アウトライン審査事例
国税不服審判所が示した審査請求事件の裁決例は、正確な税務処理を行っていくうえで見落とせません。アウトライン審査事例では実務家の皆様にとって実用性の高い裁決事例を簡潔に紹介。併せて、参照条文も記載しておりますので、実務上の判断の一助としてお役立てください。
1189 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
-
2025/11/17
預金残高の原資は借入金、毎月の収支はマイナスでも、生活の維持が困難となるおそれはなく、一時に納付可能と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】国税の猶予制度は、期限内納付が難しい場合に、申請より税務署長の許可を受けて、原則として担保を提供し、1年以内の期間に限り、分割して納付することができるようになる制度で、主に、(1)災害や病気、休廃業等により一時に納付できない場合の「納税の猶予」と、(2)一時に納付することにより、事業の継続・生活維持が困難となるおそれがある場合の差押財産に対する「換価の猶予」がある。一時に納付できない場合とは、納付可能金額(当座の手元資金-当面の資金繰りに必要な額(つなぎ資金))が納付すべき国税の額に満たないケースが該当する。本件の審査請求人は老人介護施設の訪問美容を主な業とする自営業者で、売上減少を理由に差押財産の換価の猶予の申請を行ったが、税務署は、生活の維持を困難にするおそれがある場合に該当しないとして不許可処分を行った。審査請求人は、手元の現預金には借入金が含まれている、納付可能金額の算定は、「納税の猶予等の取扱要領」(猶予取扱要領)によらず、相続税の延納の要件のように債務を控除して判定すべきと主張した。国税不服審判所は、猶予取扱要領の定めは合理性を有し、審査請求人について、つなぎ資金の額を最大1年分で計算しても納付困難な額が算定されないことから、不許可とした処分は適法であるとした事例である。(換価の猶予不許可処分・棄却・令和6年10月28日裁決)【主な争点】審査請求人に、本件猶予申請において、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったと認められるか。【裁決の要旨】申請による換価の猶予が納税者救済のための例外的な制度であることからすると、同制度の適用に当たっては、納税者間において不公平が生じることを回避し、税務行政の適正妥当な執行を確保する必要があり、猶予取扱要領の定めが合理性を有し、特段の事情がない限り、当該定めに従った判断は相当であるというべきである。猶予取扱要領65の定めに基づき、換価の猶予の申請に係る国税の額から、現在納付可能資金額(「当座資金の額」-「つなぎ資金の額」)を控除した納付困難な額が算定されるか否かを検討すると、審査請求人の「納付困難な額」は0円になる。(※「当座資金の額」は、猶予申請を行った日の前日における現金及び預貯金の額、「つなぎ資金の額」は、調査日から計算期間1月における生活維持費等の額であるが個別事情により加算可能とされている)。本件猶予申請において、つなぎ資金として相当と認められる金額は1月分であるが、審査請求人の月々の収支がマイナスであることをもって、2月をつなぎ資金の計算期間に加えた場合であっても、更に猶予申請が認められ得る最大の期間である1年分で計算した場合でも、納付困難な額は算定されない。したがって、国税を一時に納付することによりその事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められない。【参照条文】国税徴収法第151条の2(第1節換価の猶予)、第152条《換価の猶予に係る分割納付、通知等》国税徴収法施行令第53条《換価の猶予の申請手続等》納税の猶予等の取扱要領「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(事務運営指針)本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/11/17
営業担当者が翌期の収益になるよう虚偽記載した実績管理表を上司は決裁した。これは法人による事実の仮装として重加算税が課された事例(棄却)
