会計研究レポート
MJS税経システム研究所・会計システム研究会の顧問・客員研究員による新会計基準や制度改正等をできるだけわかりやすく解説した各種研究リポートを掲載しています。
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2024/09/19 管理会計
中小企業も知っておきたい! 事例でつかむESG経営と管理会計(23)
1.人的資本経営の現状前回のリポートでは、人的資本投資の効果を長期的に測定する指標としての人的資本ROIについてご紹介させていただきました。人的資本ROIは、人的資本経営に関する国際標準規格であるISO30414にも採用されている指標であり、営業利益を人的資本投資額で除すことによって、人的資本投資が営業利益をどの程度生み出すことに寄与しているのかを明らかにすることができます。人的資本ROIは、人的資本投資を行った結果として、どの程度のリターンが生まれたのかを明らかにすることには役立ちますが、人的資本投資を行うべきか否か、もしくは、どのようなプロジェクトに投資をすべきかについての意思決定の判断基準を提供するものではありません。現在、人的資本経営に関して各社どのような取り組みを行っているかについて、十数社にインタビュー調査をさせていただいていますが、人的資本経営の重要性を認識する企業が増えている一方で、人的資本経営を、社内のマネジメントシステム、具体的には、業績評価、予算、投資判断のルールなどへの落とし込みができている企業は極めて少ないのが現状のようです。多くの企業は人的資本情報の開示への対応に奔走し、情報の収集や開示書類の作成で手一杯といった状況です。しかし、一歩先を行く企業では、人的資本経営を通じて企業価値を高めるべく、人的資本と財務成果を有機的に結びつける工夫がなされています。今回のリポートでは、その一例である丸井グループの取組みをご紹介させていただきます。2.人的資本と財務成果の有機的連携丸井グループは、人的資本を「企業価値創造の主体」として位置づけ、人的資本投資を企業の成長と持続可能な発展に直結させるための重要な投資と捉えています。従業員のスキルアップやエンゲージメントの強化を通じて長期的な企業価値の向上を図るべく、人的資本投資と財務成果の有機的な連携を重要視しているのです。具体的には、人的資本に関する重要業績指標(これをインパクトKPIと呼称しています)と、これによって生み出すことが期待される財務価値を明確化し、インパクトKPIが財務価値の創出にどのように(またはどの程度)結びついているのかについて、ロジックモデル(注1)と呼ばれる手法を用いてその因果関係を可視化し、両者の関係を測定・管理しようとしています。丸井グループは、「IMPACTBOOK2023」(注2)において、インパクトKPIが、利益や資本効率などの財務成果に結びつくのかについて説明しています。そのなかで、人的資本投資については、図1のような因果関係が描かれています。図1人的資本投資に関するインパクトKPI,財務価値,ロジックモデル出典:丸井グループIMPACTBOOK2023をもとに筆者作成3.ハードルレートを上回る人的資本投資丸井グループでは、投資の実行において高い投資判断の基準(ハードルレート)を設定しています。具体的には、有形財の投資を実行する際、株主資本コストを超える内部収益率(InternalRateofReturn:IRR)(注3)である、IRR10%を超えることを要求していますが、当該ハードルレートは人的資本投資にも適用され、人的資本投資計画・実行の際にもIRRが計算されます。丸井グループは2024年3月期~2028年3月期の5年間で650億円の人的資本投資を行うことを計画していますが、当該投資によって創出される新事業・サービスによる限界利益(売上高-変動費)をリターンととらえ、IRRを計算したところ12.7%となり、10%の当社ハードルレートを超えていることが明らかにされています。丸井グループは、人的資本を中心とする無形資産投資を通じて、ROEを現在の10%から25%に、PBRを現在の1.7倍から5倍にまで拡大することを目論んでいます。掲げられている数値目標だけをみると、いささか無謀にも思えるのですが、人的資本を企業価値創出に結びつけようとする取り組みをみると、本気でこれを実現しようとする強い意志を感じざるを得ません。日本では、人的資本経営は開示レベルの問題だと認識している企業が少なくありません。しかし、グローバルなトップ企業においては、人こそが企業経営の源泉であり、人を活かすことができなければ成長はないとすら認識されているのです。欧米企業と日本企業の間の企業価値ギャップはすでに数十倍から数百倍にまで拡大しつつあります。人的資本をバネに企業価値を増大させるためには、人への投資を将来的な財務価値に結び付けるべく、マネジメントシステムとの有機的連携を図ることがカギになりそうです。<注釈>ロジックモデルとは、ある取り組みやプロジェクトが目標を達成するまでのプロセスを、因果関係を示しながら論理的に整理した図やフレームワークのことをいいます。このモデルは、投入資源(インプット)から活動(アクティビティ)、そしてその結果として生じる成果(アウトプット)、さらに最終的に達成したい目標やインパクト(アウトカム)までを一連の流れとして可視化することで、最適なインプットのもとで成果が生み出されるプロセスをマネジメントすることに役立ちます。ロジックモデルは、政策評価など、行政組織のマネジメントシステムにおいても活用されています。https://www.0101maruigroup.co.jp/ir/pdf/impactbook/2023/impactbook_all.pdfIRRは、将来のキャッシュフローの現在価値が初期投資額と等しくなる割引率を指し、一般的に、IRR>資金調達コスト(資本コスト)となることが求められる。提供:税経システム研究所
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2024/09/12 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(12)
