実務情報
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2025/04/25 経営レポート
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第18回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で、建設機械や建設機材のリース・レンタル業を営んでいます。一定の顧客基盤があり、従業員も100人強おります。毎年、新卒採用を若干名、その他、必要に応じて中途採用を行ってきました。基本新卒採用を中心にしてきたのですが、最近高卒の採用が難しくなり、大卒の採用について当たり外れも増えてきたように感じています。採用の方法について、どのようにすべきか悩んでいます。■どのような人材が必要か御社の顧客である建設業も人材不足、熟練職人の育成に悩んでいます。建設にかかわる周辺産業においても、人材不足は大きな問題となっています。御社の悩みは業界共通のものと言えるでしょう。人口減少社会においては、建設業全体で人材不足による廃業やM&Aが進行していきます。財務的に優良な中小企業であっても、人材が採用できないために、より経営基盤がしっかりした企業に売却するといった事例を目にすることが近年増えています。そのような経営環境において、生き残る顧客企業を見定めて、密なパイプを構築していき、市場シェアを向上していくことが御社の基本戦略となります。また、リース・レンタル業は一旦設備や資材を購入してからそれを貸し出す業態です。ある意味で金融業と似た部分があります。与信について意識が高い人材も必要です。高額設備のリースについては、保守・メンテナンスを高品質かつ安価にこなす人材も収益を確保するカギとなります。購入する設備や資材についての目利き力、商品知識を備えた人材も重要です。相対的に安価な軽仮設資材と高額な建設機械ではリースに関する考え方も異なっています。商材ごとの営業戦略を理解した人材も必要となります。建設業にかかわるICT機器・省エネ機器等のニーズも高まっており、ワンストップで多彩な商材を提案することも、顧客数が減少していく状況下では求められていきます。最後に顧客企業に対して商談のクロージングまでもっていく決定力が売上高確保には必要です。表1どのようなスキルが必要か1.顧客と密なパイプを構築できるコミュニケーション能力2.与信やリース・レンタルについての金融等の実務知識3.多彩な商品の保守・メンテナンスを高品質で遂行する能力4.商材ごとの営業戦略・商品を理解する能力5.ワンストップで顧客ニーズに合致した提案する力6.商談をクロージングする決定力表1に示されるようなスキルを新卒が保有していることは通常ありません。採用後に本人の適性を見ながら配属された職場で学んでいくことになります。最重要なのは、表1の1に示される「顧客と密なパイプを構築できるコミュニケーション能力」であり、そこに2~6の能力が付随していくことが望ましいと思われます。顧客企業のニーズを丁寧に聞き取り、顧客企業の責任者から「あなたが言うのだから信用する」という感覚を持っていただくことがビジネスの入り口となります。コミュニケーション能力は、「a.話す能力」のみならず「b.聞く能力」、さらには「c.顧客の顕在化されたニーズ、潜在的なニーズを理解する能力」で構成されます。ニーズに合致した提案を行い、クロージングする。そこまでの流れをフォローできる人材をどこの企業も欲しがっています。■最近の新卒の状況図1文科省による18歳人口の将来推計(出典)2022年以前は文部科学省「学校基本統計」、2023年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)(出生中位・死亡中位)」を元に作成図1に文科省による18歳人口の将来推計が示されています。今後、18歳人口は徐々に減少していきます。現在は、100万人強の18歳人口ですが、2024年の出生数は72万人で、外国人の出生数を除くと70万人を切っているとのことです。つまり、今でも厳しい高卒の採用が18年後には3割減るので、さらに厳しくなるのです。移民が社会問題化している欧州では、産婦人科で生まれるお子さんの半分以上が移民家庭となっている国、ムハンマド君が最も多い子どもの名前となった国もあるようです。いずれにせよ、高卒の人口は大幅に減り、大学の定員は減らないとすると進学率は向上し、定員に満たない部分は留学生で埋めることとなります。企業が留学生を受け入れする際にも試行錯誤を経験してノウハウを蓄積する必要がでてきます。今国会で高校の無償化という法案が通りました。先行してこの制度を運用している自治体の状況を見る限り、子供が減る中で私学に志願者が流れ、公立高校に学生が集まらなくなっています。公立の工業高校や商業高校といった実業系の学校が地方圏では維持できなくなる可能性も出てくるでしょう。工業高校から大学等への進学者も増えていくため、工業高校卒の中小企業による採用は、さらに難しくなっていくことは間違いないでしょう。大学学費の無償化を目指している政党もありますが、その政策が実現すると高卒就職する人はさらに減少していくでしょう。近年、通信制の高校卒業生の比率が少しずつですが増えています。この人たちの受け皿となる通信制大学も開学しています。そうなると、大卒といっても、自宅で勉強して大卒の資格を取得した学生を企業がどのように受け入れるかが問われてきます。このように、入学者や入試制度が多様化しています。昔は「A大学を出た学生ならこのぐらいの基礎があるだろう」と思って採用したなら、ある程度、推測が当たっていたかもしれません。しかし、しかし今や、大学入試の主戦場は秋までのAO入試、公募制推薦入試、指定校推薦入試等に移りつつあり、冬の一般入試に残っている受験生が減り続けています。年明けに行われる国公立大学を中心とする共通テストについても、年内に合格を出す私学との競合から、中堅国公立大学では、共通テスト前の年内に学生を確保しようとする流れが今後起きるといわれています。単純に学力で測るなら、一般入試や共通テストで高得点を取った人が優れているかもしれません。しかし、企業側は採用時に、どの入試制度で合格したかまで確認することは通常ありません。ある企業の人事責任者は地頭の良い人かどうかを把握するには、もはや「卒業高校」を見るしかないとおっしゃっていました。一方、高卒時の学力とは、「参照物を何も持ち込まずにテストを何点取れるか」ということです。一方、現在はインターネットやスマートフォンで情報を検索することができるので、従来型の記憶力の優れた人の社会におけるアドバンテージは昔に比べて下がっています。価値ある情報を見出す能力、収集した情報から正しい結論を導き出す能力、得た情報に基づき実行に移す能力の方が、社会に出てから価値が高くなる傾向があります。ただし、本当に優秀な人は、どのような入試制度であっても高得点を取り、社会でも通用しますが、そうした人は限られています。海外のエリート層と付き合う際には、教養等の幅広い能力が求められますが、そうした力を持つ人はさらに限られてきます。現実には、大学入試にスマートフォン持ち込みをOKとしただけで、学力の下克上がかなり起きます。もちろん、訓練が必要な数学・物理等の理系分野は、スマートフォンを持ち込んでも、その場で正答することは難しいですが。AO入試等ではディスカッションを行わせると、学生のコミュニケーション能力の一端が把握できます。企業の入社試験でも、グループディスカッションやディベートを取り入れる事例が増えています。一方、日本人は寡黙だが優秀な人が、特に技術者等では一定数おり、こうした試験方法では不利になることがあります。また、ビジネスにおいては、「話す能力」より、「聞く能力」が重要な場合が多いのですが、短時間のディスカッションでは「話す能力」を中心に判定することとなります。学生たちに「自分の長所」は何か、と質問すると「友達が多い」ことだと言う場合が多いです。一方、チームで何かを成し遂げる能力については、単に友達が多いと述べる学生より、運動部やボランティア活動で頑張ってきた学生等に「チームワーク」が身についている傾向が見られます。短時間の面接ではこの能力を判定することは難しいと言えるでしょう。友達が多いと自称する学生に、「友達の定義は?」、「困っているときに10万円貸してと言って貸してくれる友達は何人いるかな?」と聞くと、回答に詰まる場合が多いです。■中小企業の採用はどうあるべきか先日、自治体の人材採用について研究会を行ったのですが、ある中堅自治体では「尖っている人」を増やすという方針を打ち出していました。中堅クラスの自治体の予算規模は、中堅上場企業の売上と近い金額であり、企業に例えると大企業相当の組織と言えるでしょう。一方、筆者は大学の産学連携組織を数人で回していた時、「尖っているがチームワークをとることが苦手な人」がチームに加わっているという経験をしてきました。数人のチームのうち一人が尖っていると、産学連携が個人プレー主導に陥ることがあるのです。現在筆者が会長をしている一般社団法人首都圏産業活性化協会では、事務局に新しい人を採用するときに「チームワークを大切にする人」という条件を付けて、企業向けのサービスを協力して実施する体制を意識しています。特殊能力がある人を、外部の連携パートナーとしてご協力いただく方法で、今のところ「助け合って仕事が出来る」という環境が実現できています。もちろん尖っていてチームワークを取ることができる人が採用できれば理想的なのですが、尖っている人は長所と短所が両方とも大きいということがしばしばあります。100人の組織であれば、1人か2人尖った人がいることは有益ですが、数人以下の組織では、リーダーがしっかりしていないと、尖った人に能力を発揮してもらうマネジメントが実現できないことがあります。御社の場合、100人強のスタッフを抱えているので、尖った人を若干名抱えることが可能な規模です。しかし、そうした特殊な人をピラミッド型組織の最下層に置いておくといつの間にか周囲との不適合で、辞めてしまうことが多いです。社長直下の組織で仕事をしてもらうか、尖った人をマネジメントできる幹部の下に付けるという方法が一般的です。表1で述べたコミュニケーション能力が高い人材をどのように採用するかも重要なポイントです。先に述べたように、高卒や高専卒は、進学してしまう比率が高まり、昔のように中小企業による採用が難しくなっています。一流と言われる大学の技術系大学院卒は、大企業、一部の高賃金のベンチャー企業、外資系企業等に採用されていきます。中小企業は、そうしたピカピカの学生たちに入社してもらうことは難しいかもしれません。しかし、それでも優れた人材を抱えている中小企業事例を目にすることは多いです。それには、経営者が、人材に関心を持ち、手間と情熱をかけることです。コミュニケーション能力の高い人や、チームワークを大切にできる人を採用するには、30分から1時間の面接を行うだけでは不十分です。インターンシップを行うなどして、じっくりと見極めることが一つの方法です。実は、中途採用の場合、自分の知っている人を連れてくるのが最も確実な方法で、信頼できる知人の紹介で採用する方法もあります。また、先ほど述べたように、インターネットで情報検索することが許されるなら、一流といわれる大学の卒業生を打ち破ることのできるような「掘り出し物の人材」も偏差値的に下位の大学生に存在しています。