経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2026/06/30 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第24回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で中学受験の学習塾を計5教室運営している中小企業です。長年、大手学習塾にはないアットホームな雰囲気で受験生を確保してきましたが、ここ数年、広告を打っても集客が難しくなってきました。個別指導に力を入れていますが、大手も同様の取り組みをしており、競争が厳しいです。少子化が進む中で、生き残るにはどのように経営戦略を策定すべきでしょうか。■少子化の下での経営図118歳人口の推移「(出典:文科省資料)周知の事実ですが、受験生人口は図1に示されている通り減少を続けています。図1は大学受験の18歳人口ですので、御社の得意とする中学受験の12歳市場は、この図を6年右にシフトさせたものとなります。今年はわずかに18歳人口の増加が見られます。これは1990年前後に200万人超えであった団塊ジュニアの方々のお子さん達が辛うじて100万人超えをしているということです。図1から、中学受験生の12歳人口は3-4年後に急減していくことがわかります。その時に、中学校も、中学受験のための進学塾も淘汰が進みますので、御社にとり改革の時間は限られていると言えるでしょう。図1は、2040年あたりから18歳人口の減少は鈍化するという予測になっていますが、実態はもっと厳しいものとなると思われます。47都道府県で、東京都は中学受験率が20%超え、大阪府は10%超えです。東京都内でも50%近い区もあり、地域差が大きいようです。一方、大阪府で始まった「高校無償化政策」は国の政策となりました。先行する大阪の状況を見ると、高校無償化すると公立高校の定員割れが増えているようです。受験指導に熱心な私立高校が好まれる状況です。私立高校は中高一貫化する傾向がありますので、子供は減るのですが、中高一貫校の中学受験率は上昇するでしょう。■教育産業のビジネスモデル表1株式会社KADOKAWAの売上・利益の内訳(2026年3月期)KADOKAWAは元々出版社ですが、表1に示されている通り、利益ではゲーム事業への依存度が高くなっています。一方、近年伸びており、収益力も高い教育事業に注目が集まっています。通信制のN高校やZEN大学が教育事業の中核となっています。実は、わが国では通信制高校在籍者の比率は上昇しており、さらにN高校等の修了者の一定比率が出来立てのZEN大学に入学しているのです。民間企業らしいマーケティング力を感じる事業展開です。通信制高校には、いじめにあったといった理由で進学する方もいますが、スポーツや芸術に全力で取り組みたいという理由で通学制の高校を選ばないという学生もいるのです。イタリアに音楽留学中の学生が、インターネット経由で、通信制高校にて高卒資格を取ろうと勉強している事例もあるようです。オリンピック出場選手も海外遠征が多い場合は、通信制高校を選ぶ事例を耳にしたことがあります。このように、少子化の中でも伸びている教育分野に進出するという戦略もあるのです。大手学習塾の明光ネットワークの売上・利益については表2に示されている通り、塾の直営事業とFC事業が利益の大半を占めています。塾事業では、マスプロ教育と家庭教師の中間のポジションとして、「個別指導」という教師一人に生徒複数名で稼ぐ方式を確立しています。この企業は今、少子化の流れの中で、人材事業を伸ばそうとしています。日本語学校事業で外国人との関係性を強化し、外国人学生達を企業にマッチングするというサービスに力を入れています。表2のその他に含まれる人材事業は、今のところはセグメント利益を見る限り、塾事業のように稼ぐことが出来ていません。しかし、塾事業に力がある間に、人材事業の比率を高めようとする戦略を打ち出しています。表2株式会社明光ネットワークジャパン売上・利益の内訳(2025年8月期)塾産業は、激しい受験競争を勝ち抜かねばならない人が多いかどうかが事業環境として重要です。10年後には、多くの中学、高校、大学で入試が容易化するか、統廃合する状況が予測されます。趣味や部活を楽しんでいても、ぜいたくを言わなければ大卒になることが出来る時代が来ようとしています。この手の人向けの塾市場は急速にシュリンクしていく可能性が高いと思われます。一方、初等教育、中等教育については日本のレベルは高いと言われています。教育熱心な家庭の場合、そこから高等教育機関をどのように選択するかです。JAZで有名な上原ひろみさんは、ヤマハの音楽教室で作曲とピアノ演奏の技術を身に着け、バークリー音楽院に留学し、最優等で卒業しています。大谷翔平選手が高校時代からMLBで活躍することを目指していたのは有名な話ですが、近年は灘高からスタンフォード大学等を目指すような秀才も増えつつあるようです。一部の名門中高への入試もある程度の競争は残るでしょう。公文式は、グローバルに事業展開し、教材販売を行い、進学校の高校も保有しています。ロジカルな経営戦略が見られます。中堅の塾では、芸能学校を持っている国大セミナーのような事例もあり、小さい塾では、医学部入試や慶応幼稚舎入試にフォーカスしたところも生き残っています。子供の教育投資にお金を喜んで出す教育熱心な家庭のニーズをとらえ、教え子の中からロールモデルを生み出し、ブランドを確立する。それが、生き残るための御社のオーソドックスな戦略となります。■御社の経営戦略の体系表3御社の経営戦略の体系1.個別指導の差別化教員の質と指導方法2.市場細分化既存事業+α3.バリュー価格基本料金+α4.新事業開発,M&Aシナジー+ICT御社の今後の経営戦略は、表3の通りにまとめることが出来ます。教育を提供する企業から、教育熱心な家庭へのソリューションプロバイダ―への転換を遂げていくことが生き残る戦略の核となります。1.既存の塾事業は、個別指導路線を踏襲しつつも、中核教員の質を向上させ、指導方法(メソッド)にウリを作ることが重要です。個別指導を実践する場合、大手と同じ土俵に立つことになりますので、小回りを利かせることが重要となります。マスプロ教育と家庭教師の間で、より家庭教師に近いポジションを目指すこととなります。顧客のうち、教育熱心な家庭の子弟の比率を向上させることがKPIとなります。「取りあえずどこかの大学に将来入れればよい」という顧客層からの脱却が必要となります。2.既存事業の個別指導でキャッシュを稼ぎつつ、5教室のうち一部を+αとして、新しいサービスに取り組むのです。教育系ベンチャーと資本業務提携するような方法も考えられます。3.固定費の大きな大手とすみ分ける基本メニューに、教育熱心な家庭に魅力的なオプションでカスタマイズする料金体系とするのが標準的な考えとなります。4.M&Aについては、既存事業でキャッシュを稼ぐことが出来るICT系の企業がまずは考えられます。そもそも、教育はプログラム化出来るコンテンツであり、メソッドをICTにより確立していくことでシナジーが得られます。組む相手としては、a.M&Aによる統合、b.マイナー出資による協業、c.業務提携による連携、の三通りの方法があります。相手があることなので、ケースバイケースで検討していくこととなります。提供:税経システム研究所
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2026/06/30 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第16回) 「定年退職後の継続雇用1」
【サマリー】前回までのレポートでは、有期雇用契約における雇止めの法理について、主要判例や労働契約法19条を中心に整理してきました。形式上は契約期間満了によって雇用関係が終了する有期契約であっても、契約更新が繰り返されることにより労働者に雇用継続への合理的期待が生じている場合には、雇止めが解雇と同様に厳しく審査される可能性があることを確認しました。もっとも、雇用継続をめぐる問題は、有期雇用契約の雇止めに限られるものではありません。企業実務では、従業員が定年を迎えた後に、どのような条件で再雇用するのか、再雇用を希望する者に対してどのような職務や労働条件を提示すべきか、また、再雇用をしないことが許されるのかといった問題も、重要な労務管理上の課題となります。そこで本レポートでは、定年後の再雇用をめぐる企業の法的義務と実務上の留意点について、高年齢者雇用安定法の概要を整理するとともに、裁判例を踏まえながら解説します。1.高年齢者雇用確保措置の基本構造高年齢者雇用安定法は、企業に対し、少なくとも65歳まで安定して働く機会を確保することを求めています。具体的には、定年を65歳未満に定めている事業主は、65歳までの定年引上げ、65歳までの継続雇用制度の導入、または定年制の廃止のいずれかの措置を講じなければなりません。●高年齢者雇用安定法第9条(義務)<対象者>定年年齢を65歳未満に定めている事業主<対象となる措置>次の①~③のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)①65歳までの定年の引上げ②65歳までの継続雇用制度の導入③定年の廃止かつては労使協定で対象者を限定する基準を設けることが認められていましたが、その仕組みは段階的に廃止され、2025年4月以降は経過措置も終了しましたので、現在は、原則として希望者全員を対象としなければなりません。いずれかの措置のうち、多くの企業で採用されているのが継続雇用制度です。継続雇用制度には、定年到達者をいったん退職させたうえで新たな労働条件により雇用する再雇用制度と、退職させず雇用関係を継続する勤務延長制度があります。実務上は再雇用制度が多く用いられますが、再雇用だからといって企業が自由に条件を設定できるというわけではありません。もっとも、希望者全員を対象とするということは、あらゆる者について、いかなる事情があっても必ず再雇用しなければならないという意味ではありません。就業規則上の解雇事由または退職事由に該当するような重大な問題がある場合には、継続雇用の対象外となり得ます。ただし、その判断は個別具体的な事情に基づき、客観的・合理的に説明できるものでなければなりません。企業実務で問題となりやすいのは、制度上は希望者全員を対象としているように見せながら、実際には職務内容、賃金、勤務場所、勤務日数等の条件を著しく不利に設定し、本人が再雇用を希望しない方向へ誘導するようなケースです。このような運用は、形式的には再雇用の機会を提示していても、実質的には雇用確保措置を潜脱するものと評価される危険があります。そのため、高年齢者雇用確保措置を検討する際には、「制度があるか」だけでなく、「本人が現実に就労を継続できる内容になっているか」「条件の決定過程を合理的に説明できるか」という観点から確認する必要があります。定年後再雇用は、単なる福利厚生ではなく、法律上の雇用確保措置として位置づけられる点を押さえておく必要があります。2.継続雇用制度と「雇用期待権」継続雇用制度をめぐる紛争では、定年後に再雇用契約が成立しているといえるか、または、労働者が雇用継続を期待することに合理的な理由があるかが問題となります。定年により正社員としての雇用契約はいったん終了します。しかし、会社に継続雇用制度があり、本人が再雇用を希望し、会社も具体的な労働条件を提示している場合には、やり取りの内容次第で再雇用契約の成立が認められる可能性があります。