会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2026/05/28 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(31)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。中小企業において、原価管理は製品の製造が始まった後の対応になってしまうことが少なくありません。ただし、原材料費の高騰やエネルギー価格の上昇が続く今日では、製品の製造後に現場で改善できる範囲には限界があります。ここで重要になるのが開発購買の考え方です。製品原価の多くの部分が決まるのは、企画・開発の段階です。製品によっては、原価にかかわる要因(コストドライバー)の70%から80%程度が製品開発で決まってしまうとも考えられています(谷2022,p.227)。製造が始まってから部品のコストを抑えるための努力をするよりも、企画・開発段階から低コストで製品を作れる体制づくりを進める方が、目標とする利益の達成に近づく可能性が高くなります。今回の記事では、早期から原価管理に取り組むのに欠かせない開発購買について解説します。2.開発購買について開発購買は、製品の企画・開発の初期段階から購買部門と開発部門を中心に、必要な時には取引先(サプライヤー等)の候補が参加して、最も適した原価、仕様、期間、生産量を達成できるように図面を作り込む活動です(吉田・伊藤2021,p.94)。開発購買は、これまでの記事で解説した原価企画の考え方を基に、早期から原価管理を実行するための手法になります。具体的には、対象となる部品の選定、目標の設定、目標を達成するための図面の作成、サプライヤーの選定と見積り、量産の準備と評価、量産への移行の手順で進められます。これらの活動を行う中で特に重要なのは、以下の事項です。①コストと機能の検討過去の記事でも解説した価値工学(VE)の手法を用いて、製品の機能はそのまま維持、または今よりも向上させながら、より安価な構造や材質に置き換えられないかを検討します。ここでは、顧客が求めていない精度や、過剰なスペックの材質を削ぎ落とすことが重要です。また、②で取り上げる標準化、共通化を進めることも、コストと機能のバランスをとる上で有効です。②標準化、共通化の推進企画・開発段階では、ある機能を実現するためにその製品に特有な仕様の部品や製造工程を追及してしまうことがあります。しかし、特殊な部品や製造工程が増えるほど、コストは高くなります。自社で独自規格の部品があった場合に、特殊な仕様の部品が本当に必要かどうか、市場で調達可能な汎用品に置き換えられないかを考えます。また、自社で扱う他の製品と同じ部品や工程を使えないかという点も、原価管理上重要なポイントになります。こうした標準化、共通化を進めることで購買のボリュームを増やすことができれば単位当たりコストの低減にもつながりますし、在庫管理の効率化や不具合が生じるリスクを減らすこともできます。③サプライヤーの早期巻き込み企画・開発が終わってから取引先へ見積りをとるのでは、コスト低減のために現場で改善できることは限られてしまいます。開発購買では、仕様が決まる前に、候補となるサプライヤーと連携して、サプライヤーが保有する設備で効率的に製造が可能な素材の検討、コストを低減するために削減すべき工程等を検討します。また、試作から量産への移行をスムーズにするため、物流コストや梱包形態、支払い条件までを企画・開発段階でシミュレーションすることもあります。このように早期から取引先を巻き込むことで、取引先の経験や知識を設計に活かしつつ、原価管理を進めることができます。④法規制への対処前回の記事でも取り上げた「取適法(中小受託取引適正化法)」について、開発購買を行う場合に注意が必要です。開発購買では、サプライヤーからコスト低減のアイデアを出してもらいます。ここで、以下のようなことを行った場合には取適法の規定に抵触し、罰則が科される可能性があります。サプライヤーの提案を採用して設計変更を繰り返した後に、発注を一方的にキャンセルする。サプライヤーが出した独自のアイデアを、他の安価な業者に渡して作らせる。こうした行為は、法的リスクを高めるだけでなく、業界内での信頼を失うことにもなります。健全な開発購買を行うためには、自社とサプライヤー相互の利益に基づく適正な関係を築くことが重要です。3.中小企業で開発購買に取り組む時に注意する点リソースが限られている中小企業において、大企業のように開発購買のために専用のスタッフやチームを配置したり、高額のシステムを導入したりすることは現実的ではないかもしれません。その場合には、既存の体制を活かして、下記の点に注意すると良いでしょう。設計の担当者は、自分が使い慣れた部品や昔からの付き合いがある業者を優先しがちです。また、設計の担当者だけにコスト意識を持たせるのには限界があります。この対策として、購買担当者に「最新の材料相場」や「新しい技術を持つ新規業者の候補」を提示させ、設計の選択肢を増やす仕組みを作ることが効果的です。部品単位あたりの金額というような結果だけにとらわれず、その内訳(材料費、加工賃、管理費、利益)を分解して議論することが、具体的な施策の実行にも役立ちます。もし、会計事務所の職員がクライアントの原価管理にかかわられている場合には、報告書に記載された数字だけでなく、主要製品の製造原価に関する情報収集を支援することや、どの費目が自社の利益を圧迫しているかを可視化できるように指導することが効果的です。原価管理では、先月の原価情報のように事後的な評価になりがちです。開発購買では、今後見込まれる原価の目標達成率に注意しつつ、企画・開発の段階から管理を進めます。目標とする利益を確保できるようにいち早く原価を作り込むという考え方を企業全体で浸透させることが必要です。このように企業の状況に合わせて開発購買を導入することで、例えば、物流費の高騰を見越して、部品の形状を工夫し、製品の積載効率を高める、というように、コスト増大による影響を受けづらい施策を早期に実行することが可能です。4.おわりに開発購買は、単なるコストダウンの手法ではありません。設計、購買、製造等の社内の関連部署はもちろん、外部のサプライヤーも参加しながら利益を生み出すための組織的な活動です。開発購買に取り組むことは、中小企業の経営陣にとっては、現場の努力を確実な利益に変えるための投資にもなります。また、経理担当者や会計事務所の職員にとっては、数字の集計にとどまらず、企業として利益が出る構造になっているかどうかをものづくりの源流からチェックするためのアドバイザーとしてのスキルを発揮するチャンスにもなります。購買活動の早い時期から原価を意識した管理を進めることで、企業内の業務を見直す機会を増やしていくことが重要です。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.提供:税経システム研究所
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2026/05/28 財務会計
金融商品に関する会計基準(案)(3)
1.はじめに2025年10月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」(以下、「金融商品基準草案」という)、企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」(以下、「適用指針草案」という)等を公表しました。本シリーズでは、現行基準から改正された点を中心に、可能な限り中小企業に与えうる影響にも触れながら、「金融商品基準草案」を解説します。今回は、「予想信用損失の算定」(現行基準における貸倒見積高の算定)について説明します。すでに解説したように(第1回、第2回レポートを参照)、債権の貸借対照表価額は、原則として取得価額から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とします。ただし、貸付金と重要な金融要素を含む債権については、償却原価から予想信用損失に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とします(「金融商品基準草案」14項)。このように、「金融商品基準草案」では、現行基準における一般債権、貸倒懸念債権および破産更生債権等の3区分を廃止することが提案されています。【予想信用損失の算定が中小企業に与えうる影響】予想信用損失の算定は、金融機関の与信姿勢の変化を通じて、間接的に中小企業の経営に影響を及ぼす可能性があります。金融機関にとって、予想信用損失が多くなると利益が減り、結果として自己資本も減ります(注1)。金融機関は、このようなことを避けるために、信用力が弱い中小企業に対して、与信枠の縮小・新規融資の慎重・金利や条件(財務制限条項)の厳格化といった対応をする可能性があります。予想信用損失の算定には、将来シナリオが使われます。したがって、中小企業は、将来の事業計画や財務数値予想を金融機関に対して説明することが求められるケースもあるでしょう。