こうした人材をどのように確保するかが中小企業経営者の腕の見せ所です。筆者のゼミ生でも、学内の成績は普通なのですが、好きなことに集中するとある部分は優秀という学生が毎年います。興味のあることに集中するとすごいのです。この学生が企業に面接に行くと、成績は普通で、雄弁に話すわけでもないかもしれません。こうした学生は「掘り出し物候補」なのですが、就活で苦戦する場合もあります。プロ野球で、育成契約という仕組みがあります。侍ジャパンの代表捕手を務める甲斐拓也選手やメジャーリーグで投手として活躍する千賀滉大選手は、通常のドラフトでは指名されないが見どころがあるということで、育成指名されたものです。ただし、スカウトが長年全国を歩き回り、手間暇をかけて、探した中で「掘り出し物」となったわけです。ある中小企業経営者は、定期的にいろいろな大学の研究室をこまめに回っています。時として、産学連携で大学と一緒に仕事をすることもあります。そうしたご縁で採用につながることもあります。日々、学生を見ている先生たちから「この学生は、ここは欠点だがここは長所だ」、あるいは「この男は、頭はよくないが,真面目で人柄が抜群に良い」という類の情報を得ているのです。私のゼミで、成績は普通、さらに口が重いので就活の面接で落ちてしまう学生がいたのですが、「この学生さんは、私が忙しそうにしていると、資料配りとかを頼みもしないのに自発的に手伝うんですよ」という話をしたら、製造業向きで採用したいということになりました。この間、採用後よくやっているとのご一報が社長様から来たところです。大手の人材会社に何百万円も使っているのに、応募学生が1人しかこなかった。こういう話を聞くこともあります。大手企業の人材募集支援サービスを使うのも悪いことではないのですが、それで成果が出ない場合は、正しい手間暇のかけ方を見出すことが重要と思われます。提供:税経システム研究所
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2025/04/24 会計レポート
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(22)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による開発時の取り組みを説明します。原価企画では、計画時の見積額から原価が大きく変動することがあり、企業が商品の目標原価を達成するためにコスト変動を可能な限り抑えることが求められます。以下では、同社のコスト変動管理で用いられる予備費について説明します。2.予備費の設定製品開発では不測の事態がしばしば起こりますので、開発機能単位ごとに割り付けられた目標原価の達成状況が芳しくないという時にどのように対処するかが原価管理で重要になります。例えば、品質トラブルに対処するため想定していた以上のコストがかかるようなことが相次いで起これば、その後の活動で余裕がなくなってしまい、最終的に商品の目標原価の達成が難しくなります。そればかりでなく、目標値と実績値との乖離があまりに大きくなることで、最悪の場合、目標原価自体が原価管理上の目標値としての意味をなさなくなる可能性もあります。このような課題に対して、同社のコスト変動管理では、予備費を用いて進捗状況に応じた管理が行われています。予備費は、商品の目標原価を費目ごとに分解する時に、将来見込まれるコスト増大への備えとして設定されます。「部品予備費」、「金型予備費」、「加工費予備費」を各費目の目標値とは別に確保し、各機能単位に割り付けます。部品予備費を例として、予備費の決め方を見てみます。同社では、過去の経験に基づいて、出図された図面に対して発生するコストの増大額と改善額の合計から、この先のコスト増大の予想額が算出されます。予備費の金額は、商品化会議の提案時に原価管理機能部門の設定基準として決められます。その後、各フェーズ移行提案時のコストレビューで確認されます。目標原価の達成活動中に生じるコスト変動に対して、開発機能単位の目標値を対象としたコスト変動管理を行います。この時、初めに設定した予備費の範囲で収まるように、コスト変動を管理します。この管理を量産製造の開始前まで行い、その時点で予備費に残額があれば商品の目標原価を達成したことになります。3.予備費の運用例図1コスト変動管理の組織体制出所:吉田・伊藤(2021,p.135)を基に作成。同社では、図1のような組織体制でコスト変動管理が行われています。コスト変動管理全体を開発商品QCD(Quality品質-Cost原価-Delivery納期)責任者が統括しており、その実行管理を原価推進責任者(注1)が各開発機能チームの設計リーダーと協力して行います。ここでは、予備費の基本的な運用方法を見ていきましょう。まず、開発商品QCD責任者の指示で使用可能な予備費の上限が決められます。これを基に、原価推進責任者が設計リーダーから申告されたコスト変動の予測額を積み上げ、予備費の範囲で収まるかを確認します(注2)。原価推進責任者は、申告されたコスト変動額が適正な水準に達していないと判断すると、申告してきた設計リーダーに対してより正確な見積りを求め、確認します。コスト変動のメニューや金額を原価推進責任者が集約することで、コスト変動額が大きい案件をタイムリーに捉え、変動内容を確認し、開発商品QCD責任者とともにコスト変動を最小限に抑えるための活動を進めることができます。また、コスト変動のメニューによっては、複数の分野をまたがる対応が必要になり、開発機能チーム間での調整が行われる可能性もあります。その時には、原価推進責任者の裁量で開発機能チームが活動しやすいように調整することもあります(注3)。なお、予備費には、不測の事態への備えとしての役割が求められているものの、必要以上に見積られてしまうことになれば、目標原価に対する設計チームの意識が希薄になり、士気の低下につながりかねません。そのため、同社でコスト変動管理を実行する時には、原価推進責任者を中心に、設計チームのモチベーションも考慮して予備費の運用状況をモニターすることが重要です。このようにして、同社では、活動の進捗状況に注意しつつ、コスト変動管理が継続的に行われています。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>原価推進責任者は、原価管理機能部門から任命され、目標原価達成の活動を推進するために下記の4つの役割を担っています。今回の記事で取り上げているのはこのうちの4にあたる役割です。原価企画の立案(原価条件、目標原価案の設定と細分割付、活動計画等)と、コストチームの編成。目標原価達成活動の進捗管理。商品の製造原価の算出、開発ステージ移行時のコストレビュー会での報告。コスト変動管理(開発期間中に発生するコスト変動のリスクを最小限に抑えるための管理活動)の推進。同社では、予備費の管理は家計簿管理とも言われています。上記のような原価推進責任者を中心に予備費を管理する方法の他に、開発機能チームで管理を行う方法もあります。この方法では、開発機能チームの設計リーダーに、コスト変動管理の予備費を割り付け、管理します。各開発機能チームは、自分たちのチームに与えられた目標値の範囲であれば予備費を柔軟に運用することができます。ただし、この方法では目標原価の数値と予備費の数値の両方を開発機能チームで扱うことになり、進捗管理において2つの目標値の識別が難しくなってしまうという問題もあります。提供:税経システム研究所
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2025/04/23 経営レポート
戦略的医療機関経営 その164
【サマリー】今回のレポートは、施設基準には届出のルールがある。ルールを正しく理解することは、届出後の適切な管理にもつながる。届出のルールと事例をご紹介する。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料、)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.施設基準の届出診療報酬の算定では、「施設基準を満たす必要がある項目」と「施設基準の要件がない項目」があります。さらに施設基準を満たす項目の中に、届出が「必要」な項目と「必要ない」項目があります。届出が必要な項目は必要書類を都道府県にある地方厚生(支)局(※)に提出します。提出しただけではなく、受理されて初めて診療報酬で算定できることになります。ただし、算定は月の最初の開庁日に届出すれば、当月1日から算定可能となりますが、届出日が開庁日の翌日以降になると、算定できる月が翌月からとなります。1日の違いが1か月の収入に影響することもあるので、届出日にも注意が必要です。※地方厚生(支)局地方厚生(支)局とは、厚生労働省の地方支分部局のことを指します。医療機関の所在地にある地方厚生(支)局に施設基準の届出は提出します。ちなみに、中国四国厚生局は、広島市に「本局」があり、高松市に「四国厚生支局」があります。そのため「地方厚生(支)局」に、(支)が入っています。3.届出の流れ(届出の流れは、基本診療料も特掲診療料も同じ流れになります)□算定可能な施設基準を確認自施設で算定可能な施設基準を確認します。この確認が医療機関の収入をあげるためには、最も重要です。ただ単に現在の状況で算定可能かどうかという確認だけではなく、現在の状況を改善すれば算定可能になるということまで範囲を広げて確認することがポイントです。具体的な施設基準の確認事項としては、施設基準の実績期間を満たしているかどうか(満たしていない場合は満たす見通しはあるのかどうか)の確認です。基本診療料では実績*が「1か月間」となっている項目が多いです。近年の項目ではこの実績が求められることが多いので、院内ですぐに実績の集計が可能な体制を日ごろから整えておくことが肝要です。※実績について基本診療では実績が1か月間となっている項目が多いと記述しました。ただし例外もあります。例外具体例)基本診療料4か月の実績:「精神科急性治療病棟入院料」「精神科救急急性期医療入院料」等6か月の実績:「回復期リハビリテーション病棟入院料1~4」1年間の実績「地域移行機能強化入院料」例外具体例)特掲診療料実績期間が1年間以外、それぞれの実績期間が定められている開放型病院の施設基準(届出前30日間の実績が必要)検査、画像診断の施設共同利用率、輸血、病理診断の割合等在宅、検査、手術等の年間実施件数等□厚生局に届出書を提出届出に必要な書類(※)を整えて、厚生局に届出書を提出します。書類を受け取った厚生局は、届出書や添付書類の内容を確認して施設基準の要件に照らし合わせて審査します。この要件審査は原則として2週間以内の期間を要します。遅くても提出から1か月以内には、届出の受理、不受理の連絡が医療機関にあります。施設基準の中には、院内掲示などが求められている事項もありますので、審査されている期間中に準備しておくとよいでしょう。※届出書類届出様式は、施設基準の項目ごとに定められています。さらに項目によっては届け出書類のほかに添付書類も準備しなければならない項目もあります。届出様式は地方厚生(支)局のホームページからダウンロードできます。□届出書の保管届出書の様式は項目ごとに定められていることが多いです。