1.利益公式の一歩先前回の(11)では、目標営業利益達成のための計算式として、(1)式の「利益公式」を紹介しました。売上高予算-目標営業利益=許容原価・・・(1)おさらいですが、利益公式は、目標営業利益を達成するために、「利益先取り」の形式で売上高から目標営業利益を差し引き、許容原価を計算しました。許容原価は、「許容できる費用の上限額」です。売上高予算を達成する前提で、営業利益の計算に関連する「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を、「許容できる費用の上限額」に収めることができれば、目標営業利益を達成することになります。利益公式は、売上高予算の達成を前提としているのですが、企業環境の変動が激しい現代にあっては、実績が必ずしも売上高予算どおりになるとは限りません。その点にやや不確実な要素が内在しています。そこで、伊藤[1975,p.82]では、利益公式をもう一工夫して、(2)式のように変形することを提唱しています(注1)。目標営業利益=売上高予算-許容原価・・・(2)この(2)式の考え方は、伊藤[1975,p.82]において、「当初においては、利益計画は、即、原価管理(コスト-コントロール)の問題でもあったといえる。今日でも、後者が前者の主要な部分領域を構成していることに変わりはない。しかし、今日では原価管理にさえ成功すれば利益業績が改善されるという安易な条件は存しない。そこで、先の考え方をさらに一歩前進させて、次のように、利益そのものを売上高もともに事前において計画の対象とする」と説明されています。この指摘は、重要なポイントです。原価計算の領域では、原価管理、すなわち「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を「許容できる費用の上限額」に収めることは、重要な課題であることは自明です。一方、むしろ管理会計の領域の論点なのですが、売上高を予算どおりにコントロールするという意味での「収益管理」は、予算管理のなかでも重要性をもちます。予算と実績の比較分析において、売上高の分析では、比較損益計算書による項目間の増減を検討するだけでなく、販売単価の変動による売上高の増減と販売数量の変動による売上高の増減にわけて分析することから、収益の管理を重要視していると理解できます。2.営業利益を確保する別の論点もう一つ別の論点をご紹介します。ビジネス界では、「粗利(益)」である「売上総利益」に注目した発言がよく聞かれます。とりわけ、商品販売業では「粗利(益)」を重要視している傾向があると思います。ここで、またおさらいですが、売上総利益は(3)式のように計算します。売上高-売上原価=売上総利益・・・(3)ところが、「本業での儲け」である営業利益は、(4)式のように計算しています。売上高-売上原価-販売費及び一般管理費=営業利益・・・(4)さらに、(3)式と(4)式から、(5)式のように考えられます。売上総利益-販売費及び一般管理費=営業利益・・・(5)(5)式は、売上総利益(粗利(益))から販売費及び一般管理費を引くと営業利益になるということなのですが、重要なポイントであると思っています。3.利益公式―目標利益達成のための計算式具体的な数値を用いて考えてみましょう。ある年度の利益計画または予算において、目標とする売上高予算を100億円と設定したとします。目標営業利益率は25%ですから、目標営業利益は25億円です。そして、25億円の目標営業利益を達成するためには、「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を売上高予算の75%、つまり、75億円にする必要があります。これらの金額を(4)式にあてはめてみると、(5)式となります。100億円-75億円=25億円・・・(5)参考文献伊藤博、1975『管理会計―事例による解説と研究』実教出版。伊藤博、1992『管理会計の世紀』同文舘出版。伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。<注釈>伊藤[1975,p.82]で提唱している式では、「利益=売上高-原価」と表記しています。提供:税経システム研究所
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2024/09/05 財務会計
新たなリース会計基準への動き(35)
はじめに2023年5月2日付けで、企業会計基準委員会より、公開草案として、「リースに関する会計基準(案)」(以下、リース会計基準案)と「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、リース会計適用指針案)が公表されました。既に公開草案が公表されてから1年以上が経過しているものの、多くのパブリック・コメントが寄せられ、それらへの対応に時間を要しているために、2024年8月中旬においても、未だ基準化は行われていません。今回は、前回に続いて、改正後のリース会計基準(以下、新リース会計基準)等の適用に関わる経過措置等について、紹介します。12.経過措置(2)つづき~新リース会計基準を適用する際の経過措置~<3>借手側・ファイナンス・リース取引に分類していたリース適用初年度期首前より新たな会計方針を遡及適用したならば生じるであろう適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用した場合(以下、適用初年度期首剰余金を修正する場合)、借手は、ファイナンス・リース取引に分類していたリースについては、リース資産及びリース負債の帳簿価額のそれぞれを適用初年度期首の帳簿価額とすることができるとされています(リース会計適用指針案、par.116)。ただし、それぞれの帳簿価額に残余保証額が含まれているときには、その金額は適用初年度期首における借手による支払見込額に修正しなければなりません。・オペレーティング・リース取引に分類していたリース適用初年度期首剰余金を修正する場合、借手は、オペレーティング・リース取引に分類していたリースについては、次の会計処理ができるものとされています(リース会計適用指針案、par.117)。適用初年度期首における借手のリース料残額を、借手の追加借入利子率を用いて割り引いた現在価値により、リース負債を計上。リース1件ごとに、次のいずれかで算定された使用権資産を計上リース開始日から新たな会計基準を適用していたとした場合に算定される、使用権資産の帳簿価額(適用初年度期首の借手の追加借入利子率を適用)またはリース負債と同額(前期末の前払または未払リース料の金額の分だけ修正)適用初年度期首の使用権資産については、減損処理の対象。少額リースについて簡便的処理を行う場合は、修正なし・セール・アンド・リースバック取引売手である借手は、適用初年度期首前に締結されたセール・アンド・リースバック取引については、次のとおり取り扱うものとされています(リース会計適用指針案、par.120)。借手による資産の譲渡については、売却に該当するか否かの見直しなしリースバックを、適用初年度期首に存在する他のリースと同様に会計処理リースの対象となる資産の売却に伴う損益を、長期前払費用または長期前受収益等として繰延処理を行い、リース資産の減価償却費の割合に応じて減価償却費に加減算することで損益計上する取扱いを適用している場合には、継続適用<4>貸手側・ファイナンス・リース取引に分類していたリース適用初年度期首剰余金を修正する場合、貸手は、ファイナンス・リース取引に分類していたリースについて、リース資産及びリース負債の帳簿価額のそれぞれを適用初年度期首の帳簿価額とするとされています(リース会計適用指針案、par.125)。こうしたリースについては、適用初年度期首より、新たな会計基準を適用してリース債権及びリース投資資産について会計処理を行うことになります。