経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2026/07/31 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】中小企業経営力強化税制の概要紹介と地方公共団体の補助金のご紹介をいたします。近くまた金利が上がると言われています。融資残高のある企業には直接コスト負担が乗ってきます。それにも関わらず金融機関の融資姿勢はおおむね絞られつつあり、新しい融資資金の調達はそう簡単ではなくなりつつあります。社会保険料や税金等もスムーズに軽減される見通しは明るくなく、消費税率の軽減も食品等のみと言われています。そのことで打撃を受ける業種もあるといわれています。重税感の結果税収は上振れしてきました。しかし税金の余剰をクイックに還元調整する動きも見られていません。私が取り上げてきている補助金も、申請の難解さ煩雑さに加え、補助金予算の大半が委託先に支払われていることで(持続化給付金の件で公正取引委員会が調査)グレー感が強くなっています。これまでは、経済産業省の企業向け補助金についてレポートしてきましたが、補助金は地方公共団体でも出されています。企業と個人両方が受給できるものもあります。今回は少し補助金の視野を広げてご紹介しています。(1)2026年度の経済産業省の企業向け補助金傾向「デジタル化・AI導入」「省力化・省エネ投資」「住宅の断熱改修」を強力に支援する補助金が中心です。特に賃上げと生産性向上を目的とした設備投資に対するサポートに重点が置かれています。補助金の課題は申請の難解さ煩雑さ、採択率でしたが、それを懸念される企業では、「中小企業経営力強化税制」による即時償却を活用し、法人税を軽減する手段が多く使われています。(2)中小企業経営力強化税制特色のひとつに「ソフトウエアの導入投資」の一括即時償却があります。「中小企業経営力強化税制」とは、対象設備を導入する際、一定の手続きを踏むことで、設備投資費用を初年度一括で即時償却できる税制です。(出典:角倉税理士資料抜粋)①生産性向上設備(A類型)の場合1)対象設備の要件は、1:一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はありません)2:経営力の向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度など)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備(※)※ソフトウェアについては、情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの2)生産性向上設備(A類型)の税制活用手続き①設備ユーザーは、当該設備を生産した機器メーカー等(以下「設備メーカー」)に証明書の発行を依頼してください。②依頼を受けた設備メーカーは、証明書(様式1)及びチェックシート(様式2)に必要事項を記入の上、当該設備を担当する工業会等の確認を受けてください。(注)設備の種類ごとに担当する工業会等を定めております。詳しくは中小企業庁ホームページご参照。http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/③工業会等は、証明書及びチェックシートの記入内容を確認の上、設備メーカーに証明書を発行してください。④工業会等から証明書の発行を受けた設備メーカーは、依頼があった設備ユーザーに証明書を転送してください。⑤・⑥設備ユーザーは、④の確認を受けた設備を経営力向上計画に記載し、計画申請書及びその写しとともに④の工業会証明書の写しを添付して、主務大臣に計画申請します。主務大臣は、計画認定書と計画申請書の写しを設備ユーザーに交付します。⑦・⑧認定を受けた経営力向上計画に基づき取得した経営力向上設備等については、税法上の他の要件を満たす場合には、税務申告において税制上の優遇措置の適用を受けることができます。税務申告に際しては、納税書類に④の工業会証明書、⑤の計画申請書及び⑥の計画認定書(いずれも写し)を添付してください。3)中小企業経営力強化税制申請等の問い合わせ先(3)各地方公共団体の補助金例地方公共団体の補助金は、主に市民生活に関係するものの導入補助を念頭に置いています。筆者が28歳でコンサルティング会社を退職し、メーカーで独立した際には年収が1/10に低下し、乳児を抱えていたこともあって、最低限の生活維持のために地方公共団体の補助金をフル活用した経験があります。昇給賞与が思うように実現できない企業では個人向けの補助金受給を促進されることは従業員にとって助けになります。地方公共団体によっては中小企業向け補助金や補助制度があるところも多くあります。たとえば、名古屋市では独自に「小規模事業金融公社」https://nb-fun.jp/を持っており、独自創業する事業者や一般の中小企業事業者に資金を貸し付けてくれる機能があります。また、大阪府では今年度「利益率向上賃上げ支援事業」としてDX化による自動化推進の設備投資を補助しています。1)住宅・リフォーム向け補助金政府は2050年カーボンニュートラル実現等に向けて、「住宅省エネ2026キャンペーン」と呼ばれる4つの支援事業を実施することにしました。以下それぞれに補助金があります。住宅省エネ2026キャンペーンみらいエコ住宅2026事業先進的窓リノベ2026事業給湯省エネ2026事業賃貸集合給湯省エネ2026事業先進的窓リノベ2026事業:既存住宅の窓を高断熱窓へ改修する費用を支援(1戸あたり最大100万円)。給湯省エネ2026事業:エコキュートなどの高効率給湯器への交換を支援。みらいエコ住宅2026事業:断熱改修や省エネ設備の設置などをサポート(最大100万円)。2)生活支援型の補助制度6月末締め切りの主な地方制度福岡市「燃料費等高騰の影響を受けた事業者支援」(事業者向け)東京都町田市「物価高騰対策事業者給付金」(事業者向け)大阪府岸和田市「物価高騰重点支援給付金」(必着)東京都世田谷区「物価高騰生活支援給付金」(消印有効)国「物価高対応子育て応援手当」※申請が必要な方(八王子市・町田市・世田谷区など。期限は自治体により異なり、すでに終了した自治体もあります)(4)まとめ補助金のレポートを発表する際に、経産省の補助金ついて使い勝手の悪さを毎回執拗に説いてきました。今回はその使い勝手の悪い制度よりもシンプルで資金繰りに活用しやすい制度として、「設備投資の即時償却」に関する税制の活用と地方公共団体の補助金についてご紹介しました。環境変化があっても、自社に逆風が吹いても、企業は前に進んでいかねばなりません。そのためには情報に敏感になり、乗り切る方法を柔軟に考え知恵を絞ることが必要になります。経営者の講演会講師をさせていただき、懇親会に参加しますと、不平不満のご主張をどちらでも伺います。当事者のストレスは当事者にしかわからない強いものです。ただ、冷静に言いますれば、そこから生まれるものは少しばかりストレスが緩和される程度で、なんらストレスの原因を解決することつながりません。ストレスの原因解決に関連することを研究レポートで少しでも提示できればという思いでおります。また、ストレスフルな環境がチャンスだと、後継の若手経営者が突き抜けられ、急激な成長軌道に乗せていかれる企業も少なからず存在することを知っております。ただそれらの企業は資金余力がある程度あり、長期視野で前を向ける条件があるという場合が一般です。生き残るために全力を尽くさねばならない企業がまた増えている中で、まずは存続確保をしっかり固めていきたいと思います。提供:税経システム研究所
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2026/07/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(224)
1.はじめに近年のAIの進化はめざましいものがあります。日常生活や仕事を進める上で、利用している方も多いのではないでしょうか。これまでであれば、何かわからないことや調べ物をするために、Googleなどの検索サイトに検索ワードを入れ、さまざまなサイトを渡り歩いてようやく結論を得ていたのに、今やAIに自分が求めていることを指示すれば、一応もっともらしい回答がほんの数秒から2、3分もあれば返ってくるようになっています。業務の中でも、資料作りや会議の議事録作成など、これまで時間をかけて対応していた業務が大いに効率化された…といった身近なところだけでなく、AIを労働の担い手として、これまで人が担ってきた業務を代替するような革新的な技術が次々と登場してきています。このようなAIの進化を含む、企業のDX化が進むに伴って仕事の進め方が変わり、従業員には新たな知識や能力が求められるようになってきました。このような背景から、近年はリスキリングやキャリアアップへの関心が、労使を問わず高まっています。国も各省庁が連携して「学び・学び直し」に取り組むことができるよう、各種支援策を提供しています。業務に関連する資格取得を支援する制度を用意している企業も多くみられます。従業員の能力向上やキャリア形成を後押しするだけでなく、業務品質の向上や離職防止、新規採用を行う際のアピールポイントとしてなど、企業にとってもメリットの多い施策のひとつといってよいでしょう。今回は資格取得支援制度を運用していく際のポイントについて考えてみます。2.資格取得支援制度とはどのようなものか国内には「国家資格」として認められているものが300以上、民間資格を含めるとこれを超える相当な数の「資格」とされるものが存在します。資格取得支援制度とは、企業が業務上必要とされる資格を従業員が取得する、または取得した場合に、主に金銭面で支援する制度のことです。その資格がなければそもそも業務に携わることができないものや、資格があることで、確かな知識・技術などが裏付けられるといったものまでさまざまですが、曲がりなりにも、業務に関連し、役立つレベルの資格となれば、それなりに難易度は高いと考えられますし、それを取得するには何かとお金がかかるものです。資格取得支援制度(以下「制度」)は資格取得に係る従業員の金銭的な不安・負担を支援していく制度であるわけですが、多くの場合、以下のような形で具体的な支援が行われているようです。【資格取得支援制度の代表的な例】資格取得費用の一部または全部を負担する資格取得後に報奨金を支給する資格取得後、毎月の賃金において資格手当を支給するでは、この制度により企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。3.資格取得支援制度による企業のメリット・デメリット制度により、企業が得られるメリットとしては以下のようなものが挙げられます。1.従業員のスキルアップやモチベーションアップ資格を取得するためには、試験や検定に向け、自発的に学習や訓練をしなければなりません。制度を利用するとなれば、基本的には、事前に企業に対し、費用負担を求める申請が必要となります。対外的に資格にチャレンジすることを公言するわけですから、自ずとその準備には真剣味が出るものです。それらの学習や訓練を通じ、従業員のスキルアップが期待できます。また、めでたく資格取得できれば、それが従業員自身の自信につながり、仕事へのモチベーションアップにもつながりますし、毎月の資格手当などは企業への定着につながるインセンティブとなり得ます。2.自社の生産性向上資格取得により従業員のスキルレベルが1ランクも2ランクもアップしてくれれば、それは自社の生産性や業績の向上に間違いなく資することになります。3.採用の際のアピールポイントとなる新規・中途を問わず、採用の際に「従業員の資格取得を積極的支援している」姿勢を明確に打ち出すことは、求職者に対し「人材育成に力を入れている」「自身のキャリアアップにつながる」などを訴求することにつながり、他社との差別化をアピールするポイントになります。一方で、制度の存在によるデメリットも忘れてはなりません。1.支援のためのコスト増資格取得を金銭面で支援するのがこの制度の根幹ですので、それなりのコスト増は覚悟しなければならないでしょう。支援で負担したコストは先述のメリットを将来的に受けるための投資と考えれば、必ずしもデメリットといえるものではないのかもしれません。2.資格取得後、早期に退職されるリスク制度を利用し、めでたく資格取得に至った後、程なくして退職を申し出るケースも散見されています。支援したコストが無駄になるだけでなく、取得した資格を活かして同業他社に転職し、自社を脅かす存在にならないとも限りません。後述しますが、何らかの対策を備えておきたいところです。これらを踏まえて、制度を策定・運用するためには、どのような点を考慮していけばよいのでしょうか。4.資格取得支援制度を策定・運用するためのポイントは?