会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2026/09/10 管理会計
マルチエージェントAIの設計
1.チームとして機能するマルチエージェントAI前号では、生成AIが、対話型AIから、目標に応じて自律的にタスクを遂行するAIエージェントへ、さらに、複数のAIエージェントが連携してタスクを並行処理するマルチエージェントAIへと発展していることを紹介しました。会計人材が担ってきた計算、分析、書類作成などの業務も、マルチエージェントAIによって大部分を自動化できる可能性があります。しかし、マルチエージェントAIを業務に活用すると、どのエージェントが、どのデータに基づいて、どのような判断を下したのかを把握しにくくなるという問題が生じます。判断過程が見えにくいというブラックボックス化の問題は、対話型AIにも存在していました。ただし、人間とAIが一問一答形式で対話する場合には、やり取りの履歴をたどることで、判断根拠をある程度確認できました。一方、マルチエージェントAIでは、複数のエージェントが並行して作業し、相互にやり取りしながら結論を生成します。そのため、対話型AIよりも、結論に至るプロセスを把握することが難しくなります。それでは、人間は、各エージェントの作業やエージェント間のやり取りを、どのように把握し、管理すればよいのでしょうか。この問いに答えるためには、エージェントの定義・設計と、AIによる推論過程のモニタリングという二つの論点を検討する必要があります。本稿では、まず前者であるエージェントの定義と設計を取り上げます。2.マルチエージェントAIとガバナンス一部のマルチエージェントAIでは、オーケストレーターと呼ばれる調整役のAIが、人間から与えられた目標を解釈し、目標の達成に必要なエージェントを自動的に生成して、作業を割り当てます。しかし、エージェントが自動生成されると、どのような専門性を持つエージェントが、どのような判断基準に基づいて作業したのかを事後的に検証することが難しくなります。第一の懸念は、成果物の品質が安定しないことです。エージェントの構成をオーケストレーターに委ねると、同じ業務を同じプロンプトで指示しても、その都度生成されるエージェントの数や役割分担が変わる可能性があります。どのエージェントがどの工程を担い、どの段階で検証が行われるかが実行のたびに変われば、成果物の品質も安定しません。マルチエージェントAIの失敗要因を網羅的に検討したCemrietal.(2025)は、200件を超える実行記録を分析し、失敗の多くがAIモデルの能力不足ではなく、役割定義の曖昧さや検証プロセスの設計不良に起因することを示しています。一方、要件定義、設計、実装、検証というソフトウェア開発組織の役割分担と標準業務手順をエージェントの分業構造に組み込んだHongetal.(2024)は、各エージェントの成果物を後続工程に順次引き継ぐことで、成果物の品質が大幅に向上することを示しています。これらの研究は、マルチエージェントAIの成果が、AIモデルの能力だけでなく、役割と工程の分担を定めるエージェント組織の設計にも左右されることを示しています。この点は、人間の組織とAIエージェントの組織に共通します。エージェント組織の構成をAIに自動生成させることの影響は、成果物の品質にとどまりません。より深刻なのは、内部統制上の問題です。組織構成や権限設定を十分な制約なしにAIへ委ねると、誰がどのような権限で作業し、誰が結果を検証するのかという内部統制の枠組みの一部を、統制対象であるAI自身に決めさせることになります。その場合、分析担当と検証担当の職務分離が確保されないおそれがあります。また、処理効率を優先した結果、業務上必要な範囲を超えるデータアクセス権限が付与される可能性もあります。人間の組織では、通常、担当者自身に職務分掌や権限の決定を委ねません。同様に、マルチエージェントAIを活用する際のエージェント組織の設計も、統制する側の人間が担う必要があります。3.役割の洗い出しとエージェントの定義人間が組織設計を担う場合でも、個々のエージェントの役割を直ちに定められるわけではありません。まず、エージェントに委ねる業務を複数の工程に分解し、各工程に必要な専門能力を洗い出す必要があります。月次の予算実績差異分析を例に考えます。この業務は、データの抽出、差異の計算、差異要因の分析、数値と根拠の検証、報告書の作成などの工程に分けられます。データの抽出や差異の計算には会計システムの知識が必要ですが、差異要因の分析には、数値を事業実態に即して解釈する能力が求められます。各工程に必要な知識と権限、および職務分離によって相互牽制を働かせるべき工程を整理して初めて、エージェントの数と役割分担を定められます。これは、職務記述書を作成する前に業務分掌を検討するのと同じ順序です。この工程分解を省いてエージェントを定義すると、専門領域や判断権限が曖昧になり、オーケストレーターによる自動生成と同じ問題が生じます。必要な役割を整理したら、個々のエージェントを定義します。エージェントの定義とは、役割と目的、使用できるツール、参照を許可するデータの範囲、行動規範と制約、成果物の形式と品質基準、他のエージェントや人間への引き継ぎ・報告ルールを自然言語で明文化することです。言い換えれば、AIエージェントの職務記述書を作成する作業です。この手順をまとめると、図表1のようになります。図表1エージェント定義の手順①エージェントに委ねる業務を選ぶ(例:月次の予算実績差異分析)↓②業務を工程に分解する(データの抽出/差異の計算/差異要因の分析/数値と根拠の検証/報告書の作成)↓③各工程に必要な知識と、参照を許可するデータの範囲を洗い出す↓④エージェントの役割分担を決める↓⑤エージェントごとに定義書を作成する(役割と目的/権限/行動規範と制約/成果物と品質基準/引き継ぎ・報告ルール)(出所)筆者作成前述した差異計算工程を担うエージェントは、例えば次のように定義できます。「あなたは月次の予算実績差異の計算を担う管理会計担当者である。会計システムの予算・実績データと、参照を許可された数量・単価データのみを使用する。科目別に差異額と差異率を計算し、数量・単価データを取得できる科目については、差異を数量差と単価差に分解して報告する。差異要因の解釈は行わず、成果物を後続の要因分析エージェントに引き継ぐ。データに存在しない数値を推測で補ってはならない」このように、エージェントが担う業務、参照を許可するデータ、遵守すべき規則などを明記します。項目ごとに見出しを設けると、図表2のような形式になります。Markdown形式を用いるのは、見出しと箇条書きによって項目の区切りが明確になり、AIが指示構造を誤って解釈するリスクを抑えられるためです。また、作成者も記載漏れに気づきやすくなります。記述する際には、役割と目的を職務記述書、アクセス範囲を職務権限規程、行動規範や禁止事項を倫理規程や業務マニュアルに対応づけて考えると、理解しやすくなります。図表2エージェント定義書の記述例(Markdown形式)#予算実績差異計算エージェント##役割と目的月次の予算実績差異を科目別に算出し、後続の要因分析エージェントが利用できる形式に整える。差異要因の解釈および改善策の立案は担わない。##参照できるデータ-会計システムの予算データおよび実績データ(当月分の損益計算書科目)-上記科目に対応する数量データおよび単価データ(予算・実績の両方。数量差・単価差を算定する科目に限る)-参照範囲は、分析を所管する事業部の責任範囲に対応させ、職務権限規程上、担当者に閲覧が認められた部門のデータに限定する。差異計算に不要な貸借対照表科目、人事データ、取引先マスタは参照しない。##手順対象月の予算と実績を科目別に取得し、取得件数と合計額を記録する。科目別に差異額と差異率を算出する。数量・単価データを取得できる科目について、差異を数量差と単価差に分解する(数量差=(実績数量−予算数量)×予算単価、単価差=(実績単価−予算単価)×実績数量)。分解結果の合計が総差異と一致することを検算する。##成果物-形式:科目コード、科目名、予算、実績、差異、差異率、数量差、単価差(算定可能な場合)を列とする表-単位は千円、差異率は小数第1位までとする。データ取得時刻と検算結果を末尾に付記する。##品質基準-検算の結果、分解後の差異合計が総差異と一致しない場合は、成果物を出力せず、管理会計担当者に差し戻す。-予算または実績が欠損している科目は、欠損である旨を明記する(補完しない)。##人間の判断を要する条件-科目、数量または単価データの対応関係を判別できない場合-差異率が±20%を超える科目が全科目の30%を上回る場合##禁止事項-データに存在しない数値を推測で補ってはならない。-差異要因を解釈したり、改善策を提案したりしてはならない。-参照範囲外のデータを取得してはならない。##引き継ぎ・報告-成果物と検算結果を要因分析エージェントに引き渡す。-引き継ぎ内容の要約を管理会計担当者に通知する。人間の判断を要する条件に該当した場合は、引き継ぎを行わず、管理会計担当者に報告する。(出所)筆者作成4.エージェント設計の重要性一部のマルチエージェントAIでは、人間がエージェントごとに指示しなくても、オーケストレーターが必要なエージェントを構成し、タスクを分担させることができます。ただし、自律的に動作できることと、統制上、業務を委ねてよいことは別問題です。成果物の品質と判断過程の統制可能性は、AIモデルの性能だけでなく、工程の分割、役割分担、委任する判断の範囲に左右されます。人間の組織における職務分掌や職務権限規程に相当する仕組みを、AIエージェントのチームにも整備する必要があります。もっとも、AIエージェントのチームに関する設計・統制方法は、まだ十分に確立されていません。監査領域では、仕訳テストを対象とするエージェント型監査のフレームワーク(Schreyeretal.、2024)や、スイス連邦会計検査院における実装事例(Schreyeretal.,2025)が報告されており、分業と検証を明示した実践が現れ始めています。一方、計画、予算管理、業績管理といった管理会計領域では、AIエージェントのチームに関する知見はまだ限定的です。したがって、マルチエージェントAIを会計業務に活用する際には、既存の職務設計と内部統制の延長線上で、エージェント組織の設計と統制を検討する必要があります。次回は、定義したエージェントが結論に至るまでの推論過程をどのように記録し、人間がどのようにモニタリングすべきかを検討します。参考文献Cemri,M.etal.(2025)「WhyDoMulti-AgentLLMSystemsFail?」arXiv:2503.13657.https://arxiv.org/abs/2503.13657Hong,S.etal.(2024)「MetaGPT:MetaProgrammingforaMulti-AgentCollaborativeFramework」ICLR2024.https://arxiv.org/abs/2308.00352Schreyer,M.,Gu,H.,Moffitt,K.andVasarhelyi,M.A.(2024)「ArtificialIntelligenceAgenticAuditing」SSRNWorkingPaper.https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4909147Schreyer,M.,Mäder,T.andRuud,T.F.(2025)「EmbeddingAgenticArtificialIntelligenceinInternalAuditing」EXPERTFOCUS,2025(6).https://www.efk.admin.ch/wp-content/uploads/publikationen/fachtexte/2025_6_a_novel_digital_audit_workforce.pdf提供:税経システム研究所
