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2026/03/19 会計レポート
生成AIを活用した財務・非財務情報の分析(10)
1.AIのさらなる進化と管理会計担当者の役割再考前回のリポートでは、生成AIの利便性の裏に潜むアウト・オブ・ザ・ループ(効率性の向上のために作業をAIに委ねた結果、ビジネスの重要な文脈を人間が理解する能力を失い、AIが提示する結論の背後にある論理から人間が切り離されてしまうこと)の危険性と、人間がビジネスの根幹に関わるプロセスに関与し続けることの重要性について解説しました。今回は、議論を一歩前に進め、管理会計担当者がAIといかに協働していく必要があるのかについて、関連する学術研究を踏まえながら検討してみたいと思います。2026年2月、AI企業であるアンソロピック社が発表した生成AI(Claude4.6)と自律型エージェント(ClaudeCowork)は、ビジネス界に大きな衝撃を与えました。これまでの生成AIは、人間が指示(プロンプト)を与えて回答を得る対話型でしたが、ClaudeCoworkは、人間が目標を与えると、AIが自律的にPCを操作し、必要なツールを使い分けて複雑なデータ分析や報告書の作成を自ら完結させてしまう能力を持っています。AIが自律的に目標を完結させる能力を示したことで、もはや専門職人材は不要になるのではないかとの不安が広がり、関連するサービスを提供する企業の株価が軒並み暴落するアンソロピック・ショックと呼ばれる現象まで起こってしまいました。予算や業績管理を担ってきた管理会計担当者は、AIの進化によって、職を失ってしまうことになるのでしょうか。この点、AIと管理会計の関係について体系的に整理した研究であるAbbas(2025)は前向きな指針を示しています。当該論文によれば、管理会計担当者の役割は消滅するのではなく、AIという武器を手に入れることによって、よりビジネスにおける中心的な存在へと進化すると指摘されています。管理会計担当者は、正確な数値情報を集計・報告するという役割から脱却し、経営層の意思決定を支えるビジネスパートナーへと進化するというのです。2.AIと人間の新たな協働の形AIと人間の理想的な協働を考える際、多くの人が陥る罠が作業の自動化です。作業時間を短縮するためにAIに丸投げすることは、自らの専門性を否定することでもあります。Thalleretal.(2024)の研究によれば、デジタル化が進むほど、基礎的な会計知識とネットワーク的な思考(全体を俯瞰する力)を掛け合わせたハイブリッドな人材の価値が高まるとされています。実務においては、AIを使って作業効率化を図ることに躍起になっていますが、真に有効なAIの使い方は、AIの提示した答えをそのまま使うこと(Automation)ではなく、自身の思考の死角を発見するための拡張(Augmentation)として利用することなのです(RaischandKrakowski,2021)。この点は、管理会計とデジタル化の関係について論じたQuattrone(2016)も、デジタル化を通じて情報が迅速かつ正確になったとしても、必ずしもそれが賢い意思決定に直結するわけではないと強調しています。AIを適切に使いこなすためには、逆説的ですが、AIの答えを否定する感性こそが極めて重要になります。デジタル化時代の管理会計担当者の在り方について研究したThalleretal.(2024)は、まさにこの点を指摘しています。デジタル化によってデータ集計や定型レポートの作成が自動化されるようになったときこそ、システムやAIのハルシネーション(間違い)を判断するためには、会計の本質的な理論や計算ロジック理解が求められるようになるのです。くわえて、同論文は、デジタル時代の管理会計担当者には、データから全体を俯瞰する能力も求められるようになると指摘しています。すなわち、財務数値を計算・分析するだけでなく、その数値が、製造、販売、物流といった他部門の動きとどのようにかかわり、最終的な利益にどのように影響するのか、というつながりを理解できることが重要であると強調するのです。3.XAI(ExplainableAI)の効果的な活用AIが提示する点の情報を、線や面(組織全体の活動)へと繋ぎ直す作業こそが、人間が担うべき領域です。この繋ぎ直しを支える強力な武器となるのが、XAI(ExplainableAI:説明可能なAI)という考え方です。これまでのAI活用において最大の障壁となっていたのは、インプットとアウトプットの間がブラックボックス化してしまい、なぜその数値が導き出されたのかが人間には見えないことでした。しかし、前述のAbbas(2025)も指摘するように、AIがなぜその結論に至ったのかという根拠や推論のプロセスを人間に理解可能な形で提示させる技術こそが、管理会計担当者の付加価値を再定義する鍵となります。実務においてこの説明可能性を担保するためには、AIに対して単に結論を求めるのではなく、その結論が得られるまでの過程を言語化させるプロセスが不可欠です。たとえば、生成AIにプロンプトを投げる際に、分析に使用した変数の相関関係や、特定の予測値がどのデータの変動に最も強く影響を受けたのかを段階的に説明させるのです。このような対話を行うことで、AIのロジックを自身が持つ会計知識や現場感覚と照らし合わせ、批判的に評価することが可能になります。AIの予測精度に依存するのではなく、その根拠を自分の言葉で経営層に語れるまで咀嚼する。このプロセスを業務フローのなかに組み込むことこそが、AIと人間の協働に欠かせないプロセスなのです。アンソロピック・ショックのような技術革新は、会計人にとっての脅威として捉えられがちですが、むしろそれは、管理会計担当者が本来果たすべき意思決定の質を高めるという本質的な任務に立ち返る絶好のチャンスでもあります。AIとの対話を通じて、思考拡張を図ることができれば、管理会計担当者はより存在感を高め、新たなステージに進むことができるのではないでしょうか。参考文献Abbas,K.(2025).Managementaccountingandartificialintelligence:Acomprehensiveliteraturereviewandrecommendationsforfutureresearch.TheBritishAccountingReview,101551.10.1016/j.bar.2025.101551Quattrone,P.(2016).Managementaccountinggoesdigital:Willthemovemakeitwiser?.ManagementAccountingResearch,31,118-122.10.1016/j.mar.2016.01.003Raisch,S.,andKrakowski,S.(2021).Artificialintelligenceandmanagement:Theautomation–augmentationparadox.AcademyofManagementReview,46(1),192-210.10.5465/amr.2018.0072.Thaller,J.,Duller,C.,Feldbauer-Durstmüller,B.,andGärtner,B.(2024).Careerdevelopmentinmanagementaccounting:empiricalevidence.JournalofAppliedAccountingResearch,25(1),42-59.10.1108/JAAR-03-2022-0062提供:税経システム研究所
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関連項目 会計レポート,管理会計 -
2026/03/16 審査事例
宗教法人が寄附されたクラシックカー1台を売却。なお数十台所有中。今後も借入金返済のために売却する継続性が認められる等から、収益事業(物品販売業)と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】公益法人等については、収益事業を行う場合に限り、法人税を納める義務がある。収益事業とは、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるもの」をいう(法人税法第2条第13号)。宗教法人について、外形的に物品販売業の形態を有する事業が、収益事業に該当するかどうかは、内容が物品販売(蝋燭等)か喜捨等(お札やお守り等)か、また、その事業が民間企業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断される。本件の審査請求人は寺院である。平成18年頃にAからクラシックカー等40台とその保管場所の建物を寄附され、遠方のため、それらの維持管理等をAに任せていた。Aは寄附時点で2億円の価格がついた車両(本件車両)を修復して海外に売却先を見つけ、平成30年に審査請求人は売却して(本件行為)、売却代金を残高30億円以上の借入金の一部返済に充てた。税務調査時の令和3年には所有車両は50台以上に増え、多くはナンバープレートがなく、高額な費用をかけて維持管理されている状態であった。税務署が本件行為を収益事業の物品販売業と認定すると、審査請求人は、単発の取引で継続性はない、後世に残すための維持管理である、建物は展示場所で事業場でないと主張した。国税不服審判所は、審査請求人は今後も借入金返済のため、各車両を売却して売却益を得ることは容易に想定され、既存の施設を利用してその事業活動を行うものに該当するから、収益事業であると判断した事例である。(平成30年12月31日期の事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、他・棄却・令和5年12月14日裁決(非公開))【主な争点】本件行為は、法人税法第2条《定義》第13号に規定する「収益事業」に該当するか。【裁決の要旨】法人税法第2条第13号の「事業場を設けて行われるもの」には、常時店舗等のほか、必要に応じて随時設けられる場所又は既存の施設を利用してその事業活動を行うものが含まれる(法人税基本通達15-1-4《事業場を設けて行われるもの》)。「継続して‥‥行われるもの」には、各事業年度の全期間を通じて継続して事業活動を行うもののほか、例えば土地の造成及び分譲、全集又は事典の出版等のように、通常一の事業計画に基づく事業の遂行に相当期間を要するものが含まれる(法人税基本通達15-1-5《継続して行われるもの》)。クラシックカーの売却は1台のみであるから、本件行為が事業としての継続性を有するか否か、本件行為に伴う財貨の移転が物品販売の対価の支払いか、また、宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものが問題となる。審査請求人は、各車両を、日常的に使用するためでも、展示するためでもなく、今後も借入金返済のために販売による収益を得る目的で所有していると認めるのが自然である。販売目的で相当の期間にわたって車両を維持管理し、付加価値を高めつつ保有し、本件車両の売却先を見つけるのに約3年の期間を要して、実際に売却したと認められるから、本件行為は、事業としての継続性を有するものといえ、外形的に物品販売業の形態を有するものと認められる。また、本件車両の代金が、一部でも審査請求人への喜捨金として支払われたと認められる事情もない。そして、本件行為のような取引態様は、宗教法人以外の法人が一般的に行う中古車両販売と異なるものではなく、これらの事業と競合するものであると認められる。本件建物は、審査請求人が行う物品販売業の拠点となる場所とはいえ、本件行為は、既存の施設を利用してその事業活動を行うものに該当するから、「事業場を設けて行われるもの」に該当する。したがって、本件行為は、「収益事業」に該当する。【参照条文】法人税法第2条《定義》、第4条(納税義務者)、第7条《内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税》法人税法施行令第5条《収益事業の範囲》法人税基本通達15-1-4《事業場を設けて行われるもの》、15-1-5《継続して行われるもの》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/13 商事法レポート
