経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2026/03/31 医療経営
戦略的医療機関経営 その169
【サマリー】2026年度診療報酬改定も大詰めを迎えている。業界で「短冊」と呼ばれる、改定内容は記載済みだが、新点数は伏字になっている資料が公表された。まだ新点数が明らかになっていないので、定量的に影響度合いを推し量ることはできないが、どのような内容かは明らかになったので、本レポートより、その改定内容の解説を行う。改定内容は病院や診療所など規模や医療機関の持っている診療機能ごとに関係する内容が異なるので、今回のレポートでは、「急性期病院」に関係する内容を解説する。1.基本方針診療報酬改定において、最初に「基本方針」が立てられます。この方針に沿って診療報酬改定の強弱が決まります。今回の基本方針は以下の通りです。物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応【重点課題】2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進安心・安全で質の高い医療の推進効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上(1)が重点課題となっているので、医療機関の経営環境の変化への対応が、大きく変化する可能性が高いということになります。この場合の変化というのは具体的には、新点数、点数のアップなど医療機関側からすると収益が上がる内容となります。次の(2)については、特に現在の人口動態への対応を「地域包括ケアシステム」で行っていますが、そのために医療機関の機能を併せるというメッセージ性が高い方針です。「2040年ごろ」となっていますが、この2040年ごろは、どのような年かというと、高齢者の人口がピークを超し、高齢者人口が減少に転じる年代です。高齢者の人口が医療に与える影響は大きく、医療機関の患者の多くが高齢者です。したがって、患者が減少に転じるとことにも繋がります。さらに少子高齢化が進み、現在より高齢者割合は高くなり、同時に地域により大きく様相が異なることになります。このような状況の変化に医療機関が対応することを診療報酬改定で求めているのです。残りの(3)、(4)はいずれも毎改定で方針に入ってきているものです。2.改定率診療報酬改定率は、+3.09%とプラス改定となりました。基本方針の重点項目にもありましたが、医療機関を取り巻く経営環境の変化への対応のためのプラス改定です。しかし、その中身を詳しく見てみると、特に医療機関の経営者の立場だともろ手を挙げて喜べない状況です。まず、+3.09%ですが、2026年度に3.09%上がるわけではありません。この+3.09%というのは、令和8年度及び令和9年度の2年度平均値です。令和8年度に+2.41%あがり、令和9年度に+3.77%あがるという2段階方式です。医療機関の経営環境がこれほど悪化していて、厚労省もその認識の上での診療報酬改定であるのに、疑問が残ります。さらに改定内容の施行月ですが、2026年6月です。新年度の4月ではありません。少しでも早く施行されるべきだと思いますが2か月後連れします。しかも6月の改定の新点数が実際に医療機関に収入として計上されるのは、8月です。レセプトという医療業界独特の請求方法により、請求は1か月に1回、レセプト(請求内容)が審査されるという過程を経ますので、即入金されるわけではありません。しかも、+3.09%の具体的な中身ですが、賃上げ分として+1.70%となっています。つまり、+3.09%の半分以上は賃上げに回ってしまします。医療機関の従事者にとっては、給与が上がりますので、良い事なのですが、経営者にとっては非常に悩ましいのではないでしょうか。給与はいったん上げると下げることは簡単にできません。その財源としての今回の診療報酬改定ですが、この先の改定もプラス改定になる保証はありません。なお、薬価などについては、以下の通りです。薬の価格、診療材料費の価格を下げて、診療報酬本体に回した形です。ちなみに薬価が下がるということは薬の値段が下がるということなので、生活習慣病などで毎月薬を購入している人は、5月までの値段より、6月以降のほうが支払額が低くなる可能性があります。3.急性期病院に関する改定内容①急性期病院一般入院基本料等の新設急性期の病院にあった一般入院基本料という診療点数がふたつに分かれます。救急搬送件数や全身麻酔手術件数、人口の少ない地域における地域での救急搬送受入状況等を踏まえ、当該病院機能に関する要件を施設基準とした急性期病院一般入院基本料及び急性期病院精神病棟入院基本料を新設するとありますので、基本方針に合ったように、その地域の状況に合わせた急性期医療の診療点数を新設したことになります。具体的には、「特に高い基準を満たす患者の割合に係る指数が●割●分以上、一定程度高い基準を満たす患者の割合に係る指数が●割●分以上の病棟であること。」とあるように、急性期医療の患者である重症度が高い、急性期の疾患の患者の入院患者割合によりAとBに区分されます。新点数はまだ明らかになっていませんが、BよりAの点数のほうが高いと考えられます。急性期の医療機関はこれから若い世代の人口が減少するにつれて、急性期医療機関の患者数も減少すると考えられています。また多くの医者は急性期の医療を行いたいがために医者になっているという動機もあり、今後の急性期医療機関の経営は厳しいものが予想されます。②特定機能病院入院基本料の見直し大学病院の本院などが、特定機能病院です。この特定機能病院は急性期医療の頂点です。しかし、大学病院といえども、経営悪化の波は変わりません。そこで、従来からある特定期病院入院基本料の点数がアップされる予定です。ただし、先ほどの急性期一般入院基本料がAとBに区分されたように、この特定機能病院入院基本料も同じくAとBに区分されます。③特定集中治療室管理料の見直し急性期医療の象徴的な(ICUなどの)集中治療室の管理料ですが、見直される予定です。一般病棟に比べて、集中治療室に入院している患者のほうがこの管理料などもあり患者単価は高いです。そこで、一部の医療機関では、集中治療室に入れなくても良いような患者をあえて集中治療室に入れて高い収益を確保しようとする動きもありました。そこで、重症の救急搬送患者や全身麻酔手術後患者に特に密度の高い医学的管理を行うこと等が特定集中治療室を有する病院が担う役割であることを踏まえ、特定集中治療室管理料について、救急搬送件数及び全身麻酔手術件数に関する病院の実績を要件とするとなります。まだ具体的な救急搬送件数や全身麻酔手術件数は明らかになっていませんが、この2要件が入ったことで、不正請求はできなくなります。また救急車の受け入れを増やそうとする医療機関も当然増えますので、救急車の奪い合いなども場合によっては考えられます。全身麻酔手術患者数が要件に入った理由は、全身麻酔で手術を行う患者は重症度が高いと考えられるからです。この要件がはいったことにより、軽症者ばっかりを入院させていた医療機関は急性医療から排除されることになります。④短期滞在手術等基本料の見直し従来は手術というと、入院してと大変なイメージでしたが、現在は多くの手術が日帰りや1泊程度の入院で実施可能です。その短期滞在術の基本料が見直されます。具体的には対象疾患の追加や診療点数の見直しが行われます。追加疾患)・ガングリオン、眼瞼下垂、緑内障、経皮的シャント、下肢静脈瘤、内視鏡的大腸ポリープ、肛門良性腫瘍、痔核など⑤時間外対応体制加算の充実休日・夜間等の問い合わせや受診へ対応する体制整備を更に推進する観点から、時間外対応加算の評価を見直されます。特に夜間や休日の対応は医療機関の人員も少なく困難です。そこで、この加算点を見直し(点数のアップ)により、休日・夜間に病院を受診する軽症患者の減少や、病院勤務医の負担軽減に繋がる取組を更に推進するとしています。⑥手術等の医療技術の適切な評価医療技術評価分科会における検討結果等を踏まえ、新規技術(先進医療として実施されている技術を含む。)の保険導入及び既収載技術の再評価(廃止を含む。)を行います。簡単に言うと、先進医療のような新規技術に新たに点数をつける。既収載技術は点数を上げたり、下げたりしますということです。総じて難易度の高い手術は診療点数が高いです。⑦高度急性期病院におけるロボット手術の評価の新設本会でも紹介したダヴィンチなどのロボット手術ですが、実施件数の応じた点数となります。内視鏡手術用支援機器を用いた手術について、多数の手術を実施している保険医療機関における医療機器の効率的な活用及び高額医療機器の集約化を図る観点から、ロボット手術について、年間手術実績に応じた新たな評価を行う。具体的には、悪性腫瘍手術及びそれに準じた手術のうち、内視鏡手術用支援機器を用いた手術の症例が年間200例以上である場合の評価を新設されます。新点数名称:内視鏡手術用支援機器加算⑧慢性心不全の再入院予防の評価の新設心不全は一定数、再入院が必要になるケースがあります。心不全治療による再入院予防を推進する観点から、急性心不全で入院した患者に対して、早期から多職種による介入を実施し、退院後も必要な治療を地域で連携して実施した場合について、新たな評価を行います。具体的には、呼吸困難等の症状を伴う急性心不全を発症し入院した患者に対し、地域連携に係る要件を満たした保険医療機関が、多職種により心不全の再入院予防の取組を行う場合の評価を新設されます。新点数名称:心不全再入院予防継続管理料⑨医療DX推進体制整備加算等の見直し特に急性期医療に関連するわけではありませんが、関心が高いと思われますので、記します。医療DX関連施策の進捗状況を踏まえ、普及した関連サービスの活用を基本としつつ、更なる関連サービスの活用による質の高い医療の提供を評価する観点から、診療録管理体制加算、医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の評価を見直されます。具体的には、医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算を廃止し、診療録管理体制加算におけるサイバーセキュリティ対策に係る要件を見直した上で、初診料、再診料、外来診療料及び入院料加算として、電子的診療情報連携体制整備加算を新設することになります。新点数名称:電子的診療情報連携体制整備加算また、ICT等の活用による看護業務効率化の推進のために、ICT機器等の活用により看護要員の業務を軽減したうえで、適切に患者の看護を行うことができる体制がある場合は、看護職員に対する看護師の比率等について、1割以内の減少である場合は、入院基本料等の基準を満たすものとして、所定点数を算定できるよう見直す。と人員基準を緩和してまで、ICTやDXの導入を促しています。具体的なICTの活用とは、全病棟患者の見守り可能なシステム導入、看護記録の自動作成、データ入力→記録→保存→活用が可能なシステム、手に持たず複数人と同時に通話できるシステム、直接対面せず、多人数職員間で情報共有できるシステムが挙げられています。さらに看護業務が軽減した(常勤病棟看護師が平均残業時間が10時間以内)という調査の実施と院内公表が要件となっています。さらに、医師事務作業補助体制加算の見直しでは、生成AIを活用し、退院時要約、診断書及び紹介状等の原案作成を自動的に行い、当該業務を大幅に効率化する医療文書等の文書作成補助システム②診療録、退院時要約、診断書及び紹介状の作成に対応する医療文書等への入力を行う医療文書用の音声入力システム(汎用音声入力機能を除く。)③救急医療情報システム等への医療データ等の定型的な入力作業等を自動化するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)④入退院時の説明、検査・処置、麻酔・鎮静、手術、インフォームド・コンセント及び医療安全・感染対策等に関する10種類以上の患者向け説明動画が具体的例として挙げられています。生成AIやRPAなどがいよいよ入ってきました。⑩救急外来医療に係る評価の再編救急医療機関における、夜間休日を含めた応需体制の構築及び地域の救急医療に関する取組等の現状を踏まえ、院内トリアージ実施料及び夜間休日救急搬送医学管理料等を見直し、救急外来医療を24時間提供するための人員や設備、検査体制等に応じた新たな評価を行います。具体的には、救急医療機関における夜間休日を含めた医師・看護師等の配置、検査・処方等が可能な体制の構築、地域の救急医療に関する取組等の現状を踏まえ、夜間休日救急搬送医学管理料を見直し、救急診療の実施にあたり十分な人員配置及び設備等を備え、救急外来医療を24時間提供できる体制を有する保険医療機関による救急外来診療に係る評価を新設することと、救急外来医学管理料を算定する意識障害の患者に対し、救急時医療情報閲覧機能及び電子処方箋システムを活用し当該患者の診療情報を取得した場合の評価を新設することになります。この要件をクリアするためには、特に電子処方箋の発行がポイントです。2025年3月時点で医療機関の導入率は1割に満たないです。