経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2026/08/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(225)
1.はじめに都内のある自治体で、職員による通勤手当の不正受給が発覚しました。公共交通機関を利用すると届出ていた職員1,000人余りを調査したところ、実際には徒歩で通勤していたケースが多数見つかり、約100名が通勤手当を返納、その額は1,600万円超に上りました。さらにその後の調査で約180名、900万円の返納が判明、職員総数のほぼ1割が関わっていたということになり、自治体住民から怒りや呆れの声が多数寄せられたということです。一般企業においてもこの事案は決して他人事ではなく、通勤手当の不正受給は普通に存在するリスクの1つと考えて差し支えないでしょう。今回は不正受給の事例を参照し、いかにして防止を図っていくかを考えてみます。2.通勤手当の位置づけとはそもそも通勤手当とはどのような位置づけにあるのでしょうか。従業員が通勤する際に支出する交通費等の費用負担を雇用主に義務付ける法令は存在しないことから、原則を言えば、通勤する際の費用は企業ではなく従業員が負担すべきものということになります。それにも関わらず、諸手当を支給している企業のうち90.2%の企業で通勤手当が支給されています(注1)。通勤は毎日のことですから、原則通りに従業員負担では、かなりの経済的負担になってしまいますし、遠方から通勤となればなおさらです。そこで通勤手当という形でその費用負担を企業が支援することで、従業員の生活を守るとともに、人材確保・定着促進を図る目的の「福利厚生」として多くの企業で支給されているのが実情です。また、会社側にとっても、一定額までは経費として計上できることもメリットとして考えられます。支給の形態は、電車・バスといった公共交通機関の場合は、通勤定期代の実費や定期券の現物支給、車・二輪車の場合は通勤距離に応じたガソリン代相当額というのが大半ですが、中には自転車通勤に対しても車両の損耗費を考慮して一定額を支給している例もあります。ではこの通勤手当を不正受給する手口としてどのような方法が確認されているのでしょうか。3.よくある不正受給の事例「不正受給」というと、悪意を持って本来の通勤費よりも過大な額を受け取る行為のような印象を受けます。もちろんそのような事例も少なくないのですが、一方で、通勤経路を変更したのに、それを届出ていなかったというような、ついうっかり…の事例も存在しています。さまざまな事例がありますが、多くの場合、以下の3つの形態に集約することができそうです。【不正請求の代表的な形態】1.実際の住所と異なる住所で手当を申請している例えば、実際の住所よりも遠方にある実家の住所などで手当を申請するケースです。虚偽の届出に基づく申請であり悪質と言えるでしょう。2.実態とは異なる通勤経路で手当を申請している実際に利用している通勤経路よりも高額な通勤費を要することになる通勤経路を申請するケースです。故意に行った場合は1.同様、悪質と言えます。ただし、交通事情の変化に伴い、申請していた経路より通勤の利便が向上するなどの理由で後日になって通勤経路を変更する場合や、転居により通勤経路が変わったなどの届出を失念していたケースも考えられますので、一律に「悪質」と断じてしまうには注意が必要です。3.虚偽の通勤手段で手当を申請している徒歩や自転車など、費用が発生しない手段で通勤しているのに、公共交通機関を利用しているとして申請するケースです。悪意に基づかなければやらない手段ですので、悪質度は高いと言えます。では、従業員が通勤手当を不正請求していることが疑われる場合の対応や不正請求を未然に防ぐためのチェック体制はどのようにすれば良いのでしょうか。4.不正請求判明後の対応と予防策は?通勤手当は従業員からの申請内容が「適切かつ合理的な内容である」という前提で支給が行われており、個々の申請内容を細かく検証する、実際に購入した定期券のコピーや領収証をチェックするといったことなく支給が行われていることが多いように思います。また、従業員側からすると「ちょっとくらい」とか「バレるわけない」といった軽い考えで不正な内容を請求していることも多いのですが、不正請求は、悪質度次第では横領や詐欺に該当するケースもある重大な事案です。不正請求が疑われる場合、まず、企業側は不正を裏付ける客観的な証拠を揃えるとともに、当事者からのヒアリングなどで事実関係を正確に把握することが最初のステップです。その結果、不正請求が確定した場合は、故意なのか過失なのか、故意の場合は悪質度の大小を判断すること、その上で、当事者には悪質度に応じた懲戒処分を課すとともに、不正請求に基づいて支給した通勤手当の返還を求める、というのが大まかな流れです。事後対応はもちろん重要なのですが、多大な労力を充てることにならないよう、未然防止の体制を整備しておくことも事後対応以上に重要であると考えます。【未然防止のためのチェック体制】1.就業規則及び賃金規程の整備と再周知就業規則や賃金規程に支給要件や申請手続きの内容を明記するとともに、「不正請求には懲戒解雇を含む厳正な処分を行う」旨を明記し再度周知する。2.購入実態を裏付ける証明書などの提出例えば、購入した定期券のコピーや購入した際の領収証、ICカードの利用履歴コピーなどの提出を義務付ける。併せて、抜き打ちで定期券の現物調査を行うことも不正抑止の効果があります。3.申請内容の精査を行う従業員からの申請内容だけで手当の支給額を決定してしまわずに、本当に「適切かつ合理的」な申請内容かを精査する。手間はかかるが、年に1~2回程度、全ての従業員の申請内容を精査する機会を設ける。2、3については、従業員を信用していないようにも見え、「ここまでやるの?」とためらわれる気持ちも理解できます。い考えで不正請求をした結果、それが露見し厳しい処分を受けてしまう方がよほど悲劇です。安易な不正を抑止するためにも、これらの体制整備は不可欠であるものと考えます。過去のおおらかな時代であれば、ここまで厳格な対処を想定しなくても良かったのかもしれません。しかし今や企業はもちろんのこと、従業員個々にもコンプライアンスが厳しく求められる時代です。不正を許さない企業風土を醸成するとともに、その姿勢を明確に発信していきましょう。<注釈>令和7(2025)年度就労条件総合調査の概況(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/dl/gaikyou.pdf提供:税経システム研究所
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2026/08/31 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第17回) 「定年退職後の継続雇用2」
【サマリー】前回のレポートでは、定年後再雇用制度の基本的な考え方について解説しました。高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満に定めている企業に対し、原則として希望者全員について、65歳までの雇用機会を確保することを求めていますが、定年前と同じ職務や賃金をそのまま保障する制度ではありません。一方で、再雇用後の職務を本人の経験や能力とかけ離れたものに変更したり、本人が受け入れることが困難なほど低い労働条件を提示したりした場合には、実質的な再雇用拒否として、高年齢者雇用安定法の趣旨に反すると判断される可能性があることも解説しました。また、定年後に有期労働契約として再雇用した場合には、いわゆる「雇止め」の有効性が問題となり、会社による説明、これまでの更新実績、本人の勤務状況、更新への期待などが判断材料となることを確認しました。今回は、定年後再雇用をめぐる企業実務上特に重要な4つの裁判例を取り上げます。1.重要判例1「音響機器会社事件東京地裁令元・5・21判決」音響機器の設計業務に従事していた従業員に対し、会社が定年後の再雇用条件として、定年前とは異なる部署への配置と職務内容を提示しました。従業員は、これまでの経験や能力を十分に生かせない条件であるとして提示を拒否し、定年前と同様の業務を内容とする雇用関係の確認や損害賠償などを求めました。東京地裁は、高年齢者雇用安定法は定年前と同一の職務や労働条件による再雇用まで保障するものではなく、会社が提示した条件も不合理とはいえないとして、従業員の請求を退けました。<事案の概要>音響機器メーカーであるY社のサウンド設計部で長年設計業務に従事していたXは、60歳の定年に際し、それまでとは異なる部署・職務内容および異なる雇用条件を提示されました。Xは、これまでの職歴や能力が十分に考慮されていないとしてこれを拒否したため、再雇用契約は締結されませんでした。そこでXは、高年齢者雇用安定法(以下「高年法」という)第9条を根拠に、Y社には定年前と同様の業務またはその経験・能力を生かせる業務で再雇用する義務があると主張し、雇用契約上の地位確認、賃金の支払いおよび損害賠償を求めて提訴しました。<判決のポイント>裁判所は、高年法第9条は事業主に65歳までの雇用確保措置を義務付けるものであるが、定年前と同一の職務内容・役職・賃金等での雇用継続までは義務付けていないと判断しました。定年により正社員としての労働契約はいったん終了し、再雇用契約は別個の契約となるため、労働条件が定年前と異なること自体は許容されるとしました。Xは、津田電気計器事件(最高裁判決)を根拠に定年前と同様の条件による雇用関係の成立を主張しましたが、裁判所は、同事件が会社の定める再雇用基準を満たす従業員の再雇用を会社が一方的に拒否した事案であるのに対し、本件はY社が具体的な条件を提示しXがこれを拒否した事案であるとして、事案が異なり同事件の判断はそのまま適用できないとしました。さらに、Y社が提示した業務は実際に必要とされる業務であり、Xを侮辱し再雇用を断念させる目的で設定されたものとは認められないこと、賃金その他の労働条件も社会通念上到底受け入れられないほど不合理とはいえないことから、提示条件は高年法の趣旨に反しないと判断しました。その結果、裁判所は、定年前と同様の業務や条件による再雇用契約が成立したとは認められないとして、Xの地位確認、賃金および損害賠償の請求をいずれも棄却しました。<学ぶべきポイント>本件は、定年後再雇用において、企業が定年前とは異なる職務内容や労働条件を提示すること自体は直ちに違法とならないことを示した事案です。高年法は65歳までの雇用機会確保を求めるものの、定年前と同一の職務・役職・賃金の維持までは保障していません。ただし、形式上は再雇用条件を提示していても、実際には不要な業務をあえて設定した場合や、経験・能力と著しくかけ離れた職務を提示した場合、本人が到底受け入れられない条件で再雇用を断念させようとした場合には、実質的な再雇用拒否として高年法の趣旨に反すると判断される可能性があります。企業としては、提示する職務が実際に必要であること、本人の経験・能力・健康状態を考慮して配置を検討したこと、定年前と同じ業務を継続できない理由を説明できるようにしておく必要があります。また、定年の数か月前から本人と面談を行い、希望や条件を確認し、面談記録や条件提示書の形で残しておくことが紛争防止につながります。企業には再雇用条件を決定する一定の裁量が認められる一方、その条件が業務上の必要性に基づく合理的なものであることと、本人への誠実な説明が強く求められることを示した判例です。2.重要判例2「惣菜製造会社事件福岡高裁平29・9・7判決」惣菜の製造販売会社で定年を迎えた従業員が、定年後もフルタイムでの再雇用を希望したところ、会社から週3日または4日、1日6時間、時給900円という短時間勤務の条件を提示されました。この条件では月収が定年前の約25%となるため、従業員は受け入れず、再雇用契約上の地位確認や損害賠償を求めました。福岡高裁は、具体的な労働条件について合意がないため再雇用契約の成立は認めませんでしたが、月収を約75%減額する条件を提示し続けた会社の対応は、継続雇用制度の趣旨に反する違法な行為であるとして、100万円の慰謝料の支払いを命じました。<事案の概要>惣菜の製造販売を行うY社で経理・決算業務に従事していたX(定年時の月額賃金33万5,500円)は、60歳の定年後もフルタイムでの継続雇用を希望しましたが、Y社は週3日または4日・実働6時間・時給900円というパートタイムの条件を提示しました。この条件による月額賃金は8万6,400円(16日勤務換算)で、定年前賃金の約25%の水準であり、約75%の減額となるものでした。Xはこの条件を受け入れず、再雇用契約は締結されませんでした。そこでXは、再雇用契約を締結したのと同様の雇用関係が成立しているとして地位確認・賃金の支払いを求めるとともに、著しく不合理な条件提示は違法であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴しました。第一審(福岡地方裁判所小倉支部)はXの請求をいずれも棄却しましたが、控訴審の福岡高裁は、地位確認請求は認めなかったものの、Y社の条件提示について不法行為の成立を認めました。<判決のポイント>裁判所はまず、所定労働日数・労働時間・賃金という労働契約の根幹に関わる条件についてXとY社の間に合意が成立していないことから、抽象的に再雇用契約が成立したとは認められないとして、地位確認請求を棄却しました。一方、条件提示の違法性については、高年法第9条の雇用確保措置義務は、希望どおりの労働条件で雇用することまで直接義務付けるものではなく、労働条件の決定は原則として会社の合理的な裁量に委ねられるとしました。もっとも、同義務は労働契約法制における公序の一内容を構成するため、極めて不合理で高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難い労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の趣旨に反する違法な行為となり得るとしました。裁判所は、継続雇用制度は定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが前提であるとした上で、Y社の提示条件(時給900円は定年前賃金換算の約1,944円の半額未満)により月収が定年前の約25%にまで減少する点を重視しました。Y社は店舗数減少による業務量減少を理由としましたが、裁判所は、Xが担当予定の決算業務店舗数(43店舗)が定年前(46店舗)とほぼ変わらないこと、Y社全体の店舗減少も1割弱にとどまること、人員配置や業務分担の見直しでフルタイムに見合う業務を用意できたと考えられることから、大幅な減額を正当化する合理的な理由は認められないとしました。そのため、Y社が他の条件を十分検討せずこの条件に終始したことは、継続雇用制度の趣旨に反し裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であると判断しました。契約の成立は認めなかったものの、Xが65歳まで安定的な雇用を享受できる法的保護に値する利益を侵害されたとして不法行為の成立を認めた上で、定年前後の労働条件の継続性が著しく欠けていたこと、店舗数の減少を理由とする条件提示には一定の理由があったこと、高年齢雇用継続基本給付金(月額約1万4,610円)の支給見込みなどを総合的に考慮し、慰謝料100万円と判断しました。<学ぶべきポイント>本件は、定年後再雇用の労働条件について企業に一定の裁量が認められる一方、その裁量には限界があることを示した事案です。定年後に職務内容や責任が軽減されることに伴う賃金引下げ・勤務時間短縮自体は認められますが、著しく低い労働条件を提示する場合には合理的な理由が必要です。裁判所は、単に減額率だけでなく、実際の業務量の減少幅、フルタイムに見合う業務を用意できたか、他の配置や分担を検討したかを重視しています。「高齢者だから」「定年後だから」という抽象的な理由だけでは不十分であり、業務量・職務内容・責任の程度と勤務条件との対応関係を具体的に整理する必要があります。また、条件提示が違法とされても、具体的な労働条件について合意がなければ再雇用契約の成立までは認められません。企業としては、一方的に条件を提示するのではなく、本人の希望を確認し、複数の勤務形態を提示して、職務内容・勤務時間・賃金の関係を明確に説明することが重要です。大幅な減額を行う場合は、業務量の変化、他の配置検討の結果、本人への説明内容などを記録に残しておく必要があります。企業には、再雇用後の職務・労働時間・賃金の対応関係を明確にし、本人が実際に就労を継続できる合理的な条件を提示するとともに、その理由を客観的に説明できるようにすることが求められると示した判例です。3.重要判例3「外資系エアライン事件東京地裁令5・6・29判決」航空会社に勤務していた従業員が60歳の定年を迎え、定年後の再雇用を希望しましたが、会社は、新型コロナウイルスの影響による旅客需要の急減と人員削減の必要性を理由に、再雇用を拒否しました。従業員は、再雇用拒否には解雇と同様の厳格な法理が適用されるとして、雇用契約上の地位確認などを求めました。東京地裁は、定年後の再雇用契約の成立には解雇権濫用法理は適用されず、会社の就業規則に定める再雇用除外事由にも該当するとして、従業員の請求を退けました。<事案の概要>航空旅客運送事業を営むY社の就業規則では、従業員は満60歳で定年退職となる一方、希望者には1年の有期労働契約を更新する形で再雇用する制度が設けられていました。ただし、事業縮小・人員整理・組織再編などにより担当職務やポジションが削減された場合には、再雇用の対象としない旨も定められていました。Xは令和2年12月に満60歳の定年を迎えましたが、当時Y社は新型コロナウイルスの影響による旅客需要の急減で収益が急激に悪化しており、人員削減・労務費削減を進めていました。その一環として定年退職者の再雇用を中止し、削減可能なポジションを廃止して後任を補充しない方針を定め、この方針に基づきXのポジションも削減して再雇用しませんでした。Xだけでなく、その後定年を迎えた他の従業員にも同様の扱いがされました。そこでXは、①就業規則上、再雇用契約の申込みを承諾する義務がある、②再雇用拒否は実質的に解雇と同様であり労働契約法16条の解雇権濫用法理が適用または類推適用される、③従前の運用から再雇用への合理的期待があり労働契約法19条の雇止め法理が適用または類推適用される、と主張して雇用契約上の地位確認などを求めて提訴しました。<判決のポイント>裁判所はまず、定年により従前の労働契約は終了し、再雇用契約の成否は新たな契約成立の問題であるとして、既存の労働契約を使用者が一方的に終了させる場合に適用される労働契約法16条の解雇権濫用法理は、定年後の再雇用契約の成否には適用されず、類推適用もされないと判断しました。一方、労働契約法19条2号の雇止め法理については、雇用継続への期待に合理的理由がある場合には適用または類推適用の余地があるとしつつ、本件では、就業規則に事業縮小等による職務削減時の再雇用除外事由が明記されていたこと、Y社が社内ニュース等で経営悪化や人員削減方針を説明していたことから、Xの期待に合理的な理由があったとは認めがたいとしました。また、Y社は新型コロナウイルスの影響による旅客需要の急減と収益悪化により労務費削減が必要であり、定年退職者の再雇用中止・ポジション廃止・後任不補充という施策はXだけでなくその後の定年退職者にも一律に適用されていたことから、Y社がXを再雇用しなかったことには客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性を欠くものとはいえないと判断しました。さらに、この事情は就業規則に定める再雇用除外事由(事業縮小・人員整理・組織再編等による職務削減)にも該当すると認め、XとY社との間に定年後の再雇用契約が成立したとは認められないとして、Xの請求をいずれも棄却しました。<学ぶべきポイント>希望者全員を対象とする定年後再雇用制度があっても、事業縮小等により担当させる職務が客観的に存在せず、就業規則上の再雇用除外事由にも該当する場合には、再雇用を行わないことが認められる余地があります。高年法は原則65歳までの雇用機会確保を義務付けますが、事業縮小・人員整理・組織再編等により現実に担当させる職務がなくなった場合には、再雇用を行わないことが認められる余地があります。ただし、「経営が厳しい」という抽象的な理由だけでは足りず、本件のように具体的な経営状況、削減方針の内容、他の退職者への一律適用などが重視されています。企業が事業縮小等を理由に再雇用を拒否する場合には、経営悪化の具体的内容、人員・労務費削減の必要性、担当させる職務が存在しないこと、ポジション廃止の経緯、他部署への配置可能性の検討結果、同様の立場にある退職者の取扱い、本人への説明内容と時期を説明できるようにしておく必要があります。また、就業規則に再雇用除外事由を具体的に定めておくことが会社の判断を支える重要な要素となります。「会社が必要と認めた者を再雇用する」といった曖昧な条項では恣意的判断を許すおそれがあるため、解雇事由・退職事由への該当や事業縮小による職務廃止など、客観的に判断できる内容を定めることが重要です。ただし、規定を置くだけでなく、実際に該当事情があること、経営判断に合理性があること、他の従業員との公平性、本人への十分な説明も必要です。本判決は、定年後の再雇用拒否には解雇権濫用法理は適用されないとしつつ、過去の実績や会社の説明・規程から再雇用への合理的期待が認められる場合には雇止め法理が適用され得るとしました。したがって企業は、再雇用制度の内容や再雇用しない場合の基準を明確にし、制度を中止・変更する際には対象者へ早めに説明することが求められます。要するに、企業は経営上の合理的必要性があり再雇用後の職務が現実に存在しない場合には再雇用を拒否できる可能性がありますが、その判断を正当化するには客観的根拠と一貫した運用が強く求められることを示した判例です。4.重要判例4「学校法人Y学園事件東京地裁平28・11・30判決」大学の専任教員として勤務していた従業員が65歳の定年を迎え、定年後も特別専任教員として再雇用されることを希望しましたが、学校法人は再雇用を拒否しました。従業員は、採用前に70歳まで雇用が保障されるとの説明を受けていたことや、従来は希望者全員が例外なく再雇用されていたことから、70歳まで雇用される合理的な期待があったとして、再雇用後の地位確認などを求めました。東京地裁は、従業員には70歳まで雇用が継続されるとの合理的な期待が認められ、再雇用を拒否する客観的かつ合理的な理由もないとして、特別専任教員としての労働契約上の地位を認めました。<事案の概要>学校法人Yの就業規則では専任教員の定年は満65歳と定められる一方、定年退職者を1年の有期労働契約で特別専任教員として再雇用する制度が設けられ、契約更新の上限は70歳とされていました。Yでは過去約15年間、再雇用を希望した専任教員7名について例外なく70歳まで再雇用する運用が行われていました。Xは、Yへの採用前に、65歳以降は総報酬が約7割になるが職務内容は変わらず70歳まで雇用が保障されるとの説明を受け、これを信頼して前職を退職しYに転職しました。しかし、Xが65歳の定年を迎えた際、Yは特別専任教員としての再雇用を拒否しました。そこでXは、採用前の説明、再雇用規程の内容および従来の運用からすれば70歳までの再雇用について合理的な期待があり、Yによる再雇用拒否は無効であるとして、特別専任教員としての労働契約上の地位確認などを求めて提訴しました。<判決のポイント>Yの定年は65歳であったため、65歳未満の定年制事業主に65歳までの雇用確保措置を義務付ける高年法第9条は直接適用されず、Yに70歳までの再雇用義務はありませんでした。しかし裁判所は、高年法が直接適用されない場合でも、労働者が定年後も再雇用されることを期待することに合理的な理由がある場合には、その期待が法的に保護されうるとしました。この判断にあたり、有期労働契約の更新期待を保護する労働契約法19条2号の趣旨を類推適用し、定年により無期契約はいったん終了するため同条を直接適用することはできないものの、雇用継続への合理的期待を保護する趣旨は定年後再雇用にも妥当するとしました。合理的な期待の有無について、裁判所は、①70歳までの再雇用制度が設けられていたこと、②長年にわたり希望者全員が例外なく再雇用されてきたこと、③採用前に報酬が7割になるものの70歳までの雇用が保障される旨の具体的な説明を受け、これを信頼して前職を退職し転職したことを重視し、Xの期待には十分合理的な理由があると認めました。一方、Yが再雇用を拒否したことについて、その期待を否定するに足りる客観的に合理的な理由や、拒否せざるを得ない特段の事情は認められませんでした。そのため裁判所は、Yによる再雇用拒否は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないと判断し、YとXとの間には再雇用規程に基づき特別専任教員として再雇用されたのと同様の労働契約関係が成立しているとして、Xの地位を認めました。<学ぶべきポイント>本件は、高年法の義務が直接適用されない65歳以降の再雇用であっても、会社の説明・規程・過去の運用によって、労働者に雇用継続への合理的な期待が生じうることを示した事案です。65歳までの雇用確保は法律上の義務ですが、70歳までの就業機会確保は努力義務にとどまるため、65歳定年制の企業が法律上当然に70歳まで全員を雇用しなければならないわけではありません。しかし、企業が独自に70歳までの再雇用制度を設け、原則として再雇用される旨を説明し、実際にも長年希望者全員を再雇用してきた場合には、雇用継続への合理的な期待が生じ得ます。特に採用前の説明は重要な考慮要素とされており、「70歳まで働けます」など断定的な説明をした場合には、労働契約の内容や期待を形成する可能性があります。制度の文言だけでなく実際の運用も重視される点にも注意が必要です。規程上は選考の余地があるように記載されていても、長年にわたり希望者全員を再雇用してきた実績があれば、合理的な期待が形成されることがあります。将来対象者を限定する可能性がある場合には、基準を明確にして一貫して運用し、運用を変更する際は事前に対象者へ説明することが求められます。企業としては、再雇用制度の対象者・契約期間・更新基準・職務内容・報酬・再雇用しない場合の事由・制度説明資料・過去の再雇用実績などを整備し、再雇用を拒否する場合には客観的に説明できる基準に基づいて判断し、その検討過程を記録に残しておく必要があります。また、組合活動や職務遂行能力と関係のない事情を判断要素とすべきではありません。再雇用制度は法律上の義務として設けたものでなくても、一度制度として明示し長期間一定の運用を続ければ、企業が自由に変更・拒否できない場合があることを示した判例です。提供:税経システム研究所
