経営研究レポート
MJS税経システム研究所・経営システム研究会の顧問・客員研究員による中小・中堅企業の生産性向上、事業活性化など、経営に関する多彩な各種研究リポートを掲載しています。
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2025/04/30 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(209)
1.はじめに4月から新入社員を迎えた会社も多いのではないかと思います。1日も早く職場や仕事に慣れてもらい、戦力として一人前になってもらうべく、熱い気持ちで指導する上司や先輩社員もいらっしゃると思います。特に営業系の部署などでは、新人であっても早い時期からそれなりに成果を出すことが求められることがあるのではないでしょうか。なかなか成果が上がらない新人に対して、一昔前のように、他の従業員の面前で、人格を否定するごとき言葉を次々に浴びせて吊し上げる……といった典型的なパワハラ指導が横行している企業は、この令和の世の中にあっては少ないでしょうが、そのような部下に対し、いくらか厳しめの言動で指導や叱咤激励して成果が出るように導くことは、上司の職務として必要な対処と言えます。企業におけるハラスメント防止のための規制は徐々に厳しくなっています。特にパワハラについては労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)において法的に定義が定められるとともに、パワハラ防止は事業主の義務と定められています。パワハラが原因で、従業員が心身の健康を害するようなことがあれば、損害賠償を求められることもありますし、その事実が公になれば会社として社会的信頼の損失にもつながることになります。一方で、昨今では、従業員側が自分の意に沿わない言動や指導を受けると、パワハラの定義に該当していないにも関わらず「パワハラだ!」と騒ぎ出すようなケースも珍しいことではありません。このようなことが続いてしまうと、指導する側も萎縮してしまい、部下に気を遣いすぎて十分な指導ができないといった悩みを聞くことも多くなっています。パワハラの定義は法令で定められていても、現場において、どこまでが「指導」でどこからが「パワハラ」なのか、明確に線引きをすることは簡単ではないというのが実情です。今回はグレーゾーンとも言える「パワハラ」と「指導」の境目と企業の対応について考えてみたいと思います。2.パワハラの定義とは?先述のとおり、パワハラ防止法においてその定義が定められています。パワーハラスメントとは優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであり労働者の就業環境が害されるもの(身体的・精神的な苦痛を与えること)(労働施策総合推進法第30条の2第1項)また、厚生労働省ではパワハラに該当する具体的な例として「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」など6つの類型を提示しています。(※)パワーハラスメントの定義について(H30.10.17厚生労働省雇用環境・均等局)https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdfしたがって、上記の定義が全て満たされなければ法的にはパワハラではないということになるのですが、定義や6つの類型に当てはめてみたときに、判断に迷うような微妙なケースも実際の職場では多く存在します。部下への配慮と思って発した一言やちょっとした行動が、部下にはハラスメントと認識されてしまう恐れもあることを、まずは認識しなければなりません。では、具体的にどのような言動が、いわゆる「グレーゾーン」として注意しなければならないものなのでしょうか。3.これってパワハラ?グレーゾーンの事例例えば、度重なる遅刻や勤務に相応しくない服装などを繰り返し注意しても改まらない部下に対し、一歩進んでやや強めの態度で注意するような場合は、先述の定義②③には該当せず、法律上のパワハラとは言えないと考えられます。では、以下のような場合はどうでしょうか。■ケース1仕事でミスをしてしまい、落ち込んでいる部下に対して激励の目的で「しっかりしろ!」と語気を強めて言ったり、背中や肩を叩いたりした。■ケース2部署の任意の飲み会にあまり乗り気ではなく、出席しても毎回つまらなそうにしている部下に対し、「あまり誘うのも悪いかな」と、上司が気を遣ってその部下を飲み会に誘わなくなった。■ケース3育成を目的として、部下が現在担当している業務とは別に、横断的な業務や関連する事務作業を新たに担当させた。どのケースも、上司の立場で見れば、「これのどこがパワハラ?」と首を傾げたくなるようなケースでしょう。しかし、部下の受け止め方によってはどのケースもパワハラと認定される恐れがあるのです。ケース1:背中や肩を叩いたことを部下が「暴力を振るわれた」と感じたり、「しっかりしろ!」と固い表情で語気強く言葉を発したりした場合に「精神的な苦痛」を感じたとしたら、パワハラに該当する可能性あり。ケース2:上司は良かれと思って飲み会に誘わなかったのに、部下の方は「自分だけ外された」と疎外感を覚えた場合、「人間関係からの切り離し」でパワハラに該当する可能性あり。ケース3:育成目的は理解できるものの、部下のスキルからすると負担の方が大きく、結果的に労働時間が長くなってしまった場合などは「過大な要求」でパワハラに該当する可能性あり。全てのケースに共通しているのは、上司の思いや言動の目的と部下の受け止め方がすれ違ってしまっていることです。上司からすれば「これがパワハラにされたら立つ瀬がないな」となってしまうでしょうが、今や部下とのコミュニケーションや指導の場ではここまでの注意が求められることを心に留めておかなければなりません。ではこうしたグレーゾーンと言える対処の際に、上司はどのような注意が必要なのでしょうか。4.ありがちな一言に気をつけよう法令で示された定義に該当するかどうか微妙なケースでパワハラの指摘を受けないためには、部下の心情や受け止め方に十分な配慮が必要です。「以心伝心」「空気を読む」というのは我が国の文化なのですが、これに頼りっぱなしだと、先述の「すれ違い」が起こることになります。受け手が「パワハラだ」と感じてしまえば限りなくパワハラ認定に近づいてしまいます。自分では思ってもいなかった受け止め方をされてしまうことを防ぐため、自分の言動の目的や、その言動がどのように受け止められるのかを、いま一度よく考えて部下に接するとともに、その目的も含めてはっきり言葉にして部下に伝えることが大切です。上司が指導のつもりで何気なく発した一言、冗談とも本気ともつかない一言を、部下は苦痛に感じてしまうこともあります。上司にとっては厳しい時代と言ってもいいのかもしれませんが、常に部下の立場で考える習慣をつけ、適切な指導で成長に導いていきたいものです。提供:税経システム研究所
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2025/04/28 企業経営
会計事務所が指導するDPOによる最短1ヵ月、最大9,900万円の資金調達
【サマリー】DPO(DirectPublicOffering=自己募集)を通じて1,000万円~8,000万円の資金調達に成功した3社の事例紹介。本稿執筆時点において、CFSPの指導により並行して6社がDPOを準備中。続々と案件が広がっている。DPOは約1ヶ月でほぼ確実に返済不要の資金が調達できる上、株主からの有形無形の応援を得られるなどメリットが多い。DPO指導は会計事務所の新たな収益となる。別会社を設立するケースが多く顧問先の拡大にもつながる。会計事務所にはDPO指導業務の担い手の役割が期待される。5DPOによる資金調達事例最大99百万円を最短1ヵ月で調達できるDPO(DirectPublicOffering)ですが、実際に調達に成功している事例が続々と生まれています。ここではいくつかの事例を紹介して参りましょう。(1)新会社設立後1ヵ月で8千万円を資金調達した飲食店Y社Y社は、農家向けサポート事業を行っているM社の創業経営者K氏が飲食店を立ち上げるために2025年10月に設立した新会社です。Y社では地域の農家直送野菜を特徴とするイートインデリのスタイルのカフェレストランを全国展開する計画です。Y社はK氏が9割を出資して資本金100万円で設立。第1号店の店舗設備及び初期運転資金の調達を目的にDPOを実施することにしました。発行する株式は、残余財産分配優先権及び剰余金配当優先権のある優先株式。税引後利益の30%を総額として優先配当する株式です。Y社では、募集上限を8千万円に設定。財務局に有価証券通知書を提出し、K氏の知人・友人・ファンを含むメルマガ配信先6,000名を対象に一斉同報メール送信で需要調査(出資意向調査)を実施しました。その結果、株主として出資をすることに関心があるとの有効回答は106名。出資意向の総額は1億2,800万円となりました。有効回答率は配信数に対して1.8%と平均値の3%よりも低い数値ではありますが、Y社では想定を上回る出資意向が集まったことで、通常3回配信するメールを1回のみで打ち切っています。通常は調査締切3日前のリマインドと、締切前日の配信の計3回の配信を行っていますので、Y社においても3回の配信を行えば3%前後になったと想定されます。需要調査終了後、ただちに有効回答者に対して、新株式発行概要書(目論見書)等の書類をメールで送付。株式申込証フォームにて正式な株式申込を受け付けました。正式申込を行ったのは、76名(申込率71.7%)、申込総額8,400万円(申込率65.6%)となりました。申込率は過去の平均値の50%と比較して高い値です。一人当たりの投資金額は平均110万円で、これはほぼ平均値です。なお、Y社では募集上限を8,000万円として有価証券通知書を提出していることから、増資額は8,000万円で打ち切り。超過額の400万円は返金しています。資本金100万円でスタートしたY社ですが、8,000万円の資本調達をして気になるのは議決権構成です。A種優先株式は剰余金の配当優先権と残余財産の優先分配権を持つ性格上、普通株式と比較して1株あたりの発行価格が高く設定されているのが特徴です。その結果、A種優先株主の議決権は全て合わせて15%。普通株主である創業経営者グループが増資後も議決権の85%を維持しています。(2)9,900万円の調達を実現した創業支援コンサルティング会社E社E社は起業家育成及び創業支援に力を入れるコンサルティング会社です。地域の自治体との連携により創業支援イベントの企画運営を進めるとともに補助金等のサポートを行っています。E社では将来の上場を念頭にすでに有償新株予約権の発行による資本調達を行っているとともに、優先株式により、合わせて5,000万円の資本参加の意向を数社からいただいたところですが、これを機会にDPOでの募集を組み合わせることにしました。DPOのご案内先は、T社長の名刺交換4,000名ほど。これに加えて、2,500名のフォロワー数のあるNoteでの発信も行っています。DPOでの需要調査フォームは、CFSPにて標準化。以下の形式によって、優先株式への関心に加えて、出資可能金額について選択肢で回答していただいています。選択肢は50万円程度、100万円程度、200万円~300万円。500万円程度、1,000万円程度、2,000万円以上の6つ。50万円という回答が比較的多くなりますが、調査対象の母集団によっては、高額の選択が多いケースもあります。E社の場合、需要調査の有効回答数は40件と多くはありませんでしたが、意向総額は66百万円と高い水準となりました。正式申込件数は28件、4,900万円。これに募集前から意向のあった50百万円を加えて99百万円の増資となりました。E社の場合、28件の正式申込の平均投資単価は175万円と通常の2倍近く。需要調査において「2,000万円以上」と回答された1名が実際に2,000万円の申込をされていることが平均単価を押し上げました。「1,000万円程度」や「2,000万円以上」を選択される方は、50件に1件くらいのイメージですが、それでも選択肢を置くことで、時にはこのような大口の出資を得ることができる場合もあります。(3)800人の需要調査で1,100万円を調達。医療系スタートアップA社。調達金額の大きな2社の事例を紹介しましたが、多くのDPOではむしろもう少し小粒な調達が行われています。再生医療に必要な細胞の選別装置(セルソーター)を開発するA社。VC3社からの1億円の資金調達に加えて、株式投資型クラウドファンディングで5千万円を調達。これに続いて行ったのがDPOです。DPOでは、追加の運転資金を調達すべく1千万円程度を目標として約500名の医師その他メディカル系のネットワークと既存の株主及び新株予約権者300名ほどを対象に需要調査を行っています。A社では既にVCに対してA種優先株式とB種優先株式を発行していることから、今回設計したのはC種優先株式。前の2社とは異なり研究開発型スタートアップで開発が先行して当面、利益の計上が見込めないこともあり、剰余金の優先配当はなく、残余財産の優先分配権のみを有する株式としてC種優先株式を設計しています。需要調査の結果は、有効回答数44名(5.5%)と平均値を大幅に上回る水準でした。ただ意向総額は3,050万円。一人当たりの平均意向額は69万円と平均水準を下回りました。正式申込件数は19名(申込率43%)、申込金額は1,050万円と目標は上回ったものの、一人当たりの申込金額は平均55万円で、平均値の100万円と比較すると低い水準でした。A社では既存株主と既存新株予約権者300名を需要調査対象としていますす。その大半が株式投資型クラウドファンディングの投資家です。ご紹介した2社とは異なり、EXITによる金銭的リターンを目的とする投資家も多いこと、分散投資でより多くの案件に投資をしたいと思っている投資家も多いことが、このような結果につながったと思われます。有効回答率が高いのは、母数の中で株式投資の経験者が多いこと、スタートアップへの理解が深いことが要因と考えられます。以上、3つの事例を紹介してきましたが、本稿の執筆を行っている2025年3月8日現在、4社が平行してDPOの準備を進めています。このうち環境関連スタートアップのC社は、SNSのフォロワー約5,000人を中心に需要調査を実施。有効回答数は90件で意向総額は1億円を超えました。このほか小売店向けマーケティング支援、食品製造業、DX関連スタートアップの3社が需要調査の準備に入っています。続いて、資本政策の打ち合わせを行っている会社がDXサポートを事業とする中小企業が2社あります。この2社は、まず自らがDPOを実行した後に、当社CFSPのパートナーとして、DPOをそれぞれの得意先に広げることを検討しています。1社は介護施設向けにDXサポートを行う会社で。もう1社は大企業及び中堅企業向けにSAPなどERPの導入コンサルを行う会社です。それぞれのイメージは自社の製品やサービスのファイナンス付販売です。返済不要の暖かい資金であるDPOは本来、中堅中小企業向けです。従来の融資やリースと同様、製品サービスの販売に組み合わせることで、飛躍的に利用者は増えることでしょう。