実務情報
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2025/12/22 審査事例
税務調査時に帳簿を提示できたが、総勘定元帳が作られたのは、税務調査の事前通知を受けてから。これは「保存しない場合」に該当し、仕入税額控除は適用されないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】仕入税額控除の適用を受けようとする事業者は、法定帳簿等を整理し、法定帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間(財務省令で定める法定帳簿等については5年間)、これを納税地等に保存しなければならない(消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》)。本件の審査請求人は、建設業を営む個人事業者であって、税務署から調査の事前通知を受けた後に、税理士事務所に依頼して、記載要件を満たす各課税期間の各総勘定元帳(本件各帳簿)を作成した。他の法定帳簿はない。調査後、仕入税額控除を適用して消費税等の修正申告をしたところ、税務署から、本件各帳簿については確定申告書の提出期限の翌日から保存されていないから仕入税額控除を適用できないとして更正処分等を受けた。審査請求人は、税務職員の求めに応じ帳簿等を提示した場合には仕入税額控除の適用が認められるべきであると主張した。国税不服審判所は、本件各帳簿は、所定の期間において保存していないことは明らかであるから、消費税法第30条第7項に規定する「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当すると判断した事例である。(平成28年1月1日から令和2年12月31日までの各課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・令和5年4月24日裁決)(非公開)【主な争点】各課税期間の消費税について、仕入税額控除は適用されるか。【裁決の要旨】本件各帳簿は、令和3年7月16日の事前通知後に作成されたものであり、また、審査請求人は、各事前通知時において、各課税期間の審査請求人の事業に係る法定帳簿を保存していなかったのであるから、審査請求人は、各課税期間に係る各確定申告書の提出期限の翌日から、令和3年7月16日までの間は、法定帳簿を保存していなかったこととなる。そうすると、審査請求人が所定の期間において法定帳簿を保存していないことは明らかであり、このことは、消費税法第30条第7項に規定する「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当する。したがって、審査請求人の各課税期間の消費税について、仕入税額控除は適用されない。審査請求人は、最高裁平成16年12月16日判決が示した消費税法第30条第7項の趣旨からすると、同項に規定する「保存」の意義は、課税庁が申告された仕入税額を確認するための保存であり、課税庁が行う調査において、その時点で課税仕入れの事実の証拠である帳簿等を確認できない場合に、同項に規定する「保存しない場合」に該当するのであって、本件においては、法定帳簿等を調査担当職員の求めに応じて提示しているから、仕入税額控除は適用される旨主張する。しかしながら、本件最高裁判決は、所定の期間及び場所において、税務署の職員等による調査に当たって適時に法定帳簿を提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合に、消費税法第30条第7項の「保存しない場合」に当たると判断したものである。本件各帳簿は、本件各課税期間の消費税等の確定申告書の提出期限の翌日から保存されていたとは認められないことからすれば、調査担当職員の求めに応じて法定帳簿としての記載要件を満たす本件各帳簿を提示したとしても、当該事実は、判断を左右するものではない。【参照条文】国税通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》租税特別措置法第86条の4《個人事業者に係る消費税の課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告期限の特例》租税特別措置法施行令第46条の2(平成29年改正前は第46条の4)《個人事業者に係る中間申告等の特例》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/12/19 商事法レポート
法律上、決算はいつ確定するの? − 計算書類の承認・確定について
1はじめにわが国の会社法では、計算書類(この書類には貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表が含まれます。会社法施行規則116条、会社計算規則59条1項参照(注1))、および、その附属明細書(計算書類の内容を補足する重要な事項を表示する書類です。詳細については会社計算規則117条参照)を作成し、取締役会や株主総会といった機関で承認を受け、公告等をすることとされています。そして、これらの一連の行為が「決算」と呼ばれます(注2)。本稿では、この決算のプロセスについて概観し、とりわけ『計算書類の承認・確定』の意義について考えてみたいと思います。なぜなら、わが国では、計算書類の承認を含む計算に関する事項についての株主総会決議は、会社法に関するテキストにおいても株主総会の主要な決議事項として挙げられることもある一方(注3)、後述するように、他の国では、会計・財務に関する書類について株主総会の承認決議を必要とせず、そうした書類を「確定させる」ということにそれほど重きを置いていないと思われる国もあるからです。なお、本稿では、過度に話を複雑にすることを避けるため、主に取締役会を設置している会社を念頭に置くこととし、かつ、会計参与を設置している会社については念頭に置あかずに話を進めていくことにします。2計算書類の承認・確定のプロセス計算書類等の作成は代表取締役(指名委員会等設置会社では取締役会が選定した執行役)によって行われます(注4)。そのうえで、監査役を置いている会社(定款上、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定めた会社も含みます)は、計算書類および事業報告ならびにそれらの附属明細書について監査役の監査を受けなければなりません(会社法436条1項)。また、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会が監査を行います(会社法436条2項1号)。そのうえで、会計監査人設置会社では、ある意味で当然ですが、計算関係書類(計算書類およびその附属明細書をいいます。会社法施行規則2条3項11号ロ、会社計算規則2条3項3号ロ)について会計監査人の監査も受ける必要があります(会社法436条2項)。次に、計算関係書類は事業報告、それらの附属明細書と併せて取締役会の承認を受けることになります(会社法436条3項)。ここで、上場会社については、四半期ごとに金融商品取引所を通じていわゆる決算短信を発表することになっていますが、事業年度または連結会計年度に関するいわゆる通期決算短信については、計算書類等についてこの取締役会の承認があった段階で発表され、3月決算の会社であれば、一般には5月中旬に発表されることが多いと言われています(注5)。その後、定時株主総会の招集を株主に対して通知する際には、取締役会の承認を受けた計算書類および事業報告、加えて(監査役を置く会社、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社の場合は)監査報告および(会計監査人設置会社の場合は)会計監査報告も提供することとされています(会社法437条)。そして、計算書類、事業報告およびそれらの附属明細書(ある場合には監査報告・会計監査報告)は、株主や債権者の閲覧等に供するため、原則として定時株主総会の日の2週間前から本店に5年間、支店にはその写しを3年間備え置かなければならないとされています(会社法442条)。計算書類は、以上の手続きを経たうえで事業報告とともに定時株主総会に提出され、株主総会の承認を受けることとされています(会社法348条2項。なお、事業報告については株主総会の承認を経ることなく、その内容が報告されるに留まります。同条3項)。ここで、計算書類について株主総会の承認が求められているのは、一つの会計事実につき複数の会計処理のいずれを適用するかといった政策判断の余地があり得るから、との説明がされています(注6)。歴史的な観点から述べますと、会社法が制定される前である平成17年(2005年)改正前商法の下において、昭和56年(1981年)改正で同法284条の規定が削除されるまで、計算書類の承認決議後、2年以内に別段の決議がなければ、会社は不正の行為があった場合を除いて取締役および監査役に対しての計算書類に関する責任を解除したものとみなすとされていました。