【裁決のポイント】営業収益の計上時期の特例として、法人税法第64条(令和7年改正後は第63条)は、工事の請負に係る収益及び費用の計上方法を規定している。長期大規模工事に該当する工事は工事進行基準が強制適用され(第1項)、長期大規模工事以外の工事で2事業年度以上にわたる工事は工事進行基準と工事完成基準で選択可とされている(第2項)。審査請求人の経理規定は、工事の請負による施工売上高は工事進行基準により計上すると定めている。その経理処理手順は、外注先業者が自ら作成する施工後自主検査記録と工事月報の提出を受けとった営業担当者が管理実績表に施工日、進捗率等を記入して進捗率に応じた売上高と外注費ならびに材料費を算定し、上司の決裁を得ると、事務担当者がその額を会計システムに入力するという流れになっている。審査請求人は税務調査を受けて修正申告したところ、税務署が、営業担当者は事実と異なる令和3年3月の進捗率0.00%、4月の進捗率100%の管理実績表を作成し、上司が決裁したことは、審査請求人による事実の仮装であるとして重加算税を課した。審査請求人は、経理処理手順は経理規定で規定されていない、修正申告は間違いだった、営業担当者は故意に虚偽の進捗率を算出していない等と主張した。国税不服審判所は、審査請求人には第2項の工事進行基準が適用される、営業担当者は3月に施工完了を認識していた、上司は決裁をしているから、虚偽記載は審査請求人による事実の仮装に該当するとして、重加算税賦課決定処分を適法と判断した事例である。【主な争点】審査請求人に国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する事実の「仮装」があるか。【裁決の要旨】本件工事は、法人税法第64条(令和7年改正前、現在は第63条)第1項に規定する長期大規模工事に該当しないことから、同条第2項に規定する「工事」に該当する。そして、審査請求人は、本件経理規程において、工事の請負による施工売上高は工事進行基準により計上する旨定め、その具体的な経理処理手順として、施工月日や工事全体の進捗率等を入力した実績管理表を作成し、当該進捗率に応じた施工売上高及び外注加工費の額を計上しているところ、本件工事について、令和3年3月分実績管理表の「施工月日」欄を空欄にした上で進捗率を「0.00%」と入力することにより、本件工事に係る本件事業年度(令和3年3月期)の収益の額及び費用の額を「0円」と算定しているものと認められる。したがって、本件工事については、審査請求人が、本件事業年度の確定した決算において、本件3月分実績管理表に記載された進捗率を本件工事の進行割合として、法人税法施行令第129条第3項に規定する工事進行基準の方法により収益の額及び費用の額を経理していたと認められるから、法人税法第64条第2項が適用される。本件工事の進捗率及び施工月日は、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」に該当する。営業担当者は3月中の施工完了を認識していたが、一連の行為は、その態様に照らし、飽くまで審査請求人の経理事務の一環においてなされたものである。そして、3月分実績管理表及び4月分実績管理表は上司の決裁を受けている。以上のことからすれば、審査請求人は事実の仮装があったと認められる。【参照条文】国税則法第68条《重加算税》法人税法第64条《工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度》(令和7年改正後は第63条(第7款工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例))法人税法施行令第129条《工事の請負》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/11/10
最終的に第三者に居住用として再転貸することを前提にした契約と判断され、建物の取得に仕入税額控除の適用が認められなかった事例(棄却)
【裁決のポイント】令和2年度税制改正により、令和2年10月1日以後、居住用賃貸建物には仕入税額控除制度の適用が認められない。改正前は、住宅の貸付に該当するか否かは貸付けに係る契約書で判断されていたが、改正で、住宅の貸付けに係る契約において用途が明らかにされていない場合に貸付け等の状況から見て人の居住の用に供されていることが明らかなときは、当該住宅の貸付けについて非課税とすることが明示された。本件は、改正前の令和元年課税期間についての裁決であるが、改正の趣旨にも整合する判断がなされている。不動産賃貸業を営む審査請求人(個人)は、建築管理会社に工事を発注し、建物・附属駐車場を取得すると、妻が代表を務めるA社と賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。契約条項には、審査請求人の確固として完全な意思表示に基づき建物の使用用途は問わない、ただし転貸用途は制限しない旨記載されている。1か月後に当該建築管理会社はA社から一括借上げした。審査請求人は建物等の取得を課税仕入れとして消費税等の確定申告をしたが、税務署はA社への建物の貸付けは「住宅の貸付け」であるとして更正処分等を行った。審査請求人は、契約では使用用途は問わないとしている、改正法の遡及適用で違法と主張した。