税金ワンポイント
税務に関するニュースの中でも、注目度の高いトピックスを取り上げ紹介していく税金ワンポイント。主要な改正情報はもちろん、税務上、判断に迷いやすい税金実務のポイントを毎週お届けします。速報性の高い、タイムリーな情報を皆様の実務にお役立てください。
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2025/11/17
非居住者の令和7年度税制改正対応
既報のとおり、令和7年度税制改正により、所得税の基礎控除額は現行の48万円から58万円へと引き上げられるとともに、所得水準に応じて最大37万円が加算される新たな仕組みが導入される。また、親族関係等に応じて控除を拡充する「特定親族特別控除」も創設された。これらの制度改正は、居住者を前提とした制度であるため、年の途中で出国し非居住者になる者や日本において申告が必要な非居住者については、その適用に特段の注意が必要である。1年の途中で海外勤務等により非居住者となる場合令和7年11月30日以前に国外転出し、日本国内に住所または居所を有しなくなると、その日以後は非居住者となる。この場合、出国時点では税制改正の施行前であるため、年末調整において改正後の控除額を適用することはできない。したがって、改正後の控除額を適用するためには、次のいずれかの方法により対応する必要がある。出国時までに準確定申告書を提出した場合令和7年12月1日から令和12年12月2日までに更正の請求を行う。上記⑴以外の場合令和7年12月1日以後に準確定申告書等を提出する。なお、納税管理人の選任届出書の提出を行って国内に住所等を有しないこととなった者は、「年の中途で出国をする場合の確定申告」に係る準確定申告を行うことはできない。この場合は、通常の確定申告と同様の方法によることとなる。また、確定申告義務がある者は、国内に住所等を有しなくなる時までに準確定申告書又は納税管理人の選任届出書の提出をする必要があることに留意する。2非居住者の基礎控除額非居住者であっても、日本国内において不動産賃貸等の国内源泉所得を有し、納税管理人を通じて確定申告を行う場合には、基礎控除の適用が認められる。この場合の基礎控除額は改正後の上限額58万円(合計所得金額2,350万円以下の場合)である。所得水準に応じて最大37万円を上乗せする特例については、居住者のみを対象とするため非居住者は適用対象外となる。なお、年の途中で非居住者となった場合には、非居住者となる前の居住者期間を有するため、納税管理人を通じて確定申告を行う場合、合計所得金額に応じて上乗せ特例が適用されることに留意する。(参考)令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&Ahttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025005-051.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/11/17
税理士は税務調査を拒否できるのか
税務調査は、納税者に質問検査権への受忍義務を課すものであり(国税通則法第74条の2)、正当な理由なく拒否することはできない。調査の妨害や拒否は、同法第127条の罰則の対象となる場合もある。では、税理士が代理人として調査を拒否した場合、その行為はどのように評価されるのか。本件の判断を示すものとして、令和元年11月21日東京地裁判決(税務訴訟資料第269-120、順号13343)(注1)および令和2年12月24日東京高裁判決(順号13441)(注2)がある。国税当局が無予告で遊技場を経営する法人の事務センターに臨場した際、税理士は「事前通知がなく違法である」と主張し、調査への協力を拒否した。さらに、国税通則法第74条の10の適用根拠を文書で回答するよう求め、回答がない限り調査に応じないとした。調査官が敷地内に入ろうとすると「職権乱用・不法侵入の可能性がある」として退去を求めるなど帳簿の提示を拒み続けた結果、消費税の仕入税額控除が否認された。国税通則法第74条の10は、事前通知を要しない場合を定めた規定であり、無予告調査は法に基づく正当な手続である。事前通知省略の理由を文書で説明すべき法的義務もなく、事前通知がないことを理由に調査を拒否することは許されない。やむを得ない事情がある場合は日程調整を申し出るなど、冷静な協議による対応が求められる。本件では、調査担当者が繰り返し対応を求めたにもかかわらず、納税者に応じ難い合理的理由はなかったと認定され、帳簿を調査官が閲覧できる状態で保存していなかったとして、消費税法第30条第7項にいう「帳簿等を保存しない場合」に該当すると判断された。帳簿の存在そのものではなく、「提示可能な保存状態」にあるかどうかが問われた。納税者は「税理士の指導に従っただけ」と主張したが、裁判所はこれを退けた。