経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2026/09/30 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(226)
1.はじめにこの夏は各地で地震や豪雨による自然災害が相次ぎました。6月24日鹿児島県を中心とする九州全域で線状降水帯による豪雨で死傷者や住宅の浸水被害、7月28日には熊本県で最大震度7を記録する「令和8年熊本地震」により多くの人的被害や建物の被害、また、8月13日から14日未明にかけては、千葉県を中心とする関東地方で線状降水帯が連続して発生、短時間での内水氾濫や土砂災害により死者や家屋・農地の浸水、車両の水没、8月下旬には石川県・富山県で線状降水帯の発生による河川氾濫・浸水により各地で深刻な被害が出たことは記憶に新しいところです。夏から秋への季節の移り変わりとともに、勢力の強い台風が日本に接近しやすくなる時期を迎えますが、今年は、台風の発生数も例年に比べて多い傾向となっており、9月から10月にかけての台風シーズン本番にさらなる被害が出ることも懸念されています。自然災害により事業所や従業員が被災して事業運営に直接的な影響が出ることや、インフラが被害を受けたことによる物流の不安定化・原材料の調達困難といった間接的な影響を受けてしまうことは十分に想定できる事態です。地震、台風、豪雨などの自然災害が頻発する我が国において、企業は従業員の安全を確保する「安全配慮義務」(労働契約法第5条)を負うと同時に、事業継続(BCP)の観点からも迅速かつ適切な対応が求められます。今回は、自然災害発生時に直面しやすい労務管理上のよくあるケースを取り上げ、対応策について考えていきます。2.災害発生時の出退勤と賃金の取り扱いは?災害時に多く発生するのが、公共交通機関の運休や避難指示による「出勤困難」や「早退・自宅待機」のケースです。近年では、気象条件により安全な運行ができない事態が予想される場合、乗客の安全確保や駅の混乱防止のため、公共交通機関が事前に予告した上で運行を取りやめる「計画運休」が行われることも多くなっています。このような場合、賃金などはどのように取り扱うべきなのでしょうか?1.公共交通機関の運休で従業員が出勤できない場合従業員が労務を提供していない時間については、会社は賃金を支払う義務を負いません(ノーワーク・ノーペイの原則)。したがって、交通機関の運休等により出勤できなかった日や時間について、賃金を控除したとしても法令上の問題はありません。とはいえ、原則通りに賃金を控除するというのも、従業員にとっては酷な取り扱いとなってしまいます。このような事態への対応として、一般的によく見られるのが、事後申請による年次有給休暇取得を認める方法です。多くの場合、就業規則において、年次有給休暇の取得は事前の申出が原則である旨が定められており、事後申請は本来認められないものですが、事情を勘案した柔軟な取り扱いであり、あくまでも特例的なものと位置付けられます。また、慶弔休暇やリフレッシュ休暇などのいわゆる「特別休暇」のひとつとして「災害休暇」を設けている例もあります。2.企業側の判断で、安全確保のために「早退・自宅待機」を命じた場合災害の発生が予測されるため、就業時間途中で業務を打ち切り、全社的に帰宅を命じたり、翌日を自宅待機としたりすることも想定されます。労働基準法においては「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、平均賃金の60/100以上の休業手当を支払わなければならない」(第26条)とされていますが、安全確保のための早退や自宅待機の指示は「使用者の責に帰すべき事由」に該当するのでしょうか?この場合、休業の理由が「不可抗力(事業外部から発生した事故であり、事業主として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故)」に該当する場合は、休業手当の支払い義務はありません。一方、「交通機関は運行されており、事業所にも特段の被害は発生していないが、念のため休業にする」のように予防的に休業する場合は「使用者の責に帰すべき事由」に該当する可能性が高いというのが厚生労働省の見解です。企業側としては難しい判断を求められる場面となりますが、休業手当の支払いを惜しんで帰宅命令をためらった結果、従業員が被災すれば、甚大な安全配慮義務違反に問われ、損害賠償を求められる可能性があることは忘れてはなりません。安全最優先で判断を下していくようにしたいものです。3.事業所が直接被災した場合の対応は?災害により事業所が破損・浸水など直接的な被害を受けた場合、長期の営業不能・操業不能に追い込まれてしまうことが想定されます。1.事業所や工場が破損・浸水などにより、営業や操業が長期にわたり不能となった場合事業所の施設設備が直接被害を受け、物理的に事業継続が不可能となった場合の休業は、明確に「不可抗力」に該当するため、先述の「休業手当」の支払い義務はありません。とはいえ、賃金も休業手当も支給がない状態が続けば、従業員の生活が困窮し、離職につながるなどの事態も予想されます。このように災害を原因とする事業所の休業により、一時的に離職または休職を強いられた場合、「雇用保険の基本手当(失業給付)の特例措置」が実施されることがあります(注1)。これは、企業との雇用関係を維持したままでも、「事業所が災害により休業し、賃金を受けることができない状態」であれば、ハローワークで手続きを行うことで従業員が失業給付を受け取れるという非常に強力なセーフティネットです。職場が営業不能となり長期の休業となれば、従業員も先の見えない不安に襲われることになります。従業員の生活防衛を助言することが、企業の存続と人材流出防止につながるものと考えます。2.災害対応や復旧作業に伴う時間外労働被災直後には、1日も早い事業再開に向け、事業所の復旧作業など通常業務と異なる対応が発生します。また、幸いにも被害が軽微で、被災後ほどなく事業を再開できた場合、事業活動を休止していたしわ寄せが事業再開後に顕在化し、業務量が一気に増加してしまうことがあります。法定労働時間や36協定で定めた延長時間を超えて稼働しないと業務量増加に対処できないような場合はどのように対応すればよいのでしょうか。労働基準法では第36条に時間外労働の上限が定められていますが、第33条に「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」の例外が定められています。客観的に見て急を要する被害の復旧作業や、危険を防止するための作業に限り、所轄の労働基準監督署長に事前(事態急迫の場合は事後遅滞なく)に届出し許可を受けることで、36協定の限度時間を超えて労働させることが可能です。ただし、この33条の適用を受けた場合であっても、割増賃金の支払い義務は免除されないことになっています。緊急時だからといって所定の割増賃金を支払わないことは違法となりますので、労働時間の記録と適切な賃金計算は平時以上に徹底しましょう。なお、事業再開後の業務量増大による時間外労働は第33条適用の対象とはなりません。この場合、特別条項付き36協定を締結している場合を除き、36協定で定める範囲を超える時間外労働をさせることはできないため、改めて労使間で36協定を締結し直し、所轄の労働基準監督署に届出することが必要となります。4.災害時に業務中だった場合の労災保険の適用は?災害時に業務中または通勤中にケガをした場合、労災保険の対象となるかどうかもよく問題になります。例1)地震発生時、事業所内で倒れてきたキャビネットの下敷きになり負傷した業務中に発生した自然災害による負傷は、原則として労災(業務災害)の対象となります。労働者が事業主の支配下にある状態で発生した事故であり、事業所の設備が原因で負傷しているためです。例2)台風の中、通常経路で通勤途中に強風で飛んできた看板に当たり負傷した合理的な経路および方法による通勤中の事故であれば、自然災害が原因であっても労災(通勤災害)の対象となります。ただし、交通機関が運休しているにもかかわらず、会社の指示なく極めて危険な手段(例:線路を歩く、暴風雨の中を自転車で長距離移動するなど)で通勤し負傷した場合は、通勤の合理性が否認される可能性があります。また、会社の安全配慮義務(出勤を止めるべきだった)が問われることも考えられるため、危険な状況下では原則として「出勤させない」ことが最大のリスクヘッジと言えるでしょう。自然災害時のトラブルを防ぐためには、平時における備えが不可欠と言えます。「特別警報発令時や公共交通機関がストップした場合は、原則自宅待機とする」「その際の賃金は有給とする(または無給だが年次有給休暇の事後取得を認める)」といったルールを明文化しておくことは、従業員の不安を抑え、混乱を防止することにつながります。<注釈>直近では「令和8年熊本地震」「令和6年能登半島地震」において「雇用保険の特別措置」が実施されている。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000134526_00003.html提供:税経システム研究所
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2026/09/30 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第25回)
【サマリー】第21回より最近の中小企業のM&Aについての国(中小企業庁)の働きかけ、具体的には中小企業のM&Aガイドラインについて解説しています。本稿では前稿に引き続き中小M&Aガイドラインの参考資料で紹介されている中小企業のM&Aの事例を挙げ、筆者のコメントを述べたいと思います。1.中小M&Aガイドライン(第3版)での中小企業M&Aの事例経済産業省から公表されている中小M&Aガイドライン(第3版)_参考資料4の「中小M&Aの事例」では以下のような事例が紹介されています。前稿までは中小M&Aが成立した事例を紹介しましたが、本稿では⑧何らかの理由により中小M&Aが成立しなかった事例を説明します。2.何らかの理由により中小M&Aが成立しなかった事例(1)中小M&A着手が遅れたため、資金繰りが尽きてしまい、中小M&Aが不成立に終わり廃業した事例【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:設備工事業・売上高:5000万円・従業員:5名・業歴:40年【意思決定に至るまでの経緯】A社代表者である大岡(仮)は70歳で、後継者候補もいないものの多忙な毎日に追われ、事業承継を考える暇がなかった。A社は金融機関から約2億円の借入を行い、何とか事業を継続していたが、大岡は体力が徐々に落ち始め満足に営業できなくなってしまった。それと並行して、A社は顧客が少しずつ離れていき、3年前に約1億円あった売上も約5000万円に落ち込んだ。資金繰りは日に日に悪化していき、2~3か月以内に資金繰りが尽きることが見込まれる状況に陥ってしまった。そこで大岡は弁護士に相談し、社外の第三者に事業を譲り渡そうと決意した。【不成立に至った経緯】資金繰りが悪化する中で、A社が譲り受け側(スポンサー)を探す時間的な余裕はほとんど残されていなかった。また、弁護士が紹介したM&A専門業者が懸命にスポンサー探索を行った結果、スポンサー候補が複数社、A社に関心を示したものの、活気を失ったA社の事業を譲り受ける決意をしたスポンサーは現れなかった。