その理由はシステムトラブルの発生とコードの不一致、電子処方箋の発行のために電子カルテなどの既存システムの改修が必要となり、そのコストのねん出が困難であること、電子処方箋の発行に必要な資格(HPKIカード)が医師や薬剤師には必要ですが、申請から発効まで1から2か月かかり手続きに時間を要すること、そのカードの発行に費用がかかることなどが挙げられます。この点数の要件クリアのために電子処方箋の普及率が上がるでしょうか。⑪救急患者連携搬送料の見直し高次の救急医療機関と他の医療機関との連携を強化し、救急患者の適切な転院搬送の実施及び受入を更に推進する等の観点から、救急患者連携搬送料の要件及び評価を見直します。具体的には、救急患者の適切な転院搬送の実施を更に推進する観点から、救急外来での初期診療後に連携する他の医療機関で入院医療を提供することが適当と判断された救急患者について、入院前に搬送を行う場合の評価を引き上げるとともに、自院等の救急自動車以外を活用して搬送する場合についても評価の対象とする。搬送先医療機関において入院医療を行うことについての評価を新設する。医師、看護師又は救急救命士が同乗して長時間(30分超)搬送を行う場合の評価を新設するとなります。救急患者といえども、適切な機能の医療機関での受信を促す診療点数です。⑫遺伝性乳癌卵巣癌症候群に係る評価の見直し遺伝性乳癌卵巣癌症候群の患者のうち、乳癌及び卵巣癌を発症していない患者に対する両側乳房切除及び卵管・卵巣切除の有効性に関するエビデンスを踏まえ、診断に必要なBRCA1/2遺伝子検査及びがん患者指導管理料の要件を見直します。具体的には、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の症状である乳癌又は卵巣癌を発症していない患者であって、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の家族歴がある患者について、BRCA1/2遺伝子検査及びがん患者指導管理料の対象患者に追加されます。これは乳がんや卵巣がんの一部は遺伝することが知られており、その発生遺伝子も明らかになっています。今まではがん発症患者にしか保険適用されていなかったこの遺伝子検査を、遺伝性乳癌卵巣癌症候群と診断された者の父母、子若しくは兄弟姉妹であれば、保険での検査を認めるというものです。遺伝子検査は後に検査結果が変わるものではないので、一生に一回実施すればよいです。たとえその遺伝子があることが分かっても、日ごろの生活習慣に注意したり、健診の回数を増やしたりすることで、発症を防いだり、遅らせたり、早期発見できたりとメリットはありそうです。本レポートの出典は、中医協に提出された資料です。提供:税経システム研究所
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2026/03/31 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第22回)
【サマリー】前稿より今までの投稿のまとめとして、最近の中小企業のM&Aについての国(中小企業庁)の働きかけ、具体的には中小企業のM&Aガイドラインについて解説しています。本稿では中小M&Aガイドラインの参考資料で紹介されている中小企業のM&Aの事例を挙げ、筆者のコメントを述べたいと思います。1.中小M&Aガイドライン(第3版)での中小企業M&Aの事例経済産業省から公表されている中小M&Aガイドライン(第3版)には本文の他に様々な参考資料が紹介されています。特に参考資料4の「中小M&Aの事例」では以下のような内容で具体的な中小企業のM&Aを整理しております。小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例経営状況が良好でない中小企業において中小M&Aが成立した事例親族内承継の頓挫から中小M&Aに移行し成立した事例意思決定のタイミングが中小M&Aの成立内容に影響を与えた事例譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例従業員の反対にもかかわらず成立した事例廃業を予定していたものの中小M&Aが成立した事例何らかの理由により中小M&Aが成立しなかった事例上記の内容を見ても、中小企業のM&Aは様々なドラマが展開されており、成功もあれば失敗の事例も多く存在します。このような事例を理解しておくことは今後M&Aを検討しようとしている経営者にとって実務上の参考情報として大変有用であるとともに、M&Aを成功裡に進める上での基礎知識として重要と考えます。本稿では当該中小M&Aの事例を挙げて、事例から考えられる教訓や筆者の経験などを紹介します。2.小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例中小企業の経営者の中には、自分が営む事業の売上規模や職員数が小さいためにM&Aの成立に懐疑的な方もいるかもしれません。しかし、M&Aは売上規模や職員数などが大きくなくても成立した事例は多数存在します。(1)計測機器の会社のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:計測機器の製造・売上高:3000万円・従業員:3名・業歴:40年◆譲り受け側:B社・業種:計測機器の施工・メンテナンス・売上高:5億円◆関与した支援機関:地元信用金庫、事業承継・引継ぎ支援センター【意思決定に至るまでの経緯】10年前に先代経営者の他界に伴い、当時既に65歳を超えていた佐伯友彦(仮)がA社の社長に就任した。その後、業績は伸び悩み従業員の高齢化も進んだため廃業を検討したが、取引先に迷惑を掛けられないと、事業の継続を決断した。地元信用金庫に相談をしたところ、M&Aの公的機関として事業承継・引継ぎ支援センターを紹介された。佐伯は自社の事業規模や財務状況からM&Aは難しいと考えていたが、同センターでの相談は無料と聞いたため、取りあえず相談した。【成立に至った経緯】佐伯の予想に反し、事業承継・引継ぎ支援センターから4社の紹介を受け、うち2社と面談し、A社の技術力や商圏を高く評価したB社への事業譲渡実行に至った。【成立に至った後の経緯】A社の製品は熟練の技術が必要であるため、A社の従業員は引き続き雇用され、また取引先との関係から佐伯は顧問としてB社の事業拡大に貢献している。上記事例は年商3,000万円、従業員3名というA社がB社に事業を譲り渡したものです。このように中小企業のM&Aでは事業規模などより、商圏や技術力、ノウハウや優良顧客などいわゆる無形資産の価値が重要となります。これらは金銭的に「のれん」として評価されて取引金額に加算されることとなるためにM&Aで事業や株式を譲渡しようと考えている経営者は、まずは自分の会社はどこが強みなのか、その強みは他社へ移転した際にも持続可能なものなのかを見極めることが重要といえます。またM&Aの公的機関としての事業承継・引継ぎ支援センターですが、東京都の場合、東京都事業承継・引継ぎ支援センターは東京商工会議所が国から委託を受けて実施しており、東京23区を中心に第三者承継・従業員承継に関する中小企業等の相談を受け付けていますので、まずはそこに足を運んで相談するのが中小企業のM&Aの第一歩といえます。(2)靴小売業のM&A(個人事業の事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:田中和夫(仮)・業種:靴小売業・売上高:4000万円・従業員:3名・業歴:50年◆譲り受け側:佐藤八郎(仮)・業種:創業希望者◆関与した支援機関:地元信用金庫、日本政策金融公庫、事業承継・引継ぎ支援センター、弁護士、商工会、商工会議所等【意思決定に至るまでの経緯】田中は、靴の小売店を営む72歳の個人事業主で引退したいと考えていたが、親族に継ぐ者はおらず自分の代で廃業せざるを得ないのかと悩んでいた。懇意にしていた商工会の経営指導員より、事業承継の個別説明会を案内され、そこで、個人事業主でも、M&Aで事業を譲り渡した例が多くあるという話を聞いた。自分が育てた事業を、意欲のある人に引き継いでもらえるならありがたいと感じ、M&Aを決意し、事業承継・引継ぎ支援センターにて譲り受け相手を探すこととなった。【成立に至った経緯】田中は、同センターから靴店の創業を希望する佐藤を紹介され、意気投合した。なお、譲受代金について、佐藤の自己資金が不足していたことから、複数の金融機関が協調融資を実施し、更に同センターは弁護士を紹介し契約のサポートをする等、支援機関が一丸となった支援が行われ、事業譲渡実行に至った。【成立に至った後の経緯】事業譲渡実行後、佐藤は事業承継補助金の交付を受け、新たなチャレンジを行う等、精力的な事業拡大に乗り出した。また、田中も引き続き従業員として、佐藤を支えている。上記は個人事業主が新たに個人に対して事業を譲渡した事例となります。総務省の「労働力調査」(2025年)によると、日本で個人事業を営む個人及びその家族従事者は約589万人存在するとのことです。また業種でみるとサービス業(飲食業、理美容業、コンサルタント等)、建設業(いわゆる一人親方)、卸売・小売業(個人商店など)が多いようです。このような個人事業においてもM&Aによる事業承継の事例が報告されております。筆者の経験上、個人事業は事業を他社へ譲渡するより廃業を選択することが多いと思われますが、この事例のように自分の事業に無形資産があり、かつ他社へ譲渡して引き継いでもらいたいという意欲があればM&Aによる自分の事業の継続という道が開ける可能性がありますので、そのような個人事業主にはぜひM&Aにチャレンジしてもらいたいと考えます。(3)寿司・懐石料理店のM&A(他の業種の会社との業務提携)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:寿司・懐石料理店・売上高:3500万円・従業員:5名(うち家族3名)・業歴:30年◆譲り受け側:B社・業種:レジャー業・売上高:50億円◆関与した支援機関:地元信用金庫【意思決定に至るまでの経緯】地元で寿司・懐石料理店を営む宇田川大輔(仮)は、多数の地元常連客に愛されていたが、厨房設備等が老朽化したことに伴い、設備の更新を検討していた。お店の常連でもあった地元信用金庫の担当者に相談したところ、飲食業への参入を検討していたB社をスポンサーとして紹介された。しかし、設備の更新には多額の費用を要することが分かり、自身の年齢から多額の借入を負うことに抵抗があり、また家族からも反対されたことから、廃業を考えていた。【成立に至った経緯】家族経営を行ってきた宇田川は、当初は第三者がスポンサーとなることに抵抗があったが、B社社長の加藤裕三(仮)と面談を重ねる中で、信頼関係を構築した。宇田川は家族経営の維持を条件に、B社から資金援助を受けるのと引換えに飲食店経営のノウハウをB社に提供するという業務提携の合意に至った。【成立に至った後の経緯】A社は、宇田川の希望通り、家族経営を継続したまま、B社からの支援により、老朽化した店舗設備を更新し、内装等も新装することができた。また、B社と協働してグルメサイト等によるPRを行った結果、新規顧客やインバウンド需要による外国人観光客の獲得にも成功している。上記は個人の飲食店が他の業種の会社と業務提携して事業を継続させた事例です。M&Aは主として株式の譲渡または事業の譲渡を行うことで経営権や主要な事業を第三者に引き渡すことが多いのですが、当該事例では飲食店経営のノウハウを相手先に提供することで資金を得て事業そのものを引き続き自分たちで継続している珍しい案件です。当面は事業を自分たちで継続していくものの、どこかのタイミングで当該事業を改めてB社もしくは別の第三者へ譲渡することになるものと思われます。(4)学習塾のM&A(個人への事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:教育業・売上高:5000万円・従業員:5名・業歴:25年◆譲り受け側:三宅一郎(仮)・業種:創業希望者◆関与した支援機関:M&Aプラットフォーマー、(顧問)税理士【意思決定に至るまでの経緯】地域の小・中・高校生が通う個別指導学習塾を経営していた小山克彦(仮)は年齢や持病等により、自身で塾を継続していくことに限界を感じ、廃業を検討。塾の生徒や保護者から塾の存続を望む声が多く、廃業以外の道を顧問税理士に相談したところM&Aの可能性を示唆された。【成立に至った経緯】顧問税理士から紹介されたM&A専門業者とはコスト面で折り合いがつかず、低コストで事業の承継者を探すことができる方法を探していたところ、インターネット上で候補者を探せるマッチングサイトである、M&Aプラットフォームの存在を知った。M&Aプラットフォーム上で複数の候補者から打診を受け、その中で、塾講師の経験があり、学習塾経営の創業希望者であった30代男性会社員の三宅と出会い、基本合意に至った。小山は、三宅の人柄や能力があれば、塾の子供達を安心して任せることができると考え、事業譲渡実行に至った。【成立に至った後の経緯】M&Aプラットフォームを利用したことにより、低コストで中小M&Aが実現した。小山は現在、塾経営の経験がない三宅をサポートし、子供達の成長を見守りながら、地域のボランティアに参加するなど充実したセカンドライフを送っている。上記は学習塾を運営している会社の事業を個人へ譲渡した事例です。今までの3つの事例は地元の金融機関や事業承継・引継ぎ支援センターが案件の仲介役となっていましたが、当該事例ではインターネットでのマッチングサイトで譲渡の相手先を探しています。この理由としてM&A専門業者を利用するとコストがかさむことが挙げられています。確かにM&A専門業者を利用すると高いコストは発生しますが、その分良質な相手先の紹介やM&Aの手続を円滑に遂行できるというメリットもあります。筆者の経験上、中小企業のM&Aは一生に一度経験するかどうかの重要なステージですので、ある程度のコスト発生はやむを得ないのではないかという見解です。従ってインターネットでのマッチングサイトよりは地元の金融機関や事業承継・引継ぎ支援センターへの相談による情報入手が望ましいのではと考えます。提供:税経システム研究所