提出は1通ですが、必ず控えを取っておき、受理通知と一緒に適切に保管、管理しておきます。新しく届出した項目は、その後の適時調査などの外部監査の時に書類を確認されることが多いです。適時調査で届け出内容に不備があると、届出の変更や取り下げが指示されます。さらに指示後に指摘事項が改善されていなかった場合は、届出の受理が取り消されたり、6か月間届出ができなくなります。届出事項は、厚生(支)局のホームページで閲覧できます。届出書類は「行政文書」として管理され、情報開示の対象にもなります。一方で保健医療機関は院内掲示などで届出内容の情報を伝える義務があります。□届出の変更や取り下げ届出をしている施設基準の要件に適合しなくなった場合等には、届出の変更*や辞退の手続きを行います。もし、要件を満たしていない状態が続いているのにも関わらず、診療報酬を算定している場合、患者への返金を指示されることもあります。この返金は、要件を満たさなくなった時点までさかのぼりますので、多額の返金となるケースもあります。※届出の変更例外規定施設基準の要件を満たせなくなっても、一定の条件の範囲で一時的な変動が認められている施設基準もあります。例えば、「月平均夜勤時間数72時間以下」の基準では、3か月を超えない期間の1割以内の一時的変動が認められています。4.届出が不要なケース施設基準を満たすことは必須条件ですが、届出は不要なものもあります。具体的には3パターンに分かれます。いずれのパターンでも施設基準を満たしている根拠を示す書類や体制などを常に管理しておくことが必要です。施設基準の要件を満たしていればよい具体例)夜間・早朝等加算届出に関する事項:「夜間・早朝等加算の施設基準に係る取扱いについては、当該基準を満たしていればよく」と示されています。「当該基準」とは施設基準の要件を指します。他の項目の届出をおこなっていればよい具体例)認知症地域包括診療料届出に関する事項に「地域包括診療料1又は2の届出をおこなっていればよく・・・」と記載されています。ある項目を届出、受理されていた場合、すでに必要な要件は満たしていると認められているわけです。指定グループ内の1つの届出をしたら個別の届出は不要2024年度の診療報酬改定において、特掲診療料の中に、同じグループ内にある項目の1つを届出すれば、個別の届出が不要とされました。具体例)持続血糖測定器加算「次の(1)から(16)までに掲げているものについては、それぞれの点数のうちいずれか1つについて届出を行っていれば、当該届出を行った点数と同一の区分に属する点数も算定できるものであり、点数ごとに別々の届出を行う必要はない」5.他の項目の届出が必要他の項目の届出が、施設基準の要件になっている項目があります。具体例)データ提出加算データ提出加算の施設基準には、「診療録管理体制加算の届出を行っている保健医療機関であること」と明記されています。したがって、データ提出加算の前に診療録管理体制の届出を行う必要があります。診療録管理体制の施設基準が仮に満たせなくなった場合は、診療録管理体制加算の事態届と一緒にデータ提出加算の辞退届も提出しなければなりません。提供:税経システム研究所
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2025/04/21 審査事例
「代表者親族へ会社所有車を無償貸与」「代表者親族や知人の健康診断料を会社で負担」「代表者への現金交付を帳簿に記載していない」(一部取消し)
【裁決のポイント】国税通則法第68条第1項にいう「事実」を「隠蔽」するとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏することをいい、「事実」を「仮装」するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解される。本件の審査請求人は税務調査で指摘を受け、修正申告等に応じたが、(1)従業員ではない代表者親族が会社の車を無料で使っており使用料相当額の収入計上漏れがあった、(2)取締役(代表者の妻)の親族や知人に、労働安全衛生法上の義務として会社が従業員に受診させる健康診断を受診させ、福利厚生費として損金計上した、(3)現金不足の原因は代表者への現金交付であるが帳簿に記載しなかった、ことに「仮装・隠ぺい」があるとして重加算税が課されたことから、取消しを求めて審査請求を行った。国税審判所は、(1)使用料相当額がないことが真実であるかのように装ったとはいえない、(2)請求人の従業員のための健康診断その他必要な費用であるかのように装って帳簿書類に記載したといえる、(3)源泉徴収の対象となる代表者への賞与に該当する支払い事実を隠した、と判断して、(1)について課された重加算税の賦課決定処分を取消した事例である。(平成29年5月期から令和3年5月期までの各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分、平成27年5月他の各月分の源泉徴収に係る所得税等の重加算税の各賦課決定処分他・一部取消し、棄却・令和5年6月1日裁決(非公開))【主な争点】審査請求人に、重加算税を課す「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められるか。【裁決の要旨】(1)本件使用料相当額の計上漏れについて審査請求人と本件使用者(代表者親族)又はA取締役(代表者の妻)との間では本件使用者が本件車両を使用する合意があった一方で、その使用に伴う使用料について何ら具体的な取り決めをしていなかったと認められるから、本件車両は無償で貸借されていたと認められるものの、それ以上に、審査請求人が本件使用料相当額を収入として計上しなければならないことを認識しながら、あえて使用料について取り決めをせずに貸与し、本件使用料相当額の請求やその収入計上を行わなかったとまでは認める証拠はない。審査請求人には、本件使用料相当額を隠蔽し、あるいは故意に脱漏するといったことや、あたかも、本件使用料相当額がないことが真実であるかのように装うといったことがあったとはいえないから、審査請求人に「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。(2)本件健康診断料について事業者たる審査請求人に義務付けられている健康診断の対象は、その使用する労働者すなわち審査請求人の従業員である。審査請求人が、従業員ではない者らを請求人が健康診断を受診させる必要がある従業員であるかのように装って、健康診断を受診させた上、その費用である本件健康診断料について、審査請求人が負担すべき従業員のための健康診断その他必要な費用であるかのように装って帳簿書類に記載したものといえるから、審査請求人には、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。(3)本件現金不足額について審査請求人は、長年にわたり事業を営み、代表者も長年にわたり務めていたのであるから、審査請求人の現金を代表者に交付をする際は帳簿書類に記録をすべきであることは、当然認識していたはずであるところ、代表者に現金を交付した事実を帳簿書類に記録せず、残存しない現金を帳簿書類に載せ続けることで代表者に対する給与等の支払の事実を隠蔽したといえるから、審査請求人には、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる(源泉所得税への重加算税)。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/18 商事法レポート
理事長の不祥事と大学ガバナンス改革の行方
1はじめに私立医大の不祥事が、また世間の注目を集めています。新校舎建設のアドバイザー業務に関連して、大学トップである元理事長が、理事会で強く推薦した建築士に対し、大学が支出した資金を自身に還流させたという背任容疑で、2025年1月、逮捕されました。同年2月には、別の工事でも不正に資金を流出させて大学に損害を与えたとして、再逮捕されています。立件額は、計2億8700万円に及びます。元理事長は、当該建築士へ過大な報酬を支払う内容の稟議書を大学の理事会で承認させていたようです。背景には、私立学校法(「私学法」といいます。)が理事長などの不正に対して十分な抑止力となっていなかった問題がある、といわれています。現行私学法の下では、学校法人の自主性を重視して、ガバナンスの仕組みを大学が運営規則等で定めることができるため、多くの私大では理事会に権限が集中し、理事会に意見する立場の評議員も理事との兼務が多く監視機能は弱かった、と指摘されています(注1)私立大学のガバナンスを規律する法律である私学法は、ガバナンスを強化する方向で令和5(2023)年4月に改正されましたが、その施行は、2025年4月からとされており(注2)、事件当時は、まだ適用されていません。改正された私学法(「改正私学法」といいます。)は、今回の事件のような私大トップの暴走を防ぐことができるのでしょうか。2従来の私立大学のガバナンス私立大学の必須のガバナンス機関には、理事会、理事長、評議員会および監事があります。令和5年改正前の私学法(「旧私学法」といいます。)では、どのような機関だったのでしょうか(図1参照)。旧私学法の下では、学校法人には、役員として、理事5人以上と監事2人以上が必要で、理事のうち1人は寄附行為(注3)の定めるところにより理事長となる、とされていました(旧私学法35条1項・2項)。そして、理事を構成員とする理事会が、学校法人の業務を決し、理事の職務の執行を監督する(同法36条2項)一方で、理事長は学校法人を代表し、その業務を総理すると定められ(同法37条1項)、理事会の議長も理事長が務め、キャスティングボードも握っていました(同法36条4項・6項)。理事長を除く理事は、寄附行為の定めにより、学校法人を代表し、理事長を補佐して学校法人の業務を掌理し、理事長に事故あるときはその職務を代理し、理事長が欠けたときはその職務を行う(同法37条2項)、とされ、理事会は、理事の職務の執行を監督すると規定されていたものの、理事達は理事長を監督する機関の構成員として明確に位置づけられていなかったようにも見受けられます。評議員は、寄附行為の定めにより、①法人の職員、②卒業生で25歳以上の者、③その他の者のうちから選任された者で構成され、①の評議員は退職すると評議員の職も失います(同法44条)。前述のように、評議員は役員とは位置づけられていません。評議員会は、理事の定数の2倍を超える数の評議員で組織され、理事長に招集権限がありますが(同法41条2項・3項)、評議員総数の3分の1以上の評議員から議題を示して招集を請求された場合、理事長は評議員会を招集しなければなりません(同法41条5項)。とはいえ、評議員会は諮問機関であり、理事長は、予算・事業計画、事業に関する中期計画、借入金および重要な資産の処分に関する事項、役員の報酬等の支給基準などの法定事項や寄附行為で定める業務に関する重要事項について、予め評議員会の意見を聴くことを要し(同法42条1項)、寄附行為により、これらを評議員会の決議事項とすることもできる、とされていました(同法42条2項)。監事は、学校法人の業務、財産状況、理事の業務執行の状況を監査する学校法人の監査機関です(同法37条3項1号~3号)。