【不成立に至った後の経緯】A社は、資金繰り悪化に耐えきれず破産し廃業した。また、A社の金融機関からの借入について個人保証(経営者保証)していた大岡も同時に自己破産した。上記事例は資金繰りが悪化する中でM&Aを実施する意思決定が遅れたために、最終的に会社及び社長個人が破産したという最悪のケースです。前稿までの事例では様々な事情があったものの、M&Aの対象事業に収益力、ブランドや優良顧客などの無形資産が棄損していない状況で社長がM&Aの意思決定を行なったことがM&Aの大きな成功要因でした。筆者も事業の収益力や無形資産の価値が棄損した会社のM&Aの事例を経験しましたが、このようなケースでM&Aが成功するには例えば土地などの不動産の処分価格が高額で換金可能な場合などに限られます。特に資金繰りが悪化した状況(営業利益が長期間継続して赤字の状況とも考えられます)では、M&Aの譲り受け先であるスポンサーは現れないものと考えるべきであり、その意味においても当面の資金繰りが見込まれる段階でスピード感をもって果断にM&Aの意思決定をして実行に移すことが肝要といえます。(2)社外へ情報が漏れたことに伴い中小M&Aが不成立になった事例【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:製造業・売上高:3億円・従業員:20名・業歴:30年【意思決定に至るまでの経緯】A社代表者である遠藤(仮)は、事業はある程度順調なものの自身が70歳で後継者候補がいないことから、金融機関からの紹介でM&A専門業者に中小M&Aの相談を行った。【不成立に至った経緯】M&A専門業者が迅速に動いたことから、4か月でB社とのマッチングが実現した。その後基本合意を締結し、最終契約に向けて交渉を詰めていく段階にあった。遠藤は、当該M&A専門業者から「M&Aが成立して無事に決済が完了するまでは、M&Aに関する情報は慎重に取り扱うようにし、自社の従業員や社外の方には決して知らせないように。」と再三にわたって忠告されていた。しかし、遠藤は、B社が譲り受け側に事実上内定したと認識して安堵し、まだ決済どころか最終契約も完了していないにもかかわらず、従業員や一部取引先を含め色々な関係者にB社の名前を出した上で中小M&Aを行おうとしている事実を伝えてしまった。B社は、遠藤により中小M&Aの情報が流出したことを知って激怒し、信頼関係が崩れたことを理由にその後の中小M&Aに関する交渉を打ち切った。【不成立に至った後の経緯】その後、A社は、遠藤が80歳を迎える頃まで徐々に事業規模を縮小していき、最終的には円満に廃業に至った。遠藤は、B社との交渉が決裂した後になって初めて中小M&Aに関する情報の取扱いの重要性を理解した。上記事例は売り手サイドの経営者がM&Aに関する情報を外部に漏えいしたために、M&A自体がご破算になったものです。M&Aは通常、特定の関係者のみが関与して情報管理を徹底することが求められるために実務的には当事者間で秘密保持契約(NDA)を締結します。当該事例ではおそらくA社代表者が悪意なく身近な人たちにM&Aの内容を話して結果的にNDA違反を犯したものと推察されます。それではなぜM&Aでは情報管理が必要なのでしょうか。第一に売り手サイドの企業の職員や取引先に事前にM&Aの情報が漏れた場合に、職員や取引先の離脱や意図せざるネガティブな情報の流布などにより譲り渡し側の事業価値が低下する可能性があるからです。またM&Aは大きな金額で取引が実行されるために情報漏えいにより価格交渉が阻害される可能性もあります。M&Aの手続が順調に進むと売り手サイドでは安堵感を抱くことが想定されますが、M&Aの実務では最終段階でご破算になることも珍しくはないために最後の最後まで緊張感を持って対応することが望まれます。(3)オーナー一族間の不和、コミュニケーション不足により中小M&Aが不成立になった事例【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:製造小売業・売上高:5億円・従業員:50名・業歴:60年【意思決定に至るまでの経緯】15年前、先代オーナーであった父親の他界に伴い、製造部門の責任者であった長男(芦田一郎(仮))がA社の社長に就任し、販売部門の責任者であった次男(芦田二郎(仮))が副社長に就任した。その後、A社は新規事業に挑戦するも失敗し、また人件費の高騰等で業績は伸び悩み資金繰りが悪化した。芦田二郎はこのままではA社が破産してしまうと危機感を持ち、知り合いの弁護士に相談をしたところ、事業再生のためにはスポンサー探しが必要と示唆され、当該弁護士の紹介したM&A専門業者に依頼した。【不成立に至った経緯】M&A専門業者が複数のスポンサー候補を提示した。このうち、B者はA社の販路や知名度を高く評価し、A社の主力事業を事業譲渡の手法により譲り受けたいと興味を示し、二郎と面談を実施した。一方で、3代続く家業を第三者に譲ることに反対していた一郎は、二郎が社長である自分に相談せずスポンサー探しをしていたことに激怒し、二郎に副社長としての役職を辞任させ、更にB社との交渉を打ち切ってしまった。【不成立に至った後の経緯】A社従業員は、経営陣の内紛に不安を感じ退職者が急増した。その後A社は売上も思うように伸びず、徐々に事業規模を縮小していき最終的には自主廃業に至った。上記事例は共同経営者である兄弟間でのコミュニケーション不足を原因としてM&Aが中止となり最終的に自主廃業に至ったものです。兄弟または親子という肉親で共同経営している会社では兄弟間や親子間でのトラブルが発生するケースを耳にすることがあります。それぞれがそれぞれの立場で経営という重い責任を負っているために意見の食い違いや不一致が生じることは理解できるものの、一番問題となるのがこの事例のようにコミュニケーション不足により一方がもう一方の承認や意見聴取を求めることなく意思決定や手続きを進めてしまうことです。特に年下の経営者が年上の経営者に相談することがなかった場合には、その意思決定や手続きが会社にとって最良の判断であっても感情的に否定されることは容易に想像できます。M&Aや設備投資、資金調達など会社の命運がかかっている重要事項については、当事者が膝詰めで議論してお互いが納得のいく形で会社としての最終判断をすべきと考えます。(4)譲り渡し側が不誠実であったため中小M&Aが成立しなかった事例【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:運送業・売上高:10億円・従業員:30名・業歴:30年【意思決定に至るまでの経緯】A社は地域密着で運送業を営んでいたが、社長である近藤(仮)が75歳となり後継者候補がいなかったことから、中小M&Aを決意しM&A専門業者にマッチング支援を依頼した。【不成立に至った経緯】A社は地域内では有名な企業であり、同地域内のB社とのマッチングがすぐに実現し、近藤の有するA社株式の全部譲渡を前提に、順調に基本合意締結に至った。しかし、近藤は、B社への対応を甘く考えており、B社によるDDにほとんど協力せず、4か月経ってもDDの必要資料がほとんど揃わない状況であった。また、近藤はA社を手放すのが段々と惜しくなってきたため、譲渡条件がほぼ固まった後になって突然、中小M&A後も自分をA社の顧問として登用し、A社の経営を自分に委ねるようB社に対して要求するようになった。B社は近藤の不誠実な対応に嫌気が差し、A社及び近藤との信頼関係が損なわれたことを理由にA社との中小M&Aを断念し交渉を中止した。【不成立に至った後の経緯】その後もA社において中小M&Aが成立することはなく、近藤は数年後に持病で亡くなった。突然トップ不在となったA社は、役員・従業員間での経営権争いを経て元役員により承継されたが、長い社内抗争を経てすっかり弱体化し、その後自主廃業した。上記事例は、M&Aの最初の段階では手続きが順調に推移したものの、途中から売り手サイドのオーナーによる不誠実な対応が問題となって最終的に不成立となったものです。おそらく売り手サイドのオーナーは一代で苦労してA社をここまで育ててきたものと推察されるためにA社に対する愛着は相当高いと思われます。当該事例ではM&Aによる次世代への事業承継という理想的な姿ではなく、個人の過度な愛着と不誠実な対応によって一つの社会的公器が消滅したことを意味します。M&Aはオーナーが今まで育てた事業を将来にわたって継続していくための一つのツールです。これまで会社を育ててくれた社会に対する恩返しという意味においても、売り手サイドのオーナーには優良な事業を後世に残すというM&Aの意味を改めて考えてもらいたいと切に思う次第です。提供:税経システム研究所
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2026/09/30 企業経営
銀行金利上昇トレンドに対する対策(第1回)
【サマリー】金利上昇トレンドが明確になった環境下で、筆者の経験から考えられる融資残高の繰り上げ返済におけるデメリットを中心にご紹介し、繰り上げ返済の意思決定について解説します。また繰り上げ返済以外の対策についてもご紹介します。※なお、繰上げ返済に対する考え方や取扱いは金融機関によって異なります。本稿で紹介した内容は、筆者の経験に基づく一例であり、すべての金融機関やローン商品に当てはまるものではないことにご留意ください。銀行金利は継続的に上がっていくトレンドとなっています。この状況の中、地域企業はどう環境適応すべきなのでしょうか。以前のレポートで、借入金を繰り上げ返済して金利上昇によるコストアップの対策をしましょうと書きました。その際に、借入金の繰り上げ返済について詳しく説明していませんでしたが、実はメリットだけでなく、一度立ち止まって検討するべきデメリットもあります。今回、繰り上げ返済のメリット・デメリットについてご紹介します。(1)借入金の繰り上げ返済とは繰り上げ返済とは、毎月の約定返済とは別に、銀行から借入している融資残高の全部または一部を返済期日が来る前に返済することです。(2)企業にとっての繰り上げ返済のメリット企業にとっての繰り上げ返済のメリットには次のようなものがあります。支払利息の負担を軽減できる→決算の損益改善に寄与。月次の元利返済がなくなるため、多くの場合繰り上げ返済後の資金繰りが円滑になります。借入金返済で負債が減少し、自己資本比率が高くなる→今後の金融機関取引に有利。BS(貸借対照表)が改善され信用力が向上する→今後の金融機関取引に有利。(3)金融機関にとっての繰り上げ返済のデメリット意外に感じられると思われる、金融機関にとっての繰り上げ返済のデメリットの一つとして、筆者の経験から考えられるのは、金融機関側が繰り上げ返済を歓迎しない可能性があることです。金融機関が繰り上げ返済を回避したい理由には、次のようなものがあります。対象の融資先の借入残高シェアが減少する→支店の融資残高が減る方に動く→本部からの評価が下がる、もしくは上がらない→銀行員の将来に響く。安定的に得られる支払利息の収益が減る借入金の金銭貸借契約書の裏に読めないレベルの細かい字で契約約款が印字されていますが、その中には、「金融機関は貸出先の繰り上げ返済の申し出を断ることができる」と明確に書かれています。しかし、企業経営者には違和感があるのではないでしょうか。借りたお金を返済するのだから歓迎されるのが普通ではないかと。しかしそれは金融機関側の上記のような事情で、できる限り回避したい出来事なのです。筆者の経験から、「普段から金融機関とのコミュニケーションが悪い」「金融機関からの印象が悪いようだ」と感じている企業は注意が必要です。