会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2025/06/26 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(4)
1.利益計画の実現手段としての予算の重要性経営計画において設定された利益目標を実現するためには、利益目標をその実行計画である予算に落とし込み、予算が確実に実行されるようにこれを効果的に運用しなければなりません。利益目標を実現するためには、財務目標数値を各責任単位(事業部、部門、課など)に割当てて予算目標を設定し、②目標達成のために必要となる経営資源を各部門間で調整し、③各部門の財務目標の達成に向けて責任と権限を明確化し各部門の統制をはかる必要があります。利益目標を実現するためには、予算をいかに効果的に運用できるかがカギになるのです。予算を効果的に運用するためには、図表1に示すように、予算のPDCAサイクルを回していくことが必要です。すなわち、適切な予算目標の設定(Plan)、期中における予算目標の遂行(Do)、月末・四半期・年度末の目標達成度評価(Check)、アクションプランや次期以降の改善・計画修正(Action)というサイクルを回すことで、予算目標の達成を確実にするとともに、さらなる改善を図っていくのです。図表1予算のPDCAサイクル出所:筆者作成2.効果的な予算のためのデータ分析の活用予算のPDCAサイクルをまわしていくうえでも、データ分析は強い武器となります。たとえば、データを活用することで、予算目標の達成度を月次で確認しながら年間の予算目標の達成可能性をシミュレーションすることや、予算目標の設定レベル(目標の達成難易度)と達成率の因果関係を分析することなどの分析を行うことが可能です。複数年度に渡る予算・実績のデータが蓄積されていれば、過年度の情報をもとにして、翌年度の予算編成の基礎数値(推定売上高、推定コスト、推定利益)などを計算することも可能です。これらの分析をするためには、継続的に予算と実績値に関するデータが蓄積されていることが必要です。予算のために会計・情報システムを導入していれば、一定のルールに基づいて過年度データが蓄積されているはずですから、分析に必要となるデータを出力することは容易でしょう。しかし、多くの企業では、予算のためのデータは表計算ソフト(Excel等)を用いて手動で作成されていることが少なくありません。その場合、データの集計方法や集計範囲が異なると、適切な分析を実行することができなくなってしまいますので、データ集計にあたってのルールを作成しておくことも重要です。3.予算達成度のシミュレーション(予算フォーキャスト)今回のリポートでは、データ分析を予算に活用する一例として、予算目標の達成可能性をシミュレーションする予算フォーキャストをご紹介したいと思います。予算フォーキャストとは、毎月(もしくは四半期ごと)の予算達成度から予算目標の達成可能性をシミュレーションし、環境変化にあわせて予算の柔軟な運用を可能にする仕組みです。シミュレーションの結果、予算目標の達成が難しくなってきた場合には、目標達成に向けて早期にアクションプランの修正を図り、逆に、予算目標が前倒しで達成できる場合は、早期に目標の上方修正を行います。これによって、予算目標の達成可能性を高め、環境変化に応じた予算の柔軟な運用を行うのです。予算フォーキャストでは、月次もしくは四半期ごとに予算目標の達成度を確認しながら、過年度の予算・実績データや市場・経済環境の動向を踏まえつつ、年度の予算目標の達成度をシミュレーションしていきます。図表2は予算フォーキャストのイメージ図を示しています。この図では、第3四半期時点で、予算目標達成ラインに11,000(76,000-65,000)届いていません。このまま期末を迎えると売上高の着地がどうなるかについてシミュレーションをした結果が、第3四半期時点から期末にかけての破線で表されており、このままでは期末着地時点の売上は80,000にとどまってしまうことが推定されています。このように、予算目標の達成可能性を評価し、可能な限り早い段階から予算目標の達成に向けたアクションプランや、予算目標の見直しを図るのが予算フォーキャストなのです。図表2予算フォーキャストのイメージ図出典:筆者作成4.生成AIで予算フォーキャストを実行するそれでは、ChatGPT4o(omni)を用いて売上高に関する予算フォーキャストを実行してみましょう。データは、ある企業の2021年第1四半期から2024年第2四半期までの14四半期分のデータを用います。これを用いて、2024年第3四半期および第4四半期の売上高を推定し、着地時点の予算目標達成度をシミュレーションしてもらいましょう。データは注に示すURL(注1)からダウンロードしてください。まず、ChatGPTにフォーキャストを実行してもらうための指示を出してみましょう(図表3)。指示にあたっては、どのような分析を実行したいのか、シミュレーションにどのようなデータを使用するのか、グラフ化にあたってどのような点に注意して欲しいのかを明確に指示することがポイントです。#実行して欲しい内容2024年期末の予算目標売上高は48,000,000円です。これを実現するための各四半期のあるべき売上高と、実績売上高のギャップが知りたい。また、過年度の売上高の実績を踏まえて、2024年第3四半期、期末時点の着地予想売上高をシミュレーションしてください。これをグラフ化し、各四半期の予算目標達成率も示してください。#データの説明シミュレーションにあたっては、data202505.xlsxのなかの売上高のデータを用いてください。これには自社の2021年第1四半期から2024年第2四半期までの売上高データが入っています。#グラフ出力の注意点グラフの出力にあっての注意点は以下のとおりです。日本語フォントは添付のフォントデータを使用してください累積売上で目標とのギャップを示してくださいQ1、Q2は実績、Q3、Q4は見込みとして線種を変えて表示してください各点に金額と達成率のラベルを表示し、Q4でギャップを矢印で示してください売上金額は百万円単位で表示してください各四半期のあるべき売上高と実績値の金額を可視化してください図表3ChatGPTへの指示出典:筆者作成(ChatGPTへの指示画面)やや複雑な指示を与えていますので、期待する結果がすぐに出力されるとは限りませんが、期待と異なる出力結果となった場合には、改善して欲しい内容を追加指示することで、再度分析を実行してくれます。分析の結果、図表4のような結果が得られました。図表4ChatGPTを用いた売上高に関する予算フォーキャスト出典:ChatGPTを用いて出力予算目標である48,000,000円の売上高を実現するために各四半期で達成すべき売上高と実績値のギャップや、第3四半期、第4四半期(期末)の着地予想売上高が計算されています。これによると、第2四半期までの売上実績値のまま推移した場合、期末時点では目標の91.3%にしか届かず、目標未達に終わってしまうという結果がシミュレーションされています。第2四半期終了時に期末の着地点をシミュレーションすることで、早期のうちに改善策を検討し、どのようにして遅れを取り戻すのかについての策を検討することができるのです。また、図表4のように、今後の推移を可視化することができれば、問題の重要性を直感的にも理解させることも可能になります。予算を効果的に運用するために、生成AIの力を借りてみてはいかがでしょうか。<注釈>https://www.dropbox.com/scl/fo/3pnbn1dmgho6xg1jlx9xz/AORITDUjREbDwQoyeh3s-ww?rlkey=xyb5omanca3osgcpli6knr61x&dl=0提供:税経システム研究所