また、契約成立までは認められない場合であっても、労働者に雇用継続への合理的な期待があったとして、一定の法的保護が認められることがあります。ここで重要なのは、継続雇用制度は、会社が任意に行う恩恵的な制度ではないという点です。そのため、定年後も働くことを希望する従業員に対し、会社が合理的な理由なく再雇用を拒否することは、法の趣旨に反する対応として問題となります。また、雇用継続への期待が認められるかどうかは、就業規則や再雇用規程の文言だけで決まるものではありません。会社が本人にどのような説明をしていたか、これまで定年後再雇用をどのように運用してきたか、同じような立場の従業員をどのように扱ってきたか、本人との面談でどのようなやり取りがあったかなどが、総合的に判断されます。例えば、これまで定年到達者の多くが再雇用されていた場合や、会社が本人に対して「定年後も引き続き働いてもらう」といった説明をしていた場合には、労働者が定年後も働けると期待することには、一定の合理性があると評価されやすくなります。一方で、会社が継続雇用制度の内容をあらかじめ明確に説明し、再雇用後の職務内容、賃金、契約期間、更新基準などを事前に示していた場合には、労働者が期待できる範囲も、その説明内容に限定されやすくなります。したがって、企業としては、定年直前になって突然再雇用条件を提示するのではなく、定年前の相当期間前から、制度の説明、本人の意向確認、労働条件の提示、合意形成という流れを丁寧に進めておくことが重要です。3.再雇用条件の変更範囲再雇用後の条件については、賃金減額や職務変更が直ちに違法となるわけではありません。定年後は役職定年や責任範囲の縮小、勤務日数の変更などが予定されることも多く、それに応じて賃金が下がること自体は一般的にあり得ます。定年前の労働契約と定年後の再雇用契約は、法的には別個の契約として整理されるため、労働条件が当然に維持されるものでもありません。しかし、賃金や職務の変更には合理的な説明が必要です。特に、定年前と同程度の職務を担当させるにもかかわらず賃金だけを大幅に下げる場合や、本人の経験・能力と著しくかけ離れた職務を提示する場合には、制度の趣旨との関係で問題となります。賃金水準を決定する場合には、定年前の基本給との比較だけでなく、定年後の職務内容、責任の程度、所定労働時間、勤務日数、配置転換の有無、賞与や手当の支給基準を総合的に整理する必要があります。単に「定年後は一律に何割減」とするだけでは、職務や責任との対応関係が不明確となり、本人の納得を得にくいだけでなく、紛争時にも合理性の説明が難しくなります。また、短時間・有期雇用労働者として再雇用する場合には、いわゆる同一労働同一賃金の観点も無視できません。正社員と再雇用者との間で待遇差を設ける場合には、その待遇差が職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に照らして不合理でないことを説明できるようにしておく必要があります。4.職種変更の限界と賃金の関係高年齢者雇用確保措置における職種変更の限界を考えるうえで参考になるのが、定年後再雇用において、会社が提示した業務内容と賃金水準の適法性が問題となった事案、「トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決)」です。当時、会社は、一定の基準を満たす者については、定年前の年収の約59%程度となる再雇用制度を用意していましたが、当該従業員はその基準を満たさないと判断されました。そのため、定年退職者全員が対象となる別の再雇用制度として、年収127万円、すなわち再雇用前の年収と比較して約13%の水準となる労働条件を提示しました。業務内容は、シュレッダー機のゴミ袋交換、再生紙管理、業務用車の清掃、フロア内の棚やロッカーの清掃などであり、定年前に従事していた事務職とは大きく異なる清掃業務でした。労働者はこの条件を受け入れず、再雇用契約は締結されませんでした。そのため、会社の提示した再雇用条件が、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するものかどうかが争われました。まず、業務内容について、裁判所は、定年前の事務職と、再雇用後に提示された清掃業務とは、まったく別個の職種に属する性質のものであると評価しました。そのうえで、このような業務内容を提示することは、実質的には再雇用を困難にするものであり、高年齢者雇用安定法の趣旨を潜脱するものとして、違法であると判断しました。一方で、賃金額については、裁判所は異なる判断を示しました。本件で提示された年収127万円は、再雇用前の年収と比較すると約13%にとどまり、言い換えれば約87%の大幅な減額です。しかし裁判所は、この賃金水準について、老齢厚生年金の報酬比例部分である148万7,500円の約85%に相当する金額であり、無年金・無収入期間の発生を防ぐという高年齢者雇用安定法の趣旨に照らすと、直ちに「到底容認できないような低額」とまではいえないと判断しました。企業実務においては、この点が重要です。定年後再雇用では、賃金が定年前より下がること自体は、職務内容、責任の範囲、勤務時間、年金受給との関係などを踏まえれば、一定程度許容される場合があります。しかし、業務内容については、本人の従前の職務、能力、経験、健康状態、会社内における配置可能性などを踏まえ、合理的な範囲内で設定する必要があります。特に、定年前の職務とまったく異なる業務を提示する場合には、その必要性や合理性を説明できることが重要です。単に「基準を満たさないから」「全員対象の制度だから」という理由だけで、本人の経歴や能力と大きくかけ離れた業務を提示すると、形式上は再雇用条件を示していたとしても、実質的な再雇用拒否と評価されるおそれがあります。いずれにしても企業としては、定年後再雇用の条件を提示する際、職種を大きく変更する場合には、その変更が本人に対する不利益取扱いや再雇用回避目的と受け取られないよう、慎重な対応が求められます。5.70歳までの就業機会確保と制度設計65歳までの高年齢者雇用確保措置が法律上の義務であるのに対し、70歳までの就業機会確保措置は努力義務として位置づけられています。70歳までの措置には、70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入のほか、業務委託契約を締結する制度や、社会貢献事業に従事できる制度を設けることも含まれます。●高年齢者雇用安定法第10条の2(努力義務)<対象事業主>定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主<対象となる措置>次の①~⑤の措置(高年齢者就業確保措置)を講じるよう努める必要があります。70歳までの定年引き上げ定年制の廃止70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入事業主が自ら実施する社会貢献事業事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業④、⑤については過半数労働組合等の同意が必要努力義務であるため、65歳までの措置と同じ意味で希望者全員を雇用しなければならないわけではありません。ただし、対象者を限定する基準を設ける場合であっても、会社が恣意的に一部の高年齢者を排除するような基準や、性別、組合活動、上司の推薦の有無など不合理な基準は避ける必要があります。70歳までの制度についても、法の趣旨に沿った公平で説明可能な基準を設けることが重要です。今後は、人手不足や熟練人材の確保という観点からも、70歳までの就業機会確保をどのように制度化するかが重要になります。全員を同じ条件で雇用する発想ではなく、短時間勤務、専門業務への配置、後進指導、顧問的役割、業務委託など、複数の選択肢を用意し、本人の能力や希望、会社のニーズに応じて組み合わせることが望ましいといえます。6.企業実務で整備すべきポイント第一に、就業規則や再雇用規程において、継続雇用制度の対象者、申出手続、労働条件の決定方法、契約期間、更新基準を明確にしておく必要があります。特に「会社が必要と認めた場合に限る」といった包括的な裁量条項は、希望者全員を対象とする制度との関係で問題となるため、見直しが必要です。第二に、再雇用後の職務と賃金の対応関係を説明できるようにしておくことが重要です。定年前の役職や職責がなくなること、勤務日数が減ること、担当業務が軽減されることを理由に賃金が下がるのであれば、その理由を制度上も面談上も説明できる形にしておくべきです。第三に、本人の希望を確認する手続を早めに開始することです。定年の数か月前から面談を行い、就労希望の有無、希望する勤務日数、健康面の配慮、職務上の希望を確認しておくことで、会社側も配置を検討しやすくなります。結果として希望どおりの職務を用意できない場合でも、検討過程を残しておくことが紛争予防につながります。第四に、定年後再雇用の労働条件通知書や雇用契約書では、職務内容、就業場所、所定労働時間、賃金、契約期間、更新の有無、更新基準を具体的に記載することです。特に職務内容を「会社の定める業務」とだけ記載すると、本人が想定していた業務とのずれが生じやすいため、可能な限り具体化しておくことが望まれます。管理職への周知も重要です。制度上は適切な内容であっても、現場の管理職が「定年後だからどのような仕事でもよい」「賃金を下げるのは当然」といった説明をしてしまうと、本人の不信感を招きます。制度の趣旨、説明すべき事項、言ってはいけない表現、面談記録の残し方について、管理職向けの運用マニュアルを整備しておくことが望ましいといえます。実務上は、制度の内容が正しくても、運用過程が粗いことにより紛争化することがあります。特に定年後再雇用では、本人の生活設計、年金、健康状態、家族の事情などが関係するため、会社側が一方的に条件を通知するだけでは納得を得にくくなります。定年前の一定時期から面談を行い、本人の希望と会社の配置可能性をすり合わせる手続を制度化することが重要です。7.まとめ高年齢者雇用確保措置は、単に再雇用制度を設けておけば足りるものではありません。希望者全員を対象とする制度になっているか、提示する労働条件に合理性があるか、職務を変更する場合に相当な理由があるか、本人への説明や面談記録が残されているかが、実務上の重要な確認ポイントとなります。トヨタ自動車事件が示すように、賃金の引下げ自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、会社が形式的に再雇用条件を提示していたとしても、その内容が実質的に継続雇用の機会といえない場合には、高年齢者雇用安定法の趣旨に反する対応と評価される可能性があります。特に、定年前の職務と大きく異なる業務を提示する場合には、その必要性や合理性を丁寧に説明できる状態にしておく必要があります。また、高年齢者雇用をめぐるトラブルは、法律上の不備だけでなく、説明不足や記録不足から生じることも少なくありません。規程だけを整えても、個別面談や契約書の内容が不十分であれば、紛争リスクは残ります。一方で、個別対応だけに頼ると運用が属人的になり、公平性を欠くおそれがあります。そのため、「制度設計」「個別説明」「記録化」を一体として整備することが大切です。今後は、65歳までの雇用確保措置を確実に実施するだけでなく、70歳までの就業機会確保も視野に入れた制度整備が必要になります。特に、2025年4月以降は、65歳までの継続雇用について希望者全員を対象とする運用が全面的に求められています。過去に作成した再雇用規程をそのまま使い続けている企業では、対象者を限定する旧制度の基準が残っていないか、現行法とのずれがないかを確認し、必要に応じて早急に見直すべきです。次回は、定年後の再雇用に関する重要判例をいくつかご紹介します。提供:税経システム研究所
