会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2026/07/02 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(27)
1.販売費及び一般管理費の分析についてこのシリーズの(14)以降、販売費及び一般管理費の管理について説明してきました。参照した先行研究として、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]、および、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]を対象とし、そこで定義されている用語、展開される議論および具体的な数値による計算例を検討しました。今回からは、筆者の母校である早稲田大学の先人による先行研究を紹介したいと思います。まずは、筆者が最初に会計学の授業を受けた、染谷恭次郎名誉教授の『経営分析』三訂版[染谷,1984]における議論を検討します。染谷名誉教授は、財務会計における著書が多いのですが、経営分析に関する著書も多く上梓しています。博士論文をベースにした著書を『資金会計論』増補版[染谷,1960]として出版していますが、この研究も経営分析の研究からの展開であると説明されています。染谷名誉教授の『経営分析』は、初版が1961年に刊行されていますが、今回は最終版である三訂版[染谷,1984]を参照します。2.染谷[1984]による「販売費の分析」(その1)染谷[1984]は、第2章「経営数値の分析」の「Ⅲ.原価の分析」において、「§1.製造原価の分析」に引き続き、「§2.販売費の分析」を説明しています[pp.15-18]。そこでは、「販売費の分析は、原価要素別・販売機能別・販売区分別に行なわれる」[染谷,1984,p.15]と分類の基準を述べています。(1)原価要素別の販売費分析原価要素別の販売費分析では、販売費を、給料・旅費・広告費・消耗品費など、支出の目的別に分析します[染谷,1984,p.15]。染谷[1984]によると、「この方法は損益計算書において用いられる方法であり、簡単で実行しやすい」[p.15]ということです。この分類基準は、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における形態別分類、すなわち、「給料、賃金、消耗品費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、租税公課、運賃、保管料、旅費交通費、通信費、広告料等」[三七(一)]という分類と同様の分類基準です。別の見方をすると、「費目別分類」であるともいえるでしょう。(2)販売機能別の販売費分析販売機能別の販売費の分析では、販売費を、販売直接費・広告および販売促進費・配達費・保管費・信用調査および集金費など、販売の諸機能にしたがって分析します[染谷,1984,p.15]。染谷[1984]では、「販売費を販売機能別に分析することは、企業の内部的諸活動の統制を効果的に行なうための費用の比較や標準費用の設定を可能ならしめ、予算の作成と管理を容易にする。販売費を販売機能別に分析するには、いかなる機能別に分析するかを決定し、要素別に計算した販売費をこれらの機能別に分類し集計する」[pp.15-16]と説明しています。染谷[1984]のいう「販売費を機能別に分類し集計する」[pp.15-16]ということは、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における、機能別分類、すなわち、販売費及び一般管理費の要素を、「広告宣伝費、出荷運送費、倉庫費、掛売集金費、販売調査費、販売事務費、企画費、技術研究費、経理費、重役室費等にこれを分類する」[三七(二)]ということとほぼ一致していると理解できます。岡本[2000]でも、このシリーズの(17)で説明したように、機能別の分類を強調しています[岡本,2000,p.694]。染谷[1984]は、販売費の機能別分析の例として、図表1の数値例を示しています。図表1販売費の機能別分析出典:染谷[1984,p.16,第6表]を一部修正染谷[1984]は、注意するべき点として、広告費や運送費などの項目が、原価要素別分析にも、販売機能別分析にも、しばしば同じ名称が用いられることを指摘しています[p.16]。これらの費用項目は、原価要素別に用いられるときは、広告や運送のために直接支出された金額のみが含まれるのに対して、販売機能別分析に用いられるときには、広告や運送の仕事に従事する者の給料その他広告や運送の仕事に関係ある一切の費用が含まれます[染谷,1984,p.16]。この点は、図表1で見ますと、種類の分類による「広告費の行」では、広告の機能で発生した19,350千円のみが合計欄に記入されていますが、機能の分類による「広告の列」では、給料2,900千円、賃借料200千円、保険料2千円、租税公課126千円、減価償却費4千円、光熱費15千円、消耗品費20千円、通信費300千円、広告費19,350千円、雑費75千円で、合計額が22,992千円となっています。したがって、機能別の分析は、図表1では縦の列で見るべきで、横の行はむしろ原価要素別、または費目別の集計であるといってよいでしょう。先述の染谷[1984]における「販売費を販売機能別に分析するには、いかなる機能別に分析するかを決定し、要素別(つまり、費目別に―引用者)に計算した販売費をこれらの機能別に分類し集計する」[pp.15-16]という説明は、この縦の列と横の行との関係について説明していると理解できます。なお、染谷[1984]が示す数値例は、図表1のとおり、単年度の実績値のみについてですが、「販売費を販売機能別に分析することは、企業の内部的諸活動の統制を効果的に行なうための費用の比較や標準費用の設定を可能ならしめ、予算の作成と管理を容易にする」[p.15]という点に鑑みると、図表1では、予算と決算(実績値)との比較とその差異、あるいは、前年度と当年度との比較とその差異としての増減についても計算するべきであると考えられます。この点は、このシリーズの(25)において、岡本[2000,p.710]の示す「図表13-2」を修正した「図表1」のように、「予算・実績・差異」を示したり、「前年度・当年度・増減」を示したりする様式のほうが望ましいといえます。このときの標準値あるいは予算の見積値は、製造原価ではないので標準原価と全く同じように設定することはできないと思います。とはいえ、一般論として、製造原価における標準を設定するときのように、過去のデータにもとづきつつ、当該年度に予測できる個別の要因を加味して設定することになるでしょう。そのためには、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]が製造原価における標準原価の計算を説明しているのと同じように、販売費を、「財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した」[四(一)2]ものを、販売費の標準値とすることができます。また、予算の見積値についても、ほぼ同様の計算手続で設定できると思われます。さらに付け加えると、販売費には、販売量の変動によって比例的に増減する変動費と、販売量が変動しても一定額が発生する固定費とがあります。標準値あるいは予算の見積値を計算するにあたり、その構成要素に変動費と固定費とがあることを考慮して、製造原価における製造間接費の計算と同様に、変動予算を用いることも有効です。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2026『プラクティカル原価計算』第2版、中央経済社。染谷恭次郎、1960『資金会計論』増補版、中央経済社。染谷恭次郎、1961『経営分析』国元書房。染谷恭次郎、1984『経営分析』三訂版、国元書房。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/06/25 財務会計
金融商品に関する会計基準(案)(4) 終