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2025/06/19 財務会計
中小企業向け国際財務報告基準第3版(2)
1.はじめに本シリーズでは、2025年2月に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を説明しています。今回は、IFRS第13号「公正価値測定」と整合させるために新設された第12章「公正価値測定」を解説します。両者の内容はほぼ同じですが、「中小企業向けIFRS(第3版)」では簡略化、簡素化されている箇所(例えば、開示規定)もあります。2.定義と範囲公正価値は、測定日における市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格、または負債を移転するために支払うであろう価格と定義されています(Glossaryofterms)。このように、公正価値はいわゆる出口価格とされています。第12章は、他の章で公正価値測定または公正価値測定に関する開示が要求または許容されている場合に適用されますが、第26章「株式に基づく報酬」と第20章「リース」には適用されません(12.1項)。また開示規定については、第28章「従業員給付」において公正価値測定される年金資産と、第27章「資産の減損」において回収可能価額が公正価値から処分費用を控除した額とされる資産には適用されません(12.2項)。3.測定(1)公正価値の目的公正価値測定の目的は、測定日における市場参加者間で、資産の売却または負債の移転が秩序ある取引として行われるであろう価格を見積もることです(12.3項)。(2)測定原則公正価値は、企業固有の測定ではなく、市場に基づく測定です。したがって、公正価値は、市場参加者が資産または負債の価格を決定する際に使用する前提と同じものを用いて測定されます。企業が資産を保有する意図や負債を決済する意図は反映させません(12.4項)。公正価値測定においては、資産の売却取引または負債の移転取引が主要な市場(主要な市場が存在しない場合は、最も有利な市場)で行われることを仮定します(12.6項)。主要な市場は、資産や負債の取引数量と頻度が最も大きい市場です。最も有利な市場は、取得や売却にかかる付随費用を考慮したうえで、資産の売却による受取額を最大化または負債の移転に対する支払額を最小化できる市場です(末尾に設例を記載してあります)。(3)非金融資産への適用非金融資産の公正価値測定は、市場参加者による資産の最有効使用(企業がその資産を最有効使用するまたは資産を最有効使用する他の市場参加者に売却する)を基礎に測定されます(12.10項)。(4)評価技法同一の資産または負債の価格が市場で直接観察できない場合、企業は評価技法を用いて公正価値を測定します。その際には、関連する観察可能なインプットの使用を最大化し、観察不能なインプットの使用を最小化しなければなりません。(12.14項)。評価技法としては、次の3つが挙げられています(12.15項)。マーケットアプローチ同一または類似の資産、負債について市場取引から生じた価格と、その他の関連する情報を用いて評価する方法です。コストアプローチ資産の用役能力(servicecapacity)を再調達するために、現時点で必要とされる金額を計算する方法です。インカムアプローチ将来の金額を単一の現在価値に割り引いて評価する方法です。例えば、割引キャッシュ・フロー法やオプション価格算定モデルが該当します。(5)公正価値のヒエラルキー(階層)公正価値を測定するために用いる評価技法へのインプットは、3つのレベルに区分されています(12.22項)。レベル1測定日において企業がアクセスできる同一の資産、負債に関する活発な市場における無調整の相場価格です。レベル2レベル1に含まれる相場価格以外のインプットのうち、資産、負債について直接的または間接的に観察可能なものです。例えば、活発な市場における類似の資産の相場価格などです。レベル3資産、負債に関して観察不能なインプットです。4.開示企業は、当初認識後の財政状態計算書において、公正価値で測定される資産および負債の種類ごとに、以下の事項を開示します(12.28項)。報告期間末日における帳簿価額公正価値ヒエラルキーのレベル公正価値測定に用いた評価技法に関する記述レベル3に分類される経常的な公正価値測定(recurringfairvaluemeasurements)(注1)については、当期中に純損益またはその他の包括利益として認識した額も開示されます(12.29項)。【設例】主要な市場または最も有利な市場A社は、トレーディング目的で保有する棚卸資産について、X市場とY市場で販売している。両市場とも活動な市場であり、公正価値の入手可能性などの条件は満たしているものとする。X市場:売却価格30百万円付随費用5百万円Y市場:売却価格28百万円付随費用2百万円X市場が主要な市場であると判断した場合、資産の公正価値は30百万円(付随費用は調整しない)です。一方、Y市場が主要な市場であると判断した場合、資産の公正価値は28百万円(付随費用は調整しない)です。いずれの市場も主要な市場でないと判断した場合、資産の公正価値は最も有利な市場における額とします。付随費用を考慮した受取代金は、X市場では25百万円(=30百万円-5百万円)、Y市場は26百万円(=28百万円-2百万円)なので、Y市場が最も有利な市場になります。したがって、資産の公正価値はY市場における売却価格28百万円(付随費用は調整しない)です。<注釈>経常的な公正価値測定とは、各報告期間末において要求または許容されている公正価値測定です。提供:税経システム研究所
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2025/06/12 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(18)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類前回の(17)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]による販売費及び一般管理費の分類にもとづいて、どのような観点から体系づければよいかについて検討しました。岡本[2000]では、「営業費の分類例」において、4桁のコードを用いて機能別分類を強調した分類例を示しています[岡本,2000,pp.694-696]。岡本[2000]では、まず、販売費及び一般管理費を、文字どおり販売費と一般管理費に分類し、さらに、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明していますが、一般管理費については勘定科目を例示しているものの、本文において説明はしていません。2.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の管理についての説明(1)注文獲得費および注文履行費の発生と受注活動との関係岡本[2000]では、第13章「営業費計算」の第3節で、「販売費の機能別分類とその管理」として注文獲得費と注文履行費の管理について説明しています[岡本,2000,pp.697-700]。冒頭で岡本[2000]は、再度、注文獲得費、注文履行費および販売事務費が機能別の分類であることを注意喚起しています。そして、問答形式によって「注文獲得費および注文履行費の定義と、これらの費用と受注活動との関係」を説明しています。問答の「問」は、次のとおりです[岡本,2000,p.697]。