帳簿の保存・提示は、申告納税制度における事業者自身の義務であり、税理士の誤った判断に依存しても免責されないとされた。もし税理士が当初から調査に協力し、納税者にも誠実な対応を促していれば、控除否認という結果は避けられた可能性が高い。本件は、税理士法第1条に定める「納税義務の適正な実現」という使命を改めて問い直すものである。調査への協力は、依頼者の権利を守るための行為であり、拒否は依頼者に深刻な不利益をもたらす。税理士は、法令を的確に理解し、依頼者の利益を長期的視点で守る判断が求められる。<注釈>https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2019/pdf/13343.pdfhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2020/pdf/13441.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/11/10
令和7年分年末調整における改正点と実務上の留意事項
令和7年分の年末調整では、基礎控除および給与所得控除の引き上げ、ならびに「特定親族特別控除」の創設が大きな改正点となっている(注1)。これらの改正により、年末調整事務は例年以上に確認作業が増加し、扶養控除等申告書の再提出や新たな申告書の提出が必要となる場合があるため、早期の準備が求められる。また、これらの改正は令和7年12月1日施行であるため、12月1日以降に行う年末調整から適用される点にも注意が必要である。まず、基礎控除は従来の一律48万円から段階的な控除制度に改められ、合計所得金額に応じて58万円から95万円の範囲で適用されることとなった。これに連動して、扶養控除や配偶者控除の所得上限も48万円から58万円に引き上げられている。さらに、給与所得控除の最低保障額も55万円から65万円に引き上げられ、全体として所得控除体系の見直しが図られている。次に、新たに設けられた「特定親族特別控除」であるが、これは学生世代などの若年層を扶養する家庭を支援する目的で設けられたものである。特定親族を有する場合、その特定親族の合計所得金額に応じて最大63万円を控除することができる。特定親族とは、次の3つの要件をすべて満たす者をいう。19歳以上23歳未満であること納税者と生計を一にする親族であること合計所得金額が58万円超123万円以下であること年末調整において、従業員が特定親族特別控除の適用を受ける場合は、「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼給与所得者の特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書(注2)」を勤務先に提出する必要がある。原則として令和7年12月1日以後、最初に給与の支払いを受ける日の前日までに提出することとなっているが、年末調整に間に合わない場合も想定されるため、12月1日以前に提出しても差し支えないとされている(注3)。また、国税庁が公表した新しい源泉徴収簿の様式では、特定親族に関する記載欄が余白欄に追加されている。しかし、使用している給与計算ソフトが改正内容に対応していない場合もあるため、その際には余白欄に控除額を手書きで記載するなどの実務対応が求められる(注4)。改正に伴う注意点としては、扶養親族の所得要件引上げにより、新たに控除対象となるケースが生じ、扶養控除申告書の再提出が必要となる可能性が挙げられる。また、申告書に記載された所得の見積額が実際とは異なっていた場合や、他の所得者との重複控除が判明した場合には、年末調整のやり直しや確定申告での是正が必要となる。そのため、従業員への周知と記載内容の確認を早期に行う体制づくりが必須である。<注釈>https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index.htmhttps://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/2025bun_06.pdfhttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025005-051.pdfhttps://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/2025bun_03.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/11/10
令和7年度税制改正に伴う準確定申告の実務対応