6DPOのメリット・デメリット(1)DPOのメリット中小企業にとってこれまで縁遠かった資本調達(エクイティファイナンス)を身近なものとしたDPOですが、そのメリットを整理すると次の通りです。顔の分かった知り合いだけの投資参加による安心感株式を発行して資金調達をするイメージは、VCやCVCなどの専門投資家や証券会社の周囲の個人投資家、あるいは資本提携先となる企業など、ハードルが高く感じられるのが通常でした。また見ず知らずの投資家が株主として参加することへの不安も感じられました。DPOでは、需要調査対象は、知人、友人、お客様、お取引先など、会社や経営者の身近の人たちです。株主として参加されるのはそのうち事業に共感、賛同するいわばファン。需要調査のご案内をお送りしない人からが株主になることはないことから、安心感があります。返済不要の安定資金の確保借入と異なり株式発行による資金調達(資本調達)は返済不要。借入の場合は、返済原資を利益から生み出してこなければならないことから、むしろ月々の資金繰りは厳しくなるのが実際です。これに対して資本調達の場合は、調達後の資金繰りに不安を感じることなく、設備投資や開発投資など、長期的な視点で会社の未来を見据えた先行投資をすることが可能です。投資後の株主からのサポート身近なファンからの投資は、金銭的リターンよりも経営者及び事業への共感や支援の目的意識が強いのが特徴です。小売店や飲食店などBtoCの事業では、株主自らが顧客として応援いただけるほか、顧客紹介などで売上増に貢献いただけます。株主にとってもサポートを通じて会社の業績が上がれば、配当や企業価値向上につながるまさにWIN=WINの関係です。需要調査によるプロモーション効果需要調査でのポジティブな回答率は平均3%と説明しましたが、残り97%の方は、需要調査でどのように感じているのでしょう?調査シートには最後に「ご意見、ご質問」の項目があり、自由にコメントを記載いただけるようになっています。実は、投資にポジティブな反応をいただけなかった人も多くがコメントをしていただいています。株主になっていただけなかった理由は様々です。最低単位の50万円の資金拠出が厳しいと感じられる方、株式投資はそもそも行わない方針の方、株式についてよくわからないと思っている方など。共通するのは投資ができなかったことを「申し訳ない」と感じていることです。それは投資とは別の形で応援したいという気持ちの裏返しとも言えます。需要調査では、事業概要や事業計画の要約などを添付してお送りします。図らずも自然な形で身近な多くの方へ事業内容が伝わります。DPOの後で売上が増加する会社が多いのは、株主からの支援だけでなく、需要調査対象となった遍く多くの皆さんが事業への理解を深め、応援の輪が広がっている証と言えましょう。安定的な経営権の維持事例でご紹介した3つのケースではいずれも優先株式を発行しています。剰余金の配当や残余財産の分配の優先権がある一方で、議決権シェアを低く設定しているのが特徴です。Y社のケースでは、設立時の資本金は100万円。全て普通株式で発行価格は10円。100,000株を発行しています。これに対してDPOで発行した優先株式は1株あたり50,000円で合わせて1,600株を発行し、8,000万円を調達しています。優先株主は、剰余金の範囲内で、当期純利益の3割を総額に普通株主に優先して配当を受けることができる上に、会社解散時には残余財産から投資額と同額の1株あたり50,000円の優先分配を受ける権利を持ちます。1株当たりの議決権は、普通株式も優先株式も同じであることから、増資後も創業株主は86.2%の議決権比率を維持していることになります。将来の上場を計画するシード期のスタートアップでは、優先株式に代えて株価を定めずに次回の増資の株価に株価を連動させる有償新株予約権(J-KISS型新株予約権)等、CFSPでは、その会社の状況に応じて最適なエクイティファイナンスを提案しています。最短1ヵ月で確実な資金調達VCやCVCからの資本調達では、相手の組織的な意思決定に時間を要することから、資金調達が実現するのは最短でも3ヶ月先。長いケースでは6ヶ月待たされることもあり、それも投資意思決定に至らないことも少なくありません。資金調達する側としては、その間、不安な精神状態で待ち続けなければなりません。これに対してDPOは、調達資金の額に多寡はあるとはいえ、最短1ヵ月でほぼ確実に資金調達ができるのが特徴です。それは対象が個人であり、50万円からの投資ができるので、その日のうちにYES、NOの意思決定ができるからです。前編の標準スケジュール表で示したとおり、最初の2週間で準備をして3週目で需要調査。4週目を正式な申込期間として設定すれば、1ヵ月後には着金されます。株主に束縛されないことVCやCVCからの調達では、、投資契約又は株主間契約を結ばされるのが一般的です。会社法では株主を保護する目的で、株主の権利と経営者の責任を明確にしていますが、投資契約や株主間契約では、特定の株主に対する経営者の責任を重くしているのが特徴です。例えば、会社法では経営意思決定は株主総会で定めるべきことを除き、取締役又は取締役会が決定できることとされていますが、株主間契約書で一定の事項については事前にVC等の特定の株主の承認を必要とする旨を定めたりします。VC等はファンドの投資家に対してパフォーマンスを確保する責任を負っていることから、投資先を厳しく監視し指導することが求められていますので、経営者はそれを覚悟で経営に臨む必要があります。勿論VC等による経営監視と指導が原動力となって会社が成長し、上場に至るケースもありますが、実際にはVC等の年間投資件数1,500件に対し、上場するのは年間100社のみ。事業計画通りに進まない場合、多くのケースでは経営者にとって精神的につらい立場が続きます。これに対して、DPOの場合は、優先株主に株主間合意書に合意を求めるものの、VCとの株主間契約書とは異なり、株主が万が一、反社に該当した場合などの強制買取条項など、経営者にとって有利な条項が示されています。経営者の株主に対する責任は当然ありますが、それは会社法が定める忠実義務の範囲です。株主からの暖かい支援をいただきながら、それに甘えることなく、事業目的の遂行のために誠実に経営を行うこと。すなわち会社法が期待する株式会社の本来の姿を実現するのがDPOなのです。(2)DPOのデメリットと留意点DPOの最大のデメリットとして指摘されているのは株主の増加です。非上場会社においては上場会社と異なり、株主名簿管理や株主総会の開催についての知見や人的リソースが不足していることが多く、コスト増が懸念されるところです。ただ、近年においては会社法の改正によって電磁的な方法による株主間コミュニケーションが進んでおり、以前ほどコストや手間を意識しなくても良くなっています。具体的には、株主総会の招集通知の発送、委任状による議決権代理行使について、郵送ではなく電子メールで行えるようになりました。取締役会設置会社においては、招集通知は原則として郵送で送らなければなりませんが、株主の承諾を前提に電子メールにより発送することができます。CFSPが指導するDPOにおいては、株式申込の際に合意いただく株主間合意書に電磁的方法による招集通知の送付への承諾の条項が含まれています。なお、取締役会非設置会社については、招集通知はどのような方法で送付しても良いことから、電子メールで送付することに制約はありません。議決権の代理行使については、会社が承諾すれば、委任状を電磁的な方法により送付することが可能です。そもそも電磁的な方法での議決権代理行使の方法を用意するのであれば承諾しているということになります。また委任状はメールに添付して送る方式のほか、Googleフォームや他のフォームアプリを使った委任状フォームに入力する方法も電磁的方法として認められます。招集通知をメールでお送りした上で、委任状フォームに誘導する形でスムーズな運用が可能です。なお、株主総会の開催については、一定の条件のもとで上場会社が行う場合を除き、完全なオンライン開催は認められていません。リアルの会場は用意しなければなりませんが、ハイブリッドによる開催は可能です。ただしオンライン参加の株主はオンライン上での議決権行使は認められません。上記の委任状を電磁的に提出することで議決権の代理行使をしていただくことなります。株主名簿管理については、CFSPのサポートメニューとして株主名簿の作成及び管理を代行しています。定款で定める株主名簿管理人ではなく、あくまで会社の行う名簿管理業務のサポートとして行っています。実質的には株式の異動はほとんどありません。CFSPの提携する会計事務所の行う会計税務業務と連動して、会社法が求める計算書類等の作成を行うとともに、招集通知として株主名簿に登録されている株主を対象として、会社にメール送信をいただく指導をしております。株主が増加することについてもう一つデメリットとして指摘されているのは、反社会的勢力またはその関係者(以下「反社」といいます。)が株主に含まれてしまうリスクが高まることです。上場準備をしている会社は上場審査に大きな影響が及ぶとともに、VC等がそれを懸念して資金調達が難しくなる場合もあります。ただしDPOの場合は、経営者の知り合いで構成される需要調査先のみが株主として参加しており、株主が多くなるといっても、経営者自身が反社関係者でなければ、周囲に反社がいる可能性は極めて低いと言えましょう。また、株主が増加するといってもその数は、多くても100名程度。何千人もの株主が増えるわけではありません。さらに、先に紹介した株主間合意書には、万が一、DPOで参加した株主が反社と関係があることが判明した場合における、強制買取条項が含まれています。しかも契約行為代理権を経営株主に付与する条項も含まれており、強制的かつ自動的に買取ができる強力な合意書となっています。したがって、反社が株主に含まれて問題となるリスクは、ほぼゼロといってよいでしょう。このほか、留意点としては、図らずも金融商品取引法に違反してしまうリスクです。特に、私募の人数通算規定、募集の金額通算規定が極めて複雑な規定となっていることから注意が必要です。例えばDPOで8千万円の調達を行った後、3ヶ月以内に私募で2千万円以上の調達を行い、合計で1億円以上となってしまった場合です。私募で参加する株主が1名であったとしても、過去3ヶ月以内に行った増資と通算して勧誘人数が50人以上となると募集となり、その金額の合計が1億円以上となると有価証券届出書が必要な募集に該当してしまいます。また1年以内に募集を何度か行って、その金額が1億円以上となった場合には、やはり有価証券届出書が必要な募集に該当します。気を付けなければならないのは、通算される有価証券の種類です。私募の人数通算と募集の金額通算では、通算される有価証券種類の範囲が異なっています。私募通算では、配当条件の異なる種類株式は別の種類とされて通算されませんが、募集通算では、配当条件は関係なく、すべての株式及び新株予約権は同じ種類として通算されます。一度、金融商品取引法違反をすると、その後のファイナンスに大きな影響が及ぶので、専門家のサポートを受けながら慎重に行う必要があります。金融商品取引法違反で別の観点で注意が必要なのは、金融商品取引業者としての無登録勧誘に該当するリスクです。次項では、会計事務所がCFSPのパートナーとしてDPOサポートをする場合における留意点として、会計事務所のリスクを説明していますが、同様に、発行会社が他のコンサルティング会社やマーケティング指導会社に自ら行うべき投資勧誘を委託したり、顧問など役員や社員でない者がその者の周囲に勧誘を行ってしまうと金融商品取引法違反となる可能性があるので十分に注意する必要があります。7会計事務所の行う顧問先DPOサポート筆者が代表を務めるCFSPでは、DPOの指導ノウハウの標準化を進めています。DPOでは、優先株式などのエクイティスキームの設計やそれを含む資本政策の策定、金融商品取引法の規制に則った書類の作成と提出、需要調査の手続きと回答フォームの書式およびその集計、目論見書および株式申込み手続きのドキュメントなど、一連の専門知識とノウハウが必要です。個々の企業の実情に応じた最適な資本調達を指導する責任があります。CFSPでは、これらの専門知識とノウハウを専門家に提供し、事業を拡大いただくパートナー制度を運営しています。その中心を担うのが会計事務所です。CFSPとパートナー契約を締結し、その指導に従ってDPOサポート業務を行っていただいています。日本では株式を発行して資金を調達しているのは主に4,000社の上場会社と将来の上場を考える10,000社ほど。一般の中小企業では外部株主が増資を引き受ける形で資金調達する慣行はこれまでありませんでした。それは株式を金融商品として投資する対象と考える投資家からの資金調達のみを考えてきたからです。会社法の原点に立ち返り、株主の共同事業としての株式会社が、本来の株主を募るのであれば、その対象は、会計事務所の顧問先である200万社の中小企業に広げることができるのです。ただ、歴史のある中小企業にとっては、外部の株主が参画そのものに抵抗があることも少なくありません。そこで、会計事務所が中小企業の顧問先のDPOをサポートする際に、特にCFSPがお勧めしているのが、別会社を新設する方法です。例えば、工場の生産性を高めるためにロボットの導入を検討している中小企業を考えてみましょう。銀行借入を受けられれば問題ありませんが、すでに売上高と比較して高い水準の借入残高となっている場合や、キャッシュフローから返済原資が生まれないと判断される場合等、融資が受けられないとロボットの導入も進められません。このようなケースでCFSPがお勧めしているのは、ロボットを保有することを目的とする子会社の設立です。子会社がDPOで資金調達を行い、ロボットを購入。そのロボットを親会社に賃貸するスキームです。DPOに投資参加した優先株主には、親会社から受領するロボット賃貸収益を原資に子会社から優先配当をすることができます。この方法では、親会社となる会社は株式会社でなくても問題ありません。社団法人、社会福祉法人、医療法人、あるいは個人事業主であっても可能です。DPOを行うのは子会社でなくても、事例で紹介したY社のように、経営者個人が発起人となって出資する会社でも問題ありません。CFSPでは、現在、パートナーとなる会計事務所の行うDPOサポートを支援するアプリケーションとして、「DPO-AIアシスタンス」を開発中です。AIを活用して、DPO指導業務の一部を自動化するアプリです。この夏のリリースを予定しています。DPO指導業務における会計事務所の手数料は、CFSPの受取手数料の最大30%相当額。顧問先をCFSPにつなぐだけでも、10%のフィーが得られます。CFSPの報酬は調達金額の10%なので、5,000万円の資本調達をサポートした場合、最大150万円の手数料を獲得できることになります。しかも、別会社を設立するケースが多いと想定されることから、DPOを指導するたび新たな顧問先が増加することも見逃せません。ただ一つ、パートナーとなる会計事務所に是非ご注意いただきたいことがあります。それは、金融商品取引法に抵触することがないようコンプライアンスを徹底いただくことです。