アウトライン審査事例
国税不服審判所が示した審査請求事件の裁決例は、正確な税務処理を行っていくうえで見落とせません。アウトライン審査事例では実務家の皆様にとって実用性の高い裁決事例を簡潔に紹介。併せて、参照条文も記載しておりますので、実務上の判断の一助としてお役立てください。
1167 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
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2025/06/09
据付後に異常停止を繰り返す機械装置にお手上げ、検査等が未了でも取得したとして行った減価償却費の損金算入が、所有権は移転していないとして認められなかった事例(棄却)
【裁決のポイント】減価償却資産の償却方法を規定する法人税法施行令第48条の2が「取得をされた減価償却資産」を対象としていることに照らせば、法人税法上、法人が減価償却資産の償却費を損金の額に算入するためには、当該法人が各事業年度終了の時において減価償却資産を取得していることが要件とされており、そのためには、所有権等を法律上取得するか又はこれと同視できる事情があることが必要と解される。本件の審査請求人は、経営する牧場で生じる廃棄物から堆肥を生産する事業を計画し、A社に機械装置を発注し納品されたが、試運転で異常停止を繰り返す状態の中で平成29年9月決算期末を迎え、建設仮勘定から機械装置勘定に振り替えて、減価償却費(特別償却を含む)を計算し損金の額に算入したところ、税務調査で、A社との契約内容などから本件械装置を取得したといえないとして、更正処分等を受けた。審査請求人は、数日程度は稼働し、本件機械装置の成果物を使用したから、事業の用に供したと主張した。国税不服審判所は、各契約書面によれば、審査請求人が本件機械装置の据付後に、検査を行い、結果をA社に通知し、代金を全額決済した後で、A社から本件機械装置の所有権が審査請求人に移転すると認められる、しかし検査も支払いも未了で、審査請求人への所有権移転は認められないと判断した事例である。(平成29年9月期の事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、他・棄却・令和5年6月1日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人は、平成29年9月30日までに、本件機械装置を取得して、これを事業の用に供したか。【裁決の要旨】本件各契約書面においては、契約締結時に代金の一部を、つぎに、その契約の対象となる物の引渡(納品)時に代金の一部を、最後に、その物の検査(検収)終了時に残りの代金をそれぞれ支払い、そして、代金の全額の支払が完了したところでその物の所有権が移転するという一連の取引が定められているものと認められる。そうすると、この本件各契約書面でいう「引渡し」とは、単に本件機械装置を審査請求人の所在地に据え付けることを意味するにすぎず、この定めの「引渡し」をもって相手方に所有権が移転するものではないと解するのが相当である。1)審査請求人は、前事業年度中に「引渡し」を受けていたが、本件機械装置は異常停止を繰り返し、継続して安定した稼動をしておらず、現に、審査請求人は、本件各契約書面で定められた機械装置の検査結果をA社に通知していない。2)審査請求人は〇〇知事に対して廃棄物の処理に関して必要な法令上の手続を行っていなかったことから、審査請求人はA社から完成図書の交付を受けていない。これらのことから、請求人は、平成29年9月30日までに、本件各契約書面でいうところの本件機械装置の「受渡し」をA社から受けていなかったものと認められる。3)審査請求人は、平成29年9月30日において、本件機械装置に係る代金の全額の支払を完了していないことから、同日までに本件機械装置の所有権が請求人に「移転」しているとは認められない。審査請求人は、平成29年9月30日までに本件機械装置を取得したとは認められないことから、減価償却費を本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入することはできず、税込取得価額に対する消費税額を本件課税期間の消費税の控除対象仕入税額として控除することもできない。【参照条文】法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》租税特別措置法第42条の6《中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/06/02
類似する不動産で価格があるものが存在しない場合、固定資産評価基準に定める評価方法に則して算定すべきとした事例(一部取消し)
【裁決のポイント】登録免許税の課税標準となる「不動産の価額」は、市町村の固定資産課税台帳に登録された価格(評価額)がある場合には、原則その価格とされ、価格がない場合は、当該不動産の登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産で登録された価格のあるものが存在する場合には、その類似する不動産の価格に相当する価額とされている。不動産業者である審査請求人は、取得した各土地は固定資産税が非課税で固定資産課税台帳に価格がないため、法務局に「固定資産評価額証明情報請求書」を提出し、「土地の評価額等については、次のとおり」として価格が示された。同年12月にその価格を登録免許税の課税標準として同法務局に登記申請し、納付をした。法務局登記官は、登記申請とおりに各土地の価額を認定した(登記官認定額)。