経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
1378 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示
-
2026/04/30 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第15回) 「雇止め法理3」
【サマリー】これまでのレポートでは、有期雇用契約における雇止めの法理について、主要判例や労働契約法19条を中心に整理してきました。形式上は契約期間満了によって雇用関係が終了する有期契約であっても、契約更新が繰り返されることにより労働者に雇用継続への合理的期待が生じている場合には、雇止めが解雇と同様の厳しい基準で審査される可能性があることを確認しました。企業実務では、有期雇用契約を締結する際に、契約更新の回数や通算年数に上限を設ける、いわゆる「更新上限特約」(以下、「上限特約」という)を設けることがあります。もっとも、このような上限特約が設けられている場合であっても、その内容が常に有効と認められるとは限らず、契約締結時の説明や制度の運用状況、雇用関係の実態などによって判断が分かれることがあります。そこで本レポートでは、有期雇用契約において上限特約を定めた場合に、それがどのような場合に有効と認められ、またどのような場合に労働者の合理的期待が認められるのかについて、主要な裁判例を基に解説します。1.有期雇用契約における上限特約の問題労働基準法施行規則の改正により、2024年4月より、有期契約の労働者に対しては、契約更新上限の有無およびその内容の明示が義務付けられました。そのため、有期雇用契約において、契約更新の回数や通算契約期間に上限(上限特約)を設ける場合、「契約更新は通算3年まで」「更新は4回を限度とする」といった形で契約期間の上限を明記しなければなりません。ただし、上限特約が記載されていれば、雇止めが必ず認められるわけではありません。もっとも、以前からこのような上限特約が設けられているケースも多く、その場合であっても、やはり契約期間満了時に当然に雇止めが認められるとは限りませんでした。裁判例では、上限特約の有無だけでなく、契約締結時の説明内容や契約更新の実態、業務の性質などを総合的に考慮して判断されています。つまり、上限特約が存在すること自体が直ちに雇止めの有効性を保証するものではないという点が重要です。2.上限特約の有効性の判断要素後述する裁判例の傾向を見ると、上限特約の有効性は主に次の要素によって判断されています。まず重要なのは、契約締結時に上限特約が明確に説明されているかどうかです。更新回数や契約期間の上限が契約書に明記されており、労働者がその内容を理解したうえで契約を締結している場合には、上限特約が有効と判断される可能性が高くなります。次に重要なのは、制度の運用が特約と一致しているかどうかです。制度上は更新上限が設けられていても、実際には例外的な更新が多数行われているような場合には、労働者に契約更新への合理的期待が生じる可能性があります。その場合、上限特約が存在していても雇止めが無効と判断されることがあります。さらに、業務の性質も判断要素となります。業務が一時的・臨時的なものであれば有期契約の合理性が認められやすい一方、企業の恒常的業務を担っている場合には、継続雇用への期待が認められやすくなります。3.上限特約と合理的期待の関係(実務上の留意点)有期契約の雇止めに関する判断では、労働者に契約更新への合理的期待が認められるかどうかが重要なポイントとなります。上限特約が明確に定められており、その内容が契約締結時に十分説明され、かつ制度が一貫して運用されている場合には、労働者に合理的期待が生じにくく、雇止めが有効と判断される可能性が高くなります。一方で、上限特約が存在していても、実際には更新が繰り返されている場合や、例外的な更新が多く行われている場合には、労働者が雇用継続を期待することに合理性が認められる可能性があります。この場合には、契約期間満了を理由とする雇止めであっても、裁判所はその合理性を厳格に審査することになります。企業が上限特約を設ける場合には、単に契約書に上限を記載するだけでは十分とは言えません。重要なのは、契約締結時に制度の趣旨や更新上限の内容を明確に説明し、その内容と実際の運用を一致させることです。また、上限特約を設けているにもかかわらず、例外的な更新を繰り返している場合には、その特約の実効性が否定される可能性があります。そのため、制度を設ける場合には、更新の判断基準や上限の運用方法についても慎重に検討する必要があります。このように、上限特約の有効性は契約条項の有無だけでなく、制度設計と運用の整合性によって判断される点に注意が必要です。次に、上限特約の認否について争われた裁判例を紹介いたします。4.重要判例1「カンタス航空事件東京高裁平13.6.29判決」<事案の概要>本件は、航空会社であるカンタス航空において勤務していた客室乗務員が、契約更新を拒否されたことについて、その雇止めの有効性が争われた事案です。原告は客室乗務員として採用されましたが、その雇用形態は1年契約の有期雇用契約とされていました。ただし、この契約については、採用当初から平成8年まで毎年契約を更新することを前提とする合意が存在していました。すなわち、形式上は1年ごとの有期契約とされていたものの、実際には一定期間にわたり契約更新を継続することが予定されていた雇用関係でした。原告はこの合意に基づき契約更新を受けながら勤務していましたが、会社は平成8年以前の段階で契約更新を行わず、契約期間満了を理由として雇用関係を終了させました。これに対し原告は、契約更新を前提とした雇用関係であったにもかかわらず、一方的に契約更新を拒否することは許されないとして、雇止めの無効を主張しました。<裁判所の判断>東京高等裁判所は、本件の雇用契約の実態について詳細に検討した結果、形式的には1年契約の有期雇用契約であったとしても、その内容や更新の合意を踏まえると、実質的には期間の定めのない雇用契約と解するのが相当であると判断しました。裁判所は、特に次の点を重視しました。第一に、採用時点において、契約は毎年更新されることが予定されており、平成8年まで契約更新を継続する合意が存在していたことです。このような合意がある場合には、形式的な契約期間の定めだけを理由として雇用関係が当然に終了するとは言えないとされました。第二に、原告の業務は客室乗務員として航空会社の業務に恒常的に必要とされるものであり、臨時的・一時的な業務とは認められない点です。第三に、契約更新が継続することを前提として雇用関係が形成されていたことから、労働者としては雇用が継続することを期待するのが自然な状況にあったと認められる点です。これらの事情を総合的に考慮し、裁判所は、本件の雇用契約は実質的には期間の定めのない契約と評価するのが相当であるとしました。さらに、仮に本件契約を形式どおり有期雇用契約であると解した場合であっても、原告が雇用の継続を期待することには合理的理由があると判断しました。そのため、契約更新を拒否するためには合理的な理由が必要であり、そのような事情が認められない以上、本件雇止めは許されないと結論づけました。<判決のポイント>本判決は、有期契約の形式を採っている場合であっても、その契約の内容や更新の合意、雇用関係の実態によっては、実質的に期間の定めのない雇用契約と評価される可能性があることを示した重要な裁判例です。また、仮に有期契約と解される場合であっても、契約更新が予定されていた事情や雇用関係の継続性などから、労働者が雇用継続を期待することに合理的理由がある場合には、雇止めの自由は制限されると判断されました。<実務上の示唆>この判決は、有期契約の運用において、契約書の形式だけではなく、契約締結時の合意内容や実際の運用が重要視されることを示しています。特に、契約更新が予定されているような場合には、形式的に有期契約であっても、実質的には継続雇用関係と評価される可能性があります。そのため企業としては、契約更新の範囲や更新の可能性について曖昧な合意を行うことは避け、契約の趣旨や更新の条件を明確にしておくことが重要になります。5.重要判例2「京都新聞COM事件京都地裁平22.5.18判決」<事案の概要>本件は、新聞社の関連会社である京都新聞COMにおいて、有期雇用契約の更新上限を理由に雇止めされた労働者が、その雇止めの無効を主張した事案です。原告は、京都新聞社の従業員として勤務していましたが、会社の業務再編に伴い、子会社である京都新聞COMへ移籍することになりました。この際、雇用形態は無期雇用ではなく1年契約の有期雇用契約とされました。会社は、有期雇用契約について通算3年を上限とする更新制度を設けており、原告もその制度のもとで契約更新を受けながら勤務していました。しかし、契約期間が3年に達した時点で、会社は更新上限制度を理由として契約更新を行わず、雇用関係を終了させました。これに対し原告は、契約更新が繰り返されてきたことや業務の継続性などを理由として、雇用継続への合理的期待があったとして、雇止めの無効を主張しました。<裁判所の判断>京都地方裁判所は、まず、有期契約に更新上限制度を設けること自体は直ちに違法となるものではないとしました。しかし、その制度が実際にどのように運用されているかを踏まえて判断する必要があるとしました。本件では、形式上は「更新上限3年」とする制度が存在していたものの、実際にはその上限を超えて契約更新されている例も多く存在していました。つまり、制度が必ずしも厳格に運用されていたわけではなく、職場においては契約更新が継続することが当然視されている状況があったと認められました。また、原告の業務内容は一時的・臨時的なものではなく、会社の業務運営において継続的に必要とされる性質のものであったことも考慮されました。これらの事情を踏まえ、裁判所は、原告には契約更新を期待することについて合理的理由があったと判断しました。その結果、更新上限制度のみを理由として契約更新を拒否することは許されないとして、本件雇止めは無効であると結論づけました。<判決のポイント>この判決の重要な点は、制度の存在だけでは雇止めの正当性は認められないという点にあります。企業が有期契約の更新上限制度を設けていたとしても、実際には例外的更新が多数存在する更新が事実上当然のように行われている労働者の業務が恒常的業務であるといった事情が認められる場合には、労働者に契約更新への合理的期待が生じる可能性があります。そして、そのような状況のもとで更新を拒否する場合には、契約期間満了という形式だけでは足りず、雇止めの合理性が厳格に審査されることになります。<実務上の示唆>本判決は、有期契約制度の運用において「制度と実態の一致」が極めて重要であることを示しています。企業が更新上限制度を設ける場合には、主に次の3点が重要となります。更新上限の趣旨を明確にすること契約締結時に労働者へ十分説明すること制度を例外なく一貫して運用すること制度上は更新上限が定められていても、実際には例外的更新が繰り返されている場合には、裁判所が更新期待を認め、雇止めが無効と判断される可能性があるためです。6.重要判例3「福原学園事件最高裁平28.12.1判決」<事案の概要>本件は、学校法人福原学園が設置する大学において、有期雇用契約の専任教員として採用された教員の雇止めの適法性が争われた事案です。原告は、同大学の専任教員として採用されましたが、その雇用形態は無期雇用ではなく、任期3年の有期雇用契約による任期制教員制度のもとで雇用されていました。この制度では、3年間の任期満了後に再任するかどうかを大学が判断する仕組みとなっていました。原告は3年間の任期を満了しましたが、大学は再任を行わず、契約期間満了を理由として雇用関係を終了させました。これに対し原告は、長期間にわたり教育研究活動に従事していたことなどから、任期満了後も雇用が継続することを期待していたとして、雇止めの無効を主張しました。本件の最大の争点は、任期制教員制度のもとで3年間勤務した教員に、雇用継続への合理的期待が認められるかどうかという点でした。<高裁の判断>控訴審である高等裁判所は、原告の主張を一定程度認め、任期制教員制度の実態や勤務状況などを踏まえると、原告には雇用継続への期待が認められる余地があると判断しました。高裁は、任期制教員制度が形式上は有期契約であったとしても、大学教育という業務の性質上、教員が継続的に教育研究活動を行うことが前提とされていることや、任期満了後に再任されている例が存在していることなどを考慮しました。その結果、原告には雇用継続を期待することについて一定の合理性があると判断し、雇止めを制限的に捉える姿勢を示しました。<最高裁の判断>これに対し最高裁判所は、高裁の判断を覆し、本件雇止めは有効であると判断しました。最高裁はまず、本件の任期制教員制度が、契約締結時から任期3年の有期契約であることが明確に定められていた制度である点を重視しました。そして、任期満了後の再任は大学が判断するものであり、制度上、無期雇用への移行が当然に予定されているものではないと指摘しました。そのうえで最高裁は、任期制教員制度のもとで3年間勤務したという事実のみをもって、直ちに雇用継続への合理的期待が認められるわけではないと判断しました。すなわち、任期制という制度の趣旨が明確であり、再任が保証されているわけではない以上、任期満了後に当然に雇用が継続するものと期待することはできないとしました。その結果、最高裁は、本件では原告に契約更新への合理的期待が認められる状況にはないとして、雇止めは有効であると結論づけました。<判決のポイント>本判決の重要な点は、有期契約制度のもとで一定期間勤務したという事情だけでは、直ちに合理的期待は成立しないという点を明確にしたことにあります。高裁は、制度の運用実態や勤務状況などを重視し、比較的広い意味で合理的期待を認める方向の判断を示しました。しかし最高裁は、任期制教員制度の趣旨や契約内容を重視し、任期満了後に無期雇用へ移行することが当然であるかのような期待を認めることはできないと判断しました。つまり、この最高裁の判決は、安易に合理的期待を認める考え方に対して一定の歯止めをかけた判決と評価することができます。<実務上の示唆>企業や大学などが任期制や有期雇用契約制度を採用する場合には、制度の趣旨や契約期間を明確にし、更新が当然に行われるものではないことを契約締結時に明確にしておくことが重要です。一方で、更新が当然視されるような運用を行ってしまうと、合理的期待が認められる可能性があります。本判決は、制度設計が明確であり、その内容が適切に説明されている場合には、単に一定期間勤務したという事情だけで合理的期待が認められるわけではないことを示したものといえます。以上の裁判例から分かるように、上限特約が設けられている場合であっても、その内容が直ちに有効と認められるとは限りません。契約締結時の説明内容や制度の運用状況、業務の性質などを踏まえ、労働者に雇用継続への合理的期待が認められるかどうかが重要な判断要素となります。企業としては、上限特約を設ける場合には制度の趣旨を明確にし、その内容と実際の運用を一致させることが紛争防止の観点から重要であるといえるでしょう。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/04/30 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(221)