顧問先がDPO(自己募集)として株式を周囲にご案内しているのであれば問題ありませんが、気を利かせ過ぎて会計事務所が他の顧問先などに声をかけてしまうと、金融商品を無登録で投資勧誘したみなされ、金融商品取引法違反で罰せられる恐れがあります。CFSPの指導に従って、会計事務所としては、手続の指導とドキュメント作成指導に徹することが極めて重要です。8DPOに関するQ&A最後にDPOに関するよくある質問について整理してみました。それぞれの回答をご参考としてください。(Q1)当社は資本金100万円ですが、3,000万円の増資を行って経営権に問題が出ませんでしょうか?(A1)時価発行や種類株式によって増資後の経営者の議決権割合は9割程度を確保する設計をおこなっています。無議決権株式やJ-KISS型新株予約権で外部株主が全く議決権を保有しない設計を行う設計も可能ですが、経営の参加意識を持っていただくことで応援いただきやすくなるプラスの効果もあります。様々な状況を考慮して最適な議決権となるように自由に設計が可能ですので、改めてご相談ください。(Q2)49名以上への増資はできないと聞いていましたが、法律上問題ないのでしょうか?(A2)多くの方が誤解していますが、日本の法律(金融商品取引法)では、50名以上への投資勧誘(募集)はできないのではなく、募集をするために「開示規制」と呼ばれる規制に従う必要があります。特に1億円以上の募集については、公認会計士(又は監査法人)の監査証明付された財務諸表を伴う「有価証券届出書」という50頁にも及ぶ書類を提出し、EDINETという金融庁の公開WEBサイトで一般に開示することが求められています。有価証券届出書を提出した会社はその後、継続して上場会社と同様の「有価証券報告書」を毎年決算期から3ヶ月以内に提出し、開示しなければなりません。有価証券報告書に含まれる財務諸表には公認会計士の監査が必要です。したがって監査を受けていない企業は1億円以上の募集を行うことはできません。一方、1億円未満に募集については「有価証券届出書」の提出は免除されており、2頁のみの簡易な「有価証券通知書」を財務局に提出すれば足りることとなっています。「有価証券通知書」は一般に開示されるものではありません。CFSPのDPOサポートは、1億円未満の募集(50人以上の不特定多数への勧誘)を、金融商品取引法に従って「有価証券通知書」を提出して行うものです。(Q3)上場前に株主が増えると上場できなくなると言う人がいますが、どうなんでしょうか?(A3)証券取引所や上場引受主幹事は上場審査にあたって反社会的勢力が関わっていないことを確認する必要があります。そのために全ての株主について反社チェックを行っています。株主が多いとその確認の手間が増えることがあるのと、株主が多くなることでその中に反社が含まれるリスクが高まるとの考えから、上場審査への影響に言及する人がいます。しかしながら、反社チェックの結果、問題がなければ株主が多いこと自体が上場審査にマイナスとなることはありません。むしろ流動性確保の観点から上場審査においては一定の株主数が必要とされており、上場審査上は、株主が多いことはむしろプラスとなります。会社として会社を応援する株主が多いことで、株主からの有形無形のサポートを得られ、会社の発展にはプラスとなることが多いと考えられます。(Q4)増資後に株主から買戻しを求められた場合には、どうしたら良いのでしょう?(A4)金銭を対価とする取得請求権付の種類株式を発行する場合を除き、株主から会社が買い取る義務はありません。ただ、経営者等と売買契約を締結の上、任意で買い取ることは可能です。(Q5)当社としては、特に親しくしている20名ほどに限定して増資を行いたいのですが、どうでしょうか?(A5)20名に対する投資勧誘は「私募」となりDPOではありません。DPOが多くの人を対象に需要調査を行うのは確率論からであり、誰が会社や事業にどの程度関心を持っているかや、株式に対する投資をそもそも行うか否か、金銭的な余裕などが、わからないことがあります。あらかじめ、身近な20名の投資意向が明らかなのであれば、敢えてDPOとして募集を行う必要もありません。ただし私募で行う場合には、記載したDPOのメリットは得られませんのでご注意ください。(Q6)DPOの後、ただちにVCに向けて1億円の第三者割当増資を行うことは可能でしょうか?(A6)金融商品取引法では有価証券の私募の通算規定があり、過去3ヶ月以内に行われた「同一種類の有価証券の投資勧誘を通算して人数が50名以上となり、金額が1億円以上となる場合には、有価証券届出書が必要な募集」に該当するとされています。ここで「同一種類」というのは配当条件が同一ということなので、配当条件が異なる株式であれば可能です。また3か月後であれば同一種類の株式であっても問題ありません。(Q7)DPOの資金調達について調達時及び調達後のコストはどのくらい必要でしょう?(A7)CFSPでは完全成功報酬型のサポートでは調達金額の15%、CFO代行サービスを行う場合には、月額10万円+成功報酬10%のコストとなります。当方としては、その後の継続的なサポートも含めて行うCFO代行サービス付きをお勧めています。なお会計税務顧問を希望される場合はこのコストに含まれます。CFSPに対するコストのほか、増資の登記費用(増加資本金額の7/1000と司法書士報酬(5万円~10万円程度))が必要となります。株主総会の招集及び運営については、オンラインで行う場合にはほとんどコストはかかりません。(Q8)DPOにおいてCFSPは投資家を集めてくれるのでしょうか?(A8)DPOは創業経営者等の周囲から自ら募集する仕組みであってCFSPが外部の投資家から資金を調達するものではありません。非上場会社が外部の投資家から資金を集める方法としては「株式投資型クラウドファンディング」があります。第一種金融商品取引業又は第一種少額電子募集取扱業のライセンスがあれば可能ですが、法律により投資者一人当たりの投資金額の上限が50万円となっています(特定投資家は除く)。CFSPは株式投資型クラウドファンディング事業を2024年5月に売却しており、現在は行っていません。9おわりに筆者が1997年に創業して2010年まで代表を務めていたディー・ブレイン証券。当時、日本で唯一のIPO専業証券会社として、日本証券業協会が運営するグリーンシート市場の募集取扱主幹事業務で9割を超えるシェア、福岡証券取引所と札幌証券取引所の新規上場引受主幹事業務では6割とシェアと極めて高い存在感で中小企業の資金調達をサポートしていました。証券取引所における新規上場引受主幹事業務にかかるディー・ブレイン証券のビジネスモデルはいわば製販分離。投資家への販売はその100%をネット証券や中堅証券会社に委託し、ディー・ブレイン証券は引受主幹事としての指導、審査及び引受に特化するユニークなビジネスモデルを構築していました。一方、グリーンシート市場では直接、投資家に販売していましたが、対象の投資家は主に「拡大縁故募集」と称して、発行会社の周囲の知人・友人・取引先等でした。そのコンセプトは本稿で紹介したDPOと同じです。会社法が期待する株主の共同事業としての株式会社。その真の株主を募集していた唯一の証券会社がディー・ブレイン証券でした。ディー・ブレイン証券では1999年から2010年までの約10年間に、グリーンシートの募集取扱業務を通じて、140社の中小企業に対して、合わせて110億円の資本調達を仲介してきました。グリーンシートにはPTS(私設証券売買システム)による流通市場が整備され、換金の場も用意されていました。いま再び、非上場株式のための売買市場をつくろうとする動きが活発ですが、グリーンシートでは、当時、すでに非上場株式のための最先端の取引市場が機能していたのです。そのグリーンシートは2011年の金融審議会で廃止が決定。非上場会社の資本調達を金融商品取引業者が仲介する制度は、株式投資型クラウドファンディング(ECF)と株主コミュニティ制度に受け継がれました。筆者は2015年にCFSPの前身となるDANベンチャーキャピタルを設立。2017年にECF専業の金融商品取引業者のライセンスを金融庁から取得し、ECF業務を開始しました。ECFにより20社に対して4億円の資本調達をサポートしたものの昨年には、ブラットフォームであるCFAngelsを含むECF事業を東証プライム上場のジャパンインベストメントアドバイザーに売却。筆者の経営するCFSPでは、現在、上場会社270社のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)担当者が参加する「CVC投資戦略研究会」の運営を通じたスタートアップとCVCのマッチング、並びに本稿で紹介したDPOによって、非上場会社の資本調達をサポートしています。中小企業のための完成度の高いインフラであったグリーンシート市場と、その後継制度のECF制度。いずれも事業として継続を断念せざるを得なかった最大の要因は、金融商品取引業者としての規制の壁を乗り越えられなかったことにあります。金融商品取引法の趣旨は投資家保護を目的に金融商品取引の安全を図ること。例えそれが、金銭的リターンを目的としない非上場会社の株式への投資であったとしても、金融商品取引業者が仲介するのであれば、上場株式と同じ土俵で、金融商品とし発行会社には開示規制、金融商品取引業者には行為規制と呼ばれる様々な制約が課されます。その規制は発行会社と金融商品取引業者のコストアップを招き、資本調達の中小企業に広げる障害となるだけでなく、制度そのものの破綻に繋がってしまいます。その点、金融商品取引業者の仲介を必要とせず、開示規制も少額要件により対象外であるDPOは、中小企業に大きく資本調達を広げることができる可能性を秘めています。その最も有力な担い手となり得るのが会計事務所であると筆者は考えています。しかし、気をつけなければならないのは、このような制度を悪用して投資家から不当に資金を詐取するような事件が起きる可能性もあることです。1社1億円未満の範囲であれば、新会社を設立して優先株式による高い配当を謳い、高齢者など不特定多数から資金を集めるようなことができてしまいます。次々と新会社を作って資金を集めるような詐欺的な募集が横行すると、金融庁としても規制強化や新たな規制を考えざるを得なくなり、DPOも衰退してしまう恐れがあります。筆者としては、DPOが健全に発展できるよう、これをサポートする専門家の守るべき規範を整備するとともに、DPO指導手続のさらなる標準化と一部自動化を進めるAI-DPOアシスタンスの開発で、全国の会計事務所等の専門家を通じた普及を図る所存です。ディー・ブレイン証券が生まれるきっかけとなったのは、筆者が1996年にリリースした「インターネットベンチャー投資マート」でした。会社を応援する株主を募ることを目的としたこのシステムは、今日の株式型クラウドファンディングの世界の草分けとも言えますが、その法的な性格は、発行会社の自己募集の支援システムでした。ディー・ブレイン証券の前身の株式会社ディー・ブレインが運営しているブラットフォーム「インターネットベンチャー投資マート」。株式の仲介をしているとの誤解も生む仕組みが問題と指摘され、証券会社化することになり、それが金融商品取引の規制に翻弄される結果を招きました。30年の月日を経て、筆者としては金融商品取引法を徹底して遵守して、誰が見ても透明性が高く、悪用もされない中小企業の資本調達のインフラとしてDPOを確立、発展させていく覚悟です。前編の冒頭で紹介したように、今回が筆者の本研究レポートの執筆の最終回となりました。ディー・ブレイン証券の代表を辞任した翌年の2011年にミロク情報サービスの是枝会長にお声がけいただいてから14年。読者の皆様には、長年にわたり拙稿をお読みいただき、心より感謝申し上げます。またどこかで、お目にかかれますことを楽しみにしています。提供:税経システム研究所
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2025/04/25 企業経営
企業探検家 野長瀬先生の経営お悩み相談室(第18回)
毎回いろいろな企業経営者のお悩みをテーマとし、その悩みを解決する糸口を企業探検家・野長瀬裕二先生がアドバイス形式で解説していきます。筆者が見てきた様々な企業の成功例や工夫の事例、そこから見えてくる普遍的なノウハウを紹介し、各回のテーマの悩みに寄り添う情報をお伝えします。<相談内容>首都圏で、建設機械や建設機材のリース・レンタル業を営んでいます。一定の顧客基盤があり、従業員も100人強おります。毎年、新卒採用を若干名、その他、必要に応じて中途採用を行ってきました。基本新卒採用を中心にしてきたのですが、最近高卒の採用が難しくなり、大卒の採用について当たり外れも増えてきたように感じています。採用の方法について、どのようにすべきか悩んでいます。■どのような人材が必要か御社の顧客である建設業も人材不足、熟練職人の育成に悩んでいます。建設にかかわる周辺産業においても、人材不足は大きな問題となっています。御社の悩みは業界共通のものと言えるでしょう。人口減少社会においては、建設業全体で人材不足による廃業やM&Aが進行していきます。財務的に優良な中小企業であっても、人材が採用できないために、より経営基盤がしっかりした企業に売却するといった事例を目にすることが近年増えています。そのような経営環境において、生き残る顧客企業を見定めて、密なパイプを構築していき、市場シェアを向上していくことが御社の基本戦略となります。また、リース・レンタル業は一旦設備や資材を購入してからそれを貸し出す業態です。ある意味で金融業と似た部分があります。与信について意識が高い人材も必要です。高額設備のリースについては、保守・メンテナンスを高品質かつ安価にこなす人材も収益を確保するカギとなります。購入する設備や資材についての目利き力、商品知識を備えた人材も重要です。相対的に安価な軽仮設資材と高額な建設機械ではリースに関する考え方も異なっています。商材ごとの営業戦略を理解した人材も必要となります。建設業にかかわるICT機器・省エネ機器等のニーズも高まっており、ワンストップで多彩な商材を提案することも、顧客数が減少していく状況下では求められていきます。最後に顧客企業に対して商談のクロージングまでもっていく決定力が売上高確保には必要です。表1どのようなスキルが必要か1.顧客と密なパイプを構築できるコミュニケーション能力2.与信やリース・レンタルについての金融等の実務知識3.多彩な商品の保守・メンテナンスを高品質で遂行する能力4.商材ごとの営業戦略・商品を理解する能力5.ワンストップで顧客ニーズに合致した提案する力6.商談をクロージングする決定力表1に示されるようなスキルを新卒が保有していることは通常ありません。採用後に本人の適性を見ながら配属された職場で学んでいくことになります。最重要なのは、表1の1に示される「顧客と密なパイプを構築できるコミュニケーション能力」であり、そこに2~6の能力が付随していくことが望ましいと思われます。顧客企業のニーズを丁寧に聞き取り、顧客企業の責任者から「あなたが言うのだから信用する」という感覚を持っていただくことがビジネスの入り口となります。コミュニケーション能力は、「a.話す能力」のみならず「b.聞く能力」、さらには「c.