その後、審査請求人は、年の途中の地籍調査後に再評価が行われているから登記申請の日には各土地には価格があった、登記官認定額を課税標準とすべきでないと主張して、法務局に対して税務署に登録免許税の還付通知(還付手続を依頼する通知)をするよう求めたが、認められなかった。国税不服審判所は、登記官認定額は登録免許税の課税標準として過大である、類似する不動産で価格があるものが存在しない本件各土地は、固定資産評価基準に定める評価方法で算定するのが相当として、処分の一部が取り消された事例である。(令和4年12月登記により納付された登録免許税に係る還付通知をすべき理由がない旨の通知処分・一部取消し・令和6年5月27日裁決)【主な争点】本件登記官認定額は登録免許税の課税標準たる本件各土地の価額として過大か。【裁決の要旨】本件各土地は、地籍調査の前後を通して固定資産課税台帳に登録する価格が算定されることはなかったから、審査請求人の認識には誤りがある。また、土地の評価額等を示すために法務局が採用した本件各土地に類似する不動産は、本件各土地とは形状が大きく異なるほか、地積や接道状況等にも違いがあるため、本件各土地に類似する不動産とは認められないから、本件登記官認定額は、登録免許税法施行令附則第3項に規定する登記機関が認定した価額として適正なものとはいえない。固定資産課税台帳に登録された不動産の価格は、固定資産評価基準に定める評価方法に従って決定された価格が登録されたものであり、それとの均衡等を考慮すると、課税台帳に登録された価格のない不動産について、当該不動産に類似する不動産が存在しない場合にも、特段の事情がない限り、固定資産評価基準に定める評価方法に従って決定するのが相当であり、それによって決定した価額をもって、課税標準たる当該不動産の価額と推認することができるものと解される。当審判所における調査の結果においても、本件各土地に類似する不動産は存在しないから、本件各土地の登録免許税の課税標準たる価額は、本件各土地を固定資産評価基準に定める評価方法に則して算定した台帳価格相当額とすべきである。過誤納に係る部分は違法であるから、当該部分を取り消すべきである。【参照条文】登録免許税法第9条《課税標準及び税率》、第10条《不動産等の価額》、附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》登録免許税法施行令附則第3項固定資産評価基準第1章《土地》第1節《通則》一《土地の評価の基本》、第3節《宅地》一《宅地の評価》、別表第3《画地計算法》の2《画地の認定》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/05/26
航空会社等へ直接支払うものでないから、源泉徴収対象の対価又は報酬に含まれると判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】非居住者または外国法人が国内において行った人的役務提供事業(所属事務所などが所属者による人的役務を提供する)の対価又は人的役務の提供(本人が自己の役務を提供する)に対する報酬は、源泉徴収の対象となる国内源泉所得であり、支払者は、支払時に、原則として20.42%の税率で源泉徴収をして、翌月10日までに納付する義務がある。多くの租税条約は、その人的役務の提供に係る所得が国内の恒久的施設に帰属していなければ、免税扱いにしているが、芸能人や職業運動家(囲碁やチェス等競技者も含む)による役務提供は例外で、役務提供地課税になっている。そして、所得税基本通達161-19《旅費、滞在費等》(161-40《旅費、滞在費等》に準用)は、支払者が、旅費、滞在費等の名目で負担する費用について、それらが航空会社やホテル等へ直接支払われ、かつ、その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内のものであるときはこの限りでない、つまり源泉徴収対象である対価又は報酬に含めなくてよいとしている。本件の審査請求人は、海外から音楽家を招くにあたり、各相手(各支払先)から航空券代等に相当する金額(各金員)を請求されて支払ったが、源泉徴収をしていなかったため、納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を受け、それらは立替払いの実費精算にすぎず源泉徴収義務はないと主張した。国税不服審判所は、各通達の取扱いは相当であり、航空会社等へ直接支払いをしていないから、処分は適法と判断した事例である。(平成27年2月分から平成30年10月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税等の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分・棄却・令和3年1月14日裁決(非公開))【主な争点】本件各金員は国内源泉所得に該当し、支払の際に審査請求人に源泉徴収義務があるか。【裁決の要旨】所得税基本基通161-9《旅費、滞在費等》、161-40《旅費、滞在費等》の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。本件各金員は、審査請求人が海外の音楽家を公演のために日本に招く際に、当該音楽家の航空券代等に相当する額として本件各支払先から請求された金額を本件各支払先に支払ったものであり、海外の音楽家による日本国内での公演という人的役務の提供に要する費用を負担したものであると認められるから、本件各金員は、所得税法第161条《国内源泉所得》第1項第6号(人的役務提供事業の対価)又は同項第12号イ(人的役務の提供に対する報酬)に規定する、人的役務の提供の対価としての実質を有するものであり、国内源泉所得に該当する。