1.はじめに2025年10月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」(以下、「金融商品基準草案」という)、企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」(以下、「適用指針草案」という)等を公表しました。今回は「注記事項」について説明し、本シリーズを終えることにします。2.注記事項(1)金融商品全般の注記の開示目的金融商品に関する注記の開示目的は、金融商品のリスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期および不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです(「金融商品基準草案」40-A1項)。この開示目的を達成するために、次の事項が注記されます(「金融商品基準草案」40-2項)。金融商品の状況に関する事項金融商品に対する取組方針金融商品の内容とそのリスク金融商品に係るリスク管理体制金融商品の時価等に関する事項についての補足説明金融商品の時価等に関する事項金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項(2)信用リスクに関する注記の開示目的「適用指針草案」では、信用リスクに限定した注記の開示目的が示されています(注1)。信用リスクに関する開示目的は、企業の事業目的に照らした債権等の重要性を踏まえ、信用リスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期および不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです(「適用指針草案」71項)。この開示目的を達成するために、信用リスクに関する情報として、次の事項が注記されます。①予想信用損失の分解情報予想信用損失の残高(予想信用損失引当金)の変動についての情報を提供するために、債権等の特徴が類似するグループごとに予想信用損失引当金の期首残高から期末残高への調整表を注記します(「適用指針草案」75項)。「適用指針草案」の開示例1を基にすると、次のような調整表になります。単位:百万円12か月の予想信用損失全期間の予想信用損失期首残高300500全期間の予想信用損失への振替え△808012か月の予想信用損失への振替え20△20購入や売却した債権等110△140期末残高350420②信用リスク管理実務と予想信用損失の算定プロセスに関する情報信用リスク管理実務と信用リスク管理実務が予想信用損失の算定にどのように関連するかを説明するために、信用リスクの著しい増大に関する判定方法、デフォルトの定義およびデフォルトの定義を決定した理由などを注記します(「適用指針草案」79項)。③当期および翌期以降の財務諸表への影響を理解するための情報信用リスク・エクスポージャーを評価し、信用リスクの著しい集中を理解できるようにするために、信用リスク格付ごとに債権等の取得価額または償却原価、信用リスクに対するエクスポージャーを注記します(「適用指針草案」82項)(注2)。内部信用格付による地域別の債権等の開示例は、「適用指針草案」の開示例2-1を基にすると、下表のようになります。単位:百万円内部信用格付国内海外12か月全期間12か月全期間1-290020200103-430050180305-6801405014071023020210この表は、内部信用格付1-2の債権の信用リスクが最も低く、7が最も高いことを示しています。「12か月」は12か月の予想信用損失に等しい金額により算定している債権等の金額、「全期間」は全期間の予想信用損失に等しい金額により算定している債権等の金額です。通常、信用リスクが低い債権については12か月の予想信用損失を、信用リスクが高い債権については全期間の予想信用損失を見積もるケースが多くなると想定されますので、表のような数値傾向が想定されます。このように、「適用指針草案」では、信用リスクに関する注記が、現行の金融商品に関する会計基準と比較すると、拡充されているといえます。3.本シリーズを終えるにあたって4回にわたり、中小企業への影響にも触れながら、「金融商品基準草案」と「適用指針草案」を解説してきました。これらは最終基準ではないので、規定の一部が変更される可能性もありますが、本シリーズの要点をまとめると次のようになります。貸倒見積額が予想信用損失に名称変更し、その算定方法も大きく変わりました。信用リスクに関する注記項目が拡充されました。金融機関による中小企業への融資姿勢に影響を及ぼす可能性があります。したがって、中小企業は、経営計画・改善計画を示し、説明責任を高めることも必要になるでしょう。<注釈>その理由は、会計基準では信用リスクに関する開示だけでなく金融商品に関する全般的な開示目的を定めるのが望ましいとされたからです(「適用指針草案」BC120項)。担保および他の信用補完が予想信用損失に与える影響なども注記されます。提供:税経システム研究所
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2026/06/18 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(12)
1.AI活用で意思決定の高度化を図る生成AIの実務における利用は日増しに進んでおり、管理会計領域においても、差異分析、予算フォーキャスト、レポーティング作成支援など、さまざまな場面で活用されるようになってきました。しかし、AIを利用すれば、ただちに成果が高まるわけではありません。この点、管理会計領域の主要な国際論文誌であるManagementAccountingResearchに掲載されたBoerneretal.(2025)は、重要な示唆を与えています。彼らの研究は、データやAIなどの技術を導入すること自体が、そのまま管理会計部門の有効性向上につながるわけではなく、それらを経営判断に結び付けてはじめて効果が現れることを示しています。すなわち、データやAIの活用は、導入しただけで組織を変革するのではなく、意思決定へ適切に結び付けられてこそ意味を持つのです。この点、昨今見られる多くの議論は、AIに適切な指示(プロンプト)を与えることに焦点を当てています。しかし、管理会計実務において最終的に判断を行うのは、あくまで人間です。したがって、本当に考えるべきなのは、AIがどのような内容を出力するのかという点だけではありません。AIがどのような形で情報を提示し、その出力が人間の判断や意思決定にどのような影響を及ぼすのか、という点まで含めて捉える必要があります。たとえば、同じ業績データをもとに分析を行う場合でも、AIが複数の可能性を示しながら追加的な検討を促すのか、あるいは基準や制約条件への適合を強く意識させるのかによって、人間がその後に進める議論の内容は変わってきます。前者であれば、論点を広げながら複数の選択肢を比較検討する方向へ進むでしょうし、後者であれば、数値や前提条件の妥当性をより慎重に確かめる方向へ進むはずです。このように、AI活用において重要なのは、単に情報を出力させることではありません。AIをどのように介入させるのかによって、人間の注意の向け方、議論の進み方、前提条件の検証の深さ、さらには最終的な判断の質まで変わりうるのです。2.AIに対する人間の反応の多様性AIが提示した情報に対して、人間が常に同じように反応するわけではありません。学術的にも、この点は重要な論点として議論されています。たとえば、AIやシステムが示した答えを、人間が十分に確かめないまま受け入れてしまう傾向は、自動化バイアス(automationbias)として知られています(Bahneretal.2008)。他方で、AIやアルゴリズムが示した提案を、人間が過度に疑い、十分に活用しない傾向は、アルゴリズム嫌悪(algorithmaversion)として説明されています(Casteloetal.2019)。このように、人間はAIの答えを常に信じるわけでもなければ、常に適切に活用できるわけでもありません。たとえ詳細なプロンプトによってAIが正確な情報を出力したとしても、人間がその情報をそのまま受け入れるとは限らず、場合によっては強い疑念や批判を向けることもあります。したがって、AI活用において重要なのは、AIがどのような情報を出力するかだけではありません。その情報を人間がどのように受け止め、どのように判断へ結び付けるのかという点まで視野に入れる必要があるのです。3.生成AIの意思決定への介入と生成AIの性格づけこのような人間の反応の多様性を踏まえると、生成AIを単なる分析結果の提示ツールとして捉えるだけでは不十分だということになります。生成AIは、自然言語を通じて問いかけを行い、代替案を示し、警告を発することによって、人間の注意の向け方や議論の方向に働きかけることができます。つまり、生成AIは、情報を返すだけでなく、意思決定の過程そのものに影響を及ぼしうる存在なのです。ここで重要になるのが、生成AIの「性格づけ」です。