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2026/06/17 日本経済と世界経済
「台湾有事」に揺れる日本
※本レポートは、2026年3月時点の情報をもとに執筆しています。1米国の国家防衛戦略昨年の11月にアメリカの友人から連絡が入った。トランプ政権の「防衛戦略」が策定され、米国は西半球から中国やロシアの影響力を排除することに傾注するという内容だとの由だった。早速、「国家防衛戦略」の概要をチェックしたところ、驚きの事実が判明した。その概要は次のようなものだった。①米国は西半球に専念するので、東半球はそれぞれの地域、国で防衛するようにして欲しい。(台湾と中国の問題は全くふれておらず、中国に対して台湾問題には米国は関与しないというシグナルを送るものと受けとめられかねない内容であった。また、ロシアとウクライナ問題もEUやイギリスがロシアとの間で解決すべきものと受けとめられるため、EU各国は防衛費を対GDP比5%にまで引き上げる決議をすることになった。)②米国は伝統や歴史の異なる国に対し、民主主義や社会変革を押し付けない。(これは、中国や北朝鮮のような独裁主義の国々にも、民主主義を強要しないと宣言しているものであり、従来の「民主主義」を旗印にしてきた米国とは思えぬ一文であった。)こうしたことから官邸サイドもこの戦略に驚き、トランプ政権に対して、東半球特に東アジアにおける台湾・中国問題から手を引くことのリスクを、明確な形で伝える必要があると考え始めたのではないかと思われる。高市首相の台湾有事の答弁も、こうした米国の対応に対する懸念があったためと思われる。2中国において習近平国家主席が、中央軍事委員会副主席張又侠氏を排除従来、中国では共産党は習近平氏が掌握し、軍部は張又侠氏が掌握していると言われてきた。もともと、中国は鄧小平氏が中国共産党青年団出身の幹部の中から国家主席を選ぶというルールを作り、その第1人目が胡錦濤元国家主席であったが、鄧小平氏が健在の頃は胡錦濤氏は若すぎたため、とりあえず、共産党青年団出身ではない江沢民氏が国家主席につき、その後を胡錦濤氏が継いだ。江沢民国家主席は自分の退任後、全てを共産党青年団出身者におさえられることを恐れ、江沢民氏は軍部、特に陸軍に対する影響力を保持するように努めた。また、胡錦濤氏の次の国家主席には共産党青年団出身でない習近平氏を就任させた。後ろ盾を持たない習近平氏は、専らワイロ封じで政敵、特に共産党青年団出身者を排除し、共産党は名実とも習近平氏が支配するようになった。しかし、軍部には手が回らなかったため、父親の時代から親しかった張又侠氏に軍事委員会、国防部は任せてきた。張又侠氏も台湾統一には賛成であった。しかし、彼は軍事のプロであるため、台湾統一の際の軍事的リスク、特に日米安保条約による日本と米国が台湾有事に干渉してくることを懸念して、軍事行動には消極的であったようだ。ところが、米国側が先の「国家防衛戦略」を明らかにしたことから、米国側からの干渉はないと判断した習近平氏は、張又侠氏の排除に動いたと思われる。本年1月に米国の「国防戦略」が明らかになると同時に、張又侠氏の失脚が明るみにでた。現在、中央軍事委員会メンバー7名中、習近平主席と他1名の2名のみが在席で、5名は空席という状態だと言われている。張又侠氏は陸軍とロケット軍を抑え、習近平氏は海軍と空軍を抑えていると言われてきたが、今や張又侠氏の失脚で全軍を習近平氏が抑えると思われるが、軍を完全に掌握するのには習近平氏も1~2年かかるのではないかと言われている。したがって、台湾有事は習近平氏の軍の完全掌握が果たされるまでは起きない。すなわち、1~2年後に台湾有事が起きる!と言われ出している。3高市首相の選挙決断(1)こうした世界状況の中で、高市首相はトランプ氏に台湾有事のリスク、特に日本を含む東アジアのリスクの大きさを直接訴えにいくことを第一優先と考えたのだと思う。もし、4月のトランプ、習近平会議で台湾有事に米国が暗黙の了解をしてしまうのを抑えないとならないと考えた高市首相は選挙に勝って、安倍元総理と共有する台湾有事回避の思いを伝える必要があると考えたのではないか。衆議院議員総選挙前に起きた立憲民主党と公明党の合併、いわゆる「中道改革連合」ができたこともあり、選挙は高市首相率いる自民党の大勝で終わった。しかし、その背景には台湾有事発言をきっかけとした習近平氏の「日本たたき」に日本国民が反中国感情を高まらせたのだとも思う。習近平氏の中国は「日本への資源の輸出規制」や「日本の水産物に対する輸入規制」「中国国民の日本への渡航自粛」「パンダを日本から中国へ取り返す」等の子供じみた嫌がらせによって日本人の反中国感情を刺激してしまったと思う。(2)中国国内にもこうした習近平政権の対応に疑問視を有する方々もいるようだが、日本側も、地理的にも歴史的にも近い国である中国との付き合い方にはもっときめ細やかな配慮もいると思う。以前、自分が書いた本「平和のプロ日本は戦争のプロベトナムに学べ」にある通り、プライドの高い中国には「勝って謝りに行く」くらいの度量が必要と思う。中国にとっても日本人の反中国感情を煽ることは決して好ましいことでないので、中国にとっても日本が必要な国と思わせることが重要だ。特に中国の経済にとって、日本の経済力を活用することが必要なことは自明のことだ。そうした努力を日本側からも働きかけることが重要と思う。しかし、今や中国の習近平氏とのパイプを持つ日本人が見つからないのが気がかりだ。(3)いずれにしても、日本が戦争に巻き込まれることだけは避けねばならない。もちろん、台湾有事は他人事ではすまされない。台湾有事が起きると台湾に住む日本人2万人、日本に住む台湾人7万人と相互交流が進んでいるため、邦人保護の問題だけでなく、台湾の方々が大量に難民となって日本に来ることも想定される。最近は日本にマンション等を持つ中国人には台湾の方々が多いとも言われている。このため、台湾有事は沖縄だけでなく、日米安保条約が結ばれる日米両国が巻き込まれる可能性は高い。こうした実情も含めて高市総理にはトランプ大統領に台湾有事を押しとどめる対案を示しつつ、しっかりと日本の意見を伝えて欲しいと思う。トランプ大統領は反対するだけでは全く耳を貸さない人物でもあるので、トランプ大統領も興味を示す「台湾」現状維持の重要性を提示しつつ、意見交換して欲しい。その対応の1つは台湾と日本の経済連携による米国経済への貢献、特に両国の対米投資の大きさ等を示すことだと思う。また、日本が永年にわたるアジアの国々、特にイスラム教徒の多いインドネシアやマレーシア等との交流と絆によって、イスラム教徒に敵視される米国との関係強化の仲立ちの役割を果たしていること等も強調すべきと思う。トランプ関税の際に示した粘り強い掛け引きを今回の訪米でも高市総理に期待したい。提供:税経システム研究所
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2026/05/29 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(222)
1.はじめに近年、私傷病、特にメンタルヘルス上の理由により休職する労働者が増加しています。人手不足による業務負担の増大や、職場における対人関係や各種のハラスメントなど、メンタルヘルスに影響を及ぼすストレスの要因には事欠かない状況と言えるかもしれません。心身の調子が優れない状態で、十分なパフォーマンスを発揮できないまま仕事を続けていても、不調を招いた要因から根本的に切り離さないと、遅かれ早かれ従業員はパンクしてしまいます。いったん厳しい環境から離れて治療に専念してもらい、以前のように持てる能力を発揮できるまでに回復してから職場に戻れるよう、会社側も支援体制を整えることが求められます。メンタル不調による休職からの復職の際には、傷病の特性を十分に理解した上で、適切な対応と配慮をする必要があります。安易な対応をした結果、傷病の再発や悪化を招き、最悪の場合、その従業員の退職につながることもあり、会社の対応次第では労使紛争にまで発展することもあります。今回は、メンタル不調による休職から復職する際の、企業側の対応について考えてみたいと思います。2.メンタル不調による休職の現況は厚生労働省は毎年、事業所の安全衛生管理、労災防止等の実態把握のため、「労働安全衛生調査(注1)」を実施しています。公表されている最新版(令和6年版)によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した従業員が「いる」と回答した事業所の割合は12.8%となっており、前年の調査と比べて0.7ポイント減少となっています。特にこの割合は大企業ほど顕著で、1,000人以上規模の事業所においては9割以上の事業所にメンタルヘルス不調を原因とする休職・退職者が存在するという結果になっています。業種別では、情報通信(39.2%)、電気・ガス・熱供給・水道業(32.7%)学術研究、専門・技術サービス業(22.2%)が上位を占めています。また、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄があると回答した従業員の割合は68.3%となっています。この割合は20歳未満(28.7%)から年齢を重ねるほど高くなっていて、30歳代では73.3%、40歳代では73.0%、50歳代では69.4%が強い不安や悩み、ストレスを感じながら仕事をしている実態が見られています。強いストレスの要因となっているものとしては、仕事の量(43.2%)仕事の失敗・責任の発生等(36.2%)、仕事の質(26.4%)セクハラ・パワハラを含む対人関係(26.1%)、会社の将来性(22.2%)などが上位を占める結果となっています。先述の通り、私傷病での休職は、メンタル不調によるものが多数を占める傾向にあります。では、「休職」とはどのような位置付けの制度なのでしょうか。3.そもそも「休職」とは?「休職」とは、従業員を就労させることが適切でない場合に、労働契約関係そのものは存続させながら、一定期間の就労を免除または禁止することをいいます。一口に「休職」と言っても私傷病による休職、事故欠勤休職、被疑者として起訴された場合の休職、出向休職、自己都合休職、組合専従休職など企業によって様々な休職制度が存在し、それらは各々就業規則等により定められています。就業規則等にて定められた休職事由が消滅することで休職は終了することになりますが、定められた休職期間が満了した時点で休職事由が消滅していないときには、解雇または自然退職とされることが一般的です(休職期間満了による退職を「解雇」と規定した場合は解雇予告義務などが関係してくることもあり、「自然退職」と規定するケースが多い)。多くの会社において私傷病による休職またはこれに類する制度が定められていますが、年次有給休暇や育児・介護休暇のようにその付与が法で義務付けられているわけではありません。私傷病による休職を認めるか否かはあくまでも企業の判断に基づくことになり、休職制度が就業規則等にて規定されていなければ、欠勤として扱う流れが通常です。とはいえ、私傷病により長期に出勤できなくなる事態は十分に想定できるものであり、治療のための猶予期間として休職制度を設けておくことは現実的な選択肢と言えます。従業員が休職する場合、休職開始から復職までには様々な経緯が想定されますが、特にメンタル不調による休職が終わり復職に至る場面では企業側は難しい判断を迫られることが多くなります。