1.はじめに「お客様は神様です」という言葉は、多くの方が一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。この言葉は、昭和の国民的歌手である故三波春夫氏が1960年代に発したものです。生前の三波氏は、この言葉の真意を「お客様を神のように敬い、あたかも神に祈る時のように雑念を払って完璧な芸を見せること」(注1)と語っており、いわば究極のプロ意識を示した言葉でした。ところが時の経過とともに、客側の立場を殊更に強く主張する言葉として誤用されるようになり、今や「客はカネを払っている神様ともいえる存在なのだから、何を主張しても良いのだ」の如く、クレーマーの常套句となってしまいました。こうした客側の行き過ぎた意識に基づく執拗かつ過剰な行為がハラスメントの一種として「カスタマーハラスメント」(カスハラ)とされたのは2010年代前半頃からです。厚生労働省が公表した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(令和5年)」(注2)によれば、過去3年間に労働者からハラスメントの相談があったと回答した企業において、ハラスメントの相談種類別では、カスハラはパワハラ、セクハラに次いで多く、その件数も増加傾向であるという結果になっています。こうした状況を受けて、カスハラ対策の強化が盛り込まれた改正労働施策総合推進法(以下「改正法」)が2025年6月に成立し、2026年10月1日からカスハラ対策が事業主の義務とされることになっています。今般のカスハラ対策の義務化は、企業規模(従業員数)を問わず適用されるものであり、従業員の就業環境の整備・向上の観点からも極めて重要な施策の一つです。すでに独自のカスハラ対策を打ち出している企業も増えていますが、義務化に伴い今後企業として実施を求められる措置はどのようなものかを考えていきます。2.カスハラとは?―法令上の定義「カスハラ」と聞いて、どのような光景をイメージするでしょうか?理不尽なクレームによる長時間拘束、罵声・暴言・恫喝、不当な返金・賠償および過剰なサービスの要求、SNSをはじめとしたインターネットへの投稿(いわゆる「晒し行為」)、果ては脅迫・暴行といった犯罪行為までさまざまな形態の「カスハラ」が思い浮かびますが、改正法において「カスハラ」とは以下のように定義されています。職場における「カスタマーハラスメント」とは、職場において行われる顧客等の言動であってその雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されるものであり、①~③の要素を全て満たすもの上記の「顧客」とは、顧客、取引の相手方、施設の利用者ほか事業主の事業に関係を有する者を指し、今後商品やサービスを購入・利用する可能性のある者も含むとされています。では、今後、事業主の義務とされるカスハラ防止とは具体的にどのような措置が求められるのでしょうか。3.カスハラ防止のために事業主に求められる措置とは?改正法において、事業主は以下の措置を必ず講じることが求められます。○事業主方針の明確化およびその周知啓発カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化するカスハラの内容およびあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する例)管理監督者にその場の対応方針について指示を仰ぐ、労働者一人で対応させない、犯罪に該当する言動は警察へ通報、本社等に情報共有し指示を仰ぐなど○相談体制の整備相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知相談窓口担当者が適切に対応できるようにする○事後の迅速かつ適切な対応事実関係を迅速かつ正確に確認する(録画・録音等の確認や周囲の従業員へ聴取など)被害者に対する配慮のための措置を行う再発防止に向けた措置を講ずる○対応の実効性を確保するために必要なカスハラ抑止のための措置特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備する例)悪質行為者への警告文発出や施設への出入り禁止など○その他併せて講ずべき措置相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する相談したこと等を理由として不利益な扱いをされないことを定め、労働者に周知・啓発する4.BtoBにおけるカスハラにも注意カスハラというと、小売業・サービス業といったいわゆるBtoCビジネスで多発するイメージがありますが、BtoBビジネスにおいても起こり得ます。この場合、自社の役職員が被害者となるケースだけでなく、カスハラの加害者になるケースも考えられます。自社役職員によるカスハラ行為が認められた場合、相手先企業からは使用者責任に基づく損害賠償を求められる可能性や、優越的地位の濫用行為を禁じた独占禁止法・下請法に抵触しさまざまな罰則を受ける可能性も忘れてはなりません。BtoBにおけるカスハラの例正当な理由なく発注した商品の受取を拒否する相手企業に対し、発注した商品・役務以外の商品や役務を提供させる相手企業に対し、担当者が個人的にキックバック等の金銭を要求する自社の従業員が相手先企業(担当者)からカスハラ行為を受けた場合は、先述のような措置に基づき対処していくことになりますが、改正法で求められている事項ではないながら、自社の従業員に対しても、カスハラの加害者となる可能性を自覚してもらうこと、その場合の責任や制裁(懲戒処分など)について、十分な指導を日頃から実施しておくことも必要と考えます。自社のミスや不十分な対応などへの正当なクレームには謙虚に接し、適切な対応と再発防止のための改善を行っていくことは当然ですが、悪質なクレームに対し、事なかれ主義的にその場を収めるためだけの対応をすることは、クレーマーに成功体験を与え、よりエスカレートしたカスハラとなって現場を疲弊させることになります。何より「会社や上司は自分を守ってくれなかった」という従業員の不信感は決して消えることのない傷として残ることでしょう。改正法で求められる措置は多項目に渡りますが、対応に苦慮するような内容ではないものと考えます。カスハラは些細なものも決して許さず、会社は従業員を絶対に守る、という姿勢を打ち出すことは、就業環境を向上させるだけでなく、エンゲージメントを高める一助となることでしょう。<注釈>三波春夫オフィシャルブログ「『お客様は神様です』について」参照https://minamiharuo.com/kamisama/令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001541313.pdf提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/04/30 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第24回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>原材料費が高騰して困っています。当社は、私が立ち上げたラーメン店です。自社の製麺所を持ち、スープも麵もこだわったものとなっています。当店で修業した弟子たちが3人開業していて、各店に麺を卸しています。ここ最近、原材料の高騰が続き、利益がほとんど飛んでいきます。周囲に倒産している同業も見られます。この状況を乗り切るために、どのように手を打つべきでしょうか。■デフレ下の経営とインフレ下の経営図1消費者物価指数の推移(総務省、前年同月比)1990年代にバブル経済が崩壊した後、わが国の物価はデフレ基調で推移してきました。デフレ期には物価には低下圧力が加わり、雇用にはマイナスの影響があります。リーマンショックに超円高が加わった2010年前後は、雇用状況が悪化し、自殺者も増えました。一般に、インフレは雇用にはプラスに働くことが多く、タイムラグを経て賃金上昇も生じます。デフレとインフレには、それぞれ負の面もあり、どちらがよいというものではありません。節度あるインフレ下において、着実に経済成長していくことを目指すのが、先進国の経済政策の標準的な姿といえるでしょう。御社のように現役の起業家は、年齢的には長く続いたデフレ環境下に事業を立ち上げている場合が多いです。インフレ状況に直面するのが、業歴が長くともはじめての経験です。これまでとは考え方を変える「マインドセット」が求められる状況と言えます。図1は2013年以降の消費者物価指数の総務省統計局による推移データです。2013年は、アベノミクス元年、すなわち大幅の金融緩和が行われた時です。円という通貨の流動性が上昇したにもかかわらず、ハイパーインフレとならずインフレ率は図1に示されるとおり、2%のインフレターゲットを下回っていました。アベノミクスは、「デフレではない状況」を実現しましたが、インフレターゲットの範囲内で推移したのです。図1に示される通り、コロナ禍における世界中の金融財政政策、あるいは戦争や物流状況の諸状況が重なり、2%を超える状況になったのです。戦争等によるコストプッシュインフレ、経済成長によるディマンドプルインフレ、さらには少子高齢化による供給力不足が合わさり、2%に到達したのです。ガソリン等のエネルギーコストの政策的抑制があり、2%ですから、それらの措置を採らなければもっとインフレ率は高くなったと言われています。現在の物価上昇の原因のいくつかは今後解消されるかもしれませんが、供給力不足は続くと思われます。経済成長志向の「高圧経済」を目指す政策が採用されていますので、経済は成長する中、供給力に制約があるということで、ここしばらくはインフレ圧力が続くでしょう。物価が上昇すると、一定のタイムラグの後、賃金が上昇しますので、企業の人材採用コストの上昇も続くでしょう。リーマンショックの頃との大きな違いは、中国生産への依存がカントリーリスクとなっていることです。中国の大きな供給能力をフルに活用するなら、高圧経済と物価抑制が両立するかもしれませんが、現実には難しそうです。つまり、御社としては、今まで経験したことのないインフレ環境が中期的に続くことを前提に経営戦略を立案するようにマインドセットすべき状況です。■外食産業のビジネスモデル表1外食産業のビジネスモデル1.グローバル経営規模の経済、成長志向2.国内コスト低減規模の経済3.国内価値重視規模の経済、差別化4.地域コスト低減規模の経済5.地域価値重視差別化それでは、次に、生き残る外食産業のビジネスモデルにどのようなものがあるかを考えていきましょう。表1に示されるように、大まかに5つの類型が考えられます。1.グローバル経営型は、国内の競争に勝ち残った企業が海外に進出するパターンです。一方、食文化は国により異なるので、海外市場に受け入れられやすいメニューとそうではないメニューに分かれます。インバウンドで観光客が喜んで食べるメニューは海外でも通用する可能性が高いです。最近大手牛丼チェーンが強化している回転寿司やラーメンという業態は、多くの国や地域で受け入れられる傾向にあります。御社のような中小企業においても、ラーメン業態では海外進出している事例はみられます。ハンバーガーなどの業態では、海外進出の成功例は相対的に少ないようです。グローバル経営型では、味をローカライズ(現地化)するかどうかも問われます。チェーンオペレーションに関する設備やシステム、一部の食材等では規模の経済が得られます。2.国内コスト低減型では、カントリーリスクを取らずに、人口減少する国内における市場占有率を高めていきます。セントラルキッチンに投資し、広域的な規模の経済を発揮していきます。ファミリーレストランのような業態が典型的なものです。財務内容の悪いチェーンは、店舗のリニューアル等に限界があるため、今後の収益力次第です。このタイプは高収益・好財務の企業に集約していく可能性があります。多角化していく中で、コングロマリットディスカウントの事例も見られ、今後は多彩な業態の整理や統廃合も起こるでしょう。3.国内価値重視型は、チェーンオペレーションの確立が難しいので、大企業も苦労しますが、ホテル業や結婚式ビジネスとレストランを並行して行い、シナジーを得るような場合が見られます。店ごとにオペレーションが違うと規模の経済が得られませんが、その場合は優秀な料理人を育成する仕組み等に規模の経済が発揮され、差別化されます。遊休不動産の利活用のような資産運用のスキルが差別化要因となることもあります。4.地域コスト低減型は、特定地域に集中的に店舗立地し、オペレーションコストや物流上の利点を生かす事例、あるいはお手頃価格を実現する中小企業等の事例が見られます。ちょい飲み系の中華等の事例が見られます。地方に行くと、もつ料理、チャーハン、レバニラ炒め等の看板メニューに強みを持ち、安いわりに満足度の高い店があります。メニューを集中させているので、コストと味のバランスが良い状況が保たれているのです。5.地域価値重視型は、そこに行かなければ食べられないという差別化要因を持つスタイルのお店です。特定地域に立地するご当地ハンバーグレストラン等が中堅規模の成功例です。常にフレッシュな状況の食材を店舗に配送し、添加物等は必要最小限とし、大企業との競争を回避するといった工夫が見られます。メニューについては、規模が大きいほど、新メニューを導入し、評判が高いものを定番化する努力をしています。中小企業は定番料理で勝負していく場合が多いようです。新メニューの開発を継続していくには、開発コストが必要となります。地域価値重視型のもう一つのパターンは、チェーンオペレーションでは実現できない品質を有するというものです。小型の店で、予約が先まで埋まっていく。このスタイルですと、家族経営が可能となります。家族の仲が良く、力を合わせて経営し、高価格を頂き、予約制により食材ロスをミニマム化していく。人手不足でも、家族によりある程度のサービスはできる。収益力を高めるなら、修行中の職人を雇う等が可能となります。御社のようにのれん分けし、一部の食材を供給することも一つの方法です。地域価値重視型は、行列ができるか、予約が先まで埋まっているかがカギとなります。御社は製麺所を持ち、修行した弟子たちに面も供給しています。その意味では、表1の5、あるいは4と5の複合型のビジネスモデルをブラッシュアップすべきフェーズにあるといえるでしょう。■インフレ下における御社の戦略体系御社は、寿司や和食に比べてラーメン店という庶民的な業態なので、どの程度高価格とするかはデリケートな問題です。今の常連客を大切にしながら、行列ができる店を目指すのがオーソドックスな将来イメージでしょう。今、御社はおいしいラーメンと町中華的なメニューを揃えているお店です。麺を内製化し、スープにもこだわりを持つ優れた店と言えるでしょう。足りないのは、圧倒的な看板メニューです。色々なメニューがあっても、ほとんどの客が同じメニューを頼む。そのため、生産性は向上していく。そして開店と同時に行列客で店がいっぱいになる。このような状況に至るにはどのようにすべきか。家族で、この問題を徹底的に考え抜くことから始めるべきでしょう。そして、弟子たちの店も含めて、ブランド化していく方策も検討すべきテーマです。インフレが今後も続くとするなら、価格を改定しても顧客の忠誠心が低下しないことが前提となります。表2御社の戦略の体系A.圧倒的な看板メニューの確立B.ブランドの確立C.長期的な別ブランドの確立常に行列がある店であれば価格上昇の影響は、他店より軽微なものとなります。美味しい味を追求するのみならず、そうしたブランドを目指していく時期と言えるでしょう。御社には、複数のお子さんが後継者として入社しています。これは素晴らしい財産です。後継者が育ったなら、起業経験のある社長、あるいは意欲的な後継者は、第二の創業として、高価格帯の別ブランドを企画することも可能です。近年、こうした高価格帯の店を立ち上げて成功している事例も見られます。高付加価値であれば、多少のインフレであっても吸収することは可能です。いずれにせよ、中期的にインフレ環境は続きますので、生き残る中小企業は、表1の4,5の複合したビジネスモデルを確立し、表2のA-Cの戦略のできるところから取り組んでいくことが重要です。「インフレを前提とした経営」を目指す良い時期ではないかと思われます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/04/20 行政DX
