実務情報
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2025/08/07 会計レポート
公益法人制度の改正(7)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、昨年2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。全体の構成は、前回で示したとおりです。今回からその内容を具体的に確認していきたいと思います。8.財務報告の目的前回のリポートで、改正会計基準が、日本公認会計士協会が公表した非営利組織モデル会計基準を模していることを指摘しました。しかし改正会計基準の冒頭で記されている財務報告の目的は、非営利組織モデル会計基準にも、改正前の公益法人会計基準にも含まれていなかった内容です。(1)公益法人の組織の特性ここでは、公益法人(公益社団法人または公益財団法人)は、「民間の公益活動によって、公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的として」(改正会計基準、par.1)いる組織であるとしております。そして、その特質としては、次の2点が挙げられています(改正会計基準、par.2)。反対給付を伴わない資源提供を受けること外部の資源提供者から反対給付を伴わない資源提供を受け、これを主たる財政的基盤として、組織目的を達成するための活動を行うことが、一般的であること。多様なステークホルダーの存在。特に資源提供者が、公益法人にとって重要であること。(2)公益法人における財務報告の目的上述の特性に基づいて、公益法人における財務報告は、「その活動基盤となる資源提供者を念頭に置いた情報(資源提供者の意思決定に有用な情報、資源の受託者としての説明責任を果たすための情報)を提供することが主要な目的となる。」(改正会計基準、par.4)とされています。そして反対給付を伴わない資源提供者にとっては、「その対象となる法人が、その資源提供によって実現したい公益活動を確実に実施できる財政基盤や事業実績を有しているかを把握するための情報が有用である。」(改正会計基準、par.3)と説明されています。有用な情報とは、その情報を入手することにより、その意思決定が改善される情報を指します。そのため、改正会計基準では、公益法人の財政基盤は、反対給付を伴わない資源提供に依存していることを前提として、換言するならば、寄付や補助金等がなければ、公益目的事業の収支がマイナス(支出超過)となる法人を前提として、寄付等を行う者(いわば、出捐者)の寄付等を行うことに関する意思決定を改善させる情報を提供することが、公益法人における財務報告の目的であると説明していることになります。加えて、異なる文脈となりますが、既に資源を提供した者に対して、「提供を受けた資源が有効かつ効果的に使用され、資源提供者の期待する公益目的の実現に寄与していること」(改正会計基準、par.4)を説明する責任があると述べています。ここでは、説明責任と表記されていますので、会計責任とは異なり、責任解除の概念を伴わない責任を指しています。寄付者等の出捐者達は、公益法人の機関としての集まりは形成しておらず、責任解除する機関が存在していません。さらに改正会計基準により、既存の出捐者に対して情報の報告(特定の者に対する情報の伝達)がなされるわけではありません。あくまで、情報の開示(不特定多数の者に対する情報の伝達)を求めているに過ぎない(改正会計基準、par.7)ことに留意しなければなりません。さらに、公益法人が公益認定を受けているが故に、税制優遇措置を受けていることから、「政府への納税行為を通じて間接的に納税者等から財務資源が付託されているものとも考えられる」(改正会計基準、par.5)ために、資源提供者として、幅広く国民や地域社会も念頭に置くべきとの考えが示されています。そしてこうした考え方に従えば、多様なステークホルダーの多様な情報ニーズに対応していくことにつながるとの見解も示されています(改正会計基準、par.5)。(3)財務報告における情報ニーズ改正会計基準では、財務報告が対応すべき情報ニーズとして、次の3つを挙げています。「①公益法人の継続的活動能力に関する情報公益法人が継続的にサービスを提供するための組織基盤に関する情報。組織の経済的資源・債務・純資産に関する情報(ストック情報)がこれに対応する。②公益法人の組織活動(提供サービス及びその有効性・効率性)公益法人の活動実績(資源獲得・資源投入)などに関する情報。組織の活動実績に関する情報(フロー情報)がこれに対応する。③資源提供目的との整合性に関する情報提供された資源が適切に利用されているか、特に、特定の活動目的のために提供された資源が、指定された使途に合致・整合した形で利用されているかなどに関する情報。使途制約の課された資源に関する情報、法令に基づく公益法人としての財務規律に関する情報などがこれに対応する。財務規律に関するものなど公益法人として法令に基づき開示すべき情報は、認定法等の規定に基づき適切な開示が行われる必要がある。」(改正会計基準、par.6)(4)改正会計基準における「財務報告の目的」の位置づけ以上から、寄付者等の資源提供者に対する有用な情報提供を主要な目的としながらも、既存の資源提供者への説明責任遂行や、その他様々な情報ニーズに対応する情報開示を求めていることから、改正会計基準の「財務報告の目的」は一般目的として位置づけられます。また反対給付を伴わない資源提供がなされることが一般的であるとしながら、そのストック情報が公益法人の継続的活動能力をいかに明らかにするのか、また財務情報の範囲内で投入された資源の有効性や効率性がフロー情報としていかに明らかにされるのかが、その後の基準の内容となる財務諸表の構成要素や認識・測定にいかなる制約を付しているのか否かは、次回以降確認することにします。提供:税経システム研究所
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2025/08/04 審査事例
過少申告となったのは、国税庁HP確定申告書等作成コーナーのエラーメッセージの説明不足ではないと判断した事例(棄却)
【裁決のポイント】過少申告があっても、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税を賦課することが納税者に不当又は酷になる場合には、例外的に過少申告加算税が課されない(最高裁平成18年4月20日判決、最高裁平成18年10月24日判決)。審査請求人は、台湾に所在する外国法人の顧問として雇用契約に基づき円建てで給与(国外給与)の支払いを受け、給与明細書は日本円で、総支給額、控除された台湾の源泉所得税と社会保険料等が記載されており、それを参照して、国税庁HP確定申告書等作成コーナーで収入金額、源泉所得税、社会保険料を入力し確定申告をしたところ、更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。審査請求人は、エラーメッセージの説明不足は、過少申告加算税が課されない正当な理由に該当すると主張して処分の取消しを求めた。平成19年度税制改正で、日本の居住者が外国の社会保障制度に支払う保険料について、一定額までは所得から控除する制度が創設されたが、現在、適用対象となる租税条約の相手国はフランスだけである。また外国の所得税は外国税額控除の計算を行う。国税不服審判所は、審査請求人の過少申告は、審査請求人自身の税法の不知又は誤解によるものというほかない、として請求を棄却した事例である。(令和2年分から令和3年分の所得税及び復興特別所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・令和6年7月3日裁決)【主な争点】過少申告になったことについて、「正当な理由」(国税通則法第65条第4項第1号)があるか。【裁決の要旨】審査請求人は、令和2年分及び令和3年分の各確定申告が過少申告となったのは、本件作成コーナーにおいて、給与所得の入力画面上、「源泉徴収税額」欄のエラーメッセージに、「【源泉徴収税額】が入力されていません。確認してください。源泉徴収税額がない場合には「0」を入力します。」と表示されるのみで、外国の所得税は入力対象でない旨の補足説明が表示されないこと、また、「社会保険料等の金額」欄において、外国の社会保険料については、社会保険料控除の対象とならない旨の補足説明が表示されないことに起因するものであると主張する。しかしながら、所得税等は申告納税制度を採用しており、申告納税制度の下においては、納税者自身が自己の判断と責任において、法令の規定に従って適正な申告をしなければならないところ、本件作成コーナーは、あくまで行政サービスの一環として、納税者による自力での確定申告書等の作成を手助けするために設けられているものにすぎず、過少申告となった責任の所在が本件作成コーナーの説明不足にある旨の審査請求人の主張を採用することはできない。そうすると、審査請求人の過少申告は、審査請求人自身の税法の不知又は誤解によるものというほかなく、かかる事情をもって、真に審査請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、審査請求人に過少申告加算税を賦課することが、不当又は酷になる場合に当たるとはいえない。【参照条文】国税通則法第65条《過少申告加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/07/31 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(212)