そして、本件各金員は、審査請求人が、航空会社等に対して直接支払ったものではないから、所得税基本基通161-9、同161-40が定める源泉徴収をしなくて差し支えないものにはならない。以上のことから、本件各金員は、本件非居住者の国内源泉所得に該当し、審査請求人には、本件各金員の支払につき所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項に規定する源泉徴収義務があるというべきである。提出された証拠並びに当審判所の調査及び審理によっても、審査請求人が航空会社等に対して直接航空券代等に係る債務を負っていた事実は認められないから、本件各金員は、本件各支払先が審査請求人のために立替払したものであると認めることはできない。【参照条文】所得税法第161条《国内源泉所得》、第212条《源泉徴収義務》所得税法施行令第282条《人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲》所得税基本通達161-19《旅費、滞在費等》、161-40《旅費、滞在費等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/05/19
毎年多額の赤字を計上し続けた社会保険労務士の業務は雑所得であり、その損失は給与所得と通算されないと判断した事例(棄却)
【裁決のポイント】所得税法第27条第1項は、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定しているが、「事業」そのものの定義はしていない。事業該当性は、最高裁昭和56年4月24日判決(弁護士顧問料事件)が「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう」という基準を示してから、それらの要素を総合的に考慮し、社会通念に照らして、判断されてきている。審査請求人は開業10年余の社会保険労務士で、報酬を事業所得としていたが、必要経費が多額のため赤字で、A社ほか2か所からの給与所得の黒字と損益通算する申告書を毎年提出していた。税務署は、審査請求人の5年分の申告とA社でも調査を行い、客観的に事業として営まれていたとは認められないから雑所得に該当すると判断し、更正処分等を行った。国税不服審判所は、あらためて①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己の計算と危険における企画遂行性の有無、④費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥資金の調達方法、⑦職業、経歴及び社会的地位、⑧生活状況、⑨業務から相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性が存するか、を検討し、審査請求人の社労士業務は事業所得には当たらないと判断した事例である。(平成28年分ないし令和2年分所得税及び復興特別所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年6月16日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人の社労士業務から生じた所得は事業所得か雑所得か。【裁決の要旨】本件業務(相談業務)に係る各年分の売上金額から、本件業務の有償性及び反復継続性については認めることができる一方、必要経費は、売上金額に比して約7倍から13倍に相当する。このように多額の損失が連続して生じていることからすると、本件業務は、経済合理性に欠け、営利性は乏しいというべきである。審査請求人は、売上先が分かる書類や営業活動の内容を詳細に示す資料を作成していないことから、損失を改善する手段を講じていたということはできず、企画遂行性は希薄である。本件業務に係る必要経費の内訳には、通信費、広告宣伝費及び接待交際費の支出があることからすると、審査請求人は本件業務に精神的及び肉体的労力をある程度費やしていたともいえるが、本件業務に係る相談を受ける頻度が平均すると月に2回から3回程度、相談の時間は1回当たり1時間程度であるから、費やした精神的及び肉体的労力の程度は、必ずしも大きいものではない。審査請求人が人的設備(従業員を雇うこと)を有することなく1人で本件業務に従事していることが不自然ということはできない。審査請求人の生計は、A社からの給与収入によって賄うことができていた、審査請求人の事務所は自己学習等のために利用されているにすぎず、本件業務には相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するともいい難い。以上の点を総合的に考慮し、社会通念により判断すると、本件業務が自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということはできないから、本件業務から生じた所得は、事業所得には当たらず、雑所得に該当する。【参照条文】所得税法第27条《事業所得》、第35条《雑所得》、第69条《損益通算》所得税法施行令第63条《事業の範囲》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/05/12
新機械の購入契約の対価に、翌期に行われた旧機械の搬出費用は含まれていないから、新機械の検査合格引渡し日が課税仕入れの日と判断された事例(全部取消し)