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2026/09/03 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(28)
1.販売費及び一般管理費の分析についてこのシリーズの(14)以降、販売費及び一般管理費の管理について説明してきました。参照した先行研究として、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]、および、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]を対象とし、そこで定義されている用語、展開される議論および具体的な数値による計算例を検討しました。前回に引き続き、筆者の母校である早稲田大学の先人による先行研究を紹介したいと思います。今回も、筆者が最初に会計学の授業を受けた、染谷恭次郎名誉教授の『経営分析』三訂版[染谷,1984]における議論を検討します。染谷名誉教授は、財務会計における著書が多いのですが、経営分析に関する著書も多く上梓しています。博士論文をベースにした著書を『資金会計論』増補版[染谷,1960]として出版していますが、この研究も経営分析の研究からの展開であると説明されています。染谷名誉教授の『経営分析』は、初版が1961年に刊行されていますが、今回も最新版である三訂版[染谷,1984]を参照します。2.染谷[1984]による「販売費の分析」(その2)前回の(27)では、染谷[1984,pp.15-16]にもとづき、原価要素別および販売機能別に分析する方法を説明しました。今回は、染谷[1984,pp.16-18]にもとづき、販売費の販売区分別の分析について説明します。染谷[1984]は、「販売費の機能別分析は重要であるが、これによって企業の諸活動を統制することはなお十分でない」[p.16]と指摘します。したがって、「販売努力とその効果とを対照させることが必要であり、販売費と販売高との比較を可能にする販売区分別分析が重要になる」[染谷,1984,p.16]といいます。(1)販売区分染谷[1984]によると、「販売区分別の販売費分析は、販売活動の指向される区分に従って分析するもの」[p.16]であり、販売区分の例を、次のように説明しています[pp.11-12]。販売製品別(個々の製品別、または製品種類別)販売地域別(地方別・支店区域別・販売員地区別・都道府県別・市町村別など)販売経路別(卸売店に対する販売・小売店に対する販売・直接消費者に対する販売)販売方法別(通信販売・店頭販売・訪問販売・代理店販売)得意先別(年間取引金額別、もしくは注文規模別)販売員別(個々の販売員別、もしくは販売員のグループ別)営業部門別(支店別、もしくは営業部門別)引渡方法別(店頭引渡・配達・郵送)販売条件別(現金売・掛売・割賦販売)これらの区分による分析を行えば、「企業の売上高がどのように達成されたかを知ることができる。企業の売上高が何に多く依存しているかはこれによって明らかになる」と染谷[1984,p.12]はいいます。まさしく、「販売努力とその効果とを対照させること」により、販売区分別に収益性を検討していることになります。なお、これらの販売区分による分析は、自社の販売状況をふまえて実施することになりますので、毎回必ずしも全ての販売区分に沿って行う必要はありません。たとえば、製品の種類が単一、または、ごく少品種の場合には、販売製品別の販売費分析を行わなくとも支障ありません。また、販売方法が通信販売のみであれば、引渡方法は郵送(あるいは宅配便)のみで、販売条件はクレジットカードあるいはコード支払による掛売の場合が多く、このときには、販売方法別、引渡方法別、販売条件別の販売費分析は行う必要がありません。(2)販売区分別の分析販売区分別の販売費分析は、販売製品別・販売地域別・販売経路別・販売方法別・得意先別・販売員別・営業部門別・引渡方法別・販売条件別に行うにあたり、具体的には各販売区分をセグメントとするセグメント別の損益計算書を作成して行うことが考えられます。具体的な例として、図表1の様式をご提案します。図表1販売区分別の損益計算書図表1の1行目の見出しのセグメントAからセグメントNまでは、販売製品別・販売地域別・販売経路別・販売方法別・得意先別・販売員別・営業部門別・引渡方法別・販売条件別の区分が記入されます。図表1は、販売費の分析を目的としていますので、売上総利益までの計算は3行でシンプルに示しています。これらの販売区分は、もともと、売上高を区分する基準[染谷,1984,p.11]ですから、売上高は製品別・販売地域別などに区分されています。販売費も販売区分ごとに集計していますから、売上高と販売費との関連を検討するにあたり、販売費を費目別に検討することにより、「販売努力とその効果とを対照させること」を分析できるように作成しています。一方で、製造業において製造原価を詳細に分析する場合や、小売業・卸売業においても仕入原価を詳細に分析する場合には、売上原価を1行で示すのではなく、適切な費用の項目を設定し、販売区分ごとに収益性を検討することができます。この場合は、製造および販売の両部門における活動と売上高の獲得力および損益への貢献度に関する収益性を分析することができます。また、一般管理費は、セグメントごとに個別費として跡づけることは難しいので、合計の列に1行で示しています(もちろん、一般管理費を合計の列に費目別に示すことも可能です)。そのため、図表1の様式では、販売費を費目別に示して販売区分ごとに売上総利益から販売費を差引いて「販売粗利」を計算することを提案しています。この計算方式では、販売区分ごとに販売費を費目別に示すことで「販売努力」を検討し、販売区分ごとの「販売粗利」が「販売努力の効果」を示しているのです。なお、図表1は全部原価計算方式による損益計算書の様式ですが、販売量を操業度として考えた場合には販売費を変動販売費と固定販売費とに分けて、あるいは、責任会計の観点からは個別販売費と共通販売費とに分けて、分析する様式が望ましいことも付言しておきます。さらに、図表1は単年度の実績値のみについてですが、より管理的な側面を強調すれば、予算と決算(実績値)との比較とその差異、あるいは、前年度と当年度との比較とその差異としての増減についても計算する様式のほうが望ましいと考えられます。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2026『プラクティカル原価計算』第2版、中央経済社。染谷恭次郎、1960『資金会計論』増補版、中央経済社。染谷恭次郎、1961『経営分析』国元書房。染谷恭次郎、1984『経営分析』三訂版、国元書房。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/08/27 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(33)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。前回の記事では、購買活動にかかわる外的要因として、「為替、エネルギー・資源価格の大きな変化」や「物流コストの高騰」といった市況の変動を取り上げました。そして、物品の表面的な価格だけでなく、調達に関わるあらゆるコストを総合的に把握するための「総所有コスト(TCO:TotalCostofOwnership)」の視点が、原価管理上有効であることを説明しました。ここであらためて確認しておきたいのは、TCOは、配送費等を含めた「仕入原価」、モノの寿命に着目する「ライフサイクルコスト(LCC:LifeCycleCost)」とは異なる考え方であるということです。TCOは、過去の実績やモノの性能を測るというだけではなく、特定の仕入先と取引を続けるための社内での工数や、今後起こり得る調達途絶リスクといった「目に見えないサプライチェーンの維持コスト」までを評価し、将来を見据えた経営判断を行うために用いられます。今回は、TCOの視点をさらに深掘りし、より企業の存続に直結する人や企業に起因するリスク、つまり、「仕入先の労務費高騰への対応」と「仕入先の廃業・淘汰リスク」を取り上げます。これらのリスクは、為替のように日々の報道で数値が流れてくるものではなく、実務で見落とされがちです。しかし、そのまま確認せずに放置してしまうと、社内工数の増加や供給途絶等の「隠れたコスト」が積み重なってTCOの増大につながり、気づいた頃には手遅れになる可能性があります。今回の記事では、国・公的機関、調査会社が公表している資料を手がかりとして、仕入先にかかわるリスクを正しく理解し、いち早く対応することの重要性を考えます。2.仕入先の労務費高騰現在、多くの企業を悩ませているのは、仕入先からの値上げの要請です。その背景には、原材料やエネルギーのコスト高騰の他に、労務費(人件費)の上昇があります。