また、現行会社法が制定されるまでは、利益の処分(≒現在における「剰余金の処分」)または損失の処理に関する案は、計算書類ととともに定時株主総会における承認内容に含まれ、それらがまとめて承認対象とされていました。これに対し、現在の会社法は、剰余金の配当は計算書類の承認決議とは別の株主総会決議に基づいて行うものとされています(会社法453条、454条参照。なお、取締役の任期が1年以内である会計監査人設置会社については、定款の規定がある場合に、取締役会決議による剰余金配当も可能とされています。同法459条参照)。その結果、現在の会社法は株主総会による計算書類の承認決議に対し、「それによって計算書類を確定させる」という意味がより込められている、といえるでしょう。いずれにしても、株主総会の承認によって計算書類は確定され、当該計算書類は「最終事業年度にかかる計算書類」となり、剰余金の額や分配可能額の算定の基礎となります(会社法446条、461条2項など参照(注7))。仮に承認決議が否決された場合は、計算書類は確定できないこととなりますが、そうした場合、取締役会は必要と認める場合に計算書類を修正し、再度「定時株主総会」を招集してその承認を求めるほかないとされています(注8)。なお、承認された計算書類の内容が法令に違反していたときは、承認決議は無効確認の訴えの対象となりますし(会社法830条2項)、計算書類の内容自体に違反性はないものの、計算書類を承認する株主総会の招集手続もしくは承認決議の方法が法令・定款に違反し、または著しく不公正であった場合は、決議取消の訴えの対象となります(注9)。ところで、会計監査人設置会社については、株主総会における計算書類の承認について特則が設けられています。すなわち、計算書類が法令・定款に従って株式会社の財産・損益の状況を正しく表示しているものとして一定の要件を満たす場合、具体的には、①会計監査報告の内容として「無限定適正意見」が含まれること、②会計監査報告にかかる監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の監査報告が期限内になされており、その内容として会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認める意見がないこと、③取締役会を設置していること、などの要件を満たしている場合(会社計算規則135条参照)、定時株主総会での承認は必要とされず、同総会への報告で足りるとされています(会社法439条)。これは、会計監査人設置会社のような会社については、会計監査人の監査によって計算書類の内容の適法性についての担保がなされていること、そうした会社の複雑な計算書類については株主総会で審査を行い、承認することは適当でない、と考えられていることによります(注10)。まとめれば、会計監査人設置会社では、会計監査人、監査役等から(会計)監査報告を受け、それら報告に特段の問題がない場合は、取締役会の承認を受けた時点で計算書類が確定することになります(注11)。とはいえ、会計監査人設置会社についてのこうした取り扱いは、あくまで「特則」という位置づけであり、会社法は、計算書類の承認については株主総会決議に依るものということがやはり本則であるといった建て付けであるように思います。いずれにしても、計算書類は以上のようにして確定されることになりますが、会社は定時株主総会後に遅滞なく貸借対照表(大会社については貸借対照表および損益計算書。なお、公告方法が官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙への掲載である場合は、貸借対照表の要旨で足りるとされています)を公告することとされています(会社法440条)。ただし、金融商品取引法に基づき有価証券報告書を提出しなければならない会社については、こうした公告は行わなくてもよいとされています(会社法440条3項)。3ドイツ、イギリスおよびアメリカの状況ここで、決算のプロセスに関する他の国(ドイツ、イギリスおよびアメリカ)の状況について簡単にみてみたいと思います。⑴ドイツ上述したように、わが国では決算を「確定する」という考え方が採られていますが、これはドイツの影響を受けた可能性がありそうです。すなわち、ドイツの株式法では、監査役会が年次決算を承認した場合、取締役会および監査役会がその年次決算の確定を株主総会に委ねる旨を決議しない限り、当該年度の年次決算は確定(Feststellung)されたものとみなされるとし(同法172条1項)、取締役会および監査役会が年次決算の確定を株主総会に委ねる旨を決議した場合、あるいは監査役会が年次決算を承認しなかった場合には、株主総会が年次決算を確定する(同法173条1項)と定めています。こうした定めと関連して、わが国において株主総会を計算書類の承認機関としていることについて解説している古いコンメンタールの中には、「・・・確定(Feststellung)とは、会社の終局的な決定であって、それによりその期の計算は対内的にも対外的にも不動のものとなる。いかなる事実をもってそのような終局的な決定があったものとするかということは、株式会社における法定の機関権限の問題であり(そのことを最も明確に規定するのは、西ドイツ株式法172条・173条である)・・・(わが国では)その要件事実を定時総会の承認に求めているものと解される」としているものがあります(注12)。⑵イギリス他方で、イギリスでは、「確定」といった文言は使われていませんが、株式会社における年次計算書類(annualaccounts)は取締役会によって承認されなければならない(mustbeapproved)とされています(2006年会社法414条1項)。また、取締役たちは、年次計算書類が資産、負債、財務状況および損益を真実かつ公正に表示していない限り、当該年次計算書類を承認してはならない旨が定められています(同法393条1項)。そのうえで、公開会社(PublicCompany:株式を公募できたり、5万ポンド以上の最低資本金規制をクリアし、定款にPublicCompanyであることを定めている会社のことをいいます。これ以外の会社は(私会社PrivateCompany)と位置づけられます)については、取締役会の承認を受けた年次計算書類は、株主総会の21日前までに株主等に送付し(同法423条、424条)、株主総会において会社に提出しなければならない(mustlaybeforethecompanyingeneralmeeting)とされています(同法437条1項)。ただし、これら規定はあくまで年次計算書類が株主総会に提出されればよいとしているだけであり、株主総会での承認は特段要求されていません(なお、私会社については、上場会社でない限り、そもそも年次株主総会の開催自体が要求されていません(同法336条項))。なお、年次計算書類と各種報告書は、会計年度末から6か月以内にCompaniesHouseという会社そのものの登記と各種情報の公開を行っている政府機関に登録しなければならないとされています。また、上場会社については、CompaniesHouseへの登録に加えて、FCA(FinancialConductAuthority)が定めるDisclosureGuidanceandTransparencyRules(DTR)4.1に基づき、監査済みの計算書類を含む各種報告書等を「年次財務報告(AnnualFinancialReport)」として会計年度末から4か月以内にNationalStorageMechanismを通じて提出し、広く開示されることとされています(この年次財務報告に含まれる会計・財務関係の書類は、CompaniesHouseへ登録した計算書類と同じものとなっており、日本のように、計算書類と有価証券報告書内の財務諸表、といったような二本立てとはなっていないとのことです)。⑶アメリカアメリカでは、各州の会社法ごとに規律が異なっていますが、一般には、計算・財務に関する書類作成や承認に関する詳細な規定は設けられていません。多くの会社が設立・登録をしているデラウェア州の会社法では、帳簿(BookandRecords)の概念に過去3年分の年次財務報告が含まれるとされ、株主がそれを閲覧等できるとする規定はあるものの(デラウェア州一般会社法220条)、その年次財務報告の作成については、取締役会の一般的な権限のもとで行われると考えられているにすぎないようです。他方で、カリフォルニア州のように、具体的に貸借対照表、損益計算書およびキャッシュフロー計算書を含む年次報告書を作成すべきことや、それら報告書の一定期間内における株主への送付について定めている州もありますが(カリフォルニア州会社法1501条)、そうした州でも計算・財務に関する書類の承認や確定については詳細には定められておらず、やはりそれらは取締役会の権限のもとで適宜行われるものと考えられてきているようです。