では、従業員から復職の希望が出された際、企業としてはどのように対応していくことが必要なのでしょうか。4.復職場面における企業の対応は?休職中の従業員から復職の希望があった場合、まずは復職することに問題ない旨が記載された主治医の診断書の提出を求めることになります。診断書には、就業上の配慮に関して医学的見地から意見が記入されていることもありますが、主治医の意見の中では、「日常生活において支障がない程度への回復=復職可能」と判断している場合もあり、必ずしも個々の職場事情や当人の担当業務の負荷を考慮しているわけではないことがあるので注意が必要です。このような判断の齟齬を回避するためには、主治医に対して、職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報提供を行い、それに基づいて復職可否について意見をもらう、あるいは、主治医の判断と職場で必要となる業務遂行能力の内容などについて、産業医にセカンドオピニオン的に判断を求めるなどした上で、人事担当者や上司なども交え、従業員の元の職場での業務に対処できるか否かにつき企業側として最終的な判断を行う、といった慎重な対応が必要です。メンタル不調の場合、個別の病状にはそれぞれ差があり、担当業務の負荷なども異なることから、定型的な判断基準を定めることはなかなか難しいのですが、最低限の判断目安として以下のようなポイントを挙げます。【復職可否の判断基準の例】復職に対して本人が十分な意欲を示していること単独で通勤時間帯に安全に通勤ができること(難しい場合は時間を変えれば可能か)会社所定の労働時間の就労が可能であること(あるいは復職当初は時短勤務なら可能か)与えられた職務をこなすことができること業務による心身の疲労が翌日までに回復可能であること適切な睡眠覚醒リズムで生活することができ、昼間に眠気がないこと業務遂行の際に必要な注意力や集中力を発揮できること上記の最低限のポイントがクリアできたとしても、元々の業務が通常通りこなせない中で復帰を認めることが、先を見据えたときに適切かどうかはケースにより異なります。この辺りは、必要に応じて労働法専門家の意見も入れ、社内事情も考慮した上での自社独自の慎重な判断が必要と考えます。会社が適切と考えるのであれば、復職直後の勤務形態として時短勤務やリモートワーク等により就労の環境に徐々に慣らしていくようにすることは、従業員の不安を最小限に抑え、症状の再発による更なる休職を避けることにつながります。また人事担当者や上司などは勤怠や勤務態度などを注意深く観察し、少しでも異変を感じるようなことがあれば声をかけて体調を確認する、面談の機会を設けるなど、復職後も継続した支援を心がけるようにしたいものです。5.休職期間が満了した場合の扱い休職事由が消滅することにより休職は終了して復職となりますが、休職期間満了時点において休職事由が消滅していない場合は、就業規則等の規定により解雇または自然退職として扱われます。私傷病休職の場合、この「休職事由が消滅」したかどうかの判断に関して、労使間で争いが生じることがあります。例えば、従業員が復職可能と主張し、その主張の裏付けとなるような主治医の診断書が提出されたとしても、実態はとても労働に耐えられる状態ではなかった…、こうした例のように、休職期間満了による解雇・自然退職を避けるために焦って復職しようとするようなことも珍しいことではありません。そのような「解雇・自然退職を避けるため」の主張をもとに、十分な検討がなされないまま復職を認めた結果、かえって症状が悪化してしまい、短期間で再度休職となると、今度は企業側が健康配慮義務違反の指摘を受けかねません。では、休職していた従業員がどのような状態にまで回復すれば、解雇または自然退職とされずに復職可能と判断されるのでしょうか。休職者の復職に関する裁判例によれば、「従前の職務を通常程度行うことのできる健康状態まで回復したかどうか」によって判断するとし、適正な内容にて就業規則等に定められ、適正に運用された休職期間を経過しても復職できない場合は、解雇または自然退職として扱うことを認める判例が多い傾向にあります。一方で、「当初は軽易業務に就かせれば、ほどなく通常業務に復帰できる回復ぶり」である場合、「従前の業務に復帰できないとしても、従業員の能力や経験、配置の実情や業務の難易度などから別の業務であれば復帰可能」である場合は復帰させることも検討すべきとして、従前の業務に直ちに復帰できないことをもって休職期間満了退職と扱ったことを不当と判断した例もあります。内臓疾患や肢体の傷病のように、検査数値などが正常値になったことをもって「回復」と判断できる傷病であればともかく、メンタル不調による傷病の場合は「回復」したかどうかを客観的・定量的に判断することが難しいこともまた事実です。だからこそ、従業員本人の主張や主治医の判断、産業医等の企業側からの医学的判断、上司や人事担当者の判断など多方面から多くの要素を検討し、復職が可能なのか、復職した後も継続して職務を続けていくことが可能かどうかについての慎重な判断が重要になります。参考文献「心の健康問題により休業した従業員の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf<注釈>労働安全衛生調査(実態調査)令和6年(事業所調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo01.pdf(個人調査)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo02.pdf提供:税経システム研究所
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2026/05/29 医療経営
戦略的医療機関経営 その171
【サマリー】前回のレポートでは、急性期病院に関する2026年度診療報酬改定の内容を解説した。今回のレポートでは、開業医分野の改定内容を解説する。病院は規模が大きい。さらに外来部門と入院部門に分かれている。一方で開業医分野は規模は小さく(多くは個人開業医)外来部門しかない。また国から求められる医療機能としては、プライマリー医療であるかかりつけ医としての役割である。このように病院と開業医では大きく状況が異なる。したがって、診療報酬改定の内容についても収益へ影響する部分が異なる。1.はじめに改定率は前回レポートで記述したとおり、+3.09%であるが、医療機関別にみると、病院は+0.49%、医科診療所は+0.10%、歯科診療所は、+0.02%、保険薬局は+0.01%となっています。つまり、同じ医療機関でありながら、診療所より病院のほうが多くプラス改定の恩恵を受けられることになります。考えられる理由は、現在の経営状況です。全国の診療所の黒字率の方が病院よりも高いので、赤字割合のより高い病院のほうに多く振り分けたというのが厚生労働省言い分です。今回の改定のポイントが物価高騰対策というのは前回レポートで記述したとおりです。その財源となる改定内容は、初診料や再診料の加算点です(前回レポートで記述通り)この初診料や再診料といった基本中の基本の診療点数は、病院よりも診療所の収益に大きく影響します。2.外来・在宅ベースアップ評価料診療所に勤務する職員の賃上げの財源となる診療点数です。この点数は前回の診療報酬改定で新設されましたが、診療所の一部では、届出を見送りました。理由は様々ですが、診療所はそもそも人手が多くないので、届出作業など院長自身が実施しなければならないことがあり、手続きが面倒。届出を事務職員にさせると、一事務員が全職員の給与を把握してしまうことになり、これも届出を躊躇させる要因となりました。このベースアップ評価料が点数アップすることになり、しかも前回の令和6年度改定時に届出をしていた診療所と点数の差別化をおこなうとなりました。さらに今後補助金などが出てくるのですが、ベースアップ評価料を届出していることが、補助金を申請する条件になる可能性が非常に高くなったこともあり、届出を躊躇していた診療所も今回は届出をするところが多くなっています。3.かかりつけ医機能の強化開業医に求められる医療機能は「かかりつけ医機能」です。このかかりつけ医機能を強化するために診療報改定では、何点か改正が行われました。地域包括診療加算の見直し:脂質異常症、高血圧症、糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病などの主に生活習慣病を有していて、要介護状態の患者をこの加算点の対象に追加機能強化加算の見直し:機能強化加算の算定にBCPの作成を条件とした時間外対応加算の充実:診療時間以外の時間帯に患者対応した際の点数をアップ生活習慣病管理料の見直し前回改定で新設された生活習慣病管理料(対象疾患は糖尿、脂質異常症、高血圧症)の算定においては、最低でも6か月に1回は必要な血液検査を実施せよという条件がついた。さらに糖尿病の患者には1年に一度、眼科と歯科に受診を勧めよ。勧めたら点数を算定できるという新しい点数ができました。糖尿病は糖尿病性白内障の発症につながりますし、同じく糖尿病から歯周病へ移行することもあるので、他科診療への推奨という予防に診療点数が付いたとことになります。参考)生活習慣病に係る疾病管理イメージ特定疾患療養管理料の見直し前回改定で生活習慣病管理料が新設されましたが、それまでは対象3疾患は、この特定疾患療養管理料で算定されていました。3疾患が生活習慣病管理料に移行した後、この特定疾患療養管理料を算定する疾患に胃炎と喘息が急上昇しました。このような現象は普通はあり得ません。厚生労働省は、病名の付け替えを疑っているようです。次回改定まで調査するようですが、とりあえず今回の改定では急に多くなった胃炎(消化性潰瘍)の患者に禁忌である非ステロイド性抗炎症薬の投与をしている患者はこの特定疾患療養管理料の算定はできないことになりました。4.特定機能病院からの逆紹介患者の受け入れ大学病院などの特定機能病院には、200床以下または診療所に逆紹介を30%以上しなければいけないルールがあるのですが、その割合が50%に引き上げられました。この50%という数値はクリアできなければ特定機能病院には減算というペナルティがあります。さらに特定機能病院から逆紹介患者を受け入れた診療所は別途点数が算定できることになりました。外来患者の流れが変わる可能性がある改正です。参考)外来機能分化イメージ5.その他骨塩定量検査:4か月に1回から1年に1回になりました。(骨粗しょう症の治療患者は別)人工腎臓(透析)点数の見直し:人工透析の点数が下げられました医療DX推進体制整備加算の見直し:電子的診療情報連携体制整備加算という名称に変更。算定の条件がいくつかあるが、もっともハードルが高い条件は「電子処方箋発行体制」です。参考)電子処方箋について※本レポートの出典は、中医協に提出された資料です。提供:税経システム研究所