顧客の顕在化されたニーズ、潜在的なニーズを理解する能力」で構成されます。ニーズに合致した提案を行い、クロージングする。そこまでの流れをフォローできる人材をどこの企業も欲しがっています。■最近の新卒の状況図1文科省による18歳人口の将来推計(出典)2022年以前は文部科学省「学校基本統計」、2023年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)(出生中位・死亡中位)」を元に作成図1に文科省による18歳人口の将来推計が示されています。今後、18歳人口は徐々に減少していきます。現在は、100万人強の18歳人口ですが、2024年の出生数は72万人で、外国人の出生数を除くと70万人を切っているとのことです。つまり、今でも厳しい高卒の採用が18年後には3割減るので、さらに厳しくなるのです。移民が社会問題化している欧州では、産婦人科で生まれるお子さんの半分以上が移民家庭となっている国、ムハンマド君が最も多い子どもの名前となった国もあるようです。いずれにせよ、高卒の人口は大幅に減り、大学の定員は減らないとすると進学率は向上し、定員に満たない部分は留学生で埋めることとなります。企業が留学生を受け入れする際にも試行錯誤を経験してノウハウを蓄積する必要がでてきます。今国会で高校の無償化という法案が通りました。先行してこの制度を運用している自治体の状況を見る限り、子供が減る中で私学に志願者が流れ、公立高校に学生が集まらなくなっています。公立の工業高校や商業高校といった実業系の学校が地方圏では維持できなくなる可能性も出てくるでしょう。工業高校から大学等への進学者も増えていくため、工業高校卒の中小企業による採用は、さらに難しくなっていくことは間違いないでしょう。大学学費の無償化を目指している政党もありますが、その政策が実現すると高卒就職する人はさらに減少していくでしょう。近年、通信制の高校卒業生の比率が少しずつですが増えています。この人たちの受け皿となる通信制大学も開学しています。そうなると、大卒といっても、自宅で勉強して大卒の資格を取得した学生を企業がどのように受け入れるかが問われてきます。このように、入学者や入試制度が多様化しています。昔は「A大学を出た学生ならこのぐらいの基礎があるだろう」と思って採用したなら、ある程度、推測が当たっていたかもしれません。しかし、しかし今や、大学入試の主戦場は秋までのAO入試、公募制推薦入試、指定校推薦入試等に移りつつあり、冬の一般入試に残っている受験生が減り続けています。年明けに行われる国公立大学を中心とする共通テストについても、年内に合格を出す私学との競合から、中堅国公立大学では、共通テスト前の年内に学生を確保しようとする流れが今後起きるといわれています。単純に学力で測るなら、一般入試や共通テストで高得点を取った人が優れているかもしれません。しかし、企業側は採用時に、どの入試制度で合格したかまで確認することは通常ありません。ある企業の人事責任者は地頭の良い人かどうかを把握するには、もはや「卒業高校」を見るしかないとおっしゃっていました。一方、高卒時の学力とは、「参照物を何も持ち込まずにテストを何点取れるか」ということです。一方、現在はインターネットやスマートフォンで情報を検索することができるので、従来型の記憶力の優れた人の社会におけるアドバンテージは昔に比べて下がっています。価値ある情報を見出す能力、収集した情報から正しい結論を導き出す能力、得た情報に基づき実行に移す能力の方が、社会に出てから価値が高くなる傾向があります。ただし、本当に優秀な人は、どのような入試制度であっても高得点を取り、社会でも通用しますが、そうした人は限られています。海外のエリート層と付き合う際には、教養等の幅広い能力が求められますが、そうした力を持つ人はさらに限られてきます。現実には、大学入試にスマートフォン持ち込みをOKとしただけで、学力の下克上がかなり起きます。もちろん、訓練が必要な数学・物理等の理系分野は、スマートフォンを持ち込んでも、その場で正答することは難しいですが。AO入試等ではディスカッションを行わせると、学生のコミュニケーション能力の一端が把握できます。企業の入社試験でも、グループディスカッションやディベートを取り入れる事例が増えています。一方、日本人は寡黙だが優秀な人が、特に技術者等では一定数おり、こうした試験方法では不利になることがあります。また、ビジネスにおいては、「話す能力」より、「聞く能力」が重要な場合が多いのですが、短時間のディスカッションでは「話す能力」を中心に判定することとなります。学生たちに「自分の長所」は何か、と質問すると「友達が多い」ことだと言う場合が多いです。一方、チームで何かを成し遂げる能力については、単に友達が多いと述べる学生より、運動部やボランティア活動で頑張ってきた学生等に「チームワーク」が身についている傾向が見られます。短時間の面接ではこの能力を判定することは難しいと言えるでしょう。友達が多いと自称する学生に、「友達の定義は?」、「困っているときに10万円貸してと言って貸してくれる友達は何人いるかな?」と聞くと、回答に詰まる場合が多いです。■中小企業の採用はどうあるべきか先日、自治体の人材採用について研究会を行ったのですが、ある中堅自治体では「尖っている人」を増やすという方針を打ち出していました。中堅クラスの自治体の予算規模は、中堅上場企業の売上と近い金額であり、企業に例えると大企業相当の組織と言えるでしょう。一方、筆者は大学の産学連携組織を数人で回していた時、「尖っているがチームワークをとることが苦手な人」がチームに加わっているという経験をしてきました。数人のチームのうち一人が尖っていると、産学連携が個人プレー主導に陥ることがあるのです。現在筆者が会長をしている一般社団法人首都圏産業活性化協会では、事務局に新しい人を採用するときに「チームワークを大切にする人」という条件を付けて、企業向けのサービスを協力して実施する体制を意識しています。特殊能力がある人を、外部の連携パートナーとしてご協力いただく方法で、今のところ「助け合って仕事が出来る」という環境が実現できています。もちろん尖っていてチームワークを取ることができる人が採用できれば理想的なのですが、尖っている人は長所と短所が両方とも大きいということがしばしばあります。100人の組織であれば、1人か2人尖った人がいることは有益ですが、数人以下の組織では、リーダーがしっかりしていないと、尖った人に能力を発揮してもらうマネジメントが実現できないことがあります。御社の場合、100人強のスタッフを抱えているので、尖った人を若干名抱えることが可能な規模です。しかし、そうした特殊な人をピラミッド型組織の最下層に置いておくといつの間にか周囲との不適合で、辞めてしまうことが多いです。社長直下の組織で仕事をしてもらうか、尖った人をマネジメントできる幹部の下に付けるという方法が一般的です。表1で述べたコミュニケーション能力が高い人材をどのように採用するかも重要なポイントです。先に述べたように、高卒や高専卒は、進学してしまう比率が高まり、昔のように中小企業による採用が難しくなっています。一流と言われる大学の技術系大学院卒は、大企業、一部の高賃金のベンチャー企業、外資系企業等に採用されていきます。中小企業は、そうしたピカピカの学生たちに入社してもらうことは難しいかもしれません。しかし、それでも優れた人材を抱えている中小企業事例を目にすることは多いです。それには、経営者が、人材に関心を持ち、手間と情熱をかけることです。コミュニケーション能力の高い人や、チームワークを大切にできる人を採用するには、30分から1時間の面接を行うだけでは不十分です。インターンシップを行うなどして、じっくりと見極めることが一つの方法です。実は、中途採用の場合、自分の知っている人を連れてくるのが最も確実な方法で、信頼できる知人の紹介で採用する方法もあります。また、先ほど述べたように、インターネットで情報検索することが許されるなら、一流といわれる大学の卒業生を打ち破ることのできるような「掘り出し物の人材」も偏差値的に下位の大学生に存在しています。こうした人材をどのように確保するかが中小企業経営者の腕の見せ所です。筆者のゼミ生でも、学内の成績は普通なのですが、好きなことに集中するとある部分は優秀という学生が毎年います。興味のあることに集中するとすごいのです。この学生が企業に面接に行くと、成績は普通で、雄弁に話すわけでもないかもしれません。こうした学生は「掘り出し物候補」なのですが、就活で苦戦する場合もあります。プロ野球で、育成契約という仕組みがあります。侍ジャパンの代表捕手を務める甲斐拓也選手やメジャーリーグで投手として活躍する千賀滉大選手は、通常のドラフトでは指名されないが見どころがあるということで、育成指名されたものです。ただし、スカウトが長年全国を歩き回り、手間暇をかけて、探した中で「掘り出し物」となったわけです。ある中小企業経営者は、定期的にいろいろな大学の研究室をこまめに回っています。時として、産学連携で大学と一緒に仕事をすることもあります。そうしたご縁で採用につながることもあります。日々、学生を見ている先生たちから「この学生は、ここは欠点だがここは長所だ」、あるいは「この男は、頭はよくないが,真面目で人柄が抜群に良い」という類の情報を得ているのです。私のゼミで、成績は普通、さらに口が重いので就活の面接で落ちてしまう学生がいたのですが、「この学生さんは、私が忙しそうにしていると、資料配りとかを頼みもしないのに自発的に手伝うんですよ」という話をしたら、製造業向きで採用したいということになりました。この間、採用後よくやっているとのご一報が社長様から来たところです。大手の人材会社に何百万円も使っているのに、応募学生が1人しかこなかった。こういう話を聞くこともあります。大手企業の人材募集支援サービスを使うのも悪いことではないのですが、それで成果が出ない場合は、正しい手間暇のかけ方を見出すことが重要と思われます。提供:税経システム研究所
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2025/04/23 医療経営
戦略的医療機関経営 その164
【サマリー】今回のレポートは、施設基準には届出のルールがある。ルールを正しく理解することは、届出後の適切な管理にもつながる。届出のルールと事例をご紹介する。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料、)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.施設基準の届出診療報酬の算定では、「施設基準を満たす必要がある項目」と「施設基準の要件がない項目」があります。さらに施設基準を満たす項目の中に、届出が「必要」な項目と「必要ない」項目があります。届出が必要な項目は必要書類を都道府県にある地方厚生(支)局(※)に提出します。提出しただけではなく、受理されて初めて診療報酬で算定できることになります。ただし、算定は月の最初の開庁日に届出すれば、当月1日から算定可能となりますが、届出日が開庁日の翌日以降になると、算定できる月が翌月からとなります。1日の違いが1か月の収入に影響することもあるので、届出日にも注意が必要です。※地方厚生(支)局地方厚生(支)局とは、厚生労働省の地方支分部局のことを指します。医療機関の所在地にある地方厚生(支)局に施設基準の届出は提出します。ちなみに、中国四国厚生局は、広島市に「本局」があり、高松市に「四国厚生支局」があります。そのため「地方厚生(支)局」に、(支)が入っています。3.届出の流れ(届出の流れは、基本診療料も特掲診療料も同じ流れになります)□算定可能な施設基準を確認自施設で算定可能な施設基準を確認します。この確認が医療機関の収入をあげるためには、最も重要です。ただ単に現在の状況で算定可能かどうかという確認だけではなく、現在の状況を改善すれば算定可能になるということまで範囲を広げて確認することがポイントです。具体的な施設基準の確認事項としては、施設基準の実績期間を満たしているかどうか(満たしていない場合は満たす見通しはあるのかどうか)の確認です。基本診療料では実績*が「1か月間」となっている項目が多いです。近年の項目ではこの実績が求められることが多いので、院内ですぐに実績の集計が可能な体制を日ごろから整えておくことが肝要です。※実績について基本診療では実績が1か月間となっている項目が多いと記述しました。ただし例外もあります。例外具体例)基本診療料4か月の実績:「精神科急性治療病棟入院料」「精神科救急急性期医療入院料」等6か月の実績:「回復期リハビリテーション病棟入院料1~4」1年間の実績「地域移行機能強化入院料」例外具体例)特掲診療料実績期間が1年間以外、それぞれの実績期間が定められている開放型病院の施設基準(届出前30日間の実績が必要)検査、画像診断の施設共同利用率、輸血、病理診断の割合等在宅、検査、手術等の年間実施件数等□厚生局に届出書を提出届出に必要な書類(※)を整えて、厚生局に届出書を提出します。書類を受け取った厚生局は、届出書や添付書類の内容を確認して施設基準の要件に照らし合わせて審査します。この要件審査は原則として2週間以内の期間を要します。遅くても提出から1か月以内には、届出の受理、不受理の連絡が医療機関にあります。施設基準の中には、院内掲示などが求められている事項もありますので、審査されている期間中に準備しておくとよいでしょう。※届出書類届出様式は、施設基準の項目ごとに定められています。さらに項目によっては届け出書類のほかに添付書類も準備しなければならない項目もあります。届出様式は地方厚生(支)局のホームページからダウンロードできます。□届出書の保管届出書の様式は項目ごとに定められていることが多いです。提出は1通ですが、必ず控えを取っておき、受理通知と一緒に適切に保管、管理しておきます。新しく届出した項目は、その後の適時調査などの外部監査の時に書類を確認されることが多いです。適時調査で届け出内容に不備があると、届出の変更や取り下げが指示されます。さらに指示後に指摘事項が改善されていなかった場合は、届出の受理が取り消されたり、6か月間届出ができなくなります。届出事項は、厚生(支)局のホームページで閲覧できます。届出書類は「行政文書」として管理され、情報開示の対象にもなります。一方で保健医療機関は院内掲示などで届出内容の情報を伝える義務があります。□届出の変更や取り下げ届出をしている施設基準の要件に適合しなくなった場合等には、届出の変更*や辞退の手続きを行います。もし、要件を満たしていない状態が続いているのにも関わらず、診療報酬を算定している場合、患者への返金を指示されることもあります。この返金は、要件を満たさなくなった時点までさかのぼりますので、多額の返金となるケースもあります。※届出の変更例外規定施設基準の要件を満たせなくなっても、一定の条件の範囲で一時的な変動が認められている施設基準もあります。例えば、「月平均夜勤時間数72時間以下」の基準では、3か月を超えない期間の1割以内の一時的変動が認められています。4.届出が不要なケース施設基準を満たすことは必須条件ですが、届出は不要なものもあります。具体的には3パターンに分かれます。いずれのパターンでも施設基準を満たしている根拠を示す書類や体制などを常に管理しておくことが必要です。施設基準の要件を満たしていればよい具体例)夜間・早朝等加算届出に関する事項:「夜間・早朝等加算の施設基準に係る取扱いについては、当該基準を満たしていればよく」と示されています。「当該基準」とは施設基準の要件を指します。他の項目の届出をおこなっていればよい具体例)認知症地域包括診療料届出に関する事項に「地域包括診療料1又は2の届出をおこなっていればよく・・・」と記載されています。ある項目を届出、受理されていた場合、すでに必要な要件は満たしていると認められているわけです。指定グループ内の1つの届出をしたら個別の届出は不要2024年度の診療報酬改定において、特掲診療料の中に、同じグループ内にある項目の1つを届出すれば、個別の届出が不要とされました。具体例)持続血糖測定器加算「次の(1)から(16)までに掲げているものについては、それぞれの点数のうちいずれか1つについて届出を行っていれば、当該届出を行った点数と同一の区分に属する点数も算定できるものであり、点数ごとに別々の届出を行う必要はない」5.他の項目の届出が必要他の項目の届出が、施設基準の要件になっている項目があります。具体例)データ提出加算データ提出加算の施設基準には、「診療録管理体制加算の届出を行っている保健医療機関であること」と明記されています。したがって、データ提出加算の前に診療録管理体制の届出を行う必要があります。診療録管理体制の施設基準が仮に満たせなくなった場合は、診療録管理体制加算の事態届と一緒にデータ提出加算の辞退届も提出しなければなりません。提供:税経システム研究所