令和7年度税制改正により、所得税の基礎控除額は現行の48万円が58万円に引き上げられ、さらに所得水準に応じて最大37万円が加算される仕組みが導入された。施行日は令和7年12月1日であり、この日を境に税の取扱いが異なることとなるため、それ以前に準確定申告を行った場合には注意が必要である。令和7年11月30日以前に行った準確定申告については、改正前の基礎控除額を適用して計算することとなる。改正後の控除を適用したい場合には、令和7年12月1日から令和12年12月2日までの間に「更正の請求」を行う必要がある。更正の請求は、通常、法定申告期限から5年以内に行うことができるが、今回の改正では、国税庁が特例的にその期限を「令和12年12月2日まで」と明示しており、期限を過ぎた場合は改正後の控除を適用できない点に留意する。なお、法定申告期限が未到来の場合には、更正の請求ではなく訂正申告による対応が可能である。一方、令和7年12月1日以降に提出する準確定申告については、改正後の基礎控除および特定親族特別控除の適用が可能となる。ただし、当面は改正後の新様式が整備されていないため、実務上は旧様式(令和6年分の確定申告書)を使用することとなる。e-Taxソフトの仕様も同様であり、改修が完了するまでの間は暫定的な入力方法が示されている。具体的には、「基礎控除」欄を空欄とし、「雑損控除」欄に改正後の基礎控除額を入力する。雑損控除を併用する場合は、基礎控除額と雑損控除額の合計額を「雑損控除」欄に入力する。いずれの場合も、送信票の特記事項欄に「基礎控除額○○円」「雑損控除額○○円」などと明示することが求められる。また、同日以降は「特定親族特別控除」の適用も可能となる。書面による申告の場合には、第一表の「扶養控除」欄の項目名を抹消し、余白に「特定親族特別控除」と記載して金額を記入する。扶養控除もある場合は、「扶養控除」欄の項目名を抹消することなく、同欄の金額欄を二段書きとし、上段に「扶養控除額」、下段に「特定親族特別控除額」を記載する。e-Taxを利用する場合は、扶養控除欄に特定親族特別控除額を入力し、扶養控除もある場合は、両金額の合計額を入力する。また、送信票の特記事項欄に「扶養控除額○○円」「特定親族特別控除額○○円」などと明示することが求められる。改正前後の具体的な取扱いについては、国税庁の「令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A」設問7-1から7-4を参照されたい(注1)。<注釈>https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025005-051.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/10/27
2割特例終了後、簡易課税の選択では事業区分に注意
インボイス制度導入に伴い設けられた「2割特例」は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの課税期間に限って適用される臨時的な制度であり、令和8年9月末で終了する。終了後は、本則課税または簡易課税制度のいずれかを選択する必要があるが、簡易課税を選ぶ場合には事業区分の判定に注意が必要である。簡易課税制度では、課税売上ごとに第1種から第6種までの事業区分を判断し、それぞれに定められた「みなし仕入率」に基づいて納税額を計算する仕組みとなっている(注1)。たとえば、第1種(卸売業)はみなし仕入率90%、第5種(サービス業)は50%となっており、事業の実態に合わない区分で申告した場合は、税務署から更正処分を受ける可能性がある。実際に、福岡地方裁判所令和3年7月14日判決(令和元年(行ウ)第12号)では、簡易課税制度の事業区分が争点となった(注2)。ショッピングセンター内でうどん店コーナーを運営していた事業者が、自身の業務を第4種事業(飲食業)として申告したところ、税務署は第5種事業(サービス業)に該当すると判断し、更正処分を行った。事業者は、店舗での運営業務を受託し「営業委託料」を受け取っていたが、原材料費や店舗費用を負担していなかった。裁判所は、事業者が「飲食物を自ら提供する飲食店業」ではなく、「人的役務の提供を行うサービス業」に該当すると判断したのである。つまり、売上が店舗事業者に帰属せず、委託者に計上される仕組みでは、簡易課税上は飲食店業とはみなされないことが明確にされた。同様に、建設業でも区分誤りがしばしば問題となる。たとえば、材料の支給がある請負工事は第3種に該当するが、材料の支給がない場合は第4種とされる。しかし、実務ではこの区分を誤り、第3種として申告してしまう例が少なくない。また、工事によって材料の支給があるものとないものが混在する場合に、売上全体を一律に処理してしまうケースも見られる。こうした誤区分は、税務調査で頻繁に指摘されるポイントである。簡易課税制度を一度選択すると、原則として2年間は継続適用が義務づけられる。区分の判断は、業種名や商慣行ではなく、実際の取引形態とリスク負担の実態に基づいて行わなければならない。2割特例終了後に簡易課税制度を選択する場合には、必要に応じて税理士などの専門家と相談してから届出を行うことが重要である。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htmhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2021/pdf/13587.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/10/20