これらが自社のTCOにどのような影響を与えるかについて、国の公的な指針をもとに整理します。(1)最低賃金についての政府の方針歴史的な物価高や深刻な労働力不足を背景に、最低賃金の大幅な引き上げや労務交渉での高い賃上げ率など、日本での人件費は上昇傾向にあります。こうした状況から、内閣官房と公正取引委員会は『労務費転嫁指針』(注1)を公表し、政府としてのメッセージを打ち出しました。当該指針では、発注側の企業が下請企業(サプライヤー)からの労務費の転嫁交渉を拒絶しないように、双方の企業がとるべき12の行動指針を定めています。ここで注意すべきことは、大企業だけでなく中小企業同士の取引であっても、労務費を理由とした値上げ交渉を根拠なく拒絶・据え置きすることは、中小受託取引適正化法(取適法)や独占禁止法の違反行為にあたるとして責任を問われたり、処罰の対象になったりする可能性があるという点です。例えば、仕入先から労務費転嫁の申し出があったにもかかわらず、「弊社も苦しいから」と一切の協議を拒否することや、「価格交渉は年1回の契約更新時のみに行う」と一律に決めつけて期中の交渉に応じない姿勢をとること、さらには公的な指標を提示されているのに自社の予算を超えてしまうという理由だけで価格を据え置く行為は、当該指針において不適切な行為にあたります。(2)労務費転嫁を拒絶した場合に生じるコスト増大もし、国の指針に十分配慮することなく、強硬にこれまでの価格を据え置かせようとすれば、仕入先を不当に圧迫することになるだけでなく、結果的に「隠れたコスト」になって自社のコスト(TCO)を押し上げることになります。その代表例が、「取引停止による調達コストの増加」です。仕入先から「あの会社と付き合っても赤字になるだけだ」と判断されれば、他社へ生産枠を優先的に回されることになります。結果として、自社への納期が遅れてしまい、急きょ、別の企業から割高な仕入を行わざるを得なくなると、実際の購買原価が跳ね上がります。また、十分な労務費の転嫁を認められずに無理なコスト削減を強いられた仕入先が、検品・品質管理の体制を縮小せざるを得なくなることで生じる「品質低下に伴う手直しコストの増大」も無視できません。仕入先で無理に抑え込まれたコストの発生は、そのまま発注側である自社の工場での不良率上昇、再検査や手直しにかかる社内人件費の増大、不良廃棄損といった形で、目に見えない自社負担の増加につながります。3.仕入先の廃業・淘汰リスク人手不足や物価高騰に耐えかねた規模の小さな下請企業、または後継者不足に悩む町工場が、ある日突然、経営を断念するリスクが近年増えており、その対処についても考える必要があります。(1)中小企業における廃業・倒産中小企業庁の『中小企業白書』(注2)によれば、倒産件数を大きく上回る年間数万件規模の「休廃業・解散」が高止まりしており、表沙汰になりにくい静かな廃業の実態が浮き彫りになっています。また、帝国データバンクが発表した『人手不足倒産の動向調査』(注3)を見ても、人手不足を理由とした倒産は過去最多の水準を記録しています。ここでいう人手不足倒産とは、必要な人員を確保できずに受注を断らざるを得なくなったり、人件費の高騰で利益が途絶えたりしたために、最終的に資金繰りが行き詰まって倒産に至る現象を表しています。特に、現場を支えてきた従業員や経営幹部等の退職をきっかけに事業継続が困難になる企業が急激に増えています。これらの公的資料や調査レポートの結果が示しているのは、直近の業績自体は黒字であるにもかかわらず、経営者の高齢化や後継者の不在を理由に事業継続を断念せざるを得ない企業や、防衛的な賃上げ(企業業績が改善しない中での賃上げ)ができずに従業員が流出してしまう企業が急増しているという深刻な実態です。特定の部品を一社だけに依存している場合、その仕入先が廃業・倒産することは、最悪の場合には自社の生産活動の停止にもつながりかねません。(2)調達網の途絶によるコスト増大代替の仕入先を急きょ探すことになると、製品の表面上の部品単価には現れない「隠れた調達途絶コスト」が大きく増大します。このことも、TCOの観点で考える必要があります。例えば、廃業した会社から自社所有の金型を引き上げ、取適法等の法令の定めに則り発注側としての正当な費用負担のもとで新しい会社へ適合させるための改修費用や、別の仕入先でゼロから作り直すための突発的な設備投資費用が発生します(注4)。また、新しい仕入先の製品が自社の品質基準を満たしているかどうかを検証するため、何ヶ月もかけて試作とテストを繰り返す間の購買部門や品質保証部門の社内工数は、いずれも見えないコストとして累積します。さらに、急な閉鎖を告げられて他社へ切り替える猶予がない場合には、対応可能な代替先から通常よりもかなり高い価格で暫定的に仕入れをせざるを得なくなることもあり得ます。これらは、期初に設定した目標値の枠内では予測が困難な、サプライチェーンの維持にかかるコストであると考えられます。4.現場でリスクを察知するために注意すること仕入先の労務費未転嫁による経営疲弊や廃業リスクについては、何らかの前兆となるシグナルがあります。シグナルを現場で早期に察知し、適切な初期対応につなげることが、購買活動の管理において重要です。ここで注意深く観察すべきことは、仕入先の「人」と「業務品質」の変化です。まず、人に関するシグナルとして、サプライヤーの中心となる担当者や、熟練の従業員が相次いで離職している、または慢性的な人手不足が明らかなのに長い間求人を出している気配がない等の状況があげられます。これらは、当該企業で適切な賃上げができずに労働市場での競争力を失っている兆候だと考えられます(注5)。また、業務品質に関するシグナルとしては、これまで迅速だった見積もりの回答や仕様変更への対応が目に見えて遅れ始める、または、軽微な納期遅れが頻発し始めるといった変化が見られる時には注意が必要です。これらは、当該企業で人手不足によって管理体制や工程のキャパシティが限界を迎えていることを示しており、そのままにすると大きな品質不良や突然の調達途絶につながる可能性があります。これらのシグナルを一つでも察知した場合、購買の担当者や経営陣は決して放置するのではなく、できるだけ早めに情報収集を始める必要があります。その時には、サプライチェーンを維持するための協力体制をともに作りたいということを仕入先に伝えつつ、経営の実態や今後必要な改善策について話し合いの場を持つことが重要です。もし、この対話によって仕入先の経営危機や廃業・倒産のリスクが既に顕在化していると判明した時には、企業がとるべき対応は単なる値上げの受容にとどまりません。状況に応じて、価格改定による適切な経営支援、代替となる他の仕入先への段階的移行、相手方の技術・設備や事業そのものを買い取る事業買収(M&A、内製化)といった、より踏み込んだ経営判断が必要になります。5.おわりに外部環境が激変する現代において、過去の数字を正しく記録するためだけでなく、将来を見据えた施策をとることが、原価管理上必要になります。今回の記事では、仕入先で起きている労務費の高騰や、人手不足に伴う廃業リスクを、現場のシグナルからいかに察知するかについて説明しました。このようなリスクの早期発見と実態把握が、自社の利益を確保することにもつながります。参考文献中小企業庁.2026.『改訂版中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック』.Ellram,L.M.1995.Totalcostofownership:Ananalysisapproachforpurchasing.InternationalJournalofPhysicalDistribution&LogisticsManagement,25(8),4-23.<注釈>内閣官房・公正取引委員会『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』(URL:https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka.html;閲覧日2026年7月8日)。中小企業庁『2026年版中小企業白書』(URL:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2026/PDF/chusho.html;閲覧日2026年7月8日)。株式会社帝国データバンク『人手不足倒産の動向調査(2025年度)』(URL:https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260409-laborshortage-br25fy/;閲覧日2026年7月8日)。発注側が不当に無償保管を強いたり、処分費用を仕入先に押し付けたりすることは法令上禁じられており、これらはすべて発注側が正当に買い取り、負担すべき「サプライチェーンの維持コスト」になります。帝国データバンクの『人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)』(URL:https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260519-laborshortage202604/;閲覧日2026年7月8日)によると、中小企業の5割以上が人手不足による負の影響を実感しているという結果が出ており、この中には、案件があっても人手が足りないために受注制限をかけざるを得ない企業もあることが分かっています。提供:税経システム研究所
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2026/08/20 財務会計
後発事象に関する会計基準の概要