アルゴリズムカルテル - AI時代のカルテルの新しいかたち -
1.はじめに経済のデジタル化が進展し、その利活用によって企業競争がますます激化する中で、多くの企業が最先端技術であるアルゴリズム(algorithm:計算手順)とAI(ArtificialIntelligence:人工知能)を活用して事業活動を行うようになってきています。いまやアルゴリズムとAIは、企業の事業展開や商業的・戦略的な意思決定にも影響を及ぼすに至っています。そのなかでも、企業は価格決定の迅速化と最適化を目指して、アルゴリズムとAIを用いた動的価格決定(ダイナミック・プライシング)を活用しています。これが現代の企業の競争力の源泉となりつつあります。ここでアルゴリズムとは、特定の問題を解く方法や目標を達成する方法を示した一連の「手順・計算方法」をいいます。公正取引委員会経済取引局「デジタル市場における競争政策に関する研究会報告書」(令和3年3月公表。以下「研究会報告書」といいます)(注1)によると、「アルゴリズム」の概念自体はコンピューターが誕生する以前から存在しているものの、普遍的な定義はまだないといわれており、「アルゴリズム」という用語は、デジタル分野に限って使用されるものではなく、多義的な意味を持つとされています。このアルゴリズムの経済活動における活用は、市場効率性を高める有益なものであるとともに、他方において新たな競争法上の問題を惹き起こすに至っています。特にアルゴリズムを利用した情報プラットフォームの開発や運用についてカルテル(不当な取引制限)が問題になっています。2.アルゴリズムカルテルとは前述のように、競争事業者の価格の調査や自社商品・サービスの価格決定にアルゴリズムやAIが活用されるようになっており、カルテルの合意や実施がこれまで以上に容易になったり、新たな形態の協調的行為が出現するようになってきています。それがアルゴリズムカルテルと呼ばれるものです(注2)。アルゴリズム・AIとカルテルの問題については既に海外においてはOECDや欧州競争当局をはじめ諸外国において活発に議論がされており、デジタルカルテルの出現が予見されていました。いまやそれが現実のものとして企業社会の公正な競争への新たな障害となりつつあるのです。上述の研究会報告書によると、アルゴリズムカルテルに分類されるものとして、①監視型アルゴリズム、②アルゴリズムの並行利用による協調的行為、③シグナリングアルゴリズムを利用する行為、④自己学習アルゴリズムによる協調的行為に分けられます。〈図表1.アルゴリズムカルテルの分類〉①監視型アルゴリズム競争事業者間で価格カルテルなどの合意が行われている場合に、その合意の実効性を確保する目的で、競争事業者の価格情報等を収集したり、合意からの逸脱がある場合に報復したりするために価格調査アルゴリズムを用いる類型②アルゴリズムの並行利用による協調的行為アルゴリズムが競争事業者間の価格を同調させる役割を果たす類型。さらに競争事業者以外の第三者が慣用するかどうかにより、ⅰ)競争事業者間で価格カルテルなどの合意が行われている場合にその合意に従って価格を付けるように設定されたアルゴリズムを当該事業者間で用いる場合、ⅱ)複数の競争事業者が同一の第三者(価格アルゴリズムベンダーなど)が提供するアルゴリズムを利用することにより価格が同調する場合とに分けられる。③シグナリングアルゴリズムを利用する行為値上げのシグナリングを行うとともに、それに対する競争事業者の反応を確認するためにアルゴリズムを用いる類型。シグナリングを行う事業者は継続的に将来の値上げの意図に係る情報などのシグナルを送るとともにそれに反応して他の事業者が送るシグナルを監視する。④自己学習アルゴリズムによる協調的行為各競争事業者が機械学習や深層学習を利用して価格設定を行った結果、互いに競争的な価格を上回る価格に至る類型。各事業者は自己学習アルゴリズムを利用して価格設定を行うだけで相互に価格を同調させる意思がなくても自己学習アルゴリズム間の相互作用により競争的な価格を上回る価格に至る可能性がある。〈図表2.アルゴリズムカルテルの分類(図解)〉(デジタル市場における競争政策に関する研究会報告書「アルゴリズム/AIと競争政策」(概要)より)以上の類型のうち特に重要なものは、アルゴリズムの並行利用による協調的行為(類型②)であり、さらにそのうちの第三者が関与する場合ⅱ)が問題とされています。前述のとおり、第三者が関与する場合としては、複数の競争事業者が価格設定アルゴリズムのベンダーなどの同一の第三者が提供するアルゴリズムを利用することによって価格が同調する場合が問題です。たとえば、複数の競争事業者が、特定のアルゴリズムベンダーにそれぞれの価格を同調させるような価格設定アルゴリズムを開発させ、そのアルゴリズムを利用する場合などです。また、利用事業者間に価格を同調させる意思はないものの、特定の市場において利用される価格設定アルゴリズムの大半を提供しているベンダーが、利用事業者に知らせずに、利用事業者間の価格を同調させるアルゴリズムを提供する場合も、協調的な価格設定をもたらすといわれています。3.アルゴリズムカルテルと独占禁止法⑴不当な取引制限(カルテル)規制の概要独占禁止法は、複数の事業者が相互に連絡を取り合い、各事業者が個別に自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為を不当な取引制限として禁止しています(カルテルの禁止)。独占禁止法はカルテルを共同行為として禁止行為としているため、他の事業者と「共同して」行うことが要件とされています。「共同して」行うとは、複数の事業者に相互に「意思の連絡」があることが必要であるとされています。ただし、合意は「明示」に行われる場合だけではなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、これを暗黙で認容する「黙示」による意思の連絡をも含むと解されています。すなわち、競争者間の明示的な合意は認められなくとも、各事業者による独立の価格設定(後記の意識的並行行為)とは評価できないような場合には、並行的な価格の引上げといった外形的な事実に加え、それが独立の行動によって行われたことを排除する事実等によって、黙示による意思の連絡が推認されます。また、事業者が競争事業者の価格引上げを観察して、自らも追随することが利益になると判断して、自らも値上げをすることを決定する場合など、事業者間にコンタクトがなく、それぞれが独立して価格決定した結果、同じ価格水準に至ることもあり得ますが、このような行為は意識的並行行為と呼ばれて、カルテル規制の対象とはされていません。このように、独占禁止法のカルテル規制では、競争事業者間の相互の意思の連絡が要件とされていることには注意が必要です。この点、アルゴリズムカルテルにおいては、競争事業者間の意思の連絡の認定に関して、アルゴリズムを介した協調行為であって、従前のカルテルのように人間同士の会話や文書による合意が存在しないために立証が困難であるといわれています。そこで、黙示的意思の連絡の認定が問題となり、同一アルゴリズムや同一データソースを利用することで、結果的に競争事業者間の価格戦略が一致することで意思の連絡が推認される場合があります。その際、価格変動の同期性、アルゴリズム設計の共通性、ベンダーを介した情報共有などが意思の連絡を推認する際の間接事実となります。⑵ハブアンドスポーク型カルテルの意義ところで、前述したような第三者である同一のアルゴリズムベンダーを複数の事業者が利用することによって価格が同調する場合は、当該第三者を中心(ハブ)として価格が同調することから、ハブアンドスポーク型カルテルと呼ばれています。アルゴリズムベンダーを介したハブアンドスポーク型の価格協調行為は、スポーク(アルゴリズム利用事業者)間で情報交換を行わない場合やスポークが価格を同調させるアルゴリズムの存在を知らない場合であっても(結果的に)価格の同調がもたらされることがあります。そして、競争事業者間に意思の連絡が要件とされている独占禁止法のカルテル規制の適用において、アルゴリズムを利用した価格協調的行為については、競争事業者間の意思の連絡が明確ではなくその適用に困難を伴うことが少なくありません。特にアルゴリズムベンダーを介したハブアンドスポーク型カルテルにおいては、アルゴリズムを利用する競争事業者間で情報交換を行わなくても、それぞれの価格を同調させることができるため、価格の協調はあくまで結果に過ぎないともいえます。また、値上げを公に発信するシグナリングアルゴリズム(図表1③)においても、競争事業者に向けた価格引上げの勧誘とみるかあるいは通常の事業活動であるかの区別は困難です。さらに、自己学習アルゴリズム(図表1④)の場合、アルゴリズム利用の結果として価格の協調がもたらされているにすぎず、事業者間に協調的意思が存在しない場合もあります。またハブアンドスポーク型において、競争事業者間で情報交換を行わずに価格を同調させるためにはハブであるアルゴリズム提供者の役割が重要となり、アルゴリズム提供者が協調的行為において積極的役割を担うこともあります。⑶アルゴリズムカルテルに対する独占禁止法適用上の問題点さらに、アルゴリズムカルテルに対する独占禁止法適用上の問題点について検討します。ここでは特に問題の大きい、監視型アルゴリズム(図表1①)と並行利用型アルゴリズム(図表1②)について説明をします。アまず、監視型アルゴリズムについてです。ここにおいて、合意の実施を監視するためにアルゴリズムを用いる場合および合意に従った価格設定を自動で行うためにアルゴリズムを並行利用する場合においては、アルゴリズムを利用して合意の実施状況を監視したり、合意に従った価格設定を行っているものの、アルゴリズムの利用以前に一定の行動を取ることについて複数事業者の合意が存在するためにカルテルとなり得るとされています。これらの場合において、アルゴリズムは、合意参加者の合意からの逸脱の監視や逸脱に対する報復、合意に従った価格設定を自動化するなど、合意の実施を促進する役割を果たしているものです。