経営状態が悪化していると認識されている企業では特に注意が必要です。しかし、良い関係性を保っていると顧客の意思に反した行為を金融機関が行うことはありません。もし繰り上げ返済を法的に拒絶してくるような事態になれば、それは尋常な関係ではないと言えます。また、金融機関に同じようなインパクトを与える行動は、他行他金庫への融資取引の変更=「融資の肩代わり」です。既存の金融機関は想定外に融資残高が減り、金利収入がなくなり、他の金融機関にそれが移るということなので、絶対に避けたいこととなります。もし、繰り上げ返済を実行すると決められた場合は、早めに相談を掛けるのは得策ではありません。いろんな手段を用いて金融機関は自分たちの被害を最小限に抑えよう、あるいは繰り上げ返済をやめてもらおうと説得しようとされます。他の金融機関への肩代わりも同様です。繰り上げ返済を行うと決めて、期日直前に事務的に連絡するという形が穏便な方法と言えます。(4)企業にとっての繰り上げ返済のデメリット企業にとっての繰り上げ返済のデメリットの一つとして、筆者の経験から考えられるのは、次のようなものです。銀行によっては繰り上げ返済に伴う手数料が発生する、または違約金がかかるケースがある(これらも約定等に記載されています)手元の現預金残高が少なくなり、予期せぬ売上減少等で資金繰りが苦しくなる場合がある銀行との良好な関係性に影響する恐れがある資金を繰り上げ返済に充てたために事業に回すことが出来ず、事業の成長チャンスを逸するデメリットを見ていただくと、金利コストの増大を防ぎたいからという理由だけで、繰り上げ返済を進めるのは早計です。3年程度の損益と資金繰りのシミュレーションを行って、経営計画を組んでみて、資金面で大丈夫だという根拠を把握してから進めていただきたいと思います。複数金融機関との融資取引があれば、繰り上げ返済を行った先が急に冷たくなったりした場合のフォローが効きますが、単一金融機関取引の場合は十分に気を付ける必要があります。多くの金融機関が資金を借りてほしいと新規営業に来る企業は当面不安はありませんが、そうでない企業の場合は既存取引行の返済実績や信用は重要になる場合があります。(5)繰り上げ返済以外の銀行金利上昇への対応策それでは、繰り上げ返済のほかに企業が選択肢として考えられる対応策を考えてみましょう。筆者の経験から、次のような対応策が考えられます。①融資のまき直しを金融機関に実行してもらうかなり応用編になりますが、繰り上げ返済以外の金利対策もあります。これまでの論は金利に着目した対策としての繰り上げ返済でした。繰り上げ返済をするかしないかの判断は意外に複雑なものであることがご理解いただけたかと思います。そこで、金利ではなく、月次の約定返済額(元本+金利)に着目すると別の対策が見えてきます。「融資のまき直しをしてもらって返済期間を長期化する」という方向性です。融資のまき直しとは、現在返済が進行している融資に対して、新しい融資契約を結んでそれを実行し、既存融資の融資残高を繰り上げ返済して、新しい融資に一本化することを言います。それが実現すると、返済期間が倍になると、元本の返済額は月次で半分程度に減らすことができます。金利の上昇以上に月次の元本返済を減らすことできて、総支出を抑えることができる可能性があります。金利は損金に勘定されますが、元本は支払っているが損金ではありません。では金利より元本を減らす方が企業にとってメリットがあるということになります。この対策は金融機関にとって先述したデメリットがなくなり、金利は上げてもよく、返済期間が長くなると実際に金利総額は大きくなって銀行のメリットが増えます。ただ、融資期間の長期化は本部の融資部や審査部ではできればやりたくないことなので、担当者と密に相談しながら稟議をあげてもらう必要があります。②預金を積んで実質金利を上げることで交渉する預金を積むと、金融機関の実質の貸出金利は大きく上がります。これは実務経営者にはあまり知られていません。取引金融機関から預金を頼まれる時にも、実質金利を上げたいと思っているとは気づいておられないかもしれません。企業に3000万円の融資を金利3.0%で実行すると金融機関にとっては年率3.0%の収益ですが、その企業から、2000万円の定期預金を組んでもらうと、実質的に貸しているのは1000万円で、3000万円の3.0%の収益が見込めるので年率:9.0%の収益となり、金利は3倍に上がるということになります。逆に言いますと、同一の金融機関の定期預金を解約して、その資金で融資の繰り上げ返済を行うことは避けなければなりません。金融機関側にダメージが生じるからです。予定していた融資額が減少する+予定していた利息収益が減少するという「繰り上げ返済」のダメージに、予定していた預金額が減少するというダブルのダメージを受けるということです。このため、預金をいくら積むと金融機関の金利はどの程度になるか計算して、そこで預金を入れるのと合わせて借入金利の上昇幅の交渉を行う方法があります。提供:税経システム研究所
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2026/09/30 医療経営
戦略的医療機関経営 その173
【サマリー】病院の中は患者のあらゆる情報があふれかえっている。患者の診療のためには、患者の情報を共有化して、医療職の専門性を各職種が発揮して診断や治療を行う。しかし、このような環境になれると、個人情報の中で、仕事をしていることをつい忘れてしまうこともある。マスコミなどで時々、患者情報が入ったUSBを紛失したなどのニュースが流れる。さらに個人情報を取り巻く環境は著しく変化している。その変化に対応するために「個人情報保護法」は3年に一度改正される。2026年はその改正年にあたり、改正の内容が明らかになった。今回の改正は今までの改正よりも大幅な改正内容であり、医療機関側もその改正内容に対応が必要になってくる。速報として個人情報保護法の改正内容を伝え、考えうる医療機関の準備を考察したい。1.はじめに(個人情報保護法の基本)個人情報保護法に規定されている個人情報とは、「個人を特定できる情報」を指します。顔写真など単体で個人が特定可能な情報はもちろんですが、複数の情報をいくつか組み合わせて個人が特定される個人情報もこの法律の対象となります。また、法律の対象は生存している個人ですが、死亡したからといってその故人の情報が守らなくてよいというものではありません。世の中には様々な個人情報が溢れかえっていますが、病院の中にもカルテをはじめとして、患者の情報が溢れかえっています。このような患者の情報は特に注意しなければならない情報として、「要配慮個人情報」(センシティブ情報)と規定されています。ちなみにこのセンシティブ情報は金融情報もあります。個人情報保護法で特に注意する点は、個人情報を利用目的以外に利用してはいけないこと。個人情報を入手する際は事前に利用目的を明らかにして同意を得ることと、一旦預かったらその個人情報を適切に管理すること。利用目的を達成後、その個人情報を第三者に提供することに十分に気を付けなければいけないことです。しかし、医療では例外があります。個人情報の入手の同意については、異論や同意しない人のみ申し出ることになっています。「暗黙の同意」と言われています。さらに前述した入手した個人情報を個人の同意なく第三者に提供することが禁止されていますが、この点にも例外があります。例えば、大災害時の安否確認を第三者に情報を提供することは、患者の事前同意は必要ありません。さらに裁判所、弁護士事務所、警察などから捜査令状などに基づく要請の場合も個人の事前同意は必要ありません。ただし、最近は警察のような機関をかたり、個人情報を聞き出す輩もいますので、折り返しの電話などで相手を確認することは必須です。個人情報保護法で最も気をつけなければならないことが「情報漏洩」です。人間はミスをする動物です。ミスを起こすことを前提に対応策を考えることが重要です。□安全管理措置2.改正個人情報保護法の内容今回の改正の背景は急速に進む医療デジタル化と関連する権利侵害リスクが高まるという点です。これらの時代背景を踏まえて大きく4点改正されました。□4つの主な改正点個人情報の利活用の円滑化16歳未満の子供の個人情報の取り扱い生体情報の厳格化実効性の強化個人情報の利活用が拡大されていますが、同時に規律が強化されています。車の運転で例えると、アクセルとブレーキを同時に踏むようなものです。(1)個人情報の利活用の円滑化医学の発展、研究のために医師などは学会発表など研究発表を行います。当然、発表内容の中心は臨床症例と呼ばれる患者の個人情報です。現行法でも学術研究の場合は、事前同意は必要ないなどの例外規定はありますが、今回の改正内容では、さらに明確化されました。また特に医療画像診断など診断支援システム開発のために、生成AIに患者のデータを事前学習させる場合も事前同意が必要ないことが明確になりました。このように個人情報の入手や第三者への情報提供など、「本人の意思に反しない」ことが明らかな場合は同意を得なくても良いとされました。このことで、患者の治療に必要な患者情報の共有化が安心して行うことができます。(2)16歳未満の患者についての取り扱い親権者などの法定代理人の同意を得ることが義務付けられました。小児科がある医療機関はもちろんですが、小児科がなくても、16歳未満の患者が来院する可能性があるので、事前の準備が必要です。具体的には、手術や処置など事前に同意を得ることが必要な書類や問診票に法定代人が署名する欄を設けて、必ず署名をもらうことが必要になります。(3)生体情報の厳格化医療機関に行くと、マイナンバーを使って顔認証(特定生体個人情報)を行うことが当たり前になってきました。このような顔認証システムが今後、様々な場面で利用されることが予想されます(新生児室の入室など)このような状況を受けて利用目的、保存期間などを事前周知することが義務化されました。周知方法としてはホームページなどで顔認証システムをどのような場面で使用しているのかとか、セキュリティなどのことを掲示することが必要になります。また生体情報はいかなる場合においても、第三者提供は禁止です。(4)実効性の強化病院は様々な部署で業務を外部に委託しています。その外部事業者が仮に情報漏洩した場合も病院は管理者として責任を問われます。委託先の管理をしっかりすることと、再委託があった場合、その再委託先も医療機関事前には把握していなければなりません。この(事前に把握していた)証明のために契約書などで、明記しておくことが必要になります。仮に個人情報が外部に漏洩した場合、すみやかに、「個人情報保護委員会」に連絡し指示を受けることになっています。現行法では、漏洩した情報の個人に対し情報漏洩した事実を通知することが原則でした。しかし、近年はUSB等の媒体にっては、何千、何万に及ぶこともあり個人に通知することが非常に困難なケースも出てきました。今回の改正では、漏洩した情報が個人の権利利益保護に欠けるおそれが少ない場合は、個人通知ではなく、代替措置で省略できることになりました。代替措置とは、ホームページなどで掲示することです。注意としては、医療機関自らが、権利利益保護に欠ける恐れが少ないケースと独自判断するのは危険です。必ず個人情報保護委員会と相談しながら、判断することが肝要です。3.医療機関の対応改正個人情報保護法の対応としては前述した準備対応に加えて、現在の院内のルールの可視化から始めます。院内掲示の表現、文言、ホームページ掲載内容、契約書などの文書の見直し、個人情報保護法や情報漏洩、職員のSNSなどの職員研修(年に1回は実施)、さらに外部からのハッキング対応(近年は特に重要)が考えられます。医療機関の監査時には、必ずと言っていいほど「個人情報保護についての研修は実施していますか」と聞かれます。冒頭にも記述しましたが、医療機関の職員たちは、センシティブ情報に囲まれて仕事をしているということを忘れてはいけません。情報漏洩がいったん起こると今まで築き上げてきた患者との信頼関係が一瞬で崩れ去ります。一旦崩れた信頼関係を再度築くのは非常に大変であると自覚が必要です。提供:税経システム研究所
