経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2025/12/26 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第13回) 雇止め法理1
【サマリー】前回は、内定取消に関する主要判例を通じて、内定段階でも労働契約が成立し、取消には正当な理由と手続が必要であることを確認しました。今回は、有期労働契約の「雇止め」をテーマに、労働契約法19条の趣旨と判例法理を解説します。契約更新が繰り返され実質的に無期雇用と同視できる場合には、解雇と同様の合理性と社会的相当性が求められます。さらに、実務に大きな影響を与えた2つの重要判例を紹介し、企業が雇止めを行う際の判断基準と留意点を整理します。1.「雇止め法理」の確立従来、日本の労働法制においては、正社員など期間の定めのない労働契約については「解雇権濫用法理」(労働契約法16条)が適用され、使用者による解雇には合理的理由と社会的相当性が求められてきました。しかし、有期労働契約については、契約期間が満了すれば当然に雇用関係が終了するとの形式的理解が一般的であり、更新拒否(雇止め)は一見自由であると思われています。ところが、実際の雇用現場では、有期契約が形式的に繰り返し更新され、結果的に長期的な雇用関係が継続するケースが多数存在します。こうした場合に契約満了を理由に一方的に契約を打ち切ることは、実質的には「解雇」と同じ効果をもたらします。この点については1970年代以降、判例を通じて「雇止めに一定の合理性や相当性が求められる」という法理が確立されました。そして、こうした裁判例の積み重ねを条文化したものが労働契約法19条です。同条は、いわゆる「雇止め法理」を明確に法律として位置づけたものであり、現在の雇用実務において極めて重要な役割を果たしています。2.労働契約法19条労働契約法19条は、使用者が有期労働契約の期間満了を理由として労働者を雇止めしようとする場合に、次のいずれかに該当する場合には、その雇止めが無効となる可能性があると定めています。第1に、過去に契約が反復更新されており、実質的に期間の定めのない労働契約とみなされる場合です。第2に、労働者が当該契約が更新されるものと期待することについて合理的理由がある場合です。これらのいずれかに該当する場合に、使用者が契約期間の満了を理由に更新を拒否する場合、もしその雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」と判断されれば、当該雇止めは権利の濫用として無効とされます。つまり、この規定は、従来「解雇」に適用されていた合理性・相当性の原則を、有期契約の「雇止め」にも準用する趣旨を明文化したものです。形式的には期間満了で契約終了とされていても、実態として継続的な雇用関係が存在する場合には、無期契約と同様の保護が及ぶことになります。(有期労働契約の更新等)第十九条有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。一当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。二当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。3.雇止め法理の概要労働契約法19条の背景には、複数の最高裁判例で確立された法理があります。これらの判例は、有期契約であっても更新の実態や雇用継続への期待がある場合には、雇止めに一定の制約を課すべきであるとする方向で積み重ねられてきました。雇止めについて争われた実際の判例を見ると、有期雇用契約を4つのタイプに分けることができ、各タイプに雇止めの可否について一定の傾向が見られます。(図表1参照)今回は、数ある判例の中から、「雇止め法理」の基本的な考え方を確立させた2つの判例を基に解説させていただきます。まず、「東芝柳町工場事件最高裁昭49.7.22判決」(詳細は「4.重要判例1」を参照)です。この事件では、期間2カ月の契約を繰り返し更新して働いていた従業員の雇止めが問題となりました。最高裁は、雇用関係が長期間にわたり継続しており、労働者が契約更新を期待することに合理的理由がある場合には、使用者が期間満了を理由に契約更新を拒否することは、客観的合理性と社会的相当性を欠けば無効になると判断しました。これにより、雇止めにも解雇に準じた制約が及ぶという「雇止め法理」が初めて明確に示されました。この「雇止め法理」は、労働契約法19条1号に明文化され、実質無期契約タイプ(期間の定めのない契約と異ならない状態に至っている)に分類されます。次に、「日立メディコ事件最高裁昭61.12.4判決」(詳細は「5.重要判例2」を参照)では、いわゆる嘱託社員の雇止めが問題となりました。最高裁は、労働者が契約更新を合理的に期待していたか否かを判断する際には、①契約更新の回数・通算勤務期間、②更新手続きの形式、③使用者の言動や説明内容、④職務内容や勤務実態、などを総合的に考慮すべきであると示しました。そして、本件では短期契約の反復更新であり、かつ景気悪化に伴う事業上の必要性が明確であったことから、雇止めを有効としました。この判決は労働契約法19条2号の、期待保護タイプ(相当程度の反復更新の実態から雇用継続への合理的期待が認められる)、に分類されます。(図表1)※厚生労働省「参考3雇止めに関するこれまでの裁判例の傾向」より雇止めがいずれかの類型に該当する場合には、その雇止めについて客観的な合理性や社会的な相当性があるかどうかが判断されます。そして、これらの合理性や相当性が認められない場合には、使用者が労働者による有期労働契約の更新または締結の申込みを承諾したものとみなされ、結果として従前と同一の労働条件による有期労働契約が成立したものと扱われます。このように、雇止めの有効性は、契約書の文言よりも、実際の勤務実態や使用者の対応を重視して判断される傾向が確立しています。4.重要判例1「東芝柳町工場事件最高裁昭49.7.22判決」<事案の概要>この事件は、有期労働契約で採用された臨時工の労働者が、契約期間の満了を理由に更新を拒否された、いわゆる「雇止め」をめぐって争われた事案です。労働者は短期間の契約を複数回にわたって更新し、恒常的な業務に長期間従事していました。東芝柳町工場では、繁忙期の人員確保を目的として「臨時工」という形態を用いていましたが、実際には同じ職場で、正社員とほとんど同じ業務に継続的に従事していたのです。原告である労働者は、4年以上にわたり反復して契約更新され、工場の恒常的業務を担っていました。しかし会社側は、経営上の整理を理由に「契約期間満了」をもって更新を打ち切り、雇止めを行いました。これに対し労働者は、「実質的には正社員と同じであり、契約更新を当然に期待できた」と主張して、雇止めの無効を訴えました。この事件の中心的な争点は、「期間満了」という形式を理由に、使用者が自由に雇止めを行えるのか、それとも実態として雇用が継続している場合には、解雇と同様の制約が及ぶのかという点でした。<判決のポイント>最高裁判所は、この事件を通じて、後に「雇止め法理」と呼ばれる重要な判断基準を初めて示しました。まず最高裁は、有期契約であっても、反復して更新されることで、実質的に期間の定めのない雇用契約と同じ状態に至っている場合には、期間満了を理由として当然に雇止めができるわけではないと判断しました。また、反復更新の回数がそれほど多くなくても、労働者が契約更新を期待することに合理的な理由がある場合には、同様に雇止めの自由は制約されるとしました。このような場合には、雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」と認められれば、権利の濫用として無効になるという法理を明確に示したのです。最高裁は、合理的期待や無期的性格があるかどうかを判断するために、次のような要素を挙げました。それは、①契約更新の回数や通算勤務期間、②業務の性質が臨時的か恒常的か、③正社員との勤務実態の類似性、④契約締結・更新時の会社の説明や職場慣行、⑤他の同種労働者との比較、などです。このように、形式上の契約期間よりも雇用実態の継続性や合理的期待の有無を重視する姿勢が明確に示されました。結果として、最高裁は本件において、原告が長期にわたり更新を繰り返していたこと、業務が恒常的であったこと、会社側から合理的な雇止め理由の説明が十分になされていなかったことを踏まえ、雇止めを無効と判断しました。この判決は、「有期契約であっても実質的に無期契約に近い場合には、雇止めにも解雇と同様の合理性・相当性が求められる」という原則を確立した、その後の裁判にも大きな影響を与える重要な判例となりました。5.重要判例2「日立メディコ事件最高裁昭61.12.4判決」<事案の概要>この事件は、反復して更新されてきた有期契約において、解雇に関する法理(いわゆる解雇権濫用法理)をどのように類推適用するかを示したものであり、のちの労働契約法19条の基礎となった判例として、現在でも極めて重要な意義を持っています。本件の舞台は、医療機器メーカーである株式会社日立メディコ(現・日立製作所ヘルスケア事業部)の柏工場でした。原告である労働者は、2か月間の有期労働契約を結び、更新を5回繰り返して勤務していました。勤務態度は良好であり、仕事の内容も恒常的な生産業務の一部を担うものでした。しかし、当時、工場は独立採算制を採っており、医療機器市場の不況によって業績が悪化していました。会社は、生産調整とコスト削減のために人員を整理する必要があると判断し、契約期間満了時に更新を打ち切る、すなわち雇止めを行いました。会社側は「業績不振という事業上の都合」を理由に挙げましたが、労働者は「契約を何度も更新しており、今後も継続雇用されると期待していた」と主張して、雇止めの無効を訴えました。この事件の中心的な争点は、①有期労働契約が複数回更新された場合に、解雇法理を類推適用すべきかどうか、②本件の雇止めが社会通念上相当といえるかどうか、の二点でした。<判決のポイント>最高裁判所はまず、「有期労働契約であっても、反復更新がなされている場合や、労働者が契約の更新を期待することに合理的な理由がある場合には、解雇に関する法理を雇止めにも類推適用すべきである」と明確に述べました。つまり、形式上は期間満了であっても、実質的には雇用が継続しており、労働者に更新を期待する合理的根拠がある場合には、解雇と同様に「客観的合理性」と「社会的相当性」が必要であるという考え方を示したのです。もっとも、最高裁は同時に、有期労働契約はその本質上、期間を定めて締結されるものであるため、無期契約とは異なる性格を有すると指摘しました。したがって、解雇法理の類推適用を認めつつも、無期雇用労働者(正社員)と同等の保護を全面的に与えるものではなく、契約の性質や目的、更新の実態などを踏まえたうえで判断すべきであるとしました。その上で最高裁は、本件雇止めについて次のように判断しました。当該労働契約は短期間(2か月)ごとに更新されるものであり、更新の際には会社の判断を経て継続の可否が決定されていました。また、契約書には「期間満了により退職する」と明記されており、会社には独立採算制のもとでの経営悪化という客観的な事情が存在しました。さらに、臨時従業員制度自体が、景気や業務量の変動に弾力的に対応することを目的として設けられていたことも重視されました。これらの点を総合して、最高裁は「本件雇止めは事業上やむを得ない理由に基づくものであり、社会通念上相当である」と判断し、雇止めを有効と認めました。すなわち、本件では、反復更新があったとはいえ契約期間が短く、更新手続きも形式的な自動更新ではなく会社側の判断に基づいて行われていたこと、そして不況に伴う業務上の必要性が明確であったことから、労働者の「合理的期待」は否定され、雇止めの合理性が肯定されたのです。この判決の意義は、単に雇止めが有効であると結論づけた点にとどまりません。最高裁は、本件を通じて「雇止めの判断枠組み」を理論的に整理しました。すなわち、①有期契約であっても反復更新や合理的期待がある場合には解雇法理を類推適用する、②ただし、有期契約である以上、保護の範囲は正社員と同一ではなく、契約の性質や運用実態を踏まえて柔軟に判断する、③事業上の必要性が明確であり、雇止めの合理性が認められる場合には、有効とされるという三段階の考え方を示した点にあります。