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2026/03/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(220)
1.はじめに現代社会は「ストレス社会」とも言われています。人それぞれにストレスを感じる対象は異なるのでしょうが、全くストレスがなく日々の生活を送っている人は皆無と言っても差し支えないでしょう。単純に「ストレス=悪」と考えがちですが、ストレスの全てが悪影響を及ぼすわけではありません。適度なストレスやプレッシャーはそれを乗り越えたときに、自分自身の成長の糧や自信につながります。この「適度」が曲者で、ストレスは定量的に捉えることができず、同じストレスの原因(ストレッサー)にさらされても、ある人にとっては適量でも、別の人にとってはそれを過剰に感じてしまうこともあるわけです。過剰なストレスにさらされた結果、メンタルの不調を訴える人も増加しており、それが原因で長期の休職や退職に至るケースも多くみられています。こうした状況を踏まえ、2015年に従業員50人以上の事業場ではストレスチェックが義務化されています。従業員50人未満の事業場については現在のところ努力義務とされていますが、2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」にて、従業員50人未満の事業場にもストレスチェック義務化を拡大することが決まりました。この施行日については「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、まだ確定していませんが、最長でも2028年5月までには企業規模を問わずストレスチェックが義務となる見込みです。この義務化までにはまだ1~2年ある、と感じる向きもあるかもしれませんが、扱う対象は、個々の従業員が感じるストレス、という非常にセンシティブな事柄です。プライバシー保護など個人情報の取扱いには慎重な対応が求められますし、ストレスチェックを行う体制づくりのための人員や資金などをふんだんに割くことは容易ではない……と考えると、早めに着手しておくことに越したことはありません。今回は小規模事業場のストレスチェック義務化にどのように対応していくべきかを考えていきます。2.労働者のメンタルヘルス対策の現状は?厚生労働省では「過労死等の労災補償状況」を毎年発表しています。2024年度の精神障害による労災請求件数は3780件(前年比205件増)であり、うち、1055件に労災補償の支給が決定されています。(前年比172件増)請求件数・支給件数ともに年々増加傾向となっており、様々なストレスによるメンタル不調の増加が統計からも明らかになっています。一方、事業場規模によるストレスチェックの実施状況(注1)には、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場のうち、すでに義務化されている従業員50人以上の事業場では89.8%が実施しているのに対し、努力義務とされている従業員50人未満の小規模事業場においては、従業員30人から49人の事業場で57.8%、10人から29人の事業場で58.1%と低い割合に留まっており、従業員50人以上の事業場とは大きな格差が生じています。では、小規模事業場におけるストレスチェックについて、どのような体制を整備し、準備を進めていけばよいのでしょうか。3.どのような準備をしていくべきか?ストレスチェックの導入にあたっては、先述のとおり、従業員のプライバシー保護の観点から明確なルールづくりが必要と考えます。事前に労使(安全衛生委員会など)で以下の事項について協議を行っていきましょう。1.ストレスチェックの実施方法まず、ストレスチェックを自社で行うのか、外部に委託するのかを決める必要があります。小規模事業場では、従業員のプライバシー保護体制が脆弱なことが多いことから、セキュリティ体制が高く専門知識も豊富な外部機関への委託が推奨されています。2.担当者の選任・実施体制外部に委託する場合でも、担当者の選任や具体的な実施方法は社内で決めなければなりません。以下の事項を協議・決定しておきましょう。自転車通勤を許可する等の方策が考えられます。実施の時期や実施の頻度(年に1回以上)質問票の内容(厚生労働省指定の3項目と追加項目)(注2)高ストレス者の判定基準面接指導を行う医師の選任・面接指導の依頼方法従業員50人未満の事業場に対し、産業保健サービスを提供する公的機関として都道府県ごとに「地域産業保健センター」が設置されています。体制整備に不安がある場合はこちらに相談することも可能です。(相談は無料)3.結果の保存と管理体制ストレスチェックの結果は、従業員のプライバシー関係の情報が多く含まれる非常にセンシティブな内容ですので、保存や管理には厳格なルールを設けることが求められます。個々のデータへのアクセス権限・保管方法などのセキュリティ体制外部機関などの実施者と事業主間の情報共有ルールの明確化(特に人事権を持つ者はストレスチェックの実施者や実施事務従事者として関与することが禁止されている)「なにやらいろいろと手間がかかりそうだ……」といった印象を受けた方も多いかもしれません。義務化とはいえ、ストレスチェックを実施しないこと自体に、現行法令では罰則が設けられていません。しかしながら、ストレスチェック実施後に行うべき所轄労働基準監督署への報告を怠った場合や虚偽の報告を行った場合は50万円以下の罰金が科されることになっています(労働安全衛生法第120条)。こうした法令上の罰則以外にも、企業経営上の数々のリスクがあることは認識しておくべきでしょう。どのようなリスクが考えられるのでしょうか。4.従業員のメンタル不調予防が不十分な場合のリスクとは?ストレスチェックの実施により、従業員がメンタル不調に至る前に対応できる体制が不十分な場合、次のようなリスクが考えられます。1.生産性の低下や離職の増加ただでさえ人手不足感の強い昨今、ギリギリの人員で業務遂行をしている職場が少なくないと思います。そのような状況の中、メンタル不調による欠勤や長期の休職で人員が減少することは、他の従業員の負担増加に直結し、パフォーマンスの低下を招くことになります。この状況が続いてしまうと、メンタル不調を起こしている従業員が退職する恐れがあるだけでなく、第二第三の休職・退職者が発生し、最悪の場合、職場崩壊につながってしまうこともあります。2.安全配慮義務違反と訴訟のリスク過重労働や顧客対応(カスハラなど)などの高ストレスの状況を企業が放置した結果、メンタル不調に至り、長期の療養や自死のきっかけとなった場合、企業は安全配慮義務を果たさなかったとして従業員側から損害賠償を求められ、または訴訟を起こされる可能性があります。3.企業イメージ低下のリスク上記2.に関連することですが、某広告代理店の若手社員が過重労働の末にメンタル不調に陥り自死したことにより、遺族から損害賠償を求める訴訟を提起された事件がありました。マスコミなどでこの「過重労働⇒メンタル不調による自死」の一連の事件を、その広告代理店の社名をつけて「〇〇事件」と呼ばれていることをご存知の方も多いのではないでしょうか。このような不幸な事件の当事者として社名が連呼されるだけでなく、判例として永きにわたり残ってしまうことで企業イメージが低下することは避けられません。また、今や強力な発信力を持つツールとして、誰でもSNSを利用できる時代です。メンタル不調を放置するだけでなく、それを理由とした不当な配置転換、解雇など、従業員に不利益な措置を行った場合、社名入りで実情をSNSに投稿され、これが拡散されることもありえます。企業イメージの低下は業務遂行への影響だけでなく、新規採用や従業員の定着に大きく影響する可能性があります。厚生労働省では、小規模事業場のストレスチェック体制構築の一助として、2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」を策定・公開しています。(注3)このようなマニュアルや地域産業保健センターとの連携により早めの体制づくりをしていきましょう。<注釈>令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_houdou.pdf厚生労働省「ストレスチェック制度導入ガイド」6ページ参照https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/160331-1.pdf厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001646587.pdf提供:税経システム研究所
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2026/03/30 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】本稿では、経産省系の主な補助金を集めて比較できるようまとめました。経産省系補助金は複雑で理解が難しく、何を申請すべきかよくわからないと、初期段階で挫折する企業も多いです。補助金の選択に役立つ情報となるよう整理しました。前稿ではGO-TECH補助金をご紹介しました。人件費が補助対象となる稀な補助制度で、一般の外注先の対応が難しい補助金です。補助金額が大きく、複数年にわたるという特色があります。現在筆者が旧来からのクライアントの依頼でGO-TECHの申請を代行している状況をふまえて、GO-TECH補助金と申請についてご紹介しました。GO-TECH補助金の申請が難解であるところから、申請情報を使って他の経産省補助金申請がスムーズにできることをご紹介しましたが、経産省の補助金は全体としてどのような構成になっているのかご紹介します。(1)経産省・中企庁の主な補助金(筆者作成)(1)-1:ものづくり補助金の概要ものづくり補助金(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業・小規模事業者が行う生産性向上のための設備投資や新製品開発を支援する、国の代表的な補助制度です。中小企業向けの代表的設備投資補助金補助率:1/2(小規模は2/3)補助額:最大1,000万円前後新製品・新工程などの革新性が必要採択率:約30〜50%①制度の目的中小企業が付加価値額の向上や生産性向上を実現することを目的としています。新製品・新サービスの開発生産プロセスの改善高度な設備投資②対象となる事業以下のような取り組みが対象になります。新製品・新サービスの開発新しい製造方法の導入自動化・省人化設備の導入ITシステムによる業務効率化高付加価値化のための設備投資単なる老朽更新や既存設備の置き換えは対象外。③補助率・補助額④補助対象経費主に設備投資関連経費を補助する制度です。機械装置費(主対象)システム構築費技術導入費外注費試作開発費知的財産関連費運搬費クラウドサービス利用費など(人件費は対象外)⑤申請の基本要件(代表例)3〜5年の事業計画を作成以下のいずれかを達成付加価値額:年平均+3%以上給与支給総額:年平均+1.5%以上(1)-2:持続化補助金の概要小規模事業者持続化補助金(通称:持続化補助金)は、中小企業庁が実施する「小規模事業者向けの販路開拓支援補助金」です。個人事業主や従業員の少ない会社が、売上拡大のための取組に使える代表的な制度です。採択率はおおむね50〜70%前後が一般的。(出典:(株)リアリゼイション調べ)※第14回は2024年①制度の目的小規模事業者の「生産性向上」「持続的発展」を目的として、経営計画に基づく販路開拓などの取り組みを補助する制度です。②対象となる事業者(小規模事業者対象)個人事業主可③補助対象となる主な取組販路開拓や売上向上につながる活動が対象です。ホームページ・ECサイト制作チラシ・広告制作展示会出展新商品開発に伴う試作店舗改装(販促目的)外注費・デザイン費など④補助額と補助率※変動あり(1)-3:事業再構築補助金の概要事業再構築補助金は、ポストコロナの事業構造転換支援として創設された補助金です。