イ次に、並行利用型アルゴリズムについてですが、これは前述したハブアンドスポーク型になります。ハブアンドスポーク型については、競合関係にある複数のアルゴリズム利用事業者が、同一の第三者から提供されるアルゴリズムを用いることにより価格が同調することについて共通の認識がある場合と、利用事業者には当該アルゴリズムを利用することにより価格が同調するという認識はないものの、同一の第三者が、複数の利用事業者にそれぞれの価格を同調させるようなアルゴリズムを提供する場合とに分けることができます。前者の利用事業者間に価格が同調することの共通の認識がある場合については、複数の競争事業者が、同一のベンダーや事業者団体といった同一の第三者が提供する価格設定アルゴリズムを利用することによって相互に価格が同調することを認識しながら当該アルゴリズムを用いる場合や、価格設定アルゴリズムを提供するプラットフォーム事業者がすべての利用事業者の販売価格に同じ割引率の上限を課すことを利用事業者に周知し、利用事業者がそれを認識しながら利用する場合などは、利用事業者間において直接・間接の情報交換はない場合でも、利用事業者間で価格が同調することの共通の認識があると考えられます。そのような認識のうえで当該アルゴリズムを利用している場合には、利用事業者による独立の価格設定とは評価できず、利用事業者間に意思の連絡が認められ、カルテルとして独占禁止法違反となり得ると考えられます(注3)。また、後者の利用事業者には価格が同調することの認識はないものの、アルゴリズムの提供事業者が複数の利用事業者の価格を同調させる場合、たとえば、特定の市場において利用される価格設定アルゴリズムの大半を提供している事業者が、利用事業者に知らせずに、利用事業者間の価格を同調させるアルゴリズムを提供するような場合には、利用事業者間の意思の連絡を認めることはできませんが、利用事業者間の価格の同調を主導したアルゴリズム提供事業者の行為は、一定の場合には独占禁止法違反(支配型私的独占)となり得ると考えられます。4.アルゴリズムと独占禁止法(競争法)に関する国内外の動向⑴国内の動向について-食べログ事件価格アルゴリズムと独占禁止法に関する最近の事例として食べログ事件があります。これは、飲食店のポータルサイトの一つである食べログを運営する株式会社カカクコムが実施した(価格)アルゴリズムの変更が独占禁止法に違反するかが問題となった事案です。すなわち被告が食べログにおける飲食店の点数(評点)を算出するためのアルゴリズムに同一運営主体が複数店舗を運営している飲食店(チェーン店)の評点を下方修正する変更を実施したのに対し、ユーザーである原告が被告によるアルゴリズムの変更が優越的地位の濫用に当たるとして、独占禁止法違反を理由とする損害賠償請求ならびにアルゴリズムの使用差止請求をし、一審は、被告の行為は優越的地位の濫用に当たるとして損害賠償請求を認容し、差止請求を認めませんでした(東京地判令和4・6・16LEX/DB【文献番号】25593696)。これに対し、控訴審は、控訴人(原審被告)の敗訴部分を取消しています(東京高判令和6・1・19裁判所WEBhttps://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/890/092890_hanrei.pdf)。なお、本事件はわが国で初めてのアルゴリズム変更の独禁法違反性を争点としたもので社会的にも大きな注目を集めました。本稿は判例評釈ではないので同事件を巡る諸検討については各評釈を参照いただくこととして詳細には触れませんが、いわゆるデジタルプラットフォームが優越的地位に該当することならびにアルゴリズムベンダーによるアルゴリズム変更が独占禁止法違反の可能性を生じ得ることを判示した点で重要な意義を有すると考えます。⑵海外の動向米国においては既にアルゴリズムが価格決定や取引条件に何らかの形で影響することによって競争の制限が生じたとして、市民または連邦政府もしくは州政府によって、ソフトウェア運営事業者や当該事業者と取引を行っていた関係者に複数の訴訟が提起されるとともに、各州などにおいて一定のアルゴリズムによる価格決定を禁止する法律または条例が制定されるに至っています。特にアルゴリズムを用いた値付けが反トラスト法(シャーマン法)に違反するかどうかが多くの訴訟の争点となっています。アルゴリズム価格設定が問題とされている業界としては、ホテル事業(ホテルの客室価格の設定)、医療保険業界(医療報酬の設定)、賃貸マンション事業(賃料の価格設定)などがあります。アルゴリズム価格設定に係る訴訟のうち最も注目を集めている事件としてはRealPage事件があります。同事件は、RealPage社のソフトウェアを利用する家主から、アパートの賃料等の非公開かつ競争上重要な情報を、当該ソフトウェアの訓練等のために収集した上で、賃料価格や他の条件を含む「推奨値(recommendations)」を共通のアルゴリズムを用いて生成し、算出した推奨価格に従ったことが価格固定の合意とみなされたというハブアンドスポーク型の事案です。現時点(2026年1月)においてまだ裁判所による重要な判断はされていない状態です(注4)。5.おわりにアルゴリズムカルテルに関する議論が本格化してまだ間もなく、明確な基準が示されているというわけではありません。この点、公正取引委員会が2025年6月20日に公表した「実効的な独占禁止法コンプライアンスプログラムの整備・運用のためのガイド」(令和7年6月改訂版)(注5)においてアルゴリズムカルテルについて、「競争事業者の価格の調査や自社の商品・役務の価格設定にアルゴリズムが活用されるようになっていることに伴い、カルテルの合意や実施がより容易になったり、新たな形態の協調的行為が出現」しているとして注意喚起をしています。確かにAIの進歩により様々なアルゴリズムベンダーから次々と提供されるサービスは事業者にとって利便性が高く、競争力の強化にも資する魅力あるものではありますが、そのようなサービスを活用した事業活動には独占禁止法違反のリスクも伴い、いつの間にか自社が、例えばハブアンドスポーク型カルテルに関わっていたなどということがないように、平時から高い独占禁止法コンプライアンス意識を持ちながら利活用をするように努める必要があります。<注釈>https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/mar/210331_digital.html矢吹公敏「実務解説『事業者間の協調行為』となるケースとは『アルゴリズムカルテル』による独禁法違反リスク回避の留意点」経理情報1756号(2025年10月)58頁以下アルゴリズム・AIによる意思の連絡があり得るか、という点については、これをハブアンドスポーク問題の一つとして捉えられるものの、アルゴリズム・AIを道具として用いて伝統的な意味での意思の連絡が行われるということはあるが、人や組織の作用があるわけではないのにアルゴリズム・AIが独自に動いて価格の斉一化などをもたらした、というに過ぎない場合は、意思の連絡と扱って人や組織を法的に非難するというコンセンサスは、まだない、という指摘があります(白石忠志『独占禁止法〔第4版〕』(有斐閣・2024年)234頁)。しかし、その後の技術の進歩状況を見ると、アルゴリズムベンダーによるアルゴリズム等の設定が恣意的に行われることへの懸念は払拭し切れず、法的対応の可能性については引き続き検討が必要と思われます。池田武義・浅尾昇太・赤川圭「海外紛争解決トレンド(59)米国におけるアルゴリズムによる価格設定に関する訴訟の動向」JCAジャーナル73巻1号(2026年1月)47頁以下https://www.jftc.go.jp/dk/250620_compliance_tougoguide.pdf提供:税経システム研究所
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2026/03/12 会計レポート
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(24)
1.岡本[2000]による販売費及び一般管理費の分類と販売費分析という意味このシリーズの(19)で、販売費及び一般管理費を分類するにあたり、一橋大学岡本清名誉教授の名著『原価計算』の最新版である六訂版[岡本,2000]では、販売費は、これを経常的に製品へ配賦されることはなく、一般管理費とともに、期間原価として当該会計期間の収益と対応して計算するので、販売費の計算では、販売費会計(marketingcostaccounting)とはいわずに、販売費分析(marketingcostanalysis)というほうが普通である[p.700]と述べていることを説明しました。そして、岡本[2000]は、一般的に行われる販売セグメント別分析として、①製品品種別分析、②販売地域別分析、③顧客種類別分析、④注文規模別分析、⑤販売経路別分析の5項目をあげています[p.700]。2.岡本[2000]による製品品種別分析(その5)(1)貢献利益法の計算例による個別投下資本製品貢献利益率増加の原因分析岡本[2000]は、貢献利益法によって製品貢献利益が増減する原因の分析方法を説明しています[pp.707-708]。以下、このシリーズの前々回(22)で提示した数値例にもとづいて、個別投下資本製品貢献利益率の増減分析について説明します。まず、前々回(22)で提示した数値例《資料》の一部を再掲します。《資料》ここで、個別投下資本製品貢献利益率を分析するときの基本的な考え方について補足説明します。一般的に資本利益率は、(1)式のように、利益額を投下した資本額で割って計算します。資本利益率=利益/資本・・・(1)資本利益率は、(2)式のように、売上高利益率と資本回転率の積として分解できます。資本利益率=売上高利益率×資本回転率=利益/売上高×売上高/資本・・・(2)個別投下資本製品貢献利益率を、(1)式に当てはめると、(3)式のように示すことができます。個別投下資本製品貢献利益率=製品貢献利益/個別投下資本・・・(3)個別投下資本製品貢献利益率を、(1)式から(2)式へと同様に変形すると、(4)式のように示すことができます。なお、(4)式の「売上高」とは、製品別の売上高である点に注意してください。個別投下資本製品貢献利益率=売上高製品貢献利益率×個別投下資本回転率=製品貢献利益率/売上高×売上高/個別投下資本・・・(4)岡本[2000]では、個別投下資本製品貢献利益率を(4)式のように分解し、個別投下資本製品貢献利益率が増減する原因を、売上高製品貢献利益率の増減と個別投下資本回転率の増減という2つの要素に分けて分析しています。①売上高製品貢献利益率の増加による個別投下資本製品貢献利益率の増加②個別投下資本回転率の低下による個別投下資本貢献利益率の減少③個別投下資本製品貢献利益率の増加岡本[2000]は、以上のように個別投下資本製品貢献利益率の増減原因分析に関する分析方法を示しています。前々回の解答例においては、20x2年の個別投下資本製品貢献利益が前年比で560,000円、20x2年の個別投下資本製品貢献利益率が15.00%(=65.00%-50.00%)増加していました。