制度を導入しさえすれば、従業員が積極的に利用し資格にチャレンジしてくれる…といった単純な話ではありません。実際、制度を作ったものの、あまり利用されずに形骸化してしまっているケースも少なくはないのです。労使ともにwin-winとなる制度にするためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。1.制度の対象となる資格の選定先述の通り、国内には多くの「資格」が存在しますが、企業としては、自社の業務に直結する資格を取得する従業員を支援したいのは当然のことです。全社員に取得を奨励する資格、部署単位で奨励する資格など、業務との関連を十分に吟味して、支援対象とする資格を選定しましょう。2.早期退職されるリスクへの対策資格取得後の早期退職リスクへの対策は最大の課題とも考えられます。この場合、支援した費用の全部または一部でも返還させたくなるものですが、事はそう簡単には運びません。例えば、「資格取得後○年以内に自己都合で退職した場合、支援した費用は返還しなければならない」のような条件は、労働基準法第16条に定める「違約金と賠償予定の禁止」に該当する可能性があり、実際に類似の規定が無効とされた判例も存在しています。(富士重工事件H10.3.17東京地裁)早期退職に伴い、支援費用の回収が困難なることを避けるため、支援費用を「支給」するのではなく、労使合意のもとで「貸付」し、一定期間の勤続を条件に、返済を段階的に免除する方式を採用している企業もあります。この方式は、「支援費用として貸し付けられた金銭は、返済を原則とするが、資格取得後一定期間勤続した場合は返済を段階的に免除する(例:1年勤続ごとに30%免除、3年勤続で全額免除)」のような形です。この方式については労基法16条に抵触しない可能性が高まるものとされています。資格取得支援としては、金銭的な支援もさることながら、資格取得に向け、学習しやすい体制を整えることもサポートの一種と考えられます。最近では、eラーニングの時間を確保したり、スマートフォンで学習できるアプリを提供することにより、場所を問わず効率的な学習ができるようにしている例もあります。資格取得は一部の特別な従業員だけのものではなく、誰でもチャレンジすることが当たり前と思えるような社内の雰囲気を醸成していきたいものです。提供:税経システム研究所
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2026/07/30 医療経営
戦略的医療機関経営 その172
【サマリー】医療機関の経営を取り巻く経営環境は、今まで以上に厳しい。診療報酬という公的価格の中で、医業経営を行わなければならないので、前回までレポートしていたように厚生労働省(国)も公的価格である診療報酬を引き上げた。しかし引き上げた財源の半分以上が医療機関に勤務している職員のベースアップ(給与)に回るため、医療機関の経営の厳しさは変わらない。厚生労働省内で、「医療法人の経営情報のデータベース化」を実施する議論が進められているので、その内容を今後レポートで行うとともに、筆者自身の本業である医療機関の原価計算を管理会計の立場からも解説を加えたいと考えている。データベース化が整えば、医療機関の経営指標や予測に役立つ。さらに経営情報の基幹となるのは会計情報である(もちろん非金銭情報もある)ので、本研究会にとっても役立つ情報提供が可能と考える。1.はじめに(目的と留意点)厚生労働省で議論が行われている「医療機関のデータベース化」の資料から目的の部分を抜粋すると以下のとおりです。我が国では、高齢人口の増加や医療の高度化など国民医療費が年々増加し、また、今後、生産年齢人口の急激な減少や医療資源の地域格差など医療制度上克服すべき課題がある。また、新型コロナウイルスの感染拡大に際して、医療機関支援などの政策を進めるために必要なエビデンスとしての医療機関の経営状況の把握ができず、国民への情報の提供が十分ではなかったことも課題である。こうした医療を取り巻く課題に対応するための政策を進めるためには、医療の置かれている現状と実態を表す情報をもとに国民に対して丁寧に説明していく必要がある。地域医療の担い手である医療法人は、運営の透明性が求められており、その運営状況を明らかにすることにより医療が置かれている現状と実態を表すことは、医療法人制度の趣旨とも齟齬を来さない。このため、政府方針等でも医療法人の経営情報の収集及びそのデータベースの構築並びに、国民への丁寧な説明について、検討が必要とされている。要約すると、少子高齢化という人口構成の変化がある。コロナのような予測不可能な状況に十分に対応できる体制や余力がない。医療機関の置かれている経営環境は厳しい。公的な診療報酬点数という制度のなかで運営されているので、国民に説明する必要がある。同じく、公的な診療報酬という金銭が入っている以上、その経営状態を透明化しておく必要がある。以上の理由から、医療機関の経営情報のデータベース化を進めるというになります。医療機関の経営に直接役立てるためではなく、政策活用に利用するということが垣間見られます。しかし、今後この医療機関の経営情報のデータベースが公表、開示されることから、医療機関の経営に役立てる情報とすることが可能であると考えます。さらに医療機関の経営情報のデータベース化を行うにあたり、留意する点も提示しているので、下記に記します。□留意点(抜粋。太字は筆者加筆)医療法人の経営情報の提出は、調査主体が被調査主体を抽出し、被調査主体が任意で回答する調査ではなく、医療法人への義務的な全数把握であることが特徴として、これを踏まえた制度設計を進めるべきと考えられる。一方、全ての医療法人に経営情報の提出を義務づけるのであるならば、一般的に医療法人が提出可能な制度であるべきと考えられ、医療法人が既に取得・収集している情報をもとにすべきと考えられる。また、対象は医療法人のみであることから、新たな制度で政策のエビデンス全ての情報を得ようとすることには限界があることを踏まえて制度を検討すべきと考えられる。なお、新たな制度の目的は医療法人の経営情報のデータベースの構築とその活用にあり、法人の監督・指導を目的とする事業報告書等とは異なることからこれらは別制度とすることを前提にすべきと考えられる。全数把握という点は統計学的な観点からは評価できますが、対象が医療法人のみとなると、利活用できる対象医療機関が限定されてきてしまいます。今後の議論の中でどのようになるのか見守りたいと思います。2.データベースの対象となる医療法人この新たな制度では、現行の事業報告書等に含まれる損益計算書等よりも詳細な経営情報の提出を求める必要がありますが、合理的理由無く対象・対象外を区分すれば、公平性を欠き、制度への協力が得られず、その目的を果たせなくなる可能性があると指摘されています。このため、事業報告書等の提出が義務化されていることと同じく、新たな制度でも原則、全ての医療法人に対して義務化すべきと考えられます。一方、新たな制度により経営情報の提出を義務化するのであれば、対応が困難な医療法人が出てくることが予想されます。その対応困難な医療法人に、過度な負担を前提にするようなことのないよう考慮も必要であると考えなければなりません。小規模な医療法人は、経理に携わる従業員も限られることが見込まれ、法人税制度上、社会保険診療報酬の所得計算の特例措置(いわゆる四段階税制)が適用されている法人は、社会保険診療報酬に概算経費率を乗じるなどして経費を算出しており、実態を考慮して、こうした法人に限って除外してはどうかという意見があります。参考)小規模な医療法人の例租税特別措置法第67条の適用を受ける医療法人租税特別措置法(抄)第六十七条医療法人が、各事業年度において第二十六条第一項に規定する社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合において、当該各事業年度の当該支払を受けるべき金額が五千万円以下であり、かつ、当該各事業年度の総収入金額が七千万円以下であるときは、当該各事業年度の所得の金額の計算上、当該社会保険診療に係る経費として損金の額に算入する金額は、当該支払を受けるべき金額を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる率を乗じて計算した金額の合計額とする。(注)四段階税制の適用を受けている医療法人数(令和2年度)は61法人出典:租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書(令和4年1月国会提出)3.もとめる経営情報仮に情報の提出を医療法人に原則、義務化するのであれば、医療法人が一般的に対応可能な範囲の情報であるべきとの意見から、過度な負担を強いることのないよう考慮すべきと考えられます。(前述のとおり)一方、骨太の方針などの政府方針等で示しているとおり、人件費の状況などを把握したり、補助金や診療報酬改定などへの政策のエビデンスとして活用するのであれば、収集する経営情報は、より詳細な方が、その分活用性も高まります。こうした考えのもと、新たな制度により医療法人に求める経営情報は、「政策活用性の向上」及び「医療法人への業務負担」の両面を睨み検討することが必要と考えられます。これらを踏まえ、医療法人制度では、統一的に会計基準を定めていないが、医療機関ごとの財務諸表を作成することを想定して、任意で病院会計準則を用いることを推奨しており、経営情報の対象として、収益及び費用(損益計算書)については、事業形態の多角化が進む法人もある中、対象を病院及び診療所に限定した上で、医療機関ごとの財務諸表を作成するために策定された「病院会計準則」をベースにしてはどうか※全ての病院で病院会計準則を適用していないことを考慮する必要がある。資産、負債及び純資産(貸借対照表)については、施設単位で作成していない法人も一定数あることから、法人単位である現行の事業報告書等による貸借対照表によるべきと考えられる。以上の意見があります。そもそも会計基準が統一されていないことが最大のネックと言えます。以前からばらばらな会計基準を統一しようという動きはありましたが、現在もまだ統一されています。いわゆる民間病院で使用している病院会計準則が基本となると考えられます。病院会計準則を採用していない医療機関についての取扱いが今後問題となります。貸借対照表については法人単位では作成しているが、施設単位で作成していないところが一定数あるとのこと自体が多少驚いていますが、現在の議論の中では新たに施設単位の貸借対照表を作らせるのではなく、現在作成されている法人単位の貸借対照表を提出してもらうという方向になっていますが、この数が多ければデータベースとしての利用価値が低くなってしまうので注意が必要であると思われます。参考)「医療法人の事業報告書等に係るデータベース構築のための調査研究事業」(厚生労働省委託事業)では、複数の施設を開設している医療法人において施設別に損益計算書を作成していない法人が約3割求める給与関係の情報については、医療従事者の処遇の適正化を進めるため現状の給与の把握には職種ごとの年間1人当たりの給与額の把握が必要と考えられます。「職種ごとの給与費の合計額」と「職種ごとの延べ人数」により算出することとなりますが、医療法人によっては財務情報としては存在しない数値も考えられます医療法人の負担も考慮して既存調査で対応可能なものは、それを活用する観点から「職種ごとの延べ人数」については、病床機能報告の報告を求める時点(病床機能報告では7月1日現在の人数を以て報告されている(派遣労働者等が含まれていることについて留意が必要。)。病床機能報告の対象外となる無床診療所等の医療機関及び病床機能報告で対象としない職種については、病床機能報告の調査対象日と同じ7月1日現在の人数の報告を任意で求めるとし、職種ごとの給与費の合計額(会計年度単位で職種ごとの給与費の支給額情報を持っていない法人もあるため、対象時期を直近1月1日から12月31日までに職員に支給した額とする)については、財務諸表等の作成に必要とせず、医療機関が把握していないことも多いことから、回答を容易にする観点から対象時期を暦年(直近1月1日から12月31日まで)とすることが考えられる。提供:税経システム研究所
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2026/07/30 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第24回)