なお、上場会社については、財務報告を含む年次報告(Form10-K)の提出・開示、加えて、いわゆる株主向けの年次報告(AnnualReporttoShareholders:ARS)を株主総会前に株主に対して提供する必要があり、それらのプロセスにおいて、SECが財務報告に対する監査等について、厳格な規制を行っています。ただし、これらは主に適正かつ公正な情報開示(ディスクロージャー)とそれによる市場の高潔性(Integrity)の確保の観点からの規制であり、財務報告の承認・確定という点についてはそれほど意識がされていません。4まとめ以上を踏まえますと、計算書類等の「確定」という考え方を重視し、さらにその要件を株主総会の承認に求めるという法制を採っているわが国の法制は、他の国と比較して特徴的であるように思われます。わが国の現在の法制度が、適切であるかどうかはいろいろな見方ができるかと思います。筆者の推測ですが、おそらく、わが国ではいわゆる所有と経営があまり分離していない中小規模の株式会社が圧倒的に多く、そうした会社については、計算書類の確定に対し、株主にコミットさせた方が良いと考えられてきたのではないか、加えて、わが国の株式会社のガバナンスに関する議論では、株主総会の存在やそこでの意思決定をとくに重視してきており、そのために株主総会の権限を比較的大きく設定し、株主提案権制度等の関連制度を充実させ、適切に情報提供や議論がなされるように誘導してきたことから、計算書類等の確定もそうした株主総会に委ねた方がよい、と考えられてきたことがあるように思います(ちなみに、会社法上、合名会社、合資会社および合同会社から成る持分会社については、それらの会社に計算書類の作成義務があることが定められているのみであり、計算書類の確定を含む決算のプロセスについてはほとんど定められていません。会社法617条参照)。他方で、イギリスやアメリカの現状を踏まえますと、それらの国々ではそもそも計算・財務に関する書類の「確定」という考え方が採られていませんし、原則として、そうした書類の作成は取締役または取締役会が行うものであり、株主は、そうした書類に記載されている情報の提供を確実に受け取ることこそが重要であるとして、ある意味で受け身的な立場として位置づけられてきているように思います。現状では、わが国がいますぐ他の国に倣うべきだ、ということはありませんが、いずれにしても、決算のプロセス関する法制度、計算書類の承認・確定のあり方に関するスタンスは、株式会社制度における株主の位置づけについての考え方と密接な関連があるように思います。また、本稿ではほとんど触れませんでしたが、国ごとの会計制度、ディスクロージャー制度、さらには剰余金の配当規制との兼ね合いもあります。そうした意味で、本稿で述べたことは喫緊の課題というわけではないもののが、継続的かつ地道な研究や検討を行っていくべきテーマであるように思います。<注釈>これに対し、金融商品取引法に基づいて作成される『財務諸表』は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書およびキャッシュ・フロー計算書ならびに附属明細表からなるとされています(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則1条1項1号参照)。江頭憲治郎『株式会社法〔第9版〕』(有斐閣、2025年)635−636頁。江頭・前掲注⑵322頁。江頭・前掲注⑵630頁。江頭・前掲注⑵659頁参照。江頭・前掲注⑵662頁。江頭憲治郎=弥永真生編『会社法コンメンタール10−計算等⑴』(商事法務、2011年)378頁〔片木晴彦〕。片木・前掲注⑺378頁。片木・前掲注⑺378頁。江頭・前掲注⑵665頁、片木・前掲注⑺379頁。片木・前掲注⑺381頁。上柳克郎ほか編『新版注釈会社法⑻会社の計算⑴』(有斐閣、1987年)76頁〔倉沢康一郎〕。提供:税経システム研究所
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2025/12/18 会計レポート
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(8)
1.予算実績差異分析のダッシュボード化前回から、ChatGPTで経営ダッシュボードを簡単に作成する方法をご紹介してきました。ダッシュボードは、経営層や管理者がリアルタイムに業績を把握・分析し、迅速かつ適切な意思決定を行ううえで極めて有益な手段であり、すでに多くの企業で導入されるようになっています。前回は、全社および各事業の業績モニタリングを行うためのダッシュボードを作成しましたが、今回は予算実績差異分析のためのダッシュボードを作成してみたいと思います(図表1)。ダッシュボード作成のための事前準備については、前回のリポートをご参照ください。図表1予算実績差異分析のイメージ図2.予算実績差異分析ダッシュボードアプリケーションを作成する前回ご紹介させていただいた業績モニタリングのためのダッシュボードの作成と同様に、予算実績差異分析においても、ChatGPTにダッシュボードを動かすWebアプリを作成するためのプログラムを自動作成してもらうことができます。ダッシュボードの作成には、Webアプリ作成用のPythonライブラリであるStreamlit(ストリームリット)を使用します。Pythonのプログラム構造自体をご理解いただく必要は全くありませんが、Webアプリを動かすためにPythonを動かすことができるPC環境を整えておく必要があります。前回リポートをご参照いただき、Pythonの最新版をダウンロードしてください。まずはChatGPT(今回はChatGPT5を使用します)で、次(図表2)のように指示を与えて実行してみましょう。Streamlitを用いてWebアプリ上で動くダッシュボードを作成したい。今回は、ダッシュボードで予算実績差異分析を行えるようにしたい。予算値、予測値、実績値の差異が直感的に理解できるように、ウォーターフォール図を作成してほしい。予算実績差異は全製品、製品別、月別で表示できるようにしたい。予算実績差異の結果をもとに自動課題検出ができるようにしたい。図表2ChatGPTへの指示入力すると、ChatGPTが以下のようにPyhtonプログラムを作成してくれます(図表3)。これをコピーして、textファイルとして(Windowsの場合はメモ帳に)保存します(図表4)。保存の際、ファイル名を「app.py」としておきます(ファイル名の末尾に.pyをつけることで、Pythonファイルとして認識されます)。図表3作成されたPythonプログラム(一部)図表4メモ帳へのプログラム(一部)のコピー手順1:作成したプログラムファイル「app.py」を前回リポートで作成したDashboardフォルダのなかに保存する(図表5)。今回は、作成済みのプログラムと、分析用のサンプル―データを使用します。以下(注1)からダウンロードをしたうえで、ご自身のPCのDashboardフォルダに格納しています。図表5Dashboardフォルダへプログラムファイルの保存手順2:コマンドプロンプトを立ち上げる(図表6)Windowsの場合:Win+Rで「ファイル名を指定して実行」を開き、cmdと入力Macの場合:Command+Spaceで検索バーを表示し、「Terminal」または「ターミナル」と入力図表6コマンドプロンプト画面※網掛け部分は、ユーザーネームが表示されます。手順3:図表7のようにコマンドプロンプトに以下のコマンドを入力し、一つずつ実行しましょう(実行はEnterキー)。※プログラムの実行に必要なファイルがダウンロードされます。#必要なパッケージのダウンロードpipinstallstreamlitpandasnumpymatplotlibopenpyxl#Dashboardフォルダのパスを指定cd"C:\Users\t-met\Documents\Dashboard"#「app.py」プログラムの実行streamlitrunapp.py図表7コマンドプロンプト入力画面手順3を実行すると、Webブラウザが立ち上がり、図表8のような予算実績差異分析のダッシュボードが作成されます。手順1でダウンロードしていただいた、予算・実績データをWebアプリ左上の「データ読み込み」のところへアップロードすると、予算実績差異の分析結果、可視化情報、差異分析からわかる課題が表示されます。図表8作成されたダッシュボードサンプルデータでは、製品A~Dの2024年1月~12月のデータが格納されています。Webアプリ左下で分析を行いたい月や製品を選択すると、分析結果を確認することができます。試しに、2024年1月・A製品の分析結果を表示してみましょう。図表9分析結果(2024年1月のA製品の予算実績差異分析)また、差異分析の結果、どのような課題があるかについても、分析結果に応じて自動的に出力してくれます(図表10)。図表10差異分析の結果からの自動コメントダッシュボードを用いることで、これまで表計算ソフトベースで行っていた分析作業が自動化され、分析結果の検討・ディスカッションに多くの時間を割くことができるようになるのです。3.より高度な分析を実行できるプログラムに修正する分析を行う差異の種類、計算式の変更、表示方法(前期比較表示、色、グラフ形式)の修正を行いたい場合は、ChatGPTに「前期比較ができるようにしたい」「改善方法がわかる分析がしたい」のように指示をするだけで、図表3のようなプログラムを新たに出力してくれます。新たなプログラムを実行する場合も、手順1~手順3と同様ですので、この機会にいろいろと試してみましょう。<注釈>https://www.dropbox.com/scl/fo/w7xt7tzb23782ne5vuzxq/ANgTNSdDIUaEtEsiIan99Ms?rlkey=yier3ggezr10aue7gqnvc047o&dl=0Dropboxが開きます。提供:税経システム研究所