今回の分析の結果では、個別投下資本製品貢献利益率の増加が14.97%となっていますが、これは、計算途中の端数の影響によるものです。(2)個別投下資本製品貢献利益率増減分析の意義前回(23)では、製品貢献利益の増減を分析しましたが、その分析は《資料》の下から3行目までの範囲を対象としています。この分析は、損益計算書の収益・費用構造を対象とした、経営の効率性を分析したものです。これに対して、今回は個別投下資本製品貢献利益率の増減を分析しました。この分析では、《資料》の下段2行を主な対象とし、この製品に投下した「個別投下資本」の収益性を検討しています。ある投資プロジェクトの成否を判断する基準のひとつとして、そのプロジェクトから得られる投下資本利益率が、そのプロジェクトに投下する資本の調達コストを超えているかどうかを検討します。資本の調達コストとは、借入金の場合であれば支払利息の年利だと考えていただいてよろしいと思います。なお、資本調達コストの計算については、様々な前提条件等があるので、ここでは詳細について割愛します。たとえば、この製品に投下した「個別投下資本」の調達源泉が年利5%の利息で契約した借入金であるとして、投下資本利益率が8%であれば、資本の調達コストを超えていますので、この製品への投資は、成功していると判断できます。しかし、この「個別投下資本」の調達源泉が年利5%の利息で契約した借入金であるとして、投下資本利益率が4%であれば、資本の調達コストを下回ることになりますので、この製品への投資は成功しているとはいえないと判断します。3.販売担当管理職が検討するべき事項前回(23)説明した製品貢献利益の増減分析、および、今回説明した個別投下資本製品貢献利益率の増減分析をふまえて、岡本[2000]は、当該製品の販売を担当する管理職(岡本[2000]では「支配人」といっています)が検討するべき事項をあげています[p.709]。ここでは、岡本[2000,p.709]に記載されている事項にそって、前回(23)の製品貢献利益の増減分析、および、今回の個別投下資本製品貢献利益率の増減分析の数値例を前提に、販売担当管理職が検討するべき事項をあげておきます。当該製品の市場における総需要量が増減した原因。自社の市場占有率が増減した原因。市場占有率の増減に伴う、次年度以降における設備投資増加の必要性。次年度における、販売単価の値上げまたは値下げの必要性。製品単位あたり変動販売費が増減した原因と、次年度以降の傾向。上述の課題を総合的に検討した結果、次年度における当該製品の予想貢献利益および予想個別投下資本製品貢献利益率の予測値。これらの事項のうち、①、②および④は、経済動向および市場に関する調査を必要とします。③は、社内のキャパシティを検討する必要があります。⑤および⑥については、管理会計・原価計算の様々な手法を用いて、検討することになります。参考文献伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。大蔵省企業会計審議会、1962「原価計算基準」大蔵省企業会計審議会。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎、2024a『検定簿記講義/1級工業簿記・原価計算下巻』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎、2024b『検定簿記講義/2級工業簿記』〔2024年度版〕中央経済社。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。提供:税経システム研究所
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2026/03/09 審査事例
「一族の信用保持のため」と、同族会社に23億円余りの無利息、無期限、無担保貸付け。倒産の危機にはなかったとして、受け取るべき利息相当額に課税された事例(棄却)
【裁決のポイント】同族会社の株主等が、無利息で会社に金銭を貸し付けた場合、金額、期間等の融資条件が会社に対する経営責任や社会通念上許容される好意的援助と評価できる範囲か、会社倒産により当該株主等が貸倒れや信用失墜により多額の損失を被ることを回避するためといった経済的合理性が必要である。本件の審査請求人とその親族は、株式投資を目的とするA社(本件同族会社)、不動産売買等のB社、グループ内のC社の経営に関与している。審査請求人は保有するB社株式をA社に29億円余りで譲渡し、A社は銀行借入で代金を支払ったが、1年後に返済期限が到来すると、審査請求人は定期預金から23億円余りをA社に無利息、無期限、無担保で貸し付けた(本件貸付け)。A社から審査請求人に全額が弁済されたのは4年9か月後である。税務署長は、本件貸付けに経済的合理性はないとして、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》を適用し、審査請求人が受け取るべき利息に係る所得と税額を計算して更正処分等を行った。審査請求人は、A社倒産により一族の信用失墜に伴う多額の損失を回避するための緊急かつ暫定的な貸付けで、租税回避の目的はないと主張した。国税不服審判所は、A社の財務状況等から、倒産の危機にあったとはいえず、本件貸付けは経済的合理性を欠くものであって、審査請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められると判断した事例である。(平成30年分から令和4年分までの所得税等の各更正処分、他・棄却、他・令和7年3月7日裁決)【主な争点】本件貸付けを無利息としたことは、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか。【裁決の要旨】所得税法第157条第1項の趣旨、内容からすれば、同項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、所得税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である。平成30年6月29日に行われた本件貸付けは、A社の融資の弁済を目的に行われたものと認められるところ、23億4,459万円という多額に及ぶ金銭を、無利息、無期限、無担保で貸し付けるものであって、その融資条件は、独立かつ対等で相互に特殊の関係のない当事者間で通常行われる取引とは大いに異なるというべきである。A社の収入は、そのほとんどがB社の株式の配当金である。本件貸付けがあった平成31年2月期には1億2,710万円の配当金の支払を受け、その後、配当金がおよそ倍増されたことに伴い、年間2億5,730万円となっている。A社の純資産合計は、平成30年2月末日時点では債務超過であったものの、それ以後は資産超過に転じ、年々増加している。このようなA社の財務状況を踏まえると、本件貸付けの当時、本件貸付けを無利息としなければA社に倒産の危険があったとはいえず、審査請求人がA社に対して無利息で本件貸付けをすることに合理的な理由を見出すことはできない。以上の諸事情を総合すると、本件貸付けを無利息にしたことは、「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するというべきである。【参照条文】所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》所得税法施行令第275条《同族関係者の範囲》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/03/05 会計レポート
公益法人制度の改正(12)
はじめに「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が、2024年(令和6年)5月に改正され、新たな公益法人制度が2025年(令和7年)4月から始まっています。この改正内容を受けて2024年(令和6年)12月に改正された「公益法人会計基準」(以下、改正会計基準)が公表されました。改正会計基準は、2025年4月1日からの適用とされていますが、経過措置として、2028年4月1日から適用することも認められています。今回は、改正会計基準のなかで、キャッシュ・フロー計算書の内容と表示方法について取り上げます。13.キャッシュ・フロー計算書(1)キャッシュ概念(資金の範囲)キャッシュ・フロー計算書は、一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を表す財務表であり、より具体的には活動区分間におけるキャッシュの動き(フロー)を表すものです。では、ここに言う「キャッシュ」とは何を指すのでしょうか。改正会計基準では、キャッシュ・フロー計算書が対象とするキャッシュを「資金」という用語に置き換えた上で、「現金(手許現金及び要求払預金)及び現金同等物」(改正会計基準、par.56)としています。要求払預金とは、「当座預金、普通預金、通知預金及びこれらの預金に相当する郵便貯金」(改正会計基準、par.56)であり、現金同等物は、「容易に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わない短期投資」(改正会計基準、par.56)であると説明されています。こうした「資金」という用語法及びその範囲については、企業会計における用語法や範囲と同一となっています。したがって、現金同等物については、「例えば、取得日から満期日又は償還日までの期間が3か月以内の短期投資である定期預金、譲渡性預金、コマーシャル・ペーパー、売戻し条件付現先、公社債投資信託が含まれる。」(連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準、注解2)との説明もまた妥当することになります。そして容易に換金が可能であるとしても、価値の変動についてリスクが高い売買目的有価証券等は、資金に含まれないことになります。なお、「寄付者等により使途の制約(機関決定による制約も含む)のある現金及び現金同等物」は資金の範囲から除かれることになります(改正会計基準、par.56)。この除外規定は、公益法人として、使途が指定された寄付等を受け入れた場合には、それは法人が自由に使用できる資金とは考えられないためです。ただし、貸借対照表からは、いかなる形態でどれだけ使途指定により拘束された資産が存在しているのかは、直接的にはわかりません。それは、財務諸表の利用者自らが、注記等を通して把握することになります。(2)表示区分キャッシュ・フロー計算書は、「事業活動によるキャッシュ・フロー」と「投資活動によるキャッシュ・フロー」、「財務活動によるキャッシュ・フロー」に区分して表示されます(改正会計基準、par.58)。事業活動によるキャッシュ・フローには、他の2つの表示区分、すなわち投資活動によるキャッシュ・フローにも、財務活動によるキャッシュ・フローにも属さないものが含まれます。そして投資活動によるキャッシュ・フローの区分には、「固定資産の取得等、将来に向けた活動基盤の確立のために行われる投資活動に係る資金」(改正会計基準、par.61)の動き(増減)が含まれます。