【サマリー】第21回より最近の中小企業のM&Aについての国(中小企業庁)の働きかけ、具体的には中小企業のM&Aガイドラインについて解説しています。本稿では前稿に引き続き中小M&Aガイドラインの参考資料で紹介されている中小企業のM&Aの事例を挙げ、筆者のコメントを述べたいと思います。1.中小M&Aガイドライン(第3版)での中小企業M&Aの事例経済産業省から公表されている中小M&Aガイドライン(第3版)_参考資料4の「中小M&Aの事例」では以下のような事例が紹介されています。本稿では⑤譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例などを説明します。2.譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例(1)メッキ加工事業の会社のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:メッキ加工業・売上高:2億円・従業員:10名・業歴:45年◆譲り受け側:B社・業種:溶接加工業・売上高:10億円◆関与した支援機関::(顧問)税理士、M&Aプラットフォーム【意思決定に至るまでの経緯】A社は代表者である隅田(仮)が80歳間近となる中、熟練の職人を抱えていたものの親族・従業員に承継意思のある後継者が不在のため、中小M&Aを検討し始め、顧問税理士に相談した。【成立に至った経緯】A社は顧問税理士に勧められM&Aプラットフォームを活用した。複数件の譲り受け側候補のうちの一社が他地域で溶接加工会社を営むB社であった。B社は、A社の熟練の職人の技術力を評価し、自動車用金属部品の加工の点で自社事業との相乗効果(シナジー)があると考え、事業譲渡契約締結に至った。但しA社及び隅田は従業員の雇用継続を第一条件として伝えたことにより譲渡額は譲歩した。【成立に至った後の経緯】B社はA社及び隅田との約束通り、A社従業員の雇用を全て引き継いだ。それと並行してB社は全従業員へのヒアリングを行い、中小M&Aを機に人事制度改革・働き方改革等を進め、待遇の改善が実現した。上記事例は後継者不在の状況の中で、すべての従業員の転籍を条件とした事業譲渡の成功例です。M&Aの譲り受け企業は自社の雇用条件を提示することによって、当該条件を受け入れる譲り渡し側の従業員が転籍に応じることが一般的です。譲り渡し側の従業員と譲り受け側の従業員が融合するために業務プロセスなどを見直す作業をPMI(PostMergerIntegration)と呼びますが、当該事例はM&Aをきっかけに全社的に様々な制度改革を実施した珍しいものといえます。A社とB社の給与水準や人事制度は当然異なりますのでこれを調整するのは難しいのですが、譲り渡し側の従業員にとって現状維持または処遇改善は必須条件と思われますので、譲り受け側の経営陣は多少のコストアップが見込まれても当該事例のように制度改革を進めていくのが将来的にも望ましいものと筆者は考えます。(2)家具等製造業の会社のM&A(株式譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:家具等製造業・売上高:3億円・従業員:20名・業歴:35年◆譲り受け側:B社・業種:家具等製造業・売上高:60億円◆関与した支援機関:事業承継・引継ぎ支援センター、M&A専門業者【意思決定に至るまでの経緯】A社代表者である大野(仮)は65歳になったが、子はおらず他の後継者候補もいないことから、事業承継・引継ぎ支援センターに譲り受け側探索の相談をした。大野は長年育んできた事業に愛着があり、引き続き事業に関与したいと考えていたが、他人に譲った事業に関与させてもらうことは難しいだろうと半ば諦めていた。【成立に至った経緯】A社は決して大規模ではないが良い製品を作ると業界内では評判であり、譲り受け側B社(同業の大手)がすぐ見つかった。大野は言い出して良いものか悩みながら、事業を譲り渡した後も引き続き事業に関与したい、その代わりに譲渡額については譲歩しても良い、とトップ面談でB社に正直に打ち明けた。B社は、A社の生産体制にとって大野の高い技術力が重要であると認識しており、大野による提案を受け入れ非常勤(週3日勤務)で技術指導を依頼することにした。譲渡額は若干減額したが大野はA社の全株式をB社に譲渡した。【成立に至った後の経緯】大野は希望通り引き続きB社において事業に関与している。一方、毎週4日間の休日は妻と一緒に「夫婦水入らず」の時間を楽しんでいる。上記事例は譲り渡し側の経営者が株式譲渡後も譲り受け側の事業に関与しているものです。中小企業のM&Aでは株式譲渡によって譲り渡し側のオーナーが退任することが一般的ですが、製造業や特殊な技術やノウハウ、これまでの人脈やセールスルートが必要な業種では当該事例のように一定期間、取締役や顧問に残るケースも増えてきました。また、近年は譲り渡し側のオーナーが40代や50代といった比較的若い世代も増えており、一定期間関与した後にM&Aで得られた資金を元に新たな事業を立ち上げる人もおります。譲り受け側の企業にとっても譲り渡し側のオーナーが残ることは先述したPMIを円滑に進める上では有用ですが、いずれ退任することを想定して譲り受けた事業を推進していく人材の確保や育成を早めに進めていくことが必要といえます。3.従業員の反対にもかかわらず成立した事例(1)中古厨房機器販売業の会社のM&A(株式譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:中古厨房機器販売業・売上高:1億円・従業員:7名・業歴:30年◆譲り受け側:B社・業種:厨房機器販売業・売上高:20億円◆関与した支援機関:(顧問)公認会計士、M&Aプラットフォーム【意思決定に至るまでの経緯】中古厨房機器の市場は市況が厳しく、A社も前期から赤字に転落してしまっており、会社に資産が残っている段階での廃業を検討していた。A社代表者の小林(仮)が顧問の公認会計士に相談したところ、高額の廃業費用、従業員への影響等を考慮し、より良い選択肢として中小M&Aを提示された。【成立に至った経緯】顧問の公認会計士がM&Aプラットフォームを活用して譲り受け側候補を探索した結果、他県で新品厨房機器販売を営むB社とつながった。B社も、業界全体が苦しい中、生き残りのための中小M&Aと考えており、両社のニーズが合致した。これに対し、数名のA社従業員は「すぐに全員解雇される」と誤解し、中小M&Aに反対した。そこでB社は小林と共同で従業員説明会を開催し、あくまで会社の将来を案じての意思決定であり、従業員の雇用も守る旨を膝詰めで丁寧に説明したところ、全員からの納得が得られ、円満に小林との株式譲渡契約締結に至った。【成立に至った後の経緯】B社は約束通りA社従業員の雇用を守り、事業を継続している。上記はM&Aについて譲り渡し側の従業員が当初は反対したものの、実施を達成できた事例です。M&Aは一般的にごく少数の関係者の間で秘密裏に進められるために、当該M&Aの情報が一般の従業員等に初めて開示されたときは、特に譲り渡し側の従業員にとって雇用や処遇が維持されるかどうかが一番気になるところです。この事例ではA社の従業員に対してA社代表者だけでなくB社も一緒になって丁寧にM&Aの意義や雇用確保などを説明したことにより全従業員から承諾を得られました。今後はB社の従業員に対しても、A社がグループに参画したことによりA社の従業員とも円滑な関係を築けるように、特にB社の従業員がA社の従業員に対して優越的な振る舞いを起こさないように配慮していくことが求められます。4.廃業を予定していたものの中小M&Aが成立した事例(1)製造業及び小売業の会社のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:製造業及び小売業・売上高:8億円・従業員:30名・業歴:30年◆譲り受け側:B社・業種:製造業・売上高:10億円◆関与した支援機関:顧問税理士【意思決定に至るまでの経緯】A社は製造業・小売業の2つの事業を営んでいた。小売業は黒字で採算がとれている一方、製造業は常に大幅な赤字で不採算であった。しかし、製造業のみに利用している工場の閉鎖には数千万円単位の廃業費用が見込まれており、A社の代表者である伊藤(仮)は製造業の部門の閉鎖を決断できずにいた。そのような状況で、伊藤は70歳となり後継者候補もいないことから、顧問税理士に中小M&Aの相談をしたところ、その関与先であるB社を紹介された。【成立に至った経緯】B社は、A社の小売業部門の独自性・流通網に大きな魅力を感じる一方、製造業部門は不採算部門として認識し小売業部門のみの譲り受けを希望した。そのため、A社はB社に対し、小売業部門のみを一部事業譲渡した。【成立に至った後の経緯】A社は、B社から受け取った事業譲渡の対価から製造業部門の廃業費用を捻出することができたため、伊藤はA社を解散・清算して無事に閉じることができた。上記はM&Aによって得られた資金によって不採算事業であった製造業部門の設備等の廃棄費用を捻出して無事にA社を清算できた事例です。筆者も多くの経験がありますが、譲り渡し側の会社が製造業の場合、建物や設備の老朽化が相当程度進んでおり、また土地や建物にアスベストなどの有害物質が含まれていることが想定される場合にはM&Aがうまく進まないことがあります。当該事例のように別の事業で事業価値を見出すことができれば廃棄費用をまかなうことができますが、それができない場合には廃業後に所在者不明のまま放置されるという最悪の事態を招く懸念があります。現在も地方の大型ホテルなどが廃業後に放置されて社会問題となっているニュースが報道されますが、そのような報道を見るたびに筆者は事態が悪くなる前になぜ早くM&Aなどの将来に向けた検討を早めに進めなかったのか、非常に残念な感情を抱きます。提供:税経システム研究所
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2026/07/24 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(223)
1.はじめに近年、私傷病、特にメンタルヘルス上の理由により休職する労働者が増加しています。人手不足による業務負担の増大や、職場における対人関係や各種のハラスメントなど、メンタルヘルスに影響を及ぼすストレスの要因には事欠かない状況と言えるかもしれません。心身の調子が優れない状態で、十分なパフォーマンスを発揮できないまま仕事を続けていても、不調を招いた要因から根本的に切り離さないと、遅かれ早かれ従業員はパンクしてしまいます。いったん厳しい環境から離れて治療に専念してもらい、以前のように持てる能力を発揮できるまでに回復してから職場に戻れるよう、会社側も支援体制を整えることが求められます。メンタル不調による休職からの復職の際には、傷病の特性を十分に理解した上で、適切な対応と配慮をする必要があります。安易な対応をした結果、傷病の再発や悪化を招き、最悪の場合、その従業員の退職につながることもあり、会社の対応次第では労使紛争にまで発展することもあります。今回は、メンタル不調による休職から復職する際の、企業側の対応について考えてみたいと思います。2.メンタル不調による休職の現況は厚生労働省は毎年、事業所の安全衛生管理、労災防止等の実態把握のため、「労働安全衛生調査(注1)」を実施しています。公表されている最新版(令和6年版)によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した従業員が「いる」と回答した事業所の割合は12.8%となっており、前年の調査と比べて0.7ポイント減少となっています。特にこの割合は大企業ほど顕著で、1,000人以上規模の事業所においては9割以上の事業所にメンタルヘルス不調を原因とする休職・退職者が存在するという結果になっています。業種別では、情報通信(39.2%)、電気・ガス・熱供給・水道業(32.7%)学術研究、専門・技術サービス業(22.2%)が上位を占めています。また、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄があると回答した従業員の割合は68.3%となっています。この割合は20歳未満(28.7%)から年齢を重ねるほど高くなっていて、30歳代では73.3%、40歳代では73.0%、50歳代では69.4%が強い不安や悩み、ストレスを感じながら仕事をしている実態が見られています。強いストレスの要因となっているものとしては、仕事の量(43.2%)仕事の失敗・責任の発生等(36.2%)、仕事の質(26.4%)セクハラ・パワハラを含む対人関係(26.1%)、会社の将来性(22.2%)などが上位を占める結果となっています。先述の通り、私傷病での休職は、メンタル不調によるものが多数を占める傾向にあります。では、「休職」とはどのような位置付けの制度なのでしょうか。3.そもそも「休職」とは?「休職」とは、従業員を就労させることが適切でない場合に、労働契約関係そのものは存続させながら、一定期間の就労を免除または禁止することをいいます。一口に「休職」と言っても私傷病による休職、事故欠勤休職、被疑者として起訴された場合の休職、出向休職、自己都合休職、組合専従休職など企業によって様々な休職制度が存在し、それらは各々就業規則等により定められています。