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2026/08/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(225)
1.はじめに都内のある自治体で、職員による通勤手当の不正受給が発覚しました。公共交通機関を利用すると届出ていた職員1,000人余りを調査したところ、実際には徒歩で通勤していたケースが多数見つかり、約100名が通勤手当を返納、その額は1,600万円超に上りました。さらにその後の調査で約180名、900万円の返納が判明、職員総数のほぼ1割が関わっていたということになり、自治体住民から怒りや呆れの声が多数寄せられたということです。一般企業においてもこの事案は決して他人事ではなく、通勤手当の不正受給は普通に存在するリスクの1つと考えて差し支えないでしょう。今回は不正受給の事例を参照し、いかにして防止を図っていくかを考えてみます。2.通勤手当の位置づけとはそもそも通勤手当とはどのような位置づけにあるのでしょうか。従業員が通勤する際に支出する交通費等の費用負担を雇用主に義務付ける法令は存在しないことから、原則を言えば、通勤する際の費用は企業ではなく従業員が負担すべきものということになります。それにも関わらず、諸手当を支給している企業のうち90.2%の企業で通勤手当が支給されています(注1)。通勤は毎日のことですから、原則通りに従業員負担では、かなりの経済的負担になってしまいますし、遠方から通勤となればなおさらです。そこで通勤手当という形でその費用負担を企業が支援することで、従業員の生活を守るとともに、人材確保・定着促進を図る目的の「福利厚生」として多くの企業で支給されているのが実情です。また、会社側にとっても、一定額までは経費として計上できることもメリットとして考えられます。支給の形態は、電車・バスといった公共交通機関の場合は、通勤定期代の実費や定期券の現物支給、車・二輪車の場合は通勤距離に応じたガソリン代相当額というのが大半ですが、中には自転車通勤に対しても車両の損耗費を考慮して一定額を支給している例もあります。ではこの通勤手当を不正受給する手口としてどのような方法が確認されているのでしょうか。3.よくある不正受給の事例「不正受給」というと、悪意を持って本来の通勤費よりも過大な額を受け取る行為のような印象を受けます。もちろんそのような事例も少なくないのですが、一方で、通勤経路を変更したのに、それを届出ていなかったというような、ついうっかり…の事例も存在しています。さまざまな事例がありますが、多くの場合、以下の3つの形態に集約することができそうです。【不正請求の代表的な形態】1.実際の住所と異なる住所で手当を申請している例えば、実際の住所よりも遠方にある実家の住所などで手当を申請するケースです。虚偽の届出に基づく申請であり悪質と言えるでしょう。2.実態とは異なる通勤経路で手当を申請している実際に利用している通勤経路よりも高額な通勤費を要することになる通勤経路を申請するケースです。故意に行った場合は1.同様、悪質と言えます。ただし、交通事情の変化に伴い、申請していた経路より通勤の利便が向上するなどの理由で後日になって通勤経路を変更する場合や、転居により通勤経路が変わったなどの届出を失念していたケースも考えられますので、一律に「悪質」と断じてしまうには注意が必要です。3.虚偽の通勤手段で手当を申請している徒歩や自転車など、費用が発生しない手段で通勤しているのに、公共交通機関を利用しているとして申請するケースです。悪意に基づかなければやらない手段ですので、悪質度は高いと言えます。では、従業員が通勤手当を不正請求していることが疑われる場合の対応や不正請求を未然に防ぐためのチェック体制はどのようにすれば良いのでしょうか。4.不正請求判明後の対応と予防策は?通勤手当は従業員からの申請内容が「適切かつ合理的な内容である」という前提で支給が行われており、個々の申請内容を細かく検証する、実際に購入した定期券のコピーや領収証をチェックするといったことなく支給が行われていることが多いように思います。また、従業員側からすると「ちょっとくらい」とか「バレるわけない」といった軽い考えで不正な内容を請求していることも多いのですが、不正請求は、悪質度次第では横領や詐欺に該当するケースもある重大な事案です。不正請求が疑われる場合、まず、企業側は不正を裏付ける客観的な証拠を揃えるとともに、当事者からのヒアリングなどで事実関係を正確に把握することが最初のステップです。その結果、不正請求が確定した場合は、故意なのか過失なのか、故意の場合は悪質度の大小を判断すること、その上で、当事者には悪質度に応じた懲戒処分を課すとともに、不正請求に基づいて支給した通勤手当の返還を求める、というのが大まかな流れです。事後対応はもちろん重要なのですが、多大な労力を充てることにならないよう、未然防止の体制を整備しておくことも事後対応以上に重要であると考えます。【未然防止のためのチェック体制】1.就業規則及び賃金規程の整備と再周知就業規則や賃金規程に支給要件や申請手続きの内容を明記するとともに、「不正請求には懲戒解雇を含む厳正な処分を行う」旨を明記し再度周知する。2.購入実態を裏付ける証明書などの提出例えば、購入した定期券のコピーや購入した際の領収証、ICカードの利用履歴コピーなどの提出を義務付ける。併せて、抜き打ちで定期券の現物調査を行うことも不正抑止の効果があります。3.申請内容の精査を行う従業員からの申請内容だけで手当の支給額を決定してしまわずに、本当に「適切かつ合理的」な申請内容かを精査する。手間はかかるが、年に1~2回程度、全ての従業員の申請内容を精査する機会を設ける。2、3については、従業員を信用していないようにも見え、「ここまでやるの?」とためらわれる気持ちも理解できます。い考えで不正請求をした結果、それが露見し厳しい処分を受けてしまう方がよほど悲劇です。安易な不正を抑止するためにも、これらの体制整備は不可欠であるものと考えます。過去のおおらかな時代であれば、ここまで厳格な対処を想定しなくても良かったのかもしれません。しかし今や企業はもちろんのこと、従業員個々にもコンプライアンスが厳しく求められる時代です。不正を許さない企業風土を醸成するとともに、その姿勢を明確に発信していきましょう。<注釈>令和7(2025)年度就労条件総合調査の概況(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/25/dl/gaikyou.pdf提供:税経システム研究所
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2026/08/31 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第17回) 「定年退職後の継続雇用2」
【サマリー】前回のレポートでは、定年後再雇用制度の基本的な考え方について解説しました。高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満に定めている企業に対し、原則として希望者全員について、65歳までの雇用機会を確保することを求めていますが、定年前と同じ職務や賃金をそのまま保障する制度ではありません。一方で、再雇用後の職務を本人の経験や能力とかけ離れたものに変更したり、本人が受け入れることが困難なほど低い労働条件を提示したりした場合には、実質的な再雇用拒否として、高年齢者雇用安定法の趣旨に反すると判断される可能性があることも解説しました。また、定年後に有期労働契約として再雇用した場合には、いわゆる「雇止め」の有効性が問題となり、会社による説明、これまでの更新実績、本人の勤務状況、更新への期待などが判断材料となることを確認しました。今回は、定年後再雇用をめぐる企業実務上特に重要な4つの裁判例を取り上げます。1.重要判例1「音響機器会社事件東京地裁令元・5・21判決」音響機器の設計業務に従事していた従業員に対し、会社が定年後の再雇用条件として、定年前とは異なる部署への配置と職務内容を提示しました。従業員は、これまでの経験や能力を十分に生かせない条件であるとして提示を拒否し、定年前と同様の業務を内容とする雇用関係の確認や損害賠償などを求めました。東京地裁は、高年齢者雇用安定法は定年前と同一の職務や労働条件による再雇用まで保障するものではなく、会社が提示した条件も不合理とはいえないとして、従業員の請求を退けました。<事案の概要>音響機器メーカーであるY社のサウンド設計部で長年設計業務に従事していたXは、60歳の定年に際し、それまでとは異なる部署・職務内容および異なる雇用条件を提示されました。Xは、これまでの職歴や能力が十分に考慮されていないとしてこれを拒否したため、再雇用契約は締結されませんでした。そこでXは、高年齢者雇用安定法(以下「高年法」という)第9条を根拠に、Y社には定年前と同様の業務またはその経験・能力を生かせる業務で再雇用する義務があると主張し、雇用契約上の地位確認、賃金の支払いおよび損害賠償を求めて提訴しました。<判決のポイント>裁判所は、高年法第9条は事業主に65歳までの雇用確保措置を義務付けるものであるが、定年前と同一の職務内容・役職・賃金等での雇用継続までは義務付けていないと判断しました。定年により正社員としての労働契約はいったん終了し、再雇用契約は別個の契約となるため、労働条件が定年前と異なること自体は許容されるとしました。Xは、津田電気計器事件(最高裁判決)を根拠に定年前と同様の条件による雇用関係の成立を主張しましたが、裁判所は、同事件が会社の定める再雇用基準を満たす従業員の再雇用を会社が一方的に拒否した事案であるのに対し、本件はY社が具体的な条件を提示しXがこれを拒否した事案であるとして、事案が異なり同事件の判断はそのまま適用できないとしました。さらに、Y社が提示した業務は実際に必要とされる業務であり、Xを侮辱し再雇用を断念させる目的で設定されたものとは認められないこと、賃金その他の労働条件も社会通念上到底受け入れられないほど不合理とはいえないことから、提示条件は高年法の趣旨に反しないと判断しました。その結果、裁判所は、定年前と同様の業務や条件による再雇用契約が成立したとは認められないとして、Xの地位確認、賃金および損害賠償の請求をいずれも棄却しました。<学ぶべきポイント>本件は、定年後再雇用において、企業が定年前とは異なる職務内容や労働条件を提示すること自体は直ちに違法とならないことを示した事案です。高年法は65歳までの雇用機会確保を求めるものの、定年前と同一の職務・役職・賃金の維持までは保障していません。ただし、形式上は再雇用条件を提示していても、実際には不要な業務をあえて設定した場合や、経験・能力と著しくかけ離れた職務を提示した場合、本人が到底受け入れられない条件で再雇用を断念させようとした場合には、実質的な再雇用拒否として高年法の趣旨に反すると判断される可能性があります。