この法理は、労働契約法19条にそのまま取り入れられ、現代の雇止め実務の基本原則となっています。6.実務上の留意点両判例(東芝柳町工場事件・日立メディコ事件)が示している最も重要な教訓は、「有期契約であれば期間満了を理由に自由に終了できる」という考え方は、現代の人事労務管理では通用しないという点です。契約が反復更新され、労働者に雇用継続への合理的期待が生じている場合、雇止めには客観的な合理性と社会的相当性が求められ、企業はその理由と手続の正当性を説明できる準備をしておく必要があります。そのため、企業側としてはまず、契約書や労働条件通知書に契約期間、更新の有無、更新回数の上限、更新を判断する基準(業務量、勤務成績、健康状態など)を明確に記載しておくことが欠かせません。曖昧な表現や慣行的な更新は、労働者に合理的期待を与え、後の紛争の原因となる可能性があります。また、更新手続きを形式的に行うのではなく、毎回の更新時に面談や評価を実施し、その記録を残しておくことで、自動更新ではなく会社が毎回継続の可否を判断していることを客観的に示すことができます。さらに、雇止めを行う際には、事業上の必要性、業務の消滅、勤務態度や能力に関する問題など、合理的な理由を資料や記録で裏づけられるよう社内体制を整えておくことが求められます。加えて、労働契約法18条の無期転換制度も踏まえ、通算5年を超える反復更新が生じないよう、雇止め管理と無期転換管理を一体的に運用することが現在の実務では不可欠です。一方で、労働者側の留意点としては、自身の雇用継続への合理的期待を裏づける証拠を日常的に確保しておくことが重要です。過去の契約書や更新通知、上司の発言記録、勤務表、評価記録、他の契約社員の更新状況などは、裁判で「更新を期待する合理的理由」を立証するうえで有力な資料となります。不当な雇止めだと感じた場合は、まず会社に理由の説明を求め、納得がいかない場合には労働局のあっせんや労働審判などの公的手続きを検討することが有効です。裁判所は形式よりも実態を重視しますので、日常の勤務実態を示す客観的資料が救済の可否を左右することになります。以上のとおり、両判例に共通するポイントは、有期契約の雇止めが「形式的な契約期間」ではなく「雇用関係の実質」に基づいて判断されるという点にあります。そのため、企業側には契約内容や更新運用を明確にし、適切な記録を残すことが求められ、労働者側も、雇用継続への合理的な期待を裏付ける資料を確保しておくことが、後の紛争防止に大きく寄与します。次回は「雇止め」に関する、その他の判例をいくつか紹介したいと思います。提供:税経システム研究所
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2025/12/26 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第22回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>当社は金属素材の商社で、一部の材料については流通加工も行っている中小企業です。原材料の価格上昇や人件費の上昇に困っていましたが、顧客への価格改定依頼の努力を行い、黒字を維持することができています。一方、仕入れを行っている鉄鋼業やお客様企業では、近年、カーボンニュートラル対応に力を入れているようです。当社として、どのようにこの問題を考えたらよいでしょう。■世界の潮流はどうなっているのか近年、カーボンニュートラルという語句を耳にする機会が増してきたように感じます。これは、ご存じの通り「二酸化炭素排出を実質ゼロにする」ということを意味しています。ゼロにする方法論には、森林吸収やCCUS(CarbonCapture,UtilizationandStorage)の技術開発によるもの等が挙げられています。現在、わが国で最も二酸化炭素を排出しているのは各大手鉄鋼メーカーとみなされています。つまり御社の取引先ですから、この問題に敏感な業界にいらっしゃることになります。御社の顧客である機械金属系製造業も大企業ほど、この問題に敏感です。考え方を整理しておくべき状況にあることは間違いありません。カーボンニュートラルについては、地球温暖化に二酸化炭素が影響しているという科学者達の意見から各国の検討がスタートしています。地球温暖化を抑制するにはどうすべきかが各国で話し合われ、1990年代に京都議定書が打ち出され、パリ協定が締結されています。基本的に、欧州諸国が先行して動いていますが、日本も京都議定書作成に関与していますので、この流れに沿った動きをしていており、「2050年カーボンニュートラル達成」を目指しています。一方、アメリカの第二次トランプ政権は、パリ協定離脱を表明し、民主党バイデン政権下で定めた2030年までの二酸化炭素削減目標を撤回したいとの意向も示しています。その意味では、カーボンニュートラルを目指す政策は、政治的な思想とも関係があり、今後の世界の政治状況により修正されていく可能性も残されています。長らくドイツのリーダーであったメルケル氏は旧東ドイツ出身であり、EUのもう一つの大国フランスは20世紀初頭から社会民主主義的政策を続けてきました。トランプ氏のような現実主義と相反する理念を重視する傾向がEUに強かった時期に、この政策は生まれたのです。現実主義とリベラルな価値観が対立する中で、一度決まった流れを修正することはEU各国も難しい状況です。温室効果ガスと地球温暖化の関係に否定的な意見を述べる科学者もいるなど、カーボンニュートラル政策には批判もあります。電気自動車や太陽光パネル等の自然再生エネルギーを普及させる政策についても、本当に二酸化炭素を部品や機器の製造段階から計算すると削減できるのかという疑義が提示されるようになってきました。理念と現実の間で、今後も国際的な政策が徐々に修正されていくことはあるでしょう。しかし、わが国は国際公約をしており、すでに膨大な利権が生まれつつあります。財界団体の幹部企業群の中期経営計画を見ても、カーボンニュートラルを取り入れている事例が多数を占めています。この動きにブレーキをかけることには、大いなる政治的エネルギーが必要となります。そのため、国としての政策の方向性は維持したうえで、技術開発等の具体論においては新しい考えを取り入れるという修正が加わるのが今後の流れとなるのではないでしょうか。図1に環境省がとりまとめた2050年にカーボンニュートラルを実現するためのロードマップが示されています。国と経済団体は、力を合わせてこの計画を達成しようと努力しているのが現状です。図12050年ネット・ゼロに向けた進捗(環境省)欧州主導でカーボンニュートラルは進み、日本はその動きに追随しているのが実情と言えるでしょう。課題は、図2に示されている通り、排出国の上位に1位中国、2位アメリカが並んでおり、成長を続けるインドが4位となっているということです。アメリカはパリ協定から離脱し、中国やインドは成長途上なので「将来は頑張る」というスタンスをとってきたことです。すでに省エネ化等が進むEUや日本の削減成果は、地球規模で考えると限定的です。図22022年、世界のエネルギー起源CO2排出量(環境省)■日本市場の動向GX推進法が制定され、政府による20兆円の先行投資と合わせて、官民で総額150兆円超のGX投資を実現し、経済成長につなげることが予定されています。さらに、2026年にはカーボンプライシングの仕組みが本格的に動き出します。10万トン以上の二酸化炭素排出を行う企業に、排出量に見合った排出枠の償却を義務付けるのです。ここで言う償却義務とは、年度に排出した温室効果ガス量を報告し、与えられている排出枠の償却(返納)をすることです。報告された排出量と同量の排出枠を、制度運営機関に対して償却(返納)する制度ですので、保有枠が不足している場合、市場で排出枠を購入するか、追加割当の申請を行うのです。大企業から義務化され、徐々に義務化する範囲を拡大していくことになるのでしょう。カーポンプライシングについては、EUが先行しています。EUのETS(排出量取引制度:EmissionTradingScheme)は2005年に導入され、世界最大規模の市場となっています。炭素国境調整メカニズムも2026年から導入され、鉄鋼、セメント、肥料の、EU域外からの輸入品に炭素価格を課します。EUのETSは2022年に世界全体のカーボンプライシング収入の76%以上を占めています。アメリカでは、カリフォルニア州や東部など、州単位でのETSが構築されており、VCM(VoluntaryCarbonMarket)では、企業主導の取引がなされています。テスラはVCMではなく、州単位の規制市場で2024年に約17.9億ドルの収入を得ています。このカーボンプライシングがテスラの企業価値を高めてきました。日本の場合、2026年からGX-ETSが始動します。日本証券取引所Gが2023年から自主的取り組みを進めてきましたが、ここまで累計1000トン強×2-3千円の取引高であり、テスラの収入と比べると小さい市場です。いずれにせよ、経済成長とカーボンニュートラルを両方とも狙うという政策と巨額投資が動き出しているため、この分野のビジネスチャンスは拡大していきます。■中小企業がいかに対処すべきかここまで、カーボンニュートラルにかかわる国内外の流れについて述べてきました。問題は、御社のような中小企業が、どのように対処すべきかです。表1御社の戦略体系1.取引先の要望に応える2.社内を改革する3.環境認証を取得する4.新事業の機会を発見する御社のカーボンニュートラルに関する戦略体系は表1の通りにまとめられます。中小企業である御社の場合、利害関係者である顧客企業、顧客公的機関等から二酸化炭素の排出量、削減努力の開示を求められることがあります。調達先である鉄鋼メーカーのサプライチェーンマネジメントの一環として二酸化炭素排出量削減を目指す場合が今後増えていきます。また、EU等の規制の厳しい市場に挑む顧客企業にとっては、市場から排除されるリスクを低減させていくこととなり、そこに協力する努力も必要となる場合があります。顧客の大企業との間に中堅クラスの企業が挟まっている場合は、当面厳しい要求がないかもしれません。しかし、それでもいずれサプライチェーンを広範にカバーする方向に規制が厳格化される可能性があると思っておいたほうが良いでしょう。またGXにおいて各種省エネ機器を導入し、その際にDX投資も行い、社内のビジネスプロセスの改革を行うという方法もあります。中小企業のためのGX/DXの支援制度はGX推進法等の理念に基づき年々充実しています。産学官連携を通じてGXの技術開発を行うことも有望な手法の一つです。環境認証を取得し、市場の信頼を得ることも重要な方法です。筆者が会長を務める一般社団法人首都圏産業活性化協会は、産業クラスター推進組織ですが、2022年にカーボンニュートラル研究会を発足し、会員中小企業の支援をはじめました。2023年にはプロジェクトリーダーを決め、相談窓口を設けました。そして2025年よりSBT認定取得支援スタートし、現在、6社取得しています。2026年に認定取得企業を会員の5%にするべく活動を行っています。SBT(ScienceBasedTargets)とは、SBTi(ScienceBasedTargetsinitiative)という団体が運営する国際的な認証制度です。Scope1(自社の直接排出)+Scope2(購入したエネルギーによる間接排出)+Scope3(それ以外のサプライチェーン全体で発生する間接排出)が、サプライチェーン全体の二酸化炭素等の温室効果ガス排出量となります。中小企業版SBT(SBTforSMEs)は、Scope3についての削減目標が任意となっていますので、管理の難易度がやや低下します。ただし、中小企業版SBTは、2024年から従業員250人未満の企業に限定し、財務諸表の提出を必須とするなど厳格化が進む方向です。サプライチェーンに大企業が入っている場合はこの認証を得るか、それと同等の管理水準を求められる場合も出てくるでしょう。これまでは、ISO1400シリーズの認証の簡略版として、エコアクション21の取得に挑む中小企業も見られましたが、御社のようにサプライチェーンに二酸化炭素の大口排出産業が含まれている場合、SBTについて調べて準備していく必要があるでしょう。■新事業機会の発見表1の4.新事業機会の発見も重要です。これまでは3R(Reduce/Reuse/Recycle)についての環境技術に挑む中小ベンチャー企業が多数活躍してきました。カーボンニュートラル分野のCCUSとこれら環境技術は関連を持っています。