ただし、貸手における製作価額または現金購入価額(いわば、取得原価)と借手に対する現金販売価額の差額である販売益を割賦基準により処理をしている場合には、その繰延販売利益の帳簿価額を適用初年度期首の利益剰余金に加算することになります(リース会計適用指針案、par.125)。・オペレーティング・リース取引に分類していたリース適用初年度期首剰余金を修正する場合、貸手は、オペレーティング・リース取引に分類していたリースについて、適用初年度期首に締結された新たなリースとして、新たな会計基準を適用することになります(リース会計適用指針案、par.126)。・サブリース取引適用初年度期首剰余金を修正する場合、貸手は、中間的貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合に適用される例外的な取扱いを除いて、次の修正を行うことが求められています(リース会計適用指針案、par.127)。適用初年度期首におけるヘッドリース及びサブリースの残りの契約条件に基づいて、サブリースがファイナンス・リースかオペレーティング・リースかの判断を行うこと。上記(1)により、ファイナンス・リースに分類された場合、そのサブリースを適用初年度期首に締結された新たなファイナンス・リースとして会計処理を行うこと。13.適用時期についてリース会計基準案では、基準として公表してから2年程度経過した4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの適用とし、早期適用を認めることが示されています(リース会計基準案、par.56)。そして2024年7月30日開催の企業会計基準委員会において、重要な会計処理の変更が生じること及び公開草案の公表から1年以上経過していることを踏まえて、原則的適用時期について、2027年4月1日以後開始する連結会計期間及び事業年度の期首から適用することが、事務局から提案されています。提供:税経システム研究所
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2024/08/29 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(17)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、前回に続き、原価企画の例として、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)による製品開発時の取り組みを取り上げ、目標原価の進捗管理について説明します。2.目標達成管理の概要同社の製品開発には、商品企画、製品企画、基本・量産設計、生産準備のステージがあります。そして、製品開発の各ステージにおいて、目標原価を使用した「目標達成管理」が行われます。この活動のために、まず、商品企画、製品企画のステージで、目標原価を費目別、機能別、さらには部品別に割り当てることが重要になります。以下では、商品企画、製品企画それぞれで行われる目標原価の細分割付について説明します。(1)商品企画ステージにおける目標原価の細分割付商品企画ステージで、まず、目標原価を費目別に細分割付します。費目別の細分割付は、多くの場合、同社が開発する機器の前任機の実際原価、競合他社の機器を調査(注1)して収集した費目の割合を参考にして行われています。同社では、コスト変動のリスクを最小限に抑えるための対策も行われており、その対策費用を予備費として、各費目の目標値とは別に確保しています。費目別の細分割付が終わると、部品費、加工費、金型費等を開発活動の機能別(開発、調達、生産、原価管理の各部門)に細分化します。細分割付の進め方は、開発・設計にあたり前任機からどの程度の変更を行うかによって異なってきます。新しい技術を用いて大きな変更を行うというフルモデルチェンジの時、前任機から引き継ぐ設計は少なく、目標原価の細分化方法を新たに考える必要があります。特に、新しい技術の導入によるそれぞれの開発活動機能の原価への影響額を把握しておくことが重要です。他方で、新しい技術の導入は少なく、設計の変更で対応できるというマイナーチェンジの時には、前任機の実績を参考に目標原価をそれぞれの開発活動機能へと細分割付して、変更部分の原価額を加減します。費目別、機能別の目標原価の細分割付案は、原価推進責任者(注2)によって作成されます。この案を参考に、開発商品QCD(品質、コスト、納期)責任者が、新しい技術の導入に伴う目標原価の細分割付の調整を行い、それぞれの開発活動機能に説明し、目標値を展開します。目標値を展開する時には、それぞれの開発活動機能から納得してもらうために、目標原価の細分割付のロジックが明確であり(注3)、目標の難易度を含む公平性が確保されている必要があります。他方で、それぞれの開発活動機能に対する目標原価の細分割付の調整や説明に時間をかけすぎると、目標達成管理活動の時間が不足したり、かえって開発活動機能のメンバーのモチベーションが低下したりするという問題が起こることにも注意が必要です。また、目標原価とともに、物理指標についても、目標値の割付が行われています。物理指標として、例えば、重量、部品点数、ねじ点数、input/output本数(注4)が使用されています(注5)。物理指標の割付は、多くの場合、各開発活動機能への目標原価の割付比率を参考に行われます。(2)製品企画ステージにおける目標原価の細分割付製品企画ステージでは、機能別に割付された目標をさらに部品別に展開します。まず、設計者は各機能や仕様・改良等を反映した部品図を作成し、原価管理部門のメンバーがコストテーブルを使用した原価見積りを行います(注6)。これらを参考に、原価推進責任者は、目標原価全体を達成するための部品、複数の部品からなるユニットの目標値を設定し、調達部門を通じて納入企業へと目標値を展開します。ただし、この時点で目標原価を達成することは容易ではありません。原価推進責任者としては、目標未達となる可能性に注意して、その背景にある要因にも目を向けて管理する必要があります。例えば、今後行われる活動によってコストがどの程度変動するか、それぞれの部品の図面と納入企業の生産設備が整合的かどうか、納入企業が原価低減の能力をどの程度持つかについて、開発商品QCD責任者や各部門のメンバーとも連携をとりながら把握することが重要です。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>同社では、競合他社の機器を対象にしたテアダウンを行うことによって原価費目を調査しています。原価推進責任者は、原価管理機能部門から任命され、目標原価達成活動の進捗管理等の役割を担っています。詳細は、前回の記事をご覧ください。例えば、製品の機能別の重要度(ウェイト)を協議により評価して、各ウェイトに応じて目標原価を割り当てることが考えられます。これは、価値工学(VE)を用いた方法です(VEの詳しい内容は、第9回の記事をご覧ください)。input/output本数は、I/O本数とも言われ、電気ハード設計で、センサー系、制御系、操作系等の回路の入力と出力場所を決めた本数のことです。ここで使用される物理指標は原価と強く関係しており、原価に対してあまり馴染みがない設計者であっても、これらの指標を管理することで、活動の現状や課題の所在を感覚的に把握しやすくなります。部品や材料ごとに、原価情報をまとめた資料(データベースとしての役割を持つもの)を、コストテーブルと言います。詳細は、第12回の記事をご覧ください。提供:税経システム研究所
