018年度決算実績も調べてみることにします。【図表5】中小企業の業種別B/Sの「純資産」の主要内訳項目の構成比(2018年度決算実績(確報))利益剰余金部分に着目して2018年度と2022年度を比較してみると、「飲食店」は両年度とも6%であるのに対して、「宿泊業」は15%から9%に低下し、「持ち帰り・配達飲食サービス業」は32%から15%に低下しており、コロナ禍以前と比べて利益剰余金の構成比が大きく低下していることが分かりました。ただし、コロナ禍以前でも、他の業種と比べるとやはり「飲食店」や「宿泊業」は利益剰余金の構成比が低い状況になっています。あくまでも筆者の想定ではありますが、必要となる投資額に比して利益率が低めで純資産(利益剰余金)の蓄積が十分ではなく、純資産の構成比(自己資本比率)の低さ、つまり財務基盤の弱さにつながっている面があるのではないでしょうか。それは、飲食業の中でも多額の設備投資が必要とならない「持ち帰り・配達飲食サービス業」は比較的利益が出やすくなり、利益剰余金の構成比が比較的良いことからもうかがわれます。なお、別途、2022年度決算実績(速報)データから総資本経常利益率(ROA=ReturnOnAssets)を算出してみたところ、全業種平均が4.3%であるのに対して、「宿泊業、飲食サービス業」は1.2%に留まり、【図表3】の11業種の中で最も低い値となっていることが分かりました。念のため、コロナ禍前の状況を確認しておきましょう。2018年度決算実績のデータから利益剰余金の構成比を算出したところ、やはり11%と低水準であり、また、総資本経常利益率(ROA)を算出してみたところ、全業種平均が4.2%であるのに対して、「宿泊業、飲食サービス業」は2.8%に留まり、2022年度ほどではないものの、コロナ禍前からやはり総資本経常利益率(ROA)は低めの値となっていました。「飲食業」や旅館などは小規模な家族経営によっていることが少なくないことも想定され、必要以上に利益を出さないことも考えられます。また、利益剰余金は創業以来、内部留保してきたものが蓄積されていきますので、創業してからの年数が長い場合には構成比が大きくなりやすいと考えられます。「飲食店」は創業・撤退といった入れ替わりが他の業種よりも激しい傾向にあることが想定されますので、その影響もあるかもしれません。②利益剰余金の構成比が高めの業種「宿泊業、飲食サービス業」の利益剰余金が少ないのに対して、利益剰余金の構成比がやや高めなのが「建設業」「製造業」「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」「サービス業(他に分類されないもの)」であり、いずれも40%前後の水準となっています。このことから、突出して高い業種があるわけではないことが読み取れます。3.おわりに本連載では、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げていますが、前回からは中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げています。前回は、中小企業の業種別B/S項目の構成比を算出した上で、そこに現れた特徴のうち純資産・固定負債・流動負債の構成比に関わる部分を分析してみましたが、今回は、純資産の内訳科目別にブレイクダウンして、さらに特徴を分析してみました。自社のB/Sを他の中小企業の値と比較したい場合、自社の属する業種の平均値と比較することが有効ですが、各業種の値を比較し、その特徴を押さえておくことは、自社の属する業種の理解を深めるのにも資すると思われます。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を使った業種別B/Sの活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。提供:税経システム研究所
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2024/08/16
第82回 比較分析のいろいろ(22) ~中小企業実態基本調査の業種別B/Sの活用(その1)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えています。前回までは中小企業の業種別P/Lの活用を中心に説明してきましたが、今回からは中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げようと思います。2.中小企業のB/S項目の構成比を業種別に見てみようまずは、ある経理部での様子を描いた【ケース1】をご覧ください。【ケース1】飲食店を営む法人企業K社(従業者規模は30名前後、年間売上高は8億円前後)では、取引銀行に決算書を見せた際、自己資本比率や流動比率など、財務安全性の指標が低いことを指摘されました。P/Lについてはある程度興味を持って見ているK社の社長ですが、B/Sにはほとんど関心を持っていませんでした。しかし、このとき社長は思いました。社長:「中小企業と言っても業種が違えばB/Sの姿も違うのかもしれない。そもそもうちのような飲食店って、B/Sに何か特徴があるのかな。B/Sについても中小企業実態基本調査が活用できるのだろうか……」以下の説明は、K社の業種に合致する統計表を使って分析していますが、その方法を参考にして、自社の分析の際は自社に合致した業種の統計表を使っていただければと思います。□B/S項目の構成比を業種別に分析してみる①~純資産・固定負債・流動負債の分析【図表1】は、中小企業のB/S項目(流動資産・固定資産・流動負債・固定負債・純資産)の構成比を業種別(大分類の11業種)に算出してみたものです。この表自体が中小企業実態基本調査の結果として公表されているわけではありません。筆者がB/S項目の構成比に業種別の特徴があるのかどうかに関心があったことから、筆者自身が中小企業実態基本調査の結果として公表されている統計表の中から業種別B/SのExcelデータをダウンロードし、それを加工して作成しました。【図表1】中小企業の業種別B/S項目の構成比(2022年度決算実績(速報))なお、【図表1】の前年度実績(「2021年度決算実績(確報)」)を、本稿の末尾に【参考】として掲載してありますので、興味のある方は併せてご参照ください。(1)純資産の構成比の分析【図表1】のうち、まずは財務安全性の観点からとても重要な純資産の構成比に着目してみましょう。当該構成比はいわゆる「自己資本比率」を表しているものと捉えることができます。自己資本比率=純資産÷負債・純資産合計【図表1】からは、中小企業の純資産の構成比、すなわち自己資本比率の全業種平均(2022年度決算実績)は42%となっていることが分かります。自己資本比率が30%以上あることが財務安全性の観点での一つの目安となることもあります。自己資本比率が下がるにつれて資産に対する負債の割合が高まることとなり、財務安全性の度合いが低下していきます。自己資本比率がマイナスとなると、負債が資産を上回る状態、いわゆる「債務超過」の状態となります。負債の返済に重大な懸念がある状態であり、金融機関の融資姿勢も厳しくなることが想定されます。自己資本比率が比較的高い業種としては、「情報通信業」の55%、「学術研究、専門・技術サービス業」の52%、「建設業」の47%、「サービス業(他に分類されないもの)」の47%、「製造業」の46%などを挙げることができます。一方、自己資本比率が低い業種としては、「宿泊業、飲食サービス業」の16%が突出しています。他の業種はいずれも、平均値では財務安全性の目安と言われる30%を超えています。【図表2】全業種と「宿泊業、飲食サービス業」の自己資本比率の推移(2017年度~2022年度決算実績)「宿泊業、飲食サービス業」の自己資本比率が突出して低い点について、2022年度特有の状況なのかどうかが気になったため、過去6年度分の推移を算出してみたところ、【図表2】のとおりでした。全業種平均値ではこの6年度の間を通して40%前後の自己資本比率で推移しています。一方、「宿泊業、飲食サービス業」については、2020年度決算実績以降(一部の企業は2019年度も)はコロナ禍の影響もあることが想定されるものの15%前後で推移しており、それ以前の2017年・2018年も20%前後と全業種平均と比べると自己資本比率が低い状態にあったことが分かります。