経済産業省(中小企業庁)が実施する大型補助制度で、新分野進出や業態転換など「思い切った事業転換」を行う中小企業等を支援するものです。補助額は、様々な枠によって異なっています。最低額は100万円~1.5億円程度まで。採択率は近年急落し難易度が上がっています。(出典:補助金プラス)①制度の特徴メリット補助額が大きく大型投資に対応建物費なども対象になる(他制度より範囲が広い)注意点要件が厳しく事業計画の完成度が重要採択後の事務手続きが多い補助金は後払い(立替資金が必要)②支援対象となる「事業再構築」の例以下のような既存事業と異なる新しい取り組みが対象になります。※単なる設備更新や既存事業の延長は対象外。③主な補助対象経費(1)-4:新事業進出補助金新事業進出補助金は、経済産業省(中小企業庁)が実施する「既存事業とは異なる新分野への進出」を支援する大型補助制度です。2025年度から本格実施された比較的新しい制度で、事業再構築補助金の後継的な位置づけとされています。①対象となる「新事業」の定義次のような既存事業とは異なる挑戦が求められます。単なる設備更新や既存商品の改良は対象外です。新製品・新サービスの提供新市場・新顧客層への進出高付加価値分野への展開②制度の特徴メリット建物費も対象で投資範囲が広い最大9,000万円と比較的大型新規事業立ち上げに特化注意点成長率・賃上げ要件が厳しめ事業計画の実現性評価が重要補助金は原則後払い③主な補助対象経費④主な申請要件(2)まとめ経産省系補助金の主なものの全体像をあらためて整理しご紹介しました。それぞれ目的や補助金額規模や特徴が異なりますので、自社の目的に応じた補助金を選択し、もよりの経産局の担当部署に問い合わせてください。申請へのステップを教えてもらえます。以下に補助金選択のための比較表を作成しました。申請にあたって、事業をまとめて申請書類を作成するプロセスは経営陣の頭の整理に役立ちます。採択か不採択かが死活問題になるような資金繰りが困窮している企業には向きません。結果がどうであれ、頭の整理ができて自社の進むべき道やなすべきことが明確になるための申請を是非積極的に行っていただきたいと思います。提供:税経システム研究所
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2026/02/27 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第14回) 雇止め法理2
【サマリー】今月のレポートでは、前回で取り上げた判例解説を踏まえつつ、企業実務において特に重要性の高い他の裁判例を取り上げます。形式上は有期契約や非常勤とされていても、実際の業務内容や人員配置、更新の経緯によっては、裁判所がその実態を評価するケースは少なくありません。本レポートでは、雇用形態の実質判断、雇止めにおける更新期待の有無、企業側に認められる裁量とその限界といった、現場対応を一歩誤るだけで紛争リスクが顕在化しやすい論点について、裁判所がどのような事実関係を重視し、どのような判断枠組みで結論に至っているのかを整理しました。1.重要判例1「東光高岳事件東京高裁令6.10.17判決」定年後に再雇用された労働者が、最初の契約更新時に、吸収合併後の親会社が提示した賃金減額を受け入れなかったことを理由として雇止めされた事案。第一審は、直前の労働条件と同一内容で契約が更新されるとの期待は認められないと判断しました。これに対し東京高裁は、労働契約法19条2号にいう「更新」は必ずしも同一条件での更新に限定されるものではないとした上で、合併後に労働条件を統一する必要性があることを踏まえ、企業の業績が堅調である点を考慮しても賃金減額には合理性があるとして、雇止めを有効と判断しました。<事案の概要>原告Xは、被告会社において定年前は無期雇用で勤務していましたが、60歳定年後、会社の継続雇用制度に基づき、基本賃金月額30万円の条件で、1年更新の有期雇用契約を締結しました。会社の再雇用規程では「原則65歳まで再雇用する」とされていたものの、同時に「労働条件は更新の都度、個別に決定する」と明記されており、同一条件での更新が制度上保証されていたわけではありませんでした。その後、会社は経営状況の悪化等を背景に、完全親会社へ吸収される形で企業統合が行われました。統合後は、人事制度・再雇用制度を親会社の規程に統一する方針が採られ、再雇用者の処遇についても親会社規程に沿った内容へ変更することが予定されていました。この方針については、事前に説明会等を通じて従業員に周知されていたとされています。契約更新の時期に、Xは従前と同一条件での更新を申し込みましたが、会社はこれを受け入れず、賃金引下げを含む複数の条件案を提示しました。Xはいずれの案にも同意せず、結果として契約は期間満了により終了しました。なお、同時期に再雇用されていた他の従業員約125名は、全員が親会社規程に沿った条件で契約を更新しており、Xのみが旧条件の維持を求めていた状況でした。<判決のポイント>本件の最大の争点は、労働契約法19条における「更新の合理的期待」の内容でした。Xは、「定年後も原則65歳まで再雇用されてきた実績があり、同一条件で更新される合理的期待があった」と主張し、会社が同条件更新を拒否したことは不合理な雇止めに当たると訴えました。これに対し、東京高裁はまず、「更新の合理的期待」について重要な整理を行いました。すなわち、更新期待は、必ずしも従前と全く同一の労働条件で更新されることまでを含むものではなく、労働条件が変更される可能性を前提とした上で、雇用が継続されるという期待も含み得ると判示しました。この点は、更新期待の概念を比較的広く捉えた判断として注目されます。しかし、高裁はその上で、本件では会社が提示した条件変更には合理性があり、同一条件での更新が当然に認められる状況ではなかったと判断しました。その理由として、①再雇用規程上、労働条件は更新の都度、決定されるとされていたこと、②企業統合という経営上の大きな変化があり、人事制度を統一する必要性があったこと、③その方針や経営状況について事前に説明や周知が行われていたこと、④他の再雇用者全員が同一ルールで契約しており、Xのみ旧条件を維持することは公平性を欠くこと、などの事情を総合的に考慮しています。これらを踏まえ、東京高裁は、本件雇止めは労働契約法19条に違反するものではなく、Xの請求は理由がないとして棄却しました。<実務への応用>本判決は、定年後再雇用の実務設計に対して非常に示唆的です。まず、「原則65歳まで再雇用する」と規程に記載していても、それだけで同一条件での更新まで約束したことにはならないことが改めて確認されました。再雇用後の労働条件を毎年見直す可能性があるのであれば、その旨を規程や雇用契約書に明確にし、運用と整合させておくことが重要です。次に、再雇用者の賃金引下げや処遇変更を行う場合には、変更の合理性を裏付ける事情を積み重ねることが不可欠であることが示されています。企業統合や経営環境の変化、職務内容や役割の変化、社内の賃金バランスなどを整理し、なぜその水準になるのかを説明できる状態にしておく必要があります。さらに、本件では「他の再雇用者との公平性」が強く意識されました。例外的な処遇を認めることは、職場の不公平感や人事運営上の混乱を招きかねません。再雇用制度は、個別対応よりも制度としての一貫性・説明可能性が重要であることを示しています。最後に、企業統合や制度改定を伴う場合には、早い段階からの説明と記録が極めて重要です。説明会や個別面談を通じて方針を周知し、その内容を記録として残しておくことが、後の紛争予防や裁判対応に直結します。本判決は、定年後再雇用を「単なる延長雇用」と捉えるのではなく、更新・条件変更を含む契約関係として丁寧に設計・運用すべきであることを、実務に強く示した判例だといえるでしょう。2.重要判例2「東京芸術大学事件東京地裁令4.3.28判決」有期の契約が更新されなかったことによる雇止めは不当であるとして、非常勤講師が地位の確認を求めた事案。当該非常勤講師は、委嘱契約の形で約20年にわたり契約更新を受けていました。東京地裁は、同人はそもそも労働契約法上の「労働者」には該当しないと判断し、請求を棄却しました。その理由として、授業内容の決定等について大学から具体的な指揮命令を受けていなかったこと、遅刻や早退に対する賃金控除や社会保険料の徴収が行われていなかったこと、さらに大学の本来的業務を担う不可欠な労働力として組織に組み込まれていなかった点などが考慮されました。<事案の概要>原告は、東京芸術大学において非常勤講師として長年授業を担当していました。契約は年度ごとの有期契約で、形式上は毎年更新されており、結果として約20年にわたり継続して講義を担当していました。担当授業は大学の正規カリキュラムに組み込まれ、教育活動として一定の継続性がありました。しかし大学側は、学内の任期・非常勤講師制度の見直し等を理由に、契約更新を行わず、契約期間満了により関係を終了させました。これに対し原告は、長期間にわたり更新が繰り返されてきたこと大学教育という恒常的業務を担っていたことを理由に、契約更新への合理的期待があったとして、雇止めは労働契約法19条に反すると主張しました。<判決のポイント>本判決のポイントは、雇止めの当否(労働契約法19条)を論じる前に、「そもそも労働契約法の適用対象となる“労働者”なのか」を正面から判断し、そこで結論を出した点にあります。つまり、原告が「20年更新してきたのだから雇止めはおかしい」と主張しても、裁判所はまず「その主張を支える法律(労契法)を使える立場か?」を問い直し、労働者性がない以上、労契法19条による保護(雇止め規制)自体が及ばないという構図を採りました。1)労働者性(使用従属性)の判断が“入口”で決まった裁判所が見たのは、簡単にいえば「大学が講師を“雇って指揮命令で働かせていた”と言えるか」ということです。非常勤講師という肩書があっても、実態が委任・準委任(専門家への業務委託)に近いなら、労基法・労契法上の労働者とはいえません。判決が重視した方向性(資料の趣旨)は、次の通りです。「大学は授業という枠組み(科目、時間割、成績評価の形式等)を用意するが、授業の具体的内容・方法は講師の専門性に委ねられ、大学が日々の労務提供の仕方を細かく指揮命令していたとは言い難い。したがって、講師は大学組織に使用従属して労務を提供する関係ではなく、労働契約法上の労働者には当たらない。」実務的に重要なのは、ここで裁判所が「長期更新」という事情を、労働者性を補強する決定打とは扱わなかった点です。更新が20年続いていても、指揮命令の密度・従属の程度が弱ければ、労働者とはいえないということです。2)それでも裁判所は“念のため”に更新期待も検討している本判決は入口(労働者性否定)で結論が出ますが、実務上の価値は、裁判所がさらに補足的に「仮に労働者だとしても…」という形で、雇止め法理の更新期待にも触れている点です。東光高岳事件とも共通しますが、更新が繰り返されていても、それが大学の教育課程運営上の必要に応じたものであり、制度上も任期制・有期であることが明確で、将来の継続を保証するような大学側の確約もない以上、「更新されるはずだ」という合理的期待までは認められないということになります。3)判決全体の構造を一文で言うと本件は、結論だけ言えば「雇止めが有効」ということですが、より正確には、第一段階:労契法の適用前提(労働者性)を否定→原告の主張する雇止め規制の枠組みがそもそも乗らない第二段階(補足):仮に労働者でも、任期制・確約なし等から更新期待は認めにくいという二段構えで、原告の主張を退けました。<実務への応用>本判決が実務に与える最大の示唆は、雇止めの適法性は「更新回数」や「勤続年数」ではなく、制度設計と実態の整合性によって決まるという点にあります。特に本件では、雇止めの是非を論じる以前に、「そもそも労働契約法の保護対象となる労働者か否か」という入口段階で結論が出されており、実務上のインパクトは非常に大きいといえます。まず重要なのは、長期間にわたり契約更新が続いていたとしても、それだけで労働契約法上の労働者性や雇止め規制が肯定されるわけではないという点です。大学側は、非常勤講師について、授業内容や方法に関する裁量を講師本人に委ね、勤務時間や業務遂行の細部まで指揮命令する関係にはなかったこと、また専属性も弱く、他大学での活動が自由に認められていたことなどから、「使用従属性」が否定されました。これは、大学や研究機関に限らず、企業が外部専門家や非常勤人材を活用する場面全般に当てはまる考え方です。実務的には、雇用として扱うのか、委任・準委任として扱うのかを最初に明確に決め、その位置づけを契約書・規程・現場運用で一貫させることが極めて重要になります。名目上は業務委託や非常勤であっても、実際には出退勤管理を行い、業務の進め方を細かく指示し、代替も認めず、事実上専属的に働かせていれば、労働者性が肯定されるリスクが高まります。本判決は、「肩書」や「契約書のタイトル」ではなく、実態が重要であることを改めて示しています。