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2026/05/28 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】26年度前半に公募される大型補助金のリストアップと概要紹介前稿では経産省系の主な補助金の全体像をご紹介しました。今回は26年度前半の大型補助金をご紹介し、読者の皆様の申請の参考にご利用いただければと思います。(1)主な大型補助金(筆者作成)(1)-1:省力化投資補助金(一般型)(6次公募)①概要人手不足対策として、省力化設備(自動化・DX機器)導入を支援②対象中小企業・小規模事業者人手不足・生産性課題を抱えている企業③補助内容補助率:1/2~2/3補助額:数百万円~数千万円④対象設備例自動包装機無人レジ物流自動化AI・IoT設備⑤申請方法(実務)GビズID取得(必須)事業計画書作成電子申請(jGrants)採択後→交付申請設備導入→実績報告⑥採択のポイント人手削減効果(数値)作業時間削減率ROI(投資回収)(1)-2:大規模成長投資補助金(第6回)■概要1億円規模の大型投資を支援■対象中堅・中小企業大規模な設備投資を行う企業■補助内容補助率:1/3程度補助額:最大数億円■対象工場設備物流拠点車両(条件付き)■申請方法事業計画(かなり詳細)金融機関との連携(重要)書類提出面接審査あり■採択ポイント成長性(売上拡大)地域経済への影響雇用創出実現可能性(1)-3:省エネ補助金(1次)■概要エネルギー効率改善の設備導入支援■対象エネルギー削減が見込める設備■補助内容補助率:1/3〜1/2補助額:数百万〜数億円■対象設備高効率冷凍機省エネ空調ボイラー冷蔵設備■申請方法省エネ診断(重要)削減率計算申請書提出採択→実施■採択ポイントエネルギー削減率(%)CO2削減量投資回収年数(1)-4:中小企業成長加速化補助金(2次)■概要売上拡大・事業スケールアップ支援■対象成長志向の中小企業■補助内容補助率:1/2程度補助額:数千万円規模■対象設備投資DX新規事業■申請方法成長戦略策定数値計画(3〜5年)申請審査■採択ポイント売上成長率収益性市場性競争優位性(2)まとめ本稿では、2026年度前半に募集される比較的大型の補助金をリストアップしました。「自社に適合しそうな補助金だな。」とお感じになられたら、WEB検索していただき、問い合わせ窓口の役所か外郭団体にまずはお電話なさってください。塩対応を想定してストレスを想起し後回しにする必要はありません。皆さんの想定外に親切な対応をしてくれる人が多いです。できればオフィスに相談に出かけてください。思っていた補助金に細かい申請条件が合わなかったとしても、他の適合する補助金を探してくれたりします。何より、補助金管轄の役所の方等と面識を持つことで、新しい有益な情報を個別に頂けたりすることがあります。地方局によってカラーが違ったりしますので一様には言えませんが、産業関係の役所と人的ルートを作るのは皆さんの想定上の価値があります。補助金は役所と積極的にコンタクトできるスムーズな根拠なので、是非活用していただくべきかと思います。提供:税経システム研究所
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2026/05/28 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第23回)
【サマリー】第21回より最近の中小企業のM&Aについての国(中小企業庁)の働きかけ、具体的には中小企業のM&Aガイドラインについて解説しています。本稿では前稿に引き続き中小M&Aガイドラインの参考資料で紹介されている中小企業のM&Aの事例を挙げ、筆者のコメントを述べたいと思います。1.中小M&Aガイドライン(第3版)での中小企業M&Aの事例経済産業省から公表されている中小M&Aガイドライン(第3版)_参考資料4の「中小M&Aの事例」では以下のような事例が紹介されています。小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例経営状況が良好でない中小企業において中小M&Aが成立した事例親族内承継の頓挫から中小M&Aに移行し成立した事例意思決定のタイミングが中小M&Aの成立内容に影響を与えた事例譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例従業員の反対にもかかわらず成立した事例廃業を予定していたものの中小M&Aが成立した事例何らかの理由により中小M&Aが成立しなかった事例前稿では①小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例を紹介しましたので、本稿では②経営状況が良好でない中小企業において中小M&Aが成立した事例などを説明します。2.経営状況が良好でない中小企業において中小M&Aが成立した事例(1)ホテル事業の会社のM&A(株式譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:ホテル事業・売上高:10億円・従業員:20名・業歴:45年◆譲り受け側:B社・業種:ホテル事業・売上高:50億円◆関与した支援機関:(顧問)税理士、M&A専門業者【意思決定に至るまでの経緯】A社代表者である斉藤は、裸一貫でホテル事業を立ち上げ、丁寧かつ時流をとらえたサービスが評判を呼び業界でも有名な経営者となった。しかし、近年は競合他社が増えたこともあり、客足が徐々に遠のき始め最近3期は経常損失を計上していた。また、後継者候補であった一人息子は病気で亡くなっていた。75歳となった斉藤は、まだ自分の体が動くうちに中小M&Aにより事業を残したいと考え、顧問税理士に相談した。【成立に至った経緯】顧問税理士から紹介されたM&A専門業者が業界内に太いパイプを有していたため、約2か月でB社とのマッチングが成立した。B社はA社の知名度だけでなく、丁寧なサービス、教育体制と人材の質を評価した。斉藤も「自分の会社を評価してもらえた」と喜んだ。斉藤はA社の全株式をB社に譲渡しA社から引退した。【成立に至った後の経緯】斉藤は、株式の対価である譲渡代金と退職慰労金を受け取り、老後資金として十分な額を確保することができた。引退後は悠々自適な日々を過ごしている。上記事例は最近3年間で経常損失を計上しているホテル事業運営のA社株式をB社に譲渡したものです。一般的に経常損失が継続している状況の会社は将来的にも収益性の低下が想定されるために第三者への株式譲渡は難しいものと思われます。しかし、この事例ではA社代表者が株式の譲渡代金に加えて退職慰労金も受け取っているために稀なケースといえます。これはA社の従業員のサービスや教育が高く評価されて、当該ホテルのオペレーションやホスピタリティに金銭的価値が見いだされたものであると推察されます。ホテル事業は労働集約型の形態であるために財務状況が一時的に悪化しても人的資本や顧客からの評判、優良顧客の存在などの無形財産に価値があればM&Aが成立する可能性があります。一方で財務状況が著しく悪化してしまうと、当該無形資産の価値も棄損してしまうので、早い段階での意思決定がポイントになるものと考えます。(2)卸売業のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:卸売業・売上高:12億円・従業員:30名・業歴:50年◆譲り受け側:B社・業種:卸売業・売上高:30億円◆関与した支援機関:弁護士、中小企業再生支援協議会、M&A専門業者【意思決定に至るまでの経緯】A社代表者である鈴木は、創業者である父からA社の経営を引き継ぎ2代目経営者としてA社を運営していた。しかし、父の代に金融機関から借り入れた金額が合計約20億円あり、既に大幅な債務超過となっていた。A社では金融機関への返済で資金繰りが圧迫され、新規投資する余力もなく、このままでは近いうちに破綻すると考えた鈴木は知人の弁護士に事業再生の相談をした。【成立に至った経緯】鈴木は弁護士に委任して中小企業再生支援協議会の手続を活用するとともに、当該弁護士が紹介したM&A専門業者に譲り受け側(スポンサー)探索を依頼し、これによりスポンサー1社が確定した。当該スポンサーは、A社の販路や地域における知名度を高く評価し、A社の全事業を事業譲渡の手法により譲り受けた。鈴木はA社の金融機関からの借入についての個人保証(経営者保証)があったが、「経営者保証に関するガイドライン」により経営者保証を外して当面の生活費と(華美でない)自宅を残すことができた。【成立に至った後の経緯】鈴木は破産を回避できたことに安堵した。今は、自分が本当にやりたかったけれども父に反対されて実現できなかったビジネスの立ち上げを目指している。上記事例は金融機関からの借り入れが大きな負担となっている債務超過の会社の代表者が事業譲渡により新しい道に踏み出すことができたものです。この事例は債務超過であるA社の事業にスポンサーが販路や知名度といったところに価値を見出し、スポンサーはA社株式ではなくA社の事業のみを譲り受けています。このために事業譲渡後のA社では主に金融機関からの借入金が残ることになります。一般的にA社代表者は当該借入金に対して保証人となっているために、返済見込みがない場合には破産手続きに移行することが考えられますが、この事例では「経営者保証によるガイドライン」を適用することによって破産を回避して当面の生活費や自宅を手放さなくて済んだことが特筆すべきです。「経営者保証ガイドライン」とは、経営者の個人保証の整理に関する金融機関の自主的なルールです。法的な強制力はないものの、各金融機関は同ガイドラインに従った協議に応じる運用となっております。経営者保証ガイドラインの特色は、一定の要件を満たせば破産手続を経ないで保証債務の返済免除を受けることができるために官報への掲載や信用情報への影響も生じません。また破産の場合よりも多くの資産を手元に残せる可能性があり、場合によっては自宅を手元に残すこともできます。自分が経営している会社が債務超過でも事業価値が金銭的に評価される可能性があるのであれば、当該事例のような流れで第二の人生を歩むことも想定できるので希望が持てるものと思料します。3.親族内承継の頓挫から中小M&Aに移行し成立した事例(1)建設業のM&A(株式譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:建設業・売上高:1億円・従業員:5名・業歴:20年◆譲り受け側:B社・業種:建設業・売上高:10億円◆関与した支援機関:事業承継・引継ぎ支援センター、弁護士【意思決定に至るまでの経緯】A社代表者である北澤は、創業者である父から引き継ぎ2代目としてA社を経営していた。北澤は自身が65歳を超えたこともあって事業の承継を考えるようになり、明確に意思確認はしていなかったが、同業他社で修行をしていた長男を後継者として迎え入れようとした。しかしながら、A社の経営状況がよくないこと等から、長男は経営者保証に対する不安等を抱き、継ぐつもりがないことを北澤に伝えた。北澤には経営を委ねられる従業員はおらず廃業も考えていたところ、事業承継・引継ぎ支援センターからのダイレクトメールでM&Aによる事業継続という方法があることを知った。【成立に至った経緯】A社のベテランの職人の技術力が評判であったため、同センターにより2か月で同業B社とのマッチングが実現し、北澤はA社の全株式を譲渡した。【成立に至った後の経緯】B社は人手不足の中でA社のベテラン従業員を採用することができ、職人の育成及び事業拡大を図ることができた。北澤も顧問として職人の育成に寄与している。上記は親族への事業承継が不調に終わったもののM&Aにより会社を存続させることか叶った事例です。建設業や飲食業、小売業等は子供をはじめとした親族内での事業承継が多い業種といえます。親族内での事業承継がうまくいけばそれに越したことはないと思われますが、適切な後継者が不在、または後継者と目された親族の拒絶などの事例は多々あります。当該事業が例えば夫婦二人で営んでいる場合には思い切って廃業という選択肢もあり得ますが、何人かの従業員を雇用している場合には事業の存続を考える経営者も多いのではないでしょうか。