理事の業務執行状況の監査は、令和元(2019)年改正により、監事の職務に加えられました。他方、監事の選任は、評議員会の同意を得て、理事長が行う(同法38条4項)とされ、また監事の選任方法については寄附行為その他の規程で定める(同法30条1項5号)必要がありました。監事は、理事、評議員または学校法人職員との兼務を禁止されます(同法39条)。実際には、理事会が監事の候補者を決定し、評議員会の同意を得た後、理事長がその候補者を監事に選任することが多いといわれています(注4)。理事会や理事長は、監事に監査される側ですから、監査される側の理事長が監事を選任するという選任方法には、問題があると指摘されていました。【図1:旧私学法における機関の相互関係】旧私学法は令和元年に改正された法律ですが、その施行後も、巨大私学の理事長の暴走や理事会の機能不全を示す事件が発生したこと等を受けて、同法の改正が再度検討され、令和5年改正私学法の成立に至ります。改正私学法の基本的な考え方は、理事会・評議員会・監事の間で、監視・監督の役割を明確化し、建設的な協働(複層的な仕組み)によって、不祥事防止の機能強化を図る、というものです。3改正私学法における私立大学のガバナンスでは、改正私学法では、3つのガバナンス機関はどのようなものになったのでしょうか(図2参照)。【図2:改正私学法における機関の相互関係】(1)理事・理事長・理事会改正私学法は、理事の選任については、「理事選任機関」を寄附行為で定めることとし、理事選任機関は、理事の選任に当たってはあらかじめ評議員会の意見を聴くとしています(改正私学法29条・30条2項)。理事と監事・評議員との兼任は禁止し(同法31条3項)、理事の解任も、寄附行為の定めるところにより、理事選任機関が行います(同法33条1項)。理事の任期は寄附行為で定めますが、上限は4年で、評議員・監事の任期を超えないものとされています(同法32条1・2項)。理事の中には、外部理事1名以上(同法31条4項)、大臣所轄学校法人等では外部理事2名以上(146条1項)の選任が必要で、外部理事は、株式会社における社外取締役に相当するものと考えられます。理事選任機関は理事の選任・解任を行う常設の機関とされており、理事選任機関を評議員会とする私立大学も多いのではないかと思われます。また、理事長の選定・解職は、理事会で行いますが(同法37条)、実質的には、理事選任機関が、理事長となる想定で特定の者を理事に選任することになるでしょう。代表業務執行理事や業務執行理事についても、理事選任機関が、理事を選ぶ段階から代表業務執行理事等になることを想定して、特定の者を理事に選任するのではないかと思われます。改正私学法上の理事会は、学校法人の業務を決定し業務執行理事等による業務の執行を監督する機関とされ(同法36条2項1号・2号)、株式会社の取締役会との類似性を強めています。理事会は重要な業務の決定を理事に委任できない、とされ(同法36条3項)、大臣所轄学校法人等では、理事には年4回以上の理事会への報告(同法146条2項)が義務づけられています。さらに、重要な業務の決定の一部については、評議員会の意見を聴くものとされており(36条4項)、大臣所轄学校法人等では、寄附行為の変更、任意解散および合併の決定は、評議員会の決議がなければ効力を生じません(同法150条)。このように、部分的には、評議員会に株主総会に相当する決定権限が与えられており、寄附行為で評議員会を理事選任機関と定めれば、株主総会との類似性がさらに高まります。(2)評議員・評議員会このように重要性を増している評議員会について、改正私学法は、「諮問機関」である評議員会のチェック機能を高める方向で改正を行っています。まず、評議員の選任は、寄附行為の定めにより大学の自治に委ねられますが、「教育又は研究の特性を理解し、学校法人の適正な運営に必要な識見を有する者」から、「年齢、性別、職業等に著しい偏りが生じないように配慮して」行わなければならず(同法61条1項・2項)、任期は6年以内(同法63条1項)、また、評議員は6人以上、理事は5人以上とした上で、寄附行為の定めにより評議員の定数が常に理事の定数を超えること(同法18条3項)を求めています。また、理事・理事会が選任する評議員の割合や、評議員の総数に占める役員近親者や教職員等の割合に上限を設け、理事・理事会が選任する評議員は評議員総数の1/2以内、職員評議員は1/3以内に制限し、また役員・評議員の特別利害関係者は評議員総数の1/6以内、特定の評議員と特別利害関係のある評議員は1名以内としています(同法62条4項・5項1号・2号・3号)。従来、いわゆる総合大学等では、各学部の学部長等が評議員になる、という大学もありましたが、このような選任方法は、教職員評議員を評議員総数の1/3以内とする改正私学法との関係で、難しくなるかと思われます。評議員会は「諮問機関」という位置づけを維持しつつ、大臣所轄学校法人等では、重要な寄付行為の変更・任意解散・合併には、理事会と評議員会の決議を要求しており(同法36条3項、150条)、いずれかが反対すれば決定できません。また、役員・評議員・会計監査人の責任免除等には、評議員会の責任免除等の決議が必要です(同法88条・91条・92条)。さらに、評議員会は、理事選任機関が機能しない場合には、理事の解任を理事選任機関に求め、監事が機能しない場合に理事の行為の差止請求・責任追及(同法33条2項、67条、140条)を求める機関ともされていて、単なる諮問機関の枠を超えて、監視・監督機関としての補助的な役割も担っています。(3)監事監事の独立性確保のために、監事の選任・解任は、寄附行為の定めにより評議員会の決議によることとし(同法45条1項、48条1項)、他方で、資格(欠格事由)を法定し、任期も上限6年と定め(同法46条1項、47条)、理事との兼任に加え、評議員や職員等との兼任、特別利害関係者(他の監事・2人以上の評議員の特別利害関係者)の就任を禁止しました(同法46条2・3項)。さらに、大臣所轄学校法人等のうち、所定の基準(収入100億円または負債200億円以上)を満たす法人には常勤監事の選任、また、大臣所轄学校法人等には、理事会に内部統制体制の整備が義務付けられています(同法145条1項、148条1項、36条3項5号)。他にも、大臣所轄学校法人等では、会計監査人の設置義務づけ、会計監査人と監事の連携(同法144条、86条2項)、中期事業計画の作成や財務情報等の一般公開が義務づけられました(同法148条2項、149条1項・2項)。4大学トップの暴走を阻止しうるガバナンス体制の構築に向けて今回逮捕された理事長は、理事会に虚偽の稟議書を提出し「他の人に頼むより安く済む」と訴えたところ、出席理事から異論は出ず、報酬額の根拠や業務内容を精査することなく当該建築士への依頼が決まった、と報じられていて、理事長による事実上のワンマン経営で理事会は反論できる雰囲気ではなかった、との大学幹部の証言もあるようです(注5)。2024年11月に公表された同大学の「私立大学ガバナンス・コード」遵守状況報告書には、「理事長が絶対的な権力を保持し、他の理事は追従せざるを得ず、監督機能が形骸化していた。理事長は法務担当理事を兼務し内部監査室は理事長直轄となっていたため、理事長に対する疑義があっても、その報告は法人内で躊躇され、内部チェック機能は十分に働いていなかった。更に、理事長は財務担当理事(本学では経営統括理事のこと)を兼務していたため、経営統括部に権力が集中して他部署によるけん制機能は働いていなかった。」との記載(注6)があります。旧私学法の下でも、図1のように、理事会には学外者(役員・職員でない者)が必要でしたが、理事の大半を学校法人の職員とすることも可能で、そうした職員理事には、学内の人事権を掌握する理事長に対して、けん制機能を果たせないリスクがありました。改正私学法は、評議員と理事の兼任を禁止し、職員評議員の上限を3分の1にするなど、評議員会の理事・理事長からの独立性を高めた上で、評議員に理事の解任請求権等を与えて理事長の暴走に対する歯止めとなることを期待しています。しかしながら、実際の理事会や評議員会自体が不活発では、ガバナンスの向上につながりません。評議員会が年1回の定時評議員会だけでは、評議員が得られる情報も限られますし、大学ガバナンスに対する関心も高まりません。令和5年改正の際の衆議院文部科学委員会の附帯決議(2023年3月22日)でも、学校法人ガバナンスの強化には、理事会・評議員会の活性化が重要であることを踏まえ、理事会・評議員会を理事および評議員の出席のもと定期的に開催するなどの工夫により、積極的に意見交換するよう周知すること等が挙げられています。年4回の開催が義務づけられた理事会についても、学外理事等に対して議題に関する事前説明の機会を設ける、学外理事と評議員・監事との情報交換の会合を定期的に開催するといった、上場会社の社外役員について活用されている実務を取り入れることも、有益でしょう。また、例えば、日本私大連盟の私立大学ガバナンス・コード1.1には、重点項目3-2「ガバナンスを担保する内部チェック機能を高めるため、有効な内部統制体制の確立を図る。」と、更に具体的な実施項目が設けられています。コードの形式的な遵守に陥ることなく、私立大学ガバナンス・コードの求めに真摯に対応していくこと、そうした積み重ねが重要であると考えられます。<注釈>例えば、2025年1月15日付け日本経済新聞朝刊35面。令和5年改正私学法の施行日は、令和7(2025)年4月1日とされていますが、評議員構成等については経過措置が設けられており、理事と評議員の兼職は、令和7年度の最初の定時評議員会終結の時を解消の時点とし、評議員会の構成等については、大臣所轄学校法人等では、令和8年度の最初の定時評議員会の時までに対応を行うものとされています。私立大学は大臣所轄学校法人です。学校法人の寄附行為とは、株式会社の定款と同様に、各法人の組織・運営・管理のあり方について定める根本規則です。私学法は、所定の事項について、各法人の寄附行為に定めることを求めています。監事監査研究会『私学法改正で変わる監事監査の研究』(学校経理研究会、2019年)11頁。2025年1月21日付日本経済新聞朝刊38面。これは、遵守原則3-2「会員法人は、~役職者の選解任過程等に関する透明性の確保を通じて、理事会による理事の職務の執行監督機能の実質化を図るとともに、大学で起こり得る利益相反~の防止のために必要とされる制度整備を行い、実行する。」に関する記載です。https://twmu.ac.jp/doc/about/twmu_governance_code_2023.pdf提供:税経システム研究所
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2025/04/17 会計レポート
IFRS第 18号「財務諸表における表示及び開示」 (7)