当業種では、ホテルやレストランなどの施設(建物・内装・設備や土地など)に多額の設備投資が必要になることが想定されます。こうした設備投資のために多額の長期借入を行っている一方で(下記「(2)固定負債の構成比の分析」も参照)、十分な自己資本の蓄積ができていないように読み取れます。(2)固定負債の構成比の分析次に【図表1】の固定負債の構成比に着目してみましょう。【図表1】からは、中小企業の固定負債の構成比の全業種平均(2022年度決算実績)は30%となっています。固定負債の構成比については、「宿泊業、飲食サービス業」の61%が突出して高いことが分かります。その他で固定負債の構成比が比較的高い業種としては、「不動産業、物品賃貸業」の44%、「運輸業、郵便業」の41%、「生活関連サービス業、娯楽業」の41%などを挙げることができます。これらの業種はいずれも固定資産の構成比が比較的高い業種であり、固定資産への投資資金をまかなうため長期借入が比較的多くなっていることが読み取れます。ただし、これらの業種の中で「宿泊業、飲食サービス業」は純資産の構成比(自己資本比率)が突出して低く、固定負債への依存度合いが特に高くなっています。それと比べると、他の業種はある程度純資産(自己資本)でまかなえている部分があり、固定負債への依存度合いは「宿泊業、飲食サービス業」ほど高くはないことが分かります。その理由は一概には言えませんが、「宿泊業、飲食サービス業」は必要となる投資額に比して利益率が低めで純資産(利益剰余金)の蓄積が少なめであることなどが考えられるかもしれません。(3)流動負債の構成比の分析さらに【図表1】の流動負債の構成比に着目してみましょう。【図表1】からは、中小企業の流動負債の構成比の全業種平均(2022年度決算実績)は28%となっており、固定負債の構成比30%とほぼ同水準となっていることが分かります。流動負債の構成比が比較的高い業種としては、「卸売業」の39%、「小売業」の35%、「建設業」の31%などが挙げられ、それぞれの業種の固定負債の構成比18%、30%、22%と比べても流動負債の構成比が高めとなっていることが分かります。内訳科目にブレイクダウンした分析は別途実施する予定ですが、これらの業種は在庫保有が他の業種よりも多めの業種であり、仕入債務の構成比が高めであることが想定されます。また、「宿泊業、飲食サービス業」は23%と、全業種平均よりもやや低い水準となっています。これは、在庫保有が他の業種よりも少なめの業種であり、仕入債務の構成比が低めであることが想定されます。3.おわりに本連載では現在、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げていますが、今回からは中小企業の業種別B/Sの活用について取り上げています。今回は、中小企業の業種別B/S項目の構成比を算出した上で、そこに現れた特徴のうち純資産・固定負債・流動負債の構成比に関わる部分を分析してみました。自社のB/Sを他の中小企業の値と比較したい場合、自社の属する業種の平均値と比較することが有効ですが、各業種の値を比較し、その特徴を押さえておくことは、自社の属する業種の理解を深めるのにも資すると思われます。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を使った業種別B/Sの活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読みいただき、実務上の参考にしていただければ幸いです。【参考】中小企業の業種別B/S項目の構成比(2021年度決算実績(確報))上表は【図表1】(2022年度決算実績(速報))の前年度実績になりますので、興味のある方は【図表1】と併せてご参照ください。提供:税経システム研究所
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2024/07/19
第81回 比較分析のいろいろ(21) ~中小企業実態基本調査の活用(その10)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になります。前々回から今回までの3回にわたって、P/L活用の流れを整理しています。説明は「宿泊業,飲食サービス業」を例にして、中小企業実態基本調査のデータを使いながら行います。2.中小企業の業種別P/Lの活用についてのまとめ(その3)まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース4】をご覧ください。【ケース4】(前々回・前回と同じ)飲食店を営む法人企業K社(従業者規模は30名前後、年間売上高は8億円前後)では、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。これをきっかけに、中小企業の平均的な売上高経常利益率がどの位の水準なのかが気になり始め、自社の決算数値を他の中小企業の決算数値と比較したい場合に、中小企業実態基本調査が活用できることを知りました。そして、中小企業実態基本調査を活用しようと、いろいろ調べてみることにしました。そんな中、ふと社長は思いました。社長:「中小企業と言っても従業者数や売上水準って結構幅があるよなぁ。うち位の規模の中小企業の収益性ってどんな感じなんだろう」以下の説明は、K社の業種や売上高水準に合致する統計表を使って分析していますが、その方法を参考にして、自社の分析の際は自社に合致した業種や規模の統計表を使っていただければと思います。□P/Lのブレイクダウンの切り口(つづき)前回は、大分類(全11業種)の業種別P/Lをさらに「従業者規模別」にブレイクダウンする切り口について説明しました。今回は、大分類(全11業種)の業種別P/Lをさらに「売上高階級別」などにブレイクダウンする切り口について説明します。(3)ブレイクダウンの切り口③~売上高階級別大分類(全11業種)の業種別P/Lを、さらに売上高階級別に細分した「大分類業種別かつ売上高階級別P/L」も公表されています。中分類(全67業種)ではなく、あくまでも大分類(全11業種)がベースになっていますが、もっと自社の売上高の水準に近いデータを参照したいという場合には、売上高階級別にブレイクダウンした統計表を活用することができます。統計表の「3.売上高及び営業費用」に、「(1)産業別・売上高階級別表」があり、これが大分類業種かつ売上高階級別にブレイクダウンしたP/Lとなります。ちなみに、売上高階級は【図表6】のように細分されています。【図表6】中小企業実態基本調査における売上高階級別の切り口計500万円以下500万円超~1千万円1千万円超~3千万円3千万円超~5千万円5千万円超~1億円1億円超~5億円5億円超~10億円10億円超【ケース4】のK社は、年間売上高8億円前後の法人企業ですので、自社に近い売上水準の業種別P/Lを参照したいのであれば、大分類業種「宿泊業,飲食サービス業」の中の、「売上高階級5億円超~10億円」のP/Lを活用することが考えられます。【図表7】は、こうした数値自体が中小企業実態基本調査の調査結果として公表されているものではありません。自社の決算数値を同業種・同規模の中小企業の平均的な数値と比較したいといった場合に、知りたい指標などを自身で検討した上、自身で当該数値を算出してまとめることができます。元にしたデータは、中小企業実態基本調査の平成30年度~令和3年度(2018~2021年度)の年度ごとの決算実績の中の各年度の「3.売上高及び営業費用-(4)産業別・売上高階級別表」ですが、これはさらに「1)法人企業」と「2)個人企業」に分かれています。K社は法人企業のため、「1)法人企業」の方のデータを使用しました。ここでは各種の指標等がピックアップされていますが、筆者がこれらをピックアップした根拠については前回説明しています。実際には、読者の方々がご自分の必要とする情報に応じて分析対象項目を適宜ピックアップして頂くことを想定しています。【図表7】自社の属する大分類の業種かつ自社と同水準の売上高階級にブレイクダウンして各種利益率等を詳しく分析【図表7】からは次のような点が読み取れます。✓売上高階級5億円超~10億円の宿泊業,飲食サービス業の母集団企業数については、2020年度で大きく減少したが、2021年度には大きく増加した。なお、宿泊業,飲食サービス業全体のうち売上高階級5億円超~10億円の企業は2%程を占めるに過ぎない。