生成AIには、利用者に問いかけながら、より広い観点からの検討を促すようなタイプもあれば、基準や制約条件を強く意識させ、前提条件や数値の妥当性を厳密に確認させるようなタイプもあります。前者は、論点を広げ、見落としていた可能性に気づかせることに役立ちますし、後者は、議論を引き締め、判断の妥当性をより慎重に確かめることに役立つ可能性があります。もちろん、どちらが常に優れているというわけではありません。論点を広げるタイプのAIは、新たな選択肢や非財務的な含意に気づかせる一方で、議論が拡散する可能性もあります。逆に、基準や制約条件を強く意識させるタイプのAIは、前提条件の再検証を促す一方で、検討の幅を狭める可能性もあります。すなわち、生成AIの効果は、AIそのものの性能だけで決まるのではなく、AIをどのような性格で設計し、どのようなトーンや形式で働きかけさせるのかによっても変わってくるのです。したがって、AI活用において重視すべきなのは、プロンプトの書き方だけではありません。AIにどのような役割を与えるのか、どのような強さで問いかけや警告を行わせるのか、どのような形で情報を整理して提示させるのかまで含めて設計する必要があります。言い換えれば、生成AIを管理会計実務に組み込む際には、AIの精度だけでなく、AIが人間の意思決定にどのように介入するのかという「介入の設計」そのものが重要になるのです。4.実験研究が示すAI介入設計の重要性筆者らが行った資本投資意思決定に関する実験研究においても、生成AIの介入の仕方によって、人間の議論や判断の進み方に違いがみられる傾向が確認されています。この実験では、論点の広がりや代替案の検討を促す質問型の性格を持つタイプのAIと、投資基準や制約条件への適合を強く意識させる断定型の性格を持つタイプのAIを設定し、実験参加者の会議中の会話や意思決定の結果を比較しました。現時点の分析では、断定型のAIが用いられた場合、参加者はAIの断定的な指摘に対して問い返したり、反発したりしながら、単価、数量、原材料費率、固定費率、補助金条件などを何度も変更し、基準を満たす限界値を探る傾向がみられました。これに対して、質問型のAIが用いられた場合には、AIの示唆を受け入れつつ、競合との関係、ブランド戦略、市場動向、供給リスクといった、より広い論点へ議論が展開していく傾向がみられました。この違いは、AIに対する人間の反応が一様ではないことを示しています。断定型のAIは、利用者に強い制約意識を持たせることで、前提条件や数値の妥当性をより慎重に確認させる方向へ働きかけます。他方で、質問型のAIは、利用者に追加的な論点や代替的な可能性を意識させることで、議論の幅を広げる方向へ働きかけます。つまり、生成AIが意思決定に与える影響は、AIがどれほど正確な情報を返すかだけで決まるのではなく、AIがどのようなトーンで、どのような形で人間に働きかけるのかによっても変わってくるのです。したがって、これからのAI活用で重視すべきなのは、プロンプトの書き方だけではありません。AIにどのような役割を与え、どのような性格づけのもとで、どのように人間の意思決定へ介入させるのかまで含めて設計することが必要になります。AI活用の成否は、どれほど高度なAIを導入したかではなく、AIをどのように意思決定プロセスへ結び付けるかによって決まるのかもしれません。参考文献Bahner,J.E.,Hüper,A.D.,&Manzey,D.(2008).Misuseofautomateddecisionaids:Complacency,automationbiasandtheimpactoftrainingexperience.InternationalJournalofHuman-ComputerStudies,66(9),688–699.https://doi.org/10.1016/j.ijhcs.2008.06.001Boerner,X.,Wiener,M.,&Guenther,T.W.(2025).Controllershipeffectivenessanddigitalization:Sheddinglightontheimportanceofbusinessanalyticscapabilitiesandthebusinesspartnerrole.ManagementAccountingResearch,66,Article100904.https://doi.org/10.1016/j.mar.2024.100904Castelo,N.,Bos,M.W.,&Lehmann,D.R.(2019).Task-dependentalgorithmaversion.JournalofMarketingResearch,56(5),809–825.https://doi.org/10.1177/0022243719851788提供:税経システム研究所
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2026/06/11 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(26)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と販売費分析という意味このシリーズの(19)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による販売地域別分析(その2)(1)直接原価計算方式による予算・実績比較損益計算書前回(25)で説明したように、岡本[2000]は「表13-2」[p.710]として営業所別損益計算書を説明[pp.701-709]しています。ところが、前回(25)の図表1で示した損益計算書の様式は、標準原価計算を前提としてはいますが、全部原価計算方式による様式であるため、「利益統制用にはよいが、利益計画には適さない」[岡本,2000,p.711]と述べています。岡本[2000]では、「利益計画にも利益統制にも役立つためには、直接標準原価計算方式の損益計算書の方がよい」[p.711]と説明しています。直接標準原価計算方式による予算・実績比較損益計算書の様式について、岡本[2000]は、直接原価計算について説明している第10章の[例題10-3]において説明しています[pp.573-582]。ここでは、適宜岡本[2000]の第10章における説明も参照して、岡本[2000]が「表13-3」[pp.711-712]として示した営業所別損益計算書の数値例を修正した図表1にもとづき、販売地域別の分析について説明します。図表1のa列には、利益計画の数値をそのまま記入します。図表1のb列には、業績測定予算の数値を記入します。岡本[2000]では、「業績測定予算(performancebudget)・・・は、広義における変動予算である」[p.580]と説明しています。業績測定予算を用いる理由は、岡本[2000]によると、利益計画における予算販売量と実際販売量とが異なるため、「実績の善し悪しを判断するための、業績測定基準となる予算は、実際販売量に見合う予算でなければならない」[p.580]ということです。そのため、業績測定予算を示すb列では、(1)式のように計算します。売上高の計算を予算販売単価×実際販売量=実際販売量に見合う売上高予算……(1)変動費についても、「実際販売量に見合う」標準変動費の予算を記入します。管理可能固定販売費および管理不能固定販売費は、実際販売量の変動に左右されないので、利益計画の数値をそのまま記入します。図表1のc列には、実績値を記入します。図表1の「貢献利益の差異」の欄では、貢献利益が増加または減少する原因を項目ごとに示しています。図表1において、a列とb列との差として販売量差異を計算し、また、b列とc列との差として価格差異、能率差異、消費差異を計算しています。ここでの差異とは、貢献利益が増加する原因となる差異は有利差異として、貢献利益が減少する原因となる差異は不利差異として考え、不利差異はマイナスの数値とし示しています。出典:岡本[2000,pp.711-712,表13-3]を修正(2)営業所長貢献利益の分析図表1の営業所別の予算・実績比較損益計算書において、営業所長貢献利益は、営業所長の業績測定のための利益であり、営業所貢献利益は、当該営業所の業績測定のための利益です[岡本,2000,p.712]。営業所長貢献利益の差異総額については、次のように計算できます。営業所長貢献利益の差異を分析するにあたり、岡本[2000]は、販売量差異、販売価格差異、変動販売費差異、管理可能固定販売費差異に区分して計算することを説明しています[pp.712-713]。図表1にもとづいて、各差異を計算すると次のとおりです。以上が、岡本[2000]が説明する販売費分析の計算例ですが、冒頭で述べた顧客種類別分析、注文規模別分析、販売経路別分析については、とくに記述はありません。次回以降は、販売費及び一般管理費の管理に関して、他の研究者の先行研究について検討し、紹介していきます。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2026『プラクティカル原価計算』第2版、中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/06/04 財務会計