国税不服審判所は、建物の名称に当該建築管理会社が商標登録している賃貸「住宅」ブランドが使用されている、審査請求人、A社及び建築管理会社の3者は、本件賃貸借契約締結以前より、建物等を建築管理会社に対し一括賃貸の上、これを居住用として任意の第三者に転貸する予定であったことを認識しているから、本件賃貸借契約は「住宅の貸付け」に該当すると判断した事例である。(平31.4.1~令元.6.30課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和6年3月15日裁決(非公開))【主な争点】本件賃貸借契約は、非課税取引となる「住宅の貸付け」に該当するか。【裁決の要旨】賃貸借の内容である本件建物の名称は、本件建築管理会社が商標登録している賃貸「住宅」ブランドが使用されていることからすれば、本件賃貸借契約は、A社が本件建築管理会社に対し本件建物を住宅として転貸することが前提とされていたといえる。本件賃貸借契約の締結に至る経緯の点でみても、本件建物は、住宅として賃貸されることを予定して建築され、その後も、本件建築管理会社が本件建物を住宅として転貸借の目的とすることが一貫して予定されており、審査請求人もそのことを認識した上で、本件建物を本件建築管理会社に注文し、A社との本件賃貸借契約が締結されるに至ったといえる。審査請求人、A社及び本件建築管理会社の3者は、本件賃貸借契約締結以前より、本件建物等を本件建築管理会社に対し一括賃貸の上、これを居住用として任意の第三者に転貸する予定であったことを認識していたといえる。これらによれば、本件賃貸借契約書において、本件建物の使用用途を問わない旨明記されていたとしても、審査請求人は、本件賃貸借契約の締結時点で、最終的に本件建物を借り受ける者により、本件建物が居住用以外の用途に利用されることを想定していなかったといえる。以上によれば、本件賃貸借契約は、A社が本件建物を本件建築管理会社に転貸し、本件建物を居住用として再転貸することを前提にしたものであり、本件貸付けは、本件賃貸借契約において、最終的に本件建物を賃借する者により本件建物が居住の用に供されることが明らかにされているものであると認められるから、別表第一第13号(令和2年改正前のもの)に規定する「住宅の貸付け」に該当し、非課税取引となる。改正法の遡及適用ではない。【参照条文】消費税法第6条《非課税》、第30条《仕入れに係る消費税額の控除》、別表第一本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/11/10
法人側で寄附金認定されるも、受け取った側は法人からの贈与(一時所得)でなく事業付随収入(事業所得)と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】一時所得に当たるというためには、当該所得が、①利子、配当、不動産、事業、給与、退職、山林及び譲渡所得以外の所得であることを前提として、②営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(非継続性要件)、③労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであること(非対価性要件)の全てを満たす必要がある。建物解体工事業を営む審査請求人は、発注元A社と、工事に係るA社の利益をA社と折半する口頭契約があったが(審査請求人の取り分を「正当報酬」)、審査請求人の資金繰り支援のために、一定期間はA社の取り分も支払われる本件契約が追加された(追加取り分を「本件収入金額」)。審査請求人は本件収入金額も事業所得の収入金額として確定申告をした後、A社が税務調査を受け、本件収入金額相当分は対価性のない寄附金であるとする更正処分を受けて修正申告したことから、本件収入金額は法人からの贈与で一時所得に該当するとして更正の請求を行った。税務署は更正すべき理由はない旨の通知処分をした。国税不服審判所は、本件収入金額は、審査請求人がA社の事業に欠かせない存在であることから支払われたもので、審査請求人の建物解体工事業という遂行に付随して生じた収入というべきである、一時所得と判定すべき事情もない、A社における認定事実は影響しないとして、処分は適法と判断した事例である。(平成28年分及び平成29年分所得税及び復興特別所得税の各更正の請求に対して更正すべき理由がない旨の各通知処分・棄却・令和2年7月13日裁決(非公開))【主な争点】本件収入金額は、事業所得か、一時所得か。【裁決の要旨】A社代表者は、審査請求人が、多額の負債のために下請業者に対する支払を滞らせるなどして、職人を集められないようになり、A社の工事も滞るような状況となっていたことから、審査請求人が負債を全額返済するまでの間、資金援助を行うために、本件契約を口頭により締結した。