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2025/12/15 審査事例
和解内容を確認せよ。元勤務先が取引先から得るべきリベート等を、個人事業収入にし、支払った解決金の性格は、事業収入の返金でないから、更正の請求はできないとした事例(棄却)
【裁決のポイント】納税申告書を提出した者は、その課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えの判決(判決と同一の効力を有する和解を含む。)により、その事実が先の計算の基礎としたところと異なることが確定した場合には、後発的理由による更正の請求を行うことができる(国税通則法第23条第2項)。本件の審査請求人は、個人事業を営みながら、A社にも勤務をして取引先との交渉を任せられていたが、本来はA社が取引先から受け取るリベート等を自身の事業収入に含めて確定申告及び修正申告も行った。A社は審査請求人に対して損害賠償請求の訴訟を起こし、裁判上の和解が成立した。審査請求人は750万円の本件解決金をA社に支払ったのちに、事業収入を返金したことを理由として自身の所得税について更正の請求をした。税務署は更正すべき理由がない旨の通知処分をした。国税不服審判所は、和解の内容が、審査請求人が本件解決金を支払うことにより、A社は、今後、本件訴訟に係る損害賠償請求権を放棄するという内容にすぎず、審査請求人が取引先からリベートを得た取引に係る権利関係等に何ら変動を及ぼすものではないとして、税務署の処分は適法であると判断した事例である。(平成27年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対して更正すべき理由がない旨の通知処分・棄却・令和2年7月28日裁決(非公開))【主な争点】本件解決金は、平成27年分の事業所得の金額の計算上総収入金額から差し引くことができるか。【裁決の要旨】本件訴訟におけるA社の請求内容は、平成22年度から平成27年度までにおいて、本来A社が本件取引先から得るべき利益(売上金及び仕入割戻金)を、審査請求人がA社で交渉に当たっていた地位を利用して不法に取得し、A社に上記得るべき利益及び同利益に係る消費税や加算税等の額に相当する損害を与えたとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めるというものであるところ、本件訴訟は、飽くまでも審査請求人とA社との間の損害賠償請求権の存否を争うものである。本件和解の内容は、審査請求人が、A社に対し、解決金として本件解決金の支払義務があることを認め、A社がその余の請求を放棄するという内容であるから、本件解決金の支払は、審査請求人と本件取引先との取引に係る権利関係等に何ら変動を及ぼすものではないものと認められる。以上によれば、審査請求人の平成27年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額から本件解決金を差し引くことはできない。審査請求人は、本件解決金は、本件訴訟において、審査請求人が本件取引先から受け取って審査請求人の収入としていた金員の一部がA社の収入と認められるとされたため、本件和解により、平成27年分の収入の返金として支払ったものであることから、平成27年分の事業所得の金額の計算上総収入金額から差し引くべきである旨主張する。しかしながら、本件和解は、審査請求人が収入として申告していた本件取引先から受け取った金員の一部をA社の収入と認める内容のものではないことから、審査請求人の主張は理由がない。【参照条文】国税通則法第23条《更正の請求》所得税法第27条《事業所得》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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関連項目 審査事例 -
2025/12/12 商事法レポート
高齢化社会と会社運営上の課題:意思能力を欠いた支配株主の議決権行使による株主総会決議への影響と対応策(注1)
2025/12/15追記本記事中の注記に誤りがありました。謹んでお詫び申し上げますとともに、下記のとおり訂正いたします。(変更前)(注13)同旨、阿多・前掲(注13)5頁、今川・前掲(注13)5頁。(注14)阿多・前掲(注13)5頁、今川・前掲(注13)5頁。(変更後)(注13)同旨、阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。(注14)阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。1日本社会の高齢化の進展・認知症患者等の増加と会社運営への影響わが国が高齢化社会であることは周知の通りです。内閣府の令和6年度版高齢社会白書(注2)によれば、高齢化率は29.1%で、今後もその数値が上昇すると予測されます。それに伴い認知症患者数やMCI(軽度認知障害)患者数も増える傾向にあります(下記グラフ(注3)参照)。こうした社会環境の変化を反映してか、近時、株主が判断能力を喪失したまま株主総会での議決権行使に及ぶ等したことで、株主総会決議の効力が争われたり否定されたりする事例が散見されるようになってきました(注4)。前掲の高齢社会白書の将来予測に鑑みると、今後も、株主の意思能力の欠如を理由に株主総会の決議の効力が争われる事例が生じ、その件数も増加するものと予想され、それが、支配株主が存在することが少なくない中小(非上場)会社では法的紛争の温床になるばかりか、会社運営に対する重大な支障・リスクの要因ともなることが懸念されます。そこで、本稿では、最近の裁判例を参考に、株主に意思能力の欠如が認められる場合の対応のあり方について概観することとします。2株主の議決権行使と意思能力欠如の下での法律行為の効力に関する民法3条の2(1)民法3条の2の規律民法には意思能力に関する同法3条の2の規定が置かれ、同条によれば、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」とされます。意思能力の有無が法律行為の効力の有無を決めるカギとなるところ、民法には意思能力の定義規定がありません。しかし、従来、意思能力の意義は、「自分の行為の結果を判断することのできる精神能力であって、正常な認識力と予期力を含む」もの(成年被後見人につき意思能力の欠如を認定した東京地判平成30年5月16日LEXDB25553689)(注5)、「自分の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて正しく意思決定する精神能力をいう」(東京地判平成17年9月29日判タ1203号173頁)と解されており、民法はこうした解釈を前提としています(注6)。ちなみに、意思能力の有無は個々の法律行為ごとにその難易や重大性等も考慮して、行為の結果を正しく認識・判断していたか否かを中心に判断されるべきものです(前掲東京地判平成30年5月16日)(注7)。そのため、行為者がアルツハイマー型認知症であるからと言って当然に意思無能力であると判断されるわけでないことに留意が必要ですが、以下では、株主が民法3条の2にいう意思能力を欠いている状態にあることを前提に話を進めます。(2)意思能力を欠いた株主の議決権の行使等と民法3条の2意思能力を欠く株主が株主総会において議決権を行使しまたは議決権行使を他人に委任することや、会社法319条1項による書面決議のための同意の意思表示を行うことについて、民法3条の2が適用され、その効力は無効であると解するのが裁判所のほぼ一致した考え方です(注8)。