1.はじめに日本には、これまで後発事象に関する取扱いを定めた包括的な会計基準はなく、日本公認会計士協会が公表した監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」(以下、「監基報560実務1号」という)にしたがって実務が行われてきました。一方、国際会計基準ではIAS第10号「後発事象」、米国基準ではTopic855「後発事象」において、後発事象の取扱いが定められています。このような背景をもとに、後発事象に関する会計基準の策定の必要性が指摘され、2024年8月に企業会計基準委員会(ASBJ)は、後発事象に関する会計基準の開発を再開しました(注1)。そして、2026年1月9日に、ASBJは、企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」(以下、「基準41号」という)、企業会計基準適用指針第35号「後発事象に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針35号」という)、補足文書「開示後発事象の例示及び開示内容の例示について」を公表しました。今回は、「基準41号」について解説します。「基準41号」は、「監基報560実務1号」で示されている会計に関する内容を基本的に踏襲したうえで、表現の見直しや後発事象の整理等を行っています(注2)。「基準41号」は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用され、早期適用はありません(13項)。また適用初年度においては、同期首から将来にわたって適用するので、遡及処理は行いません(14項)。2.後発事象の定義「後発事象」は、決算日後に発生した企業の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象のうち、評価期間の末日までに発生した事象です(4項)。評価期間の末日は、原則として、財務諸表の公表の承認日です(7項)。「監基報560実務1号」では、監査対象となる後発事象は監査報告書日までに発生した後発事象とされており、この点は「基準41号」に踏襲されていません(図表1)(注3)。図表1後発事象の評価期間(注4)監基報560実務1号基準41号監査報告書日まで財務諸表の公表の承認日まで3.後発事象の種類と会計処理後発事象は、修正後発事象と開示後発事象に分類され、それぞれ会計処理が定められています。(1)修正後発事象修正後発事象は、決算日後に発生した事象ではあるが、その実質的な原因が決算日現在においてすでに存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断または見積りをする上で、追加的またはより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない事象です(5項)。重要な修正後発事象については、財務諸表を修正します(8項)(注5)。修正後発事象の例と財務諸表の修正については、次のようなものがあります。売掛金などの貸倒れ決算日現在ですでに経営不安があった得意先が財務諸表の公表の承認日までに倒産した場合は、貸倒引当金の追加計上や貸倒損失の計上といった財務諸表の修正が必要になります。訴訟の判決の確定決算日現在で係争中だった訴訟について、財務諸表の公表の承認日までに判決が確定し、具体的な賠償額が判明するなど引当金の設定要件を満たした場合は、損害賠償引当金の追加計上といった財務諸表の修正が必要になります。(2)開示後発事象開示後発事象は、決算日後において発生し、当期の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌期以降の財務諸表に影響を及ぼす事象です(6項)。開示後発事象の具体例(注6)としては、決算日後の新株発行等による多額の資金調達、決算日後に発生した災害損失、決算日後に発生した合併契約の締結(注7)といったものがあります。重要な開示後発事象については、その内容や影響額等の注記を行います(11項)(注8)。たとえば、「基準41号」では、新株発行に関する開示後発事象が次のように整理されています。図表2新株発行に関する開示後発事象出所「基準41号」設例1に一部加筆修正4.実務への影響「基準41号」は「監基報560実務1号」を踏襲していますが、実務には次のような影響が生じると考えられます。(1)決算日後の情報収集体制の強化後発事象の評価期間の末日は、原則として、財務諸表の公表の承認日とされていますので、決算日後から財務諸表の公表の承認日までに生じた重要な事象を継続的にモニタリングする必要があります。連結財務諸表では、連結子会社や持分法適用会社(在外子会社や在外持分法適用会社も含めて)で発生した後発事象も対象なので、これらの会社に後発事象の情報をタイムリーに報告させる体制が不十分である場合は、後発事象の報告漏れが生じるかもしれません。(2)財務諸表の公表の承認プロセスの明確化財務諸表の公表の承認について、財務諸表の公表の承認日と財務諸表の公表を承認した機関または個人の名称を注記します(10項)。したがって、財務諸表の承認に関するプロセスやガバナンス体制を構築する必要がありそうです。<注釈>過去には、2010年9月に審議を開始して、2011年3月に審議を停止した経緯があります。「基準41号」の範囲に定める後発事象に関する開示については、「企業会計原則」よりも優先して適用されます(1項)。その理由については、国際会計基準との整合性、財務諸表に対する二重責任の原則との関係、実務上の負担への配慮、日本のサステナビリティ開示基準との整合性が挙げられています(BC12、15)。なお、金融商品取引法の手続きでは、財務諸表の公表の承認日が先で、監査報告書日はその後になります。「適用指針35号」では、会計監査人設置会社においては、会計監査人により監査される計算書類等または連結計算書類については、後発事象の評価期間の末日は、「確認日」(計算書類等または連結計算書類を作成する監査契約上の責任を果たしたことを確認した日)とされています(4項)。「適用指針35号」では、会計監査人設置会社においては、計算書類等(連結計算書類)に関する確認日後、個別財務諸表(連結財務諸表)の公表の承認日までに発生した事象は、修正後発事象として取り扱わず、開示後発事象に準じて取り扱うこととされています(5項)。開示後発事象の例は、補足文書「開示後発事象の例示及び開示内容の例示について」で詳細に示されています。後発事象に関して、「基準41号」以外で具体的な処理が定められている会計基準等がある場合は、そちらも参照する必要があります。合併の場合、状況によっては、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第55項にしたがって、重要な開示後発事象の注記が必要な場合もあります。影響額の見積りができない場合は、その旨と理由を注記します。提供:税経システム研究所
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2026/08/06 財務会計
公益法人制度の改正(15)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)及び「公益法人会計基準の運用指針」(以下、改正運用指針)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、「金融資産」のなかで、有価証券とデリバティブ資産を取り上げます。15.金融商品の会計処理(つづき)(3)有価証券(a)取得原価(改正会計基準、par.85)取得原価=購入代価+付随費用異なる取得原価により同一の有価証券が購入された場合には、売却等されたその有価証券については、総平均法等の方法により、売却等された有価証券の取得原価が算定されます。(b)有価証券の保有目的区分と評価方法(改正会計基準、pars.86-93)有価証券は、その保有目的に応じて、売買目的有価証券と満期保有目的の債券、子会社株式・関連会社株式、その他有価証券という4つに区分され、それぞれに評価方法が定められています。イ)売買目的有価証券(意義)市場価格の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(貸借対照表価額)当該市場価格(=時価評価)(評価差額・売却差額の取扱い)活動計算書上の経常活動区分の部に、有価証券運用益または有価証券運用損の科目により計上ロ)満期保有目的の債券(意義)満期まで所有する意図をもって保有する債券(国債、地方債、政府保証債等)(貸借対照表価額)取得価額。ただし、債券を債券金額より低い価額または高い価額で取得した場合で、その差額が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額償却原価法とは取得原価と債券金額との差額を、償還期に至るまで毎期一定の方法で貸借対照表価額に加減算する方法。当該増減額は、利息要素として処理。(企業会計上では、原則:利息法、簡便法:定額法。改正会計基準等では記述なし。)【設例】償却原価法の適用~満期保有目的の債券:割引発行の社債を購入した場合~X1年4/1額面金額2,000,000円(償還期限2年後、利子率3%、利払日3月31日)の社債を1,925,624円で購入。満期保有目的の債券に該当。実効利子率は5%《利息法》X1年度の1年間で増加させる社債の評価額36,281円≒X1年度の利息合計1,925,624円×5%-利息受取額2,000,000円×3%X2年3/31社債の評価額1,961,905円=X1年4/1現金支払額1,925,624円+36,281円X2年度の1年間で増加させる社債の評価額38,095円≒X2年度の利息合計1,961,905円×5%-利息受取額2,000,000円×3%X3年3/31社債の評価額(償還直前)2,000,000円=X2年3/31帳簿価額1,961,905円+38,095円なお実効利子率とは、次の算式のrを意味しています。《定額法》X1年度とX2年度の1年間でそれぞれ増加させる社債の評価額37,188円=(額面金額2,000,000円-発行価額1,925,624円)÷2年X2年3/31社債の評価額:1,962,812円=X1年4/1現金支払額1,925,624円+37,188円X3年3/31社債の評価額:2,000,000円=X2年3/31帳簿価額1,962,812円+37,188円注意:保有目的の変更の制限(改正運用指針、pars.9-10)(他目的→満期保有目的への変更禁止)満期保有目的の債券以外の有価証券を、取得後に保有目的を変更して、満期保有目的の債券とすることは、認められないとされています。(満期保有目的→他目的への変更:ペナルティ措置)一部の満期保有目的の債券の目的変更が行われた場合は、すべての満期保有目的の債券について目的変更が行われたものとして、売買目的有価証券またはその他有価証券に振り替えなければなりません。さらに目的変更を行った事業年度以後2事業年度において取得した債券を満期保有目的の債券として処理することはできなくなります。