就業規則等にて定められた休職事由が消滅することで休職は終了することになりますが、定められた休職期間が満了した時点で休職事由が消滅していないときには、解雇または自然退職とされることが一般的です(休職期間満了による退職を「解雇」と規定した場合は解雇予告義務などが関係してくることもあり、「自然退職」と規定するケースが多い)。多くの会社において私傷病による休職またはこれに類する制度が定められていますが、年次有給休暇や育児・介護休暇のようにその付与が法で義務付けられているわけではありません。私傷病による休職を認めるか否かはあくまでも企業の判断に基づくことになり、休職制度が就業規則等にて規定されていなければ、欠勤として扱う流れが通常です。とはいえ、私傷病により長期に出勤できなくなる事態は十分に想定できるものであり、治療のための猶予期間として休職制度を設けておくことは現実的な選択肢と言えます。従業員が休職する場合、休職開始から復職までには様々な経緯が想定されますが、特にメンタル不調による休職が終わり復職に至る場面では企業側は難しい判断を迫られることが多くなります。では、従業員から復職の希望が出された際、企業としてはどのように対応していくことが必要なのでしょうか。4.復職場面における企業の対応は?休職中の従業員から復職の希望があった場合、まずは復職することに問題ない旨が記載された主治医の診断書の提出を求めることになります。診断書には、就業上の配慮に関して医学的見地から意見が記入されていることもありますが、主治医の意見の中では、「日常生活において支障がない程度への回復=復職可能」と判断している場合もあり、必ずしも個々の職場事情や当人の担当業務の負荷を考慮しているわけではないことがあるので注意が必要です。このような判断の齟齬を回避するためには、主治医に対して、職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報提供を行い、それに基づいて復職可否について意見をもらう、あるいは、主治医の判断と職場で必要となる業務遂行能力の内容などについて、産業医にセカンドオピニオン的に判断を求めるなどした上で、人事担当者や上司なども交え、従業員の元の職場での業務に対処できるか否かにつき企業側として最終的な判断を行う、といった慎重な対応が必要です。メンタル不調の場合、個別の病状にはそれぞれ差があり、担当業務の負荷なども異なることから、定型的な判断基準を定めることはなかなか難しいのですが、最低限の判断目安として以下のようなポイントを挙げます。【復職可否の判断基準の例】復職に対して本人が十分な意欲を示していること単独で通勤時間帯に安全に通勤ができること(難しい場合は時間を変えれば可能か)会社所定の労働時間の就労が可能であること(あるいは復職当初は時短勤務なら可能か)与えられた職務をこなすことができること業務による心身の疲労が翌日までに回復可能であること適切な睡眠覚醒リズムで生活することができ、昼間に眠気がないこと業務遂行の際に必要な注意力や集中力を発揮できること上記の最低限のポイントがクリアできたとしても、元々の業務が通常通りこなせない中で復帰を認めることが、先を見据えたときに適切かどうかはケースにより異なります。この辺りは、必要に応じて労働法専門家の意見も入れ、社内事情も考慮した上での自社独自の慎重な判断が必要と考えます。会社が適切と考えるのであれば、復職直後の勤務形態として時短勤務やリモートワーク等により就労の環境に徐々に慣らしていくようにすることは、従業員の不安を最小限に抑え、症状の再発による更なる休職を避けることにつながります。また人事担当者や上司などは勤怠や勤務態度などを注意深く観察し、少しでも異変を感じるようなことがあれば声をかけて体調を確認する、面談の機会を設けるなど、復職後も継続した支援を心がけるようにしたいものです。5.休職期間が満了した場合の扱い休職事由が消滅することにより休職は終了して復職となりますが、休職期間満了時点において休職事由が消滅していない場合は、就業規則等の規定により解雇または自然退職として扱われます。私傷病休職の場合、この「休職事由が消滅」したかどうかの判断に関して、労使間で争いが生じることがあります。例えば、従業員が復職可能と主張し、その主張の裏付けとなるような主治医の診断書が提出されたとしても、実態はとても労働に耐えられる状態ではなかった…、こうした例のように、休職期間満了による解雇・自然退職を避けるために焦って復職しようとするようなことも珍しいことではありません。そのような「解雇・自然退職を避けるため」の主張をもとに、十分な検討がなされないまま復職を認めた結果、かえって症状が悪化してしまい、短期間で再度休職となると、今度は企業側が健康配慮義務違反の指摘を受けかねません。では、休職していた従業員がどのような状態にまで回復すれば、解雇または自然退職とされずに復職可能と判断されるのでしょうか。休職者の復職に関する裁判例によれば、「従前の職務を通常程度行うことのできる健康状態まで回復したかどうか」によって判断するとし、適正な内容にて就業規則等に定められ、適正に運用された休職期間を経過しても復職できない場合は、解雇または自然退職として扱うことを認める判例が多い傾向にあります。一方で、「当初は軽易業務に就かせれば、ほどなく通常業務に復帰できる回復ぶり」である場合、「従前の業務に復帰できないとしても、従業員の能力や経験、配置の実情や業務の難易度などから別の業務であれば復帰可能」である場合は復帰させることも検討すべきとして、従前の業務に直ちに復帰できないことをもって休職期間満了退職と扱ったことを不当と判断した例もあります。内臓疾患や肢体の傷病のように、検査数値などが正常値になったことをもって「回復」と判断できる傷病であればともかく、メンタル不調による傷病の場合は「回復」したかどうかを客観的・定量的に判断することが難しいこともまた事実です。だからこそ、従業員本人の主張や主治医の判断、産業医等の企業側からの医学的判断、上司や人事担当者の判断など多方面から多くの要素を検討し、復職が可能なのか、復職した後も継続して職務を続けていくことが可能かどうかについての慎重な判断が重要になります。参考文献「心の健康問題により休業した従業員の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf<注釈>労働安全衛生調査(実態調査)令和6年(事業所調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo01.pdf(個人調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo02.pdf提供:税経システム研究所
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2026/07/02 行政DX
2026年個人情報保護法改正案と税務分野に与える影響の考察
*本稿は2026年6月15日時点の情報に基づいて執筆しています。1.はじめに近年、AIの急速な発展により、個人情報の利活用をめぐる環境は大きく変化している。2026年の個人情報保護法改正案(注1)(注2)は、こうした環境の変化を踏まえ、データ利活用の促進と個人の権利利益の保護をどのように両立させるかという観点から、従来十分に対応できなかった領域が見直される重要な改正である。とくに、税務分野では、申告書、年末調整、給与計算、会計処理、外部委託、クラウド利用などを通じて、多数の個人データを日常的に取り扱っており、法制度の見直しが実務に与える影響は小さくないと言える。本稿では、改正案の全体像を4つのポイントに沿って整理したうえで、とくにAI開発や統計作成に関する同意不要特例の内容と、その前提となる透明性確保の考え方を中心に解説する。あわせて、税務分野において想定される影響を考察してみたい。2.2026年個人情報保護法の改正2.1税務調査対象の選定高度化AI開発、データ分析、クラウドサービスの普及によって、個人情報を含むデータの活用要求が急速に高まっており、このことが、2026年の個人情報保護法改正案の背景にある。従来の制度は、本人同意を基本として設計されてきたが、AI学習のように大量のデータが必要な場面では、個別同意の取得が大きな負担となっていた。さらにその結果、適切な利活用までもが停滞し、企業活動や技術開発の足かせになっていると指摘する声があった。他方で、データ活用の拡大は、漏えい、不適正利用、本人の想定を超えた二次利用といった新たなリスクも拡大させる。とくに生成AIの登場により、単に取得時の適法性だけでなく、取得後にどのような目的で、どの範囲の情報を、どのような相手と共有しながら利用するのかが課題となっている。今回の改正案は、このような環境変化に対応し、AI活用時代に合わせてデータ利活用を認める場面を広げる一方で、個人の権利利益を侵害しやすい領域では規律を強め、違反時にはより厳しく対処する制度へと変えていくものであると言える。2.2改正案の全体像と4つのポイント先に述べたように、2026年の個人情報保護法改正案は、AI時代に対応したデータ利活用を進めつつ、権利利益を侵害しやすい場面では規律を強めるという考え方に基づくものであり、4つのポイントもそれに沿ったものとなっている。この改正は税務を直接対象にしたものではないものの、税務では、申告書、年末調整資料、支払調書、扶養情報、口座情報、マイナンバー関連情報など、機微性の高いデータを扱うことが多い。しかも、社内に限った利用だけでなく、税理士事務所、クラウド会計サービス、電子申告サービスなど、外部委託や外部システムとの連携を伴って情報を取り扱うことも多い。そのため、改正案の4つのポイントは、企業の税務部門だけでなく、税理士事務所や税務SaaS事業者などへも影響を与える可能性があると言える。1)適正なデータ利活用の推進第1のポイントは、AI開発や統計作成、分析業務に対応できるよう、過度な同意規制を見直し、適正な範囲でデータ利活用を進めやすくすることにある。本人同意を基本とした規律のもとでは、個人データを第三者に渡したり、別目的で分析利用したりする際の負担が重く、とくに学習に大量データを必要とするAI分野では大きな障害となっていた。改正案は、こうした状況を踏まえ、個人の権利・利益に直接的な影響を与える利用と、統計作成・モデル学習のように個人識別を目的としない利用とを区別し、後者については一定の条件のもとで利用可能領域を広げる方向を示している。たとえば、企業の税務部門が、過去の申告データや会計データを用いて、申告漏れの起こりやすい勘定科目の傾向分析や、消費税区分の入力ミスを検知するAIモデルを作る場面を想定すると、これは個々の従業員や取引先に影響を与えるのではなく、業務全体の精度向上や統計的分析を目的とする利用であると言える。また、税務SaaS事業者が、複数顧客から受託した帳票データをもとに、OCR精度の改善や勘定科目の自動仕訳モデルの精度向上を図るケースも一定の条件を満たせば統計作成等として整理される可能性がある。もっとも、このポイントは、あくまで限定された目的の範囲内での利活用であり、データを自由に使ってよいという意味ではない。たとえば、税務処理のために収集したデータを、後から個別の顧客に対する営業リスト作成や融資の優先順位付けに利用するような使い方は、統計作成等には当たらない。また、データが利用可能となるのは、Web等を通して利用範囲や目的、提供先などを公表するとともに、安全管理措置の実施や目的外利用の防止を確実に実施する場合に限られ、利用範囲の制限や第三者提供の禁止にかかる違反は、新たに導入される課徴金の対象となるため、注意が必要となる。2)リスクへの対応第2のポイントは、本人に与える不利益が大きい高リスク領域について、一般的な個人情報よりも慎重な取扱いを求めることにあり、すべての個人情報を同じレベルで規制するのではなく、子ども情報、生体情報など、侵害された場合の影響が大きい情報について、より厚く保護する方向が示されている。税務分野においても、年末調整の扶養控除申告では扶養親族として未成年者の氏名、生年月日、続柄等を扱うことがある。また、相続税や贈与税の案件では、未成年の相続人などの情報を含むデータを扱うこともある。これらの情報は、税務上は必要なものでも、子ども情報として整理される可能性があり、より慎重な管理が求められる可能性がある。さらに、税務実務そのものではないものの、周辺システムで生体情報を扱う場合がある。たとえば、税理士事務所や企業が、顔認証による入退室管理などを導入している場合、その顔特徴データは高リスク情報として扱われることとなる。こうした情報は、一度漏えいした場合に本人への影響が長期化しやすいため、利用目的、必要性、対象範囲、保存期間、連携先、周知方法等は、これまで以上に明示的に整理しておくことが必要となる。