たとえば、次のようなことを金融機関に対して説明することにより、「信用リスクが著しく増加していない」と判断されるかもしれません。固定費が多すぎると、売上の減少時に固定費が負担となって赤字になりやすいので、固定費の削減計画売上・利益・キャッシュ・フローなどの減少(悪化)が一時的要因か構造的要因かの分析と、その対応策2.予想信用損失の算定方法予想信用損失は、以下を反映する方法により算定します(「金融商品基準草案」27-2項、「適用指針草案」49項)。偏りがなく確率加重された金額貨幣の時間価値様々な予測に関して、過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報(たとえば、企業内部における貸倒実績、内部信用格付など)予想信用損失の算定において、特に実務上の負担が重いと考えられる項目については、「簡素化された予想信用損失の算定方法」が認められています。以下、見積期間、確率による加重計算、貨幣の時間価値について、原則的方法と簡素化された方法を説明します。(1)見積期間①原則予想信用損失の算定に使用する見積期間は、原則として、貸手が信用リスクに晒される契約上の最長期間を用います(「適用指針草案」39項)。②簡素化された方法内部信用格付を活用して判定する方法(2026年2月度レポートを参照)を用いている場合、正常先のうち要判定格付、その他要注意先また要管理先に区分された内部信用格付に含まれる債務者に対する債権等については、それぞれの区分の単位で、リスク特性が類似した債権等のグループごと平均残存期間を用いることができます。一度、決定した平均残存期間については、状況に大きな変化がない限り、継続して用いることができます(「適用指針草案」69項)。(2)確率による加重計算①原則予想信用損失の算定を行う際には、すべてのシナリオを特定する必要はありませんが、信用損失が発生する可能性と信用損失が発生しない可能性の両方の可能性を反映します。その際、信用損失が発生しないことが最も可能性の高い場合や信用損失が発生する可能性が非常に低い場合であっても、信用損失が発生する可能性と信用損失が発生しない可能性の両方の可能性を反映して、信用損失が発生するリスクまたは確率を考慮します(「適用指針草案」43項)。②簡素化された方法信用損失が発生する可能性について、最も可能性が高い将来予測シナリオのみを考慮することができます(「適用指針草案」64項)。(3)貨幣の時間価値①原則予想信用損失の算定に貨幣の時間価値を考慮する場合には、デフォルトが発生すると予測される時点までの期間ではなく、期末までの期間にわたり、予想信用損失を割り引きます。割引率としては、債権等の発生の認識時における実効金利またはその近似値を用います(「適用指針草案」47項、48項)。②簡素化された方法貸付金と重要な金融要素を含む債権については、実効金利の代わりに約定金利(または約定金利相当の率)を用いて割引を行うことができます(「適用指針草案」65項)。【数値例】貸付金10億円(満期日は1年後)、実効金利5%、見積期間12か月3つのシナリオを想定する。シナリオ発生確率デフォルト確率デフォルト時の損失率各シナリオの予想信用損失景気後退20%5%60%10億×20%×5%×60%=600万円現状維持50%2%50%10億×50%×2%×50%=500万円景気回復30%1%40%10億×30%×1%×40%=120万円予想信用損失の合計:600万円+500万円+120万円=1,220万円上記の現在価値:1,220万円÷(1+0.05)≒1,162万円したがって、原則的方法では、計上される貸倒引当金は1,162万円になります。なお、簡素化された方法で、最も可能性が高い将来予測シナリオのみを考慮した場合、計上される貸倒引当金は500万円÷(1+0.05)≒476万円になります。3.一般事業会社の営業債権等に係る簡便的な取扱い一般事業会社の通常の営業取引から生じる営業債権(「収益認識に関する会計基準」の範囲に含まれる取引から生じる受取手形や売掛金等)とリース債権については、簡便的な取扱いが提案されています。ただし、リース債権に関する簡便的な取扱いの説明は割愛します。(1)信用リスクの著しい増大に関する判定信用リスクの著しい増大の判定をせずに全期間の予想信用損失に等しい金額により算定することができます(「金融商品基準草案」28-4項、28-5項)。(2)予想信用損失の算定方法予想信用損失を算定する際は、貸倒実績に基づき、一定の期日経過日数(例えば、期日未経過、1か月以内期日経過、1か月超3か月以内の期日経過、3か月超6か月以内の期日経過等)に応じた引当率を定める方法を用いることができます(「適用指針草案」38項)。「適用指針草案」の設例10で示されている数値例は、次のとおりです。【数値例】A社は、30,000百万円の売掛金を有しており、その期日経過に応じた引当率を次のように見積もった。期日経過なし1か月以内の期日経過1か月超2か月以内の期日経過2か月超3か月以内の期日経過3か月超の期日経過引当率0.3%1.6%3.6%6.6%10.6%この場合、予想信用損失は次のように算定されるので、計上される貸倒引当金は580百万円になります(単位:百万円)。取得価額予想信用損失(取得価額×引当率)期日経過なし15,000451か月以内の期日経過7,5001201か月超2か月以内の期日経過4,0001442か月超3か月以内の期日経過2,5001653か月超の期日経過1,00010630,0005804.まとめここまでをまとめると、次のようになります。主に金融機関が対象主に一般事業会社が対象予想信用損失の算定方法について、原則的な方法と簡素化された方法がある。後者の方法では、次の項目について簡素化されている。①信用リスクの著しい増大に関する判定②債権等の予想存続期間③将来予測シナリオ④貨幣の時間価値収益認識に関する会計基準」の範囲に含まれる取引から生じた受取手形や売掛金等については、簡便的な取り扱いがある。①信用リスクの著しい増大の判定をせずに全期間の予想信用損失に等しい金額により算定することができる。②貸倒実績に基づき、期日経過日数に応じた引当率を用いることができる。【参考文献】岡田慎太郎(2024)「邦銀における予想信用損失モデルに関する考察」『千葉経済論叢』、70、pp.37-52。<注釈>岡田(2024)は、日本の銀行業のうちニューヨーク証券取引所に上場している3社(三菱UFJ、三井住友、みずほ)について、予想信用損失モデルと日本基準による貸倒引当金残高の比較を行っている。その結果、3社の引当率の平均値はいずれも予想信用損失モデルの方が日本基準より高く、予想信用損失モデルでは貸倒引当金の引当水準を押し上げる傾向があることを示している。ただし、2社(三菱UFJとみずほ)については、予想信用損失モデルと日本基準の差に縮小の傾向があることも示されている。提供:税経システム研究所
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2026/05/21 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(11)
1.AI活用のガバナンス:説明可能性と責任をどのように管理するか生成AIは、業務の効率化や分析の高度化という観点から大きな注目を集めています。管理会計実務においても、文章作成、差異分析、予算フォーキャスト、レポーティング支援など、生成AIが活用される場面は着実に広がってきました。事実、生成AIをうまく活用することができれば、これまで多くの時間を要していた集計や分析、説明資料の作成などを大幅に効率化することが可能となり、管理会計の高度化を低コストで実現できる可能性があるのです。しかし、ここで注意しなければならないのは、AI活用は、成果が出たかどうかだけで評価できるものではないという点です。たとえば、生成AIによってレポート作成の時間が短縮されたとしても、その出力の前提に誤りが含まれていた場合や、文脈にそぐわない解釈が入り込んでいた場合には、かえって判断を誤らせてしまうこともあります。また、後からその判断の理由を問われたときに、「AIがそう言ったから」としか説明できないようでは、企業として責任ある意思決定を行っているとは言えません。これからのAI活用において問われるのは、「成果が出たか」だけではありません。「どのように使われたのか」「誰がその結果に責任を負うのか」「問題が起きたときに、その理由を後から説明できるのか」まで含めて考える必要があります。つまり、AIの活用において重要なのは、AIが優れた答えを返すことだけではなく、その答えを人間がどのように受け止め、どのように判断し、どのように責任を持つのかという点なのです。2.EUのAIActが示すものこうした問題意識を考えるうえで参考になるのが、EUのAIActです。AIActは、AIの利用に関するEU域内における包括的な法的枠組みであり、AIを一律に規制するのではなく、リスクの大きさに応じて必要な対応を求める仕組みとなっています。