✓売上高階級5億円超~10億円の宿泊業,飲食サービス業の母集団の売上高合計は、前年度比で2019年度は15%減少(母集団の企業数では10%減少)、2020年度にはさらに38%減少(母集団の企業数では37%減少)している。別途、宿泊業,飲食サービス業の各売上高階級別の企業数及び構成割合を調べた結果、2020年度は宿泊業,飲食サービス業全体の企業数が4%減少したのに加えて、売上高が大きい階級(「5億円超~10億円」「10億円超」)の企業数の構成割合が低下し、より低い売上高階級の企業の構成割合が上昇していることもわかった。このことから、2020年度は特に、コロナ禍での廃業が進んだ企業があったり、売上が減ってより低い売上高階級に下がってしまった企業があったりと、大きな影響が出ているのではないかと想定される。ただし、2021年度になると、母集団の売上高合計では77%(母集団の企業数では68%増加)の大幅増加に転じるなど、売上高に関しては大きく回復していることが読み取れる。✓従業者1人当たり売上高は5~7百万円の水準で推移している。✓売上総利益率は65~70%位の水準で推移している。売上原価に占める商品仕入原価・材料費部分が大きい一方、労務費部分は小さい。✓売上高営業利益率は2018年度が1.9%、2019年度が△0.5%と低水準であったが、2020年度には△6.8%、2021年度には△8.6%と大幅な赤字となっており、コロナ禍の影響が大きいことが想定される。✓売上高に対する比率は、販管費の中でも特に人件費率の上昇が大きく、25%程であった2018年から、2020年度以降は30~35%程の水準まで上昇している。これは、人件費を売上高の減少に応じて減らすことができなかったものと想定される。✓以上のことから、売上高階級5億円超~10億円の宿泊業,飲食サービス業は、コロナ禍の影響などで2020年度は売上高が大きく減少し、利益率も低下したことがわかる。また、2021年度では売上高は大きく改善しているものの、売上高営業利益率の赤字は拡大しており、厳しい状況が続いていることが読み取れる。ここまでの説明では、自社の売上高階級と同じ売上高階級のデータを利用する例を紹介しましたが、いくつかの売上高階級を合算し、もっと広い売上高階級のデータを利用することも考えられます。例えば、売上水準の低い企業のデータだけ外し、「1億円超~5億円」「5億円超~10億円」「10億円超」の3つの階級のP/Lを合算し、売上水準が「1億円超」の中小企業の合算P/Lを使って利益率などを算出するといったケースです。その方法を示したのが、【図表8】です。【図表8】「宿泊業,飲食サービス業」の「1億円超」の合算P/Lで利益率などを算出する方法(4)ブレイクダウンの切り口④~資本金階級別、設立年別統計表の「3.売上高及び営業費用」には、大分類業種から資本金階級別にブレイクダウンした「(3)産業別・資本金階級別表(法人企業)」や、大分類業種から設立年別にブレイクダウンした「(5)産業別・設立年別表(法人企業)」もありますので、必要があれば当該P/Lを活用することも考えられます。前者の「資本金階級別」は、資本金に基づいて自社と企業規模が近い企業に絞りたい場合に参照することが考えられます。また、後者の「設立年別」は、設立からの経過年数を頼りに自社に近い成長ステージ(成長期、安定期、成熟期など)の企業に絞りたい場合に参照することが考えられるかもしれません。□比較する年数ここまで説明してきた各種切り口でのP/Lについて、1年分だけ参照するのではなく、数年分を比較することで、特定の年だけ異常な数値になっていないかを見たり、数年間の傾向を見たりすることが有用です。中小企業実態基本調査結果の統計表は、2003年度(平成15年度)決算実績以降の毎年度分が掲載されていますので、必要に応じて数年分のP/Lを並べてみると良いでしょう。以上見てきたように、中小企業実態基本調査で公表されている統計表の中から、自社の業種、従業者規模、売上高階級など、自社に近いものを活用することで、同業他社の平均的な業績などを知ることができます。【ケース4】のK社の場合は、飲食店を営む法人企業で、従業者規模は30名前後、年間売上高は8億円前後なので、統計表の中から近い業種や規模の部分をピックアップし、分析したい各種利益率や1社当たり・従業者1人当たりのデータなども算出することができました。4.おわりに本連載では現在、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げていますが、前々回から今回までの3回で、中小企業の業種別P/L活用の流れを整理しました。「宿泊業,飲食サービス業」を例にして、実際の中小企業実態基本調査のデータを使いながら、様々な指標などを算出し、分析してみたことで、中小企業の業種別P/Lの具体的な活用例をイメージして頂くこともできたのではないでしょうか。こうした分析の例も参考に、適宜アレンジしながら自社の業績等の分析をして頂ければと思います。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読み頂き、実務上の参考にして頂ければ幸いです。【参考】令和4年度(2022年度)決算実績(速報)が2024年3月29日に公表されていますので、最新の数値を確認したい場合はそちらもご参照ください。<e-Stat(政府統計の総合窓口)-中小企業実態基本調査>https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00553010&tstat=000001019842なお、速報版(例年3月末頃公表)と確報版(例年7月末頃公表)では、公表される統計資料の範囲が異なっています。速報版では公表されない統計表がいろいろありますのでご留意ください。提供:税経システム研究所
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2024/06/21
第80回 比較分析のいろいろ(20) ~中小企業実態基本調査の活用(その9)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてきました。ここまで見てきた中小企業の業種別P/Lの活用についてのまとめの意味もかねて、前回から3回にわたって、P/L活用の流れを整理しておこうと思います。説明は「宿泊業,飲食サービス業」を例にして、中小企業実態基本調査のデータを使いながら行います。2.中小企業の業種別P/Lの活用についてのまとめ(その2)まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース4】をご覧ください。【ケース4】(前回と同じ)飲食店を営む法人企業K社(従業者規模は30名前後、年間売上高は8億円前後)では、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。これをきっかけに、中小企業の平均的な売上高経常利益率がどの位の水準なのかが気になり始め、自社の決算数値を他の中小企業の決算数値と比較したい場合に、中小企業実態基本調査が活用できることを知りました。そして、中小企業実態基本調査を活用しようと、いろいろ調べてみることにしました。そんな中、ふと社長は思いました。社長:「中小企業と言っても従業者数や売上水準って結構幅があるよなぁ。うち位の規模の中小企業の収益性ってどんな感じなんだろう」以下の説明は、K社の業種や従業者数規模、売上高水準に合致する統計表を使って分析していますが、その方法を参考にして、自社の分析の際は自社に合致した業種や規模の統計表を使って頂ければと思います。□P/Lのブレイクダウンの切り口(つづき)前回は「(1)ブレイクダウンの切り口①~業種別(中分類)」として、大分類(全11業種)の業種別P/Lをさらに中分類(全67業種)の業種別P/Lにブレイクダウンする切り口について説明しました。今回は、大分類(全11業種)の業種別P/Lをさらに「従業者規模別」にブレイクダウンする切り口について説明します。(2)ブレイクダウンの切り口②~従業者規模別大分類(全11業種)の業種別P/Lを、さらに従業者規模別に細分した「大分類業種別かつ従業者規模別P/L」も公表されています。中分類(全67業種)ではなく、あくまでも大分類(全11業種)がベースになっていますが、もっと自社の従業者規模に近いデータを参照したいという場合には、従業者規模別にブレイクダウンした統計表を活用することができます。