公益法人制度の改正(14)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)及び「公益法人会計基準の運用指針」(以下、改正運用指針)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回から、具体的な会計処理を説明していきます。まず「金融商品」のなかの金銭債権を取り上げます。15.金融商品の会計処理(1)金融商品とは金融商品とは、金融資産と金融負債の総称です。改正運用指針では、「金融商品関係」というタイトルが用いられていますが、その内容は、金融資産に該当する金銭債権と有価証券、デリバティブ資産の会計処理が規定されています。ちなみに、金融資産とは、「現金預金、未収金及び貸付金等の金銭債権、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びに先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引(以下「デリバティブ取引」という。)により生じる正味の債権等」(改正会計基準、par.83)として説明されています。(2)金銭債権(a)金銭債権の貸借対照表価額(評価額)金銭債権には、上述のとおり、未収金及び貸付金等が含まれます。そして、その貸借対照表価額は、「取得価額から貸倒引当金を控除した金額」(改正会計基準、par.84)とされています。そして、「貸倒引当金は、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて区分し、それぞれ区分ごとの貸倒見積高をもって計上」(改正会計基準、par.84)されます。この点については、改正されたものではありません。(b)金銭債権の区分と貸倒見積額の算定方法改正会計基準では、企業会計の会計処理をそのまま導入して、金銭債権の区分に応じた貸倒見積高の算定方法を規定しています。貸倒れを見積る際の具体的な金銭債権の区分は、次のとおりです(改正運用指針、par.8)。一般債権:経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権貸倒懸念債権:経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか、又は生じる可能性の高い債務者に対する債権破産更生債権等:経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権そしてそれぞれの区分の貸倒見積高は、それぞれ図表15-1で示した方法により算定されます。【図15-1】貸倒見積高の算定方法債権の種類貸倒見積額(見積方法)一般債権債権の状況に応じた過去の貸倒実績率等による貸倒懸念債権財務内容評価法またはキャッシュ・フロー見積法破産更生債権等担保のない部分全額それらの方法のなかで、貸倒懸念債権の区分における2つの方法(財務内容評価法とキャッシュ・フロー見積法)については、追加的説明が必要と思われます。財務内容評価法とは、「債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法」(改正運用指針、par.8)であり、キャッシュ・フロー見積法とは、「債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法」(改正運用指針、par.8)です。{c}キャッシュ・フロー見積法(貸倒懸念債権の場合)の数値例キャッシュ・フロー見積法の貸倒見積高の算定を算式で表現するならば、次のとおりです。【設例】元金1,000,000円、年利子率5%の貸付金について、相手先の財政状態が悪化したため、金利3%に引き下げるとともに、元金の返済期限を当期の決算日(X1年3月31日)からX3年3月31日(2年後)に延期した。利息は、毎年3月31日に,受け取る。この貸付金は、貸倒懸念債権に該当する。《貸倒れの見積り》提供:税経システム研究所
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2026/05/28 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(31)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。中小企業において、原価管理は製品の製造が始まった後の対応になってしまうことが少なくありません。ただし、原材料費の高騰やエネルギー価格の上昇が続く今日では、製品の製造後に現場で改善できる範囲には限界があります。ここで重要になるのが開発購買の考え方です。製品原価の多くの部分が決まるのは、企画・開発の段階です。製品によっては、原価にかかわる要因(コストドライバー)の70%から80%程度が製品開発で決まってしまうとも考えられています(谷2022,p.227)。製造が始まってから部品のコストを抑えるための努力をするよりも、企画・開発段階から低コストで製品を作れる体制づくりを進める方が、目標とする利益の達成に近づく可能性が高くなります。今回の記事では、早期から原価管理に取り組むのに欠かせない開発購買について解説します。2.開発購買について開発購買は、製品の企画・開発の初期段階から購買部門と開発部門を中心に、必要な時には取引先(サプライヤー等)の候補が参加して、最も適した原価、仕様、期間、生産量を達成できるように図面を作り込む活動です(吉田・伊藤2021,p.94)。開発購買は、これまでの記事で解説した原価企画の考え方を基に、早期から原価管理を実行するための手法になります。具体的には、対象となる部品の選定、目標の設定、目標を達成するための図面の作成、サプライヤーの選定と見積り、量産の準備と評価、量産への移行の手順で進められます。これらの活動を行う中で特に重要なのは、以下の事項です。①コストと機能の検討過去の記事でも解説した価値工学(VE)の手法を用いて、製品の機能はそのまま維持、または今よりも向上させながら、より安価な構造や材質に置き換えられないかを検討します。ここでは、顧客が求めていない精度や、過剰なスペックの材質を削ぎ落とすことが重要です。また、②で取り上げる標準化、共通化を進めることも、コストと機能のバランスをとる上で有効です。②標準化、共通化の推進企画・開発段階では、ある機能を実現するためにその製品に特有な仕様の部品や製造工程を追及してしまうことがあります。しかし、特殊な部品や製造工程が増えるほど、コストは高くなります。自社で独自規格の部品があった場合に、特殊な仕様の部品が本当に必要かどうか、市場で調達可能な汎用品に置き換えられないかを考えます。また、自社で扱う他の製品と同じ部品や工程を使えないかという点も、原価管理上重要なポイントになります。こうした標準化、共通化を進めることで購買のボリュームを増やすことができれば単位当たりコストの低減にもつながりますし、在庫管理の効率化や不具合が生じるリスクを減らすこともできます。③サプライヤーの早期巻き込み企画・開発が終わってから取引先へ見積りをとるのでは、コスト低減のために現場で改善できることは限られてしまいます。開発購買では、仕様が決まる前に、候補となるサプライヤーと連携して、サプライヤーが保有する設備で効率的に製造が可能な素材の検討、コストを低減するために削減すべき工程等を検討します。また、試作から量産への移行をスムーズにするため、物流コストや梱包形態、支払い条件までを企画・開発段階でシミュレーションすることもあります。このように早期から取引先を巻き込むことで、取引先の経験や知識を設計に活かしつつ、原価管理を進めることができます。④法規制への対処前回の記事でも取り上げた「取適法(中小受託取引適正化法)」について、開発購買を行う場合に注意が必要です。開発購買では、サプライヤーからコスト低減のアイデアを出してもらいます。