このポイントは、一般ルールとは別に、侵害時のダメージが大きい情報については保護を一段強めるという考え方であり、税務でも、扶養情報、家族情報、本人確認関連情報を通常の情報と同じように扱わないことが求められる可能性がある。3)不適正利用等の防止第3のポイントは、形式上は個人情報に当たらないように見えても、実際には本人への接触、勧誘、誘導、なりすまし等につながり得る情報について、より実態に即した規律を導入する点にある。例えば、メールアドレス、電話番号、申込履歴、関心分野、閲覧履歴など、単体では限定的な情報であっても、組み合わせれば実質的に特定の個人に対する接触や働きかけが可能になる情報がある。税務分野でいえば、税務相談会の申込フォームで取得した住所・電話番号・メールアドレスなどがこれにあたると想定され、これらは組み合わせ次第で、資産状況や相続対策関心層などを推測し、個別勧誘に利用できる可能性がある。改正案では、これら情報を新たに「連絡可能個人関連情報」と定義し、個人情報と同様に、事業者は「連絡可能個人関連情報」の不適正利用・不適正取得が禁止されることとなる。このポイントの意義は、単に個人情報に当たるかどうかという点だけではなく、その情報の利用が実際にどのような接触可能性や不利益を生み得るかという実効面を重視する点にある。税務分野では、税務本体ではなく、営業連携や周辺サービスとの連動の場面で問題が生じる可能性があるため、本業データとマーケティングデータの線引きを意識し、不適正利用の禁止規定に抵触しないよう、厳格なデータ管理と運用を実施することが必要となる。4)実効性確保第4のポイントは、違反が起きた場合に、単なる注意や指導にとどめず、実際に抑止力のある対応を可能にすることにある。利活用の余地を広げる以上、重大事故に対しては、従来以上に実効的な制裁や行政対応を可能にする必要があり、改正案では、課徴金や命令等を含め、罰則等の強化を図る方向を示している。税務データには、所得、扶養状況、家族構成、口座情報、支払履歴、時にはマイナンバー関連情報などが含まれ、漏えいや不正利用が生じた場合の影響は深刻である。たとえば、年末調整関係書類を保存していたクラウドストレージの共有設定に不備があり、従業員の扶養情報や保険料控除情報が外部から閲覧可能な状態になっていた場合には、安全管理措置義務違反や漏えい対応の問題が問われることになる。また、税理士事務所の職員が、業務上知り得た相続案件の資料を私的に持ち出し、第三者に資産状況を漏らしたような場合には、本人への不利益だけでなく、守秘義務違反や事務所全体の管理責任が問題となる可能性がある。したがって、このポイントは、事故が起きた後の制裁強化だけを意味するものではなく、違反したら処分されるということを意識して、平時からアクセス権限、ログ管理、誤送信防止、委託先監督、保存期間管理、削除ルール、事故報告フローを整備させるためのものであると理解することが重要である。税務分野では、扱う情報の機微性が高く、本人の経済的・社会的利益に直結する情報が多いため、実効性確保は法令遵守の問題であると同時に、組織の信用維持そのものに関わる課題であるとも言える。3.AI開発・統計作成における同意不要特例今回の改正案でもっとも注目されるのは、AI開発や統計作成を含む「統計作成等」のためのデータ利用について、一定条件の下で本人同意を不要とする特例が拡張される点である。但し、対象となるのは、統計の作成、分析、AIモデルの学習や検証など、個人を直接の判断対象とすることを目的としない利用であり、個人ごとの評価、選別、営業、与信、採用、価格設定など、個人に直接作用する用途まで広く許容されるわけではない。また、第三者提供を伴う場合には、提供元と提供先の間で、利用目的、利用範囲、再提供の可否、安全管理措置、削除や返却の取扱いなどについて統制が確保されていることが前提となる。単に「分析目的だから渡してよい」ということではなく、提供後も管理可能な状態を維持することが求められる。さらに、本人同意を不要とする代わりに、公表を通じた透明性確保が要件となる。企業は、どのような目的で、どのような類型のデータを、どのような相手と、どの範囲で利用するのかを、外部から理解できる形で示さなければならない。ここでいう透明性は、抽象的な包括条項を掲げれば十分ということではなく、本人や社会が利用実態を把握できる具体性が必要である。加えて、目的外利用は禁止される。統計作成等のために収集・提供・受領したデータを、あとから個別マーケティングや個別判断に転用することは、特例の趣旨に反する。このため、どこまでが統計作成等で、どこからが個人向けの意思決定利用に当たるのかを切り分ける社内基準が不可欠となる。つまり今回の改正案を理解するうえで重要なのは、本人同意を不要とする場面が広がるほど、企業の側により重い説明責任が課されるという点である。従来は、本人同意が適法性を支える根拠となる場面が多かったが、AI開発や統計作成のための利用について一定の条件のもとで同意を不要とする以上、その代替として、企業は利用の目的、範囲、統制の仕組みを自ら説明できなければならない。したがって、改正案における透明性確保は、単なる広報上の配慮ではなく、同意に代わる法的・実務的な正当性を確保するものと位置づけられる。税務分野では、一般的に、ある目的のために情報を提出することが多く、後から分析やAI学習に回す場合、説明不足がそのまま情報を提出する側の不信感に結びつきやすいため、透明性の確保は非常に重要な課題となる。4.税務分野に与える影響改正案は税務分野を直接対象とする特則ではないが、税務実務では、機微性の高い個人データを継続的かつ大量に扱うという特徴を持つ。そのため、改正案のうち、とくに同意不要特例、透明性確保、委託先統制、実効性確保の項目については、税務に強い影響を及ぼすと考えられる。4.1企業の税務部門への影響企業の税務部門では、申告、年末調整、税額計算、税務調査対応などの通常業務に加え、近年は、過去データを用いた異常値検知、申告漏れリスク分析、業務標準化、AI補助機能の導入などのニーズが高まっている。改正案は、こうした分析利用やAI活用を一定範囲で進めやすくする可能性がある。たとえば、過去の申告データや会計データから、税区分の入力誤りが起きやすい箇所を分析したり、帳票読み取り精度を改善したりする用途は、個人を直接評価・選別する利用ではなく、統計作成等に近い利用として整理できる。しかしながら、企業の税務部門にとって最も重要な変化は、税務処理目的の利用と、分析・AI活用目的の利用を切り分けて整理する必要が生じる点にある。従来は、同じ部門内で一体的に扱われていたデータについても、今後は、どの利用が通常の税務処理なのか、どの利用が分析利用なのかを整理し、必要に応じて社内規程等を見直す必要がある。とくに、人事、経理、法務、情報システム、外部税理士等と連携して業務を行う場合には、利用目的の不整合が起きやすくなるため、その整理を慎重かつ迅速に進める必要がある。4.2税理士事務所への影響税理士事務所では、顧客から預かった資料を用いて申告、記帳代行、税務相談、相続対応などを行うため、「自らのための利用」と「顧客のための受託処理」が混在しやすい。たとえば、顧客資料を申告業務のために受領したにもかかわらず、その一部を所内の業務改善、AI検証に流用する場合、契約や説明内容との整合性が問われることになる。このため、まず、どの業務のために資料を受け取り、所内でどこまで利用し、外部サービスを用いるか、再委託を行うか、契約終了後にどのように返却・削除するかを明確にしておかなければならない。とくに、申告支援のために受領した資料を、そのまま所内のAI検証や業務改善に用いるような場面では、契約と説明が曖昧なままだとリスクが高いため、契約と実態を一致させることが必要となる。また、税理士事務所では、クラウド会計ソフト、外部ストレージ、OCR、生成AIツールなど、外部サービスの利用が広がっている。これにより、顧客データが事務所外へ出ることも増えており、再委託管理、安全管理措置、保存場所、事故時の報告体制などの整備が一層重要になる。改正案は、こうした外部利用の実態に対し、契約と運用の整合、説明責任、所内統制の明確化を強く求める方向に働くこととなり、税理士事務所にとっての影響は、単なる法令対応にとどまらず、実務そのものの見直しが必要になる可能性がある。4.3税務周辺サービスへの影響税務SaaSやクラウド会計などの税務周辺サービス事業者にとっても、改正案の影響は大きい。これらの事業者は、多数の顧客から受領したデータを横断的に用いて、OCR精度向上、入力補助、異常値検知、仕訳提案、申告支援モデルの改善などを計画することも多いと思われる。改正案の同意不要特例は、こうした横断的利用の可能性を広げる一方で、本当に統計作成等の範囲にとどまるのか、個別顧客への直接的判断利用に影響が及んでいないかという点を正しく判断する必要がある。とくに、複数顧客データの横断利用は、顧客から見たときに、どこまでが自社のための処理で、どこからがサービス提供者自身の分析利用なのかが不明確になりやすい。したがって、プライバシーポリシー、利用規約、業務委託契約、学習データ利用方針、再委託管理を見直すとともに、改正案が成立した際には、利用目的の明示、対象データの特定、第三者提供・委託関係の整理、目的外利用防止の統制が、サービスの信頼性を左右することになる。5.さいごに2026年の個人情報保護法改正案は、AI時代に対応するために、データ利活用の推進と権利保護の強化を同時に進めるものであり、とくにAI開発や統計作成に関する同意不要特例は、データの活用範囲を広げる可能性がある。しかし、改正案の本質は「同意なしで使える範囲が広がる」ということではなく、「限定された目的の下で、透明性、公表、提供先統制、目的外利用防止を前提として、一定の利活用を可能にする」点にある。税務実務では、機微性の高いデータを継続的かつ大量に扱うだけでなく、外部との連携も多い。そのため、改正案による利活用の推進は期待されるものの、それ以上に、利用目的の切り分け、委託・再委託の管理、説明文書の整備、アクセス権限の統制、事故対応体制の構築といった課題への対応が重要となる。さらに、税務分野では、個人情報保護法だけでなく、番号法や税法上の守秘義務との関係も踏まえる必要があり、一般的なデータ活用よりも慎重な判断が求められる場面が少なくない。その意味では、税務分野における改正案対応は、様々な影響を見極めながら、段階的に進めていくことが望ましいと考えるが、過度に委縮することなく、信頼を維持しつつデータの活用を進めることを検討いただきたい。<注釈>個人情報保護委員会,個人情報保護法等の一部を改正する法律案について,https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260407_kisyahaifusiryou.pdf個人情報保護委員会,個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律,https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation2023/index.htm提供:税経システム研究所