そのような場合には、本事例のような事業承継・引継ぎ支援センター等に相談するのが最適と考えます。特に建設業や飲食業等は職人と呼ばれる技能習熟者の技術やノウハウを後世に伝えることも社会にとって重要な使命であり、そのためには積極的に上記のような公的機関を活用するのが望ましいものと考えます。4.意思決定のタイミングが中小M&Aの成立内容に影響を与えた事例(1)ギフト用品販売(小売業)のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:ギフト用品販売(小売業)・売上高:2億円・従業員:15名・業歴:40年◆譲り受け側:B社・業種:ギフト用品販売(小売業)・売上高:9億円◆関与した支援機関:地域銀行、事業承継・引継ぎ支援センター【意思決定に至るまでの経緯】A社は創業者・会長の竹橋が90歳と高齢ながらまだ実権を握っており、その婿養子・現社長の上原に発言権はなかった。A社の取扱商品や販売方法は時代遅れで徐々に売上が減少し、遂に2期連続で経常赤字に陥った。上原の経営意欲は低下しつつあり、危機感を持った竹橋も渋々了解の上、地域銀行から紹介された事業承継・引継ぎ支援センターに譲渡相談することになった。【成立に至った経緯】同センターは他地域の同業他社B社にA社との中小M&Aについて打診した。B社は他地域への進出を希望しており、A社事業を譲り受ける意思も固まっていた。一方、A社は業績と資金繰りが急激に悪化し、事業の継続が危ぶまれた。竹橋は長年の取引先や従業員のことを第一に考え、譲渡代金の早急な支払を条件とし、当初オファーを受けていた金額よりも相当低額でB社へ事業譲渡を実行した。【成立に至った後の経緯】竹橋は既存取引先に迷惑を掛けず、従業員の雇用継続が図れたことは満足しているものの、決断が遅れたため低額での譲り渡しとなり後悔の念が残った。上記は意思決定のタイミングによってM&Aでの取引内容が左右された事例です。創業者が高齢を理由にM&Aを検討することは珍しくなくなりました。一方で苦労して育てた会社や事業を第三者に譲渡することへの躊躇や戸惑いを覚える創業者も存在するものと思われます。当該事例は既存取引先や従業員をうまく引き継げたものの、M&Aの検討から実行に移すまでに時間がかかり、その間に業績や資金繰りが悪化したために想定より安く事業を譲渡せざるを得なかったものです。企業は将来にわたり継続することが一般的な前提ですが、ある調査会社の調査によると日本における企業の平均寿命(起業から廃業・倒産までの期間)は約23年との報告もあるために、M&Aに関する意思決定を行なったのであればスピード感をもって実行に移すことがM&Aの利害関係者(取引先、従業員、M&Aの相手先、金融機関等)にとって有益な結果をもたらすのではないかと筆者は考えます。提供:税経システム研究所
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2026/04/30 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第15回) 「雇止め法理3」
【サマリー】これまでのレポートでは、有期雇用契約における雇止めの法理について、主要判例や労働契約法19条を中心に整理してきました。形式上は契約期間満了によって雇用関係が終了する有期契約であっても、契約更新が繰り返されることにより労働者に雇用継続への合理的期待が生じている場合には、雇止めが解雇と同様の厳しい基準で審査される可能性があることを確認しました。企業実務では、有期雇用契約を締結する際に、契約更新の回数や通算年数に上限を設ける、いわゆる「更新上限特約」(以下、「上限特約」という)を設けることがあります。もっとも、このような上限特約が設けられている場合であっても、その内容が常に有効と認められるとは限らず、契約締結時の説明や制度の運用状況、雇用関係の実態などによって判断が分かれることがあります。そこで本レポートでは、有期雇用契約において上限特約を定めた場合に、それがどのような場合に有効と認められ、またどのような場合に労働者の合理的期待が認められるのかについて、主要な裁判例を基に解説します。1.有期雇用契約における上限特約の問題労働基準法施行規則の改正により、2024年4月より、有期契約の労働者に対しては、契約更新上限の有無およびその内容の明示が義務付けられました。そのため、有期雇用契約において、契約更新の回数や通算契約期間に上限(上限特約)を設ける場合、「契約更新は通算3年まで」「更新は4回を限度とする」といった形で契約期間の上限を明記しなければなりません。ただし、上限特約が記載されていれば、雇止めが必ず認められるわけではありません。もっとも、以前からこのような上限特約が設けられているケースも多く、その場合であっても、やはり契約期間満了時に当然に雇止めが認められるとは限りませんでした。裁判例では、上限特約の有無だけでなく、契約締結時の説明内容や契約更新の実態、業務の性質などを総合的に考慮して判断されています。つまり、上限特約が存在すること自体が直ちに雇止めの有効性を保証するものではないという点が重要です。2.上限特約の有効性の判断要素後述する裁判例の傾向を見ると、上限特約の有効性は主に次の要素によって判断されています。まず重要なのは、契約締結時に上限特約が明確に説明されているかどうかです。更新回数や契約期間の上限が契約書に明記されており、労働者がその内容を理解したうえで契約を締結している場合には、上限特約が有効と判断される可能性が高くなります。次に重要なのは、制度の運用が特約と一致しているかどうかです。制度上は更新上限が設けられていても、実際には例外的な更新が多数行われているような場合には、労働者に契約更新への合理的期待が生じる可能性があります。その場合、上限特約が存在していても雇止めが無効と判断されることがあります。さらに、業務の性質も判断要素となります。業務が一時的・臨時的なものであれば有期契約の合理性が認められやすい一方、企業の恒常的業務を担っている場合には、継続雇用への期待が認められやすくなります。3.上限特約と合理的期待の関係(実務上の留意点)有期契約の雇止めに関する判断では、労働者に契約更新への合理的期待が認められるかどうかが重要なポイントとなります。上限特約が明確に定められており、その内容が契約締結時に十分説明され、かつ制度が一貫して運用されている場合には、労働者に合理的期待が生じにくく、雇止めが有効と判断される可能性が高くなります。一方で、上限特約が存在していても、実際には更新が繰り返されている場合や、例外的な更新が多く行われている場合には、労働者が雇用継続を期待することに合理性が認められる可能性があります。この場合には、契約期間満了を理由とする雇止めであっても、裁判所はその合理性を厳格に審査することになります。企業が上限特約を設ける場合には、単に契約書に上限を記載するだけでは十分とは言えません。重要なのは、契約締結時に制度の趣旨や更新上限の内容を明確に説明し、その内容と実際の運用を一致させることです。また、上限特約を設けているにもかかわらず、例外的な更新を繰り返している場合には、その特約の実効性が否定される可能性があります。そのため、制度を設ける場合には、更新の判断基準や上限の運用方法についても慎重に検討する必要があります。このように、上限特約の有効性は契約条項の有無だけでなく、制度設計と運用の整合性によって判断される点に注意が必要です。次に、上限特約の認否について争われた裁判例を紹介いたします。4.重要判例1「カンタス航空事件東京高裁平13.6.29判決」<事案の概要>本件は、航空会社であるカンタス航空において勤務していた客室乗務員が、契約更新を拒否されたことについて、その雇止めの有効性が争われた事案です。原告は客室乗務員として採用されましたが、その雇用形態は1年契約の有期雇用契約とされていました。ただし、この契約については、採用当初から平成8年まで毎年契約を更新することを前提とする合意が存在していました。すなわち、形式上は1年ごとの有期契約とされていたものの、実際には一定期間にわたり契約更新を継続することが予定されていた雇用関係でした。原告はこの合意に基づき契約更新を受けながら勤務していましたが、会社は平成8年以前の段階で契約更新を行わず、契約期間満了を理由として雇用関係を終了させました。これに対し原告は、契約更新を前提とした雇用関係であったにもかかわらず、一方的に契約更新を拒否することは許されないとして、雇止めの無効を主張しました。<裁判所の判断>東京高等裁判所は、本件の雇用契約の実態について詳細に検討した結果、形式的には1年契約の有期雇用契約であったとしても、その内容や更新の合意を踏まえると、実質的には期間の定めのない雇用契約と解するのが相当であると判断しました。裁判所は、特に次の点を重視しました。第一に、採用時点において、契約は毎年更新されることが予定されており、平成8年まで契約更新を継続する合意が存在していたことです。このような合意がある場合には、形式的な契約期間の定めだけを理由として雇用関係が当然に終了するとは言えないとされました。第二に、原告の業務は客室乗務員として航空会社の業務に恒常的に必要とされるものであり、臨時的・一時的な業務とは認められない点です。第三に、契約更新が継続することを前提として雇用関係が形成されていたことから、労働者としては雇用が継続することを期待するのが自然な状況にあったと認められる点です。これらの事情を総合的に考慮し、裁判所は、本件の雇用契約は実質的には期間の定めのない契約と評価するのが相当であるとしました。さらに、仮に本件契約を形式どおり有期雇用契約であると解した場合であっても、原告が雇用の継続を期待することには合理的理由があると判断しました。そのため、契約更新を拒否するためには合理的な理由が必要であり、そのような事情が認められない以上、本件雇止めは許されないと結論づけました。<判決のポイント>本判決は、有期契約の形式を採っている場合であっても、その契約の内容や更新の合意、雇用関係の実態によっては、実質的に期間の定めのない雇用契約と評価される可能性があることを示した重要な裁判例です。また、仮に有期契約と解される場合であっても、契約更新が予定されていた事情や雇用関係の継続性などから、労働者が雇用継続を期待することに合理的理由がある場合には、雇止めの自由は制限されると判断されました。<実務上の示唆>この判決は、有期契約の運用において、契約書の形式だけではなく、契約締結時の合意内容や実際の運用が重要視されることを示しています。特に、契約更新が予定されているような場合には、形式的に有期契約であっても、実質的には継続雇用関係と評価される可能性があります。そのため企業としては、契約更新の範囲や更新の可能性について曖昧な合意を行うことは避け、契約の趣旨や更新の条件を明確にしておくことが重要になります。5.重要判例2「京都新聞COM事件京都地裁平22.5.18判決」<事案の概要>本件は、新聞社の関連会社である京都新聞COMにおいて、有期雇用契約の更新上限を理由に雇止めされた労働者が、その雇止めの無効を主張した事案です。原告は、京都新聞社の従業員として勤務していましたが、会社の業務再編に伴い、子会社である京都新聞COMへ移籍することになりました。この際、雇用形態は無期雇用ではなく1年契約の有期雇用契約とされました。会社は、有期雇用契約について通算3年を上限とする更新制度を設けており、原告もその制度のもとで契約更新を受けながら勤務していました。