統計表(前回の【図表1】を参照)の「3.売上高及び営業費用」に、「(1)産業別・従業者規模別表」があり、これが大分類業種かつ従業者規模別にブレイクダウンしたP/Lとなります。ちなみに、従業者規模は【図表2】のように細分されています。【図表4】中小企業実態基本調査における従業者規模別の切り口法人・個人合計法人企業個人企業法人計5人以下6~20人21~50人51人以上【ケース4】のK社は、従業者規模30名前後の法人企業ですので、自社に近い従業者規模の業種別P/Lを参照したいのであれば、大分類業種「宿泊業,飲食サービス業」の中の、「法人企業21~50人」のP/Lを活用することが考えられます。【図表5】は、こうした数値自体が中小企業実態基本調査の調査結果として公表されているものではありません。自社の決算数値を同業種・同規模の中小企業の平均的な数値と比較したいといった場合に、知りたい指標などを自身で検討した上、自身で当該数値を算出してまとめている表になります。元にしたデータは、中小企業実態基本調査の平成30年度~令和3年度(2018~2021年度)の年度ごとの決算実績から、各年度の「3.売上高及び営業費用-(1)産業別・従業者規模別表」のExcelファイルをダウンロードした上で、筆者が加工して作成したものになります。ここでは各種の指標等がピックアップされていますが、筆者がこれらをピックアップした根拠は概ね以下のとおりです。✓主な段階利益の利益率をピックアップ・売上総利益率、営業利益率、経常利益率、当期純利益率✓これらの利益率を分析する上で必要な内訳項目をピックアップ・売上原価や販管費の主要な内訳項目✓母集団の規模を把握しておくための情報を追加・母集団の企業数や従業者数✓自社と比較しやすいように単位当たり売上高の情報を追加・1社当たり売上高、従業者1人当たり売上高これはあくまでも今回筆者が実施した分析の切り口に過ぎませんので、実際には、読者の方々がご自分の必要とする情報に応じて分析対象項目を適宜ピックアップして頂くことを想定しています。【図表5】自社の属する大分類の業種かつ自社と同水準の従業者規模にブレイクダウンして【図表5】からは次のような点が読み取れます。✓2018年度から2021年度にかけて、従業者21~50人の宿泊業・飲食サービス業では、母集団企業数については横ばいで推移している。なお、宿泊業,飲食サービス業全体のうち従業者21~50人の企業は10%ほどを占めている。✓1社当たり売上高は、2019年度で前年度比28%増の244百万円となったものの、2020年度では21%減の192百万円まで減少している。新型コロナウイルスの影響が大きいことが想定される。✓従業者1人当たり売上高は5~7百万円の水準で推移している。✓売上総利益率は65~70%位の水準で推移している。売上原価に占める商品仕入原価・材料費部分が大きい一方、労務費部分は小さい。✓売上高営業利益率は2018年度が△0.2%、2019年度が0.7%と低水準であったが、2020年度、2021年度にはともに△12%台と大幅な赤字となっており、新型コロナウイルスの影響が大きいことが想定される。✓売上高に対する比率は、販管費の中でも特に人件費率の上昇が際立っており、2018年度の28.3%から上昇が続き、2021年度には39.3%となっている。これは、人件費を売上高の減少に応じて減らすことができなかったものと想定される。✓以上のことから、宿泊業・飲食サービス業の従業者21~50人の中小企業は、新型コロナウイルスの影響などで売上高が大きく減少し、利益率も低下したことがわかる。また、販管費率、特に人件費率の上昇など、経営の効率化やコスト削減に課題があることが想定される。********************************今回は「(2)ブレイクダウンの切り口②~従業者規模別」の説明までとさせて頂き、残りのブレイクダウンの切り口の説明は次回に譲ろうと思います。提供:税経システム研究所
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2024/05/17
第79回 比較分析のいろいろ(19) ~中小企業実態基本調査の活用(その8)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入りませんが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になるため、本連載では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてきました。ここでいったん、ここまで見てきた中小企業の業種別P/Lの活用についてのまとめの意味もかねて、P/L活用の流れを整理しておこうと思います。説明は「宿泊業,飲食サービス業」を例にして、中小企業実態基本調査のデータを使いながら行おうと思います。なお、紙幅の都合上、説明は次回以降にも続く点、ご了承ください。2.中小企業の業種別P/Lの活用についてのまとめ(その1)まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース4】をご覧ください。【ケース4】飲食店を営む法人企業K社(従業者規模は30名前後、年間売上高は8億円前後)では、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。これをきっかけに、中小企業の平均的な売上高経常利益率がどの位の水準なのかが気になり始め、自社の決算数値を他の中小企業の決算数値と比較したい場合に、中小企業実態基本調査が活用できることを知りました。そして、中小企業実態基本調査を活用しようと、いろいろ調べてみることにしました。そんな中、ふと社長は思いました。社長:「中小企業と言っても従業者数や売上水準って結構幅があるよなぁ。うち位の規模の中小企業の収益性ってどんな感じなんだろう」【ケース4】には、自社とは従業者数や売上水準の異なる中小企業がある中、自社と同じ位の規模の中小企業の平均的な収益性が気になっている社長の様子が描かれています。本稿では前回までに、自社の収益性を中小企業の平均的な収益性と比較するために参照する中小企業実態基本調査の統計表(Excelデータ)、特にP/L項目の統計表の活用の仕方を説明してきました。数回にわたって説明をしてきましたので、P/L項目にかかる統計表の活用のまとめとして、以下では、【ケース4】のK社(飲食店)の場合を例に説明を進めようと思います。以下の説明は、K社の業種や規模に合致する統計表を使って分析していますが、その方法を参考にして、自社の分析の際は自社に合致した業種や規模の統計表を使っていただければと思います。□P/Lのブレイクダウンの切り口中小企業実態基本調査のP/Lを活用する際、ベースになるのは「業種別(大分類)」の切り口だと思います。大分類の場合、業種は全11業種(注)となっています。(注)全11業種は以下のとおり。(1)建設業、(2)製造業、(3)情報通信業、(4)運輸業,郵便業、(5)卸売業、(6)小売業、(7)不動産業,物品賃貸業、(8)学術研究,専門・技術サービス業、(9)宿泊業,飲食サービス業、(10)生活関連サービス業,娯楽業、(11)サービス業(他に分類されないもの)【図表1】中小企業実態基本調査の年度別データの一覧画面(抜粋)(注)点線枠内の統計表のうち(1)(3)(4)(5)は大分類の業種別となっており、(2)は大分類及び中分類の業種別となっている。【図表1】のように、中小企業実態基本調査結果として公表されている各種統計表(Excelデータ)の中に、「3.売上高及び営業費用」があり、この中に各種の切り口でのP/LデータがExcelファイルで掲載されているということになります。あたかも、それぞれの業種に属する中小企業のP/Lを合算し、業種ごとの合計P/Lが載っているかのようなイメージです。この業種ごとの合計P/Lを使って、自分の知りたい指標(売上総利益率、営業利益率、経常利益率など)を算出することで、当該業種の中小企業の平均的な指標を知ることができます。大分類業種は全部で11業種にとどまりますので、業種間での傾向の違いを概観するなどの場合には、大分類業種別P/Lを使うと良いでしょう。【ケース4】のK社は飲食店ですので、属する大分類業種は「宿泊業,飲食サービス業」となります。