本レポートでは、IASBより2024年4月に公表された会計基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示(PresentationandDisclosureinFinancialStatements)」(以下、IFRS18といいます)について解説をしてきました。IFRS18は従来のIAS1「財務諸表の表示(PresentationofFinancialStatements)」を置き換えるものであり、IFRS18の適用は2027年1月1日と規定されていますが、それより前の早期適用も認められています(注1)。IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものであり、国際会計基準を任意適用している日本企業にも影響を与えることとなります。今回は、これまで確認をしてきた損益計算書のポイント等について、その全体を簡潔に纏めて、本レポートの最後としたいと思います。5.損益計算書のポイント(了)下記の損益計算書は、以前のレポート「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(1)」において示した、IFRS18における損益計算書の様式に、①~⑥の吹き出し(▢)等を加えたものになります。①~⑥は、これまでのレポートに対応していますので、より詳細な事項については、そちらを御確認下さい。■損益計算書(Statementofprofitorloss)(注2)①カテゴリーIFRS18における損益計算書は、大枠として、営業、投資、財務という3つのカテゴリーに区分されます。ただし、これら3つのカテゴリーの名称自体が損益計算書に表示されるわけではありません。②営業のカテゴリー営業のカテゴリーは直接的には定義されておらず、投資と財務のカテゴリーに含まれないものが営業のカテゴリーに入ることとなります。そのため、日本の損益計算書における特別損益項目については、営業のカテゴリーに入ることとなります。国際会計基準では、日本の損益計算書にみられるような特別損益に係る区分自体がない、ということに注意する必要があります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。③持分法に関連する投資損益日本の損益計算書では、持分法による投資損益は営業外損益の区分に表示されます。IFRS18では、投資のカテゴリーに表示されることとなります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。④追加的な小計IFRS18では、追加的な小計というものが示されています。これは、「有用な体系化された要約」を表すものであるとされています。何が追加的な小計になるのかについては、企業の判断が入ることになると考えられます。本レポートで示している損益計算書の雛形において赤文字で示されているものは、あくまでもその例示ではありますが、判断をするうえでの参考になるでしょう。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(3)」をご確認ください。⑤「その他」の表示IFRS18では、「その他」の表示が限定されています。そのため、「その他」の中身をよく検討して、可能な限り、その中身にふさわしい名称で表示する必要があります。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(5)」をご確認ください。⑥為替差額IFRS18では、為替差額が発生することとなった元々の項目の属性に従って、その為替差額が損益計算書のどのカテゴリーに表示されるのかが決定されます。その例として、売掛金から発生した為替差額は営業のカテゴリーに、借入金から発生した為替差額は財務カテゴリーに表示されることが示されていました。詳しくは「IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(6)」をご確認ください。*****以上のように、IFRS18における損益計算書は日本の損益計算書とは異なる箇所が多々あります。財務諸表の作成者は十分に準備をする必要があり、また、財務諸表の利用者もポイントをよく理解しておく必要があるでしょう。本レポートが、その一助になれば幸いです。<注釈>PrimaryFinancialStatements,FinalStage[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#final-stage](accessedon2024/11/18)PrimaryFinancialStatements,Publisheddocuments「EffectsAnalysis:IFRS18PresentationandDisclosureinFinancialStatements」p.16[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#published-documents](accessedon2024/11/18)*上記ファイル自体のURLは以下[https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/amendments/english/2024/effect-analysis-ifrs18-april2024.pdf](accessedon2024/11/18)提供:税経システム研究所
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2025/04/14 審査事例
「偽りその他不正な行為」の要件も満たすとして、7年分について重加算税の処分がなされた事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告を依頼した者による隠ぺい・仮装行為について、納税者がどこまで責任を負うべきかは、納税者とその者との関係、隠ぺい・仮装行為に対する納税者の認識の可能性、納税者の黙認の有無、納税者の払った注意の程度などに照らして、事案ごとに判断される。本件は、P法人の理事長である審査請求人の母が、審査請求人がP法人に寄附をしたという内容虚偽の領収書を作成して審査請求人に寄附金控除を適用して行った所得税申告について、税務署が、母の仮装行為は審査請求人の仮装行為と認められるとして重加算税を課し、その処分の対象期間を通常の5年分でなく7年分とさらに重くしたことから、審査請求人は、母の長年の勘違いで悪意はなかった等と主張した。国税不服審判所は、税務署の処分を適法と判断した事例である。(平成26年分及び平成27年分の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、平成28年分ないし令和2年分の重加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年2月1日(非公開))【主な争点】(争点1)審査請求人に重加算税が課される「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか(国税通則法第68条第1項)、(争点2)審査請求人に更正決定等をすることができる期間を7年にできる「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか(国税通則法第70条第5項)。【裁決の要旨】(争点1)母が内容虚偽の本件各領収書を作成したことは、審査請求人があたかも、本件各年分においてP法人に対し寄附金を支出し、それをP法人が受領したことが真実であるかのように装い、故意に事実をわい曲したもので、「仮装」行為に該当する。審査請求人は、母に対し、本件各年分の所得税等の確定申告について、各確定申告書の作成及び提出を委任していたことから、母の行為は、審査請求人の行為と認められる。母は、(借入金によってP法人に寄附をした父の借入金返済を審査請求人が実質的に負担しているからと)単純な間違いを長年繰り返していたものであり、悪意があって作成したものではないという審査請求人の主張には理由がない。(争点2)国税通則法第70条第5項は、偽りその他不正の行為によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合にこれに対して適正な課税を行うことができるよう、より長期の除斥期間(この期間を過ぎると処分ができない)を規定したものであり、同項にいう「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解される。審査請求人の行為は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為と認められ、「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえる。【参照条文】国税通則法第68条《重加算税》、第70条《国税の更正、決定等の期間制限》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/07 審査事例
権限なく行われた申告であるが、納税者本人が追認したと認められるから、当該申告は有効と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告は、原則として納税義務者本人が申告書を提出して行うこととされているから(国税通則法第17条等)、他人が、本人の承諾なく納税義務者の申告書を作成し、提出した場合には、その納税申告は無効である。もっとも、その他人が、本人から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合、また民法第113条《無権代理》第1項より、本人が当該納税申告を追認した場合には、当該納税申告は有効になると解される。本件の審査請求人は、知人Aから仕事の登録に必要であると言われ、銀行情報や個人情報を渡すと、Aは国税庁HPの申告書作成コーナーから審査請求人の5年分の所得税還付申告書を作成して提出し、振り込まれた還付金を自分の口座へ移した。審査請求人は税務署から還付金振込通知書が届いた時にAに異議を述べることも、税務署へ問い合わせすることもなく放置したが、税務調査を受け、修正申告をしなかったために更正処分、過少申告加算税賦課決定処分がなされたので、他人によるなりすましの納税申告は無効であると主張して処分の取消しを求めた。国税不服審判所は、審査請求人はAに明示又は黙示に各申告をする権限を与えられていたとは認められないが、各申告を黙示に追認していたと認められるから、各申告は有効となり、税務署長の《更正》の前提となる「納税申告書の提出があった場合」に該当すると判断した。(平成28年分から令和2年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・令和6年4月15日裁決)【主な争点】知人Aによる本件各申告書の提出は、有効で、国税通則法第24条《更正》に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当するか。【裁決の要旨】1)Aに対する明示の権限の授与があったか本件各申告に関して、審査請求人とAとの間で何らかのやり取りがされていたことを示す証拠は見当たらないから、認めることはできない。2)Aに対する黙示の権限の授与があったか審査請求人が、当初から申告に利用されることを知ったうえで、審査請求人名義の預金口座の利用や本人確認書類として運転免許証の写真撮影を許諾したと認めることはできない。3)Aの申告を事後的に容認、追認していたか審査請求人が本件各申告書の提出を知った時期は、その主張どおり、還付金振込通知書を受領した時及び調査担当職員による質問検査の時であると認められる。しかし、還付金振込通知書を受け取り、不正に還付金を受領することになることも認識していたにもかかわらず、原処分庁に問い合わせず、Aに異議を述べずに事態を放置したこと、父の指示を受けるまで預金口座を解約しなかったことは、審査請求人が、Aによる本件各申告について、事後的に容認していたことを示すものであるということができる。審査請求人がAに対し明示又は黙示に本件各申告をする権限を与えていたとは認められないが、審査請求人は、権限なくされたAによる本件各申告を本件各申告書が提出された後に追認したといえるから、本件各申告は有効となり、Aによる本件各申告書の提出は、国税通則法第24条《更正》に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当する。警察に相談した事実は納税申告の追認より後であるから、追認があったとの認定を覆すまでの事情でもない。【参照条文】国税通則法第17条《期限内申告》、第24条《更正》、第65条《過少申告加算税》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/04/04 商事法レポート