国税滞納から差押えまで
税金は、原則として定められた納期限までに完納することが求められる。しかし、資金繰りの悪化などから納付が困難となり、滞納に至ることも少なくない。国税を滞納すると、どのような流れで差押えに至るのか、その仕組みと実務上の対応について解説する。国税は、申告や更正、決定によって納付額が確定した時点で法定納期限が定まり、延滞税は納期限の翌日から発生する(注1)。したがって、納期限を一日でも過ぎれば、その税は「滞納」として扱われ、税務署のシステムで直ちに管理される。滞納が発生すると、税務署長は督促状を発送しなければならず、この督促状は納期限から50日以内に送付される。そして、督促状の発送日から起算して10日を経過すると、差押えが可能となる。ただし実際には、督促状が届いた段階で即座に差押えに進むことは稀であり、まずは税務署職員による電話や訪問といった「催告」が行われる。近年では集中電話催告センターが設けられ、さらにAIを用いて、効果的・効率的に滞納者に接触している。催告にも応じない場合には、税務署は質問検査権を行使し、動産・不動産・預金・給与などの財産調査を行い、差押えに着手する(注2)。必要に応じて強制的な捜索も可能であり、この場合は令状を必要としない。実質的に滞納者に帰属する財産であれば、名義の如何を問わず差押え対象となる。ただし給与や年金には差押禁止範囲が定められており、生活に必要不可欠な部分は保護される。差押えられた財産が金銭以外の場合には公売に付され、その換価代金は滞納税額に充当されたうえで、余剰があれば滞納者に返還される。一方で、国税には分割納付や猶予、減免、延納といった納税緩和制度が用意されており、生活や事業継続への配慮もなされている。また、超過差押えや無益な差押えは禁止されており、必要以上に滞納者の生活や事業を圧迫することは許されない。差押えを避けるためには、滞納が生じた段階で速やかに税務署に相談し、分割払いや猶予・免除・延納制度の活用を図ることが極めて重要である。さらに、滞納処分の各手続、すなわち差押え・換価・配当はそれぞれ独立した行政処分であり、納税者は各段階ごとに不服申立てや訴訟による救済を受けることができる。滞納に陥ったとしても、制度的な手続と救済策が存在することを理解し、適切に対応することが望ましい。<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9205.htmhttps://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/tainoshobun/03/01/21.htm提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/10/20
住宅ローン控除における「調書方式」導入と年末調整への影響
本年の年末調整から、住宅ローン控除の手続に「調書方式」が初めて導入される(注1)。従来の証明書方式とは異なり、マイナポータルを通じて年末残高情報を取得する仕組みが基本となるため、従業員がこの方式で控除を受ける場合、勤務先の担当者は制度の流れを理解しておく必要がある。この調書方式は、令和4年度税制改正により導入が決まったものである。借入先の金融機関等が税務署に年末残高の情報を提供し、国税当局がその情報をマイナポータルを通じて納税者本人に提供する方式であり、従来と異なり、金融機関から書面の年末残高等証明書は交付されない。対象となるのは令和6年1月以降に住宅に居住した納税者である。現時点では、システム対応が完了していない金融機関もあり、対応状況によって年末調整の方法が異なる。対応済の金融機関等からの借入については、納税者はマイナポータルを通じてデータを確認し、そのデータを用いて確定申告や年末調整を行うこととなる。一方、未対応の金融機関等については、従来の証明書方式で対応することになる。給与所得者が住宅ローン控除の適用を受けるためには、初年度は確定申告を行う必要がある。2年目以降は税務署から送付される「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書(以下、「住宅ローン控除証明書」という)を勤務先に提出し、年末調整により控除を受ける。