国税庁が進める税務行政におけるAIの活用
1.はじめに近年、行政分野では、人口構造の変化に伴う人手不足、事務処理の複雑化、住民や事業者に対するサービス向上の要請を背景として、デジタル技術の導入が加速している。税務行政においても同様であり、国税庁は、申告、調査、徴収、相談対応などの各分野で、データの利活用と業務処理の高度化を進めている(注1)。その中でも、近年とりわけ注目されているのがAIの活用である。税務行政におけるAI活用の意義は、単に職員の作業を省力化することにとどまらず、膨大な申告情報や納税履歴、過去の調査結果、税目間の関連性、業種別の傾向などを横断的に分析することで、限られた行政資源をより効果的に配分し、重点的に確認すべき対象を把握しやすくする点に大きな意味がある。従来は人の経験や勘に依存していた部分についても、データ分析を通じて客観性を高め、税務行政全体の精度を向上させることが期待されている。一方で、このような変化は、納税者である企業や個人事業者にも影響を及ぼす。従来は帳簿や証憑を備えていること自体が評価される場面もあったが、AIにより異常値や不自然な傾向を抽出することが容易になるため、今後は、数値の動きや取引内容について、なぜその処理を行ったのか、どのような経緯があったのかを、第三者に対して合理的に説明できる状態を整えておくことが重要になり、企業側には説明可能性と処理の一貫性がより強く求められるようになると考えられる。本稿では、国税庁が進めているAI活用の現状を整理するとともに、その進展が企業に与える影響や、今後企業等が取り組むべき事項について考察してみたい。2.国税庁におけるAI活用の現状2.1税務調査対象の選定高度化国税庁のAI活用として最も広く認識されているのは、税務調査対象の選定における分析の高度化である。従来、税務調査の対象選定には、申告内容の確認、業種特性、過去の調査実績、担当職員の知見等が用いられてきたが、電子申告の普及や申告情報の蓄積が進む中で、大量のデータを横断的に分析し、調査の優先順位付けを行う手法の有効性が高まっている。令和6事務年度の法人税等の調査事績の概要(注2)には、「AIも活用しながら、あらゆる機会を通じて収集した資料情報等や申告書の分析・検討を行うことにより、調査必要度の高い法人を的確に抽出し、実地調査を実施しました」と記載されており、AIは、申告書や決算情報、消費税・法人税・所得税等の関連情報、過去の修正申告や申告漏れ事例などを基に、一般的傾向から外れる数値や行動パターンを検知し、調査必要性の高い対象を絞り込む補助機能として活用されていると考えられる。このような仕組みが進展すると、従来であれば見落とされ得た軽微な不整合や、税目横断で見たときに浮かび上がる不自然な点も把握されやすくなる。企業にとっては、単年度の法人税申告のみを整えるのではなく、売上計上、仕入計上、役員報酬、交際費、消費税区分、源泉徴収事務等が、全体として矛盾なく管理されていることが重要となる。2.2滞納整理・納税管理における活用AI活用は、税務調査対象の選定に限られない。徴収分野においても、過去の納付履歴や接触履歴等の情報を活用し、滞納整理の実効性を高める方向性がうかがえる。限られた人員の中で、どの納税者に優先的に対応すべきかを判断するうえで、データ分析の重要性は今後さらに高まると考えられる。また、国税だけでなく、東京都練馬区が富士通Japan株式会社と開発した『未納対策支援AI』(注3)のように、自治体においても、AIを用いて未納対策や職員への案件配分の最適化を図る取組が見られる。この点は、税務行政が経験依存型からデータ活用型へと移行しつつあることを象徴している。従来は、担当者の経験や地域事情に基づく判断が大きな比重を占めていたが、AIの導入によって、過去事例の集積を踏まえた客観的かつ再現性のある意思決定が進む可能性がある。このため、企業の立場から見れば、滞納や納付遅延が発生した場合の行政対応が、従来よりも迅速かつ的確になる可能性が高い。そのため、税務対応は調査時のみの問題ではなく、資金繰りの管理、納税資金の確保、期限管理の徹底といった日常的な経営管理の一部として認識する必要がある。2.3AI-OCR等による紙資料のデジタル化税務行政の高度化を支える基盤として、紙情報のデジタル化も重要なポイントである。申告及び届出の電子化は進んでいるものの、なお紙媒体で提出される書類や添付資料は存在する。これに対し、AI-OCR等を活用して紙情報を電子データ化し(注4)、検索及び分析可能な状態に変換する取組が重視されている。紙資料のデジタル化が進めば、単なる保管から一歩進み、情報資産としての活用が可能になるため、過去提出書類との比較、申告内容との整合性確認、税目横断分析など、従来は人手に頼らざるを得なかった確認作業の効率化が見込まれる。2.4データ統合基盤整備の進展とKSK2AI活用を税務に定着させるためには、税務データを個別に保有するだけでは不十分であり、必要な情報を横断的に確認できる統合基盤が求められる。例えば、申告情報、納税履歴、届出情報、調査関連情報などが連携しやすくなれば、個別の数値だけでは見えにくかったリスクも把握しやすくなる。特に重要なのは、単年度・単一税目で見るのではなく、時系列や関連税目を通じて全体像を捉えることが可能となる点である。このような基盤整備の一環として、国税庁は、従来の国税総合管理システムを刷新し、次世代国税総合管理システム「KSK2」の導入を予定している(注5)。KSK2は、それ自体がAIそのものというよりも、税務行政のデータ処理基盤を高度化し、結果としてAI活用を進めやすくするための基盤として重要な意味を持つ。従来の税務行政では、税目ごとに情報が分かれていたり、紙資料が残っていたりすることで、分析可能な情報の範囲や即時性に限界があったが、KSK2の整備により、申告情報、納税履歴、各種届出、調査関連情報などを横断的に把握しやすくなれば、AIが活用できるデータ環境も大きく広がることになる。これにより、法人税、所得税、消費税、相続税など複数の税目をまたいで不整合や異常な動きを把握できれば、個別には見えにくかったリスクも浮かび上がりやすくなり、例えば、法人と代表者個人間の資金移動、関連会社間取引、役員報酬と個人所得の整合性、売上計上と消費税処理の対応関係などを立体的に検討できるようになる可能性がある。さらに、調査現場で、必要な情報へ迅速にアクセスできる環境が整えば、現場で確認した事実とAIによる分析結果を結び付けながら、論点整理や確認作業をより機動的に進めやすくなる。将来的には、過年度比較や業種平均との比較、関連当事者取引の変動状況などを即時に参照し、その場で説明を要する論点を明確にする運用も想定される。もっとも、AIは数値上の異常や傾向の偏りを見つけることはできても、その背景事情や個別の経営判断の合理性まで自動的に理解できるわけではない。そのため、最終的な判断はあくまで税務職員が行い、納税者に対する説明責任や公平性、情報管理の厳格性を確保することが不可欠である。したがって、AI活用は、人の判断を置き換えるものではなく、現時点では人の判断を支える高度な基盤として位置付けるのが適切である。2.5AI活用の効果令和6事務年度法人税等の調査事績の概要(注2)では、法人税・消費税に関する実地調査件数が5万4千件と対前年比7.4%減少する中で、追徴税額の総額は3,407億円(対前年比+6.6%)、調査1件当たりの追徴税額は6,342千円(対前年比+15.4%)と追徴税額が高水準となっていることが示されており、対象選定の精度向上が成果につながっている可能性が示唆されている。これは、すべての納税者を均等に確認するのではなく、リスクの高い案件に重点的に行政資源を投入する「選択と集中」が進んでいることを意味する。しかし、その一方で、どのような基準で対象が抽出されているのかが納税者から見えにくく、不透明感につながるおそれがある点や、学習データの偏りや例外的事情の存在により、本来問題のない案件が異常として抽出される可能性が否定できないとの指摘もある(注6)。AIはあくまで行政判断を支援する手段であり、最終的には人による合理的な確認と説明責任の確保が不可欠であるため、分析結果を過度に信用しすぎると、現場での事情聴取や個別事情の確認が不十分になる懸念もある。この点は行政側だけでなく、対応する企業側にとっても重要なポイントである。2.6税務で用いられるAI国税庁の内部アルゴリズムや運用詳細のすべてが公表されているわけではないため、以下では、税務分野で一般に用いられるAI技術の仕組みを、税務行政への活用場面を念頭に置いて整理してみる。税務で用いられるAIは、一般に想像されがちな「人間の代わりに自動で違法性を判断する」ものではなく、膨大な税務データの中から、通常の傾向と異なる動きや、重点的に確認すべき可能性がある事例を見つけやすくする分析技術にある。言い換えれば、AIは結論を出す主体ではなく、税務職員が確認すべき対象を効率的に絞り込むための補助装置として機能するものである。この仕組みを理解するうえで、まず重要なのは、AIが分析対象とするデータである。税務行政では、申告書の数値、決算情報、納税履歴、届出情報、過去の調査結果、税目間の整合関係、さらには紙で提出された資料をAI-OCRで読み取ってデータ化した情報など、さまざまな情報が対象となり得るが、AIは、こうした大量のデータをそのまま扱うのではなく、まず形式をそろえ、欠損や重複を整理し、分析しやすい状態へ整える。この前処理は、ばらばらの形式で集まった書類を同じ分類基準で整理し直す作業に近い。次に行われるのが、「特徴量」と呼ばれる判断材料の作成である。特徴量とは、AIが比較や判定の手がかりとして使う数値や指標のことである。たとえば、売上高そのものだけではなく、前年からの増減率、粗利率の変化、交際費比率、役員関連支出の推移、消費税の申告内容と売上計上額との対応関係、同業他社と比べたときの数値のずれなどが、特徴量として用いられる可能性がある。そのうえで、AIは大きく分けて二つの方法で活用されることが多い。第一は、「異常検知」である。これは、過去の正常な傾向や同業平均から大きく外れる事例を見つける方法であり、必ずしも過去に不正と確定した事例だけを学習しなくても利用できる。第二は、「予測」や「分類」である。こちらは、過去に調査で申告漏れや修正が確認された事例と、そうでない事例をもとに、どのようなパターンに注意が必要かを学習し、新しい案件に対するリスクの高低を算出する方法である。また、近年では、AI-OCRによって紙資料を読み取り、文字情報をデータ化する技術や、文章の中から取引先名、金額、日付、契約内容などを抽出する自然言語処理の技術も重要になっている。これにより、紙の請求書や契約書、届出書などに含まれる情報も検索や比較の対象にしやすくなる。さらに、税務の分野では、様々な関係者間の関係性を分析する手法の活用も有効である。法人、代表者、親族、関連会社、取引先などのつながりを図式的に捉え、資金移動や取引の流れをネットワークとして見ることで、通常とは異なる取引集中や循環的な資金移動を見つけやすくなる。このような分析は「グラフ分析」や「ネットワーク分析」と呼ばれ、数値だけでは見えにくい関係性の偏りを把握するのに役立つとされる。もっとも、これらの技術が導入されても、最終判断までAIが自動で行うわけではない。税務上の判断には、臨時的な事情、業界特有の商慣行、経営上の合理的な理由など、数値だけでは分からない背景が数多く存在する。そのため、AIが示した「要確認」の結果は、あくまで税務職員が確認を始めるための手がかりであり、最終的には人が資料や説明を踏まえて判断する必要がある。このようなことから、企業側にとって重要なのは、AIそのものを過度に恐れることではなく、こうした技術が「不自然な数値の動き」や「説明のつきにくい処理」を見つけやすくする仕組みであると理解し、自社の記帳、証憑保存、処理ルールの一貫性、説明資料の整備を平時から高めておくことであると言える。3.今後企業等が取り組むべき事項3.1「帳簿がある」から「説明できる」への転換AI活用が進む税務環境において、企業に求められる水準は変化している。従来は、帳簿や証憑が一定程度整備されていれば、税務上の基本的対応として評価される面があった。しかし今後は、単に記録が存在することに加え、その数値や処理の背景を合理的に説明できることが重要となる。このため、企業がまず取り組むべきは、売上、仕入、経費、在庫、資金移動等の基礎データを正確かつ適時に記録することである。例えば、売上が前年対比で大きく増減した場合、役員関連取引が増加した場合などには、その理由を裏付け資料とともに示せる状態が求められる。また、高額取引、臨時費用、役員関連支出、例外処理などについては、請求書や領収書のみならず、契約書、見積書、稟議書、議事録、メール、取引メモ等を含めて保存することが望ましい。重要なのは、「この支出はなぜ必要であったのか」「この処理はなぜこの科目で行ったのか」を第三者が追える状態にしておくことである。また、時系列比較も重視される。各期の処理方針が一貫しているか、同種取引に対する勘定科目や計上基準がぶれていないか、月次推移に異常な変動がないかといった点は、AI分析との親和性が高い。企業としては、「その年だけうまく整える」対応ではなく、継続的に整合性を維持する体制が必要である。