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2024/08/22 財務会計
2015年改訂版 中小企業向け国際財務報告基準(17)
1.はじめにこのシリーズでは、2015年に国際会計基準審議会(InternationalAccountingStandardsBoard:IASB)が公表した「改訂版中小企業向け国際財務報告基準」(以下、「中小企業向けIFRS(2015年版)」という)について解説しています。2022年9月に、IASBは、公開草案「中小企業向け国際財務報告基準(第3版)(以下、「公開草案(第3版)」という)を公表しており、本シリーズでも、適宜「公開草案(第3版)」に触れています。なお、2024年2月に、IASBは「公開草案(第3版)の補遺」(AddendumtotheExposureDraftThirdeditionoftheIFRSforSMEsAccountingStandard)という公開草案を公表しています(コメントの締切りは2024年7月31日)。今回からは、第23章「収益」の会計処理について説明します。第23章「収益」については、「公開草案(第3版)」がIFRSの収益認識の考えを取り入れたため、大改訂されました。したがって、今回は「中小企業向けIFRS(2015年版)」と「公開草案(第3版)」の一部を説明し、次回「公開草案(第3版)」を詳しく説明します。2.中小企業向けIFRS(2015年版)(1)適用範囲本章は、次の取引から生じる収益に対して適用されます(23.1項)。製品や商品の販売サービスの提供工事契約企業資産の第三者利用から生じる利息、ロイヤリティ、配当ただし、リース契約や金融商品の公正価値評価による損益などについては、他の章の規定が適用されます(23.2項)。(2)収益の測定収益は、企業が受取対価または受取可能な対価の公正価値で測定されます。これらの公正価値は、企業が許容した値引き、短期決済による売上割引(注1)、発注量にもとづく売上割戻などの額を考慮して決定します(23.3項)。仮受税額などの第三者のために回収した額は、収益から除外します。また、代理人の関係にある場合、企業(代理人)は手数料のみを収益として認識し、本人(当事者)に代わって受け取った額は、その企業の収益には含めません(23.4項)。①製品や商品の販売製品や商品の販売による収益は、次の条件がすべて満たされたときに認識されます(23.10項)。製品や商品の所有に伴う重要なリスクと経済価値を買い手に移転したこと販売した製品や商品の所有に伴う通常の継続的な経営関与や支配を留保していないこと収益の金額を、信頼性をもって測定できること取引に伴う経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと取引によって発生した、または発生する原価を、信頼性をもって測定できることリスクと経済価値がいつ買い手に移転したかの判定は、状況に応じて行います。多くの場合は、法律上の所有権や占有の移転時において、リスクと経済価値が買い手に移転します(23.11項)。所有に伴う重要なリスクと経済価値を留保している場合は、収益は認識されません。たとえば、企業が、不十分な履行に対して通常の保証ではカバーされないような義務を留保している場合などが該当します(23.12項)。なお、企業が所有に伴うリスクのうち重要でないものだけを留保している場合は、収益が認識されます(23.13項)。②サービスの提供サービスの提供に関する取引の成果について信頼性をもって見積もることができる場合、収益は、報告期間の末日におけるその取引の進捗度に応じて認識されます(23.14項)。③工事契約工事契約の結果について信頼性をもって見積もることができる場合、収益と原価(費用)は、報告期間の末日までの進捗度に応じて認識されます。④利息、ロイヤリティ、配当収益は、取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ、収益の額について信頼性をもって測定できる状態になったときに認識されます(23.28項)。3.公開草案(第3版)(1)適用範囲本章は、以下を除き、顧客との契約すべてに適用されます(23.1項)。リース契約保険契約金融商品および他の章の範囲に含まれる契約上の権利と義務顧客または潜在顧客への販売を促進するために、同じ事業を営む企業間で行われる非金銭的取引(2)収益認識モデル企業は、顧客との契約から生じる収益の認識モデルを適用するにあたっては、次の5つのステップを取る必要があります(23.3項)。ステップ1顧客との契約の識別ステップ2履行義務の識別ステップ3取引価格の算定ステップ4取引価格の履行義務への配分ステップ5履行義務の充足時の収益認識次回以降、「公開草案(第3版)」の内容について、(IFRSとの比較を含めるなど)詳しく説明します。<注釈>金融要素を調整した処理です。たとえば、商品(現金販売価格995円)を1,000円で販売した場合、販売時に売上995円が計上されます。提供:税経システム研究所
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2024/08/15 管理会計
中小企業も知っておきたい! 事例でつかむESG経営と管理会計(22)
1.ESG経営の促進と指標の設定・開示人的資本経営を推進するためには、経営者が各部署に対し、積極的に教育や研修の機会を増やし、従業員の職務満足度を向上させるよう働きかける必要があります。また、脱炭素経営を推進するためにも、業務に伴う炭素排出量を可視化し、各部署や個人レベルでの炭素削減意識を向上させることが重要です。このように、ESG経営を推進していくためには、具体的な指標を設定し、目標の達成度をモニタリングしなければなりません。人的資本経営推進のためには、「教育・研修への参加回数」、「従業員一人当たりの教育・研修時間/費用」、「離職率」、「従業員エンゲージメントスコア」、「男女賃金格差」などの指標が、脱炭素経営のためには、「炭素削減量」、「Scope1/2/3削減量」、「再生可能エネルギー割合」などの指標がよく用いられているようです。2023年3月期の有価証券報告書からサステナビリティ情報の開示が要求されていますが、ESG経営のために設定されるこれらの指標も、このなかで開示されています。しかし、ESG経営の重要性が高まっているからといって、人的資本や脱炭素に関する取組みをやみくもに増やせばよいかというと、そんなことはありません。教育・研修活動を通じて従業員の能力向上が図られることは望ましいことではありますが、教育・研修のために本来の業務に割く時間が減少し、業績悪化を招くようでは、適切な人的資本投資とはいえません。