他の具体例としては、固定資産の売却による収入や投資有価証券の売買による収入や支出等が含まれます。一方、財務活動によるキャッシュ・フローの区分には、「償還及び借入れ・返済による収入・支出等、資金の調達及び返済による」(改正会計基準、par.62)資金の動きが含まれます。このことから、キャッシュ・フロー計算書における財務活動とは、資金調達活動を指すと理解できます。なお、事業活動によるキャッシュ・フローの区分表示の方法には、企業会計のそれと同様に、直接法と間接法があります(改正会計基準、par.60(1))。直接法は、資金の動き(フロー、すなわち増加と減少)の金額をその原因ごとに表示する方法であり、間接法は、資金の動きを税引前当期収益費用差額を出発点としてそれに非資金損益項目や他の2つの表示区分には含まれる損益項目を加減算して、事業活動による純額のキャッシュ・フロー(直接法と同じ金額)を導くように表示する方法です(改正会計基準、par.60(1))。(3)表示区分に含まれる項目に関する補足事業活動によるキャッシュ・フローを直接法で表示する場合、資金の範囲に含まれない使途拘束資産として受け入れた寄付金等は、原則として、その受入額を事業活動によるキャッシュ・フローの区分に計上し、同額を「使途制約のある資産の取得支出」として事業活動によるキャッシュ・フローの区分に計上することになります(改正会計基準、par.60(2))。また法人税等に係るキャッシュ・フロー並びに受取利息や受取配当金、支払利息は、事業活動によるキャッシュ・フローの区分に記載することが求められています(改正会計基準、par.60(3)(4))。(4)キャッシュ・フロー計算書のひな型上述のとおり、事業活動によるキャッシュ・フローには、直接法と間接法の2つの表示方法があります。実務上は、その作成の簡便さ等から間接法が利用されると思われます。そこで、間接法に基づく、キャッシュ・フロー計算書のひな型を、【図表1】として示します。(5)キャッシュ・フロー計算書の注記キャッシュ・フロー計算書には、次のような重要な非資金取引を注記しなければなりません(改正会計基準、par.65)。ファイナンス・リース取引によるリース資産の取得固定資産の受贈(直接法による場合)リースについては、後のレポートにて説明いたしますが、改正会計基準では、リースの使用者側にあっても、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの2分類を行う会計処理を求めています。そのため注記として、ファイナンス・リース取引によるリース資産の取得という項目が挙げられることになっています。【図表1】(出所)「公益法人会計基準運用指針」(2024年12月)、pp.38-39.提供:税経システム研究所
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2026/03/02 審査事例
企業内の建築士の業務は何所得?「構造計算適合判定業務は建築士がリスクを負う、独立した第三者としての業務だから事業所得」の主張が認められず、雇用関係あり、給与所得と判断された事例(棄却)
【裁決のポイント】事業所得の「事業」とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうところ、該当するか否かは、自己の計算と危険による企画遂行性の有無、費やした精神的、肉体的労力の程度、人的、物的設備の有無、資金の調達方法、安定した収入源などの状況を総合的に検討し、社会通念に照らして判断される。審査請求人は建築士で、A社に取締役〇〇本部長として在籍し、週4日9時から17時半まで、A社において建築基準法の構造計算適合性判定業務を行うことで、収入(本件収入)を得た。社会保険料と交通費は自己負担であった。審査請求人は、本件収入は給与所得で確定申告及び修正申告をした後、事業所得であると更正の請求を行ったが、税務署は、建築士報酬とはいえないとして認めなかった。審査請求人は、構造計算適合性判定業務は、建築士として自己の計算と危険において独立して営まれた業務であると主張した。国税不服審判所は、審査請求人とA社との間で従業員としての雇用契約及び取締役としての委任契約が成立していたと認め、審査請求人はA社の指揮命令下にある、報酬面でリスクを負っていないこと等から、本件収入に係る所得は給与所得と判断した事例である。(平成30年分から令和元年分の所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対し更正をすべき理由がない旨の各通知処分、他・棄却・令和7年6月9日裁決)【主な争点】本件収入に係る所得は、事業所得か、給与所得か。【裁決の要旨】給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうと解するのが相当であり、給与所得該当性の判断に当たっては、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかを重視するのが相当である。審査請求人は、本件法人の本件判定業務を行う部署の本部長の肩書で、本件判定業務を行うとともに取締役会で議決権を行使し、また、本件法人は、本件収入を給与として源泉徴収に係る経理及び事務を行っていたのであるから、審査請求人と本件法人との間には従業員としての雇用契約及び取締役としての委任契約が成立していたと認められる。そして、審査請求人は、本件法人の建物で、内部規定に定める業務時間に本件判定業務を行っていたのであるから、本件法人の指揮命令下で、空間的、時間的な拘束を受けていたと認められるほか、本件収入は、本件判定業務の成果にかかわらず毎月定額であるから、審査請求人が報酬面でのリスクを負担していたとは認められず、審査請求人は自己の計算と危険によって本件判定業務を行っていたとはいえない。そうすると、本件収入に係る所得は、事業所得に該当せず、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与所得に該当する。【参照条文】所得税法第27条《事業所得》、第28条《給与所得》本情報は、裁決日時点での審査事例となります。裁決日以後、裁判所により別の判決が示される場合もございますので、あらかじめご了承ください提供:株式会社日本ビジネスプラン
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2026/02/27 経営レポート
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第23回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>当社は、祖父の代から東北地方の県庁所在地でニット製品の製造を行っている中小企業です。これまで、商社経由で百貨店・専門店で製品販売を行ってきました。1着丸ごと立体的に編み上げるホールガーメント技術を取り入れ、地場ニット企業として生き残っています。しかし、商社ルートの売上高が大手アパレルチェーン店との競合で低下を続けています。私の代になってから自社製品の直販を工場併設店舗で始めましたが、トータルの売上高は微減状況を続けています。今、工場が町中と郊外に二か所あり、そのうちどちらかに仕事を集約し、空いた方の工場を不動産として有効活用しようと考えています。不動産事業についてどのように考えればよいでしょうか。■ニット業界の状況地場のニット産業は、大手チェーン店の成長もあり、全国的に厳しい状況にあります。ここ数年、廃業の事例も増えている業種です。御社の場合、自社製品の開発を行い、直販しているということで努力している地場企業と言えると思います。御社は、国内メーカーが開発した縫い目のないホールガーメント技術を取り入れるなど努力していますが、大手チェーン店も同様の機能を持つ設備を海外協力工場に導入しています。大手は、企画から製造・販売までを統合したSPA(SpecialitystoreretailerofPrivatelabelApparel)という業態を確立してグローバルに販売体制を整備しています。商社を介した既存の間接販売ルートは衰退しており、さらに直接販売ルートを強化するには企画・開発力が問われます。また、商社ルートの製品と競合した自社製品を販売することは業界慣習的に難しいです。そのため、用途や機能の面で商社ルートの製品とは明確に異なるものを企画・開発する必要があります。その意味では、この市場環境下でニット事業が微減で踏みとどまっているのは、御社は努力している中小企業であると言えます。■繊維系企業の第二創業のパターン繊維系の産業には、社歴が長い企業が多く、編物、織物、紡績など様々なものがあります。すでに淘汰された企業も数多くありますが、新事業により事業構造を変革し、生き残っている事例から学ぶ必要があります。ここでは、経営情報が公開されているSUMINOE株式会社、日清紡ホールディングス株式会社、帝国繊維株式会社、サイボー株式会社の事例を見てみましょう。表1SUMINOE株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1883年、堺緞通(床敷物)で創業1891年、旧議事堂に高級カーペット納入鉄道、自動車用シート、内装材納入インテリア事業(カーペット等)自動車・車両内装事業(内装材):収益の柱機能資材事業(ホットカーペット等):赤字表1に示されている通り、SUMINOEは床敷物で創業した後、高級カーペット分野で地位を確立し、その後、繊維や素材の取り扱い能力を生かして自動車・車両内装事業に参入しています。現在の収益の柱は、自動車・車両内装事業となっていますから、製造業としての第二創業に成功していると言えるでしょう。表2日清紡ホールディングス株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1907年、紡績業で創業、高分子に進出1995年、日清紡都市開発設立(不動産)日本無線、新日本無線子会社化無線・通信(日本無線等):売上最大マイクロデバイス(日清紡MD):赤字ブレーキ(日清紡ブレーキ)精密機器(日清紡メカトロニクス)化学品(日清紡ケミカル)繊維(日清紡テキスタイル)不動産(日清紡都市開発):収益の柱表2に示されている通り、日清紡HDは、短繊維を撚り合わせて長繊維を作る紡績業で創業後、高分子技術を取り入れて化学繊維に力を入れてきました。M&Aを繰り返し、無線・通信事業、素材技術を応用したブレーキ事業等に多角化し、1995年に不動産子会社を設立しています。事業規模は無線・通信事業が大きいのですが、決算を見る限り収益の柱は不動産事業です。なぜ不動産事業に参入するかというと、工場等の遊休不動産の活用の余地が事業のリストラクチャリングを通じて生じたからです。グループが保有する遊休資産の活用や事業所跡地の再開発、オフィス・商業施設の賃貸、宅地分譲に取り組んできました。東京都足立区の西新井社宅跡地を賃貸マンションへ再開発した事例、古い事務所ビルをオフィスビルへ再開発した品川シティビルの事例等があります。歴史ある企業の場合、利便性の高い地域に遊休不動産を保有している場合もあり、その利活用の余地があったのだと言えるでしょう。