調書方式の場合は、e-Taxのメッセージボックスに住宅ローン控除証明書が格納される。この住宅ローン控除証明書には、「住宅借入金等の年末残高に関する事項」および「控除見込み額」が記載されているので、年末調整では、この住宅ローン控除証明書のみを勤務先に提出すればよい。また、調書方式であっても、納税者が初年度の確定申告において2年目以降の住宅ローン控除証明書を「書面交付」で希望した場合には、2年目以降の適用期間に係る住宅ローン控除証明書がまとめて送付される。この場合、金融機関等から交付される住宅ローン返済計画表等を元に控除額の計算を行うこととなる。今後は、住宅ローン控除の適用にあたりマイナポータルとe-Taxの利用が基本となる。納税者はマイナンバーカードの取得、e-Taxの利用者識別番号の取得および連携設定を済ませておくことが重要である。参考住宅取得資金に係る借入金等の年末残高等情報のマイナポータル連携に関するFAQhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kakutei/pdf/0024012-098.pdf<注釈>https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/jutaku/index.htm提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/10/06
脱税加担の教訓
税理士法第1条は、税理士の使命は「独立した公正な立場」に基づく業務遂行であるとしている。これは、依頼者に過度に迎合せず、税法の適正な適用を支援する専門家としての在り方を明示したものである。しかし現実には、一部の税理士が脱税に加担する事例が存在し、依頼者を法的リスクに晒すだけでなく、税理士制度全体の信頼を損なう重大な問題となっている。国税庁が公表した「令和6年度査察の概要」においても、税理士が脱税請負人として摘発された事例が紹介されている(注1)。税理士Bは、顧問先法人2社に対して脱税を指南し、架空外注費等を計上する方法で所得金額を過少申告させ、法人税等を免れさせた。そして、その見返りとして、脱税手数料を受領していた。このように、税理士が自ら不正の構造を設計し、依頼者と共謀して不正を行う事案は、税理士法の理念を根底から踏みにじる行為である。また、平成21年11月5日名古屋地裁判決(税務訴訟資料第259号193頁順号11306)(注2)も、税理士が別会社を利用した架空外注費の計上に深く関与した事案である。原告は別会社を次々に設立し、消費税の免税点制度を繰り返し利用し、課税を免れようとした。その過程で税理士は原告代表者から不正経理の相談に応じ、税務調査では「ペーパーカンパニーではないか」との指摘に対し「実態のある会社である」と虚偽の説明を行った。さらに原告代表者と共に取引先との利益配分を遡って修正し、不正に深く関与していたことが明らかになっている。これらの行為は、税理士の本来あるべき独立性や職業倫理に真っ向から反するものである。独立した公正性を失えば、依頼者に短期的な利益をもたらすように見えても、最終的には追徴課税や刑事責任という深刻な結果を招く。加担した税理士自身も懲戒や社会的信用の失墜を免れない。税理士は、公平な課税を支える専門家としての立場を見失しなうことなく、税理士制度への信頼を守る行動が不可欠である。<注釈>https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sasatsu/r06_sasatsu.pdfhttps://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2009/pdf/11306.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/09/29
課税庁も誤った「損金経理」
損金経理は法人税実務において、単なる帳簿記載ではなく法人の意思を決算に反映させる行為である。その解釈を誤れば大きな課税リスクにつながるが、令和5年1月11日の大阪地裁判決(注1)は、課税庁ですら判断を誤る現実を示した事例であった。法人税法22条4項は「一般に公正妥当と認められる会計処理」を求め、施行令133条は少額減価償却資産の損金算入に「損金経理」を要件としている。ここで重要なのは、損金経理が単なる記帳行為ではなく、法人が意思をもって決算に費用を組み込む行為である点である。すなわち、株主総会の承認と決算書への反映を通じて意思決定が客観化されていなければならない。本件の原告は食品加工業者であり、運搬用コンテナをめぐって課税庁と争った。原告は費用平準化を目的として、未納品のコンテナについて、相手先に架空の納入伝票を作成させ、その伝票に基づき費用計上を行った。