企業としては、提示する職務が実際に必要であること、本人の経験・能力・健康状態を考慮して配置を検討したこと、定年前と同じ業務を継続できない理由を説明できるようにしておく必要があります。また、定年の数か月前から本人と面談を行い、希望や条件を確認し、面談記録や条件提示書の形で残しておくことが紛争防止につながります。企業には再雇用条件を決定する一定の裁量が認められる一方、その条件が業務上の必要性に基づく合理的なものであることと、本人への誠実な説明が強く求められることを示した判例です。2.重要判例2「惣菜製造会社事件福岡高裁平29・9・7判決」惣菜の製造販売会社で定年を迎えた従業員が、定年後もフルタイムでの再雇用を希望したところ、会社から週3日または4日、1日6時間、時給900円という短時間勤務の条件を提示されました。この条件では月収が定年前の約25%となるため、従業員は受け入れず、再雇用契約上の地位確認や損害賠償を求めました。福岡高裁は、具体的な労働条件について合意がないため再雇用契約の成立は認めませんでしたが、月収を約75%減額する条件を提示し続けた会社の対応は、継続雇用制度の趣旨に反する違法な行為であるとして、100万円の慰謝料の支払いを命じました。<事案の概要>惣菜の製造販売を行うY社で経理・決算業務に従事していたX(定年時の月額賃金33万5,500円)は、60歳の定年後もフルタイムでの継続雇用を希望しましたが、Y社は週3日または4日・実働6時間・時給900円というパートタイムの条件を提示しました。この条件による月額賃金は8万6,400円(16日勤務換算)で、定年前賃金の約25%の水準であり、約75%の減額となるものでした。Xはこの条件を受け入れず、再雇用契約は締結されませんでした。そこでXは、再雇用契約を締結したのと同様の雇用関係が成立しているとして地位確認・賃金の支払いを求めるとともに、著しく不合理な条件提示は違法であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴しました。第一審(福岡地方裁判所小倉支部)はXの請求をいずれも棄却しましたが、控訴審の福岡高裁は、地位確認請求は認めなかったものの、Y社の条件提示について不法行為の成立を認めました。<判決のポイント>裁判所はまず、所定労働日数・労働時間・賃金という労働契約の根幹に関わる条件についてXとY社の間に合意が成立していないことから、抽象的に再雇用契約が成立したとは認められないとして、地位確認請求を棄却しました。一方、条件提示の違法性については、高年法第9条の雇用確保措置義務は、希望どおりの労働条件で雇用することまで直接義務付けるものではなく、労働条件の決定は原則として会社の合理的な裁量に委ねられるとしました。もっとも、同義務は労働契約法制における公序の一内容を構成するため、極めて不合理で高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難い労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の趣旨に反する違法な行為となり得るとしました。裁判所は、継続雇用制度は定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが前提であるとした上で、Y社の提示条件(時給900円は定年前賃金換算の約1,944円の半額未満)により月収が定年前の約25%にまで減少する点を重視しました。Y社は店舗数減少による業務量減少を理由としましたが、裁判所は、Xが担当予定の決算業務店舗数(43店舗)が定年前(46店舗)とほぼ変わらないこと、Y社全体の店舗減少も1割弱にとどまること、人員配置や業務分担の見直しでフルタイムに見合う業務を用意できたと考えられることから、大幅な減額を正当化する合理的な理由は認められないとしました。そのため、Y社が他の条件を十分検討せずこの条件に終始したことは、継続雇用制度の趣旨に反し裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であると判断しました。契約の成立は認めなかったものの、Xが65歳まで安定的な雇用を享受できる法的保護に値する利益を侵害されたとして不法行為の成立を認めた上で、定年前後の労働条件の継続性が著しく欠けていたこと、店舗数の減少を理由とする条件提示には一定の理由があったこと、高年齢雇用継続基本給付金(月額約1万4,610円)の支給見込みなどを総合的に考慮し、慰謝料100万円と判断しました。<学ぶべきポイント>本件は、定年後再雇用の労働条件について企業に一定の裁量が認められる一方、その裁量には限界があることを示した事案です。定年後に職務内容や責任が軽減されることに伴う賃金引下げ・勤務時間短縮自体は認められますが、著しく低い労働条件を提示する場合には合理的な理由が必要です。裁判所は、単に減額率だけでなく、実際の業務量の減少幅、フルタイムに見合う業務を用意できたか、他の配置や分担を検討したかを重視しています。「高齢者だから」「定年後だから」という抽象的な理由だけでは不十分であり、業務量・職務内容・責任の程度と勤務条件との対応関係を具体的に整理する必要があります。また、条件提示が違法とされても、具体的な労働条件について合意がなければ再雇用契約の成立までは認められません。企業としては、一方的に条件を提示するのではなく、本人の希望を確認し、複数の勤務形態を提示して、職務内容・勤務時間・賃金の関係を明確に説明することが重要です。大幅な減額を行う場合は、業務量の変化、他の配置検討の結果、本人への説明内容などを記録に残しておく必要があります。企業には、再雇用後の職務・労働時間・賃金の対応関係を明確にし、本人が実際に就労を継続できる合理的な条件を提示するとともに、その理由を客観的に説明できるようにすることが求められると示した判例です。3.重要判例3「外資系エアライン事件東京地裁令5・6・29判決」航空会社に勤務していた従業員が60歳の定年を迎え、定年後の再雇用を希望しましたが、会社は、新型コロナウイルスの影響による旅客需要の急減と人員削減の必要性を理由に、再雇用を拒否しました。従業員は、再雇用拒否には解雇と同様の厳格な法理が適用されるとして、雇用契約上の地位確認などを求めました。東京地裁は、定年後の再雇用契約の成立には解雇権濫用法理は適用されず、会社の就業規則に定める再雇用除外事由にも該当するとして、従業員の請求を退けました。<事案の概要>航空旅客運送事業を営むY社の就業規則では、従業員は満60歳で定年退職となる一方、希望者には1年の有期労働契約を更新する形で再雇用する制度が設けられていました。ただし、事業縮小・人員整理・組織再編などにより担当職務やポジションが削減された場合には、再雇用の対象としない旨も定められていました。Xは令和2年12月に満60歳の定年を迎えましたが、当時Y社は新型コロナウイルスの影響による旅客需要の急減で収益が急激に悪化しており、人員削減・労務費削減を進めていました。その一環として定年退職者の再雇用を中止し、削減可能なポジションを廃止して後任を補充しない方針を定め、この方針に基づきXのポジションも削減して再雇用しませんでした。Xだけでなく、その後定年を迎えた他の従業員にも同様の扱いがされました。そこでXは、①就業規則上、再雇用契約の申込みを承諾する義務がある、②再雇用拒否は実質的に解雇と同様であり労働契約法16条の解雇権濫用法理が適用または類推適用される、③従前の運用から再雇用への合理的期待があり労働契約法19条の雇止め法理が適用または類推適用される、と主張して雇用契約上の地位確認などを求めて提訴しました。<判決のポイント>裁判所はまず、定年により従前の労働契約は終了し、再雇用契約の成否は新たな契約成立の問題であるとして、既存の労働契約を使用者が一方的に終了させる場合に適用される労働契約法16条の解雇権濫用法理は、定年後の再雇用契約の成否には適用されず、類推適用もされないと判断しました。一方、労働契約法19条2号の雇止め法理については、雇用継続への期待に合理的理由がある場合には適用または類推適用の余地があるとしつつ、本件では、就業規則に事業縮小等による職務削減時の再雇用除外事由が明記されていたこと、Y社が社内ニュース等で経営悪化や人員削減方針を説明していたことから、Xの期待に合理的な理由があったとは認めがたいとしました。また、Y社は新型コロナウイルスの影響による旅客需要の急減と収益悪化により労務費削減が必要であり、定年退職者の再雇用中止・ポジション廃止・後任不補充という施策はXだけでなくその後の定年退職者にも一律に適用されていたことから、Y社がXを再雇用しなかったことには客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性を欠くものとはいえないと判断しました。さらに、この事情は就業規則に定める再雇用除外事由(事業縮小・人員整理・組織再編等による職務削減)にも該当すると認め、XとY社との間に定年後の再雇用契約が成立したとは認められないとして、Xの請求をいずれも棄却しました。<学ぶべきポイント>希望者全員を対象とする定年後再雇用制度があっても、事業縮小等により担当させる職務が客観的に存在せず、就業規則上の再雇用除外事由にも該当する場合には、再雇用を行わないことが認められる余地があります。高年法は原則65歳までの雇用機会確保を義務付けますが、事業縮小・人員整理・組織再編等により現実に担当させる職務がなくなった場合には、再雇用を行わないことが認められる余地があります。ただし、「経営が厳しい」という抽象的な理由だけでは足りず、本件のように具体的な経営状況、削減方針の内容、他の退職者への一律適用などが重視されています。企業が事業縮小等を理由に再雇用を拒否する場合には、経営悪化の具体的内容、人員・労務費削減の必要性、担当させる職務が存在しないこと、ポジション廃止の経緯、他部署への配置可能性の検討結果、同様の立場にある退職者の取扱い、本人への説明内容と時期を説明できるようにしておく必要があります。また、就業規則に再雇用除外事由を具体的に定めておくことが会社の判断を支える重要な要素となります。「会社が必要と認めた者を再雇用する」といった曖昧な条項では恣意的判断を許すおそれがあるため、解雇事由・退職事由への該当や事業縮小による職務廃止など、客観的に判断できる内容を定めることが重要です。ただし、規定を置くだけでなく、実際に該当事情があること、経営判断に合理性があること、他の従業員との公平性、本人への十分な説明も必要です。本判決は、定年後の再雇用拒否には解雇権濫用法理は適用されないとしつつ、過去の実績や会社の説明・規程から再雇用への合理的期待が認められる場合には雇止め法理が適用され得るとしました。したがって企業は、再雇用制度の内容や再雇用しない場合の基準を明確にし、制度を中止・変更する際には対象者へ早めに説明することが求められます。要するに、企業は経営上の合理的必要性があり再雇用後の職務が現実に存在しない場合には再雇用を拒否できる可能性がありますが、その判断を正当化するには客観的根拠と一貫した運用が強く求められることを示した判例です。4.重要判例4「学校法人Y学園事件東京地裁平28・11・30判決」大学の専任教員として勤務していた従業員が65歳の定年を迎え、定年後も特別専任教員として再雇用されることを希望しましたが、学校法人は再雇用を拒否しました。