商事法研究リポート


MJS税経システム研究所・商事法研究会の顧問・客員研究員による商事法関係の論説、重要判例研究や法律相談に関する各種リポートを掲載しています。

Ⅰ.はじめに平成9(1997)年6月、ソニーの定時株主総会は、当時38名いた取締役のうち代表取締役であった7名を残し、新たに3名の社外取締役を加えて、計10名という少人数の取締役会を発足させました。そして、それまで業務担当取締役あるいは使用人兼務取締役であった人たちからは「取締役」という肩書きがはずされ、退任した取締役以外の人たち18名は「執行役員」に選任されました。また新たに9名の執行役が加わり、取締役10名、執行役員34名(うち取締役と兼任する者7名)...
【質問】近時、証券会社や報道機関等の社員がインサイダー取引を行ったことによって刑事責任を追及されたとか、金融庁が課徴金納付命令の決定を下したといったニュースをよく耳にします。インサイダー取引については、抽象的には、内部情報を得られる地位にあった者が、その情報を不正に利用して株式の取引などを行い、不正に利益を得ることなんだろう、といった一応の理解はしておりますが、その詳細ついての理解はあまりできていないと思っております。そこで、インサイダー取引とはどういうも...
1.はじめに2.事実上の主宰者概念の責任を認めた判例の概観と事実上の主宰者の認定要件(商事法研究NO.65号)3.事実上の主宰者概念の帰責法理としての特色と有用性(1)事実上の主宰者概念の有用性上記判例が、取締役の背後で経営をコントロールする支配株主等を事実上の主宰者と捉えて、これに取締役に準じた責任を負わせることについては、その法的アプローチとしての有用性を否定する見解が学説上、比較的有力です。これを便宜上、有用性否定説と呼びますが、その論者は、まず支配...
2008/12/12 裁判員制度
-はじまる国民の司法参加-
はじめに―はじまる裁判員制度平成21年5月21日から裁判員制度がスタートします(注1)。この制度は、国民を刑事裁判に参加させるためのこれまでの日本にはなかった新しい制度で、平成16年5月に成立しました(注2)。その後、5年間の周到な準備期間を経て施行されるに至ったものです(注3)。裁判員制度のもとでは、一定の刑事事件で被告人を裁くときに、3人の裁判官に加えて、国民から選ばれた6人の裁判員が評議に加わり、有罪か無罪か、有罪の場合には刑の重さも決めることになり...
1.はじめに会社法において株式会社の機関設計が、公開会社と公開会社でない会社(以下、「非公開会社」という)とで大きく区別され、とりわけ後者については大幅な柔軟化が図られましたが、それでも、すべての株式会社に共通の要件として、取締役の選任が義務づけられており(会社法326条1項)、取締役に会社業務執行権限が帰属する体制がとられています(会社法348条1項)。これにより、会社法は、会社業務執行に係る義務・責任の所在を明確にしようとするものです。しかし、他方で、...
<質問>わが社は、いわゆるベンチャー企業であり、取締役に対する報酬として、業績向上のためのインセンティブを与えるためにストック・オプションの付与を考えています。そこで、取締役の報酬としてストック・オプションを付与する場合にはどのような手続が必要なのか、またどのような点に注意すればよいのか教えて下さい。<回答>1.ストック・オプションの付与(1)ベンチャー企業での活用の可能性ストック・オプションは、会社法上、取締役に対するインセンティブ報酬の趣旨で行われる、...
1.はじめに2.利益相反取引に関する規制の概要3.利益相反取引の範囲4.違反取引の効力(1)違反取引の効力をめぐる学説の対立利益相反取引が制限される趣旨は、経営の中枢にいる取締役がその優越的な地位を利用して、会社の犠牲において、自己又は第三者のために利益を享受することを防止することにありますから、会社の保護を目的としていることは間違いがありません。他方では、間接取引や手形取引にも、この制限を及ぼすということになると、取締役以外の第三者が関与してきますから、...
最高裁判所平成20年6月10日第三小法廷判決(裁判所HP)
Ⅰ.事実の概要Aは、「Bゴルフ倶楽部」という名称の預託会員制のゴルフクラブ(以下「本件クラブ」といいます。)が設けられているゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」といいます。)を経営していました。X(上告人)は、平成7年10月7日、Aとの間で、本件クラブの法人正会員となる旨の会員契約を締結し、Aに対し会員資格保証金3500万円を預託しました(以下、この預託金を「本件預託金」といいます。)。本件預託金の据置期間は、本件クラブの会則により、本件ゴルフ場が正式に開場した...
(東京高決平19・8・16資料版商事285号146頁)
1.本件事実とその法的背景本件は、株式会社X(申立人・抗告人)が、会社法176条1項の規定に基づき、同社の株式を相続により承継したY1ら(相手方)に対して同社株式を同社に売渡すよう請求したが、同意を得られなかったため、会社法177条2項の規定に基づき、その売買価格の決定を裁判所に申立てたという事例です。会社法下においては、株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売渡すことを請...
1.はじめに会社法は、株式会社の取締役の利益相反取引を制限する規定を置いていますが、利益相反取引の制限は、旧法下においても、株式会社及び有限会社の取締役について規定されていましたし(旧商法265条、旧有限会社法30条)、多くの判例が蓄積されています。利益相反取引が制限される趣旨については、取締役がその地位を利用して、会社の犠牲において、自己又は第三者のために利益を享受することを防止するためであると一般に説明されています(注1)。会社法と旧商法とでは、利益相...