本件契約に至る経緯及びその内容からすると、本件収入金額は、審査請求人とA社との過去からの事業上の取引関係を背景に、審査請求人が事業を継続していくために必要な資金として、A社から提供を受けたものであり、他方、A社においても、審査請求人に対して当該資金を提供することで、自らの事業を堅実かつ円滑に遂行することを期待していたものと認められる。そして、本件収入金額が、審査請求人の本来の事業活動である、A社から請け負う解体工事に継続的に従事することを前提に、A社の利益が確定するごとに、当該利益の中から、正当報酬に上乗せして支払われてきたという実態に鑑みると、本件収入金額は、まさに、解体工事という審査請求人の事業の遂行に付随して生じた収入というべきであり、他方で、一時的かつ偶発的に生じた所得という一時所得の性質もうかがわれず、その他一時所得と判定すべき事情もないことからすると、事業所得に係る収入金額と解するのが相当である。所得区分の判定に当たっては、単に、贈与契約か否かという名目にとらわれることなく、当該所得に係る利益の内容及び性質、当該利益が生み出される具体的態様を考慮して実質的に判断されるべきである。A社の法人調査で認定された事実は、所得区分の判定に直接的に影響を及ぼすものではない。【参照条文】国税通則法第23条《更正の請求》所得税法第27条《事業所得》、第34条《一時所得》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/10/27
当初から、特定の株式の全取得を目的として締結した仲介契約後に支出された費用であると判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】子会社株式取得の付随費用の扱いは、会計上と税務上で異なる部分があり、税務上は「購入手数料その他購入のために要した費用」は株式の取得価額に含まれるとされている(法人税法施行令第119条《有価証券の取得価額》)。実務においては、特定の有価証券を取得することを決定した時点以前の調査費用は損金算入処理する、特定の有価証券を取得することを決定した時点以降の調査費用は取得価額に加算する、と整理されている。そのため、取得の意思決定をした時点やその目的の見極めに慎重な判断が求められる。審査請求人(買収途中でグループ会社内の他法人の各契約上の地位を継承した)は、M&A仲介会社から、全株式の取得による買収希望の企業概況書を提案され、提携仲介業務を委託する契約を締結した。契約では、業務の報酬として、情報提供料(返金されない業務着手金を含む)、基本合意等締結後に中間報酬、最終契約の締結時に成功報酬の支払いが定められていた。買収は成功し、買収交渉が進む過程で顧問弁護士に支払った法務調査費等も含めて、審査請求人は、それらの費用(本件費用)の全額を、雑費として損金算入して申告したところ、税務署は株式の取得価額に算入すべきとして更正処分を行った。審査請求人は、株式購入の意思決定時点は、臨時株主総会で株式譲渡契約の締結が承認された時点である、情報提供料は返還されないから、取得価額に算入されないと主張した。国税不服審判所は、提携仲介契約は、企業概要書の提示を受け、当初から株式の購入を目的として締結されていること、情報提供料は提携仲介契約を締結するか否かの意思決定の参考にするための費用であったとは認められないとして、請求を棄却した事例である。(平成29年3月期まで及び令和2年3月期の各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、他・棄却・令和4年10月5日裁決(非公開))【主な争点】本件費用は、法人税法施行令第119条第1項第1号に規定する「その有価証券の購入のために要した費用」に当たるか。【裁決の要旨】M&A仲介業者から、企業概要書の提供を受けるとともに、全株式の譲渡を希望している旨伝えられたことを契機として、本件提携仲介契約の締結に至ったと認められる。そして、本件提携仲介契約書の記載からすると、企業提携の実現のための仲介業務を委託し、その対価として、企業提携の進行状況に応じて定められた報酬を支払うというものであったと認められる。そうすると、本件提携仲介契約は、当初から買収先会社の株式という特定の株式の取得を目的として締結されたものと認められ、また、当該契約に基づいてM&A仲介業者が実施した各種の業務が、トップ面談の実施や買収条件の調整など、株式譲渡契約の成立に必要なものであったことからすると、その対価は、株式の購入に関して支払われるものであったと認められる。法務調査の内容が株式の購入に係る資料及び譲渡契約書の検討であったことからすると、その対価は、株式の購入に関して支払ったものと認められる、財務調査の内容が、企業精査に係る報告書の作成であったことからすると、その対価は、株式の購入に関して支払ったものと認められるから、それらの費用は、株式の購入のために要した費用であると認めることが相当である。