ここで重要なのは、この制度がAIの利用そのものを問題視しているわけではないという点です。AIActが重視しているのは、AIがどのような目的で使われるのか、その利用が人々や社会にどのような影響を与えるのか、そして、人がどのようにそれを監督するのかという点です。たとえば、人々の権利や生活に大きな影響を及ぼす可能性のある高リスクAIについては、適切なリスク管理、記録の保存、透明性の確保、人による監督などが求められています。これは、AIの精度だけでなく、AIの利用過程そのものが問われていることを意味しています。日本企業にとって、EUの制度は一見すると距離のある話に感じられるかもしれません。しかし、ここで本当に重要なのは、AIActという制度そのものよりも、その背景にある考え方です。すなわち、AIの活用においては、「よい成果が出たか」だけではなく、「その成果がどのように生み出されたのか」「誰がそれに責任を持つのか」が重視される時代になってきたという点です。3.管理会計におけるAIアカウンタビリティ(説明責任)の重要性この問題は、管理会計の仕組みをデザインするうえで極めて重要です。なぜなら、管理会計とは本来、組織の活動を見える化し、責任を明確にし、継続的な改善につなげるための仕組みだからです。これまで管理会計では、売上高、利益率、原価差異、キャッシュフロー、生産性といった項目を数値化し、責任単位ごとに管理してきました。これは、成果を把握するだけでなく、「誰が」「どのように」その成果を生み出したのかを明らかにするためでもあります。AI活用の時代においては、この管理対象がさらに広がることになります。なぜなら、売上高や利益率だけでなく、「AIがどの業務で使われているのか」「その出力を誰が確認しているのか」「どのような判断のもとで利用されているのか」といった点もまた、管理対象として捉える必要があるからです。たとえば、生成AIを用いて予算実績差異分析のコメントを自動生成した場合、その文章がもっともらしく見えたとしても、その内容をそのまま採用してよいとは限りません。重要なのは、AIの出力を誰が確認し、どのような点を踏まえて採用したのかということです。この確認や判断の過程が曖昧であれば、AIを使って効率化はできたとしても、責任ある経営管理にはつながりません。この意味で、管理会計にAIを活用する場合、成果を管理するだけでなく、AIがどのように使われたのか、誰が責任を負うのかを明確にし、その判断の理由を説明できる状態を維持することが求められます。すなわち、AIアカウンタビリティが求められるのです。4.AIアカウンタビリティはどのように管理すべきかでは、AIアカウンタビリティは、どのように管理する必要があるのでしょうか。この点、まずは、「AIがどのような対象に対して、どのように使われたのか」を見える化することが必要です。AIがどの業務で使われているのか、どの部門で利用されているのか、どのような目的で用いられているのかが見えていなければ、管理すべき対象を定めることはできません。したがって、AI利用案件の登録状況や、利用目的の整理状況などをリスト化することが必要になります。次に、各管理対象に対して「誰が責任を負うのか」を明確にすることです。AIの出力に基づいて何らかの判断を行う場合、その最終判断を誰が担うのかが明確でなければなりません。たとえば、AIが作成したコメントや分析結果を人が確認したのか、最終的な採否を誰が決定したのか、その理由が残されているのかといった点は、責任ある意思決定において、極めて重要です。AIが補助を行ったとしても、意思決定の責任そのものまでAIに移すことはできないからです。さいごに、意思決定の結果やプロセスを「事後的に検証可能な形にするための仕組みを作る」ことです。ここでいう「検証可能」の意味は、失敗したときの責任を個人がとるべきであるということではありません。なぜその出力結果を使ったのか、なぜその判断を採用したのか、どのようなデータやプロンプトのもとで結果が得られたのかを、人間が後からきちんと説明し、検証できるようにすることが必要となるのです。これは、意思決定の失敗の原因と課題を明らかにし、真の意味での意思決定の高度化を図るためでもあります。また、これらに関連して、AIガバナンスのKPIを設定することも重要です。AI利用案件の把握状況、責任者の設定状況、人手による確認の実施状況、採否理由の記録状況といった情報がどの程度整備されているのか、指標を設定して管理していくことも一案でしょう。もちろん、重要なのは、これらの指標を増やすこと自体ではありません。説明可能性や責任を、抽象的な理念のままにせず、日々の経営管理のなかで確認できる状態にしておくことが肝要なのです。5.真の意味でのAI活用に向けて生成AIは、管理会計実務を大きく変える可能性を持っています。集計や分析、レポート作成などを効率化し、より多くの論点を短時間で検討することを可能にするからです。しかし、その一方で、AIが出力した結果を無批判に受け入れてしまえば、かえって意思決定の質を低下させてしまうおそれもあります。したがって、真の意味でAIを活用するためには、AIを単なる効率化の道具としてではなく、人間の判断を支えるための手段として位置づけることが重要です。ここで求められるのは、AIを使うことそれ自体ではなく、AIを適切に使いこなすことです。AIが提示した分析結果やコメントは、あくまで意思決定のたたき台や補助情報として捉え、最終的には、組織の状況や現場の文脈を踏まえて、人間が判断し、責任を負わなければなりません。AI活用の高度化とは、AIに判断を委ねることではなく、AIを活用しながら人間の判断の質を高めることにほかならないのです。生成AIは、会計情報をより効果的に活用するための強力なツールとなります。しかし、あくまでそれは経営のサポートツールに過ぎません。だからこそ、AI活用においては、成果だけでなく、その使われ方や説明可能性、責任の所在まで含めて管理することが必要になるのです。AIの時代においてこそ、使う側の知識と判断の重要性を改めて認識する必要があるのではないでしょうか。提供:税経システム研究所
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2026/05/14 財務会計
公益法人制度の改正(13)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、改正会計基準のなかで、重要な位置づけとなった財務諸表の「注記」を取り上げます。14.注記(1)注記の充実この度の公益法人会計基準の改正内容のなかで、財務諸表本体を簡素化するとともに、財務諸表の注記の充実が図られました。その趣旨は、財務諸表本体は情報利用者にとってわかりやすい形とし、情報利用者のニーズに応えるために、注記に、詳細な情報を含めることになったとされています。別の表現をするならば、従来、財務諸表本体で明らかにしていた内容を、注記に移したと言えます。そして充実が図られた注記については、「公益法人の財務諸表には、重要な会計方針、重要な後発事象、固有の表示科目の内容その他公益法人の状況を適切に開示するために必要な事項を注記する。」(改正会計基準、par.67(1))とされています。(2)重要な会計方針に係る注記上述のとおり、重要な会計方針については、注記が求められています。会計方針とは、企業会計上の定義と同様に、「財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続」(注1)です。そして注記する会計方針の例として、次のものが例示されています。「(1)有価証券の評価基準及び評価方法(2)棚卸資産の評価基準及び評価方法(3)固定資産の減価償却の方法(4)外貨建資産及び負債の本邦通貨への換算基準(5)引当金の計上根拠及び計上基準(6)キャッシュ・フロー計算書における資金の範囲(7)消費税等の会計処理(8)その他財務諸表作成のための基本となる事項」(改正会計基準、par.69)そしてそうした会計方針について変更を行った(会計方針の変更の)場合には、重要な会計方針の注記の次に、「その旨、変更の理由及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容」(改正会計基準、par.68(1))を注記することになります。(3)表示方法または会計上の見積りの変更表示方法の変更を行った場合には、「その内容」(改正会計基準、par.68(2))、「会計上の見積りの変更を行った場合には、その旨、変更の内容及び当該変更が財務諸表に与えている影響の内容」(改正会計基準、par.68(3))の注記を、会計方針の変更に係る注記の次に、記載することになります(注2)。表示方法とは、「財務諸表の作成に当たって、その会計情報を示すために採用した表示の方法(注記による開示を含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列及び報告様式が含まれる。」(改正会計基準、par.70)と説明されています。科目分類は、例えば、資産や負債についての流動と固定の分類があり、科目配列としては、流動性配列法や固定性配列法などがあります。