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2026/08/31 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第26回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で住宅リフォーム業を創業して20年、従業員規模18名の中小企業です。大手住宅メーカーのリフォーム部門の協力企業としてスタートしました。現在は大手住宅メーカー向けの協力企業事業、近隣のマンション・戸建住宅を中心とするリフォーム受注の自主事業の二本柱を半々で展開中です。協力企業事業の売上はこのところ微増ですが、単価的に厳しいので薄利となっています。自主事業の方は、中古マンションのリノベーションの需要が増えていて、地場の不動産業者と連携して順調に受注しています。新規事業として、戸建住宅向けに、リモートワークや趣味のための防音室事業をはじめたのですが、まだ実績が不足しています。どのように今後この事業を進めたらよいでしょうか。■住宅ストックの状況国土交通省の建築物リフォーム・リニューアル調査報告(令和7年度第4四半期受注分、令和7年度計)を見ると、住宅・非住宅のリフォーム等の工事受注高の推移は、図1に示される通りです。図1建築物リフォーム・リニューアル調査報告(国土交通省)令和7年度計の住宅に係るリフォーム工事の受注高は4兆9,033億円で、非住宅建築物に係る受注高は11兆5,071億円です。住宅リフォームの市場は約5兆円ですが、過去10年の推移を見る限り、急成長しているとは言えない業界です。非住宅の方が市場規模は倍あります。住宅リフォームの需要は、水回り、外装、内装、その他の4領域に分かれます。御社は水回りと内装に実績があり、そこに防音室事業を得意分野に加えようとしています。新事業は、技術的には、水回りと内装という室内リフォームの延長上にありますが、マーケティング上の工夫が必要となります。つまり技術シナジーはある程度あるものの販売シナジーに課題があり、そこをどうするかという状況にあると思われます。図2建築着工統計(国土交通省)住宅ストックを理解するには、過去の新築着工件数の推移を見ることも重要です。図2に示されている通り、直近では70万戸台まで低下しています。2008年まで住宅着工件数は100万戸を超えていました。マクロには、住宅着工件数は、{生産年齢人口}と金利、税率や景況を含めた{経済状況}との因果関係が想定されます。日本の生産年齢人口のピークは1995年、日本の人口のピークは2008年でした。働き手が30代から40台に入ったあたりで住宅取得する一時取得需要がけん引し、着工件数にプラスに働くと考えられます。生産年齢人口が減少していく中、分譲住宅と持ち家の件数は減少しています。それに対して貸家の供給は、急激に減少してはいません。新規着工件数は、減少していますが、その一方で空き家は総務省の調査によれば、約900万戸です。単純計算で、新規着工件数の10年分以上の空き家があることになります。空き家を処分するには、解体、売却、賃貸の3つの出口があり、そのうちリフォーム・リノベーションの需要につながる案件は一定比率で出てくると思われます。図3死亡数と死亡率の推移(令和7年人口動態統計、厚労省)また、今後の住宅市場に影響を与えるデータとしては死亡に伴う相続数の増加にも着目する必要があります。図3に示されている通り、2025年の死亡数は159万人で、今後死亡に伴う相続件数は年々増えていきます。夫婦の一方が亡くなった場合は、その住宅は必ずしも空き家となりませんが、二次相続の時は空き家となります。その場合、子供世代の相続人が解体、売却、賃貸のどの出口を目指すかを考えることとなります。潜在的なリフォーム・リノベーションの需要がここにあると言えるでしょう。■御社の経営戦略の体系今のところ、住宅リフォームの市場は図1に見られるようにマクロには急成長しているわけではありませんが、マーケティング次第では需要を掘り起こすことができる可能性があります。御社が協力企業として取引している大手住宅メーカーは、当然その需要に着目した動きをするでしょう。むしろ御社は、自主事業の方で、マーケティング力ある連携パートナーと組む、あるいは自社で独自のマーケティング戦略を立案することが伸びしろとなります。御社の経営戦略を体系化すると、賃貸住宅、マンション、戸建て住宅の3タイプの市場をどのように攻めるかということになります。表1御社の経営戦略の体系1.賃貸住宅の高付加価値化意識の高い賃貸ハウスメーカー等との連携2.マンションの高付加価値化不動産業との連携、または不動産機能の内部化3.戸建て住宅の高付加価値化不動産業との連携、または不動産機能の内部化特に、中小企業である御社は、数をこなす事業を追求するというより、「高付加価値なリフォーム」に関する潜在的市場を可視化していくことが求められます。例えば、賃貸ハウスメーカーも、築年が古くなったとしても一定の家賃と入居者が見込めるようにするにはどうすべきかを悩んでいます。意識の高い賃貸ハウスメーカーと連携することで需要にアクセスすることが可能となります。築年数の古い中古マンション・戸建て住宅を取り扱う不動産業の中から、リノベーションにより付加価値を上げて販売するパートナーを探して連携するという方法もあります。それ以外の選択肢としては、財務基盤の範囲内で、御社も不動産業としての機能を内部化していくという道があります。市場情報をつかむアンテナとしての機能を小規模に保有し、顧客や優秀なパートナーを発見していくのです。御社が取り組んでいる防音室事業も、立地によっては高付加価値となり得るものです。問題は、防音室事業を進める際に、表2の体系のどこを狙うかです。防音室の設置方法、防音性能、用途について、どこに強みを持つか、そのために何をするかです。大手楽器メーカーが得意とするのは、ユニット型の防音室です。表2防音室事業の領域防音性能も高いものから低いものまで品揃えしています。音圧の高い楽器は、ドラム、金管楽器、グランドピアノ等ですが、これらを楽しむには高い防音性能が求められます。しかし、このユニットタイプは「部屋の中に箱型の部屋をもう一つ置く」のですから、住宅のどこに置くかが課題となります。建設業の中には、住宅の部屋をカスタム工事により防音室に変える事業を行っている企業もあります。ユニット型より、部屋のレイアウト面では優れていますが高価となります。新規建設時に防音室を当初から設計に入れておく方法もありますが、これはリフォームとは異なる売り方となります。リモートワーク用途の場合は、企業秘密が漏れない程度の防音性能、さらには情報機器設置のコンセントや通信回線といった要素が重要となります。夫婦がそれぞれリモートワークするような家庭では、複数名利用のための配慮も求められます。製造業の中には、防音機能を持つ超小型住宅を庭などに設置する提案をしている企業もあります。楽器メーカーの部屋に置くタイプより割高となり、郊外の庭が広い住宅地に置くか、企業のプレゼンルームとするかです。防音室事業では、マーケティングの4P、即ち、どのような販売網で、どのような商品を、どのような価格で、どのように売るのかが重要です。良い商品開発がなされても、顧客への訴求方法次第では、販売費をかけた割に売れ行きがイマイチとなることもあります。自社の強い用途(アプリケーション)に関する経験を蓄積し、潜在的なニーズを顕在化させるために、顧客に近いポジションを取る。そのためには、意識の高いパートナーと連携し、必要に応じて自前のマーケティング力を磨き、顧客との接点を増やしていくことが基本となります。提供:税経システム研究所
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2026/08/03 日本経済と世界経済
平和が当然と考える世界は終わった! ~世界は戦前といわれる時代に入った~
1太平洋戦争が終わった後に生まれた自分は、日本は二度と戦争はしないと思って育ってきた。学校でもスイスのような永久平和の国を目指そうと教えられてきた。軍隊も持たず、平和!平和!と念仏のように唱えていれば、平和は維持できるかのように思ってきた。しかし、自分が大学生の時、隣に座ったベトナム人の姉弟から「ベトナムは70年に1回、必ず中国に攻撃された。中国が発展しているときはベトナムは敗けたが、中国が力を失って国民の不満を外に向けようとしてベトナムが攻撃されたときは、ベトナムが中国軍を破った。70年もたつと戦争した人達が死んだり、力を失うから、戦争を止めようとする人がいなくなり、また戦争を繰り返す。ベトナムはいつもその相手とされてきた。」いわゆるアメリカとのベトナム戦争はベトナムの勝利に終わっていたが、次は中国と戦った中越紛争が起きている最中だったこともあり、「ベトナムは常に戦争に巻き込まれていて、太陽が西から昇ってもベトナムに平和は来ない。日本は原爆も投下されて大変な事態になったのに、東京オリンピックも成功して平和を取り戻し、大発展している。」と涙ながらに日本の平和を羨ましがった。その話を聞いて、戦争は自国が起こさなくても、他国からしかけられることがあり、その戦争に敗けないためには一定の防衛力が不可欠だと思った。その後、自分が欧州を回った時に、スイスが永久中立国といわれているのは、ナチスヒットラーがスイスの防衛力の強さと、スイスの地勢上の有利さもあって、スイスを攻めるより、スイスは放っておいて、フランス等を攻撃すべきだと考えたからだと知った。事実、スイスは徴兵制があり、かつ防衛力を備え、各家にはシェルターも義務付けられていると聞いた。日本は島国であったため、中国の元の時代に元の国から攻められた「元寇の役」のみが、日本全体が外国から攻められた経験であり、戦争は日本が起こさなければ戦争は起きないと教えられてきたように思う。2(1)しかし、今世界に起きている現実は明らかに平和の時代とは言えなくなった。ロシアのプーチンが起こしたウクライナ攻撃は、すでに4年半にもなろうとしている。ウクライナ全土が攻撃され、ロシアも最近はモスクワまでウクライナ側が攻撃している。更に、イスラエルとパレスチナのハマスとの戦いは熾烈を極め、ガザ地区へのイスラエルの攻撃は今も続いている。また、イスラエルによるレバノンのヒズボラへの攻撃は、アメリカ、イランの戦争中断後も続いている。(2)イスラエルのネタニヤフ首相にそそのかされたアメリカのトランプ大統領のイラン攻撃は、現在中断しているとはいえ、イランによるホルムズ海峡の封鎖によって、世界の原油市場の大混乱を引き起こしている。(3)アメリカトランプ大統領が昨年11月に公表した「米国国防戦略」では①アメリカは西半球に傾注するので東半球は各国で危機を乗り越えるべしとして、ロシアとEUの問題や、中国とアジアの国々(台湾、日本、韓国等)の問題に米国は関与しないと明言した。②台湾有事には全く触れておらず、中国による台湾併合を容認するかのような内容となっている。③歴史や文明の違う国々において、民主主義を強要しないと中国等の共産主義を容認する内容となっている。(4)この国防戦略を受けて、中国の習近平総書記は台湾有事に軍事上の理由から歯止めをかけてきた張又侠中央軍事委員会副主席等を排除して、台湾併合への軍事的圧力を強め、台湾有事は現実のものとなってきている。実際に台湾人の方々が沖縄等のマンションを購入して、台湾が香港のような状況になった時に備えて、亡命する準備を始めだしている。(5)また、西半球に傾注するとしたアメリカはベネズエラのマドゥーロ大統領を攻撃して拘束し、ベネズエラに親米政権をつくってきている。そのため、キューバへのベネズエラからの石油輸出がストップし、キューバもアメリカからの圧力で経済は全くマヒ状態になってきている。(6)アメリカの国防戦略でロシアとの対立は自ら防衛すべしとされたEUは各国にGDP比5%の国防費を義務づけた。財政均衡を至上命題としてきたドイツも、国防費については財政均衡の例外を認める憲法改正を行い、国民に対して徴兵制を再開した。この徴兵制はウクライナ同様、18歳以上の徴兵年齢に達すると、海外にいる方々も帰国して、徴兵を受けねばならないというものだ。