また、本判決は、仮に労働者性が認められる場合であっても、更新期待が当然に成立するわけではないことも明確にしています。この点から実務上導かれるのは、更新期待を生まないためには、制度と説明の積み重ねが不可欠だということです。契約書や規程で任期制・有期であることを明確にするだけでなく、更新時の面談や通知においても、「更新は自動ではない」「次年度の業務必要性等を踏まえて判断する」という点を、毎回きちんと伝える運用が重要になります。管理者が善意で発した「来年もお願いします」「長く続けてください」といった言葉が、後に更新期待を基礎づける不利な事情として評価されるリスクがあることにも注意が必要です。さらに、本判決は、雇止め対策は「最後の場面」ではなく、日常の運用設計から始まっていることを示しています。契約終了時だけ合理的理由を整えても、それまでの制度設計や説明が曖昧であれば、防御は困難になります。逆に、制度の趣旨、任期の位置づけ、更新の考え方が一貫していれば、20年という長期更新があっても、雇止めが直ちに違法とされるわけではないことが、本判決から読み取れます。総じて東京芸術大学事件は、非常勤・外部専門家・任期制人材を活用する組織に対し、「雇用か否か」「更新をどう位置づけるか」を曖昧にしたまま長年運用することのリスクと、逆に整理しておけば強力な防御になることを明確に示した判例です。実務においては、「雇止めになったらどうするか」ではなく、「雇止め問題が起きない制度と運用をどう作るか」という視点で、この判決を活用することが重要だといえるでしょう。3.重要判例3「グリーントラストうつのみや事件宇都宮地裁令2.6.10判決」緑地保全事業を担う公益財団法人に勤務する非常勤の嘱託職員が、契約更新の上限である5年に到達したことを理由に、平成30年3月末で雇止めとされた事案。背景として、市から財政状況の悪化を踏まえた人員削減の要請がなされていました。裁判所は、本件について整理解雇に関する法理を適用するのが相当であるとした上で、雇止めを回避するための具体的な検討や、対象者選定の合理性について何ら検討がなされた形跡が認められないとして、当該雇止めを無効と判断しました。あわせて、雇止め後に労働者が申し込んでいた無期転換の効力も認めています。<事案の概要>原告は、被告である公益的性格を有する団体(市の財政援助団体)において、当初は非常勤・臨時的な立場で雇用されました。しかし、契約更新を重ねる中で、原告の業務内容は次第に組織の基幹的業務を担う常用的なものへと変容していきました。にもかかわらず、雇用期間の定めは形式的に維持され、更新を含めた当初予定の3年間を大きく超えて契約は継続していました。裁判所は、この時点で、雇用期間の定めは「財源確保の必要性」よりも、使用者側が雇止めを容易にするための名目的なものになりつつあったと評価しています。また、契約更新の手続自体も、実質的な能力評価や業務必要性の検討はほとんど行われず、原告の意向確認を行うだけの形式的なものに変質していました。その後、被告は財政悪化を理由に、更新期間を5年までとする運用に転じ、無期転換申込権が発生する直前のタイミングで契約を更新せず終了させました。原告はこれを不当な雇止めとして、労働契約法19条に基づき地位確認等を求めて提訴しました。<判決のポイント>判決のポイントは、次の3点にまとめられます。1)更新期待を強く肯定した点(労契法19条2号該当)本判決の最大の特徴は、有期契約労働者における「雇用継続への期待」を極めて強く肯定した点にあります。裁判所は、形式的には有期雇用契約が繰り返し締結されていたものの、その実態に着目し、原告の就労状況は当初想定されていた臨時的・補助的業務から、法人の基幹的かつ常用的業務へと質的に変化していたと評価しました。また、雇用期間の定めについても、更新が当然視される運用が長期間継続していたことから、実質的には雇止めを容易にするための名目的なものに過ぎなくなっていたと指摘しています。加えて、契約更新時の手続についても、能力評価や業務必要性といった実質的な審査は行われず、形式的な意思確認にとどまっていた点が重視されました。これらの事情を総合すると、原告が「契約期間満了後も更新される」と期待することには合理的な理由があるとして、裁判所は本件契約が労働契約法19条2号に該当すると明確に認定しています。2)「人員整理的雇止め」として整理解雇法理を適用した点次に裁判所は、本件雇止めの性質について、単なる更新拒否ではなく、人員削減を目的とする「人員整理的雇止め」であると位置づけました。そのうえで、雇止めの有効性を判断するにあたっては、整理解雇と同様に、①人員整理の必要性、②雇止め回避努力の有無・程度、③対象者選定の合理性、④手続の妥当性、という、いわゆる整理解雇の4要件を総合的に考慮すべきと判断しています。しかし本件では、被告法人が市(人事課)からの指導をそのまま受け入れただけで、自らの経営状況や人員体制について主体的な検討を行った形跡が認められないこと、配置転換や契約条件の調整といった雇止め回避の努力が一切なされていないこと、さらに原告を雇止め対象とした合理的な理由や基準が検討されていないことなどが、厳しく指摘されました。また、事前の説明や協議といった手続面についても十分とはいえず、裁判所は、本件雇止めには客観的合理性も社会的相当性も認められないとして、労働契約法19条柱書にいう「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に該当すると判断し、雇止めを無効としました。3)更新みなしと無期転換の連動を認めた点さらに注目されるのは、雇止め無効の効果として、更新みなし(労契法19条)と無期転換(労契法18条)を連動させて判断した点です。裁判所は、雇止めが無効である以上、被告は従前と同一の労働条件で契約更新を承諾したものとみなされるとしたうえで、原告がすでに無期転換の申込みを行っていたことから、平成31年4月1日以降は期間の定めのない労働契約が成立したものと解するのが相当と判断しました。これは、形式的な契約期間にとらわれず、実質的な雇用関係の継続性を重視する姿勢を明確に示した判断といえます。<実務への応用>本判決は、有期雇用を長期間・常用的に使い続けることのリスクを、最も端的に示した判例といえます。第一に、業務実態が基幹的・恒常的であるにもかかわらず、有期契約を形式的に更新し続ける運用は、実質的に雇止めを容易にするための名目にすぎないと見なされ、裁判所はその形式を容易に排斥し、労働者の更新期待を強く保護します。第二に、更新手続の「形式化」です。更新のたびに実質的な審査を行わず、単なる意向確認に終始していれば、それは「更新が当然視されていた」ことの裏返しとして評価され、更新期待を補強する事情となります。第三に、無期転換を回避する目的での雇止めは、人員整理的雇止めとして極めて厳格に審査されるという点です。財政事情や上位団体の指導があったとしても、それだけで合理性は認められません。雇止め回避努力、対象者選定の合理性、説明・協議といったプロセスを欠けば、整理解雇と同様に無効と判断されます。実務上は、有期雇用を5年近く継続させる場合、無期転換を前提に制度設計する基幹業務を担わせるのであれば、早期に無期雇用へ転換するやむを得ず雇止めを検討する場合でも、整理解雇に準じた検討・記録・手続を行うといった対応が不可欠になります。総じてグリーントラストうつのみや事件は、「有期雇用を便利に使い続けた結果、最も重い法的責任を負う」という実務上の警告として、無期転換・雇止め対応を考える際に必ず参考にすべき判例といえるでしょう。提供:税経システム研究所
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2026/02/27 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第23回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>当社は、祖父の代から東北地方の県庁所在地でニット製品の製造を行っている中小企業です。これまで、商社経由で百貨店・専門店で製品販売を行ってきました。1着丸ごと立体的に編み上げるホールガーメント技術を取り入れ、地場ニット企業として生き残っています。しかし、商社ルートの売上高が大手アパレルチェーン店との競合で低下を続けています。私の代になってから自社製品の直販を工場併設店舗で始めましたが、トータルの売上高は微減状況を続けています。今、工場が町中と郊外に二か所あり、そのうちどちらかに仕事を集約し、空いた方の工場を不動産として有効活用しようと考えています。不動産事業についてどのように考えればよいでしょうか。■ニット業界の状況地場のニット産業は、大手チェーン店の成長もあり、全国的に厳しい状況にあります。ここ数年、廃業の事例も増えている業種です。御社の場合、自社製品の開発を行い、直販しているということで努力している地場企業と言えると思います。御社は、国内メーカーが開発した縫い目のないホールガーメント技術を取り入れるなど努力していますが、大手チェーン店も同様の機能を持つ設備を海外協力工場に導入しています。大手は、企画から製造・販売までを統合したSPA(SpecialitystoreretailerofPrivatelabelApparel)という業態を確立してグローバルに販売体制を整備しています。商社を介した既存の間接販売ルートは衰退しており、さらに直接販売ルートを強化するには企画・開発力が問われます。また、商社ルートの製品と競合した自社製品を販売することは業界慣習的に難しいです。そのため、用途や機能の面で商社ルートの製品とは明確に異なるものを企画・開発する必要があります。その意味では、この市場環境下でニット事業が微減で踏みとどまっているのは、御社は努力している中小企業であると言えます。■繊維系企業の第二創業のパターン繊維系の産業には、社歴が長い企業が多く、編物、織物、紡績など様々なものがあります。すでに淘汰された企業も数多くありますが、新事業により事業構造を変革し、生き残っている事例から学ぶ必要があります。ここでは、経営情報が公開されているSUMINOE株式会社、日清紡ホールディングス株式会社、帝国繊維株式会社、サイボー株式会社の事例を見てみましょう。表1SUMINOE株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1883年、堺緞通(床敷物)で創業1891年、旧議事堂に高級カーペット納入鉄道、自動車用シート、内装材納入インテリア事業(カーペット等)自動車・車両内装事業(内装材):収益の柱機能資材事業(ホットカーペット等):赤字表1に示されている通り、SUMINOEは床敷物で創業した後、高級カーペット分野で地位を確立し、その後、繊維や素材の取り扱い能力を生かして自動車・車両内装事業に参入しています。現在の収益の柱は、自動車・車両内装事業となっていますから、製造業としての第二創業に成功していると言えるでしょう。表2日清紡ホールディングス株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1907年、紡績業で創業、高分子に進出1995年、日清紡都市開発設立(不動産)日本無線、新日本無線子会社化無線・通信(日本無線等):売上最大マイクロデバイス(日清紡MD):赤字ブレーキ(日清紡ブレーキ)精密機器(日清紡メカトロニクス)化学品(日清紡ケミカル)繊維(日清紡テキスタイル)不動産(日清紡都市開発):収益の柱表2に示されている通り、日清紡HDは、短繊維を撚り合わせて長繊維を作る紡績業で創業後、高分子技術を取り入れて化学繊維に力を入れてきました。M&Aを繰り返し、無線・通信事業、素材技術を応用したブレーキ事業等に多角化し、1995年に不動産子会社を設立しています。事業規模は無線・通信事業が大きいのですが、決算を見る限り収益の柱は不動産事業です。なぜ不動産事業に参入するかというと、工場等の遊休不動産の活用の余地が事業のリストラクチャリングを通じて生じたからです。グループが保有する遊休資産の活用や事業所跡地の再開発、オフィス・商業施設の賃貸、宅地分譲に取り組んできました。東京都足立区の西新井社宅跡地を賃貸マンションへ再開発した事例、古い事務所ビルをオフィスビルへ再開発した品川シティビルの事例等があります。歴史ある企業の場合、利便性の高い地域に遊休不動産を保有している場合もあり、その利活用の余地があったのだと言えるでしょう。表3帝国繊維株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1884年、紡績業で創業1902年、消防ホース参入1981年、不動産業に進出防災(消防ホース等):収益の柱繊維(高機能炭素素材等)不動産(SC向け土地賃貸等)表3に示されている通り、帝国繊維の場合も紡績業としての創業ですが、その後、消防ホースというニッチ市場を見つけ、事業機会をつかみ現在の収益の柱としています。不動産事業は、工場跡地をイオンタウン大垣にする等の遊休資産活用を行ったものです。不動産業も収益を計上していますが、利益構造的には製造業として生き残っていると言えます。