①東京地判令和5年4月28日のケース例えば、第1に、東京地判令和5年4月28日LEXDB25596678の事案では、被告株式会社の定款変更議案が原告株主Xを含む株主全員の出席のもと株主総会に付議されたところ、出席株主Aが、少なくとも議決権総数の60%を有する株主Bから行使を委任された議決権と自らの議決権を合わせて行使し当該議案に賛成したため、定款変更決議が成立したとされたことに対し、Xが、アルツハイマー型認知症で要介護4の認定を受けていたBは意思能力を欠いているため、BのAに対する議決権行使の委任が無効であり、その結果、定款変更のための株主総会決議に係る定足数(会社法309条2項参照)を欠き株主総会の決議方法が法令に違反するとして、当該決議の取消を主張しました。東京地裁は、Bが当時、日常生活の意思決定が日常的に困難であったため意思能力を欠いていたとして、議決権行使の委任を無効と認定し、当該決議の取消請求を認容しています。②東京地判令和6年9月27日のケース第2に、東京地判令和6年9月27日(注9)は、公開会社でない被告株式会社の唯一の株主Aが同意して行われた、代表取締役を取締役の互選により定める旨の定款規定を削除し取締役は各自会社を代表する旨の定めを設ける令和4年7月13日付の定款変更決議(以下、「令和4年書面決議」)と、当該決議の成立を前提に取締役の一人であるB(Aの子)の提案のもとAの同意により令和5年1月16日付で行われた、原告X(Aの養子)を取締役から解任しC(Bの配偶者)を取締役に選任する旨の決議(以下、「令和5年書面決議」)について、Xが、①令和4年書面決議は株主Aの意思能力の欠如ゆえに無効であると主張すると共に、②令和5年書面決議は令和4年書面決議が無効である以上、代表取締役に互選されていないBの提案に対し行われたものであり決議方法が法令に違反すること、Aも同意の意思表示を行えるだけの意思能力を欠いており会社法341条の要件を充足しないことを理由に、同決議の取消を求めた事案です。東京地裁は、Aのアルツハイマー型認知症が相当程度進行して知的能力が著しく低下し、支援を受けてもAが契約の意味内容を理解し判断することは不可能であるとの保佐開始申立時の鑑定人の鑑定意見を踏まえ、Aが意思能力を欠いていたと認定し、令和4年書面決議に係る同意の意思表示の効力が無効であり、当該決議が不存在であると判示しています。東京地裁は、令和5年書面決議については、Xの請求に引っ張られたこともあり、Aによる同意の意思表示が無効であるとした上で、同決議の取消請求を認容しています。3株主が意思能力を欠いている場合の法的対応(1)法的対応の必要性近時のこうした裁判例を踏まえると、株主とりわけ支配株主が高齢化して認知症等を発症し意思能力を欠いていると認められる場合に、そのまま株主総会で議決権の行使またはその委任をさせること、書面決議のための同意の意思表示を行わせることは、株主総会決議の不存在または取消のリスクを伴います。そこで、その種の事態を回避する法的措置を講じておく必要があり、それが成年後見制度と、意思能力喪失と判断される前に利用される任意後見契約制度および信託です。(2)成年後見制度の利用第1に、成年後見制度とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」を、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人または検察官の請求により家庭裁判所が後見開始の審判をもって成年被後見人とし、これに成年後見人を付すものです(民法7条、8条)。家庭裁判所が後見開始の審判を行うと、後見登記等に関する法律に基づき、後見の種別や審判確定年月日や成年被後見人・成年後見人等に関する情報が後見登記等ファイルに記録され(同法4条1項)、成年被後見人、成年後見人または成年後見監督人が登記事項証明書の交付を請求できるとされます(同法10条1項・2項)。ここで問題となるのは、株主が意思能力を有しない場合に、当該株主が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」という成年被後見人の要件を充足するかという点です。意思能力と事理弁識能力とは法的には異なる概念ですが、両者は密接に関連し、財産に関する取引の能力については、事理弁識能力が欠けた常況にある者は意思能力も認められない場合が多いとされています(注10)。それゆえ、意思能力を欠く株主は、それが認知症等の精神上の障害によれば成年被後見人と認定されることになると考えられ(注11)、その限りで、成年後見制度の対象になり得るといえます。当該株主を成年被後見人として成年後見人が付された場合、成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、かつその財産に関する法律行為について当該成年被後見人を代表し(民法859条1項)、包括的な代理権を有することとなります。株主権の行使は基本的には株式という財産の管理に属するといえ、剰余金配当請求権その他の自益権の行使は株主財産の維持・保全に関わるため、成年後見人の権限の範疇に含まれると解されます(注12)。これに対し、議決権の行使は、株式併合決議(会社法180条2項・309条2項4号)や会社解散決議(同法471条3号・309条2項11号)等では株主地位の重大な変動を生じさせるため、株式管理の一環といえるかが問題となりますが、議決権は株主自身の利益のために行使できる上に、成年後見人が成年被後見人の財産管理に関する事務を行うに当たり成年被後見人の意思を尊重しなければならないこと(民法858条)を踏まえると、成年後見人が成年被後見人である株主の議決権を代理行使できる(注13)と解して良いと思われます。同様の理由から、書面決議に係る株主としての同意も、成年後見人が行えると考えられます。ちなみに、議決権行使に関し問題となるのが、①議決権行使代理人の資格を株主に制限する定款規定と、②議決権行使の代理権授与を株主総会ごとにしなければならないとする会社法310条2項の適用の有無です。①については、成年後見人の代理権が法定代理権であるため、当該定款規定の適用が排除されると解されます(注14)。②についても、株主が意思能力を欠く状態にあることを前提にすると、当該株主から成年後見人への議決権行使の代理権授与を株主総会ごとに行うことを要求するのはナンセンスです。加えて、株主の議決権の代理行使が取締役等による会社支配の手段として濫用されることを防ぐという会社法310条2項の趣旨に鑑みても、成年後見人が法定代理人であることを踏まえ、成年後見人による成年被後見人たる株主の議決権の代理行使については、会社法310条2項が適用されないと解されます(注15)。(3)任意後見契約制度の利用第2は、任意後見契約制度の利用です。任意後見契約とは、「任意後見契約に関する法律」に基づき、ある者が、精神上の障害により事理弁識能力が不十分な状況になった場合に備えて、その者の生活、療養看護および財産の管理に関する事務の全部または一部を任意後見人に委託し、委託事務について代理権を授与する委任契約であって、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見受任者の請求により家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力を生ずる旨の定めがあるものをいいます(同法2条1号)。この契約は、法務省令所定の書式を備えた公正証書により作成することを要するほか(同法3条)、公証人の嘱託により登記され(後見登記等に関する法律5条)、これが任意後見人の代理権を証する委任状の代わりとなります(注16)。このように任意後見契約は、その締結時に本人に判断能力があるケースが典型的な利用場面として想定されているため、意思能力の喪失等の場合に利用される有事利用型の成年後見制度に比べ、事前導入型といえます。ともあれ、株主を本人とする任意後見契約に基づき選任された任意後見人が議決権を代理行使する場合は、当該株主の意思を尊重することを要しますが(同法6条)、成年後見人による議決権代理行使と同様、議決権行使代理人の資格を制限する定款規定の適用は受けないと解すべきでしょう。他方、任意後見人による議決権の代理行使に関しては、成年後見制度の利用の場合と異なり会社法310条2項が適用されると解されます。(4)民事信託の利用第3は、信託の利用です。株主が意思能力を喪失する前に自らを受益者とし保有株式を信託財産とする信託を後継者など特定の者を受託者として設定する方法がこれで、任意後見契約と同様、事前導入型です。この種の目的のため信託が利用される場合、株式が受託者名議となり、議決権は受託者が株主として行使する形をとりますが、会社法310条2項の脱法的要素は通常は認められないので、当該信託の効力は有効であり、株主総会ごとに議決権行使を委任する必要はないでしょう。また、書面決議の同意も受託者が行えると解されますが、いずれにせよ、信託の利用は、当該株主が意思能力を喪失したときも、当該信託に基づき受託者が委託者・受益者たる株主の最善の利益のために議決権を行使することとなるため、有効な対策の一つといえるでしょう。