実際に、P/LのExcel統計表を使って「宿泊業,飲食サービス業」の各種利益率を算出してみます。年度ごとにExcelファイルは別ファイルになっていますが、2018年度~2021年度のそれぞれのファイルを参照して、4年度分の利益率を算出したのが【図表2】となります。なお、全産業の平均値との比較も行うと、自社の属する業種の特徴なども見えてきて効果的です。【図表2】自社の属する大分類の業種の各種利益率【図表2】からは次のような点が読み取れます。✓宿泊業、飲食サービス業は、いずれの年度も売上総利益率が60%台となっており、全産業の平均値(2021年度は26.0%)を大きく上回っており、売上総利益率が高い業種であることがわかる。✓一方で、売上高営業利益率や売上高経常利益率、売上高当期純利益率は、非常に低いことがわかる。✓2020年度と2021年度は、売上高営業利益率が△9.6%、△10.9%と大幅赤字となっている。コロナ禍で売上が減少したにもかかわらず、販管費が減らせなかったものと想定される。✓2021年度は、2020年度に比べて、売上総利益率や売上高経常利益率、売上高当期純利益率が回復傾向にあることがわかる。コロナ対策や事業再構築などの取り組みを行ったこと、コロナの助成金などを営業外収益として計上していることなどが想定される。ただし、売上高営業利益率は△10.9%と赤字幅が拡大している。売上の減少に販管費の削減が追いついていないのかもしれない。✓以上から、宿泊業、飲食サービス業が、コロナ禍において、厳しい経営環境にあることがわかる。(1)ブレイクダウンの切り口①~業種別(中分類)大分類の業種は全11業種なので、もっと自社に近い業種のデータを参照したいということがあり得るでしょう。自社の業績等を同業種の平均値と比較したいといった場合が典型的でしょう。【図表2】の作成の際に使った「3.売上高及び営業費用」内の「(2)産業中分類別表」ファイルには、中分類業種(全67業種)までブレイクダウンした業種別P/Lも一緒に載っていますので、このファイルを使うことができます。なお、このファイルは「1)法人企業」と「2)個人企業」に分かれていますので、【ケース4】のK社(法人企業)であれば、「1)法人企業」のExcelファイルを活用することになるでしょう。ちなみに、K社の属する大分類業種「宿泊業,飲食サービス業」の場合は、3つの中分類業種(「宿泊業」「飲食店」「持ち帰り・配達飲食サービス業」)に細分されていますので、K社であれば「飲食店」(中分類業種)までブレイクダウンしたP/Lを活用することができます。【図表3】自社の属する中分類の業種までブレイクダウンして各種利益率等を詳しく分析【図表3】からは次のような点が読み取れます。✓1社当たり売上高は、2019年度以降落ち込んでいる。特に2020年度と2021年度はコロナ禍の影響も出ていることが想定される。✓コロナ禍前の2018年度は1社当たり売上高が110百万円であったのに対して、2021年度は16%減の92百万円まで下落している。✓売上原価率は、年度ごとに変動はあるものの35~40%の水準で推移している。その多くは商品仕入原価・材料費部分が占めている。✓売上総利益率は60~65%の水準で、他の業種と比べてとても高い水準となっている。ちなみに全業種の平均値は25%前後である。売上原価に含まれる労務費部分が小さいことから、人件費の多くは販管費として計上されていると想定される。✓販管費率は2020年度と2021年度に急上昇しており、2021年度には75.2%まで上がっている。これは、人件費や賃借料などの固定費を売上高の減少に応じて減らすことができなかったものと想定される。✓結果として、売上高営業利益率は2020年度と2021年度で大幅赤字となっており、飲食店の経営環境が厳しい状況がうかがえる。✓2021年度は売上高営業利益率が△11.7%と大幅赤字なのに対して、経常利益率は3.5%となっているが、コロナ禍での助成金等の営業外収益があったものと想定される。********************************今回は「(1)ブレイクダウンの切り口①~業種別(中分類)」の説明までとさせていただき、他のブレイクダウンの切り口の説明は次回以降に譲ろうと思います。提供:税経システム研究所
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2024/04/19
第78回 比較分析のいろいろ(18) ~中小企業実態基本調査の活用(その7)
1.はじめに中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入らないといった問題もありますが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になります。そこで、本稿では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてみようと思います。今回も引き続き、業種別P/Lからさらに売上高階級別にブレイクダウンする方法について説明します。2.中小企業の売上水準の違いによる収益性の違いを業種別に調べてみよう前回は「売上高階級別」にブレイクダウンするに当たり、参考までに全業種合計での利益率の分析結果を紹介し、「全業種合計の利益率に現れた特徴」を俯瞰しました。その中で表れていた特徴は次のようなものでした。✓売上総利益率と営業利益率では現れている傾向が大きく異なっている。売上総利益率・・・売上高が大きくなるほど下がる傾向が顕著に見てとれる。営業利益率・・・売上高が大きくなるほど上がる傾向が顕著に見てとれる。✓売上高階級別の利益率の差は売上総利益率・営業利益率とも相当程度大きく、たまたまとは言えそうもない。これを受けて今回は、業種別・売上高階級別にブレイクダウンして、さらに分析を進めていくことにします。◆「売上高階級別」にブレイクダウンする~業種別の利益率に現れた特徴前回までに説明した方法で、中小企業実態基本調査の年度別データの一覧画面の「3.売上高及び営業費用」の中にある「(4)産業別・売上高階級別表」からExcelデータ(法人企業)をダウンロードできます。これに加工を施すことで、【図表1-1】などのような主な業種別・売上高階級別の各種利益率のデータを算出することも可能です。売上高階級別のP/Lは業種別(大分類の11業種)にブレイクダウンすることができますが、本稿では2021年度決算実績(2023年7月28日公表の確報版)を使って利益率を算出し、分析してみようと思います。なお、紙幅の都合上、分析対象の業種は、全業種の売上高合計に占める業種別売上高の構成比が10%以上の主要4業種(「建設業」「製造業」「卸売業」「小売業」)、並びに本稿でこれまで取り上げてきた【ケース1】~【ケース3】の舞台である「宿泊業、飲食サービス業」に絞っています。(1)売上総利益率に関わる分析まずは「売上総利益率」について見てみましょう。【図表1-1】は、売上高階級別に売上総利益率がどうなっているのかを、業種ごとに算出したものです。【図表1-1】主な業種別・売上高階級別の「売上総利益率」(法人企業)(2021年度決算実績)【図表1-1】からは次のような点が読み取れます。✓「建設業」「製造業」「卸売業」「小売業」では、売上高階級が高い程、売上総利益率は下がる傾向がある。✓「建設業」「製造業」では、売上高階級ごとの売上総利益率の差が特に大きい。ただし、全業種計程には、売上高階級別の差が大きくはない。✓「卸売業」「小売業」では、売上高階級ごとの売上総利益率の差がやや大きい。✓「宿泊業,飲食サービス業」では、売上高階級ごとの売上総利益率の差が小さい。✓売上総利益率の水準は相対的に、「卸売業」が低めで、「宿泊業,飲食サービス業」が高めである。これらの点について具体的な要因を特定することは困難ですが、業種ごとの差が大きいことが良く分かります。なお、売上総利益をどの売上高階級の企業が主に稼ぎ出しているのかが気になったため、【図表1-2】のとおり、売上高階級別の「売上総利益額の構成比」を業種ごとに算出してみました。【図表1-2】主な業種別・売上高階級別の「売上総利益額の構成比」(法人企業)(2021年度決算実績)【図表1-2】からは次のような点が読み取れます。✓「全業種計」では、売上高10億円超の企業が売上総利益額の構成比で最も高く、約半分を占めている。これは、規模の経済やブランド力などにより、高い利益率を確保できる企業が比較的多いことを示しているのかもしれない。