3.2会計処理ルールの標準化と内部統制の整備大企業では内部統制や経理規程、システム化が比較的進んでいる一方、中小企業では経理処理が属人的であり、証憑管理や承認フローが曖昧なケースも少なくない。そのため、AIを前提とした税務行政の進展は、特に中小企業に対して実務上の影響が大きいと考えられる。担当者によって勘定科目が異なる、同種取引でも処理時期がばらつく、承認フローが曖昧である、といった状況は、AI分析上も不自然なデータを生みやすい。したがって、経理規程、運用基準、証憑保存ルール、承認手続等を明文化し、誰が担当しても同じ処理結果となる仕組みを整備する必要がある。AI時代には、企業側も自らのデータを分析し、異常値やリスクを把握しておくことが望ましい。前年同月比、粗利率、在庫回転率、交際費比率、役員関連費用の推移など、基本的な管理指標を定期的に確認するだけでも、潜在的リスクの早期発見につながる。このようなセルフチェックは、税務調査対策としてだけでなく、経営判断の精度向上にもつながると考えられるため、税務対応と経営管理を切り離すのではなく、データ品質向上を両者に共通する課題として捉えて対処することが望ましい。3.3生成AI活用に関する社内ルール整備企業自らが、自社のデータを分析し、異常値やリスクを早期に把握する場面や、文書作成補助や情報整理の効率化を図る場面では、企業自身が生成AI等を活用する機会も増えると考えられる。一方で、税法解釈や個別事情の判断には専門性と責任が伴うため、AIはあくまで補助的に用い、最終判断は人が行う体制を徹底することが望ましい。このため、AI活用を進めるに当たっては、機密情報や個人情報の入力制限、AI出力内容のレビュー手順、最終承認者の明確化、利用履歴の管理等に関する社内ルールを策定することが必要である。AIを使う側のルール整備もまた、AI時代の企業実務における重要課題である。3.4専門家との連携強化税理士、公認会計士、社会保険労務士、弁護士等の専門家との連携は、従来以上に重要になる。今後の税務実務では、単なる申告書作成代行ではなく、月次レビュー、異常値分析、役員取引点検、電子保存体制整備、社内規程策定支援など、予防的かつ継続的な関与が求められる。特に中小企業においては、社内人員だけで高度な対応を完結させることは難しい場合が多いため、外部専門家を「調査が来たときだけ相談する相手」ではなく、「平時から管理水準を高める協力者」と位置付けることが望ましい。4.終わりに国税庁が進めるAI活用は、税務調査対象の選定、滞納整理、紙情報のデジタル化、データ統合基盤の整備等を通じて、税務行政全体をデータ駆動型へと転換させる重要な流れである。今後の税務行政は、電子申告の普及を前提として、データの蓄積から分析、分析から重点対応へと進化していくと考えられ、税目横断分析、時系列比較、業種比較、取引関係の把握などが進展すれば、従来は断片的にしか把握できなかったリスク兆候も、より早期に可視化されることになるだろう。この変化は、企業等に対して、従来以上に高度な説明可能性を要求する。すなわち、正確な記帳、一貫した会計処理、十分な証憑保存、税目横断での整合性確保、異常値の事前把握、専門家との連携等を平時から整えておく必要がある。企業側としては、「見つからなければよい」という受動的発想ではなく、「見られても説明できる状態をつくる」という能動的姿勢への転換が求められるが、これを企業にとっての脅威であるととらえるのではなく、自社の管理体制を見直し、持続可能な経営基盤を強化する契機であると考えて対処することが望ましい。<注釈>国税庁,税務行政のデジタル・トランスフォーメーション2023,https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation2023/index.htm国税庁,令和6事務年度法人税等の調査事績の概要,https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/hojin_chosa/index.htm練馬区,練馬区プレスリリース2024年3月27日版,https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/koho/hodo/r6/r603/20240327.files/20240327.pdf国税庁,AI-OCRの概要,https://www.e-tax.nta.go.jp/shiyo/ksk2/ksk2_ai-ocr.htm国税庁,国税庁レポート2025,https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/2025.pdf東京地方税理士会,第51回日税連公開研究討論会デジタル化社会における税理士の役割と納税者の権利利益の保護,https://city.itto.co/koukaiken51/download_file/38/1/東京地方税理士会%20第51回論文集_web用.pdf提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/03/31 医療経営
戦略的医療機関経営 その169
【サマリー】2026年度診療報酬改定も大詰めを迎えている。業界で「短冊」と呼ばれる、改定内容は記載済みだが、新点数は伏字になっている資料が公表された。まだ新点数が明らかになっていないので、定量的に影響度合いを推し量ることはできないが、どのような内容かは明らかになったので、本レポートより、その改定内容の解説を行う。改定内容は病院や診療所など規模や医療機関の持っている診療機能ごとに関係する内容が異なるので、今回のレポートでは、「急性期病院」に関係する内容を解説する。1.基本方針診療報酬改定において、最初に「基本方針」が立てられます。この方針に沿って診療報酬改定の強弱が決まります。今回の基本方針は以下の通りです。物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応【重点課題】2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進安心・安全で質の高い医療の推進効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上(1)が重点課題となっているので、医療機関の経営環境の変化への対応が、大きく変化する可能性が高いということになります。この場合の変化というのは具体的には、新点数、点数のアップなど医療機関側からすると収益が上がる内容となります。次の(2)については、特に現在の人口動態への対応を「地域包括ケアシステム」で行っていますが、そのために医療機関の機能を併せるというメッセージ性が高い方針です。「2040年ごろ」となっていますが、この2040年ごろは、どのような年かというと、高齢者の人口がピークを超し、高齢者人口が減少に転じる年代です。高齢者の人口が医療に与える影響は大きく、医療機関の患者の多くが高齢者です。したがって、患者が減少に転じるとことにも繋がります。さらに少子高齢化が進み、現在より高齢者割合は高くなり、同時に地域により大きく様相が異なることになります。このような状況の変化に医療機関が対応することを診療報酬改定で求めているのです。残りの(3)、(4)はいずれも毎改定で方針に入ってきているものです。2.改定率診療報酬改定率は、+3.09%とプラス改定となりました。基本方針の重点項目にもありましたが、医療機関を取り巻く経営環境の変化への対応のためのプラス改定です。しかし、その中身を詳しく見てみると、特に医療機関の経営者の立場だともろ手を挙げて喜べない状況です。まず、+3.09%ですが、2026年度に3.09%上がるわけではありません。この+3.09%というのは、令和8年度及び令和9年度の2年度平均値です。令和8年度に+2.41%あがり、令和9年度に+3.77%あがるという2段階方式です。医療機関の経営環境がこれほど悪化していて、厚労省もその認識の上での診療報酬改定であるのに、疑問が残ります。さらに改定内容の施行月ですが、2026年6月です。新年度の4月ではありません。少しでも早く施行されるべきだと思いますが2か月後連れします。しかも6月の改定の新点数が実際に医療機関に収入として計上されるのは、8月です。レセプトという医療業界独特の請求方法により、請求は1か月に1回、レセプト(請求内容)が審査されるという過程を経ますので、即入金されるわけではありません。しかも、+3.09%の具体的な中身ですが、賃上げ分として+1.70%となっています。つまり、+3.09%の半分以上は賃上げに回ってしまします。医療機関の従事者にとっては、給与が上がりますので、良い事なのですが、経営者にとっては非常に悩ましいのではないでしょうか。給与はいったん上げると下げることは簡単にできません。その財源としての今回の診療報酬改定ですが、この先の改定もプラス改定になる保証はありません。なお、薬価などについては、以下の通りです。薬の価格、診療材料費の価格を下げて、診療報酬本体に回した形です。ちなみに薬価が下がるということは薬の値段が下がるということなので、生活習慣病などで毎月薬を購入している人は、5月までの値段より、6月以降のほうが支払額が低くなる可能性があります。3.急性期病院に関する改定内容①急性期病院一般入院基本料等の新設急性期の病院にあった一般入院基本料という診療点数がふたつに分かれます。救急搬送件数や全身麻酔手術件数、人口の少ない地域における地域での救急搬送受入状況等を踏まえ、当該病院機能に関する要件を施設基準とした急性期病院一般入院基本料及び急性期病院精神病棟入院基本料を新設するとありますので、基本方針に合ったように、その地域の状況に合わせた急性期医療の診療点数を新設したことになります。具体的には、「特に高い基準を満たす患者の割合に係る指数が●割●分以上、一定程度高い基準を満たす患者の割合に係る指数が●割●分以上の病棟であること。」とあるように、急性期医療の患者である重症度が高い、急性期の疾患の患者の入院患者割合によりAとBに区分されます。新点数はまだ明らかになっていませんが、BよりAの点数のほうが高いと考えられます。急性期の医療機関はこれから若い世代の人口が減少するにつれて、急性期医療機関の患者数も減少すると考えられています。また多くの医者は急性期の医療を行いたいがために医者になっているという動機もあり、今後の急性期医療機関の経営は厳しいものが予想されます。②特定機能病院入院基本料の見直し大学病院の本院などが、特定機能病院です。この特定機能病院は急性期医療の頂点です。しかし、大学病院といえども、経営悪化の波は変わりません。そこで、従来からある特定期病院入院基本料の点数がアップされる予定です。ただし、先ほどの急性期一般入院基本料がAとBに区分されたように、この特定機能病院入院基本料も同じくAとBに区分されます。③特定集中治療室管理料の見直し急性期医療の象徴的な(ICUなどの)集中治療室の管理料ですが、見直される予定です。一般病棟に比べて、集中治療室に入院している患者のほうがこの管理料などもあり患者単価は高いです。そこで、一部の医療機関では、集中治療室に入れなくても良いような患者をあえて集中治療室に入れて高い収益を確保しようとする動きもありました。そこで、重症の救急搬送患者や全身麻酔手術後患者に特に密度の高い医学的管理を行うこと等が特定集中治療室を有する病院が担う役割であることを踏まえ、特定集中治療室管理料について、救急搬送件数及び全身麻酔手術件数に関する病院の実績を要件とするとなります。まだ具体的な救急搬送件数や全身麻酔手術件数は明らかになっていませんが、この2要件が入ったことで、不正請求はできなくなります。また救急車の受け入れを増やそうとする医療機関も当然増えますので、救急車の奪い合いなども場合によっては考えられます。全身麻酔手術患者数が要件に入った理由は、全身麻酔で手術を行う患者は重症度が高いと考えられるからです。この要件がはいったことにより、軽症者ばっかりを入院させていた医療機関は急性医療から排除されることになります。④短期滞在手術等基本料の見直し従来は手術というと、入院してと大変なイメージでしたが、現在は多くの手術が日帰りや1泊程度の入院で実施可能です。その短期滞在術の基本料が見直されます。具体的には対象疾患の追加や診療点数の見直しが行われます。追加疾患)・ガングリオン、眼瞼下垂、緑内障、経皮的シャント、下肢静脈瘤、内視鏡的大腸ポリープ、肛門良性腫瘍、痔核など⑤時間外対応体制加算の充実休日・夜間等の問い合わせや受診へ対応する体制整備を更に推進する観点から、時間外対応加算の評価を見直されます。特に夜間や休日の対応は医療機関の人員も少なく困難です。そこで、この加算点を見直し(点数のアップ)により、休日・夜間に病院を受診する軽症患者の減少や、病院勤務医の負担軽減に繋がる取組を更に推進するとしています。⑥手術等の医療技術の適切な評価医療技術評価分科会における検討結果等を踏まえ、新規技術(先進医療として実施されている技術を含む。)の保険導入及び既収載技術の再評価(廃止を含む。)を行います。簡単に言うと、先進医療のような新規技術に新たに点数をつける。既収載技術は点数を上げたり、下げたりしますということです。総じて難易度の高い手術は診療点数が高いです。⑦高度急性期病院におけるロボット手術の評価の新設本会でも紹介したダヴィンチなどのロボット手術ですが、実施件数の応じた点数となります。内視鏡手術用支援機器を用いた手術について、多数の手術を実施している保険医療機関における医療機器の効率的な活用及び高額医療機器の集約化を図る観点から、ロボット手術について、年間手術実績に応じた新たな評価を行う。具体的には、悪性腫瘍手術及びそれに準じた手術のうち、内視鏡手術用支援機器を用いた手術の症例が年間200例以上である場合の評価を新設されます。新点数名称:内視鏡手術用支援機器加算⑧慢性心不全の再入院予防の評価の新設心不全は一定数、再入院が必要になるケースがあります。心不全治療による再入院予防を推進する観点から、急性心不全で入院した患者に対して、早期から多職種による介入を実施し、退院後も必要な治療を地域で連携して実施した場合について、新たな評価を行います。具体的には、呼吸困難等の症状を伴う急性心不全を発症し入院した患者に対し、地域連携に係る要件を満たした保険医療機関が、多職種により心不全の再入院予防の取組を行う場合の評価を新設されます。新点数名称:心不全再入院予防継続管理料⑨医療DX推進体制整備加算等の見直し特に急性期医療に関連するわけではありませんが、関心が高いと思われますので、記します。医療DX関連施策の進捗状況を踏まえ、普及した関連サービスの活用を基本としつつ、更なる関連サービスの活用による質の高い医療の提供を評価する観点から、診療録管理体制加算、医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の評価を見直されます。