一方、これまで例えばリサイクルの成果を販売しようとすると「商品力」が不十分で、販売に苦労する場合も多かったのです。カーボンニュートラルに関する事業機会は、従来型の3Rの環境技術を含むものの、国策や世界的な認証がかかわっているので、規制をクリアするための技術や商品のニーズがある点が異なっています。脱炭素関連商品としては、省エネ機器類にとどまらず、二酸化炭素削減量をシミュレーションするツール、それを用いたコンサルティングサービスも含まれます。実は巨額の脱炭素収益を計上しているテスラですら、本当にクレジットの算定が正しいのかという疑念を呈されているそうです。カーボンプライシングの仕組みにおいては、カーボンクレジットの算定に信頼を置けるかどうかが問われます。企業の決算の際には公認会計士の会計監査が必要となりますが、高度に管理会計的である二酸化炭素削減量の算定は、厳密にやるなら4大監査法人と同様のプラットフォームがインフラとして必要となります。そこまでコストをかけ厳格に算定する必要があるかという意見もあるでしょうが、証券取引所でクレジットを取引するということは、一定の監査コストが求められるということになります。例えば、管理の整っていない新興国で製造された電池が、製造する際に膨大な二酸化炭素を放出している場合、それを正確に捕捉せずにその電池を購入したEVメーカーに利益を与えるようなことが許容されるかです。簡単かつ高信頼性な二酸化炭素削減量測定の機器やシステムにはニーズがあります。簡易的なツールとして、日本商工会議所などが提供する「CO₂チェックシート」がありますので、自社の排出量を一度簡易計算されてはいかがでしょう。このように、従来型の環境ビジネスに加えて、二酸化炭素削減技術、関連する測定技術、ICT技術等にビジネスチャンスがあると言えるでしょう。SBTにおいては長期目標と短期目標を設定しますので、この領域に合致したプロジェクト管理のシステムやツールにもニーズがあります。GX推進法は、温室効果ガス削減と経済成長の両立を目指した政策です。その法律の趣旨に則り、規制される企業にメリットある提案をすることが事業機会の発見につながるでしょう。提供:税経システム研究所
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2025/12/26 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(217)
1.はじめにスマートフォンのアプリなどを通じ、単発・短時間の就労希望者を募集することができる「スポットワーク」(「スキマバイト」とも呼ばれる)は最近利用が急増しています。企業側は、繁忙期や急に人手が欲しいときに迅速に募集ができますし、労働者側は、自身の都合に合わせて空いた時間に働く、副業として活用する、など、労使双方にメリットがある新たなワークスタイルとして存在感を高めています。その一方で、アプリの登録者や利用者の増加に伴い、賃金未払いや求人内容の相違など労使間でのトラブルも散見されています。このような状況を受けて厚生労働省は、利用企業(雇用主)向けに、労務管理のポイントをまとめたリーフレットを発出しました(注1)。企業としては必要な労働力が手軽に確保できる手段だけに、今後も利用が増えていくことは間違いありません。そのような流れの中で、外してはいけない労務管理上の注意点について考えてみたいと思います。2.スポットワーク(スキマバイト)の現状ここ数年で急速に認知度を高めたスポットワークの現状はどのようなものなのでしょうか。本年1月に発表された「スキマバイト/スポットワークに関する定量調査」(注2)によると、全国15歳から69歳の6.5%が過去3年以内にスキマバイトを行った経験があり、そのうち約8割が直近1年以内に経験しており、この結果を元に、全国のスキマバイト人口を簡易推計すると452万人であったとしています。スキマバイトで多い仕事内容は「軽作業系職種」(16.4%)、「接客・サービス系職種」(14.9%)「配送・物流・運輸職」(9.4%)となっており、昨今、人手不足が著しいとされている職種で積極的に利用されている結果となっています。また、雇用側の調査結果としては、長期雇用のアルバイトのマネジメントを経験した管理者層のうち、スキマバイト人材を現在管理しているのは21.3%、管理経験ありが40.7%となっています。この中で、管理者層の63.0%がスキマバイトを「今後も活用したい」と回答しており、管理者もスキマバイト人材を現場の戦力として一定の期待を抱いていると考えられます。その反面、「仕事を教えるのが大変」「人物像やスキルが事前にわかりにくい」「スケジュールやシフト調整が難しい」といった課題も挙げられており、気軽に応募してくる人材に対する管理の難しさも浮き彫りにされています。スポットワークは、アプリ上で雇用契約を締結するなど、従来の雇用手続きとは異なる点が多く、これが労使間で様々なトラブルが発生する一因になっているように思えます。では、使用者側としてどのような点に注意すべきなのでしょうか。3.労務管理上「単発だから…」は通用しない■労働契約の締結は?スポットワーカー(以下「SW」)を募集する際は、仲介事業者が提供するアプリ上で、求人と応募がマッチングされることが大半です。仲介事業者のアプリを利用したとしても、労働契約は使用者とSWが直接締結することになり、仲介事業者はあくまでもマッチングの場を提供しているにすぎません。そして、面接を行うことなく、先着順でマッチングが行われる求人の場合、「原則としてSWから応募があった時点で労働契約が成立するものと考えられる」とされています。したがって、使用者は応募を受けた時点で労働法他法令上の義務が発生するものと認識すべきです。例えば、労働条件通知書もこの時点で交付する必要があります。労働条件通知書は、仲介業者が交付を代行してくれることもありますが、法令上、交付は使用者の義務ですので、代行交付の場合でも、確実に交付されているのか、内容は適切かなどを確認しておくべきでしょう。労働契約成立後に事情が変わって、直前に使用者から労働をキャンセルしなければならないこともあるかもしれません。このような場合、あまりに直前に労働をキャンセルすることは、労働者保護の観点から不適切とされており、使用者からのキャンセル期限の設定については、SWが別の就労機会を見つける時間的余裕に配慮したものとするよう求められています。労働のキャンセルではなく、労働日や労働時間を変更しなければならない場合は労働条件の変更に該当しますので、使用者とSW双方の合意が必要となります。■職場都合の休業や早上がりの取扱は?例えば「天候不良で業務を中止した」「業務が早く終わった」「来客が予想より少なく、人員を調整するため早上がりさせた」など、職場の都合で当初の予定よりも就労時間を短くすることもあるでしょう。このような場合、当初予定より就労を短縮した部分は「会社都合の休業」として、休業手当(労働基準法第26条)を支払う必要があります。「半日しか働いてないから賃金も半分」のような取扱はNGです。■労働時間の通算ほか労働時間の取扱は?スポットワークの性質上、同じ日に複数の企業で仕事をしたり、昼間は正社員で働き、勤務終了後に別の勤務先で副業としてSWをするケースも珍しくありません。このように複数の事業場で労働する場合、労働時間は通算すると定められています(労働基準法第38条)。通算した結果、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合は、時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません。未払い賃金を発生させないよう、使用者はSWから聞き取りするなどにより、兼業や副業の有無とその労働時間と自社の労働時間と足し合わせて正しい労働時間を把握しなければなりません。また、予定した始業時刻前や終業時刻後に、制服への着替えや掃除などの後片付けを命じた場合、その時間も労働時間として取り扱うことになります。■業務中や通勤途中にケガをした場合の取扱は?SWが業務中や通勤途中でケガをした場合、労働災害として、使用者の労災保険からSWは労災保険給付を受けることができます。「SWだから労災保険はないよ」はNGです。SWの労災防止のため、労働安全衛生法に基づく雇い入れ時教育も確実に実施しましょう。■突発的な欠勤や無断退職への対応は?せっかくSWに仕事をお願いすることが決まっても、当日になって現場に現れないことや、業務中に誰に告げるでもなく姿を消してしまう…といった問題のあるSWも存在します。使用者としては、当然ながらアテにして仕事をお願いしているわけですから、急な予定人員不足に対処しなければならなくなりますし、「通勤途中に事故にでも遭ったのか?」「事業所内のどこかで倒れていないか?」など大いに心配してしまうところです。SWのモラル的な問題はあるにせよ、十分に想定できる事態ですので、例えば、急に出勤できなくなった場合に、SWから使用者側への連絡方法を明確にしておくことや、SW側から業務予定時間途中で仕事を打ち切る場合の対処方法などは、事前に整備しておくようにしましょう。単発・短時間の仕事をお願いできるスポットワークは、労使ともにお気軽な気持ちでサービスを利用してしまうのかもしれませんが、労務管理の上では、何ら特別扱いされるものではなく、法令上は他の労働者(正社員や長期のパート・アルバイトなど)同様に扱うことが求められます。この点をおろそかにしてしまうとSWとのトラブルにつながってしまいます。今般発出されたリーフレットの内容も参考に正しい労務管理を行うことが重要です。<注釈>厚生労働省「『スポットワーク』を利用する事業主の皆さまへ『知らない』では済まされない『スポットワーク』の労務管理」https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/001512368.pdf株式会社パーソル総合研究所「スキマバイト/スポットワークに関する定量調査」https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/spot-work.pdf提供:税経システム研究所
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2025/11/28 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(216)
1.はじめにいつの時代でも、部下とのコミュニケーションに頭を悩ませる経営者・管理職の方は多いのではないでしょうか。上司と部下との関係性の良い・悪いは、生産性やモチベーション、従業員の定着率などにも影響します。部下との間で良い関係性を構築し維持していくためには円滑なコミュニケーションが取れていることが必須の要素と言ってもいいでしょう。現在では、オンライン会議システムやビジネスチャットツールなど、業務を進めるにあたり多くのコミュニケーションツールが導入されています。これにより業務効率化やコスト削減につながる一方で、いわゆるZ世代の従業員は対面でのコミュケーションを避けたがる傾向があることなどによってリアルな対話の機会が減り、十分にコミュニケーションが取れていないと感じている経営者・管理職の方も多いようです。こうした状況を踏まえ、コミュニケーションのスタイルとして1on1ミーティングを導入する企業が増えてきています。一言で言えば、「上司と部下との面談」なのですが、これまで行ってきた上司部下間の面談とは目的もやり方も異なった形の面談です。今回は1on1ミーティングを実施するメリットや実施の際の注意点、効果を高めるためのポイントなどについて考えていきます。2.従来の面談と1on1ミーティングの違い従来の部下との面談と1on1ミーティング(以下「1on1」)にはどのような違いがあるのでしょうか。従来の面談で多く行われているのが、目標管理面談です。目標管理面談においては、上司に主導権があり、評価だけでなく、業務遂行上の指示や指摘、連絡事項などを伝えることが主な目的です。主に以下の3つの種類があります。目標管理面談目標設定面談:上司と部下で話し合い、今期の部下の個人目標を設定する面談フィードバック面談:期中で目標達成への進捗状況、成果の内容やプロセスなどを踏まえ、よかった取り組みや顕在化した課題の解決に向けて話し合う面談評価面談:期末に部下の評価を決めるために、目標と達成状況のギャップ、現状の課題、今後の目標などを話し合う面談これに対し1on1で話されるテーマは「部下が相談したいことや話したいこと全て」であり、業務の課題や悩みを上司と共有し、解決策を見出していくものです。