韓国のような海外にいれば徴兵義務は免除されるというものではない。以上のように、世界中が戦争に向けて動き出し始めた。まさに太平洋戦争から81年、世界はまた戦争の時代に入った。3日本は紛争地から離れ、平和を享受してきたために、こうした世界情勢をあまり理解していないようだ。ベトナム人が言うように、ベトナムの歴史を見れば70年に1回は戦争は起きているのだ。相手国から攻められた時も、戦争に踏み切るには「勝利」ないしは「敗戦しないという姿」が見えてなければ戦争はやってはならない。そのために一定の国防力は必要だし、相手国も戦争をしかけても意味がない、あるいは、時間と軍費をついやすだけの価値がないと思わせるだけの準備は必要だ。まさにスイスが永久平和と言い切れるのは、それだけの準備をしているからだ。しかも、日本は狭い国土に人口が1億2千万人以上もいて、平和で世界と自由貿易をしなければ国民を養っていけるはずがない。以前、ベトナム歴史学者が太平洋戦争について語っていた。「日本は江戸時代まで鎖国でいたので、日本の人口は3千万人余であった。しかし、その後日本は開国し、世界の国々と貿易をしたので人口は急増し、太平洋戦争直前には7千800万人にもなった。自由貿易でなかった当時、日本の国土だけではその人口を養うことはできず、満州等へ侵出しなければならなかった。間違ったのは中国はプライドの高い国だから、戦争で勝って満州をとったのがまずかった。勝っても謝りに行ってお金で満州等を割譲してもらえばよかった。」確かに日本は人口急増の下で、日本人を養っていく必要があったのは事実だと思った。太平洋戦争後7千300万人になった日本は、国土の狭さからブラジル移民等を行ったが、自由貿易が拡がることにより、国土を拡げずとも1億2千800万人にも増加した。今は、少子高齢化で1億2千300万人と減少してきているが、この人口も自由貿易なしには成り立たない。したがって、日本は平和と自由貿易なくしては成り立たない国なのだ。米国や中国、インドのような大国は自由貿易なくしても何とかやっていけても、日本をはじめベトナム、タイ、ヨーロッパ各国等は平和と自由貿易によって成り立っていることを忘れてはならない。世界が戦争の時代に入っても、日本が平和を追求し、その仲間を増やしていかねばならないのは、その国土と人口との関係を見れば明らかだ。もはや、世界はいわば戦前の状態になっているという現実を直視する必要がある。提供:税経システム研究所
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2026/07/31 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】中小企業経営力強化税制の概要紹介と地方公共団体の補助金のご紹介をいたします。近くまた金利が上がると言われています。融資残高のある企業には直接コスト負担が乗ってきます。それにも関わらず金融機関の融資姿勢はおおむね絞られつつあり、新しい融資資金の調達はそう簡単ではなくなりつつあります。社会保険料や税金等もスムーズに軽減される見通しは明るくなく、消費税率の軽減も食品等のみと言われています。そのことで打撃を受ける業種もあるといわれています。重税感の結果税収は上振れしてきました。しかし税金の余剰をクイックに還元調整する動きも見られていません。私が取り上げてきている補助金も、申請の難解さ煩雑さに加え、補助金予算の大半が委託先に支払われていることで(持続化給付金の件で公正取引委員会が調査)グレー感が強くなっています。これまでは、経済産業省の企業向け補助金についてレポートしてきましたが、補助金は地方公共団体でも出されています。企業と個人両方が受給できるものもあります。今回は少し補助金の視野を広げてご紹介しています。(1)2026年度の経済産業省の企業向け補助金傾向「デジタル化・AI導入」「省力化・省エネ投資」「住宅の断熱改修」を強力に支援する補助金が中心です。特に賃上げと生産性向上を目的とした設備投資に対するサポートに重点が置かれています。補助金の課題は申請の難解さ煩雑さ、採択率でしたが、それを懸念される企業では、「中小企業経営力強化税制」による即時償却を活用し、法人税を軽減する手段が多く使われています。(2)中小企業経営力強化税制特色のひとつに「ソフトウエアの導入投資」の一括即時償却があります。「中小企業経営力強化税制」とは、対象設備を導入する際、一定の手続きを踏むことで、設備投資費用を初年度一括で即時償却できる税制です。(出典:角倉税理士資料抜粋)①生産性向上設備(A類型)の場合1)対象設備の要件は、1:一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はありません)2:経営力の向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度など)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備(※)※ソフトウェアについては、情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの2)生産性向上設備(A類型)の税制活用手続き①設備ユーザーは、当該設備を生産した機器メーカー等(以下「設備メーカー」)に証明書の発行を依頼してください。②依頼を受けた設備メーカーは、証明書(様式1)及びチェックシート(様式2)に必要事項を記入の上、当該設備を担当する工業会等の確認を受けてください。(注)設備の種類ごとに担当する工業会等を定めております。詳しくは中小企業庁ホームページご参照。http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/③工業会等は、証明書及びチェックシートの記入内容を確認の上、設備メーカーに証明書を発行してください。④工業会等から証明書の発行を受けた設備メーカーは、依頼があった設備ユーザーに証明書を転送してください。⑤・⑥設備ユーザーは、④の確認を受けた設備を経営力向上計画に記載し、計画申請書及びその写しとともに④の工業会証明書の写しを添付して、主務大臣に計画申請します。主務大臣は、計画認定書と計画申請書の写しを設備ユーザーに交付します。⑦・⑧認定を受けた経営力向上計画に基づき取得した経営力向上設備等については、税法上の他の要件を満たす場合には、税務申告において税制上の優遇措置の適用を受けることができます。税務申告に際しては、納税書類に④の工業会証明書、⑤の計画申請書及び⑥の計画認定書(いずれも写し)を添付してください。3)中小企業経営力強化税制申請等の問い合わせ先(3)各地方公共団体の補助金例地方公共団体の補助金は、主に市民生活に関係するものの導入補助を念頭に置いています。筆者が28歳でコンサルティング会社を退職し、メーカーで独立した際には年収が1/10に低下し、乳児を抱えていたこともあって、最低限の生活維持のために地方公共団体の補助金をフル活用した経験があります。昇給賞与が思うように実現できない企業では個人向けの補助金受給を促進されることは従業員にとって助けになります。地方公共団体によっては中小企業向け補助金や補助制度があるところも多くあります。たとえば、名古屋市では独自に「小規模事業金融公社」https://nb-fun.jp/を持っており、独自創業する事業者や一般の中小企業事業者に資金を貸し付けてくれる機能があります。また、大阪府では今年度「利益率向上賃上げ支援事業」としてDX化による自動化推進の設備投資を補助しています。1)住宅・リフォーム向け補助金政府は2050年カーボンニュートラル実現等に向けて、「住宅省エネ2026キャンペーン」と呼ばれる4つの支援事業を実施することにしました。以下それぞれに補助金があります。住宅省エネ2026キャンペーンみらいエコ住宅2026事業先進的窓リノベ2026事業給湯省エネ2026事業賃貸集合給湯省エネ2026事業先進的窓リノベ2026事業:既存住宅の窓を高断熱窓へ改修する費用を支援(1戸あたり最大100万円)。給湯省エネ2026事業:エコキュートなどの高効率給湯器への交換を支援。みらいエコ住宅2026事業:断熱改修や省エネ設備の設置などをサポート(最大100万円)。2)生活支援型の補助制度6月末締め切りの主な地方制度福岡市「燃料費等高騰の影響を受けた事業者支援」(事業者向け)東京都町田市「物価高騰対策事業者給付金」(事業者向け)大阪府岸和田市「物価高騰重点支援給付金」(必着)東京都世田谷区「物価高騰生活支援給付金」(消印有効)国「物価高対応子育て応援手当」※申請が必要な方(八王子市・町田市・世田谷区など。期限は自治体により異なり、すでに終了した自治体もあります)(4)まとめ補助金のレポートを発表する際に、経産省の補助金ついて使い勝手の悪さを毎回執拗に説いてきました。今回はその使い勝手の悪い制度よりもシンプルで資金繰りに活用しやすい制度として、「設備投資の即時償却」に関する税制の活用と地方公共団体の補助金についてご紹介しました。環境変化があっても、自社に逆風が吹いても、企業は前に進んでいかねばなりません。そのためには情報に敏感になり、乗り切る方法を柔軟に考え知恵を絞ることが必要になります。経営者の講演会講師をさせていただき、懇親会に参加しますと、不平不満のご主張をどちらでも伺います。当事者のストレスは当事者にしかわからない強いものです。ただ、冷静に言いますれば、そこから生まれるものは少しばかりストレスが緩和される程度で、なんらストレスの原因を解決することつながりません。ストレスの原因解決に関連することを研究レポートで少しでも提示できればという思いでおります。また、ストレスフルな環境がチャンスだと、後継の若手経営者が突き抜けられ、急激な成長軌道に乗せていかれる企業も少なからず存在することを知っております。ただそれらの企業は資金余力がある程度あり、長期視野で前を向ける条件があるという場合が一般です。生き残るために全力を尽くさねばならない企業がまた増えている中で、まずは存続確保をしっかり固めていきたいと思います。提供:税経システム研究所
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2026/07/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(224)
1.はじめに近年のAIの進化はめざましいものがあります。日常生活や仕事を進める上で、利用している方も多いのではないでしょうか。これまでであれば、何かわからないことや調べ物をするために、Googleなどの検索サイトに検索ワードを入れ、さまざまなサイトを渡り歩いてようやく結論を得ていたのに、今やAIに自分が求めていることを指示すれば、一応もっともらしい回答がほんの数秒から2、3分もあれば返ってくるようになっています。業務の中でも、資料作りや会議の議事録作成など、これまで時間をかけて対応していた業務が大いに効率化された…といった身近なところだけでなく、AIを労働の担い手として、これまで人が担ってきた業務を代替するような革新的な技術が次々と登場してきています。このようなAIの進化を含む、企業のDX化が進むに伴って仕事の進め方が変わり、従業員には新たな知識や能力が求められるようになってきました。このような背景から、近年はリスキリングやキャリアアップへの関心が、労使を問わず高まっています。国も各省庁が連携して「学び・学び直し」に取り組むことができるよう、各種支援策を提供しています。業務に関連する資格取得を支援する制度を用意している企業も多くみられます。従業員の能力向上やキャリア形成を後押しするだけでなく、業務品質の向上や離職防止、新規採用を行う際のアピールポイントとしてなど、企業にとってもメリットの多い施策のひとつといってよいでしょう。今回は資格取得支援制度を運用していく際のポイントについて考えてみます。2.資格取得支援制度とはどのようなものか国内には「国家資格」として認められているものが300以上、民間資格を含めるとこれを超える相当な数の「資格」とされるものが存在します。資格取得支援制度とは、企業が業務上必要とされる資格を従業員が取得する、または取得した場合に、主に金銭面で支援する制度のことです。その資格がなければそもそも業務に携わることができないものや、資格があることで、確かな知識・技術などが裏付けられるといったものまでさまざまですが、曲がりなりにも、業務に関連し、役立つレベルの資格となれば、それなりに難易度は高いと考えられますし、それを取得するには何かとお金がかかるものです。資格取得支援制度(以下「制度」)は資格取得に係る従業員の金銭的な不安・負担を支援していく制度であるわけですが、多くの場合、以下のような形で具体的な支援が行われているようです。【資格取得支援制度の代表的な例】資格取得費用の一部または全部を負担する資格取得後に報奨金を支給する資格取得後、毎月の賃金において資格手当を支給するでは、この制度により企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。