しかし、契約期間が3年に達した時点で、会社は更新上限制度を理由として契約更新を行わず、雇用関係を終了させました。これに対し原告は、契約更新が繰り返されてきたことや業務の継続性などを理由として、雇用継続への合理的期待があったとして、雇止めの無効を主張しました。<裁判所の判断>京都地方裁判所は、まず、有期契約に更新上限制度を設けること自体は直ちに違法となるものではないとしました。しかし、その制度が実際にどのように運用されているかを踏まえて判断する必要があるとしました。本件では、形式上は「更新上限3年」とする制度が存在していたものの、実際にはその上限を超えて契約更新されている例も多く存在していました。つまり、制度が必ずしも厳格に運用されていたわけではなく、職場においては契約更新が継続することが当然視されている状況があったと認められました。また、原告の業務内容は一時的・臨時的なものではなく、会社の業務運営において継続的に必要とされる性質のものであったことも考慮されました。これらの事情を踏まえ、裁判所は、原告には契約更新を期待することについて合理的理由があったと判断しました。その結果、更新上限制度のみを理由として契約更新を拒否することは許されないとして、本件雇止めは無効であると結論づけました。<判決のポイント>この判決の重要な点は、制度の存在だけでは雇止めの正当性は認められないという点にあります。企業が有期契約の更新上限制度を設けていたとしても、実際には例外的更新が多数存在する更新が事実上当然のように行われている労働者の業務が恒常的業務であるといった事情が認められる場合には、労働者に契約更新への合理的期待が生じる可能性があります。そして、そのような状況のもとで更新を拒否する場合には、契約期間満了という形式だけでは足りず、雇止めの合理性が厳格に審査されることになります。<実務上の示唆>本判決は、有期契約制度の運用において「制度と実態の一致」が極めて重要であることを示しています。企業が更新上限制度を設ける場合には、主に次の3点が重要となります。更新上限の趣旨を明確にすること契約締結時に労働者へ十分説明すること制度を例外なく一貫して運用すること制度上は更新上限が定められていても、実際には例外的更新が繰り返されている場合には、裁判所が更新期待を認め、雇止めが無効と判断される可能性があるためです。6.重要判例3「福原学園事件最高裁平28.12.1判決」<事案の概要>本件は、学校法人福原学園が設置する大学において、有期雇用契約の専任教員として採用された教員の雇止めの適法性が争われた事案です。原告は、同大学の専任教員として採用されましたが、その雇用形態は無期雇用ではなく、任期3年の有期雇用契約による任期制教員制度のもとで雇用されていました。この制度では、3年間の任期満了後に再任するかどうかを大学が判断する仕組みとなっていました。原告は3年間の任期を満了しましたが、大学は再任を行わず、契約期間満了を理由として雇用関係を終了させました。これに対し原告は、長期間にわたり教育研究活動に従事していたことなどから、任期満了後も雇用が継続することを期待していたとして、雇止めの無効を主張しました。本件の最大の争点は、任期制教員制度のもとで3年間勤務した教員に、雇用継続への合理的期待が認められるかどうかという点でした。<高裁の判断>控訴審である高等裁判所は、原告の主張を一定程度認め、任期制教員制度の実態や勤務状況などを踏まえると、原告には雇用継続への期待が認められる余地があると判断しました。高裁は、任期制教員制度が形式上は有期契約であったとしても、大学教育という業務の性質上、教員が継続的に教育研究活動を行うことが前提とされていることや、任期満了後に再任されている例が存在していることなどを考慮しました。その結果、原告には雇用継続を期待することについて一定の合理性があると判断し、雇止めを制限的に捉える姿勢を示しました。<最高裁の判断>これに対し最高裁判所は、高裁の判断を覆し、本件雇止めは有効であると判断しました。最高裁はまず、本件の任期制教員制度が、契約締結時から任期3年の有期契約であることが明確に定められていた制度である点を重視しました。そして、任期満了後の再任は大学が判断するものであり、制度上、無期雇用への移行が当然に予定されているものではないと指摘しました。そのうえで最高裁は、任期制教員制度のもとで3年間勤務したという事実のみをもって、直ちに雇用継続への合理的期待が認められるわけではないと判断しました。すなわち、任期制という制度の趣旨が明確であり、再任が保証されているわけではない以上、任期満了後に当然に雇用が継続するものと期待することはできないとしました。その結果、最高裁は、本件では原告に契約更新への合理的期待が認められる状況にはないとして、雇止めは有効であると結論づけました。<判決のポイント>本判決の重要な点は、有期契約制度のもとで一定期間勤務したという事情だけでは、直ちに合理的期待は成立しないという点を明確にしたことにあります。高裁は、制度の運用実態や勤務状況などを重視し、比較的広い意味で合理的期待を認める方向の判断を示しました。しかし最高裁は、任期制教員制度の趣旨や契約内容を重視し、任期満了後に無期雇用へ移行することが当然であるかのような期待を認めることはできないと判断しました。つまり、この最高裁の判決は、安易に合理的期待を認める考え方に対して一定の歯止めをかけた判決と評価することができます。<実務上の示唆>企業や大学などが任期制や有期雇用契約制度を採用する場合には、制度の趣旨や契約期間を明確にし、更新が当然に行われるものではないことを契約締結時に明確にしておくことが重要です。一方で、更新が当然視されるような運用を行ってしまうと、合理的期待が認められる可能性があります。本判決は、制度設計が明確であり、その内容が適切に説明されている場合には、単に一定期間勤務したという事情だけで合理的期待が認められるわけではないことを示したものといえます。以上の裁判例から分かるように、上限特約が設けられている場合であっても、その内容が直ちに有効と認められるとは限りません。契約締結時の説明内容や制度の運用状況、業務の性質などを踏まえ、労働者に雇用継続への合理的期待が認められるかどうかが重要な判断要素となります。企業としては、上限特約を設ける場合には制度の趣旨を明確にし、その内容と実際の運用を一致させることが紛争防止の観点から重要であるといえるでしょう。提供:税経システム研究所
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2026/04/30 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(221)
1.はじめに「お客様は神様です」という言葉は、多くの方が一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。この言葉は、昭和の国民的歌手である故三波春夫氏が1960年代に発したものです。生前の三波氏は、この言葉の真意を「お客様を神のように敬い、あたかも神に祈る時のように雑念を払って完璧な芸を見せること」(注1)と語っており、いわば究極のプロ意識を示した言葉でした。ところが時の経過とともに、客側の立場を殊更に強く主張する言葉として誤用されるようになり、今や「客はカネを払っている神様ともいえる存在なのだから、何を主張しても良いのだ」の如く、クレーマーの常套句となってしまいました。こうした客側の行き過ぎた意識に基づく執拗かつ過剰な行為がハラスメントの一種として「カスタマーハラスメント」(カスハラ)とされたのは2010年代前半頃からです。厚生労働省が公表した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和5年)」(注2)によれば、過去3年間に労働者からハラスメントの相談があったと回答した企業において、ハラスメントの相談種類別では、カスハラはパワハラ、セクハラに次いで多く、その件数も増加傾向であるという結果になっています。こうした状況を受けて、カスハラ対策の強化が盛り込まれた改正労働施策総合推進法(以下「改正法」)が2025年6月に成立し、2026年10月1日からカスハラ対策が事業主の義務とされることになっています。今般のカスハラ対策の義務化は、企業規模(従業員数)を問わず適用されるものであり、従業員の就業環境の整備・向上の観点からも極めて重要な施策の一つです。すでに独自のカスハラ対策を打ち出している企業も増えていますが、義務化に伴い今後企業として実施を求められる措置はどのようなものかを考えていきます。2.カスハラとは?―法令上の定義「カスハラ」と聞いて、どのような光景をイメージするでしょうか?理不尽なクレームによる長時間拘束、罵声・暴言・恫喝、不当な返金・賠償および過剰なサービスの要求、SNSをはじめとしたインターネットへの投稿(いわゆる「晒し行為」)、果ては脅迫・暴行といった犯罪行為までさまざまな形態の「カスハラ」が思い浮かびますが、改正法において「カスハラ」とは以下のように定義されています。職場における「カスタマーハラスメント」とは、職場において行われる顧客等の言動であってその雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されるものであり、①~③の要素を全て満たすもの上記の「顧客」とは、顧客、取引の相手方、施設の利用者ほか事業主の事業に関係を有する者を指し、今後商品やサービスを購入・利用する可能性のある者も含むとされています。では、今後、事業主の義務とされるカスハラ防止とは具体的にどのような措置が求められるのでしょうか。3.カスハラ防止のために事業主に求められる措置とは?改正法において、事業主は以下の措置を必ず講じることが求められます。○事業主方針の明確化およびその周知啓発カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化するカスハラの内容およびあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する例)管理監督者にその場の対応方針について指示を仰ぐ、労働者一人で対応させない、犯罪に該当する言動は警察へ通報、本社等に情報共有し指示を仰ぐなど○相談体制の整備相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知相談窓口担当者が適切に対応できるようにする○事後の迅速かつ適切な対応事実関係を迅速かつ正確に確認する(録画・録音等の確認や周囲の従業員へ聴取など)被害者に対する配慮のための措置を行う再発防止に向けた措置を講ずる○対応の実効性を確保するために必要なカスハラ抑止のための措置特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備する例)悪質行為者への警告文発出や施設への出入り禁止など○その他併せて講ずべき措置相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する相談したこと等を理由として不利益な扱いをされないことを定め、労働者に周知・啓発する4.BtoBにおけるカスハラにも注意カスハラというと、小売業・サービス業といったいわゆるBtoCビジネスで多発するイメージがありますが、BtoBビジネスにおいても起こり得ます。この場合、自社の役職員が被害者となるケースだけでなく、カスハラの加害者になるケースも考えられます。