1.はじめに昨今、オンラインカジノをめぐる報道をよく目にするようになっています。警察庁などからも情報が発信されている通り、たとえ海外で合法的に運営されているオンラインカジノであっても、国内からこれにアクセスして金銭を賭ける行為は賭博罪や常習賭博罪に該当し、常習賭博罪とされた場合には、3年以下の拘禁刑が刑法で定められています。今年の年明け以降、タレントやスポーツ選手などがオンラインカジノを利用したことが発覚し、書類送検、一定期間の活動自粛、制裁金が課されるなどの法的、または社会的な処分を受けています。また、某放送局においては、社内調査により従業員がオンラインカジノを利用していたことが判明し、社内で厳重注意処分を受けた後も利用をやめず、その賭金も多額であったことが露見したことから、常習賭博の容疑で逮捕されるといった事態になっています。2024年に警察庁が行った調査によれば、国内におけるオンラインカジノサイトの利用経験者は推計で約336万9千人とされており、国内における年間賭額は推計1兆2千億円あまりとなっています。テレビやラジオ、ネットや動画サイトで著名人を使って宣伝し、あたかも合法であるように謳って客集めをしていたということもあり、また、スマホとクレジットカードで簡単にカジノに参加できる手軽さもあり、この調査結果を併せて見ると、仕事関係者の中にオンラインカジノを利用した人がいても不思議ではないように思えてしまいます(注1)。オンラインカジノの利用は、業務とは無関係の私生活上の犯罪行為ということになりますが、私生活上の犯罪や問題行動が、企業の業務や信用などに悪い影響を及ぼすような場合に、解雇を含めた懲戒処分を行うことはできるのでしょうか。今回は私生活上の問題行動による懲戒処分の可否について、判例などを踏まえながら考えていきます。2.雇用契約上の会社と従業員の関係とは会社と従業員は雇用契約を締結し、従業員は雇用契約の内容や就業規則に定められた服務規律などに則って労働を提供することになります。就業規則における懲戒規定においては、「会社は、企業秩序や職場規律を乱した場合に、該当する従業員を懲戒処分できる」といったような表現がよく見られますが、雇用契約や就業規則は、各従業員の私生活にまで効力が及ぶわけではなく、あくまでも就業中の行動について定めを行っているに過ぎません。したがって、従業員が業務時間外に起こした私的な問題行動を理由として、会社が直ちに懲戒処分を行うことは、私生活に過度に介入することになるため、原則としてこれは認められないとされています。例えば、電車内での痴漢行為により罰金刑を受けた従業員を諭旨解雇とした懲戒処分に対し、裁判所は「解雇権の濫用」として無効と判断しています。(東京メトロ事件H27.12.25東京地裁)(注2)では、従業員が私生活上で起こした問題行動により、会社がなんらかの損害を被った場合などに該当する従業員に対して懲戒処分を行うことはどのように評価されるのでしょうか。3.会社の社会的評価に影響がある場合は処分が可能雇用契約や就業規則は就業中の行動について定めたものであることを先述しました。その一方で、従業員は雇用契約に付随する義務として、業務中はもとより、業務外においても、会社の利益や名誉、信用を毀損することなく行動する義務を負っているものと解されています。会社としては、事業を運営していくために、名誉、信用や評判といった社会的評価を維持していくことは不可欠であり、これらに重大な影響を与える従業員の行為については、私的なものであっても、なんらかの処分を行うことは可能であると考えられています。では、どのような場合が「重大な影響を与える行為」とされるのでしょうか。この点について、裁判例では「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界における地位、経営方針及びその従業員の会社における地位、職種等諸般の事情から総合的に判断して、会社の社会的評価に及ぼす影響が相当に重大であると客観的に評価される場合でなければならない」(要旨)とされています。(日本鋼管事件S49.3.15最高裁)端的に言えば、「懲戒処分ができるかどうかはケースバイケース」とも読み取れますが、会社も従業員も「コンプライアンス」が強く求められる令和の時代において、具体的にどのようなケースが懲戒処分に該当する行為とされるのかを考えてみましょう。4.懲戒処分の対象となる私生活上の問題行動とは?「会社の社会的評価に重大な影響を及ぼす」と考えられる私生活上の問題行動として、以下のようなものが想定されます。①犯罪とされる行為:暴行傷害、窃盗、性犯罪、飲酒運転による交通事故、賭博など犯罪行為の態様や程度が悪質かつ重大であり、犯行の経緯・動機に酌量の余地もなく、また、会社名などを含めてマスコミで実名報道されたような場合は、会社に対して有形無形のダメージを与えたものとして、懲戒処分を行っても問題ないものと考えられます。②SNS他ネットにおける不適切な投稿会社を強く誹謗中傷する投稿や企業秘密に該当する内容を投稿したような場合には一定の懲戒処分が認められる可能性が高いのですが、このようなケース以外でも、個人のアカウントにおいて、業務時間外に行われた投稿が、社会常識に照らして不適切な内容だとして「炎上」してしまうことがあります。アカウントが本名ではなくハンドルネーム(ネット上でのニックネーム)であったとしても、最近では、本名や住所、勤務先をはじめとした個人情報があっという間に特定され、ネット上に晒されてしまうことが珍しくありません。こうなると、投稿内容が業務に無関係な内容だったとしても、会社に苦情の電話やメールが殺到し業務に支障をきたすばかりでなく、いわゆるクチコミサイトなどに会社の評判として虚実入り交じった内容が書き込まれるなど、会社の名誉や信用が大きく毀損されることになります。このような場合は、その質や程度などにより会社の行う懲戒処分が認められやすくなります。③社内の不倫倫理的な問題はありますが、単に不倫が行われているだけでは懲戒処分は困難であると言わざるを得ませんが、事情により判断は異なります。例えば、同じ部署内で不倫が発覚して部署内の雰囲気が悪くなるなどにより業務遂行に著しい影響を及ぼした場合や、職場風紀・秩序を乱し正常な企業運営を阻害した場合のほか、男女間の関係を厳しく律することが相応しい職場(例:バス運転手とバスガイドなど)における不倫行為などで他の従業員に不安と動揺を与えたようなケースでは懲戒処分を有効とした判例があります。(長野電鉄事件S41.7.30東京高裁)5.問題行動と懲戒処分の内容とのバランスは?懲戒処分することが問題ないと判断されたケースでも、問題行動と処分の内容のバランスも考えなければなりません。一言で「懲戒処分」と言っても、就業規則においては譴責から懲戒解雇まで様々な処分の態様が定められているはずです。問題行動の内容や会社が受けた損害と照らして、バランスを欠いた不当に重い処分を行ったような場合、その懲戒処分が無効と判断されることがあるため、処分内容を検討する際には慎重を期することが必要です。会社側からすれば、「私生活上の問題行為発覚⇒即懲戒処分」と考えがちですが、その問題行為が会社にどれだけの損害や悪い影響を及ぼしているのかについてまずは考えなければなりません。問題行動を起こした従業員は責められてもやむを得ないとはいえ、処分を考える際は一旦冷静になり客観的な視点で判断する必要があります。<注釈>警察庁オンラインカジノの実態把握のための調査研究結果(概要)https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/onlinecasino/jittaichosa.png一方で類似の痴漢事案において、有罪判決を受けたことを理由とした懲戒解雇を有効とした判例もある(小田急電鉄事件H15.12.11東京高裁)提供:税経システム研究所
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2025/07/29 経営レポート
退職に関わるトラブル回避(第10回) 整理解雇3