従業員は、採用前に70歳まで雇用が保障されるとの説明を受けていたことや、従来は希望者全員が例外なく再雇用されていたことから、70歳まで雇用される合理的な期待があったとして、再雇用後の地位確認などを求めました。東京地裁は、従業員には70歳まで雇用が継続されるとの合理的な期待が認められ、再雇用を拒否する客観的かつ合理的な理由もないとして、特別専任教員としての労働契約上の地位を認めました。<事案の概要>学校法人Yの就業規則では専任教員の定年は満65歳と定められる一方、定年退職者を1年の有期労働契約で特別専任教員として再雇用する制度が設けられ、契約更新の上限は70歳とされていました。Yでは過去約15年間、再雇用を希望した専任教員7名について例外なく70歳まで再雇用する運用が行われていました。Xは、Yへの採用前に、65歳以降は総報酬が約7割になるが職務内容は変わらず70歳まで雇用が保障されるとの説明を受け、これを信頼して前職を退職しYに転職しました。しかし、Xが65歳の定年を迎えた際、Yは特別専任教員としての再雇用を拒否しました。そこでXは、採用前の説明、再雇用規程の内容および従来の運用からすれば70歳までの再雇用について合理的な期待があり、Yによる再雇用拒否は無効であるとして、特別専任教員としての労働契約上の地位確認などを求めて提訴しました。<判決のポイント>Yの定年は65歳であったため、65歳未満の定年制事業主に65歳までの雇用確保措置を義務付ける高年法第9条は直接適用されず、Yに70歳までの再雇用義務はありませんでした。しかし裁判所は、高年法が直接適用されない場合でも、労働者が定年後も再雇用されることを期待することに合理的な理由がある場合には、その期待が法的に保護されうるとしました。この判断にあたり、有期労働契約の更新期待を保護する労働契約法19条2号の趣旨を類推適用し、定年により無期契約はいったん終了するため同条を直接適用することはできないものの、雇用継続への合理的期待を保護する趣旨は定年後再雇用にも妥当するとしました。合理的な期待の有無について、裁判所は、①70歳までの再雇用制度が設けられていたこと、②長年にわたり希望者全員が例外なく再雇用されてきたこと、③採用前に報酬が7割になるものの70歳までの雇用が保障される旨の具体的な説明を受け、これを信頼して前職を退職し転職したことを重視し、Xの期待には十分合理的な理由があると認めました。一方、Yが再雇用を拒否したことについて、その期待を否定するに足りる客観的に合理的な理由や、拒否せざるを得ない特段の事情は認められませんでした。そのため裁判所は、Yによる再雇用拒否は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないと判断し、YとXとの間には再雇用規程に基づき特別専任教員として再雇用されたのと同様の労働契約関係が成立しているとして、Xの地位を認めました。<学ぶべきポイント>本件は、高年法の義務が直接適用されない65歳以降の再雇用であっても、会社の説明・規程・過去の運用によって、労働者に雇用継続への合理的な期待が生じうることを示した事案です。65歳までの雇用確保は法律上の義務ですが、70歳までの就業機会確保は努力義務にとどまるため、65歳定年制の企業が法律上当然に70歳まで全員を雇用しなければならないわけではありません。しかし、企業が独自に70歳までの再雇用制度を設け、原則として再雇用される旨を説明し、実際にも長年希望者全員を再雇用してきた場合には、雇用継続への合理的な期待が生じ得ます。特に採用前の説明は重要な考慮要素とされており、「70歳まで働けます」など断定的な説明をした場合には、労働契約の内容や期待を形成する可能性があります。制度の文言だけでなく実際の運用も重視される点にも注意が必要です。規程上は選考の余地があるように記載されていても、長年にわたり希望者全員を再雇用してきた実績があれば、合理的な期待が形成されることがあります。将来対象者を限定する可能性がある場合には、基準を明確にして一貫して運用し、運用を変更する際は事前に対象者へ説明することが求められます。企業としては、再雇用制度の対象者・契約期間・更新基準・職務内容・報酬・再雇用しない場合の事由・制度説明資料・過去の再雇用実績などを整備し、再雇用を拒否する場合には客観的に説明できる基準に基づいて判断し、その検討過程を記録に残しておく必要があります。また、組合活動や職務遂行能力と関係のない事情を判断要素とすべきではありません。再雇用制度は法律上の義務として設けたものでなくても、一度制度として明示し長期間一定の運用を続ければ、企業が自由に変更・拒否できない場合があることを示した判例です。提供:税経システム研究所
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2026/08/31 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第26回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で住宅リフォーム業を創業して20年、従業員規模18名の中小企業です。大手住宅メーカーのリフォーム部門の協力企業としてスタートしました。現在は大手住宅メーカー向けの協力企業事業、近隣のマンション・戸建住宅を中心とするリフォーム受注の自主事業の二本柱を半々で展開中です。協力企業事業の売上はこのところ微増ですが、単価的に厳しいので薄利となっています。自主事業の方は、中古マンションのリノベーションの需要が増えていて、地場の不動産業者と連携して順調に受注しています。新規事業として、戸建住宅向けに、リモートワークや趣味のための防音室事業をはじめたのですが、まだ実績が不足しています。どのように今後この事業を進めたらよいでしょうか。■住宅ストックの状況国土交通省の建築物リフォーム・リニューアル調査報告(令和7年度第4四半期受注分、令和7年度計)を見ると、住宅・非住宅のリフォーム等の工事受注高の推移は、図1に示される通りです。図1建築物リフォーム・リニューアル調査報告(国土交通省)令和7年度計の住宅に係るリフォーム工事の受注高は4兆9,033億円で、非住宅建築物に係る受注高は11兆5,071億円です。住宅リフォームの市場は約5兆円ですが、過去10年の推移を見る限り、急成長しているとは言えない業界です。非住宅の方が市場規模は倍あります。住宅リフォームの需要は、水回り、外装、内装、その他の4領域に分かれます。御社は水回りと内装に実績があり、そこに防音室事業を得意分野に加えようとしています。新事業は、技術的には、水回りと内装という室内リフォームの延長上にありますが、マーケティング上の工夫が必要となります。つまり技術シナジーはある程度あるものの販売シナジーに課題があり、そこをどうするかという状況にあると思われます。図2建築着工統計(国土交通省)住宅ストックを理解するには、過去の新築着工件数の推移を見ることも重要です。図2に示されている通り、直近では70万戸台まで低下しています。2008年まで住宅着工件数は100万戸を超えていました。マクロには、住宅着工件数は、{生産年齢人口}と金利、税率や景況を含めた{経済状況}との因果関係が想定されます。日本の生産年齢人口のピークは1995年、日本の人口のピークは2008年でした。働き手が30代から40台に入ったあたりで住宅取得する一時取得需要がけん引し、着工件数にプラスに働くと考えられます。生産年齢人口が減少していく中、分譲住宅と持ち家の件数は減少しています。それに対して貸家の供給は、急激に減少してはいません。新規着工件数は、減少していますが、その一方で空き家は総務省の調査によれば、約900万戸です。単純計算で、新規着工件数の10年分以上の空き家があることになります。空き家を処分するには、解体、売却、賃貸の3つの出口があり、そのうちリフォーム・リノベーションの需要につながる案件は一定比率で出てくると思われます。図3死亡数と死亡率の推移(令和7年人口動態統計、厚労省)また、今後の住宅市場に影響を与えるデータとしては死亡に伴う相続数の増加にも着目する必要があります。図3に示されている通り、2025年の死亡数は159万人で、今後死亡に伴う相続件数は年々増えていきます。夫婦の一方が亡くなった場合は、その住宅は必ずしも空き家となりませんが、二次相続の時は空き家となります。その場合、子供世代の相続人が解体、売却、賃貸のどの出口を目指すかを考えることとなります。潜在的なリフォーム・リノベーションの需要がここにあると言えるでしょう。■御社の経営戦略の体系今のところ、住宅リフォームの市場は図1に見られるようにマクロには急成長しているわけではありませんが、マーケティング次第では需要を掘り起こすことができる可能性があります。御社が協力企業として取引している大手住宅メーカーは、当然その需要に着目した動きをするでしょう。むしろ御社は、自主事業の方で、マーケティング力ある連携パートナーと組む、あるいは自社で独自のマーケティング戦略を立案することが伸びしろとなります。御社の経営戦略を体系化すると、賃貸住宅、マンション、戸建て住宅の3タイプの市場をどのように攻めるかということになります。表1御社の経営戦略の体系1.賃貸住宅の高付加価値化意識の高い賃貸ハウスメーカー等との連携2.マンションの高付加価値化不動産業との連携、または不動産機能の内部化3.戸建て住宅の高付加価値化不動産業との連携、または不動産機能の内部化特に、中小企業である御社は、数をこなす事業を追求するというより、「高付加価値なリフォーム」に関する潜在的市場を可視化していくことが求められます。例えば、賃貸ハウスメーカーも、築年が古くなったとしても一定の家賃と入居者が見込めるようにするにはどうすべきかを悩んでいます。意識の高い賃貸ハウスメーカーと連携することで需要にアクセスすることが可能となります。築年数の古い中古マンション・戸建て住宅を取り扱う不動産業の中から、リノベーションにより付加価値を上げて販売するパートナーを探して連携するという方法もあります。それ以外の選択肢としては、財務基盤の範囲内で、御社も不動産業としての機能を内部化していくという道があります。市場情報をつかむアンテナとしての機能を小規模に保有し、顧客や優秀なパートナーを発見していくのです。御社が取り組んでいる防音室事業も、立地によっては高付加価値となり得るものです。問題は、防音室事業を進める際に、表2の体系のどこを狙うかです。防音室の設置方法、防音性能、用途について、どこに強みを持つか、そのために何をするかです。大手楽器メーカーが得意とするのは、ユニット型の防音室です。表2防音室事業の領域防音性能も高いものから低いものまで品揃えしています。音圧の高い楽器は、ドラム、金管楽器、グランドピアノ等ですが、これらを楽しむには高い防音性能が求められます。しかし、このユニットタイプは「部屋の中に箱型の部屋をもう一つ置く」のですから、住宅のどこに置くかが課題となります。建設業の中には、住宅の部屋をカスタム工事により防音室に変える事業を行っている企業もあります。ユニット型より、部屋のレイアウト面では優れていますが高価となります。新規建設時に防音室を当初から設計に入れておく方法もありますが、これはリフォームとは異なる売り方となります。リモートワーク用途の場合は、企業秘密が漏れない程度の防音性能、さらには情報機器設置のコンセントや通信回線といった要素が重要となります。夫婦がそれぞれリモートワークするような家庭では、複数名利用のための配慮も求められます。製造業の中には、防音機能を持つ超小型住宅を庭などに設置する提案をしている企業もあります。楽器メーカーの部屋に置くタイプより割高となり、郊外の庭が広い住宅地に置くか、企業のプレゼンルームとするかです。防音室事業では、マーケティングの4P、即ち、どのような販売網で、どのような商品を、どのような価格で、どのように売るのかが重要です。良い商品開発がなされても、顧客への訴求方法次第では、販売費をかけた割に売れ行きがイマイチとなることもあります。自社の強い用途(アプリケーション)に関する経験を蓄積し、潜在的なニーズを顕在化させるために、顧客に近いポジションを取る。そのためには、意識の高いパートナーと連携し、必要に応じて自前のマーケティング力を磨き、顧客との接点を増やしていくことが基本となります。提供:税経システム研究所