ここで、以下のようなことを行った場合には取適法の規定に抵触し、罰則が科される可能性があります。サプライヤーの提案を採用して設計変更を繰り返した後に、発注を一方的にキャンセルする。サプライヤーが出した独自のアイデアを、他の安価な業者に渡して作らせる。こうした行為は、法的リスクを高めるだけでなく、業界内での信頼を失うことにもなります。健全な開発購買を行うためには、自社とサプライヤー相互の利益に基づく適正な関係を築くことが重要です。3.中小企業で開発購買に取り組む時に注意する点リソースが限られている中小企業において、大企業のように開発購買のために専用のスタッフやチームを配置したり、高額のシステムを導入したりすることは現実的ではないかもしれません。その場合には、既存の体制を活かして、下記の点に注意すると良いでしょう。設計の担当者は、自分が使い慣れた部品や昔からの付き合いがある業者を優先しがちです。また、設計の担当者だけにコスト意識を持たせるのには限界があります。この対策として、購買担当者に「最新の材料相場」や「新しい技術を持つ新規業者の候補」を提示させ、設計の選択肢を増やす仕組みを作ることが効果的です。部品単位あたりの金額というような結果だけにとらわれず、その内訳(材料費、加工賃、管理費、利益)を分解して議論することが、具体的な施策の実行にも役立ちます。もし、会計事務所の職員がクライアントの原価管理にかかわられている場合には、報告書に記載された数字だけでなく、主要製品の製造原価に関する情報収集を支援することや、どの費目が自社の利益を圧迫しているかを可視化できるように指導することが効果的です。原価管理では、先月の原価情報のように事後的な評価になりがちです。開発購買では、今後見込まれる原価の目標達成率に注意しつつ、企画・開発の段階から管理を進めます。目標とする利益を確保できるようにいち早く原価を作り込むという考え方を企業全体で浸透させることが必要です。このように企業の状況に合わせて開発購買を導入することで、例えば、物流費の高騰を見越して、部品の形状を工夫し、製品の積載効率を高める、というように、コスト増大による影響を受けづらい施策を早期に実行することが可能です。4.おわりに開発購買は、単なるコストダウンの手法ではありません。設計、購買、製造等の社内の関連部署はもちろん、外部のサプライヤーも参加しながら利益を生み出すための組織的な活動です。開発購買に取り組むことは、中小企業の経営陣にとっては、現場の努力を確実な利益に変えるための投資にもなります。また、経理担当者や会計事務所の職員にとっては、数字の集計にとどまらず、企業として利益が出る構造になっているかどうかをものづくりの源流からチェックするためのアドバイザーとしてのスキルを発揮するチャンスにもなります。購買活動の早い時期から原価を意識した管理を進めることで、企業内の業務を見直す機会を増やしていくことが重要です。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.提供:税経システム研究所
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2026/05/28 財務会計
金融商品に関する会計基準(案)(3)
1.はじめに2025年10月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」(以下、「金融商品基準草案」という)、企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」(以下、「適用指針草案」という)等を公表しました。本シリーズでは、現行基準から改正された点を中心に、可能な限り中小企業に与えうる影響にも触れながら、「金融商品基準草案」を解説します。今回は、「予想信用損失の算定」(現行基準における貸倒見積高の算定)について説明します。すでに解説したように(第1回、第2回レポートを参照)、債権の貸借対照表価額は、原則として取得価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とします。ただし、貸付金と重要な金融要素を含む債権については、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とします(「金融商品基準草案」14項)。このように、「金融商品基準草案」では、現行基準における一般債権、貸倒懸念債権および破産更生債権等の3区分を廃止することが提案されています。【予想信用損失の算定が中小企業に与えうる影響】予想信用損失の算定は、金融機関の与信姿勢の変化を通じて、間接的に中小企業の経営に影響を及ぼす可能性があります。金融機関にとって、予想信用損失が多くなると利益が減り、結果として自己資本も減ります(注1)。金融機関は、このようなことを避けるために、信用力が弱い中小企業に対して、与信枠の縮小・新規融資の慎重・金利や条件(財務制限条項)の厳格化といった対応をする可能性があります。予想信用損失の算定には、将来シナリオが使われます。したがって、中小企業は、将来の事業計画や財務数値予想を金融機関に対して説明することが求められるケースもあるでしょう。たとえば、次のようなことを金融機関に対して説明することにより、「信用リスクが著しく増加していない」と判断されるかもしれません。固定費が多すぎると、売上の減少時に固定費が負担となって赤字になりやすいので、固定費の削減計画売上・利益・キャッシュ・フローなどの減少(悪化)が一時的要因か構造的要因かの分析と、その対応策2.予想信用損失の算定方法予想信用損失は、以下を反映する方法により算定します(「金融商品基準草案」27-2項、「適用指針草案」49項)。偏りがなく確率加重された金額貨幣の時間価値様々な予測に関して、過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報(たとえば、企業内部における貸倒実績、内部信用格付など)予想信用損失の算定において、特に実務上の負担が重いと考えられる項目については、「簡素化された予想信用損失の算定方法」が認められています。以下、見積期間、確率による加重計算、貨幣の時間価値について、原則的方法と簡素化された方法を説明します。(1)見積期間①原則予想信用損失の算定に使用する見積期間は、原則として、貸手が信用リスクに晒される契約上の最長期間を用います(「適用指針草案」39項)。②簡素化された方法内部信用格付を活用して判定する方法(2026年2月度レポートを参照)を用いている場合、正常先のうち要判定格付、その他要注意先また要管理先に区分された内部信用格付に含まれる債務者に対する債権等については、それぞれの区分の単位で、リスク特性が類似した債権等のグループごと平均残存期間を用いることができます。一度、決定した平均残存期間については、状況に大きな変化がない限り、継続して用いることができます(「適用指針草案」69項)。(2)確率による加重計算①原則予想信用損失の算定を行う際には、すべてのシナリオを特定する必要はありませんが、信用損失が発生する可能性と信用損失が発生しない可能性の両方の可能性を反映します。その際、信用損失が発生しないことが最も可能性の高い場合や信用損失が発生する可能性が非常に低い場合であっても、信用損失が発生する可能性と信用損失が発生しない可能性の両方の可能性を反映して、信用損失が発生するリスクまたは確率を考慮します(「適用指針草案」43項)。②簡素化された方法信用損失が発生する可能性について、最も可能性が高い将来予測シナリオのみを考慮することができます(「適用指針草案」64項)。(3)貨幣の時間価値①原則予想信用損失の算定に貨幣の時間価値を考慮する場合には、デフォルトが発生すると予測される時点までの期間ではなく、期末までの期間にわたり、予想信用損失を割り引きます。割引率としては、債権等の発生の認識時における実効金利またはその近似値を用います(「適用指針草案」47項、48項)。②簡素化された方法貸付金と重要な金融要素を含む債権については、実効金利の代わりに約定金利(または約定金利相当の率)を用いて割引を行うことができます(「適用指針草案」65項)。【数値例】貸付金10億円(満期日は1年後)、実効金利5%、見積期間12か月3つのシナリオを想定する。シナリオ発生確率デフォルト確率デフォルト時の損失率各シナリオの予想信用損失景気後退20%5%60%10億×20%×5%×60%=600万円現状維持50%2%50%10億×50%×2%×50%=500万円景気回復30%1%40%10億×30%×1%×40%=120万円予想信用損失の合計:600万円+500万円+120万円=1,220万円上記の現在価値:1,220万円÷(1+0.05)≒1,162万円したがって、原則的方法では、計上される貸倒引当金は1,162万円になります。