✓業種別では、「製造業」と「卸売業」で売上高10億円超の企業の構成比が「全業種計」を大きく上回っており、それぞれ61.1%と71.3%に達している。これは、これらの業種が高付加価値の商品やサービスを提供できる企業が多いことを示しているのかもしれない。✓一方、「宿泊業,飲食サービス業」は売上高10億円超の企業の構成比が「全業種計」を大きく下回っており、31.7%にとどまっている。これは、コロナ禍による需要の減少や営業制限などの影響があるのかもしれない。✓売上高階級別では、「建設業」「宿泊業,飲食サービス業」で売上高1億円超~5億円の企業の構成比が「全業種計」を上回っており、それぞれ35.0%と28.5%を占めている。これは、これらの業種が地域に密着した中堅・中小企業が多く、安定した需要を確保できることを示しているのかもしれない。(2)営業利益率に関わる分析次は「営業利益率」について見てみましょう。【図表2-1】は、売上高階級別に営業利益率がどうなっているのかを、業種ごとに算出したものです。【図表2-1】主な業種別・売上高階級別の「営業利益率」(法人企業)(2021年度決算実績)【図表2-1】からは次のような点が読み取れます。✓「全業種計」では、売上高階級が高い程、営業利益率が高くなる傾向がある。✓「建設業」「製造業」「卸売業」「小売業」でも同様に、売上高階級が高い程、営業利益率が高くなる傾向がある。なお、売上高階級が低い階級では、営業利益率がマイナスになっている。✓「宿泊業,飲食サービス業」では、各売上高階級とも営業利益率がマイナスになっている。これは、コロナ禍の影響で売上が大幅に落ち込んだ影響かもしれない。これらの点について具体的な要因を特定することは困難ですが、売上総利益率程ではないものの、営業利益率についてもある程度業種ごとの差があることが分かります。なお、営業利益をどの売上高階級の企業が主に稼ぎ出しているのかが気になったため、【図表2-2】のとおり、売上高階級別の「営業利益額の構成比」を業種ごとに算出してみました。【図表2-2】主な業種別・売上高階級別の「営業利益額の構成比」(法人企業)(2021年度決算実績)【図表2-2】からは次のような点が読み取れます。✓「全業種計」では、売上高階級が高い程、営業利益額の構成比が高くなる傾向がある。特に、10億円超の階級では、営業利益額の構成比が84.3%となっており、この階級の企業が営業利益の多くを稼ぎ出している。✓「建設業」「製造業」「卸売業」「小売業」では、10億円超の階級の構成比が高く、この層の企業が営業利益の多くを稼ぎ出している。一方、売上高階級が低い層では営業利益額の構成比がマイナスになっている。これは、営業利益が赤字になっていることを示し、収益性が低いことが分かる。✓「宿泊業,飲食サービス業」では、前述の業種のように“10億円超の階級の企業が営業利益の多くを稼ぎ出している”という状況にはなっておらず、各売上高階級にわたって営業利益を稼ぎ出している。コロナ禍で売上高階級が上位の層でも営業利益の水準が大きく下がっているといった状況も想定される。(3)経常利益率に関わる分析次は「経常利益率」について見てみましょう。【図表3】は、売上高階級別に経常利益率がどうなっているのかを、業種ごとに算出したものです。【図表3】主な業種別・売上高階級別の「経常利益率」(法人企業)(2021年度決算実績)【図表3】からは次のような点が読み取れます。✓「全業種計」では、営業利益率程の差はないものの、売上高階級が高い程、経常利益率が高くなる傾向がある。また、営業利益率より経常利益率の方が高くなっている。✓「建設業」「製造業」「卸売業」では、売上高階級が低い層では、経常利益率がマイナスになっている。コロナ禍の影響も含まれるとは思われるが、売上高階級が低い層では収益性が低くなっていることが分かる。✓「小売業」では、売上高階級が低い層でも黒字の層があるが、経常利益率自体は高くはない。✓「宿泊業,飲食サービス業」では、売上高階級が低い層でも黒字になっているところが多く、各階級とも赤字となっている営業利益率とは異なる傾向を示している。コロナ禍の影響で需要が減少したものの、助成金の受給や固定費の削減などで利益を確保できたのかもしれない。これらの点について具体的な要因を特定することは困難ですが、売上総利益率程ではないものの、ある程度業種ごとの差があることが分かります。なお、前回のレポートで実施した「全業種計」での利益率の分析では、以下のような点が見られました。✓売上総利益率と営業利益率では現れている傾向が大きく異なっている。売上総利益率・・・売上高が大きくなるほど下がる傾向が顕著に見てとれる。営業利益率・・・売上高が大きくなるほど上がる傾向が顕著に見てとれる。✓売上高階級別の利益率の差は売上総利益率・営業利益率とも相当程度大きく、たまたまとは言えそうもない。今回、業種別の利益率なども算出し、売上高階級別・業種別にブレイクダウンして分析した結果、こうした傾向は、(水準には差があるにせよ)特定の業種だけに現れている傾向ではなく、多くの業種に現れている傾向と言えそうです。前回記載したように、売上高が大きくなると、1件ごとの粗利は小さくても、規模の経済が働き、販管費を賄えるだけの営業利益を上げられる、といったことも考えられます。一方で、私の推定での話になりますが、売上高が小さい階級では売上原価と販管費の厳密な区分を行わずに販管費として処理しているケースも想定されます。売上高階級別のデータを利用する際は、こうした点も念頭に置いて頂ければと思います。3.おわりに本連載では現在、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げています。今回は、P/Lに関わるデータを活用する際に、売上高階級別・業種別にブレイクダウンして、売上高階級と各種利益率との間に見られる傾向を業種別に分析してみました。売上総利益率・営業利益率・経常利益率とも売上高階級ごと・業種ごとの差は大きいものの、各利益率に見られる傾向には共通点も見られました。自社の利益率などを分析する際は、自社の属する業種のデータを参照することになると思いますが、今回、主要な業種を中心に5つの業種をピックアップし、売上高階級別の利益率のデータも掲載しましたので、必要に応じて参照して頂ければと思います。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読み頂き、実務上の参考にして頂ければ幸いです。提供:税経システム研究所
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2024/03/15
第77回 比較分析のいろいろ(17) ~中小企業実態基本調査の活用(その6)
1.はじめに自社の決算数値を自社以外の数値と比較してみると、客観的に自社の位置付けが見え、課題が浮き彫りになるといった効果が期待できます。中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入らないといった問題もありますが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になります。そこで、本稿では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてみようと思います。前回に続き今回も、業種別P/Lからさらに売上高階級別にブレイクダウンする方法について説明します。2.ケースで考える中小企業実態基本調査の活用~売上高階級でのブレイクダウン(その2)まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース3】をご覧ください。【ケース3】(前回と同じ)飲食店を営むK社では、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。これをきっかけに、中小企業の平均的な売上高経常利益率がどの位の水準なのかが気になり始め、自社の決算数値を他の中小企業の決算数値と比較したい場合に、中小企業実態基本調査が活用できることを知りました。そして、中小企業実態基本調査を活用しようと、いろいろ調べてみることにしました。そんな中、ふと社長は思いました。社長:「中小企業と言っても売上水準って結構幅があるよなぁ。そもそも中小企業の売上水準ってどんな感じなんだろう。