【サマリー】前回は、「整理解雇」に関する重要判例と、コロナ禍での「整理解雇」の判例について解説いたしました。コロナ禍という未曽有の事態においても、「整理解雇の4要件」を厳しく求められることを確認いたしました。今回は、我が国における「整理解雇」の手段の1つである、「希望退職募集」について解説したいと思います。1.希望退職募集と早期退職優遇制度希望退職募集とは、自主的な退職を促進するために、退職金の上積などの特別利益を提示して、合意退職を実現する経営施策です。日本では、解雇権濫用法理により解雇が制限されているため、人員削減が必要な場合でも、解雇時に生じる可能性がある係争を回避するため、とくに大企業・中堅規模企業では希望退職募集の手法が定着しています。類似するものとして、早期退職優遇制度があります。これは高齢化対策の一環として、定年を迎える前に第2の人生に踏み出す者に対して退職金に優遇措置を講じる制度です。希望退職募集との比較では、希望退職募集が臨時的施策であるのに対し、早期退職優遇制度は恒常的な制度とされる傾向がみられます。希望退職募集は、労働者の退職の意思表示(申込み)を誘引する事実行為であり、退職を強要するものではありません。したがって、使用者は希望退職をある程度自由に募集できます。一般的に、希望退職募集の際、①募集時期、②募集人員、③募集対象者、④退職上積金の有無――などが提示され、その条件や方法なども、使用者が自由に決定できるものとなっています。また、希望退職募集の対象者を制限することも原則として可能です。たとえば、募集対象を一定年齢以上に制限したり、地方工場の従業員のみを対象にしたりすることも法的に問題ありません。労働者はその意思に基づき、自己都合で自由に退職できるため、労働者の権利が制限されないからです。退職金の加算などの好条件を提示して希望退職を募ると、有能な人材が流出してしまう可能性がある一方で、退職してほしい人材が残り、経営の維持が困難となる事態が生じることがあります。この問題を避けるため、多くの場合は、希望退職募集の際に「退職上積金の支給を会社が承認した者に限る」とする会社承認規定を設ける手法が採られています。このような定めをすることも、労働者が本来有する自己都合での退職の権利は制限されず、問題はないとされています。会社承認規定は、退職金を加算する早期退職優遇制度、または希望退職募集と一体にして運用することにより、合意退職という形で労働者の意思を尊重できます。使用者の業務上の必要性にも応え、さらには解雇に伴う労使紛争の回避も可能とするものとなり、重要な意義を有しています。会社承認規定に基づいて使用者が承認するか否かは、人事政策目的などの合理的な観点から、使用者の広い裁量が認められるべきです。仮にこれを制約するとしても、使用者の不承認が信義に反するような特段の事情が存するなど、極めて例外的な場合に限られます。会社承認規定の実務上のポイントは、従業員へ事前に「退職上積金の支給を受けられるのは、使用者が承認した者だけであり、承認しない者には支給しない」と周知することです。そうしないと、使用者が対象外とする従業員が応募した場合、退職上積金の支給を受けられず、退職する意思があることのみ使用者に知られ、以後在籍しづらくなるという問題が生じてしまいます。実務上さらに重要なのは、会社承認規定を設けるとともに、有能な従業員に「残ってほしい。応募して来ても承認しない」と知らせることです。そうすれば、不承認により在籍しづらくなる事態を避け、有能な人材の流出の防止につながります。会社承認規定を設けない場合は、有能な人材へ事前に「残ってほしい。会社の中心になると考えている。期待している」などと述べるしか方法がありません。承認権者は、人事部長や社長など、使用者の意図を十分理解して判断できる者に限定しておくと良いでしょう。承認権者には使用者の意図を十分に伝達し、情に流されて対象者以外を承認してしまうような事態は避ける必要があります。希望退職募集の際、従業員は会社に必要とされているか、応募するか否かによるメリット、デメリットなどに悩むので、使用者は、従業員が応募を判断する際に必要な情報を十分提供しなければなりません。2.重要判例1「大手ガラス製造会社事件東京地裁平21・8・24判決」大手ガラス製造会社(以下、会社)が実施した早期退職優遇制度に関連して、同制度の適用除外とされた元社員が、会社に対して優遇措置を受ける権利があるとして提訴した事案。<事件の概要>原告は、長年同社に勤務し、一定の役職に就いていましたが、会社の経営合理化策の一環として早期退職制度(転進支援制度)の募集がなされた際、当初の条件に基づいて退職の意思を示し、退職願を提出しました。ところが、退職願提出後に会社が制度内容を一部改訂し、新たに退職金に約5,000万円を加算する「早期退職者優遇制度」を導入しました。原告は、制度変更後の優遇措置を受けられるべきであると主張し、これを認めなかった会社に対して退職金の増額分の支払いを求めて訴訟を提起しました。<判決のポイント>第一に、裁判所は、原告と会社の間で当初の早期退職制度(転進支援制度)に基づく「合意退職」がすでに成立していたと認定しました。すなわち、退職願の提出と、会社からの承認・退職条件の通知をもって、両者間の合意退職が成立していたという見解です。第二に、裁判所は、原告が主張するような「新制度(早期退職者優遇制度)の周知義務」については、法的根拠がないと判断しました。すでに合意退職が成立した後で制度が新設された場合、その適用対象となるか否かは企業側の裁量に委ねられ、会社が特に原告に対して新制度の内容を知らせる義務を負うとはいえないとしました。第三に、早期退職優遇制度の支給対象者の選定や支給額の決定は、企業の人事政策に関する広範な裁量に属する事項であるとし、その裁量行使に社会通念上著しい逸脱や濫用がない限り違法とはならないという、いわゆる「裁量権法理」を適用しました。その結果、会社の判断は信義則違反にもあたらず、原告の請求は棄却されました。<まとめ>本判例は、企業が実施する早期退職優遇制度において、制度の設計・運用がどこまで企業の裁量に委ねられるか、また制度変更時における適用の可否や情報提供の義務の有無などについて、重要な判断を示したものです。まず、退職に関する合意は、労働者の申込み(退職願提出)と企業の承諾(条件提示や承認)によって成立するものであり、その後に制度内容が変更されたとしても、すでに成立した合意に遡って適用されるわけではないことが確認されました。次に、企業が新たな優遇制度を導入した場合、それをすでに退職が決定した者に遡及的に適用する義務はなく、周知義務や公平配慮義務といったものが当然に発生するわけではない点は、制度設計の実務上非常に重要です。さらに、早期退職優遇制度や転進支援金制度の支給対象者の選定は、企業の合理的裁量の範囲内で決定できるという考えが明確に示されたことで、今後の人員整理施策や退職勧奨の設計においても企業側が注意すべき枠組みが確認されたといえます。この判例は、労働契約における合意解約の成立時期や、優遇制度適用の境界線に関する重要な実務指針を与えるもので、今後の制度運用においても参考とすべき裁判例といえるでしょう。3.重要判例2「外資系ソフトウエア会社事件東京地裁平15・11・18判決」会社が実施した早期退職制度に対し、従業員が応募したものの、会社による承認前に自己都合で退職したため、特別退職金の支給が行われなかった件について、当該従業員は、制度の他の適用者と同様の扱いを求めて訴えを提起した事件。<事件の概要>会社は平成14年12月19日、早期退職優遇制度(以下「本制度」)を発表しました。本制度では、退職を希望する従業員に対して、通常よりも有利な特別退職金などが支給される内容であり、従業員にとって魅力ある条件が提示されていました。会社が発行した文書には、本制度の利用にあたっては、対象となる従業員がまず応募し、その後、会社が応募内容を確認した上で承認するか否かを決定するという手続きが明示されていました。さらに、本制度を利用せずに自己都合で退職する場合には、離職票に記載される退職理由は「会社都合」ではなく「自己都合」となる旨の記載もありました。原告は、平成14年11月19日頃、上司に対し、複数の企業から転職の誘いを受けていることを伝えました。これに対し上司は、原告が当時システム統合プロジェクトにおいて購買部門の日本側責任者を務めていた点に着目し、その経験は今後社内でのコンサルタント業務への転身に活かせるとして、原告を会社に引き留めました。そして本制度が公表された平成14年12月19日、上司は総務部全体を対象に説明会を開き、制度の概要を説明し、その後、原告と個別に面談を行って会社への残留を強く促しました。さらに12月24日には、2回目の個別面談を実施し、再び慰留の意向を示した上で、会社にとって重要な人材は原則として制度の対象外であると告げました。翌年の平成15年1月7日、3回目の面談が行われ、原告が退職の意思を明確に示したうえで本制度の適用を求めたのに対し、上司は原告が特別退職金の対象にはならないことを伝えました。