アメリカの政権交代によるDEI政策に対する国際的な影響
1.はじめに本稿でいうDEIとは、diversity(ダイバーシティ:多様性)、equity(エクイティ:公平性)、inclusion(インクルージョン:包摂性)の頭文字をとった用語です。社会の進歩と発展に資する重要な要素とされ、多くの企業・団体が推進してきました。さらにbelonging(ビロンギング:帰属意識)を加えDEIBとして推進する企業・団体もあります。重複する目標を掲げるMDGs(MillenniumDevelopmentGoals)やSDGs(SustainableDevelopmentGoals)の影響、コーポレートガバナンス・コードの影響などから、ヨーロッパ諸国や日本は、現在は概ねDEI政策に国・企業とも前向きな姿勢です。アメリカも2021年からのバイデン政権下では政府がDEI政策に前向きな姿勢を示し、その影響もあって企業も概ねDEI政策に前向きな動向が目立ちました。しかし、2025年からの第二次トランプ政権は、その誕生後、次々とバイデン政権下の政策を覆し、反DEI政策を打ち出した為、その政治的影響や自発的な反DEI活動の増加などに対する懸念から、アメリカ企業のみならず、他国の企業にも反DEIないしDEIに消極的な姿勢に転じる企業が増えてきました。本稿では、こうした事例を紹介し、今後の国内・国際状況について分析します。2.2024年頃までのDEI政策推進の動きDEIと重複する目標を掲げるのがMDGsとそれに続くSDGsです。2000年に国連で採択されたMDGsでは、約140ヵ国が参加し、①極度の貧困や飢餓の撲滅、②普遍的な初等教育の普及、③ジェンダー平等の推進と女性の地位向上、④幼児死亡率の引き下げ、⑤妊産婦の健康状態の改善、⑥HIVエイズ・マラリア・その他の疫病の蔓延防止、⑦環境の持続可能性の確保、⑧開発のためのグローバル・パートナーシップの構築といった8つの目標を掲げ、2015年の期限までにそれなりの結果を残しました。そのMDGsの終了後の2015年に国連で採択されたSDGsでは参加国を150超に増やし、MDGsの目標をさらに細分化した17のゴール及び169のターゲットが掲げられました。また、SDGsは全ての国が取り組むという普遍性、誰一人取り残さないという包摂性、全てのステークホルダーが取り組むという参画型、社会・経済・環境に統合的に取り組むという統合性、その取組み・成果を定期的にフォローアップするという透明性を前面に打ち出しました。イギリスやOECD(organizationforEconomicCooperationandDevelopment:経済協力開発機構)を経て、2015年6月にわが国の上場会社に採用された東京証券取引所及び金融庁作成によるコーポレートガバナンス・コードにもMDGs・SDGsの目標やDEI政策と重複する部分が多くみられます。もともとコーポレートガバナンス・コードには、MDGsの目標とも重複する公共的規定が多くみられましたが、2021年6月の改定によりさらにSDGsの概念を意識した規定が多く盛り込まれました。コーポレートガバナンス・コードは、原則2-4において、女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保を求めています。こうした動きを受け、上場会社では女性取締役を選任する動きが盛んになりました(注1)。一方、アメリカにおいては、2017年頃にTV・映画業界、その他の企業などおいて次々とセクハラ問題が告発されたことから、女性の地位向上や働き甲斐の問題がクローズアップされる時期がありました(注2)。さらに、アメリカでの2012年の黒人少年射殺事件、白人警官による2014年の黒人射殺事件及び2020年の黒人暴行死事件等を受け、構造的な黒人差別の解消を求めるBLM(BlackLivesMatter)運動が盛んになり、デモの多発や大統領選を巻き込む全米的な動きがありました(注3)。こうした動きが、DEI政策に積極的であった2020年の大統領選挙でのバイデン大統領の誕生につながったという見方もあります(一方、2020年大統領選挙では負けたものの反トランプ票は増えていない為、こうした見方を否定する見解もあります)。いずれにしても2021年からのバイデン政権はDEI政策に積極的であり、同政権下のアメリカでは、SDGs推進やDEI政策はともに社会的に良いことであるという風潮が全米的に強くなりました。こうした風潮下において、アメリカの映画・TV業界において、様々な人種・性的指向の問題を前面に出す作品の増加、女性監督の積極的起用や多様な人種のスタッフ増加政策、米映画芸術科学アカデミー(AcademyofMotionPictureandSciences:AMPAS)の投票会員の非白人及び外国人比率の増加、多様な人種政策を意識したディズニー映画の増加、外国映画のアカデミー作品賞の受賞、NETFLIXの非英語作品の増加などがありました。特に、AMPASが2020年、アカデミー作品賞の新しい選考基準を2024年から設け、主な出演者にマイノリティーを起用するか、出演者やスタッフの30%以上にマイノリティーを起用するなど、4つの基準のうち少なくとも2つを満たすこととしたことは、かつてのアカデミー賞の「白すぎる」状態などの反動であるともいわれています(注4)。また、米国の大学入試や企業採用で女性や人種的少数者を優遇するアファーマティブ・アクション(AffirmativeAction)も増加しました。さらに、2012年の女性暴行死事件(注5)で、世界的に女性軽視が問題視されたインドにおいては、インド会社法で上場会社(listedpubliccompany)及び資本・売上規模の大きい公開会社(publiccompany)に女性の取締役を1名以上選任することを義務付けるなど、女性の地位向上の政策を採る国々も増加しており、わが国でも①男女の人権の尊重、②社会における制度又は慣行についての配慮、③政策等の立案及び決定への共同参画、④家庭生活における活動と他の活動の両立、⑤国際的協調の5つを基本理念として、1999年6月「男女共同参画社会基本法」が制定・施行され、2000年12月12日には、同法に基づいた男女共同参画基本計画が閣議決定されました(注6)。3.DEI政策に生じる問題イギリスにおいて生産性の高いジャガイモの単一品種栽培に偏った動きが、病気により一気に不作となる事態をもたらしたという生物学的事例や、台湾における檳榔の栽培の増加による根が強い樹木・植物の伐採が土砂崩れの多発を引き起こした等の環境的事例などから、SDGs等で生物の多様性が重視されることがありますが、これはあくまで人間の都合や環境保護からの多様性の確保の問題です。その一方で、その地域の固有種を守るための外来種の駆逐や種を認識しないイワナの放流が行われた結果の混血種の増加を嘆く声もあります。一方、ここでいうDEI政策における多様性や公共性の確保というのは、人の差別の撤廃を目指すものです。人類の約半分を占める女性が男性と同様の社会進出・社会的地位・経済力を与えられることや、人種や同性愛・性同一性障害・性的指向不確定者といった性的マイノリティー(以下、lesbian,gay,bisexual,transgender,questioningの頭文字をとったLGBTQと表記します)に対する差別撤廃は、成熟した社会の理想であるといわれますが、思想的・宗教的見解の違いを無視した多様性の価値観の押し付け、ある者の理想が他の者の理想を駆逐するという状況は、現状ではその地域の公共性とは相容れない場合もあります。また、その是正策にアファーマティブ・アクションが用いられることがありますが、これが社会的資源(入学・就職・資格取得・昇進・地位・経済力など)獲得の機会を政策的に救済する平等政策であることから、対象者として弱者のレッテルが貼られる危険性(偏見、スティグマ)、弱者同士の勢力争い(機会獲得闘争)、その時点までの個人の努力や才能を顧みない実質的不平等などの問題を含んでいます。他国ではまだまだ女性の教育の機会が男性よりはるかに劣ることも多いのですが、日本の大学院生数に限るともはや女性の方が多いという状況もあります。男女の問題はこうした教育のチャンスの違いだけではなく、性差の問題もあります。現状では出産は女性しかできず、その時期の出産・育児休業や休職等による経年・経験等の差異で地位・経済力の差が起きている場合もあります。こうした部分を無視した単に女性の枠を埋めるだけの平等政策は、男性や既に実力で男性と同等の社会的地位・経済力を得ている女性への逆差別になる場合があります。また、社会的地位や経済力が全ての人にとって絶対的な価値観とはいえず、全ての女性にも男性同様の社会的資源の獲得を促すという政策も価値観の押し付けであり、非婚姻化・少子化・家族で過ごす時間の減少をもたらす要因でもあります。適材適所能力主義や家族生活等に価値を見出す人達の反発は避けられないものです。さらに人種間の差別撤廃は複雑です。アメリカにおけるアファーマティブ・アクションは、かつて奴隷等の被差別者の歴史があり、1960年代には国民の10%程度を占めるに過ぎなかった黒人や虐げられたインディアンをルーツに持つ者に社会的資源の獲得の機会の増加をはかる政策でしたが、その後の様々な移民・人種の流入により、その人種の占有率や勢力が大きく変化し、様々な問題を引き起こし、訴訟も提起される事態となっています。アメリカの大学等におけるアファーマティブ・アクションは、社会的資源獲得のハードルが高かった黒人やヒスパニックを対象とするものが多く、日系や中国系などの白人に遜色のない実力でそれなりの結果を残しているアジア系アメリカ人を除外しているものが多い為に、それ以外のアジア系アメリカ人はかえって合格の確率を減らしています。また、大学入試などの合格最低点が人種により違うのも逆差別です。さらにLGBTQのいくつかは、かつては多くの国で犯罪とされていた歴史もあり、まだ犯罪とされている国や宗教的タブーとされる地域も多く存在していることから、受け入れがたいと感じている人々が非常に多くいるようです。