なお、簡素化された方法で、最も可能性が高い将来予測シナリオのみを考慮した場合、計上される貸倒引当金は500万円÷(1+0.05)≒476万円になります。3.一般事業会社の営業債権等に係る簡便的な取扱い一般事業会社の通常の営業取引から生じる営業債権(「収益認識に関する会計基準」の範囲に含まれる取引から生じる受取手形や売掛金等)とリース債権については、簡便的な取扱いが提案されています。ただし、リース債権に関する簡便的な取扱いの説明は割愛します。(1)信用リスクの著しい増大に関する判定信用リスクの著しい増大の判定をせずに全期間の予想信用損失に等しい金額により算定することができます(「金融商品基準草案」28-4項、28-5項)。(2)予想信用損失の算定方法予想信用損失を算定する際は、貸倒実績に基づき、一定の期日経過日数(例えば、期日未経過、1か月以内期日経過、1か月超3か月以内の期日経過、3か月超6か月以内の期日経過等)に応じた引当率を定める方法を用いることができます(「適用指針草案」38項)。「適用指針草案」の設例10で示されている数値例は、次のとおりです。【数値例】A社は、30,000百万円の売掛金を有しており、その期日経過に応じた引当率を次のように見積もった。期日経過なし1か月以内の期日経過1か月超2か月以内の期日経過2か月超3か月以内の期日経過3か月超の期日経過引当率0.3%1.6%3.6%6.6%10.6%この場合、予想信用損失は次のように算定されるので、計上される貸倒引当金は580百万円になります(単位:百万円)。取得価額予想信用損失(取得価額×引当率)期日経過なし15,000451か月以内の期日経過7,5001201か月超2か月以内の期日経過4,0001442か月超3か月以内の期日経過2,5001653か月超の期日経過1,00010630,0005804.まとめここまでをまとめると、次のようになります。主に金融機関が対象主に一般事業会社が対象予想信用損失の算定方法について、原則的な方法と簡素化された方法がある。後者の方法では、次の項目について簡素化されている。①信用リスクの著しい増大に関する判定②債権等の予想存続期間③将来予測シナリオ④貨幣の時間価値収益認識に関する会計基準」の範囲に含まれる取引から生じた受取手形や売掛金等については、簡便的な取り扱いがある。①信用リスクの著しい増大の判定をせずに全期間の予想信用損失に等しい金額により算定することができる。②貸倒実績に基づき、期日経過日数に応じた引当率を用いることができる。【参考文献】岡田慎太郎(2024)「邦銀における予想信用損失モデルに関する考察」『千葉経済論叢』、70、pp.37-52。<注釈>岡田(2024)は、日本の銀行業のうちニューヨーク証券取引所に上場している3社(三菱UFJ、三井住友、みずほ)について、予想信用損失モデルと日本基準による貸倒引当金残高の比較を行っている。その結果、3社の引当率の平均値はいずれも予想信用損失モデルの方が日本基準より高く、予想信用損失モデルでは貸倒引当金の引当水準を押し上げる傾向があることを示している。ただし、2社(三菱UFJとみずほ)については、予想信用損失モデルと日本基準の差に縮小の傾向があることも示されている。提供:税経システム研究所
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2026/05/21 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(11)
1.AI活用のガバナンス:説明可能性と責任をどのように管理するか生成AIは、業務の効率化や分析の高度化という観点から大きな注目を集めています。管理会計実務においても、文章作成、差異分析、予算フォーキャスト、レポーティング支援など、生成AIが活用される場面は着実に広がってきました。事実、生成AIをうまく活用することができれば、これまで多くの時間を要していた集計や分析、説明資料の作成などを大幅に効率化することが可能となり、管理会計の高度化を低コストで実現できる可能性があるのです。しかし、ここで注意しなければならないのは、AI活用は、成果が出たかどうかだけで評価できるものではないという点です。たとえば、生成AIによってレポート作成の時間が短縮されたとしても、その出力の前提に誤りが含まれていた場合や、文脈にそぐわない解釈が入り込んでいた場合には、かえって判断を誤らせてしまうこともあります。また、後からその判断の理由を問われたときに、「AIがそう言ったから」としか説明できないようでは、企業として責任ある意思決定を行っているとは言えません。これからのAI活用において問われるのは、「成果が出たか」だけではありません。「どのように使われたのか」「誰がその結果に責任を負うのか」「問題が起きたときに、その理由を後から説明できるのか」まで含めて考える必要があります。つまり、AIの活用において重要なのは、AIが優れた答えを返すことだけではなく、その答えを人間がどのように受け止め、どのように判断し、どのように責任を持つのかという点なのです。2.EUのAIActが示すものこうした問題意識を考えるうえで参考になるのが、EUのAIActです。AIActは、AIの利用に関するEU域内における包括的な法的枠組みであり、AIを一律に規制するのではなく、リスクの大きさに応じて必要な対応を求める仕組みとなっています。ここで重要なのは、この制度がAIの利用そのものを問題視しているわけではないという点です。AIActが重視しているのは、AIがどのような目的で使われるのか、その利用が人々や社会にどのような影響を与えるのか、そして、人がどのようにそれを監督するのかという点です。たとえば、人々の権利や生活に大きな影響を及ぼす可能性のある高リスクAIについては、適切なリスク管理、記録の保存、透明性の確保、人による監督などが求められています。これは、AIの精度だけでなく、AIの利用過程そのものが問われていることを意味しています。日本企業にとって、EUの制度は一見すると距離のある話に感じられるかもしれません。しかし、ここで本当に重要なのは、AIActという制度そのものよりも、その背景にある考え方です。すなわち、AIの活用においては、「よい成果が出たか」だけではなく、「その成果がどのように生み出されたのか」「誰がそれに責任を持つのか」が重視される時代になってきたという点です。3.管理会計におけるAIアカウンタビリティ(説明責任)の重要性この問題は、管理会計の仕組みをデザインするうえで極めて重要です。なぜなら、管理会計とは本来、組織の活動を見える化し、責任を明確にし、継続的な改善につなげるための仕組みだからです。これまで管理会計では、売上高、利益率、原価差異、キャッシュフロー、生産性といった項目を数値化し、責任単位ごとに管理してきました。これは、成果を把握するだけでなく、「誰が」「どのように」その成果を生み出したのかを明らかにするためでもあります。AI活用の時代においては、この管理対象がさらに広がることになります。なぜなら、売上高や利益率だけでなく、「AIがどの業務で使われているのか」「その出力を誰が確認しているのか」「どのような判断のもとで利用されているのか」といった点もまた、管理対象として捉える必要があるからです。たとえば、生成AIを用いて予算実績差異分析のコメントを自動生成した場合、その文章がもっともらしく見えたとしても、その内容をそのまま採用してよいとは限りません。重要なのは、AIの出力を誰が確認し、どのような点を踏まえて採用したのかということです。この確認や判断の過程が曖昧であれば、AIを使って効率化はできたとしても、責任ある経営管理にはつながりません。この意味で、管理会計にAIを活用する場合、成果を管理するだけでなく、AIがどのように使われたのか、誰が責任を負うのかを明確にし、その判断の理由を説明できる状態を維持することが求められます。すなわち、AIアカウンタビリティが求められるのです。4.AIアカウンタビリティはどのように管理すべきかでは、AIアカウンタビリティは、どのように管理する必要があるのでしょうか。この点、まずは、「AIがどのような対象に対して、どのように使われたのか」を見える化することが必要です。AIがどの業務で使われているのか、どの部門で利用されているのか、どのような目的で用いられているのかが見えていなければ、管理すべき対象を定めることはできません。