さらに報告様式としては、報告式や勘定式などがあります。また会計上の見積りとは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」(改正会計基準、par.71)と説明されています。したがって、事後に新たに入手可能となった情報により、より合理的な金額を算出されることになったような場合、会計上の見積りの変更が生じると思われます。(4)重要な後発事象の注記後発事象とは、「貸借対照表日後に発生した事象で、次期以降の財政状態及び活動運営状況に影響を及ぼすもの」(改正会計基準、par.72括弧書き)を指します。そして、財務諸表には、その作成日までに発生した重要な後発事象を注記することが求められます(改正会計基準、par.72)。なお、重要な後発事象として、次の事象が例示されています。「(1)主要な業務の開始又は廃止(2)国又は地方公共団体からの補助金交付、寄付者からの寄付金交付の重大な変更(3)火災、出水等による重大な損害の発生」(改正会計基準、par.73)(5)固有の表示科目の内容その他公益法人の状況を適切に開示するために必要な事項の注記改正会計基準では、その重要性にかかわらず、記載しなければならない事項として、次のものを挙げています。「(1)貸借対照表会計区分別内訳(2)資産及び負債の状況(3)活動計算書財源区分別内訳(4)活動計算書会計区分及び事業区分別内訳(5)事業費及び管理費の形態別区分」(改正会計基準、par.74)さらに、注記すべき事項が発生した場合に記載する事項として、次のものを挙げています。「(1)継続組織の前提に関する注記(2)使途拘束資産(控除対象財産)の内訳と増減額及び残高(3)有形固定資産及び無形固定資産の内訳と増減額及び残高(4)担保に供している資産(5)保証債務等の偶発債務(6)引当金の内訳と増減額及び残高(7)補助金等の内訳、交付者と増減額及び残高(8)指定純資産の内訳と増減額及び残高(9)指定純資産のうち指定寄附資金の受入年度別残高及び使用見込み(10)基金の増減額及び残高(11)代替基金の増減額及び残高(12)純資産間の振替額(13)キャッシュ・フロー計算書の注記(14)重要な後発事象」(改正会計基準、par.75)そしてその項目に重要性がある場合に記載する事項として、次のものを挙げています。「(1)資産に係る引当金を直接控除した場合の各資産の資産項目別の引当金の金額(2)借入金の内訳と増減額及び残高(3)資産除去債務に関する注記(4)退職給付債務に関する注記(5)関係会社(子会社及び関連会社)に対する金銭債権又は金銭債務(6)固定資産の減損損失に関する注記(7)税効果会計に関する注記(8)リース取引に関する注記(9)金融商品の状況に関する注記(10)賃貸等不動産の時価等に関する注記(11)関連当事者との取引の内容(12)その他公益法人の資産、負債及び純資産の状態並びに純資産増減の状況を明らかにするために必要な事項」(改正会計基準、par.76)(6)附属明細書の内容及び財産目録の内容の注記について改正会計基準では、作成すべき財務諸表等として、財務諸表(貸借対照表、活動計算書、キャッシュ・フロー計算書)及びその注記に加えて、附属明細書と財産目録が挙げられています(改正会計基準、par.16)。そのため、基本的に、附属明細書と財産目録がそれぞれ別途作成されることになります(両者の内容については、後のレポートで述べることにします)。しかし、附属明細書の内容を「財務諸表の注記に記載している場合には、附属明細書においては、その旨の記載をもって内容の記載は省略することができる。」(改正会計基準、par.79)とされています。同様に、「財産目録の内容を財務諸表の注記に記載している場合には、その記載を財産目録とみなすことができる。」(改正会計基準、par.80)とされています。そのため両者を注記により省略できることになります。<注釈>企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(2009年12月、改正2020年3月)、par.4(1)。改正会計基準の運用指針(par.91(Ⅻ・第4・3))によれば、「3.重要な会計方針等の変更」のタイトルのもと、「(1)重要な会計方針の変更、(2)表示方法の変更、(3)会計上の見積りの変更」が並べられています。提供:税経システム研究所
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2026/04/09 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(30)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。前回の記事では、企画・開発段階、製造・保守段階の原価管理において購買部門が果たす役割を確認しました。いずれの段階でも、購買活動における原価管理のために取引先との協力が非常に重要です。今回は、購買部門を中心に行われる取引先との協力を通じた原価管理について説明します。購買部門が取引先と協力して行う改善活動の目的は、企画・開発段階、製造・保守段階によって異なります。以下では、各段階における取り組みを見ていきましょう。2.企画・開発段階における取引先との協力製品原価の多くの部分が決まるのは、企画・開発の段階です。製品によっては、原価にかかわる要因(コストドライバー)の70%から80%程度が製品開発で決まってしまうとも考えられています(谷2022,p.227)。そのため、早い時期から取引先にプロジェクトへ参加してもらい、ともに改善活動を進めることが重要です。企画・開発段階における取引先との協力は、新製品の目標原価を中心とする目標値の達成を目指して行われます。特に、企画・開発の初期段階から、調達、開発、生産等の自社の関連部門、そして、必要に応じて、取引先(の候補)が関与して、製品の仕様、期間、生産量、原価に関して最適な水準に達するように図面を作り込む活動(開発購買と言う)が行われることもあります。この場合、前回の記事でも説明したように、調達部門が開発部門や生産部門との協議のうえで管理対象とする部品の選定、その部品の目標原価を決めて、そのうえで取引先候補にも参画してもらいながら、図面の作り込みを行います。ここでは、現状の把握、目標原価をはじめとする目標値を達成するための改善策の実行、実行後の評価と確認を行います。3.製造・保守段階における取引先との協力製造・保守段階での取引先との協力は、顧客からの要求を受けた改善や、利益予算の達成のために行われます。具体的な方法には、購買戦略やVA(価値分析)による改善、交渉による改善があります。これらは、取引先ごとに行われることが多いですが、対象となる部品等のグループごとに行うこともあります。(1)購買戦略やVAによる改善この方法では、購買部門が中心となって数年におよぶ購買戦略・計画を作成し、それらを基に取引先との協議を行います。改善策については、製品別だけでなく、取引先別や購入する部品別に施策を行います。例えば、部品ごとに、購入方法や技術的な検討による改善、取引先の変更、部品の内製化が行われます。また、年度ごとの活動では、年度の初めに、これまでに購買部門等がVAにより検討した改善案を取引先へと提示するとともに、取引先からも改善案を提示してもらいます。出された提案を両社で検討して、役割分担や納期を決めて、施策を実行します。この協議は、自社と取引先での創意工夫のもとで改善活動を強化するために行われています。この取り組みから何らかの成果が得られた場合に備えて、成果の配分方法を予め定めておくと、安定的な運営がしやすいでしょう。(2)交渉による改善この方法では、購買部門が中心になって、取引先に対して、取引価格を下げるように依頼します。改善の対象や金額等の依頼内容は、取引先からの購入量、前年度の改善実績等を参考にして決めます。ただし、このような依頼は、取引先自らが工程の改善を行うことで得られた利益を取引価格に反映するように求めることにもなります。発注した企業による一方的な要求は、取引先の疲弊にもつながり、取引関係が悪化する可能性もあります。ここでも、将来の見通しや改善を通じて得られた成果の配分について取引先と予め協議しておくことが、事後的なトラブルの回避につながります。なお、中小の事業者がかかわる取引では、「取適法(中小受託取引適正化法)」(注1)による規制があることにも注意が必要です。取適法では、発注元の事業者には、買いたたき(発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べて、著しく低い代金を不当に定めること)、代金の減額(発注時に決めた代金を、受注者側の責任なく減額すること)、協議に応じない一方的な代金決定(協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりと、一方的に代金を決定すること)等の11の行為が禁じられています。