表3帝国繊維株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1884年、紡績業で創業1902年、消防ホース参入1981年、不動産業に進出防災(消防ホース等):収益の柱繊維(高機能炭素素材等)不動産(SC向け土地賃貸等)表3に示されている通り、帝国繊維の場合も紡績業としての創業ですが、その後、消防ホースというニッチ市場を見つけ、事業機会をつかみ現在の収益の柱としています。不動産事業は、工場跡地をイオンタウン大垣にする等の遊休資産活用を行ったものです。不動産業も収益を計上していますが、利益構造的には製造業として生き残っていると言えます。表4サイボー株式会社の事業構造の変化祖業現在の事業構造、2025年5月期1948年、紡績業で創業、化繊に進出1984年に不動産業に進出繊維事業(原料、ユニフォーム等):赤字不動産業(商業施設、病院施設):収益の柱その他(ゴルフ練習場)表4に示されている通り、サイボーは紡績業として創業し、その後、ユニフォームに力を入れてきたのですが、繊維事業は収益面で苦しいようです。現在の収益の柱は不動産事業となっています。不動産事業では商業施設・病院施設に埼玉県川口市の遊休土地を貸し出しています。商業施設としては、イオンモール川口前川、イオンモール川口があり、病院施設としては、かわぐち心臓呼吸器病院、かわぐちレディースクリニック、2021年に医療モールとしてメディパーク川口前川Ⅱを開発し、支援事業としてビルメンテナンス業務も行っています。これらの事例を見てわかるとおり、戦前・戦後に創業した繊維産業は、二度のオイルショックを経て、他産業より先に縮小し、多角化を進めてきたのです。事業リストラクチャリングの一環で、工場や社宅、ビル等の遊休資産が生じ、その有効活用策として不動産事業が立ち上がっています。ここに掲げた4事例のうち、1.製造分野でより大きい市場をつかんだ事例(SUMINOE)、2.製造分野の新事業も確立されているが不動産事業が収益の柱となっている事例(日清紡HD)、3.不動産業にも進出しているが製造事業の方が収益の柱となっている事例(帝国繊維)、4.不動産業が主力事業となっている事例(サイボー)と分類できます。このように繊維産業では、不動産事業で稼いでいる事例が一定数あることが見て取れます。■不動産をどのように活用するかここまで述べたように繊維産業では不動産業に進出して成果を上げている事例が多いということが言えるでしょう。一方、御社が不動産事業をうまく立ち上げるには課題がいくつかあります。表5不動産事業を立ち上げる際の諸課題1.東北地域の人口減少への配慮2.用途の決定(商業、住宅、他)3.ビジネスパートナーの選定まず、御社は不動産事業に目を向けるのが時期的には少し遅かったかもしれません。先に記した不動産に進出している3事例を見ると、その進出時期は、繊維産業の退潮とまだ日本の人口成長の重なっていた1980年代から1990年代に集中しています。この時期に長期の賃貸借契約を結び、そこで得た資金を県外の成長地域の不動産に投入しておけば、今頃キャピタルゲインを得ることが出来ていたでしょう。今遊休資産の有効活用により不動産業を始める際に重要なのは、御社の立地している東北地方の県では人口減少が全国トップクラスで生じている現状を勘案することです。宮城県仙台市とその周辺に東北の人口は引き寄せられており、それ以外の地域は急減が続いています。御社は、仙台市ではありませんが県庁所在地に立地しているということでまだ人口の減り方は相対的にマイルドです。しかし、投資に対するリターンの面で、人口状況に依存する事業計画の場合リスクがあります。そのリスクに配慮して事業展開していくことになります。長期的収益が確実に見込める場合ですと、「大きく投資して大きく儲ける」というスタイルの事業計画が可能です。一方、リスクが見込まれる場合は、他の企業と連携してリスク分散していくなどの投資方法を考慮することが有益となります。次に考えるべき課題は、商業施設、住宅等の用途から、地域ニーズに合致するのはどれかを明らかにする必要があるということです。サイボーの事例のように、ショッピングモール等に土地を貸して、長期契約を締結し安定した地代が長期的に入ってくるのは魅力です。サイボーが不動産事業に進出していた当時、埼玉県南部は人口が増加していて、減少傾向が見られるようになったのは最近のことです。御社の現在とは事業環境が明らかに異なっています。また土地の大きさと立地次第で、何が向いているかは異なってきます。二つの工場のどちらが、どの事業に適しているかを専門家とディスカッションして考えていく必要があります。また、商業施設の場合、テナントの競争力があるかどうかに依存します。人口減少が進む地方圏では、中小の地場スーパーの廃業も各地で見られます。それに対して、食品スーパー大手は連結売上高1兆円を目指した戦いをしています。国内の人口が減少していく中で、勝ち組として生き残る企業と組まなければなりません。市場競争に敗れて倒産する脆弱なテナントを入れてしまうと収入が途絶えてしまうので、そこに注意が必要です。住宅の分譲や賃貸を選ぶ場合は、高齢化社会では徒歩圏に色々な施設が集中していること、集合住宅の場合は共有部分の機能や公共機関との連携が優れていることが魅力となります。最終的には、人口減少地域においても人が集まるような魅力を持つ施設を作るためのビジネスパートナーを連れてくることが最も重要となります。繊維産業による遊休不動産の利活用には成功例が多数ありますので、それらの成功要因を理解し、その上で表5に示される諸課題を意識して新事業を検討することが求められるでしょう。提供:税経システム研究所
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関連項目 経営レポート,企業経営 -
2026/02/27 経営レポート
昨今労務事情あれこれ(219)
1.はじめにスマホひとつで簡単に借りることができるシェアサイクルが街角で多く見られるようになり、日頃から便利に使っている方もいらっしゃることと思います。自転車は老若男女を問わず手軽に扱える乗り物でもあり、企業においても、通勤時に最寄りの駅や職場まで自転車を利用している従業員は少なくないと思われます。自転車は法令上「軽車両」、つまり車両の一種です。免許は不要でも自転車乗車中は「ドライバー」。しかし、あまりに手軽すぎるが故に、傘やスマホを手にした片手運転や信号無視、歩道を高速で走り抜けるなど、マナーや法令遵守の自覚なき自転車ドライバーを多く目にすることは残念なことです。自転車というと、これまでは歩行者と同様に「交通弱者」として保護され、常に事故の被害者となってしまうようなイメージもありました。しかし、近年の電動アシスト自転車の普及に伴い、従来よりも速い速度での走行が可能となったことや車体の重量が大きく増加したために、停止中の自動車や歩行者との接触・自転車同士の衝突時には双方に与えるダメージが大きくなり、重大事故の加害者となるケースも多くみられています。このような状況に伴い、令和5年4月の道路交通法改正により、いわゆる「ながらスマホ」の禁止と罰則化、自転車乗車時のヘルメット着用(努力義務)などが行われてきましたが、令和8年4月1日からは自転車の交通違反に対し「交通反則通告制度」が開始されます。自動車を運転する方の中には、駐車違反や一時停止違反などの軽微な交通違反で青色の告知書(青切符)を交付されたという経験がある方もいらっしゃると思いますが、自転車に対しても、違反時には同様の取り扱いが開始されることになります。それに伴い、「信号無視」「一時不停止」「右側通行」など歩行者や他の車両にとって危険性・迷惑性が高い違反行為は青切符の交付により検挙される可能性があります。今回の自転車による交通違反の取り締まり厳格化をきっかけとして、通勤時や業務中などに事故が発生した場合をはじめ、注意しなければならない点がいくつか浮かびあがってきます。企業側としてどんな点に注意をしなければならないかを考えてみたいと思います。2.自転車事故の発生状況警察庁が発表した交通事故に関する統計(注1)によると、令和6年に発生した自転車関連事故件数は67,531件であり、10年前(平成26年)の約109,269件と比べると約40%減少しています。一方で、交通事故全体に占める自転車関連事故の割合は23.2%(令和6年)となっており、令和に入って以降は、毎年、交通事故件数の2割以上を自転車関連事故が占めるという状況が続いています。また、令和6年に発生した「自転車乗用中の死亡・重傷事故」のうち約75%(5,375件)は自転車側に法令違反があり、その態様は80%以上が「出会い頭」「右左折時」といった交差点での事故となっています。自社の従業員が事故の被害者となった時のことはもちろんですが、自転車を使用した業務中や自転車通勤の際に事故の加害者となってしまった時の対応も想定しておかなければなりません。どのような対応を考えておくべきなのでしょうか。3.自転車事故にまつわる企業としての対応【自転車を使用して業務中に加害者となった事故の場合】従業員が自転車を使用して業務を行っていた際に人身・物損など第三者に損害を与えてしまった場合には、会社は民法に定める「使用者責任」(715条)を問われることになります。使用者責任は、非常に幅広く適用されるものとされており、仮に会社側に何の落ち度がなかったとしても、多くの判例において免責は認められていません。例えば、日頃、徒歩や公共交通機関による移動で業務を行っている従業員が、会社に知らせることなく出先でシェアサイクルを利用して移動していた時に事故の加害者となった場合でも、客観的に見て「業務に関連する行為」とされれば、会社は損害賠償を免れることができません。死亡事故などの場合、5,000万円を超える賠償が命じられた例もありますので、もし、自社が使用者責任に基づいて賠償する義務を負うとなれば金銭的にも甚大なダメージを負うことになります。こうした事態を想定して、自転車事故でも賠償をカバーできる保険に加入しておくだけでなく、日頃から従業員にも十分に安全意識を高める教育を徹底しておきましょう。【自転車通勤の際に事故の加害者となった場合】先述の通り、自転車は法令上「軽車両」であることから、走行に当たっては多くのルールが定められているのですが、気軽な乗り物故にルールやマナーの周知が徹底されておらず、それが原因で事故の加害者となってしまうことがあります。通勤途中に第三者に損害を与えてしまった場合、上記の「使用者責任」が問われることになるのかが気になるところです。一般的には通勤時(=業務外)であれば、第一義的には当事者である従業員に賠償責任があると考えられます。しかし、当事者である従業員が十分な賠償をすることができないとなった場合に、被害者が「使用者責任」を持ち出して会社側に賠償を求めてくる、という事態は十分に考えられることです。会社が賠償に応じるか否かはその時々の判断となりますが、そもそも、従業員が金銭的な賠償を十分にできない…といった事態を避けるため、自転車通勤を行う従業員に対して、相応な金額の「個人賠償責任保険」に加入することを条件に、自転車通勤を許可する等の方策が考えられます。