それでも原告は、1月8日付で正式に本制度への応募を行いましたが、1月17日、会社から本制度の適用対象外である旨の通知を受けました。<判決のポイント>本件で争点となっている特別退職金付きの早期退職制度は、原告と被告との間の既存の雇用契約とは別個の契約の成立が問題となるものです。そのため、原告の請求を認めるには、当該早期退職制度(以下「本プログラム」)の適用を前提とした雇用契約の解約について、原告と被告の間で合意が成立している必要があります。しかしながら、本プログラムにおいては、従業員からの応募に対し、会社側がその適用の可否を判断する権限を留保していると解されます。したがって、従業員からの応募は、あくまでも雇用契約終了に向けた「申込み」にとどまり、会社がこれを承認してはじめて「承諾」となり、契約として成立する構造になっていました。このような前提からすれば、本件において原告と被告の間で、プログラムに基づく雇用契約終了の合意が成立しているとは認められません。これに対し原告は、他の適用者との公平性や信義則の観点から、被告には原告にも本プログラムを適用すべき義務があると主張しました。しかしながら、仮に平等取扱いや信義則を考慮したとしても、それだけで会社に対して本プログラムの申込みを承諾する法的義務が生じるとは言い難いと、原告の主張を退けました。さらに仮に原告の主張を前提としても、原告が信義則違反の根拠とする点──すなわち、他の従業員にはプログラム適用を積極的に勧めたのに、原告には適用を拒否したことが整理解雇を回避するための形式的手段(潜脱)であるという主張──についても、仮にそれが真実であれば、制度そのものの有効性が否定される可能性があり、かえって原告にも本プログラムを適用すべき法的根拠とはならないとしました。<まとめ>名称は企業によって異なるものの、早期退職制度を導入し、退職希望者に対して退職金の上乗せなどの優遇措置を講じる企業は少なくありません。ただし、こうした制度には、企業側が一定の適用条件を設けているのが一般的です。そのため、制度の適用を受けられなかった元従業員が企業を相手に訴訟を起こすケースも多く見られます。裁判例では、制度上定められた条件を満たしていない場合には、優遇措置を受ける権利は認められないとする判断が多数を占めています。4.実際の事例(コロナ禍における整理解雇)都内に貸しビル数件とビジネスホテルを4件運営しているA社が、コロナ禍でホテル部門の売上が85%減少したことに加え、以前から老朽化が懸念されていたホテルがあったため、そのホテルを売却することとして、ホテル部門の人員削減をすることになりました。そこで筆者に「人員再編計画(リストラ)」の策定の依頼があり、慎重に打合せを重ねた結果、ホテル部門120名の1/3となる40名を最終的に整理解雇することとし、まずは希望退職者の募集を実施することになりました(図表1参照)。図表1<人員再編計画>ホテル1棟売却に伴う人員再編計画を書面と説明会にてホテル部門の全従業員に周知しました。募集対象者は、公平性を保つため、売却するホテルに勤務している従業員のみならず、ホテル部門の本社管理部を含めた全ての従業員としました。また、万が一退職されては困る従業員が応募した場合に備えて、会社承認規定を設け、念のため事前に個別に慰留しておくことなど、慎重に準備をしたうえで募集要項に従って募集を開始しました。予定人員に達しない場合、最終的には解雇をも視野に入れることも周知しました。希望退職者の募集要項は次の通りです。結果は、当初の予想に反して募集開始から2日間で募集人数を上回る47名の応募があり、即日打ち切りとなりました。募集人数に及ばずに退職勧奨、さらには解雇ともなれば訴訟に発展しかねない事案だったがゆえに、「整理解雇」としては大成功だったと言えるかもしれませんが、応募人数通りの退職者を認めるとなると業務に支障を来すのは必至でした。そのため、数名のベテラン従業員に対して残留するように説得し、最終的に42名の退職希望者を承認することとなりました。コロナ禍で先行きが不透明な時期であったことも影響して、他の業種へ職種転換を希望する者が多かったのも、予想以上に応募人数が多かった要因と考えられます。このように、希望退職募集は、会社の思惑通りに行く場合ばかりではなく、今回のケースのように予定数を大幅に上回る応募者があったり、逆に、予定数に満たないケースもあります。また前述の通り、会社として必要な人材が流出し、退職してもらいたい人材が残るリスクがある点も留意しておかなければなりません。提供:税経システム研究所
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2025/07/28 経営レポート
中小企業のM&Aと企業価値評価(第18回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回はデュー・デリジェンスの実施で明らかとなった検出事項への対応について説明しました。本稿では最終契約の締結に向けた詳細条件の交渉について説明します。本稿では引き続き下記図表1の10.について説明します。【図表1M&Aの基本的な流れ】DDが完了すると、最終契約締結に向けた手続に移行することになります。DDで発見された検出事項(前稿で説明しました)や基本合意の段階では検討が不足していた事項などについて双方で交渉して、詳細な条件を最終契約書に落とし込むことがこのフェーズでの目標となります。本稿では最終契約の締結に向けた詳細条件に関する交渉のポイントについて説明します。1.株式に関する事項中小企業のM&Aの場合、売り手サイドの株主はオーナーまたはその一族が100%保有しているケースが多いために、株式譲渡の際には100%の株式が売り手サイドから買い手サイドに容易に移転することになりますが、オーナー関係者以外の株主(少数株主)が存在する場合、当該少数株主の株式をどう取り扱うかが論点となります。実務的には、オーナーが当該少数株主から一旦株式を買い取って100%にまとめることが一般的です。従って、買い手サイドからは売り手サイドのオーナーに対して事前に100%にまとめることを要請することになるものと考えます。2.契約に関する事項ターゲット企業の経営権が買い手サイドに移った後でも、従来から存在する契約を継続することが望ましい場合には買い手サイドは当該契約を継続できるように売り手サイドの協力を要請することとなります。例えばオーナーの不動産を賃借している場合、オーナーの関係者等が保有している重要な特許やライセンスなどを使用している場合、その他株主が変更することが契約終了の条件となっている重要な契約(チェンジ・オブ・コントロール条項のある契約)などがそれに該当します。重要な契約については法務DD等でリスト化されていると思われますので、買い手サイドでは改めて個々の契約内容を検討してその継続の可否を判断することになります。また、中小企業のM&Aの場合、オーナーが金融機関などに会社債務に関する個人保証契約を締結している場合が多く、M&Aの成立後、売り手サイドのオーナーは直ちに当該保証の解除を求めることになると考えられます。買い手サイドとしてこのような保証解除はやむを得ないと思われます。DDによってターゲット企業の契約書の整備が十分でないという検出事項があれば、取引基本契約や金銭消費貸借契約などの重要な契約についてはクロージングまでに契約書の作成を要請することとなります。3.役員・従業員に関する事項M&Aの完了後、ターゲット企業の新たな役員の選定とそれまでの役員の退職金をどのようにするかを決める必要があります。中小企業のM&Aは後継者不在を理由とするケースが多いために、売り手サイドのオーナーはクロージングの後に引退することが多く見受けられます。但し、ターゲット企業の営業や技術のノウハウはオーナーに帰属していることも多いために、一定の期間は引継ぎの名目で役員ではない顧問契約を結ぶことも実務ではよくあることです。役員退職金についても今までの貢献度を考慮して双方交渉によって決めることになりますが、株式の譲渡価格にも影響を与えるため買い手サイドは慎重に判断すべきです。従業員の雇用条件の検討も重要論点です。一般的には現状の雇用条件を一定期間継続するケースが多いといえますが、ターゲット企業の業績が芳しくない場合には、買い手サイドはクロージング前にリストラなどを要請することになるものと思われます。ターゲット企業に役員への貸付金や役員からの借入金がある場合には、買い手サイドはクロージング日までに回収または返済を完了させることが望ましいといえます。オーナーが私的な理由でターゲット企業にゴルフ会員権、生命保険、保養所などの不動産を所有させている場合にもオーナーに買い取ってもらうのが良いでしょう。4.その他の事項最終契約書の日付と実際の株式の譲渡日であるクロージング日をいつに設定するかも重要です。買い手企業が上場企業であれば最終契約書の日に情報開示することになると思われます。上場企業でなくても、最終契約書に織り込むべき事項が双方で合意できた段階で速やかに最終契約書を作成するのが良いでしょう。クロージング日についても前提条件として売り手サイドにDDで発見された検出事項に対応する義務を負わせた場合には、その履行状況をモニタリングするために一定の期間を設けることがあります。一方で小規模なM&Aや売り手サイドに特段の義務がない場合には最終契約書の日付とクロージング日を同じ日に設定することもあります。最終契約の締結に向けた詳細条件のフェーズは、売り手サイド及び買い手サイドにとっても自分たちにいかに有利な条件を引き出せるか、まさにM&Aの大詰めの局面です。重要なことは双方ともに譲歩できない条件とある程度譲歩できる条件を整理しておくことです。買い手サイドは株式価格の引き下げやリスク低減、売り手サイドは買い手サイドの要求に対する対応が論点となりますが、M&Aも結局は人間が主役ですので、感情的なしこりを残さないように成功裏にクロージングさせることを心がけるべきといえます。提供:税経システム研究所