【裁決のポイント】消費税法上の課税仕入れは、取引の相手方においては課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、消費税が免除されるもの以外のものに限られる。そして、消費税法上の資産の譲渡等とは、原則として、対価を得て行われるものであるから、無償で行われるものは、資産の譲渡等及び課税資産の譲渡等に該当せず(家事消費や法人役員への贈与は例外)、取引の相手方においては課税仕入れに当たらない。対価性があるかは、消費税課税の入り口にある判断ポイントである。3月決算法人の審査請求人は、A社と変圧器交換の契約を結び、新機械は3月下旬に納入され完了検査に合格したことから、税込54,864,000円を平成29年3月期の課税仕入れに含めて消費税申告をした。税務署は、取外した旧機械が翌期4月上旬にA社によって撤去・搬出されていたことから、課税仕入れの日は、契約がすべて履行された翌期4月とする更正処分、仮装行為があるとして重加算税賦課決定処分をした。国税不服審判所は、審査請求人とA社の契約は、対価を得て行われる新機械の納入と、無償で行われる不用品の引取りの2つから構成され、3月30日の検査合格をもって対価を得て行われる役務の提供をすべて受けたと判断し、処分を全て取り消した事例である。(平成28年2月から平成29年3月課税期間の消費税等に係る更正処分及び重加算税の賦課決定処分・全部取消し・令和1年6月10日裁決(非公開))【主な争点】新変圧器の支払い対価の額が課税仕入れに含まれるのは、新機械が検査合格して引き渡された平成29年3月期か、取外した旧機械が搬出された翌期か。【裁決の要旨】本件契約は、対価を得て行われる請負契約等と、無償で行われる発生品(不用品)等の引取りからなるものであり、旧変圧器の搬出が、契約上、対価を得て行われる役務の提供か、無償で行われる役務の提供かによって、消費税法上の課税仕入れに該当するか否かが異なることとなる。仕様書において、A社が無償で引き取る発生品等は、取り外した部品及び作業に伴い生じる発生品(履行に伴って発生する不用品)であるとされている。契約書等において、取り外された旧変圧器が発生品等に当たるか否かについての明確な記載はないものの、旧変圧器は、金属くずとして廃棄処分されていることからすると、作業に伴い生じる発生品に含まれるものと認められる。この点、審査請求人がA社から運搬終了後に産業廃棄物管理票の写しの送付を受けた事実は認められないことからすると、旧変圧器の搬出は、A社が、本件契約における発生品等の無償引取りに基づき履行したものと認められ、対価性がないことから、本件支払対価の額には旧変圧器の搬出に係る費用が含まれていないと認められる。本件条項において、契約書記載の物品が完了検査に合格したときに、物品の所有権はA社から審査請求人に引き渡されたものとするとされているから、完了検査を実施し合格とした平成29年3月30日、審査請求人は、A社が対価を得て行った役務の提供の全てを受けたものとなり、旧変圧器の搬出に係る費用が含まれていない本件支払対価の額は、同日の属する本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれることとなる。【参照条文】消費税法第2条《定義》、第30条《仕入れに係る消費税額の控除》廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/05/12
税務署が一方的に告げた功績倍率に基づき役員退職給与は一部損金不算入、過少申告加算税賦課決定処分は適法と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】法人が支給した役員退職給与の額のうち、法人税法第34条《役員給与の損金不算入》及び法人税法施行令第70条《過大な役員給与の額》に規定する「不相当に高額な部分の金額」の有無の判断には、いわゆる、功績倍率法(最終月額報酬×勤続年数×功績倍率)による算定金額が参考にされる。功績倍率には、同業類似法人の平均功績倍率、最高功績倍率があるが、いずれも法令の中に規定された数値ではない。平均功績倍率は、東京地裁昭和55年5月26日判決が示した「全上場1,603社の実態調査の結果から算出される功績倍率の平均が社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6」が一つの相場とされているものの、より大きい数値も認めた判決も、より低い値をデータ提供している書籍等もある。審査請求人は、前代表者へ支給した役員退職給与を全額損金に算入したところ、税務署が平均功績倍率法(500万円×30年×平均功績倍率2.04)を用いて、相当であると認められる額3億600万円を算定し、それを超える部分は「不相当に高額な部分の金額」で損金算入を認めない更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことから、税務署の算定方法は合理的でない、功績倍率を一方的に告げられ、過少申告加算税が課されることは納税者に甚だ酷で、課されない「正当な理由があると認められる」と主張した。国税不服審判所は、功績倍率を市販の書籍から調べることもできたとして、課税庁の処分を適法と判断した事例である。(平成30年2月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分、他・棄却・令和3年8月4日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人は、過少申告加算税が課されない「正当な理由があると認められる」場合に該当するか。【裁決の要旨】例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年10月24日判決)。確かに、功績倍率は、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況等を比較する場合の方法の一つである功績倍率法に不可欠な係数であるものの、法令等に定められたものではなく、審査請求人の主張するように課税当局において納税者にあらかじめ明示されているものではない。