【業務中・通勤中に事故の被害者となってしまった場合】業務中の事故により従業員がケガを負ってしまった場合は労働災害として、労災保険の各種給付が行われます。また、自転車通勤をしている従業員が通勤途中で事故の被害者となった場合も、原則的には通勤災害として労災保険の各種給付が行われます。この場合、通勤災害として認められるためには労災保険法で明示されている「通勤」の定義に当てはまるかどうかによって判断されることになります。労災保険における「通勤」の定義「就業に関し」「①住居と就業の場所との間の往復②就業の場所から他の就業の場所への移動③住居と就業の場所との間の往復に先行しまたは後続する住居間の移動」を「合理的な経路および方法により行うこと」をいい、業務の性質を有するものを除く一言でいえば、「自宅と会社の往復以外は通勤として認められない」が原則ですが、実際の取り扱いは、出退勤途中に病院に立ち寄る、生活必需品の購入のためスーパーに立ち寄る等の経路の逸脱については、通院や買い物終了後に通常の経路に戻れば、戻った後は再び「通勤」として認められることとなっています。一方、いわゆる「寄り道」として、退勤時に習い事やスポーツジムなどに立ち寄る、または飲酒等により経路を逸脱した場合については、その後に通常の経路に戻ったとしても、逸脱後は通勤とは扱われません。そもそも飲酒後の自転車運転は飲酒運転ですので絶対NGです。また、自転車通勤をするか否かに関わらず、会社に通勤経路等を届出させることは通常行われていることと思いますが、仮に、ここで届出をした経路と違う場所で事故に遭ったとしても、それが一般的に考えうる合理的な経路であれば通勤災害として認められることになります。また、通勤手段として公共交通機関を届出していた社員が勝手に自転車通勤をして被害にあったような場合でも、その経路が上記の定義に合致していれば通勤災害として認定されます。(届出していた経路と方法で通勤していなかったという別の問題は残りますが、それは通勤災害の判断とは無関係です)さらに、通勤や業務で自転車を使用する際の社内規定を整備しておくようにしましょう。以下のような項目を中心に明文化しておくことにより、万一事故が発生した場合の責任の所在が明確になります。1.運行管理自転車の使用が認められるのはどのような場合か。その場合の手続きはどのようにするのか、賠償に備えた保険の内容(通勤に使用する場合)2.安全運転管理交通関係法令や交通ルールの遵守日頃の安全運転指導の方法など3.事故が発生した時の対応事故現場で取るべき行動通勤中・業務中の場合の社内での連絡先・連絡方法など4.規定に違反した場合の罰則規定に違反した場合にどのような制裁・処分が行われるかの明確化「自転車でここまでやるの?」と思われる向きもあるかもしれませんが、事が起きてから慌てることのないよう、十分な対策を整えておきたいものです。<注釈>自転車ポータルサイト「事故違反の発生状況」(警察庁)https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/portal/accident.html提供:税経システム研究所
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2026/02/27 商事法レポート
親会社取締役の子会社管理責任
1はじめに親子関係にある会社において、子会社に不祥事が生じた場合、子会社の役員に子会社に対する責任問題が生じるのは当然のことです。では親会社の役員は、子会社の不祥事に関し、親会社に対し責任を負うことになるのでしょうか。親会社は、本来、子会社の株主にすぎず、これだけでは、子会社において不祥事が生じないよう注意すべき義務は負ってはいません。しかし、現行会社法は、取締役会の義務として、自社(親会社)・子会社からなる企業集団における内部統制の整備を義務づけています(会362条4項6号)。したがって子会社に不祥事が生じても、親会社の取締役は常に漫然とこれを看過していて良い訳ではありません。しかし、親会社の取締役が一般的に子会社を管理・監督する責任を負っているか否かに関しては、会社法上明確な規定がありません。そこで、本稿では、どのような場合に親会社の取締役が子会社の管理責任を負うことになるのかについて、学説・判例の状況を概観したいと思います。2親会社取締役における子会社管理義務の有無本来、株主が、自己の株主としての権利を行使するか否かは自由です。したがって、従来は、親会社の取締役が子会社管理のために株主権を行使しなかったとしても、原則的には責任は生じないとするのが多数説でした。その代表例である東京地判平成13・1・25判例時報1760号144頁(野村證券株主代表訴訟)は、親会社の米国100%孫会社が、ニューヨーク証券取引所に米国証券取引委員会規則違反を理由として課徴金を納付した事案です。親会社の株主が親会社の取締役に損害賠償を求めた株主代表訴訟においては、以下のように判示されています。すなわち、「親会社の取締役は、特段の事情のない限り、子会社の取締役の業務執行の結果子会社に損害が生じ、さらに親会社に損害を与えた場合であっても、直ちに親会社に対し任務懈怠の責任を負うものではない」。もっとも「親会社と子会社の特殊な資本関係に鑑み、親会社の取締役が子会社に指図をするなど、実質的に子会社の意思決定を支配したと評価しうる場合であって、かつ、親会社の取締役の右指図が親会社に対する善管注意義務や法令に違反するような場合には、右特段の事情があるとして、親会社について生じた損害について、親会社の取締役に損害賠償責任が肯定されると解される」というものです。しかし平成9(1997)年の独占禁止法の改正により純粋持株会社が解禁されたことを契機として、純粋持株会社の取締役は、対外的な事業活動を行わず、株式所有を基礎にして他の会社(子会社・孫会社)を支配しこれを統括管理することになるため、持株会社の株主の利益保護のために子会社を支配し管理する義務を負うことになると解されるようになりました。平成26(2014)年改正会社法における法制審議会会社法制部会では、会社法中に株式会社は子会社を管理・監督しなければならない旨の明文規定を置くか否かで積極・消極双方の立場の意見が厳しく対立しました。反対意見は、この場合の監督義務の範囲は不明確であり、これを明文化することはグループ経営に萎縮効果をもたらすと主張しており、結局、明文規定の設置についてはコンセンサスが得られず、明文規定の設置は見送られ、かわりにコンセンサスが得られた多重代表訴訟制度が創設されました(注1)。しかし、この部会では、親会社の取締役には、会社の資産である子会社の株式の価値を維持するために必要・適切な手段を講ずべき善管注意義務が要求されており、取ることのできる手段を適切に用いて対処するのは、当然この義務の内容に含まれるとする見解もあり、現在では、むしろこれが一般的な考え方となっています(注2)。3親会社取締役の責任類型子会社の取締役の不正行為に関して親会社の取締役が親会社に責任を負う場合は、①当該不正行為が親会社の取締役の違法または不当な指図に基づく場合(親会社取締役関与類型)、②親会社の取締役が子会社に対する監視・監督を怠った場合(企業グループにおける内部統制システムの整備を怠った場合も含まれる)(親会社取締役不作為類型)、③親会社取締役が不正行為を行った子会社取締役に対する責任追及を不当に怠った場合があります(親会社取締役懈怠類型)(注3)。そして、②は、さらに、(ⅰ)グループ内部統制システムの構築・運用を怠った場合(内部統制システム構築・運用懈怠類型)と、(ⅱ)不正な業務執行に対する必要な調査・是正の対応を怠った場合(調査・是正措置懈怠類型)に分かれます(注4)。これらの場合、親会社の取締役は親会社に対し善管注意義務違反による損害賠償責任を問われることになります。4子会社管理の手法親会社取締役における子会社管理の手法は多様であり、①子会社の人事から経営全般について親会社が強力な支配力を行使するか、それとも子会社の独立性を尊重するか、②子会社側の経営判断上の意思決定にまで深く介入するか、あるいは子会社の取締役の自主的判断に委ねるが、その意思決定についての適法性や妥当性の面で逸脱して親会社側に不利益が及ばないよう監視・監督システムを構築するかなどの区別が可能とされています。そしてこれらの手法のうち、どれが適切かを判断する場合には、以下の諸事情が考慮の対象となってきます。すなわち、①子会社の業種(事業リスクの高低、親会社と同業の事業か、金融機関等の規制業種であるか)、②子会社の規模(管理部門の有無等)、③子会社の数(多数の子会社を抱えているか、数は限定的か)、④株式の保有形態(直接保有か、間接保有か)、⑤株主構成(完全子会社か、合弁会社か等)、⑥上場・非上場の別、⑦国内子会社・海外子会社の別(所在国がどこかを含む)、⑧沿革(自社で設立した会社か、M&Aによって取得した会社か等)、⑨親会社ブランド(商号・ブランド等)の使用の有無、⑩親会社の形態・業態(純粋持株会社か事業会社か等)です。これらの諸要素を検討した上で子会社管理の手法を決定することには高度な経営上の知見・経験が必要であり、具体的な子会社管理の手法を決定する親会社取締役には幅の広い経営判断が尊重されるべきであると解されています(注5)。5内部統制の構築平時における親会社の子会社の業務に対する監督は、グループ全体の内部統制システムの構築・運用を通じて行われます。会社法によれば、大会社等は「株式会社およびその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」の決定を義務づけられています(会362条5項)。したがって、親会社の取締役は、善管注意義務の内容として、グループ全体の内部統制システムを構築しこれを運用しなければなりません。そして親会社の取締役は、子会社において不正な業務執行事実が発覚した場合やこれを疑わせる事実が発覚した有事の場合には、不正の疑惑の重要性等に応じて、自らまたは子会社をして事実関係の調査や、不正の是正につとめなければなりません。6海外子会社の管理海外子会社の取締役には、経営者としての一般的能力に加えて、現地の法制度や法慣習を熟知していることが求められます。したがって、誰を子会社の取締役とするかについては、親会社の取締役の経営判断事項であり、広範な裁量権が認められるとされています(注6)。大会社の取締役会は、子会社を含む企業集団における業務の適正を確保する体制について決定しなければならず(会362条4項6号、会社則100条1項5号)、この子会社には外国会社たる子会社も含まれます。そのため、海外子会社における業務の適正を確保するための議決権行使の方針、海外子会社の役員・使用人を兼任する親会社の役員・使用人による海外子会社との協力体制についても決定することが必要です。子会社株主として議決権や事実上の影響力を行使することについても、親会社の取締役には広範な裁量権が認められるとされています(注7)。73つの裁判例(1)福岡高判平成24・4・13金融商事判例1399号24頁(福岡魚市場株主代表訴訟)A社は、水産物・その加工品の販売受託業者であり、その100%子会社であるB社は食料品の購入・販売・あっせん業者です。平成14年11月、A社は取締役会において公認会計士から在庫管理に関する指導を受けました。