取適法に違反した事業者に対しては、公正取引委員会ないし中小企業庁による調査のうえで指導や助言が行われ、それでも改善が見られない場合は、勧告が出されることもあります。違反した企業として社名が公表される可能性もありますので、もし公表された場合には、企業の社会的信用が失墜することや、取引先や消費者からの信頼を失うことにもなり、企業にとって大きなリスクがあります。購買部門やその担当者には、発注する事業者が守るべきルールをしっかりと理解したうえで、取引先に対して誠実に対処していくことがこれまで以上に求められていると言えるでしょう。4.おわりに2と3では、各段階の目的に応じて行われる取引先との改善活動について見てきました。企画・開発段階の早期から取引先との協力を進めることで、コスト競争力上も有利に取引を行うことが可能です。また、製造・保守段階でも、取引先と強固な協力関係を築くことで、より効果的な改善が可能になります。そのためには、取引先と対等な立場で取引を進めることも重要です。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>「取適法」は、2026年1月に「下請法」を改正して施行された法律で、事業者間の業務委託取引において中小の事業者の利益を保護し、取引の適正化を図ることを目的にしています。今回の改正では、本文でも取り上げた「協議に応じない一方的な代金決定」等の禁止事項が追加され、発注した事業者による不当な要求に対する規制が強化されています。取適法の詳しい内容は、公正取引委員会の『取適法リーフレット』(URL:https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf閲覧日:2026年3月3日)をご覧ください。提供:税経システム研究所
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2026/04/02 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(25)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と販売費分析という意味このシリーズの(19)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による販売地域別分析(その1)(1)販売地域別分析の意義岡本[2000]は、製品品種別分析の説明[pp.701-709]につづき、販売地域別分析の方法を説明しています。以下、岡本[2000]が「表13-2」[p.710]として示した営業所別損益計算書の数値例を一部修正した図表1にもとづき、販売地域別の分析について説明します。出典:岡本[2000,p.710,表13-2]を修正岡本[2000]は、販売地域別分析を、「製品品種別分析と並んで、もっとも多く行われる販売費分析」[p.709]であると説明しています。岡本[2000]は、「販売費にたいする責任者は、通常、営業所長など利益センターの責任者であるから、販売費管理の良否は、その責任センターの売上高との関連において判断されなければならない」[p.709]といいます。そして、図表1のような様式の「特定の販売地域を担当する営業所長の業績測定、および営業所自体の収益性判断に使用する損益計算書」[岡本,2000,p.709]を示しています。図表1の様式は、国内であれば、たとえば都道府県といった販売地域ごとに作成し、その販売地域を担当する営業所がその販売費の計画と統制を行うにあたって使用します。それぞれの販売地域は、国内市場を分割していますので、マーケティングでいうところの「セグメント」になります。その意味で、図表1の様式は、セグメント別損益計算書の構成要素であるといえます。したがって、異なる販売地域の営業所別損益計算書を並べて、「特定の販売地域を担当する営業所長の業績測定、および営業所自体の収益性判断に使用する」[岡本,2000,p.709]場合、営業所長の業績を比較して判断したり、異なる販売地域における販売費発生の特性を把握したりすることに役立ちます。たとえば、得意先との綿密な関係性を築かなければ売上高が伸びない販売地域であれば、他の販売地域よりも接待費が多く発生しているとか、北海道のような広域の販売地域では旅費交通費が多く発生しているというような傾向がわかるかもしれません。(2)営業所別損益計算書図表1に示した様式の営業所別損益計算書で分析するにあたり、岡本[2000]は、このシリーズの(21)でも引用したように、「責任センターの業績測定には、純益法は適さない」[p.709]といいます。そのため、図表1の営業所別損益計算書の様式は「直接原価計算方式ではないが、一種の貢献利益法による損益計算書である」[岡本,2000,p.709]といいます。岡本[2000]は、図表1の様式による営業所別損益計算書の分析において、注意するべき4点をあげています。①売上高から標準売上原価を差引いて標準売上総利益を計算する図表1の営業所別損益計算書では、直接原価計算方式を採用しないで、売上高から販売した商品の全部原価である「標準売上原価」を差引いています。分析の対象である営業所の営業活動の貢献度は、「売上高総額ではなく、売上高から売上品の製造原価(売上原価)を控除した額」[岡本,2000,p.709]、すなわち図表1の営業所別損益計算書における「標準売上総利益」で評価する点をあげています。その理由の一つめは、「販売活動の担当者は、自分の業績を過大に評価する危険がある」[岡本,2000,p.710]からだといいます。二つ目の理由は、「営業所長にとっては、工場における製造能率の良否は無関係である」[岡本,2000,p.710]ことです。標準原価計算を採用している場合には、実際原価との差異により、製造活動の能率を評価できますが、図表1の営業所別損益計算書は販売費の分析をするための様式ですから、売上高から「標準売上原価」を差引くことで差異分析をする必要はありません。したがって、売上原価は「標準売上原価」のままでよいことになります。②標準売上総利益から管理可能販売費を差引いて営業所長貢献利益を計算する図表1の営業所別損益計算書の注意するべき点として岡本[2000]が2番目にあげるのは、「標準売上総利益から、営業所長にとって管理可能な販売費が差し引かれ、営業所長の貢献利益(salesmanager’sprofitcontribution)が計算される点」[p.710]です。この段階の利益は、営業所長の権限によって管理できるという意味で「営業所長の管理可能利益」[岡本,2000,p.710]であるといえます。この利益は、「管理不能販売費、および各営業所に共通の販売費や一般管理費の回収に貢献し、さらにそれらの原価を回収したのちは、会社全体の利益獲得に貢献する利益」[岡本,2000,p.710]であり、営業所長の業績を評価する指標です。③営業所長貢献利益から管理不能販売費を差引いて営業所貢献利益を計算する岡本[2000]が3番目にあげる営業所別損益計算書の注意点は、「営業所長貢献利益から、当営業所で発生するが、営業所長にとっては管理不能な販売費が差し引かれ、当営業所ないし当販売地域の貢献利益(districtprofitcontribution)が計算されている点」[p.710]です。この段階の利益は、営業所長の業績評価ではなく、「当営業所ないし当販売地区自体の収益性を、他の地区との比較において判断するため」[岡本,2000,p.710]に計算します。④本来は、予算額・実績額・差異額を記載する岡本[2000]があげる営業所別損益計算書の4番目の注意点は、図表1の営業所別損益計算書には、本来その金額欄に、予算・実績・差異を記載するべきであるが、紙幅の都合上省略しているということです。今回の図表1では、様式を理解しやすいように、実績額の左側に予算額の欄を、また、実績額の右側に差異額の欄を、それぞれ簡略化して示してあります。しかしながら、岡本[2000,p.710]が示す計算例の表では、実績額の左右に予算額の欄と差異額の欄がありません。ところが、管理会計あるいは原価計算の実務においては、営業所長の業績評価を行うにせよ、営業所(またはその販売担当地区)自体の収益性を判断するにせよ、まずは利益計画としての予算を編成します。そして、その予算額と実績額とを対比してその差異額を計算し、実績が予算を下回った(あるいは上回った)原因を判断し、必要に応じて矯正活動を行います。そのためにも、本来は予算額・実績額・差異額を記載し、経営管理に役立てます。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/03/26 財務会計
金融商品に関する会計基準(案)(2)