表4サイボー株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1948年、紡績業で創業、化繊に進出1984年に不動産業に進出繊維事業(原料、ユニフォーム等):赤字不動産業(商業施設、病院施設):収益の柱その他(ゴルフ練習場)表4に示されている通り、サイボーは紡績業として創業し、その後、ユニフォームに力を入れてきたのですが、繊維事業は収益面で苦しいようです。現在の収益の柱は不動産事業となっています。不動産事業では商業施設・病院施設に埼玉県川口市の遊休土地を貸し出しています。商業施設としては、イオンモール川口前川、イオンモール川口があり、病院施設としては、かわぐち心臓呼吸器病院、かわぐちレディースクリニック、2021年に医療モールとしてメディパーク川口前川Ⅱを開発し、支援事業としてビルメンテナンス業務も行っています。これらの事例を見てわかるとおり、戦前・戦後に創業した繊維産業は、二度のオイルショックを経て、他産業より先に縮小し、多角化を進めてきたのです。事業リストラクチャリングの一環で、工場や社宅、ビル等の遊休資産が生じ、その有効活用策として不動産事業が立ち上がっています。ここに掲げた4事例のうち、1.製造分野でより大きい市場をつかんだ事例(SUMINOE)、2.製造分野の新事業も確立されているが不動産事業が収益の柱となっている事例(日清紡HD)、3.不動産業にも進出しているが製造事業の方が収益の柱となっている事例(帝国繊維)、4.不動産業が主力事業となっている事例(サイボー)と分類できます。このように繊維産業では、不動産事業で稼いでいる事例が一定数あることが見て取れます。■不動産をどのように活用するかここまで述べたように繊維産業では不動産業に進出して成果を上げている事例が多いということが言えるでしょう。一方、御社が不動産事業をうまく立ち上げるには課題がいくつかあります。表5不動産事業を立ち上げる際の諸課題1.東北地域の人口減少への配慮2.用途の決定(商業、住宅、他)3.ビジネスパートナーの選定まず、御社は不動産事業に目を向けるのが時期的には少し遅かったかもしれません。先に記した不動産に進出している3事例を見ると、その進出時期は、繊維産業の退潮とまだ日本の人口成長の重なっていた1980年代から1990年代に集中しています。この時期に長期の賃貸借契約を結び、そこで得た資金を県外の成長地域の不動産に投入しておけば、今頃キャピタルゲインを得ることが出来ていたでしょう。今遊休資産の有効活用により不動産業を始める際に重要なのは、御社の立地している東北地方の県では人口減少が全国トップクラスで生じている現状を勘案することです。宮城県仙台市とその周辺に東北の人口は引き寄せられており、それ以外の地域は急減が続いています。御社は、仙台市ではありませんが県庁所在地に立地しているということでまだ人口の減り方は相対的にマイルドです。しかし、投資に対するリターンの面で、人口状況に依存する事業計画の場合リスクがあります。そのリスクに配慮して事業展開していくことになります。長期的収益が確実に見込める場合ですと、「大きく投資して大きく儲ける」というスタイルの事業計画が可能です。一方、リスクが見込まれる場合は、他の企業と連携してリスク分散していくなどの投資方法を考慮することが有益となります。次に考えるべき課題は、商業施設、住宅等の用途から、地域ニーズに合致するのはどれかを明らかにする必要があるということです。サイボーの事例のように、ショッピングモール等に土地を貸して、長期契約を締結し安定した地代が長期的に入ってくるのは魅力です。サイボーが不動産事業に進出していた当時、埼玉県南部は人口が増加していて、減少傾向が見られるようになったのは最近のことです。御社の現在とは事業環境が明らかに異なっています。また土地の大きさと立地次第で、何が向いているかは異なってきます。二つの工場のどちらが、どの事業に適しているかを専門家とディスカッションして考えていく必要があります。また、商業施設の場合、テナントの競争力があるかどうかに依存します。人口減少が進む地方圏では、中小の地場スーパーの廃業も各地で見られます。それに対して、食品スーパー大手は連結売上高1兆円を目指した戦いをしています。国内の人口が減少していく中で、勝ち組として生き残る企業と組まなければなりません。市場競争に敗れて倒産する脆弱なテナントを入れてしまうと収入が途絶えてしまうので、そこに注意が必要です。住宅の分譲や賃貸を選ぶ場合は、高齢化社会では徒歩圏に色々な施設が集中していること、集合住宅の場合は共有部分の機能や公共機関との連携が優れていることが魅力となります。最終的には、人口減少地域においても人が集まるような魅力を持つ施設を作るためのビジネスパートナーを連れてくることが最も重要となります。繊維産業による遊休不動産の利活用には成功例が多数ありますので、それらの成功要因を理解し、その上で表5に示される諸課題を意識して新事業を検討することが求められるでしょう。提供:税経システム研究所
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2026/02/27 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(219)
1.はじめにスマホひとつで簡単に借りることができるシェアサイクルが街角で多く見られるようになり、日頃から便利に使っている方もいらっしゃることと思います。自転車は老若男女を問わず手軽に扱える乗り物でもあり、企業においても、通勤時に最寄りの駅や職場まで自転車を利用している従業員は少なくないと思われます。自転車は法令上「軽車両」、つまり車両の一種です。免許は不要でも自転車乗車中は「ドライバー」。しかし、あまりに手軽すぎるが故に、傘やスマホを手にした片手運転や信号無視、歩道を高速で走り抜けるなど、マナーや法令遵守の自覚なき自転車ドライバーを多く目にすることは残念なことです。自転車というと、これまでは歩行者と同様に「交通弱者」として保護され、常に事故の被害者となってしまうようなイメージもありました。しかし、近年の電動アシスト自転車の普及に伴い、従来よりも速い速度での走行が可能となったことや車体の重量が大きく増加したために、停止中の自動車や歩行者との接触・自転車同士の衝突時には双方に与えるダメージが大きくなり、重大事故の加害者となるケースも多くみられています。このような状況に伴い、令和5年4月の道路交通法改正により、いわゆる「ながらスマホ」の禁止と罰則化、自転車乗車時のヘルメット着用(努力義務)などが行われてきましたが、令和8年4月1日からは自転車の交通違反に対し「交通反則通告制度」が開始されます。自動車を運転する方の中には、駐車違反や一時停止違反などの軽微な交通違反で青色の告知書(青切符)を交付されたという経験がある方もいらっしゃると思いますが、自転車に対しても、違反時には同様の取り扱いが開始されることになります。それに伴い、「信号無視」「一時不停止」「右側通行」など歩行者や他の車両にとって危険性・迷惑性が高い違反行為は青切符の交付により検挙される可能性があります。今回の自転車による交通違反の取り締まり厳格化をきっかけとして、通勤時や業務中などに事故が発生した場合をはじめ、注意しなければならない点がいくつか浮かびあがってきます。企業側としてどんな点に注意をしなければならないかを考えてみたいと思います。2.自転車事故の発生状況警察庁が発表した交通事故に関する統計(注1)によると、令和6年に発生した自転車関連事故件数は67,531件であり、10年前(平成26年)の約109,269件と比べると約40%減少しています。一方で、交通事故全体に占める自転車関連事故の割合は23.2%(令和6年)となっており、令和に入って以降は、毎年、交通事故件数の2割以上を自転車関連事故が占めるという状況が続いています。また、令和6年に発生した「自転車乗用中の死亡・重傷事故」のうち約75%(5,375件)は自転車側に法令違反があり、その態様は80%以上が「出会い頭」「右左折時」といった交差点での事故となっています。自社の従業員が事故の被害者となった時のことはもちろんですが、自転車を使用した業務中や自転車通勤の際に事故の加害者となってしまった時の対応も想定しておかなければなりません。どのような対応を考えておくべきなのでしょうか。3.自転車事故にまつわる企業としての対応【自転車を使用して業務中に加害者となった事故の場合】従業員が自転車を使用して業務を行っていた際に人身・物損など第三者に損害を与えてしまった場合には、会社は民法に定める「使用者責任」(715条)を問われることになります。使用者責任は、非常に幅広く適用されるものとされており、仮に会社側に何の落ち度がなかったとしても、多くの判例において免責は認められていません。例えば、日頃、徒歩や公共交通機関による移動で業務を行っている従業員が、会社に知らせることなく出先でシェアサイクルを利用して移動していた時に事故の加害者となった場合でも、客観的に見て「業務に関連する行為」とされれば、会社は損害賠償を免れることができません。死亡事故などの場合、5,000万円を超える賠償が命じられた例もありますので、もし、自社が使用者責任に基づいて賠償する義務を負うとなれば金銭的にも甚大なダメージを負うことになります。こうした事態を想定して、自転車事故でも賠償をカバーできる保険に加入しておくだけでなく、日頃から従業員にも十分に安全意識を高める教育を徹底しておきましょう。【自転車通勤の際に事故の加害者となった場合】先述の通り、自転車は法令上「軽車両」であることから、走行に当たっては多くのルールが定められているのですが、気軽な乗り物故にルールやマナーの周知が徹底されておらず、それが原因で事故の加害者となってしまうことがあります。通勤途中に第三者に損害を与えてしまった場合、上記の「使用者責任」が問われることになるのかが気になるところです。一般的には通勤時(=業務外)であれば、第一義的には当事者である従業員に賠償責任があると考えられます。しかし、当事者である従業員が十分な賠償をすることができないとなった場合に、被害者が「使用者責任」を持ち出して会社側に賠償を求めてくる、という事態は十分に考えられることです。会社が賠償に応じるか否かはその時々の判断となりますが、そもそも、従業員が金銭的な賠償を十分にできない…といった事態を避けるため、自転車通勤を行う従業員に対して、相応な金額の「個人賠償責任保険」に加入することを条件に、自転車通勤を許可する等の方策が考えられます。【業務中・通勤中に事故の被害者となってしまった場合】業務中の事故により従業員がケガを負ってしまった場合は労働災害として、労災保険の各種給付が行われます。また、自転車通勤をしている従業員が通勤途中で事故の被害者となった場合も、原則的には通勤災害として労災保険の各種給付が行われます。この場合、通勤災害として認められるためには労災保険法で明示されている「通勤」の定義に当てはまるかどうかによって判断されることになります。労災保険における「通勤」の定義「就業に関し」「①住居と就業の場所との間の往復②就業の場所から他の就業の場所への移動③住居と就業の場所との間の往復に先行しまたは後続する住居間の移動」を「合理的な経路および方法により行うこと」をいい、業務の性質を有するものを除く一言でいえば、「自宅と会社の往復以外は通勤として認められない」が原則ですが、実際の取り扱いは、出退勤途中に病院に立ち寄る、生活必需品の購入のためスーパーに立ち寄る等の経路の逸脱については、通院や買い物終了後に通常の経路に戻れば、戻った後は再び「通勤」として認められることとなっています。一方、いわゆる「寄り道」として、退勤時に習い事やスポーツジムなどに立ち寄る、または飲酒等により経路を逸脱した場合については、その後に通常の経路に戻ったとしても、逸脱後は通勤とは扱われません。そもそも飲酒後の自転車運転は飲酒運転ですので絶対NGです。また、自転車通勤をするか否かに関わらず、会社に通勤経路等を届出させることは通常行われていることと思いますが、仮に、ここで届出をした経路と違う場所で事故に遭ったとしても、それが一般的に考えうる合理的な経路であれば通勤災害として認められることになります。また、通勤手段として公共交通機関を届出していた社員が勝手に自転車通勤をして被害にあったような場合でも、その経路が上記の定義に合致していれば通勤災害として認定されます。(届出していた経路と方法で通勤していなかったという別の問題は残りますが、それは通勤災害の判断とは無関係です)さらに、通勤や業務で自転車を使用する際の社内規定を整備しておくようにしましょう。以下のような項目を中心に明文化しておくことにより、万一事故が発生した場合の責任の所在が明確になります。1.運行管理自転車の使用が認められるのはどのような場合か。その場合の手続きはどのようにするのか、賠償に備えた保険の内容(通勤に使用する場合)2.安全運転管理交通関係法令や交通ルールの遵守日頃の安全運転指導の方法など3.事故が発生した時の対応事故現場で取るべき行動通勤中・業務中の場合の社内での連絡先・連絡方法など4.規定に違反した場合の罰則規定に違反した場合にどのような制裁・処分が行われるかの明確化「自転車でここまでやるの?」と思われる向きもあるかもしれませんが、事が起きてから慌てることのないよう、十分な対策を整えておきたいものです。<注釈>自転車ポータルサイト「事故違反の発生状況」(警察庁)https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/portal/accident.html提供:税経システム研究所