いわゆるペナルティ措置です。特に、満期保有目的の債券を売却して、より有利な債券(満期保有目的の債券)を購入した場合であっても、ペナルティ措置が取られることに留意しなければなりません。ハ)子会社株式・関連会社株式(意義)子会社:法人が直接的または間接的に他の会社の財務及び営業または事業の方針を決定する意思決定機関を支配している場合の当該他の会社の株式。⇒他の会社の議決権の50%超を保有した会社の株式ほか。関連会社株式:法人が直接的または間接的に他の会社の財務及び営業または事業の方針の決定に、重要な影響を与えることができる場合の当該他の会社の株式⇒議決権の20%以上50%以下を保有している場合の当該会社の株式ほか。(貸借対照表価額)取得価額ニ)その他有価証券(意義)売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社及び関連会社株式以外の有価証券(貸借対照表価額)市場価格がある場合は、当該市場価格市場価格がない場合は、取得価額(評価差額の取扱い)純資産の部にその他有価証券評価差額金の区分を設けて計上。ただし評価減となる場合は、評価損をその期のその他費用として計上することが認められています(改正運用指針、par.11)税効果会計適用の場合は、当該評価差額は税引後(税効果額控除後)の金額による。なお翌期首に取得価額に洗替え。(売却差額の取扱い)活動計算書のその他活動区分の部に、「投資有価証券売却益」、「投資有価証券売却損」の科目により計上。市場価格のあるその他有価証券について、償却原価法を適用することとなる場合、償却原価と市場価格との差額が、評価差額金となります。【図表】有価証券の区分と評価差額の処理保有目的評価方法評価差額の処理売買目的有価証券時価評価その期の損益満期保有目的の債券原価評価または償却原価法償却原価法適用時には、利息計上あり子会社株式・関連会社株式原価評価-その他有価証券時価があれば、時価評価時価がなければ、原価評価原則:純資産直入例外:評価減をその期の損失計上可(c)有価証券の減損(改正運用指針、pars.⒔-17)市場価格がある有価証券のうち、売買目的有価証券以外について、市場価格が著しく下落し、かつ回復する見込みがないまたは不明である場合は、その市場価格で評価し、評価差額は費用として処理されます。市場価格がない株式については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに、相当の減額を行い、減額相当額はその期の費用として処理されます。(4)デリバティブ資産(デリバティブ取引に係る正味の債権)(意義)デリバティブ取引に係る正味の債権(貸借対照表価額)市場価格(評価差額)その期の収益または費用提供:税経システム研究所
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2026/08/06 管理会計
エージェントAIの進化と会計
1.AIのさらなる進化:対話型AIからマルチエージェントAIへ生成AIの利用が本格的に始まってからわずか数年ですが、AIの姿は大きく変わりつつあります。初期の生成AIは「対話型AI(ConversationalAI)」と呼ばれ、人間の質問を起点として最適な答えを出力するものでした。そこでは、いかに適切な指示(プロンプト)を与えるかが活用の焦点となっていました。これに対して、近年急速に発展しているのが「エージェント型AI(AgenticAI)」です。エージェント型AIは、目標を与えると自ら計画を立て、外部ツールやローカルデータを操作しながら、タスクを自律的に完遂します。人間の役割は、質問を繰り返すことから、適切な目標を設定し、成果を確認することへと移りつつあるのです。さらに現在は、複数のエージェントが協働する「マルチエージェントAI(Multi-agentAI)」へと進化しています。そこでは、オーケストレーターと呼ばれる指揮役のAIが人間から目的を受け取ると、タスクを分解して各エージェントに割り当てます。割り当てられた各エージェントは、それぞれ専門のツールを持ち、自律的かつ並列的に作業を進めます。担当エージェントの数や役割は事前に固定されず、必要に応じて増減します。また、会計専門家、税理士、弁護士、データサイエンティスト、社外役員といった役割を人間が定義することもできます。図表1マルチエージェントAIの基本構造(出所)筆者作成マルチエージェントAIを使って会計人材がデータ分析・レポーティングを行う場合、図表1のようなことをAIが自律的に実行します。人間が、分析とレポートの目的や要件を自然言語で指示すると(①)、各エージェントAIを束ねるオーケストレーターが目的を解釈してタスクに分解し、必要なサブエージェントを生成して作業を割り当てます(②)。一連の作業計画と進捗・品質を管理するプロセス管理エージェント、目的に適した分析手法を検討する分析方法検討エージェント、データの抽出・クレンジング・異常値確認を行うデータスクリーニングエージェント、分析結果を文書化するレポート執筆エージェント、そして数値や出典、論理を検証する検証・確認エージェントが自動的に生成されます。各サブエージェントは、互いにコミュニケーションをとりながら、自律的かつ並列的に協働するのです(③)。作業が完了すると、結果はオーケストレーターに報告され(④)、統合・検証済みのレポートが人間に届けられます(⑤)。たとえば、会計担当者が、「当月の予実差異を分析し、年度末の着地予想を含むレポートを作成してほしい」と指示したとしましょう。すると、分析方法検討エージェントが差異分解や相関分析といった分析手法を選定し、データスクリーニングエージェントが会計システムから予算・実績データを抽出して異常値や欠損を確認します。分析結果をレポート執筆エージェントが図表付きのレポートに仕上げ、検証・確認エージェントが数値の整合性や記述の妥当性をチェックします。この間、プロセス管理エージェントが全体の進捗と品質を管理します。従来であれば複数の担当者が数日から数週間をかけて行っていた一連の作業が、仮想的なチームによって短時間で遂行されるわけです。こうしたマルチエージェントAIは、すでに実務で利用できる段階にあります。たとえば、Anthropic社のClaudeが備える「Cowork」機能は、利用者が指定したフォルダ内のファイルを自ら読み書きしながら、複数のサブエージェントが工程を分解し、並行的に作業を進めます。同様に、OpenAI社のChatGPTが備える「エージェントモード」は、ウェブ操作・データ分析・資料作成・スケジュール実行を一つのセッションのなかで連続して処理し、競合調査からスライドの生成、週次レポートの自動作成までを一気通貫で担います。いずれも有料プランで利用可能であり(本稿執筆時点)、レポートの作成にとどまらず、数値の整合性や記述の妥当性を検証する品質管理までを含めた一連の工程の自動化は、もはや現実のものとなっているのです。2.自己増殖・自己進化するAIすでにAIは人間の知能を大きく超える存在となりつつあります。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は、2026年7月14日に開催された「SoftBankWorld2026」の講演において、AIエージェントが「自己増殖」と「自己進化」の段階に入るとの見通しを示しました。地球上の生命がバクテリアから人類へと進化した原動力がこの2つの仕組みにあったように、今後はAIエージェント自身が別のエージェントを生み出し、互いにコミュニケーションをとりながら能力を改善していくというのです。孫氏は「人間がエージェントを作る時代は終わる。エージェントがエージェントを作るようになる」と述べ、2040年には100兆個のAIエージェントと10億台のヒューマノイドが稼働し、AI関連の売上高は世界のGDPの約2割にあたる7000兆円に達するとの試算を示しました。こうした未来は、もはやフィクションの世界ではありません。孫氏は、国際的な開発競争ゆえにこの流れは誰にも止められないと指摘するとともに、人間とAIが協働し、真に進化できる企業となるために、AIを用いた企業価値の向上を測る「リターンオンAI(ROA)」という指標を活用することを強調しています。3.会計人材の役割を問い直す本稿で見てきたように、マルチエージェントAIは、データの収集から分析、レポート作成に至る一連の業務を、仮想的なチームとして自律的に遂行する段階に達しつつあります。くわえて、AI自身がエージェントを生み出し、自らの能力を高めていく未来も、現実のものとなりつつあります。会計業務の相当部分がAIに代替されることは、もはや遠い将来の話ではないのです。そうであるならば、AIに代替されない会計人材の役割とは何なのでしょうか。私たちは今、この問いを本格的に考えなければならない段階に立っています。本稿で確認したAIの進化のスピードを踏まえれば、検討に残された時間は決して長くありません。会計人材の役割の再定義は、いずれ取り組めばよい課題ではなく、今まさに着手すべき喫緊の課題となっているのです。参考文献日本経済新聞(2026年7月14日)「ソフトバンクG孫正義氏世界のAIインフラ投資「40年に800兆円へ」」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC142BO0U6A710C2000000/ロイター(2026年7月14日)孫正義氏「SoftBankWorld2026」講演に関する報道https://jp.reuters.com/economy/AVGZUOXLRBMSVHBYFFQ3EHJJNY-2026-07-14/提供:税経システム研究所