4おわりに意思能力を欠いた支配株主が議決権行使や書面決議の同意を行うことによりもたらされる法的な影響を回避するための法的方策は、上記の通り、後見制度と信託制度とに大別されますが、任意後見契約および信託では、任意後見人・受託者に株主の推定相続人の一人が選任されると、他の推定相続人の不満を生じさせるおそれがあるので、その人選には注意が必要です。その点で、成年後見人は家庭裁判所が選任し、従前と異なり親族以外の第三者が成年後見人となるケースが8割程度を占めている(注17)ため、推定相続人間の紛争発生リスクは小さいといえますが、有事利用型であるため、事前の備えとしては利用しにくい面もある等、一長一短です。それゆえ、それぞれの制度の特徴や長所短所を勘案し、適切な制度を選択することが肝要であり、本稿がその一助となれば幸いです。<注釈>本稿は、2025年9月25日開催の早稲田大学商法判例研究会における内田千秋新潟大学法学部教授の判例研究報告「判断能力の低下した一人株主と書面決議の有効性(東京地判令和6年9月27日)」に触発され執筆したものです。https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_1_1.html内閣府「令和6年版高齢化社会白書」の資料を元に筆者が作成。https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_2_2.html例えば、東京地判平成26年1月21日LEXDB25517212は、被告株式会社の株主の議決権の総数の約89%を有する株主が認知機能検査MMSEで22/30との判定を受け混合型認知症との診断を受けていたところ、当該株主の参加した株主総会で行われた取締役・監査役の選任決議につき、当該株主の意思能力の欠如を理由に当該決議の不存在確認が求められた事案において、当該株主の意思能力を肯定し請求を棄却しています。これに対し、東京地判令和6年9月27日LEXDB25615825は、唯一の株主が行った書面決議につき当該株主の意思無能力を理由に決議不存在確認請求を認容しています。ほぼ同旨、福島地判令和元年12月13日判タ1492号99頁(アルツハイマー型認知症である相続人の一人につき意思能力欠如とはいえないと判断)、東京地判平成29年10月30日LEXDB25539823(相続人の一人に金員を生前贈与したアルツハイマー型認知症の被相続人につき意思能力欠如を認定)、東京地判平成28年10月19日LEXDB25538096(アルツハイマー型認知症の建物所有者が当該建物を原告らの被相続人に賃貸したことにつき当該賃貸人の意思能力欠如を認定)等。内田貴『民法Ⅰ-1[第5版]総則』(東京大学出版会、2025年)124頁。同旨、東京地判平成29年10月30日・前掲(注5)、東京地判平成28年10月19日・前掲(注5)。京都地判平成20年5月28日金判1345号53頁、東京地判令和元年10月17日金判1582号30頁、東京地判令和6年9月27日・前掲(注4)。前掲(注4)。山野目章夫『新注釈民法(1)総則(1)』(有斐閣、2018年)490頁(小賀野晶一)。内田・前掲(注6)138頁参照。阿多博文「成年後見と株主権の行使」金融法務事情2031号(2015年)5頁、今川嘉文『中小企業オーナーのための財産・株式管理と承継の法律実務』(弘文堂、2020年)4頁~5頁。同旨、阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。阿多・前掲(注12)5頁、今川・前掲(注12)5頁。上柳克郎ほか編集代表『新版注釈会社法(5)』(有斐閣、1986年)193頁(菱田政宏)、酒巻俊雄・龍田節編集代表『逐条解説会社法第4巻』(中央経済社、2008年)136頁(浜田道代)。内田・前掲(注6)193頁。内田・前掲(注6)155頁。提供:税経システム研究所
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2025/12/11 会計レポート
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(22)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と販売費分析という意味このシリーズの(17)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、まず、販売費及び一般管理費を、文字どおり販売費と一般管理費に分類し、さらに、販売費を注文獲得費、注文履行費、販売事務費に分けて説明していますが、一般管理費については勘定科目を例示しているものの、本文において説明はしていません。また、このシリーズの(19)で、岡本[2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による製品品種別分析(その3)(1)貢献利益法の計算例岡本[2000]は、このシリーズの前々回(20)で説明したように、貢献利益法について、直接原価計算にもとづき、各製品品種別売上高から変動製造費および変動販売費を差引いて「貢献利益」を計算し、「貢献利益」から品種別の個別固定費(製造費および販売費)を差引いて「製品貢献利益」を計算して、各品種の収益性を分析する方法であると説明しています[岡本,2000,p.703]。なお、岡本[2000]の貢献利益法の説明でいう「貢献利益」のことを、「限界利益」ということもあります。その場合、「限界利益」から個別固定費を引いて計算する利益を「貢献利益」といいます。以下は、岡本の説明にしたがった用語で説明しますので、売上高から変動費を引いて計算した利益を「貢献利益」といい、貢献利益から製品ごとの個別固定費を引いて計算した利益を「製品貢献利益」として説明します。岡本[2000]では、貢献利益法の計算例を[例題13-3]として示しています。[例題13-3]では、次の《資料》に示す数値例にもとづいて、製品貢献利益および個別資本製品貢献利益率の増減を分析する問題として説明されています。この様式(フォーマット)では、同一製品について、20x1年と20x2年の2年間にわたるデータを比較しながら分析しています。この手法は、経営分析の手法でいえば、実数分析の増減法であると理解できます。なお、今回の計算例では、岡本[2000]の示す資料の表記を一部修正し、また、数値を変更していますが、計算書の様式は同じ形式で示しています。《資料》の冒頭では、数量関係の情報として、期首製品在庫量、年間生産量、年間販売量、期末製品在庫量の数値例を示しています。また、(年間の)平均単価も設定しています。損益計算書の様式の部分では、これらのデータにもとづいて、売上高、売上原価などを記載しています。損益計算の流れとしては、売上高から変動売上原価を差引いて変動製造マージンを計算し、変動製造マージンから変動販売費を差引いて貢献利益(=売上高-変動費)を計算しています。個別固定費については、これを製造固定費と販売固定費とに分けて示していますが、その合計を貢献利益から差引いて製品貢献利益を計算しています。最後に、製品貢献利益を製品ごとの個別投下資本で除して、個別投下資本貢献利益率を計算しています。《資料》岡本[2000]は、《資料》にもとづいた計算の解答例として、製品貢献利益および個別投下資本製品貢献利益率の増減を次のような形式で示しています[p.705]。[解答例]この解答例において、当該製品は、製品貢献利益が560,000円増加し、また、製品個別投下資本製品貢献利益率が15ポイント上昇していることから、収益性が向上しているという結論になります。岡本[2000]では、この計算結果に続いて、収益性が向上(または悪化)した原因について、細かく分析しています[pp.705-709]。この分析方法については、次回以降で説明します。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2025/12/08 審査事例