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2026/01/30 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】研究開発支援のGo-Tech補助金をご紹介します。歴史が長くメリットも大きい反面、申請が難解で採択率が50%という補助金です。申請にあたっての必要情報が開示されていないので動いて問い合わせを重ね、指導を受けながらかなりの工数を割いて申請書を作成することになります。その申請初動や審査のポイントなどをご紹介します。助成金補助金の請負業者が以前に比べてたくさん登場しています。経産省、中企庁の補助金の中には請負業者に外注することが難しいものがあります。その代表的なものがGO-TECH補助金です。現在筆者が旧来からのクライアントの依頼でGO-TECHの申請を代行している状況をふまえて、GO-TECH補助金と申請についてご紹介します。(1)GO-TECH補助金の特徴(メリットと注意点)GO-TECHとは:中小企業が、大学・公設試験研究機関等と連携して行うものづくり基盤技術の高度化につながる研究開発やその事業化にかかる費用を補助する経済産業省の事業です。研究開発にかかる費用(一方的キャッシュアウト)を補助してくれる補助金額が大きい人件費も補助対象2~3年に渡るプロジェクト開発最終段階の技術課題にのみ対応外部機関(大学や想定顧客など)との連携(共同体)で申請申請に関する情報がわかりにくく調べにくい(筆者作成)上記は研究開発や新事業に適応する補助金で、3つ全部を申請できます。採択が決まったらどれか1つを選んで他は辞退することになります。対象技術分野は、「特定ものづくり基盤技術12分野」として指定されています。デザイン、情報処理、精密加工、製造環境、接合・実装、立体造形、表面処理、機械制御、複合・新機能材料、材料製造プロセス、バイオ、測定計測の12分野ですが、実際の申請にあたっては12分野にシンプルに当てはまらない場合でも申請可能です。中小企業者の付加価値額及び給与支給総額等の向上、最低賃金保証に関する目標値の設定が必要です。採択後も、技術ノウハウ(機密事項)の公表の義務はありません。(2)GO-TECH補助金における共同体とは(中小機構の資料もとに筆者作成)自社単独では申請できない。大学等研究機関と指定の「事業管理機関」と共同体を形成して申請する形事業管理機関は経産省に指定されている。本補助金は歴史が15年ほどになるが、GO-TECHの前身制度では、事業管理機関が申請までの計画作成等と申請実務を請け負っていたが、関西では中小機構が計画作成等を指導し、事業支援機関は申請のみを行う分業化になっている。地域で異なっているため該当地区の経産局担当部署にどこに相談に行けばよいか問い合わせることが必要です。以前は、アドバイザーとして製品が完成したら購買しますと意思表示している企業団体が参画することが必要だったが、GO-TECHでは条件から外されている。(3)申請書の概要と審査について審査は自社事業や技術の専門家が当たるわけではないため、論理整合を見られます。「これ」(技術や機能)があれば○○の業界が購買します。なぜなら□□だからです。→なるほど!というところが結論になっている必要があります。また業界の専門用語を使わず申請書を作成しなければなりません。「わかっている人が見る」のではなく「わからない人が見る」前提がないと、簡単に不採択になります。図表を多用し、文章主体の申請書にしないように気を付けます。特に技術内容は図表を使って見せるようにします。論文調に技術内容を文書で記述すると審査員が理解できないリスクがあるからです。25年度の全国採択率は49%です。3年平均で52%となっており、半数は不採択になる補助金です。門外漢(高卒の新入社員)が読んでも、80%は理解でき、なおかつ該当分野の世界的権威が読んでも素晴らしいと思うようにと意識して書く必要があります。ライティング能力を問われるということです。(4)申請スケジュール(令和7年度参照)GO-TECHを調べて一番困るのはいつ申請すればよいのかオープンにされていないことです。スケジュールは公募開始と提出期限のみ決まっています。(5)まとめGO-TECH補助金申請にあたって申請書を作成するのであれば、新事業進出促進補助金、ものづくり補助金もほぼ同じ内容で申請できるので、すべて申請することをお薦めします。どの地域の企業でも申請の相談に乗ってくれて計画策定の指導をしてくる機関はありますので、まずは最寄りの経産局にお電話していただいて「GO-TECHを申請したのだがどうすればよいか教えてほしい」とお尋ねください。親切に連絡先を教えてくれます。ただし、共同体が形成できる状況が整っていないとGO-TECH補助金は申請できませんのでご注意ください。自社だけでクローズに研究開発されている場合は、相談先機関から大学や研究機関を紹介していただける可能性がありますが、自社だけで単独申請はできません。1億円から3億円程度の高額な補助金で、人件費も補助対象で、補助率も2/3と高いので新事業、新製品開発の製品化フェーズではチャレンジの価値があります。提供:税経システム研究所
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2026/01/30 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(218)
*本稿は2026年1月15日時点の情報に基づいて作成しています。1.はじめに2026年を迎えて早1カ月。今年の干支は「午(うま)」。力強く駆け抜ける馬の姿から、活力・前進・情熱の象徴とされ、新たな挑戦や大きな成長・発展に最適な年とされています。皆様のビジネスが飛躍・躍進を遂げる年となるよう祈念しております。2025年秋に高市政権が発足しました。自民党総裁に選出された直後に高市氏が発した「働いて働いて……」は高市氏の「国民のために懸命に働いていく」覚悟を示す言葉として、2025年の新語・流行語大賞にも選ばれるほどの象徴的な言葉となりましたが、「過労死を助長する」「働き方改革に逆行する」といった批判や抗議の声も上がっていました。「働き方改革」に代表されるように、多様な働き方、テレワークや副業の拡大、少子高齢化に伴う労働力不足など近年、我が国の労働環境は急速に変化しています。そうした状況の中、労務管理の基本とも言える労働基準法が対応しきれていないとして改正に向けた議論が行われています。この後は、2026年の通常国会への提出による法制化を念頭に置いていた模様ですが、高市早苗首相が指示を出した「労働時間規制の緩和検討」などの議論を踏まえる必要があるとの判断から、厚生労働省は2026年の改正案提出は先送りする方針を示しました。このように、一旦立ち止まった格好にはなりましたが、この大きな改正案の内容について、どういった項目の変更が議論されているのかを知り、改正後の自社対応をシュミレーションしておくことには大いに意味があります。今回は、改正議論のポイントとしてあげられていた項目について、その内容の紹介と対処法を考えていきます。2.議論されている項目は?労働基準法の改正案は、本稿執筆時点ではまだ国会提出はされていませんが、厚生労働省の労働政策審議会(以下「審議会」)で具体的な議論が進められている主な項目は以下の内容です。副業・兼業時の労働時間通算制度の見直しフレックスタイム制の部分活用とテレワークの際の新たな「みなし労働時間制」の創設連続勤務の上限見直し法定労働時間週44時間特例の廃止法定休日の特定義務勤務間インターバル制度の義務化年次有給休暇取得時の賃金算定方法変更「つながらない権利」の明確化管理監督者・裁量労働対象者の適用見直しこれらの項目のうち、重要度が高いとされているのが1.~5.の項目です。具体的に各項目の内容を見ていきます。1.副業・兼業時の労働時間通算制度の見直し(38条)現行では、一人の労働者が複数の企業で働く場合、複数の雇用先の労働時間を通算し、法定労働時間を超えた場合、後から雇用した会社が割増賃金を支払うとされていますが、例えば、副業先が本業先の労働時間を正確に把握することは極めて難しく、また、変形労働時間制やフレックスタイム制などが関係してくると、事実上、通算は困難となるなど企業側の負担があまりにも大きな制度となっています。この点に関し、審議会は「健康確保のため労働時間の通算は維持するも、割増賃金の支払いについては通算不要」とする方向性を示しています。これにより、複数企業間での割増賃金算定は不要となり、企業も副業を認めやすくなるものと見込まれています。2.フレックスタイム制の部分活用とテレワークの際の新たな「みなし労働時間制」の創設(38条)現行では、フレックスタイム制を部分的に適用することは認められておらず、テレワークする日と通常通り職場に出勤する日が混在する場合は、フレックスタイム制が活用しにくくなっています。この点について審議会は、「テレワークに限らず、特定の日については、あらかじめ就業規則で定められた始業・終業時刻に出退勤することを可能にすることにより、部分的にフレックスタイム制を活用できる制度の導入を進めることが考えられる」と提言しています。また、「みなし労働時間制」については、具体的に対象業務が定められており、テレワーク等についてもみなし労働時間制を適用することが可能ですが、適用条件や制度的制約が多く、「多様な働き方」への対応が課題とされています(注1)。この点に関し、テレワークや在宅勤務に限定した、「新たなみなし労働時間制」を創設するなどの方向性が検討されています。3.連続勤務の上限見直し(35条)現行では4週間で4日以上の休日を確保していれば、最大で48日間の連続勤務が可能です。しかし、長期にわたる連続勤務は過労やメンタル不調に直結する要因であり、労災保険における精神障害の認定基準でも、「2週間以上の連続勤務が心理的負荷となる」と例示されています。この点に関し、審議会は「13日を超える連続勤務の禁止」を提言しています。4.法定労働時間週44時間特例の廃止(40条)現行では、原則的な法定労働時間は「1日8時間週40時間」ですが、卸売・小売などの商業・病院などの保険衛生業・旅館、ゴルフ場などの接客娯楽業など特定の業種で従業員数が常時10人未満の事業所については、特例として法定労働時間を「1日8時間週44時間」まで延長できることになっています。しかし、対象となる事業場の約87%がこの特例措置を利用していないことから、審議会は「特例の撤廃に向けた検討に取り組むべき」と提言しています。5.法定休日の特定義務(35条)現行では「法定休日」(使用者が少なくとも週に1回与える義務のある休日)について、どの日を法定休日とするのか、明示する義務はありません。週休二日制やシフト制、変形労働時間制など勤務形態が多様化する中で、「法定休日」と「所定休日」(法定休日以外の休日)が混在することにより、休日労働の割増賃金や代休について労使間でトラブルが散見されています。この点に関し審議会は「法定休日をあらかじめ就業規則などで特定することを義務付けるべき」と提言しています。上記の5項目以外の項目も順次改正の対象とされることから、議論の推移が注目されるところです。3.改正が議論されている段階での備えとは労働基準法の改正は、本稿執筆時点では、厚生労働省・審議会内で議論中の段階ですが、先々改正が決まった場合は、就業規則をはじめとした社内規定を、早々に改正後の内容に対応するよう改めなければなりません。これに備えるために、企業側としてどのように備えておくべきなのでしょうか。○現行制度の見直しと再確認改正が議論されている内容は「労働時間」や「休日」に関連した項目が多くなっています。就業規則で定めている労働時間・休日について再確認し、どのような内容となっているのかを把握しておくことは必須の対応です。また「36協定」(時間外・休日に関する労使協定)の内容にも関係してきますので、こちらも内容を確認しておきましょう。○自社の労務実態の確認残業時間や年次有給休暇の取得状況、シフトの組み方など労務の実態を再確認してみましょう。労働時間や休日に関する条項が改正されることにより、休日・時間外の割増賃金など労務コストに直接跳ね返ってくる可能性があります。また、現状で長期の連勤が恒常的になっている場合などは、人員増やシフトの再編などにより対応が可能かどうかを検証しておきましょう。40年ぶりの改正が現実のものとなった場合、その対応はかなりの負担となることが予想されます。その一方で、先述の通り「労働時間」や「休日」に関連する項目が多い=労働者の健康や休息時間の確保、働きやすさの向上が主眼とされていると考えられることから、自社の魅力を訴求し、採用や定着率の向上に繋げていくチャンスでもあります。早期に準備を進め、自社に最適な対応策を打ち出せるようにしていきましょう。<注釈>「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために(東京労働局)https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyoroudoukyoku/jikanka/jigyougairoudou.pdf提供:税経システム研究所