また、脱炭素に関する目標は達成できたとしても、大幅にコストが増加することになったり、環境投資を優先するあまり製品・サービスの質が悪化するようなことになったりしても本末転倒です。営利組織たる企業である以上、人的資本や脱炭素に向けた取組みにおいても資源を効率的・効果的に活用し、企業価値の向上に結び付けていく必要があるのです。2.ESG指標と財務指標の融合人的資本や脱炭素への取組みを非財務的な指標をもって測定するだけでなく、これらの投資が効果を発揮しているのか、つまりESGへの取り組みが企業の財務的パフォーマンス向上に寄与しているかについても管理する必要があります。今回のリポートでは、ESGの側面と財務の側面の融合を図る指標として活用されている「人的資本ROI」についてご紹介したいと思います。「人的資本ROI」は、人的資本の要素と投資利益率(ReturnonInvestment:ROI)を組み合わせた指標で、「HumanCapitalROI:HCROI」とも呼ばれています。当該指標は、人的資本に関する国際標準規格であるISO30414において採用されています。日本でも、東京電力、豊田通商、日立建機、フォーバル、リンクアンドモチベーションなどが、有価証券報告書やHumanCapitalReportなどのなかで人的資本ROIの実績値や推移を開示しています。また、Google、Johnson&Johnson、Procter&Gamble(P&G)なども、HCROIを人的資本経営に関する重要な指標として採用し、人的資本投資の効果をモニタリングしています。人的資本ROIは、一般的に以下の計算式によって求められます。人的資本ROIは、急激な経済変動や大規模投資等に伴う減価償却など、一時的な要因による変動を除外した営業利益を分子とし、給与、諸手当、役員報酬、教育・研修費用などの人的資本投資にかかわる支出額を分母として計算します(注1)。すなわち、当該指標は人的資本投資1円あたり生み出す営業利益を見ているのです。分子の営業利益に一時的な要因による変動を除外する調整を行うのは、外的要因による影響を可能な限り除去して人的資本投資による営業利益への影響を評価するためです。人的資本投資が有効に機能していれば、人的資本ROIの値は向上し、うまく効果を発揮しなければ、その値は低下するということになります。人的資本投資をやみくもに行うのではなく、その効果を見極める指標として人的資本ROIを設定し、人的資本投資に対する費用対効果を捉えようとしているのです。3.人的資本ROIを用いる際の注意点人的資本投資は、その効果が短期的に現れてくるものではありません。したがって、人的資本投資を拡大させた当初は、人的資本ROIの値が低下する傾向にあります。上記計算式を見ていただければ明らかですが、分子の営業利益が一定であるとすると、分母である人的資本投資を増加させることは、人的資本ROIの低下を招くことになってしまうからです。人的資本投資を拡大した場合、短期的には人的資本ROIは低下することになりますが、長期的に見た場合に当該指標が改善傾向にあるかどうか、すなわち、従業員のスキルや能力向上によって、より大きな営業利益の獲得ができているかどうかを見極めることが重要となります。たとえば、フォーバルでは、人的資本ROIの推移にくわえて、人的資本支出が拡大している背景が説明されています。図1フォーバルにおける人的資本ROIの開示出典:フォーバルHumanCapitalReport2023また、人的資本ROIの利用にあたっては注意も必要です。これも上記式から明らかではありますが、分母を小さくする、つまり、人的資本投資額を削減することによっても人的資本ROIの数値を大きく見せることができてしまいます。当該指標は、人的資本投資を拡大させていくことを前提としたうえで、投資の効果を検討するために用いられるということを、社内外のステークホルダーに十分に周知することも重要です。<注釈>人的資本ROIの分子および分母に用いられる数値は、企業によって様々なアレンジが加えられています。例えば、東京電力は、巨額の設備投資に伴って生じる減価償却費によって営業利益の金額が大きく変動することから、人的資本ROIの計算にあたっては、営業利益に減価償却費の金額を足し戻した値(営業利益+減価償却費)を分子に用いています。企業ごとに人的資本ROIの計算式は異なる可能性があることから、当該指標を他社比較に用いることは適切とは言えません。提供:税経システム研究所
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2024/08/08 財務会計
IFRS第 18号「財務諸表における表示及び開示」(2)
本レポートでは、IASBより2024年4月に公表された会計基準IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示(PresentationandDisclosureinFinancialStatements)」(以下、IFRS18といいます)について解説しています。IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものであり、国際会計基準を任意適用している日本企業にも影響を与えることとなります。なお、IFRS18は従来のIAS1「財務諸表の表示(PresentationofFinancialStatements)」を置き換えるものであり、IFRS18の適用は2027年1月1日と規定されていますが、それより前の早期適用も認められています(注1)。3.キャッシュ・フロー計算書の様式上記したように、IFRS18は、とくに損益計算書に大きくかかわるものでありますが、キャッシュ・フロー計算書についてもいくつか変更点がみられます。そのため、今回のレポートでは、キャッシュ・フロー計算書の様式を確認します。IFRS18におけるキャッシュ・フロー計算書の様式について、間接法によるもの(営業活動によるキャッシュ・フローのみ)と直接法によるものについて、一部を示すと以下の通りです(注2)。■間接法によるキャッシュ・フロー計算書(Indirectmethodstatementofcashflows)営業活動によるキャッシュ・フロー(Cashflowsfromoperatingactivities)営業利益(Operatingprofit)調整:減価償却費(Depreciation)償却費(Amortisation)減価償却費及び償却費前の営業利益(Operatingprofitbeforedepreciationandamortisation)営業債権の増加額(Increaseintradereceivables)棚卸資産の減少額(Decreaseininventories)営業債務の減少額(Decreaseintradepayables)法人所得税控除前の営業活動による現金(Cashfromoperatingactivitiesbeforeincometaxes)法人所得税の支払額(Incometaxespaid)営業活動による現金純額(Netcashfromoperatingactivities