それに、売上水準が違えば収益性にも相当な違いがあるんじゃないか…」【ケース3】には、中小企業の売上水準や、売上水準の違いによる収益性の違いが気になっている社長の様子が描かれています。では、こんなときはどうしたら良いのでしょうか。3.中小企業の売上水準の違いによる収益性の違いを調べてみよう(前回の続き)前回は、「「売上高階級別」にブレイクダウンする(その1)」として「企業数や従業者数を絡めた分析」をしました。今回は「「売上高階級別」にブレイクダウンする(その2)」として、まずは「全業種合計の利益率に現れた特徴」を俯瞰しておこうと思います。自社の利益率を他の中小企業の数値と比較する場合には、全業種合計ではなく、自社の属する業種を分析すれば良いかもしれませんが、後述するように、全業種合計の利益率に特徴的な傾向が見られるため、今回は参考までに全業種合計での利益率の分析結果を紹介させて頂きます。そのため、業種別・売上高階級別の分析については次回に譲りたいと思います。(2)「売上高階級別」にブレイクダウンする(その2)~全業種合計の利益率に現れた特徴前回説明した方法で、中小企業実態基本調査の年度別データの一覧画面の「3.売上高及び営業費用」の中にある「(4)産業別・売上高階級別表」からExcelデータ(法人企業)をダウンロードできますので、これを加工することで、【図表1】のような売上高階級別の各種利益率のデータを算出することも可能です。【図表1】全業種合計(法人企業)の売上高階級別の利益率(2021年度決算実績)(注)中小企業実態基本調査(令和3年度(2021年度)決算実績)の「3.売上高及び営業費用-(4)産業別・売上高階級別表1)法人企業」のExcelファイルを加工の上、筆者が作成(【図表2】も同様)。□全業種合計で見てみる【図表1】を見て筆者が注目したのは、売上総利益率と営業利益率では現れている傾向が大きく異なっている点です。売上総利益率については、売上高が大きくなるほど下がる傾向が顕著に見てとれる一方、営業利益率については、売上高が大きくなるほど上がる傾向が顕著に見てとれます。つまり、全く逆方向となっているのです。しかも、売上高階級別の利益率の差は売上総利益率・営業利益率とも相当程度大きく、たまたまとは言えそうもありません。念のためコロナ禍前の2018年度決算実績値を算出してみたところ、売上高が大きくなるほど売上総利益率は下がり、営業利益率は上がるという傾向は同じように現れていました(末尾の【参考】を参照)。売上高階級別の経常利益率や当期純利益率については、営業利益率ほど顕著ではありませんが、営業利益率に準じた傾向が現れています。売上総利益率だけ逆方向の傾向が出ているのはなぜなのでしょうか。【図表1】のように、「売上総利益率」は売上高が大きくなるほど下がる傾向が見てとれたのに対して、「営業利益率」は逆に売上高が大きくなるほど上がる傾向が見てとれたことから、売上原価率や販管費率の内訳項目にブレイクダウンしてさらに分析を進めてみることにします。中小企業実態基本調査結果として公表されているP/LのExcelデータには、売上原価や販管費の内訳項目が載っています。この中から、売上原価に占める割合が高い「商品仕入原価・材料費」「労務費」「外注費」と、販管費に占める割合が高い「人件費」「動産・不動産賃借料」をピックアップし、売上高に対する比率を計算してみました。【図表2】売上原価率・販管費率の主な内訳全業種合計(法人企業)(2021年度決算実績)(注)上表の各比率は、売上高(売上高階級ごと)に対する比率である。その結果、売上原価の内訳項目である「商品仕入原価・材料費」「労務費」「外注費」とも、売上高が大きくなるほど、売上高に対する比率が上がる傾向が見てとれます。中でも「商品仕入原価・材料費」は売上高階級ごとの比率の差が顕著になっています。一方、販管費の内訳項目である「人件費」「動産・不動産賃借料」とも、売上高が大きくなるほど、売上高に対する比率が下がる傾向が見てとれます。中でも「人件費」は売上高階級ごとの比率の差が顕著になっています。その要因として、もしかすると、「売上高が大きくなると、1件ごとの粗利は小さくても、規模の利益が働き、販管費を賄えるだけの営業利益を上げられる」ということはあるかもしれません。薄利多売とまでは言いませんが、販売量がある程度以上確保できるのであれば、販売価格を抑えて1件ごとの粗利は小さくても採算は確保できるでしょう。ただ、それだけではなかなか説明が付きづらいところがあるように思います。私の推定での話になりますが、むしろ別の要因が影響しているのではないかと思われます。それは、本来であれば売上原価に計上すべきものであっても、売上高が小さい階級では売上原価と販管費の厳密な区分を行わずに販管費として処理しているケースが多いのではないかということです。労務費・人件費についても同様のことが言えるのではないかと考えます。前回の原稿(仕事術第76回【図表3-A】など参照)にもあったように、法人企業の場合、1社当たりの従業者数は、売上高階級1千万円以下の階級では2人、1千万円超3千万円以下の階級でも3人といった状況です。家族などごく少人数で営んでいる企業であると想定され、従業者は諸々の業務を行っており、人件費はまとめて販管費として処理していることも想定されます。また、売上原価率と販管費率を合計してみると、売上高が小さくなるほど、当該比率は上がる傾向が顕著ですので、この点からもそうした状況が推測されます。いずれにせよ、売上高が小さい階級では、人件費率が高く、その負担が重くのしかかっている様子が見てとれます。売上高がある程度以上確保できるような企業では、もっと従業者を増やしてでもそれ以上に多くの売上を上げているものと思われます。このように見てくると、自社の利益率を中小企業の平均的な利益率と比較しようとする際、売上原価と販管費の区分が適切に行われていない可能性も踏まえておくことが必要でしょう。その意味では、売上高階級別の売上総利益率に注目するよりは、営業利益率に注目した方が良いのではないかというのが、ここまで分析をしてきた私の考えです。売上総利益率を売上高階級別にブレイクダウンする場合は、ここまで指摘した点、具体的には、「売上原価と販管費の区分が適切に行われていない可能性があること」「売上高が小さい階級では人件費の負担が大きいこと」などを念頭に置いた上で参照した方が良いでしょう。4.おわりに本連載では現在、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げています。今回は、P/Lに関わるデータを活用する際に、売上高階級別にブレイクダウンすることにスポットを当て、売上高階級と各種利益率との間に見られる傾向を分析してみました。今回は業種別にブレイクダウンせずに全業種の合計数値をもとに分析してみましたが、売上高階級別の差は想像以上に大きかったように感じました。また、今回の分析を通じて、売上総利益率を売上高階級別にブレイクダウンする場合には注意が必要そうな状況も読み取れました。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読み頂き、実務上の参考にして頂ければ幸いです。【参考】全業種合計(法人企業)の売上高階級別の利益率(2018年度決算実績)(注)中小企業実態基本調査(平成30年度(2018年度)決算実績)の「3.売上高及び営業費用-(4)産業別・売上高階級別表1)法人企業」のExcelファイルを加工の上、筆者が作成。提供:税経システム研究所
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2024/02/16
第76回 比較分析のいろいろ(16) ~中小企業実態基本調査の活用(その5)