1on1ミーティング部下が業務の課題や悩みを上司と共有し、解決策を見出していく面談。上司が部下の成長を支援することが目的で、上司と部下が双方向で対話することを目指す目標管理面談では「上司→部下」のように一方通行になりがちですが、1on1では「上司⇄部下」のように双方向で対話することを目指します。週に1回、月に1回など定期的に15分から30分程度の短時間で実施し、時にはプライベートな話題も持ち出すことが可能とされています。1on1の最大の目的は、部下の成長を支援する場となることです。部下にとっては、定期的に上司と対話の機会があることで、業務遂行上でのちょっとした「つまづき」や「ひっかかり」について上司からフィードバックを受けて前に進むことができるようになるだけでなく、将来目指しているキャリアについて話すこともできます。3.1on1を実施するメリットはでは、1on1を実施することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。1.上司と部下の相互理解と信頼関係の醸成最近の管理職は特に忙しいと言われます。チームで成果を上げていくために部下をマネジメントするだけでなく、時にはプレーイングマネージャーとして自身も目標を持っている場合もあるでしょう。そんな上司を見てしまうと、「忙しそうで話しかけにくいな……」と部下が相談をためらってしまうのも無理のないことですが、定期的に1on1の場があることで、上司とじっくり話すことができます。頻繁に対話を重ねることで互いに「この人はこういう考えを持つ人なんだ」と理解が深まることはメリットと言えます。2.気づきによる部下の成長1on1においては、毎回のテーマを部下の主導で決めていきます。業務遂行上の悩みなどについて上司と対話し、フィードバックを得ることで、解決するために取り組むべき課題が明確になり、次の行動につなげることができるようになります。さまざまな気づきを得ることにより部下の成長を促す効果が見込めます。3.モチベーションの向上1on1は先述の通り、時間は短いながらも定期的に実施されることが基本です。上司は部下の仕事の進捗状況を定期的に確認することができますし、課題や悩みを共有することができるようになることで、部下は安心感が高まります。上司がしっかりと意見を聞いてくれることで、自身を尊重してくれている、大切なメンバーと思われていると感じられるようになることは仕事をする上でのモチベーションにつながっていくでしょう。では、このようなメリットを最大限に引き出すために、意識しておくべきポイントはどのようなものなのでしょうか。4.1on1を有効に機能させるポイントは?1.実施の目的を明確に定期的に上司と部下が対話する機会である1on1は、短時間とはいえ、お互いの時間を取るわけですから、なんとなく実施するのであればただの雑談になりかねません。「どのような目的で1on1を実施するのか」を明確にし、その目的に沿って部下にテーマを準備してもらうようにすることは大前提です。2.部下が主導、上司は傾聴1on1は、部下が主導することが原則ですから、テーマに対する部下自身の考えや課題を率直に話してもらうようにします。一方で、上司は部下の話を十分に聴き、内容を理解し共感していくことが求められます。部下の成長を促すことが1on1のメリットや目的であるため、あまり早期の段階で上司の考えを述べてしまうことは控え、まずは部下自身に考えさせるように仕向けることが重要です。その上で、部下の考えで「評価できる点」「改善すべき点」を指摘し、上司の考えも伝える、といったプロセスを踏んでいくようにしましょう。3.結論は部下が出すようにする1on1での対話や上司からのフィードバックを踏まえて、今後、いかに行動するのかなどについて結論を出すわけですが、この結論は部下が出すように導くのが上司の役目です。上司が結論を出してしまうと、部下のその後の行動にはどうしても「やらされ感」が出ます。部下自身の考えに基づいて今後の行動を組み立てていかないと、目的である「部下の成長」につながりません。仮に部下の考えに基づいた行動がうまくいかなかったとしても、それは部下自身に苦い経験として残りますし、またその時に上司は軌道修正を促してあげればいいのです。上司と部下の間でリアルに対話する機会が減少傾向にある中で、1on1は双方向で対話する機会、部下の成長を促す場としての効果が期待できます。一方で、短時間の対話を何度も積み上げていく必要があり、目にみえる成果を感じられるようになるには一定の時間が必要であることは認識しておかなければなりません。丁寧に対話を積み上げること、上司はじっくりと部下の話を傾聴する姿勢を忘れないように取り組んでいきたいものです。提供:税経システム研究所
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2025/11/28 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第20回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回はターゲット企業の株式を売り手から買い手に移転させるための手続について説明しました。今回はM&Aの最終手続きとなる買収後の統合について説明します。本稿では引き続き下記図表1の12.について説明します。【図表1M&Aの基本的な流れ】前稿で説明したクロージング手続(取引の実行及び完了)がすべて完了した後、ターゲット企業は新たな株主の下で事業を行なっていくことになります。買い手サイドは企業グループにターゲット企業を迎え入れることになるため、円滑にグループ内での統合を図る必要があります。買収後の経営統合活動を一般的にPMI(PostMergerIntegration)と呼びます。PMIは大きく分けて、1.統合方針の決定2.統合計画の策定3.計画の実行及び評価という手順で進められます。実務においてはM&Aの成否はPMIによって決まるといっても過言ではなく、筆者もその重要性を実感しています。これよりPMIの手順に従って説明します。1.統合方針の決定統合方針とは、買収後にターゲット企業をどのように買い手サイドのグループに取り込んでいくのかという方向性をいいます。統合方針はターゲット企業の経営成績、社風、属する業界の景気動向などを検討して決定することになります。株式取得によるM&Aの場合、統合方針は主に連邦型統合と支配型統合に分類できます。連邦型統合とはターゲット企業の自主性を可能な限り尊重していく方針をいいます。役員については代表取締役をそのまま継続させ、ごく少数の取締役を派遣するにとどまります。また経営への関与も少ないためにターゲット企業の従業員の抵抗感も少なくなりますが、シナジー効果は限定的にとどまるリスクがあります。連邦型統合は、一般的にターゲット企業の業績が好調で内部統制も適切に機能している場合に選択されることが多いといえます。一方、支配型統合とは買い手サイドがターゲット企業の経営に積極的に関与する方針をいいます。まず役員構成についてターゲット企業の過半数を買い手サイドが派遣します。また買い手サイドのオペレーションやノウハウの導入を進めるなどシナジー効果を強く追及する傾向にありますが、強引に進めると従業員の離反等を生じるリスクがあります。支配型統合は買い手サイトとターゲット企業が属する業界が同一で、市場での優位性を追求したい場合などに選択されます。2.統合計画の策定統合方針が決定したら統合計画の策定に移ります。統合計画は先述した統合方針に従って作られることになりますが、いろいろな切り口からタスクを洗い出すことになります。本稿では筆者の経験した実務に沿って説明します。経営方針・ガバナンスまずターゲット企業の代表取締役や他の役員を選定することから始まります。役員は統合方針によって決まることになります。連邦型の場合には代表取締役の継続、支配型は過半数の取締役選任が特徴的です。新役員はターゲット企業の従業員に対して挨拶を行うとともに今後の経営方針を伝えることになります。また買い手サイドが必要な経営情報として、ターゲット企業の主要経営指標(KPI)を決めることになります。筆者の経験した事例では連邦型であったため、現行組織の維持と企業文化の継続を表明しました。また、買い手サイドが必要と判断した会議体の設置や社名の変更を行うこともあります。人事・労務関連人事・労務関連では就業規則や給与規定の見直しを行うかどうかの判断が必要となります。M&A後にターゲット企業のリストラ実施や不利益になる労働条件の変更を行うことになる場合には法的、企業倫理的にも慎重な対応が求められます。特にキーパーソンといわれる従業員の退職リスクも認識しておく必要があります。勤怠管理システムの一元化、健康保険組合の確認、新たな社会保険労務士との契約なども実務上の論点となります。筆者の経験した事例は連邦型のために、既存の人事・労務関連の仕組みや制度をほとんどそのまま継続しました。また、特定の業務にターゲット企業の人材が不足していると判断された場合には、買い手サイドから人材を派遣(出向)するなどの対応も多く見受けられます。経理・財務関連まず、財務DD等で把握されたターゲット企業の財務上の問題点や資金繰り等の検討を行います。具体的には不良在庫や滞留債権の処理、支払方法の変更(手形の振出から電子記録債務への変更)、取引銀行の見直し、買い手サイドの新たな融資による借入金の返済などが挙げられます。またターゲット企業が採用している会計基準や勘定科目、決算期について変更が必要な場合には、どのタイミングで変更するかを決めることになります(原則として親会社と子会社の会計基準は統一する必要があります)。ターゲット企業が日常の会計処理や税務申告を税理士等に委託している場合には、継続するかまたは買い手サイドが関与するかを決めます。買い手サイドが上場企業の場合、ターゲット企業は上場企業の適時開示や内部統制監査対応が必要となりますので、さらなる労力が求められます。筆者の経験した事例は買い手サイドが上場企業でしたので、経理・財務関連のPMIが最も大変なタスクでした。総務関連ターゲット企業が新体制となることに伴い、定款変更や登記情報の変更が必要となるので適切な手続が必要となります。各種の規程類についても見直しや変更、新たな規程作成が必要な場合にはターゲット企業と協力して対応することになります。特に就業規則が労働基準法に準拠しているかどうかの確認、職務権限規程や業務分掌規程があるかどうかの検討が必要と思われます。買い手サイドの人材をターゲット企業に派遣する際には出向契約書の作成や給与の負担割合などを決める必要があります。システム関連ターゲット企業が現状使用している基幹システムや経理システムなどを継続するかどうかの意思決定も必要となります。支配型の場合には、買い手サイドが使用しているシステムへの変更を通じて情報の一元化や間接コストの削減を目指すことも考えられます。3.計画の実行及び評価上記の統合計画をスケジュールに従って実行していくことになります。連邦型の場合には比較的スムースに進むことが想定されますが、支配型の場合には慎重かつ丁寧に進めないとターゲット企業の反発を招く恐れがあります。節目ごとに経営統合の状況を評価して、買い手サイドが最終的にM&Aの当初の目標を達成するようにグループ全体で取り組む必要があります。提供:税経システム研究所
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2025/11/28 医療経営
戦略的医療機関経営 その168