しかしながら、申告納税制度の下における法人税及び地方法人税の確定申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるべきであり、功績倍率があらかじめ納税者に明示されていないことを理由に、納税者が適正申告すべき義務を免れるものではない。そして、功績倍率については、業種別の功績倍率を記載した書籍が市販されているなど、審査請求人は、自らこのような書籍等から調べることも可能であったにもかかわらず、自らの判断と責任においてそれを行わず、本件退職給与の全額を損金の額に算入して申告をしたのであるから、審査請求人の主張する諸事情は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情とはいえず、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるということはできない。【参照条文】国税通則法第65条《過少申告加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/28
4つの事項に照らして、出来高払いの給与であるという審査請求人の主張を認めなかった事例(棄却)
【裁決のポイント】消費税法は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に消費税を課するとし、消費税法基本通達1-1-1《個人事業者と給与所得者の区分》は、個人の行う役務の提供が、事業者によるものか給与所得者によるものかの判断は、当該役務の提供の基礎となった契約を基に行うこと、さらに、契約形態が明らかでない場合には、契約内容について、当該役務の提供にあたって指揮監督の有無など4つの事項に照らして判断することを示している。本件の審査請求人は損害保険会社の営業職員で、会社には営業職員就業規則があり、直販社員給与規則及び直販社員給与適用上の細則に基づき、審査請求人に役務の提供の対価(本件対価)が支払われた。税務署は審査請求人の役務提供は消費税法上の「事業」に該当するとして消費税の無申告に対して処分を行った。審査請求人は「出来高払いの給与所得者である」と主張した。なお、会社の本件対価の経理処理は課税仕入れであった。国税不服審判所は、本件対価が出来高払の給与か、請負あるいは委任による報酬(事業)かについて、上記の基本通達1-1-1に沿って、審査請求人が損害保険会社の指揮監督の有無などを総合勘案し、事業に該当すると判断し、請求を棄却した事例である。(平成29年、平成30年、令和3年の消費税等の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分他・棄却・令和5年6月13日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人の役務の提供は、消費税法上の「事業」に該当するか【裁決の要旨】(1)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるか審査請求人は、所属している本件損害保険会社に出勤することなく、保険契約の募集については、所属上長の指示や許可によらず自らの責任と判断で決定しており、所得上長は報告を求めることはなかったことからすると、役務の提供に当たり損害保険会社の指揮監督を受けていたとは認められない。(2)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているか接待交際費、販売促進費並びに審査請求人の事務補助社員の給与及び通勤費等は全て審査請求人が負担していることから、役務の提供に係る材料又は用具等を本件損害保険会社から供与されていたとは認められない。(3)既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるか審査請求人は取り消された保険契約に係る報酬を得ることはできない。そうすると、審査請求人は、既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるとはいえない。(4)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるか審査請求人が選任した他の営業職員又は社員に審査請求人の業務を行わせる場合があることから、審査請求人の役務の提供の内容は他人の代替を容れるものであると認められる。以上のとおり、上記の事項に係る事情を総合勘案したところ、本件対価は請負あるいは委任による報酬と認められるから、請求人の役務の提供は消費税法上の「事業」に該当する。消費税法上の「事業」に該当するか否かは、消費税法の各規定やその趣旨に従って判断すべきであるから、各社会保険料が課されていること及び審査請求人が労働組合法上の営業職員労働組合に加入している各事実は、当審判所の判断を左右するものではない。【参照条文】消費税法第2条《定義》、第4条《課税の対象》、第5条《納税義務者》消費税法基本通達1-1-1《個人事業者と給与所得者の区分》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/21
「代表者親族へ会社所有車を無償貸与」「代表者親族や知人の健康診断料を会社で負担」「代表者への現金交付を帳簿に記載していない」(一部取消し)
