商事法研究リポート


MJS税経システム研究所・商事法研究会の顧問・客員研究員による商事法関係の論説、重要判例研究や法律相談に関する各種リポートを掲載しています。

1.はじめに株式会社における株主は、一般的には、会社にとって返済義務のない資金を出資し、会社清算時には残余財産分配請求権しか有しえない、いわゆる残余請求権者(ResidualClaimant)として位置づけられてきています。したがいまして、会社に対して金銭等の返済にかかる債権を有し、会社に負債(debt)を負わせる形で出資を行っている債権者と比較した場合、株主は、一定の確度で約束されたリターンが得られるわけではないという意味では、当該会社やその業務に対して...
(京都地宮津支部判平成21年9月25日・判時2069号150頁)
1事実の概要(1)Y1会社(被告)は、昭和61年10月15日に成立した有限会社であり、会社法の施行に伴い、特例有限会社として存続する株式会社です。Y2(被告)は、平成4年12月5日から平成18年11月7日までの間Y1会社の代表取締役であったところ、その在任中である平成10年3月31日から平成18年8月31日にかけて、社員総会の認許ないし株主総会の承認を受けないで、自己に対する貸付金名目で合計数千万円単位の会社資金を引き出しました。Y1会社では、Y2が代表取...
【質問】上場会社では、今年の6月総会から、1億円以上の報酬を得ている場合には、役員報酬の個別開示が義務づけられると聞きました。上場会社の役員報酬は、どのように開示されるのでしょうか。また、上場していない株式会社の場合、役員報酬についてどのような情報を開示しなければならないのか説明してください。【回答】本年3月末に金融商品取引法に基づく内閣府令が改正され、上場会社の有価証券報告書等において、少なくとも総額1億円以上の役員報酬等を得ている役員については、個々の...
―事業再生の新たな潮流―
【質問】最近、国内の航空会社の企業再建でも利用されて話題になったように、企業再建・事業再生の分野で新たに事業再生ADR手続が活発に利用されるようになっています。この事業再生ADR手続とは、どのようなものなのでしょうか。また、会社更生手続の活用など、企業再建・事業再生の新しい潮流についても説明してください。【回答】平成20年9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発した世界的な金融・経済危機による100年に...
(四国銀行株主代表訴訟上告審判決)最判平21・11・27判例タイムズ1313号119頁
(1)本件つなぎ融資の経緯A銀行(補助参加人。四国銀)は、高知県から、地方自治法235条1項に基づき、県の公金の収納又は支払の事務を取り扱う金融機関として指定を受けている銀行です。Bは、県の観光名所である桂浜公園内で、闘犬興業を行う土産物店C(闘犬センター)を個人で営んでいました。Bは、昭和48年2月28日、A銀行(長浜支店扱い)との間で銀行取引を開始しましたが、A銀行のBに対する与信額は、平成7年6月1日当時、3億7900万円に達しており、A銀行は、同月...
最三判平成22年3月16日(裁判所HP掲載)
1.事実の概要上告人のXは、平成2年6月に被上告人の株式会社Y銀行(以下、Y銀行という。)の常務取締役に就任し、平成11年6月29日までその地位にありました。Y銀行は、平成11年6月29日開催の定時株主総会で、Y銀行の定める一定の基準による相当額の範囲内でXに対して退職慰労金を贈呈することとし、その具体的金額、贈呈の時期、方法等については取締役会に一任する旨の決議を行いました。その後、Y銀行の取締役会は、Xに対する退職慰労金の額、贈呈の時期、方法等の決定を...
ⅠはじめにⅡ取締役の会社に対する義務Ⅲ「経営判断の原則」の意義MonthlyReportNo13(商事法研究No79)掲載Ⅳ経営判断の原則に関する裁判例以下においては、経営判断の原則に係わるわが国の近時の判例の中から、いくつかの事例を抽出して概観してみることにしましょう。1.株式投資の損失補填事例◎東京地裁平成5年9月16日判決(判時1469号25頁、野村證...
【質問】私は、もうすぐ定年を迎えますが、退職後は気心の知れた仲間同士で自然環境の保全や動物保護に関わる公益的な活動を行っていこうと考えています。将来的には、出版物を刊行したり、海外の学会やセミナーなどへ参加するといったことも予定しているのですが、そうした様々な活動を行う際は、仲間内で行う活動とはいえ、やはり組織として法人格を取得しておきたいと考えています。ところで、昨今、営利法人である会社を規律している会社法が大きく変容してきているのと同様に、非営利法人と...
(最判平成21年12月16日・裁判所時報1498号17頁)
1.事実の概要(1)X会社(原告、控訴人、被上告人)は、昭和36年12月に亡Aによって設立された株式会社であり、Aが発行済株式総数の約99%を保有していました。平成18年当時は、Aの子であるX会社代表者Bがその発行済株式総数(50,000株)の99.24%(49,620株)を保有していました(その他4人の株主が380株を保有)。Y(被告、被控訴人、上告人)は、昭和36年12月から昭和47年8月までX会社の非常勤監査役、同年9月にX会社の常勤取締役に就任し、...
債務の履行の見込みとの関係を中心に
ⅠはじめにⅡ会社分割制度の沿革-会社債権者に関する点を中心に-Ⅲ会社分割と「債務の履行の見込み」Ⅳ会社分割における債権者異議手続1.債権者異議手続の趣旨と沿革会社分割制度における債権者保護の基本は、債権者異議手続の制度に置かれています(注1)。会社分割は、合併に比べて債権者に与える影響が大きいことから、制度導入の当初から、以下のように、債権者異議手続が規定されていました。平成12年改正商法の下では、分割会社の債権者に対して、会社分割に異議があれば述べるべき...