審査請求人の主張について、本件提携仲介契約が、当初から買収先の株式の各譲渡契約の成立のために締結されており、その締結後になされた業務の内容が当該株式譲渡契約の成立に必要なものであったことは、臨時株主総会の開催前後で変わるものではないから、審査請求人の主張には理由がない。また、情報提供料は、本件提携仲介契約締結後に支払うものであること、また、返還不可の条件が付されていることからすると、当該契約を締結するか否かの意思決定の参考にするための費用であったとは認められない。【参照条文】法人税法施行令第119条《有価証券の取得価額》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/10/20
その支払利息は、一時所得の計算上、解約返戻金の収入金額から控除できないとした事例(棄却)
【裁決のポイント】一時所得に係る総収入金額から控除される「その収入を得るために支出した金額」は、その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限るとされている。このことから、一時所得に係る収入、支出について、収入を生じた行為又は原因ごとに個別対応的に計算するものと解される。審査請求人が締結した終身保険契約は、最初の5年間で保険料を完納するタイプで、審査請求人は完納した翌年に約款に基づく契約者貸付金を申し込み、保険会社から借り入れを行い、利息の支払いが発生した。契約者貸付金に利用は任意で、また借入金の使用目的に制限なく、審査請求人は投資の資金に使用した。税務署は、審査請求人が受け取った保険の解約返戻金が一時所得として申告されていないとして所得税の更正処分をしたことから、審査請求人は、解約返戻金と支払利息は相殺されている、解約返戻金から支払利息を差し引けるので一時所得は発生しないとして、処分の取消しを求めた。国税不服審判所は、契約者貸付けを利用するか否かは審査請求人の任意である、解約返戻金を得るために本件利息の支払が不可避であったものではない、保険料支払に本件借入金が充てられていないことは明らかだから、本件利息は、本件解約返戻金に係る一時所得の金額の計算上、その収入を得るために支出した金額に該当しないと判断した事例である。(令和2年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和6年8月23日裁決)【主な争点】契約者貸付金の借入金利息は、保険の解約返戻金に係る一時所得の金額の計算上、「その収入を得るために支出した金額」に含まれるか(所得税法第34条第2項)。【裁決の要旨】本件における一時所得の金額に係る総収入金額は本件解約返戻金の額であり、本件解約返戻金は本件保険契約に係る保険料の支払により生じたものである。他方、本件利息はその元本たる本件借入金の使用の対価であるところ、本件契約者貸付けを利用するか否かは請求人の任意であり、本件解約返戻金を得るために本件利息の支払が不可避であったものではない。そうすると、本件利息が所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に含まれるというためには、「収入を生じた行為又は原因」である本件保険契約に基づく保険料の支払に本件借入金が充てられたものであることが必要であり、その充てられた範囲において、個別対応的に計算することとなる。この点、本件借入金が本件保険契約に係る保険料の支払に充てられていないことは明らかである。したがって、本件利息は、本件解約返戻金に係る一時所得の金額の計算上、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」に含まれない。審査請求人の主張について、本件借入金及び本件利息と本件解約返戻金が相殺されたのは、請求人が本件借入金及び本件利息を任意で返済していなかったことが原因であり、本件借入金及び本件利息と本件解約返戻金が事実上不可分の関係にあったとか、本件解約返戻金と本件借入金及び本件利息の相殺が事実上拒絶し難いという審査請求人の主張はいずれもその前提を欠く。【参照条文】所得税法第34条《一時所得》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/10/20
青色申告の承認申請書の提出がないため、欠損金額の繰越しは認められなかった事例(棄却)