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関連項目 経営レポート,企業経営 -
2025/07/28 審査事例
三要件で判定し、外注費として計上された交付額は交際費等に該当する、そして全額が使途秘匿金と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】ある支出が、租税特別措置法第61条の4《交際費等の損金不算入》第4項の交際費等に当たるかどうかは、①「支出の相手方」が事業に関係ある者等である、②「支出の目的」が事業に関係ある者等との間の親睦の度を密にして事業の円滑な遂行を図ることであるとともに、③「行為の形態」が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であることの三要件を満たすことが必要であると解される。「支出の目的」については、その該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断すべきとされる。審査請求人は、A社への請求書を、A社従業員Bの指示で、水増し分(本件差額)を加えた額に変更して作成し、A社から支払われた後に、Bが用意したQ名義の架空の業務の請求書の金額をBへ振込み(本件交付金)、Qへの外注費に計上した。税務署は本件交付金をBへの交際費等、Qへの外注費支払は使途秘匿金とする更正処分等を行った。審査請求人は、Bへ戻すことを約した本件差額の預り金の払い出しで贈答に当たらないと主張した。なおA社は水増し請求の事実を知り、Bから返還を受けるのが筋と考え、審査請求人からは返還は受けないことで、審査請求人との間で合意した。国税不服審判所は、審査請求人とA社の間では本件差額も対価の一部として合意されたと認められるから、本件差額は預り金ではない、そして、本件交付金は三要件を満たすことから交際費等に該当する、Qへの外注費計上額は全額使途秘匿金と判断した事例である。(平成26年9月1日から平成30年8月31日までの各事業年度の法人税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分他、棄却他・令和5年12月19日裁決(非公開))【主な争点】本件交付金は、交際費等に該当するか。【裁決の要旨】審査請求人とA社との間では、本件各工事の対価は、本件差額を含む本件各変更後請求書に記載された請求金額で合意されたものと認められるため、本件差額は本件各工事の対価の一部であって請求人の売上金額を構成するものと認められることから、預り金であるという審査請求人の主張はその前提を欠くものであり、理由がない。交際費等の該当性について、本件交付金が交際費等の各要件に該当するかを検討すると、支出の相手方Bは、審査請求人と取引関係にあったA社従業員であり、A社が行う工事の現場監督等を担当していたことから、請求人の事業に関係ある者に該当する。次に、支出の目的についてみると、本件交付金の支払は、Bから資金作りへの協力を依頼されたことが契機となっていることが認められ、審査請求人は、本件交付金の支払に対応する期間、現実にA社と取引を継続している経過が認められる。これらのことからすれば、本件交付金の支払は、A社から工事を受注することを期待してなされたものであることが認められ、審査請求人の事業の円滑な遂行を図る目的であったといえる。さらに、行為の態様をみても、本件交付金の支払は、上記の目的の下でBの歓心を得るためになされた金員の支出であり、それ以外の行為等の対価として支払われたとは認められないため、「贈答」に該当するものと評価できる。以上のことからすれば、本件交付金の支払は、交際費等の支出に該当する。そして外注費として計上された支出は、その全額が使途秘匿金の支出に該当する。【参照条文】法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》租税特別措置法第61条の4《交際費等の損金不算入》、第62条(第5節使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例)本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/07/28 審査事例
消費税法基本通達5-5-7により、共同事業の参加者から受領した事業実施負担金は、消費税の課税対象であると判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】消費税法基本通達5-5-7《共同行事に係る負担金等》は、同業者団体等の構成員が共同して行う宣伝、販売促進、会議等(以下「共同行事」)に要した費用を賄うために当該共同行事の主宰者がその参加者から収受する負担金、賦課金等については、当該主宰者において資産の譲渡等の対価に該当するとしている。人格のない社団である審査請求人は、地方公共団体AおよびP財団法人他と協定を締結して、〇〇事業を共同で主宰した。事務局として業務を行う審査請求人は、事業の参加者でもあるAから会場運営費や広報費等の経費の一部である事業実施負担金(本件負担金)を受領し、消費税の課税売上高に含めて申告したが、本件負担金は、基本通達5-2-15《補助金、奨励金、助成金等》と性格を異にするものでないとして更正の請求を行った。税務署は更正をすべき理由がないとして認めなかった。国税不服審判所は、主宰者として事務局業務を行う審査請求人は、協定に従って、経費を賄うための本件負担金を共同事業の参加者であるAから受け取り、本件業務を行っていると認められるから、本件負担金は資産の譲渡等の対価に該当すると判断した事例である。(平26.4.1~平30.3.31各課税期間の消費税等の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分・棄却・令和3年6月15日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人は、本件負担金は資産の譲渡等の対価に該当しないとして、更正の請求ができるか。【裁決の要旨】消費税法基本通達5-5-7《共同行事に係る負担金等》の定めは、共同行事の主宰者がその参加者から共同行事に要する費用を賄うために負担金等を受け取って共同行事を実施する場合、その共同行事を実施する行為は消費税の課税の対象である資産の譲渡等に該当し、当該負担金等は資産の譲渡等の対価となることを明らかにするものであり、当審判所においても、その内容は相当と認められる。本件事業は、Aをはじめとする複数の団体が共同して開催するものであるところ、審査請求人は、本件事業を開催するため、本件事業の主宰者として、規約の定めにより本件業務を担い、そして、本件業務に係る経費を賄うために本件負担金をその参加者であるAから受け取り、本件業務を行っていると認められる。そうすると、審査請求人は、本件業務を行い、その役務の提供の対価として本件負担金を受領していると解するのが相当であるから、本件負担金は資産の譲渡等の対価に該当することとなる。Aは、特定の政策目的の実現を図るための給付金(補助金等)として本件負担金を支払ったものとは認められない。審査請求人は、剰余金をAに返戻した事実があるとしても、本件負担金が資産の譲渡等の対価に該当するとの判断に何ら影響を与えるものではない。【参照条文】国税通則法第23条《更正の請求》消費税法第2条《定義》、第4条《課税の対象》消費税法基本通達5-5-7《共同行事に係る負担金等》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/07/25 商事法レポート
手形・小切手の廃止~電子交換所の終了~