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2026/07/09 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(32)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。これまで中小企業が取り組む原価管理と言えば、製造プロセスの見直しや歩留まりの改善、社内経費の削減等、自社の管理が及ぶ範囲での活動が中心になっていました。しかし、近年では、多くの企業において、こうした企業内の経営努力だけでは適正な利益水準を維持することが困難になっています。その背景には、為替相場の変動やエネルギー・資源価格の高騰、さらには慢性的な人手不足に起因する物流費・労務費の上昇といった、企業を取り巻く外部環境の変動がこれまでにないほど深刻化していることがあります。外部環境が企業の購買活動に与える影響を正しく理解することが、これからの原価管理を進めるために重要です。この記事シリーズでは、多くの中小企業の利益を圧迫している主な外部要因として、「為替、エネルギー・資源価格の変動」、「物流コストの高騰」、「仕入先の労務費高騰への対応」、「仕入先の廃業・淘汰リスク」について考えます。このうち、今回は、「為替、エネルギー・資源価格の変動」、「物流コストの高騰」を取り上げ、原価管理上これらの要因にどのように対処していけば良いかを説明します。2.為替、エネルギー・資源価格の変動原価の目標値を設定する際、為替レートやエネルギー・資源価格など、前提となる条件があります。近年のように日々の状況が激しく変動し、不確実性が高い経営環境においては、目標値の設定時に考えていた前提条件が運用の過程で大きく変動してしまうことも珍しくありません。前提条件が実態と大きく乖離する時、当初の目標値をそのまま使い続けることで、「部品の単価が安価であることから選んだはずの発注先が、実は、最新の価格でコストを算定するとかえって割高になってしまった」というような問題が起こります。ここで、自社の利益を確保するため重要になるのが、「見積原価」です。見積原価は、現在の実態に応じた経営判断の基準や価格の交渉等で用いられるものです。見積原価の運用については、期首に定めた前提条件に対して一定の変動幅(許容範囲)を予め設定しておき、それを超えた時点で見積原価を再度算定するというようなルールを決めておくことが有効です。これにより。購買活動において取引先との価格交渉を行う際に客観的な根拠をもって進めることができ、原価管理上も製品ごとの採算悪化を未然に防ぐための施策を実施することが可能になります。激しい環境変化の中では、月に一度の業績報告を待つというのではなく、現在の実態を基にした見積原価をタイムリーに算定することで、柔軟な対応が可能になります。ただし、最初に触れた原価の目標値の取り扱いについても注意が必要です。原価の目標値については、会計実務上、決算書や予算管理のベースとなる「標準原価」として設定・運用されている場合もあります。読者の中にも、ここまでの説明を読んで、「この標準原価自体も期中に変えて良いのか?」という疑問を持った方がおられるかもしれません。しかし、標準原価は決算時の基礎的な情報や自社の経営に関する評価基準となるものであることから、原則として頻繁に変更すべきではありません。もし標準原価を使用しているという場合の対処方法としては、標準原価は厳格に維持したまま、これとは別に、外部環境の変化を反映させた見積原価を必要に応じて算定してこの数値を基に経営環境への対応を判断することが考えられます。3.物流コストの高騰次に取り上げる問題は、物流コストの高騰への対応です。燃料価格の上昇、ドライバー不足・人件費の増加、ECサイトの普及に伴う物流の小口化・多頻度化等を背景に、物流コストの高騰は、業界を問わず、企業で対処すべき課題になっています。また、最近改正された「物流効率化法」(注1)のもとで、荷主企業は物流業者と協力して、物流業務の効率化、ドライバーの労働環境の改善に中長期に取り組むことがこれまで以上に求められており、この対応に伴うコスト負担も見込まれます。上記の動向から、企業は目先のコスト削減だけでなく、中長期的な視点で物流や調達のあり方を見直す時期にきていると言えます。もし購入価格が安価な仕入先を選んだとしても、倉庫に運ぶまでの輸送コストが大きかったり、リードタイムが長く在庫を長期的に保有したりすれば、全体で見ると企業が負担するコストは増えてしまいます。原価管理においては、購入価格などの把握しやすいコストだけではなく、在庫を保有することによる管理費等の表面的な把握が難しいコストがあることにも注意が必要です。中長期的な視点で企業の財務に与える影響を評価するときに重要な見方として、「総所有コスト(TCO:TotalCostofOwnership)」があります。TCOは、「製品そのものの価格」だけではなく、運賃や梱包費、さらには発注や検収にかかる人件費までを含めた「モノを調達・維持するためにかかる総コスト」を意味する概念です(Ellram1995)。TCOという視点を取り入れると、施策を行う前と後で、見えづらいコストを意識した行動をとることができます。施策を計画する段階では、完璧な計算はできずとも、「運賃を年間△△万円下げるために配送ロットを増やしたら、自社が使用できる保管スペースが圧迫され、現場での作業が追加で発生する等、本来必要のなかったコストがそれ以上に膨らむのではないか?」と立ち止まって考えられるようになります。また、施策を実行した後の振り返りにおいても、「運賃は狙い通り下がったけれども、資材の廃棄や手直しのコストが以前より増えていないか?」というように、影響が大きいと見込まれる活動に注意しながら自社が負担するコスト全体で見て施策の効果を判断できます。このように、物流や調達の活動にかかるコストを「どのような前提条件(配送ロット、距離、頻度、運賃体系等)」で見込んでいるかを明確にし、原価管理における自社のルールを実態に合わせて見直していくことが、物流という外部要因に応じた経営判断を行うために必要です(注2)。4.経営環境の変化を察知するための基準とその運用ここまで解説した「見積原価のタイムリーな更新」、「物流コスト高騰への対応」を企業で実施するためには、現場が場当たり的に動くのではなく、見直しの拠り所になる基準を予め社内でルール化しておくことが重要です。まず、判断基準の設定においては、自社の経営に大きな影響を与える主要な外部要因について、期首に定める原価の目標値からの「許容変動幅」を予め設定し、社内で共有しておくと良いでしょう。主な例を示すと次のようになります。為替レート:社内想定レートから「±5%以上」の乖離が1ヶ月以上継続した場合に見直す。エネルギー・資源価格:市況価格(鋼材、樹脂、原油など)が期首の想定から「±10%以上」変動した場合に見直す。物流費:物流効率化法への対応や運賃改定に伴い、配送・荷役コストの総額が当初の計画より「年間で見積額50万円以上」の増加(または減少)となる見込みになった時点で見直す。次に、問題の察知から具体的な活動へと移るために、例えば、次のような手順をとることが有効です。手順1:購買や物流関連の部門が、日々の仕入検収や市況ニュースからヒントになる情報を収集し、上記の判断基準を超えると思われる時に対応の必要性を管理部門(財務・経理等)へ発信する。手順2:管理部門は、既存の製品構成データをもとに、「もしこの変動が半年続いた場合、どの製品の利益が何%圧迫されるか(または、ロットの変更でどれほどトータルでのコスト(TCO)が増大するか)」を試算する。手順3:「このまま対策を打たなければ、主力X商品の利益が期末までに〇〇万円消失する」というような定量的な情報と共に、関連部門や経営陣へ情報を報告し、価格交渉や構造改革の判断につなげる。このように判断の基準と活動するための手順を明確にしておくことで、状況の変化に応じた柔軟な対応が全社的に可能になります。5.おわりに今回の記事では、中小企業の利益を脅かす外部要因のうち、「為替、エネルギー・資源価格の変動」、「物流コストの高騰」について考えました。2つの要因から分かる実務上のポイントは、外部環境の変化を単なる不可抗力として扱うのではなく、自社の原価管理における前提をいかに素早く検討できるかが企業の競争力につながるということです。期首に定めた目標値を絶対視せず、為替や市況を織り込んだ柔軟な運用を取り入れること、そして、目先の購入価格にとらわれず、物流や調達の活動にかかるコストを含めた「総所有コスト(TCO)」の視点で原価管理を見直すことが重要です。なお、企業の活動に大きく影響する外部要因に対して、自社でのコストの算定手法や管理プロセスを見直すだけですべて対処できる訳ではありません。次回の記事では、仕入先との取引にかかわる要因である「仕入先における労務費の高騰」、「仕入先の廃業・淘汰リスク」について考えます。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.Ellram,L.M.1995.Totalcostofownership:Ananalysisapproachforpurchasing.InternationalJournalofPhysicalDistribution&LogisticsManagement,25(8),4-23.<注釈>国土交通省「「物流効率化法」理解促進ポータルサイト」(URL:https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/;閲覧日:2026年6月3日)。高騰する物流費の算定やその対処については以下の記事も参考にしてください。井上慶太.2023.「サプライチェーン・マネジメントに役立つ会計:上昇する物流費への対応」『MJSマンスリーレポート』169号。提供:税経システム研究所
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2026/07/02 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(27)