3.資格取得支援制度による企業のメリット・デメリット制度により、企業が得られるメリットとしては以下のようなものが挙げられます。1.従業員のスキルアップやモチベーションアップ資格を取得するためには、試験や検定に向け、自発的に学習や訓練をしなければなりません。制度を利用するとなれば、基本的には、事前に企業に対し、費用負担を求める申請が必要となります。対外的に資格にチャレンジすることを公言するわけですから、自ずとその準備には真剣味が出るものです。それらの学習や訓練を通じ、従業員のスキルアップが期待できます。また、めでたく資格取得できれば、それが従業員自身の自信につながり、仕事へのモチベーションアップにもつながりますし、毎月の資格手当などは企業への定着につながるインセンティブとなり得ます。2.自社の生産性向上資格取得により従業員のスキルレベルが1ランクも2ランクもアップしてくれれば、それは自社の生産性や業績の向上に間違いなく資することになります。3.採用の際のアピールポイントとなる新規・中途を問わず、採用の際に「従業員の資格取得を積極的支援している」姿勢を明確に打ち出すことは、求職者に対し「人材育成に力を入れている」「自身のキャリアアップにつながる」などを訴求することにつながり、他社との差別化をアピールするポイントになります。一方で、制度の存在によるデメリットも忘れてはなりません。1.支援のためのコスト増資格取得を金銭面で支援するのがこの制度の根幹ですので、それなりのコスト増は覚悟しなければならないでしょう。支援で負担したコストは先述のメリットを将来的に受けるための投資と考えれば、必ずしもデメリットといえるものではないのかもしれません。2.資格取得後、早期に退職されるリスク制度を利用し、めでたく資格取得に至った後、程なくして退職を申し出るケースも散見されています。支援したコストが無駄になるだけでなく、取得した資格を活かして同業他社に転職し、自社を脅かす存在にならないとも限りません。後述しますが、何らかの対策を備えておきたいところです。これらを踏まえて、制度を策定・運用するためには、どのような点を考慮していけばよいのでしょうか。4.資格取得支援制度を策定・運用するためのポイントは?制度を導入しさえすれば、従業員が積極的に利用し資格にチャレンジしてくれる…といった単純な話ではありません。実際、制度を作ったものの、あまり利用されずに形骸化してしまっているケースも少なくはないのです。労使ともにwin-winとなる制度にするためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。1.制度の対象となる資格の選定先述の通り、国内には多くの「資格」が存在しますが、企業としては、自社の業務に直結する資格を取得する従業員を支援したいのは当然のことです。全社員に取得を奨励する資格、部署単位で奨励する資格など、業務との関連を十分に吟味して、支援対象とする資格を選定しましょう。2.早期退職されるリスクへの対策資格取得後の早期退職リスクへの対策は最大の課題とも考えられます。この場合、支援した費用の全部または一部でも返還させたくなるものですが、事はそう簡単には運びません。例えば、「資格取得後○年以内に自己都合で退職した場合、支援した費用は返還しなければならない」のような条件は、労働基準法第16条に定める「違約金と賠償予定の禁止」に該当する可能性があり、実際に類似の規定が無効とされた判例も存在しています。(富士重工事件H10.3.17東京地裁)早期退職に伴い、支援費用の回収が困難なることを避けるため、支援費用を「支給」するのではなく、労使合意のもとで「貸付」し、一定期間の勤続を条件に、返済を段階的に免除する方式を採用している企業もあります。この方式は、「支援費用として貸し付けられた金銭は、返済を原則とするが、資格取得後一定期間勤続した場合は返済を段階的に免除する(例:1年勤続ごとに30%免除、3年勤続で全額免除)」のような形です。この方式については労基法16条に抵触しない可能性が高まるものとされています。資格取得支援としては、金銭的な支援もさることながら、資格取得に向け、学習しやすい体制を整えることもサポートの一種と考えられます。最近では、eラーニングの時間を確保したり、スマートフォンで学習できるアプリを提供することにより、場所を問わず効率的な学習ができるようにしている例もあります。資格取得は一部の特別な従業員だけのものではなく、誰でもチャレンジすることが当たり前と思えるような社内の雰囲気を醸成していきたいものです。提供:税経システム研究所
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2026/07/30 医療経営
戦略的医療機関経営 その172
【サマリー】医療機関の経営を取り巻く経営環境は、今まで以上に厳しい。診療報酬という公的価格の中で、医業経営を行わなければならないので、前回までレポートしていたように厚生労働省(国)も公的価格である診療報酬を引き上げた。しかし引き上げた財源の半分以上が医療機関に勤務している職員のベースアップ(給与)に回るため、医療機関の経営の厳しさは変わらない。厚生労働省内で、「医療法人の経営情報のデータベース化」を実施する議論が進められているので、その内容を今後レポートで行うとともに、筆者自身の本業である医療機関の原価計算を管理会計の立場からも解説を加えたいと考えている。データベース化が整えば、医療機関の経営指標や予測に役立つ。さらに経営情報の基幹となるのは会計情報である(もちろん非金銭情報もある)ので、本研究会にとっても役立つ情報提供が可能と考える。1.はじめに(目的と留意点)厚生労働省で議論が行われている「医療機関のデータベース化」の資料から目的の部分を抜粋すると以下のとおりです。我が国では、高齢人口の増加や医療の高度化など国民医療費が年々増加し、また、今後、生産年齢人口の急激な減少や医療資源の地域格差など医療制度上克服すべき課題がある。また、新型コロナウイルスの感染拡大に際して、医療機関支援などの政策を進めるために必要なエビデンスとしての医療機関の経営状況の把握ができず、国民への情報の提供が十分ではなかったことも課題である。こうした医療を取り巻く課題に対応するための政策を進めるためには、医療の置かれている現状と実態を表す情報をもとに国民に対して丁寧に説明していく必要がある。地域医療の担い手である医療法人は、運営の透明性が求められており、その運営状況を明らかにすることにより医療が置かれている現状と実態を表すことは、医療法人制度の趣旨とも齟齬を来さない。このため、政府方針等でも医療法人の経営情報の収集及びそのデータベースの構築並びに、国民への丁寧な説明について、検討が必要とされている。要約すると、少子高齢化という人口構成の変化がある。コロナのような予測不可能な状況に十分に対応できる体制や余力がない。医療機関の置かれている経営環境は厳しい。公的な診療報酬点数という制度のなかで運営されているので、国民に説明する必要がある。同じく、公的な診療報酬という金銭が入っている以上、その経営状態を透明化しておく必要がある。以上の理由から、医療機関の経営情報のデータベース化を進めるというになります。医療機関の経営に直接役立てるためではなく、政策活用に利用するということが垣間見られます。しかし、今後この医療機関の経営情報のデータベースが公表、開示されることから、医療機関の経営に役立てる情報とすることが可能であると考えます。さらに医療機関の経営情報のデータベース化を行うにあたり、留意する点も提示しているので、下記に記します。□留意点(抜粋。太字は筆者加筆)医療法人の経営情報の提出は、調査主体が被調査主体を抽出し、被調査主体が任意で回答する調査ではなく、医療法人への義務的な全数把握であることが特徴として、これを踏まえた制度設計を進めるべきと考えられる。一方、全ての医療法人に経営情報の提出を義務づけるのであるならば、一般的に医療法人が提出可能な制度であるべきと考えられ、医療法人が既に取得・収集している情報をもとにすべきと考えられる。また、対象は医療法人のみであることから、新たな制度で政策のエビデンス全ての情報を得ようとすることには限界があることを踏まえて制度を検討すべきと考えられる。なお、新たな制度の目的は医療法人の経営情報のデータベースの構築とその活用にあり、法人の監督・指導を目的とする事業報告書等とは異なることからこれらは別制度とすることを前提にすべきと考えられる。全数把握という点は統計学的な観点からは評価できますが、対象が医療法人のみとなると、利活用できる対象医療機関が限定されてきてしまいます。今後の議論の中でどのようになるのか見守りたいと思います。2.データベースの対象となる医療法人この新たな制度では、現行の事業報告書等に含まれる損益計算書等よりも詳細な経営情報の提出を求める必要がありますが、合理的理由無く対象・対象外を区分すれば、公平性を欠き、制度への協力が得られず、その目的を果たせなくなる可能性があると指摘されています。このため、事業報告書等の提出が義務化されていることと同じく、新たな制度でも原則、全ての医療法人に対して義務化すべきと考えられます。一方、新たな制度により経営情報の提出を義務化するのであれば、対応が困難な医療法人が出てくることが予想されます。その対応困難な医療法人に、過度な負担を前提にするようなことのないよう考慮も必要であると考えなければなりません。小規模な医療法人は、経理に携わる従業員も限られることが見込まれ、法人税制度上、社会保険診療報酬の所得計算の特例措置(いわゆる四段階税制)が適用されている法人は、社会保険診療報酬に概算経費率を乗じるなどして経費を算出しており、実態を考慮して、こうした法人に限って除外してはどうかという意見があります。参考)小規模な医療法人の例租税特別措置法第67条の適用を受ける医療法人租税特別措置法(抄)第六十七条医療法人が、各事業年度において第二十六条第一項に規定する社会保険診療につき支払を受けるべき金額を有する場合において、当該各事業年度の当該支払を受けるべき金額が五千万円以下であり、かつ、当該各事業年度の総収入金額が七千万円以下であるときは、当該各事業年度の所得の金額の計算上、当該社会保険診療に係る経費として損金の額に算入する金額は、当該支払を受けるべき金額を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる率を乗じて計算した金額の合計額とする。(注)四段階税制の適用を受けている医療法人数(令和2年度)は61法人出典:租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書(令和4年1月国会提出)3.もとめる経営情報仮に情報の提出を医療法人に原則、義務化するのであれば、医療法人が一般的に対応可能な範囲の情報であるべきとの意見から、過度な負担を強いることのないよう考慮すべきと考えられます。(前述のとおり)一方、骨太の方針などの政府方針等で示しているとおり、人件費の状況などを把握したり、補助金や診療報酬改定などへの政策のエビデンスとして活用するのであれば、収集する経営情報は、より詳細な方が、その分活用性も高まります。こうした考えのもと、新たな制度により医療法人に求める経営情報は、「政策活用性の向上」及び「医療法人への業務負担」の両面を睨み検討することが必要と考えられます。これらを踏まえ、医療法人制度では、統一的に会計基準を定めていないが、医療機関ごとの財務諸表を作成することを想定して、任意で病院会計準則を用いることを推奨しており、経営情報の対象として、収益及び費用(損益計算書)については、事業形態の多角化が進む法人もある中、対象を病院及び診療所に限定した上で、医療機関ごとの財務諸表を作成するために策定された「病院会計準則」をベースにしてはどうか※全ての病院で病院会計準則を適用していないことを考慮する必要がある。資産、負債及び純資産(貸借対照表)については、施設単位で作成していない法人も一定数あることから、法人単位である現行の事業報告書等による貸借対照表によるべきと考えられる。以上の意見があります。そもそも会計基準が統一されていないことが最大のネックと言えます。以前からばらばらな会計基準を統一しようという動きはありましたが、現在もまだ統一されています。いわゆる民間病院で使用している病院会計準則が基本となると考えられます。病院会計準則を採用していない医療機関についての取扱いが今後問題となります。貸借対照表については法人単位では作成しているが、施設単位で作成していないところが一定数あるとのこと自体が多少驚いていますが、現在の議論の中では新たに施設単位の貸借対照表を作らせるのではなく、現在作成されている法人単位の貸借対照表を提出してもらうという方向になっていますが、この数が多ければデータベースとしての利用価値が低くなってしまうので注意が必要であると思われます。参考)「医療法人の事業報告書等に係るデータベース構築のための調査研究事業」(厚生労働省委託事業)では、複数の施設を開設している医療法人において施設別に損益計算書を作成していない法人が約3割求める給与関係の情報については、医療従事者の処遇の適正化を進めるため現状の給与の把握には職種ごとの年間1人当たりの給与額の把握が必要と考えられます。「職種ごとの給与費の合計額」と「職種ごとの延べ人数」により算出することとなりますが、医療法人によっては財務情報としては存在しない数値も考えられます医療法人の負担も考慮して既存調査で対応可能なものは、それを活用する観点から「職種ごとの延べ人数」については、病床機能報告の報告を求める時点(病床機能報告では7月1日現在の人数を以て報告されている(派遣労働者等が含まれていることについて留意が必要。)。病床機能報告の対象外となる無床診療所等の医療機関及び病床機能報告で対象としない職種については、病床機能報告の調査対象日と同じ7月1日現在の人数の報告を任意で求めるとし、職種ごとの給与費の合計額(会計年度単位で職種ごとの給与費の支給額情報を持っていない法人もあるため、対象時期を直近1月1日から12月31日までに職員に支給した額とする)については、財務諸表等の作成に必要とせず、医療機関が把握していないことも多いことから、回答を容易にする観点から対象時期を暦年(直近1月1日から12月31日まで)とすることが考えられる。提供:税経システム研究所