具体的には、医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算を廃止し、診療録管理体制加算におけるサイバーセキュリティ対策に係る要件を見直した上で、初診料、再診料、外来診療料及び入院料加算として、電子的診療情報連携体制整備加算を新設することになります。新点数名称:電子的診療情報連携体制整備加算また、ICT等の活用による看護業務効率化の推進のために、ICT機器等の活用により看護要員の業務を軽減したうえで、適切に患者の看護を行うことができる体制がある場合は、看護職員に対する看護師の比率等について、1割以内の減少である場合は、入院基本料等の基準を満たすものとして、所定点数を算定できるよう見直す。と人員基準を緩和してまで、ICTやDXの導入を促しています。具体的なICTの活用とは、全病棟患者の見守り可能なシステム導入、看護記録の自動作成、データ入力→記録→保存→活用が可能なシステム、手に持たず複数人と同時に通話できるシステム、直接対面せず、多人数職員間で情報共有できるシステムが挙げられています。さらに看護業務が軽減した(常勤病棟看護師が平均残業時間が10時間以内)という調査の実施と院内公表が要件となっています。さらに、医師事務作業補助体制加算の見直しでは、生成AIを活用し、退院時要約、診断書及び紹介状等の原案作成を自動的に行い、当該業務を大幅に効率化する医療文書等の文書作成補助システム②診療録、退院時要約、診断書及び紹介状の作成に対応する医療文書等への入力を行う医療文書用の音声入力システム(汎用音声入力機能を除く。)③救急医療情報システム等への医療データ等の定型的な入力作業等を自動化するロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)④入退院時の説明、検査・処置、麻酔・鎮静、手術、インフォームド・コンセント及び医療安全・感染対策等に関する10種類以上の患者向け説明動画が具体的例として挙げられています。生成AIやRPAなどがいよいよ入ってきました。⑩救急外来医療に係る評価の再編救急医療機関における、夜間休日を含めた応需体制の構築及び地域の救急医療に関する取組等の現状を踏まえ、院内トリアージ実施料及び夜間休日救急搬送医学管理料等を見直し、救急外来医療を24時間提供するための人員や設備、検査体制等に応じた新たな評価を行います。具体的には、救急医療機関における夜間休日を含めた医師・看護師等の配置、検査・処方等が可能な体制の構築、地域の救急医療に関する取組等の現状を踏まえ、夜間休日救急搬送医学管理料を見直し、救急診療の実施にあたり十分な人員配置及び設備等を備え、救急外来医療を24時間提供できる体制を有する保険医療機関による救急外来診療に係る評価を新設することと、救急外来医学管理料を算定する意識障害の患者に対し、救急時医療情報閲覧機能及び電子処方箋システムを活用し当該患者の診療情報を取得した場合の評価を新設することになります。この要件をクリアするためには、特に電子処方箋の発行がポイントです。2025年3月時点で医療機関の導入率は1割に満たないです。その理由はシステムトラブルの発生とコードの不一致、電子処方箋の発行のために電子カルテなどの既存システムの改修が必要となり、そのコストのねん出が困難であること、電子処方箋の発行に必要な資格(HPKIカード)が医師や薬剤師には必要ですが、申請から発効まで1から2か月かかり手続きに時間を要すること、そのカードの発行に費用がかかることなどが挙げられます。この点数の要件クリアのために電子処方箋の普及率が上がるでしょうか。⑪救急患者連携搬送料の見直し高次の救急医療機関と他の医療機関との連携を強化し、救急患者の適切な転院搬送の実施及び受入を更に推進する等の観点から、救急患者連携搬送料の要件及び評価を見直します。具体的には、救急患者の適切な転院搬送の実施を更に推進する観点から、救急外来での初期診療後に連携する他の医療機関で入院医療を提供することが適当と判断された救急患者について、入院前に搬送を行う場合の評価を引き上げるとともに、自院等の救急自動車以外を活用して搬送する場合についても評価の対象とする。搬送先医療機関において入院医療を行うことについての評価を新設する。医師、看護師又は救急救命士が同乗して長時間(30分超)搬送を行う場合の評価を新設するとなります。救急患者といえども、適切な機能の医療機関での受信を促す診療点数です。⑫遺伝性乳癌卵巣癌症候群に係る評価の見直し遺伝性乳癌卵巣癌症候群の患者のうち、乳癌及び卵巣癌を発症していない患者に対する両側乳房切除及び卵管・卵巣切除の有効性に関するエビデンスを踏まえ、診断に必要なBRCA1/2遺伝子検査及びがん患者指導管理料の要件を見直します。具体的には、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の症状である乳癌又は卵巣癌を発症していない患者であって、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の家族歴がある患者について、BRCA1/2遺伝子検査及びがん患者指導管理料の対象患者に追加されます。これは乳がんや卵巣がんの一部は遺伝することが知られており、その発生遺伝子も明らかになっています。今まではがん発症患者にしか保険適用されていなかったこの遺伝子検査を、遺伝性乳癌卵巣癌症候群と診断された者の父母、子若しくは兄弟姉妹であれば、保険での検査を認めるというものです。遺伝子検査は後に検査結果が変わるものではないので、一生に一回実施すればよいです。たとえその遺伝子があることが分かっても、日ごろの生活習慣に注意したり、健診の回数を増やしたりすることで、発症を防いだり、遅らせたり、早期発見できたりとメリットはありそうです。本レポートの出典は、中医協に提出された資料です。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/03/31 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第22回)
【サマリー】前稿より今までの投稿のまとめとして、最近の中小企業のM&Aについての国(中小企業庁)の働きかけ、具体的には中小企業のM&Aガイドラインについて解説しています。本稿では中小M&Aガイドラインの参考資料で紹介されている中小企業のM&Aの事例を挙げ、筆者のコメントを述べたいと思います。1.中小M&Aガイドライン(第3版)での中小企業M&Aの事例経済産業省から公表されている中小M&Aガイドライン(第3版)には本文の他に様々な参考資料が紹介されています。特に参考資料4の「中小M&Aの事例」では以下のような内容で具体的な中小企業のM&Aを整理しております。小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例経営状況が良好でない中小企業において中小M&Aが成立した事例親族内承継の頓挫から中小M&Aに移行し成立した事例意思決定のタイミングが中小M&Aの成立内容に影響を与えた事例譲り渡し側の条件の明確化が中小M&Aの成立に寄与した事例従業員の反対にもかかわらず成立した事例廃業を予定していたものの中小M&Aが成立した事例何らかの理由により中小M&Aが成立しなかった事例上記の内容を見ても、中小企業のM&Aは様々なドラマが展開されており、成功もあれば失敗の事例も多く存在します。このような事例を理解しておくことは今後M&Aを検討しようとしている経営者にとって実務上の参考情報として大変有用であるとともに、M&Aを成功裡に進める上での基礎知識として重要と考えます。本稿では当該中小M&Aの事例を挙げて、事例から考えられる教訓や筆者の経験などを紹介します。2.小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例中小企業の経営者の中には、自分が営む事業の売上規模や職員数が小さいためにM&Aの成立に懐疑的な方もいるかもしれません。しかし、M&Aは売上規模や職員数などが大きくなくても成立した事例は多数存在します。(1)計測機器の会社のM&A(事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:計測機器の製造・売上高:3000万円・従業員:3名・業歴:40年◆譲り受け側:B社・業種:計測機器の施工・メンテナンス・売上高:5億円◆関与した支援機関:地元信用金庫、事業承継・引継ぎ支援センター【意思決定に至るまでの経緯】10年前に先代経営者の他界に伴い、当時既に65歳を超えていた佐伯友彦(仮)がA社の社長に就任した。その後、業績は伸び悩み従業員の高齢化も進んだため廃業を検討したが、取引先に迷惑を掛けられないと、事業の継続を決断した。地元信用金庫に相談をしたところ、M&Aの公的機関として事業承継・引継ぎ支援センターを紹介された。佐伯は自社の事業規模や財務状況からM&Aは難しいと考えていたが、同センターでの相談は無料と聞いたため、取りあえず相談した。【成立に至った経緯】佐伯の予想に反し、事業承継・引継ぎ支援センターから4社の紹介を受け、うち2社と面談し、A社の技術力や商圏を高く評価したB社への事業譲渡実行に至った。【成立に至った後の経緯】A社の製品は熟練の技術が必要であるため、A社の従業員は引き続き雇用され、また取引先との関係から佐伯は顧問としてB社の事業拡大に貢献している。上記事例は年商3,000万円、従業員3名というA社がB社に事業を譲り渡したものです。このように中小企業のM&Aでは事業規模などより、商圏や技術力、ノウハウや優良顧客などいわゆる無形資産の価値が重要となります。これらは金銭的に「のれん」として評価されて取引金額に加算されることとなるためにM&Aで事業や株式を譲渡しようと考えている経営者は、まずは自分の会社はどこが強みなのか、その強みは他社へ移転した際にも持続可能なものなのかを見極めることが重要といえます。またM&Aの公的機関としての事業承継・引継ぎ支援センターですが、東京都の場合、東京都事業承継・引継ぎ支援センターは東京商工会議所が国から委託を受けて実施しており、東京23区を中心に第三者承継・従業員承継に関する中小企業等の相談を受け付けていますので、まずはそこに足を運んで相談するのが中小企業のM&Aの第一歩といえます。(2)靴小売業のM&A(個人事業の事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:田中和夫(仮)・業種:靴小売業・売上高:4000万円・従業員:3名・業歴:50年◆譲り受け側:佐藤八郎(仮)・業種:創業希望者◆関与した支援機関:地元信用金庫、日本政策金融公庫、事業承継・引継ぎ支援センター、弁護士、商工会、商工会議所等【意思決定に至るまでの経緯】田中は、靴の小売店を営む72歳の個人事業主で引退したいと考えていたが、親族に継ぐ者はおらず自分の代で廃業せざるを得ないのかと悩んでいた。懇意にしていた商工会の経営指導員より、事業承継の個別説明会を案内され、そこで、個人事業主でも、M&Aで事業を譲り渡した例が多くあるという話を聞いた。自分が育てた事業を、意欲のある人に引き継いでもらえるならありがたいと感じ、M&Aを決意し、事業承継・引継ぎ支援センターにて譲り受け相手を探すこととなった。【成立に至った経緯】田中は、同センターから靴店の創業を希望する佐藤を紹介され、意気投合した。なお、譲受代金について、佐藤の自己資金が不足していたことから、複数の金融機関が協調融資を実施し、更に同センターは弁護士を紹介し契約のサポートをする等、支援機関が一丸となった支援が行われ、事業譲渡実行に至った。【成立に至った後の経緯】事業譲渡実行後、佐藤は事業承継補助金の交付を受け、新たなチャレンジを行う等、精力的な事業拡大に乗り出した。また、田中も引き続き従業員として、佐藤を支えている。上記は個人事業主が新たに個人に対して事業を譲渡した事例となります。総務省の「労働力調査」(2025年)によると、日本で個人事業を営む個人及びその家族従事者は約589万人存在するとのことです。また業種でみるとサービス業(飲食業、理美容業、コンサルタント等)、建設業(いわゆる一人親方)、卸売・小売業(個人商店など)が多いようです。このような個人事業においてもM&Aによる事業承継の事例が報告されております。筆者の経験上、個人事業は事業を他社へ譲渡するより廃業を選択することが多いと思われますが、この事例のように自分の事業に無形資産があり、かつ他社へ譲渡して引き継いでもらいたいという意欲があればM&Aによる自分の事業の継続という道が開ける可能性がありますので、そのような個人事業主にはぜひM&Aにチャレンジしてもらいたいと考えます。(3)寿司・懐石料理店のM&A(他の業種の会社との業務提携)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:寿司・懐石料理店・売上高:3500万円・従業員:5名(うち家族3名)・業歴:30年◆譲り受け側:B社・業種:レジャー業・売上高:50億円◆関与した支援機関:地元信用金庫【意思決定に至るまでの経緯】地元で寿司・懐石料理店を営む宇田川大輔(仮)は、多数の地元常連客に愛されていたが、厨房設備等が老朽化したことに伴い、設備の更新を検討していた。お店の常連でもあった地元信用金庫の担当者に相談したところ、飲食業への参入を検討していたB社をスポンサーとして紹介された。しかし、設備の更新には多額の費用を要することが分かり、自身の年齢から多額の借入を負うことに抵抗があり、また家族からも反対されたことから、廃業を考えていた。【成立に至った経緯】家族経営を行ってきた宇田川は、当初は第三者がスポンサーとなることに抵抗があったが、B社社長の加藤裕三(仮)と面談を重ねる中で、信頼関係を構築した。宇田川は家族経営の維持を条件に、B社から資金援助を受けるのと引換えに飲食店経営のノウハウをB社に提供するという業務提携の合意に至った。【成立に至った後の経緯】A社は、宇田川の希望通り、家族経営を継続したまま、B社からの支援により、老朽化した店舗設備を更新し、内装等も新装することができた。また、B社と協働してグルメサイト等によるPRを行った結果、新規顧客やインバウンド需要による外国人観光客の獲得にも成功している。上記は個人の飲食店が他の業種の会社と業務提携して事業を継続させた事例です。M&Aは主として株式の譲渡または事業の譲渡を行うことで経営権や主要な事業を第三者に引き渡すことが多いのですが、当該事例では飲食店経営のノウハウを相手先に提供することで資金を得て事業そのものを引き続き自分たちで継続している珍しい案件です。当面は事業を自分たちで継続していくものの、どこかのタイミングで当該事業を改めてB社もしくは別の第三者へ譲渡することになるものと思われます。(4)学習塾のM&A(個人への事業譲渡)【当事者情報】◆譲り渡し側:A社・業種:教育業・売上高:5000万円・従業員:5名・業歴:25年◆譲り受け側:三宅一郎(仮)・業種:創業希望者◆関与した支援機関:M&Aプラットフォーマー、(顧問)税理士【意思決定に至るまでの経緯】地域の小・中・高校生が通う個別指導学習塾を経営していた小山克彦(仮)は年齢や持病等により、自身で塾を継続していくことに限界を感じ、廃業を検討。