自社役職員によるカスハラ行為が認められた場合、相手先企業からは使用者責任に基づく損害賠償を求められる可能性や、優越的地位の濫用行為を禁じた独占禁止法・下請法に抵触しさまざまな罰則を受ける可能性も忘れてはなりません。BtoBにおけるカスハラの例正当な理由なく発注した商品の受取を拒否する相手企業に対し、発注した商品・役務以外の商品や役務を提供させる相手企業に対し、担当者が個人的にキックバック等の金銭を要求する自社の従業員が相手先企業(担当者)からカスハラ行為を受けた場合は、先述のような措置に基づき対処していくことになりますが、改正法で求められている事項ではないながら、自社の従業員に対しても、カスハラの加害者となる可能性を自覚してもらうこと、その場合の責任や制裁(懲戒処分など)について、十分な指導を日頃から実施しておくことも必要と考えます。自社のミスや不十分な対応などへの正当なクレームには謙虚に接し、適切な対応と再発防止のための改善を行っていくことは当然ですが、悪質なクレームに対し、事なかれ主義的にその場を収めるためだけの対応をすることは、クレーマーに成功体験を与え、よりエスカレートしたカスハラとなって現場を疲弊させることになります。何より「会社や上司は自分を守ってくれなかった」という従業員の不信感は決して消えることのない傷として残ることでしょう。改正法で求められる措置は多項目に渡りますが、対応に苦慮するような内容ではないものと考えます。カスハラは些細なものも決して許さず、会社は従業員を絶対に守る、という姿勢を打ち出すことは、就業環境を向上させるだけでなく、エンゲージメントを高める一助となることでしょう。<注釈>三波春夫オフィシャルブログ「『お客様は神様です』について」参照https://minamiharuo.com/kamisama/令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001541313.pdf提供:税経システム研究所
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2026/04/30 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第24回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>原材料費が高騰して困っています。当社は、私が立ち上げたラーメン店です。自社の製麺所を持ち、スープも麵もこだわったものとなっています。当店で修業した弟子たちが3人開業していて、各店に麺を卸しています。ここ最近、原材料の高騰が続き、利益がほとんど飛んでいきます。周囲に倒産している同業も見られます。この状況を乗り切るために、どのように手を打つべきでしょうか。■デフレ下の経営とインフレ下の経営図1消費者物価指数の推移(総務省、前年同月比)1990年代にバブル経済が崩壊した後、わが国の物価はデフレ基調で推移してきました。デフレ期には物価には低下圧力が加わり、雇用にはマイナスの影響があります。リーマンショックに超円高が加わった2010年前後は、雇用状況が悪化し、自殺者も増えました。一般に、インフレは雇用にはプラスに働くことが多く、タイムラグを経て賃金上昇も生じます。デフレとインフレには、それぞれ負の面もあり、どちらがよいというものではありません。節度あるインフレ下において、着実に経済成長していくことを目指すのが、先進国の経済政策の標準的な姿といえるでしょう。御社のように現役の起業家は、年齢的には長く続いたデフレ環境下に事業を立ち上げている場合が多いです。インフレ状況に直面するのが、業歴が長くともはじめての経験です。これまでとは考え方を変える「マインドセット」が求められる状況と言えます。図1は2013年以降の消費者物価指数の総務省統計局による推移データです。2013年は、アベノミクス元年、すなわち大幅の金融緩和が行われた時です。円という通貨の流動性が上昇したにもかかわらず、ハイパーインフレとならずインフレ率は図1に示されるとおり、2%のインフレターゲットを下回っていました。アベノミクスは、「デフレではない状況」を実現しましたが、インフレターゲットの範囲内で推移したのです。図1に示される通り、コロナ禍における世界中の金融財政政策、あるいは戦争や物流状況の諸状況が重なり、2%を超える状況になったのです。戦争等によるコストプッシュインフレ、経済成長によるディマンドプルインフレ、さらには少子高齢化による供給力不足が合わさり、2%に到達したのです。ガソリン等のエネルギーコストの政策的抑制があり、2%ですから、それらの措置を採らなければもっとインフレ率は高くなったと言われています。現在の物価上昇の原因のいくつかは今後解消されるかもしれませんが、供給力不足は続くと思われます。経済成長志向の「高圧経済」を目指す政策が採用されていますので、経済は成長する中、供給力に制約があるということで、ここしばらくはインフレ圧力が続くでしょう。物価が上昇すると、一定のタイムラグの後、賃金が上昇しますので、企業の人材採用コストの上昇も続くでしょう。リーマンショックの頃との大きな違いは、中国生産への依存がカントリーリスクとなっていることです。中国の大きな供給能力をフルに活用するなら、高圧経済と物価抑制が両立するかもしれませんが、現実には難しそうです。つまり、御社としては、今まで経験したことのないインフレ環境が中期的に続くことを前提に経営戦略を立案するようにマインドセットすべき状況です。■外食産業のビジネスモデル表1外食産業のビジネスモデル1.グローバル経営規模の経済、成長志向2.国内コスト低減規模の経済3.国内価値重視規模の経済、差別化4.地域コスト低減規模の経済5.地域価値重視差別化それでは、次に、生き残る外食産業のビジネスモデルにどのようなものがあるかを考えていきましょう。表1に示されるように、大まかに5つの類型が考えられます。1.グローバル経営型は、国内の競争に勝ち残った企業が海外に進出するパターンです。一方、食文化は国により異なるので、海外市場に受け入れられやすいメニューとそうではないメニューに分かれます。インバウンドで観光客が喜んで食べるメニューは海外でも通用する可能性が高いです。最近大手牛丼チェーンが強化している回転寿司やラーメンという業態は、多くの国や地域で受け入れられる傾向にあります。御社のような中小企業においても、ラーメン業態では海外進出している事例はみられます。ハンバーガーなどの業態では、海外進出の成功例は相対的に少ないようです。グローバル経営型では、味をローカライズ(現地化)するかどうかも問われます。チェーンオペレーションに関する設備やシステム、一部の食材等では規模の経済が得られます。2.国内コスト低減型では、カントリーリスクを取らずに、人口減少する国内における市場占有率を高めていきます。セントラルキッチンに投資し、広域的な規模の経済を発揮していきます。ファミリーレストランのような業態が典型的なものです。財務内容の悪いチェーンは、店舗のリニューアル等に限界があるため、今後の収益力次第です。このタイプは高収益・好財務の企業に集約していく可能性があります。多角化していく中で、コングロマリットディスカウントの事例も見られ、今後は多彩な業態の整理や統廃合も起こるでしょう。3.国内価値重視型は、チェーンオペレーションの確立が難しいので、大企業も苦労しますが、ホテル業や結婚式ビジネスとレストランを並行して行い、シナジーを得るような場合が見られます。店ごとにオペレーションが違うと規模の経済が得られませんが、その場合は優秀な料理人を育成する仕組み等に規模の経済が発揮され、差別化されます。遊休不動産の利活用のような資産運用のスキルが差別化要因となることもあります。4.地域コスト低減型は、特定地域に集中的に店舗立地し、オペレーションコストや物流上の利点を生かす事例、あるいはお手頃価格を実現する中小企業等の事例が見られます。ちょい飲み系の中華等の事例が見られます。地方に行くと、もつ料理、チャーハン、レバニラ炒め等の看板メニューに強みを持ち、安いわりに満足度の高い店があります。メニューを集中させているので、コストと味のバランスが良い状況が保たれているのです。5.地域価値重視型は、そこに行かなければ食べられないという差別化要因を持つスタイルのお店です。特定地域に立地するご当地ハンバーグレストラン等が中堅規模の成功例です。常にフレッシュな状況の食材を店舗に配送し、添加物等は必要最小限とし、大企業との競争を回避するといった工夫が見られます。メニューについては、規模が大きいほど、新メニューを導入し、評判が高いものを定番化する努力をしています。中小企業は定番料理で勝負していく場合が多いようです。新メニューの開発を継続していくには、開発コストが必要となります。地域価値重視型のもう一つのパターンは、チェーンオペレーションでは実現できない品質を有するというものです。小型の店で、予約が先まで埋まっていく。このスタイルですと、家族経営が可能となります。家族の仲が良く、力を合わせて経営し、高価格を頂き、予約制により食材ロスをミニマム化していく。人手不足でも、家族によりある程度のサービスはできる。収益力を高めるなら、修行中の職人を雇う等が可能となります。御社のようにのれん分けし、一部の食材を供給することも一つの方法です。地域価値重視型は、行列ができるか、予約が先まで埋まっているかがカギとなります。御社は製麺所を持ち、修行した弟子たちに面も供給しています。その意味では、表1の5、あるいは4と5の複合型のビジネスモデルをブラッシュアップすべきフェーズにあるといえるでしょう。■インフレ下における御社の戦略体系御社は、寿司や和食に比べてラーメン店という庶民的な業態なので、どの程度高価格とするかはデリケートな問題です。今の常連客を大切にしながら、行列ができる店を目指すのがオーソドックスな将来イメージでしょう。今、御社はおいしいラーメンと町中華的なメニューを揃えているお店です。麺を内製化し、スープにもこだわりを持つ優れた店と言えるでしょう。足りないのは、圧倒的な看板メニューです。色々なメニューがあっても、ほとんどの客が同じメニューを頼む。そのため、生産性は向上していく。そして開店と同時に行列客で店がいっぱいになる。このような状況に至るにはどのようにすべきか。家族で、この問題を徹底的に考え抜くことから始めるべきでしょう。そして、弟子たちの店も含めて、ブランド化していく方策も検討すべきテーマです。インフレが今後も続くとするなら、価格を改定しても顧客の忠誠心が低下しないことが前提となります。表2御社の戦略の体系A.圧倒的な看板メニューの確立B.ブランドの確立C.長期的な別ブランドの確立常に行列がある店であれば価格上昇の影響は、他店より軽微なものとなります。美味しい味を追求するのみならず、そうしたブランドを目指していく時期と言えるでしょう。御社には、複数のお子さんが後継者として入社しています。これは素晴らしい財産です。後継者が育ったなら、起業経験のある社長、あるいは意欲的な後継者は、第二の創業として、高価格帯の別ブランドを企画することも可能です。近年、こうした高価格帯の店を立ち上げて成功している事例も見られます。高付加価値であれば、多少のインフレであっても吸収することは可能です。いずれにせよ、中期的にインフレ環境は続きますので、生き残る中小企業は、表1の4,5の複合したビジネスモデルを確立し、表2のA-Cの戦略のできるところから取り組んでいくことが重要です。「インフレを前提とした経営」を目指す良い時期ではないかと思われます。提供:税経システム研究所
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