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2026/07/30 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第24回)
【サマリー】第21回より最近の中小企業のM&Aについての国(中小企業庁)の働きかけ、具体的には中小企業のM&Aガイドラインについて解説しています。本稿では前稿に引き続き中小M&Aガイドラインの参考資料で紹介されている中小企業のM&Aの事例を挙げ、筆者のコメントを述べたいと思います。1.中小M&Aガイドライン(第3版)での中小企業M&Aの事例経済産業省から公表されている中小M&Aガイドライン(第3版)_参考資料4の「中小M&Aの事例」では以下のような事例が紹介されています。本稿では⑤譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例などを説明します。2.譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例(1)メッキ加工事業の会社のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:メッキ加工業・売上高:2億円・従業員:10名・業歴:45年◆譲り受け側:B社・業種:溶接加工業・売上高:10億円◆関与した支援機関::(顧問)税理士、M&Aプラットフォーム【意思決定に至るまでの経緯】A社は代表者である隅田(仮)が80歳間近となる中、熟練の職人を抱えていたものの親族・従業員に承継意思のある後継者が不在のため、中小M&Aを検討し始め、顧問税理士に相談した。【成立に至った経緯】A社は顧問税理士に勧められM&Aプラットフォームを活用した。複数件の譲り受け側候補のうちの一社が他地域で溶接加工会社を営むB社であった。B社は、A社の熟練の職人の技術力を評価し、自動車用金属部品の加工の点で自社事業との相乗効果(シナジー)があると考え、事業譲渡契約締結に至った。但しA社及び隅田は従業員の雇用継続を第一条件として伝えたことにより譲渡額は譲歩した。【成立に至った後の経緯】B社はA社及び隅田との約束通り、A社従業員の雇用を全て引き継いだ。それと並行してB社は全従業員へのヒアリングを行い、中小M&Aを機に人事制度改革・働き方改革等を進め、待遇の改善が実現した。上記事例は後継者不在の状況の中で、すべての従業員の転籍を条件とした事業譲渡の成功例です。M&Aの譲り受け企業は自社の雇用条件を提示することによって、当該条件を受け入れる譲り渡し側の従業員が転籍に応じることが一般的です。譲り渡し側の従業員と譲り受け側の従業員が融合するために業務プロセスなどを見直す作業をPMI(PostMergerIntegration)と呼びますが、当該事例はM&Aをきっかけに全社的に様々な制度改革を実施した珍しいものといえます。A社とB社の給与水準や人事制度は当然異なりますのでこれを調整するのは難しいのですが、譲り渡し側の従業員にとって現状維持または処遇改善は必須条件と思われますので、譲り受け側の経営陣は多少のコストアップが見込まれても当該事例のように制度改革を進めていくのが将来的にも望ましいものと筆者は考えます。(2)家具等製造業の会社のM&A(株式譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:家具等製造業・売上高:3億円・従業員:20名・業歴:35年◆譲り受け側:B社・業種:家具等製造業・売上高:60億円◆関与した支援機関:事業承継・引継ぎ支援センター、M&A専門業者【意思決定に至るまでの経緯】A社代表者である大野(仮)は65歳になったが、子はおらず他の後継者候補もいないことから、事業承継・引継ぎ支援センターに譲り受け側探索の相談をした。大野は長年育んできた事業に愛着があり、引き続き事業に関与したいと考えていたが、他人に譲った事業に関与させてもらうことは難しいだろうと半ば諦めていた。【成立に至った経緯】A社は決して大規模ではないが良い製品を作ると業界内では評判であり、譲り受け側B社(同業の大手)がすぐ見つかった。大野は言い出して良いものか悩みながら、事業を譲り渡した後も引き続き事業に関与したい、その代わりに譲渡額については譲歩しても良い、とトップ面談でB社に正直に打ち明けた。B社は、A社の生産体制にとって大野の高い技術力が重要であると認識しており、大野による提案を受け入れ非常勤(週3日勤務)で技術指導を依頼することにした。譲渡額は若干減額したが大野はA社の全株式をB社に譲渡した。【成立に至った後の経緯】大野は希望通り引き続きB社において事業に関与している。一方、毎週4日間の休日は妻と一緒に「夫婦水入らず」の時間を楽しんでいる。上記事例は譲り渡し側の経営者が株式譲渡後も譲り受け側の事業に関与しているものです。中小企業のM&Aでは株式譲渡によって譲り渡し側のオーナーが退任することが一般的ですが、製造業や特殊な技術やノウハウ、これまでの人脈やセールスルートが必要な業種では当該事例のように一定期間、取締役や顧問に残るケースも増えてきました。また、近年は譲り渡し側のオーナーが40代や50代といった比較的若い世代も増えており、一定期間関与した後にM&Aで得られた資金を元に新たな事業を立ち上げる人もおります。譲り受け側の企業にとっても譲り渡し側のオーナーが残ることは先述したPMIを円滑に進める上では有用ですが、いずれ退任することを想定して譲り受けた事業を推進していく人材の確保や育成を早めに進めていくことが必要といえます。3.従業員の反対にもかかわらず成立した事例(1)中古厨房機器販売業の会社のM&A(株式譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:中古厨房機器販売業・売上高:1億円・従業員:7名・業歴:30年◆譲り受け側:B社・業種:厨房機器販売業・売上高:20億円◆関与した支援機関:(顧問)公認会計士、M&Aプラットフォーム【意思決定に至るまでの経緯】中古厨房機器の市場は市況が厳しく、A社も前期から赤字に転落してしまっており、会社に資産が残っている段階での廃業を検討していた。A社代表者の小林(仮)が顧問の公認会計士に相談したところ、高額の廃業費用、従業員への影響等を考慮し、より良い選択肢として中小M&Aを提示された。【成立に至った経緯】顧問の公認会計士がM&Aプラットフォームを活用して譲り受け側候補を探索した結果、他県で新品厨房機器販売を営むB社とつながった。B社も、業界全体が苦しい中、生き残りのための中小M&Aと考えており、両社のニーズが合致した。これに対し、数名のA社従業員は「すぐに全員解雇される」と誤解し、中小M&Aに反対した。そこでB社は小林と共同で従業員説明会を開催し、あくまで会社の将来を案じての意思決定であり、従業員の雇用も守る旨を膝詰めで丁寧に説明したところ、全員からの納得が得られ、円満に小林との株式譲渡契約締結に至った。【成立に至った後の経緯】B社は約束通りA社従業員の雇用を守り、事業を継続している。上記はM&Aについて譲り渡し側の従業員が当初は反対したものの、実施を達成できた事例です。M&Aは一般的にごく少数の関係者の間で秘密裏に進められるために、当該M&Aの情報が一般の従業員等に初めて開示されたときは、特に譲り渡し側の従業員にとって雇用や処遇が維持されるかどうかが一番気になるところです。この事例ではA社の従業員に対してA社代表者だけでなくB社も一緒になって丁寧にM&Aの意義や雇用確保などを説明したことにより全従業員から承諾を得られました。今後はB社の従業員に対しても、A社がグループに参画したことによりA社の従業員とも円滑な関係を築けるように、特にB社の従業員がA社の従業員に対して優越的な振る舞いを起こさないように配慮していくことが求められます。4.廃業を予定していたものの中小M&Aが成立した事例(1)製造業及び小売業の会社のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:製造業及び小売業・売上高:8億円・従業員:30名・業歴:30年◆譲り受け側:B社・業種:製造業・売上高:10億円◆関与した支援機関:顧問税理士【意思決定に至るまでの経緯】A社は製造業・小売業の2つの事業を営んでいた。小売業は黒字で採算がとれている一方、製造業は常に大幅な赤字で不採算であった。しかし、製造業のみに利用している工場の閉鎖には数千万円単位の廃業費用が見込まれており、A社の代表者である伊藤(仮)は製造業の部門の閉鎖を決断できずにいた。そのような状況で、伊藤は70歳となり後継者候補もいないことから、顧問税理士に中小M&Aの相談をしたところ、その関与先であるB社を紹介された。【成立に至った経緯】B社は、A社の小売業部門の独自性・流通網に大きな魅力を感じる一方、製造業部門は不採算部門として認識し小売業部門のみの譲り受けを希望した。そのため、A社はB社に対し、小売業部門のみを一部事業譲渡した。【成立に至った後の経緯】A社は、B社から受け取った事業譲渡の対価から製造業部門の廃業費用を捻出することができたため、伊藤はA社を解散・清算して無事に閉じることができた。上記はM&Aによって得られた資金によって不採算事業であった製造業部門の設備等の廃棄費用を捻出して無事にA社を清算できた事例です。筆者も多くの経験がありますが、譲り渡し側の会社が製造業の場合、建物や設備の老朽化が相当程度進んでおり、また土地や建物にアスベストなどの有害物質が含まれていることが想定される場合にはM&Aがうまく進まないことがあります。当該事例のように別の事業で事業価値を見出すことができれば廃棄費用をまかなうことができますが、それができない場合には廃業後に所在者不明のまま放置されるという最悪の事態を招く懸念があります。現在も地方の大型ホテルなどが廃業後に放置されて社会問題となっているニュースが報道されますが、そのような報道を見るたびに筆者は事態が悪くなる前になぜ早くM&Aなどの将来に向けた検討を早めに進めなかったのか、非常に残念な感情を抱きます。提供:税経システム研究所
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2026/07/24 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(223)