代金は「預け金」として相手先にプールし、実際の納品時にはそこから支払を行ったが、納品書や送り状は破棄され、経理処理も行われなかった。課税庁はこれを「架空計上で損金経理の要件を満たさない」と判断し、更正処分と重加算税を賦課した。コンテナについては、繰り返し使用される性質から消耗品ではなく減価償却資産に該当するとし、損金経理要件も欠いていたと主張した。これに対し原告は、「安価で劣化が早く、消耗品に近い性質がある」と反論したが、裁判所は使用実態からコンテナを減価償却資産と判断し、損金経理がなされていない以上、損金算入は認められないと結論づけた。この事件で特に注目すべきは、裁判所が課税庁の処理についても「本来的には誤り」があったと指摘した点である。本来なら損金経理要件を満たさず損金算入できないところ、課税庁は一部で納入伝票と実際の納品が一致した場合には損金を認めるなど、納税者に有利な取扱いを行っていた。しかし、法令上の要件を欠いている以上、これは「誤った処理」だったと裁判所は明言した。最終的に課税庁の処分は維持されたものの、その理由は「課税庁自身も法解釈を誤ったが、それでも納税者に不利益はないから処分は違法ではない」というものであった。課税庁ですら法解釈を誤る現実を本件は明らかにしており、損金経理の厳格な要件と実務におけるリスクを改めて認識させる判決といえる。<注釈>令和5年1月11日大阪地裁判決(税務訴訟資料第273号(順号13799))https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2023/pdf/13799.pdf提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/09/22
所得税法38条と減価償却資産
所得税法第38条第2項は、譲渡所得の計算において「使用又は期間の経過により減価する資産」については、その取得費から減価の額を控除すると定めている。この規定の趣旨は、資産の価値が時間の経過や使用に伴って減少する性質を前提に、その減少分を概括的に取得費から控除し、課税の公平性と計算の簡便性を確保する点にある。そこで問題になるのが、市場価値が下落せず、むしろ上昇する傾向にある資産の扱いである。この点に関連して注目されるのが、令和5年3月9日の東京地方裁判所判決(注1)である。この事件では、納税者がフェラーリF50(生産台数349台、取得価額約5,390万円、譲渡価額1億3,500万円)など希少性の高いスーパーカー4台を所有していた。国は、これらの車両を減価償却資産であるとしたが、原告は希少性により価値が減少しない資産であるとして、取得費から減価の額を控除することは不当であると主張した。特に、ストラディバリウスが減価償却資産として扱われない実例を挙げ、同様の取扱いを求めた。しかし裁判所は、美的評価や希少性が価格に影響する高級車であっても、自動車の本来の効用は「人や物を乗せ、原動機の動力によって車輪を回転させて路上を走ること」であり、経年や使用による機能劣化は不可避であることから、自動車は原則として減価償却資産に該当すると判断した。「時の経過によりその価値の減少しない」資産として扱われる可能性については、基本通達2-14(注2、3)を参照しつつ、「骨とう」「古美術品、古文書、出土品、遺物等」に類似する程度の長期間を経てもなお高い価値を維持している場合に限定され、本件フェラーリについては、製造から18年ないし24年程度しか経過しておらず、「骨とう」といえるほどの長期間にわたり価値を維持しているとはいえないと判断された。原告が引用したストラディバリウスについても、「200年以上にわたり一流のヴァイオリンとしてその価値が社会通念上も確立している」点で本件車両とは本質的に異なると裁判所は判断した。本判決は、「市場価値が下落せず、むしろ上昇する傾向にある資産」であっても、その市場動向にかかわらず、税法上は資産の本質的性質に基づいて減価償却資産か否かを判断すべきであることを明確に示したものである。高級車など希少性により価格が上昇する資産を保有する納税者は、本判決の論理を踏まえた適切な取扱いが求められる。<注釈>https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2023/pdf/13827.pdfhttps://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/01/04.htmhttps://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/bijutsuhin_FAQ/index.htm提供:株式会社日本ビジネスプラン
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