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2026/01/29 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第21回)
【サマリー】前回まで中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説しました。本稿より今までの投稿のまとめとして、最近の中小企業のM&Aについての国(中小企業庁)の働きかけ、具体的には中小企業のM&Aガイドラインについて解説していきます。1.中小企業庁が公表している中小企業のM&Aガイドラインについて中小企業庁は、近年の中小企業のM&Aに対する関心の高まりや事業承継のツールとしてのM&Aに対する留意点の啓蒙を目的として、2015年3月にM&Aの手続きや手続毎の利用者の役割・留意点、トラブル発生時の対応等を記載した「事業引継ぎガイドライン」を策定しました。その後、2020年3月には、後継者不在の中小企業のM&Aを通じた第三者への事業の引継ぎを促進するために、同ガイドラインを全面改訂した「中小M&Aガイドライン-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(以下「初版」という。)を策定しました。初版の趣旨は以下のとおりです。「M&A業者の数は年々増加しているが、中小企業にとって適切なM&A支援の判別が困難でありM&Aを躊躇する原因の1つとなっているため、中小M&Aガイドラインにより、M&Aの基本的な事項や手数料の目安を示すとともに、M&A業者等に対して適切なM&Aのための行動指針を提示した」続いて2023年9月に初版を改訂し、「中小M&Aガイドライン(第2版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(以下「第2版」という。)を策定しました。第2版の趣旨は以下のとおりです。「初版策定から約3年が経過し中小M&Aに関する行政・民間の取組にも一定の進展がみられ中小企業のM&Aは定着してきたが、仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー)に関して、契約のわかりにくさや担当者による支援の質のばらつき、手数料体系のわかりにくさ(最低手数料の適用)等の課題が見受けられるようになったため、当該課題に対応するため、第2版においては、特にM&A専門業者向けの基本事項を拡充するとともに、中小企業向けの手引きとして仲介者・FAへの依頼における留意点等を拡充した」近年では2024年8月に第2版を改訂し、「中小M&Aガイドライン(第3版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(以下「第3版」という。)を策定しました。第3版の趣旨は以下のとおりです。「M&A支援機関の支援の質を確保する観点から、仲介業者・FAが実施する営業・広告に係る規律や仲介業者において禁止されている利益相反取引の具体化、当事者間におけるトラブルに発展するリスクやその対応策について解説した」以上、中小企業庁がここ5年で矢継ぎ早にガイドライン及びその改訂版を公表したことは、中小企業のM&Aに対する社会の関心が高まっている一方で、高度な知識や倫理観、十分な経験を有していない仲介業者の増加に対する危機感の表れと見てよいでしょう。このような仲介業者を排除しないと中小企業の社長のM&Aに対する不信感、ひいては日本の中小企業の円滑な事業承継の停滞につながることになりますので、中小企業庁の一連のガイドラインの公表と改訂は評価に値するものと考えます。2.中小M&Aガイドライン(第3版)の解説上記の通り第3版ではM&A支援機関の支援の質を確保する観点からの記述となっておりますが、中小企業の社長向けの留意事項も述べております。本稿では「M&Aに向けた事前準備」を解説します。①支援機関への相談支援機関への相談について、ガイドラインは以下のようにアドバイスします。「譲り渡し側経営者(以下、売り手サイドの社長)が中小M&Aの意思決定を行うに当たっては、様々なポイントを検討することになる。しかしながら、売り手サイドの社長が単独で検討していても日々の業務への対処等が優先してしまい、なかなか検討が進まないことが多い。また、専門的な知見を有しない中で検討を続けることで誤った判断を行うおそれもある。そのため、売り手サイドの社長がまず行うべきことは、身近な支援機関への相談である。具体的には、商工団体、士業等専門家(公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士等)、金融機関、M&A専門業者のほか、事業承継・引継ぎ支援センターといった公的機関があり、まずはこういった支援機関に相談することが望まれる。実際には、まず顧問の士業等専門家(特に顧問税理士)に相談することも多いと思われるが、自身が相談しやすいと考えられれば、所属する商工団体、取引金融機関等に相談してもよい。公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターや、政府系金融機関である日本政策金融公庫でも相談を受けている。その際には、まず、直近3年分の税務申告書・決算書(損益計算書・貸借対照表を含む。)・勘定科目内訳明細書の写しを用意すれば十分である。可能であれば会社案内や自社ホームページの写し等といった売り手サイドの事業の概要が分かる資料も用意できるとよい。これら以外の詳細な資料は、支援機関からの指示を受けてから準備すれば足りる。中小M&Aの意思決定がまだ済んでいないから相談を控えるのではなく、むしろ、意思決定がまだ済んでいないからこそ相談することが必要である。なお、支援機関への相談の際には、自分にとってマイナスな情報や後ろめたい情報ほど先に伝えておく真摯な姿勢が望まれる。これにより支援機関も課題への対応策や解決方法等を早期に検討しやすくなり、円滑な中小M&Aに資することになる。」売り手サイドの社長は、周辺から見ると意外と孤独な環境に身を置いています。そのため、事業承継等の重要な意思決定事項については身近に相談相手がいないのが現状と思われます。ガイドラインでは社長の意思決定が未了の段階での、専門家への相談を勧めておりますが筆者も同感です。②後継者不在であることの確認後継者不在であることについて、ガイドラインは以下のようにアドバイスします。「売り手サイドの社長は、親族内・社内に後継者候補がいないこと(つまり後継者が不在であること)を確認しておく必要がある。具体的には、親族内承継を実施しないことにつき身近な親族(特に子や兄弟)から了解を得ておくこと、社内に後継者候補がいないこと(従業員承継が不可であること)を確認しておくことが必要である」売り手サイドの社長の子供に事業を円滑に継承できれば、売り手サイドの社長は恵まれた環境にいることになります。しかし、現実ではスムースに事は運びません。売り手サイドの社長に後継者が不在の場合、身近な親族(売り手サイドの社長の兄弟やその周辺)や会社の従業員に早めに相談することが望ましいと考えます。③引退後のビジョンや希望条件の検討引退後のビジョンや希望条件の検討について、ガイドラインは以下のようにアドバイスします。「売り手サイドの社長は、引退後のビジョンを含む希望条件を事前によく考えておく必要がある。例えば、当面は売り手サイド側もしくは買い手サイド側の事業に関わり続けたいのか、別の事業に進出したいのか、それとも社会貢献活動や余暇を楽しむといった全く別のことを行いたいのか等、引退後にどのような過ごし方を選択するかといった点は、本人のその後の人生にとって重要な要素である。また、希望条件についても、代金(譲渡対価)の金額や従業員の雇用継続は売り手サイドの社長として懸念することの多い重要な要素の1つではあるが、希望条件として検討すべき要素はこれに限定されるものではない。売り手サイドの社長は、中小M&Aにおける希望条件を明確化し、可能な限りで優先順位を付しておくことが望ましい。中小M&Aは相手があることであり、売り手サイドの希望が確実に受け入れられるわけではないが、そのような場合に譲歩できない点を固めておくことは、買い手サイドとどのような点を交渉すべきかを明確化することになり、円滑な交渉の実現にも資するものである。」売り手サイドの社長は引退後に何をしたいのかを明確化して、買い手サイドとの交渉に臨むべきと考えます。苦労して築き上げた事業をM&Aにより他社へ譲渡することは、感情的に複雑なことであることは筆者も理解できます。しかし、売り手サイドの社長の残りの人生に加えて既存の従業員の今後の処遇などを考えると、引退後のビジョンや希望条件については早めに自分なりの結論を出しておくのが望ましいと考えます。④中小M&Aに先立つ株式・事業用資産等の整理・集約中小M&Aに先立つ株式・事業用資産等の整理・集約について、ガイドラインは以下のようにアドバイスします。「中小M&Aに先立つ株式・事業用資産等の整理・集約は一般的に、事業承継においては、経営状況・経営課題等の現状把握と、事業承継に向けた経営改善等が必要とされる。中小M&Aの実行のためには、その中でも最低限、株式・事業用資産等の整理・集約が必要である。まず重要なことはまず支援機関に相談することである。売り手サイドの社長だけでは株式・事業用資産等の整理・集約が困難な場合もあるため、顧問税理士等の身近な支援機関に相談することが望ましい。なお、株式や事業用資産等の整理・集約については、法的な論点等についての検討や交渉を要することもあるので、この場合には法務の専門家である弁護士の助言を得ることが望まれる。◆株式の整理・集約普段は意識する機会が少ないものの、会社にとって株式は非常に重要なものである。仮に、株式が分散していたり、一部株主の所在が不明であったりする場合、中小M&Aを実行する際に重大な障害となるおそれもある。基本的に、総議決権の過半数の株式があれば株主総会決議は確実に可決することができるが、特に重要な事項(例えば、全事業の譲渡)については特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議)が必要となることがあるため、これを確実に可決できるように総議決権の3分の2以上の株式を保有しておくことが望ましい。仮に売り手サイドの社長が買い手サイド側に対して会社の全株式を譲渡する場合(株式譲渡)には、基本的に、売り手サイドの社長が全株式を保有しておく必要がある。そのためには、他の株主からの株式の買取り(及びそのための買取り資金の調達)が必要なケースもある。また、株主名簿が正しく整備されているか、実際に出資していない親族・知人等の名義になっている株式(いわゆる名義株)がないか、(株券発行会社の場合)株券が適切に管理されているかといった点も確認が必要である。◆事業用資産等の整理・集約重要な事業用資産等(不動産や機械設備等)について、第三者の名義である、担保が設定されている、遺産分割の対象として争われている、第三者との間で係争中の物件である等の状況の場合、譲り渡し後の事業継続に支障が生じ得るため、これらについても確認が必要である。また、中小M&Aにおいては、家族経営の企業が多いことから、売り手サイドの会社財産と売り手サイドの社長個人の財産が明確に分離されていないケースも多い。そのようなケースでは、譲渡する事業用資産等を譲り受け側にスムースに譲り渡せないこともあるため、この点も明確に区別して整理・集約しておく必要がある。」売り手サイドの社長は、M&Aの実行に当たって株式の整理・集約と事業用資産等の整理・集約が必要となります。株式の保有状況が分散化している場合、M&Aの意思決定に際して障壁となるケースを筆者は見てきました。従って、売り手サイドの社長はM&Aの意思決定の前に株主の状況を把握して、必要であれば少数株主の株式を買い取って総議決権の3分の2以上の株式を確保する必要があります。また事業用資産等の整理・集約については当該資産の所有権(会社なのか社長なのか)や処分に対する制限条項などを整理する必要性を説明しております。事業用資産等は買い手サイド側にとって今後のキャッシュ生成の源泉なので、ネガティブな情報があれば、それらを誠実に買い手サイド側に伝えることが重要と考えます。提供:税経システム研究所
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