[例題13-2]注文獲得費と注文履行費の内容、および受注とこれらの費用との因果関係を説明しなさい。岡本[2000]では、これに対する問答の「答」において、①注文獲得費の定義、②注文履行費の定義、を説明した後、③これらの費用と受注活動との因果関係について、販売活動の計画が原因となって注文獲得費が発生し、注文獲得費の発生によって受注活動という結果が生じ、受注活動が原因となって注文履行費が発生する、という因果連鎖を図によって説明しています[p.697]。(2)注文獲得費の管理注文獲得費の管理について、岡本[2000]は、「受注獲得費の効果測定は極めて困難であり、これをいかほど発生させるべきかは、明確に把握できないために、その発生額は、経営者が方針で定めざるをえず、その管理方法は、注文獲得費予算を割当予算(appropriationbudget)の形で設定し、その予算と実績との比較によらざるを得ない」[pp.697-698]と述べています。そして、この注文獲得費予算の割当額は、販売活動計画にもとづいて設定するべきであると述べています[岡本,2000,p.698]。また、予算と実績との比較について、岡本[2000]は、①注文獲得費を予算どおりに使ったとしても顧客の注文を獲得できなければ意味がない、②割当予算の多くは自由裁量固定費であるから、通常予算どおりに使用されて予算差異はほとんど生じない、③注文獲得費の管理は、コントロールの段階よりも、プランニングの段階のほうがはるかに重要である、とも述べています[p.698]。注文獲得費の管理については、日本商工会議所簿記検定試験のテキスト[岡本・廣本,2024a;2024b]においても、同様の説明があります。(3)注文履行費の管理岡本[2000]は、注文履行費は、機械的、反復的な作業から発生するため、標準原価ないし変動予算による管理が可能となる[p.699]と述べています。注文履行費の管理については、日本商工会議所簿記検定試験のテキスト[岡本・廣本,2024a;2024b]においても、同様の説明があります。標準原価や変動予算で管理するためには、反復作業の作業量を測定するための「管理要素単位(controlfactorunit)」を設定する必要があるとして、次のような例をあげています[p.699]。そして岡本[2000]では、上述のように選定した管理要素単位について、動作研究、時間研究にもとづいて標準を設定したら、たとえば納品書1通を作成するための標準時間が3分であったとすると、1時間当たりの納品書標準作成数は20通であると見積り、このデータにもとづいて納品書作成作業の労務費予算を設定した後、納品書の実際作成数に見合う予算許容額と実績とを比較し、差異分析を行う、と説明しています[pp.699-700]。この管理要素単位を用いた方法は、「営業費計算」の章を追加した『原価計算』第三版[岡本,1980]から寸分違わず説明されています。この方法は、キャプラン(RobertS.Kaplan)とクーパー(RobinCooper)たちが提唱した活動基準原価計算(activity-basedcosting:ABC)の考え方と非常に似ています。とはいえ、キャプランとクーパーがABCを提唱したのは1980年代後半ですので、それに先立ち『原価計算』第三版[岡本,1980]で上述のような方法を提案している岡本名誉教授の慧眼については、本当に敬服いたします。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、1980『原価計算』三訂版、国元書房。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2025/06/05 財務会計
公益法人制度の改正(6)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、昨年2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この新制度の主たる改正内容を、これまでのリポートにて確認してきました。今回は、そうした改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に公表された「公益法人会計基準」(以下、改正後会計基準)の構成の変化に注目します。7.「公益法人会計基準」の改正(1)改正前の公益法人会計基準元来「公益法人会計基準」は、1977年(昭和52年)3月に公益法人の監督官庁の連絡会議となる公益法人監督事務連絡協議会の申し合せとして設定されました。当時は、公益認定と法人格の付与が一体化した制度でした。いわば監督目的のための会計基準でした。その後、2004年(平成16年)10月に、外部報告向けの会計基準へと変更する重要な改正が行われました。この改正により収支予算書等は内部管理目的であるとして、公益法人会計基準からは除外され、別途の申し合わせとして規定されることになりました。そして従前の公益法人会計基準(以下、改正前会計基準)(注1)は、法人格の付与と公益性の認定が一体化していた制度から、準則主義により法人格が付与されるとともに、別途公益性の認定がなされるという、いわゆる二階建ての制度への変革に合わせて、特に公益認定等に資するように2008年(平成20年)4月に改正されました。また改正前会計基準では、会計情報の具体的な作成方法等については、その運用指針のなかで定められていました。改正後会計基準との相違を浮き彫りにするために、改正前会計基準の構成を次に示しておきます。【改正前会計基準の構成】(2)改正後会計基準既述のとおり、公益法人会計基準は、公益認定基準の変更に対応するための改正、換言するならば改正された財務規律(中期的収支均衡等)に適合するような情報開示となるような改正が行われました。そしてそれとともに、「わかりやすい財務諸表」を標榜した改正もなされました。そのため、公益認定基準の改正に合わせるという意味とは異なる趣旨が包含されたものとなっています。そのことは、改正後会計基準の構成をみれば明らかであると思われます。【改正後会計基準の構成】上記より、会計基準の構成そのものを大きく変更したことがわかります。この変更は、日本公認会計士協会の非営利組織会計検討会より2019年(平成31年)7月に公表されていた「非営利組織モデル会計基準」(注2)を導入しようとする意図があったためと考えられます。非営利組織モデル会計基準の構成は、その詳細は省略して示すならば、次のとおりです。【非営利組織モデル会計基準の構成】今回の公益法人会計基準の改正は、改正前会計基準を基盤に置いて、公益法人制度の改正に合わせるように開発されたものではなく、非営利組織モデル会計基準を基盤として、公益法人制度における要請を加味したものとなっていると解するのが、合理的理解であるといえます。<注釈>2008年(平成20年)4月に公表された後、2009年(平成21年)10月および2020年(令和2年)5月に改正されています。https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/0-0-0-2c-20200918_1.pdf提供:税経システム研究所