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2026/06/30 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第24回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で中学受験の学習塾を計5教室運営している中小企業です。長年、大手学習塾にはないアットホームな雰囲気で受験生を確保してきましたが、ここ数年、広告を打っても集客が難しくなってきました。個別指導に力を入れていますが、大手も同様の取り組みをしており、競争が厳しいです。少子化が進む中で、生き残るにはどのように経営戦略を策定すべきでしょうか。■少子化の下での経営図118歳人口の推移「(出典:文科省資料)周知の事実ですが、受験生人口は図1に示されている通り減少を続けています。図1は大学受験の18歳人口ですので、御社の得意とする中学受験の12歳市場は、この図を6年右にシフトさせたものとなります。今年はわずかに18歳人口の増加が見られます。これは1990年前後に200万人超えであった団塊ジュニアの方々のお子さん達が辛うじて100万人超えをしているということです。図1から、中学受験生の12歳人口は3-4年後に急減していくことがわかります。その時に、中学校も、中学受験のための進学塾も淘汰が進みますので、御社にとり改革の時間は限られていると言えるでしょう。図1は、2040年あたりから18歳人口の減少は鈍化するという予測になっていますが、実態はもっと厳しいものとなると思われます。47都道府県で、東京都は中学受験率が20%超え、大阪府は10%超えです。東京都内でも50%近い区もあり、地域差が大きいようです。一方、大阪府で始まった「高校無償化政策」は国の政策となりました。先行する大阪の状況を見ると、高校無償化すると公立高校の定員割れが増えているようです。受験指導に熱心な私立高校が好まれる状況です。私立高校は中高一貫化する傾向がありますので、子供は減るのですが、中高一貫校の中学受験率は上昇するでしょう。■教育産業のビジネスモデル表1株式会社KADOKAWAの売上・利益の内訳(2026年3月期)KADOKAWAは元々出版社ですが、表1に示されている通り、利益ではゲーム事業への依存度が高くなっています。一方、近年伸びており、収益力も高い教育事業に注目が集まっています。通信制のN高校やZEN大学が教育事業の中核となっています。実は、わが国では通信制高校在籍者の比率は上昇しており、さらにN高校等の修了者の一定比率が出来立てのZEN大学に入学しているのです。民間企業らしいマーケティング力を感じる事業展開です。通信制高校には、いじめにあったといった理由で進学する方もいますが、スポーツや芸術に全力で取り組みたいという理由で通学制の高校を選ばないという学生もいるのです。イタリアに音楽留学中の学生が、インターネット経由で、通信制高校にて高卒資格を取ろうと勉強している事例もあるようです。オリンピック出場選手も海外遠征が多い場合は、通信制高校を選ぶ事例を耳にしたことがあります。このように、少子化の中でも伸びている教育分野に進出するという戦略もあるのです。大手学習塾の明光ネットワークの売上・利益については表2に示されている通り、塾の直営事業とFC事業が利益の大半を占めています。塾事業では、マスプロ教育と家庭教師の中間のポジションとして、「個別指導」という教師一人に生徒複数名で稼ぐ方式を確立しています。この企業は今、少子化の流れの中で、人材事業を伸ばそうとしています。日本語学校事業で外国人との関係性を強化し、外国人学生達を企業にマッチングするというサービスに力を入れています。表2のその他に含まれる人材事業は、今のところはセグメント利益を見る限り、塾事業のように稼ぐことが出来ていません。しかし、塾事業に力がある間に、人材事業の比率を高めようとする戦略を打ち出しています。表2株式会社明光ネットワークジャパン売上・利益の内訳(2025年8月期)塾産業は、激しい受験競争を勝ち抜かねばならない人が多いかどうかが事業環境として重要です。10年後には、多くの中学、高校、大学で入試が容易化するか、統廃合する状況が予測されます。趣味や部活を楽しんでいても、ぜいたくを言わなければ大卒になることが出来る時代が来ようとしています。この手の人向けの塾市場は急速にシュリンクしていく可能性が高いと思われます。一方、初等教育、中等教育については日本のレベルは高いと言われています。教育熱心な家庭の場合、そこから高等教育機関をどのように選択するかです。JAZで有名な上原ひろみさんは、ヤマハの音楽教室で作曲とピアノ演奏の技術を身に着け、バークリー音楽院に留学し、最優等で卒業しています。大谷翔平選手が高校時代からMLBで活躍することを目指していたのは有名な話ですが、近年は灘高からスタンフォード大学等を目指すような秀才も増えつつあるようです。一部の名門中高への入試もある程度の競争は残るでしょう。公文式は、グローバルに事業展開し、教材販売を行い、進学校の高校も保有しています。ロジカルな経営戦略が見られます。中堅の塾では、芸能学校を持っている国大セミナーのような事例もあり、小さい塾では、医学部入試や慶応幼稚舎入試にフォーカスしたところも生き残っています。子供の教育投資にお金を喜んで出す教育熱心な家庭のニーズをとらえ、教え子の中からロールモデルを生み出し、ブランドを確立する。それが、生き残るための御社のオーソドックスな戦略となります。■御社の経営戦略の体系表3御社の経営戦略の体系1.個別指導の差別化教員の質と指導方法2.市場細分化既存事業+α3.バリュー価格基本料金+α4.新事業開発,M&Aシナジー+ICT御社の今後の経営戦略は、表3の通りにまとめることが出来ます。教育を提供する企業から、教育熱心な家庭へのソリューションプロバイダ―への転換を遂げていくことが生き残る戦略の核となります。1.既存の塾事業は、個別指導路線を踏襲しつつも、中核教員の質を向上させ、指導方法(メソッド)にウリを作ることが重要です。個別指導を実践する場合、大手と同じ土俵に立つことになりますので、小回りを利かせることが重要となります。マスプロ教育と家庭教師の間で、より家庭教師に近いポジションを目指すこととなります。顧客のうち、教育熱心な家庭の子弟の比率を向上させることがKPIとなります。「取りあえずどこかの大学に将来入れればよい」という顧客層からの脱却が必要となります。2.既存事業の個別指導でキャッシュを稼ぎつつ、5教室のうち一部を+αとして、新しいサービスに取り組むのです。教育系ベンチャーと資本業務提携するような方法も考えられます。3.固定費の大きな大手とすみ分ける基本メニューに、教育熱心な家庭に魅力的なオプションでカスタマイズする料金体系とするのが標準的な考えとなります。4.M&Aについては、既存事業でキャッシュを稼ぐことが出来るICT系の企業がまずは考えられます。そもそも、教育はプログラム化出来るコンテンツであり、メソッドをICTにより確立していくことでシナジーが得られます。組む相手としては、a.M&Aによる統合、b.マイナー出資による協業、c.業務提携による連携、の三通りの方法があります。相手があることなので、ケースバイケースで検討していくこととなります。提供:税経システム研究所
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2026/06/30 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第16回) 「定年退職後の継続雇用1」
【サマリー】前回までのレポートでは、有期雇用契約における雇止めの法理について、主要判例や労働契約法19条を中心に整理してきました。形式上は契約期間満了によって雇用関係が終了する有期契約であっても、契約更新が繰り返されることにより労働者に雇用継続への合理的期待が生じている場合には、雇止めが解雇と同様に厳しく審査される可能性があることを確認しました。もっとも、雇用継続をめぐる問題は、有期雇用契約の雇止めに限られるものではありません。企業実務では、従業員が定年を迎えた後に、どのような条件で再雇用するのか、再雇用を希望する者に対してどのような職務や労働条件を提示すべきか、また、再雇用をしないことが許されるのかといった問題も、重要な労務管理上の課題となります。そこで本レポートでは、定年後の再雇用をめぐる企業の法的義務と実務上の留意点について、高年齢者雇用安定法の概要を整理するとともに、裁判例を踏まえながら解説します。1.高年齢者雇用確保措置の基本構造高年齢者雇用安定法は、企業に対し、少なくとも65歳まで安定して働く機会を確保することを求めています。具体的には、定年を65歳未満に定めている事業主は、65歳までの定年引上げ、65歳までの継続雇用制度の導入、または定年制の廃止のいずれかの措置を講じなければなりません。●高年齢者雇用安定法第9条(義務)<対象者>定年年齢を65歳未満に定めている事業主<対象となる措置>次の①~③のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)①65歳までの定年の引上げ②65歳までの継続雇用制度の導入③定年の廃止かつては労使協定で対象者を限定する基準を設けることが認められていましたが、その仕組みは段階的に廃止され、2025年4月以降は経過措置も終了しましたので、現在は、原則として希望者全員を対象としなければなりません。いずれかの措置のうち、多くの企業で採用されているのが継続雇用制度です。継続雇用制度には、定年到達者をいったん退職させたうえで新たな労働条件により雇用する再雇用制度と、退職させず雇用関係を継続する勤務延長制度があります。実務上は再雇用制度が多く用いられますが、再雇用だからといって企業が自由に条件を設定できるというわけではありません。もっとも、希望者全員を対象とするということは、あらゆる者について、いかなる事情があっても必ず再雇用しなければならないという意味ではありません。就業規則上の解雇事由または退職事由に該当するような重大な問題がある場合には、継続雇用の対象外となり得ます。ただし、その判断は個別具体的な事情に基づき、客観的・合理的に説明できるものでなければなりません。企業実務で問題となりやすいのは、制度上は希望者全員を対象としているように見せながら、実際には職務内容、賃金、勤務場所、勤務日数等の条件を著しく不利に設定し、本人が再雇用を希望しない方向へ誘導するようなケースです。このような運用は、形式的には再雇用の機会を提示していても、実質的には雇用確保措置を潜脱するものと評価される危険があります。そのため、高年齢者雇用確保措置を検討する際には、「制度があるか」だけでなく、「本人が現実に就労を継続できる内容になっているか」「条件の決定過程を合理的に説明できるか」という観点から確認する必要があります。定年後再雇用は、単なる福利厚生ではなく、法律上の雇用確保措置として位置づけられる点を押さえておく必要があります。2.継続雇用制度と「雇用期待権」継続雇用制度をめぐる紛争では、定年後に再雇用契約が成立しているといえるか、または、労働者が雇用継続を期待することに合理的な理由があるかが問題となります。定年により正社員としての雇用契約はいったん終了します。しかし、会社に継続雇用制度があり、本人が再雇用を希望し、会社も具体的な労働条件を提示している場合には、やり取りの内容次第で再雇用契約の成立が認められる可能性があります。また、契約成立までは認められない場合であっても、労働者に雇用継続への合理的な期待があったとして、一定の法的保護が認められることがあります。ここで重要なのは、継続雇用制度は、会社が任意に行う恩恵的な制度ではないという点です。そのため、定年後も働くことを希望する従業員に対し、会社が合理的な理由なく再雇用を拒否することは、法の趣旨に反する対応として問題となります。また、雇用継続への期待が認められるかどうかは、就業規則や再雇用規程の文言だけで決まるものではありません。会社が本人にどのような説明をしていたか、これまで定年後再雇用をどのように運用してきたか、同じような立場の従業員をどのように扱ってきたか、本人との面談でどのようなやり取りがあったかなどが、総合的に判断されます。例えば、これまで定年到達者の多くが再雇用されていた場合や、会社が本人に対して「定年後も引き続き働いてもらう」といった説明をしていた場合には、労働者が定年後も働けると期待することには、一定の合理性があると評価されやすくなります。一方で、会社が継続雇用制度の内容をあらかじめ明確に説明し、再雇用後の職務内容、賃金、契約期間、更新基準などを事前に示していた場合には、労働者が期待できる範囲も、その説明内容に限定されやすくなります。したがって、企業としては、定年直前になって突然再雇用条件を提示するのではなく、定年前の相当期間前から、制度の説明、本人の意向確認、労働条件の提示、合意形成という流れを丁寧に進めておくことが重要です。3.再雇用条件の変更範囲再雇用後の条件については、賃金減額や職務変更が直ちに違法となるわけではありません。定年後は役職定年や責任範囲の縮小、勤務日数の変更などが予定されることも多く、それに応じて賃金が下がること自体は一般的にあり得ます。定年前の労働契約と定年後の再雇用契約は、法的には別個の契約として整理されるため、労働条件が当然に維持されるものでもありません。しかし、賃金や職務の変更には合理的な説明が必要です。特に、定年前と同程度の職務を担当させるにもかかわらず賃金だけを大幅に下げる場合や、本人の経験・能力と著しくかけ離れた職務を提示する場合には、制度の趣旨との関係で問題となります。賃金水準を決定する場合には、定年前の基本給との比較だけでなく、定年後の職務内容、責任の程度、所定労働時間、勤務日数、配置転換の有無、賞与や手当の支給基準を総合的に整理する必要があります。単に「定年後は一律に何割減」とするだけでは、職務や責任との対応関係が不明確となり、本人の納得を得にくいだけでなく、紛争時にも合理性の説明が難しくなります。また、短時間・有期雇用労働者として再雇用する場合には、いわゆる同一労働同一賃金の観点も無視できません。正社員と再雇用者との間で待遇差を設ける場合には、その待遇差が職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に照らして不合理でないことを説明できるようにしておく必要があります。4.職種変更の限界と賃金の関係高年齢者雇用確保措置における職種変更の限界を考えるうえで参考になるのが、定年後再雇用において、会社が提示した業務内容と賃金水準の適法性が問題となった事案、「トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決)」です。