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2025/03/28 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(208)
1.はじめに4月から事業年度が開始する多くの会社において、3月と4月は年度末の処理と新年度の準備が重なり、管理部門の皆さまは繁忙期を迎えておられることでしょう。4月からの年度はじめのタイミングで36協定(時間外・休日労働に関する協定)や変形労働時間制をはじめ、労働法令に基づいて毎年、労使で書面による労使協定を締結しなければならないような取り扱いが多く存在していることから、その対応にも追われているという人事・総務のご担当や経営者の方も多いのではないかと思います。労使協定を締結する際には「労働者の過半数を代表する者」が労働者側の代表として、会社との協定締結の当事者となりますが、この過半数代表者の選出方法にもいくつかのルールが存在しています。このルールから外れた形で労働者代表を選出してしまうと、せっかく締結した協定が無効とされてしまう恐れもあるので、労働者代表を選出するプロセスは、ルールにのっとり適切に行っておきたいところです。そこで今回は、労使協定を締結する際に問題となる労働者代表の適正な選出方法について考えてみたいと思います。2.そもそも「労使協定」とは何かそもそも、「労使協定」とはどのような法的な位置付けのものなのでしょうか。簡単にいえば、労使協定とは「会社と労働者の代表との間で合意した事項を書面にして協定(締結)するもの」ということができます。労使間でこの協定を締結することにより、労働者の意志を反映させたうえで、法令上で禁止されている事項を例外的に免れることができる、という意味合いのある書面です(これを「免罰的効力」といいます)。たとえば、「36協定」の場合を考えてみましょう。労働基準法により労働時間は1日8時間、週40時間までと定められており、原則として、使用者は法定労働時間を超えての労働や、法定休日に労働を命じることは禁止されています。しかし、会社の業務運営上で、突発的に法定労働時間を超えて残業をしてもらわなければならない場合や、法定休日に働いてもらわなければならない事情が起こったりすることはよくある話です。こうした事態の際、法令で定められているから一切これを認めないとなると、会社としては円滑な業務運営が難しくなりますし、それが理由で会社の業績が低迷……となってしまうと、従業員としても安心して働ける職場とはいえなくなってしまいます。そこで、使用者と労働者が「36協定」(時間外労働・休日労働に関する協定)を締結し、従業員の意志を協定に反映させることを条件に、本来禁止されている法定時間外労働・休日労働をさせても使用者に対して罰則が適用されない取り扱いとしているのです。この定めが労働基準法の第36条にあることから「36(サブロク)協定」と通称されています。この36協定の場合は、法的に有効とするためには締結後に労働基準監督署に届け出ることが必要となりますので、協定を締結しても監督署への届出を怠ってしまうと先述の「免罰的効力」は発生せず、時間外労働や休日労働は違法ということになってしまいます。多種存在する36協定以外の労使協定の中には、有効とされるためには労働基準監督署への届出が必須とされているものが多くある一方で、届出は不要で協定の効力が生じるものもあります(注1)。様々な内容の労使協定がありますが、協定の一方の当事者である労働者代表の選出が重要である点は共通しています。3.労働者代表=労働者の過半数を代表する者労使協定は一定のテーマに限定はされますが、いわば「会社と労働者との間の約束事を書面にしたもの」と考えることができます。ただ、従業員ひとりひとりから約束事の合意を取り付けることは難しいため、約束事の当事者として、だれか一人代表を決めてもらい、その代表者が合意した約束事はすべての従業員が合意したものとして扱う、というのが労使協定の考え方です。したがってこの「代表者」は従業員の多数の意見を反映する立場でなければなりませんので、労使協定の当事者となり得る労働者代表は「労働者の過半数を代表する者」と労働基準法で定められているわけです。具体的には、以下のようにされています。事業場に使用されているすべての労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合過半数組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者②の場合、その事業場に在籍している労働者であればだれでもいい、ということではなく、要件と選出するための正しい手続が定められています。【過半数代表者の要件】1.管理監督者でないこと過半数代表者となる者は、労働基準法第41条第2号に定める管理監督者でないこととされています。ここでいう「管理監督者」とは、一般的には部長、工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある人が該当します。2.過半数代表者となる労働者を選出することを明らかにしたうえで、投票・挙手などにより選出すること過半数代表者となる者が、代表者として相応しいかどうかを判断する機会が他の従業員に与えられ、過半数がその人の選任を支持していることが明確になるような手続を経て選出されていることが必要です。挙手や投票などの民主的な方法で選出することが求められるわけですが、選出に当たっては必ずしも従業員が一同に会する必要はなく、たとえば全社員への回覧によって任否の決議を得るというような方法でも差し支えはありません。一方、社員の親睦組織(社員会・社員友の会など)代表者が自動的に過半数代表者とする選出方法は、親睦団体が社員相互の親睦を目的としたものであり、労働者の意志を代表する団体ではないことから、この団体の代表者を過半数代表とすることは不適当とされています。3.使用者の意向によって選出された者ではないこと使用者が一方的に指名した従業員を過半数代表としたり、一定の役職者が自動的に過半数代表となったりするような方法は適正な選出方法とはいえません。不適切な選出方法により選出された過半数代表者が労使協定締結の当事者となっている場合、締結した労使協定は無効とされてしまいますので、安易な方法による選出は避けなければなりません。では、こうした点を踏まえ、過半数代表者の選出においてはどのような点に注意しなければならないのでしょうか。4.こんな時はどうしたら?上記の要件や選出方法を満たしていれば、労使協定の当事者として正当性が認められるわけですが、以下のようなケースではどのように対処すべきなのでしょうか。1.従業員が1人しかいない場合従業員が1人であっても、時間外労働や休日労働などが発生しないというわけではありませんし、その他の労使協定を締結する局面もないわけではありません。このような場合、過半数代表者になり得る従業員は、この唯一の従業員しかいませんので、この方が自動的に過半数代表者として会社と労使協定を締結することになります。2.過半数代表者が退職してしまった場合協定を締結した際の過半数代表者が退職してしまったら、新たな過半数代表者と労使協定を締結し直さなければいけないのでしょうか。この場合、労使協定の有効期間内については、その協定は有効であり、新たに締結し直す必要はありません。協定の有効期間が満了し、新たな有効期間で締結し直すタイミングで新たな過半数代表者のもとで労使協定を締結することになります。労使協定の主目的は、労働者の権利や職場環境を守ることですが、会社側にとっても、法令通りで運用しづらい労務管理上の規制に対し、労使双方の合意に基づいた新たな枠組みのもとで対処することができるようにするものです。代表者としての責務などを十分に説明し、本人も納得したうえで過半数代表者となってもらうようにし、そのプロセスは記録に残しておくなどの措置が必要と考えます。選出等の適切な筋道を経て、目的を理解し、職場環境を整備していくようにしましょう。<注釈>労使協定とは(奈良労働局監督課)6ページ参照https://jsite.mhlw.go.jp/nara-roudoukyoku/content/contents/002105047.pdf提供:税経システム研究所
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2025/03/25 人事労務管理
退職に関わるトラブル回避(第9回) 整理解雇2
【サマリー】前回は、「整理解雇」について、その有効性が「整理解雇の4要件」を満たしているかどうかで厳格に判断されるということを、重要判例を交えて解説いたしました。経営難だからと言って、従業員を簡単に解雇できるわけではなく、企業は法的リスクを慎重に検討し、必要な手続きや条件を満たす必要があることを説明いたしました。今回は、整理解雇の重要判例をもう一つご紹介するとともに、コロナ禍という特殊な状況下での「整理解雇」の判例を2件ご紹介したいと思います。1.整理解雇の4要件(前回レポートの再掲)①人員削減の必要性整理解雇を正当化するには、経営上の理由が明確であることが必要です。企業が客観的に高度の経営的危機下にあり、存続し続けるために人員削減がやむを得ない状況にあること。例えば、以下のような状況が該当します。連続した赤字経営による財務状況の悪化事業再編や経営統合による組織縮小業績低迷により倒産の危機が迫っている場合企業がこの必要性を説明するには、具体的な経営データが求められます。損益計算書や資金繰り表などの客観的な資料を基に、裁判所や労働者に「やむを得ない」と認識される必要があります。②解雇回避努力整理解雇を行う前に、可能な限り他の方法で解雇を回避する努力を尽くすことが求められます。裁判所は、企業がどれほど真摯に解雇回避努力を行ったかを厳しく審査します。主な解雇回避措置には以下があります。役員報酬の削減や配当の停止経営陣が最初に痛みを負担する姿勢を示すことが重要です。希望退職者の募集自主的な退職を促し、対象者に割増退職金を提供するなど、従業員の納得を得られる措置を講じることも、解雇回避努力として認められる可能性が高まります。配置転換や出向他部署やグループ会社での雇用維持の可能性を最大限に探ります。賃金や労働時間の調整賃金カット、一時休業、勤務日数の削減などを検討します。その他、経費削減や、新規採用の停止なども解雇回避措置として求められます。③人選の合理性解雇をする人選に関しては、客観的で合理的な基準かつ公正である必要があります。勤務成績、勤務態度等の評価を基準にする場合、会社への貢献度等を基準にする場合、雇用形態等を基準にする場合など、いずれの場合も公平性が求められます。また、性別、年齢、人種などに基づく基準は違法となりますので、注意が必要です。勤務成績や能力業務の遂行能力や実績に基づく評価が公平に行われているか。勤続年数長期勤続者を優先的に保護することが考慮される場合があります。家計事情や生活影響高齢者や家庭を支える立場の従業員を配慮するケースもあります。職務内容の適合性解雇対象者が不要とされる業務に従事している場合、選定が合理的とされやすいです。④手続きの妥当性上記①~③についての説明、解雇の時期や方法について、従業員に対して十分に説明・協議を行うことが必要となります。仮に①~③の要件が満たされていたとしても「本日をもって解雇とします」のような手順は認められません。労働組合や従業員代表との協議整理解雇を実施する前に、事前に労働組合や従業員代表と協議し、その意見を尊重することが求められます。解雇理由の説明解雇の背景や理由を明確に説明し、従業員が理解できるようにすることが重要です。通知期間の遵守法律に基づく解雇予告期間(通常30日)を確実に守ります。予告手当を支給する場合でも、対象者に丁寧に説明する必要があります。2.重要判例「学校法人N学園事件奈良地裁令2・7・21判決」大学の学部廃止に伴い解雇・雇止めされた教授や専任講師らが地位確認を求めた裁判で、奈良地裁は、職種を限定して雇用されていた場合でも整理解雇の法理が適用されると判断しました。裁判所は、異動が完全に不可能とは言えず、総人件費削減の努力も行われていないことから、解雇回避の努力が十分でなかったと指摘。また、大学の財政が経営破綻するほど逼迫しておらず、労働組合との協議も尽くされたとは言えないとして、整理解雇の要件を満たしていないと結論づけました。<事件の概要>N学園は、大学のほかに幼稚園から女子短大までを運営する学校法人であり、本件大学は平成19年以降、ビジネス学部と情報学部の2学部で構成されていました。原告らはN学園と労働契約を結び、平成26年以降、本件大学で教授や准教授、専任講師として勤務していました。平成29年3月時点で、原告1~4はN学園と無期労働契約を締結、原告5は別大学を定年退職後にN学園と契約を結び(契約形態は争いあり)、原告6・7は本件大学の前身校で定年退職後、1年契約の有期雇用となっていました。平成29年3月31日、N学園は原告1~5を解雇し、原告6・7に対しては有期契約の更新を拒否しました。N学園は平成22年度の認証評価で、本件大学の学生定員の充足率の低さや赤字が指摘され、抜本的な改善が求められました。平成25年には平成26年度からの学生募集停止を決定し、在籍学生がゼロになった時点で学部廃止を予定。その後、平成28年に財政難などを理由に雇止めを通知し、平成29年2月には、学生募集停止により教員が過員となり、雇用継続が困難であることを解雇理由として通達しました。