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2025/05/29 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(23)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額からコストが大きく変動することがあり、その対処が必要になります。以下では、前回の記事で確認した予備費を使用しながら同社で行われるコスト変動管理の進め方を説明します。2.コスト変動管理の進め方図1コスト変動管理の手順(出所)筆者作成。同社では、コスト変動のリスクを最小限に抑えて、商品の目標原価を達成することを目的に、コスト変動管理が行われます。コスト変動管理は、図1のような手順で進められています。(1)コスト変動事項の把握とリスト化開発期間中に生じる部品費や金型費等に関するコスト変動事項を把握します。例えば、本格的な試作や品質評価による予想外の品質不良の発生、保守・安全・環境対応のトラブルの発生、企画時に曖昧さを残したまま設計を開始したことで事後的に起こる仕様の変更があります。コストの変動を最小限に抑えるため、変動事項とともに予想される変動額をリスト化して、改善策を考えるために準備します。コスト変動の予想額は、主に図面を作成する設計者が算定します。経験が浅い設計者が担当する場合には、原価管理機能部門が補助を行うことで、予測の精度を高めるようにしています。(2)変更の申請手順(1)でリストアップされたコスト変動事項や予想額について、主に開発機能チームの設計リーダーが、その内容と開発機能の目標を達成しているかを確認して、開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者に申告します(注1)。(3)コスト変動の確認と承認開発機能チームの設計リーダーから申告を受けると、開発商品QCD責任者は、コスト変動の内容と予測額を確認し、妥当な変更か、変動額を最小限に抑える他の案は無いか、目標値以内に入っているか等を確認します。もし、他の案があったり、目標原価が未達であったりした時には、開発機能チームの設計リーダーに戻されて、再度検討を求められます。上記の確認で変更内容に問題がなければ承認されます。開発商品QCD責任者や原価推進責任者は、手順(1)から手順(3)の取り組みを素早く進めて、コスト変動をより最小限に抑えた案が承認されるように統制することで、開発活動をスムーズに進めるように努力しています。(4)図面の変更変更案が承認されると、図面を変更するための手続きが始められ、出図され、部品等の供給企業へと渡ります。供給企業には、変更後の原価見積が依頼されます。(5)供給企業からの原価見積額の回答供給企業からの原価見積回答額が予定の変動額を下回れば、図面の変更がそのまま進められます。逆に、原価見積回答額が予定の変動額を上回ってしまうと、調達部門による供給企業との交渉を中心に原価低減の活動を行います。交渉だけではコストの乖離が解消できないと判断される時は、同社の開発機能チームに戻されて、設計者による改善の検討を行うこともあります。(6)コスト変動状況の集計と確認開発機能ごとに算定されたコスト変動の予想額と実績額を、原価推進責任者が全体で集計し、その状況を開発商品QCD責任者が確認することで、コスト変動額が目標設定時の予備費以下になるように管理します。また、コスト変動の推移を可視化することで、開発機能チームの設計者にとって予備費がどの程度使用されたかが分かり、コスト変動を抑制する動機付けにもなります。上記の手順を通じて、コスト変動を抑え、商品の目標原価を達成するため継続的な管理が進められています。3.コスト変動管理での状況に応じた対処コスト変動管理では、基本的に、開発機能チームを中心に、予備費を使用したり、開発機能ごとの目標値の達成状況を基にした変更可否の判断を行ったりしています。ただし、ある開発機能チームの目標達成が厳しい時には、開発商品QCD責任者が開発機能全体での達成状況を確認した上で、変更の可否を判断します。例えば、手順(5)で、コストの乖離が残るものの、製造段階までの時間的な余裕がないという時には、図面の大きな変更はせずに製造段階での対処事項としておき、製造開始後のコスト変動を抑制する活動の中でフォローアップします。このように活動の進行状況に応じて対処することも、コスト変動を継続的に管理する上で重要な取り組みだと言えるでしょう。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>同社では、コスト変動管理全体を開発商品QCD責任者が統括し、その実行管理を原価推進責任者が各開発機能チームの設計リーダーと協力して行います。コスト変動管理を行う上での組織体制は前回の記事でも解説していますのでご覧ください。提供:税経システム研究所
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2025/05/22 財務会計
中小企業向け国際財務報告基準第3版(1)
1.はじめに本シリーズでは、国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が2015年に公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)を解説してきました。また必要に応じて、2022年9月に公表された公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」にも触れてきました。その後、2025年2月27日に、IASBは「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)」(以下、「中小企業向けIFRS(第3版)」という)を会計基準として正式に公表しました。そこで今回からは、「中小企業向けIFRS(第3版)」について、「中小企業向けIFRS(2015年版)」の差異にも触れながら説明します。それに伴って、本シリーズのタイトルも今回より、「2015年改訂版中小企業向け国際財務報告基準」から、「中小企業向け国際財務報告基準第3版」に変更させていただきました。2.概略IASBは、アライメントアプローチを用いて、「中小企業向けIFRS(第3版)」の改訂を行いました。アライメントアプローチは、フルIFRSを基準改定の出発点とする方法です。そのため、「中小企業向けIFRS(第3版)」は、IFRS会計基準との整合性を高めつつ、財務諸表利用者のニーズや費用対効果を考慮した上で、適切かつ簡素化されたものとなるように、的を絞った簡素化を取り入れています。「中小企業向けIFRS(第3版)」は独立した会計基準であり、公的な説明責任を負わない企業(中小企業:smallandmedium-sizedentities(SMEs))が適用することができます。「中小企業向けIFRS(第3版)」は、2027年1月1日以後開始する事業年度から適用され、早期適用が可能です。中小企業は、過去に遡って(retrospectively)「中小企業向けIFRS(第3版)」の新たな規定を適用しなければなりませんが、一部の項目については移行措置として遡及適用が緩和されています。3.主要な改訂「中小企業向けIFRS(2015年版)」からの主要な改訂には、次のようなことがあります(ProjectSummaryより)。以下、各改訂について簡単に説明します。(1)第2章概念および全般的原則第2章では、中小企業の財務諸表の目的について説明し、これらの財務諸表の基礎となる概念と基本原則を定めています。「中小企業向けIFRS(2015年版)」の第2章は1989年版の概念フレームワークに基づいていましたが、「中小企業向けIFRS(第3版)」の第2章は2018年版の概念フレームワークに整合するように改訂されました。(2)第9章連結財務諸表および個別財務諸表第9章では、IFRS第10号「連結財務諸表」と整合するように、次のような改訂が行われました。支配の定義をIFRS第10号の定義と同じにした。子会社に対する支配を喪失した親会社が、旧子会社に対する留保持分を支配喪失日の公正価値で測定し、その結果生じる利得または損失を損益として認識するという要件を導入した。