【裁決のポイント】当該事業年度以後の各事業年度の確定申告書を青色の申告書により提出することについて青色申告の承認を受けようとする内国法人は、当該事業年度開始の日の前日(設立の日の属する事業年度について青色申告の承認を受けようとする場合には、設立の日以後3月を経過した日と当該事業年度終了の日とのうちいずれか早い日の前日)までに、納税地の所轄税務署長に申請書の提出をしなければならない(法人税法第122条)。審査請求人が、設立の日の属する事業年度(令和2年3月期)において生じた欠損金額をその後の事業年度(令和3年3月期)の所得金額の計算上損金の額に算入して白色の確定申告書の別表7(1)を添付して申告したところ、税務署は、審査請求人は青色申告をすることについて所轄税務署長の承認を受けていないから、各事業年度の欠損金額の繰越しはできないなどとして、法人税の更正処分等をしたため、審査請求人が、原処分庁は青色申告についての説明を怠ったなどとして、原処分の全部の取消しを求めた。国税不服審判所は、青色申告の承認申請書をその提出期限までに納税地の所轄税務署長に提出していない、原処分庁の行政サービスとしての情報提供の不足をいうものにすぎないから、本件各更正処分の適法性に影響しないとして、棄却した事例である。(〇〇〇〇年〇〇月〇〇日から令和2年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分、他・棄却・令和4年4月18日裁決(非公開))【主な争点】各更正処分の適法性【裁決の要旨】審査請求人は、令和2年3月期の法人税について、青色申告の承認申請書をその提出期限までに納税地の所轄税務署長に提出しておらず、令和2年3月期において青色申告の承認を受けていないから、青色申告書である確定申告書を提出したとは認められない。そのため、令和2年3月期において生じた欠損金額があるとしても、法人税法57条10項に規定する「欠損金額の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出」した場合に該当しないから、同条1項の規定を適用することはできず、令和3年3月期の所得金額の計算上、別表1の「確定申告」欄の「繰越欠損金の当期控除額」欄の金額を損金の額に算入することはできない。青色申告でなければ欠損金の繰越控除が認められない旨説明をしていなかった原処分庁の業務に対する取組姿勢に問題があるという主張については、原処分庁にそのような説明義務があることを明らかにした法令の規定はない上、申告納税制度の下では、課税標準及び税額等の計算並びにこれらの前提となる制度の利用は、納税者の判断と責任において適正に行われるべきものである。そうすると、上記審査請求人の主張は、結局のところ、原処分庁の行政サービスとしての情報提供の不足をいうものにすぎないから、本件各更正処分の適法性に影響しない。【参照条文】法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》、第121条《青色申告》、第122条《青色申告の承認の申請》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/10/06
土地上の建物について所有者として登記されている借地人に対して、税務署がしてしまった手続きミス(全部取消し)
【裁決のポイント】土地の借地権登記がなくても、土地上の建物の所有権保存登記があれば、建物所有者は、これをもって借地権を第三者に対抗できる。ただし建物が滅失した場合の対抗力には条件がある(借地借家法第10条)。また、公売の買受人が借地権を引き受けるかどうかは、借地人がその借地権を国に対抗できるかどうかで判断される。審査請求人はGからの借地である土地上の建物を、相続によって取得し、所有権移転登記をした。その後の平成28年に税務署はG社の滞納国税の徴収のために本件土地に差押処分をしたが、建物が存在しているにもかかわらず、借地権を有する審査請求人に国税徴収法第55条の差押通知がなかった。差押処分後、審査請求人はG社と借地権付建物売買契約を結び、特約どおり建物を解体し滅失登記した。しかしG社が代金決済をせず売買契約を取消した。税務署は、建物滅失後の令和〇年に本件土地の公売公告を進めるにあたり、財産の特記事項として、平成期の土地賃貸借契約書を添付したものの、買受人が引き受ける借地権について記載はなかった。審査請求人は、借地権者に差押通知がなかった、公売公告に借地権の目的となっている土地であることが明確に記載されていないから、違法または不法であるとして処分の取消しを求めた。国税不服審判所は、事前手続である差押通知を欠いたまま後続の処分である公売公告処分がされている、また、公売対象の土地上に買受人が引き受けるべき借地権が存在する場合には、公売公告において、借地人が対抗要件を備えていることを記載することを要するが記載されていないとして、公売公告処分を全部取り消した事例である。(公売公告処分・全部取消し・令和6年9月25日裁決)【主な争点】本件公売公告処分は、違法又は不当か。