関連会社への架空外注費で重加算税が課され、交際費等だったと更正の請求。そもそも経営者が実質的に同じであるから、親睦の度を密にする必要はないと判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】税法上の交際費等該当性については、過去の判例から「三要件」-「支出の相手方」が事業関係者等、「支出の目的」がそれらの者との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ること、「行為の形態」が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であること-を満たす必要があると解されている。そして、更正の請求については、納税者の側で、税額が過大となった過誤の存在を明らかにすることが求められる。土木建築請負業の審査請求人は、外注先A社(審査請求人代表者Pの100%所有、妻が代表者)へ支払ったとされる外注費の一部(本件各支出)は架空であるとして、A社への未収金とする修正申告を行ったが、仮装隠ぺい行為に重加算税を課されたため、本件各支出は返金を求めない贈答で交際費等になるとして更正の請求をした。税務署は、事実を証明する書類が提出されなかったなどとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。国税不服審判所は、「支出の相手方」が事業関係者等であると認められるものの、「支出の目的」、「行為の形態」が認められないことから、本件各支出は交際費等に該当するとは認められないと判断した事例である。(平成28年10月1日から令和3年9月30日までの各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分、他・棄却・令和6年2月29日裁決(非公開)【主な争点】本件各支出は、交際費等(租税特別措置法第61条の4第4項)に該当するか。【裁決の要旨】支出の目的について、Pは、審査請求人の代表取締役であるとともに関係法人A社の実質的な経営者であったことを踏まえると、審査請求人がA社に発注する工事や工事代金等は、Pの意思に基づき決定できると認められることから、そもそも、審査請求人とA社との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図るために、工事の発注者である審査請求人が金銭を支出してまでA社及びその従業員等の歓心を得る必要はなかったと認められる。本件各支出の動機は、A社及びその従業員等の歓心を得ることではなく、審査請求人からA社に対して事業資金を工面することであったこと、本件各支出の態様は、交際費や接待費としてA社の従業員等の接待等のために個別に支出されたものではなく、架空の工事に係る外注費として法人であるA社に直接支出されたものであること、そもそも審査請求人が金銭を支出してA社との間の親睦の度を密にする必要がない以上、本件各支出によりA社及びその従業員等の歓心を得るなどの効果が生じたとは認め難いことがそれぞれ認められる。本件各支出を「交際費等」の三要件に即して検討すると、①「支出の相手方」が事業関係者等であると認められるものの、②「支出の目的」が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ることであるとは認められないこと、③「行為の形態」も相手方の快楽追求欲等を満足させる行為とは認められないことから、本件各支出は、租税特別措置法第61条の4第4項に規定する交際費等に該当するとは認められない。また、審査請求人は、本件各支出がA社に対する未収金に該当する旨の各修正申告をしていること、A社も審査請求人から受領した本件各支出相当額が審査請求人に対する未払金に該当することを前提とし、同額を益金の額に算入しない旨の更正の請求をしていることからすると、本件各支出が未収金に該当しない旨の審査請求人の主張は、審査請求人及びA社がした客観的な修正申告等の状況と整合しない。【参照条文】国税通則法第23条《更正の請求》租税特別措置法第61条の4《交際費等の損金不算入》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/12/04 会計レポート
公益法人制度の改正(10)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、昨年2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、改正会計基準のなかで、貸借対照表、特にその表示を取り上げます。11.貸借対照表(1)貸借対照表の表示区分等貸借対照表の表示は、次の区分により行われることが求められています(改正会計基準、pars.18-24)。ここでは、報告書形式で示しており、かつ各貸借対照表項目は省略しています。上記からも、この度の改正で、「正味財産」という用語を廃して、「純資産」という用語を使用することにしたことが分かります。この変更は、単に企業会計で使用されている用語をそのまま用いたいという趣旨と思われます。また固定資産の区分表示について、「基本財産」、「特定資産」といった表示がなされなくなっています。単に有形固定資産と無形固定資産、その他固定資産という区分表示を求めていることは、企業会計の区分表示と同様にしていることになります。(2)表示に関する諸原則この度の改正で上記より明らかなように、貸借対照表の配列方法については、原則として流動性配列法によること(改正会計基準、par.19(2))が求められています。資産と負債については流動性の高いものから順次配列する方法です。この方法は、一般に短期的支払能力を重視する方法であると説明されます。流動と固定とに分類する基準は、通常の事業活動により発生する資産と負債は、不良債権等の異常なものを除いて、流動資産または流動負債に含め、それ以外については、一年基準が適用されることになります(改正会計基準、pars.25-29)。これは企業会計における分類基準と同様です。また貸借対照表の表示については、「資産、負債及び純資産は、総額によって記載することを原則とし、資産の項目と負債又は純資産の項目とを相殺することによって、その全部又は一部を貸借対照表から除去してはならない。」(改正会計基準、par.18(3))とされており、原則として総額主義が採られることが規定されています。改正会計基準では、いかなる要件を満たしたときに総額表示となるのか、あるいは相殺表示となるのかについての言及はありませんが、企業会計と同様の考え方に依るならば、直接的に相殺関係にないものはそれぞれ総額で表示し、直接的に相殺関係にあるものは相殺後の純額で表示することを求めることになると思われます。たとえば、A社に対する売掛金とB社に対する買掛金は相殺されることなく総額表示されていますが、退職給付債務と年金資産は相殺して純額表示されています。(3)貸借対照表の注記「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、公益認定法)により、「公益目的事業に係る経理」、「収益事業等に係る経理」及び「法人の運営に係る経理」(収益事業等を行わない公益法人は、それを除く。)をそれぞれ区分して整理することが求められています(公益認定法第19条第1項)。改正会計基準では、貸借対照表内訳表を作成するのではなく、この会計区分に係る内訳を注記することを求めています(改正会計基準、par.30)。また「資産及び負債の状況を、科目ごとに表示し、名称、使用目的の他、基本財産、公益目的保有財産等の目的区分を注記する。」(改正会計基準、par.31)ことを求めています。このことにより、貸借対照表本体で、基本財産や特定資産を表記することを廃止して、その情報は注記により提供することになります。さらに「使途拘束資産(控除対象財産)の内訳と増減額及び残高を注記する。」(改正会計基準、par.32)ことが求められています。ここにいう使途拘束資産とは、「法人の機関決定により使途の制約を課した資産(資源提供者により使途の制約を課されて提供された資産を含む。)」(改正会計基準、par.32)とされており、控除対象財産とは、公益目的事業財産等といった実際に使われている、あるいはその目的や用途が具体的に定められている財産であって、遊休財産額の計算上控除されるものを指します。(4)貸借対照表の表示に関する改正について以上から明らかなように、貸借対照表本体は、企業会計上の貸借対照表に合わせるように表示することが求められるようになりました。ただし、注記において公益法人の特質を反映する特別な項目等については、記載することとされています。提供:税経システム研究所
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2025/12/01 審査事例
滞納者「全部の土地でなくても100坪分で足りるはず!」、ところが、二重差押えである参加差押えには、超過差押え禁止の規定の適用がありません(棄却)