(3)第11章金融商品「中小企業向けIFRS(第3版)」では、「中小企業向けIFRS(2015年版)」における第11章「基礎的金融商品」と第12章「その他の金融商品」が統合、名称変更されて、第11章「金融商品」になりました。そして、IFRS第9号「金融商品」の規定に整合するように、次のような改訂が行われました。金融商品の分類と測定の要件を補足する原則を追加した。金融資産と金融負債に関する開示要件を追加した。金融保証契約の定義を追加した。金融商品の認識および測定において、IAS第39号を適用する選択肢を削除した。(4)第12章公正価値測定第12章は、IFRS第13号「公正価値測定」と整合するように新設されたものであり、次のような改訂が行われました。公正価値の定義をIFRS第13号と同じにした。公正価値測定に対する要求事項を、IFRS第13号の公正価値ヒエラルキーの原則と整合させた。公正価値に関連する開示事項を、IFRS第13号と整合させた。(5)第19章企業結合およびのれん第19章は、IFRS第3号「企業結合」と整合するように、次のような改訂が行われました。事業(business)の定義をIFRS第13号と同じにした。取得者の識別に際して、新たな規定を加えた。取得した資産および引き受けた負債について、第2章の資産と負債の定義を参照することとした。のれんの認識と測定(注1)について、過度なコストや労力をかけずに信頼性をもって測定できる場合には、条件付対価(contingentconsideration)を公正価値で測定することとした。条件付対価に関しては、文末の【補足】に記載しました。(6)第23章顧客との契約から生じた収益第23章は、IFRS第15号「顧客との契約から生じた収益」と整合するように、名称変更を行うとともに、次のような改訂が行われました。IFRS第15号の5ステップモデルを基礎として、収益認識のための包括的フレームワークを導入した。次回からは新設された第12章や、これまで本シリーズで扱わなかった章を説明します。【補足】条件付対価条件付対価とは、企業結合契約において定められるものであり、企業結合契約締結後の将来の特定の事象または取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付または引き渡される取得対価です。たとえば、被取得企業が企業結合契約締結後の特定年度において特定の利益水準を維持や達成したときに、取得企業が株式を追加で交付する条項がある場合が挙げられます。条件付対価の会計処理は、日本基準と国際会計基準で異なります。(設例)当社は、X社の発行済株式のすべてを取得しその対価として10億円を、A社が特定の条件を達成した時には最大で20億円、合計で最大30億円を支払うという買収契約をした。A社から受け入れる純資産は8億円である。また、条件の達成可能性を考慮した負債の公正価値は5億円であった。なお、2年後に特定の条件が達成されたことにより、追加で15億円を支払うことが確実となったとする。【日本基準】企業結合日の会計処理はその時点で確定している対価の額で行い、その後対価を追加的に支払うことが判明した時点で、追加的な会計処理をします。企業結合日のれんを2億円(=取得原価10億円-A社の純資産8億円)計上します。2年後(特定の条件の達成時)追加でのれんを15億円計上します。【国際会計基準】取得企業は、条件付対価の取得日における公正価値を、被取得企業との交換で移転された対価の一部として認識します。したがって、支払いが確定している部分のほか、追加支払いの可能性がある部分も含めて公正価値評価して取得原価を算定します。企業結合日条件の達成可能性を考慮した負債の公正価値は5億円なので、取得原価は15億円(=10億円+5億円)です。したがって、のれんを7億円(=取得原価15億円-A社の純資産8億円)計上します。2年後(特定の条件の達成時)対価の追加支払いが確実になってものれんの金額は変動せず、負債の時価の変動として処理します。追加支払額15億円から取得原価に含めた5億円を控除した10億円を負債と費用に計上します。<注釈>のれんは、その耐用年数にわたり規則的に償却します。信頼性をもって耐用年数を見積もることができない場合には、耐用年数の上限は10年です。当初認識後は、のれんは取得原価から償却累計額と減損損失累計額を控除した額で測定します(19.35項)。IFRS第3号にはのれんを規則的に償却する規定はないので、この点が異なります。提供:税経システム研究所
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2025/05/15 管理会計
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(3)
1.計画段階における財務情報の活用企業業績の向上を図るためには、経営のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを適切にコントロールしなければなりません。このうち、もっとも初めの段階で行われるのが計画です。従業員の努力が適切な方向に向けられるようにするためには、入念に計画を立てる必要があります。容易に達成が可能な計画では、従業員は計画達成のための努力を行わなくなってしまいますし、逆に、明らかに達成困難な計画では、従業員に過度な負荷をかけたり、従業員が計画達成を諦めて計画自体を無視するようになったりしてしまうかもしれません。計画のなかでも、とくに重要になるのが財務目標の決定です。企業経営の良否は財務的成果によって評価されるため、計画の段階で目標とすべき財務的成果を明確に定める必要があるのです。ここで検討すべき点として、大きく2つの論点があります。①どのような財務指標をもとに財務的成果を定義するのか、また②財務的成果の目標水準をどのように決定するのかという点です。財務指標といっても、様々な性質を持つ指標が存在します。売上高に対する利益(営業利益、経常利益、当期純利益)の割合を表す収益性指標(例:営業利益率など)、資産と負債・資本の比率を表す安全性指標(例:流動比率など)、さらには、利益と資本を組み合わせた投下資本利益率(例:総資産利益率など)の効率性指標などです。計画にあたっては、このうちのいくつかの(通常は2つ~3つ程度)指標を、重要業績指標(KeyGoalIndicator:KGI(注1))として選択することになります。重要業績指標は、トップマネジメント層が経営の成果として何を重視しているかを示すものです。したがって、選択された重要業績指標は、ミドルマネジメント層の行動に影響を及ぼすことになります。たとえば、営業利益率が選択されると、ミドルマネジメント層は本業の収益性に注目することになりますが、その一方で支払利息、株式の評価損益、売却損益などの営業外損益については関心を持たなくなってしまう可能性があります。また、営業利益率だけでは、損益計算書側にのみ焦点が当てられ、貸借対照表側、すなわち資産効率性への関心は低くなってしまいます。余剰在庫の削減や、固定資産への過剰投資にも意識を向けさせるためには、投下資本利益率なども併用する必要があります。また、同業他社と財務指標の比較を行い、自社の課題を明らかにすることも重要です。今回は、レーダーチャートを使って自社、A社、B社の3社の比較を行い、自社の強みや弱みを明らかにしてみたいと思います。レーダーチャートの出力にあたっては、今回もChatGPTを用い、レーダーチャートの作図にくわえて、自社の強み・弱みの抽出も行ってもらいたいと思います。2.レーダーチャートを用いた、強みと弱みの分析今回は、自社のデータにくわえ、同業他社であるA社、B社の情報を使用して、レーダーチャートと、財務指標の強みや弱みの分析を行いたいと思います。