Xらは、この解雇・雇止めが労契法16条・19条に違反し無効であると主張し、N学園に対し、労働契約上の地位確認と未払い賃金の支払いを求めて提訴しました。<判決のポイント>N学園側は、原告らは、職種限定で雇用されていたと主張するが、仮に、職種限定の合意があったとしても、そのことから直ちに整理解雇法理の適用が排除されることになるものではない。すなわち、本判決は、①人員削減の必要性については、ビジネス学部・情報学部の募集停止により学生らがほとんどいなくなったため教員が過員状態になったとはいえ、被告は資産超過の状態にあって、解雇しなければ経営破綻するといったひっ迫した財政状態ではなかったと判示した。また、②解雇回避努力については、原告らを人間教育学部や保健医療学部に異動させる努力を尽くしていないことや、総人件費の削減に向けた努力をしていないと判示した。さらに、③人選の合理性については、一応は選考基準が制定されてはいるものの、これを公正に適用したものとは言えないと判示した。また、④手続の相当性についても、組合と協議を十分に尽くしたものとは言えないと判示した。<まとめ>少子高齢化に伴う若年層の減少により、教育機関の経営環境は一層厳しくなっています。本件も、そのような社会的変化を背景に、学校法人が運営する大学において、学部の廃止を理由とした教員の削減が問題となった事例です。経営上の理由による解雇、いわゆる整理解雇の有効性は、一般的に①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの相当性の4要素を総合的に考慮して判断されます。しかし、経営が逼迫しているとは言えない場合は、特に②解雇回避努力の有無が実務上の焦点となることが多いです。解雇回避努力とは、解雇に至る前に、配転(部署異動)や出向などの措置を講じることで雇用の維持に努めたかどうかを指しますが、一般的には、職種や勤務地が限定された従業員であっても、直ちに配転や出向が不要とされるわけではなく、可能性があれば検討すべきとされています。本判決もこの考え方に沿っており、職種限定契約であっても異動の可能性を排除すべきではないとしました。もっとも、過去の裁判例には、職種限定契約の従業員については解雇回避努力の必要性が乏しいと判断した例もあります。そのため、実際の判断では、従業員が職種を限定するに至った経緯や、企業内で他の職種に就く可能性などを個別に精査し、解雇回避努力の有無を事案ごとに慎重に判断する必要があります。3.コロナ禍における整理解雇の重要判例1「外資系大型客船運行会社事件東京地裁令5・5・29判決」新型コロナウイルスの影響でクルーズ船の運航ができず、人員削減が避けられなくなったため、会社は退職勧奨に応じなかった7人を解雇しました。東京地裁は、これを整理解雇に該当すると判断しましたが、希望退職者の募集を行わなかったことが直ちに解雇回避の努力不足にはあたらないとしました。また、特定の部門で重要な人材が流出する可能性があったことや、雇用調整助成金を受け取っても人件費を5割削減する目標の達成は困難だったと結論づけました。<事件の概要>被告(以下、「C社」)は、米国などに本社を置く世界最大級のクルーズ船運行会社(以下、「親会社」)の完全子会社であり、日本国内で親会社のクルーズ旅行商品の販売などを行う企業です。令和2年2月頃、親会社が運航するクルーズ船(Dプリンセス号)で新型コロナウイルスの感染が拡大し、700人以上が感染、10人以上が死亡する事態となりました。同年3月から10月にかけて、米国疾病予防管理センターが国内のクルーズ船運航を禁止したため、C社の売上は3月以降完全に途絶え、この状況は令和4年7月頃まで続きました。同年4月、C社の社長は親会社から、世界的な人件費削減方針として50%の削減が決定され、C社も同様の措置を取る必要があると伝えられました。また、運航再開後に必要最小限の人員を確保することを前提に、人員削減案の作成を指示されました。6月2日、社長は、C社の正社員67名のうち24名を人員削減の対象とし、対象外の従業員や役員についても給与(報酬)を一律20%減額することを決定しました。同月4日頃、C社は原告を含む対象者に対し、特別退職金(原告には月給の約4.7カ月分)の支給、有給休暇の買取り、退職日を6月30日とすることを内容とした退職合意書を交付し、退職勧奨を行いました。6月26日、C社は退職に合意しなかった原告を含む7名に対し、同月30日付で解雇することを記載した解雇予告通知書をメールで送付し、解雇を実施しました。原告は、この解雇が無効かつ違法であると主張し、C社に対し、雇用契約上の地位の確認と解雇後の賃金支払いを求めるとともに、社長に対して不法行為または会社法429条1項に基づく損害賠償を請求し、提訴しました。<判決のポイント>本件解雇は整理解雇に該当するため、労働契約法16条に基づき、整理解雇の4要件を総合的に考慮し、客観的に合理的な理由があるか、社会通念上妥当かどうかを判断するのが適当です。C社は、令和2年6月末の時点で、少なくとも1年間は売上が見込めない可能性が非常に高い状況にありました。また、C社が運転資金を借りている親会社も営業損失が拡大し、借入れで資金を確保する状態にありました。そのため、経費削減の一環としてC社に対し、人件費を50%削減するよう要請しました。C社としては、これに応じなければ事業の継続が難しく、高度な人員削減の必要性がありました。本件解雇に際し、C社は経費削減策として、販売費を大幅に削減し、出張旅費や交際費を全額カットしました。また、解雇に先立ち退職勧奨を実施し、その対象外の従業員や役員についても給与(報酬)を20%削減するなど、一定の解雇回避措置を講じていたと評価できます。C社は希望退職者の募集を行ないませんでしたが、それは正社員67名が5つの部門に分かれ、各部門で細かく役割が分かれていたためです。希望退職を募ることで、各部門の中核を担う従業員が辞める可能性があり、組織の存続が危うくなる恐れがありました。整理解雇は組織の維持を目的として行われるため、事業の継続が可能な範囲で合理的な解雇回避措置を取れば足り、希望退職者を募らなかったことが直ちに解雇回避努力の不足を意味するわけではありません。また、C社の状況では、雇用調整助成金を活用しても人件費を50%削減することは難しく、助成金を受給せずに解雇を実施したことが解雇回避努力の欠如に当たるとはいえません。解雇対象者の選定にあたっては、C社は部門全体を対象に、一律の基準で業務の重要性や生産性、従業員の年次評価、新業務への適応能力などを考慮し、合理的な方法で選定を行っており、不合理な点は認められません。さらに、解雇前の団体交渉では、C社は財務状況を示す説明資料を提供し、選定理由や雇用調整助成金を利用しなかった理由、希望退職者募集を実施しなかった理由について回答しており、適切な対応を行っていたといえます。以上の点から、本件解雇は有効であると判断されました。<まとめ>本件は、新型コロナウイルスの影響による急激な業績悪化を理由とした整理解雇の事例であり、その特殊性や臨時的な側面を有しています。しかし、この裁判例では、整理解雇の実務全般にも参考となる2つの重要な点が示されています。まず、雇用調整助成金の利用については、元々は解雇回避のために必ずしも必要とはされていませんでしたが、新型コロナによる業績悪化に伴う整理解雇の事案では、厚生労働省などが雇用調整助成金の活用を推奨していた状況に加え、会社側も助成金の利用を検討していたと説明していたため、その活用が強く求められたと判断されました。実際、雇用調整助成金を利用しなかったことで、解雇回避措置としての適切性が低いと判断され、解雇が無効とされたケースもあります(次に解説、タクシー会社事件・仙台地裁令和2年8月21日判決)。しかし、本件では、雇用調整助成金を利用しても必要な人件費削減を達成できないなど、合理的な理由が説明できる場合には、助成金を利用しなかったことが直ちに整理解雇の無効につながるとは言えないと判断されました。また、整理解雇を行う前に希望退職を募集しなかった場合でも、それが事業運営上必要であり、合理的かつ具体的な理由が示されている場合には、ただちに解雇が無効とはなりませんでした。しかし、合理的な理由が示されない場合には、希望退職の募集を行わなかったことで、整理解雇の有効性が否定されるリスクがあることも指摘されています。総じて、整理解雇は経営上の判断による措置であり、経営を取り巻くさまざまな事情を考慮したうえで、その実施と内容を決定するのは経営者の裁量に委ねられています。そのため、希望退職の募集などの一般的な手法の妥当性を考慮しつつも、必ずしもそれに拘束される必要はないことを改めて確認した判決といえます。4.コロナ禍における整理解雇の重要判例2「タクシー会社事件仙台地裁令2.8.21判決」新型コロナウイルスの影響で売上が減少したタクシー会社の運転手が、有期契約の途中で解雇されたことに対し、雇用の継続を求めて争った事件。仙台地裁は、雇用調整助成金などの活用が可能だったにもかかわらず、会社がそれを利用せずに解雇に踏み切ったことを問題視し、解雇を無効と判断しました。また、整理解雇の4要素を検討した結果、人員削減の必要性については、会社の倒産が避けられないほど緊急かつ深刻な状況とは認められず、解雇対象者の選定基準にも合理性が欠けていると指摘されました。さらに、労働組合との団体交渉においても、会社側の説明が十分でなかったことが判断の決め手となりました。<事件の概要>仙台市で営業するタクシー会社Aは、新型コロナウイルスの影響で利用客が激減し、事業継続のため人件費の削減が必要だとして整理解雇を実施しました。これにより解雇された有期雇用契約者の甲らが、解雇の無効を主張して提訴しました。裁判所は、有期雇用契約期間中の解雇には「やむを得ない事由」が必要であるとし、その判断にあたっては整理解雇の4要素を総合的に考慮すべきだと指摘しました。そのうえで、各要素を踏まえた判断を示し、本件解雇は「やむを得ない事由」を欠いており無効であると結論付けました。①人員削減の必要性についてA社の令和2年4月の収支は、運賃収入501万円に対し経費が1902万円となり、単月で1415万円の赤字でした。一方で、資産超過は3133万円であり、人員削減の必要性は一定程度認められるものの、従業員を休業させることで6割の休業手当の支出に抑えられ、さらに雇用調整助成金を申請すればその大部分が補填される見込みでした。そのため、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が避けられないほどの緊急かつ高度な必要性があったとは認められないと判断しました。A社は、毎月500万円以上の赤字が続いていたこと、雇用調整助成金の支給時期が不明確であったこと、多額の未払い費用があったことを主張しました。しかし、裁判所は、雇用調整助成金の活用によって収支改善の可能性があり、未払い費用も直ちに全額支払う必要があったとはいえないこと、さらに金融機関や代表者からの融資の余地もあったことを指摘し、A社の主張を退けました。②解雇回避措置の相当性A社は一部従業員の休業を実施したものの、厚生労働省や宮城県タクシー協会、東北運輸局が雇用調整助成金の申請や臨時休車措置の活用を強く推奨していたにもかかわらず、それらを利用しませんでした。このため、解雇を回避するための努力が不十分であり、相当性が低いと判断されました。③人員選択の合理性および④手続の相当性についてA社は、解雇対象者の選定基準について十分な説明を行っておらず、人員選択の合理性を示す証拠もありませんでした。そのため、人員選択の合理性および手続の相当性も認められないと判断されました。<まとめ>A社は長年にわたり営業損失が続いており、本件解雇の時点では収益の悪化に加え、財務面でも大きな赤字を抱え、実質的に倒産に近い状況でした。雇用調整助成金の特例措置が講じられていましたが、根本的に財政面を改善できるほどのものではなく、加えて、当時は助成金の申請が殺到しており、申請したとしてもいつ支給されるか不透明な状況でした。そのため、裁判所が「助成金は翌月から支給される」という前提で判断を下した点には疑問が残ります。さらに代表者や金融機関からの融資の可能性を解雇回避の理由とした点も、企業側にとっては受け入れがたい判断だといえるでしょう。こうした事情を踏まえれば、A社が契約期間の途中で解雇に踏み切らざるを得なかったのは、やむを得ない判断で、解雇対象者の選定方法や債権者への説明不足など、手続き面に課題があったことは否定できませんが、十分に「緊急かつ深刻な状況」であったと考えられるのではないでしょうか。以上のことから今回の判決は、コロナ禍という未曽有の事態において、過酷な判決と言わざるを得ません。提供:税経システム研究所
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2025/03/21 日本経済と世界経済
トランプ共和党圧勝の世界、日本への影響
1トランプ共和党圧勝日本での予想に反して、トランプが民主党のカマラ・ハリスに312対226で圧勝した。その上、上院も下院もトランプ共和党が勝利し、議会構成も共和党が過半数以上を制した。また、最高裁の裁判官15人中9人を共和党系の裁判官が占めて、政府、議会、司法の三権とも共和党が制することになった。この背景には、近代リベラリズムがアメリカ社会で敗退したことを示している。カルフォルニア州における、宗教の違う多民族の社会状況や、同性婚等、キリスト教の教えに反する考え方は、保守的な多くのアメリカ人が反発したと思われる。特に、最近のリベラリズムはあらゆる「自由」を優先する考え方が進行して、治安問題含めて一般生活をゆがめる事態も起きてきていた。特にカリフォルニア州では弱者救済のために多くの予算を支出するため、税金負担が重く、有名企業や富裕層等が税負担の軽い、テキサス州等に移るという事態も起こしてきた。特にサンフランシスコのように20年前までは素晴らしい観光地として多くの外国人観光客も来ていた場所も、治安悪化が進んで、富裕層も移住し、観光客も減少した。こうした形でアメリカ内部で極端に進んでいくリベラリズムについていけなくなった中間層が共和党へ流れたと思われる。同時に自由競争を目指してきたアメリカ社会は、アメリカ内部の自由競争が外国からの安い製品の流入でアメリカ内部で有効な独占禁止法も外国企業には適用出来ず、アメリカの大企業が次々と敗退して、外国企業からの輸入製品に市場を奪われるという事態が生じてきた。その典型例が、USスチールだ。1970年代はアメリカの鉄鋼生産を独占的に支配したとして、独占禁止法が適用された世界最大のUSスチールが今や世界第8位の企業となり、日本の日本製鉄に売却するという話にまで進んできていた。こうした中で、アメリカ社会の繁栄を支えてきた自由競争が世界競争により、今や幻想と見える事態が進んだ。戦後進んできたアメリカ社会の国内だけでの自由競争はありえなくなった。海外製の安い商品がアメリカ国内に流入してくる中で、アメリカの繁栄を支えてきた製造業が敗退して、その企業に雇用されてきた労働者たちを失業に追い込んだ。その結果、いわゆるラストベルトと呼ばれるミシガン州、ペンシルベニア州等、アメリカの中西部地域とジョージア州等、大西洋岸中部地域では失業が進み貧困化も進んできた。そのため、アメリカ社会にグローバルリズムからの撤退を支持する主張が目立ち始めた。