【裁決の要旨】差押通知の目的は、利害関係人に滞納処分が開始されたことを了知させ、権利行使の機会を与えることにあるのであって、利害関係人の権利を保護するための重要な意義を有しているといえる。このような差押通知の趣旨及び意義に鑑みると、法令上求められる事前手続である差押通知を欠いたまま、後続処分である公売公告処分がされた場合には、当該公売公告処分には、取り消し得べき瑕疵があると解される。差押え後に建物が滅失する等して対抗要件が消滅しても、差押えの登記が経由された時点において国が対抗要件の存在によりその借地権を認識し、これを基に差押物件の換価価値を把握した以上、対抗要件が消滅しても既にされた換価価値の把握の内容に変化は生じないため、借地権者は、国との関係においては、その対抗力を維持すると解するのが相当であるから、審査請求人の本件借地権の対抗力は維持される。公売対象の土地上に買受人が引き受けるべき借地権が存在する場合には、買受人は、公売によって取得する土地について利用等の制限を受けることになるから、国税徴収法第95条第1項の趣旨に鑑みると、公売公告においては、「公売に関し重要と認められる事項」(第9号)として、借地人が対抗要件を備えている場合にはその旨等を記載することを要すると解するのが相当である(徴収法基本通達第95条関係17参照)。本件公売公告処分は、公売に関し重要と認められる事項の記載が漏れていることにより取り消し得べき瑕疵があると認められる。【参照条文】国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》国税徴収法第55条《質権者等に対する差押えの通知》、第95条《公売公告》国税徴収法基本通達第89条関係9《用益物権等の存続》、第95条関係17《重要と認められる事項》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決は関係行政庁を拘束するので、税原処分庁は裁決に不服があっても訴えを提起することができません。処分の全部取消しの場合は、審査請求人が訴訟にしないため、裁決で確定します提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/09/29
請負業者の申述が信用され、一部は合理的な理由がない資金の贈与として寄附金に認定された事例(一部取り消し)
【裁決のポイント】法人税法第37条第7項に規定する「寄附金」とは、民法上の贈与に限らず、経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡又は経済的利益の供与をいうものと解される。対価がない資金の移動(資金の贈与)があり、かつ、当該贈与を行うことに通常の経済取引として是認することができる合理的理由は認められないものは寄附金に該当する。農業生産法人である審査請求人は、管理棟や倉庫、ビニールハウスの新築工事等を建設会社と建築士に発注したが、それら請負業者が、審査請求人から契約書上の代金の支払いを受けた後に審査請求人の関連会社3社(A社、B社、C社)宛の支払いを行っていたため(本件各支払額)、税務署は、関連会社は請負業者に対してなんら役務の提供をしていないから、本件各支払額は請負業者を介した審査請求人から関連会社への寄附金であると認定し、更正処分等を行った。審査請求人は、関連会社は実際に作業をしており対価があると主張した。国税不服審判所は、請負業者が税務調査担当職員に対して行った申述は信用することができるとして、本件各支払額のうち2件は、関連会社への寄附金に該当する、1件については関連会社が実際に作業をしたことが認められるとして、処分の一部を取り消した事例である。(平成28年7月期の事業年度の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分、他・一部取消し、他・令和6年12月10日裁決)【主な争点】本件各支払額に相当する金額は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当するか。【裁決の要旨】建設会社及び建築士の申述内容は、それ自体としても具体的であって不自然な点は見当たらないほか、審査請求人から代金を受領した日後に関連会社に支払っている点で客観的事実とも符号していることから、信用することができる。本件支払額1及び本件支払額2については、建設会社及び建築士がA社、B社及びC社から何ら役務の提供を受けていないにもかかわらず、審査請求人の指示に従って支払われたものであることに加え、審査請求人は、建物等工事等に係る契約書等の請負代金等に本件支払額1及び本件支払額2に相当する金額を含めて当該契約書等を作成するとともに、建設会社及び建築士に対し、本件支払額1及び本件支払額2をA社、B社及びC社に支払うよう指示していた。このことを併せ考慮すれば、本件支払額1及び本件支払額2に相当する金額は、審査請求人が建設会社及び建築士を介して、A社、B社及びC社に金銭を対価なく移転するもの(資金の贈与)であると認められ、かつ、請求人が当該資金の贈与を行うことに通常の経済取引として是認することができる合理的理由は認められないから、寄附金の額に該当する。本件支払額3については、A社及びB社が建設会社に農業用資材の売却・運搬し、パイプビニールハウスの組立工事作業等をしたことが認められることから、寄附金の額に該当しないものと認めるのが相当である。【参照条文】法人税法第37条《寄附金の損金不算入》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