分析に用いるExcelデータ(注2)は注記のURLからダウンロードをお願いいたします。今回はChatGPTに、図1のように以下の点を盛り込んだ指示を行います。なお、ChatGPTへ指示する場合には、データの内容についてなるべく詳細に説明することで、期待した結果が得られる可能性が高くなります。描画にあたっては添付の日本語フォントを使用してください。Excelデータに自社、A社、B社の2015年から2024年の財務指標の情報が格納されています。財務指標は、自己資本比率、配当性向、営業利益率、純利益率、ROE(自己資本当期純利益率)、ROA(総資本事業利益率)、ROIC(投下資本事業利益率)が含まれています。各社のレーダーチャートを作成し、各指標の数値をもとに自社の強みと弱みを指摘してください。各指標の違いを比較しやすさを重視し、いくつかの指標ごとにレーダーチャートを分けて出力してください。各指標の値は2015年度から2024年度の平均値を用いてください。描画の際に、自社の結果がわかりやすくなるよう、A社、B社の色を薄くしてください。図1ChatGPTへの指示次のように指示をすると、次のような結果が出力されます。図表2出力結果上記の指摘事項から、同業他社と比較して、利益率の安定性や資本効率性は優れているものの、自己資本比率の低さや配当性向の低さに懸念点があることが指摘されています。それでは、上記分析結果を受けて、自社の事業計画における主な課題についても指摘してもらいましょう。図表3自社の事業計画における課題についての指摘このように、財務分析から抽出された課題をうけて、事業計画において検討すべき課題が指摘されました。テキストどおりの指摘内容であったり、自己資本比率50%超という適正水準にありながら財務安全性に懸念があるとの指摘がなされていたりと、議論の余地のある指摘事項も見られますが、いずれも事業計画の策定にあたって検討を要する点となっています。もちろん、ChatGPTが、すべての検討事項を漏れなくかつ正確に指摘してくれるわけではありません。場合によっては的外れな指摘をしてくることもあるでしょう。あくまで、事業計画策定のたたき台として、もしくは、現在検討中の事業計画案に漏れはないのかを確認するためのサポートツールとして使用することが肝要です。ChatGPTは常に正しい情報を出力してくれるわけではありません。出力される情報の真偽を見極めるためには、使用する側が正しい知識を身につけることが必要ですし、分析のために用いるデータにミスが起こらないよう、会計システムを導入することは必須です。ChatGPTは会計情報をより効果的に活かすための強力なツールとなりますが、あくまで経営のサポートツールに過ぎない(依存し過ぎてはならない)ことは忘れてはなりません。3.補足:次年度財務指標の目標値設定に向けてChatGPTは、統計的分析やシミュレーション分析に強いことが知られています。たとえば、以下のように、過年度の分析結果や、経済状況等を反映して、各財務指標の次年度目標の参考値を出力することも可能です。図表4次年度財務指標の目標値の推定<注釈>いくつかの階層を設けて重要業績指標を設定することがあります。その場合、企業の最終的な成果を表す重要業績指標をKeyGoalIndicator(KGI)、中間的な成果を表す重要業績指標をKeyPerformanceIndicator(KPI)として区別して呼ぶことがあります。分析に使用するデータはDropboxに格納されています。下記URLよりダウンロードをお願いいたします。https://www.dropbox.com/scl/fi/2pf41txhojpwojgw96phj/data202504.xlsx?rlkey=2azmnx9qc2au96vc2wj39nxat&dl=0また、ChatGPTで作図をする場合、日本語表記を可能にするために、Excelデータとあわせて以下の日本語フォント出力のためのデータファイルも添付しましょう。https://www.dropbox.com/scl/fi/v1dbluh8sgb4vl04pek9c/NotoSansJP-Black.ttf?rlkey=aqazot7kr7w1u8om7k6b0z672&dl=0提供:税経システム研究所
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2025/05/08 財務会計
公益法人制度の改正(5)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、改正前公益認定法)が、昨年2024年(令和6年)5月に改正(改正後の法律は、以下、改正公益認定法)され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まりました。この改正の内容のなかで、今回は、「区分経理」を取り上げます。公益社団法人・財団法人は、公益目的事業のほか、法人の管理運営のための事業、さらに収益事業等を実施している場合があります。公益認定基準の1つである公益事業比率を把握するためには、公益目的事業を区分してその費用を把握しておく必要があります。また中期的な収支均衡は、公益目的事業について求められるため、やはり公益目的事業の収入及び費用を把握しておく必要があります。加えて、収益事業に係る所得は課税対象となるため、収益事業に係る収益及び費用を把握する必要があります。しかし貸借対照表においては、多くの法人がそれらの事業ごとの区分経理を実施していませんでした。今回の区分経理に関する改正は、収益・費用のみならず、資産・負債についても、それぞれの事業に応じた区分経理が求められることになりました。6.区分経理(1)改正前の区分経理とその理由上述の通り、収益・費用について、公益目的事業と収益事業等、法人管理運営に区分して把握することは、今回の改正に関わらず、行わなければなりません。それぞれの事業に係る会計区分(企業会計でいうところの会計単位)が設けられますが、改正前の区分経理では、複数の公益目的事業を有している場合には、それぞれの公益目的事業の区分を設けることが求められていました。その理由は、改正前に求められていた収支相償が、第一段階で個々の公益目的事業について求められており、第二段階で公益目的事業全体について求められていたためです。この二段階でのチェックは、公益目的事業全体で収支相償を充たしているとしても、その内訳となる事業のなかに恒常的に利益を生み出す事業が含まれている場合、いわば公益目的事業として相応しくない事業が含まれている場合がありえるためです。そのため、収支相償の観点から、まずは個々の事業について公益目的事業として相応しいか否かを判断するために二段階での判断が行われていました。改正前では、収益事業等会計についても複数の収益事業や共益事業を有している場合には、それぞれの収益事業等の区分を設けることが求められていました。その理由は、その実施により公益目的事業に支障が生じないことが公益認定基準に含まれていることに関連しています。すなわち、公益性のある事業を実施することを主目的とする法人にとって収益事業等を実施することは、あくまでも公益目的事業を実施するための財源確保の目的であることが想定されているため、収益事業等全体では利益を得られているものの、その内訳のなかに損失を生じさせている事業が含まれているとするならば、その損失を生み出す収益事業等は公益目的事業のための財源確保という観点からは支障がある事業であり、実施すべきではないことになります。こうした判断を行うことを可能ならしめるためには、収益事業等についても、その内訳となる個々の収益事業等について区分経理される必要があります。