もともと、アメリカは第2次世界大戦以前には孤立主義を主張して、第1次世界大戦には参加せず、第2次世界大戦にも日本の真珠湾攻撃から参加したという経緯もある。したがって、今やアメリカではイスラム教徒等の異教徒の移民や、海外からの製品の流入に反発が強まり、1980年代レーガン大統領が大統領演説で使用した「Let’smakeamericagreatagain」が支持を拡大してきた。その言葉をトランプが「MakeAmericaGreatAgain」として主張し、大きな賛同を得ることとなった。トランプ政権下ではこの「MAGA」が重視され、ますますグローバリズムからの撤退が進むと思われる。2トランプ政権の国内外への影響第2次となったトランプ大統領は、第1次時代の苦い経験を活かして、自らに忠誠を尽くす人物を閣僚に使用した。その結果、トランプ政権はトランプに全て賛同する「イエスマン」ばかりになった。しかも、首都ワシントンにおける影響力を増すために、政府内部の人材をトランプ共和党系に変えるための人事が行われているようだ。従来、政治任用は各省の局長クラス以上であったが、トランプ大統領は課長クラスにまで拡大して、政府内の人事刷新を図っている。すでに、国防総省のトップを入れ替えたり、CIAの人事一新を図ったりしている。国務省でもOECDの租税条約を担当してきた課長クラスも昨年末に退職し、しかも引継ぎをトランプ大統領が禁止したため、永年積み上げてきた条約が宙に浮くという状態が起きている。こうした状況は保健福祉省や司法省等でも進み、トランプ大統領は政府内部の共和党体制を図っていくと思われる。対外政策については、すでに報じられているように関税引き上げ等の政策で各国との対立や軋轢を起こしている。メキシコ、カナダとの間では鉄鋼やアルミについて25%の関税を課すと打ち出した。ただし、メキシコとの間では麻薬取引を抑えるとの確約をとりつけ、一時的に引上げを凍結している。中国には全ての製品等に10%の関税を課税するとして実施している。それに対して中国側も米国の一定の製品に上乗せ関税等を課すとし、WTOに提示した。また、直近では世界各国にも鉄鋼やアルミについて関税を課すとし、更には自動車や半導体についても関税を課すとしている。この対象国に日本が入るか否かは不明であるが、日本はアメリカの貿易収支世界第4位の赤字国であるため、日本がその対象国から外れるのは容易なこととは思われない。多分、日本はアメリカ産のシェールオイルやシェールガス、あるいはアラスカの天然ガスの輸入を確約することで対米貿易収支を是正していくしかないと思われる。トランプは「MAGA」の政策の一環として、対米投資を促進してアメリカの経済活動を進めようとしている。したがって、日本製鉄のUSスチール買収は認めないが、資本参加なら歓迎すると言っている。また、日本のソフトバンクグループトップの孫正義氏が「15兆円の対米投資し、10万人の雇用を作り出す」と発表し、トランプ大統領の歓迎を受けた。いずれにしても、トランプ大統領の対外政策はアメリカにとって有利な方向へ誘導することを第一にして、世界の発展は二の次という政策になっている。しかし、こうした関税政策は輸入品の物価を引上げ、結局アメリカ国民の負担を増やしインフレを加速すると思われるし、アメリカへの投資拡大は人手不足のアメリカの雇用をますます厳しくして、賃金上昇を加速させて、更にインフレ要因となると思われる。また、米国への不法移民については全て送り返すとして、犯罪行為を行った移民たちを本国へ送り返すことが始まっている。そのため、コロンビア等とは一時対立が生じたが、それもコロンビア側の妥協で返還が進んでいる。今後、バイデン政権時代とは異なり、国境管理が厳しくなって容易に南米等からの不法移民は困難になると思われる。この措置も飲食店等に働く労働者の提供を断つことになるため、一層雇用状勢が厳しくなり、人件費の高騰が進んでいくことが予想される。この要因もアメリカ国内のインフレを加速することに繋がると思われる。国際機関や国際ルール作りには、トランプ大統領は後ろ向きの姿勢を示している。先づ、環境問題に関するパリ条約から離脱した。更にWHOについて、その中国重視の姿勢から一時は脱退を主張したが、今は分担金の削減を飲めば参加を継続するとの姿勢をとっている。OECDの租税条約にも後向きの姿勢を明確にして、その取決めはほとんど不可能と言われている。第一次トランプ政権でも明確であった、国際協力の枠組みを否定して、あくまでも二国間交渉で決着を図る姿勢を取り続けると思われる。ウクライナ戦争やイスラエル戦争については、トランプ大統領は関係国を恫喝することで、戦争終結を図ろうとしていると思われる。トランプ大統領はそもそも不動産会社のオーナーであるので、「世界が平和であることが不動産価格の維持には必要なため、戦争状態を停止せざることに熱心なのだ」とさえ言われている。ウクライナ戦争については、ゼレンスキー大統領を恫喝してロシア寄りの姿勢を示して、早く戦争を止めさせようとしているようだ。また、イスラエル戦争についても、シリアのロシア寄りのアサド政権が崩壊したことから、「ガザ地区をアメリカが開発して安全地帯を作る」と主張して、イスラエルの過激派がイラン攻撃を目指す動きをけん制している。もちろん、この動きはイスラム諸国の反発で容易に実現するとは思われないが、イスラエルの戦争拡大を封じる動きと捉えられている。いずれの戦争も、すぐ決着するとは思われないが、明らかに終結ないし停戦に向けて動き出していると思われる。このようなアメリカ対外政策の基本は、最大の敵を中国と定めて強いアメリカを確立するためと思われる。特にアメリカの重要閣僚の国務長官マルコ・ルビオ氏も、国家安全保障担当補佐官マイケル・ウォルツ氏も極めて中国嫌いと言われている人物だ。もちろん、イーロン・マスクのように中国政府から「中国名誉国民」とされた人物も重要ポストについているが、これはむしろ中国に近いマスク氏がトランプ勝利を見越して、莫大な献金をトランプ氏に行って、側近の仲間入りにしたためだ。彼は、政府効率化という行政改革を担うだけで、中国政策には全く関与できないとされている。このような動きの中で中国、特に習近平国家主席がどのような対応をしてくるかは明らかでなはい。しかし、すでに日本の石破政権に対し、福島原発問題はじめ、日本への厳しい対応に変化が見られ、むしろ日本に近寄る姿勢さえ見せてきている。3日本への影響石破政権は少数与党で予算成立のために、野党との妥協をせざるをえず、石破首相の決断で物事は決まらない状況にある。したがって、トランプ大統領との石破会談は2月に持たれたが、通りいっぺんの会談に終わり、相互に難しい問題には触れなかった。このため、石破政権は以前の独裁的とさえ言われた安倍首相時代とは異なり、その取引は容易なことではないと思われる。トランプ大統領は決断できない人物は信用しない。石破政権は米国への投資拡大でトランプ大統領と交渉すると思われるが、米国の対日貿易赤字問題は残り、自動車関税問題等、大きな問題が今後提起されてくることは避けられないと思われる。提供:税経システム研究所
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2025/03/19 企業経営
中小企業のM&Aと企業価値評価(第16回)
【サマリー】引き続き我が国の中小企業におけるM&Aと企業価値評価の実務について解説します。前回までは売り手サイドと買い手サイドとの交渉後に実施する「基本合意の締結」について説明しました。本稿ではデュー・デリジェンスの実施について説明します。本稿では下記図表1の9.について説明します。【図表1M&Aの基本的な流れ】1.デュー・デリジェンスの目的デュー・デリジェンス(以下、DD)とは、M&Aなどの取引の対象となる企業や事業などについて、事前に詳細を調査して検討することをいいます。M&Aの当事者である企業や事業の売り手サイドと、買収することを検討している買い手サイドを比較すると、当該企業や事業に関する情報は質・量ともに圧倒的に売り手サイドに有利な状況です。この情報格差を是正して対等な立場から交渉できるようにするためにDDが実施されます。また、DDによってM&Aにおける売買価格の算定の基礎となる情報(正常収益力、資産負債の時価情報、財務に影響を与えるリスク情報等)が提供されることになります。さらに、買収を実施するか否かの意思決定にも、DDは非常に重要な役割を持っています。2.DDの種類DDは調査の目的に合わせて、いくつかの種類に分類されます。①事業DD事業DDは、対象企業(売り手サイド)のビジネスモデル、外部・内部の経営環境、リスク分析、将来事業計画の評価、キャッシュ・フロー分析などを行ないます。ビジネスモデルでは、収益構造の特徴を踏まえた商品別・顧客別・地域別分析が検討されます。これらの検討結果は後ほど述べる財務DDと密接な関係にあります。また、市場動向、競合他社の動向などの外部経営環境や人事・組織面の内部経営環境などから対象企業の強みや弱みを明らかにしていきます。事業DDは主として経営コンサルタント、会計事務所が担当します。②人事DD人事DDは、対象企業の構成員によって醸成される組織風土、組織体系、人事制度や就業規則、賃金給与体系、退職金制度などを分析することになります。M&Aは企業文化が異なる企業同士が融合することとなるために、人事面での問題点や利点をあらかじめ知っておくことは買収後のスムースな企業統合を目指す上でも重要です。人事DDは、労務コンサルタントや社会保険労務士等が担当します。③法務DD法務DDでは、対象企業で発生した、もしくは現状発生している訴訟(立場が原告、被告とも)の評価、コンプライアンスの状況、反社会的勢力との関係の有無、対象企業と従業員間でのトラブル(未払残業代、各種ハラスメントなど)に関する調査などが実施されます。近年では、法的なリスクが顕在化した場合、一気に業績が悪化する事例が多く見受けられるために、買い手サイドでは法的なリスクの網羅的な把握と評価が必須となります。法務DDは弁護士や法律事務所が行うこととなります。④知的財産権DD知的財産権とは、発案・発明、ソフトウェア、企業や商品のブランドなど無形の財産に関する権利の総称です。知的財産権は対象企業が長年にわたり築いてきたものであり、当該企業の超過収益力を生み出す原動力ともいえます。従って、対象企業が重要な知的財産権を有する場合には、法的に保護される期限、将来の収益力にどの程度貢献するかという評価(価値源泉分析)が必要となります。これらは弁理士、会計事務所等が担当します。⑤財務DD財務DDは、対象企業の財政状態や損益の実態把握、正常収益力の把握、簿外債務(対象企業の帳簿に計上されていない債務)や偶発債務(債務保証など、特定の事象が発生した場合に対象企業が負担する義務が発生することになる債務)の有無などを行ないますが、各種DDの中で最も重要な調査といえます。財務DDの目的と効果は以下のとおりです。【図表2財務DDの目的と効果】財務DDの調査結果は、買い手サイドの意思決定や買収価格算定及び将来の統合計画に重要な情報を提供することになるために、実施者は依頼者(買い手サイド)の要望に的確に対応する必要があります。財務DDは、主として公認会計士や会計事務所が実施します。⑥ITに関するDDITに関するDDは、対象企業が利用している情報システムの現状と活用状況を把握して統合後のIT戦略策定に必要な情報を提供するものです。対象企業のITが今後も必要不可欠なものか、あるいは買い手サイドの情報システムを用いてコストダウンを図ることができるのかなどの判断は統合後の重要な論点となります。ITに関するDDはITコンサルティング会社が実施します。以上、DDには様々な形態があります。これらのうち、買い手サイドが必要と認めたDDを実施することとなりますが、法務DDと財務DDは中小企業のM&Aにおいては不可欠な手続であると筆者は考えます。3.財務DDの特徴筆者が多く経験している財務DDには、以下の特徴があります。①資料の不備が多い財務DDを実際に行なうこととなったら、対象企業に資料を要求することとなりますが、入手できない場合や入手したとしても欲しい情報が不足している場合が非常に多いのが現状です。こういうケースでは、DD実施者が自ら情報を作成することもあります。②膨大、複雑な情報入手した情報が膨大であり、その分析に多くの時間が割かれることも実務では珍しくありません。また、データのロジックが複雑でその解析に多大な労力を要することもあります。③短期間での調査財務DDは通常、限定的かつ短期間で報告書を作成して報告する必要があります。従って、期限間際になると長時間にわたり報告書の作成と修正が繰り返されます。④限定される対応者M&Aは極めて限定された関係者のみによって秘密裏に進められます。財務DDも同様で、関係者以外への情報漏えいには細心の注意を払うことになります。業務を実施する場所は対象企業の会議室(データルームと呼ばれます)を使用することが一般的ですが、関係者以外にはその存在を知られないようにする必要があります。また、データの受け渡しも窓口を最小限に絞って行われます。このような特徴を有するために、財務DDは豊富な経験と事前の下準備が重要なポイントとなるのです。提供:税経システム研究所
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2025/02/28 医療経営
戦略的医療機関経営 その163