したがって、AI利用案件の登録状況や、利用目的の整理状況などをリスト化することが必要になります。次に、各管理対象に対して「誰が責任を負うのか」を明確にすることです。AIの出力に基づいて何らかの判断を行う場合、その最終判断を誰が担うのかが明確でなければなりません。たとえば、AIが作成したコメントや分析結果を人が確認したのか、最終的な採否を誰が決定したのか、その理由が残されているのかといった点は、責任ある意思決定において、極めて重要です。AIが補助を行ったとしても、意思決定の責任そのものまでAIに移すことはできないからです。さいごに、意思決定の結果やプロセスを「事後的に検証可能な形にするための仕組みを作る」ことです。ここでいう「検証可能」の意味は、失敗したときの責任を個人がとるべきであるということではありません。なぜその出力結果を使ったのか、なぜその判断を採用したのか、どのようなデータやプロンプトのもとで結果が得られたのかを、人間が後からきちんと説明し、検証できるようにすることが必要となるのです。これは、意思決定の失敗の原因と課題を明らかにし、真の意味での意思決定の高度化を図るためでもあります。また、これらに関連して、AIガバナンスのKPIを設定することも重要です。AI利用案件の把握状況、責任者の設定状況、人手による確認の実施状況、採否理由の記録状況といった情報がどの程度整備されているのか、指標を設定して管理していくことも一案でしょう。もちろん、重要なのは、これらの指標を増やすこと自体ではありません。説明可能性や責任を、抽象的な理念のままにせず、日々の経営管理のなかで確認できる状態にしておくことが肝要なのです。5.真の意味でのAI活用に向けて生成AIは、管理会計実務を大きく変える可能性を持っています。集計や分析、レポート作成などを効率化し、より多くの論点を短時間で検討することを可能にするからです。しかし、その一方で、AIが出力した結果を無批判に受け入れてしまえば、かえって意思決定の質を低下させてしまうおそれもあります。したがって、真の意味でAIを活用するためには、AIを単なる効率化の道具としてではなく、人間の判断を支えるための手段として位置づけることが重要です。ここで求められるのは、AIを使うことそれ自体ではなく、AIを適切に使いこなすことです。AIが提示した分析結果やコメントは、あくまで意思決定のたたき台や補助情報として捉え、最終的には、組織の状況や現場の文脈を踏まえて、人間が判断し、責任を負わなければなりません。AI活用の高度化とは、AIに判断を委ねることではなく、AIを活用しながら人間の判断の質を高めることにほかならないのです。生成AIは、会計情報をより効果的に活用するための強力なツールとなります。しかし、あくまでそれは経営のサポートツールに過ぎません。だからこそ、AI活用においては、成果だけでなく、その使われ方や説明可能性、責任の所在まで含めて管理することが必要になるのです。AIの時代においてこそ、使う側の知識と判断の重要性を改めて認識する必要があるのではないでしょうか。提供:税経システム研究所
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2026/05/14 財務会計
公益法人制度の改正(13)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、改正会計基準のなかで、重要な位置づけとなった財務諸表の「注記」を取り上げます。14.注記(1)注記の充実この度の公益法人会計基準の改正内容のなかで、財務諸表本体を簡素化するとともに、財務諸表の注記の充実が図られました。その趣旨は、財務諸表本体は情報利用者にとってわかりやすい形とし、情報利用者のニーズに応えるために、注記に、詳細な情報を含めることになったとされています。別の表現をするならば、従来、財務諸表本体で明らかにしていた内容を、注記に移したと言えます。そして充実が図られた注記については、「公益法人の財務諸表には、重要な会計方針、重要な後発事象、固有の表示科目の内容その他公益法人の状況を適切に開示するために必要な事項を注記する。」(改正会計基準、par.67(1))とされています。(2)重要な会計方針に係る注記上述のとおり、重要な会計方針については、注記が求められています。会計方針とは、企業会計上の定義と同様に、「財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続」(注1)です。そして注記する会計方針の例として、次のものが例示されています。「(1)有価証券の評価基準及び評価方法(2)棚卸資産の評価基準及び評価方法(3)固定資産の減価償却の方法(4)外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準(5)引当金の計上根拠及び計上基準(6)キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲(7)消費税等の会計処理(8)その他財務諸表作成のための基本となる事項」(改正会計基準、par.69)そしてそうした会計方針について変更を行った(会計方針の変更の)場合には、重要な会計方針の注記の次に、「その旨、変更の理由及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容」(改正会計基準、par.68(1))を注記することになります。(3)表示方法または会計上の見積りの変更表示方法の変更を行った場合には、「その内容」(改正会計基準、par.68(2))、「会計上の見積りの変更を行った場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容」(改正会計基準、par.68(3))の注記を、会計方針の変更に係る注記の次に、記載することになります(注2)。表示方法とは、「財務諸表の作成に当たって、その会計情報を示すために採用した表示の方法(注記による開示を含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列及び報告様式が含まれる。」(改正会計基準、par.70)と説明されています。科目分類は、例えば、資産や負債についての流動と固定の分類があり、科目配列としては、流動性配列法や固定性配列法などがあります。さらに報告様式としては、報告式や勘定式などがあります。また会計上の見積りとは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」(改正会計基準、par.71)と説明されています。したがって、事後に新たに入手可能となった情報により、より合理的な金額を算出されることになったような場合、会計上の見積りの変更が生じると思われます。(4)重要な後発事象の注記後発事象とは、「貸借対照表日後に発生した事象で、次期以降の財政状態及び活動運営状況に影響を及ぼすもの」(改正会計基準、par.72括弧書き)を指します。そして、財務諸表には、その作成日までに発生した重要な後発事象を注記することが求められます(改正会計基準、par.72)。なお、重要な後発事象として、次の事象が例示されています。「(1)主要な業務の開始又は廃止(2)国又は地方公共団体からの補助金交付、寄付者からの寄付金交付の重大な変更(3)火災、出水等による重大な損害の発生」(改正会計基準、par.73)(5)固有の表示科目の内容その他公益法人の状況を適切に開示するために必要な事項の注記改正会計基準では、その重要性にかかわらず、記載しなければならない事項として、次のものを挙げています。「(1)貸借対照表会計区分別内訳(2)資産及び負債の状況(3)活動計算書財源区分別内訳(4)活動計算書会計区分及び事業区分別内訳(5)事業費及び管理費の形態別区分」(改正会計基準、par.74)さらに、注記すべき事項が発生した場合に記載する事項として、次のものを挙げています。「(1)継続組織の前提に関する注記(2)使途拘束資産(控除対象財産)の内訳と増減額及び残高(3)有形固定資産及び無形固定資産の内訳と増減額及び残高(4)担保に供している資産(5)保証債務等の偶発債務(6)引当金の内訳と増減額及び残高(7)補助金等の内訳、交付者と増減額及び残高(8)指定純資産の内訳と増減額及び残高(9)指定純資産のうち指定寄附資金の受入年度別残高及び使用見込み(10)基金の増減額及び残高(11)代替基金の増減額及び残高(12)純資産間の振替額(13)キャッシュ・フロー計算書の注記(14)重要な後発事象」(改正会計基準、par.75)そしてその項目に重要性がある場合に記載する事項として、次のものを挙げています。