日本ではLGBTQの芸能人の活躍やそれを題材の1つとするTVドラマ・アニメ・映画などが多く、比較的寛容な雰囲気がありますが、アメリカではAnheuser-BuschInBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)が製造するビール飲料BudLightがトランスジェンダーの人気インフルエンサーを広告に起用したことが不買運動に発展し、業界1位の座を明け渡したことがありました(注7)。また、トランプ大統領は2025年1月20日の就任演説で「米政府の公式見解として、性別は男性と女性の2つのみとする」宣言を出しています(注8)。4.アメリカにおける反DEIの動きアファーマティブ・アクションは、常に逆差別やスティグマ(その対象だから合格したなどの偏見)の危険性を含んでいます。クォーター制(割当制)を採る場合には、その根拠となる指標の問題もあります(単にその人種の地域における人口比などを根拠とすることには、不合格となる個人の努力や能力が考慮されていない為、否定的な意見が多くあります)。また、アメリカは人種を無関係なものとする平等を求めて必死に努力する社会であるべきであるというカラーブラインドの考え方や、個々の違いを重視する個人主義とも抵触するものです。連邦最高裁においては、ミシガン大学ロー・スクールにおけるアファーマティブ・アクションの訴訟(注9)などにおいて、リベラル派と保守派の裁判官(3人ずつ)の勢力が拮抗した状態において、中間派の裁判官の判断で合憲判決となる判決がありました(多様な人を裁く裁判官は多様な人で構成すべきという考えが多数派を占めました)。しかしリベラル派3人・保守派6人の構成となってからの2023年6月29日に、連邦最高裁は、ハーヴァード大学とノースカロライナ大学(UNC)の入学選考をめぐる2件のアファーマティブ・アクション(黒人優遇措置)について違憲との判決を下しました(黒人裁判官を含め一定の能力を測る試験の合格最低点に差異を設けることに否定的な意見が多数派となりました)(注10)。DEIが絡んだ訴訟件数も年々増加しています(2022年17件、2023年43件、2024年59件、ニューヨーク大学ロー・スクール調べ)(注11)。また、AMPASの新基準やディズニー映画の傾向は、行き過ぎとして批判が高まりました(注12)。こうしたそれまでのDEI政策に不満を持った人々の勢いがトランプ大統領の返り咲きの原動力となったという分析もあり、実際にトランプ米大統領は就任後、連邦政府のDEI関連部署の閉鎖を指示するなど、バイデン前政権が進めたDEI政策を撤回しました。こうした状況から、アメリカでは、DEI政策の取組みを縮小する企業が増えています。Harley-Davidson,inc.DEIチームを解体し、採用や取引先選定でのDEIの目標も廃止。Deere&Company外部の啓発イベントへの参加を止め、社会的課題意識を持ったメッセージを研修資料から除外。Amazon.com,Inc.2024年12月に社内向けメモでDEIについて「時代遅れなプログラムや資料作成を終える」とする。TheBoeingCompanyDEI推進の担当部門を廃止。CaterpillarInc.HRC調査への参加を止める。FordMoterCompanyHRC調査への参加を止め、従業員向けのリソース・グループ再考。Law'sCompany,IncHRC調査への参加を止め、多様性イベントへの参加・出資を停止。WalmartInc.HRC調査への参加を止め、DEIの用語使用を終了。取引先選定の多様性プログラムを再考。MolsonCoorsBeverageCompany取引先選定時のDEI目標を廃止、DEIに基づいたトレーニングを終了。MetaPlatforms,Inc.DEIチームを廃止。採用時における多様な候補者リストアプローチを終了。McDonald’sCorporation従業員の多様性向上についての数値目標を廃止。ToyotaMotorSales,U.S.A,Inc.従業員に対し、外部のDEI指標や調査に参加しないと伝達。NissanNorthAmerica,Inc.HRC調査への参加を止め、人種公平性を重視したイベントの資金提供も見送る。このうち、Harley-Davidsonや農機JOHNDEERブランドのDeere&Companyは、顧客に白人男性客が多いとされ、またAnheuser-BuschInBevの事件の教訓などからアメリカのLGBTQ団体HumanRightsCampaign(HRC)の企業平等指数への参加を止める企業が多いようです。このうち、ToyotaMotorSales,U.S.A,IncやNissanNorthAmerica,Inc.は日本系の企業です。さらに欧州のSNS(SocialNetworkingService)規制強化に対抗しFacebookなどのfact-checkingの廃止を決めたMetaのCEOのMarkElliotZuckerberg氏は、トランプ政権に急接近する行動が目立ちます(注13)。また、TheWaltDisneyCompanyは、役員報酬を決める評価基準から「多様性と包摂性」という指標を削除し、「人材戦略」に置き換え(注14)、GoogleLLCは、米国のカレンダーアプリでLGBTQの権利向上を呼び掛ける「プライド月間」及びアフリカ系アメリカ人の業績を称える2月の「黒人歴史月間」の表示を止めました。また、地図アプリにおいて「メキシコ湾」の名称を「アメリカ湾」に変更しました。両社はこれらの変更を他の要因としているものの、トランプ政権に配慮した方針変更とみられています(注15)。一方、DEI政策の維持を表明している企業もあります。CostcoWholesaleCorporation2025年1月23日の株主総会でDEI廃止の株主提案を98%の反対で否決。AppleInc.2025年2月25日の株主総会でDEI廃止の株主提案を否決。DeltaAirLines,Inc.DEIとESG施策は「ビジネスにとって不可欠」と説明。Nike,Inc2024年11月にDEI最高責任者を任命、帰属意識の醸成に重要と表明。LeviStrauss&Co.2024年8月に外部からDEIと人材戦略の最高責任者を招き、その取組みを強化。もともとAppleInc.は、2015年12月2月にCalifornia州SanBernardino市で発生した銃乱射事件で、FBI(FederalBureauofInvestigation:連邦捜査局)が要求した犯人(本人は死亡)のiPhoneのロック解除を拒否するなど政府に摺り寄らない企業で知られ(注16)、DeltaAirLines,Inc.は外国人利用客が多い、Nike,Inc.は黒人アスリートの顧客が多いなどの事情もあります(注17)。5.他国への影響トランプ大統領は、2025年1月30日のワシントンDC近郊で起きた航空事故に関し、特に根拠を示さないまま、民主党政権下において、米連邦航空局(FederalAviationAdministration:FAA)がDEI推進の為に重度の知的障害や精神障害を持つ人々の雇用を進め、安全よりも多様性に配慮した雇用を重視し過ぎた結果の航空事故だとの主張を繰り広げています(注18)。前述のFacebookやElonMusk氏買収後のXではもはやfact-checkingは廃止されています(2021年の連邦議会襲撃事件後、Twitterのアカウントを停止されていたトランプ大統領は、Xではアカウントが復活しています)。既に他者に慈愛を示せる余裕が無くなるほど境遇が悪化した多数のアメリカ国民には、民主党政権下のDEI政策は、自身の社会的資源獲得の機会の減少や価値観の押し付けにつながったとみられていることから、こうした発言をも許容する傾向があり(TVよりもSNSは真実を報道するなどとは期待しなくなり)、そうした支持者の期待に答えるように、トランプ政権は、関税を使った自国の貿易力の強化、アメリカ合衆国国際開発庁(UnitedStatesAgencyforInternationalDevelopment,:USAID)が携わる対外支援契約の9割以上の削減・職員の大幅なリストラ、ウクライナに対する支援の見返りとしてレアアースの権益を要求、デンマークに対するグリーンランドの割譲要求、移民の強制送還など、次々と自国の経済力強化政策を打ち出しています。また大統領は、連邦最高裁判所の裁判官の任命権も持つことから、トランプ政権が続く限り、現在の反DEIに対する足かせも緩くなることが予想されます。コーポレートガバナンス・コードの対象となるわが国の上場会社には、買収を伴う上場廃止も視野に入れた強硬な株主提案でもない限り、反DEI政策提案は否決されることでしょうし、まだ人種の坩堝とはいえない日本では、DEI政策は男女共同参画が中心であり、これは前述の日本政府の方針とも合致する為、それに攻撃をしかける勢力も少ないと予想されます。同様に非上場企業に対しても、反DEI政策を積極的に求める金融機関等はあまり想像し難く、むしろDEI政策の推進を求める金融機関等の方が想像しやすい状況にあります。しかし、GlasgowFinancialAllianceforNetZero(GFANZ)の掲げる温室効果ガス削減等の積極的ESG投資推進の為の金融イニシアティブの参加企業は、反DEI運動やトランプ政権の動向などを受けて、北米では大きく減少し、わが国でもそれに倣う金融機関が出るなど消極的姿勢に転じる者も多く、さらにアファーマティブ・アクションを用いる場合には、外国籍の学生や社員を多く抱える学校や企業は、アメリカの動向に注意する必要があります(注19)。一方、ヨーロッパ諸国には既にたくさんの移民を受け入れ多民族国家となっている国も多く、そうした国の極右勢力に、トランプ政権の一員(アメリカ合衆国大統領上級顧問)となったTesla,Inc.やXCorpなどを有するElonMusk氏が資金援助をしているようですから(注20)、よりアメリカのトランプ政権の方針の影響を受けやすい企業が多いでしょう。実際にアイルランドに本社を構える大手コンサルティング会社AccenturePLC(アクセンチュア)は、2017年に発表した2025年までに社員の半数を女性にするという目標を撤回しています(注21)。いずれにしても現状では、アメリカ以外の国の企業もトランプ政権の動向に目を離さない方が良いでしょう。(おわり)<注釈>「迫られる脱・女性役員ゼロキャノン・東レが初登用へ」2023.5.20日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB024H40S3A500C2000000/「アメリカ:ハリウッドにおけるセクハラを告発『#MeToo』で連帯」アジア女性資料センター2017.10.17https://www.ajwrc.org/2530「BLMとは?きっかけとなった3つの事件や各界に及んだ影響についての解説」PATCHTHEWORLD2024.11.11https://mannen.jp/patchtheworld/15063/2015・2016年のアカデミー賞において、有力視された非白人俳優がノミネートすらされず、白人ばかりが候補者となり、「#OscarSoWhite」とのハッシュタグが広まった現象。