1.はじめに2025年10月29日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」(以下、「金融商品基準草案」という)、企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」(以下、「適用指針草案」という)等を公表しました。「金融商品基準草案」で大きな改正があったのは、予想信用損失の算定(現行基準における貸倒見積高の算定)です。「金融商品基準草案」は、国際会計基準との整合性を図るため、従来の発生損失モデルに代えて予想信用損失モデルを提案しています。発生損失(IncurredLoss)モデルは、金融資産に関する貸倒れなどの信用損失を、それが発生している可能性が客観的に高いと判断した時に認識する考え方です。一方、予想信用損失(ExpectedCreditLoss:ECL)モデルは、金融資産の認識時点から将来の信用損失を予想し、その予想信用損失を認識する考え方です。したがって、通常、予想信用損失モデルの方が発生損失モデルよりも早期に信用損失を認識することになります(注1)。本シリーズでは、現行基準から改正された点を中心に、可能な限り中小企業に与えうる影響にも触れながら、「金融商品基準草案」を解説します。今回は、現行基準にはなく「金融商品基準草案」で新設された「信用リスクの著しい増大の判定」について説明します。2.予想信用損失モデルの特徴予想信用損失の算定にあたっては、期末において、債権等(債権、満期保有目的の債券、金融保証契約、貸出コミットメント等)の発生の認識以降におけるデフォルト(注2)発生リスクの変動に基づいて、債権等に係る信用リスクが著しく増大しているかどうかを判定します(「金融商品基準草案」27項)。その際には、3つのステージ区分があります。(1)ステージ1期末において、その発生の認識以降の信用リスクが著しく増大していない債権等です。このステージに該当する債権等については、全期間の予想信用損失のうち、期末後12か月以内に生じ得るデフォルトから生じる予想信用損失を算定します。(2)ステージ2期末において、その発生の認識以降の信用リスクが著しく増大している債権等です。このステージに該当する債権等については、全期間の予想信用損失を算定します。(3)ステージ3信用減損金融資産(将来キャッシュ・フローに不利な影響を与える1つまたは複数の事象が発生している債権と満期保有目的の債券)が該当します(「金融商品基準草案」注8-4)(注3)。信用減損金融資産に該当するかどうかを判定する際の証拠としては、債務者の重大な財政的困難、契約違反(デフォルト、期日経過事象など)といったことがあります(「適用指針草案」28項)。このステージに該当する債権等については、全期間の予想信用損失を算定します。3.信用リスクの著しい増大に関する判定(1)将来予測情報の利用(原則)信用リスクの著しい増大の判定において、将来予測的な情報が過大なコストや労力を掛けずに利用可能な場合には、将来予測的な情報を用いますが、利用可能でない場合には期日経過の情報を用いることができます。期日経過の情報を用いる場合、契約上の支払期日から1か月超経過しているときは、反証がない限り、信用リスクが著しく増大していると推定されます(「適用指針草案」9項、10項)。信用リスクの著しい変動の判定に関連する可能性がある情報としては、例えば、次のようなものが挙げられています(「適用指針草案」18項)。債権等に関する外部信用格付けの著しい変化借手の経営成績の著しい変化予想される契約条件の変更(利払いの中断、利率の上昇など)信用リスクが著しく増大しているかどうかの判定は、統計モデル、信用格付プロセス、定性的情報、非統計的な定量的情報のいずれか、またはその組み合わせで行います(「適用指針草案」19項))。ただ、次のすべてを満たす場合には、「信用リスクが低い」と判断され、信用リスクが著しく増大していないと推定します(「適用指針草案」24項、25項)。債権等に係るデフォルト発生リスクが低い。借手が近い将来の契約上のキャッシュ・フローの支払義務を履行する能力を十分に有している長期的な経済状況および事業状況の不利な変化が生じた場合であっても、必ずしも借手の債務履行能力が低下するとは限らない。(2)簡素化された判定方法信用リスクの著しい増大の判定に際して、実務上の負担を軽減するために、簡素化された方法も認められています。簡素化された方法では、債務者の財政状態および経営成績等に応じて付与している内部信用格付を活用して、信用リスクの著しい増大を判定することが認められています。この場合、内部信用格付によって債務者を以下のように区分し、その区分に応じて債権等の発生の認識以降に信用リスクが著しく増大しているかどうかの判定を行います(「適用指針草案」56項)。正常先正常先については、信用リスクが低い順に優良格付、中間格付、要判定格付に区分します(「適用指針草案」57項)。優良格付または中間格付に区分された債務者に対する債権等については、信用リスクの著しい増大が生じていないものとします。要判定格付に区分された債務者に対する債権等は、原則として、信用リスクの著しい増大が生じているものとします(「適用指針草案」58項)。要注意先要注意先は、その他要注意先と要管理先に区分されます。その他要注意先に区分された債務者に対する債権等は、原則として、信用リスクの著しい増大が生じているものとします。要管理先に区分された債務者に対する債権等は、信用リスクの著しい増大が生じているものとします(「適用指針草案」59項)。破綻懸念先、実質破綻先、破綻先これらに区分された債務者に対する債権等は、信用リスクの著しい増大が生じているものとします(「適用指針草案」60項)。簡素化された判定方法をまとめると、次のようになります。3区分詳細区分信用リスクの著しい増大正常先優良格付なし(12か月の予想信用損失)中間格付要判定格付ありとみなすが、債務者単位で反証可能要注意先その他要注意先要管理先あり(全期間の予想信用損失)破綻懸念先、実質破綻先、破綻先【信用リスクの著しい増大の判定が中小企業に与えうる影響】「金融商品基準草案」や「適用指針草案」により、金融機関(債権者)は、融資先の信用リスクの著しい増大があるかないかの判定や信用リスクの著しい増大が一時的かそうでないかの判定を行うことになります。金融機関は、融資先の将来の業績が不安定だったり、格付けが低かったりすれば、予想信用損失額を多く計上するので、利益や自己資本が低下します。したがって、「信用リスクの著しい増大がある」と判断された企業に対する融資条件が厳しくなる(新規融資の慎重化、融資期間の短縮化など)ことが考えられます。また中小企業に対して、債権者からの経営業績改善の圧力が高まることも予想されます。一方で、ある企業が要判定格付やその他要注意先に該当した場合でも、悪化の原因や将来改善が説明できれば、「信用リスクの著しい増大がない債権」と判断されることもありえます。これは、中小企業の金融機関に対する説明責任が今まで以上に求められるともいえます。言い換えれば、業績が一時的に悪化したとしても、現状分析や将来の経営改善計画などの説明力が高ければ、融資支援が受けやすくなる側面もありそうです。4.おわりに今回は、信用リスクの著しい増大の判定について説明しました。債権等の信用リスクが著しく増大しているか否かにより予想信用損失の算定対象となる期間が異なり、その結果計上される予想信用損失額(引当額)も異なります。したがって、信用リスクの著しい増大の判定は重要であり、「適用指針草案」でも詳細な説明や例示がされています。次回は、予想信用損失の算定方法について具体的に説明します。<注釈>損失発生モデルは、金融危機時に「引当額が少なすぎる、損失認識が遅すぎる(TooLittle、TooLate)」と批判された経緯があります。デフォルトの画一的な定義はされておらず、企業が内部信用リスク管理の目的で使用しているものとされています(「適用指針草案」7項)。信用減損金融資産のうち対象が債権であるものを信用減損債権といいます。提供:税経システム研究所
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2026/03/19 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(10)