【サマリー】第1回としては、「入退院支援」「食事」「リハビリ」を取り上げた。第2回は、人生最期の自分の意思を決定する際の支援、包括医療のDPC/PDPSの係数について取り上げる。意思決定支援については、すべての人に当てはまることであり、「自分らしく最期を迎える」ということをあらためて考えるきっかけになれば幸いである。またDPC/PDPSについては日本の急性期病院の大部分が採用している包括請求制度であり急性期病院の経営に非常に多い来な影響を与える可能性がある。1.人生の最終段階における適切な意思決定支援「自分らしく」ということをキーワードに、人生の最終段階において、医療機関が当該患者の意思を自身が決定することを支援、促進しています。具体的には「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(以下ガイドライン)が作成され、そのガイドラインの内容を踏まえて、意思決定支援に関する指針を作成することを要件に入院料等が算定されています。来年度の診療報酬改定ではさらに人生の最終段階における意思決定支援を促進するために、診療報酬の算定の要件や算定対象を、見直そうという意見が出ています。■人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン出典:厚生労働省■現時点での算定対象医療機関この意思決定のガイドラインを基にした指針を作成している医療機関は、急性期一般病棟入院料1(もっとも急性期の病棟)の届出をしている施設で77.0%でした。地域一般病棟入院料を有している医療機関では指針を作成していない割合がその他の医療機関と比較して少なかった。前回の令和6年度の改定では、ガイドラインの内容を踏まえて適切な意思決定支援に関する指針を求め、以下のように診療点数を挙げました。前回の改定から2年を経過した現在の状況を踏まえ、さらに推進するために改定時に何をどのようにするのかが今後の議論の的になります。特に指針の作成については病院が84.0%だったにことに対し、診療所では19.6%と低かったこと。定期的に指針を見直している病院、診療所はそれぞれ、67.5%、51.2%であったこと。地域包括診療料届出医療機関の指針作成状況は、70.1%。地域包括診療加算届出医療機関は41.5%であったことが、個別に会議資料で指摘されていることから、作成割合が低い箇所を中心に作成を促進させる(算定基準に緩和や点数のアップなど)ことか、作成しなければいけないようにしてしまうかのいずれかになる可能性が高いと考えられます。2.DPC/PDPSの機能評価委係数について①DPC/PDPSについてDPC/PDPSについては以前、本研究会でもご紹介しましたが、急性期病院の入院医療に対しての包括診療報酬算定方式です。上図のように実施の有無にかかわらず1日何点と決められている包括評価されている部分と、実施したら算定できる出来高の部分の合計という仕組みになっています。国民医療費の抑制の観点からも包括(いくら実施しても上限点数が決まっている)方式は今後もDPCに限らず徐々に拡大すると思われます。今回は包括部分の赤丸(筆者加筆)部分の見直しが議論されています。この医療機関別係数は最後に乗じることになりますので、この係数がアップすればDPC算定医療機関は、特に何もしないで、収入が増えることになります。しかし、逆も然りです。医療機関別係数は何種類かありますが、今回は「地域医療係数」の見直しを検討しようというものです。見直しの視点として、「社会や地域の実情に応じて求められている機能の評価」とあります。具体的には、「臓器提供の実施」「医療の質向上に向けた取組」「医師少数地域への医師派遣機能」の3点です。最後の医師少数地域への医師派遣機能については、DPCの病院の中でも、大学病院に限定されています。医師の偏在についての対応策です。残りの臓器提供の実施と医療の質向上に向けた取組は、すべてのDPC病院が対象です。臓器提供については移植医療のさらなる推進を。医療の質向上については、現在医療機関は様々なデータを厚生労働省等に提出していますが、そのデータの内容レベルを上げたいようです。厚生労働省は医療機関から収集した膨大なデータ(医療ビッグデータ)を活用して、DX、AI等をはじめ利活用を開始していますが、データの精緻化によって、バージョンアップしたいと考えています。■医療の質指標さらにDPC/PDPSでの議論の机上には、次のような意見もあります。「DPCは急性医療機関の算定方式であるがであるが、約15%の急性期医療機関はDPC不参加である」→DPC不参加医療機関に対し、何らかの不利益になる内容が改定で示される可能性があります「DPCにおいて、入院基本料、総合入院体制加算、急性期充実体制加算を組み合わせた新たな病院群を検討したらどうか」→現在、DPC内の医療機関を大学病院相当とそれ以外に区分していますが、この間にもうひとつ群が作られる可能性があります。「DPC医療機関は、救急車受け入れを年間4000件を基準にしたらどうか」→救急車の受け入れが4000件に達しないDPC病院は、DPCから出される可能性もあります。「DPCにおける8日目の再転棟が多い」→医療機関側の収入を最大限にするための措置ですが、規制が入りそうです「DPCにおいて、特定の日数まで入院させるインセンティブが内在しているのではないか」→DPC概略説明図においての入院期間Ⅱ日までは入院させることにより、収入の最大化を図っている医療機関があります。今回このような指摘があったので、規制される可能性が高いと思われます。提供:税経システム研究所
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2025/11/04 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(215)
1.はじめに「ハラスメント」と呼ばれるものは、法律などで定められたものから、社会の変化に伴って新しく認識されるようになったもの、単なるネット用語と言われるものまでを含めると、非常に多くの「○○ハラ」が存在しています。一般社団法人日本ハラスメント協会が提唱・公開しているだけでも、47種類のハラスメントがリストアップされています。その中でも、ネットニュースやSNSなどで「パワハラ」という言葉を見聞きしない日はないと言ってもいいほどです。パワハラとは、優越的な関係に基づき、業務上必要な範囲を超えた言動により就業環境を害することをいいます。昨今では、代表的なハラスメント行為といえばパワハラというような状況となっています。現在の会社組織において、適切な指導や注意をする際に大声の罵詈雑言は必要とは考えられませんし、そのような言動でしか指導・注意ができないようであれば、それこそ上席者失格です。当人は熱い気持ちで指導しているつもりであっても、対する部下にしてみれば、精神的なダメージは大きく、本来持ち合わせている能力の発揮が妨げられたり、最悪の場合、心身の健康を害するといった直接的な悪影響が及んだりすることがあります。さらに、職場全体の士気や生産性を低下させ、組織全体の業績悪化を招きかねません。影響が大きいだけに、パワハラの加害者に対しては、繰り返させないための対応が非常に重要です。今回は、パワハラが発覚した場合の加害者への対応について考えてみたいと思います。2.パワハラ発覚!でもそれ本当にパワハラですか?社内でパワハラが発覚するきっかけとしては、社内外のハラスメント相談窓口への通報・相談や社内アンケート、被害者の同僚などからの通報など、さまざまなルートが存在します。ただ、パワハラの通報や相談=パワハラ発生ということではありません。パワハラには定義があり、この定義に該当しない場合には、そもそもパワハラと認定することが難しくなります。上司と部下の間で少々厳しいやり取りがあると、「パワハラだ!」と部下が騒ぎ出すケースも散見されますが、こうした通報や相談があった際には、まずは事実関係を客観的に把握し、果たして本当にパワハラがあったのかどうかを判断しなければなりません。パワハラかどうかを判断する際、以下のすべてに該当する行為が存在したら、パワハラと認定可能だと考えられます。優越的な関係を背景とした言動上司・先輩と部下・後輩といった関係だけでなく、知識・経験が豊富な同僚や部下の協力がなければ業務が円滑に進められない場合や、部署ぐるみの集団いじめなども優越的な関係を背景としているものと考えられます。業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動業務と無関係な暴言だけでなく、業務と関係していても行き過ぎた行為(人格否定や罵倒を伴う叱責、懲罰的な側面が強く指導とは言えない言動)も含まれます。就業環境が害されるもの上記の言動により精神的・身体的苦痛を受けるなど、業務遂行の上で重大な影響がある場合が該当します。これらの点につき、被害者や加害者だけでなく、同僚など現場を見聞きした関係者からも状況確認を行い、パワハラ認定が可能かどうかを判断することが最初の取り組みと言えるでしょう。特に、「業務上必要な行為であるか」「業務命令権の範囲の行為であるか」は、判断を下すための重要な要素となります。くれぐれも、最初の段階で「加害者」と決めつけて対処をしないよう客観的・中立的な対応を心がけましょう。では、事実関係などを調査した結果、パワハラ行為があったと認定された場合、企業としては、加害者にどのような対応をしていくことになるのでしょうか。3.パワハラ行為が認定された場合の加害者への対応2022年4月以降、中小企業もいわゆる「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)の対象となりました。その中で、事業主が取り組むべき4つの義務の1つとして「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」が挙げられています。この義務に基づき、多くの企業では就業規則の服務規律や「ハラスメント規定」などにより、企業がパワハラ対策を講じていることや、就業規則の懲戒規定に紐づく形で、ハラスメントがあった場合にどのような懲戒処分が行われる可能性があるのかについて、すでに従業員には周知が行われているものと思います。これらの規定に基づいて、加害者に対して懲戒処分の有無やどのような処分を下すのかについて、被害の程度によって検討していくことになります。被害の程度によっては、懲戒処分がやむをえない場合もありますが、被害程度に比して過度に厳しい処分(例えば、繰り返しパワハラの加害者となっているわけでもないのに、いきなり懲戒解雇や大幅な降格処分、長期の出勤停止を行うなど)をしてしまうと、不当な処分として、逆に企業側が訴えられる可能性があります。処分に関しては被害の程度を考慮して慎重な判断が求められます。また、配置転換などで加害者と被害者の就労環境を離し、業務上互いに関わることがないようにする処置も必要です。懲戒処分などにより、パワハラの一件に結論が出たとしても、その後に当事者同士が同じ職場で就労を続けることは、特に被害者にとって、かなりの精神的負荷を感じざるを得ないものと考えられます。また、ハラスメントを告発した従業員に対して加害者やその周囲の従業員が報復的に嫌がらせをしたり、威圧的な対応をしたりする「セカンドハラスメント」が発生する懸念も見逃せません。さらに、企業としてパワハラは絶対に許さない姿勢を示すためにも、加害者に対して十分な指導・教育も必要です。人は無意識のうちに自分が扱われたように他人を扱う傾向があります。「昔はこのくらい当たり前だった。今の自分があるのはそのおかげ」とか、「この程度の叱責に耐えられないのは被害者が弱すぎる」のような認識で、パワハラによる影響を軽視しがちな上席者は思いのほか多いものです。上司の権威や空気・圧力といったものでマネージメントする時代から、現在はチーム全体で成果を出していくことが求められる時代です。染みついた感覚を変えていくことは簡単なことではありませんが、職場の風土としてパワハラを絶対に許さない姿勢を根付かせるためにも、加害者はもとより、職場全体に対して日頃から継続的な教育を続けたいものです。2012年に厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ」が出した報告書の中にはこのような一文があります。全ての社員が家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり苦しめたりしていいわけがないだろう。10年以上前の報告書の一文ですが、今となっても、この言葉の重みは変わらないと感じます。提供:税経システム研究所
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2025/10/31 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第12回) 内定取消し2