1.販売費及び一般管理費の分析についてこのシリーズの(14)以降、販売費及び一般管理費の管理について説明してきました。参照した先行研究として、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]、および、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]を対象とし、そこで定義されている用語、展開される議論および具体的な数値による計算例を検討しました。今回からは、筆者の母校である早稲田大学の先人による先行研究を紹介したいと思います。まずは、筆者が最初に会計学の授業を受けた、染谷恭次郎名誉教授の『経営分析』三訂版[染谷,1984]における議論を検討します。染谷名誉教授は、財務会計における著書が多いのですが、経営分析に関する著書も多く上梓しています。博士論文をベースにした著書を『資金会計論』増補版[染谷,1960]として出版していますが、この研究も経営分析の研究からの展開であると説明されています。染谷名誉教授の『経営分析』は、初版が1961年に刊行されていますが、今回は最終版である三訂版[染谷,1984]を参照します。2.染谷[1984]による「販売費の分析」(その1)染谷[1984]は、第2章「経営数値の分析」の「Ⅲ.原価の分析」において、「§1.製造原価の分析」に引き続き、「§2.販売費の分析」を説明しています[pp.15-18]。そこでは、「販売費の分析は、原価要素別・販売機能別・販売区分別に行なわれる」[染谷,1984,p.15]と分類の基準を述べています。(1)原価要素別の販売費分析原価要素別の販売費分析では、販売費を、給料・旅費・広告費・消耗品費など、支出の目的別に分析します[染谷,1984,p.15]。染谷[1984]によると、「この方法は損益計算書において用いられる方法であり、簡単で実行しやすい」[p.15]ということです。この分類基準は、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における形態別分類、すなわち、「給料、賃金、消耗品費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、租税公課、運賃、保管料、旅費交通費、通信費、広告料等」[三七(一)]という分類と同様の分類基準です。別の見方をすると、「費目別分類」であるともいえるでしょう。(2)販売機能別の販売費分析販売機能別の販売費の分析では、販売費を、販売直接費・広告および販売促進費・配達費・保管費・信用調査および集金費など、販売の諸機能にしたがって分析します[染谷,1984,p.15]。染谷[1984]では、「販売費を販売機能別に分析することは、企業の内部的諸活動の統制を効果的に行なうための費用の比較や標準費用の設定を可能ならしめ、予算の作成と管理を容易にする。販売費を販売機能別に分析するには、いかなる機能別に分析するかを決定し、要素別に計算した販売費をこれらの機能別に分類し集計する」[pp.15-16]と説明しています。染谷[1984]のいう「販売費を機能別に分類し集計する」[pp.15-16]ということは、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における、機能別分類、すなわち、販売費及び一般管理費の要素を、「広告宣伝費、出荷運送費、倉庫費、掛売集金費、販売調査費、販売事務費、企画費、技術研究費、経理費、重役室費等にこれを分類する」[三七(二)]ということとほぼ一致していると理解できます。岡本[2000]でも、このシリーズの(17)で説明したように、機能別の分類を強調しています[岡本,2000,p.694]。染谷[1984]は、販売費の機能別分析の例として、図表1の数値例を示しています。図表1販売費の機能別分析出典:染谷[1984,p.16,第6表]を一部修正染谷[1984]は、注意するべき点として、広告費や運送費などの項目が、原価要素別分析にも、販売機能別分析にも、しばしば同じ名称が用いられることを指摘しています[p.16]。これらの費用項目は、原価要素別に用いられるときは、広告や運送のために直接支出された金額のみが含まれるのに対して、販売機能別分析に用いられるときには、広告や運送の仕事に従事する者の給料その他広告や運送の仕事に関係ある一切の費用が含まれます[染谷,1984,p.16]。この点は、図表1で見ますと、種類の分類による「広告費の行」では、広告の機能で発生した19,350千円のみが合計欄に記入されていますが、機能の分類による「広告の列」では、給料2,900千円、賃借料200千円、保険料2千円、租税公課126千円、減価償却費4千円、光熱費15千円、消耗品費20千円、通信費300千円、広告費19,350千円、雑費75千円で、合計額が22,992千円となっています。したがって、機能別の分析は、図表1では縦の列で見るべきで、横の行はむしろ原価要素別、または費目別の集計であるといってよいでしょう。先述の染谷[1984]における「販売費を販売機能別に分析するには、いかなる機能別に分析するかを決定し、要素別(つまり、費目別に―引用者)に計算した販売費をこれらの機能別に分類し集計する」[pp.15-16]という説明は、この縦の列と横の行との関係について説明していると理解できます。なお、染谷[1984]が示す数値例は、図表1のとおり、単年度の実績値のみについてですが、「販売費を販売機能別に分析することは、企業の内部的諸活動の統制を効果的に行なうための費用の比較や標準費用の設定を可能ならしめ、予算の作成と管理を容易にする」[p.15]という点に鑑みると、図表1では、予算と決算(実績値)との比較とその差異、あるいは、前年度と当年度との比較とその差異としての増減についても計算するべきであると考えられます。この点は、このシリーズの(25)において、岡本[2000,p.710]の示す「図表13-2」を修正した「図表1」のように、「予算・実績・差異」を示したり、「前年度・当年度・増減」を示したりする様式のほうが望ましいといえます。このときの標準値あるいは予算の見積値は、製造原価ではないので標準原価と全く同じように設定することはできないと思います。とはいえ、一般論として、製造原価における標準を設定するときのように、過去のデータにもとづきつつ、当該年度に予測できる個別の要因を加味して設定することになるでしょう。そのためには、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]が製造原価における標準原価の計算を説明しているのと同じように、販売費を、「財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した」[四(一)2]ものを、販売費の標準値とすることができます。また、予算の見積値についても、ほぼ同様の計算手続で設定できると思われます。さらに付け加えると、販売費には、販売量の変動によって比例的に増減する変動費と、販売量が変動しても一定額が発生する固定費とがあります。標準値あるいは予算の見積値を計算するにあたり、その構成要素に変動費と固定費とがあることを考慮して、製造原価における製造間接費の計算と同様に、変動予算を用いることも有効です。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2026『プラクティカル原価計算』第2版、中央経済社。染谷恭次郎、1960『資金会計論』増補版、中央経済社。染谷恭次郎、1961『経営分析』国元書房。染谷恭次郎、1984『経営分析』三訂版、国元書房。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/06/25 財務会計
金融商品に関する会計基準(案)(4) 終
1.はじめに2025年10月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」(以下、「金融商品基準草案」という)、企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」(以下、「適用指針草案」という)等を公表しました。今回は「注記事項」について説明し、本シリーズを終えることにします。2.注記事項(1)金融商品全般の注記の開示目的金融商品に関する注記の開示目的は、金融商品のリスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期および不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです(「金融商品基準草案」40-A1項)。この開示目的を達成するために、次の事項が注記されます(「金融商品基準草案」40-2項)。金融商品の状況に関する事項金融商品に対する取組方針金融商品の内容とそのリスク金融商品に係るリスク管理体制金融商品の時価等に関する事項についての補足説明金融商品の時価等に関する事項金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項(2)信用リスクに関する注記の開示目的「適用指針草案」では、信用リスクに限定した注記の開示目的が示されています(注1)。信用リスクに関する開示目的は、企業の事業目的に照らした債権等の重要性を踏まえ、信用リスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期および不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することです(「適用指針草案」71項)。この開示目的を達成するために、信用リスクに関する情報として、次の事項が注記されます。①予想信用損失の分解情報予想信用損失の残高(予想信用損失引当金)の変動についての情報を提供するために、債権等の特徴が類似するグループごとに予想信用損失引当金の期首残高から期末残高への調整表を注記します(「適用指針草案」75項)。「適用指針草案」の開示例1を基にすると、次のような調整表になります。単位:百万円12か月の予想信用損失全期間の予想信用損失期首残高300500全期間の予想信用損失への振替え△808012か月の予想信用損失への振替え20△20購入や売却した債権等110△140期末残高350420②信用リスク管理実務と予想信用損失の算定プロセスに関する情報信用リスク管理実務と信用リスク管理実務が予想信用損失の算定にどのように関連するかを説明するために、信用リスクの著しい増大に関する判定方法、デフォルトの定義およびデフォルトの定義を決定した理由などを注記します(「適用指針草案」79項)。③当期および翌期以降の財務諸表への影響を理解するための情報信用リスク・エクスポージャーを評価し、信用リスクの著しい集中を理解できるようにするために、信用リスク格付ごとに債権等の取得価額または償却原価、信用リスクに対するエクスポージャーを注記します(「適用指針草案」82項)(注2)。内部信用格付による地域別の債権等の開示例は、「適用指針草案」の開示例2-1を基にすると、下表のようになります。単位:百万円内部信用格付国内海外12か月全期間12か月全期間1-290020200103-430050180305-6801405014071023020210この表は、内部信用格付1-2の債権の信用リスクが最も低く、7が最も高いことを示しています。「12か月」は12か月の予想信用損失に等しい金額により算定している債権等の金額、「全期間」は全期間の予想信用損失に等しい金額により算定している債権等の金額です。通常、信用リスクが低い債権については12か月の予想信用損失を、信用リスクが高い債権については全期間の予想信用損失を見積もるケースが多くなると想定されますので、表のような数値傾向が想定されます。このように、「適用指針草案」では、信用リスクに関する注記が、現行の金融商品に関する会計基準と比較すると、拡充されているといえます。3.本シリーズを終えるにあたって4回にわたり、中小企業への影響にも触れながら、「金融商品基準草案」と「適用指針草案」を解説してきました。これらは最終基準ではないので、規定の一部が変更される可能性もありますが、本シリーズの要点をまとめると次のようになります。貸倒見積額が予想信用損失に名称変更し、その算定方法も大きく変わりました。信用リスクに関する注記項目が拡充されました。金融機関による中小企業への融資姿勢に影響を及ぼす可能性があります。したがって、中小企業は、経営計画・改善計画を示し、説明責任を高めることも必要になるでしょう。<注釈>その理由は、会計基準では信用リスクに関する開示だけでなく金融商品に関する全般的な開示目的を定めるのが望ましいとされたからです(「適用指針草案」BC120項)。担保および他の信用補完が予想信用損失に与える影響なども注記されます。提供:税経システム研究所