塾の生徒や保護者から塾の存続を望む声が多く、廃業以外の道を顧問税理士に相談したところM&Aの可能性を示唆された。【成立に至った経緯】顧問税理士から紹介されたM&A専門業者とはコスト面で折り合いがつかず、低コストで事業の承継者を探すことができる方法を探していたところ、インターネット上で候補者を探せるマッチングサイトである、M&Aプラットフォームの存在を知った。M&Aプラットフォーム上で複数の候補者から打診を受け、その中で、塾講師の経験があり、学習塾経営の創業希望者であった30代男性会社員の三宅と出会い、基本合意に至った。小山は、三宅の人柄や能力があれば、塾の子供達を安心して任せることができると考え、事業譲渡実行に至った。【成立に至った後の経緯】M&Aプラットフォームを利用したことにより、低コストで中小M&Aが実現した。小山は現在、塾経営の経験がない三宅をサポートし、子供達の成長を見守りながら、地域のボランティアに参加するなど充実したセカンドライフを送っている。上記は学習塾を運営している会社の事業を個人へ譲渡した事例です。今までの3つの事例は地元の金融機関や事業承継・引継ぎ支援センターが案件の仲介役となっていましたが、当該事例ではインターネットでのマッチングサイトで譲渡の相手先を探しています。この理由としてM&A専門業者を利用するとコストがかさむことが挙げられています。確かにM&A専門業者を利用すると高いコストは発生しますが、その分良質な相手先の紹介やM&Aの手続を円滑に遂行できるというメリットもあります。筆者の経験上、中小企業のM&Aは一生に一度経験するかどうかの重要なステージですので、ある程度のコスト発生はやむを得ないのではないかという見解です。従ってインターネットでのマッチングサイトよりは地元の金融機関や事業承継・引継ぎ支援センターへの相談による情報入手が望ましいのではと考えます。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/03/31 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(220)
1.はじめに現代社会は「ストレス社会」とも言われています。人それぞれにストレスを感じる対象は異なるのでしょうが、全くストレスがなく日々の生活を送っている人は皆無と言っても差し支えないでしょう。単純に「ストレス=悪」と考えがちですが、ストレスの全てが悪影響を及ぼすわけではありません。適度なストレスやプレッシャーはそれを乗り越えたときに、自分自身の成長の糧や自信につながります。この「適度」が曲者で、ストレスは定量的に捉えることができず、同じストレスの原因(ストレッサー)にさらされても、ある人にとっては適量でも、別の人にとってはそれを過剰に感じてしまうこともあるわけです。過剰なストレスにさらされた結果、メンタルの不調を訴える人も増加しており、それが原因で長期の休職や退職に至るケースも多くみられています。こうした状況を踏まえ、2015年に従業員50人以上の事業場ではストレスチェックが義務化されています。従業員50人未満の事業場については現在のところ努力義務とされていますが、2025年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」にて、従業員50人未満の事業場にもストレスチェック義務化を拡大することが決まりました。この施行日については「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、まだ確定していませんが、最長でも2028年5月までには企業規模を問わずストレスチェックが義務となる見込みです。この義務化までにはまだ1~2年ある、と感じる向きもあるかもしれませんが、扱う対象は、個々の従業員が感じるストレス、という非常にセンシティブな事柄です。プライバシー保護など個人情報の取扱いには慎重な対応が求められますし、ストレスチェックを行う体制づくりのための人員や資金などをふんだんに割くことは容易ではない……と考えると、早めに着手しておくことに越したことはありません。今回は小規模事業場のストレスチェック義務化にどのように対応していくべきかを考えていきます。2.労働者のメンタルヘルス対策の現状は?厚生労働省では「過労死等の労災補償状況」を毎年発表しています。2024年度の精神障害による労災請求件数は3780件(前年比205件増)であり、うち、1055件に労災補償の支給が決定されています。(前年比172件増)請求件数・支給件数ともに年々増加傾向となっており、様々なストレスによるメンタル不調の増加が統計からも明らかになっています。一方、事業場規模によるストレスチェックの実施状況(注1)には、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場のうち、すでに義務化されている従業員50人以上の事業場では89.8%が実施しているのに対し、努力義務とされている従業員50人未満の小規模事業場においては、従業員30人から49人の事業場で57.8%、10人から29人の事業場で58.1%と低い割合に留まっており、従業員50人以上の事業場とは大きな格差が生じています。では、小規模事業場におけるストレスチェックについて、どのような体制を整備し、準備を進めていけばよいのでしょうか。3.どのような準備をしていくべきか?ストレスチェックの導入にあたっては、先述のとおり、従業員のプライバシー保護の観点から明確なルールづくりが必要と考えます。事前に労使(安全衛生委員会など)で以下の事項について協議を行っていきましょう。1.ストレスチェックの実施方法まず、ストレスチェックを自社で行うのか、外部に委託するのかを決める必要があります。小規模事業場では、従業員のプライバシー保護体制が脆弱なことが多いことから、セキュリティ体制が高く専門知識も豊富な外部機関への委託が推奨されています。2.担当者の選任・実施体制外部に委託する場合でも、担当者の選任や具体的な実施方法は社内で決めなければなりません。以下の事項を協議・決定しておきましょう。自転車通勤を許可する等の方策が考えられます。実施の時期や実施の頻度(年に1回以上)質問票の内容(厚生労働省指定の3項目と追加項目)(注2)高ストレス者の判定基準面接指導を行う医師の選任・面接指導の依頼方法従業員50人未満の事業場に対し、産業保健サービスを提供する公的機関として都道府県ごとに「地域産業保健センター」が設置されています。体制整備に不安がある場合はこちらに相談することも可能です。(相談は無料)3.結果の保存と管理体制ストレスチェックの結果は、従業員のプライバシー関係の情報が多く含まれる非常にセンシティブな内容ですので、保存や管理には厳格なルールを設けることが求められます。個々のデータへのアクセス権限・保管方法などのセキュリティ体制外部機関などの実施者と事業主間の情報共有ルールの明確化(特に人事権を持つ者はストレスチェックの実施者や実施事務従事者として関与することが禁止されている)「なにやらいろいろと手間がかかりそうだ……」といった印象を受けた方も多いかもしれません。義務化とはいえ、ストレスチェックを実施しないこと自体に、現行法令では罰則が設けられていません。しかしながら、ストレスチェック実施後に行うべき所轄労働基準監督署への報告を怠った場合や虚偽の報告を行った場合は50万円以下の罰金が科されることになっています(労働安全衛生法第120条)。こうした法令上の罰則以外にも、企業経営上の数々のリスクがあることは認識しておくべきでしょう。どのようなリスクが考えられるのでしょうか。4.従業員のメンタル不調予防が不十分な場合のリスクとは?ストレスチェックの実施により、従業員がメンタル不調に至る前に対応できる体制が不十分な場合、次のようなリスクが考えられます。1.生産性の低下や離職の増加ただでさえ人手不足感の強い昨今、ギリギリの人員で業務遂行をしている職場が少なくないと思います。そのような状況の中、メンタル不調による欠勤や長期の休職で人員が減少することは、他の従業員の負担増加に直結し、パフォーマンスの低下を招くことになります。この状況が続いてしまうと、メンタル不調を起こしている従業員が退職する恐れがあるだけでなく、第二第三の休職・退職者が発生し、最悪の場合、職場崩壊につながってしまうこともあります。2.安全配慮義務違反と訴訟のリスク過重労働や顧客対応(カスハラなど)などの高ストレスの状況を企業が放置した結果、メンタル不調に至り、長期の療養や自死のきっかけとなった場合、企業は安全配慮義務を果たさなかったとして従業員側から損害賠償を求められ、または訴訟を起こされる可能性があります。3.企業イメージ低下のリスク上記2.に関連することですが、某広告代理店の若手社員が過重労働の末にメンタル不調に陥り自死したことにより、遺族から損害賠償を求める訴訟を提起された事件がありました。マスコミなどでこの「過重労働⇒メンタル不調による自死」の一連の事件を、その広告代理店の社名をつけて「〇〇事件」と呼ばれていることをご存知の方も多いのではないでしょうか。このような不幸な事件の当事者として社名が連呼されるだけでなく、判例として永きにわたり残ってしまうことで企業イメージが低下することは避けられません。また、今や強力な発信力を持つツールとして、誰でもSNSを利用できる時代です。メンタル不調を放置するだけでなく、それを理由とした不当な配置転換、解雇など、従業員に不利益な措置を行った場合、社名入りで実情をSNSに投稿され、これが拡散されることもありえます。企業イメージの低下は業務遂行への影響だけでなく、新規採用や従業員の定着に大きく影響する可能性があります。厚生労働省では、小規模事業場のストレスチェック体制構築の一助として、2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」を策定・公開しています。(注3)このようなマニュアルや地域産業保健センターとの連携により早めの体制づくりをしていきましょう。<注釈>令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_houdou.pdf厚生労働省「ストレスチェック制度導入ガイド」6ページ参照https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/160331-1.pdf厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001646587.pdf提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/03/30 企業経営
昨今の経済情勢を背景に地域企業経営はどう対処するのか
【サマリー】本稿では、経産省系の主な補助金を集めて比較できるようまとめました。経産省系補助金は複雑で理解が難しく、何を申請すべきかよくわからないと、初期段階で挫折する企業も多いです。補助金の選択に役立つ情報となるよう整理しました。前稿ではGO-TECH補助金をご紹介しました。人件費が補助対象となる稀な補助制度で、一般の外注先の対応が難しい補助金です。補助金額が大きく、複数年にわたるという特色があります。現在筆者が旧来からのクライアントの依頼でGO-TECHの申請を代行している状況をふまえて、GO-TECH補助金と申請についてご紹介しました。GO-TECH補助金の申請が難解であるところから、申請情報を使って他の経産省補助金申請がスムーズにできることをご紹介しましたが、経産省の補助金は全体としてどのような構成になっているのかご紹介します。(1)経産省・中企庁の主な補助金(筆者作成)(1)-1:ものづくり補助金の概要ものづくり補助金(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業・小規模事業者が行う生産性向上のための設備投資や新製品開発を支援する、国の代表的な補助制度です。中小企業向けの代表的設備投資補助金補助率:1/2(小規模は2/3)補助額:最大1,000万円前後新製品・新工程などの革新性が必要採択率:約30〜50%①制度の目的中小企業が付加価値額の向上や生産性向上を実現することを目的としています。新製品・新サービスの開発生産プロセスの改善高度な設備投資②対象となる事業以下のような取り組みが対象になります。新製品・新サービスの開発新しい製造方法の導入自動化・省人化設備の導入ITシステムによる業務効率化高付加価値化のための設備投資単なる老朽更新や既存設備の置き換えは対象外。③補助率・補助額④補助対象経費主に設備投資関連経費を補助する制度です。機械装置費(主対象)システム構築費技術導入費外注費試作開発費知的財産関連費運搬費クラウドサービス利用費など(人件費は対象外)⑤申請の基本要件(代表例)3〜5年の事業計画を作成以下のいずれかを達成付加価値額:年平均+3%以上給与支給総額:年平均+1.5%以上(1)-2:持続化補助金の概要小規模事業者持続化補助金(通称:持続化補助金)は、中小企業庁が実施する「小規模事業者向けの販路開拓支援補助金」です。個人事業主や従業員の少ない会社が、売上拡大のための取組に使える代表的な制度です。採択率はおおむね50〜70%前後が一般的。(出典:(株)リアリゼイション調べ)※第14回は2024年①制度の目的小規模事業者の「生産性向上」「持続的発展」を目的として、経営計画に基づく販路開拓などの取り組みを補助する制度です。②対象となる事業者(小規模事業者対象)個人事業主可③補助対象となる主な取組販路開拓や売上向上につながる活動が対象です。ホームページ・ECサイト制作チラシ・広告制作展示会出展新商品開発に伴う試作店舗改装(販促目的)外注費・デザイン費など④補助額と補助率※変動あり(1)-3:事業再構築補助金の概要事業再構築補助金は、ポストコロナの事業構造転換支援として創設された補助金です。経済産業省(中小企業庁)が実施する大型補助制度で、新分野進出や業態転換など「思い切った事業転換」を行う中小企業等を支援するものです。補助額は、様々な枠によって異なっています。最低額は100万円~1.5億円程度まで。採択率は近年急落し難易度が上がっています。(出典:補助金プラス)①制度の特徴メリット補助額が大きく大型投資に対応建物費なども対象になる(他制度より範囲が広い)注意点要件が厳しく事業計画の完成度が重要採択後の事務手続きが多い補助金は後払い(立替資金が必要)②支援対象となる「事業再構築」の例以下のような既存事業と異なる新しい取り組みが対象になります。※単なる設備更新や既存事業の延長は対象外。③主な補助対象経費(1)-4:新事業進出補助金新事業進出補助金は、経済産業省(中小企業庁)が実施する「既存事業とは異なる新分野への進出」を支援する大型補助制度です。2025年度から本格実施された比較的新しい制度で、事業再構築補助金の後継的な位置づけとされています。①対象となる「新事業」の定義次のような既存事業とは異なる挑戦が求められます。単なる設備更新や既存商品の改良は対象外です。新製品・新サービスの提供新市場・新顧客層への進出高付加価値分野への展開②制度の特徴メリット建物費も対象で投資範囲が広い最大9,000万円と比較的大型新規事業立ち上げに特化注意点成長率・賃上げ要件が厳しめ事業計画の実現性評価が重要補助金は原則後払い③主な補助対象経費④主な申請要件(2)まとめ経産省系補助金の主なものの全体像をあらためて整理しご紹介しました。それぞれ目的や補助金額規模や特徴が異なりますので、自社の目的に応じた補助金を選択し、もよりの経産局の担当部署に問い合わせてください。申請へのステップを教えてもらえます。以下に補助金選択のための比較表を作成しました。申請にあたって、事業をまとめて申請書類を作成するプロセスは経営陣の頭の整理に役立ちます。採択か不採択かが死活問題になるような資金繰りが困窮している企業には向きません。結果がどうであれ、頭の整理ができて自社の進むべき道やなすべきことが明確になるための申請を是非積極的に行っていただきたいと思います。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/02/27 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第14回) 雇止め法理2