【サマリー】前回は、内定取り消しの法的制約、内定取り消しが認められる主な事由や実務上の課題について解説いたしました。内定を出した時点で、一定の労働契約が成立するため、内定取消にも正当な理由が求められることを確認しました。今回は、内定取り消しに関する実際の重要な裁判例を4件紹介したいと思います。1.重要判例1「外資系コンサルティング会社事件東京地裁令6・7・18判決」中途採用した従業員について、内定後に職歴を確認したところ、職務経歴書には記載されていない会社での勤務歴が判明したため、内定を取り消しました。東京地裁は、この虚偽の申告は退職に関するトラブルを隠す目的によるものであり、従業員の適性に関わる重要な事項であると判断しました。意図的な経歴詐称であり、信頼関係の維持が困難となる不誠実な行為と認められることから、内定取消しは有効とされた事案です。<事案の概要>本件は、コンサルティング業務を主たる事業とするY社から採用内定を受けていたXが、その後の経歴調査により虚偽の申告が判明したことを理由に内定を取り消された事案です。Xは、内定取消しは無効であると主張し、雇用契約上の地位確認や未払い賃金の支払い、さらに精神的損害に対する慰謝料等を求めました。Xは、履歴書や職務経歴書に「平成23年4月から一貫して個人事業主として活動」と記載していましたが、実際には令和3年6月から同年11月までA社(G社)、令和4年3月にはB社(H社)に勤務しており、いずれも紛争を抱えていました。Y社が実施したバックグラウンドチェックによりこうした事実が明らかとなり、令和4年8月30日に内定取消しが通知されました。裁判所は、Xの経歴申告には故意の虚偽が含まれており、特に退職紛争を隠すために勤務歴を秘匿した点は、職務適格性や企業との信頼関係に重大な影響を及ぼすものと認定しました。また、採用活動において経歴の正確性は極めて重要であり、虚偽申告によって信頼関係を維持できない以上、Y社による内定取消しは「合理的な理由に基づくもの」であり、社会通念上相当と判断されました。その結果、第一審および控訴審ともに、内定取消しを有効と認め、Xの雇用上の地位確認や賃金・慰謝料の請求はいずれも棄却されました。<判決のポイント>本件は、Y社がXに令和4年9月1日を入社日とするオファーレターと雇用契約書を交付し、Xが承諾したことで始期付雇用契約は成立していますが、この契約では、入社までにバックグラウンドチェックを含む経歴調査を行い、虚偽が判明した場合にはY社が解約できることが定められていました。ただし、この解約権の行使は無制限ではなく、内定時点で会社が知り得なかった事実であり、その取消しが客観的に合理的かつ社会通念上相当である場合に限られるとされています。調査の結果、Xは平成23年以降一貫して個人事業主として活動していたと虚偽申告し、職務経歴書でも空白期間なく勤務していたと記載していました。しかし実際にはA社やB社に雇用され、いずれの会社とも退職を巡って紛争を抱えていた事実を故意に隠していました。さらに、免責事項への回答や面接時の説明においても「元請け会社」「請負」といった表現を用いて空白期間を巧妙に隠し、準委任契約の社員と称するなど、発覚を避ける意図的な態様が認められました。裁判所は、職歴は労働者の適格性を判断する重要な要素であり、これを虚偽申告した行為は背信的で不正義性が強いと評価しました。そのため、Y社がXを従業員として雇用し続けることは信頼関係の維持が不可能であるとし、内定取消しは客観的に合理的で社会通念上相当と認められると判断しました。結果として、裁判所はY社の内定取消しを有効とし、Xの雇用上の地位確認請求、賃金請求、慰謝料請求はいずれも棄却しました。<学ぶべきポイント>本件は、中途採用における内定取消しの法的リスクを示した重要な事案です。採用段階でバックグラウンドチェックの実施が合意され、虚偽があれば解約権を行使できる仕組みが明確化されていましたが、取消しの有効性は虚偽の内容が職務能力や信頼関係に重大な影響を及ぼすかどうかによって判断されます。裁判所は、単なる形式的な記載漏れではなく、退職紛争を隠すための故意の虚偽申告を問題視し、信頼関係を破壊する重大な背信行為として内定取消しを有効と認めました。この判決からの教訓は二つあります。第一に、企業は内定契約で経歴調査や虚偽申告の取扱いを明確化し、応募者の同意を得ることが重要であること。第二に、虚偽が発覚した場合でも直ちに取消すのではなく、その影響の程度を慎重に検討すべきことです。要するに、企業には透明性と誠実な対応が、労働者には経歴申告の正確性と責任が強く求められることを示した判例です。2.重要判例2「外資系ソフトウエア会社事件東京地裁平9・10・31判決」大手コンピュータ会社に勤務していたXは、別会社Yからスカウトを受けて採用内定を得ましたが、その後、Yが経営悪化を理由に内定を取り消したため、Xはこれを違法として雇用上の地位の保全などを求める仮処分を申し立てました。<事案の概要>A氏は、B社の役員や人事部長らとの複数回の面接を経て、職能資格等級58等級、マネージャー職、基本給60万円などを明記した採用条件提示書および入社承諾書を受領し、平成9年3月31日には大手コンピュータ会社に退職届を提出しました。しかしその後、B社から「当初の条件での採用は困難になる可能性がある」との連絡を受け、会社の組織縮小や営業所閉鎖に伴い、複数の内定者にも辞退勧告が行われていることが説明されました。B社はA氏に対し、①基本給3か月分の補償を支払って入社を見送る、②試用期間終了後に退職する、③マネージャーではなくシステムエンジニアとして勤務する、という3案を提示しました。しかしA氏は「話が違う」と強く抗議し、マネージャーとしての採用を求め、補償を受け入れる場合には基本給24か月分を条件とするなどの対案を示しました。最終的にB社は内定を取り消す意思を明確にしました。裁判所は、採用内定者は実際に勤務していなくても労働契約に拘束され、他に就職する自由を制約されている以上、企業が経営悪化を理由に内定取消を行う場合には整理解雇と同様の基準で有効性を判断すべきであるとしました。すなわち、①人員削減の必要性、②人員削減手段の必要性、③人選の合理性、④手続の妥当性の四要素を総合考慮し、客観的に合理的で社会通念上相当と認められるか否かを判断基準としました。本件について裁判所は、経営悪化により人員削減の必要性が高く、希望退職の募集や内定者への職種変更の打診、補償の提示など一定の努力を尽くしていた点では合理性を認めました。しかし、内定取消に至る経緯に誠実さを欠き、A氏が退職届を提出した後に一方的に条件を変更したことなどによってA氏が著しい不利益を被っていることを考慮し、手続の妥当性が欠けると判断しました。<判決のポイント>裁判所はまず、本件採用内定について、採用条件提示書や入社承諾書のやり取りなどの経緯から「就労開始日を始期とする解約留保権付労働契約」であると認めました。次に内定取消しの有効性については、整理解雇の判断基準に準じ、①人員削減の必要性、②解雇手段の必要性、③対象者選定の合理性、④手続の妥当性を総合考慮し、客観的に合理的かつ社会通念上相当である場合に限り有効としました。その点においては、経営悪化や希望退職の募集などから①〜③は認められましたが、④手続の妥当性に問題があるとされました。A氏はB社の勧誘を受けてIBMを退職したにもかかわらず、入社直前に辞退勧告や職種変更を突然告げられたため、誠実さを欠き著しい不利益を被ったと判断されたのです。その結果、裁判所は「客観的な合理性はあるが手続の妥当性を欠く」として内定取消しを無効としました。本判決の特徴は、①採用内定を労働契約と認め、②経営上の理由による取消しは整理解雇と同じ基準で審査すべきとし、③経営合理性を認めながらも誠実な手続を欠いたため無効とした点にあります。<学ぶべきポイント>本件は、今後増加が見込まれる中途採用における内定取消しの法的リスクを示した重要な事案です。従来は新卒を前提に議論されてきた採用内定の法理が、中途採用者にも「始期付解約権留保付労働契約」として適用されることが確認されました。特に在職中に内定契約を結ぶ場合、二重在職や円満退職の問題が生じうるため、契約内容や条件を明確にする必要性が示されています。さらに、内定取消しの有効性については、新卒と同様に「客観的に合理的な理由」が求められます。ただし、中途採用では旧職との関係や退職時期などが絡み、判断はより複雑になります。本件でも、米国本社の経営悪化や事業部閉鎖といった外資系特有の事情により、整理解雇の4要素のうち人員削減の必要性や合理性は認められました。しかし、問題となったのは「手続の妥当性」です。会社はA氏をスカウトし、長年勤めた会社を退職させておきながら、入社直前に辞退勧告や職種変更を打診しました。このような誠実性を欠いた対応は、労働者の期待を裏切り、著しい不利益を与えるものでした。裁判所は「合理性はあるが社会通念上相当性を欠く」と判断し、内定取消しを無効としました。この判決は、企業が経営上やむを得ない理由を持っていても、従業員に十分な説明を行い、誠意をもって納得を求めることが不可欠とされ、スカウトされた労働者側も、勝訴しても前職を失っているため損失は大きいという現実が浮き彫りになりました。したがって本件は、企業には説明責任と誠実な手続対応を、労働者には転職判断の慎重さを強く求める教訓を与えるものといえます。3.重要判例3「マンション分譲会社事件福岡地裁平22・6・2判決」採用内々定を取り消された学生が、労働契約は既に成立しているとして違法解雇に当たるなどと主張し、損害賠償を求めた事案です。福岡地裁は、内々定は正式な内定に至るまでの間に企業が新卒者を囲い込むための制度にすぎず、労働契約の成立には当たらないと判断しました。ただし、企業が経済悪化を懸念し、正式内定を出す直前に拙速に内々定を取り消したことは、学生の採用に対する合理的な期待を侵害したものと認定し、100万円の損害賠償の支払いを命じました。<事件の事案>原告は平成21年3月にH大学を卒業予定の学生で、平成20年4月に不動産売買・賃貸仲介業などを営む被告会社の説明会に参加し、適性検査や複数回の面接を経て同年5月28日に最終面接を受けました。被告は5月30日ころ、原告に「採用内々定のご連絡」と題する書面を送付し、提出期限付きの入社承諾書とともに「正式な内定通知は同年10月1日授与予定」と記載していました。原告は5月31日付で承諾書に署名押印して返送しました。その後、9月25日には人事担当者から「10月2日に正式内定通知を授与する」との連絡がありましたが、9月29日、被告は突如「採用内々定の取消しのご連絡」を送付しました。取消通知には、建築基準法改正やサブプライムローン問題、原油高騰などの影響で不動産市況が急激に悪化し、事業計画の見直しにより翌年度の新卒採用を取り止めると説明されていました。原告は9月30日に通知を受領し、翌10月1日に抗議メールを送付しましたが、被告から具体的な説明はなく、最終的に正式内定も採用も実現しませんでした。このため原告は、内々定取消しは違法であるとして、債務不履行または不法行為に基づき損害賠償を求めて提訴しました。<判決のポイント>福岡地裁は、まず本件採用内々定について、正式な内定(労働契約の確定的合意)とは性質を異にするものであり、始期付解約権留保付労働契約が成立したとはいえないと判断しました。内々定は、あくまで企業が学生を囲い込み、他社へ流出するのを防ぐための事実上の活動にすぎないと位置付けられました。もっとも、本件では内定通知書授与の日程が具体的に定まっており、その直前の段階であったため、学生側にとっては労働契約が確実に成立するとの期待が高まり、法的保護に値する程度の「採用への期待権」が形成されていたと認定されました。これにもかかわらず、会社は経済環境の悪化に対する一般的な危惧のみを理由に、十分な説明や配慮を欠いたまま直前で内々定を取り消しました。裁判所は、この対応は労働契約締結過程における信義則に反し、不法行為を構成すると判断し、学生の期待利益を侵害したとして100万円の損害賠償を命じました。控訴審である福岡高裁も、内々定は労働契約の成立には至らないとの判断を維持しましたが、企業の対応が不誠実で学生の期待権を侵害した点については、信義則違反による不法行為責任を認め、慰謝料請求を一部認容しました。ただし、内定取消しの場合と同様の精神的損害が生じたとまではいえないとして、損害賠償の範囲については制限しました。<学ぶべきポイント>内々定は正式な内定とは異なり、企業が新卒者を囲い込む事実上の活動にとどまるとして、労働契約は成立していないと判断したことは、以後の判決にも大きな影響を及ぼすことになりました。