)■直接法によるキャッシュ・フロー計算書(Directmethodstatementofcashflows)営業活動によるキャッシュ・フロー(Cashflowsfromoperatingactivities)顧客からの収入(Cashreceiptsfromcustomers)仕入先・従業員への支出(Cashpaidtosuppliersandemployees)法人所得税控除前の営業活動による現金(Cashfromoperatingactivitiesbeforeincometaxes)法人所得税の支払額(Incometaxespaid)営業活動による現金純額(Netcashfromoperatingactivities)投資活動によるキャッシュ・フロー(Cashflowsfrominvestingactivities)……有形固定資産の購入(Purchaseofproperty,plantandequipment)……利息受取額(Interestreceived)配当金受取額(Dividendsreceived)投資活動による現金純額(Netcashusedininvestingactivities)財務活動によるキャッシュ・フロー(Cashflowsfromfinancingactivities)株式発行による収入(Proceedsfromissueofsharecapital)……利息支払額(Interestpaid)配当金支払額(Dividendspaid)財務活動による現金純額(Netcashusedinfinancingactivities)●間接法によるキャッシュ・フロー計算書のポイントは、以下の通りです。「営業利益」から調整が行われる「減価償却費及び償却費前の営業利益」が示されている●キャッシュ・フロー計算書(間接法・直接法)のポイントは、以下の通りです。利息受取額・配当金受取額・利息支払額・配当金支払額の表示箇所についての選択権がなくなった利息受取額・配当金受取額については投資活動によるキャッシュ・フローとされる利息支払額・配当金支払額については財務活動によるキャッシュ・フローとされる<注釈>PrimaryFinancialStatements,FinalStage[https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2024/primary-financial-statements/#final-stage](accessedon2024/05/03)IFRS18:IllustrativeExamplesonIFRS18PresentationandDisclosureinFinancialStatements,Appendix,AmendmentstoguidanceonotherIFRSAccountingStandardsandtoIFRSPracticeStatement2MakingMaterialityJudgements,IAS7StatementofCashFlows,IllustrativeExamples.提供:税経システム研究所
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2024/08/01 財務会計
新たなリース会計基準への動き(34)
はじめに2023年5月2日付けで、企業会計基準委員会より、公開草案として、「リースに関する会計基準(案)」(以下、リース会計基準案)と「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、リース会計適用指針案)が公表されました。ご存じのとおり、これらは現行基準の「リース取引に関する会計基準」等の改正案です。こうした改正案が基準化された後、その適用については、基準公表から2年程度経過した4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する旨が記されています(リース会計基準案、par.56)。なお基準公表後最初に到来する4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用も認められるとされています。そして改正の主たる内容は、1つには、借手について解約不能期間となる期間(リース期間)に関わるリースについて資産及び負債を「使用権モデル」に基づいて認識すること、いま1つには、貸手についてリース業における収益認識について、「収益認識に関する会計基準」と整合性が取れるように、割賦販売取引の会計処理も含めて検討することです。そして、多くのパブリック・コメントが寄せられ、それらへの対応に時間を要しているために、2024年7月上旬において、未だ基準とした確定は行われていません。今回及び次回において、改正後のリース会計基準(以下、新リース会計基準)等の適用に関わる経過措置について、紹介します。11.経過措置(1)~現行リース会計基準を適用した際の経過措置~<1>借手の所有権移転外ファイナンス・リース取引の取扱い(リース会計適用指針、pars.109-110)新リース会計基準の適用年度開始前に取引が開始されている所有権移転外ファイナンス・リース取引については、借手において次の経過措置が設けられています。(具体的措置)➢新リース会計基準適用開始年度の前年度末における未経過リース料残高または未経過リース料期末残高相当額(利息相当額控除後)を取得原価としてリース資産を計上する場合→新リース会計基準適用開始後も、継続可(新リース会計基準にかかわらず、利息相当額については、利息相当額の増額をリース期間中の各期に定額で配分)➢賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う場合→新リース会計基準適用開始後も、継続可(賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用している旨等の注記が必要)<2>貸手の所有権移転外ファイナンス・リース取引の取扱い(リース会計適用指針、pars.111-113)新リース会計基準の適用年度開始前に取引が開始されている所有権移転外ファイナンス・リース取引については、貸手において次の経過措置が設けられています。(具体的措置)➢新リース会計基準適用開始年度の前年度末における固定資産の適正な帳簿価額(減価償却累計額控除後)をリース投資資産の適用初年度の期首価額として計上する場合→新リース会計基準適用開始後も、継続可➢賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行っている場合→新リース会計基準適用開始後も、継続可(賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用している旨等の注記が必要)➢リース取引を主たる事業としている企業の場合→上記2つの経過措置の適用はできません。