-
2025/09/22
争点について判断するまでもなく、更正処分等が全部取り消された事例(全部取消し)
【裁決のポイント】国税通則法第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。本件の審査請求人は3月決算法人であるが、消費税の課税期間を三月ごとの期間に短縮する消費税課税期間特例選択届出書を提出したため、設立後最初の事業年度は、課税期間が平成29年〇月〇日から平成30年1月6日までと、平成30年1月7日から同年3月31日まで(本件課税期間)に区分された。しかし、審査請求人は、本件課税期間の申告書に間違って初日を平成〇年〇月〇日と記入し、間違った期間で計算した還付申告書を提出した。その後も課税期間の訂正をしていない。税務署は、税務調査で課税期間の誤りを税理士に指摘したうえで、当該申告書は本件課税期間の申告書として扱うと説明し、更正処分等を行ったが、審査請求人は、課税期間を訂正していないから、国税通則法第24条に規定する「納税申告書の提出」があったとはいえないと主張した。国税不服審判所は、その申告書の課税期間がいずれのものであるかは、その申告書に表示されたところに従って判断すべきであり、そうすると、本件課税期間につき、国税通則法第24条に規定する「納税申告書の提出」があったとは認められないとして、税務署の処分をすべて取り消した事例である。(平30.1.7~平30.3.31の課税期間の消費税等に係る更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分・全部取消し・令和3年3月17日裁決(非公開))【主な争点】本件課税期間につき、国税通則法第24条に規定する「納税申告書の提出」があったか。【裁決の要旨】消費税法第45条《課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告》第1項及び消費税法施行規則第22条《確定申告書の記載事項等》第1項は、消費税等の申告書に記載すべき事項として当該課税期間の初日及び末日の年月日等を規定しているところ、消費税等の納税申告は、納税義務を確定させることを主たる目的とする課税標準額等及び税額等の申告であって、申告書の提出によってする要式行為であると解されるから、その申告書の課税期間がいずれのものであるかは、その申告書に表示されたところに従って判断すべきである。本件申告書に記載された課税標準額及び消費税等の還付金の額に相当する税額は、平成〇年〇月〇日から平成30年3月31日までの期間における課税資産の譲渡等の対価の額及び課税仕入れに係る支払対価の額に基づき算出されたものであるから、審査請求人が本件課税期間の申告書を作成しようとする意図の下で課税期間の初日の表記を単に誤ったものということはできないし、審査請求人が本件申告書の提出後にその記載内容を訂正したとの事情も本件課税期間の申告書を提出したとの事情も存在しない。したがって、本件申告書に表示されたところに従って判断すると、本件課税期間につき、国税通則法第24条に規定する「納税申告書の提出」があったとは認められない。原処分庁の調査担当職員が本件申告書を本件課税期間の申告書として取り扱う旨説明したとしても、審査請求人が本件申告書の課税期間を本件課税期間とする訂正をしていないことに変わりはない。原処分庁が申告書に記載された課税期間を是正できる旨は定められていない。国税通則法第24条の規定を適用してされた本件更正処分は違法であり、その他の争点について判断するまでもなく、その全部を取り消すべきである。【参照条文】国税通則法第24条《更正》消費税法第45条《課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告》消費税法施行規則第22条《確定申告書の記載事項等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
続きを読む
1189 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示