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2026/08/03 日本経済と世界経済
平和が当然と考える世界は終わった! ~世界は戦前といわれる時代に入った~
1太平洋戦争が終わった後に生まれた自分は、日本は二度と戦争はしないと思って育ってきた。学校でもスイスのような永久平和の国を目指そうと教えられてきた。軍隊も持たず、平和!平和!と念仏のように唱えていれば、平和は維持できるかのように思ってきた。しかし、自分が大学生の時、隣に座ったベトナム人の姉弟から「ベトナムは70年に1回、必ず中国に攻撃された。中国が発展しているときはベトナムは敗けたが、中国が力を失って国民の不満を外に向けようとしてベトナムが攻撃されたときは、ベトナムが中国軍を破った。70年もたつと戦争した人達が死んだり、力を失うから、戦争を止めようとする人がいなくなり、また戦争を繰り返す。ベトナムはいつもその相手とされてきた。」いわゆるアメリカとのベトナム戦争はベトナムの勝利に終わっていたが、次は中国と戦った中越紛争が起きている最中だったこともあり、「ベトナムは常に戦争に巻き込まれていて、太陽が西から昇ってもベトナムに平和は来ない。日本は原爆も投下されて大変な事態になったのに、東京オリンピックも成功して平和を取り戻し、大発展している。」と涙ながらに日本の平和を羨ましがった。その話を聞いて、戦争は自国が起こさなくても、他国からしかけられることがあり、その戦争に敗けないためには一定の防衛力が不可欠だと思った。その後、自分が欧州を回った時に、スイスが永久中立国といわれているのは、ナチスヒットラーがスイスの防衛力の強さと、スイスの地勢上の有利さもあって、スイスを攻めるより、スイスは放っておいて、フランス等を攻撃すべきだと考えたからだと知った。事実、スイスは徴兵制があり、かつ防衛力を備え、各家にはシェルターも義務付けられていると聞いた。日本は島国であったため、中国の元の時代に元の国から攻められた「元寇の役」のみが、日本全体が外国から攻められた経験であり、戦争は日本が起こさなければ戦争は起きないと教えられてきたように思う。2(1)しかし、今世界に起きている現実は明らかに平和の時代とは言えなくなった。ロシアのプーチンが起こしたウクライナ攻撃は、すでに4年半にもなろうとしている。ウクライナ全土が攻撃され、ロシアも最近はモスクワまでウクライナ側が攻撃している。更に、イスラエルとパレスチナのハマスとの戦いは熾烈を極め、ガザ地区へのイスラエルの攻撃は今も続いている。また、イスラエルによるレバノンのヒズボラへの攻撃は、アメリカ、イランの戦争中断後も続いている。(2)イスラエルのネタニヤフ首相にそそのかされたアメリカのトランプ大統領のイラン攻撃は、現在中断しているとはいえ、イランによるホルムズ海峡の封鎖によって、世界の原油市場の大混乱を引き起こしている。(3)アメリカトランプ大統領が昨年11月に公表した「米国国防戦略」では①アメリカは西半球に傾注するので東半球は各国で危機を乗り越えるべしとして、ロシアとEUの問題や、中国とアジアの国々(台湾、日本、韓国等)の問題に米国は関与しないと明言した。②台湾有事には全く触れておらず、中国による台湾併合を容認するかのような内容となっている。③歴史や文明の違う国々において、民主主義を強要しないと中国等の共産主義を容認する内容となっている。(4)この国防戦略を受けて、中国の習近平総書記は台湾有事に軍事上の理由から歯止めをかけてきた張又侠中央軍事委員会副主席等を排除して、台湾併合への軍事的圧力を強め、台湾有事は現実のものとなってきている。実際に台湾人の方々が沖縄等のマンションを購入して、台湾が香港のような状況になった時に備えて、亡命する準備を始めだしている。(5)また、西半球に傾注するとしたアメリカはベネズエラのマドゥーロ大統領を攻撃して拘束し、ベネズエラに親米政権をつくってきている。そのため、キューバへのベネズエラからの石油輸出がストップし、キューバもアメリカからの圧力で経済は全くマヒ状態になってきている。(6)アメリカの国防戦略でロシアとの対立は自ら防衛すべしとされたEUは各国にGDP比5%の国防費を義務づけた。財政均衡を至上命題としてきたドイツも、国防費については財政均衡の例外を認める憲法改正を行い、国民に対して徴兵制を再開した。この徴兵制はウクライナ同様、18歳以上の徴兵年齢に達すると、海外にいる方々も帰国して、徴兵を受けねばならないというものだ。韓国のような海外にいれば徴兵義務は免除されるというものではない。以上のように、世界中が戦争に向けて動き出し始めた。まさに太平洋戦争から81年、世界はまた戦争の時代に入った。3日本は紛争地から離れ、平和を享受してきたために、こうした世界情勢をあまり理解していないようだ。ベトナム人が言うように、ベトナムの歴史を見れば70年に1回は戦争は起きているのだ。相手国から攻められた時も、戦争に踏み切るには「勝利」ないしは「敗戦しないという姿」が見えてなければ戦争はやってはならない。そのために一定の国防力は必要だし、相手国も戦争をしかけても意味がない、あるいは、時間と軍費をついやすだけの価値がないと思わせるだけの準備は必要だ。まさにスイスが永久平和と言い切れるのは、それだけの準備をしているからだ。しかも、日本は狭い国土に人口が1億2千万人以上もいて、平和で世界と自由貿易をしなければ国民を養っていけるはずがない。以前、ベトナム歴史学者が太平洋戦争について語っていた。「日本は江戸時代まで鎖国でいたので、日本の人口は3千万人余であった。しかし、その後日本は開国し、世界の国々と貿易をしたので人口は急増し、太平洋戦争直前には7千800万人にもなった。自由貿易でなかった当時、日本の国土だけではその人口を養うことはできず、満州等へ侵出しなければならなかった。間違ったのは中国はプライドの高い国だから、戦争で勝って満州をとったのがまずかった。勝っても謝りに行ってお金で満州等を割譲してもらえばよかった。」確かに日本は人口急増の下で、日本人を養っていく必要があったのは事実だと思った。太平洋戦争後7千300万人になった日本は、国土の狭さからブラジル移民等を行ったが、自由貿易が拡がることにより、国土を拡げずとも1億2千800万人にも増加した。今は、少子高齢化で1億2千300万人と減少してきているが、この人口も自由貿易なしには成り立たない。したがって、日本は平和と自由貿易なくしては成り立たない国なのだ。米国や中国、インドのような大国は自由貿易なくしても何とかやっていけても、日本をはじめベトナム、タイ、ヨーロッパ各国等は平和と自由貿易によって成り立っていることを忘れてはならない。世界が戦争の時代に入っても、日本が平和を追求し、その仲間を増やしていかねばならないのは、その国土と人口との関係を見れば明らかだ。もはや、世界はいわば戦前の状態になっているという現実を直視する必要がある。提供:税経システム研究所
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2026/07/31 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】中小企業経営力強化税制の概要紹介と地方公共団体の補助金のご紹介をいたします。近くまた金利が上がると言われています。融資残高のある企業には直接コスト負担が乗ってきます。それにも関わらず金融機関の融資姿勢はおおむね絞られつつあり、新しい融資資金の調達はそう簡単ではなくなりつつあります。社会保険料や税金等もスムーズに軽減される見通しは明るくなく、消費税率の軽減も食品等のみと言われています。そのことで打撃を受ける業種もあるといわれています。重税感の結果税収は上振れしてきました。しかし税金の余剰をクイックに還元調整する動きも見られていません。私が取り上げてきている補助金も、申請の難解さ煩雑さに加え、補助金予算の大半が委託先に支払われていることで(持続化給付金の件で公正取引委員会が調査)グレー感が強くなっています。これまでは、経済産業省の企業向け補助金についてレポートしてきましたが、補助金は地方公共団体でも出されています。企業と個人両方が受給できるものもあります。今回は少し補助金の視野を広げてご紹介しています。(1)2026年度の経済産業省の企業向け補助金傾向「デジタル化・AI導入」「省力化・省エネ投資」「住宅の断熱改修」を強力に支援する補助金が中心です。特に賃上げと生産性向上を目的とした設備投資に対するサポートに重点が置かれています。補助金の課題は申請の難解さ煩雑さ、採択率でしたが、それを懸念される企業では、「中小企業経営力強化税制」による即時償却を活用し、法人税を軽減する手段が多く使われています。(2)中小企業経営力強化税制特色のひとつに「ソフトウエアの導入投資」の一括即時償却があります。「中小企業経営力強化税制」とは、対象設備を導入する際、一定の手続きを踏むことで、設備投資費用を初年度一括で即時償却できる税制です。(出典:角倉税理士資料抜粋)①生産性向上設備(A類型)の場合1)対象設備の要件は、1:一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はありません)2:経営力の向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度など)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備(※)※ソフトウェアについては、情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの2)生産性向上設備(A類型)の税制活用手続き①設備ユーザーは、当該設備を生産した機器メーカー等(以下「設備メーカー」)に証明書の発行を依頼してください。②依頼を受けた設備メーカーは、証明書(様式1)及びチェックシート(様式2)に必要事項を記入の上、当該設備を担当する工業会等の確認を受けてください。(注)設備の種類ごとに担当する工業会等を定めております。詳しくは中小企業庁ホームページご参照。http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/③工業会等は、証明書及びチェックシートの記入内容を確認の上、設備メーカーに証明書を発行してください。④工業会等から証明書の発行を受けた設備メーカーは、依頼があった設備ユーザーに証明書を転送してください。⑤・⑥設備ユーザーは、④の確認を受けた設備を経営力向上計画に記載し、計画申請書及びその写しとともに④の工業会証明書の写しを添付して、主務大臣に計画申請します。主務大臣は、計画認定書と計画申請書の写しを設備ユーザーに交付します。