当時、会社は、一定の基準を満たす者については、定年前の年収の約59%程度となる再雇用制度を用意していましたが、当該従業員はその基準を満たさないと判断されました。そのため、定年退職者全員が対象となる別の再雇用制度として、年収127万円、すなわち再雇用前の年収と比較して約13%の水準となる労働条件を提示しました。業務内容は、シュレッダー機のゴミ袋交換、再生紙管理、業務用車の清掃、フロア内の棚やロッカーの清掃などであり、定年前に従事していた事務職とは大きく異なる清掃業務でした。労働者はこの条件を受け入れず、再雇用契約は締結されませんでした。そのため、会社の提示した再雇用条件が、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものかどうかが争われました。まず、業務内容について、裁判所は、定年前の事務職と、再雇用後に提示された清掃業務とは、まったく別個の職種に属する性質のものであると評価しました。そのうえで、このような業務内容を提示することは、実質的には再雇用を困難にするものであり、高年齢者雇用安定法の趣旨を潜脱するものとして、違法であると判断しました。一方で、賃金額については、裁判所は異なる判断を示しました。本件で提示された年収127万円は、再雇用前の年収と比較すると約13%にとどまり、言い換えれば約87%の大幅な減額です。しかし裁判所は、この賃金水準について、老齢厚生年金の報酬比例部分である148万7,500円の約85%に相当する金額であり、無年金・無収入期間の発生を防ぐという高年齢者雇用安定法の趣旨に照らすと、直ちに「到底容認できないような低額」とまではいえないと判断しました。企業実務においては、この点が重要です。定年後再雇用では、賃金が定年前より下がること自体は、職務内容、責任の範囲、勤務時間、年金受給との関係などを踏まえれば、一定程度許容される場合があります。しかし、業務内容については、本人の従前の職務、能力、経験、健康状態、会社内における配置可能性などを踏まえ、合理的な範囲内で設定する必要があります。特に、定年前の職務とまったく異なる業務を提示する場合には、その必要性や合理性を説明できることが重要です。単に「基準を満たさないから」「全員対象の制度だから」という理由だけで、本人の経歴や能力と大きくかけ離れた業務を提示すると、形式上は再雇用条件を示していたとしても、実質的な再雇用拒否と評価されるおそれがあります。いずれにしても企業としては、定年後再雇用の条件を提示する際、職種を大きく変更する場合には、その変更が本人に対する不利益取扱いや再雇用回避目的と受け取られないよう、慎重な対応が求められます。5.70歳までの就業機会確保と制度設計65歳までの高年齢者雇用確保措置が法律上の義務であるのに対し、70歳までの就業機会確保措置は努力義務として位置づけられています。70歳までの措置には、70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入のほか、業務委託契約を締結する制度や、社会貢献事業に従事できる制度を設けることも含まれます。●高年齢者雇用安定法第10条の2(努力義務)<対象事業主>定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主<対象となる措置>次の①~⑤の措置(高年齢者就業確保措置)を講じるよう努める必要があります。70歳までの定年引き上げ定年制の廃止70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入事業主が自ら実施する社会貢献事業事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業④、⑤については過半数労働組合等の同意が必要努力義務であるため、65歳までの措置と同じ意味で希望者全員を雇用しなければならないわけではありません。ただし、対象者を限定する基準を設ける場合であっても、会社が恣意的に一部の高年齢者を排除するような基準や、性別、組合活動、上司の推薦の有無など不合理な基準は避ける必要があります。70歳までの制度についても、法の趣旨に沿った公平で説明可能な基準を設けることが重要です。今後は、人手不足や熟練人材の確保という観点からも、70歳までの就業機会確保をどのように制度化するかが重要になります。全員を同じ条件で雇用する発想ではなく、短時間勤務、専門業務への配置、後進指導、顧問的役割、業務委託など、複数の選択肢を用意し、本人の能力や希望、会社のニーズに応じて組み合わせることが望ましいといえます。6.企業実務で整備すべきポイント第一に、就業規則や再雇用規程において、継続雇用制度の対象者、申出手続、労働条件の決定方法、契約期間、更新基準を明確にしておく必要があります。特に「会社が必要と認めた場合に限る」といった包括的な裁量条項は、希望者全員を対象とする制度との関係で問題となるため、見直しが必要です。第二に、再雇用後の職務と賃金の対応関係を説明できるようにしておくことが重要です。定年前の役職や職責がなくなること、勤務日数が減ること、担当業務が軽減されることを理由に賃金が下がるのであれば、その理由を制度上も面談上も説明できる形にしておくべきです。第三に、本人の希望を確認する手続を早めに開始することです。定年の数か月前から面談を行い、就労希望の有無、希望する勤務日数、健康面の配慮、職務上の希望を確認しておくことで、会社側も配置を検討しやすくなります。結果として希望どおりの職務を用意できない場合でも、検討過程を残しておくことが紛争予防につながります。第四に、定年後再雇用の労働条件通知書や雇用契約書では、職務内容、就業場所、所定労働時間、賃金、契約期間、更新の有無、更新基準を具体的に記載することです。特に職務内容を「会社の定める業務」とだけ記載すると、本人が想定していた業務とのずれが生じやすいため、可能な限り具体化しておくことが望まれます。管理職への周知も重要です。制度上は適切な内容であっても、現場の管理職が「定年後だからどのような仕事でもよい」「賃金を下げるのは当然」といった説明をしてしまうと、本人の不信感を招きます。制度の趣旨、説明すべき事項、言ってはいけない表現、面談記録の残し方について、管理職向けの運用マニュアルを整備しておくことが望ましいといえます。実務上は、制度の内容が正しくても、運用過程が粗いことにより紛争化することがあります。特に定年後再雇用では、本人の生活設計、年金、健康状態、家族の事情などが関係するため、会社側が一方的に条件を通知するだけでは納得を得にくくなります。定年前の一定時期から面談を行い、本人の希望と会社の配置可能性をすり合わせる手続を制度化することが重要です。7.まとめ高年齢者雇用確保措置は、単に再雇用制度を設けておけば足りるものではありません。希望者全員を対象とする制度になっているか、提示する労働条件に合理性があるか、職務を変更する場合に相当な理由があるか、本人への説明や面談記録が残されているかが、実務上の重要な確認ポイントとなります。トヨタ自動車事件が示すように、賃金の引下げ自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、会社が形式的に再雇用条件を提示していたとしても、その内容が実質的に継続雇用の機会といえない場合には、高年齢者雇用安定法の趣旨に反する対応と評価される可能性があります。特に、定年前の職務と大きく異なる業務を提示する場合には、その必要性や合理性を丁寧に説明できる状態にしておく必要があります。また、高年齢者雇用をめぐるトラブルは、法律上の不備だけでなく、説明不足や記録不足から生じることも少なくありません。規程だけを整えても、個別面談や契約書の内容が不十分であれば、紛争リスクは残ります。一方で、個別対応だけに頼ると運用が属人的になり、公平性を欠くおそれがあります。そのため、「制度設計」「個別説明」「記録化」を一体として整備することが大切です。今後は、65歳までの雇用確保措置を確実に実施するだけでなく、70歳までの就業機会確保も視野に入れた制度整備が必要になります。特に、2025年4月以降は、65歳までの継続雇用について希望者全員を対象とする運用が全面的に求められています。過去に作成した再雇用規程をそのまま使い続けている企業では、対象者を限定する旧制度の基準が残っていないか、現行法とのずれがないかを確認し、必要に応じて早急に見直すべきです。次回は、定年後の再雇用に関する重要判例をいくつかご紹介します。提供:税経システム研究所
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2026/06/17 日本経済と世界経済
「台湾有事」に揺れる日本
※本レポートは、2026年3月時点の情報をもとに執筆しています。1米国の国家防衛戦略昨年の11月にアメリカの友人から連絡が入った。トランプ政権の「防衛戦略」が策定され、米国は西半球から中国やロシアの影響力を排除することに傾注するという内容だとの由だった。早速、「国家防衛戦略」の概要をチェックしたところ、驚きの事実が判明した。その概要は次のようなものだった。①米国は西半球に専念するので、東半球はそれぞれの地域、国で防衛するようにして欲しい。(台湾と中国の問題は全くふれておらず、中国に対して台湾問題には米国は関与しないというシグナルを送るものと受けとめられかねない内容であった。また、ロシアとウクライナ問題もEUやイギリスがロシアとの間で解決すべきものと受けとめられるため、EU各国は防衛費を対GDP比5%にまで引き上げる決議をすることになった。)②米国は伝統や歴史の異なる国に対し、民主主義や社会変革を押し付けない。(これは、中国や北朝鮮のような独裁主義の国々にも、民主主義を強要しないと宣言しているものであり、従来の「民主主義」を旗印にしてきた米国とは思えぬ一文であった。)こうしたことから官邸サイドもこの戦略に驚き、トランプ政権に対して、東半球特に東アジアにおける台湾・中国問題から手を引くことのリスクを、明確な形で伝える必要があると考え始めたのではないかと思われる。高市首相の台湾有事の答弁も、こうした米国の対応に対する懸念があったためと思われる。2中国において習近平国家主席が、中央軍事委員会副主席張又侠氏を排除従来、中国では共産党は習近平氏が掌握し、軍部は張又侠氏が掌握していると言われてきた。もともと、中国は鄧小平氏が中国共産党青年団出身の幹部の中から国家主席を選ぶというルールを作り、その第1人目が胡錦濤元国家主席であったが、鄧小平氏が健在の頃は胡錦濤氏は若すぎたため、とりあえず、共産党青年団出身ではない江沢民氏が国家主席につき、その後を胡錦濤氏が継いだ。江沢民国家主席は自分の退任後、全てを共産党青年団出身者におさえられることを恐れ、江沢民氏は軍部、特に陸軍に対する影響力を保持するように努めた。また、胡錦濤氏の次の国家主席には共産党青年団出身でない習近平氏を就任させた。後ろ盾を持たない習近平氏は、専らワイロ封じで政敵、特に共産党青年団出身者を排除し、共産党は名実とも習近平氏が支配するようになった。しかし、軍部には手が回らなかったため、父親の時代から親しかった張又侠氏に軍事委員会、国防部は任せてきた。張又侠氏も台湾統一には賛成であった。しかし、彼は軍事のプロであるため、台湾統一の際の軍事的リスク、特に日米安保条約による日本と米国が台湾有事に干渉してくることを懸念して、軍事行動には消極的であったようだ。ところが、米国側が先の「国家防衛戦略」を明らかにしたことから、米国側からの干渉はないと判断した習近平氏は、張又侠氏の排除に動いたと思われる。本年1月に米国の「国防戦略」が明らかになると同時に、張又侠氏の失脚が明るみにでた。現在、中央軍事委員会メンバー7名中、習近平主席と他1名の2名のみが在席で、5名は空席という状態だと言われている。張又侠氏は陸軍とロケット軍を抑え、習近平氏は海軍と空軍を抑えていると言われてきたが、今や張又侠氏の失脚で全軍を習近平氏が抑えると思われるが、軍を完全に掌握するのには習近平氏も1~2年かかるのではないかと言われている。したがって、台湾有事は習近平氏の軍の完全掌握が果たされるまでは起きない。すなわち、1~2年後に台湾有事が起きる!と言われ出している。3高市首相の選挙決断(1)こうした世界状況の中で、高市首相はトランプ氏に台湾有事のリスク、特に日本を含む東アジアのリスクの大きさを直接訴えにいくことを第一優先と考えたのだと思う。もし、4月のトランプ、習近平会議で台湾有事に米国が暗黙の了解をしてしまうのを抑えないとならないと考えた高市首相は選挙に勝って、安倍元総理と共有する台湾有事回避の思いを伝える必要があると考えたのではないか。衆議院議員総選挙前に起きた立憲民主党と公明党の合併、いわゆる「中道改革連合」ができたこともあり、選挙は高市首相率いる自民党の大勝で終わった。