1.AIのさらなる進化と管理会計担当者の役割再考前回のリポートでは、生成AIの利便性の裏に潜むアウト・オブ・ザ・ループ(効率性の向上のために作業をAIに委ねた結果、ビジネスの重要な文脈を人間が理解する能力を失い、AIが提示する結論の背後にある論理から人間が切り離されてしまうこと)の危険性と、人間がビジネスの根幹に関わるプロセスに関与し続けることの重要性について解説しました。今回は、議論を一歩前に進め、管理会計担当者がAIといかに協働していく必要があるのかについて、関連する学術研究を踏まえながら検討してみたいと思います。2026年2月、AI企業であるアンソロピック社が発表した生成AI(Claude4.6)と自律型エージェント(ClaudeCowork)は、ビジネス界に大きな衝撃を与えました。これまでの生成AIは、人間が指示(プロンプト)を与えて回答を得る対話型でしたが、ClaudeCoworkは、人間が目標を与えると、AIが自律的にPCを操作し、必要なツールを使い分けて複雑なデータ分析や報告書の作成を自ら完結させてしまう能力を持っています。AIが自律的に目標を完結させる能力を示したことで、もはや専門職人材は不要になるのではないかとの不安が広がり、関連するサービスを提供する企業の株価が軒並み暴落するアンソロピック・ショックと呼ばれる現象まで起こってしまいました。予算や業績管理を担ってきた管理会計担当者は、AIの進化によって、職を失ってしまうことになるのでしょうか。この点、AIと管理会計の関係について体系的に整理した研究であるAbbas(2025)は前向きな指針を示しています。当該論文によれば、管理会計担当者の役割は消滅するのではなく、AIという武器を手に入れることによって、よりビジネスにおける中心的な存在へと進化すると指摘されています。管理会計担当者は、正確な数値情報を集計・報告するという役割から脱却し、経営層の意思決定を支えるビジネスパートナーへと進化するというのです。2.AIと人間の新たな協働の形AIと人間の理想的な協働を考える際、多くの人が陥る罠が作業の自動化です。作業時間を短縮するためにAIに丸投げすることは、自らの専門性を否定することでもあります。Thalleretal.(2024)の研究によれば、デジタル化が進むほど、基礎的な会計知識とネットワーク的な思考(全体を俯瞰する力)を掛け合わせたハイブリッドな人材の価値が高まるとされています。実務においては、AIを使って作業効率化を図ることに躍起になっていますが、真に有効なAIの使い方は、AIの提示した答えをそのまま使うこと(Automation)ではなく、自身の思考の死角を発見するための拡張(Augmentation)として利用することなのです(RaischandKrakowski,2021)。この点は、管理会計とデジタル化の関係について論じたQuattrone(2016)も、デジタル化を通じて情報が迅速かつ正確になったとしても、必ずしもそれが賢い意思決定に直結するわけではないと強調しています。AIを適切に使いこなすためには、逆説的ですが、AIの答えを否定する感性こそが極めて重要になります。デジタル化時代の管理会計担当者の在り方について研究したThalleretal.(2024)は、まさにこの点を指摘しています。デジタル化によってデータ集計や定型レポートの作成が自動化されるようになったときこそ、システムやAIのハルシネーション(間違い)を判断するためには、会計の本質的な理論や計算ロジック理解が求められるようになるのです。くわえて、同論文は、デジタル時代の管理会計担当者には、データから全体を俯瞰する能力も求められるようになると指摘しています。すなわち、財務数値を計算・分析するだけでなく、その数値が、製造、販売、物流といった他部門の動きとどのようにかかわり、最終的な利益にどのように影響するのか、というつながりを理解できることが重要であると強調するのです。3.XAI(ExplainableAI)の効果的な活用AIが提示する点の情報を、線や面(組織全体の活動)へと繋ぎ直す作業こそが、人間が担うべき領域です。この繋ぎ直しを支える強力な武器となるのが、XAI(ExplainableAI:説明可能なAI)という考え方です。これまでのAI活用において最大の障壁となっていたのは、インプットとアウトプットの間がブラックボックス化してしまい、なぜその数値が導き出されたのかが人間には見えないことでした。しかし、前述のAbbas(2025)も指摘するように、AIがなぜその結論に至ったのかという根拠や推論のプロセスを人間に理解可能な形で提示させる技術こそが、管理会計担当者の付加価値を再定義する鍵となります。実務においてこの説明可能性を担保するためには、AIに対して単に結論を求めるのではなく、その結論が得られるまでの過程を言語化させるプロセスが不可欠です。たとえば、生成AIにプロンプトを投げる際に、分析に使用した変数の相関関係や、特定の予測値がどのデータの変動に最も強く影響を受けたのかを段階的に説明させるのです。このような対話を行うことで、AIのロジックを自身が持つ会計知識や現場感覚と照らし合わせ、批判的に評価することが可能になります。AIの予測精度に依存するのではなく、その根拠を自分の言葉で経営層に語れるまで咀嚼する。このプロセスを業務フローのなかに組み込むことこそが、AIと人間の協働に欠かせないプロセスなのです。アンソロピック・ショックのような技術革新は、会計人にとっての脅威として捉えられがちですが、むしろそれは、管理会計担当者が本来果たすべき意思決定の質を高めるという本質的な任務に立ち返る絶好のチャンスでもあります。AIとの対話を通じて、思考拡張を図ることができれば、管理会計担当者はより存在感を高め、新たなステージに進むことができるのではないでしょうか。参考文献Abbas,K.(2025).Managementaccountingandartificialintelligence:Acomprehensiveliteraturereviewandrecommendationsforfutureresearch.TheBritishAccountingReview,101551.10.1016/j.bar.2025.101551Quattrone,P.(2016).Managementaccountinggoesdigital:Willthemovemakeitwiser?.ManagementAccountingResearch,31,118-122.10.1016/j.mar.2016.01.003Raisch,S.,andKrakowski,S.(2021).Artificialintelligenceandmanagement:Theautomation–augmentationparadox.AcademyofManagementReview,46(1),192-210.10.5465/amr.2018.0072.Thaller,J.,Duller,C.,Feldbauer-Durstmüller,B.,andGärtner,B.(2024).Careerdevelopmentinmanagementaccounting:empiricalevidence.JournalofAppliedAccountingResearch,25(1),42-59.10.1108/JAAR-03-2022-0062提供:税経システム研究所
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2026/03/12 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(24)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と販売費分析という意味このシリーズの(19)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による製品品種別分析(その5)(1)貢献利益法の計算例による個別投下資本製品貢献利益率増加の原因分析岡本[2000]は、貢献利益法によって製品貢献利益が増減する原因の分析方法を説明しています[pp.707-708]。以下、このシリーズの前々回(22)で提示した数値例にもとづいて、個別投下資本製品貢献利益率の増減分析について説明します。まず、前々回(22)で提示した数値例《資料》の一部を再掲します。《資料》ここで、個別投下資本製品貢献利益率を分析するときの基本的な考え方について補足説明します。一般的に資本利益率は、(1)式のように、利益額を投下した資本額で割って計算します。資本利益率=利益/資本・・・(1)資本利益率は、(2)式のように、売上高利益率と資本回転率の積として分解できます。資本利益率=売上高利益率×資本回転率=利益/売上高×売上高/資本・・・(2)個別投下資本製品貢献利益率を、(1)式に当てはめると、(3)式のように示すことができます。個別投下資本製品貢献利益率=製品貢献利益/個別投下資本・・・(3)個別投下資本製品貢献利益率を、(1)式から(2)式へと同様に変形すると、(4)式のように示すことができます。なお、(4)式の「売上高」とは、製品別の売上高である点に注意してください。個別投下資本製品貢献利益率=売上高製品貢献利益率×個別投下資本回転率=製品貢献利益率/売上高×売上高/個別投下資本・・・(4)岡本[2000]では、個別投下資本製品貢献利益率を(4)式のように分解し、個別投下資本製品貢献利益率が増減する原因を、売上高製品貢献利益率の増減と個別投下資本回転率の増減という2つの要素に分けて分析しています。①売上高製品貢献利益率の増加による個別投下資本製品貢献利益率の増加②個別投下資本回転率の低下による個別投下資本貢献利益率の減少③個別投下資本製品貢献利益率の増加岡本[2000]は、以上のように個別投下資本製品貢献利益率の増減原因分析に関する分析方法を示しています。前々回の解答例においては、20x2年の個別投下資本製品貢献利益が前年比で560,000円、20x2年の個別投下資本製品貢献利益率が15.00%(=65.00%-50.00%)増加していました。