1.はじめに近年、私傷病、特にメンタルヘルス上の理由により休職する労働者が増加しています。人手不足による業務負担の増大や、職場における対人関係や各種のハラスメントなど、メンタルヘルスに影響を及ぼすストレスの要因には事欠かない状況と言えるかもしれません。心身の調子が優れない状態で、十分なパフォーマンスを発揮できないまま仕事を続けていても、不調を招いた要因から根本的に切り離さないと、遅かれ早かれ従業員はパンクしてしまいます。いったん厳しい環境から離れて治療に専念してもらい、以前のように持てる能力を発揮できるまでに回復してから職場に戻れるよう、会社側も支援体制を整えることが求められます。メンタル不調による休職からの復職の際には、傷病の特性を十分に理解した上で、適切な対応と配慮をする必要があります。安易な対応をした結果、傷病の再発や悪化を招き、最悪の場合、その従業員の退職につながることもあり、会社の対応次第では労使紛争にまで発展することもあります。今回は、メンタル不調による休職から復職する際の、企業側の対応について考えてみたいと思います。2.メンタル不調による休職の現況は厚生労働省は毎年、事業所の安全衛生管理、労災防止等の実態把握のため、「労働安全衛生調査(注1)」を実施しています。公表されている最新版(令和6年版)によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した従業員が「いる」と回答した事業所の割合は12.8%となっており、前年の調査と比べて0.7ポイント減少となっています。特にこの割合は大企業ほど顕著で、1,000人以上規模の事業所においては9割以上の事業所にメンタルヘルス不調を原因とする休職・退職者が存在するという結果になっています。業種別では、情報通信(39.2%)、電気・ガス・熱供給・水道業(32.7%)学術研究、専門・技術サービス業(22.2%)が上位を占めています。また、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄があると回答した従業員の割合は68.3%となっています。この割合は20歳未満(28.7%)から年齢を重ねるほど高くなっていて、30歳代では73.3%、40歳代では73.0%、50歳代では69.4%が強い不安や悩み、ストレスを感じながら仕事をしている実態が見られています。強いストレスの要因となっているものとしては、仕事の量(43.2%)仕事の失敗・責任の発生等(36.2%)、仕事の質(26.4%)セクハラ・パワハラを含む対人関係(26.1%)、会社の将来性(22.2%)などが上位を占める結果となっています。先述の通り、私傷病での休職は、メンタル不調によるものが多数を占める傾向にあります。では、「休職」とはどのような位置付けの制度なのでしょうか。3.そもそも「休職」とは?「休職」とは、従業員を就労させることが適切でない場合に、労働契約関係そのものは存続させながら、一定期間の就労を免除または禁止することをいいます。一口に「休職」と言っても私傷病による休職、事故欠勤休職、被疑者として起訴された場合の休職、出向休職、自己都合休職、組合専従休職など企業によって様々な休職制度が存在し、それらは各々就業規則等により定められています。就業規則等にて定められた休職事由が消滅することで休職は終了することになりますが、定められた休職期間が満了した時点で休職事由が消滅していないときには、解雇または自然退職とされることが一般的です(休職期間満了による退職を「解雇」と規定した場合は解雇予告義務などが関係してくることもあり、「自然退職」と規定するケースが多い)。多くの会社において私傷病による休職またはこれに類する制度が定められていますが、年次有給休暇や育児・介護休暇のようにその付与が法で義務付けられているわけではありません。私傷病による休職を認めるか否かはあくまでも企業の判断に基づくことになり、休職制度が就業規則等にて規定されていなければ、欠勤として扱う流れが通常です。とはいえ、私傷病により長期に出勤できなくなる事態は十分に想定できるものであり、治療のための猶予期間として休職制度を設けておくことは現実的な選択肢と言えます。従業員が休職する場合、休職開始から復職までには様々な経緯が想定されますが、特にメンタル不調による休職が終わり復職に至る場面では企業側は難しい判断を迫られることが多くなります。では、従業員から復職の希望が出された際、企業としてはどのように対応していくことが必要なのでしょうか。4.復職場面における企業の対応は?休職中の従業員から復職の希望があった場合、まずは復職することに問題ない旨が記載された主治医の診断書の提出を求めることになります。診断書には、就業上の配慮に関して医学的見地から意見が記入されていることもありますが、主治医の意見の中では、「日常生活において支障がない程度への回復=復職可能」と判断している場合もあり、必ずしも個々の職場事情や当人の担当業務の負荷を考慮しているわけではないことがあるので注意が必要です。このような判断の齟齬を回避するためには、主治医に対して、職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報提供を行い、それに基づいて復職可否について意見をもらう、あるいは、主治医の判断と職場で必要となる業務遂行能力の内容などについて、産業医にセカンドオピニオン的に判断を求めるなどした上で、人事担当者や上司なども交え、従業員の元の職場での業務に対処できるか否かにつき企業側として最終的な判断を行う、といった慎重な対応が必要です。メンタル不調の場合、個別の病状にはそれぞれ差があり、担当業務の負荷なども異なることから、定型的な判断基準を定めることはなかなか難しいのですが、最低限の判断目安として以下のようなポイントを挙げます。【復職可否の判断基準の例】復職に対して本人が十分な意欲を示していること単独で通勤時間帯に安全に通勤ができること(難しい場合は時間を変えれば可能か)会社所定の労働時間の就労が可能であること(あるいは復職当初は時短勤務なら可能か)与えられた職務をこなすことができること業務による心身の疲労が翌日までに回復可能であること適切な睡眠覚醒リズムで生活することができ、昼間に眠気がないこと業務遂行の際に必要な注意力や集中力を発揮できること上記の最低限のポイントがクリアできたとしても、元々の業務が通常通りこなせない中で復帰を認めることが、先を見据えたときに適切かどうかはケースにより異なります。この辺りは、必要に応じて労働法専門家の意見も入れ、社内事情も考慮した上での自社独自の慎重な判断が必要と考えます。会社が適切と考えるのであれば、復職直後の勤務形態として時短勤務やリモートワーク等により就労の環境に徐々に慣らしていくようにすることは、従業員の不安を最小限に抑え、症状の再発による更なる休職を避けることにつながります。また人事担当者や上司などは勤怠や勤務態度などを注意深く観察し、少しでも異変を感じるようなことがあれば声をかけて体調を確認する、面談の機会を設けるなど、復職後も継続した支援を心がけるようにしたいものです。5.休職期間が満了した場合の扱い休職事由が消滅することにより休職は終了して復職となりますが、休職期間満了時点において休職事由が消滅していない場合は、就業規則等の規定により解雇または自然退職として扱われます。私傷病休職の場合、この「休職事由が消滅」したかどうかの判断に関して、労使間で争いが生じることがあります。例えば、従業員が復職可能と主張し、その主張の裏付けとなるような主治医の診断書が提出されたとしても、実態はとても労働に耐えられる状態ではなかった…、こうした例のように、休職期間満了による解雇・自然退職を避けるために焦って復職しようとするようなことも珍しいことではありません。そのような「解雇・自然退職を避けるため」の主張をもとに、十分な検討がなされないまま復職を認めた結果、かえって症状が悪化してしまい、短期間で再度休職となると、今度は企業側が健康配慮義務違反の指摘を受けかねません。では、休職していた従業員がどのような状態にまで回復すれば、解雇または自然退職とされずに復職可能と判断されるのでしょうか。休職者の復職に関する裁判例によれば、「従前の職務を通常程度行うことのできる健康状態まで回復したかどうか」によって判断するとし、適正な内容にて就業規則等に定められ、適正に運用された休職期間を経過しても復職できない場合は、解雇または自然退職として扱うことを認める判例が多い傾向にあります。一方で、「当初は軽易業務に就かせれば、ほどなく通常業務に復帰できる回復ぶり」である場合、「従前の業務に復帰できないとしても、従業員の能力や経験、配置の実情や業務の難易度などから別の業務であれば復帰可能」である場合は復帰させることも検討すべきとして、従前の業務に直ちに復帰できないことをもって休職期間満了退職と扱ったことを不当と判断した例もあります。内臓疾患や肢体の傷病のように、検査数値などが正常値になったことをもって「回復」と判断できる傷病であればともかく、メンタル不調による傷病の場合は「回復」したかどうかを客観的・定量的に判断することが難しいこともまた事実です。だからこそ、従業員本人の主張や主治医の判断、産業医等の企業側からの医学的判断、上司や人事担当者の判断など多方面から多くの要素を検討し、復職が可能なのか、復職した後も継続して職務を続けていくことが可能かどうかについての慎重な判断が重要になります。参考文献「心の健康問題により休業した従業員の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf<注釈>労働安全衛生調査(実態調査)令和6年(事業所調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo01.pdf(個人調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo02.pdf提供:税経システム研究所
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2026/07/02 行政DX
2026年個人情報保護法改正案と税務分野に与える影響の考察
*本稿は2026年6月15日時点の情報に基づいて執筆しています。1.はじめに近年、AIの急速な発展により、個人情報の利活用をめぐる環境は大きく変化している。2026年の個人情報保護法改正案(注1)(注2)は、こうした環境の変化を踏まえ、データ利活用の促進と個人の権利利益の保護をどのように両立させるかという観点から、従来十分に対応できなかった領域が見直される重要な改正である。とくに、税務分野では、申告書、年末調整、給与計算、会計処理、外部委託、クラウド利用などを通じて、多数の個人データを日常的に取り扱っており、法制度の見直しが実務に与える影響は小さくないと言える。本稿では、改正案の全体像を4つのポイントに沿って整理したうえで、とくにAI開発や統計作成に関する同意不要特例の内容と、その前提となる透明性確保の考え方を中心に解説する。あわせて、税務分野において想定される影響を考察してみたい。2.2026年個人情報保護法の改正2.1税務調査対象の選定高度化AI開発、データ分析、クラウドサービスの普及によって、個人情報を含むデータの活用要求が急速に高まっており、このことが、2026年の個人情報保護法改正案の背景にある。従来の制度は、本人同意を基本として設計されてきたが、AI学習のように大量のデータが必要な場面では、個別同意の取得が大きな負担となっていた。さらにその結果、適切な利活用までもが停滞し、企業活動や技術開発の足かせになっていると指摘する声があった。他方で、データ活用の拡大は、漏えい、不適正利用、本人の想定を超えた二次利用といった新たなリスクも拡大させる。とくに生成AIの登場により、単に取得時の適法性だけでなく、取得後にどのような目的で、どの範囲の情報を、どのような相手と共有しながら利用するのかが課題となっている。今回の改正案は、このような環境変化に対応し、AI活用時代に合わせてデータ利活用を認める場面を広げる一方で、個人の権利利益を侵害しやすい領域では規律を強め、違反時にはより厳しく対処する制度へと変えていくものであると言える。2.2改正案の全体像と4つのポイント先に述べたように、2026年の個人情報保護法改正案は、AI時代に対応したデータ利活用を進めつつ、権利利益を侵害しやすい場面では規律を強めるという考え方に基づくものであり、4つのポイントもそれに沿ったものとなっている。この改正は税務を直接対象にしたものではないものの、税務では、申告書、年末調整資料、支払調書、扶養情報、口座情報、マイナンバー関連情報など、機微性の高いデータを扱うことが多い。しかも、社内に限った利用だけでなく、税理士事務所、クラウド会計サービス、電子申告サービスなど、外部委託や外部システムとの連携を伴って情報を取り扱うことも多い。そのため、改正案の4つのポイントは、企業の税務部門だけでなく、税理士事務所や税務SaaS事業者などへも影響を与える可能性があると言える。1)適正なデータ利活用の推進第1のポイントは、AI開発や統計作成、分析業務に対応できるよう、過度な同意規制を見直し、適正な範囲でデータ利活用を進めやすくすることにある。本人同意を基本とした規律のもとでは、個人データを第三者に渡したり、別目的で分析利用したりする際の負担が重く、とくに学習に大量データを必要とするAI分野では大きな障害となっていた。改正案は、こうした状況を踏まえ、個人の権利・利益に直接的な影響を与える利用と、統計作成・モデル学習のように個人識別を目的としない利用とを区別し、後者については一定の条件のもとで利用可能領域を広げる方向を示している。たとえば、企業の税務部門が、過去の申告データや会計データを用いて、申告漏れの起こりやすい勘定科目の傾向分析や、消費税区分の入力ミスを検知するAIモデルを作る場面を想定すると、これは個々の従業員や取引先に影響を与えるのではなく、業務全体の精度向上や統計的分析を目的とする利用であると言える。また、税務SaaS事業者が、複数顧客から受託した帳票データをもとに、OCR精度の改善や勘定科目の自動仕訳モデルの精度向上を図るケースも一定の条件を満たせば統計作成等として整理される可能性がある。