(2)改正の内容公益認定法第19条において、改正前には収益事業等会計を公益目的事業会計から区分し、かつ各収益事業等ごとに区分経理することが求められていたところを、次のように改められました。すなわち、公益目的事業に係る経理、収益事業等に係る経理及び法人の運営に係る経理をそれぞれ区分して整理することが求められることになりました。収益事業等を行わない公益法人にあっては、公益目的事業に係る経理及び法人の運営に係る経理を区分経理することになります。なお、収益事業等を行わない法人について、法人運営のためのものとして特定されているものを除き、全ての財産を公益目的事業会計に含めることも認められています。この措置は、「区分経理の代替措置」と呼ばれています。なお改正前に求められていた複数の公益目的事業や複数の収益事業等を有している場合の個々の事業ごとの区分については、改正前に要求されていた正味財産増減計算書内訳表での情報開示に代えて、注記事項のなかで開示されることとなります。以上の説明からは、資産と負債についても区分経理が求められるようになっただけのように思われるかも知れませんが、注目すべき点は、資産や負債についても区分経理することが、原則として全ての法人に要求されることになった点、並びに、公益目的取得財産残額の把握が簡素化された点です。公益目的取得財産とは、公益目的事業を行うために使用し、処分しなければならない財産を指し、具体的には公益認定を受けた日以後に受けた寄附金や補助金、公益目的事業におけるサービス等の提供に対する対価として取得した財産、収益事業からのみなし寄附金に相応する財産等が含まれます。そして公益目的取得財産残額は、特定の時点における公益目的取得財産の残額を指しますが、公益認定取消等の措置がなされた場合には、その残額相当額を国や地方公共団体に寄附、あるいは他の公益法人等に寄附しなければなりません。この公益目的取得財産残額の計算は、過去に遡及して行うことはたいへん煩雑となるため、これまで毎期、その計算のための別表の作成が求められてきました。今回の改正により、その別表の作成を廃し、公益目的事業会計の純資産(正味財産から名称を変更)の額を基礎として算定する方式に変更されました。(3)改正の基盤となる考え方区分経理に関わる基本的な考え方としては、収益と費用の区分経理と、資産と負債についても区分経理を一体化しようとする考え方があります。すなわち、公益目的事業会計に含まれる収益と費用、さらに資産と負債を1つの会計区分(会計単位)として把握することを意図しています。換言するならば、次の関係が成立するように区分経理されることを求めています。公益目的事業会計=公益目的事業財産の変動を収容する会計区分7.ガバナンス強化今回の改正では、行政手続きの簡素化が図られていますが、法人のガバナンスに関連する改正として、2,000万円を超える役員報酬等を受ける役員について、その金額やそれだけの額を支給する必要があることの理由を公表するよう求めることや、特別の利益を与えてはならない関係者を関連当事者に含めて必要な開示を行うことが定められました。加えて、法人運営が内輪の者だけで行われることで私物化されることを防ぐために、理事及び監事について、外部理事や外部監事を設置することが求められています。具体的には、理事のうち一人以上が外部理事であること、監事が外部監事であること(監事が複数である場合は、一人以上が外部監事であること)が求められるようになりました。外部理事や外部監事に関わる外部性(いわば要件)としては、現在かつ過去10年間、当該法人や子法人の理事(外部理事については業務執行理事)や使用人ではないこと、公益社団法人の場合はその社員ではないこと、公益財団法人の場合は創立者ではないこと等が求められています。なお、小規模法人(収益3,000万円未満、かつ費用・損失3,000万円未満)については、外部理事については適用が除外されます。こうした外部役員の設置については、それぞれ現在の全ての理事・監事の任期が満了する日の翌日から適用することができるよう、経過措置が設けられています。提供:税経システム研究所
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2025/04/24 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(22)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額から原価が大きく変動することがあり、企業が商品の目標原価を達成するためにコスト変動を可能な限り抑えることが求められます。以下では、同社のコスト変動管理で用いられる予備費について説明します。2.予備費の設定製品開発では不測の事態がしばしば起こりますので、開発機能単位ごとに割り付けられた目標原価の達成状況が芳しくないという時にどのように対処するかが原価管理で重要になります。例えば、品質トラブルに対処するため想定していた以上のコストがかかるようなことが相次いで起これば、その後の活動で余裕がなくなってしまい、最終的に商品の目標原価の達成が難しくなります。そればかりでなく、目標値と実績値との乖離があまりに大きくなることで、最悪の場合、目標原価自体が原価管理上の目標値としての意味をなさなくなる可能性もあります。このような課題に対して、同社のコスト変動管理では、予備費を用いて進捗状況に応じた管理が行われています。予備費は、商品の目標原価を費目ごとに分解する時に、将来見込まれるコスト増大への備えとして設定されます。「部品予備費」、「金型予備費」、「加工費予備費」を各費目の目標値とは別に確保し、各機能単位に割り付けます。部品予備費を例として、予備費の決め方を見てみます。同社では、過去の経験に基づいて、出図された図面に対して発生するコストの増大額と改善額の合計から、この先のコスト増大の予想額が算出されます。予備費の金額は、商品化会議の提案時に原価管理機能部門の設定基準として決められます。その後、各フェーズ移行提案時のコストレビューで確認されます。目標原価の達成活動中に生じるコスト変動に対して、開発機能単位の目標値を対象としたコスト変動管理を行います。この時、初めに設定した予備費の範囲で収まるように、コスト変動を管理します。この管理を量産製造の開始前まで行い、その時点で予備費に残額があれば商品の目標原価を達成したことになります。3.予備費の運用例図1コスト変動管理の組織体制出所:吉田・伊藤(2021,p.135)を基に作成。同社では、図1のような組織体制でコスト変動管理が行われています。コスト変動管理全体を開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者が統括しており、その実行管理を原価推進責任者(注1)が各開発機能チームの設計リーダーと協力して行います。ここでは、予備費の基本的な運用方法を見ていきましょう。まず、開発商品QCD責任者の指示で使用可能な予備費の上限が決められます。これを基に、原価推進責任者が設計リーダーから申告されたコスト変動の予測額を積み上げ、予備費の範囲で収まるかを確認します(注2)。原価推進責任者は、申告されたコスト変動額が適正な水準に達していないと判断すると、申告してきた設計リーダーに対してより正確な見積りを求め、確認します。コスト変動のメニューや金額を原価推進責任者が集約することで、コスト変動額が大きい案件をタイムリーに捉え、変動内容を確認し、開発商品QCD責任者とともにコスト変動を最小限に抑えるための活動を進めることができます。また、コスト変動のメニューによっては、複数の分野をまたがる対応が必要になり、開発機能チーム間での調整が行われる可能性もあります。