(税引後当期純損益について、改正前基準と新基準のそれぞれを適用した場合の差額の注記が必要)<3>上記の経過措置が採られることとなった理由(リース会計適用指針、par.BC142)上述から、所有権移転外ファイナンス・リース取引について、借手側で従来の会計処理を継続できるとしたことにより、資産が計上されない取引が存在し続けることになります。このことは、新リース会計基準の趣旨に反するものだと言えます。しかし、一定のリース取引について、経過措置として現行リース会計基準の会計処理の継続を認めた背景には、現行リース会計基準に所有権移転外ファイナンス・リースに関する経過措置と同様の考え方があったものと思われます。すなわち、現行リース会計基準における経過措置は、あくまで簡便的な取扱いを認めたものであって、許容できる範囲で会計処理のためのコストの増大を避けることに、経過措置の趣旨を認めたものであり、新リース会計基準でも同様の趣旨を引き継いだと考えられえます。12.経過措置(2)~新リース会計基準を適用する際の経過措置~<1>新リース会計基準による会計方針の変更新リース会計基準の適用初年度においては、原則として、過去の期間のすべてに遡及適用を行うことが求められています(リース会計適用指針、par.114)。なぜならば、新リース会計基準の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更であると捉えられるためです。ただし、例外として、新リース会計基準適用初年度期首前に遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、その期首残高から新基準を適用すること(以下、例外措置)は可能とされています(リース会計適用指針、par.114)。<2>リースの識別新リース会計基準の適用初年度において、上述の例外措置を選択した場合、次のいずれかまたは両方を適用することが可能とされています(リース会計適用指針、par.115)。適用初年度の前年度の期末日において、現行リース会計基準により処理し、リースの識別に関する新基準の適用を行わないこと適用初年度の期首時点で改正前基準を適用していない契約について、その時点で新リース会計基準を適用して、リースの識別を行うこと提供:税経システム研究所
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2024/07/25 管理会計
中小企業が身につけておきたい原価管理の知識(16)
1.はじめに本シリーズでは、経営・会計において欠かせない原価管理の考え方を紹介します。今回は、企業の取り組み例も紹介しながら、目標原価の達成状況のチェックについて説明します。2.目標原価の進捗管理前回の記事では、PDCAに沿った原価管理の進め方を確認しました。原価企画では、目標原価の設定後、その達成状況を継続的にチェックして次の対応を検討します。この時に行われるのが、コストレビューやデザインレビューです(注1)。コストレビューとデザインレビューの概要をあらためて確認しましょう。コストレビューは、商品企画、構想設計、詳細設計など、開発活動の各ステージが終了する前に行われるコストに関するミーティングです。コストレビューでは、開発活動に従事する各部門の担当者が参加して、目標原価の達成状況を評価し、その後のステージに進んで問題ないかを判断します。また、製品のデザインに関しても、デザインレビューという開発活動の節目で部門横断的なミーティングを開きます。このミーティングで、製品コンセプト、顧客に提供する機能の実現度を評価し、次の段階に進むかどうかを判断します。このように、製品開発の節目でコストレビューやデザインレビューを繰り返し行うことで、目標を達成するようにフォローしていきます。3.取り組み例ここでは、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(以下、同社)の取り組み例(注2)を取りあげながら、目標原価がどのように管理されているかを見ていきましょう。同社では、事業計画をベースとして開発活動が行われており、その中には商品企画、製品企画、基本・量産設計、生産準備があります(注3)。このうち、商品企画のステージから生産準備のステージに至る活動で、目標原価を使用した「目標達成管理」が行われます。同社では、2で確認したコストレビュー、デザインレビューにあたるコストレビュー会、商品化会議において目標原価の達成状況をチェックしています。(1)商品企画ステージでの取り組み商品企画ステージでは、コストチームが編成されます。コストチームは、開発商品QCD(品質、コスト、納期)責任者を中心に、開発活動機能(開発、調達、生産、原価管理の各部門メンバー)が集められて編成される職能横断的組織です。コストチームでは、開発初期の商品企画ステージから製造開始まで一貫して目標原価達成に向けた取り組みが行われます。目標が未達だった時は、量産ステージまでコストチームの活動が継続することもあります。コストチームの活動では、はじめに費目や開発活動機能ごとの目標原価の細分割付が行われます。その後、開発活動機能ごとに目標達成のためのシナリオが作成されます。シナリオの作成では、まず、設計者が、現状で製品を製造した場合にいくらになるのかを表す「商品に要求される仕様・機能の開発初期値」を求めます。次に、要求される仕様・機能の追加によるコストの変動額を算出します。その後、目標原価を達成するための施策を出し、達成のシナリオをまとめます。達成のシナリオに含まれる施策の多くは、開発・調達・生産の機能部門それぞれで行った価値工学(VE)等によって出されたものです。開発活動の機能ごとに達成のシナリオが作成されたら、原価推進責任者(注4)が、それらのシナリオを取りまとめ、開発商品全体としての目標原価達成のシナリオを作成します。(2)製品企画ステージからの取り組み製品企画ステージからは、(1)で作成したシナリオを具現化する活動を行います。同社では、施策を検討したら、すぐに目標原価達成のための活動を実施します。シナリオの具現化は、多くの場合、開発のステージごとに行われるコストレビュー会の前までに行われます。この時点で目標原価が未達であれば、目標原価を達成するまでのシナリオを作成し、「達成見通し値」を明確にして、コストレビュー会、商品化会議に提案します。シナリオの作成と具現化は、目標原価を達成するための施策を抽出して、具現化できるまで、繰り返し行われます。計画された納期までに目標を達成できない場合には、達成の時期を明確にしたうえで、量産開始後も、引き続き目標原価を達成するための管理が行われます。参考文献谷武幸.2022.『エッセンシャル管理会計第4版』中央経済社.吉田栄介・伊藤治文.2021.『実践Q&Aコストダウンのはなし』中央経済社.<注釈>目標原価の管理については第8回の記事もご覧ください。この取り組み例は、吉田・伊藤(2021)で紹介された旧富士ゼロックス株式会社の内容を参考にしています。同社の商品企画では、2で示した製品開発のステージのうち商品企画の前半にあたる活動(商品コンセプトの設定等)が行われ、製品企画では、商品企画の後半にあたる活動(部品図の作成等)が行われています。原価推進責任者は、原価管理機能部門から任命され、目標原価達成の活動を推進するために主に4つの役割を担っています。原価企画の立案(原価条件、目標原価案の設定と細分割付、活動計画等)と、コストチームの編成。目標原価達成活動の進捗管理。商品製造原価の算出、開発ステージ移行時のコストレビュー会での報告。コスト変動管理(開発期間中に発生するコスト変動のリスクを最小限に抑えるための管理活動)の統括。提供:税経システム研究所