企業には「内々定は労働契約ではないが、学生に期待権を与えるため安易な取消しは信義則違反となるリスクが高い」ことを、学生には「内々定の法的効果は限定的で、損害賠償が認められても慰謝料など信頼利益にとどまる」ことを教訓として示しました。4.重要判例4「出版・広告宣伝教育指導会社事件東京地裁平17・1・28判決」本件は、採用内定を受けた大学院生が論文審査の準備を理由に入社前研修へ参加しなかったため、会社から試用期間の延長か中途採用として再受験するよう求められ、さらに損害賠償を請求された事案です。東京地裁は、学業への支障は研修不参加の正当な理由であると判断し、使用者には信義則上、研修受講を免除すべき義務があると認めました。そのうえで、会社の主張を退け、損害賠償の支払いを命じました。<事案の概要>Aは東京大学大学院博士課程に在籍し研究を続けていましたが、指導教授の勧めで㈱宣伝会議への就職を希望し、面接を経て平成15年4月1日付の採用内定通知を受け、入社承諾書や誓約書を提出しました。会社の人事担当者Cからは試用期間3か月や定期的な研修参加の説明があり、Aは当初は研究に支障がないと判断し、懇親会や研修会に参加しました。しかし、研修課題が負担となり、論文審査準備に支障をきたすようになったため、Aは教授を通じて会社に研修免除を依頼し、会社も一度は了承しました。その後Aは複数回の研修を欠席しましたが、入社直前の研修ではCから「参加しなければ入社を取り消す」と告げられ、やむなく参加しました。ところが、Cは研修遅れを理由に「試用期間を6か月に延長するか、中途採用試験を再受験するか選ぶように」と要求しました。Aはこれを拒否し、改めて「試用期間延長は認めない」と伝えましたが、会社側は受け入れませんでした。翌日、Aが会社に確認の電話をした際には、会社は「内定取消しではなく、Aが辞退した」との認識を示しました。その後、Aは「会社が一方的に内定を取り消した」と主張して提訴し、逸失利益や慰謝料等の損害賠償を請求しました。これに対して会社は、「取消しではなく辞退である。仮に取消しだとしてもAが研修義務を果たさなかったため適法である」として争いました。<判決のポイント>内定取消しか辞退か会社の人事担当者が、原告に対して「試用期間の延長」か「中途採用試験の再受験」を選択させようとした行為は、実質的に「内定を取り消す」という意思表示に当たると認められました。内定の法的性質と取消しの可否内定は「始期付解約権留保付労働契約」として成立していたことは当事者間に争いがありませんでした。そのため、解約権の行使が許されるのは、その趣旨・目的に照らして客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる場合に限られるとされました。つまり、取消しが有効となるのは、採用決定時には知り得ず、後日の調査で判明した新たな事実により、その人物を雇用するのが不適当と判断できる程度の合理性がある場合に限られるということです。学業と研修の関係学生の本分は学業であり、企業は内定者の生活基盤が学生生活にあることを尊重すべきであるとされました。そのため、学業に支障が生じる場合には、研修参加を免除すべき信義則上の義務を企業は負っています。研修合意の解釈原告は研修への参加に同意していたものの、その合意は「研究と研修の両立が困難になれば、研究を優先し研修参加を取りやめることができる」という留保付きのものと解するのが相当と判断されました。<学ぶべきポイント>本件判決は、採用内定をめぐる法的性質や内定者研修の扱いについて、企業と学生双方に重要な教訓を示しています。まず、企業にとっては、採用内定が「始期付解約権留保付労働契約」として法的に有効な契約である以上、その取消しは客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限られることが明確にされた点が重要です。形式的な理由や一方的な都合による取消しは認められず、内定者には雇用されることへの合理的な期待権が生じることを踏まえなければなりません。さらに、内定者の生活基盤が学生生活にあることを尊重し、学業に重大な支障を及ぼすような研修への参加を一律に強制することは信義則上許されず、必要に応じて免除を認める義務があるとされました。研修参加への合意があったとしても、それは学業との両立が可能であることを前提としたものであり、両立困難な状況では免除が前提に含まれていると解されます。一方、学生にとっては、内定が単なる「口約束」ではなく労働契約の成立として扱われることを理解する必要があります。内定者は安易に立場を弱いものと考えるのではなく、合理的な期待権が認められていることを前提に行動すべきです。また、大学院での論文準備など学業を理由とした研修不参加は正当化され得ることから、無理に両立を図るのではなく、正当な理由を説明し企業に配慮を求めることが可能である点も教訓となります。総じてこの判決は、企業に対しては「学生の学業を尊重し、内定取消しや研修強制にあたっては誠実かつ慎重に対応すべきである」という義務を、学生に対しては「内定の法的性質を理解し、自らの権利を認識したうえで慎重に対応することが必要である」という意識を示したものといえます。提供:税経システム研究所
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2025/10/31 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第21回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>当社は、コピー機を中心とする事務機器の販売、メンテナンスを主力事業としてきた東北地方を地盤とする中小代理店です。地域の低成長、ペーパーレス化の流れ、大手代理店・メーカー直販部隊・リース業者との競合もあり、業績はここ数年伸び悩んでいます。若手の人材を採用したいのですが、新卒は来てくれないため苦戦しています。中途で40-50代のシニア転職者を採用していますが、社員の平均年齢は上昇しています。若手の採用にさらに力を入れる一方で、シニアの戦力アップによる活躍も促したく考えています。シニア活躍のために、どのように工夫すべきでしょうか。■どのように生き残るか長期的には、競合する大企業・中堅企業と差別化するには、各顧客へのきめ細かい対応力が中小企業としての生命線となります。きめ細かい対応や機動力を生かした中小企業としての生き残り方をするには、いくつかの方法が考えられます。まずは、地方圏では各自治体に重要顧客が限られているという現実があります。特定の企業や公的機関、研究機関等といった存在です。それらをいかに押さえるか。重要顧客を押さえると、その地域における営業マンの生産性が高くなります。そうした重要顧客に対しては大企業が競合として参入しようとする動きもあるでしょう。その場合も、特定の品目やサービスについての強みを発揮するなどの食い込み方があります。例えば、大学が立地している場合、地域の重要顧客であることが多いです。大学本部に納入するビジネスは大企業との競合となるでしょうが、各研究室に「なんでも納入します」という営業方法があります。どこの大学でも研究費を多く獲得している研究者は限られていますので、そうした研究室に食い込むことは、まさにきめ細かい対応です。地域の病院の需要についても、大手の手薄な品揃えを補完し、ICTリテラシーのあるクリニックを押さえるといった方法があります。このように得意な業種を持つことも営業上の強みとなります。また優れた人材がいるなら、高額な複合機の販売+ICTソリューションの提供がオーソドックスな営業戦略となります。RPAやセキュリティシステム、電子契約サービス、CRMの提案を複合機販売と連携して行う方法です。通信環境やオフィス家具といった品ぞろえにより、オフィス環境を提案するといった切り口もあります。売り切り型の営業方法ではなく、クラウドサービス、メンテナンス契約等による継続的収益の比率を高めていくことも重要です。地方圏は人的ネットワークが都市圏より濃厚ですので、既存顧客に満足して頂き、その人脈で次の顧客を紹介してもらうような営業方法が王道となるでしょう。中小企業等をきめ細かく回り顧客としていく方法もあります。地方圏で中小代理店が生き残るには、金融機関における、意欲的な信用金庫と類似したビジネスモデルを目指すことになるでしょう。中小販売代理店である御社の経営戦略をまとめると下記の体系となると思われます。表1中小代理店の戦略体系1.地域の重要顧客を押さえる2.ソリューションの提供3.特色ある品揃え、得意業種4.継続的収益比率の向上5.手間をかけて中小こきゃくをフォロー■経営戦略を遂行する上で何か求められるか次に表1の戦略を実行する上でどのようなマネジメント方法が必要となるかを考えていきましょう。基本的に、どのような顧客をターゲットとして、そこにどのような商品サービスを提供していくかを決めるのは、戦略的意思決定ですからトップマネジメントの仕事です。つまり経営者、あるいは後継者の責任となります。「製品―市場」の組み合わせと商品・サービスのマーチャンダイジングをトップ主導で決めてしまえば、従業員に求めるのは、顧客をきめ細かく掘り下げていく能力、商品・サービスに関する理解力となります。ここで重要な事は、知識の蓄積を個人・組織の両面で実施していくことです。従業員の勤続年数が短いと、知識の蓄積が難しくなります。経営戦略の分野では経験曲線(ExperienceCurve)という概念があり、市場シェアや累積生産量が増えていくと単位コストが下がっていくとみなされます。地域の顧客や商品。サービスについての知識を蓄積していくと、それが参入障壁となります。従業員満足を重視した経営を行い、勤続年数を伸ばしていき、各従業員の知識をグループウェアで組織として蓄積していくのがオーソドックスなマネジメント方法となります。■シニア人材の能力の特徴はどこにあるのかキャッテル(RaymondCattell)らの研究によれば、人間の知能には、「流動的知能(FluidIntelligence)」と「結晶性知能(CrystallizedIntelligence)」があります。前者の知能は短時間に大量の情報を処理する場合等に用いられ、後者の知能は思索や意思決定に用いられます。例えば、前者はソフトウェアを不眠不休で開発するような場合に必要とされ、後者は総合的に適切な判断を下す際に不可欠となります。才能ある企業家が若くして意思決定を下す立場に立つと、結晶性知能が急速に磨かれていき、加齢しても維持されることが多いのです。サラリーマンが上司の指示を受けるだけでは、結晶性知能は磨かれていきません。これらの知能を測定しようとする研究が心理学分野でなされてきましたが、デジタルに誰もが正確に把握できるものではないようです。一般に流動性知能は20台でピークアウトし、結晶性知能はシニアになっても維持されるといわれていますが、流動性知能が何歳でピークアウトするかを測定することは難しいと言われています。図1は加齢学(Gerontology)という分野の生命曲線の概念ですが、キャッテルらの研究と類似した考え方に立脚しています。図1生命曲線(引用:三好功峰:老化と神経疾患.大日本製薬,大阪,1982.)図1は、精神機能はシニアになっても伸びるのに対して、身体機能は早期に低下していくという考え方です。一時期、一部の財界人から「45歳定年」という意見が出ていましたが、これは結晶性知能や精神機能が高いシニア人材を放出するという考え方です。毎年優秀な学生を採用できる大企業ならともかく、地方圏の中小企業ではありえない意見であると思われます。45歳定年論は、加齢して流動性知能が低下していくと、教育訓練投資の効果が低くなるから、若い人だけで組織は回していき、キープヤングしていくということなのでしょう。確かに海外では、若い人がハードワークして組織を回していくという事例が見られますが、限られた期間に高い報酬をもらう仕組みとセットで議論していくべき事項です。地方圏の中小企業の多くにとっては、若手人材の流動性知能とシニア人材の結晶性知能を組み合わせてチームを作っていくことが現実的な選択と言えるでしょう。■シニア人材の戦力化をどうすべきかここで問われるのは、表1の戦略を遂行しようとするときに、シニア人材を戦力化していくうえでどこに留意すべきかということです。1.地域の重要顧客を押さえる地域の重要顧客を押さえるには、社内のエース級人材に担当してもらうこととなります。