もっとも、このポイントは、あくまで限定された目的の範囲内での利活用であり、データを自由に使ってよいという意味ではない。たとえば、税務処理のために収集したデータを、後から個別の顧客に対する営業リスト作成や融資の優先順位付けに利用するような使い方は、統計作成等には当たらない。また、データが利用可能となるのは、Web等を通して利用範囲や目的、提供先などを公表するとともに、安全管理措置の実施や目的外利用の防止を確実に実施する場合に限られ、利用範囲の制限や第三者提供の禁止にかかる違反は、新たに導入される課徴金の対象となるため、注意が必要となる。2)リスクへの対応第2のポイントは、本人に与える不利益が大きい高リスク領域について、一般的な個人情報よりも慎重な取扱いを求めることにあり、すべての個人情報を同じレベルで規制するのではなく、子ども情報、生体情報など、侵害された場合の影響が大きい情報について、より厚く保護する方向が示されている。税務分野においても、年末調整の扶養控除申告では扶養親族として未成年者の氏名、生年月日、続柄等を扱うことがある。また、相続税や贈与税の案件では、未成年の相続人などの情報を含むデータを扱うこともある。これらの情報は、税務上は必要なものでも、子ども情報として整理される可能性があり、より慎重な管理が求められる可能性がある。さらに、税務実務そのものではないものの、周辺システムで生体情報を扱う場合がある。たとえば、税理士事務所や企業が、顔認証による入退室管理などを導入している場合、その顔特徴データは高リスク情報として扱われることとなる。こうした情報は、一度漏えいした場合に本人への影響が長期化しやすいため、利用目的、必要性、対象範囲、保存期間、連携先、周知方法等は、これまで以上に明示的に整理しておくことが必要となる。このポイントは、一般ルールとは別に、侵害時のダメージが大きい情報については保護を一段強めるという考え方であり、税務でも、扶養情報、家族情報、本人確認関連情報を通常の情報と同じように扱わないことが求められる可能性がある。3)不適正利用等の防止第3のポイントは、形式上は個人情報に当たらないように見えても、実際には本人への接触、勧誘、誘導、なりすまし等につながり得る情報について、より実態に即した規律を導入する点にある。例えば、メールアドレス、電話番号、申込履歴、関心分野、閲覧履歴など、単体では限定的な情報であっても、組み合わせれば実質的に特定の個人に対する接触や働きかけが可能になる情報がある。税務分野でいえば、税務相談会の申込フォームで取得した住所・電話番号・メールアドレスなどがこれにあたると想定され、これらは組み合わせ次第で、資産状況や相続対策関心層などを推測し、個別勧誘に利用できる可能性がある。改正案では、これら情報を新たに「連絡可能個人関連情報」と定義し、個人情報と同様に、事業者は「連絡可能個人関連情報」の不適正利用・不適正取得が禁止されることとなる。このポイントの意義は、単に個人情報に当たるかどうかという点だけではなく、その情報の利用が実際にどのような接触可能性や不利益を生み得るかという実効面を重視する点にある。税務分野では、税務本体ではなく、営業連携や周辺サービスとの連動の場面で問題が生じる可能性があるため、本業データとマーケティングデータの線引きを意識し、不適正利用の禁止規定に抵触しないよう、厳格なデータ管理と運用を実施することが必要となる。4)実効性確保第4のポイントは、違反が起きた場合に、単なる注意や指導にとどめず、実際に抑止力のある対応を可能にすることにある。利活用の余地を広げる以上、重大事故に対しては、従来以上に実効的な制裁や行政対応を可能にする必要があり、改正案では、課徴金や命令等を含め、罰則等の強化を図る方向を示している。税務データには、所得、扶養状況、家族構成、口座情報、支払履歴、時にはマイナンバー関連情報などが含まれ、漏えいや不正利用が生じた場合の影響は深刻である。たとえば、年末調整関係書類を保存していたクラウドストレージの共有設定に不備があり、従業員の扶養情報や保険料控除情報が外部から閲覧可能な状態になっていた場合には、安全管理措置義務違反や漏えい対応の問題が問われることになる。また、税理士事務所の職員が、業務上知り得た相続案件の資料を私的に持ち出し、第三者に資産状況を漏らしたような場合には、本人への不利益だけでなく、守秘義務違反や事務所全体の管理責任が問題となる可能性がある。したがって、このポイントは、事故が起きた後の制裁強化だけを意味するものではなく、違反したら処分されるということを意識して、平時からアクセス権限、ログ管理、誤送信防止、委託先監督、保存期間管理、削除ルール、事故報告フローを整備させるためのものであると理解することが重要である。税務分野では、扱う情報の機微性が高く、本人の経済的・社会的利益に直結する情報が多いため、実効性確保は法令遵守の問題であると同時に、組織の信用維持そのものに関わる課題であるとも言える。3.AI開発・統計作成における同意不要特例今回の改正案でもっとも注目されるのは、AI開発や統計作成を含む「統計作成等」のためのデータ利用について、一定条件の下で本人同意を不要とする特例が拡張される点である。但し、対象となるのは、統計の作成、分析、AIモデルの学習や検証など、個人を直接の判断対象とすることを目的としない利用であり、個人ごとの評価、選別、営業、与信、採用、価格設定など、個人に直接作用する用途まで広く許容されるわけではない。また、第三者提供を伴う場合には、提供元と提供先の間で、利用目的、利用範囲、再提供の可否、安全管理措置、削除や返却の取扱いなどについて統制が確保されていることが前提となる。単に「分析目的だから渡してよい」ということではなく、提供後も管理可能な状態を維持することが求められる。さらに、本人同意を不要とする代わりに、公表を通じた透明性確保が要件となる。企業は、どのような目的で、どのような類型のデータを、どのような相手と、どの範囲で利用するのかを、外部から理解できる形で示さなければならない。ここでいう透明性は、抽象的な包括条項を掲げれば十分ということではなく、本人や社会が利用実態を把握できる具体性が必要である。加えて、目的外利用は禁止される。統計作成等のために収集・提供・受領したデータを、あとから個別マーケティングや個別判断に転用することは、特例の趣旨に反する。このため、どこまでが統計作成等で、どこからが個人向けの意思決定利用に当たるのかを切り分ける社内基準が不可欠となる。つまり今回の改正案を理解するうえで重要なのは、本人同意を不要とする場面が広がるほど、企業の側により重い説明責任が課されるという点である。従来は、本人同意が適法性を支える根拠となる場面が多かったが、AI開発や統計作成のための利用について一定の条件のもとで同意を不要とする以上、その代替として、企業は利用の目的、範囲、統制の仕組みを自ら説明できなければならない。したがって、改正案における透明性確保は、単なる広報上の配慮ではなく、同意に代わる法的・実務的な正当性を確保するものと位置づけられる。税務分野では、一般的に、ある目的のために情報を提出することが多く、後から分析やAI学習に回す場合、説明不足がそのまま情報を提出する側の不信感に結びつきやすいため、透明性の確保は非常に重要な課題となる。4.税務分野に与える影響改正案は税務分野を直接対象とする特則ではないが、税務実務では、機微性の高い個人データを継続的かつ大量に扱うという特徴を持つ。そのため、改正案のうち、とくに同意不要特例、透明性確保、委託先統制、実効性確保の項目については、税務に強い影響を及ぼすと考えられる。4.1企業の税務部門への影響企業の税務部門では、申告、年末調整、税額計算、税務調査対応などの通常業務に加え、近年は、過去データを用いた異常値検知、申告漏れリスク分析、業務標準化、AI補助機能の導入などのニーズが高まっている。改正案は、こうした分析利用やAI活用を一定範囲で進めやすくする可能性がある。たとえば、過去の申告データや会計データから、税区分の入力誤りが起きやすい箇所を分析したり、帳票読み取り精度を改善したりする用途は、個人を直接評価・選別する利用ではなく、統計作成等に近い利用として整理できる。しかしながら、企業の税務部門にとって最も重要な変化は、税務処理目的の利用と、分析・AI活用目的の利用を切り分けて整理する必要が生じる点にある。従来は、同じ部門内で一体的に扱われていたデータについても、今後は、どの利用が通常の税務処理なのか、どの利用が分析利用なのかを整理し、必要に応じて社内規程等を見直す必要がある。とくに、人事、経理、法務、情報システム、外部税理士等と連携して業務を行う場合には、利用目的の不整合が起きやすくなるため、その整理を慎重かつ迅速に進める必要がある。4.2税理士事務所への影響税理士事務所では、顧客から預かった資料を用いて申告、記帳代行、税務相談、相続対応などを行うため、「自らのための利用」と「顧客のための受託処理」が混在しやすい。たとえば、顧客資料を申告業務のために受領したにもかかわらず、その一部を所内の業務改善、AI検証に流用する場合、契約や説明内容との整合性が問われることになる。このため、まず、どの業務のために資料を受け取り、所内でどこまで利用し、外部サービスを用いるか、再委託を行うか、契約終了後にどのように返却・削除するかを明確にしておかなければならない。とくに、申告支援のために受領した資料を、そのまま所内のAI検証や業務改善に用いるような場面では、契約と説明が曖昧なままだとリスクが高いため、契約と実態を一致させることが必要となる。また、税理士事務所では、クラウド会計ソフト、外部ストレージ、OCR、生成AIツールなど、外部サービスの利用が広がっている。これにより、顧客データが事務所外へ出ることも増えており、再委託管理、安全管理措置、保存場所、事故時の報告体制などの整備が一層重要になる。改正案は、こうした外部利用の実態に対し、契約と運用の整合、説明責任、所内統制の明確化を強く求める方向に働くこととなり、税理士事務所にとっての影響は、単なる法令対応にとどまらず、実務そのものの見直しが必要になる可能性がある。4.3税務周辺サービスへの影響税務SaaSやクラウド会計などの税務周辺サービス事業者にとっても、改正案の影響は大きい。これらの事業者は、多数の顧客から受領したデータを横断的に用いて、OCR精度向上、入力補助、異常値検知、仕訳提案、申告支援モデルの改善などを計画することも多いと思われる。改正案の同意不要特例は、こうした横断的利用の可能性を広げる一方で、本当に統計作成等の範囲にとどまるのか、個別顧客への直接的判断利用に影響が及んでいないかという点を正しく判断する必要がある。とくに、複数顧客データの横断利用は、顧客から見たときに、どこまでが自社のための処理で、どこからがサービス提供者自身の分析利用なのかが不明確になりやすい。したがって、プライバシーポリシー、利用規約、業務委託契約、学習データ利用方針、再委託管理を見直すとともに、改正案が成立した際には、利用目的の明示、対象データの特定、第三者提供・委託関係の整理、目的外利用防止の統制が、サービスの信頼性を左右することになる。5.さいごに2026年の個人情報保護法改正案は、AI時代に対応するために、データ利活用の推進と権利保護の強化を同時に進めるものであり、とくにAI開発や統計作成に関する同意不要特例は、データの活用範囲を広げる可能性がある。しかし、改正案の本質は「同意なしで使える範囲が広がる」ということではなく、「限定された目的の下で、透明性、公表、提供先統制、目的外利用防止を前提として、一定の利活用を可能にする」点にある。税務実務では、機微性の高いデータを継続的かつ大量に扱うだけでなく、外部との連携も多い。そのため、改正案による利活用の推進は期待されるものの、それ以上に、利用目的の切り分け、委託・再委託の管理、説明文書の整備、アクセス権限の統制、事故対応体制の構築といった課題への対応が重要となる。さらに、税務分野では、個人情報保護法だけでなく、番号法や税法上の守秘義務との関係も踏まえる必要があり、一般的なデータ活用よりも慎重な判断が求められる場面が少なくない。その意味では、税務分野における改正案対応は、様々な影響を見極めながら、段階的に進めていくことが望ましいと考えるが、過度に委縮することなく、信頼を維持しつつデータの活用を進めることを検討いただきたい。<注釈>個人情報保護委員会,個人情報保護法等の一部を改正する法律案について,https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260407_kisyahaifusiryou.pdf個人情報保護委員会,個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律,https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation2023/index.htm提供:税経システム研究所
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