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2026/06/18 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(12)
1.AI活用で意思決定の高度化を図る生成AIの実務における利用は日増しに進んでおり、管理会計領域においても、差異分析、予算フォーキャスト、レポーティング作成支援など、さまざまな場面で活用されるようになってきました。しかし、AIを利用すれば、ただちに成果が高まるわけではありません。この点、管理会計領域の主要な国際論文誌であるManagementAccountingResearchに掲載されたBoerneretal.(2025)は、重要な示唆を与えています。彼らの研究は、データやAIなどの技術を導入すること自体が、そのまま管理会計部門の有効性向上につながるわけではなく、それらを経営判断に結び付けてはじめて効果が現れることを示しています。すなわち、データやAIの活用は、導入しただけで組織を変革するのではなく、意思決定へ適切に結び付けられてこそ意味を持つのです。この点、昨今見られる多くの議論は、AIに適切な指示(プロンプト)を与えることに焦点を当てています。しかし、管理会計実務において最終的に判断を行うのは、あくまで人間です。したがって、本当に考えるべきなのは、AIがどのような内容を出力するのかという点だけではありません。AIがどのような形で情報を提示し、その出力が人間の判断や意思決定にどのような影響を及ぼすのか、という点まで含めて捉える必要があります。たとえば、同じ業績データをもとに分析を行う場合でも、AIが複数の可能性を示しながら追加的な検討を促すのか、あるいは基準や制約条件への適合を強く意識させるのかによって、人間がその後に進める議論の内容は変わってきます。前者であれば、論点を広げながら複数の選択肢を比較検討する方向へ進むでしょうし、後者であれば、数値や前提条件の妥当性をより慎重に確かめる方向へ進むはずです。このように、AI活用において重要なのは、単に情報を出力させることではありません。AIをどのように介入させるのかによって、人間の注意の向け方、議論の進み方、前提条件の検証の深さ、さらには最終的な判断の質まで変わりうるのです。2.AIに対する人間の反応の多様性AIが提示した情報に対して、人間が常に同じように反応するわけではありません。学術的にも、この点は重要な論点として議論されています。たとえば、AIやシステムが示した答えを、人間が十分に確かめないまま受け入れてしまう傾向は、自動化バイアス(automationbias)として知られています(Bahneretal.2008)。他方で、AIやアルゴリズムが示した提案を、人間が過度に疑い、十分に活用しない傾向は、アルゴリズム嫌悪(algorithmaversion)として説明されています(Casteloetal.2019)。このように、人間はAIの答えを常に信じるわけでもなければ、常に適切に活用できるわけでもありません。たとえ詳細なプロンプトによってAIが正確な情報を出力したとしても、人間がその情報をそのまま受け入れるとは限らず、場合によっては強い疑念や批判を向けることもあります。したがって、AI活用において重要なのは、AIがどのような情報を出力するかだけではありません。その情報を人間がどのように受け止め、どのように判断へ結び付けるのかという点まで視野に入れる必要があるのです。3.生成AIの意思決定への介入と生成AIの性格づけこのような人間の反応の多様性を踏まえると、生成AIを単なる分析結果の提示ツールとして捉えるだけでは不十分だということになります。生成AIは、自然言語を通じて問いかけを行い、代替案を示し、警告を発することによって、人間の注意の向け方や議論の方向に働きかけることができます。つまり、生成AIは、情報を返すだけでなく、意思決定の過程そのものに影響を及ぼしうる存在なのです。ここで重要になるのが、生成AIの「性格づけ」です。生成AIには、利用者に問いかけながら、より広い観点からの検討を促すようなタイプもあれば、基準や制約条件を強く意識させ、前提条件や数値の妥当性を厳密に確認させるようなタイプもあります。前者は、論点を広げ、見落としていた可能性に気づかせることに役立ちますし、後者は、議論を引き締め、判断の妥当性をより慎重に確かめることに役立つ可能性があります。もちろん、どちらが常に優れているというわけではありません。論点を広げるタイプのAIは、新たな選択肢や非財務的な含意に気づかせる一方で、議論が拡散する可能性もあります。逆に、基準や制約条件を強く意識させるタイプのAIは、前提条件の再検証を促す一方で、検討の幅を狭める可能性もあります。すなわち、生成AIの効果は、AIそのものの性能だけで決まるのではなく、AIをどのような性格で設計し、どのようなトーンや形式で働きかけさせるのかによっても変わってくるのです。したがって、AI活用において重視すべきなのは、プロンプトの書き方だけではありません。AIにどのような役割を与えるのか、どのような強さで問いかけや警告を行わせるのか、どのような形で情報を整理して提示させるのかまで含めて設計する必要があります。言い換えれば、生成AIを管理会計実務に組み込む際には、AIの精度だけでなく、AIが人間の意思決定にどのように介入するのかという「介入の設計」そのものが重要になるのです。4.実験研究が示すAI介入設計の重要性筆者らが行った資本投資意思決定に関する実験研究においても、生成AIの介入の仕方によって、人間の議論や判断の進み方に違いがみられる傾向が確認されています。この実験では、論点の広がりや代替案の検討を促す質問型の性格を持つタイプのAIと、投資基準や制約条件への適合を強く意識させる断定型の性格を持つタイプのAIを設定し、実験参加者の会議中の会話や意思決定の結果を比較しました。現時点の分析では、断定型のAIが用いられた場合、参加者はAIの断定的な指摘に対して問い返したり、反発したりしながら、単価、数量、原材料費率、固定費率、補助金条件などを何度も変更し、基準を満たす限界値を探る傾向がみられました。これに対して、質問型のAIが用いられた場合には、AIの示唆を受け入れつつ、競合との関係、ブランド戦略、市場動向、供給リスクといった、より広い論点へ議論が展開していく傾向がみられました。この違いは、AIに対する人間の反応が一様ではないことを示しています。断定型のAIは、利用者に強い制約意識を持たせることで、前提条件や数値の妥当性をより慎重に確認させる方向へ働きかけます。他方で、質問型のAIは、利用者に追加的な論点や代替的な可能性を意識させることで、議論の幅を広げる方向へ働きかけます。つまり、生成AIが意思決定に与える影響は、AIがどれほど正確な情報を返すかだけで決まるのではなく、AIがどのようなトーンで、どのような形で人間に働きかけるのかによっても変わってくるのです。したがって、これからのAI活用で重視すべきなのは、プロンプトの書き方だけではありません。AIにどのような役割を与え、どのような性格づけのもとで、どのように人間の意思決定へ介入させるのかまで含めて設計することが必要になります。AI活用の成否は、どれほど高度なAIを導入したかではなく、AIをどのように意思決定プロセスへ結び付けるかによって決まるのかもしれません。参考文献Bahner,J.E.,Hüper,A.D.,&Manzey,D.(2008).Misuseofautomateddecisionaids:Complacency,automationbiasandtheimpactoftrainingexperience.InternationalJournalofHuman-ComputerStudies,66(9),688–699.https://doi.org/10.1016/j.ijhcs.2008.06.001Boerner,X.,Wiener,M.,&Guenther,T.W.(2025).Controllershipeffectivenessanddigitalization:Sheddinglightontheimportanceofbusinessanalyticscapabilitiesandthebusinesspartnerrole.ManagementAccountingResearch,66,Article100904.https://doi.org/10.1016/j.mar.2024.100904Castelo,N.,Bos,M.W.,&Lehmann,D.R.(2019).Task-dependentalgorithmaversion.JournalofMarketingResearch,56(5),809–825.https://doi.org/10.1177/0022243719851788提供:税経システム研究所
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