【サマリー】今回のレポートは、特掲診療である。「特掲診療料」とは、個別の診療行為などを診療報酬で評価したものである。診療所、病院、在宅医療や訪問看護ステーション、調剤薬局などがかかわる施設基準も当然存在する。今回は届出の多い特掲診療料の施設基準を取り上げる。1.今後の執筆予定施設基準とは(構造、主な要件、用語)基本診療料(主な施設基準、入院基本料)重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率特掲診療料施設基準の届出適時調査入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費2.特掲診療料の基本特掲診療料とは、基本診療料のように一括して評価、支払うことが妥当ではない「特別な診療行為」について、個々の点数を設定したものです。□主な特掲診療料特掲診療料も基本診療料と同様に、施設基準の「告示」と「通知」があります。特掲診療料の「告示」は、「第一届出の通則」から「第十七経過措置」、さらにそれに係る別表(第一~第十三)という構成になっています。3.代表的な特掲診療料の診療報酬項目①医学管理等「B008薬剤管理指導料」特に安全管理が必要な医薬品が投薬又は注射されている患者の場合380点1の患者以外の患者の場合325点※1点10円算定要件入院している患者のうち、(1)については別に厚生労働大臣が定める患者に対して、(2)についてはそれ以外の患者に対して、それぞれ投薬又は注射及び薬学的管理指導を行った場合に当該患者に係る区分に従い、患者1人につき週1回かつ月4回(※)に限り算定する入院中に最大限、算定するために、入院初日に薬剤師は入院患者へ服薬指導を実施することがポイント留意事項薬剤管理指導料は、当該保険医療機関の薬剤師が医師の同意を得て薬剤管理指導記録に基づき、直接服薬指導(※)、服薬支援その他の薬学的管理指導(処方された薬剤の投与量、投与方法、投与速度、相互作用、重複投薬、配合変化、配合禁忌等に関する確認並びに患者の状態を適宜確認することによる効果、副作用等に関する状況把握を含む。)を行った場合に週1回に限り算定できる。また、薬剤管理指導料の算定対象となる小児及び精神障害者等については、必要に応じて、その家族等に対して服薬指導等を行った場合であっても算定できる服薬指導:薬剤師がその専門性を活かし、薬の効能、飲み忘れ防止、残薬の確認、服薬後の観察(副作用などの発見)を行うこと服薬指導に関する診療報酬では、患者本人に対する服薬指導が算定の基本ですが、患者本人が意識がないなどコミュニケーションが取れない場合は、患者のご家族に服薬指導を行います。この場合も服薬指導に関する診療報酬は算定できます。この点は意外に算定から漏れていることが多いです。薬剤管理指導料の(1)は、抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、不整脈用剤、抗てんかん剤、血液凝固阻止剤(内服薬に限る。)、ジギタリス製剤、テオフィリン製剤、カリウム製剤(注射薬に限る。)、精神神経用剤、糖尿病用剤、膵臓ホルモン剤又は抗HIV薬が投薬又は注射されている患者に対して、これらの薬剤に関し、薬学的管理指導を行った場合に算定する施設基準常勤の薬剤師が、2名以上配置されているとともに、薬剤管理指導に必要な体制がとられていること。なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務を行っている非常勤薬剤師を2人組み合わせることにより、当該常勤薬剤師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤薬剤師が配置されている場合には、これらの非常勤薬剤師の実労働時間を常勤換算(※)し常勤薬剤師数に算入することができる。ただし、常勤換算し常勤薬剤師に算入することができるのは、常勤薬剤師のうち1名までに限る常勤換算:多様な働き方を認めたのもので、要件を満たす非常勤薬剤師2名の勤務時間の合計が、常勤薬剤師の所定労働時間を超えている場合、常勤薬剤師2名以上の要件のうち、1名に充当できるというもの。この点を踏まえて非常勤の勤務時間の管理を行うのがポイント。医薬品情報の収集及び伝達を行うための専用施設「医薬品情報管理室」(DI)(※1)を有し、院内からの相談に対応できる体制が整備されていること。医薬品情報管理室の薬剤師が、有効性、安全性等薬学的情報の管理及び医師等に対する情報提供を行っている(※2)こと医薬品情報管理室:この部屋は専用施設が条件ですので、他の用途では使えませんので注意が必要です。医師等への情報提供:情報提供した事実、証拠が必要です。適時調査など外部監査の際に提示できるようにしておくのがポイント。当該保険医療機関の薬剤師は、入院中の患者ごとに薬剤管理指導記録を作成し、投薬又は注射に際して必要な薬学的管理指導(副作用に関する状況把握を含む。)を行い、必要事項を記入するとともに、当該記録に基づく適切な患者指導を行っていること②在宅時医学総合管理料施設入居時等医学総合管理料C002-2施設入居時等医学総合管理料は、通院が困難な施設入居者に対して、計画的な医学管理のもと定期的に訪問診療を行い、総合的な在宅療養計画を作成した場合に算定される診療報酬です。1在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院*であって別に厚生労働大臣が定めるものの場合イ病床を有する場合別に厚生労働大臣が定める状態の患者に対し、月2回以上訪問診療を行っている場合単一建物診療患者が1人の場合3885点単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合3225点単一建物診療患者が10人以上19人以下の場合2865点単一建物診療患者が20人以上49人以下の場合2400点①から④まで以外の場合2110点月2回以上訪問診療を行っている場合((1)の場合を除く。)単一建物診療患者が1人の場合3185点単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合1685点単一建物診療患者が10人以上19人以下の場合1185点単一建物診療患者が20人以上49人以下の場合1065点①から④まで以外の場合905点在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院:在宅療養支援診療所とは、在宅療養をされる方のために、その地域で主たる責任をもって診療にあたる診療所です。在宅療養支援病院とは24時間365日体制で往診や訪問看護*を行う200床未満病院のことをいいます。往診と訪問看護(診療):在宅療養している患者で疾病、傷病のため通院が困難な者に対し、患者または患者家族などが電話などで直接、保険医療機関に診療を求め、診療を行うことを「往診」という。定期的(計画的)に看護、診療を行うことを訪問看護(診療)という。双方とも患家に行き、診療を行うが、計画的な診療なのか要望による診療なのかにより診療報酬点数も異なる。施設などの単一の建物に訪問する際に、一回の施設訪問時に複数人の訪問診療を実施すると効率的ですが、一人当たりの診療報酬点数は低くなりますので注意が必要です。また最終的には施設(在宅)での看取りまで在宅医療の役目です(在宅医療の診療報酬点数の中で、もっとも点数が高いのも在宅の看取りに関する点数です)施設基準介護支援専門員(ケアマネジャー)、社会福祉士等の保健医療サービス及び福祉サービスとの連携調整を担当する者を配置していること在宅医療を担当する常勤医師が勤務し、継続的に訪問診療等を行うことができる体制を確保していること他の保健医療サービス及び福祉サービスとの連携調整に努めるとともに、当該保険医療機関は、市町村、在宅介護支援センター等に対する情報提供にも併せて努めること地域医師会等の協力・調整等の下、緊急時等の協力体制を整えることが望ましいこと③検査D026検体検査判断料二検体検査管理加算Ⅳ特掲診療料の「検査」には、検体検査料、生体検査料、診断穿刺・検体採取料、薬剤料、特定保健医療材料の五つに区分されます。この中から検体検査料内の「検体検査管理加算」を解説します。検体検査管理加算は、病院内の検体検査を行う体制を評価した点数です。(Ⅰ)から(Ⅳ)まであり、検査を実施したことの点数である「検査実施料」と検査値を判断する医師側の「検査判断料」に区分されます。検体検査管理加算は、(Ⅰ)から(Ⅳ)まであり、(Ⅳ)はその中でも最も点数が高く、最も算定要件も厳しくなっています。検体検査管理加算(Ⅳ)の施設基準院内検査を行っている病院又は診療所であること。当該保険医療機関内に臨床検査を専ら担当する常勤の医師(※1)が配置されていること。当該保険医療機関内に常勤の臨床検査技師が十名以上配置されていること。当該検体検査管理を行うにつき十分な体制が整備されていること院内検査に用いる検査機器及び試薬のすべてが受託業者から提供されていないこと(ブランチ(※2)は除外)臨床検査を専ら担当する医師:勤務時間の大部分において、検体検査結果の判断の補助を行うとともに検体検査全般の管理、運営並びに院内検査に用いる検査機器及び試薬の管理についても携わるものをいうブランチ注意事項臨床検査を専ら担当する医師の所定労働時間のうち検体検査の判断の補助や検体検査全般の管理、運営に携わる時間がわかるもの緊急検査を常時実施できる体制についての資料(従事者の勤務状況など具体的にわかるもの)臨床検査の精度管理の実施状況の資料(実施責任者、実施時期、実施頻度など)臨床検査の適正化に関する委員会の運営規定国際標準化機構が定めた臨床検査に関する国際規約に基づく技術能力の認定を受けていることを証する文書の写し(国際標準検査管理加算の届出の場合)提供:税経システム研究所
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2025/02/28 人事労務管理
昨今労務事情あれこれ(207)
1.はじめに元タレントの女性トラブル対応を発端として、某テレビ局の対応に大きな批判が集まりました。本件に関しては真偽不明の点も多く事案検証が現在進行中でもあるので、この場で詳細に言及はしませんが、何が批判の的になっているのでしょうか。これは一言で言えば、局において自社従業員の人権や心身の安全や、健康への配慮などが疎かになっていたのではないかと推測される点かと考えます。「従業員の心身の安全や健康への配慮」を企業に義務付けたものを「安全配慮義務」と言います。これは、労働契約法他の法令に明文化されており、具体的な内容はともかく、「安全配慮義務」という言葉を耳にしたことのある人事総務担当の方や経営者の方は多いのではないかと思います。では、企業はどのあたりまでの配慮が求められているのでしょうか。今回は企業の安全配慮義務について考えてみたいと思います。2.安全配慮義務の具体的内容「安全配慮義務」とは具体的にどのように義務付けられているものなのでしょうか。根拠とされている各種法令では、まず、労働契約法において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(第5条)とされています。また、労働安全衛生法においては「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。(以下略)」(第3条1項)と定められていますが、これらの条文は極めて抽象的であり、事業主による具体的な対応を定めているものではありません。さまざまな業種の企業がある中で、安全配慮義務の内容ついて、全てを一律に決められるものではないとも言えます。実際、判例においては「労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものである」(最高裁判決S59.4.10)としていることからも、あくまでケース・バイ・ケースの対応ということになりますが、端的に言えば、従業員が安全・健康に働くことができるよう、職場環境を整備したり、想定できる事故に対する防止策を実施する、心身の不調を招くような労働環境に対する対策を実施する……というところが業種を問わない共通項ということになるのではないでしょうか。【職場環境面】従業員の身体に対する安全を保護する事業所内の明るさや温度・湿度、騒音などの管理工場の機械・設備の適切な点検やメンテナンスによる安全稼働の確認安全装置(転落防止柵や手すりなど)の設置機械設備の安全な操作方法の指導・指示【健康配慮】従業員の心身の健康を保護する長時間労働の防止定期健康診断やストレスチェックの実施セクハラ・パワハラ等各種ハラスメント未然防止策の策定上記の例のようなさまざまな配慮を企業側が行っていたとしても、事故が発生したり、心身に不調をきたす従業員が出てしまったりすることがあります。こうした事態が発生した際でも、先述の労働契約法においては、特に罰則等は定められていません。(注:労働安全衛生法には、事案の内容により罰則が課される場合もあり)しかし、法令上の罰則はなくても、事故などの原因として安全配慮義務違反が問われた場合、従業員から損害賠償を求められる可能性があります。もちろん、労災保険でカバーできる損害賠償もあるのですが、近年の損害賠償請求額の高額化の流れの中で、思わぬ負担を負うことになるリスクもはらんでいます。これまで企業の安全配慮義務違反が問われ裁判になったケースをいくつか見てみましょう。3.安全配慮義務違反の実例・裁判例1.陸上自衛隊において、隊内の整備工場で車両整備中、バックしてきたトラックに轢かれて隊員が死亡したケース国は公務員に対し安全配慮義務を負っており、自衛隊員の場合であってもいわゆる平時においては安全配慮義務を必要不可欠であるとして、国の公務員に対する安全配慮義務を認定した(陸上自衛隊事件S50.2.25最高裁判決)。2.宿直勤務中の従業員が、侵入してきた強盗に殺害されたケース会社は、高額品を扱っているにもかかわらず、一人で社内での宿直勤務を命じたのであるから、宿直場所である社屋内に部外者が容易に侵入できないような設備を設置し、かつ、強盗などが侵入した場合には、危害を免れることができるような施設を設けるとともに、これらの施設を十分に設置することが難しい場合は、宿直勤務者を増員する、宿直勤務者に対する安全教育を十分に行うなど、従業員の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったとした(川義事件S59.4.10最高裁判決)。3.職場におけるいじめや嫌がらせを受け自殺に追い込まれたケース自殺した職員に対するいじめは長期間にわたり執拗に行われていたものであり、いじめを働いていた職員は「死ね」などの暴言を浴びせていたこと、自殺した職員の勤務状態、心身の状態を認識していたことを考えると、自殺の可能性を予見することは可能であったとして、いじめを働いていた職員個人に対し損害賠償の支払いを命じるとともに、事業所は執拗ないじめを認識可能であったのに、それを防止する措置を取らなかったことは安全配慮義務違反であり、いじめを働いていた職員と連帯して損害賠償を支払うことを命じた(誠昇会北本共済病院事件H16.9.24さいたま地裁判決)。これらのケースを見ていくと、「会社が事故防止対策を講じるなど、求められる義務を果たしているか」「事故や傷病等と安全配慮義務を怠ったことに因果関係があるか」「予見可能性があるか」といった観点により、安全配慮義務違反が認定されていることがわかります。では、会社が安全配慮義務を果たすために、どのようなことに取り組むべきなのでしょうか。4.安全配慮義務を果たすために会社が取り組むべきこと●労働安全衛生体制の整備事業所の規模や業種により総括安全衛生管理者等や産業医の選任が義務付けられています。これらの管理者を中心に社内の労働環境の整備等を行うとともに、誤操作防止のための安全設備の設置、操作マニュアル等の完備を行っておくようにしましょう。●従業員の心身の健康管理の徹底定期健康診断やストレスチェックを行うことのほか、産業医など労働者の心身の健康について相談できる体制を整えておくようにしましょう。また、長時間労働が目立つ従業員との面談や、産業医による面接指導などで、労働時間短縮に向けた対策を行っていくことも重要です。●ハラスメント対策各種ハラスメントに関する教育研修のほか、ハラスメント防止の社内方針周知、苦情申出担当の設置、被害を受けた従業員に対する心身のケアなどを行うと共に、ハラスメントに対しては厳しい態度で臨む姿勢を明確に打ち出すなどハラスメントが起きにくい環境を整えましょう。従業員の心身の安全と健康、災害時の対応まで安全配慮義務に求められる法的責任は非常に幅広い範囲に及びます。正直ハードルが高いと感じられる部分もあるかもしれませんが、単なる義務の履行にとどまらず、従業員の満足度向上や信頼関係の醸成、生産性の向上にもつながる取り組みであると考え、積極的に取り組んでいきたいものです。提供:税経システム研究所
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