その時には、原価推進責任者の裁量で開発機能チームが活動しやすいように調整することもあります(注3)。なお、予備費には、不測の事態への備えとしての役割が求められているものの、必要以上に見積られてしまうことになれば、目標原価に対する設計チームの意識が希薄になり、士気の低下につながりかねません。そのため、同社でコスト変動管理を実行する時には、原価推進責任者を中心に、設計チームのモチベーションも考慮して予備費の運用状況をモニターすることが重要です。このようにして、同社では、活動の進捗状況に注意しつつ、コスト変動管理が継続的に行われています。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>原価推進責任者は、原価管理機能部門から任命され、目標原価達成の活動を推進するために下記の4つの役割を担っています。今回の記事で取り上げているのはこのうちの4にあたる役割です。原価企画の立案(原価条件、目標原価案の設定と細分割付、活動計画等)と、コストチームの編成。目標原価達成活動の進捗管理。商品の製造原価の算出、開発ステージ移行時のコストレビュー会での報告。コスト変動管理(開発期間中に発生するコスト変動のリスクを最小限に抑えるための管理活動)の推進。同社では、予備費の管理は家計簿管理とも言われています。上記のような原価推進責任者を中心に予備費を管理する方法の他に、開発機能チームで管理を行う方法もあります。この方法では、開発機能チームの設計リーダーに、コスト変動管理の予備費を割り付け、管理します。各開発機能チームは、自分たちのチームに与えられた目標値の範囲であれば予備費を柔軟に運用することができます。ただし、この方法では目標原価の数値と予備費の数値の両方を開発機能チームで扱うことになり、進捗管理において2つの目標値の識別が難しくなってしまうという問題もあります。提供:税経システム研究所
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2025/04/17 財務会計
IFRS第 18号「財務諸表における表示及び開示」 (7)
本レポートでは、IASBより2024年4月に公表された会計基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示(PresentationandDisclosureinFinancialStatements)」(以下、IFRS18といいます)について解説をしてきました。IFRS18は従来のIAS1「財務諸表の表示(PresentationofFinancialStatements)」を置き換えるものであり、IFRS18の適用は2027年1月1日と規定されていますが、それより前の早期適用も認められています(注1)。IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものであり、国際会計基準を任意適用している日本企業にも影響を与えることとなります。今回は、これまで確認をしてきた損益計算書のポイント等について、その全体を簡潔に纏めて、本レポートの最後としたいと思います。5.損益計算書のポイント(了)下記の損益計算書は、以前のレポート「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(1)」において示した、IFRS18における損益計算書の様式に、①~⑥の吹き出し(▢)等を加えたものになります。①~⑥は、これまでのレポートに対応していますので、より詳細な事項については、そちらを御確認下さい。■損益計算書(Statementofprofitorloss)(注2)①カテゴリーIFRS18における損益計算書は、大枠として、営業、投資、財務という3つのカテゴリーに区分されます。ただし、これら3つのカテゴリーの名称自体が損益計算書に表示されるわけではありません。②営業のカテゴリー営業のカテゴリーは直接的には定義されておらず、投資と財務のカテゴリーに含まれないものが営業のカテゴリーに入ることとなります。そのため、日本の損益計算書における特別損益項目については、営業のカテゴリーに入ることとなります。国際会計基準では、日本の損益計算書にみられるような特別損益に係る区分自体がない、ということに注意する必要があります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。③持分法に関連する投資損益日本の損益計算書では、持分法による投資損益は営業外損益の区分に表示されます。IFRS18では、投資のカテゴリーに表示されることとなります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。④追加的な小計IFRS18では、追加的な小計というものが示されています。これは、「有用な体系化された要約」を表すものであるとされています。何が追加的な小計になるのかについては、企業の判断が入ることになると考えられます。本レポートで示している損益計算書の雛形において赤文字で示されているものは、あくまでもその例示ではありますが、判断をするうえでの参考になるでしょう。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。⑤「その他」の表示IFRS18では、「その他」の表示が限定されています。そのため、「その他」の中身をよく検討して、可能な限り、その中身にふさわしい名称で表示する必要があります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(5)」をご確認ください。⑥為替差額IFRS18では、為替差額が発生することとなった元々の項目の属性に従って、その為替差額が損益計算書のどのカテゴリーに表示されるのかが決定されます。その例として、売掛金から発生した為替差額は営業のカテゴリーに、借入金から発生した為替差額は財務カテゴリーに表示されることが示されていました。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(6)」をご確認ください。*****以上のように、IFRS18における損益計算書は日本の損益計算書とは異なる箇所が多々あります。財務諸表の作成者は十分に準備をする必要があり、また、財務諸表の利用者もポイントをよく理解しておく必要があるでしょう。本レポートが、その一助になれば幸いです。<注釈>PrimaryFinancialStatements,FinalStage[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#final-stage](accessedon2024/11/18)PrimaryFinancialStatements,Publisheddocuments「EffectsAnalysis:IFRS18PresentationandDisclosureinFinancialStatements」p.16[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#published-documents](accessedon2024/11/18)*上記ファイル自体のURLは以下[https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/amendments/english/2024/effect-analysis-ifrs18-april2024.pdf](accessedon2024/11/18)提供:税経システム研究所
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