商事法研究リポート


MJS税経システム研究所・商事法研究会の顧問・客員研究員による商事法関係の論説、重要判例研究や法律相談に関する各種リポートを掲載しています。

最高裁平成21年4月17日第二小法廷判決・判時2044号74頁
I.はじめに株式会社が破産手続開始の決定(破産法30条−平成16年廃止前の旧破産法の下における破産宣告)を受けた場合、そのことによって当該破産会社と取締役等との間の委任関係が終了し、取締役等がその地位を失うことになるか否かという問題があり、従来から、それを肯定する見解と否定する見解がみられています。判例は、概して、会社財産に関する管理処分権限は破産管財人に移るものの、取締役の受任者としての地位そのものは、当然には終任しないということを前提とした判示を行なっ...
【質問】機械製造を主な事業としている当社(取締役会設置会社・非公開会社)は、折からの製造業不況のあおりを受けて、裁判所に民事再生手続開始を申立てました。幸いにも事業再生を支援してもよいというスポンサーが現れ、当社に出資をしてくれそうな話しになっています。スポンサーは、株主責任を明確にするために、当社の資本金の額を全額減少(100パーセント減資)した後でなければ新たな出資に応じることはできないという考えです。当社としてはこれに応じるつもりですが、当社の株主の...
Ⅰはじめに事実上の取締役とは、選任決議(会社法329条1項)の取消や無効・不存在または欠格事由の発生その他の理由により法律上取締役としての地位を有していないが、現実に取締役としての業務を行い、会社としてこれを容認している者をいいます(注1)。委員会設置会社の業務執行機関である執行役についても、その選任決議の無効・不存在により法律上執行役としての地位を有していないものの、会社の容認のもと実際に執行役として業務執行を行う場合があり得ますが、これを事実上の執行役...
(大阪高判平成20年11月28日・判時2037号137頁)
1.事実の概要(1)Y会社(被告、控訴人・附帯被控訴人)は、昭和32年4月1日に創業者Aによって設立された各種金属のプレス加工等を目的とする株式会社(全株式譲渡制限会社、取締役会設置会社、監査役設置会社)です(100名以上の従業員を擁し、平成19年7月決算で売上高14億6500万円余、経常利益6300万円余)。Aとその妻Bとの間には、X1(長女)、X2(三女:原告、被控訴人・附帯控訴人)、C(二女)がいます。昭和48年にCと婚姻したDは、同時にABとの間で...
【質問】私は、現在勤務している株式会社(委員会非設置会社)の創業者である先代社長の片腕として、長年、専務取締役として同族企業の経営に参与してきました。ところが、先年、先代社長が他界すると、取締役である先代の子供達の間で確執が表面化し、取締役と株主がそれぞれ二派に分かれて泥沼の抗争に陥ってしまいました。近時、事態はようやく沈静化したのですが、結局、私は、与していた派閥が敗れた結果、取締役会決議により専務取締役から非常勤取締役に降格させられるとともに、任期途中...
1.はじめに会社法の規定に基づく株式会社の取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人(以下、これらを「役員等」と総称する)の会社に対する責任(会社法52条1項・53条1項、120条4項、423条1項、464条1項本文、465条1項本文)は、違法な剰余金配当等に係る業務執行取締役・執行役(会社法462条1項各号、会社計算規則187条、188条)の会社に対する弁済責任(会社法462条1項)を除き(同条3項但書)、総株主の同意があればこれを完全に免除するこ...
最判平成21年3月10日金融・商事判例1315号46頁
Ⅰ事実の概要本件は、A会社(大阪観光株式会社)の株主であるX(原告・控訴人・上告人)が、本件各土地をAが所有しているにもかかわらず、Aの取締役であったY(被告・被控訴人・被上告人)名義の所有権移転登記があるとして、Yに対し、Aの所有権に基づきAに対して真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をするように求めた事案(株主代表訴訟)です。Aは、ホテルの経営等を業とする株式会社であり、Xは、6ヶ月前から引き続きAの株式を保有している株主です。Yは、昭和...
(大阪高判平19・1・23金判1289号28頁〔変更判決〕)
1.事実(1)事実の概要A(昭和15年2月24日生)は、昭和33年に被控訴人会社Y1の前身である個人商店に就職し、昭和41年に株式会社化された被控訴人会社Y1において昭和51年に取締役に就任して以降、社内外で専務取締役と呼ばれてきました(商業登記簿上も取締役として登記されています)。そして、Aは平成12年8月31日午前2時頃出張先である富山市のホテルのベッド上で急性循環不全により死亡しました。いわゆる過労死と呼ばれる状態でした(享年60歳)(注1)。被控訴...
株主有限責任と残余請求権者としての地位は所与のものか?
株主の法的地位についての一考察(1)I.はじめにII.「株主有限責任」についての検討III.「株主=残余請求権者」についての検討本稿の最初に述べましたように、現在、「株主=残余請求権者」ということが真に言えるかどうかということについては、疑義を挟む余地が生じてきているように思われます。その大きな要因の1つは、企業不祥...
最高裁平成21年2月17日第三小法廷判決(金融・商事判例1312合30頁)
1.事実の概要Y1会社(日本経済新聞社。後述第1事件・第3事件被告、第2事件原告、被控訴人、被上告人)は、日刊新聞の発行を目的とする株式会社です。Y1会社は、定款によって、株券を発行しない旨及び株式の譲渡には取締役会の承認を要する旨規定するとともに、日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律(昭和26年法律第212号、以下「日刊新聞法」)1条に基づき、Y1株式(Y1会社の株式)の譲受人は同社の事業に関係ある者に限ると規定しています...