「ハリウッド、多様性に苦慮アカデミー賞は少数派義務」2025.2.9日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2310A0T20C25A1000000/アカデミー賞【2025年】受賞一覧・解説などhttps://eigaz.net/prediction/2025.php「インドの風向きが変わった、性的暴行事件とは」NATIONALGEOGRAPHIC日本版サイト2019.11.1https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/102900625拙稿「男女賃金格差是正及び女性活躍に対する国及び企業の取組み」2023.8.25商事法研究レポート(本サイト)。「米ビール市場、バドライト首位陥落広告巡り不買運動」日本経済新聞電子版2023.6.15https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN14CZO0U3A610C2000000/?msockid=066ec6c84dea64a20728d2df4cb465b3前掲注4。Grutterv.Bollinger,539US.306(2003)https://supreme.justia.com/cases/federal/us/539/306/わが国において近時女性枠を少なくしていたことが問題となった私大医学部がその反動として女子枠を設けたことや工業に携わる女子を増やしたい工業系の学校などで女子枠を設けるアファーマティブ・アクションは、まだこの判決のように許容されています。近時のアファーマティブ・アクションを肯定的に捉える試み、注10の連邦最高裁判決までの研究として、茂木洋平・アファーマティブ・アクション正当化の法理論の再構築(2023年・尚学社)を参照。「人種を考慮した入学選考は違憲米連邦最高裁、従来の判断覆す」BBCNEWSJAPAN2023.6.30https://www.bbc.com/japanese/66062667「米国企業、DEI施策に訴訟リスクコストコは継続方針」2025.1.25日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN23EBV0T20C25A1000000/?msockid=066ec6c84dea64a20728d2df4cb465b32024年のディズニーアニメ映画「インサイド・ヘッド2」は人種的配慮を感じさせない内容でしたが、結果的に世界的大ヒット(ピクサー史上最大のヒット)となりました。前掲注4。また、ハリウッドの採用基準やAMPASの基準は、不公平の是正を超えて、アファーマティブ・アクションであり、逆差別や本来の目的に反するとの批判もあります。「アカデミー賞の多様性基準に『吐き気がする』、俳優リチャード・ドレイファスが発言」CNN2023.5.9https://www.cnn.co.jp/showbiz/35203511.html前掲注11。「ディズニー、役員報酬基準からDEI見直し米政権に配慮」2025.2.12日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1208J0S5A210C2000000/?msockid=066ec6c84dea64a20728d2df4cb465b3「Googleカレンダー、『黒人月間』削除地図は『アメリカ湾』」2025.2.12日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN114C40R10C25A2000000/?msockid=066ec6c84dea64a20728d2df4cb465b3氷川りそな「終わりなき『ApplevsFBI』問題信頼か、それとも安全か?」2016.5.4MacFanPortalhttps://macfan.book.mynavi.jp/article/m52674/前掲注11。「Apple株主総会、DEI撤廃案を否決トランプ対応に苦慮」2025.2.26日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN25CQF0V20C25A2000000/?msockid=066ec6c84dea64a20728d2df4cb465b3「トランプ氏、首都航空事故『DEI推進が背景』根拠示さず」2025.1.31日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN3102P0R30C25A1000000/?msockid=066ec6c84dea64a20728d2df4cb465b3「GFANZとは|概要・目的・国内金融機関の取り組みまでわかりやすく解説」2025.2.24自然電力グループhttps://shizenenergy.net/decarbonization_support/column_seminar/gfanz/「三井住友FGが気候変動対策グループ脱退へ、国内金融大手では初」2025.3.4Bloomberghttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-03-04/SSL9MDT1UM0W00また、私学や私企業はある程度の寄付行為や定款による自治が許されていますが、2023年の連邦最高裁の判例以降、学校の合否や企業の採用・昇進等でアファーマティブ・アクションを用いた場合の訴訟リスクは高まったといえます。訴訟まで行かなくてもfact-checkingが外れたSNS等で攻撃される可能性も高い為、慎重にその内容を検討する必要があるでしょう。「英独の極右を支持して憎悪を煽るトランプの「右腕」イーロン・マスク」Newsweek2025.1.7https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/01/531608.php「アクセンチュア、世界でDEI見直し『米国の変化反映』」2025.2.8日本経済新聞電子版https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN07EBZ0X00C25A2000000/?msockid=066ec6c84dea64a20728d2df4cb465b3提供:税経システム研究所
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2025/04/03 会計レポート
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(17)
1.原価計算基準における販売費及び一般管理費の分類基準前々回の(15)で、「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]における販売費及び一般管理費の分類基準について説明しました。「原価計算基準」[大蔵省企業会計審議会,1962]では、製造原価と同様に、形態別分類、機能別分類、直接費と間接費、固定費と変動費、管理可能費と管理不能費を、「販売費および一般管理費要素の分類基準」[三七]としてあげています。前々々回の(14)では、販売費及び一般管理費の事例として、配送関連のコストと販売担当者のコストについて説明しました。ただし、この説明は、例示しただけであって、体系的な説明ではありません。そこで今回は、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]による販売費及び一般管理費の分類にもとづいて、どのような観点から体系づければよいかについて、より具体的に検討していきます。2.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類岡本[2000]では、第13章「営業費計算」の第2節で、第1項の「営業費の分類基準」において、先述の「原価計算基準」における販売費及び一般管理費の分類について説明しています[pp.693-694]。これに続く第2項「営業費の分類例」において、4桁のコードを用いて機能別分類を強調した分類例を示しています[岡本,2000,pp.694-696]。(1)販売費と一般管理費まず、営業費である販売費及び一般管理費ですが、これは文字どおり販売費と一般管理費に分類できます。費用は、それが発生する部門別に集計するので、販売費は販売部門で発生する費用であり、また、一般管理費の多くは企業の本社にある経営企画部、人事部、経理部、財務部、総務部、法務部などの管理部門で発生する費用です。なお、岡本[2000]は、財務部の費用について、「支払利子などの財務費のなかに含めず、一般管理費のなかに含める」[p.696注1]と説明しています。この意味は、受取利息および支払利息などの財務費用は営業外収益または営業外費用として損益計算書に掲記しますが、財務部で発生している給料などの人件費や事務費などの業務遂行に関連して発生する費用は、まさしく営業費であるという考え方だと推察します。(2)販売費の分類つぎに岡本[2000]では、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明しています。注文獲得費とは、広告宣伝費、販売促進費、直接販売費、販売調査費といった「注文獲得のために要する費用」[岡本,2000,p.697]です。広告宣伝費は、たとえば、岡本[2000]では、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌といった広告媒体のチャネルごとに勘定科目を設定しています[p.694]。ただし、岡本[2000]が刊行された時代より四半世紀を経た現在では、広告の媒体も多様になっています。また、現在の企業は、前回(16)でも説明した多様な「顧客の心理的要因」[岡本,2000,p.692]や「販売方法の多様性と変動性」[岡本,2000,p.692]をふまえて、ターゲットとする顧客にむけて広告活動を行う必要があります。そのために、マーケティング論や広告論の領域においてさまざまな手法が研究されていますので、管理会計および原価計算の研究領域でも、これに対応した研究が必要になるでしょう。販売促進費は、「販売促進活動に要する費用で、委託販売手数料、販売店助成費、販売員教育訓練費、アフター・サービス費など」[岡本,2000,p.697]です。注文履行費とは、倉庫費、運送費、掛売集金費などの「注文を履行するために要する費用」[岡本,2000,p.697]です。販売事務費とは、注文獲得費と注文履行費の「両者に共通的に発生する」費用[岡本,2000,p.697]です。なお、岡本[2000]では、一般管理費について勘定科目を例示していますが、本文において説明はしていません。販売費及び一般管理費の分類を体系的に整理すると、図1のように示すことができます。図1販売費及び一般管理費の分類出典:岡本・廣本[2024a,p.42,図表5-1]を修正して作成参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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