1.はじめに決算書の比較分析をする場合に、自社の決算数値を自社以外の数値と比較してみると、客観的に自社の位置付けが見え、課題が浮き彫りになるといった効果が期待できます。中小企業の場合、自社以外の決算数値はなかなか手に入らないといった問題もありますが、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を活用することで、自社以外の数値と比較することも可能になります。そこで、本稿では中小企業実態基本調査の概要を説明すると共に、活用法を考えてみようと思います。今回は、業種別P/Lからさらに売上高階級別にブレイクダウンする方法について説明します。2.ケースで考える中小企業実態基本調査の活用~売上高階級でのブレイクダウン(その1)まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース3】をご覧ください。【ケース3】飲食店を営むK社では、取引銀行に決算書を見せた際、収益性を見る指標の一つである「売上高経常利益率」の水準が低いことを指摘されました。これをきっかけに、中小企業の平均的な売上高経常利益率がどの位の水準なのかが気になり始め、自社の決算数値を他の中小企業の決算数値と比較したい場合に、中小企業実態基本調査が活用できることを知りました。そして、中小企業実態基本調査を活用しようと、いろいろ調べてみることにしました。そんな中、ふと社長は思いました。社長:「中小企業と言っても売上水準って結構幅があるよなぁ。そもそも中小企業の売上水準ってどんな感じなんだろう。それに、売上水準が違えば収益性にも相当な違いがあるんじゃないか…」【ケース3】には、中小企業の売上水準や、売上水準の違いによる収益性の違いが気になっている社長の様子が描かれています。では、こんなときはどうしたら良いのでしょうか。今回は、前者(中小企業の売上水準)の方にスポットを当てて話を進めようと思います。3.中小企業の売上水準の違いによる収益性の違いを調べてみよう中小企業実態基本調査では、業種別(大分類の11業種)の切り口をさらに「従業者規模別」「売上高階級別」「資本金階級別」「設立年別」という切り口でブレイクダウンしたExcel統計表も用意されており、前回は「従業者規模別」の切り口について説明しました。今回はもう一つの重要な「売上高階級別」の切り口について説明します。(1)「売上高階級別」にブレイクダウンする(その1)~企業数や従業者数を絡めた分析「売上高階級別」のP/Lを活用したい場合、【図表1】の中小企業実態基本調査の年度別データの一覧画面の「3.売上高及び営業費用」の中にある「(4)産業別・売上高階級別表」(点線枠部分)からExcelデータ(法人企業と個人企業とで2ファイル)をダウンロードできます。【図表1】中小企業実態基本調査の年度別データの一覧画面(抜粋)(出所)e-Statの中小企業実態基本調査「令和4年確報(令和3年度決算実績)」画面の一部を抜粋(点線枠は筆者が追加)中小企業実態基本調査で用意されている売上高階級別の切り口は次のようなものです。大きくは「法人企業」と「個人企業」に分けられ、さらにそれぞれ売上高階級別に【図表2】のように分けられています。【図表2】中小企業実態基本調査における売上高階級別の切り口「業種別」の切り口と「売上高階級別」の切り口とを組み合わせれば、比較対象をより自社の事業・規模と近い企業に絞り込むことができます。ただし、この場合の業種別は大分類(例えば、「宿泊業、飲食サービス業」)であり、中分類(例えば、「飲食店」)までブレイクダウンしたデータは用意されていませんので、その点はご注意ください。売上高階級別のP/Lを使えば、自社が比較すべき売上高の水準に近い中小企業の業種平均値をつかむことができますので、規模感の近い企業との比較を重視したい場合には、業種分類は大きくはなりますが、売上高階級別のP/Lとの比較を優先することも考えられます。中小企業の業種別の利益率を売上高階級別に分析するのに先立って、今回は「企業数」や「従業者数」を絡めた分析をしてみようと思います。実はExcelファイルで公開されている中小企業実態基本調査結果のP/LやB/Sには、「母集団企業数」「従業者数」といった情報も付いているため、例えば、業種別や売上高階級別のP/Lを企業数や従業者数を絡めて分析することができます。例えば、「(4)産業別・売上高階級別表」(【図表1】の点線枠部分)のうち、「1)法人企業」「2)個人企業」のExcelデータを加工すると、【図表3】や【図表4】のような表を自分で作ることもできます。【図表3-A】法人企業の売上高階級別の企業数・従業者数とその構成比等(2021年度決算実績)【図表3-A】(=法人企業)の「企業数構成比」を見ると、売上高が「1億円超~5億円」の企業が最も多く全体の25.6%を占め、次いで「1千万円超~3千万円」の企業が21.2%、「5千万円超~1億円」の企業が15.5%、「3千万円超~5千万円」の企業が11.8%を占めていることが分かります。75%近い企業が売上高「1千万円超~5億円」の中に収まっていることになります。また、同表の「1社当たり従業者数」を見ると、1社当たり従業者数が少ない企業ほど売上高が小さく、従業者数が10人未満の企業の売上高は1億円以下の階級にとどまっていることが分かります。参考までに個人企業についても同様の表を作成してみると、【図表3-B】のとおりです。【図表3-B】個人企業の売上高階級別の企業数・従業者数とその構成比等(2021年度決算実績)【図表3-B】(=個人企業)の「企業数構成比」を見ると、売上高が「500万円以下」の企業が最も多く全体の38.8%を占め、次いで「1千万円超~3千万円」の企業が27.9%、「500万円超~1千万円」の企業が23.5%を占めており、90%超の企業が売上高「3千万円以下」の中に収まっていることになります。また、同表の「1社当たり従業者数」を見ると、個人企業全体で3人と法人企業の15人と比べて少人数です。1社当たり従業者数が少ない企業ほど売上高が小さいのは法人企業と同様です。【図表4】売上高階級別の構成比及び従業者1人当たり売上高(2021年度決算実績)【図表4】の「従業者1人当たり売上高」を見ると、法人企業・個人企業とも売上高の大きい階級ほど1人当たり売上高も大きくなるという傾向が顕著に表れています。各売上高階級での差も大きく、法人企業では「500万円以下」の1.4百万円や「1千万円以下」の3.3百万円に対して、「1億円超」の階級では10百万円を超え、「10億円超」の階級では30百万円を超えています。なお、従業者1人当たり売上高は、法人企業全体の平均が21.6百万円であるのに対して、個人企業全体の平均は6.1百万円にとどまっています。これは、個人企業の90%超が売上高3千万円以下であり、従業者1人当たり売上高は5.8百万円、3.5百万円、1.6百万円といった層に集中している影響と思われます。こうしたデータの加工・分析を通じて、多くの個人企業における従業者1人当たり売上高の水準をつかむことができました。また、中小企業の全体の中で自社がどの辺りの位置にいるのかといったことの参考にもなるでしょう。例えば、自社が「売上高1千万円超~3千万円」の階級に入っていて、かつ従業者1人当たり売上高が10百万円だとすれば、全体平均(注)より少ない人数で売上を上げることができていると位置づけられるかもしれません。(注)今回掲載した各表は全業種の数値を元にしていますので、実際の分析では、自社の属する業種にブレイクダウンするのが適切と考えられます。以上見てきたように、「企業数」や「従業者数」を絡めた分析をしてみると、中小企業の全体の中で自社がどの辺りの位置にいるのかといったことや、売上高が小さい企業と大きい企業の違いなどが見えてくると思います。今回は1期分のみで業種別の分析も省略しましたが、必要に応じてさらに業種別などにブレイクダウンして数期分を比較してみると、より自社に近い中小企業の状況が見えてくるのではないでしょうか。4.おわりに本連載では現在、自社の決算数値を自社以外と比較したい場合に活用できる「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)を取り上げています。今回は、P/Lに関わるデータを活用する際に、売上高階級別にブレイクダウンすることにスポットを当て、売上高階級と企業数や従業者数とを絡めた分析をしてみました。多くの中小企業がある中で、どの辺りの売上高階級の企業が多いのか、また、売上高階級ごとにブレイクダウンした場合に、1社当たりの従業者数がどの位で、従業者1人当たりの売上高はどの位なのか、何らかの傾向があるのかなどを見てみました。今回は業種別にブレイクダウンせずに全業種の合計数値をもとに分析してみましたが、売上高の水準の違いによる傾向も現れていたのではないかと思います。次回以降も引き続き、「中小企業実態基本調査」(中小企業庁)の活用法を考えていきたいと思いますので、そちらも併せてお読み頂き、実務上の参考にして頂ければ幸いです。提供:税経システム研究所
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