【裁決のポイント】国税通則法第68条第1項にいう「事実」を「隠蔽」するとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏することをいい、「事実」を「仮装」するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解される。本件の審査請求人は税務調査で指摘を受け、修正申告等に応じたが、(1)従業員ではない代表者親族が会社の車を無料で使っており使用料相当額の収入計上漏れがあった、(2)取締役(代表者の妻)の親族や知人に、労働安全衛生法上の義務として会社が従業員に受診させる健康診断を受診させ、福利厚生費として損金計上した、(3)現金不足の原因は代表者への現金交付であるが帳簿に記載しなかった、ことに「仮装・隠ぺい」があるとして重加算税が課されたことから、取消しを求めて審査請求を行った。国税審判所は、(1)使用料相当額がないことが真実であるかのように装ったとはいえない、(2)請求人の従業員のための健康診断その他必要な費用であるかのように装って帳簿書類に記載したといえる、(3)源泉徴収の対象となる代表者への賞与に該当する支払い事実を隠した、と判断して、(1)について課された重加算税の賦課決定処分を取消した事例である。(平成29年5月期から令和3年5月期までの各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分、平成27年5月他の各月分の源泉徴収に係る所得税等の重加算税の各賦課決定処分他・一部取消し、棄却・令和5年6月1日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人に、重加算税を課す「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められるか。【裁決の要旨】(1)本件使用料相当額の計上漏れについて審査請求人と本件使用者(代表者親族)又はA取締役(代表者の妻)との間では本件使用者が本件車両を使用する合意があった一方で、その使用に伴う使用料について何ら具体的な取り決めをしていなかったと認められるから、本件車両は無償で貸借されていたと認められるものの、それ以上に、審査請求人が本件使用料相当額を収入として計上しなければならないことを認識しながら、あえて使用料について取り決めをせずに貸与し、本件使用料相当額の請求やその収入計上を行わなかったとまでは認める証拠はない。審査請求人には、本件使用料相当額を隠蔽し、あるいは故意に脱漏するといったことや、あたかも、本件使用料相当額がないことが真実であるかのように装うといったことがあったとはいえないから、審査請求人に「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。(2)本件健康診断料について事業者たる審査請求人に義務付けられている健康診断の対象は、その使用する労働者すなわち審査請求人の従業員である。審査請求人が、従業員ではない者らを請求人が健康診断を受診させる必要がある従業員であるかのように装って、健康診断を受診させた上、その費用である本件健康診断料について、審査請求人が負担すべき従業員のための健康診断その他必要な費用であるかのように装って帳簿書類に記載したものといえるから、審査請求人には、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。(3)本件現金不足額について審査請求人は、長年にわたり事業を営み、代表者も長年にわたり務めていたのであるから、審査請求人の現金を代表者に交付をする際は帳簿書類に記録をすべきであることは、当然認識していたはずであるところ、代表者に現金を交付した事実を帳簿書類に記録せず、残存しない現金を帳簿書類に載せ続けることで代表者に対する給与等の支払の事実を隠蔽したといえるから、審査請求人には、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる(源泉所得税への重加算税)。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/14
「偽りその他不正な行為」の要件も満たすとして、7年分について重加算税の処分がなされた事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告を依頼した者による隠ぺい・仮装行為について、納税者がどこまで責任を負うべきかは、納税者とその者との関係、隠ぺい・仮装行為に対する納税者の認識の可能性、納税者の黙認の有無、納税者の払った注意の程度などに照らして、事案ごとに判断される。本件は、P法人の理事長である審査請求人の母が、審査請求人がP法人に寄附をしたという内容虚偽の領収書を作成して審査請求人に寄附金控除を適用して行った所得税申告について、税務署が、母の仮装行為は審査請求人の仮装行為と認められるとして重加算税を課し、その処分の対象期間を通常の5年分でなく7年分とさらに重くしたことから、審査請求人は、母の長年の勘違いで悪意はなかった等と主張した。国税不服審判所は、税務署の処分を適法と判断した事例である。(平成26年分及び平成27年分の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、平成28年分ないし令和2年分の重加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年2月1日(非公開))【主な争点】(争点1)審査請求人に重加算税が課される「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか(国税通則法第68条第1項)、(争点2)審査請求人に更正決定等をすることができる期間を7年にできる「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか(国税通則法第70条第5項)。