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2024/07/25 管理会計
企業が生き残るための製品・サービスの原価計算の勘所(11)
1.営業利益の計算に関連する費用損益計算書で計算する営業利益については、「本業での儲け」といった説明をしている記事を多く見受けます。営業利益の計算方法は、ご存じのことでもあり、すでに説明してきたことではありますが、念のために説明しておきます。営業利益を計算するには、2段階で計算します。まず、(1)式のように、売上高から売上原価を差引いて売上総利益を計算します。売上高-売上原価=売上総利益・・・(1)つぎに、売上総利益から販売費及び一般管理費を差引いて、(2)式のように、営業利益を計算します。売上総利益-販売費及び一般管理費=営業利益・・・(2)ここで、(1)式には、売上原価という費用が含まれ、また、(2)式には販売費及び一般管理費という費用が含まれています。営業利益の計算にあたっては、これらの費用が関係していることをあらためて確認しておきます。2.営業利益を確保する考え方たとえば、ある年度の利益計画を設定したり予算を編成したりする場合、営業利益は、前述の(1)式と(2)式をまとめると、(3)式のように計算することができます。売上高-売上原価-販売費及び一般管理費=営業利益・・・(3)さらに、(3)式は、(4)式のように変換できます。売上高-(売上原価+販売費及び一般管理費)=営業利益・・・(4)(3)式から(4)式への変換などは、わざわざ示すほどのことでもないと思えるかもしれませんが、実は、意味があることなのです。(3)式は、(1)式と(2)式の2段階の計算を一つにまとめたもので、売上高から売上原価を差引いて、さらに販売費及び一般管理費を差引けば、営業利益が計算できる、という解釈ができます。これに対して、(4)式が示しているのは、売上高から「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を引いた差額が営業利益である、という解釈もできます。利益計画または予算において、売上高を見積もった予算(売上高予算)に対して25%の営業利益を獲得するという目標を立てたとします。このときの営業利益を目標営業利益、売上高予算に対する営業利益の割合を、目標営業利益率ということにします。目標営業利益率25%を実現するための方針を考えてみます。(4)式にあてはめて計算すると、目標営業利益率25%を実現するためには、「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を売上高予算に対して75%以内に抑えなくてはならない、ということがわかりやすくなると思います。3.利益公式―目標利益達成のための計算式具体的な数値を用いて考えてみましょう。ある年度の利益計画または予算において、目標とする売上高予算を100億円と設定したとします。目標営業利益率は25%ですから、目標営業利益は25億円です。そして、25億円の目標営業利益を達成するためには、「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を売上高予算の75%、つまり、75億円にする必要があります。これらの金額を(4)式にあてはめてみると、(5)式となります。100億円-75億円=25億円・・・(5)この(5)式の元となる(4)式の考え方は、もう一工夫できます。決算のときに、(4)式で計算した場合、売上高から「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を差引いて、「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」が売上高を上回ってしまえば、結果として、営業利益ではなく営業損失になってしまいます。しかし、利益計画の設定や予算編成において、当初から赤字の計画を立てるということは望ましいことではありません。そこで、利益計画または予算で設定した目標営業利益を確保するためには、(4)式をさらに改良する必要があります。繰り返しになりますが、(5)式で25億円の目標営業利益を達成するためには、何が何でも、「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を75億円に抑えなければなりません。この「何が何でも『売上原価と販売費及び一般管理費の合計』を〇〇億円」という考え方は、別の表現をすれば、「許容できる費用の上限額」ということになります。そこで、この目標営業利益を達成するための「許容できる費用の上限額」のことを「許容原価」といい、(6)式のように、売上高予算から目標営業利益を差引いて計算した金額以内に抑えることが重要であると考えられるようになりました。売上高予算-目標営業利益=許容原価・・・(6)この(6)式は、目標営業利益を確保するための「利益公式」(注1)とよばれ、売上高予算から利益を先に差し引きすることを「利益先取り」といわれるようになりました(利益先取りの考え方は、日本発のコスト・マネジメント手法である原価企画に通じるものがあります)。利益公式の考え方にもとづいて、許容原価を設定したら、「売上原価と販売費及び一般管理費の合計」を売上原価と販売費及び一般管理費に区分して、製造部門と販売部門とで原価低減の可能性を探り、両部門における原価管理についての具体的な検討に入ることになります。参考文献伊藤博、1975『管理会計―事例による解説と研究』実教出版。伊藤博、1992『管理会計の世紀』同文舘出版。伊藤嘉博・目時壮浩、2021『異論・正論管理会計』中央経済社。岡本清、2000『原価計算』六訂版、国元書房。岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子、2008『管理会計』中央経済社。小林啓孝、1997『現代原価計算講義』第2版、中央経済社。小林啓孝・伊藤嘉博・清水孝・長谷川惠一、2017『スタンダード管理会計』第2版、東洋経済新報社。清水孝、2006『上級原価計算』第2版、中央経済社。清水孝、2014『現場で使える原価計算』中央経済社。清水孝・長谷川惠一・奥村雅史、2004『入門原価計算』第2版、中央経済社。園田智昭、2021『プラクティカル原価計算』中央経済社。谷武幸、2022『エッセンシャル管理会計』第4版、中央経済社。<注釈>「利益公式」が提唱された1930年代の議論の詳細については、伊藤博『管理会計の世紀』を参照してください。提供:税経システム研究所
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