【裁決のポイント】滞納処分のために既に差押えがされている不動産に対しては、官公署に限って、二重差押えとなる参加差押えを実施できるが、その効力は、先行する差押え処分が解除されてから生じることとされている。一方、差押え処分は、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は差し押さえることができないとされている(国税徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第1項)。本件の審査請求人の所轄税務署長は、滞納国税を徴収するために、審査請求人が所有する各土地(本件各土地)について、既に差押えをしていたB税務署長に参加差押書を交付して、参加差押処分を行い、審査請求人に通知のうえ、登記したところ、審査請求人が、滞納金額に充てるには100坪分で足りるから違法であるとして、処分の一部の取消しを求めた。国税不服審判所は、参加差押えは、先行する差押えが進行している限り滞納者に新たな負担を課すものではなく、参加差押えに超過差押え禁止の規定が準用されるとした規定もないから、違法であるということはできないと判断した事例である。(不動産の参加差押処分・棄却・令和6年10月28日裁決)【主な争点】本件参加差押処分は本件滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分か。【裁決の要旨】参加差押えは、滞納者の財産について、既に強制換価手続である滞納処分による差押えがされている場合に、その差押えをした行政機関等に対して交付要求をするものであり、その先行する差押えが解除されたときは、参加差押通知書が滞納者に送達された時に遡って差押えの効力が生ずるものであるから、先行する差押えが解除されない限り、その先行する差押えをした行政機関等に対して配当を求める交付要求としての効力を有するにすぎないというべきである。このような参加差押えの効力からすると、参加差押えは、強制換価手続である滞納処分による差押えが先行し、これが進行している限り、滞納者に処分制限等の新たな負担を課すものではないし、国税徴収法第48条第1項の規定が準用されるとした規定もないから、同項の規定は、参加差押えには適用又は準用されない。したがって、本件参加差押処分には、超過差押えに係る規定は適用又は準用されないから、本件参加差押処分が滞納国税を徴収するために必要な範囲を超えた違法な処分ということはできない。審査請求人の主張には理由がない。【参照条文】国税徴収法第47条《差押の要件》、第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》、第82条《交付要求の手続》、第86条《参加差押えの手続》、第87条《参加差押えの効力》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2025/11/28 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(216)
1.はじめにいつの時代でも、部下とのコミュニケーションに頭を悩ませる経営者・管理職の方は多いのではないでしょうか。上司と部下との関係性の良い・悪いは、生産性やモチベーション、従業員の定着率などにも影響します。部下との間で良い関係性を構築し維持していくためには円滑なコミュニケーションが取れていることが必須の要素と言ってもいいでしょう。現在では、オンライン会議システムやビジネスチャットツールなど、業務を進めるにあたり多くのコミュニケーションツールが導入されています。これにより業務効率化やコスト削減につながる一方で、いわゆるZ世代の従業員は対面でのコミュケーションを避けたがる傾向があることなどによってリアルな対話の機会が減り、十分にコミュニケーションが取れていないと感じている経営者・管理職の方も多いようです。こうした状況を踏まえ、コミュニケーションのスタイルとして1on1ミーティングを導入する企業が増えてきています。一言で言えば、「上司と部下との面談」なのですが、これまで行ってきた上司部下間の面談とは目的もやり方も異なった形の面談です。今回は1on1ミーティングを実施するメリットや実施の際の注意点、効果を高めるためのポイントなどについて考えていきます。2.従来の面談と1on1ミーティングの違い従来の部下との面談と1on1ミーティング(以下「1on1」)にはどのような違いがあるのでしょうか。従来の面談で多く行われているのが、目標管理面談です。目標管理面談においては、上司に主導権があり、評価だけでなく、業務遂行上の指示や指摘、連絡事項などを伝えることが主な目的です。主に以下の3つの種類があります。目標管理面談目標設定面談:上司と部下で話し合い、今期の部下の個人目標を設定する面談フィードバック面談:期中で目標達成への進捗状況、成果の内容やプロセスなどを踏まえ、よかった取り組みや顕在化した課題の解決に向けて話し合う面談評価面談:期末に部下の評価を決めるために、目標と達成状況のギャップ、現状の課題、今後の目標などを話し合う面談これに対し1on1で話されるテーマは「部下が相談したいことや話したいこと全て」であり、業務の課題や悩みを上司と共有し、解決策を見出していくものです。1on1ミーティング部下が業務の課題や悩みを上司と共有し、解決策を見出していく面談。上司が部下の成長を支援することが目的で、上司と部下が双方向で対話することを目指す目標管理面談では「上司→部下」のように一方通行になりがちですが、1on1では「上司⇄部下」のように双方向で対話することを目指します。週に1回、月に1回など定期的に15分から30分程度の短時間で実施し、時にはプライベートな話題も持ち出すことが可能とされています。1on1の最大の目的は、部下の成長を支援する場となることです。部下にとっては、定期的に上司と対話の機会があることで、業務遂行上でのちょっとした「つまづき」や「ひっかかり」について上司からフィードバックを受けて前に進むことができるようになるだけでなく、将来目指しているキャリアについて話すこともできます。3.1on1を実施するメリットはでは、1on1を実施することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。1.上司と部下の相互理解と信頼関係の醸成最近の管理職は特に忙しいと言われます。チームで成果を上げていくために部下をマネジメントするだけでなく、時にはプレーイングマネージャーとして自身も目標を持っている場合もあるでしょう。そんな上司を見てしまうと、「忙しそうで話しかけにくいな……」と部下が相談をためらってしまうのも無理のないことですが、定期的に1on1の場があることで、上司とじっくり話すことができます。頻繁に対話を重ねることで互いに「この人はこういう考えを持つ人なんだ」と理解が深まることはメリットと言えます。2.気づきによる部下の成長1on1においては、毎回のテーマを部下の主導で決めていきます。業務遂行上の悩みなどについて上司と対話し、フィードバックを得ることで、解決するために取り組むべき課題が明確になり、次の行動につなげることができるようになります。さまざまな気づきを得ることにより部下の成長を促す効果が見込めます。3.モチベーションの向上1on1は先述の通り、時間は短いながらも定期的に実施されることが基本です。上司は部下の仕事の進捗状況を定期的に確認することができますし、課題や悩みを共有することができるようになることで、部下は安心感が高まります。上司がしっかりと意見を聞いてくれることで、自身を尊重してくれている、大切なメンバーと思われていると感じられるようになることは仕事をする上でのモチベーションにつながっていくでしょう。では、このようなメリットを最大限に引き出すために、意識しておくべきポイントはどのようなものなのでしょうか。4.1on1を有効に機能させるポイントは?1.実施の目的を明確に定期的に上司と部下が対話する機会である1on1は、短時間とはいえ、お互いの時間を取るわけですから、なんとなく実施するのであればただの雑談になりかねません。「どのような目的で1on1を実施するのか」を明確にし、その目的に沿って部下にテーマを準備してもらうようにすることは大前提です。2.部下が主導、上司は傾聴1on1は、部下が主導することが原則ですから、テーマに対する部下自身の考えや課題を率直に話してもらうようにします。一方で、上司は部下の話を十分に聴き、内容を理解し共感していくことが求められます。部下の成長を促すことが1on1のメリットや目的であるため、あまり早期の段階で上司の考えを述べてしまうことは控え、まずは部下自身に考えさせるように仕向けることが重要です。その上で、部下の考えで「評価できる点」「改善すべき点」を指摘し、上司の考えも伝える、といったプロセスを踏んでいくようにしましょう。3.結論は部下が出すようにする1on1での対話や上司からのフィードバックを踏まえて、今後、いかに行動するのかなどについて結論を出すわけですが、この結論は部下が出すように導くのが上司の役目です。上司が結論を出してしまうと、部下のその後の行動にはどうしても「やらされ感」が出ます。部下自身の考えに基づいて今後の行動を組み立てていかないと、目的である「部下の成長」につながりません。仮に部下の考えに基づいた行動がうまくいかなかったとしても、それは部下自身に苦い経験として残りますし、またその時に上司は軌道修正を促してあげればいいのです。上司と部下の間でリアルに対話する機会が減少傾向にある中で、1on1は双方向で対話する機会、部下の成長を促す場としての効果が期待できます。一方で、短時間の対話を何度も積み上げていく必要があり、目にみえる成果を感じられるようになるには一定の時間が必要であることは認識しておかなければなりません。丁寧に対話を積み上げること、上司はじっくりと部下の話を傾聴する姿勢を忘れないように取り組んでいきたいものです。提供:税経システム研究所
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