今回の分析の結果では、個別投下資本製品貢献利益率の増加が14.97%となっていますが、これは、計算途中の端数の影響によるものです。(2)個別投下資本製品貢献利益率増減分析の意義前回(23)では、製品貢献利益の増減を分析しましたが、その分析は《資料》の下から3行目までの範囲を対象としています。この分析は、損益計算書の収益・費用構造を対象とした、経営の効率性を分析したものです。これに対して、今回は個別投下資本製品貢献利益率の増減を分析しました。この分析では、《資料》の下段2行を主な対象とし、この製品に投下した「個別投下資本」の収益性を検討しています。ある投資プロジェクトの成否を判断する基準のひとつとして、そのプロジェクトから得られる投下資本利益率が、そのプロジェクトに投下する資本の調達コストを超えているかどうかを検討します。資本の調達コストとは、借入金の場合であれば支払利息の年利だと考えていただいてよろしいと思います。なお、資本調達コストの計算については、様々な前提条件等があるので、ここでは詳細について割愛します。たとえば、この製品に投下した「個別投下資本」の調達源泉が年利5%の利息で契約した借入金であるとして、投下資本利益率が8%であれば、資本の調達コストを超えていますので、この製品への投資は、成功していると判断できます。しかし、この「個別投下資本」の調達源泉が年利5%の利息で契約した借入金であるとして、投下資本利益率が4%であれば、資本の調達コストを下回ることになりますので、この製品への投資は成功しているとはいえないと判断します。3.販売担当管理職が検討するべき事項前回(23)説明した製品貢献利益の増減分析、および、今回説明した個別投下資本製品貢献利益率の増減分析をふまえて、岡本[2000]は、当該製品の販売を担当する管理職(岡本[2000]では「支配人」といっています)が検討するべき事項をあげています[p.709]。ここでは、岡本[2000,p.709]に記載されている事項にそって、前回(23)の製品貢献利益の増減分析、および、今回の個別投下資本製品貢献利益率の増減分析の数値例を前提に、販売担当管理職が検討するべき事項をあげておきます。当該製品の市場における総需要量が増減した原因。自社の市場占有率が増減した原因。市場占有率の増減に伴う、次年度以降における設備投資増加の必要性。次年度における、販売単価の値上げまたは値下げの必要性。製品単位あたり変動販売費が増減した原因と、次年度以降の傾向。上述の課題を総合的に検討した結果、次年度における当該製品の予想貢献利益および予想個別投下資本製品貢献利益率の予測値。これらの事項のうち、①、②および④は、経済動向および市場に関する調査を必要とします。③は、社内のキャパシティを検討する必要があります。⑤および⑥については、管理会計・原価計算の様々な手法を用いて、検討することになります。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/03/05 財務会計
公益法人制度の改正(12)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、改正会計基準のなかで、キャッシュ・フロー計算書の内容と表示方法について取り上げます。13.キャッシュ・フロー計算書(1)キャッシュ概念(資金の範囲)キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を表す財務表であり、より具体的には活動区分間におけるキャッシュの動き(フロー)を表すものです。では、ここに言う「キャッシュ」とは何を指すのでしょうか。改正会計基準では、キャッシュ・フロー計算書が対象とするキャッシュを「資金」という用語に置き換えた上で、「現金(手許現金及び要求払預金)及び現金同等物」(改正会計基準、par.56)としています。要求払預金とは、「当座預金、普通預金、通知預金及びこれらの預金に相当する郵便貯金」(改正会計基準、par.56)であり、現金同等物は、「容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資」(改正会計基準、par.56)であると説明されています。こうした「資金」という用語法及びその範囲については、企業会計における用語法や範囲と同一となっています。したがって、現金同等物については、「例えば、取得日から満期日又は償還日までの期間が3か月以内の短期投資である定期預金、譲渡性預金、コマーシャル・ペーパー、売戻し条件付現先、公社債投資信託が含まれる。」(連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準、注解2)との説明もまた妥当することになります。そして容易に換金が可能であるとしても、価値の変動についてリスクが高い売買目的有価証券等は、資金に含まれないことになります。なお、「寄付者等により使途の制約(機関決定による制約も含む)のある現金及び現金同等物」は資金の範囲から除かれることになります(改正会計基準、par.56)。この除外規定は、公益法人として、使途が指定された寄付等を受け入れた場合には、それは法人が自由に使用できる資金とは考えられないためです。ただし、貸借対照表からは、いかなる形態でどれだけ使途指定により拘束された資産が存在しているのかは、直接的にはわかりません。それは、財務諸表の利用者自らが、注記等を通して把握することになります。(2)表示区分キャッシュ・フロー計算書は、「事業活動によるキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」、「財務活動によるキャッシュ・フロー」に区分して表示されます(改正会計基準、par.58)。事業活動によるキャッシュ・フローには、他の2つの表示区分、すなわち投資活動によるキャッシュ・フローにも、財務活動によるキャッシュ・フローにも属さないものが含まれます。そして投資活動によるキャッシュ・フローの区分には、「固定資産の取得等、将来に向けた活動基盤の確立のために行われる投資活動に係る資金」(改正会計基準、par.61)の動き(増減)が含まれます。他の具体例としては、固定資産の売却による収入や投資有価証券の売買による収入や支出等が含まれます。一方、財務活動によるキャッシュ・フローの区分には、「償還及び借入れ・返済による収入・支出等、資金の調達及び返済による」(改正会計基準、par.62)資金の動きが含まれます。このことから、キャッシュ・フロー計算書における財務活動とは、資金調達活動を指すと理解できます。なお、事業活動によるキャッシュ・フローの区分表示の方法には、企業会計のそれと同様に、直接法と間接法があります(改正会計基準、par.60(1))。直接法は、資金の動き(フロー、すなわち増加と減少)の金額をその原因ごとに表示する方法であり、間接法は、資金の動きを税引前当期収益費用差額を出発点としてそれに非資金損益項目や他の2つの表示区分には含まれる損益項目を加減算して、事業活動による純額のキャッシュ・フロー(直接法と同じ金額)を導くように表示する方法です(改正会計基準、par.60(1))。(3)表示区分に含まれる項目に関する補足事業活動によるキャッシュ・フローを直接法で表示する場合、資金の範囲に含まれない使途拘束資産として受け入れた寄付金等は、原則として、その受入額を事業活動によるキャッシュ・フローの区分に計上し、同額を「使途制約のある資産の取得支出」として事業活動によるキャッシュ・フローの区分に計上することになります(改正会計基準、par.60(2))。また法人税等に係るキャッシュ・フロー並びに受取利息や受取配当金、支払利息は、事業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載することが求められています(改正会計基準、par.60(3)(4))。(4)キャッシュ・フロー計算書のひな型上述のとおり、事業活動によるキャッシュ・フローには、直接法と間接法の2つの表示方法があります。実務上は、その作成の簡便さ等から間接法が利用されると思われます。そこで、間接法に基づく、キャッシュ・フロー計算書のひな型を、【図表1】として示します。(5)キャッシュ・フロー計算書の注記キャッシュ・フロー計算書には、次のような重要な非資金取引を注記しなければなりません(改正会計基準、par.65)。ファイナンス・リース取引によるリース資産の取得固定資産の受贈(直接法による場合)リースについては、後のレポートにて説明いたしますが、改正会計基準では、リースの使用者側にあっても、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの2分類を行う会計処理を求めています。そのため注記として、ファイナンス・リース取引によるリース資産の取得という項目が挙げられることになっています。【図表1】(出所)「公益法人会計基準運用指針」(2024年12月)、pp.38-39.提供:税経システム研究所
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