1.はじめに手形と小切手は、企業間の決済手段として広く利用されてきましたが、全国銀行協会(全銀協)は、手形や小切手の決済システムである「電子交換所」の運用を2027年4月で終える方針を固めたため、手形・小切手は2026年度末で廃止されると報道されています(注1)。明治以来続いてきた手形交換所制度に終止符が打たれ、手形・小切手が廃止されることになりそうです(注2)。そこで手形と小切手がこれまでどのように利用されてきたかを概観したうえで、電子交換所の終了に伴って企業間の決済や短期の信用機能がどうなるのかを検討します。また最近の下請法改正の影響にも触れてみます。2.手形・小切手の種類と経済的機能手形には約束手形と為替手形があります。約束手形は、振出人が受取人又はその指図人に対して、支払期日(満期)に手形に記載された金額の支払いを約束する証券(支払約束証券)であり、手形割引を使って短期の金融手段として広く利用されてきました(信用機能)。また手形による金銭の支払請求等を目的とする手形訴訟では、反訴を提起できませんし(民訴法351条)、証拠調べは書証に限定されるなど(民訴法352条1項)、債権者は迅速かつ簡便に権利を行使することができます。約束手形を利用するには、まず銀行と当座勘定取引契約を結び、統一手形用紙を受け取ります。本来、手形用紙に制限はありませんが(注3)、統一手形用紙を使って振り出された約束手形は、満期に支払銀行に呈示され、銀行間の取決めで設置された手形交換所で決済されます。半年に2回、手形の決済ができずに不渡りを出すと、その振出人は銀行取引停止処分を受けることになり、そのことが手形の信用を高めました。統一手形用紙でなければ、銀行が手形割引などの取引に応じてくれませんし、企業間での信用度が低くて流通もほぼ不可能でした。手形交換所や不渡処分と相まって約束手形の信用機能が強化されています。為替手形は、手形の振出人が第三者である支払人に対して、受取人等への支払いを依頼する証券(支払委託証券)であり、支払人は引受によって初めて主たる債務者(引受人)となります(手形法28条)。所持人は引受を拒絶されたときは、満期前であっても振出人及び裏書人に対して遡求権を行使できます(手形法43条)。為替手形は主に送金手段として利用されますが、日本ではそれほど利用されませんでした(注4)。小切手も支払委託証券であり、振出人が支払人に対して、小切手所持人への支払いを依頼する証券(支払委託証券)です。しかし、もっぱら現金の代用物としての決済機能をもつ小切手は、満期は小切手要件ではなく、常に一覧払であり(小切手法28条1項)、振出後直ちに支払を受けられます。また小切手の支払の確実性と取立の便宜から、金融機関として社会的信用が高く、支払事務に習熟している銀行に支払人資格を限定するとともに、振出人と支払人との資金関係、具体的には、振出人と銀行の間で当座勘定取引契約を締結することを要求しています(小切手法3条)。つまり小切手の振出人は支払銀行から交付された統一小切手用紙を使って振り出します。3.手形交換所から電子交換所へ従来の金融機関は顧客から取立委任された手形・小切手について、各地の手形交換所を通じて交換し、決済を行っていました。手形交換所は、一定の地域内にある多数の金融機関が一定の時刻に集合し、各金融機関が持ち寄った他行を支払場所とする手形・小切手を呈示・交換して決済するための団体・施設です。ここでは統一手形用紙・統一小切手用紙の利用が前提です。2022年3月、日本政府は手形交換所における約束手形の取引を廃止するように要請したうえで、法務省は同年10月27日に「手形法第八十三条及び小切手法第六十九条の規定による手形交換所を指定する省令」を全面改正し、同年11月4日をもって同省令に定める手形交換所を全銀協が設置する電子交換所に全面的に移行することとしました(注5)。これを受けて、全銀協が電子交換所を設置し、各地の銀行協会で手形交換所の廃止が決定されました。1980年には全国184か所あった手形交換所が2022年には179か所になり、同年11月にはそのすべてが廃止されて、新たに設置された電子交換所へ移行しました。電子交換所は、金融機関が全国どこからでも利用できる単一のシステムであり、手形・小切手の交換を電子データで行うもので、金融機関が紙の手形を「イメージデータ」に変換して、電子交換所に送受信して処理する仕組みです(注6)。紙ではなく電子化された金銭債権を使うので、金融機関は手形・小切手を搬送する必要がなくなり、業務効率化を図れるほか、ペーパーレスのため郵送費がかからないこと、紛失や盗難のリスクがなくなること、災害等による影響を軽減できることなどが利点とされていました。その後も産業界・関係省庁と金融業界が連携して手形・小切手機能の全面的な電子化を最終目標とした取組みを強化するために、「手形・小切手機能の『全面的な電子化』に関する検討会」が必要な検討を行ってきました。2025年3月21日に開催された第19回検討会では、手形・小切手の電子化に関する中間的な評価が実施され、政府の方針の下、関係者一体で手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた取組みを進めてきたものの、電子交換所における手形・小切手の年間交換枚数は2024年時点で依然として1,967万枚となっており、同年の年間削減枚数も目標値822万枚対比61%の501万枚に留まった現状等を踏まえ、中間的な評価として、一定の成果は見られるが、これまでの取組みだけでは目標の達成は困難であるとされました。こうした状況も踏まえ、同中間評価及び検討会における合意を経て、全銀協は、関係者における電子化の取組みを一層後押しし、自主行動計画の最終目標達成の実効性を高めるため、従来の取組みに加えて抜本的な取組みを行うこととし、2027年4月から電子交換所における手形・小切手の交換を廃止することを決定しました(注7)。電子交換所は、全面的な電子化が達成されるまでの過渡期的な対応として設立されたという経緯から、手形・小切手以外の証券(注8)についても電子化・削減を進め、わが国の生産性向上、コスト削減を図ることを目的に、電子交換所システムの更改は行わないとしています。そして、全銀協は手形の代わりに、ネットバンキングや、印紙税なしで債権を取引できる「全銀電子債権ネットワーク」(通称「でんさいネット」)への移行を促しています。4.「でんさい」と電子交換所のちがい紙の手形にかわるシステムとして、2013年2月に全銀協が設立した電子債権記録機関「株式会社全銀電子債権ネットワーク」が運用されています。コロナ禍で電子化が進んだことから、2021年以降、利用の増加ペースが一層強まっているようです(注9)。出所:でんさいネット「統計情報」ページ(https://www.densai.net/stat/)電子交換所は、手形・小切手の交換業務を電子化して行うシステムであるのに対して、電子記録債権(「でんさい」)は、紙の手形を全く使わず、電子記録によって債権が発生・管理されます。電子交換所は、手形・小切手のイメージデータを金融機関間で送受信して交換を行うため、手形・小切手を介した取引であることに変わりはなく、手形・小切手を振り出すことで債権が発生します。それに対し、「でんさい」は、電子債権記録機関における「発生記録」によって債権が発生し、手形のような有価証券を介さずに取引できます。そのため、「でんさい」のメリットとして、受取企業側では、①紙ではなく電子化された金銭債権を使うので、紛失や盗難のリスクがなくなること、②支払期日になると自動入金され、取立てのための手続きが不要であること、③紙の手形と異なりWeb上で管理できるため、事務手続の負担を軽減できること、④紙の手形では不可能な「債権の分割譲渡」が行えること等があげられますし、支払企業側では、①手形の用紙代や印紙代などのコストを削減できること、②ペーパーレスのため郵送費がかからないこと、③手形発行作業が紙よりも簡単で事務手続が効率化できること等があげられています(注10)。なお電子交換所は、手形・小切手を取引する金融機関間の取引に限定されますが、「でんさい」は、全国の多くの金融機関で利用できるため、利用範囲が広いとされています。出所:株式会社ミロク情報サービスホームページ「2026年約束手形は廃止へ手形に代わる“電子記録債権”の活用を!」(https://www.mjs.co.jp/topics/lp/densai/)5.手形・小切手の廃止と下請法改正約束手形には、受取人側の負担が大きいというデメリットもあります。約束手形の支払サイト(振出から支払までの期間)が3〜4ヶ月空くことが一般的で、その間、受取人側は現金を受け取れません。商品・サービスの提供が完了しているにもかかわらず、数ヶ月先まで現金が入ってこないことは資金繰りのうえで大きな負担となります。このような状況からも、紙の手形を利用することに対して消極的になる企業も増えていました。下請けいじめの温床になるとの観点から、政府は、2026年までの手形廃止を検討するよう経済界に要請していました。