【サマリー】今月のレポートでは、前回で取り上げた判例解説を踏まえつつ、企業実務において特に重要性の高い他の裁判例を取り上げます。形式上は有期契約や非常勤とされていても、実際の業務内容や人員配置、更新の経緯によっては、裁判所がその実態を評価するケースは少なくありません。本レポートでは、雇用形態の実質判断、雇止めにおける更新期待の有無、企業側に認められる裁量とその限界といった、現場対応を一歩誤るだけで紛争リスクが顕在化しやすい論点について、裁判所がどのような事実関係を重視し、どのような判断枠組みで結論に至っているのかを整理しました。1.重要判例1「東光高岳事件東京高裁令6.10.17判決」定年後に再雇用された労働者が、最初の契約更新時に、吸収合併後の親会社が提示した賃金減額を受け入れなかったことを理由として雇止めされた事案。第一審は、直前の労働条件と同一内容で契約が更新されるとの期待は認められないと判断しました。これに対し東京高裁は、労働契約法19条2号にいう「更新」は必ずしも同一条件での更新に限定されるものではないとした上で、合併後に労働条件を統一する必要性があることを踏まえ、企業の業績が堅調である点を考慮しても賃金減額には合理性があるとして、雇止めを有効と判断しました。<事案の概要>原告Xは、被告会社において定年前は無期雇用で勤務していましたが、60歳定年後、会社の継続雇用制度に基づき、基本賃金月額30万円の条件で、1年更新の有期雇用契約を締結しました。会社の再雇用規程では「原則65歳まで再雇用する」とされていたものの、同時に「労働条件は更新の都度、個別に決定する」と明記されており、同一条件での更新が制度上保証されていたわけではありませんでした。その後、会社は経営状況の悪化等を背景に、完全親会社へ吸収される形で企業統合が行われました。統合後は、人事制度・再雇用制度を親会社の規程に統一する方針が採られ、再雇用者の処遇についても親会社規程に沿った内容へ変更することが予定されていました。この方針については、事前に説明会等を通じて従業員に周知されていたとされています。契約更新の時期に、Xは従前と同一条件での更新を申し込みましたが、会社はこれを受け入れず、賃金引下げを含む複数の条件案を提示しました。Xはいずれの案にも同意せず、結果として契約は期間満了により終了しました。なお、同時期に再雇用されていた他の従業員約125名は、全員が親会社規程に沿った条件で契約を更新しており、Xのみが旧条件の維持を求めていた状況でした。<判決のポイント>本件の最大の争点は、労働契約法19条における「更新の合理的期待」の内容でした。Xは、「定年後も原則65歳まで再雇用されてきた実績があり、同一条件で更新される合理的期待があった」と主張し、会社が同条件更新を拒否したことは不合理な雇止めに当たると訴えました。これに対し、東京高裁はまず、「更新の合理的期待」について重要な整理を行いました。すなわち、更新期待は、必ずしも従前と全く同一の労働条件で更新されることまでを含むものではなく、労働条件が変更される可能性を前提とした上で、雇用が継続されるという期待も含み得ると判示しました。この点は、更新期待の概念を比較的広く捉えた判断として注目されます。しかし、高裁はその上で、本件では会社が提示した条件変更には合理性があり、同一条件での更新が当然に認められる状況ではなかったと判断しました。その理由として、①再雇用規程上、労働条件は更新の都度、決定されるとされていたこと、②企業統合という経営上の大きな変化があり、人事制度を統一する必要性があったこと、③その方針や経営状況について事前に説明や周知が行われていたこと、④他の再雇用者全員が同一ルールで契約しており、Xのみ旧条件を維持することは公平性を欠くこと、などの事情を総合的に考慮しています。これらを踏まえ、東京高裁は、本件雇止めは労働契約法19条に違反するものではなく、Xの請求は理由がないとして棄却しました。<実務への応用>本判決は、定年後再雇用の実務設計に対して非常に示唆的です。まず、「原則65歳まで再雇用する」と規程に記載していても、それだけで同一条件での更新まで約束したことにはならないことが改めて確認されました。再雇用後の労働条件を毎年見直す可能性があるのであれば、その旨を規程や雇用契約書に明確にし、運用と整合させておくことが重要です。次に、再雇用者の賃金引下げや処遇変更を行う場合には、変更の合理性を裏付ける事情を積み重ねることが不可欠であることが示されています。企業統合や経営環境の変化、職務内容や役割の変化、社内の賃金バランスなどを整理し、なぜその水準になるのかを説明できる状態にしておく必要があります。さらに、本件では「他の再雇用者との公平性」が強く意識されました。例外的な処遇を認めることは、職場の不公平感や人事運営上の混乱を招きかねません。再雇用制度は、個別対応よりも制度としての一貫性・説明可能性が重要であることを示しています。最後に、企業統合や制度改定を伴う場合には、早い段階からの説明と記録が極めて重要です。説明会や個別面談を通じて方針を周知し、その内容を記録として残しておくことが、後の紛争予防や裁判対応に直結します。本判決は、定年後再雇用を「単なる延長雇用」と捉えるのではなく、更新・条件変更を含む契約関係として丁寧に設計・運用すべきであることを、実務に強く示した判例だといえるでしょう。2.重要判例2「東京芸術大学事件東京地裁令4.3.28判決」有期の契約が更新されなかったことによる雇止めは不当であるとして、非常勤講師が地位の確認を求めた事案。当該非常勤講師は、委嘱契約の形で約20年にわたり契約更新を受けていました。東京地裁は、同人はそもそも労働契約法上の「労働者」には該当しないと判断し、請求を棄却しました。その理由として、授業内容の決定等について大学から具体的な指揮命令を受けていなかったこと、遅刻や早退に対する賃金控除や社会保険料の徴収が行われていなかったこと、さらに大学の本来的業務を担う不可欠な労働力として組織に組み込まれていなかった点などが考慮されました。<事案の概要>原告は、東京芸術大学において非常勤講師として長年授業を担当していました。契約は年度ごとの有期契約で、形式上は毎年更新されており、結果として約20年にわたり継続して講義を担当していました。担当授業は大学の正規カリキュラムに組み込まれ、教育活動として一定の継続性がありました。しかし大学側は、学内の任期・非常勤講師制度の見直し等を理由に、契約更新を行わず、契約期間満了により関係を終了させました。これに対し原告は、長期間にわたり更新が繰り返されてきたこと大学教育という恒常的業務を担っていたことを理由に、契約更新への合理的期待があったとして、雇止めは労働契約法19条に反すると主張しました。<判決のポイント>本判決のポイントは、雇止めの当否(労働契約法19条)を論じる前に、「そもそも労働契約法の適用対象となる“労働者”なのか」を正面から判断し、そこで結論を出した点にあります。つまり、原告が「20年更新してきたのだから雇止めはおかしい」と主張しても、裁判所はまず「その主張を支える法律(労契法)を使える立場か?」を問い直し、労働者性がない以上、労契法19条による保護(雇止め規制)自体が及ばないという構図を採りました。1)労働者性(使用従属性)の判断が“入口”で決まった裁判所が見たのは、簡単にいえば「大学が講師を“雇って指揮命令で働かせていた”と言えるか」ということです。非常勤講師という肩書があっても、実態が委任・準委任(専門家への業務委託)に近いなら、労基法・労契法上の労働者とはいえません。判決が重視した方向性(資料の趣旨)は、次の通りです。「大学は授業という枠組み(科目、時間割、成績評価の形式等)を用意するが、授業の具体的内容・方法は講師の専門性に委ねられ、大学が日々の労務提供の仕方を細かく指揮命令していたとは言い難い。したがって、講師は大学組織に使用従属して労務を提供する関係ではなく、労働契約法上の労働者には当たらない。」実務的に重要なのは、ここで裁判所が「長期更新」という事情を、労働者性を補強する決定打とは扱わなかった点です。更新が20年続いていても、指揮命令の密度・従属の程度が弱ければ、労働者とはいえないということです。2)それでも裁判所は“念のため”に更新期待も検討している本判決は入口(労働者性否定)で結論が出ますが、実務上の価値は、裁判所がさらに補足的に「仮に労働者だとしても…」という形で、雇止め法理の更新期待にも触れている点です。東光高岳事件とも共通しますが、更新が繰り返されていても、それが大学の教育課程運営上の必要に応じたものであり、制度上も任期制・有期であることが明確で、将来の継続を保証するような大学側の確約もない以上、「更新されるはずだ」という合理的期待までは認められないということになります。3)判決全体の構造を一文で言うと本件は、結論だけ言えば「雇止めが有効」ということですが、より正確には、第一段階:労契法の適用前提(労働者性)を否定→原告の主張する雇止め規制の枠組みがそもそも乗らない第二段階(補足):仮に労働者でも、任期制・確約なし等から更新期待は認めにくいという二段構えで、原告の主張を退けました。<実務への応用>本判決が実務に与える最大の示唆は、雇止めの適法性は「更新回数」や「勤続年数」ではなく、制度設計と実態の整合性によって決まるという点にあります。特に本件では、雇止めの是非を論じる以前に、「そもそも労働契約法の保護対象となる労働者か否か」という入口段階で結論が出されており、実務上のインパクトは非常に大きいといえます。まず重要なのは、長期間にわたり契約更新が続いていたとしても、それだけで労働契約法上の労働者性や雇止め規制が肯定されるわけではないという点です。大学側は、非常勤講師について、授業内容や方法に関する裁量を講師本人に委ね、勤務時間や業務遂行の細部まで指揮命令する関係にはなかったこと、また専属性も弱く、他大学での活動が自由に認められていたことなどから、「使用従属性」が否定されました。これは、大学や研究機関に限らず、企業が外部専門家や非常勤人材を活用する場面全般に当てはまる考え方です。実務的には、雇用として扱うのか、委任・準委任として扱うのかを最初に明確に決め、その位置づけを契約書・規程・現場運用で一貫させることが極めて重要になります。名目上は業務委託や非常勤であっても、実際には出退勤管理を行い、業務の進め方を細かく指示し、代替も認めず、事実上専属的に働かせていれば、労働者性が肯定されるリスクが高まります。本判決は、「肩書」や「契約書のタイトル」ではなく、実態が重要であることを改めて示しています。また、本判決は、仮に労働者性が認められる場合であっても、更新期待が当然に成立するわけではないことも明確にしています。この点から実務上導かれるのは、更新期待を生まないためには、制度と説明の積み重ねが不可欠だということです。契約書や規程で任期制・有期であることを明確にするだけでなく、更新時の面談や通知においても、「更新は自動ではない」「次年度の業務必要性等を踏まえて判断する」という点を、毎回きちんと伝える運用が重要になります。管理者が善意で発した「来年もお願いします」「長く続けてください」といった言葉が、後に更新期待を基礎づける不利な事情として評価されるリスクがあることにも注意が必要です。さらに、本判決は、雇止め対策は「最後の場面」ではなく、日常の運用設計から始まっていることを示しています。契約終了時だけ合理的理由を整えても、それまでの制度設計や説明が曖昧であれば、防御は困難になります。逆に、制度の趣旨、任期の位置づけ、更新の考え方が一貫していれば、20年という長期更新があっても、雇止めが直ちに違法とされるわけではないことが、本判決から読み取れます。総じて東京芸術大学事件は、非常勤・外部専門家・任期制人材を活用する組織に対し、「雇用か否か」「更新をどう位置づけるか」を曖昧にしたまま長年運用することのリスクと、逆に整理しておけば強力な防御になることを明確に示した判例です。実務においては、「雇止めになったらどうするか」ではなく、「雇止め問題が起きない制度と運用をどう作るか」という視点で、この判決を活用することが重要だといえるでしょう。3.重要判例3「グリーントラストうつのみや事件宇都宮地裁令2.6.10判決」緑地保全事業を担う公益財団法人に勤務する非常勤の嘱託職員が、契約更新の上限である5年に到達したことを理由に、平成30年3月末で雇止めとされた事案。背景として、市から財政状況の悪化を踏まえた人員削減の要請がなされていました。裁判所は、本件について整理解雇に関する法理を適用するのが相当であるとした上で、雇止めを回避するための具体的な検討や、対象者選定の合理性について何ら検討がなされた形跡が認められないとして、当該雇止めを無効と判断しました。あわせて、雇止め後に労働者が申し込んでいた無期転換の効力も認めています。<事案の概要>原告は、被告である公益的性格を有する団体(市の財政援助団体)において、当初は非常勤・臨時的な立場で雇用されました。しかし、契約更新を重ねる中で、原告の業務内容は次第に組織の基幹的業務を担う常用的なものへと変容していきました。にもかかわらず、雇用期間の定めは形式的に維持され、更新を含めた当初予定の3年間を大きく超えて契約は継続していました。裁判所は、この時点で、雇用期間の定めは「財源確保の必要性」よりも、使用者側が雇止めを容易にするための名目的なものになりつつあったと評価しています。また、契約更新の手続自体も、実質的な能力評価や業務必要性の検討はほとんど行われず、原告の意向確認を行うだけの形式的なものに変質していました。その後、被告は財政悪化を理由に、更新期間を5年までとする運用に転じ、無期転換申込権が発生する直前のタイミングで契約を更新せず終了させました。