しかし、その背景には台湾有事発言をきっかけとした習近平氏の「日本たたき」に日本国民が反中国感情を高まらせたのだとも思う。習近平氏の中国は「日本への資源の輸出規制」や「日本の水産物に対する輸入規制」「中国国民の日本への渡航自粛」「パンダを日本から中国へ取り返す」等の子供じみた嫌がらせによって日本人の反中国感情を刺激してしまったと思う。(2)中国国内にもこうした習近平政権の対応に疑問視を有する方々もいるようだが、日本側も、地理的にも歴史的にも近い国である中国との付き合い方にはもっときめ細やかな配慮もいると思う。以前、自分が書いた本「平和のプロ日本は戦争のプロベトナムに学べ」にある通り、プライドの高い中国には「勝って謝りに行く」くらいの度量が必要と思う。中国にとっても日本人の反中国感情を煽ることは決して好ましいことでないので、中国にとっても日本が必要な国と思わせることが重要だ。特に中国の経済にとって、日本の経済力を活用することが必要なことは自明のことだ。そうした努力を日本側からも働きかけることが重要と思う。しかし、今や中国の習近平氏とのパイプを持つ日本人が見つからないのが気がかりだ。(3)いずれにしても、日本が戦争に巻き込まれることだけは避けねばならない。もちろん、台湾有事は他人事ではすまされない。台湾有事が起きると台湾に住む日本人2万人、日本に住む台湾人7万人と相互交流が進んでいるため、邦人保護の問題だけでなく、台湾の方々が大量に難民となって日本に来ることも想定される。最近は日本にマンション等を持つ中国人には台湾の方々が多いとも言われている。このため、台湾有事は沖縄だけでなく、日米安保条約が結ばれる日米両国が巻き込まれる可能性は高い。こうした実情も含めて高市総理にはトランプ大統領に台湾有事を押しとどめる対案を示しつつ、しっかりと日本の意見を伝えて欲しいと思う。トランプ大統領は反対するだけでは全く耳を貸さない人物でもあるので、トランプ大統領も興味を示す「台湾」現状維持の重要性を提示しつつ、意見交換して欲しい。その対応の1つは台湾と日本の経済連携による米国経済への貢献、特に両国の対米投資の大きさ等を示すことだと思う。また、日本が永年にわたるアジアの国々、特にイスラム教徒の多いインドネシアやマレーシア等との交流と絆によって、イスラム教徒に敵視される米国との関係強化の仲立ちの役割を果たしていること等も強調すべきと思う。トランプ関税の際に示した粘り強い掛け引きを今回の訪米でも高市総理に期待したい。提供:税経システム研究所
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2026/05/29 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(222)
1.はじめに近年、私傷病、特にメンタルヘルス上の理由により休職する労働者が増加しています。人手不足による業務負担の増大や、職場における対人関係や各種のハラスメントなど、メンタルヘルスに影響を及ぼすストレスの要因には事欠かない状況と言えるかもしれません。心身の調子が優れない状態で、十分なパフォーマンスを発揮できないまま仕事を続けていても、不調を招いた要因から根本的に切り離さないと、遅かれ早かれ従業員はパンクしてしまいます。いったん厳しい環境から離れて治療に専念してもらい、以前のように持てる能力を発揮できるまでに回復してから職場に戻れるよう、会社側も支援体制を整えることが求められます。メンタル不調による休職からの復職の際には、傷病の特性を十分に理解した上で、適切な対応と配慮をする必要があります。安易な対応をした結果、傷病の再発や悪化を招き、最悪の場合、その従業員の退職につながることもあり、会社の対応次第では労使紛争にまで発展することもあります。今回は、メンタル不調による休職から復職する際の、企業側の対応について考えてみたいと思います。2.メンタル不調による休職の現況は厚生労働省は毎年、事業所の安全衛生管理、労災防止等の実態把握のため、「労働安全衛生調査(注1)」を実施しています。公表されている最新版(令和6年版)によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した従業員が「いる」と回答した事業所の割合は12.8%となっており、前年の調査と比べて0.7ポイント減少となっています。特にこの割合は大企業ほど顕著で、1,000人以上規模の事業所においては9割以上の事業所にメンタルヘルス不調を原因とする休職・退職者が存在するという結果になっています。業種別では、情報通信(39.2%)、電気・ガス・熱供給・水道業(32.7%)学術研究、専門・技術サービス業(22.2%)が上位を占めています。また、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄があると回答した従業員の割合は68.3%となっています。この割合は20歳未満(28.7%)から年齢を重ねるほど高くなっていて、30歳代では73.3%、40歳代では73.0%、50歳代では69.4%が強い不安や悩み、ストレスを感じながら仕事をしている実態が見られています。強いストレスの要因となっているものとしては、仕事の量(43.2%)仕事の失敗・責任の発生等(36.2%)、仕事の質(26.4%)セクハラ・パワハラを含む対人関係(26.1%)、会社の将来性(22.2%)などが上位を占める結果となっています。先述の通り、私傷病での休職は、メンタル不調によるものが多数を占める傾向にあります。では、「休職」とはどのような位置付けの制度なのでしょうか。3.そもそも「休職」とは?「休職」とは、従業員を就労させることが適切でない場合に、労働契約関係そのものは存続させながら、一定期間の就労を免除または禁止することをいいます。一口に「休職」と言っても私傷病による休職、事故欠勤休職、被疑者として起訴された場合の休職、出向休職、自己都合休職、組合専従休職など企業によって様々な休職制度が存在し、それらは各々就業規則等により定められています。就業規則等にて定められた休職事由が消滅することで休職は終了することになりますが、定められた休職期間が満了した時点で休職事由が消滅していないときには、解雇または自然退職とされることが一般的です(休職期間満了による退職を「解雇」と規定した場合は解雇予告義務などが関係してくることもあり、「自然退職」と規定するケースが多い)。多くの会社において私傷病による休職またはこれに類する制度が定められていますが、年次有給休暇や育児・介護休暇のようにその付与が法で義務付けられているわけではありません。私傷病による休職を認めるか否かはあくまでも企業の判断に基づくことになり、休職制度が就業規則等にて規定されていなければ、欠勤として扱う流れが通常です。とはいえ、私傷病により長期に出勤できなくなる事態は十分に想定できるものであり、治療のための猶予期間として休職制度を設けておくことは現実的な選択肢と言えます。従業員が休職する場合、休職開始から復職までには様々な経緯が想定されますが、特にメンタル不調による休職が終わり復職に至る場面では企業側は難しい判断を迫られることが多くなります。では、従業員から復職の希望が出された際、企業としてはどのように対応していくことが必要なのでしょうか。4.復職場面における企業の対応は?休職中の従業員から復職の希望があった場合、まずは復職することに問題ない旨が記載された主治医の診断書の提出を求めることになります。診断書には、就業上の配慮に関して医学的見地から意見が記入されていることもありますが、主治医の意見の中では、「日常生活において支障がない程度への回復=復職可能」と判断している場合もあり、必ずしも個々の職場事情や当人の担当業務の負荷を考慮しているわけではないことがあるので注意が必要です。このような判断の齟齬を回避するためには、主治医に対して、職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報提供を行い、それに基づいて復職可否について意見をもらう、あるいは、主治医の判断と職場で必要となる業務遂行能力の内容などについて、産業医にセカンドオピニオン的に判断を求めるなどした上で、人事担当者や上司なども交え、従業員の元の職場での業務に対処できるか否かにつき企業側として最終的な判断を行う、といった慎重な対応が必要です。メンタル不調の場合、個別の病状にはそれぞれ差があり、担当業務の負荷なども異なることから、定型的な判断基準を定めることはなかなか難しいのですが、最低限の判断目安として以下のようなポイントを挙げます。【復職可否の判断基準の例】復職に対して本人が十分な意欲を示していること単独で通勤時間帯に安全に通勤ができること(難しい場合は時間を変えれば可能か)会社所定の労働時間の就労が可能であること(あるいは復職当初は時短勤務なら可能か)与えられた職務をこなすことができること業務による心身の疲労が翌日までに回復可能であること適切な睡眠覚醒リズムで生活することができ、昼間に眠気がないこと業務遂行の際に必要な注意力や集中力を発揮できること上記の最低限のポイントがクリアできたとしても、元々の業務が通常通りこなせない中で復帰を認めることが、先を見据えたときに適切かどうかはケースにより異なります。この辺りは、必要に応じて労働法専門家の意見も入れ、社内事情も考慮した上での自社独自の慎重な判断が必要と考えます。会社が適切と考えるのであれば、復職直後の勤務形態として時短勤務やリモートワーク等により就労の環境に徐々に慣らしていくようにすることは、従業員の不安を最小限に抑え、症状の再発による更なる休職を避けることにつながります。また人事担当者や上司などは勤怠や勤務態度などを注意深く観察し、少しでも異変を感じるようなことがあれば声をかけて体調を確認する、面談の機会を設けるなど、復職後も継続した支援を心がけるようにしたいものです。5.休職期間が満了した場合の扱い休職事由が消滅することにより休職は終了して復職となりますが、休職期間満了時点において休職事由が消滅していない場合は、就業規則等の規定により解雇または自然退職として扱われます。私傷病休職の場合、この「休職事由が消滅」したかどうかの判断に関して、労使間で争いが生じることがあります。例えば、従業員が復職可能と主張し、その主張の裏付けとなるような主治医の診断書が提出されたとしても、実態はとても労働に耐えられる状態ではなかった…、こうした例のように、休職期間満了による解雇・自然退職を避けるために焦って復職しようとするようなことも珍しいことではありません。そのような「解雇・自然退職を避けるため」の主張をもとに、十分な検討がなされないまま復職を認めた結果、かえって症状が悪化してしまい、短期間で再度休職となると、今度は企業側が健康配慮義務違反の指摘を受けかねません。では、休職していた従業員がどのような状態にまで回復すれば、解雇または自然退職とされずに復職可能と判断されるのでしょうか。休職者の復職に関する裁判例によれば、「従前の職務を通常程度行うことのできる健康状態まで回復したかどうか」によって判断するとし、適正な内容にて就業規則等に定められ、適正に運用された休職期間を経過しても復職できない場合は、解雇または自然退職として扱うことを認める判例が多い傾向にあります。一方で、「当初は軽易業務に就かせれば、ほどなく通常業務に復帰できる回復ぶり」である場合、「従前の業務に復帰できないとしても、従業員の能力や経験、配置の実情や業務の難易度などから別の業務であれば復帰可能」である場合は復帰させることも検討すべきとして、従前の業務に直ちに復帰できないことをもって休職期間満了退職と扱ったことを不当と判断した例もあります。内臓疾患や肢体の傷病のように、検査数値などが正常値になったことをもって「回復」と判断できる傷病であればともかく、メンタル不調による傷病の場合は「回復」したかどうかを客観的・定量的に判断することが難しいこともまた事実です。だからこそ、従業員本人の主張や主治医の判断、産業医等の企業側からの医学的判断、上司や人事担当者の判断など多方面から多くの要素を検討し、復職が可能なのか、復職した後も継続して職務を続けていくことが可能かどうかについての慎重な判断が重要になります。参考文献「心の健康問題により休業した従業員の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf<注釈>労働安全衛生調査(実態調査)令和6年(事業所調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo01.pdf(個人調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo02.pdf提供:税経システム研究所
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