2021年3月31日に公正取引委員会が公表した通達では、手形・小切手廃止の一環として、①下請代金の支払はできる限り現金によるものとすること、②手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること、③当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと、④下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること等の対応が事業者に求められました(注11)。2025年の通常国会には、発注者・受注者の対等な関係に基づき、事業者間における価格転嫁及び取引の適正化を図るため、下請代金支払遅延等防止法(下請法)及び下請中小企業振興法の改正案が提出され、5月16日に成立しました。改正下請法では、さらに一段進めて、紙の有価証券である手形については、下請法上の代金の支払手段として使用することを認めないこと、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認めないこととしています。なお本改正により、下請法は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託法)に、下請中小企業振興法は「受託中小企業振興法」に改められました(注12)。手形に対する需要は、中小企業や地場の商店を中心に根強く残っているようですし、手形・小切手の廃止に対しては、手形等の利用が長年の商慣習になっているとか、中小企業・小規模事業者などの取引先が電子化対応できるのか懸念があるといった声も少なくないようです。手形貸付は利用できなくなるので、短期資金の調達手段が減ります。また手形の不渡処分がなくなるので、支払遅延リスクが増加するおそれがあります。2026年度末における電子交換所の終了は、手形・小切手の廃止を義務づけるものではなく、2027年度以降も企業や金融機関同士が郵送などで手形や小切手を交換することは可能ですし、それ以降の紙の手形・小切手の利用に対して罰則があるわけではありません(中小受託法14条以下参照)。しかし、政府・全銀協・金融界などが一体となって紙の手形・小切手の廃止に向けて精力的に動いており、手形・小切手の現金化を続ける金融機関はほとんどないでしょう。産業界でも自動車や流通など約40の業界団体が2026年までに利用をやめるよう呼びかけています。したがって、紙の廃止及び電子化の流れは今後一層加速すると予測されます。<注釈>日本経済新聞2025年3月23日。全銀協「手形・小切手の電子化に関する中間的な評価を踏まえた抜本的な取組み等について~2027年度初からの電子交換所における手形・小切手の交換廃止等~」2025年3月26日https://www.zenginkyo.or.jp/news/2025/n032601/日本では手形交換所は1879(明治12)年に大阪で初めて設けられました。第2次大戦末期に全ての手形交換所は解散させられましたが、戦後、ほとんどの手形交換所が地域の銀行協会の下で再興されました。融通手形等による悪質な不渡手形への対策として、銀行は審査を要する当座預金取引先にのみ手形用紙を交付することとし、様式も統一化した統一手形用紙制度の運用が1965年からすべての金融機関で開始されました。判例は、形式的には手形要件が記載されていても、信用利用や流通を予定せずに、もっぱら手形訴訟による簡易迅速な債務名義の取得を目的とする私製手形は、手形制度及び手形訴訟制度を濫用する不適法なものとしています(東京地判平成15.10.17判時1840-142、東京地判平成15.11.17判時1839-83、横浜地決平成15.7.7判タ1140-274)。手形法は、為替手形をまず規定し、次いで為替手形の規定の多くを約束手形に準用しています。利用の少ない為替手形をメインに規定したのは、手形法が1930年のジュネーブ統一手形条約を国内法化したものだからです。中世教会法には利息禁止の法理があり、約束手形はこれに反するが、為替手形は送金手段なので、違反しないという理屈で、欧米では為替手形が広く利用されていたためです。手形・小切手機能の全面的な電子化に関する取組みは、2017年の政府の「未来投資戦略2017」において、「オールジャパンでの電子手形・小切手への移行」が掲げられたことに端を発しています。その後、2021年6月には「成長戦略実行計画」において「5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する」、「小切手の全面的な電子化を図る」ことが明記されました。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf手形交換所で扱う手形・小切手等の交換高は、2024年に75兆177億円(交換枚数2333万枚)でした。金額でピークだった1990年の4797兆円の1.5%程度まで減少し、枚数では、4億3486万枚あった1979年の約20分の1になりました。全銀協は、2018年12月の「手形・小切手機能の電子化に関する検討会報告書」に示された「全面的な電子化を視野に入れつつ、5年間で全国手形交換枚数の約6割を電子的な方法(手形は電子記録債権、小切手はEBによる振込)に移行すること」を中間的な目標として取組みを行った結果を踏まえたものであり、電子交換所は、全面的な電子化が達成されるまでの過渡期的な対応として設立されました。https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/council/tegata_denshi/tegata_denshi_report_1.pdfhttps://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/electronic/explanation.pdf手形・小切手機能の「全面的な電子化」に関する検討会(第19回)議事要旨(2025年3月21日)https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/council/tegata_denshi/tegata_denshi2021_19_1.pdf手形・小切手以外の証券は、株式の配当金を受け取ったことを証明する「配当金領収証」、一定金額を別の場所へ送金する際に利用する「定額小為替証書」、定額小為替証書よりも大きな金額を転送する際に利用する「普通為替証書」、金融機関が他の金融機関に対して支払いを指示する「振替払出証書」などです。これらの証券は、手形や小切手と同様に、電子交換所で電子データとして交換されます。でんさいネット・統計情報。https://www.densai.net/stat/2018年の推計によると、PC購入費・電子記録債権の契約などの初期費用が1195億円、印紙代・用紙交付料・取立手数料・郵送費などのランニングコストが▲732億円ですが、2年目以降は初期費用がかからなくなるため、一層のコスト削減効果が認められるとされています。「産業界における手形・小切手の利用実態等に関する調査」MUFJリサーチ&コンサルティング(2023年6月30日)https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/council/tegata_denshi/tegata_denshi2021_12_3.pdf公正取引委員会「下請代金の支払手段について」(令和3年3月)https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/saito.html公正取引委員会・経済産業省「『下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律』の成立について」(令和7年5月16日)。この改正では法令用語も変更され、「親事業者」「下請事業者」はそれぞれ「委託事業者」「中小受託事業者」に、「下請代金」は「製造委託等代金」に改めています。改正法の施行期日は2026(令和8)年1月1日です。https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250311002/20250311002.htmlhttps://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/may/250516_toritekiseiritsu.html提供:税経システム研究所
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2025/07/17 会計レポート