原告はこれを不当な雇止めとして、労働契約法19条に基づき地位確認等を求めて提訴しました。<判決のポイント>判決のポイントは、次の3点にまとめられます。1)更新期待を強く肯定した点(労契法19条2号該当)本判決の最大の特徴は、有期契約労働者における「雇用継続への期待」を極めて強く肯定した点にあります。裁判所は、形式的には有期雇用契約が繰り返し締結されていたものの、その実態に着目し、原告の就労状況は当初想定されていた臨時的・補助的業務から、法人の基幹的かつ常用的業務へと質的に変化していたと評価しました。また、雇用期間の定めについても、更新が当然視される運用が長期間継続していたことから、実質的には雇止めを容易にするための名目的なものに過ぎなくなっていたと指摘しています。加えて、契約更新時の手続についても、能力評価や業務必要性といった実質的な審査は行われず、形式的な意思確認にとどまっていた点が重視されました。これらの事情を総合すると、原告が「契約期間満了後も更新される」と期待することには合理的な理由があるとして、裁判所は本件契約が労働契約法19条2号に該当すると明確に認定しています。2)「人員整理的雇止め」として整理解雇法理を適用した点次に裁判所は、本件雇止めの性質について、単なる更新拒否ではなく、人員削減を目的とする「人員整理的雇止め」であると位置づけました。そのうえで、雇止めの有効性を判断するにあたっては、整理解雇と同様に、①人員整理の必要性、②雇止め回避努力の有無・程度、③対象者選定の合理性、④手続の妥当性、という、いわゆる整理解雇の4要件を総合的に考慮すべきと判断しています。しかし本件では、被告法人が市(人事課)からの指導をそのまま受け入れただけで、自らの経営状況や人員体制について主体的な検討を行った形跡が認められないこと、配置転換や契約条件の調整といった雇止め回避の努力が一切なされていないこと、さらに原告を雇止め対象とした合理的な理由や基準が検討されていないことなどが、厳しく指摘されました。また、事前の説明や協議といった手続面についても十分とはいえず、裁判所は、本件雇止めには客観的合理性も社会的相当性も認められないとして、労働契約法19条柱書にいう「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に該当すると判断し、雇止めを無効としました。3)更新みなしと無期転換の連動を認めた点さらに注目されるのは、雇止め無効の効果として、更新みなし(労契法19条)と無期転換(労契法18条)を連動させて判断した点です。裁判所は、雇止めが無効である以上、被告は従前と同一の労働条件で契約更新を承諾したものとみなされるとしたうえで、原告がすでに無期転換の申込みを行っていたことから、平成31年4月1日以降は期間の定めのない労働契約が成立したものと解するのが相当と判断しました。これは、形式的な契約期間にとらわれず、実質的な雇用関係の継続性を重視する姿勢を明確に示した判断といえます。<実務への応用>本判決は、有期雇用を長期間・常用的に使い続けることのリスクを、最も端的に示した判例といえます。第一に、業務実態が基幹的・恒常的であるにもかかわらず、有期契約を形式的に更新し続ける運用は、実質的に雇止めを容易にするための名目にすぎないと見なされ、裁判所はその形式を容易に排斥し、労働者の更新期待を強く保護します。第二に、更新手続の「形式化」です。更新のたびに実質的な審査を行わず、単なる意向確認に終始していれば、それは「更新が当然視されていた」ことの裏返しとして評価され、更新期待を補強する事情となります。第三に、無期転換を回避する目的での雇止めは、人員整理的雇止めとして極めて厳格に審査されるという点です。財政事情や上位団体の指導があったとしても、それだけで合理性は認められません。雇止め回避努力、対象者選定の合理性、説明・協議といったプロセスを欠けば、整理解雇と同様に無効と判断されます。実務上は、有期雇用を5年近く継続させる場合、無期転換を前提に制度設計する基幹業務を担わせるのであれば、早期に無期雇用へ転換するやむを得ず雇止めを検討する場合でも、整理解雇に準じた検討・記録・手続を行うといった対応が不可欠になります。総じてグリーントラストうつのみや事件は、「有期雇用を便利に使い続けた結果、最も重い法的責任を負う」という実務上の警告として、無期転換・雇止め対応を考える際に必ず参考にすべき判例といえるでしょう。提供:税経システム研究所
続きを読む
-
2026/02/27 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第23回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>当社は、祖父の代から東北地方の県庁所在地でニット製品の製造を行っている中小企業です。これまで、商社経由で百貨店・専門店で製品販売を行ってきました。1着丸ごと立体的に編み上げるホールガーメント技術を取り入れ、地場ニット企業として生き残っています。しかし、商社ルートの売上高が大手アパレルチェーン店との競合で低下を続けています。私の代になってから自社製品の直販を工場併設店舗で始めましたが、トータルの売上高は微減状況を続けています。今、工場が町中と郊外に二か所あり、そのうちどちらかに仕事を集約し、空いた方の工場を不動産として有効活用しようと考えています。不動産事業についてどのように考えればよいでしょうか。■ニット業界の状況地場のニット産業は、大手チェーン店の成長もあり、全国的に厳しい状況にあります。ここ数年、廃業の事例も増えている業種です。御社の場合、自社製品の開発を行い、直販しているということで努力している地場企業と言えると思います。御社は、国内メーカーが開発した縫い目のないホールガーメント技術を取り入れるなど努力していますが、大手チェーン店も同様の機能を持つ設備を海外協力工場に導入しています。大手は、企画から製造・販売までを統合したSPA(SpecialitystoreretailerofPrivatelabelApparel)という業態を確立してグローバルに販売体制を整備しています。商社を介した既存の間接販売ルートは衰退しており、さらに直接販売ルートを強化するには企画・開発力が問われます。また、商社ルートの製品と競合した自社製品を販売することは業界慣習的に難しいです。そのため、用途や機能の面で商社ルートの製品とは明確に異なるものを企画・開発する必要があります。その意味では、この市場環境下でニット事業が微減で踏みとどまっているのは、御社は努力している中小企業であると言えます。■繊維系企業の第二創業のパターン繊維系の産業には、社歴が長い企業が多く、編物、織物、紡績など様々なものがあります。すでに淘汰された企業も数多くありますが、新事業により事業構造を変革し、生き残っている事例から学ぶ必要があります。ここでは、経営情報が公開されているSUMINOE株式会社、日清紡ホールディングス株式会社、帝国繊維株式会社、サイボー株式会社の事例を見てみましょう。表1SUMINOE株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1883年、堺緞通(床敷物)で創業1891年、旧議事堂に高級カーペット納入鉄道、自動車用シート、内装材納入インテリア事業(カーペット等)自動車・車両内装事業(内装材):収益の柱機能資材事業(ホットカーペット等):赤字表1に示されている通り、SUMINOEは床敷物で創業した後、高級カーペット分野で地位を確立し、その後、繊維や素材の取り扱い能力を生かして自動車・車両内装事業に参入しています。現在の収益の柱は、自動車・車両内装事業となっていますから、製造業としての第二創業に成功していると言えるでしょう。表2日清紡ホールディングス株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1907年、紡績業で創業、高分子に進出1995年、日清紡都市開発設立(不動産)日本無線、新日本無線子会社化無線・通信(日本無線等):売上最大マイクロデバイス(日清紡MD):赤字ブレーキ(日清紡ブレーキ)精密機器(日清紡メカトロニクス)化学品(日清紡ケミカル)繊維(日清紡テキスタイル)不動産(日清紡都市開発):収益の柱表2に示されている通り、日清紡HDは、短繊維を撚り合わせて長繊維を作る紡績業で創業後、高分子技術を取り入れて化学繊維に力を入れてきました。M&Aを繰り返し、無線・通信事業、素材技術を応用したブレーキ事業等に多角化し、1995年に不動産子会社を設立しています。事業規模は無線・通信事業が大きいのですが、決算を見る限り収益の柱は不動産事業です。なぜ不動産事業に参入するかというと、工場等の遊休不動産の活用の余地が事業のリストラクチャリングを通じて生じたからです。グループが保有する遊休資産の活用や事業所跡地の再開発、オフィス・商業施設の賃貸、宅地分譲に取り組んできました。東京都足立区の西新井社宅跡地を賃貸マンションへ再開発した事例、古い事務所ビルをオフィスビルへ再開発した品川シティビルの事例等があります。歴史ある企業の場合、利便性の高い地域に遊休不動産を保有している場合もあり、その利活用の余地があったのだと言えるでしょう。表3帝国繊維株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1884年、紡績業で創業1902年、消防ホース参入1981年、不動産業に進出防災(消防ホース等):収益の柱繊維(高機能炭素素材等)不動産(SC向け土地賃貸等)表3に示されている通り、帝国繊維の場合も紡績業としての創業ですが、その後、消防ホースというニッチ市場を見つけ、事業機会をつかみ現在の収益の柱としています。不動産事業は、工場跡地をイオンタウン大垣にする等の遊休資産活用を行ったものです。不動産業も収益を計上していますが、利益構造的には製造業として生き残っていると言えます。表4サイボー株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1948年、紡績業で創業、化繊に進出1984年に不動産業に進出繊維事業(原料、ユニフォーム等):赤字不動産業(商業施設、病院施設):収益の柱その他(ゴルフ練習場)表4に示されている通り、サイボーは紡績業として創業し、その後、ユニフォームに力を入れてきたのですが、繊維事業は収益面で苦しいようです。現在の収益の柱は不動産事業となっています。不動産事業では商業施設・病院施設に埼玉県川口市の遊休土地を貸し出しています。商業施設としては、イオンモール川口前川、イオンモール川口があり、病院施設としては、かわぐち心臓呼吸器病院、かわぐちレディースクリニック、2021年に医療モールとしてメディパーク川口前川Ⅱを開発し、支援事業としてビルメンテナンス業務も行っています。これらの事例を見てわかるとおり、戦前・戦後に創業した繊維産業は、二度のオイルショックを経て、他産業より先に縮小し、多角化を進めてきたのです。事業リストラクチャリングの一環で、工場や社宅、ビル等の遊休資産が生じ、その有効活用策として不動産事業が立ち上がっています。ここに掲げた4事例のうち、1.製造分野でより大きい市場をつかんだ事例(SUMINOE)、2.製造分野の新事業も確立されているが不動産事業が収益の柱となっている事例(日清紡HD)、3.不動産業にも進出しているが製造事業の方が収益の柱となっている事例(帝国繊維)、4.不動産業が主力事業となっている事例(サイボー)と分類できます。このように繊維産業では、不動産事業で稼いでいる事例が一定数あることが見て取れます。■不動産をどのように活用するかここまで述べたように繊維産業では不動産業に進出して成果を上げている事例が多いということが言えるでしょう。一方、御社が不動産事業をうまく立ち上げるには課題がいくつかあります。表5不動産事業を立ち上げる際の諸課題1.東北地域の人口減少への配慮2.用途の決定(商業、住宅、他)3.ビジネスパートナーの選定まず、御社は不動産事業に目を向けるのが時期的には少し遅かったかもしれません。先に記した不動産に進出している3事例を見ると、その進出時期は、繊維産業の退潮とまだ日本の人口成長の重なっていた1980年代から1990年代に集中しています。この時期に長期の賃貸借契約を結び、そこで得た資金を県外の成長地域の不動産に投入しておけば、今頃キャピタルゲインを得ることが出来ていたでしょう。今遊休資産の有効活用により不動産業を始める際に重要なのは、御社の立地している東北地方の県では人口減少が全国トップクラスで生じている現状を勘案することです。宮城県仙台市とその周辺に東北の人口は引き寄せられており、それ以外の地域は急減が続いています。御社は、仙台市ではありませんが県庁所在地に立地しているということでまだ人口の減り方は相対的にマイルドです。しかし、投資に対するリターンの面で、人口状況に依存する事業計画の場合リスクがあります。そのリスクに配慮して事業展開していくことになります。長期的収益が確実に見込める場合ですと、「大きく投資して大きく儲ける」というスタイルの事業計画が可能です。一方、リスクが見込まれる場合は、他の企業と連携してリスク分散していくなどの投資方法を考慮することが有益となります。次に考えるべき課題は、商業施設、住宅等の用途から、地域ニーズに合致するのはどれかを明らかにする必要があるということです。サイボーの事例のように、ショッピングモール等に土地を貸して、長期契約を締結し安定した地代が長期的に入ってくるのは魅力です。サイボーが不動産事業に進出していた当時、埼玉県南部は人口が増加していて、減少傾向が見られるようになったのは最近のことです。御社の現在とは事業環境が明らかに異なっています。また土地の大きさと立地次第で、何が向いているかは異なってきます。二つの工場のどちらが、どの事業に適しているかを専門家とディスカッションして考えていく必要があります。また、商業施設の場合、テナントの競争力があるかどうかに依存します。人口減少が進む地方圏では、中小の地場スーパーの廃業も各地で見られます。それに対して、食品スーパー大手は連結売上高1兆円を目指した戦いをしています。国内の人口が減少していく中で、勝ち組として生き残る企業と組まなければなりません。市場競争に敗れて倒産する脆弱なテナントを入れてしまうと収入が途絶えてしまうので、そこに注意が必要です。住宅の分譲や賃貸を選ぶ場合は、高齢化社会では徒歩圏に色々な施設が集中していること、集合住宅の場合は共有部分の機能や公共機関との連携が優れていることが魅力となります。最終的には、人口減少地域においても人が集まるような魅力を持つ施設を作るためのビジネスパートナーを連れてくることが最も重要となります。繊維産業による遊休不動産の利活用には成功例が多数ありますので、それらの成功要因を理解し、その上で表5に示される諸課題を意識して新事業を検討することが求められるでしょう。提供:税経システム研究所
続きを読む
1378 件の結果のうち、 1 から 10 までを表示