⑦・⑧認定を受けた経営力向上計画に基づき取得した経営力向上設備等については、税法上の他の要件を満たす場合には、税務申告において税制上の優遇措置の適用を受けることができます。税務申告に際しては、納税書類に④の工業会証明書、⑤の計画申請書及び⑥の計画認定書(いずれも写し)を添付してください。3)中小企業経営力強化税制申請等の問い合わせ先(3)各地方公共団体の補助金例地方公共団体の補助金は、主に市民生活に関係するものの導入補助を念頭に置いています。筆者が28歳でコンサルティング会社を退職し、メーカーで独立した際には年収が1/10に低下し、乳児を抱えていたこともあって、最低限の生活維持のために地方公共団体の補助金をフル活用した経験があります。昇給賞与が思うように実現できない企業では個人向けの補助金受給を促進されることは従業員にとって助けになります。地方公共団体によっては中小企業向け補助金や補助制度があるところも多くあります。たとえば、名古屋市では独自に「小規模事業金融公社」https://nb-fun.jp/を持っており、独自創業する事業者や一般の中小企業事業者に資金を貸し付けてくれる機能があります。また、大阪府では今年度「利益率向上賃上げ支援事業」としてDX化による自動化推進の設備投資を補助しています。1)住宅・リフォーム向け補助金政府は2050年カーボンニュートラル実現等に向けて、「住宅省エネ2026キャンペーン」と呼ばれる4つの支援事業を実施することにしました。以下それぞれに補助金があります。住宅省エネ2026キャンペーンみらいエコ住宅2026事業先進的窓リノベ2026事業給湯省エネ2026事業賃貸集合給湯省エネ2026事業先進的窓リノベ2026事業:既存住宅の窓を高断熱窓へ改修する費用を支援(1戸あたり最大100万円)。給湯省エネ2026事業:エコキュートなどの高効率給湯器への交換を支援。みらいエコ住宅2026事業:断熱改修や省エネ設備の設置などをサポート(最大100万円)。2)生活支援型の補助制度6月末締め切りの主な地方制度福岡市「燃料費等高騰の影響を受けた事業者支援」(事業者向け)東京都町田市「物価高騰対策事業者給付金」(事業者向け)大阪府岸和田市「物価高騰重点支援給付金」(必着)東京都世田谷区「物価高騰生活支援給付金」(消印有効)国「物価高対応子育て応援手当」※申請が必要な方(八王子市・町田市・世田谷区など。期限は自治体により異なり、すでに終了した自治体もあります)(4)まとめ補助金のレポートを発表する際に、経産省の補助金ついて使い勝手の悪さを毎回執拗に説いてきました。今回はその使い勝手の悪い制度よりもシンプルで資金繰りに活用しやすい制度として、「設備投資の即時償却」に関する税制の活用と地方公共団体の補助金についてご紹介しました。環境変化があっても、自社に逆風が吹いても、企業は前に進んでいかねばなりません。そのためには情報に敏感になり、乗り切る方法を柔軟に考え知恵を絞ることが必要になります。経営者の講演会講師をさせていただき、懇親会に参加しますと、不平不満のご主張をどちらでも伺います。当事者のストレスは当事者にしかわからない強いものです。ただ、冷静に言いますれば、そこから生まれるものは少しばかりストレスが緩和される程度で、なんらストレスの原因を解決することつながりません。ストレスの原因解決に関連することを研究レポートで少しでも提示できればという思いでおります。また、ストレスフルな環境がチャンスだと、後継の若手経営者が突き抜けられ、急激な成長軌道に乗せていかれる企業も少なからず存在することを知っております。ただそれらの企業は資金余力がある程度あり、長期視野で前を向ける条件があるという場合が一般です。生き残るために全力を尽くさねばならない企業がまた増えている中で、まずは存続確保をしっかり固めていきたいと思います。提供:税経システム研究所
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2026/07/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(224)
1.はじめに近年のAIの進化はめざましいものがあります。日常生活や仕事を進める上で、利用している方も多いのではないでしょうか。これまでであれば、何かわからないことや調べ物をするために、Googleなどの検索サイトに検索ワードを入れ、さまざまなサイトを渡り歩いてようやく結論を得ていたのに、今やAIに自分が求めていることを指示すれば、一応もっともらしい回答がほんの数秒から2、3分もあれば返ってくるようになっています。業務の中でも、資料作りや会議の議事録作成など、これまで時間をかけて対応していた業務が大いに効率化された…といった身近なところだけでなく、AIを労働の担い手として、これまで人が担ってきた業務を代替するような革新的な技術が次々と登場してきています。このようなAIの進化を含む、企業のDX化が進むに伴って仕事の進め方が変わり、従業員には新たな知識や能力が求められるようになってきました。このような背景から、近年はリスキリングやキャリアアップへの関心が、労使を問わず高まっています。国も各省庁が連携して「学び・学び直し」に取り組むことができるよう、各種支援策を提供しています。業務に関連する資格取得を支援する制度を用意している企業も多くみられます。従業員の能力向上やキャリア形成を後押しするだけでなく、業務品質の向上や離職防止、新規採用を行う際のアピールポイントとしてなど、企業にとってもメリットの多い施策のひとつといってよいでしょう。今回は資格取得支援制度を運用していく際のポイントについて考えてみます。2.資格取得支援制度とはどのようなものか国内には「国家資格」として認められているものが300以上、民間資格を含めるとこれを超える相当な数の「資格」とされるものが存在します。資格取得支援制度とは、企業が業務上必要とされる資格を従業員が取得する、または取得した場合に、主に金銭面で支援する制度のことです。その資格がなければそもそも業務に携わることができないものや、資格があることで、確かな知識・技術などが裏付けられるといったものまでさまざまですが、曲がりなりにも、業務に関連し、役立つレベルの資格となれば、それなりに難易度は高いと考えられますし、それを取得するには何かとお金がかかるものです。資格取得支援制度(以下「制度」)は資格取得に係る従業員の金銭的な不安・負担を支援していく制度であるわけですが、多くの場合、以下のような形で具体的な支援が行われているようです。【資格取得支援制度の代表的な例】資格取得費用の一部または全部を負担する資格取得後に報奨金を支給する資格取得後、毎月の賃金において資格手当を支給するでは、この制度により企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。3.資格取得支援制度による企業のメリット・デメリット制度により、企業が得られるメリットとしては以下のようなものが挙げられます。1.従業員のスキルアップやモチベーションアップ資格を取得するためには、試験や検定に向け、自発的に学習や訓練をしなければなりません。制度を利用するとなれば、基本的には、事前に企業に対し、費用負担を求める申請が必要となります。対外的に資格にチャレンジすることを公言するわけですから、自ずとその準備には真剣味が出るものです。それらの学習や訓練を通じ、従業員のスキルアップが期待できます。また、めでたく資格取得できれば、それが従業員自身の自信につながり、仕事へのモチベーションアップにもつながりますし、毎月の資格手当などは企業への定着につながるインセンティブとなり得ます。2.自社の生産性向上資格取得により従業員のスキルレベルが1ランクも2ランクもアップしてくれれば、それは自社の生産性や業績の向上に間違いなく資することになります。3.採用の際のアピールポイントとなる新規・中途を問わず、採用の際に「従業員の資格取得を積極的支援している」姿勢を明確に打ち出すことは、求職者に対し「人材育成に力を入れている」「自身のキャリアアップにつながる」などを訴求することにつながり、他社との差別化をアピールするポイントになります。一方で、制度の存在によるデメリットも忘れてはなりません。1.支援のためのコスト増資格取得を金銭面で支援するのがこの制度の根幹ですので、それなりのコスト増は覚悟しなければならないでしょう。支援で負担したコストは先述のメリットを将来的に受けるための投資と考えれば、必ずしもデメリットといえるものではないのかもしれません。2.資格取得後、早期に退職されるリスク制度を利用し、めでたく資格取得に至った後、程なくして退職を申し出るケースも散見されています。支援したコストが無駄になるだけでなく、取得した資格を活かして同業他社に転職し、自社を脅かす存在にならないとも限りません。後述しますが、何らかの対策を備えておきたいところです。これらを踏まえて、制度を策定・運用するためには、どのような点を考慮していけばよいのでしょうか。4.資格取得支援制度を策定・運用するためのポイントは?制度を導入しさえすれば、従業員が積極的に利用し資格にチャレンジしてくれる…といった単純な話ではありません。実際、制度を作ったものの、あまり利用されずに形骸化してしまっているケースも少なくはないのです。労使ともにwin-winとなる制度にするためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。1.制度の対象となる資格の選定先述の通り、国内には多くの「資格」が存在しますが、企業としては、自社の業務に直結する資格を取得する従業員を支援したいのは当然のことです。全社員に取得を奨励する資格、部署単位で奨励する資格など、業務との関連を十分に吟味して、支援対象とする資格を選定しましょう。2.早期退職されるリスクへの対策資格取得後の早期退職リスクへの対策は最大の課題とも考えられます。この場合、支援した費用の全部または一部でも返還させたくなるものですが、事はそう簡単には運びません。例えば、「資格取得後○年以内に自己都合で退職した場合、支援した費用は返還しなければならない」のような条件は、労働基準法第16条に定める「違約金と賠償予定の禁止」に該当する可能性があり、実際に類似の規定が無効とされた判例も存在しています。(富士重工事件H10.3.17東京地裁)早期退職に伴い、支援費用の回収が困難なることを避けるため、支援費用を「支給」するのではなく、労使合意のもとで「貸付」し、一定期間の勤続を条件に、返済を段階的に免除する方式を採用している企業もあります。この方式は、「支援費用として貸し付けられた金銭は、返済を原則とするが、資格取得後一定期間勤続した場合は返済を段階的に免除する(例:1年勤続ごとに30%免除、3年勤続で全額免除)」のような形です。この方式については労基法16条に抵触しない可能性が高まるものとされています。資格取得支援としては、金銭的な支援もさることながら、資格取得に向け、学習しやすい体制を整えることもサポートの一種と考えられます。最近では、eラーニングの時間を確保したり、スマートフォンで学習できるアプリを提供することにより、場所を問わず効率的な学習ができるようにしている例もあります。資格取得は一部の特別な従業員だけのものではなく、誰でもチャレンジすることが当たり前と思えるような社内の雰囲気を醸成していきたいものです。提供:税経システム研究所
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