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(24)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額からコストが大きく変動することがあり、その対処が必要になります。以下では、コスト変動管理で用いられる帳票について紹介します。2.コスト変動管理で使用される帳票表1変動メニュー表のイメージ(出所)吉田・伊藤(2021,p.173)をもとに筆者作成。前回の記事では、同社のコスト変動管理が、「(1)コスト変動事項の把握とリスト化」、「(2)変更の申請」、「(3)コスト変動の確認と承認」、「(4)図面の変更」、「(5)供給企業からの原価見積額の回答」、「(6)コスト変動状況の集計と確認」という手順で行われることを説明しました。これらの取り組みを行う時に、コスト変動事項を一覧表として登録した変動メニュー表が使用されます。変動メニュー表は、表1のような形で開発機能チームごとに記載、管理されます。開発機能チームの設計リーダが責任者として、この帳票の運用を担当しています。コストの変動(増加、減少)の発生が予測される時、設計者は変動メニュー表にメニュー(変更事項)、変更図面の番号・名称とあわせて、変更事項を導入する前のコスト、変更時のコスト変動予測額(増加額、減少額)と増加が予想される時にはその理由をあわせて記載します。導入前のコストの精度を確認できるように、導入前のコストが設計者による見積額(設計欄)、コストテーブル(注1)を用いた見積額(基準欄)、供給企業による見積額(供給企業欄)のどちらにあたるかを選択して、コストを記載します。変動事項の導入予定時期は、計画段階で記載し、計画に沿って導入が行われたかを実績日まで管理していきます。導入ランク(比率)は、コスト低減のリスク管理のために使うもので、リスクの程度を比率で表し、「コスト低減額×比率」の算出結果をランク後という欄に記載します。同社のコスト変動管理では、コスト変動額を極力少なくするために、現状の可視化を重視しています。変動メニュー表を運用する時にも、登録時点での原価見積の精度が低くても、設計者に速やかに登録してもらうようにすることが重要になります。ただし、同社では、コスト変動の予測額は、図面変更の内容が未確定の段階で設計者が見積りを行う場合があり、予測の精度がだいぶ低くなってしまうことが課題になっています。そのような時、コストテーブルを用いた見積りの実行や、変更がほぼ確定した時点で見積額を修正するといったことにより、予測の精度を高めるための工夫が行われています。さらに、コスト変動管理のうち手順「(6)コスト変動状況の集計と確認」では、全ての開発機能のコスト変動を定期的に集計し、商品単位での変動額全体の推移が把握されています。この時に集計するコスト変動には、「コスト変動予測額(変動メニュー表に登録された段階の金額)」と「コスト変動実績額(供給企業から回答のあった金額)」があります。活動の実行管理を担当する原価推進責任者がこれらの金額を集計し、その内容についてコスト変動管理全体を統括する開発商品QCD責任者が確認しています。ここまで見たように、同社では、変動メニュー表を用いてコストの増減が予想される変動事項を継続的に把握することで、計画時からのコストの変動を抑えるための対策をいち早く実行できるようにしています。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>部品や材料ごとに、原価情報をまとめた資料(データベースとしての役割を持つもの)を、コストテーブルと言います(詳細は、第12回の記事をご覧ください)。変動メニュー表では、コストテーブルに記載のある金額を参考に、基準欄の数値が記載されます。提供:税経システム研究所
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2025/07/14 審査事例
確定申告にあたって、一般口座のように概算取得費を使うことはできないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】金融商品取引業者等を通じた上場株式等の取引には、「一般口座」、「特定口座」、「非課税口座(NISA)」がある。一般口座は自分で年間の譲渡損益を計算して確定申告をする。特定口座は「簡易申告口座」と「源泉徴収口座」で選択可能だが、いずれも金融商品取引事業者等が年間の譲渡損益を計算して、「特定口座年間取引報告書」を作成して送付するので、簡易申告口座はその報告書によって確定申告ができる。源泉徴収口座の場合は申告不要のところ、選択で、確定申告もできる。本件の審査請求人は、特定口座の源泉徴収口座内でA社株式を439,539,580円で譲渡した譲渡損益について確定申告を選び、譲渡価額を基礎として算出した概算取得費からA社株式の実際の取得価額を引いた差額16,642,279円を特定口座年間取引報告書に記載された取得費の額に加算したところ、原処分庁はそれを認めず更正処分等をしたため、金融商品取引業者等は計算を代行したにすぎず、納税者が確定申告において取得費等を含めて譲渡所得の金額を再計算することを妨げるものでないなどと主張した。国税不服審判所は、特定口座制度創設の経緯及び当該制度に関する法令等の各規定等を検討し、法は、源泉徴収口座内の株式等の譲渡所得を確定申告するに当たり、納税者が取得費の計算をすることを予定していないため、概算取得費を取得費とすることはできないと判断した事例である。(令和元年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和6年4月22日裁決)【主な争点】特定口座の源泉徴収口座内で保有されていた株式等の譲渡所得を確定申告するにあたって、概算取得費を取得費とすることができるか。【裁決の要旨】特定口座制度は、株式等の譲渡益課税について、平成15年1月1日以降、源泉分離選択課税制度が廃止され、申告分離課税に一本化されたことに伴い、申告分離課税になじみのなかった個人投資家の申告事務の負担軽減の観点から創設された制度である。特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、当該上場株式等の特定口座への受入れに係る記録を基礎として金融商品取引業者等が固有の計算方法により一元的に計算することが予定されており、租税特別措置法通達37の11の3-14《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例に関する取扱い等の準用》が、概算取得費による取得費を認める旨を定めた措置法通達37の10・37の11共-13《株式等の取得価額》を準用していないのは、特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算に当たり、概算取得費を取得費とすることを認めない趣旨であると解するのが相当である。審査請求人は、特定口座から一般口座への上場株式等の移管後に当該上場株式等を譲渡した場合には概算取得費を取得費とすることができること及び特定口座における株式等の譲渡と一般口座における株式等の譲渡とで負債利子の控除に関する取扱いが異なることは、適正公平な課税の実現等に照らして妥当でない旨主張するが、法令等の適用の結果にすぎない。【参照条文】所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》、第48条《有価証券の譲渡原価等の計算及びその評価の方法》所得税法施行令第118条《譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等》租税特別措置法(令和2年改正前)第37条の11《上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》、第37条の11の3《特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例》、第37条の11の4《特定口座内保管上場株式等の譲渡による所得等に対する源泉徴収等の特例》、第37条の11の5《確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得》租税特別措置法施行令(令和3年改正前)第25条の10の2《特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例》「租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」37の10・37の11共-13《株式等の取得価額》、37の11の3-14《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例に関する取扱い等の準用》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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