大企業のB級の人材より、機動的な対応力と情報力で上回る人材であれば、シニア人材の活躍は可能です。知識不足の分野の注文については、社内の他人材を巻き込んだプロジェクトを組成することになります。2.ソリューションの提供単品の商品販売にとどまらず、システムとしてソリューション提供していく営業スタイルには大企業も力を入れています。この方法が確立できると売上高や付加価値が向上していくからどの企業も注力しているのです。中小販売代理店に適した顧客層を対象とすることにより、大企業との棲み分けが可能となります。様々な機器やソフトウェアの商品知識を持つ営業マンを育てていくことが重要です。ソリューション営業人材の層が薄いことは、中小企業にとり泣き所である場合が多いです。シニア人材であっても、商品知識を持っているのであれば、社内の他人材、あるいは外部の技術顧問等が技術支援することで対応することとなります。3.特色ある品揃え、得意な業種ここはトップマネジメントが関与すべき部分です。地域の特定業種に強い営業体制を整備し、そうした顧客に求められる商品・サービスを選定していくことは、まさに戦略的意思決定です。経営資源の乏しい中小企業であっても、他社と連携して自社商品を持ち、差別化していく方法もあります。ここで求められるのは、特定の顧客層に強く食い込み、経験曲線の効果により参入障壁を構築していくことです。営業マンがシニアかどうかより、愚直にコアとなる顧客のニーズを拾い続けていく人材が求められます。4.継続的収益比率の向上物品・ソフトウェアの売り切りから継続的収益を得るようなビジネスモデルへの切り替えが、ICT産業では進んでいます。サブスク(subscription)という月額、年額で代金を頂く方式です。フロー型ビジネスからストック型ビジネスへの転換に成功すると、サブスクで代金を頂いている顧客の数が企業価値となります。契約期間中は顧客の囲い込みに成功し、物販型ビジネスに比べると収益が安定化します。物品であればレンタル・リース、ソフトウェアであれば利用権の販売となり、メンテナンスについてはサービスレベルを複数設定して契約に持ち込みます。ソフトウェア等の比率がアップするとICT技術に疎いシニアの営業マンの中では戸惑いも出るでしょうが、適応できるように教育訓練していくことと並行して、サポートデスク機能を強化していくこととなります。技術的知識はあまりなくとも、ここまでは説明できるというラインを設け、社内で勉強会を行い、社内資格を設定し、やる気のある従業員には国家試験等に挑む支援を惜しまないことです。5.手間をかけて中小顧客をフォロー手間をかけて地域の中小顧客をフォローしていくことは、やる気あるシニア人材に適した業務です。長期雇用により知識を蓄積した営業マンが揃っていることは、参入障壁となります。上記1-5の中では、ソリューション営業、ICT技術知識が必要な商品・サービスの販売は、シニアに多少ハードルが高いと思われますが、大企業の技術知識ある退職者を補強すること等で補うことができます。それ以外の分野では、シニア人材は結晶性知能を生かした愚直な営業活動を行うことで活躍することができます。a.経営者が戦略的意思決定を的確に下し、b.サポート機能も含めたオペレーションの仕組みを構築し、c.教育訓練と人材の補強を行い、d.外部経営資源の活用を併用することが、シニア人材中心の営業部隊を機能させていくことにつながります。これらの整備がシニア人材の活躍につながります。【参考文献】Horn,J.L.,&Cattell,R.B.(1966).Refinementandtestofthetheoryoffluidandcrystallizedgeneralintelligences.JournalofEducationalPsychology,57(5),253–270.三好功峰:老化と神経疾患.大日本製薬,大阪,1982.提供:税経システム研究所
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2025/10/28 日本経済と世界経済
日本の出生率の下落と外国人比率の増加
1自分が厚生省年金局年金課課長補佐になった1976年7月に、各紙一面トップを「日本の特殊出生率(女性が一生に産む子供の数)が1975年(昭和50年)に戦後初めて2を割って1.91となった」という記事がのった。この頃は、日本をあげて高福祉高負担の社会を目指すとして国民皆保険、国民皆年金を叫んでいた時代だ。特殊出生率が2を維持していれば、若い世代が高齢世代を支えられるが、2を割ってしまうと若い世代が減少して、高齢世代を支えきれなくなる。したがって、社会的扶養が成り立たなくなるため、当時目指していた高福祉高負担社会は成立しなくなる。そこで、聞きなれなかった「特殊出生率」という言葉が一躍脚光をあびて、日本人の将来に暗い陰が走った。当時、厚生省に出向したばかりだった自分は、まったく知識がなかったために、人口問題研究所に行ってほぼ一週間にわたって人口問題を勉強した。そこで得た結論は「出生率は決して上昇せず、今後長期的に下落していく」というものだった。当時、厚生省の同期だったO補佐も同意見だった。しかし、当時は政府も自民党も高福祉高負担で国民皆保険と国民皆年金を推奨していたので、自分たちの悲観的予測は打ち消されてしまった。以来、自分は人口問題をライフワークの一つとしたのだが、残念ながら我々の悲観的予測のほうが適中してしまった。世間はスウェーデンのような高福祉が実現できれば、出生率は2を回復して人口は減少しないと主張していた。そこで、社会福祉施策が次々と打ち上げられていくのだが、その後も出生率は回復せず、2024年の出生数は初めて70万人を下回り、68.6万人となり出生率も過去最低の1.15となった。当時、日本がモデルとしていたスウェーデンも各種社会福祉施策をしても、2023年には出生率は1.45にまで下落している。当時、我々が人口問題研究所での研究で得た結論は「豊かになった国民は、自分の利益を考えると後継者を作るより自分の生活を第一にするため、子供を作らなくなる」というものだった。貧しい時代は短命であったこともあり、自分が死んでも後継者が生き残ることにより種族を維持するという考え方になるが、豊かになると自らの個体維持が第一になり、種族を残すという考え方が乏しくなるのが先進各国で起きていることだった。日本も高度成長により、各人の生活が豊かになって、しかも長寿化が進んだために、個人の生活がより豊かになり、長寿化が進むと、長寿社会を自ら生き残る方向へと進んだ。国や社会は高福祉をかかげたが、それは長寿化を促進する方向に進み、種族維持の方向へは働かなかった。そのため、社会保障費が急増して財政を圧迫し、現役世代の重荷になってしまった。結果として、皮肉なことに貧しいアフリカの国々と(ニジェール等)では出生率は5~6と極めて高いが、豊かになった国々ではアジアでも2023年にはベトナム1.91、フィリピン1.92と軒並み2を割り始めている。2日本は1975年以降も全体として出生率は低下していき、2005年1.26と過去最低を記録、2023年には1.20と更に過去最低を更新し、ついに2024年には1.15と更に過去最低となった。その要因としては、子育てコストの高さや、30年続く経済不況等の経済的要因と、働き方やライフスタイルの変化(晩婚化・晩産化)等、若年層の価値観の変化があげられる。また、一時的要因としてコロナ禍の影響も主張されるが、コロナが終息した2024年に1.15と過去最低を更新したことから、これからも出生率の低下は進んでいくと思われる。特に自分は、上記要因よりも経済発展により都市化が進み、「ムラ社会」の連帯感が喪失した影響が大きいと思う。そもそも、ムラ社会では仲間外れになった人たちは「村八分」という掟が適用された。「村八分」とは葬式と火事の二分は村落共同体の助けが適用されるが、他の八分には適用されなくなる。その八分の中には「子育て」と「介護」が入っていた。したがって、村八分になった村人は仲間外れとなり生活できず、子供も育てられず老人も介護を受けられず、結局死に絶えていった。今や、都会のマンション等に住む方々は、まさに「村八分」を適用されているようなものだ。「子育て」も「介護」もムラの共同体による共助を受けられず、社会福祉施設や児童施設等の公助に頼るしかなくなっている。今でも、沖縄のやんばる地区国頭郡金武町には、共同売店が残っているようにムラ社会の共助が残っている。したがって、この地区の出生率は低下してきているとはいえ、他の地域より高い出生率(2.47)となっている。したがって、出生率を増加させていくには「共助」の復活しか解決策は見当たらない。しかし、経済発展し更にスマホ等が普及した結果、人間社会の個人化は一層進んできており、ムラ社会の復活等は考えられない状況になってきている。3西欧の国々を見ると、2023年にフランスは1.66、イギリス1.56、2022年にドイツ1.46、スペインは1.12等、皆2を割って人口減少へ向かっている。日本がモデルとした北欧の国々も2023年にスウェーデン1.45、デンマーク1.50、フィンランド1.26と皆2を下回っている。大国を見ると2023年にアメリカ1.62、ロシア1.41、中国1、ブラジル1.62とやはり2を下回っている。しかし、違った視点で見ると少し状況は変わってくる。西欧の国々で出生率が比較的高く、1.5を上回っているフランスは外国人比率10.7%(2023年)であり、イギリス14%(2023年)、ドイツ27.2%(2021年)と外国人比率が高い国々では出生率が相対的に高い状況となっている。特にドイツでは「ドイツ国民の出生率よりも移民の出生率が高く、移民の増加が人口減少を止める動きをしている」と付記されている。移民の方々の出生率は相対的に高い傾向にあり、日本でもこのことが明示されている。令和5年の将来推計人口(令和5年推計)では、2015年の出生率1.45に対して、日本人女性だけの出生率は1.43、2020年の出生率1.33に対して、日本人女性だけの出生率1.31となっていて、日本人全体の出生率を移民女性の出生率が上昇させていることが分かる。このため、令和5年の将来推計について見ると、外国人の人口超過数が2016年~2019年の平均が、年16万人になったため、この16万人が毎年入国するという前提にした推計をしたことから、前回推計より外国人人口が増加して、2040年では中位推計で586万人、低位推計で578万人と想定されており、外国人数とその比率は2020年外国人275万人、全体人口の2.2%から大幅に増加し、2040年には全体人口の5.2%となっている。更に、令和5年推計では外国人入国超過数も2041年以後は人口減少と同じ比率で減少すると推計しているが、それでも2070年には人口8217万人中、外国人865万人で10.5%が外国人となる。日本女性の出生率は1.29まで下がるが、外国人の高い出生率によって1.36になると推計されている。4このことから2つのことが見えてくる外国人の移民を増やさないと、もっと急速に人口減少が進み、労働力不足が一層顕在化して経済も落ち込むこと令和5年推計を前提にすると、2027年には少なくとも10人に1人は外国人との子供が日本人になっていることしかも、この推計のように2041年以後は移民数16万人も減っていくという前提になっていても、2070年に10人に1人が外国人と外国人の子供ということだから、実際はもっと急速に外国人移民が増加し、その方々との間の子供が増えていく可能性がある。その時は、今は当たり前と思っている日本語すら、当たり前ではない可能性もある。これからの日本社会を考えると、人口減少を止めるには外国人移民を増やしていく以外に道はないと思われるが、移民の方々およびその子供に、日本文化と日本語教育を積極的に行っていかないと、今では当たり前としている日本文化や日本社会が崩れ、そして日本そのものが崩れていくと思われる。何としても、移民の方々とその子供に対する日本文化と日本語の教育の充実が不可欠と思われる。しかし、欧米の移民先進国を見ると移民の増加により、国論は分断され、国民の多くが移民排斥に傾斜していっている。今や英、仏、独、米国等の国々では、移民排斥を主張する政党が台頭して、国民の移民排斥の行動も目立ちはじめている。このようなことを避けるためにも、今こそ移民の方々に対する日本文化と日本語教育が不可欠ではないかと思われる。提供:税経システム研究所
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