平成15年12月頃、B社取締役Cから、B社の在庫が多く何か変であると報告を受けたA社専務取締役兼B社取締役会長のY1は、平成16年3月上旬、これをA社代表取締役兼B社非常勤取締役のY2に報告しました。Y2は、Y1を含む在庫問題を調査する調査委員会を立ち上げ、B社に報告書を提出させました。この調査委員会は、B社の担当者から聞き取り調査を行っていましたが、具体的な書類の確認作業は行っておらず、聞き取り調査を信頼しただけで、それ以上に踏み込んだ調査はしていませんでした。B社は、この調査報告書に基づき、最終的にはB社の特別損失額を14億円余りとする再建計画案をA社に提出しました。A社は、平成16年6月取締役会においてB社に対する20億円の貸付枠の設定を承認し、同年12月までにB社に総額19億1000万円を貸し付けるとともに、平成18年2月、本件貸付金中15億5000万円の債権を放棄し、さらにB社に対し、追加で3億3000万円を貸し付けました。本件は、A社の株主Xが、Y1らに対し、①本件グルグル回し取引(注8)についての監視義務違反、②本件貸付に関する善管注意義務・忠実義務違反を理由にして、A社への損害賠償を求めた株主代表訴訟です。第1審(福岡地判平成23・1・26金融商事判例1367号41頁)は、Y1らはA社への損害賠償責任を負うと認定しました。ついで訴審判決もこれと同旨でして、以下のように判示しています。すなわち「グルグル回し取引は、‥‥例外的な場合に限って行われたものでない限り、会社経営上において違法、不当なものであることは明らかである。」「A社の元役員であり、‥‥B社の役員でもあったY1らは、‥‥本件調査委員会を立ち上げて調査したのであるから、その不良在庫の発生に至る真の原因等を探求して、‥対処すべきであった。‥‥Y1らは、‥‥B社の不良在庫問題の実態を解明しないまま、‥‥A社の取締役として安易にB社の再建を口実に、むしろその真実の経営状況を外部に隠蔽したままにしておくために、業績に回復の具体的目処もなく、経済的に行き詰まって破綻間近となっていたことが明らかなB社に対して、資金の回収は当初から望めなかったのに、‥‥本件貸付けを実行して‥‥本件債権放棄‥‥さらに、‥‥本件新規貸付けを行ったものである。‥‥その経営判断には、‥‥取締役の忠実義務ないし善管注意義務違反があったことは明らかである」というものです。本件は、親会社から子会社への融資の回収不能から生じた直接損害について親会社取締役の親会社への賠償責任が認められた事案でして、子会社に生じた損害が親会社の株式の減価をもたらした間接損害について責任が認められたものではありません。しかし、子会社から情報を収集して、子会社に対し是正措置を講じえたにもかかわらず、これを怠ったことを認定していることから、一般に、本判決は親会社取締役における子会社の業務執行に対する監視監督義務を認めたものと理解されています(注9)。(2)東京地判令和2・2・27日金融法務事情2159号60頁(みずほフィナンシャルグループ株主代表訴訟)本件は、銀行持株会社であるA社(親会社(みずほフィナンシャルグループ))の完全子会社B銀行(みずほ銀行)とその関連会社C社との間の包括業務提携に基づく提携ローン(キャプティブローン)の中に反社会的勢力との取引が多く存在していたことに関する事案です。金融庁長官は、B銀行に対し業務改善命令を発出し、その後、一定期間本件キャプティブローンの新規取引を停止する業務改善命令を発出しました。また、A社の取締役会に対しても、グループ一体となって取り組むべき反社取引排除という課題を子会社の各部署任せにし、適切にグループ経営管理機能を発揮していなかったことを指摘して業務改善命令を発出しました。A社の株主Xは、A社の取締役Yらに対し、①新たに反社会的勢力との取引が発生することを防止するための体制を構築する義務、および、②B銀行に対し認識した当該反社会的勢力との取引を解消するために具体的措置を講ずるよう求める義務を怠った善管注意義務違反を理由に、A社に対する損害賠償を求めて株主代表訴訟を提起しました。しかし以下のような理由で、Xは敗訴しています。すなわち、「銀行持株会社であるA社の取締役であるYらは、‥‥Aグループ全体として顧客の属性判断を行う体制を内部統制システムとして構築する義務、そしてこれが適正かつ円滑に運用されるように監視する義務を負っていた‥‥。具体的には、A社において子会社の業務に関して反社会的勢力への対応に関する基本方針を定め、この基本方針が遵守されているかを監督し、必要に応じて是正を求めることをA社の取締役会で決議することなどの義務を負っていた。‥‥具体的な反社会的勢力排除の方法は種々考えられるため、このような組織体制の整備に当たっては、取締役の判断に一定の裁量が認められる」。「A社の取締役としてYらは、‥‥子会社の業務において上記のグループとしての内部統制システムの円滑な運用に支障を来すような事情が見受けられないにもかかわらず、子会社である銀行に対して具体的な業務を直接指導するなどの義務を負うことはない」。「Yらに求められる体制構築義務、監視・是正義務に加え、‥‥Yらにおいて、子会社であるB銀行に対し、本件キャプティブローンにおける反社会的勢力との取引に関して、具体的な取引解消のための措置‥‥をさせることをA社の取締役会で決議する義務を負担していたとまで認めることはできない」というものです。本件では、親会社はグループとしての内部統制システムを構築していることを認め、子会社の銀行における反社会的勢力との取引に関してまでは具体的に対策を指導する義務はなかったとしています。しかし、金融庁が親会社・子会社に対して業務改善命令を発出している事情を考慮すれば、疑問の残る判決です。(3)大阪地判令和6・1・26資料版商事法務482号130頁(東洋ゴム免震偽装株主代表訴訟)A会社はタイヤ事業・ダイバーテック事業を営む大規模会社ですが、完全子会社のB社の設立に伴い、それまでA社に置かれていた建築用免震積層ゴムの製造・開発・販売部門が同社に移管されました。本件は、B社が建築基準法所定の技術的基準(大臣評価基準)に適合しない建築用免震積層ゴムを販売したことに関し、A社の取締役4名に対し、①建築基準法所定の技術的基準に適合しない免震積層ゴムの出荷を停止する判断、および、②免震積層ゴムに関する問題を国土交通省に報告し一般に公表する判断を怠った善管注意義務違反を理由に、A社の株主がA社取締役Y1~Y4に株主代表訴訟を提起した事案です。以下のような判旨により、原告が勝訴しており、学説も結論を支持しています(注10)。すなわち、「A社のダイバーテック事業本部長の地位にあるとともにB会社の担当取締役として、B社による免震積層ゴムの出荷業務等についての一般的な指導監督を行う立場にあったY1は、本件出荷の停止を判断すべき注意義務を負っていた」。「Yらは、B会社の担当者の報告に基づいて(本件出荷品)の出荷の可否を検討し、Y1及びY2が参加した会議において、本件出荷が決定され、‥‥、本件出荷による損害賠償金もA社が支払っている」。「本件出荷に係る判断は、A社の業務執行の一環として行われたものというべきである」。「本件出荷品の大臣評価基準への適合性について必要があればその権限を行使し更なる調査を求めるなどして大臣評価基準に適合しない製品が出荷されないように取り組むべき責任を負う立場にあったY2は、本件出荷の停止を判断すべき注意義務を負っていた」というものです。本件の免震積層ゴムの製造・開発・販売事業は、本来は親会社の事業であり、それが子会社に移管されたものであって、実質的には親会社の事業の一部といえるものです。Yら親会社の取締役は子会社の取締役を兼ねており、子会社の当該業務を一般的に指導監督する立場にあり、本件の事情を十分知りえました。本件出荷を停止させるべき判断を怠ったことは、実質的には親会社の事業上の判断ミスとも言えるわけでして、親会社株主からの株主代表訴訟で善管注意義務違反を問われるのは当然のことでしょう。8完全子会社の損害と親会社の損害の関係親会社の取締役がなした子会社の代表取締役としての行為により、子会社が損害を被り、それにより親会社にも損害が生じた場合、親会社取締役としての義務違反と親会社の損害との間に相当因果関係が認められるならば、親会社取締役は親会社に対して損害賠償責任を負うことになります。判例は、①完全親会社には、完全子会社に生じた損害と同額の資産の減少が損害として生ずると解するものと(最判平成5・9・9民集47巻7号4814頁、東京地判令和3・11・25金融商事判例1642号44頁)、②親会社の損害は、同社が有する子会社株式の評価損と同額であるとするものに(東京高判平成6・8・29金判954号14頁)分かれていて、学説は②を支持しています(注11)。9むすび親会社取締役が子会社管理義務を負うからといって、親会社取締役は子会社の意思決定や業務の執行に逐一干渉すべきものではなく、一般には、具体的な管理システムや管理方法の運用にあたっては、親会社取締役には広範な裁量権限があるとされています。したがって、平時においては、企業グループに係る内部統制システムを整備し、このシステムにのっとって活動していればよいといえるでしょう。他面、有事においては、親会社取締役が子会社の業務が違法または不当になされていることまたはその兆候を察知した場合には、合理的な調査や適切な是正措置を講じて、事態に対応することが求められます。このことは海外の子会社における不祥事についてもいえることです。取締役の裁量権限とは、取締役が会社経営において自身の判断で業務を遂行できる権限をいいますが、取締役の作為・不作為行為が裁量権限内の行為として適法とされるか、裁量権限外の行為として違法とされるかの判断にあたっては、経営判断の原則が適用されます。すなわち、子会社管理の当該判断につき、十分に資料を収集しており、当該判断の過程および判断内容に著しく不合理な点がない限り、親会社取締役には親会社に対する善管注意義務違反はないと認定されます。しかし、安易な認定に流されず、具体的な諸般の状況をよく考慮したうえでの判断であることが求められます。特に、当該取締役が親会社と子会社の取締役を兼任している場合には、慎重な認定作業が必要です。<注釈>坂本三郎編著「一問一答平成26年改正会社法〔第2版〕」Q143、239頁。前掲「(注1)240頁。渡辺邦広・草原敦夫「親会社取締役の子会社管理責任」商事法務2158号33頁、太子堂敦子・藤井祐輔「親会社取締役の子会社管理責任に関する裁判例の現状と分析」監査役776号48頁以下。前掲(注2)渡辺・草原同頁。前掲(注2)太子堂・藤井49頁。前掲(注2)渡辺・草原35頁。大阪株式懇談会編「会社法実務問答集Ⅱ」(商事法務、2018)379頁(前田雅弘)。同上380頁。複数の企業が共謀して商品の転売や役務の提供をくりかえし、あたかも正当な取引が存在するかのように仮装して、売上げや利益を水増しする行為の総称(循環取引ともいう)。不正会計に該当する(日本公認会計士協会)。会社法判例百選[第4版]51事例「子会社管理に関する取締役の責任」(船津浩司)。船津浩司「判批」ジュリスト1598号2頁。田澤元章「判批」法学教室504号121頁。提供:税経システム研究所
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