「(1)資産に係る引当金を直接控除した場合の各資産の資産項目別の引当金の金額(2)借入金の内訳と増減額及び残高(3)資産除去債務に関する注記(4)退職給付債務に関する注記(5)関係会社(子会社及び関連会社)に対する金銭債権又は金銭債務(6)固定資産の減損損失に関する注記(7)税効果会計に関する注記(8)リース取引に関する注記(9)金融商品の状況に関する注記(10)賃貸等不動産の時価等に関する注記(11)関連当事者との取引の内容(12)その他公益法人の資産、負債及び純資産の状態並びに純資産増減の状況を明らかにするために必要な事項」(改正会計基準、par.76)(6)附属明細書の内容及び財産目録の内容の注記について改正会計基準では、作成すべき財務諸表等として、財務諸表(貸借対照表、活動計算書、キャッシュ・フロー計算書)及びその注記に加えて、附属明細書と財産目録が挙げられています(改正会計基準、par.16)。そのため、基本的に、附属明細書と財産目録がそれぞれ別途作成されることになります(両者の内容については、後のレポートで述べることにします)。しかし、附属明細書の内容を「財務諸表の注記に記載している場合には、附属明細書においては、その旨の記載をもって内容の記載は省略することができる。」(改正会計基準、par.79)とされています。同様に、「財産目録の内容を財務諸表の注記に記載している場合には、その記載を財産目録とみなすことができる。」(改正会計基準、par.80)とされています。そのため両者を注記により省略できることになります。<注釈>企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(2009年12月、改正2020年3月)、par.4(1)。改正会計基準の運用指針(par.91(Ⅻ・第4・3))によれば、「3.重要な会計方針等の変更」のタイトルのもと、「(1)重要な会計方針の変更、(2)表示方法の変更、(3)会計上の見積りの変更」が並べられています。提供:税経システム研究所
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2026/04/09 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(30)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。前回の記事では、企画・開発段階、製造・保守段階の原価管理において購買部門が果たす役割を確認しました。いずれの段階でも、購買活動における原価管理のために取引先との協力が非常に重要です。今回は、購買部門を中心に行われる取引先との協力を通じた原価管理について説明します。購買部門が取引先と協力して行う改善活動の目的は、企画・開発段階、製造・保守段階によって異なります。以下では、各段階における取り組みを見ていきましょう。2.企画・開発段階における取引先との協力製品原価の多くの部分が決まるのは、企画・開発の段階です。製品によっては、原価にかかわる要因(コストドライバー)の70%から80%程度が製品開発で決まってしまうとも考えられています(谷2022,p.227)。そのため、早い時期から取引先にプロジェクトへ参加してもらい、ともに改善活動を進めることが重要です。企画・開発段階における取引先との協力は、新製品の目標原価を中心とする目標値の達成を目指して行われます。特に、企画・開発の初期段階から、調達、開発、生産等の自社の関連部門、そして、必要に応じて、取引先(の候補)が関与して、製品の仕様、期間、生産量、原価に関して最適な水準に達するように図面を作り込む活動(開発購買と言う)が行われることもあります。この場合、前回の記事でも説明したように、調達部門が開発部門や生産部門との協議のうえで管理対象とする部品の選定、その部品の目標原価を決めて、そのうえで取引先候補にも参画してもらいながら、図面の作り込みを行います。ここでは、現状の把握、目標原価をはじめとする目標値を達成するための改善策の実行、実行後の評価と確認を行います。3.製造・保守段階における取引先との協力製造・保守段階での取引先との協力は、顧客からの要求を受けた改善や、利益予算の達成のために行われます。具体的な方法には、購買戦略やVA(価値分析)による改善、交渉による改善があります。これらは、取引先ごとに行われることが多いですが、対象となる部品等のグループごとに行うこともあります。(1)購買戦略やVAによる改善この方法では、購買部門が中心となって数年におよぶ購買戦略・計画を作成し、それらを基に取引先との協議を行います。改善策については、製品別だけでなく、取引先別や購入する部品別に施策を行います。例えば、部品ごとに、購入方法や技術的な検討による改善、取引先の変更、部品の内製化が行われます。また、年度ごとの活動では、年度の初めに、これまでに購買部門等がVAにより検討した改善案を取引先へと提示するとともに、取引先からも改善案を提示してもらいます。出された提案を両社で検討して、役割分担や納期を決めて、施策を実行します。この協議は、自社と取引先での創意工夫のもとで改善活動を強化するために行われています。この取り組みから何らかの成果が得られた場合に備えて、成果の配分方法を予め定めておくと、安定的な運営がしやすいでしょう。(2)交渉による改善この方法では、購買部門が中心になって、取引先に対して、取引価格を下げるように依頼します。改善の対象や金額等の依頼内容は、取引先からの購入量、前年度の改善実績等を参考にして決めます。ただし、このような依頼は、取引先自らが工程の改善を行うことで得られた利益を取引価格に反映するように求めることにもなります。発注した企業による一方的な要求は、取引先の疲弊にもつながり、取引関係が悪化する可能性もあります。ここでも、将来の見通しや改善を通じて得られた成果の配分について取引先と予め協議しておくことが、事後的なトラブルの回避につながります。なお、中小の事業者がかかわる取引では、「取適法(中小受託取引適正化法)」(注1)による規制があることにも注意が必要です。取適法では、発注元の事業者には、買いたたき(発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べて、著しく低い代金を不当に定めること)、代金の減額(発注時に決めた代金を、受注者側の責任なく減額すること)、協議に応じない一方的な代金決定(協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりと、一方的に代金を決定すること)等の11の行為が禁じられています。取適法に違反した事業者に対しては、公正取引委員会ないし中小企業庁による調査のうえで指導や助言が行われ、それでも改善が見られない場合は、勧告が出されることもあります。違反した企業として社名が公表される可能性もありますので、もし公表された場合には、企業の社会的信用が失墜することや、取引先や消費者からの信頼を失うことにもなり、企業にとって大きなリスクがあります。購買部門やその担当者には、発注する事業者が守るべきルールをしっかりと理解したうえで、取引先に対して誠実に対処していくことがこれまで以上に求められていると言えるでしょう。4.おわりに2と3では、各段階の目的に応じて行われる取引先との改善活動について見てきました。企画・開発段階の早期から取引先との協力を進めることで、コスト競争力上も有利に取引を行うことが可能です。また、製造・保守段階でも、取引先と強固な協力関係を築くことで、より効果的な改善が可能になります。そのためには、取引先と対等な立場で取引を進めることも重要です。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>「取適法」は、2026年1月に「下請法」を改正して施行された法律で、事業者間の業務委託取引において中小の事業者の利益を保護し、取引の適正化を図ることを目的にしています。今回の改正では、本文でも取り上げた「協議に応じない一方的な代金決定」等の禁止事項が追加され、発注した事業者による不当な要求に対する規制が強化されています。取適法の詳しい内容は、公正取引委員会の『取適法リーフレット』(URL:https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf閲覧日:2026年3月3日)をご覧ください。提供:税経システム研究所
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