【裁決の要旨】(争点1)母が内容虚偽の本件各領収書を作成したことは、審査請求人があたかも、本件各年分においてP法人に対し寄附金を支出し、それをP法人が受領したことが真実であるかのように装い、故意に事実をわい曲したもので、「仮装」行為に該当する。審査請求人は、母に対し、本件各年分の所得税等の確定申告について、各確定申告書の作成及び提出を委任していたことから、母の行為は、審査請求人の行為と認められる。母は、(借入金によってP法人に寄附をした父の借入金返済を審査請求人が実質的に負担しているからと)単純な間違いを長年繰り返していたものであり、悪意があって作成したものではないという審査請求人の主張には理由がない。(争点2)国税通則法第70条第5項は、偽りその他不正の行為によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合にこれに対して適正な課税を行うことができるよう、より長期の除斥期間(この期間を過ぎると処分ができない)を規定したものであり、同項にいう「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解される。審査請求人の行為は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為と認められ、「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえる。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》、第70条《国税の更正、決定等の期間制限》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/07
権限なく行われた申告であるが、納税者本人が追認したと認められるから、当該申告は有効と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告は、原則として納税義務者本人が申告書を提出して行うこととされているから(国税通則法第17条等)、他人が、本人の承諾なく納税義務者の申告書を作成し、提出した場合には、その納税申告は無効である。もっとも、その他人が、本人から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合、また民法第113条《無権代理》第1項より、本人が当該納税申告を追認した場合には、当該納税申告は有効になると解される。本件の審査請求人は、知人Aから仕事の登録に必要であると言われ、銀行情報や個人情報を渡すと、Aは国税庁HPの申告書作成コーナーから審査請求人の5年分の所得税還付申告書を作成して提出し、振り込まれた還付金を自分の口座へ移した。審査請求人は税務署から還付金振込通知書が届いた時にAに異議を述べることも、税務署へ問い合わせすることもなく放置したが、税務調査を受け、修正申告をしなかったために更正処分、過少申告加算税賦課決定処分がなされたので、他人によるなりすましの納税申告は無効であると主張して処分の取消しを求めた。国税不服審判所は、審査請求人はAに明示又は黙示に各申告をする権限を与えられていたとは認められないが、各申告を黙示に追認していたと認められるから、各申告は有効となり、税務署長の《更正》の前提となる「納税申告書の提出があった場合」に該当すると判断した。(平成28年分から令和2年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和6年4月15日裁決)【主な争点】知人Aによる本件各申告書の提出は、有効で、国税通則法第24条《更正》に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当するか。【裁決の要旨】1)Aに対する明示の権限の授与があったか本件各申告に関して、審査請求人とAとの間で何らかのやり取りがされていたことを示す証拠は見当たらないから、認めることはできない。2)Aに対する黙示の権限の授与があったか審査請求人が、当初から申告に利用されることを知ったうえで、審査請求人名義の預金口座の利用や本人確認書類として運転免許証の写真撮影を許諾したと認めることはできない。3)Aの申告を事後的に容認、追認していたか審査請求人が本件各申告書の提出を知った時期は、その主張どおり、還付金振込通知書を受領した時及び調査担当職員による質問検査の時であると認められる。しかし、還付金振込通知書を受け取り、不正に還付金を受領することになることも認識していたにもかかわらず、原処分庁に問い合わせず、Aに異議を述べずに事態を放置したこと、父の指示を受けるまで預金口座を解約しなかったことは、審査請求人が、Aによる本件各申告について、事後的に容認していたことを示すものであるということができる。審査請求人がAに対し明示又は黙示に本件各申告をする権限を与えていたとは認められないが、審査請求人は、権限なくされたAによる本件各申告を本件各申告書が提出された後に追認したといえるから、本件各申告は有効となり、Aによる本件各申告書の提出は、国税通則法第24条《更正》に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当する。警察に相談した事実は納税申告の追認より後であるから、追認があったとの認定を覆すまでの事情でもない。【参照条文】国税通則法第17条《期限内申告》、第24条《更正》、第65条《過少申告加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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